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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1337083
異議申立番号 異議2017-701150  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-06 
確定日 2018-02-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6142937号発明「逆浸透膜装置の運転管理方法および逆浸透膜処理システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6142937号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6142937号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成28年3月18日に出願されたものであって、平成29年5月19日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対して特許異議申立人 南雲嘉明により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6142937号の請求項1ないし10に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された以下に記すものである。
以下、請求項の順に「本件発明1」ないし「本件発明10」といい、総称して「本件発明」といい、本件特許(特許第6142937号)の明細書の発明の詳細な説明及び添付図面をまとめて「特許明細書」ということがある。

【請求項1】
原水を逆浸透膜装置で処理するにあたり、該逆浸透膜装置の濃縮水のアルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度に基づいて、該濃縮水のアルミニウムイオン濃度が0.4mg/L以下、鉄イオン濃度が0.8mg/L以下、かつアルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度が1.0mg/L以下となるように、該逆浸透膜装置の運転を管理することを特徴とする逆浸透膜装置の運転管理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記濃縮水のアルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度に基づいて、原水の前記逆浸透膜装置に導入される水(以下「給水」と称す。)としての適否、給水の水温、濃縮倍率(回収率)、圧力(逆浸透膜の給水供給圧力、濃縮水圧力、処理水圧力)、濃縮水水量、連続運転期間、洗浄時間、洗浄頻度、および逆浸透膜の交換時期のうちのいずれか1以上を管理することを特徴とする逆浸透膜装置の運転管理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記アルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度を、所望の連続運転期間、洗浄時間、濃縮倍率、および給水水質のうちのいずれか1以上を指標として設定することを特徴とする逆浸透膜装置の運転管理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記濃縮水のアルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度とシリカ濃度とに基づいて、前記管理を行うことを特徴とする逆浸透膜装置の運転管理方法。
【請求項5】
請求項4において、前記濃縮水のシリカ濃度が80mg/L以下となるように前記管理を行うことを特徴とする逆浸透膜装置の運転管理方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記給水の水温が5?10℃の期間と、10℃を超える期間とがあり、該水温が5?10℃の期間において、前記逆浸透膜装置の運転管理方法に従った前記管理と、シリカ濃度及び/又はランジェリア指数による運転管理とを併せて行うことを特徴とする逆浸透膜装置の運転管理方法。
【請求項7】
原水を逆浸透膜処理する逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の濃縮水のアルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度を測定する測定手段と、該濃縮水のアルミニウムイオン濃度が0.4mg/L以下、鉄イオン濃度が0.8mg/L以下、かつアルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度が1.0mg/L以下となるように、該逆浸透膜装置の運転を管理する制御手段とを備えることを特徴とする逆浸透膜処理システム。
【請求項8】
請求項7において、前記制御手段は、前記測定手段で測定されたアルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度に基づいて、前記原水の前記逆浸透膜装置に導入される水(以下「給水」と称す。)としての適否、給水の水温、濃縮倍率(回収率)、圧力(逆浸透膜の給水供給圧力、濃縮水圧力、処理水圧力)、濃縮水水量、連続運転期間、洗浄時間、洗浄頻度、および逆浸透膜の交換時期のうちのいずれか1以上を管理することを特徴とする逆浸透膜処理システム。
【請求項9】
請求項7又は8において、更に前記濃縮水のシリカ濃度を測定する手段を有し、前記制御手段は、前記アルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度の測定値と、該シリカ濃度の測定値とに基づいて、前記管理を行うことを特徴とする逆浸透膜処理システム。
【請求項10】
請求項9において、前記制御手段は、前記濃縮水のシリカ濃度が80mg/L以下となるように前記管理を行うことを特徴とする逆浸透膜処理システム。

第3 異議申立理由について
特許異議申立人は、異議申立理由として次の証拠に基づく以下の概要の進歩性要件違反及び記載要件違反を主張し、本件特許は取り消されるべき旨を申立てた。

