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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A63F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A63F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A63F
管理番号 1337073
異議申立番号 異議2017-700890  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-21 
確定日 2018-02-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6140138号発明「遊技用システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6140138号の請求項1,2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6140138号の請求項1,2に係る特許についての出願は,平成23年11月18日に出願された特願2011-252181号の一部を平成26年12月22日に新たな特許出願(特願2014-259448号)としたものであり,平成29年5月12日に特許権の設定登録がされ,平成29年9月21日に,その特許に対し,特許異議申立人西岡麗子により,特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明

特許第6140138号の請求項1,2に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」,「本件特許発明2」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される,次のとおりのものである(A?Pは特許異議申立人の主張に従って,当審で付した。)。

「【請求項1】

A 有価価値を特定可能な情報を記憶可能な記憶媒体を処理する記憶媒体処理手段と,

B 前記記憶媒体処理手段によって処理された記憶媒体に係る有価価値を特定する有価価値特定手段と,

C 前記有価価値を減算して遊技をなす為の処理を行う有価価値減算手段と,

D 入金または遊技媒体の計数によって有価価値を付与する有価価値付与手段と,

E 前記有価価値付与手段によって付与された有価価値を前記有価価値に加算更新する有価価値加算更新手段と,

F を備えた遊技用装置と,

G 前記記憶媒体の有価価値を記憶管理し,前記遊技用装置と通信可能に接続される管理装置と,

H からなる遊技用システムであって,

I 前記遊技用装置に係る所定の遊技客により行われる第1の操作を受け付ける操作受付手段と,

J 前記第1の操作に基づいて,入金の受け付けを禁止する入金受付禁止手段と,

K 前記第1の操作後,入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作に基づいて,入金の受け付けが可能となる入金受付禁止解除手段と,

L を備え,

M 前記第1の操作に基づいて,前記入金受付禁止手段により入金の受け付けを禁止している時に前記有価価値減算手段により有価価値を減算して遊技をなす為の処理を行うことが可能なこと

N を特徴とする遊技用システム。

【請求項2】

O 前記第1の操作が,貸玉ボタンの押圧,再プレーボタンの押圧,貨幣識別装置への入金,記憶媒体の返却ボタン押圧,各台計数機の計数,のうちいずれかの前記遊技用装置もしくは前記遊技用装置と接続される各種機器における操作,であること

P を特徴とする請求項1記載の遊技用システム。」

第3 申立理由の概要

1 特許異議申立人は,証拠方法として甲第1,2号証を提出し,本件特許発明1,2は,甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し,あるいは,甲第1,2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので,請求項1,2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している(以下「異議理由1」という。)。

2 また,特許異議申立人は,請求項1の「第1の操作後,入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作に基づいて,入金の受け付けが可能となる入金受け付け禁止解除手段」という記載事項について,返却ボタン押圧が操作されたときに,記憶媒体が返却されるか否かが明確でないため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので,請求項1,2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している(以下,「異議理由2」という。)。

3 そして,特許異議申立人は,本件特許発明1,2について,返却ボタン押圧が操作されたときに記憶媒体が返却されない様態である場合には,請求項に係る発明について発明の詳細な説明には当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないので,請求項1,2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している(以下,「異議理由3」という。)。

4 更に,特許異議申立人は,請求項に係る発明が「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を越えているため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないので,請求項1,2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している(以下,「異議理由4」という。)。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2009-279318号公報
甲第2号証:特開2010-246746号公報

第4 甲第1?2号証の記載

1 甲第1号証に記載された発明
特許異議申立人によって,提出された甲1号証には,図面と共に以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。なお,甲第1号証は,本件特許の設定登録前の平成28年9月20日付の拒絶理由で通知された文献である。

