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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16L
管理番号 1337088
異議申立番号 異議2017-701047  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-09 
確定日 2018-02-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6123927号発明「真空断熱材用外包材、真空断熱材、および真空断熱材付き機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6123927号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6123927号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成28年2月24日の出願であって、平成29年4月14日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人赤松智信より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明及び本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載
1 本件発明
特許第6123927号の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
熱溶着可能なフィルムおよびガスバリアフィルムを有する真空断熱材用外包材であって、
前記ガスバリアフィルムは、樹脂基材と、前記樹脂基材の少なくとも一方の面側に配置されたバリア層とを有し、
温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下であることを特徴とする真空断熱材用外包材。
【請求項2】
前記バリア層が、無機化合物、または有機化合物と無機化合物との混合物のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の真空断熱材用外包材。
【請求項3】
前記真空断熱材用外包材が、前記ガスバリアフィルムを2つ以上有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空断熱用外包材。
【請求項4】
前記ガスバリアフィルムの前記熱溶着可能なフィルムとは反対側の面側に保護フィルムを有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材。
【請求項5】
芯材と、前記芯材を封入する真空断熱材用外包材とを有する真空断熱材であって、
前記真空断熱材用外包材は、熱溶着可能なフィルムおよびガスバリアフィルムを有し、
前記ガスバリアフィルムは、樹脂基材と、前記樹脂基材の少なくとも一方の面側に配置されたバリア層とを有し、
温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下であることを特徴とする真空断熱材。
【請求項6】
本体又は内部に熱源部もしくは被保温部を有する機器、および真空断熱材を備える真空断熱材付き機器であって、
前記真空断熱材は、芯材と、前記芯材を封入する真空断熱材用外包材とを有し、
前記真空断熱材用外包材は、熱溶着可能なフィルムおよびガスバリアフィルムを有し、
前記ガスバリアフィルムは、樹脂基材と、前記樹脂基材の少なくとも一方の面側に配置されたバリア層とを有し、
温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下であることを特徴とする真空断熱材付き機器。」

2 本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)及び図面には、次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。また、以下「a」?「f」の記載事項は、それぞれ「記載事項a」?「記載事項f」という。以下同様。)。

a 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の外包材では、上記外包材単体では十分なガスバリア性能を発揮することが確認できている場合であっても、上記外包材を用いて真空断熱材を形成した場合に、十分に真空状態を保てず、長期間断熱性能を維持することができないといった問題がある。特に、真空断熱材が高温高湿な環境に曝される場合、初期熱伝導率が低い真空断熱材であっても、断熱性能が経時的に低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材等を提供することを主目的とする。」

b「【0020】
A.真空断熱材用外包材
まず、本発明の真空断熱材用外包材について説明する。
本発明の真空断熱材用外包材は、熱溶着可能なフィルムおよびガスバリアフィルムを有する真空断熱材用外包材であって、上記ガスバリアフィルムは、樹脂基材と、上記樹脂基材の少なくとも一方の面側に配置されたバリア層とを有し、温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での上記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、上記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、上記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下であることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の外包材について、図を参照して説明する。図1は、本発明の外包材の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、本発明の外包材10は熱溶着可能なフィルム1およびガスバリアフィルム2を有するものであり、上記ガスバリアフィルム2は樹脂基材3と、上記樹脂基材3の一方の面側に配置されたバリア層4とを有する。上記外包材10は、高温高湿な環境において一定期間保持された後の寸法変化率が特定の範囲内のものである。
【0022】
また、図2は、本発明の外包材を用いた真空断熱材の一例を示す概略断面図である。図2に例示するように、上記真空断熱材20は、芯材11と、上記芯材11を封入する外包材10とを有するものである。上記真空断熱材20は、2枚の上記外包材10を、それぞれの熱溶着可能なフィルム1が向き合うように対向させ、その間に上記芯材11を配置し、その後、上記芯材11の外周の一方を開口部とし、残り三方の上記外包材10同士の端部12を熱溶着することで、2枚の上記外包材10により形成され、内部に上記芯材11が配置された袋体を準備し、次いで、上記袋体の内部圧力を減圧した状態で上記開口部を密封することにより、上記芯材11が上記外包材10により封入されているものである。なお、図2中の符号については、図1と同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
【0023】
本発明によれば、高温高湿な環境において一定期間保持された後の上記外包材の寸法変化率が特定の範囲内であることにより、高温高湿な環境においても高いガスバリア性能を維持することができる外包材とすることができる。したがって、上記外包材を、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能なものとすることができる。
【0024】
初期熱伝導率が低い真空断熱材であっても、高温高湿な環境に曝されると、経時的に断熱性能が低下するのが一般的である。その原因としては様々なものが考えられるが、本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、高温高湿な環境に曝された際に寸法の変化が大きい外包材は、高温高湿な環境における経時的なガスバリア性能の劣化が大きいことを見出し、本発明に至ったのである。
【0025】
本発明の外包材は、熱溶着可能なフィルムおよびガスバリアフィルムを少なくとも有するものである。以下、本発明の外包材の各構成について説明する。
【0026】
1.真空断熱材用外包材の特性
(1)真空断熱材用外包材の水蒸気透過度
本発明の外包材は、水蒸気透過度が特定の範囲内のものが好ましい。すなわち、温度40℃、湿度90%RHの雰囲気下での上記外包材の水蒸気透過度が0.5g/m^(2)/day以下、中でも0.1g/m^(2)/day以下、特には0.05g/m^(2)/day以下であることが好ましい。上記外包材が上記範囲内の水蒸気透過度を有することにより、高い断熱性能を有する真空断熱材を形成できるからである。
【0027】
ここで、上記外包材の水蒸気透過度を上記特定の範囲内とすることは、真空断熱材の形成に用いられる前の外包材であっても、あるいは、真空断熱材の形成に用いられた後の外包材、すなわち真空断熱材の外包材の状態であっても、同様に好ましい。なお、上記水蒸気透過度は、温度40℃、湿度90%RHの条件で、水蒸気透過度測定装置を用いてJIS K7129に従い測定することができる。上記水蒸気透過度測定装置としては、米国モコン(MOCON)社製、パ-マトラン(PERMATRAN)を用いることができる。
【0028】
(2)真空断熱材用外包材の寸法変化率
本発明の外包材は、高温高湿な環境における寸法変化率が特定の範囲内のものである。すなわち、温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での上記外包材の寸法を基準とした場合に、上記外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、上記外包材の寸法変化率が0.8%以下、好ましくは0.7%以下、より好ましくは0.6%以下である。外包材の寸法変化率が上記範囲内であれば、外包材が高温高湿な環境に曝された場合でも、ガスバリアフィルムにかかる応力を抑制することができるため、ガスバリアフィルムへのクラックの発生を抑制することができ、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な外包材とすることができるからである。」