3-1.証拠
甲第1号証:特開2001-129550号公報
甲第2号証:特開2015-182018号公報
甲第3号証:国際公開第2008/059824号
甲第4号証:米国特許出願公開第2004/0108277号明細書
甲第5号証:Reverse Osmosis Industrial Applications and Processes、Jane Kucera、John Wiley & Sons、Inc.Hoboken、New Jersey、and Scrivener Publishing LLC、Salem、Massachusetts、2010年、21-40頁
甲第6号証:ユーザーのための実用膜分離技術、松本幹治 監修、化学工学会・膜分離技術ワーキンググループ 編、日刊工業新聞社、初版1刷、1996年4月30日、229-243頁
甲第7号証:Standard Practice for Calculation and Adjustment of Silica(SiO_(2))Scaling for Reverse Osmosis、American Society for Testing and Materials(ASTM) D4993-89、1990年3月、842-844頁
甲第8号証:Surface Science Technology 1 超純水の科学、半導体基盤技術研究会 編、株式会社リアライズ社、平成2年9月11日、277-282頁

なお、以下で甲各号証を「甲1」「甲2」のように記載することがある。

3-2.異議申立理由の概要
<異議申立理由1(進歩性要件)>
(1)本件発明1及び7に対して
本件発明1及び7に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(2)本件発明2及び8、本件発明4及び9、本件発明3に対して
本件発明2及び8、本件発明4及び9、本件発明3に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(3)本件発明5及び10に対して
本件発明5及び10に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(4)本件発明6に対して
本件発明6に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第8号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

<異議申立理由2(サポート要件)>
本件発明の課題は「pH調整やスケール分散剤の添加を必要とすることなく、水温5?10℃というような低水温条件下においても、逆浸透膜装置におけるシリカスケールの発生を抑制し、長時間安定運転を継続することができる逆浸透膜装置の運転管理方法および逆浸透膜処理システムを提供すること」(本件特許明細書【0008】)といえる。
そして当該課題を解決するには、「逆浸透膜装置の濃縮水」の「アルミニウムイオン濃度が0.4mg/L以下」かつ「鉄イオン濃度が0.8mg/L以下」かつ「アルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度が1.0mg/L以下」となるように「逆浸透膜装置の運転を管理すること」を要する(【表3】【0052】、【0009】、【0010】)ものである。
しかるに、請求項1では「逆浸透膜装置の濃縮水のアルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度に基づいて」とのみ特定され、「逆浸透膜装置の濃縮水のアルミニウムイオンと鉄イオン濃度の合計濃度に基づいて」との特定はなされておらず、請求項7では「逆浸透膜装置の濃縮水のアルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度を測定する測定手段」とのみ特定され、「逆浸透膜装置の濃縮水のアルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度の合計濃度を測定する測定手段」との特定はなされていない。
したがって、本件発明1及び7は「アルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度」について「逆浸透膜装置の運転を管理する」対象として特定されておらず、これは上記の本件発明の課題を解決すべき手段を反映しているものとはいえない。
よって、特許請求の範囲の請求項1及び7の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
そのため、本件発明1及び7に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
本件発明1又は7を直接又は間接的にそれぞれ引用する本件発明2ないし6と本件発明8ないし10に係る特許についても同様である。

<異議申立理由3(明確性要件)>
本件発明1及び7は、それぞれ、「アルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度」について「逆浸透膜装置の運転を管理する」対象として特定されておらず、「アルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度」を何ら考慮しない場合を含むか否か明らかではない。
そのため、本件発明1及び7に係る特許は、同発明が明確ではないので、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
本件発明1又は7を直接又は間接的にそれぞれ引用する本件発明2ないし6と本件発明8ないし10に係る特許についても同様である。

