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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1337068
異議申立番号 異議2017-701001  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-19 
確定日 2018-01-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6115098号発明「複合樹脂組成物及び熱放散性に優れた成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6115098号の請求項1?10に係る発明についての特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6115098号(請求項の数10。以下,「本件特許」という。)は,平成24年11月21日を出願日とする特許出願(特願2012-254997号)に係るものであって,平成29年3月31日に設定登録されたものである。
その後,本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許に対して,平成29年10月19日付けで,特許異議申立人(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?10に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ項番に従い,「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
構成材料として,(A)炭素繊維及び(B)樹脂を含む複合樹脂組成物であって,
前記複合樹脂組成物を成形して得られる成形物における,レーザーフラッシュ法により測定した平面方向の熱伝導率が5W/mK以上であり,厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下であり,JIS K 6911に準拠して測定した曲げ強度が100MPa以上,曲げ弾性率が10GPa以上であり,JIS K 6911に準拠して測定した比重が1.0以上2.5以下であり,JIS K 7197に準拠して測定した平面方向の線膨脹係数が0.1ppm/℃以上50ppm/℃以下であることを特徴とする複合樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)炭素繊維の熱伝導率が20W/mK以上であることを特徴とする請求項1記載の複合樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)炭素繊維の平均繊維長さが50μm以上10mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)炭素繊維の含有量は,複合樹脂組成物全体の10質量%以上90質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)炭素繊維がPAN系もしくはピッチ系炭素繊維であり,それらを単独もしくは併用したことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項6】
前記複合樹脂組成物を成形して得られる成形物における,レーザーフラッシュ法により測定した平面方向の熱伝導率が20W/mK以上であり,厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して1/4以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項7】
前記複合樹脂組成物を成形して得られる成形物における,JIS K 6911に準拠して測定した比重が1.0以上1.9以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項8】
前記複合樹脂組成物を成形して得られる成形物における,JIS K 6911に準拠して測定した曲げ強度が150MPa以上,曲げ弾性率が12GPa以上であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項9】
構成材料として,(C)前記(A)炭素繊維以外の繊維をさらに含むことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項10】
前記(A)炭素繊維以外の前記(C)成分の繊維が,金属繊維,木材繊維,木綿,麻,羊毛などの天然繊維,レーヨン繊維などの再生繊維,セルロース繊維などの半合成繊維,ポリアミド繊維,アラミド繊維,ポリイミド繊維,ポリビニルアルコール繊維,ポリエステル繊維,アクリル繊維,ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維,ポリエチレン繊維,ポリプロピレン繊維,ポリアクリロニトリル繊維,エチレンビニルアルコール繊維などの合成繊維,ならびに,ガラス繊維,セラミック繊維などの無機繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維を含むことを特徴とする請求項9に記載の複合樹脂組成物。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件発明1?10は,下記1?6のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許は,特許法113条2号又は4号に該当し,取り消されるべきものである。
申立人は,証拠方法として,甲第1号証?甲第6号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出した。
1 取消理由1-1(進歩性)
本件発明1?10は,甲1に記載された発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
2 取消理由1-2(進歩性)
本件発明1?10は,甲2に記載された発明,甲1に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
3 取消理由1-3(進歩性)
本件発明1,3,5?7,9及び10は,甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
4 取消理由2(実施可能要件)
本件発明1?10については,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではない。
5 取消理由3(サポート要件)
本件発明1?10については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。
6 取消理由4(明確性)
本件発明1?10については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではない。
7 証拠方法
・甲1 特表2011-190549号公報
・甲2 特開2011-21303号公報
・甲3 特開2001-39777号公報
・甲4 社団法人日本化学会編,「化学便覧 基礎編 改訂5版」,平成16年2月20日発行,丸善株式会社,II-75
・甲5 本間精一,「プラスチックポケットブック〔新装改訂版〕」,平成23年7月10日,株式会社技術評論社,119?127頁
・甲6 阿子島めぐみ,「レーザフラッシュ法による熱拡散率測定」,平成20年9月,高温学会誌,第34巻,第5号,188?195頁

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
以下,事案に鑑み,取消理由4,2,3,1-1,1-2,1-3の順で検討する。