(ア)「【0028】
同図に示すように,各遊技台に併設された計数機能付台間装置(以下,単に「台間装置」と記載する)は,島コントローラ経由で管理装置と接続されている。ここで,管理装置とは,台間装置,精算機,景品交換装置といった遊技店に設置された機器を管理する装置であり,島コントローラとは,周囲を通路に囲まれたスペース(遊技島)に設けられた一群の台間装置や遊技機などの装置を束ねる装置である。
【0029】
また,台間装置は,自装置が接続された遊技機で遊技者が獲得した遊技媒体(たとえば,パチンコ玉)の数を計数したうえで計数結果を計数値として記録媒体(カード)へ記録し,計数値が記録された記録媒体(カード)を遊技者へ発行する装置である。なお,管理装置が,記録媒体(カード)の識別子(カードID)と計数値とを関連付けて記憶することとしてもよい。
【0030】
従来,このような計数機能を備えた台間装置を使用する場合,遊技者が持ち玉(獲得玉)を保持していても,貨幣を受け付けて遊技媒体の貸し出しを行っていた。しかし,遊技者が持ち玉を保持している場合には,現金で遊技媒体を借りる必要はない。その理由は,持ち玉を使用して遊技をすれば足りるからであり,特に,換金率が等価交換ではない場合には持ち玉を使用したほうが遊技者にとって得になるからである。
【0031】
また,従来のように,いつでも貨幣を受け付けて遊技媒体を貸し出すこととすると,紙幣の引き抜きなどの不正行為の危険性が常に存在するため,不正行為の被害にあう可能性も高くなる。
【0032】
そこで,本発明に係る貨幣受付制御手法では,計数機能を備えた台間装置による計数値に基づいて貨幣受け付けの禁止/禁止解除を制御することとした。具体的には,同図に示すように,貨幣受付禁止処理に用いる閾値を管理装置から各台間装置へ送信し(同図の(1)参照),台間装置は受信した閾値を記憶する(同図の(2)参照)。そして,遊技者の遊技開始によって計数を開始したならば(同図の(A)参照),計数値がかかる閾値以上となった場合に貨幣受付禁止とする(同図の(B)参照)。」

(イ)「【0034】
図2は,本実施例に係る貨幣受付制御システム1の構成を示すブロック図である。同図に示すように,貨幣受付制御システム1は,台間装置10と,管理装置20とから構成される。なお,同図には,1台の台間装置10のみを示しているが,管理装置20には所定数の台間装置10が島コントローラ(図1参照)経由で接続されるものとする。
・・・
【0037】
また,持ち玉等の遊技媒体を払い出すノズルを備えた持ち玉払出部45と,計数値が記録されたり,プリペイド価値が関連付けられたりしたカードを受け付けるカード受付部46と,持ち玉(獲得玉)を計数する計数部47と,持ち玉(獲得玉)を貯留する玉貯留部48とを備えている。」

(ウ)「【0041】
図2の説明に戻り,台間装置10の構成について説明する。台間装置10は,状態表示部11(図3の41に対応)と,貨幣受付部12(図3の42に対応)と,貸出部13と,カード受付部14(図3の46に対応)と,計数部15と,通信I/F(インターフェース)16と,制御部17と,記憶部18と,持ち玉払出部19とを備えている。
・・・
【0045】
貸出部13は,カード受付部14が受け付けた会員用カードや一般用カードに対応付けられた計数値(計数部15によって計数された遊技媒体の数量)や,プリペイドカードの残度数に基づいて遊技媒体を貸し出すとともに,貨幣受付部12が貨幣を受け付けた場合には,現金の額に基づいて遊技媒体を貸し出す処理を行う。
・・・
【0047】
また,貸出部13は,貨幣受付禁止状態で,プリペイドカードの残度数がある場合において,図示しない貸出ボタン(プリペイド残額貸出ボタン)が押下された場合には,プリペイド残度数の代わりに計数部15による計数値を使用して遊技媒体を貸し出す。このようにすることで,遊技者が換金率の関係で損をすることを防止することができる。
【0048】
カード受付部14は,会員用カード,一般用カード,プリペイドカードといった各種カードを受け付け,各カードに関連付けられた計数値や残度数を貸出部13へ通知するとともに,計数値や残度数の更新処理を行う。計数部15は,遊技者の持ち玉(獲得玉)を計数し,計数結果を計数値としてカード受付部14へ渡す処理を行う。」

