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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C09B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09B |
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管理番号 | 1337069 |
異議申立番号 | 異議2017-701022 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-10-26 |
確定日 | 2018-01-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6119922号発明「着色樹脂組成物、カラーフィルタ、及び画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6119922号の請求項1ないし27に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.本件特許の設定登録までの経緯 本件特許第6119922号に係る出願(特願2016-555370号、以下「本願」という。)は、平成28年3月24日(優先権主張:平成27年3月27日、同年10月20日、同年同月21日及び平成28年3月11日、特願2015-67187号、同2015-206474号、同2015-207298号及び同2016-48419号)の国際出願日に出願人三菱化学株式会社によりされたものとみなされる特許出願であり、平成29年4月7日に特許権の設定登録(請求項の数27)がされたものである。 (なお、本件特許については、平成29年11月29日付けで一般承継による権利の移転登録がされており、現時点での特許権者は三菱ケミカル株式会社(以下、「特許権者」という。)である。) 2.本件異議申立の趣旨 本件特許につき平成29年10月26日付けで特許異議申立人末吉直子(以下、「申立人」という。)により「特許第6119922号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。 第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項 本件特許の請求項1ないし27には、以下のとおりの記載がある。 「【請求項1】 (A)顔料、(B)分散剤、(C)溶剤、(D)バインダー樹脂、及び(E)光重合開始剤を含有する着色樹脂組成物であって、 前記(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、 該ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の、蛍光X線ファンダメンタルパラメーター法(FP法)によって測定した平均ハロゲン原子数を用いて算出した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であり、かつ、レーザー脱離イオン化法(Laser Desorption/Ionization、LDI)?質量分析法(Mass Spectrometry、MS)にて測定した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であり、 前記(C)溶剤が、1013.25hPaにおける沸点が150℃以上の高沸点溶剤を含む着色樹脂組成物。 【請求項2】 着色樹脂組成物に対する前記(C)溶剤の含有割合が50質量%以上である、請求項1に記載の着色樹脂組成物。 【請求項3】 前記(C)溶剤に対する前記高沸点溶剤の含有割合が0.5質量%以上である、請求項1又は2に記載の着色樹脂組成物。 【請求項4】 前記(C)溶剤が、さらに1013.25hPaにおける沸点が150℃未満の低沸点溶剤を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の着色樹脂組成物。 【請求項5】 前記(C)溶剤に対する前記低沸点溶剤の含有割合が20質量%以上である、請求項4に記載の着色樹脂組成物。 【請求項6】 前記高沸点溶剤の20℃における蒸気圧が400Pa以下である、請求項1?5のいずれか1項に記載の着色樹脂組成物。 【請求項7】 前記高沸点溶剤の1013.25hPaにおける沸点が170℃以上である、請求項1?6のいずれか1項に記載の着色樹脂組成物。 【請求項8】 前記高沸点溶剤の1013.25hPaにおける沸点が190℃以上である、請求項1?7のいずれか1項に記載の着色樹脂組成物。 【請求項9】 前記高沸点溶剤の1013.25hPaにおける沸点が210℃以上である、請求項1?8のいずれか1項に記載の着色樹脂組成物。 【請求項10】 前記高沸点溶剤がグリコールエーテル類である、請求項1?9のいずれか1項に記載の着色樹脂組成物。 【請求項11】 前記高沸点溶剤がグリコールジアセテート類である、請求項1?9のいずれか1項に記載の着色樹脂組成物。 【請求項12】 前記(B)分散剤が、窒素原子を含む官能基を有するブロック共重合体を含む、請求項1?11のいずれか1項に記載の着色樹脂組成物。 【請求項13】 前記(E)光重合開始剤が、オキシムエステル系化合物を含む、請求項1?12のいずれか1項に記載の着色樹脂組成物。 【請求項14】 請求項1?13のいずれか1項に記載の着色樹脂組成物を用いて作成した画素を有する、カラーフィルタ。 【請求項15】 請求項14に記載のカラーフィルタを有する、画像表示装置。 【請求項16】 (A)顔料、(B)分散剤、及び(C)溶剤を含有する顔料分散液であって、 前記(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、 該ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の、蛍光X線ファンダメンタルパラメーター法(FP法)によって測定した平均ハロゲン原子数を用いて算出した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であり、かつ、レーザー脱離イオン化法(Laser Desorption/Ionization、LDI)?質量分析法(Mass Spectrometry、MS)にて測定した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であり、 前記(C)溶剤が、1013.25hPaにおける沸点が150℃以上の高沸点溶剤を含む顔料分散液。 【請求項17】 顔料分散液に対する前記(C)溶剤の含有割合が50質量%以上である、請求項16に記載の顔料分散液。 【請求項18】 前記(C)溶剤に対する前記高沸点溶剤の含有割合が1質量%以上である、請求項16又は17に記載の顔料分散液。 【請求項19】 前記(C)溶剤が、さらに1013.25hPaにおける沸点が150℃未満の低沸点溶剤を含む、請求項16?18のいずれか1項に記載の顔料分散液。 【請求項20】 前記(C)溶剤に対する前記低沸点溶剤の含有割合が20質量%以上である、請求項19に記載の顔料分散液。 【請求項21】 前記高沸点溶剤の20℃における蒸気圧が400Pa以下である、請求項16?20のいずれか1項に記載の顔料分散液。 