第4 当審の判断
1.異議申立理由2、3について
本件請求項1は「該逆浸透膜装置の濃縮水のアルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度に基づいて、該濃縮水のアルミニウムイオン濃度が0.4mg/L以下、鉄イオン濃度が0.8mg/L以下、かつアルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度が1.0mg/L以下となるように、該逆浸透膜装置の運転を管理する」と特定し、
本件請求項7は「逆浸透膜装置の濃縮水のアルミニウムイオンおよび鉄イオン濃度を測定する測定手段と、該濃縮水のアルミニウムイオン濃度が0.4mg/L以下、鉄イオン濃度が0.8mg/L以下、かつアルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度が1.0mg/L以下となるように、該逆浸透膜装置の運転を管理する制御手段とを備える」と特定している。
上記特定からは、「逆浸透膜装置の濃縮水のアルミニウムイオン」濃度及び同「鉄イオン」濃度がそれぞれ測定されており、「アルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度」は、測定された「アルミニウムイオン」濃度及び測定された「鉄イオン」濃度の和(合計)であることは明らかで、当該合計濃度が「逆浸透膜装置の運転を管理する」ための指標となっていることも上記特定から明らかである。
したがって、本件発明1及び7は「アルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度」について「逆浸透膜装置の運転を管理する」対象として制御すべきものであることを特定するものであり、「アルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度」が「逆浸透膜装置の運転」において考慮されるものであることは明白であるといえる。
以上から、本件発明1及び7に係る特許は、同発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、明確であるので、特許法第36条第6項第1、2号の規定に適合しないものに対してされたものでないから、取り消されるべきものでない。
本件発明1又は7を直接又は間接的にそれぞれ引用する本件発明2ないし6と本件発明8ないし10に係る特許についても同様である。

2.異議申立理由1について
2-1.本件発明1及び7について
本件発明は、「pH調整やスケール分散剤の添加を必要とすることなく、水温5?10℃というような低水温条件下においても、逆浸透膜装置におけるシリカスケールの発生を抑制し、長時間安定運転を継続することができる逆浸透膜装置の運転管理方法および逆浸透膜処理システムを提供する」(本件特許明細書【0008】)ものであり、「シリカスケールによる逆浸透膜のフラックスの低下には、シリカのみではなく、共存するイオン、特にアルミニウムイオンや鉄イオンが大きく影響することを見出」し、「逆浸透膜装置の運転の長期安定化には、給水および/または濃縮水中のシリカ濃度とともに、アルミニウムイオンおよび/または鉄イオン濃度を適切に管理することが重要であることを解明」(【0009】)し、その具体的条件として、
本件発明1及び7は、「逆浸透膜装置の濃縮水」の「アルミニウムイオン濃度が0.4mg/L以下、鉄イオン濃度が0.8mg/L以下、かつアルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度が1.0mg/L以下となるように、該逆浸透膜装置の運転を管理」する(以下、「特定事項A」という。)「逆浸透膜装置の運転管理方法」及び「逆浸透膜処理システム」であることを特徴とするといえる。

2-2.甲第1号証について
甲第1号証には、「シリカ濃度が変動」する「例えば河川水」を「原水」とする「純水製造装置」(【0001】【0002】)において、「供給水中のシリカ濃度が増加した際に惹起される逆浸透膜へのシリカのスケーリングや堆積を防止すると共に一定の透過水量を維持して安定した水量の純水が得られる様に改良された純水製造装置を提供すること」(【0003】)を解決すべき課題とし、その解決手段として、「濃縮水中のシリカ濃度を検知し且つその値が一定となる様に供給水量と濃縮水量とを制御する供給/濃縮水量制御手段を設け」(【請求項1】)、「原水供給ラインに供給水または濃縮水中のシリカ濃度に見合った量のシリカインヒビターを注入する手段を設け」る(【請求項2】)純水製造装置について記載されている。
しかしながら、「シリカスケール」と「アルミニウムイオン」、「鉄イオン」との関係については何ら開示はない。
したがって、甲第1号証に記載の技術手段には、本件発明1及び7の特定事項Aについて記載も示唆も無い。

