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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B21B
管理番号 1337080
異議申立番号 異議2017-700719  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-25 
確定日 2018-02-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6065087号発明「熱延鋼板の製造方法、熱延鋼板の製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6065087号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6065087号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成24年7月9日に出願された特願2012-153949号の一部を、平成27年11月4日に新たに特許出願したものであって、平成29年1月6日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人石川宗利(以下「特許異議申立人」という)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年11月20日付けで取消理由を通知し、平成30年1月18日付けで意見書が提出されたものである。

2.本件発明
特許第6065087号の請求項1?3に係る特許は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
熱間仕上げ圧延機列により仕上げ圧延をする工程を含む熱延鋼板の製造方法であって、
前記熱間仕上げ圧延機列に備えられる圧延機のうち後段の圧延機の少なくとも1つの圧延機のワークロールは、その直径が600mm以下であるとともに、表面の弾性係数が300GPa以上である超硬合金を具備して形成され、前記ワークロールの表面粗さがRaで0.3μm以上2.0μm以下であり、
前記ワークロールに外周を接触させるように配置されるバックアップロールは直径1350mm以上であり、
前記ワークロールを具備する圧延機による圧下率を25%以上とし、前記ワークロールに潤滑剤を供給することなく圧延することを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの圧延機には前記仕上げ圧延機列の最終の圧延機が含まれることを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項3】
複数の圧延機を具備する熱間仕上げ圧延機列を有し、
前記複数の圧延機は、被圧延材を圧延するワークロールと、前記ワークロールに外周を接触させるように配置される直径1350mm以上のバックアップロールと、を備え、
前記複数の圧延機のうち後段の少なくとも1つの圧延機のワークロールは、外殻に超硬合金を具備して構成され、該ワークロールの表面の弾性係数が300GPa以上であり、その直径が600mm以下であるとともに、表面粗さがRaで0.3μm以上2.0μm以下である熱延鋼板の製造装置。」
(以下「本件発明1」?「本件発明3」という)

3.取消理由の概要
当審において、請求項1?3に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、特許異議申立人が提出した以下の甲第1?6号証のうちの甲第1?3、5号証により、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、というものである。
甲第1号証:社団法人 日本鉄鋼協会編、「わが国における最近のホットストリップ製造技術」、社団法人 日本鉄鋼協会、昭和62年8月10日、p.143-149、188、306
甲第2号証:特開2009-214115号公報
甲第3号証:特開2001-321804号公報
甲第4号証:特開2006-289391号公報
甲第5号証:小坂田宏造、「超硬合金の特徴と今後の方向性」、SOKEIZAI、Vol.52(2011年)、No.10、p.2-6
甲第6号証:鈴木弘、「圧延百話 -圧延の疑問と基本常識-」、株式会社 養賢堂、2001年5月10日、p.435-441

4.甲各号証の記載
(1)甲第1号証
本件特許出願の遡及日前に頒布された甲第1号証には、ホットストリップ製造技術について、次の事項が記載されている。
ア 「ホットストリップ製造技術」(書名)
イ 「熱延用ロールは、・・・熱間圧延油も使用され」(143ページ右欄下から13行及び下から2行)
ウ 「(イ) ワークロール・・・仕上後段ロール(FHW)は圧延の最終段階で使用され製品品質に直接影響を及ぼすため,耐摩耗性,耐肌あれ性が特に重要とされる。材質は中抜高合金グレンロールから,緻密で高度低下の少ない遠心鋳造高合金グレンロールに変わり、現在ではほとんどのミルでこの材質のロールが使われている。」(145ページ24行-146ページ左欄3行)
エ 「バックアップロール(RB,FB,FHB)」(146ページ左欄6行)
オ 146ページの図3.2.11に、熱延技術として「ミルライン」が記載されている。
カ 148ページの表3.2.13に、「高合金グレンロール」の「弾性係数(kgf/mm^(2))」の値が「19,000」であることが記載されている。
キ 306ページの「(ロール諸元)」の表には、「新日鉄八幡」の欄に、「FHW ロ-ルスタンド (F4?F6)」について、「胴径 605mm」「有効径 80mm」であること、「FB ロールスタンド (F4?F6)」について、「胴径 1,430mm」「有効径 160mm」であることが、それぞれ記載されている。