【請求項22】 前記高沸点溶剤の1013.25hPaにおける沸点が170℃以上である、請求項16?21のいずれか1項に記載の顔料分散液。 【請求項23】 前記高沸点溶剤の1013.25hPaにおける沸点が190℃以上である、請求項16?22のいずれか1項に記載の顔料分散液。 【請求項24】 前記高沸点溶剤の1013.25hPaにおける沸点が210℃以上である、請求項16?23のいずれか1項に記載の顔料分散液。 【請求項25】 前記高沸点溶剤がグリコールエーテル類である、請求項16?24のいずれか1項に記載の顔料分散液。 【請求項26】 前記高沸点溶剤がグリコールジアセテート類である、請求項16?24のいずれか1項に記載の顔料分散液。 【請求項27】 前記(B)分散剤が、窒素原子を含む官能基を有するブロック共重合体を含む、請求項16?26のいずれか1項に記載の顔料分散液。」 (以下、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明27」といい、併せて「本件発明」ということがある。) 第3 申立人が主張する取消理由 申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第13号証を提示し、具体的な取消理由として、以下の(1)ないし(4)が存するとしている。 (1)本件発明1ないし4、6、7、12、14ないし19、21、22及び27は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。) (2)(a)本件発明1ないし27は、甲第2号証及び甲第8号証ないし甲第12号証に記載された発明に基づいて、また、(b)本件発明5、8ないし11、13、20及び23ないし26は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下、併せて「取消理由2」という。) (3)本件特許の請求項1ないし27に関して、同各請求項の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしておらず、その特許は同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由3」という。) (4)本件特許の請求項1ないし27に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であるから、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしておらず、その特許は同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由4」という。) ・申立人提示の甲号証 甲第1号証:特開2007-320986号公報 甲第2号証:特開2009-52010号公報 甲第3号証:株式会社東レリサーチセンターが2017年10月25日付けで発行した「顔料のLDI-TOFMS及び蛍光X線ファンダメンタルパラメーター法による分析解析」なる表題の結果報告書(報告No.T157651-01) 甲第4号証:Dow Chemical Companyが2002年10月に発行したものと認められる「UCAR ESTER EEP」なるエチル-3-エトキシプロピオネートに係る商品のカタログ 甲第5号証:「化学大辞典」1996年4月1日(第1版第4刷)、株式会社東京化学同人発行、第1059頁 甲第6号証:ビックケミー・ジャパン株式会社が2012年9月に発行したものと認められる「DISPERBYK-161」なる商品のデータシート 甲第7号証:特開2007-169526号公報 甲第8号証:DIC株式会社が2014年9月9日付けでしたプレスリリースシート 甲第9号証:DIC株式会社が2010年7月14日付けでしたプレスリリースシート 甲第10号証:色材、第64巻第2号、1991年、第100-110頁 甲第11号証:「色材と高分子のための最新機器分析法-分析と物性評価-」平成19年3月1日、株式会社ソフトサイエンス社発行、第48-49頁 甲第12号証:特開2003-55566号公報 甲第13号証:特開2003-161828号公報 (以下、「甲第1号証」ないし「甲第13号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲13」と略していう。) 第4 当審の判断 当審は、 申立人が主張する上記取消理由1ないし4につきいずれも理由がないから、本件発明1ないし27についての特許はいずれも維持すべきもの、 と判断する。 以下、事案に鑑み、取消理由4、取消理由3、取消理由1及び2の順に詳述する。 I.取消理由4について 取消理由4について、申立人が特に具体的に主張する点は、本件申立書の記載からみて、「『蛍光X線ファンダメンタルパラメーター法(FP法)によって測定した平均ハロゲン原子数を用いて算出した一分子中に含まれる平均水素原子数』、及び『レーザー脱離イオン化法(・・LDI)-質量分析法(・・MS)(以下「LDI-MS法」という。)にて測定した一分子中に含まれる平均水素原子数』が大きな(例えば8を超える)ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料であって着色力が高いものは当業者の技術常識ではな」く、「例えば、甲第13号証を参照すると、ハロゲン原子数8?16、水素原子数0?8のハロゲン化亜鉛フタロシアニンの色濃度(着色力)が高いとされるにすぎない」ことに基づいて、「当業者は、このような着色力の高いハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を製造あるいは入手することができない」とし、「このようなハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を『着色力が高く、乾燥膜の溶媒への溶解性が高く、付着異物の発生を抑制可能な着色樹脂組成物、この着色樹脂組成物を用いて形成した画素を有するカラーフィルタ、このカラーフィルタを有する画像表示装置、及び当該着色樹脂組成物に用いられる顔料分散液を提供』に使用することもできない」として、「本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?27の実施(製造及び使用)をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない」というものであると認められる。 そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、実施例(及び比較例)に係る記載(【0319】?【0398】)からみて、FP法による平均水素原子数が4.7、LDI-MS法による平均水素原子数が6である「緑色顔料A」及びFP法による平均水素原子数が1.4、LDI-MS法による平均水素原子数が0である「緑色顔料B」の2種の顔料を高沸点溶剤と共に使用した場合が開示されている。 そして、申立人が提示した甲1にも開示されている(【0080】ないし【0083】参照)とおり、本願出願日(優先日)前の当業者において、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン(顔料)の水素基の含有量につき、ハロゲン化反応の条件(特に臭素使用量など)を制御することにより、ハロゲン化の程度、すなわち水素基の残留程度を調節し、水素含有量、すなわち平均水素原子数につき、高いもの(例えば甲1における「製造例1」)及び低いもの(甲1における「製造例2」)を所望に合わせて製造できることは、少なくとも公知の技術であったものと認められる。 