2-3.甲第2号証について
甲第2号証には、「・・・逆浸透膜装置等の水中にシリカを含む水系において、シリカ系スケールの析出を抑制できるスケール抑制剤を提供」し「・・・さらには、これらの水系において、アルミニウムイオンや鉄イオンや亜鉛イオン等の金属イオンが共存してもシリカ系スケールの析出を十分に抑制できるスケール抑制剤を提供する」こと(【0011】)を解決すべき課題とし、その解決手段として「水中にアルミニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン等を含んでいても、特定の多価アルコール及び/又は多価フェノールの誘導体や脂肪酸モノアミドから選択される1種又は2種以上を、対象とする水系に添加することでシリカ系スケールの析出を抑制できる」ことについて記載されており、さらに、「シリカ系スケールには、無定形シリカとケイ酸塩スケールが含まれるが、ここで無定形シリカとはシリカ単独でその溶解度を超えたときに析出する非晶質のシリカスケールである。またケイ酸塩スケールとは、水中に含まれるシリカがカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオン等の金属イオンと結合し、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸鉄等の難溶性ケイ酸塩スケールとなり、場合によってはさらにこれらケイ酸塩類と無定形シリカ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の難溶性無機化合物との複合物となり、金属表面等に付着したスケール状物をいう。」(【0005】)と記載されている。
すると、甲第2号証には、「シリカ系スケール」には「無定形シリカ」と「ケイ酸塩スケール」が含まれ、後者の形成には「アルミニウムイオン」、「鉄イオン」が結合し、さらに他の物質も結合した複合物も形成されるが、それらであっても「シリカ系スケールの析出を十分に抑制できるスケール抑制剤」について記載されているものといえる。
しかしながら、同号証には、「逆浸透膜装置の濃縮水」の「アルミニウムイオン濃度」と「鉄イオン濃度」とそれらの合計濃度を一定範囲とするように逆浸透膜装置の運転を管理することで「シリカスケールの発生を抑制」できることについては記載されていない。
したがって、甲第2号証に記載の技術手段には、本件発明1及び7の特定事項Aについて記載も示唆も無い。

2-4.甲第3号証について
甲第3号証には、「RO膜は高い除去率で金属イオンなどを除去できる反面、給水中に含まれる金属が 濃縮中に高倍率で濃縮されるため、カルシウム、マグネシウム、シリカおよび炭酸などに起因するスケール障害の問題が生じる」ところ、「水道水に含まれる鉄やアルミニウムは、中性からアルカリの範囲では水酸化物等の形態で沈殿物を形成し、この沈殿物がRO膜の性能を著しく低下させる」ので「逆浸透膜処理装置 (以下「RO装置」と記す)への給水pHを酸性に調整する方法が提案されている」([0003])が、「一方、RO膜による処理では一般にイオン化した物質の阻止率が高くなることが知られており、硼素、シリカ、有機酸、炭酸などのpHの上昇に応じてイオン化する物質においては、高pHとすることで除去する方法が提案されて」([0004])おり、「したがって、スケール障害防止や水酸化鉄あるいは水酸化アルミニウムによるRO膜性能低下を防止する目的で、酸性条件で逆浸透膜処理 (以下「RO処理」と記す)すると、硼素、シリカ、有機酸、炭酸のほか、通常の電解質の阻止率が低下し、後段での水処理設備の負荷が増大したり、あるいは、処理設備が増大する」([0005])という解決すべき課題に対して、「原水を供給して逆浸透膜処理水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理装置を備えた水処理装置において、該逆浸透膜処理装置は、pH7以下の原水が供給されるものであって、且つ、阻止率向上剤によって処理された逆浸透膜を備える」ことを解決手段とすること([0008])が記載されている。 すると、甲第3号証には、「水道水」に含まれる「鉄やアルミニウム」は、「中性からアルカリの範囲では水酸化物等の形態で沈殿物を形成し、この沈殿物がRO膜の性能を著しく低下させる」ものであること、「シリカ」は「酸性条件で逆浸透膜処理する」と「阻止率が低下」することが記載されているといえるが、「シリカスケール」と「アルミニウムイオン」、「鉄イオン」との関係については何ら開示はなく、まして、「逆浸透膜装置の濃縮水」の「アルミニウムイオン濃度」と「鉄イオン濃度」とそれらの合計濃度を一定範囲とするように逆浸透膜装置の運転を管理することで「シリカスケールの発生を抑制」できることについては記載されていない。
したがって、甲第3号証に記載の技術手段には、本件発明1及び7の特定事項Aについて記載も示唆も無い。