(エ)「【0080】
次に,台間装置10が実行する入金禁止処理(貨幣受付禁止処理)の処理手順について図7を用いて説明する。図7は,台間装置10が実行する入金禁止処理の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように,入金可能状態において(ステップS201),計数部15が計数を開始する(ステップS202)。
【0081】
そして,貨幣受付禁止部17cは,持ち玉(計数値)が閾値(図4の(1)参照)以上であるか否かを判定し(ステップS203),持ち玉が閾値以上である場合には(ステップS203,Yes),入金禁止状態とする(ステップS204)。なお,ステップS203の判定条件を満たさない場合には(ステップS203,No),ステップS203の処理を繰り返す。
【0082】
そして,禁止状態通知部17bは,状態変更があった旨を管理装置20へ通知し(ステップS205),貨幣受付禁止部17cは,状態表示部11を所定の色で点灯させるなどの報知処理を実行する(ステップS206)。
【0083】
つづいて,貨幣受付禁止部17cは,入金禁止状態の解除条件が成立したか否かを判定する(ステップS207)。ここで,解除条件とは,持ち玉(計数値)が閾値(図4の(1)参照)未満となったこと,または,係員による解除操作があったことを示す。そして,解除条件が成立した場合には(ステップS207,Yes),入金可能状態とする(ステップS208)。なお,ステップS207の判定条件を満たさなかった場合には(ステップS207,No),ステップS207以降の処理を繰り返す。」

(オ)「【0091】
また,上述した実施例では,貨幣受付部を備えた台間装置について示したが,図9に示すような各台対応装置に本発明を適用することとしてもよい。図9は,変形例に係る各台対応装置の概略構成を示す図である。同図の(a)に示すように,台間装置に貨幣受付装置(貨幣識別装置)が外付けで接続されている場合にも,本発明を適用することができる。なお,同図に示す91が,外付けタイプの貨幣受付装置である。また,台間装置と計数部とが独立しており相互に通信する場合(図9の(b)参照)にも,本発明を適用することができる。なお,同図に示す92が,独立タイプの計数部である。」

上記(ア)?(オ)の記載事項から,以下の事項が導かれる。

(a,b,e)上記【0037】には「計数値が記録されたり,プリペイド価値が関連付けられたりしたカード」と記載され,上記【0048】には「カード受付部14は,会員用カード,一般用カード,プリペイドカードといった各種カードを受け付け,各カードに関連付けられた計数値や残度数を貸出部13へ通知するとともに,計数値や残度数の更新処理を行う」ことが記載されているから,上記甲1号証には,
計数値が記録されたり,プリペイド価値が関連付けられたりしたカードである会員用カード,一般用カード,プリペイドカードといった各種カードを受け付け,
各カードに関連付けられた計数値や残度数を貸出部13へ通知するとともに,計数値や残度数の更新処理を行うカード受付部14が記載されているといえる。

(c,m)上記【0045】には「貸出部13は,カード受付部14が受け付けた会員用カードや一般用カードに対応付けられた計数値(計数部15によって計数された遊技媒体の数量)や,プリペイドカードの残度数に基づいて遊技媒体を貸し出す」と記載され,上記【0047】には「貸出部13は,貨幣受付禁止状態で,プリペイドカードの残度数がある場合において,・・・貸出ボタン・・・が押下された場合には,・・・計数部15による計数値を使用して遊技媒体を貸し出す」と記載されているから,甲1号証には,
カード受付部14が受け付けた会員用カードや一般用カードに対応付けられた計数値(計数部15によって計数された遊技媒体の数量)や,プリペイドカードの残度数に基づいて遊技媒体を貸し出すとともに,
貨幣受付禁止状態で,プリペイドカードの残度数がある場合において,貸出ボタンが押下された場合には,計数部15による計数値を使用して遊技媒体を貸し出す貸出部13が記載されているといえる。

(d)上記【0045】には「貸出部13は,・・・貨幣受付部12が貨幣を受け付けた場合には,現金の額に基づいて遊技媒体を貸し出す処理を行う」と記載され,上記【0048】には「計数部15は,遊技者の持ち玉(獲得玉)を計数し,計数結果を計数値としてカード受付部14へ渡す処理を行う」と記載されているから,甲1号証には,
貨幣受付部12が貨幣を受け付けた場合には,現金の額に基づいて遊技媒体を貸し出す処理を行う貸出部13と,
遊技者の持ち玉(獲得玉)を計数し,計数結果を計数値としてカード受付部14へ渡す処理を行う計数部15が記載されているといえる。