上記摘記事項ア?キからみて、甲第1号証には以下の2発明が記載されていると認められる。
甲1発明1:「ミルラインによるホットストリップ製造方法であって、熱延用ワークロールの仕上後段ロール(FHW)は、胴径605mm及び有効径80mmであるとともに、弾性係数が19,000kgf/mm^(2)である高合金グレン製であり、バックアップロールは胴径1430mm及び有効径160mmであり、前記ワークロールに熱間圧延油を使用するホットストリップ製造方法。」
甲1発明2:「ミルラインを有し、熱延用ワークロールと、胴径1430mm及び有効径160mmのバックアップロールと、を備え、前記熱延用ワークロールの仕上げ後段ロール(FHW)は、高合金グレン製であり、該ワークロールの弾性係数が19,000kgf/mm^(2)であり、その胴径605mm及び有効径80mmであるホットストリップ製造設備。」

(2)甲第2号証
本件特許出願の遡及日前に頒布された甲第2号証には、「仕上げ圧延機におけるクラウン・エッジドロップ制御圧延機および圧延方法」について、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、熱延鋼板のクラウン・エッジドロップをサイクル全体にわたり小さくすることが可能な仕上げ圧延機におけるクラウン・エッジドロップ制御圧延機および圧延方法に関する。」
イ 「【0013】
なお、バレル表面の算術平均粗さ0.5μm未満では、超硬合金材料のバインダーであるCoとNiと、被圧延材との接触が主体的となるため、摩擦係数が急に低下すると推定される。一方、算術平均粗さ2.0μm以上では超硬合金材料のWC粒子が過度に表面に突出するため、摩擦係数が急増すると推定される。
そこで、本発明に用いる上下のワークロールWは、そのバレル表面の算術平均粗さを0.5μm以上2.0μm以下と限定した。このように、バレル表面の粗さを限定したことで前掲した課題(1)が解決できる。
【0014】
(その他のラボ実験条件)
ワークロールの直径=200mm、バレル長=200mm。被圧延材Sの鋼種=低炭素鋼、被圧延材Sの圧延前板厚=10mm、幅=150mm、長さ=500mm。加熱温度=1000℃×20分、圧下率=30%。・・・」
ウ 「【実施例1】
【0018】
(本発明例)
図4に示した7スタンドからなる仕上げ圧延機を用い、1サイクル=120本の被圧延材Sを仕上げ圧延機の出側圧延速度=800?1400m/分で圧延した。
圧延部外層が超硬合金スリーブからなるロールの構造:図2(b)。有効テーパ長EL=50?100mm、上下のワークロールWの端部に設けた先細り部のテーパ勾配=1mm/200mm、上下のワークロールWのバレル表面の算術平均粗さ=1.2μm。
【0019】
被圧延材S:鋼種=熱延鋼板、仕上げ板厚=1.2?5mm、板幅=1000?1600mm、1本当りの被圧延材Sの重量=24?30トン。仕上げ圧延機のロール寸法:ワークロール直径=650mm、バレル長=2050mm、バックアップロール直径=1600mm。・・・」
エ 図4からは、仕上げ圧延機が、被圧延材Sを上下から圧延するワークロールWと、前記ワークロールWに外周を接触させるように配置されるバックアップロールと、を備えている構成が見て取れる。


(3)甲第3号証
本件特許出願の遡及日前に頒布された甲第3号証には、「鋼の熱間圧延方法」について、次の事項が記載されている。
ア 「本発明では、仕上圧延機の少なくとも1スタンドのワークロールに圧延部表層が超硬合金からなるロール(超硬合金ロールという)を用いる。これにより、熱間圧延後の鋼板表面に焼付による肌荒れが生じなくなる。また、かかるロールをワークロールに用いたスタンドでは、圧延油の供給なしでもワークロールの摩耗進行が抑制される。」(2ページ右欄27-33行)
イ 「図2は、本発明の実施に適した熱間圧延ラインの例を示す配置図である。ライン上流側から順に、加熱炉22、幅圧下装置23、粗圧延機21、仕上圧延機20、冷却装置24、巻取装置25が配置されている。この例では、粗圧延機23はR1,R2,R3の3スタンドで構成され、仕上圧延機20はF1,F2,…,F7 の7スタンドで構成されている。超硬合金ロールの適用スタンドは、スケール量がより多くなる後段側のスタンドとするのが望ましい。」(3ページ左欄12-20行)
ウ 「仕上圧延機ワークロール圧延部寸法は外径900mm φ×幅2000mmW 、粗圧延パス数は7(=R1x3+R2x3+R1x1) である。超硬合金ロール(表1の「超硬」)は図1(a)の構造を有し、超硬合金接合スリーブは、タングステンカーバイド(WC)にCoを20mass% 添加したものを素材としてラバー成形により形成した厚さ150mmt×幅400mmLのWC-Co 合金中空部材を幅方向に5個HIP接合して製作された。この製作品を鋼製軸心に嵌合して超硬合金ロールを得た。」(3ページ右欄8-17行)