c「【0041】
(2)樹脂基材
樹脂基材は、上記バリア層を支持可能なものであれば特に限定されるものではない。例えば、樹脂フィルムが好適に用いられる。樹脂基材が樹脂フィルムである場合、上記樹脂フィルムは未延伸であってもよく、一軸または二軸延伸されたものであってもよい。上記樹脂基材は透明性を有していてもよく、有さなくてもよい。
【0042】
樹脂基材に用いられる樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)やエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物、各種のナイロン等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、アセタール樹脂、セルロース樹脂等の各種の樹脂を使用することができる。本発明においては、上記の樹脂の中でも、PET、ポリプロピレン、EVOH、PVA等が好適に用いられ、強靭性能、耐油性能、耐薬品性能、入手容易性等の各観点から、PETがより好適に用いられる。
【0043】
高温高湿な環境における外包材の寸法変化の要因としては、上記外包材を構成する各部材の寸法変化を挙げることができる。ガスバリアフィルムに用いられる樹脂基材は、外包材のガスバリア性能を主に担うバリア層がその上に形成される基材であるため、上記樹脂基材の寸法変化率が大きいと、上記バリア層に応力がかかり、上記バリア層にクラックが発生する可能性がある。したがって、外包材を構成する各部材の中でも特に、上記樹脂基材は、高温高湿な環境における寸法変化率が小さいものであることが好ましく、上述した外包材の寸法変化率と同様の寸法変化率である、すなわち、温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での上記樹脂基材の寸法を基準とした場合に、上記樹脂基材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、上記樹脂基材の寸法変化率が0.8%以下、中でも0.7%以下、特には0.6%以下であることが好ましい。樹脂基材の上記寸法変化率が上記範囲内であれば、外包材が高温高湿な環境に曝された場合でも、バリア層にかかる応力を抑制することができるため、バリア層へのクラックの発生を抑制することができ、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な外包材とすることができるからである。
【0044】
高温高湿な環境における部材の寸法変化の主な要因としては、当該部材の膨潤を挙げることができる。そのため、本発明において外包材を構成する各部材には、極性基を多く含有しないもの等、吸水性が低いものが用いられることが好ましい。また、複数の層が積層されて構成されることが一般的な外包材においては、真空断熱材とした際に外側となる層(熱溶着可能なフィルムと反対側の層)ほど、湿度による影響を受けやすいため、真空断熱材とした際に外側となる層は特に吸水性が低いものであることが好ましい。したがって本発明においては、上述した樹脂の中でも、吸水性が低い樹脂が樹脂基材に用いられることが好ましく、外包材が複数のガスバリアフィルムを有する場合、真空断熱材とした際に外側となるガスバリアフィルムの樹脂基材には、より吸水性が低い樹脂が用いられることが好ましい。
【0045】
上記樹脂基材には、種々のプラスチック配合剤や添加剤等が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料、改質用樹脂等が挙げられる。
【0046】
上記樹脂基材は、表面処理が施されていてもよい。バリア層との密着性を向上させることができるからである。上記表面処理としては、例えば、特開2014-180837号公報に開示される酸化処理、凹凸化処理(粗面化処理)、易接着コート処理等を挙げることができる。
【0047】
樹脂基材の厚みは、特に限定されないが、例えば6μm?200μmの範囲内、より好ましくは、9μm?100μmである。」