(f)上記【0080】には「台間装置10」と記載されている。

(g)上記【0029】には「管理装置が,記録媒体(カード)の識別子(カードID)と計数値とを関連付けて記憶する」と記載され,上記【0034】には「管理装置20には所定数の台間装置10が島コントローラ経由・・・で接続される」と記載されているから,甲1号証には,
所定数の台間装置10と島コントローラ経由で接続され,記録媒体(カード)の識別子(カードID)と計数値とを関連付けて記憶する管理装置20が記載されているといえる。

(h,n,p)上記【0034】には「貨幣受付制御システム1」と記載されている。

(j,k,l,o)上記【0081】には「貨幣受付禁止部17cは,持ち玉(計数値)が・・・閾値以上である場合には・・・,入金禁止状態とする」と記載され,上記【0083】には「貨幣受付禁止部17cは,・・・解除条件とは,持ち玉(計数値)が閾値・・・未満となったこと,または,係員による解除操作があったことを示す。・・・解除条件が成立した場合には・・・入金可能状態とする」と記載されているから,甲1号証には,
持ち玉(計数値)が閾値以上である場合には,入金禁止状態とし,
持ち玉(計数値)が閾値未満となったこと,または係員による解除操作があったことを示す解除条件が成立した場合には入金可能状態とする貨幣受付禁止部17cが記載されているといえる。

上記(ア)?(オ)の記載事項,および上記(a)?(p)の認定事項から,甲1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「a,b,e 計数値が記録されたり,プリペイド価値が関連付けられたりしたカードである会員用カード,一般用カード,プリペイドカードといった各種カードを受け付け,
各カードに関連付けられた計数値や残度数を貸出部13へ通知するとともに,計数値や残度数の更新処理を行うカード受付部14と,
c,m カード受付部14が受け付けた会員用カードや一般用カードに対応付けられた計数値(計数部15によって計数された遊技媒体の数量)や,プリペイドカードの残度数に基づいて遊技媒体を貸し出すとともに,
貨幣受付禁止状態で,プリペイドカードの残度数がある場合において,貸出ボタンが押下された場合には,計数部15による計数値を使用して遊技媒体を貸し出す貸出部13と,
d 貨幣受付部12が貨幣を受け付けた場合には,現金の額に基づいて遊技媒体を貸し出す処理を行う貸出部13と,
遊技者の持ち玉(獲得玉)を計数し,計数結果を計数値としてカード受付部14へ渡す処理を行う計数部15とを備える
f 台間装置10と,
g 所定数の台間装置10と島コントローラ経由で接続され,記録媒体(カード)の識別子(カードID)と計数値とを関連付けて記憶する管理装置20とからなる
h 貨幣受付制御システム1であって,
j,k,l,o 持ち玉(計数値)が閾値以上である場合には,入金禁止状態とし,
持ち玉(計数値)が閾値未満となったこと,または係員による解除操作があったことを示す解除条件が成立した場合には入金可能状態とする貨幣受付禁止部17cを有する
n,p 貨幣受付制御システム1。」

2 甲第2号証に記載された発明
特許異議申立人によって,提出された甲2号証には,図面と共に以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

「【0259】
また,前述したSb2?Sb10の待機状態において,遊技者が返却ボタンの操作を実施した場合には,遊技者による返却ボタンの操作を検知するための返却ボタンスイッチからの信号が制御ユニット328に入力されることで,制御ユニット328は,Sb5において返却ボタンの操作有りと判断してSb23に進み,返却処理を実施する。
【0260】
この返却処理においては,まず,カードリーダライタ327に受付け中の会員カード或いはビジターカードが存在するか否かを判定し,存在しない場合には,計数済玉数(持玉数)が存在する場合において,該計数済玉数(持玉数)をカード貯留部370に貯留されているビジターカードに記録して排出(発行)する発行処理を実施する。
【0261】
この発行処理において制御ユニット328は,管理コンピュータ150に対して当該カードユニット3の装置IDと発行するビジターカードのカードIDとカードテーブルに記憶されている持玉数と,モードフラグとを含む発行通知を送信する。
【0262】
この発行通知の受信に応じて管理コンピュータ150は,モードフラグに対応する記憶領域のビジター貯蓄管理テーブルにおいて,受信した発行通知に含まれるカードIDに対応して記憶されている持玉数を,受信した発行通知に含まれる持玉数に更新し,RTC104から出力されるその時点の日時を最新発行日時に格納するとともに,モードフラグに対応する記憶領域のユニット管理テーブルにおいて受信した装置IDに対応する「状況」を「待機中」に変更し,該発行通知の送信元のカードユニット3に対して更新完了通知を送信する。
【0263】
この更新完了通知の受信に応じてカードユニット3(制御ユニット328)は,カード貯留部370から所定の読み取り位置に移動させたビジターカードに,カードテーブルの持玉数とテストフラグ(テストモード中のみ)を記録した後,排出指示をカードリーダライタ327に出力して該ビジターカードをカード挿入口309から排出して発行させるともに,カードテーブルをリセットし,払出ボタン311の操作無効と計数禁止とを解除してSb2?Sb10の待機状態に戻る。」

