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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A41B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A41B
管理番号 1337079
異議申立番号 異議2017-700640  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-21 
確定日 2018-02-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6049222号発明「吸収性物品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6049222号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6049222号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年3月30日を出願日とする出願であって、平成28年12月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1?3に係る特許について、特許異議申立人村戸良至(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年8月8日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年10月10日に意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
伸縮方向に伸縮可能な伸縮領域を備えた吸収性物品において、
前記伸縮領域は、不織布からなる第1シート層と、不織布からなる第2シート層との間に弾性フィルムが積層されてなるとともに、前記第1シート層及び第2シート層が、前記伸縮方向及びこれと直交する方向にそれぞれ間隔を空けて配列された多数の接合部で、前記弾性フィルムに形成された貫通孔を通じて接合されており、
前記伸縮領域は、前記伸縮方向と直交する方向に連続的に変化する前記伸縮方向の弾性限界伸びを有している、
ことを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前身頃及び後身頃を構成する外装体と、この外装体の内面に固定された、吸収体を含む内装体とを備え、前身頃における外装体の両側部と後身頃における外装体の両側部とがそれぞれ接合されてサイドシール部が形成されることにより、胴周り領域が環状に形成されるとともに、ウエスト開口及び左右一対の脚開口が形成された、パンツタイプ使い捨ておむつであって、
前記前身頃の外装体及び前記後身頃の外装体の少なくとも一方は、少なくともウエスト部を含む胴周り領域に、幅方向に伸縮する前記伸縮領域を有しており、
前記伸縮領域は、股間側からウエスト開口側に向かって連続的に増加する幅方向の弾性限界伸びを有している、
請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記伸縮領域における前記接合部の面積は0.14?3.5mm^(2)であり、
自然長状態における前記貫通孔の開口の面積は、前記接合部の面積の1?1.5倍であり、
前記伸縮領域における前記接合部の面積率は1.8?22.5%であり、
前記伸縮領域は、前記接合部が同一のパターンで配列された領域であり、
前記伸縮領域における最も弾性限界伸びが高い部分は最も弾性限界伸びが低い部分の1.1?1.5倍である、
請求項1又は2記載の吸収性物品。」

第3 取消理由の概要
本件発明1?3のそれぞれに係る特許に対して、平成29年8月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。
以下、本件特許異議申立書に添付された甲第1号証を、「甲1」といい、甲1に記載された発明及び事項を、「甲1発明」及び「甲1事項」という。
なお、当該取消理由には、全ての申立理由が含まれている。

1.取消理由1
本件発明1及び2は、甲1発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第113条第2号の規定に該当する。

2.取消理由2
本件発明1?3は、甲1発明に基いて、もしくは、甲1発明及びパンツタイプ使い捨ておむつについての従来周知の事項(本件特許異議申立書23ページ5?14行)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第113条第2号の規定に該当する。

<刊 行 物 等 一 覧>
甲1:特表2004-532758号公報

第4 当審の判断
1.取消理由1(特許法第29条第1項第3号)

(1)甲1事項及び甲1発明
甲1には、段落【0003】、【0023】、【0025】、【0029】、【0039】、【0056】、【0069】、【0071】?【0079】、【0083】、【0084】、【図1】、【図2】、【図12】、【図13】の記載があり、当該記載から、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認める。

甲1発明
「MD方向に伸縮可能な領域を備えた吸収物品において
前記領域は、不織布からなる第1の外層20と、不織布からなる第2の外層40との間に例えばポリエステルエラストマーフィルムである弾性層30が積層されているとともに、前記第1の外層20及び第2の外層40が、前記MD方向及びこれと直交するCD方向にそれぞれ間隔を空けて配列された多数の誘拐結合部位50で、前記弾性層30に形成された孔を通じて接合されており、
前記領域は、前記伸縮方向と直交する方向に伸縮する弾性を有している吸収物品。」

(2)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で一応相違する。

<相違点>
本件発明1の伸縮領域は、伸縮方向と直交する方向に連続的に変化する前記伸縮方向の弾性限界伸びを有するものであるのに対し、甲1発明の領域は、伸縮方向と直交する方向に伸縮する弾性を有しているものの、伸縮方向と直交する方向に連続的に変化する伸縮方向の弾性限界伸びを有するものであるかは不明である点。