d「【0086】
3.熱溶着可能なフィルム
本発明における熱溶着可能なフィルムは、熱溶着が可能な層であり、上記外包材を用いて真空断熱材を形成する際に、芯材と接する部位である。また、対向する外包材同士の端部を熱溶着する熱溶着面を形成する部位である。
【0087】
上記熱溶着可能なフィルムの材料としては、加熱によって溶融し、融着することが可能であることから熱可塑性樹脂が好ましく、例えば直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレンや未延伸ポリプロピレン(CPP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0088】
本発明においては、上記樹脂の中でも、直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレンや未延伸ポリプロピレン(CPP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が熱溶着可能なフィルムの材料として用いられることが好ましい。上記材料が上述の樹脂であることにより、上記真空断熱材を形成した際に、上記外包材同士を貼り合わせた端部において上記ガスバリアフィルムへのクラックの発生をより抑制することができるからである。
【0089】
熱溶着可能なフィルムなど、外包材においてガスバリアフィルムと共に用いられる層が伸縮した場合、近接する上記ガスバリアフィルムのバリア層にも圧縮・引張応力がかかり、上記バリア層にクラックが生じ易くなる。そのため、本発明において上記熱溶着可能なフィルムは、高温高湿な環境における寸法変化率が小さいものであることが好ましく、上述した外包材の寸法変化率と同様の寸法変化率である、すなわち、温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での上記熱溶着可能なフィルムの寸法を基準とした場合に、上記熱溶着可能なフィルムを温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、上記熱溶着可能なフィルムの寸法変化率が0.8%以下、中でも0.7%以下、特には0.6%以下であることが好ましい。寸法変化率が小さい熱溶着可能なフィルムとするため、上記熱溶着可能なフィルムには上記樹脂の中でも、吸水性が低く、膨潤し難い樹脂が用いられることが好ましい。
【0090】
上記熱溶着可能なフィルムの融点としては、例えば80℃?300℃の範囲内であることが好ましく、中でも100℃?250℃の範囲内であることが好ましい。熱溶着可能なフィルムの融点が上記範囲に満たないと、本発明の外包材を用いて形成された真空断熱材の使用環境下において、外包材の封止面が剥離する可能性がある。また、熱溶着可能なフィルムの融点が上記範囲を超えると、外包材を高温で熱溶着する必要があるため、外包材として共に用いられるガスバリアフィルムや保護フィルム等が熱に因り劣化される可能性がある。
【0091】
また、上記熱溶着可能なフィルムは、上述した樹脂の他に、アンチブロッキング剤、滑剤、難燃化剤、有機充填剤等の他の材料を含んでいてもよい。
【0092】
上記熱溶着可能なフィルムの厚みは、例えば15μm?100μmの範囲内が好ましく、中でも25μm?90μmの範囲内が好ましく、特に30μm?80μmの範囲内が好ましい。熱溶着可能なフィルムの厚みが上記範囲よりも大きいと、外包材のバリア性能が低下する場合等があり、厚みが上記範囲よりも小さいと、所望の接着力が得られない場合がある。
【0093】
4.保護フィルム
本発明の外包材は、熱溶着可能なフィルムおよびガスバリアフィルムの他に、保護フィルムを有することが好ましい。熱溶着可能なフィルムやガスバリアフィルム等、外包材として共に用いられる各層を、損傷や劣化から保護することができるからである。保護フィルムは、そのいずれの面にも上述したバリア層が配置されていない点で、ガスバリアフィルムと区別することが可能である。上記保護フィルムの外包材における配置位置は特に限定されるものではないが、上記ガスバリアフィルムの上記熱溶着可能なフィルムとは反対の面側など、真空断熱材を形成する際に最外層(最表層)となる位置に、保護フィルムが配置されていることが好ましい。
【0094】
上記保護フィルムとしては、熱溶着可能なフィルムよりも高融点の樹脂を用いたものであればよく、シート状でもフィルム状でもよい。このような保護フィルムとして、例えば、ナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド(PI)等の熱硬化性樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVAL)、ポリアクリロニトリル(PAN)、セルロースナノファイバー(CNF)等のシートまたはフィルム等が挙げられ、中でもポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリ塩化ビニル(PVC)等が好適に用いられる。
【0095】
保護フィルムなど、外包材においてガスバリアフィルムと共に用いられる層が伸縮した場合、近接する上記ガスバリアフィルムのバリア層にも圧縮・引張応力がかかり、上記バリア層にクラックが生じ易くなる。そのため、本発明において上記保護フィルムは、高温高湿な環境における寸法変化率が小さいものであることが好ましく、上述した外包材の寸法変化率と同様の寸法変化率である、すなわち、温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での上記保護フィルムの寸法を基準とした場合に、上記保護フィルムを温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、上記保護フィルムの寸法変化率が0.8%以下、中でも0.7%以下、特には0.6%以下であることが好ましい。寸法変化率が小さい保護フィルムとするため、上記保護フィルムには上記樹脂の中でも、吸水性が低く、膨潤し難い樹脂が用いられることが好ましい。」

e「【0132】
[実施例1]
(接着剤の調製)
ポリエステルを主成分とする主剤、脂肪族系ポリイソシアネートを含む硬化剤、および酢酸エチルを、重量配合比が主剤:硬化剤:酢酸エチル=10:1:14となるように混合し、2液硬化型の接着剤を調製した。
【0133】
(真空断熱材用外包材の作製)
熱溶着可能なフィルム/第1ガスバリアフィルム/第2ガスバリアフィルム/保護フィルムの層構成を有する外包材を作製した。熱溶着可能なフィルムとして厚み50μmの直鎖状短鎖分岐ポリエチレンフィルム(TUX-HCE、三井化学東セロ社製)を、第1ガスバリアフィルムとして厚み12μmの、アルミニウム蒸着エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(VMXL、株式会社クラレ製)、第2ガスバリアフィルムとして厚み12μmの、アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(VM-PET1510、東レ株式会社製)を、保護フィルムとして厚み25μmのPETフィルム(ルミラー25QGG2、東レ株式会社製)を用いた。上記各層は、下層となる層の面上に上述の配合比で調製した接着剤を、塗布量3.5g/m^(2)となるようにドライラミネート法により積層した。
【0134】
[実施例2]
熱溶着可能なフィルムとして、厚み25μmのポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム(P782、ユニチカ株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして外包材を得た。
【0135】
[比較例1]
保護フィルムとして、厚み25μmのナイロンフィルム(エンブレムONBC、ユニチカ株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして外包材を得た。
【0136】
[評価]
(真空断熱材用外包材の寸法変化率の測定)
上記各実施例および比較例で得られた外包材について、高温高湿な環境における寸法変化率を測定した。寸法変化率は、温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での外包材の寸法を基準とし、上記「A.真空断熱材用外包材、1.真空断熱材用外包材の寸法変化率、(2)真空断熱材用外包材の寸法変化率」において説明されている方法により各温度・湿度における外包材の寸法を測定し、寸法変化率を求めた。測定結果を下記表1に示す。なお、下記表1の「寸法変化率(%)」における「温度70℃、湿度90%RH」の欄は、恒温恒湿過程終了後の各外包材の寸法変化率を、「温度25℃、湿度0%RH」の欄は、降温降湿過程終了後の各外包材の寸法変化率を示すものである。なお、正方形に形成した試料の任意の一辺に平行な方向を第1方向、前記任意の一辺に垂直な辺に平行な方向を第2方向とした。
【0137】
(真空断熱材用外包材の水蒸気透過度の測定)
上記各実施例および比較例で得られた各外包材について、初期の水蒸気透過度の測定と、各外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で100時間保持した後の水蒸気透過度の測定とを、以下の手順で行った。まず、2枚の外包材を準備し、上記2枚の外包材を、それぞれの熱溶着可能なフィルムが向き合うように対向させ、外包材の内側には何も内包されていない状態で、上記外包材の外周の全周を熱溶着し、密封された袋体を形成した。上記熱溶着は大気圧下で行い、上記袋体の内部も減圧しなかった。
【0138】
上記方法により形成され、上記密封された各袋体の、熱溶着されていない部分の外包材を切り取り、上記切り取った部分の外包材の水蒸気透過度を測定した。測定結果を下記表1に示す(下記表1の「0時間」)。また、上記方法により形成され、密封された各袋体を、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で100時間保持した後に、上記保持された各袋体の、熱溶着されていない部分の外包材を切り取り、上記切り取った部分の外包材の水蒸気透過度を測定した。測定結果を下記表1に示す(下記表1の「100時間」)。なお、上記各外包材の水蒸気透過度は、40℃、90%RHの雰囲気下で、水蒸気透過度測定装置(米国MOCON社製、PARMATRAN)を使用して、JIS K7129に従い測定した。
【0139】
【表1】