1 取消理由4(明確性)
申立人は,本件発明1では,「レーザーフラッシュ法により測定した平面方向の熱伝導率が5W/mK以上」であることが規定されているところ,本件明細書には,成形体を構成する炭素繊維や樹脂の種類,成形体の形状に加え,レーザーフラッシュ法の測定条件(測定温度範囲や,レーザーパルスの出力及び照射時間等)等を含む熱伝導率の測定方法の詳細についての記載が不足しているから,本件発明1は,本件明細書の記載を参酌しても,その内容を特定することが困難であり,不明確であると主張する。また,本件発明2?10についても同様に主張する。
しかしながら,本件明細書には,成形体を構成する炭素繊維の種類(【0040】,【0041】,【0043】?【0045】,実施例1及び2)や樹脂の種類(【0046】,実施例1及び2)について,具体的に記載されている。また,本件明細書の記載(【0034】,【0035】,【0079】)によれば,実施例におけるレーザーフラッシュ法による熱伝導率の測定においては,試験片として,所定サイズの成形体(直方体)から切り出した「縦10mm×横10mm×長さ1.5mm」の成形体が用いられていることが理解できる。そして,その測定は,「NETZSCH社製のXeフラッシュアナライザーLFA447」(【0079】)という装置によって行われているが,当業者であれば,実施例におけるレーザーフラッシュ法による熱伝導率の測定は,当該装置で標準的に使用される測定条件により行われたと理解するといえる。
以上によれば,本件発明1における「レーザーフラッシュ法により測定した平面方向の熱伝導率が5W/mK以上」については,本件明細書の記載を参酌すれば,具体的にどのように測定されたものであるのか理解でき,その意味は明確であるから,本件発明1は明確である。また,本件発明2?10についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。
したがって,取消理由4によっては,本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

2 取消理由2(実施可能要件)
申立人は,(1)本件明細書の発明の詳細な説明には,炭素繊維と樹脂がどの程度の比率で配合されているか,樹脂としてどのような種類の樹脂が使用されているか,炭素繊維はどのような形態で複合樹脂組成物内に存在しているかについて,具体的な記載が一切されていないこと,(2)実施例1?4では,ピッチ系炭素繊維に固形レゾール樹脂を特定の割合で配合する一方,比較例1?4では,アルミニウム繊維又は銅繊維にエポキシ樹脂を特定の割合で配合した態様しか開示されていないこと,(3)一般に,炭素繊維や樹脂には多種多様な製品が存在し,その物性も品種により大幅に異なること,を指摘して,本件明細書の発明の詳細な説明は,出願時の技術常識を考慮しても,本件発明1で規定される熱伝導率,曲げ強度,曲げ弾性率,比重,線膨脹係数を満足する成形物が得られる,炭素繊維及び樹脂を含む複合樹脂組成物を実施するための十分な情報を開示しているとはいえず,当業者に対して過度の試行錯誤等を強いるものであると主張する。また,本件発明2?10についても同様に主張する。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には,炭素繊維と樹脂がどの程度の比率で配合されているか(【0042】,実施例1及び2),樹脂としてどのような種類の樹脂が使用されているか(【0046】,実施例1及び2),炭素繊維はどのような形態で複合樹脂組成物内に存在しているか(【0035】,【0041】,【0047】,【0051】)について,具体的に記載されており,さらに,炭素繊維の種類(【0040】,【0041】,【0043】?【0045】,実施例1及び2),複合樹脂組成物の製造方法(【0051】),成形体の製造方法(【0065】)についても,具体的に記載されている。また,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1で規定される熱伝導率,曲げ強度,曲げ弾性率,比重,線膨脹係数を満足する成形物を得るためには,炭素繊維及び樹脂の種類や形状等のほか,炭素繊維と樹脂との配合比率を変更すること等により,調整できることが記載されている(【0039】)。
そうすると,申立人が指摘するように,本件明細書の発明の詳細な説明には,具体的な態様(実施例)として,実施例1?4しか記載されていないとしても,また,炭素繊維や樹脂には多種多様な製品が存在し,その物性も品種により大幅に異なるとしても,当業者であれば,過度の試行錯誤等を要することなく,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,本件発明1で規定される熱伝導率,曲げ強度,曲げ弾性率,比重,線膨脹係数を満足する成形物が得られる,炭素繊維及び樹脂を含む複合樹脂組成物を実施できるといえる。また,本件発明2?10についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。
したがって,取消理由2によっては,本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