(3)相違点についての検討
まず、本件発明1の「弾性限界伸び」について検討する。
本件特許明細書には、「弾性限界伸び」について、
「・・・「弾性限界伸び」とは、弾性限界(換言すれば第1シート層及び第2シート層が完全に展開した状態)における伸びを意味し、弾性限界時の長さを自然長を100%としたときの百分率で表すものである。」(段落【0013】)
との記載があり、さらに、「第1シート層及び第2シート層が完全に展開した状態」について、
「本発明の伸縮領域では、弾性フィルムの自然長状態では、接合部間において弾性フィルムが収縮するのに伴い、接合部の間隔が狭くなり、第1シート層及び第2シート層における接合部間に伸縮方向と交差する方向に延びる収縮皺が形成される。反対に伸長時には、接合部間において弾性フィルムが伸長するのに伴い、接合部の間隔及び第1シート層及び第2シート層における収縮皺が広がり、第1シート層及び第2シート層の完全展開状態まで弾性伸長が可能となる。・・・」(段落【0009】)
「伸縮領域80では、図3(d)に示すように、弾性フィルム30の自然長状態では、接合部間の第1シート層20A及び第2シート層20Bが互いに離間する方向に膨らんで、伸縮方向と交差する方向に延びる収縮皺25が形成され、図3(c)に示すように、幅方向にある程度伸長した装着状態でも、収縮皺25は伸ばされるものの、残るようになっている。また、図示形態のように、第1シート層20A及び第2シート層20Bは、少なくとも接合部40における第1シート層20A及び第2シート層20B間以外では弾性フィルム30と接合されていないと、装着状態を想定した図3(c)及び第1シート層20A及び第2シート層20Bの完全展開状態を想定した図3(a)(b)からも分かるように、これらの状態では、弾性フィルム30における接合部の貫通孔31と、接合部40との間に隙間が形成され、弾性フィルム30の素材が無孔のフィルムやシートであっても、この隙間により通気性が付加される。・・・」(段落【0032】)
との記載がある。
以上の記載から、本件発明1の弾性限界伸びとは、吸収性物品において、第1シート層及び第2シート層が互いに離間する方向に膨らんで形成された収縮皺が伸び切ったときの伸縮領域の長さを、自然長を100%としたときの、百分率で表したものである。

一方、甲1には、
「【0054】
(製造方法)
図9に関し、本発明の積層ウェブを製造する方法が100に概略的に描かれている。
【0055】
比較的伸張性のウェブであり得る第1のウェブ120は、供給ロール104が矢印の指す方向に回転すると、供給ロール104から供給されて、矢印の指す方向に動く。同様に第2のウェブ140は、比較的伸張性のウェブであり得、供給ロール105から供給される。弾性層130は供給ロール107から同様に供給される。この3つ(又は、1つ越の中心層を用いる場合は、3つ以上)の構成成分が、ローラー110と112で形成される熱点結合ローラー装置108のニップ106を通過する。
【0056】
弾性層130がニップ106を通過する前に、当該技術分野において既知の積み重ねたS字状ローラー装置135によって、弾性層130を予め定められた長さに伸張させる。S字状ローラー装置135のせいでウェブ130の直線速度が遅くなるため、ウェブ130は以下に記載する接着ローラー装置108などのその他のライン構成部に引っ張られて必然的に伸張する。弾性層130を伸張させるためには、当該技術分野において既知のいずれの方法を使用してもよい。一般に、弾性層130がニップ106に入るとき、少なくとも約10%以上、あるいは約50?約150%伸長していることが望ましい。」
「【0073】
ウェブ全体に渡って均一に孔を形成する方法の1つは、少なくともある程度相補的な3次元表面を有する、相対する加圧装置134と136を用いる伸張増加システム132によって形成されるローラーニップ130にウェブを通過させることである。積層ウェブの伸長は、テンターリング又は手動などのその他の既知の方法によって行ってもよい。しかし、ウェブ全体に渡って均一な引張レベルを達成するには、特に局所的に引張レベルの差をつけたい場合には、本明細書で開示する伸長増加システムが好ましい。
【0074】
図12では、増加性ストレッチローラー134及び136を含む伸長増加システム132の断片的拡大図が示される。伸長増加ストレッチローラー134は、ローラー134全体に広がる複数の歯160及び歯に対応する溝161を含む。伸張増加ローラー136は、複数の歯162及び歯に対応する複数の溝163を含む。ローラー134上の歯160は、ローラー136上の溝163と噛み合い又は係合し、一方ローラー136上の歯162は、ローラー134上の溝161と噛み合い又は係合する。図13に示すように、各ローラーの歯は、三角形の形状である。完成したウェブに特定の効果が必要な場合には、歯の失端はやや丸くてもよい。」
との記載がある。
上記「S字状ローラー装置135のせいでウェブ130の直線速度が遅くなるため、ウェブ130は以下に記載する接着ローラー装置108などのその他のライン構成部に引っ張られて必然的に伸張する。」との記載から当該伸張は、ウェブ130が送られるMD方向であることが理解できる。そして、当該伸張を、S字ローラー装置135、弾性層(ウェブ)130の送り方向と垂直な弾性層(ウェブ)130の幅方向で変化させる旨の記載はないし、示唆する記載もない。そうすると、甲1発明の積層ウェブは、熱点結合ローラ-装置108のニップ106により加熱されることで、弾性層(ウェブ)130の伸張について幅方向で変化することなく結合されることが理解できる。そして、下流にある伸張増加システム132の伸張増加ストレッチローラ134及び136に備えられた歯162と当該歯162に対応する溝161による孔を形成する過程で、弾性層(ウェブ)130の伸張が幅方向で変化することがあったとしても、伸張増加システム132の通過後は、当該変化は弾性層(ウェブ)が備える弾性によって解消すると理解できるから、甲1発明の領域は、上記相違点に係る特定事項である、伸縮方向と直交する方向に連続的に変化する伸縮方向の弾性限界伸びを有するものであるとはいえない。
一方、本件発明1は、上記相違点に係る構成を備えることで、「・・・伸縮領域は、伸縮方向と直交する方向に連続的に変化する伸縮方向の弾性限界伸びを有しているため、弾性フィルムによる伸縮領域でありながら、伸縮方向と直交する方向の部位に応じて伸縮性が変化し、より好ましいフィット性を得ることができる。」(本件特許明細書 段落【0009】)との格別な作用効果を奏するものである。