【0140】
(まとめ)
温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率が小さい実施例1?2の外包材は、高温高湿な環境において長時間保持した後の水蒸気透過度が低いことが分かる。一方、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率が大きい比較例1は、外包材の水蒸気透過度の初期値は実施例1?2と同程度であり、極めて低いが、高温高湿な環境において長時間保持した後の水蒸気透過度は実施例1?2よりも大幅に高いことが分かる。」

f 本件特許の願書には以下の図面が添付されている。


第3 申立理由の概要
1 特許異議申立人の主張の概要
(1)取消理由1
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

(2)取消理由2
本件発明1?6は、甲第1号証に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

(3)取消理由3
本件発明1?6は、甲第2号証に記載された発明である。

上記(1)によれば、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。
また、上記(2)?(3)によれば、本件発明1?6は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。

2 特許異議申立人が提出した証拠方法
(1)甲第1号証
特開2015-30184号公報

(2)甲第2号証
特開2011-58537号公報

第4 各甲号証の記載事項
1 甲第1号証
本件特許の出願日前に頒布された甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】
二枚のガスバリア性フィルムをイソシアネート系接着剤で貼り合わせて構成されるガスバリア性積層体において、
二枚の前記ガスバリア性フィルムのうち、一方を第1のガスバリア性フィルム、他方を第2のガスバリア性フィルムとしたとき、第1のガスバリア性フィルムがプラスチックフィルムを蒸着基材として、この蒸着基材の上に無機薄膜を形成したものであり、かつ、この蒸着基材が前記イソシアネート系接着剤に接触するように配置されていることを特徴とするガスバリア性積層体。」

(1b)「【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載のガスバリア性積層体を、その層構成中に含む真空断熱材用外装材。」

(1c)「【0006】
ドライラミネーションに使用する接着剤としてはイソシアネート系接着剤がその代表例として例示できる。そこで、イソシアネート系接着剤を使用して複数の蒸着フィルムを貼り合わせると、この接着剤のイソシアネート基の硬化反応に起因して、わずかに二酸化炭素ガスが発生する。そして、この二酸化炭素ガスは、二枚の蒸着フィルムの間に残留して気泡を生じることがあるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、二枚のガスバリア性フィルムをイソシアネート系接着剤で貼り合わせるにあたって、イソシアネート系接着剤に起因する気泡を生じることのない積層体を提供することを目的とするものである。」

(1d)「【0025】
本発明のガスバリア性積層体は、二枚のガスバリア性フィルムと、イソシアネート系接着剤とを必須の構成要素とするものである。この二枚のガスバリア性フィルムを区別するため、その一方を第1のガスバリア性フィルムと呼び、他方を第2のガスバリア性フィルムと呼んで、以下説明する。本発明のガスバリア性積層体を使用して真空断熱材用外装材1を作成したとき、一般に、第1のガスバリア性フィルムは外側方向に位置し、第2のガスバリア性フィルムは内面側に位置するものである。
【0026】
そして、第1のガスバリア性フィルムと第2のガスバリア性フィルムとを、イソシアネート系接着剤を挟んで貼り合わせ、イソシアネート系接着剤を反応硬化させることにより、本発明のガスバリア性積層体を得ることができる。なお、説明の便宜のため、イソシアネート系接着剤を反応硬化させて得られた接着層を、以下、「ウレタン系接着剤層」と呼ぶ。
【0027】
そして、こうして得られたガスバリア性積層体の内面側、すなわち、第2のガスバリア性フィルムにヒートシール層を積層することにより、真空断熱材用外装材1を得ることができる。このヒートシール層に加えて、表面保護層や中間強化層を積層して真空断熱材用外装材1とすることもできる。
【0028】
図1は、第1のガスバリア性フィルム20と第2のガスバリア性フィルム30とを、ウレタン系接着剤層ad2を介して貼り合わせ、その内面側にヒートシール層40、外面側に表面保護層10を積層して得られた真空断熱材用外装材1を示している。ヒートシール層40と表面保護層10とは、いずれも、ウレタン系接着剤層ad3,ad1を介して貼り合わせることができる。このため、図1に示す真空断熱材用外装材1は、その外面側から順に、表面保護層10、ウレタン系接着剤層ad1、第1のガスバリア性フィルム20、ウレタン系接着剤層ad2、第2のガスバリア性フィルム30、ウレタン系接着剤層ad3、ヒートシール層40という層構成を有している。」