3 取消理由3(サポート要件)
(1)申立人は,本件発明1は,「構成材料として,(A)炭素繊維及び(B)樹脂を含む」点のみが規定されているにすぎないから,炭素繊維と樹脂を用いるものであれば,あらゆる態様が含まれると解されるところ,ア)本件明細書の発明の詳細な説明には,実施例1?4として,特定の割合で配合したピッチ系炭素繊維と固形レゾール樹脂との組み合わせが開示されているにすぎないこと,イ)一般に,炭素繊維や樹脂には多種多様な製品が存在し,その物性も品種により大幅に異なること,を指摘して,本件発明1で規定される熱伝導率,曲げ強度,曲げ弾性率,比重,線膨脹係数を満足する成形物が得られる,炭素繊維と樹脂との組み合わせとして,実施例1?4以外の組み合わせまで拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。また,本件発明2?10についても同様に主張する。
しかしながら,上記2で述べたのと同様の理由により,本件発明1で規定される熱伝導率,曲げ強度,曲げ弾性率,比重,線膨脹係数を満足する成形物が得られる,炭素繊維及び樹脂の組み合わせとして,実施例1?4以外の組み合わせについても,当業者であれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,格別の困難なく理解できるといえるから,実施例1?4以外の組み合わせを含む本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるといえる。また,本件発明2?10についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。
(2)また,申立人は,複合樹脂組成物を構成する炭素繊維の配向は任意に変更することが可能であり,それによって複合樹脂組成物の物性が大きく変わることは,当業者にとって自明であるから,複合樹脂組成物をその物性によって規定するのであれば,該複合樹脂組成物の成形方法等の規定も必要であるところ,本件発明1には,そのような規定がなされておらず,出願時の技術常識に照らしても,本件発明1の範囲まで,本件明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。また,本件発明2?10についても同様に主張する。
しかしながら,本件発明1は,炭素繊維及び樹脂を含む複合樹脂組成物であって,その複合樹脂組成物を成形して得られる成形物が,本件発明1で規定される熱伝導率,曲げ強度,曲げ弾性率,比重,線膨脹係数を満足するというものである。すなわち,本件発明1は,複合樹脂組成物を成形して得られる成形物が,本件発明1で規定される熱伝導率等を満足するものである限り,その成形方法等によらず,様々な炭素繊維及び樹脂の組み合わせを含むものである。そして,そのような組み合わせとして,実施例1?4以外の組み合わせについても,当業者であれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,格別の困難なく理解できることは,上記(1)のとおりであるから,申立人が主張するように,本件発明1において,複合樹脂組成物の成形方法等の規定が必要であるとはいえない。また,本件発明2?10についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。
(3)したがって,取消理由3によっては,本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

4 取消理由1-1(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1,12,14,15,【0053】,【0054】,【0063】,【0064】)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「ピッチ系炭素繊維の短繊維と熱可塑性樹脂繊維の短繊維からなる繊維混抄マット状成形体において,該炭素繊維は,繊維軸方向の引張弾性率が400GPa以上であり,繊維軸方向の熱伝導率が60W/mK以上であり,重量平均繊維長が3mm以上である繊維混抄マット状成形体を,当該繊維混抄マット状成形体中の熱可塑性樹脂繊維の流動開始温度以上においてプレス成形してなる繊維強化成形体であって,
JIS R1611に準拠して真空理工製のレーザーフラッシュ法熱定数測定装置(TC3000)を用いて測定した,繊維強化成形体の面内方向の熱伝導率が20W/mK以上であり,
繊維強化成形体の厚みが0.2?10mmであって,JIS K7074によりロードセル100kN,クロスヘッド速度2mm/分の条件で測定した面内方向の曲げ弾性率が20GPa以上であり,曲げ強度が100MPa以上であり,
成形体の寸法及び重量を測定し,測定された寸法から体積を計算したのち,重量の測定値を体積の計算値で除算することにより算出された,繊維強化成形体の嵩密度が1.8g/cm^(3)以下であり,
繊維強化成形体の面内方向の線膨張係数が3×10^(-6)/℃以下である,
繊維強化成形体。」(以下,「甲1発明」という。)