第5 当審の判断

1 異議理由1について

(1)本件特許発明1,2と甲1発明との対比
本件特許発明1,2と甲1発明とを対比する。

(a,b)甲1発明の「計数値」,「プリペイド価値」,「残度数」は,いずれも本件特許発明1,2の「有価価値」に相当するといえる。したがって,甲1発明の「計数値が記録されたり,プリペイド価値が関連付けられたりしたカードである会員用カード,一般用カード,プリペイドカードといった各種カード」は,本件特許発明1,2の「有価価値を特定可能な情報を記憶可能な記憶媒体」に相当する。
また,甲1発明のカード受付部14において「各カードに関連付けられた計数値や残度数を貸出部13へ通知する」のであるから,甲1発明のカード受付部14は,各カードに関連付けられた計数値や残度数を特定する機能を有するといえる。
してみると,甲1発明の「計数値が記録されたり,プリペイド価値が関連付けられたりしたカードである会員用カード,一般用カード,プリペイドカードといった各種カードを受け付け,
各カードに関連付けられた計数値や残度数を貸出部13へ通知するとともに,計数値や残度数の更新処理を行うカード受付部14」は,
本件特許発明1,2の「有価価値を特定可能な情報を記憶可能な記憶媒体を処理する記憶媒体処理手段と,
前記記憶媒体処理手段によって処理された記憶媒体に係る有価価値を特定する有価価値特定手段」に相当するといえる。

(c)甲1発明の貸出部13において「カード受付部14が受け付けた会員用カードや一般用カードに対応付けられた計数値(計数部15によって計数された遊技媒体の数量)や,プリペイドカードの残度数に基づいて遊技媒体を貸し出す」ことは,計数値や残度数という有価価値を減算し,遊技媒体を貸し出すという処理であるので,本件特許発明1,2の「有価価値を減算して遊技をなす為の処理」に相当するといえる。
してみると,甲1発明の「カード受付部14が受け付けた会員用カードや一般用カードに対応付けられた計数値(計数部15によって計数された遊技媒体の数量)や,プリペイドカードの残度数に基づいて遊技媒体を貸し出す貸出部13」は,
本件特許発明1,2の「前記有価価値を減算して遊技をなす為の処理を行う有価価値減算手段」に相当するといえる。

(d)甲1発明の「貨幣受付部12が貨幣を受け付け」ること,および「遊技者の持ち玉(獲得玉)を計数」することは,それぞれ,本件特許発明の「入金」,「遊技媒体の計数」に相当する。
また,甲1発明の「遊技媒体を貸し出す」ことも,「計数結果を計数値としてカード受付部14に渡す処理」も,本件特許発明1,2の「有価価値を付与すること」に相当するといえる。
してみると,甲1発明の「貨幣受付部12が貨幣を受け付けた場合には,現金の額に基づいて遊技媒体を貸し出す処理を行う貸出部13と,
遊技者の持ち玉(獲得玉)を計数し,計数結果を計数値としてカード受付部14へ渡す処理を行う計数部15」は,
本件特許発明1,2の「入金または遊技媒体の計数によって有価価値を付与する有価価値付与手段」に相当するといえる。