2-5.甲第4号証について
甲第4号証には、以下に示すTABLE4(表4)と共に、次の記載がある。
(a)「[0002]This invention relates to methods of pretreating water. More specifically, the present invention relates to methods of pretreating water prior to reverse osmosis (″RO″)treatment using low pressure filtration to replace ion exchange.」
<和訳:異議申立人の提出した訳文を参考にした。以下同様。>
「[0002]本発明は、水を前処理する方法に関する。より具体的には、本発明は、逆浸透(RO)処理の前に、イオン交換に代えて低圧ろ過を用いて水を処理する方法に関する。」
(b)「[0027]The method of the present invention is a pre-RO water purification approach that uses small amounts of chemicals in a low pressure (about 9 psi and lower)filtration process. Small amounts of iron and/or aluminum salts, in combination with small amounts of highly charged organic polymer flocculating agents, can remove sufficient suspended and dissolved solids to allow the feed water to be processed by RO without further chemical treatment. The particles formed are then easily filterable solid. Because the present invention provides a precipitation process, only small amounts of solids are produced. Of particular advantage the reactions preferably generate large non-sticky filterable solids to remove both pre-existing colloidal and other suspended solids; precipitable ions such as metals, silica, calcium silicate, barium sulfate, strontium sulfate, calcium fluoride; and precipitable organic materials. No large volumes of liquid waste are produced, only small amounts of solids that are readily filtered and dewatered.」
<和訳>
「[0027]本発明の方法は、低圧(約9psi以下)濾過プロセスで少量の化学物質を用いたRO前の水浄化方法である。少量の鉄および/またはアルミニウム塩は、少量の高度に帯電した有機ポリマー凝集剤と組み合わせて、十分な混濁固体および溶解固体を除去して、さらなる化学処理なしに供給水をROで処理することができる。形成された粒子は、その後、容易にろ過可能な固体である。本発明は沈殿プロセスを提供するので、少量の固体のみが生成される。特に有利なことに、反応は、好ましくは、既存のコロイド懸濁液および他の懸濁固形分の両方を除去するために大きな非粘着性ろ過可能固形物を生成する。金属、シリカ、ケイ酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム、フッ化カルシウムなどの沈降性イオン;沈降性の有機材料を含む。大量の液体廃棄物は生成されず、少量の固形物のみが容易にろ過され、脱水される。」
(c)「[0063]The RO reject was concentrated wastewater from the RO. It contained most of the ammonia, sulfate, chloride, sodium, and nitrates, and almost all of the organic material-surfactants, chelating agents, organic acids, and other materials-in a much smaller volume of waste water. Table 4 shows the major ions that were concentrated into this waste stream. Note that no effort was made to maximize the concentration factor, so higher concentrations are possible.」
<和訳>
「[0063]RO阻止は、ROからの濃縮された廃水であった。これは、アンモニア、硫酸塩、塩化物、ナトリウム、および硝酸塩のほとんど、およびほとんどすべての有機物質-界面活性剤、キレート剤、有機酸および他の物質を、はるかに少ない量の廃水中に含んでいた。表4は、この廃水ストリームに濃縮された主なイオンを示す。濃縮係数を最大にする努力はなされていないので、より高い濃度となり得ることに留意されたい。」
(d)TABLE4(7頁)(表4)を以下に示す。


(e)ここで、上記の記載から、甲第4号証には、「逆浸透(RO)処理の前」に「少量の鉄および/またはアルミニウム塩」を「少量の高度に帯電した有機ポリマー凝集剤と組み合わせ」て原水に添加し、「低圧ろ過」を行うことで、「十分な混濁固体および溶解固体を除去して、さらなる化学処理なしに供給水をROで処理することができる」ことが記載され、さらに、表4には、「低圧ろ過」処理して得た水を「逆浸透」膜処理に付した場合の「濃縮水」中のイオン濃度について、「アルミニウムイオン濃度」が「0.4ppm」(0.4mg/Lと同義)以下(D3以降)、「鉄イオン濃度」が「0.04ppm」(0.04mg/Lと同義)以下となることが記載されているといえる。
そして、「濃縮水」中の「アルミニウムイオン濃度」、「鉄イオン濃度」は本件発明1及び7の「濃縮水のアルミニウムイオン濃度が0.4mg/L以下、鉄イオン濃度が0.8mg/L以下」と重複している。
(f)しかしながら、甲第4号証に記載の技術手段は、「逆浸透(RO)処理の前」に「少量の鉄および/またはアルミニウム塩」を「少量の高度に帯電した有機ポリマー凝集剤と組み合わせ」て原水に添加し、「低圧ろ過」を行うことにより、「アルミニウムイオン濃度」及び「鉄イオン濃度」を低くするものであるものの、「逆浸透膜装置」の「濃縮水」中の「アルミニウムイオン濃度」及び「鉄イオン濃度」の計測値に基いて、それら各々の濃度及びそれらの合計濃度を一定範囲とするように逆浸透膜装置の運転を管理することで「シリカスケールの発生を抑制」できるという本件発明1及び7の技術思想について開示するものとはいえない。
したがって、甲第4号証に記載の技術手段には、本件発明1及び7の特定事項Aについて記載も示唆も無い。