(4)甲第5号証
本件特許出願の遡及日前に頒布された甲第5号証には、「超硬合金の特徴と今後の方向性」について、次の事項が記載されている。
ア 「WC-Co系の超硬合金の縦弾性係数もWCとCoの体積比によって決定される。図3はCo(重量%)と縦弾性係数の関係であるが、Co量増加とともに弾性係数は低下する。塑性加工用パンチなどに使われる8%のCoと歯形金型などに使われる20%のCoの縦弾性係数は各々60,000kgf/mm^(2)と50,000kgf/mm^(2)程度で、鋼の2?3倍である。」(3ページ右欄20行-4ページ左欄5行)
イ 「3.超硬合金の冷間鍛造への応用
(1)超硬合金工具の製造
・・・
(2)冷間鍛造における超硬合金の利用
・・・
4.超硬合金の今後の方向
・・・
(1)高温加工用超硬合金
1,000℃以上で行われる熱間加工では・・・例えば、エンジンバルブの鍛造では、フランジ部を数mmの厚さまで据込むが、このとき素材温度の低下が大きいが、高温の型の使用や熱伝導率の低い工具であれば、温度低下を防いで、加工限界を向上できるものと思われる。
(2)コーティング
・・・こうしたコーティングを高温の塑性加工用工具に適用できると、塑性加用超硬合金の適用範囲を広げる可能性がある。
(3)金型構造
超硬合金の工具はインサートとして用い、その外側を鋼製の補強リングで締め付けて破壊を防ぐのが通常の考え方である。」(5ページ?6ページ)

5.判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由(甲第1号証を主引用例とした特許法第29条第2項)について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「ミルラインによるホットストリップ製造方法」は、甲第1号証の188ページの(ミルレイアウト)の図からも了解されるように、本件発明1の「熱間仕上げ圧延機列により仕上げ圧延をする工程を含む熱延鋼板の製造方法」に相当する。
甲1発明1の「熱延用ワークロールの仕上後段ロール(FHW)」が、本件発明1の「前記熱間仕上げ圧延機列に備えられる圧延機のうち後段の圧延機の少なくとも1つの圧延機のワークロール」に相当することは、当業者には自明である。また、甲1発明1のワークロールは「胴径605mm及び有効径80mm」なので、使用時に「直径525mm?605mm」の間で削られていくことになるから、本件発明1の「直径が600mm以下」のものと対比すると、「直径525mm?600mm」で一致する。
甲1発明1の「バックアップロール」は、甲第1号証の188ページの(ミルレイアウト)の図からも了解されるように、「ワークロールに外周を接触させるように配置される」ものである。また、甲1発明1のバックアップロールは「胴径1430mm及び有効径160mm」なので、使用時に「直径1270mm?1430mm」の間で削られていくことになるから、本件発明1の「直径1350mm以上」のものと対比すると、「直径1350mm?1430mm」で一致する。
そうすると、甲1発明1と本件発明1とは、以下の点で一致し、また、相違するものと認められる。
<一致点>
「熱間仕上げ圧延機列により仕上げ圧延をする工程を含む熱延鋼板の製造方法であって、
前記熱間仕上げ圧延機列に備えられる圧延機のうち後段の圧延機の少なくとも1つの圧延機のワークロールは、その直径が525mm?600mmであるとともに、
前記ワークロールに外周を接触させるように配置されるバックアップロールは直径1350mm?1430mmである熱延鋼板の製造方法。」
<相違点1>
本件発明1において、後段の圧延機の少なくとも1つの圧延機のワークロールが、「表面の弾性係数が300GPa以上である超硬合金を具備して形成され、前記ワークロールの表面粗さがRaで0.3μm以上2.0μm以下であ」るのに対し、甲1発明1では、熱延用ワークロールの仕上げ後段ロール(FHW)は、弾性係数が19,000kgf/mm^(2)の高合金グレン製であり、表面粗さは不明である点。
<相違点2>
本件発明1では、「前記ワークロールを具備する圧延機による圧下率を25%以上とし、前記ワークロールに潤滑剤を供給することなく圧延する」のに対し、甲1発明1では、圧下率は不明である上、ワークロールが熱間圧延油を使用するものである点。