(1e)「【0040】
ヒートシール層40としては、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ナイロン樹脂等を使用することができる。また、その他の樹脂と共押し出し製膜した共押し出しフィルムを使用することもできる。例えば、低密度ポリエチレンとエチレン-ビニルアルコール共重合体とを共押し出し製膜した二層構造の共押し出しフィルムである。また、低密度ポリエチレン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミドを共押し出し製膜した三層構造の共押し出しフィルムを使用することもできる。
【0041】
次に、表面保護層10は、外部からの突き刺し等に対する真空断熱材用外装材の耐性を向上させるものである。表面保護層10としては、機械的性質、物理的性質、化学的性質、その他の各種性質に優れたものを使用することが望ましい。例えば、機械的強度に優れ、耐熱性、防湿性、ピンホール耐性、突き刺し耐性などに優れたものである。
【0042】
このような表面保護層10としては、ナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが使用できる。未延伸のフィルム、延伸フィルムのいずれでもよいが、機械的強度や耐熱性の点から二軸延伸フィルムが好ましい。
【0043】
表面保護層10として好ましいものは二軸延伸ナイロンフィルムである。表面保護層10として二軸延伸ナイロンフィルムを用いることにより、突き刺し耐性が向上すると共に、外装材の強靭性が高まる。また、ポリプロピレンフィルムと延伸ナイロンフィルムとを積層した積層フィルムを表面保護層10として利用してもよい。この場合にも、突き刺し耐性が向上すると共に、真空断熱材用外装材1の強靭性が高めることができる。厚みは9?50μmでよい。」

(1f)「【0050】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。
【0051】
(実施例)
第1のガスバリア性フィルム20として、融点255℃のポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ12μm)から成る蒸着基材21の上に、アルミナ薄膜22を形成した蒸着フィルムを準備した。また、第2のガスバリア性フィルム30として、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(厚さ15μm)から成る蒸着基材31の上に、アルミニウムの薄膜32を形成した蒸着フィルムを準備した。そして、第1のガスバリア性フィルム20の蒸着基材21と第2のガスバリア性フィルム30のアルミニウム薄膜32とが向かい合うように配置して、市販の二液硬化型ウレタン系接着剤によりドライラミネートして、ガスバリア性積層体を製造した。
【0052】
次に、延伸ナイロンフィルム(厚さ15μm)を表面保護層10として、前記ガスバリア性積層体のアルミナ薄膜22の上にドライラミネートした。接着剤としては、市販の二液硬化型ウレタン系接着剤を使用した。
【0053】
そして、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(厚さ15μm)をヒートシール層40として、ガスバリア性積層体のエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム31の上にドライラミネートした。接着剤としては、市販の二液硬化型ウレタン系接着剤を使用した。
【0054】
こうして得られた真空断熱材用外装材1は図1の断面図に示す層構成を有するものである。すなわち、外面側から、順に、表面保護層(延伸ナイロンフィルム)10、ウレタン系接着剤層ad1、第1の無機薄膜(アルミナ薄膜)22、第1の蒸着基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)21、ウレタン系接着剤層ad2、第2の無機薄膜(アルミニウム薄膜)32、第2の蒸着基材(エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム)31、ウレタン系接着剤層ad3、ヒートシール層(直鎖状低密度ポリエチレンフィルム)40という層構成を有している。」

(1g)甲第1号証には以下の図が示されている。


以上の記載事項(1a)?(1g)を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
「ガスバリア性積層体を、その層構成中に含む真空断熱材用外装材1であって、
上記ガスバリア性積層体は、
二枚のガスバリア性フィルムをイソシアネート系接着剤で貼り合わせて構成されるガスバリア性積層体において、
二枚の前記ガスバリア性フィルムのうち、一方を第1のガスバリア性フィルム20、他方を第2のガスバリア性フィルム30としたとき、第1のガスバリア性フィルム20がプラスチックフィルムを蒸着基材21として、この蒸着基材21の上に無機薄膜22を形成したものであり、かつ、この蒸着基材21が前記イソシアネート系接着剤に接触するように配置されているガスバリア性積層体であって、
第2のガスバリア性フィルム30にヒートシール層40を積層することにより得られる真空断熱材用外装材1。」

2 甲第2号証
本件特許の出願日前に頒布された甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【請求項3】
請求項1または2において、
前記外被材の最外層は延伸されたポリオレフィンで構成され、その吸水率が0より大きく1.0%以下であることを特徴とする真空断熱材。」

(2b)「【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の真空断熱材では、表面基材であるポリアミドの吸水性、吸湿性が高いため、基材に吸着している水分が真空排気の阻害要因となってしまい、高性能な真空断熱材を得ることに課題が生じていた。
【0006】
また、特許文献2に記載の真空断熱材では、ポリオレフィンが極性基を持たないため、真空断熱材表面のぬれ張力(表面張力)が小さくなり、硬質発泡ポリウレタンやホットメルト接着剤等の極性を持った材料との接着力が劣るため、真空断熱材の箱体からの剥がれによる不良や箱体の強度低下の懸念があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、箱体との接着力を高めて箱体強度を向上させるとともに、断熱性能に優れた真空断熱材を提供することを目的とするものである。」

(2c)「【0017】
次に、図2を用いて真空断熱材1における各基材の構成、加工条件等について詳細に説明する。図2において、外被材2とは、真空断熱材1の内部を真空状態に保つために芯材を覆うものである。外被材2は外層より、表面保護層2b、ガスバリア層2c、熱溶着層2dにより構成される。そして、表面保護層2bの外側には、コロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理等による表面修飾、表面改質処理が施された外被材の表面処理部6がある。表面保護層2bは耐傷付き性、耐衝撃性に対応するためのものであり、ガスバリア層2cはガスバリア性を確保するためのものであり、熱溶着層2dは熱溶着によって真空断熱材1の内部を密閉するためのものである。したがって、これらの目的に適うものであれば、全ての公知材料が使用可能である。」