してみると、本件発明における「緑色顔料A」又は「緑色顔料B」は、それぞれ上記当業者の公知技術に基づいて、所望に応じて製造することができたものと理解するのが自然である。 また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記実施例(及び比較例)に係る記載(特に【表10】ないし【表12】)に基づき更に検討すると、FP法による平均水素原子数が4.7、LDI-MS法による平均水素原子数が6であり、いずれも3を超える「緑色顔料A」を使用した場合の方が、FP法による平均水素原子数が1.4、LDI-MS法による平均水素原子数が0でありいずれも3を下回る「緑色顔料B」を使用した場合に比して、着色樹脂組成物として塗膜表面の平滑性に優れ(【表10】参照)、顔料濃度が低減化できる、すなわち顔料の着色力が大きいこと(【表11】及び【表12】参照)が看取できるから、本件発明のFP法による平均水素原子数及びLDI-MS法による平均水素原子数がいずれも3以上のハロゲン化亜鉛フタロシアニンであれば、少なくとも着色力の点でカラーフィルターを構成する着色樹脂組成物として優れ、その他のカラーフィルターを構成する着色樹脂組成物に要求される物性(例えば塗膜表面の平滑性など)につき優れるものと理解するのが自然である。 してみると、申立人の上記主張は、当を得ないものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に記載したものではないとすべきものではない。 したがって、上記取消理由4は、理由がない。 II.取消理由3について 取消理由3について、申立人が特に主張する点は、本件申立書の記載からみて、「本件発明が『着色力が高く、乾燥膜の溶媒への溶解性が高く、付着異物の発生を抑制可能な着色樹脂組成物、この着色樹脂組成物を用いて形成した画素を有するカラーフィルタ、このカラーフィルタを有する画像表示装置、及び当該着色樹脂組成物に用いられる顔料分散液』の提供を目的とする(すなわち、解決課題とする)ところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、FP法による平均水素原子数及びLDI-MS法による平均水素原子数がいずれも3以上のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料として『緑色顔料A』が着色力が高いものとして記載されているのみであり、また、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の着色力は、含有する水素原子数のみならずハロゲン原子数及びその塩素と臭素との割合によっても異なるものであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、平均水素原子数の下限のみを規定し、ハロゲン原子数及びその中の塩素原子数と臭素原子数を特定しない本件発明のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料がいずれも着色力が高いとは理解されないものであって、さらに、FP法による平均水素原子数及びLDI-MS法による平均水素原子数が大きなハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料であって着色力が高いものは当業者の技術常識ではないから、もって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、FP法による平均水素原子数及びLDI-MS法による平均水素原子数がいずれも3以上のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料でありさえすれば、『着色力が高く』との目的が達成できるとは認識しないものであるから、よって、本件請求項1ないし27の記載では、同各項に係る特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではない」というものであると認められる。 しかるに、上記I.でも説示したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記実施例(及び比較例)に係る記載(特に【表10】ないし【表12】)に基づき検討すると、FP法による平均水素原子数が4.7、LDI-MS法による平均水素原子数が6であり、いずれも3を超える「緑色顔料A」を使用した場合の方が、FP法による平均水素原子数が1.4、LDI-MS法による平均水素原子数が0でありいずれも3を下回る「緑色顔料B」を使用した場合に比して、着色樹脂組成物として塗膜表面の平滑性に優れ(【表10】参照)、顔料濃度が低減化できる、すなわち顔料の着色力が大きいこと(【表11】及び【表12】参照)が看取できるから、本件発明のFP法による平均水素原子数及びLDI-MS法による平均水素原子数がいずれも3以上のハロゲン化亜鉛フタロシアニンであれば、少なくとも着色力の点でカラーフィルターを構成する着色樹脂組成物として優れ、その他のカラーフィルターを構成する着色樹脂組成物に要求される物性(例えば塗膜表面の平滑性など)につき優れるものと理解するのが自然である。 そして、FP法による平均水素原子数及びLDI-MS法による平均水素原子数がいずれも3以上のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を使用した場合であっても、一部の場合に上記本件発明の解決課題を解決できないであろうと当業者が認識するような本願の出願日(優先日)前の当業者の技術常識が存するものとも認められない。 してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件発明のFP法による平均水素原子数及びLDI-MS法による平均水素原子数がいずれも3以上のハロゲン化亜鉛フタロシアニンであれば、少なくとも着色力の点でカラーフィルターを構成する着色樹脂組成物として優れ、本件発明における上記課題を解決できるであろうと認識することができるものと理解するのが自然である。 したがって、申立人の上記主張は、当を得ないものであり、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるというべきである。 よって、上記取消理由3についても、理由がない。 III.取消理由1及び2について 1.各甲号証の記載事項並びに甲1及び甲2に記載された発明 上記取消理由1及び2は、いずれも本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲13に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1及び甲2に記載された発明の認定を行う。 (1)甲1の記載事項及び記載された発明 ア.甲1の記載事項 甲1には、申立人が申立書第18頁下から第1行ないし第20頁第21行で摘示するとおりの事項が記載されており、「製造例1」として、質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによるハロゲン含有量分析から算出された「ZnPcBr_(9.8)Cl_(3.1)H_(3.1)」との平均組成を有する「ポリハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料A」が記載され(【0080】?