相違点1について検討すると、甲第2号証には、熱延鋼板の仕上げ圧延機のワークロールに、耐摩耗性を考慮して圧延部外層が超硬合金スリーブからなるロールを用いる点が記載されている。また、当該超硬合金製ワークロールのバレル表面の算術平均粗さを0.5μm以上2.0μm以下(本発明例では1.2μm)にすることも記載されている。さらに、甲第2号証に記載された超硬合金製ワークロールの材料となる超硬材料混合粉末の組成は、WC粉末にCo:5?50mass%(好ましくはCo:20mass%)とNi適量を添加した混合粉末であるが、この材料について甲第5号証の上記摘記事項や4ページの図3を参酌すると、WC-Co合金のCo:20%のものは、ほぼ50,000kgf/mm^(2)であり、相違点1に係る「表面の弾性係数が300GPa以上」という条件を満たすものである。
そうすると、甲1発明1の仕上げ後段ロール(FHW)について、耐摩耗性材料として高合金グレンロールを使用しているのを、より耐摩耗性を強化するため、甲第2号証に記載された「表面の弾性係数が300GPa以上であ超硬合金」材料製で「表面の算術平均粗さが0.5μm以上2.0μm以下」のワークロールを用いることで、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、一見容易のようにも認められる。
しかし、たとえ、甲1発明1の仕上げ後段ロール(FHW)に、甲第2号証に記載された超硬合金製ワークロールを使用したとしても、その際に、「その直径が600mm以下」であるワークロールに外周を接触させるよう配置されるバックアップロールが「直径1350mm以上」となる組み合わせのものを採用する根拠が不明である。甲第2号証で、本発明例として示されたものは、ワークロール直径=650mm、バックアップロール直径=1600mmの組み合わせであり、ワークロール直径の条件が適合せず、ラボ実験条件として示されたものは、ワークロールの直径=200mmではあるが、バックアップロールについては不明である。また、甲第3?6号証を見ても、直径600mm以下の超硬合金製ワークロールに対して直径1350mm以上のバックアップロールを組み合わせることを示唆する記載は見当たらない。
そして、本件発明1は、鋼材に優れた機械的特性を具備させるために高圧下圧延を行うに際し、ワークロールの小径化を図るが、焼き付きや磨耗を低減させるため、超硬合金製のワークロールを用いること(本件明細書の段落【0002】?【0006】を参照)、高圧下圧延におけるワークロールへの負荷を軽減するため直径を600mm以下とすること(同段落【0026】を参照)、超硬合金製の小径ワークロールを用いたことによる被圧延材先端部のワークロールへの噛み込み不良を抑制するためワークロールの表面粗さをRaで0.3μm以上2.0μm以下としたこと(同段落【0009】及び【0029】を参照)、超硬合金によりワークロール表面近傍の弾性係数を高めたことでヘルツ圧が高まることへの対策としてバックアップロールの直径を1350mm以上としたこと(同段落【0033】を参照)を、総合的に勘案することにより、高圧下圧延における、ワークロールの材質、直径及び表面粗さとバックアップロールの直径とを、互いに関連するパラメータとして設定したものである。
しかるに、甲第3号証のものは、超硬合金製のワークロールを用いているが、直径は900mmであり、表面粗さやバックアップロールの径も不明である。甲第4号証のものは外層材にハイス系材料を用いたワークロールしか記載されていない。甲第5号証は超硬合金の特徴が記載されているが、ワークロールやバックアップロールの直径については不明である。また、甲第6号証には、ワークロールとバックアップロールとの接触圧力(ヘルツ圧力)については触れられており、ワークロール径=600mm、バックアップロール径=1400mmの圧延機の例も示されているが、材料として挙げられているものは鋼製ロールのみである。そして、これら甲第3?6号証の記載を参酌しても、甲第2号証に記載された直径650mmの超硬合金製ワークロールを600mm以下に小さくした上、甲1発明1の高合金グレン製のワークロールであって、たまたまバックアップロールの直径が1350mm以上であったワークロールに替えて用いることへの、積極的動機があるものとは認められない。
よって、相違点1に係る本件発明1の構成については、甲第1?6号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1及び甲第1?6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用しており、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明1及び甲第1?6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