2-6.甲第5号証について
甲第5号証には、以下の記載がある。
(a)「3.7 Fouling
Membrane fouling is a result of deposition of suspended solids, organics, or microbes on the surface of the membrane, typically on the feed /concentrate side. Fouling species include:
● colloids, such as alumina-and iron-silicates. Silica can precipitate at concentration below saturation in the presence of aluminum or iron.
● organics, which provide nutrients for microbes,
● microbes,
● color, which irreversibly adsorbs onto the membrane polymer,
● metals, such as iron and manganese that precipitate when oxidized; aluminum typically from alum, which is commonly overfed, particularly into municipal/ surface sources; and hydrogen sulfide, which releases elemental sulfur upon oxidation, a sticky material very difficult if not impossible to remove from a membrane.」(30頁)
(和訳:異議申立人の提出した訳文を参考にした。)
「3.7 ファウリング
膜ファウリングは、膜表面への浮遊粒子、有機物又は微生物の堆積の結果であり、典型的には供給/濃縮側に生じる。ファウリング種は次のものを含む:
●アルミナ-及び鉄-珪酸塩のようなコロイド。シリカは、アルミニウム又は鉄の存在下で、飽和濃度を下回る濃度で沈殿し得る。
●微生物の栄養素となる有機物、
●微生物、
●膜ポリマー上に非可逆的に吸着する色、
●鉄及びマンガンのような酸化されて沈殿する金属;典型的には、特に都市下水/地表水に過剰に供給されたミョウバン由来のアルミニウム;及び、酸化されて、膜から除くことが不可能とはいえないものの非常に困難な粘着物である硫黄元素を放出する硫化水素。」
(b)Table 3.4 lists generally-accepted water quality guidelines to minimize fouling of RO membranes.」(30頁)(和訳:表3.4 RO膜のファウリングを最小化するための、一般的に許容される水質ガイドライン)には、「Spicies」(和訳:種)の「Metals:iron、manganese、aluminum」(和訳:金属:鉄、マンガン、アルミニウム)の箇所に、それらの「concentration(和訳:濃度)」として「<0.05ppm」と記載されている。
(c)上記(a)の記載から、「膜ファウリング」を引き起こす「種」には「アルミナ-及び鉄-珪酸塩のようなコロイド」があげられ、「シリカ」は、「アルミニウム又は鉄の存在下で、飽和濃度を下回る濃度」で同「コロイド」として「膜」上に「沈殿し得る」ものであり、上記(b)の記載から、「RO膜のファウリングを最小化するための、一般的に許容される水質」として、「鉄」及び「アルミニウム」についてはそれぞれ「0.05ppm」未満であるといえる。
ここで、上記(b)の記載は「一般的に許容される水質」に関するものであり、「逆浸透膜」の「濃縮水」ではなく、膜に供給される原水の水質であるといえる。
すると、甲第5号証には、「アルミニウム又は鉄の存在下」で「シリカ」がそれらと「塩」を形成して「膜ファウリング」を引き起こしやすいので、原水中の「鉄」及び「アルミニウム」についてはそれぞれ「0.05ppm」未満であると「RO膜のファウリングを最小化」できることが記載されているといえる。
(d)しかしながら、甲第5号証には、「逆浸透膜装置の濃縮水」の「アルミニウムイオン濃度」と「鉄イオン濃度」とそれらの合計濃度を一定範囲とするように逆浸透膜装置の運転を管理することで「シリカスケールの発生を抑制」できることについては記載されていない。
したがって、甲第5号証に記載の技術手段には、本件発明1及び7の特定事項Aについて記載も示唆も無い。
ここで、異議申立人は、異議申立書の27頁で、逆浸透膜装置の「通常の濃縮倍率」は、本件特許明細書の[実験例2](【0051】)では「3倍」であることを考慮すれば、甲第5号証の原水を用いれば、「濃縮水のアルミニウムイオン濃度が0.4mg/L以下、鉄イオン濃度が0.8mg/L以下、かつアルミニウムイオンと鉄イオンの合計濃度が1.0mg/L以下」となる旨主張する。
しかしながら、逆浸透膜装置の「濃縮倍率」は状況に応じて変化するもので必ずしも「3倍」であるものではなく、上記[実験例2]の「濃縮倍率」は「シリカ濃度」についてのもので、「鉄イオン濃度」「アルミニウムイオン濃度」も同様に3倍になるものではなく、さらに、「逆浸透膜」の特性によっても濃縮水中の「鉄イオン濃度」及び「アルミニウムイオン濃度」は変化するので、「原水」中の「鉄イオン」及び「アルミニウムイオン」の濃度から、ただちに「逆浸透膜」の「濃縮水」中の濃度が導き出されるものとはいえないから、異議申立人の上記主張は採用しえず、上記のように判断する。