【0081】)、「実施例1」として、当該「ポリハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料A」を「デモールEP」なる商品名のジイソブチレン-無水マレイン酸共重合体で被覆した「ポリハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料組成物C」とし(【0084】)、「実施例3」として、当該「ポリハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料組成物C」、N,N’-ジメチルホルムアミド、「ディスパービック161」なる商品名の分散剤(必要ならば【0072】参照)及び「ユーカーエステルEEP」なる商品名の溶剤(必要ならば甲4参照)を組み合わせて顔料分散液とした後、当該顔料分散液、ポリエステルアクリレート樹脂、ジペンタエリスレートヘキサアクリレート(当審注:「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」の誤記と認められる。)、ベンゾフェノン及び「ユーカーエステルEEP」なる商品名の溶剤を組み合わせてカラーレジストを構成し、更に当該カラーレジストを使用して画素を形成したカラーフィルタを製造したことが記載されている(【0086】)。 イ.甲1に記載された発明 上記甲1には、上記の記載からみて、本件発明に倣い表現すると、 「(A)顔料、(B)分散剤、(C)溶剤、(D)ポリエステルアクリレート樹脂及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、並びに(E)ベンゾフェノンを含有するカラーレジストであって、 前記(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、 該ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料は、質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによるハロゲン含有量分析から算出された「ZnPcBr_(9.8)Cl_(3.1)H_(3.1)」との平均組成を有するものであるカラーレジスト。」 に係る発明(以下「甲1発明1」という。)、 「甲1発明1のカラーレジストを使用して画素を形成したカラーフィルタ。」 に係る発明及び 「(A)顔料、(B)分散剤、及び(C)溶剤を含有する顔料分散液であって、 前記(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、 該ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料は、質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによるハロゲン含有量分析から算出された「ZnPcBr_(9.8)Cl_(3.1)H_(3.1)」との平均組成を有するものである顔料分散液。」 に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているものと認められる。 (2)甲2の記載事項及び記載された発明 ア.甲2の記載事項 甲2には、申立人が申立書第20頁第22行ないし第27頁第11行で摘示するとおりの事項が記載されており、「顔料、溶剤および分散剤を含有し、該顔料が臭素化亜鉛フタロシアニンを含有し、該分散剤が、親溶媒性を有するAブロック及び窒素原子を含む官能基を有するBブロックからなるブロック共重合体であり、そのアミン価が80mgKOH/g以上150mgKOH/g以下(有効固形分換算)である分散剤を含有する、ことを特徴とする顔料分散液。」(【請求項1】)、「請求項1乃至4のいずれか一項に記載の顔料分散液、およびバインダー樹脂を含有してなる、ことを特徴とするカラーフィルタ用着色組成物。」(【請求項5】)、「さらに光重合開始系を含有してなる、請求項5記載のカラーフィルタ用着色組成物。」(【請求項6】)、「請求項5または6に記載のカラーフィルタ用着色組成物を用いて作成した画素を有する、ことを特徴とするカラーフィルタ。」(【請求項7】)及び「請求項7に記載のカラーフィルタと、液晶駆動用基板を対向させ、両者の間に液晶を封入してなる、ことを特徴とする液晶表示装置。」(【請求項8】)がそれぞれ記載され、当該「溶剤」として、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのグリコールモノアルキルエーテルアセテート類を使用すること(【0023】?【0028】)及び「また、150℃以上の沸点をもつ溶剤を併用することも好まし」く、「このような高沸点の溶剤を併用することにより、着色組成物は乾きにくくなるが、急激に乾燥することによる顔料分散液の相互関係の破壊を起こし難くする効果があ」り、「高沸点溶剤の含有量は、溶剤に対して3重量%?50重量%が好ましく」、「高沸点溶剤の量が少なすぎると、例えばスリットノズル先端で色材成分などが析出・固化して異物欠陥を惹き起こす可能性があり、また多すぎると組成物の乾燥温度が遅くなり、後述するカラーフィルタ製造工程における、減圧乾燥プロセスのタクト不良や、プリベークのピン跡といった問題を惹き起こすことが懸念される」ことも記載されており(【0032】)、更に当該「溶剤」につき「インクジェット法によるカラーフィルタ製造において、ノズルから発せられるインクは数?数十pLと非常に微細であるため、ノズル口周辺あるいは画素バンク内に着弾する前に、溶剤が蒸発してインクが濃縮・乾固する傾向がある」ので「これを回避するためには溶剤の沸点は高い方が好ましく、具体的には、沸点180℃以上の溶剤を含むことが好まし」く「より好ましくは、沸点が200℃以上、特に好ましくは沸点が220℃以上である溶剤を含有する」ことも記載され、当該高い沸点の「好ましい高沸点溶剤として、例えば前述の各種溶剤の中ではジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,6-ヘキサノールジアセテート、トリアセチンなどが挙げられる」ことも記載されている(【0034】?【0035】)。 イ.甲2に記載された発明 上記甲2には、上記の各記載からみて、本件発明に倣い表現すると、 「(A)顔料、(B)分散剤、(C)溶剤、(D)バインダー樹脂及び(E)光重合開始系を含有するカラーフィルター用着色組成物であって、 前記(A)顔料が、臭素化亜鉛フタロシアニンを含み、 該溶剤が、150℃以上の沸点を有する高沸点溶剤を含む、 カラーフィルター用着色組成物。」 に係る発明(以下「甲2発明1」という。)、 「甲2発明1のカラーフィルター用着色組成物を使用して画素を形成した液晶表示装置。」 に係る発明及び 「(A)顔料、(B)分散剤、及び(C)溶剤を含有する顔料分散液であって、 前記(A)顔料が、臭素化亜鉛フタロシアニンを含み、 該溶剤が、150℃以上の沸点を有する高沸点溶剤を含む、 顔料分散液。」 に係る発明(以下「甲2発明2」という。)が記載されているものと認められる。 (3)甲3ないし甲13に記載された事項 ア.