ウ 本件発明3について
本件発明3と甲1発明2とを対比する。
甲1発明2の「ミルライン」は、ホットストリップ製造に用いられるものであり、甲第1号証の188ページの(ミルレイアウト)の図からも了解されるように、本件発明3の「複数の圧延機を具備する熱間仕上げ圧延機列」に相当するものである。そして、甲1発明2の「ホットストリップ製造設備」は、本件発明3の「熱延鋼板の製造装置」に相当する。
甲1発明2の「熱延用ワークロール」は、本件発明3の「被圧延材を圧延するワークロール」に相当する。また、甲1発明2の「前記熱延用ワークロールの仕上げ後段ロール(FHW)」は、本件発明3の「前記複数の圧延機のうち後段の少なくとも1つの圧延機のワークロール」に相当する。さらに、甲1発明2のワークロールは「その胴径が605mm及び有効径が80mm」なので、使用時に「直径525mm?605mm」の間で削られていくことになるから、本件発明3の「直径が600mm以下」のものと対比すると、「直径525mm?600mm」で一致する。
甲1発明2の「バックアップロール」は、甲第1号証の188ページの(ミルレイアウト)の図からも了解されるように、「ワークロールに外周を接触させるように配置される」ものである。また、甲1発明2のバックアップロールは「胴径1430mm及び有効径160mm」なので、使用時に「直径1270mm?1430mm」の間で削られていくことになるから、本件発明3の「直径1350mm以上」のものと対比すると、「直径1350mm?1430mm」で一致する。
そうすると、甲1発明2と本件発明3とは、以下の点で一致し、また、相違するものと認められる。
<一致点>
「複数の圧延機を具備する熱間仕上げ圧延機列を有し、
前記複数の圧延機は、被圧延材を圧延するワークロールと、前記ワークロールに外周を接触させるように配置される直径1350mm?1430mmのバックアップロールと、を備え、
前記複数の圧延機のうち後段の少なくとも1つの圧延機のワークロールは、その直径が525mm?600mmである熱延鋼板の製造装置。」
<相違点3>
本件発明3において、複数の圧延機のうち後段の少なくとも1つの圧延機のワークロールが、「外殻に超硬合金を具備して構成され、該ワークロールの表面の弾性係数が300GPa以上であるとともに、表面粗さがRaで0.3μm以上2.0μm以下である」のに対し、甲1発明2では、熱延用ワークロールの仕上げ後段ロール(FHW)は、高合金グレン製であり、該ワークロールの弾性係数が19,000kgf/mm^(2)であり、表面粗さは不明である点。

上記相違点3について検討すると、仕上げ圧延機のワークロールの外殻に超硬合金を具備して構成した点、該ワークロールのバレル表面の算術平均粗さを0.5μm以上2.0μm以下(本発明例では1.2μm)とした点は、上記アの「相違点1」で検討したように、甲第2号証に記載されている。また、甲第2号証に記載された超硬合金製ワークロールの表面の弾性係数が300GPa以上という条件を満たしているものであることも、上記アの「相違点1」での検討と同様である。
しかし、たとえ、甲1発明2の熱延用ロールに、甲第2号証に記載された超硬合金製ワークロールを使用したとしても、上記アの「相違点1」で検討したのと同様に、相違点3に係る本件発明3の構成については、甲第1?6号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
よって、本件発明3は、甲1発明2及び甲第1?6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(甲第2号証を主引用例とした特許法第29条第2項)について
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、本件発明1?3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、取り消すべきものと主張している。