2-7.甲第6号証について
甲第6号証には、以下の記載がある。
(a)「膜自体の機能劣化や膜モジュールの性能低下(ファウリング)を防止するために、あらかじめ原因物質を除去するための前処理方法、膜性能を低下させないための適切なモジュールの選定と運転方法、膜性能が低下しても再度本来の機能を回復(再生,regeneration)させるための膜洗浄方法や殺菌方法、さらには膜の性能低下を早く検知し、プロセスの作動を安定化するための計測・制御方法などを事前に検討し、稼働時においてもこまめに装置の日常管理をすることが大切である。」(229頁)
(b)表3.1の「区分」が「ファウリング」で、「要因」が「膜の汚染」「付着層形性」「スケール」について、「摘要」に「濃縮により溶解度を超えた物質の析出」と記載されている。(表3.1 膜の劣化とファウリング 230頁)
(c)「3.1.2 ファウリング
ファウリングは、膜自身の変質ではなく外的因子により生じた膜性能の低下で、その原因によっては洗浄で性能を回復させることができる.ファウリングには、膜表面に付着物が堆積して性能が低下するものと、膜の内部にまで付着物や懸濁物が入り込み目詰まりを起こして性能が低下するものがある.ファウリングが生じると透過流束は低下し、阻止率は条件により低下あるいは増加する.
(1)付着層
付着層(adsorbed layer)には表3.1に示すように膜面上に堆積・沈着したケーク、ゲルあるいはスケール、および吸着した物質により形成された層である.」(232頁)
(d)「スケール(scale)は濃縮によりSiO_(2)やCaSO_(4)などの難溶性物質がその溶解度を超えて膜面上に析出した層である.」(232頁)
(e)「(3)ファウリングの因子とその機構
(i)ファウリングを発生させる因子
ファウリングの発生の有無とその度合いは膜と原液中に含まれる物質の相互作用により決まる.その相互作用は以下に示すようにファウリング物質、媒体および膜の性質、操作条件、膜モジュールの構造などの因子により複雑に影響される.・・・
<4>媒体側因子(当審注:原文は「4」を丸囲いして表記されるが当庁の起案システムで当該表記ができないので「<4>」として記載した。以下同じ。)
種類(水溶液、非水溶液、混合溶液)、温度、pH、イオン強度、粘度、表面張力、誘電率など.・・・
<6>操作条件
圧力、膜面流束、温度、ポンプの種類、配管状態、処理方法、運転時間など」(233-234頁)
(f)「(4)薬品洗浄
先に述べた(1)?(3)の方法によりファウリングを抑制したとしても、これらの方法だけでファウリングを完全に防止することは困難である.膜の分離性能が設定値以下になった場合には運転を停止し、周辺機器を含めて膜モジュールの薬品洗浄によるファウリング物質の除去および必要に応じてプラント全体の殺菌を行うことになる.多くのプラントではCIP(cleaning in place)洗浄・殺菌が行われるが、膜の場合はステンレス鋼などの材料と異なり特に高分子膜は薬品による膜材質の劣化を受けやすいため膜の洗浄と殺菌に特別な配慮を必要とする.膜の洗浄が不充分であれば洗浄後のファウリングも起きやすく、膜の殺菌も十分にできず微生物汚染を招きやすい.
一般的に薬品による化学的洗浄およびスポンジボールや逆洗などの物理的洗浄により膜洗浄を行う場合には、いちじるしくファウリングが生じてから洗浄を行うよりも、初期の段階で行う方が高い回復率を得ることができるために洗浄のタイミングが重要なポイントとなる.・・・」(242-243頁)
e)以上から、甲第6号証には、「スケール」が「ファウリング」の下位概念であって、「ファウリング」の防止すなわち「スケール」の防止のために、「膜モジュール」の「運転方法」が適切に操作されることが大切で、操作される条件として、「圧力」、「膜面流速」、「温度」、「運転時間」、膜の「洗浄のタイミング」等が列挙されており、これらは本件特許明細書【0031】【0032】に記載の「運転管理項目」の「圧力(逆浸透膜の給水供給圧力、濃縮水圧力、処理水圧力)」、「フラックス」、「給水の水温」、「連続運転時間」、「洗浄時間、洗浄頻度」等にそれぞれあたるものといえるので、本件発明1及び7の「逆浸透膜装置の運転を管理する」ことに相当する技術について記載されているといえる。
しかしながら、甲第6号証には、「シリカスケール」と「アルミニウムイオン」、「鉄イオン」との関係については何ら開示はなく、まして、「アルミニウムイオン濃度」と「鉄イオン濃度」とそれらの合計濃度を一定範囲とするように逆浸透膜装置の運転を管理することで「シリカスケールの発生を抑制」できることについては記載されていない。
したがって、甲第6号証に記載の技術手段には、本件発明1及び7の特定事項Aについて記載も示唆も無い。