(e)甲1発明のdの計数部15において「遊技者の持ち玉(獲得玉)を計数し」た「計数結果」は,本件特許発明1,2の「前記有価価値付与手段によって付与された有価価値」に相当するといえる。
また,甲1発明において,上記「遊技者の持ち玉(獲得玉)を計数し」た「計数結果」は「計数値としてカード受付部14に渡」され,カード受付部14において「各カードに関連付けられた計数値や残度数を貸出部13へ通知するとともに,計数値や残度数の更新処理を行う」のであるから,甲1発明のカード受付部14は,
本件特許発明1,2の「前記有価価値付与手段によって付与された有価価値を前記有価価値に加算更新する有価価値加算更新手段」に相当する。

(f)甲1発明の「台間装置10」は,本件特許発明1,2の「遊技用装置」に相当する。

(g)甲1発明の「記録媒体(カード)の識別子(カードID)と計数値とを関連付けて記憶する」ことは,本件特許発明1,2の「前記記憶媒体の有価価値を記憶管理」を行うことに相当する。また,甲1発明の「所定数の台間装置10と島コントローラ経由で接続され」ていることは,本件特許発明1,2の「前記遊技用装置と通信可能に接続され」ていることに相当するといえる。
してみると,甲1発明の「所定数の台間装置10と島コントローラ経由で接続され,記録媒体(カード)の識別子(カードID)と計数値とを関連付けて記憶する管理装置20」は,本件特許発明1,2の「前記記憶媒体の有価価値を記憶管理し,前記遊技用装置と通信可能に接続される管理装置」に相当するといえる。

(h)甲1発明の「貨幣受付制御システム1」は,本件特許発明の「遊技用システム」に相当するといえる。

(j)甲1発明の貨幣受付禁止部17cは「持ち玉(計数値)が閾値以上である場合には,入金禁止状態」とするのであるから,
甲1発明の貨幣受付禁止部17cと本件特許発明1,2の「前記第1の操作に基づいて,入金の受け付けを禁止する入金受付禁止手段」とは「入金の受け付けを禁止する」機能を有する点で共通している。

(k,l)甲1発明の貨幣受付禁止部17cは「持ち玉(計数値)が閾値未満となったこと,または係員による解除操作があったことを示す解除条件が成立した場合には入金可能状態とする」のであるから,
甲1発明の貨幣受付禁止部17cと本件特許発明1,2の「前記第1の操作後,入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作に基づいて,入金の受け付けが可能となる入金受付禁止解除手段」とは,
「入金の受け付け禁止を解除するための」「操作に基づいて,入金の受け付けが可能となる」機能を有する点で共通している。

(m)甲1発明の「貨幣受付禁止状態」は,本件特許発明1,2の「入金受付禁止手段により入金の受け付けを禁止している時」に相当する。また,上記(c)において既に検討したとおり甲1発明の「貸出部13」は,本件特許発明1,2の「有価価値減算手段」に相当するといえる。
してみると,本件特許発明1,2の「カード受付部14が受け付けた会員用カードや一般用カードに対応付けられた計数値(計数部15によって計数された遊技媒体の数量)や,プリペイドカードの残度数に基づいて遊技媒体を貸し出すとともに,
貨幣受付禁止状態で,プリペイドカードの残度数がある場合において,貸出ボタンが押下された場合には,計数部15による計数値を使用して遊技媒体を貸し出す貸出部13」は,
本件特許発明1,2の「前記第1の操作に基づいて,前記入金受付禁止手段により入金の受け付けを禁止している時に前記有価価値減算手段により有価価値を減算して遊技をなす為の処理を行う」機能を有するといえる。