(2d)「【0022】
外被材2の具体的構成としては、表面保護層2bとして二軸延伸ポリポロピレン、2層のガスバリア層2cとしてそれぞれアルミニウムを蒸着したポリエチレンテレフタレート及びアルミニウムを蒸着したエチレン-ビニルアルコール共重合体、熱溶着層2dとして直鎖状低密度ポリエチレンを用いたラミネートフィルムが例として挙げられる。このとき、ガスバリア層2cにおける互いのアルミニウム蒸着面を貼り合わせると、ガスバリア性がより高くなる。また、各層を接着するための接着剤としては2液硬化型ポリウレタン系接着剤が用いられるが、特にこれに限定されるわけではない。例えば、代わりにアクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコン系接着剤等を用いてもよい。そして、この外被材2はその周縁部で熱溶着層2d同士を貼り合わせた袋として使用される。
【0023】
また、更に改善する手段として、例えば、表面保護層2bに金属または無機酸化物を蒸着することで耐衝撃性の他にガスバリア性を付加したり、ガスバリア層2cに金属蒸着または無機酸化物蒸着を有するフィルムを設けたり、あるいは金属箔を用いてもよい。用いる金属としては、アルミニウムやステンレス等が挙げられ、無機酸化物としては、シリカ蒸着等が挙げられる。
【0024】
また、外被材の最外層には、延伸されたポリオレフィンを用い、その吸水率が0より大きく1.0%以下であることが望ましく、特に、その最外層は二軸延伸ポリプロピレンであればさらに良い。このように、外被材の最外層に吸水率の小さいポリオレフィン、特に二軸延伸ポリプロピレンを用いることで、外からの水分が外被材に入り込むことが少なくなり、真空パック前の乾燥時において、表面保護層2bの表面に付着した水分や内部(表面近傍の内部)に含まれる水分を除去することができ、真空パック時により真空度を高めることができるため、真空断熱材の断熱機能の高性能化が可能である。」

(2e)「【0049】
「実施例1」
本実施形態で述べた作製方法による真空断熱材1において、各材料構成を以下のように選定した。外被材2は表面保護層2b、ガスバリア層2c、及び熱溶着層2dで構成され、それぞれ表面保護層2bとして両面がコロナ処理された二軸延伸ポリプロピレンフィルム(20μm)、図2に示す2層のガスバリア層2cとしてアルミニウムを蒸着(厚さ50nm)したポリエチレンテレフタレートフィルム(12μm)及びアルミニウムを蒸着(厚さ50nm)したエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(12μm)、熱溶着層2dとして直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(30μm)としたラミネートフィルムを用いた。各層間は2液硬化型ポリウレタン系接着剤で接着し、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムについては、アルミニウム蒸着面同士を向かい合わせる構成とした。外被材2の表面におけるぬれ張力は41mN/mであり、表面層の吸水率は0.01%であった。」

(2f)「【0064】
「実施例5」
実施例1に記載の真空断熱材1を冷蔵庫21に適用する場合における本実施形態の実施例5について、図4と図5を用いて以下説明する。
【0065】
冷蔵庫21はABS樹脂を成形した内箱と鋼板を成形して組み合わせてなる外箱とからなり、内部に発泡断熱材25が固まった状態で充填されている箱体と、発泡断熱材25が固まった状態で充填された扉24を備えた構造となっている。扉24の内部に真空断熱材1を配設し、発泡断熱材25を充填してもよい。
【0066】
箱体は仕切り等によって2室以上に分割されており、冷蔵室28、冷凍室31、野菜室32、を備え、さらに、冷蔵室28と冷凍室31の間には小形の冷凍室と製氷室が備えられている。最上段が冷蔵室28、2段目に冷凍室(小形)と製氷室があり、3段目に冷凍室(大形)31、最下段が野菜室32となっている。冷蔵庫21は少なくとも内箱22と外箱23の間に真空断熱材1が設けられており、具体的位置としては、冷蔵庫21における天井部、側面部、背面部及び底面部に配設されている。
【0067】
図5で示すように、真空断熱材1の表面にホットメルト等の接着剤26をロールコータ等によって塗布し、外箱23に貼り付けることで固定する。その上で、内箱22と外箱23の内部空間に硬質発泡ポリウレタン25の原液を投入し、発泡、硬化させることで硬質発泡ポリウレタン25を固まった状態で隙間無く充填し、箱体を完成させる。図5に示す断面構造から解るように、真空断熱材1の外被材表面が表面改質処理により極性基が形成され、この外被材表面とホットメルト接着剤26との接着力によって、外箱23は真空断熱材1に強固に固着され、さらに、外箱23と反対側の真空断熱材1の外被材表面も極性基を有して、この外被材表面と硬質発泡ポリウレタン25との接着力によって、真空断熱材1は硬質発泡ポリウレタン25に強固に固着されている。そうすると、外箱23は、外箱との間で強固に接着された真空断熱材1と、真空断熱材1との間で強固に接着された硬質発泡ポリウレタン25と、の固着関係によって、その強度が向上するという効果を期待できる。ここで、上述した外被材表面の表面改質処理により形成された極性基に加えて、芯材の有機繊維系の適宜の選択による芯材表面の細かい凹凸形状に対応した外被材表面の細かい凹凸形状の形成により、その凹凸形状のアンカー効果でホットメルト接着材との一層の接着力の強化を図ることができる。
【0068】
ここで、天井部及び底面部に適用される真空断熱材1は冷蔵庫21における内部形状に沿って段曲げされる。天井部には電気基板とそれを収めるケース27が配設されており、この形状に合わせて略Z形状に真空断熱材1を段曲げした。このとき、真空断熱材1がケース27に接触しない形状とし、真空断熱材1とケース27の間に硬質発泡ポリウレタン25が固まった状態で充填されるようにした。
【0069】
真空断熱材1と硬質発泡ポリウレタン25との接触面積は、真空断熱材1がケース27に接触する形状の場合と比べて大きくなるため、接着力の高い真空断熱材1を適用した冷蔵庫の箱体強度がより大きくなる。また、硬質発泡ポリウレタン25の原液が高流動性であるため、ケース27の形状に追従して発泡断熱材を隙間無く充填できると共に、電気基板からの熱が真空断熱材1に直接掛からないため(硬質発泡ポリウレタン25が介在しているため)、ヒートブリッジが軽減され、断熱性能を向上できるようになる。また、電気基板の熱によって真空断熱材1が劣化することを抑制し、長期に亘って高い断熱性能を維持することが可能となり、冷蔵庫21の省エネ性能が向上する。なお、同様に冷凍庫、ショーケース、保冷車等の冷却機器や断熱容器にも適用が可能である。
【0070】
本発明における実施例に対し、将来的に高ガスバリア、低吸水性の新規材料が開発された場合も、本発明の手法を同様に適用可能であり、上述した実施例に記載の結果よりも良くなるものと考える。このように、本発明の実施形態によって、省エネ性能が高く、外観歪みの少ない冷蔵庫等の冷却機器、断熱容器を得ることができる。
【0071】
以上説明したように、本発明の実施形態の特徴は、次のような構成を備え、機能乃至作用を奏するものである。すなわち、本実施形態の真空断熱材は、芯材と、ガスバリア性を有する外被材とを備えた真空断熱材において、外被材はプラスチックラミネートフィルムにより構成され、外被材の最外層表面は酸化処理され、極性基が形成されたプラスチックフィルムであり、真空断熱材における外被材の表面層を極性基が形成されたプラスチックフィルムとすることで、硬質発泡ポリウレタン等の発泡断熱体やホットメルト接着剤との接着力を向上できる。
【0072】
また、外被材の最外層表面におけるぬれ張力を34mN/m?70mN/mとするものであり、外被材の最外層表面におけるぬれ性を高めることで、硬質発泡ポリウレタン等の発泡断熱体やホットメルト接着剤との接着力を向上できる。
【0073】
また、外被材の最外層は延伸されたポリオレフィンが用いられ、その吸水率が0より大きく1.0%以下であり、特に、その外被材の最外層が二軸延伸ポリプロピレンであり、外被材の最外層に吸水率の小さいポリオレフィン、特に二軸延伸ポリプロピレンを用いることで、真空パック前の乾燥時において水分除去をしやすくし、真空パック時により真空度を高めることができるため、真空断熱材の高性能化が可能である。」