甲3に記載された事項 甲3は、第三者である株式会社東レリサーチセンターが行った(測定)結果報告書2通であり、特定のハロゲン化亜鉛フタロシアニン試料につき、LDI-MS法での平均水素原子数の算出結果(4.9)及びFP法での平均水素原子数の算出結果(3.4)がそれぞれ記載されている。 イ.甲4に記載された事項 甲4は、第三者であるダウ・ケミカル・カンパニーが発行した「UCAR ESTER EEP」なるエチル-3-エトキシプロピオネートに係る商品のカタログであり、当該「UCAR ESTER EEP」なる溶剤商品の沸点が169.7℃(760mmHg圧力下)であることが記載されている。 ウ.甲5に記載された事項 甲5には、申立人が申立書第29頁下から第2行ないし第30頁第3行で摘示するとおりの事項が記載されており、N,N’-ジメチルホルムアミドが沸点153℃であることが記載されている。 エ.甲6に記載された事項 甲6は、第三者であるビック・ヘミー・ジャパン株式会社が発行した「DISPRERBYK-161」なる分散剤に係る商品のカタログであり、当該「DISPRERBYK-161」なる分散剤商品が顔料親和性基を有しアミン価を有する高分子量ブロック共重合物であることが記載されている。 オ.甲7に記載された事項 甲7には、申立人が申立書第30頁第16行ないし第18行で摘示するとおりの事項が記載されており、ぼかし塗料用の極性溶媒として、酢酸n-ブチル(沸点126℃、sp値8.5)、メトキシプロピルアセテート(沸点146℃、sp値8.5)等が挙げられ、これらの溶媒は2種以上を併用してもよいことも記載されている。 カ.甲8に記載された事項 甲8は、第三者であるDIC株式会社がプレスリリースした「G59」なるフタロシアニン顔料に係る事項が記載されている。 キ.甲9に記載された事項 甲9は、第三者であるDIC株式会社がプレスリリースした「G58シリーズ」なるフタロシアニン顔料に係る事項が記載されている。 ク.甲10に記載された事項 甲10には、申立人が申立書第32頁第2行ないし第9行で摘示するとおりの事項が記載されており、ファンダメンタルパラメーター法によりフタロシアニン顔料におけるハロゲン含量の定量分析ができることが記載されている。 ケ.甲11に記載された事項 甲11には、申立人が申立書第32頁第15行ないし第16行で摘示するとおりの事項が記載されており、フタロシアニン顔料などの色材を含む一般化成品においてMALDI-TOFMS法による定量分析が活用されていることが記載されている。 コ.甲12に記載された事項 甲12には、申立人が申立書第32頁下から第3行ないし第33頁第7行で摘示するとおりの事項が記載されており、色材、沸点(圧力1013.25[hPa]条件下での沸点)が170℃以上のグリコールエーテル類などの溶剤を含有する溶剤成分及びバインダ樹脂を含有するカラーフィルタ製造に有用な硬化性樹脂組成物が記載されている。 サ.甲13に記載された事項 甲13には、申立人が申立書第33頁第11行ないし第34頁図(化学式)下第7行で摘示するとおりの事項が記載されており、フタロシアニンが有する水素16個のうち8個以上がハロゲンで置換されたハロゲン化金属フタロシアニンと黄色顔料を含有するカラーフィルター用顔料分散組成物、該顔料分散組成物を含有するカラーフィルター用顔料分散レジスト及び基板上に該カラーフィルター用顔料分散レジストの硬化塗膜層を有するカラーフィルターが記載されている。 2.対比・検討 (1)本件発明1について ア.甲1発明1に基づく対比・検討 (ア)対比 本件発明1と上記甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「(A)顔料」、「(B)分散剤」、「(C)溶剤」、「(D)ポリエステルアクリレート樹脂及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」並びに「(E)ベンゾフェノン」は、それぞれ、本件発明1における「(A)顔料」、「(B)分散剤」、「(C)溶剤」、「(D)バインダー樹脂」及び「(E)光重合開始剤」に相当し、甲1発明1における「カラーレジスト」が、本件発明1における「着色樹脂組成物」に相当することも明らかである。 また、甲1発明1における「(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、」は、本件発明1における「(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、」に相当する。 してみると、本件発明1と甲1発明1とは、 「(A)顔料、(B)分散剤、(C)溶剤、(D)バインダー樹脂、及び(E)光重合開始剤を含有する着色樹脂組成物であって、 前記(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含む着色樹脂組成物。」 の点で一致し、下記の2点で相違するものといえる。 相違点1:「ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料」につき、本件発明1では「該ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の、蛍光X線ファンダメンタルパラメーター法(FP法)によって測定した平均ハロゲン原子数を用いて算出した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であり、かつ、レーザー脱離イオン化法(Laser Desorption/Ionization、LDI)?質量分析法(Mass Spectrometry、MS)にて測定した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であ」るのに対して、甲1発明1では「質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによるハロゲン含有量分析から算出された「ZnPcBr_(9.8)Cl_(3.1)H_(3.1)」との平均組成を有するものである」点 相違点2:本件発明1では「(C)溶剤が、1013.25hPaにおける沸点が150℃以上の高沸点溶剤を含む」のに対して、甲1発明1では「高沸点溶剤を含む」点につき特定されていない点 (イ)各相違点についての検討 (イ-1)相違点2について 事案に鑑み、上記相違点2につきまず検討すると、甲1発明1における「溶剤」としては、N,N’-ジメチルホルムアミド及び「ユーカーエステルEEP」なる商品名の溶剤を組み合わせて使用することが開示されており、当該各溶剤はいずれも常圧下、すなわち1013.25hPaにおいて150℃を超える沸点を有する高沸点溶剤であることが当業者に自明であるから、上記相違点2については、実質的な相違点ではない。 (イ-2)相違点1について 上記相違点1につき検討すると、甲1発明1における「ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料」の「H_(3.1)」なる平均組成、すなわち平均水素原子数が「3.1」であることは、質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによる測定値に基づき算出されたものである(甲1【0081】参照)ところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0320】?