2-8.甲第7号証について
甲第7号証の843頁には、「FIG.1 Solubility of SiO_(2) vs.Temperature」(和訳:SiO_(2)溶解度の温度との関係)が記載され、「5?10℃」における「SiO_(2)溶解度」が「86?95mg/L」であることがみてとれるのみで、同号証には「逆浸透膜装置の運転」に関する記載はない。
したがって、甲第7号証に記載の技術手段には、本件発明1及び7の特定事項Aについて記載も示唆も無い。

2-9.甲第8号証について
甲第8号証の278頁には、「一般には次式で示されるRO濃縮水のLangelier指数、’’I’’が’’負’’のpH領域ではスケール形性の可能性はない。」と記載され、これは「RO濃縮水のLangelier指数」が「負」であることが検知されれば、RO膜にスケールが形成されないことが分かるということを意味するが、「シリカスケール」と「アルミニウムイオン」、「鉄イオン」との関係については何ら開示はない。
したがって、甲第8号証に記載の技術手段には、本件発明1及び7の特定事項Aについて記載も示唆も無い。

2-10.進歩性違反についての結言
以上から、甲各号証には少なくとも上記特定事項Aについて記載も示唆も無く、本件発明1及び7は同特定事項により所定の作用効果が奏されるものであるから、本件発明1及び7に係る特許は、甲第1ないし8号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものでなく、取り消されるべきものでない。
本件発明1又は7を直接又は間接的にそれぞれ引用する本件発明2ないし6、本件発明8ないし10についても同様である。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-01 
出願番号 特願2016-55726(P2016-55726)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C02F)
P 1 651・ 537- Y (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 富永 正史團野 克也井上 典之  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 後藤 政博
中澤 登
登録日 2017-05-19 
登録番号 特許第6142937号(P6142937)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 逆浸透膜装置の運転管理方法および逆浸透膜処理システム  
代理人 重野 剛  
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