(2g)甲第2号証には以下の図が示されている。


以上の記載事項(2a)?(2g)を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認める。
「真空断熱材1の内部を真空状態に保つために芯材を覆う外被材2であって、
外被材2は外層より、表面保護層2b、ガスバリア層2c、熱溶着層2dにより構成され、
上記2層のガスバリア層2cはそれぞれアルミニウムを蒸着したポリエチレンテレフタレート及びアルミニウムを蒸着したエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、
外被材の最外層には、延伸されたポリオレフィンを用い、その吸水率が0より大きく1.0%以下であり、
上記ポリオレフィンは、ポリプロピレンである
外被材2。」

第6 当審の判断
1 取消理由1(特許法第36条第6項第1号)について
(1)検討

ア 本件発明1?6は「外包材単体では十分なガスバリア性能を発揮することが確認できている場合であっても、上記外包材を用いて真空断熱材を形成した場合に、十分に真空状態を保てず、長期間断熱性能を維持することができないといった問題がある。特に、真空断熱材が高温高湿な環境に曝される場合、初期熱伝導率が低い真空断熱材であっても、断熱性能が経時的に低下するという問題がある。」ことに鑑み、「高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材等を提供する」という課題を解決するために、発明特定事項として、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下である」ことを特定したものと理解することができる(記載事項a)。

イ 上記「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下である」という発明特定事項に対応する本件明細書の段落【0023】?【0024】の「本発明によれば、高温高湿な環境において一定期間保持された後の上記外包材の寸法変化率が特定の範囲内であることにより、高温高湿な環境においても高いガスバリア性能を維持することができる外包材とすることができる。したがって、上記外包材を、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能なものとすることができる。初期熱伝導率が低い真空断熱材であっても、高温高湿な環境に曝されると、経時的に断熱性能が低下するのが一般的である。その原因としては様々なものが考えられるが、本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、高温高湿な環境に曝された際に寸法の変化が大きい外包材は、高温高湿な環境における経時的なガスバリア性能の劣化が大きいことを見出し、本発明に至ったのである。」という記載、段落【0028】の「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での上記外包材の寸法を基準とした場合に、上記外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、上記外包材の寸法変化率が0.8%以下、好ましくは0.7%以下、より好ましくは0.6%以下である。外包材の寸法変化率が上記範囲内であれば、外包材が高温高湿な環境に曝された場合でも、ガスバリアフィルムにかかる応力を抑制することができるため、ガスバリアフィルムへのクラックの発生を抑制することができ、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な外包材とすることができるからである。」(いずれも記載事項b)という記載を参照すると、本件明細書における発明の詳細な説明には、温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での外包材の寸法を基準とした場合に、上記外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、上記外包材の寸法変化率が0.8%以下であれば、外包材が高温高湿な環境に曝された場合でも、ガスバリアフィルムにかかる応力を抑制することができるため、ガスバリアフィルムへのクラックの発生を抑制することができ、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができることが記載されている。
また、段落【0132】?【0140】(記載事項e)には、寸法変化率が0.53(第1方向)、0.25(第2方向)である実施例1、0.49(第1方向)、0.19(第2方向)である実施例2及び0.96(第1方向)、0.72(第2方向)である比較例1において、いずれも水蒸気透過度が0.30(g/m^(2)/day)だったものが、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で100時間保持した後には、それぞれ2.40(g/m^(2)/day)、1.35(g/m^(2)/day)に、4.84(g/m^(2)/day)となり、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率が小さい実施例1?2の外包材は、高温高湿な環境において長時間保持した後の水蒸気透過度が低いことが記載されているから、実施例1及び2は、比較例1と比較して、「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で100時間」、すなわち「高温高湿な環境においても長期間」保持した場合においても、水蒸気透過度が低い、すなわち「断熱性能を維持」していると理解できる。
そうすると、本件明細書には、「ガスバリアフィルムにかかる応力を抑制することができるため、ガスバリアフィルムへのクラックの発生を抑制することができ」るという作用機序及び「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」を満足する実施例において、高温高湿な環境において長時間保持した後の水蒸気透過度が低いことが記載されており、また、真空断熱材用外包材の各部材の材質等が特定されないと上記作用機序を敷衍できないという技術常識等があるともいえないから、本件明細書における発明の詳細な説明の記載から、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」という特定事項により、「ガスバリアフィルムにかかる応力を抑制することができるため、ガスバリアフィルムへのクラックの発生を抑制することができ」、高温高湿な環境において長時間保持した後の水蒸気透過度を低くできる、すなわち「高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材等を提供する」という本願発明の上記課題を解決できると当業者が認識できるといえる。