【0324】)からみて、同一のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料であっても測定方法が異なれば、当該「平均水素原子数」は異なる測定値となるものと理解されるから、甲1発明1におけるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料が、FP法での平均水素原子数及びLDI-MS法での平均水素原子数においていずれも3以上であるものと直ちにいうことはできない。 そこで、申立人が提示した甲3の測定結果を検討すると、当該測定対象である試料は、単に「顔料、特開2007-320986号 製造例1」における「ハロゲン化亜鉛フタロシアニン」とされているのみであり、測定者である「東レリサーチセンター」が自ら製造した物ではなくその出所が不明であって、具体的にどのように製造されたものであるかについても不明であり、さらに、当該甲3の測定における顔料試料と「特開2007-320986号 製造例1」、すなわち甲1発明1における「質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによるハロゲン含有量分析から算出された『ZnPcBr_(9.8)Cl_(3.1)H_(3.1)』との平均組成を有する顔料」との対応関係を認識できるような情報(例えば、質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによる測定値に基づき算出された平均水素原子数、他の元素の平均組成の値など)も開示されていないから、甲3の測定における顔料試料が、甲1発明1における「質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによるハロゲン含有量分析から算出された『ZnPcBr_(9.8)Cl_(3.1)H_(3.1)』との平均組成を有する顔料」であるとは認めることはできない。 してみると、たとえ甲3の測定結果を参酌したとしても、甲1発明1における「質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによるハロゲン含有量分析から算出された『ZnPcBr_(9.8)Cl_(3.1)H_(3.1)』との平均組成を有する顔料」が、FP法での平均水素原子数及びLDI-MS法での平均水素原子数においていずれも3以上であると認めることはできない。 また、ほかに、甲1発明1における「質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによるハロゲン含有量分析から算出された『ZnPcBr_(9.8)Cl_(3.1)H_(3.1)』との平均組成を有する顔料」が、FP法での平均水素原子数及びLDI-MS法での平均水素原子数において、いずれも3以上であると認識できるような技術常識も存しない。 さらに、甲1発明1において、「質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによるハロゲン含有量分析から算出された『ZnPcBr_(9.8)Cl_(3.1)H_(3.1)』との平均組成を有する顔料」に代えて、本件発明における「FP法による平均水素原子数及びLDI-MS法による平均水素原子数がいずれも3以上のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料」を採用すべき動機が存するものとも認められず、たとえ他の甲号証を参酌しても、当該代替を想到できるような技術常識又は従来技術が存するものとも認められない。 したがって、相違点1については、実質的な相違点であって、しかも、当業者が適宜なし得ることということもできない。 (ウ)本件発明の効果について 本件発明の効果につき検討すると、上記I.及びII.でも説示したとおり、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、FP法による平均水素原子数及びLDI-MS法による平均水素原子数がいずれも3以上のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を使用したことにより、少なくとも着色力の点でカラーフィルターを構成する着色樹脂組成物として優れ、その他のカラーフィルターを構成する着色樹脂組成物に要求される物性(例えば塗膜表面の平滑性など)につき優れるものであって、当該効果は、甲1発明の効果から、当業者が予期することができない顕著なものということができる。 (エ)小括 したがって、本件発明1は、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 イ.甲2発明1に基づく対比・検討 (ア)対比 本件発明1と上記甲2発明1とを対比すると、甲2発明1における「(A)顔料」、「(B)分散剤」、「(C)溶剤」、「(D)バインダー樹脂」及び「(E)光重合開始系」は、それぞれ、本件発明1における「(A)顔料」、「(B)分散剤」、「(C)溶剤」、「(D)バインダー樹脂」及び「(E)光重合開始剤」に相当し、甲2発明1における「カラーフィルター用着色組成物」が、本件発明1における「着色樹脂組成物」に相当することも明らかである。 また、甲2発明1における「(A)顔料が、臭素化亜鉛フタロシアニンを含み、」は、「臭素化亜鉛フタロシアニン」が「ハロゲン化亜鉛フタロシアニン」の一種であることが当業者に自明であるから、本件発明1における「(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、」に相当する。 さらに、甲2発明1における「該溶剤が、150℃以上の沸点を有する高沸点溶剤を含む、」は、通常、無条件で表記された場合、当該「沸点」が、常圧下、すなわち1013.25hPaの圧力条件下におけるものであることが当業者の技術常識であるから、本件発明1における「(C)溶剤が、1013.25hPaにおける沸点が150℃以上の高沸点溶剤を含む」に相当する。 してみると、本件発明1と甲2発明1とは、 「(A)顔料、(B)分散剤、(C)溶剤、(D)バインダー樹脂、及び(E)光重合開始剤を含有する着色樹脂組成物であって、 前記(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、 前記(C)溶剤が、1013.25hPaにおける沸点が150℃以上の高沸点溶剤を含む着色樹脂組成物。」 の点で一致し、下記の点で相違するものといえる。 相違点3:「ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料」につき、本件発明1では「該ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の、蛍光X線ファンダメンタルパラメーター法(FP法)によって測定した平均ハロゲン原子数を用いて算出した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であり、かつ、レーザー脱離イオン化法(Laser Desorption/Ionization、LDI)?質量分析法(Mass Spectrometry、MS)にて測定した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であ」るのに対して、甲2発明1では「臭素化亜鉛フタロシアニン」であり、水素原子の存在及び一分子中に含まれる平均水素原子数につき不明である点 (イ)相違点3についての検討 上記相違点3につき検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0320】?