イ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,両者は,炭素繊維及び樹脂を含む成形物において,熱伝導率等の物性を特定する点で同様のものといえるが,少なくとも以下の点で相違する。
・相違点1
成形物における熱伝導率について,本件発明1では,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」であるのに対し,甲1発明においては,このような特定がなされていない点。

ウ 相違点1の検討
(ア)甲1には,パネルのような面状の部材においては,その面内のどの方向でも弾性率や熱伝導率等が同等である(等方性である)ことが望まれること(【0005】),繊維混抄マット状成形体は,炭素短繊維と熱可塑性樹脂短繊維が二次元ランダムに分散したものであり,面内方向の特性が等方性であるため,この繊維混抄マット状成形体をプレス成形して得られた繊維強化成形体(本件発明1の「成形物」に相当する。)は,面内方向の特性が等方性であること(【0051】,【0058】,【0059】)が記載されている。
しかしながら,甲1には,繊維強化成形体における熱伝導率について,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」であることについては何ら記載されておらず,また,申立人が周知技術を示すものとして提出した甲4及び甲5にも記載も示唆もない。
(イ)この点について,申立人は,甲1には,「本発明の繊維強化樹脂成形体がこのように面内方向の特性が等方性であることは,炭素短繊維と熱可塑性樹脂短繊維が二次元ランダムに分散した本発明の不織布を用いたことによる。」(【0059】)と記載されているが,短繊維が二次元ランダムに分散しているということは,厚み方向に配向する炭素短繊維が少ないことを意味しており,また,樹脂短繊維は,繊維強化成形体の状態では,マトリックス樹脂として存在しているから,繊維強化成形体の厚み方向の熱伝導は実質的に樹脂のみに依存し,炭素繊維による影響は極めて小さいと考えられるところ,一般に,樹脂の熱伝導率は,0.05?1.5W/mK程度であることが知られている(甲4,5)から,甲1発明においては,厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率の半分以下である蓋然性が高いと主張する。
しかしながら,甲1には,繊維混抄マット状成形体における炭素短繊維の割合は,85wt%以下,特に15?75wt%,とりわけ45?70wt%であることが好ましいこと(【0049】),繊維強化成形体は,好ましくは,厚みが0.2?10mmであること(【0053】),繊維強化成形体は,繊維混抄マット状成形体を1層だけプレス成形したものでもよく,2枚以上重ねて複層プレス成形したものでもよいこと(【0052】)が記載されている。これらの記載によれば,繊維強化成形体の厚み方向における炭素繊維の存在割合には,高い場合から低い場合まで相当程度の幅があるといえ,それに伴い,同厚み方向の熱伝導率についても,高い場合から低い場合まで相当程度の幅があると解されるから,申立人が主張するように,短繊維が二次元ランダムに分散しているからといって,「繊維強化成形体の厚み方向の熱伝導は実質的に樹脂のみに依存し,炭素繊維による影響は極めて小さい」ということはできない。そうすると,甲1発明の繊維強化成形体における熱伝導率について,必ず,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」になっているということはできない。また,そのように認めるに足りる証拠もない。
そして,上記(ア)で述べたとおり,甲1のほか,甲4及び甲5のいずれにも,繊維強化成形体における熱伝導率について,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」であることについては何ら記載されておらず,厚み方向の熱伝導率について着目していない以上,甲1発明の繊維強化成形体における熱伝導率について,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」とすることが動機付けられるともいえない。
(ウ)以上によれば,甲1発明において,繊維強化成形体における熱伝導率について,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

エ 小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲1に記載された発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?10について
本件発明2?10は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記(1)で述べたとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?10についても同様に,甲1に記載された発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明1?10は,いずれも,甲1に記載された発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由1-1は理由がない。
したがって,取消理由1-1によっては,本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