したがって、上記相違点は、形式的な相違点ではなく実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明ではない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものであるとはいえない。

(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、その特定事項の全てを包含し、さらに限定された発明である。
そうすると、上記(2)に示したとおり、本件発明1は、甲1発明ではないから、本件発明1の特定事項の全てを包含し、さらに限定された本件発明2も、甲1発明ではない。
よって、本件発明2は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものであるとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1及び2は、いずれも甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当する発明ではないから、その特許は特許法第113条第2項の規定に該当するとはいえない。

2.取消理由2(特許法第29条第2項)

(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1は、上記第2に示したとおりである。そして、甲1には、上記1.(1)に示した甲1発明が記載されているから、本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記1.(2)に示した<相違点>において、少なくとも相違する。

(2)相違点についての検討
上記1.(2)に示したように、甲1発明は、伸張増加システム132の上流で第1のウェブ120、第2のウェブ140及び弾性層(ウェブ)130が、熱点結合ローラー装置108のニップ106によって、すでに結合されるものであるから、さらに下流側の伸張増加システム132による伸張により当該伸張が幅方向で変化することがあったとしても、弾性層130による弾性によって、伸張増加システムシステム132の通過後は、吸収性物品自体には伸縮方向と直交する方向に連続的に変化する伸縮方向の弾性限界伸びが生じるとは解されない。
また、他に吸収物品において、上記相違点に係る構成を備えたことを示す、あるいは示唆する証拠もない。
本件発明1は、上記相違点に係る構成を備えることで、上記1.(2)に示した格別な作用効果を奏するから、本件発明1は、甲1発明及び上記第3の2.に示したパンツタイプ使い捨ておむつについての従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。

(3)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、直接あるいは間接に本件発明1を引用し、その特定事項の全てを包含し、さらに限定された発明である。そうすると、上記(2)に示したとおり、本件発明1は、甲1発明及び上記第3の2.に示したパンツタイプ使い捨ておむつについての従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項の全てを包含し、さらに限定された本件発明2及び3も、甲1発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?3は、いずれも甲1発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、それらの特許は特許法第113条第2項の規定に該当するとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?3に係る特許については、上記取消理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-24 
出願番号 特願2015-70293(P2015-70293)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (A41B)
P 1 652・ 121- Y (A41B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 笹木 俊男  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 渡邊 豊英
久保 克彦
登録日 2016-12-02 
登録番号 特許第6049222号(P6049222)
権利者 大王製紙株式会社
発明の名称 吸収性物品及びその製造方法  
代理人 永井 義久  

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