【0324】)からみて、同一のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料であっても測定方法が異なれば、当該「平均水素原子数」は異なる測定値となるものと理解されるから、甲2発明1における臭素化亜鉛フタロシアニン顔料が、FP法での平均水素原子数及びLDI-MS法での平均水素原子数においていずれも3以上であるものと認めることはできない。 なお、甲2をさらに検討すると、実施例で製造されている臭素化亜鉛フタロシアニン顔料(【0234】参照)は、質量分析によるハロゲン含量分析結果からみて、いずれもフタロシアニンの水素が臭素及び塩素により全て置換されているものであって、水素原子を有するものではない。 また、甲2の記載を更に検討すると、甲2には、1分子中に臭素原子を平均13個以上、特に14?16個含有する臭素化亜鉛フタロシアニンが透過性に優れカラーフィルタの緑色画素を形成するのに好適である旨記載されている(【0013】)ことからみて、甲2発明1における「臭素化亜鉛フタロシアニン」として、本件発明におけるFP法での平均水素原子数及びLDI-MS法での平均水素原子数においていずれも3以上である(必然的に臭素原子数は13個以下となる)ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を使用する動機が乏しいものと認められ、むしろ阻害要因が存するものと理解するのが自然である。 さらに、甲2発明1において、本件発明における「FP法による平均水素原子数及びLDI-MS法による平均水素原子数がいずれも3以上のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料」に代えることを想到できるような技術常識又は従来技術が存するものとも認められない。 したがって、相違点3については、実質的な相違点であって、しかも、甲2発明1において、たとえ他の甲号証に開示された事項を参酌したとしても、当業者が適宜なし得ることということができない。 (ウ)本件発明の効果について 本件発明の効果につき検討すると、上記I.及びII.でも説示したとおり、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、FP法による平均水素原子数及びLDI-MS法による平均水素原子数がいずれも3以上のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を使用したことにより、少なくとも着色力の点でカラーフィルターを構成する着色樹脂組成物として優れ、その他のカラーフィルターを構成する着色樹脂組成物に要求される物性(例えば塗膜表面の平滑性など)につき優れるものであって、当該効果は、甲2発明1の効果から、当業者が予期することができない顕著なものということができる。 (エ)小括 したがって、本件発明1は、甲2発明1、すなわち甲2に記載された発明であるということはできず、また、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 ウ.本件発明1についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1又は甲2に記載された発明であるということができず、また、本件発明1は、甲1又は甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 (2)本件発明2ないし15について 本件発明2ないし15につき検討すると、本件発明2ないし15は、いずれも本件発明1を直接的又は間接的に引用するものと認められる。 してみると、上記(1)で説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2ないし15についても、同一の理由により、甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえない。 また、上記(1)で説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲1又は甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2ないし15についても、同一の理由により、甲1又は甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 (3)本件発明16について ア.甲1発明2に基づく対比・検討 (ア)対比 本件発明16と上記甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「(A)顔料」、「(B)分散剤」及び「(C)溶剤」は、それぞれ、本件発明16における「(A)顔料」、「(B)分散剤」及び「(C)溶剤」に相当し、甲1発明2における「顔料分散液」が、本件発明16における「顔料分散液」に相当することも明らかである。 また、甲1発明2における「(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、」は、本件発明16における「(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、」に相当する。 してみると、本件発明16と甲1発明2とは、 「(A)顔料、(B)分散剤、及び(C)溶剤を含有する顔料分散液であって、 前記(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含む着色樹脂組成物。」 の点で一致し、下記の2点で相違するものといえる。 相違点1’:「ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料」につき、本件発明16では「該ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の、蛍光X線ファンダメンタルパラメーター法(FP法)によって測定した平均ハロゲン原子数を用いて算出した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であり、かつ、レーザー脱離イオン化法(Laser Desorption/Ionization、LDI)?質量分析法(Mass Spectrometry、MS)にて測定した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であ」るのに対して、甲1発明2では「質量分析とフラスコ燃焼イオンクロマトグラフによるハロゲン含有量分析から算出された「ZnPcBr_(9.8)Cl_(3.1)H_(3.1)」との平均組成を有するものである」点 相違点2’:本件発明1では「(C)溶剤が、1013.25hPaにおける沸点が150℃以上の高沸点溶剤を含む」のに対して、甲1発明2では「高沸点溶剤を含む」点につき特定されていない点 (イ)各相違点についての検討 (イ-1)相違点2’について 事案に鑑み、上記相違点2’につきまず検討すると、相違点2’は、上記(1)ア.(ア)で示した相違点2と同一の事項であるから、上記(1)ア.(イ)(イ-1)で説示した理由と同一の理由により、実質的な相違点ではないか、仮に相違していたとしても、当業者が適宜なし得ることである。 (イ-2)相違点1’について 上記相違点1’につき検討すると、相違点1’は上記(1)ア.(ア)で示した相違点1と同一の事項であるから、上記(1)ア.(イ)(イ-2)で説示した理由と同一の理由により、相違点1’については、実質的な相違点であって、しかも、当業者が適宜なし得ることということができない。 (ウ)小括 したがって、本件発明16は、甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 イ.甲2発明2に基づく対比・検討 (ア)対比 本件発明16と上記甲2発明2とを対比すると、甲2発明2における「(A)顔料」、「(B)分散剤」及び「(C)溶剤」は、それぞれ、本件発明16における「(A)顔料」、「(B)分散剤」及び「(C)溶剤」に相当し、甲2発明2における「顔料分散液」が、本件発明16における「顔料分散液」に相当することも明らかである。 また、甲2発明2における「(A)顔料が、臭素化亜鉛フタロシアニンを含み、」は、「臭素化亜鉛フタロシアニン」が「ハロゲン化亜鉛フタロシアニン」の一種であることが当業者に自明であるから、本件発明16における「(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、」に相当する。 さらに、甲2発明2における「該溶剤が、150℃以上の沸点を有する高沸点溶剤を含む、」は、通常、無条件で表記された場合、当該「沸点」が、常圧下、すなわち1013.25hPaの圧力条件下におけるものであることが当業者の技術常識であるから、本件発明16における「(C)溶剤が、1013.25hPaにおける沸点が150℃以上の高沸点溶剤を含む」に相当する。 してみると、本件発明16と甲2発明2とは、 「(A)顔料、(B)分散剤、及び(C)溶剤を含有する顔料分散液であって、 前記(A)顔料が、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を含み、 前記(C)溶剤が、1013.25hPaにおける沸点が150℃以上の高沸点溶剤を含む顔料分散液。」 の点で一致し、下記の点で相違するものといえる。 相違点3’:「ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料」につき、本件発明16では「該ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の、蛍光X線ファンダメンタルパラメーター法(FP法)によって測定した平均ハロゲン原子数を用いて算出した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であり、かつ、レーザー脱離イオン化法(Laser Desorption/Ionization、LDI)?質量分析法(Mass Spectrometry、MS)にて測定した一分子中に含まれる平均水素原子数が3以上であ」るのに対して、甲2発明2では「臭素化亜鉛フタロシアニン」であり、水素原子の存在及び一分子中に含まれる平均水素原子数につき不明である点 (イ)相違点3’についての検討 上記相違点3’につき検討すると、相違点3’は、上記(1)イ.(ア)で示した相違点3と同一の事項であるから、上記(1)イ.(イ)で説示した理由と同一の理由により、相違点3’については、実質的な相違点であって、しかも、当業者が適宜なし得ることということができない。 (ウ)小括 したがって、本件発明16は、甲2発明2、すなわち甲2に記載された発明であるということはできず、また、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 ウ.本件発明16についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件発明16は、甲1又は甲2に記載された発明であるということができず、また、本件発明16は、甲1又は甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 (4)本件発明17ないし27について 本件発明17ないし27につき検討すると、本件発明17ないし27は、いずれも本件発明16を直接的又は間接的に引用するものと認められる。 してみると、上記(3)で説示したとおりの理由により、本件発明16は、甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえないのであるから、本件発明16を引用する本件発明17ないし27についても、同一の理由により、甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえない。 また、上記(3)で説示したとおりの理由により、本件発明16は、甲1又は甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないのであるから、本件発明16を引用する本件発明17ないし27についても、同一の理由により、甲1又は甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 3.取消理由1及び2に係るまとめ 以上のとおり、本件発明1ないし4、6、7、12、14ないし19、21、22及び27は、いずれも甲1に記載された発明であるということができず、また、本件発明1ないし27は、甲第2号証及び甲第8号証ないし甲第12号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできず、さらに、本件発明5、8ないし11、13、20及び23ないし26は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 よって、本件請求項1ないし27に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、取消理由1及び2は、いずれも理由がない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議申立人が主張する取消理由1ないし4はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし27に係る発明についての特許は、いずれも取り消すことができない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-01-12 |
出願番号 | 特願2016-555370(P2016-555370) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C09B)
P 1 651・ 121- Y (C09B) P 1 651・ 113- Y (C09B) P 1 651・ 537- Y (C09B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 横山 法緒、前田 孝泰、藤本 保 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
小野寺 務 橋本 栄和 |
登録日 | 2017-04-07 |
登録番号 | 特許第6119922号(P6119922) |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | 着色樹脂組成物、カラーフィルタ、及び画像表示装置 |