5 取消理由1-2(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 甲2に記載された発明
甲2の記載(請求項1,4,10,12,13,【0069】,【0078】?【0080】)によれば,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。
「炭素繊維の短繊維が二次元ランダムに分散している不織布であって,該炭素繊維の繊維軸方向の引張弾性率が400GPa以上で,繊維軸方向の熱伝導率が60W/mK以上であり,かつ,該炭素繊維のうち,繊維長が5?50mmのものの重量割合が60wt%以上である炭素繊維不織布において,樹脂繊維および/または樹脂粉末を含み,
上記の炭素繊維不織布または該炭素繊維不織布を複数枚積層してなる積層体を加熱加圧成形してなる炭素繊維強化樹脂成形体であって,
面内方向の特性が等方性であり,
JIS R1611に準拠して,真空理工(株)製レーザーフラッシュ法熱定数測定装置「TC-3000」により測定した,面内方向の熱伝導率が20W/mK以上であり,
JIS K7074に準拠して,万能試験機により,支点間距離を80mmとした3点曲げ試験により測定した,面内方向の曲げ弾性率が40GPa以上であり,
成形体の寸法及び重量を測定し,測定された寸法から体積を計算した後,重量の測定値を体積の計算値で割ることにより算出された,嵩密度が1.8g/cm^(3)以下であり,
JIS K7197に準拠して,TMA法により,昇温速度2℃/分で-30℃または常温から90℃までの温度範囲で測定した,面内方向の線膨張係数の絶対値が3×10^(-6)/℃以下である,
炭素繊維強化樹脂成形体。」(以下,「甲2発明」という。)

イ 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると,両者は,炭素繊維及び樹脂を含む成形物において,熱伝導率等の物性を特定する点で同様のものといえるが,少なくとも以下の点で相違する。
・相違点2
成形物における熱伝導率について,本件発明1では,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」であるのに対し,甲2発明においては,このような特定がなされていない点。

ウ 相違点2の検討
(ア)甲2には,パネルのような面状の部材においては,その面内のどの方向でも弾性率や熱伝導率等が同等である(等方性である)ことが望まれること(【0004】),炭素繊維強化樹脂成形体(本件発明1の「成形物」に相当する。)は,面内方向の特性が等方性であるが,これは,炭素短繊維が二次元ランダムに分散した炭素繊維不織布を用いたことによること(【0066】,【0068】)が記載されている。
しかしながら,甲2には,炭素繊維強化樹脂成形体における熱伝導率について,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」であることについては何ら記載されていない。また,前記4(1)ウ(ア)で述べたとおり,甲1にも何ら記載されておらず,申立人が周知技術を示すものとして提出した甲4及び甲5にも記載も示唆もない。
(イ)この点について,申立人は,前記4(1)ウ(イ)と同様,甲2発明においては,厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率の半分以下である蓋然性が高いと主張する。
しかしながら,甲2には,炭素繊維強化樹脂成形体における炭素短繊維の割合は,15?75wt%,特に45?70wt%であることが好ましいことが記載されており(【0065】),その厚みは,実施例1?3では,「2mm」とされている(【0081】?【0083】)。また,甲2発明の炭素繊維強化樹脂成形体は,樹脂繊維および/または樹脂粉末を含む炭素繊維不織布を加熱加圧成形したものでも,該炭素繊維不織布を複数枚積層してなる積層体を加熱加圧成形したものでも,いずれでもよいものである。以上によれば,前記4(1)ウ(イ)と同様,甲2発明の炭素繊維強化樹脂成形体における熱伝導率について,必ず,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」になっているということはできない。また,そのように認めるに足りる証拠もない。
そして,上記(ア)で述べたとおり,甲2のほか,甲1,甲4及び甲5のいずれにも,炭素繊維強化樹脂成形体における熱伝導率について,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」であることについては何ら記載されておらず,厚み方向の熱伝導率について着目していない以上,甲2発明の炭素繊維強化樹脂成形体における熱伝導率について,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」とすることが動機付けられるともいえない。
(ウ)以上によれば,甲2発明において,炭素繊維強化樹脂成形体における熱伝導率について,「厚み方向の熱伝導率が平面方向の熱伝導率に対して半分以下」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