(n,p)甲1発明の「貨幣受付制御システム1」は,本件特許発明1,2の「遊技用システム」に相当する。

上記(a)?(p)の対比により,本件特許発明1,2と甲1発明とは,
「A 有価価値を特定可能な情報を記憶可能な記憶媒体を処理する記憶媒体処理手段と,

B 前記記憶媒体処理手段によって処理された記憶媒体に係る有価価値を特定する有価価値特定手段と,

C 前記有価価値を減算して遊技をなす為の処理を行う有価価値減算手段と,

D 入金または遊技媒体の計数によって有価価値を付与する有価価値付与手段と,

E 前記有価価値付与手段によって付与された有価価値を前記有価価値に加算更新する有価価値加算更新手段と,

F を備えた遊技用装置と,

G 前記記憶媒体の有価価値を記憶管理し,前記遊技用装置と通信可能に接続される管理装置と,

H からなる遊技用システムであって,

J’入金の受け付けを禁止する入金受付禁止手段と,

K’入金の受け付け禁止を解除する為の操作に基づいて,入金の受け付けが可能となる入金受付禁止解除手段と,

L を備え,

M 前記入金受付禁止手段により入金の受け付けを禁止している時に前記有価価値減算手段により有価価値を減算して遊技をなす為の処理を行うことが可能なこと

N を特徴とする遊技用システム。」
である点で一致し,少なくとも以下の点で相違する。

[相違点1](構成I,J)
本件特許発明1,2においては「前記遊技用装置に係る所定の遊技客により行われる第1の操作を受け付ける操作受付手段」を有し,「入金受付禁止手段」は第1の操作に基づいて入金を禁止するのに対し,
甲1発明においては,遊技客により行われる操作に基づいて入金を禁止するものではない点。

[相違点2](構成K)
本件特許発明1,2においては「前記第1の操作後,入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作に基づいて,入金の受け付けが可能となる入金受付禁止解除手段」を有するのに対し,
甲1発明は入金の受付禁止解除手段を有するものの,「入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作」に基づいて,入金の受け付けを可能とするものではない点。

(2)判断
まず,本件特許発明1,2が,特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するか否か検討する。

上記のとおり,本件特許発明1,2と,甲1発明とは,少なくとも相違点1,2において相違するので,本件特許発明1,2は,甲1号証に記載された発明ではない。

次に,本件特許発明1,2が,特許法第29条第2項の規定に違反するか否か検討する。

まず,上記相違点1について検討する。
甲1号証,甲2号証のいずれにも,遊技客により行われる操作に基づいて入金を禁止するという事項は,記載も示唆もされていない。

そして,上記のとおり特許異議申立人は,相違点1に関し「入金の受け付けを禁止させる第1の操作として,本件特許発明2に記載される様々な操作のうちのいずれか1つまたは複数の操作を用いることは単なる設計的事項に過ぎない」と主張している。
しかしながら,甲1発明の「持ち玉(計数値)が閾値以上である場合には,入金禁止状態」とする貨幣受付禁止部17cは,
甲第1号証の上記【0030】に記載される「従来,このような計数機能を備えた台間装置を使用する場合,遊技者が持ち玉(獲得玉)を保持していても,貨幣を受け付けて遊技媒体の貸し出しを行っていた。しかし,遊技者が持ち玉を保持している場合には,現金で遊技媒体を借りる必要はない。」という課題を解決するための構成である。
そして,遊技機の技術分野において,遊技者により行われる操作に基づいて入金を禁止するという事項により上記課題の解決が行われるということが技術常識であるとも認められない。してみると,甲1発明から出発して,一定の課題解決のための設計変更を行って,上記相違点1に係る本件特許発明1,2の構成に到達し得たともいえない。
してみると,特許異議申立人の異議理由1に係る上記主張は採用できない。

(3)異議理由1についての判断のまとめ
よって,本件特許発明1,2は,甲1号証に記載された発明ではないので,特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

また,本件特許発明1,2は,甲1発明及び甲2号証に記載された事項から,当業者が容易に発明できたものではないので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。


2 異議理由2について
本件特許発明1,2には「入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作」があったときに,記憶媒体の返却が行われるとの特定もなく,記憶媒体の返却が行われないとの特定もない。

しかしながら,本件特許発明1,2の「入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作に基づいて,入金の受け付けが可能となる入金受付禁止解除手段」という特定事項においては,「入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作」に基づいて「入金の受け付けが可能となる」という「入金受付禁止解除手段」の機能または作用が明確に把握できるといえる。

してみると,本件特許発明1,2において,「入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作」があったときに,記憶媒体の返却が行われるか否かの特定がないからといって,「入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作に基づいて,入金の受け付けが可能となる入金受付禁止解除手段」という特定事項が不明確になるとはいえない。

また,本件特許発明1,2においては,記憶媒体の返却に関する他の特定事項もないので,本件特許発明1,2において「入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作」があったときに,記憶媒体の返却が行われるか否かの特定がないからといって,本件特許発明1,2が不明確となるとはいえない。

よって,本件特許発明1,2は,発明が不明確であるとはいえないので,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