イ 甲第2号証に記載された発明
上記4.(2)の摘記事項ア?ウ、図示事項エからみて、甲第2号証には以下の2発明が記載されていると認められる。
甲2発明1:「熱延鋼板の仕上げ圧延機を用いた圧延方法であって、熱延鋼板の仕上圧延機のワークロールWは、その直径が650mmであるとともに、圧延部外層が超硬合金スリーブで形成され、前記ワークロールWのバレル表面の算術平均粗さが1.2μmであり、前記ワークロールWに外周を接触させるように配置されるバックアップロールは直径1600mmである熱延鋼板の圧延方法。」
甲2発明2:「複数の圧延機を具備する熱延鋼板の仕上げ圧延機を有し、前記複数の圧延機は、被圧延材Sを上下から圧延するワークロールWと、前記ワークロールWに外周を接触させるように配置される直径1600mmのバックアップロールと、を備え、前記複数の圧延機のワークロールWは、圧延部外層が超硬合金スリーブで構成され、その直径が650mmであるとともに、バレル表面の算術平均粗さが1.2μmである熱延鋼板の仕上げ圧延機。」

ウ 本件発明1について
本件発明1と甲2発明1とを対比すると、本件発明1において、ワークロールが、「その直径が600mm以下である」のに対し、甲2発明1のワークロールWは、直径が650mmである点で相違する。
上記相違点について検討すると、甲第2号証には、本発明例の仕上げ圧延機の実施例とは別に、ラボ圧延機を用いたラボ実験の例も記載されており、上記甲第2号証の摘記事項イに「ワークロールの直径=200mm」が開示されている。しかし、この直径200mmのワークロールは、あくまでラボ圧延機のものであり、ラボ圧延機のバックアップロールの直径については不明である。そして、一般的に、実験機は実機よりも小型に製造することから、甲第2号証の実機である本発明例の仕上げ圧延機のワークロールWの直径が650mmであったのを、ラボ実験のラボ圧延機のワークロールの直径を200mmと3分の1程度にしたことを考慮すると、ラボ圧延機のバックアップロールの直径を1350mm以上にしているとは断言できず、むしろ直径は1350mm以下の可能性が高いと考えられる。そうすると、甲第2号証からは、上記相違点に係る構成を想到することは容易とはいえない。
また、甲第3号証には、鋼の熱間圧延における仕上圧延機の少なくとも1スタンドのワークロールに圧延部表層が超硬合金からなるロールを用いることが記載されている。しかし、当該ワークロールは外径900mmの例しか示されておらず、外径を600mm以下にすることが容易とはいえない。
さらに、甲第1、4?6号証にも、超硬合金製のワークロールの直径を600mm以下とすることについては、記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1は、上記(1)アでも説示したように、高圧下圧延における、ワークロールの材質、直径及び表面粗さとバックアップロールの直径とを、互いに関連するパラメータとして設定したものである。
そうすると、甲2発明1のワークロールWの直径を600mm以下とすることは容易想到とはいえず、上記相違点に係る構成は、甲2発明1及び甲第1?6号証に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明1及び甲第1?6号証に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用しており、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明1及び甲第1?6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

オ 本件発明3について
本件発明3と甲2発明2とを対比すると、本件発明3のワークロールが、「その直径が600mm以下である」のに対し、甲2発明2のワークロールWの直径は650mmである点で相違する。
上記相違点は、上記ウの本件発明1における相違点と実質的に同じものであるから、本件発明1と同様、甲2発明のワークロールWの直径を600mm以下とすることは容易想到とはいえず、上記本件発明3における相違点に係る構成は、甲2発明2及び甲第1?6号証に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲2発明2及び甲第1?6号証に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求項1?3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-31 
出願番号 特願2015-216905(P2015-216905)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B21B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂本 薫昭  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 栗田 雅弘
柏原 郁昭
登録日 2017-01-06 
登録番号 特許第6065087号(P6065087)
権利者 新日鐵住金株式会社
発明の名称 熱延鋼板の製造方法、熱延鋼板の製造装置  
代理人 山本 典輝  
代理人 岸本 達人  
代理人 山下 昭彦  

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