エ 小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲2に記載された発明,甲1に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?10について
本件発明2?10は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記(1)で述べたとおり,本件発明1は,甲2に記載された発明,甲1に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?10についても同様に,甲2に記載された発明,甲1に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明1?10は,いずれも,甲2に記載された発明,甲1に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由1-2は理由がない。
したがって,取消理由1-2によっては,本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

6 取消理由1-3(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 甲3に記載された発明
甲3の記載(請求項1,2,4,【0013】)によれば,甲3には,以下の発明が記載されていると認められる。
「炭素短繊維強化炭素複合材からなり,厚さが1mm以下であって,該厚さ方向をz軸とし,z軸に垂直な平面内で最も熱伝導率が高い方向をx軸,x軸と同一平面内で且つ垂直な方向をy軸としたとき,レーザーフラッシュ法を用いて測定した,x軸,y軸及びz軸の各方向の熱伝導率が10W/mK以上であり,且つ引張強度が8Kg/mm^(2)以上である放熱板であって,
x軸方向の熱伝導率が50W/mK以上,y軸方向の熱伝導率が50W/mK以上,z軸方向の熱伝導率が10W/mK以上であり,
嵩密度が1.80g/cm^(3)以上である,
放熱板。」(以下,「甲3発明」という。)

イ 対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると,両者は,炭素繊維を含む成形物において,熱伝導率等の物性を特定する点で同様のものといえるが,少なくとも以下の点で相違する。
・相違点3
本件発明1は,「(A)炭素繊維及び(B)樹脂を含む複合樹脂組成物であって,前記複合樹脂組成物を成形して得られる成形物」における熱伝導率等の物性を特定するものであるのに対し,甲3発明は,「炭素短繊維強化炭素複合材」からなる「放熱板」における熱伝導率等の物性を特定するものである点。

ウ 相違点3の検討
(ア)甲3発明に係る放熱板を構成する炭素短繊維強化炭素複合材が,炭素短繊維及び炭素質材料を含む複合材であることは,当業者にとって明らかである。また,甲3には,炭素短繊維強化炭素複合材からなる放熱板の製造過程において,解繊した炭素短繊維からなる二次元ランダムシートに対し,マトリックス物質として,フェノール樹脂やフラン樹脂等の樹脂を含浸させているものの,その後,相当程度の高温で焼成等を行っている(【0008】?【0010】)ことから,マトリックス物質として含浸させた樹脂は,炭化し,炭素質材料となっていると認められる。
甲3発明は,上記のような炭素短繊維強化炭素複合材(炭素短繊維及び炭素質材料を含む複合材)からなる放熱板における熱伝導率等の物性を特定するものであり,炭素短繊維強化炭素複合材を前提としたものといえる。そうすると,甲3発明に係る炭素短繊維強化炭素複合材において,マトリックス物質である炭素質材料に代えて,樹脂を用いる(すなわち,炭素短繊維強化樹脂複合材とする)動機付けがあるとはいえない。また,甲1の記載を考慮したとしても,そのような動機付けがあるとはいえない。
(イ)申立人は,甲3発明における「炭素短繊維強化炭素複合材」は,本件発明1における「複合樹脂組成物」に対応すると主張するが,上記のとおり,両者は明らかに異なるものであるから,申立人の主張は失当である。
(ウ)以上によれば,甲3発明に係る「炭素短繊維強化炭素複合材」からなる「放熱板」において,マトリックス物質である炭素質材料に代えて,樹脂を用い,「(A)炭素繊維及び(B)樹脂を含む複合樹脂組成物であって,前記複合樹脂組成物を成形して得られる成形物」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

エ 小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明3,5?7,9及び10について
本件発明3,5?7,9及び10は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記(1)で述べたとおり,本件発明1は,甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明3,5?7,9及び10についても同様に,甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明1,3,5?7,9及び10は,いずれも,甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由1-3は理由がない。
したがって,取消理由1-3によっては,本件特許の請求項1,3,5?7,9及び10に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-15 
出願番号 特願2012-254997(P2012-254997)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 督  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 井上 猛
橋本 栄和
登録日 2017-03-31 
登録番号 特許第6115098号(P6115098)
権利者 住友ベークライト株式会社
発明の名称 複合樹脂組成物及び熱放散性に優れた成形体  
代理人 速水 進治  
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