3 異議理由3について
本件特許発明1,2においては,「入金の受け付け禁止を解除する為の記憶媒体の返却ボタン押圧の操作」によって,記憶媒体が返却されるか否か特定されていない。してみると,本件特許発明1,2においては,当該返却ボタン押圧の操作により,記憶媒体が返却される態様も,返却されない態様も含むといえる。

それに対して,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明1,2の実施例として「【0069】
会員用ICカード30または非会員用ICカード31の情報が,リーダライタ部203で読み取られる。会員用ICカード30が用いられた場合には,遊技終了後,台間機3,4,6の返却ボタン3d,4d,6dが押されると,最新の情報がリーダライタ部203によって会員用ICカード30に書き込まれ,カード挿入口202から返却(カード挿入口202へ返送)される。なお,会員用ICカード30が用いられた場合には,度数残高がゼロでもカード挿入口202から返却(カード挿入口202へ返送)される(図13)。
【0070】
非会員用ICカード31が用いられた場合には,遊技終了後,台間機3,4,6の返却ボタン3d,4d,6dが押され,度数残高を有すれば,最新の情報がリーダライタ部203によって非会員用ICカード31に書き込まれ,カード挿入口202から返却(カード挿入口202へ返送)される(図13)。
【0071】
一方,度数残高がゼロのときには,搬送ベルト214を再度作動し,非会員用ICカード31は,カード貯留部204に対向する位置まで搬送される(図14)。ここで,カード貯留部204の限界検知部231によって検知されずに,非会員用ICカード31の貯留量に余裕があれば,非会員用ICカード31は,カード貯留部204に貯留される。」
と記載されている。

上記記載においては,会員用ICカード30が用いられた場合には,返却ボタンが押されると,当該会員用ICカード30は返却されることが記載されているといえるし,
非会員用ICカード31を用いられた場合であって当該カードに度数残高を有しないときに,返却ボタンが押された場合には,当該カードを返却しないことについても記載または示唆されているといえる。

してみると,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明1,2の当該返却ボタン押圧の操作により,記憶媒体が返却される態様及び返却されない態様のいずれもが記載または示唆されているといえるので,
本件特許明細書の発明の詳細な説明は,本件特許発明1,2について,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえ,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

なお,特許異議申立人は,返却ボタン押圧が操作されたときに記憶媒体が返却されない態様について本件特許明細書には何ら記載がないと主張しているが,上記のとおり,返却ボタン押圧が操作されたときに記憶媒体が返却されない態様については,本件特許明細書の【0069】?【0071】に記載または示唆されているので,当該主張は採用できない。

4 異議理由4について
本件特許発明1,2の課題について,本件特許明細書の発明の詳細な説明には
「【0005】
本発明の遊技用装置,及び遊技システムは,上記問題に鑑みてなされたものであり,離席した前の客の有価価値と後から入金した客の有価価値を混同することを極力防止可能な遊技用装置,及び遊技システムを提供することを目的とする。」と記載されている。

そして,上記「3 異議理由3について」に示したとおり,本件特許発明1,2の実施例として,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明1,2の当該返却ボタン押圧の操作により,記憶媒体が返却される態様及び返却されない態様のいずれもが記載または示唆されている

してみると,本件特許発明1,2が含む返却ボタン押圧の操作により,記憶媒体が返却される態様と返却されない態様のいずれについても,上記本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0005】に記載された「離席した前の客の有価価値と後から入金した客の有価価値を混同する」という課題を解決できるとともに,上記両態様について本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載または示唆されたものといえる。

してみると,本件特許発明1,2は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえるので,本件特許発明1,2について,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

第6 むすび
以上のことから,特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては,本件特許発明1,2に係る特許を取り消すことはできない。

また,他に本件特許発明1,2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-26 
出願番号 特願2014-259448(P2014-259448)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A63F)
P 1 651・ 536- Y (A63F)
P 1 651・ 113- Y (A63F)
P 1 651・ 537- Y (A63F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 寺田 祥子尾崎 俊彦上田 正樹  
特許庁審判長 瀬津 太朗
特許庁審判官 後藤 順也
蔵野 いづみ
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6140138号(P6140138)
権利者 株式会社マースエンジニアリング
発明の名称 遊技用システム  
代理人 安原 正義  
代理人 鷺 健志  
代理人 大澤 健一  

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