ウ 特許異議申立人は、本件の請求項1?6に係る各発明(以下「本件特許発明」という。)はその構成要件である「熱溶着可能なフィルム」、「ガスバリアフィルム」、ガスバリアフィルムを構成する「樹脂基材」、「バリア層」などについて、これらの材質等が特定されていないが、本件明細書において実施例として記載されているのは、熱溶着可能なフィルムのみが異なる実施例1、2というわずか2つのみで、また比較例1として記載されているのは厚み25μmのナイロンフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様の外包材であるところ、本件特許発明に包含される多数の種類の真空断熱材用外包材について、「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率が0.8%以下」である場合に、「高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材を提供すること」が可能であることについて、本件特許の出願時における技術常識が存在しているとはいえないので、本件特許発明に包含される多数の種類の真空断熱材用外包材について、本件明細書の実施例1、2及び比較例1の記載のみでは、本件特許発明の課題が解決可能であるかどうか当業者が理解できない、旨主張し(特許異議申立書第8ページ第22行?第9ページ第27行。以下「主張A」という。)、特に、上記比較例1におけるものよりも厚さの薄いナイロンフィルムを用いた場合に「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率が0.8%以下」である真空断熱材用外包材を得ることが可能であることを前提として、そのようなナイロンフィルムを用いた真空断熱材用外包材が、本件明細書及び出願時の技術常識に照らして「高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材」であるか不明である、旨主張する(特許異議申立書第9ページ第28行?第10ページ第25行。以下「主張B」という。)ので、以下検討する。

エ まず、上記主張Aについて検討する。
本件発明1?6は、その発明特定事項である「熱溶着可能なフィルム」、「ガスバリアフィルム」、ガスバリアフィルムを構成する「樹脂基材」、「バリア層」などについて、その材質等を特定していないが、上記イで述べたとおり、本件明細書における発明の詳細な説明の記載から、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」という特定事項により、「高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材等を提供する」という本願発明の課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張Aは採用できない。

オ 次に上記主張Bについて検討する。
特許異議申立人は上記主張Bの根拠となる具体的な技術常識や証拠等を示していないので、上記比較例1におけるものよりも厚さの薄いナイロンフィルムを用いた場合に「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率が0.8%以下」である外包材を得ることが可能であるかどうかはともかく、上記イで述べたとおり、本件明細書の記載から、上記比較例1におけるものよりも厚さの薄いナイロンフィルムを用いた場合、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」という特定事項を充足すれば、「ガスバリアフィルムにかかる応力を抑制することができるため、ガスバリアフィルムへのクラックの発生を抑制することができ」、「高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材等を提供する」という本願の課題を解決できると当業者は理解できるといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張Bは採用できない。

(2)小括
以上より、本件発明1?6が、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。

2 取消理由2(特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1を対比する。

(ア)引用発明1の「ヒートシール層40」及び「ガスバリア性フィルム」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「熱溶着可能なフィルム」及び「ガスバリアフィルム」にそれぞれ相当する。

(イ)上記(ア)を踏まえると、引用発明1の「真空断熱材用外装材1」が「ヒートシール層40を積層することにより得られる」ものであり、「二枚のガスバリア性フィルムをイソシアネート系接着剤で貼り合わせて構成されるガスバリア性積層体」を「その層構成中に含む」ことは、本件発明1の「熱溶着可能なフィルムおよびガスバリアフィルムを有する真空断熱材用外包材」に相当する。

(ウ)引用発明1の「ガスバリア性フィルム」は、「一方を第1のガスバリア性フィルム20」「としたとき」、「第1のガスバリア性フィルム20」が「プラスチックフィルム」である「蒸着基材21」の上に「無機薄膜22を形成したもの」である。
そうすると、引用発明1の「プラスチックフィルム」である「蒸着基材21」及び「無機薄膜22」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「樹脂基材」及び「バリア層」にそれぞれ相当する。

以上のことから、本件発明1と引用発明1とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
<一致点1>
「熱溶着可能なフィルムおよびガスバリアフィルムを有する真空断熱材用外包材であって、
前記ガスバリアフィルムは、樹脂基材と、前記樹脂基材の少なくとも一方の面側に配置されたバリア層とを有する真空断熱材用外包材。」

<相違点1>
本件発明1は、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」であるのに対し、
引用発明1は、そのように特定されていない点。

イ 判断
(ア)上記相違点1に係る本件発明1の構成は、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」である真空断熱材用外包材というものである。
「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率」について、本件発明1で具体的上限値が特定されている意義について検討する。
本件発明1は、「高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材等を提供する」(記載事項a)ためになされたものであって、当該課題及び記載事項b、f等を踏まえて検討すると、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率」が「0.8%以下」であることの意義は、外包材が高温高湿な環境に曝された場合でも、ガスバリアフィルムにかかる応力を抑制することができるため、ガスバリアフィルムへのクラックの発生を抑制することができ、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができることにあると理解できる。

(イ)甲第1号証の段落【0006】?【0007】の「イソシアネート系接着剤を使用して複数の蒸着フィルムを貼り合わせると、この接着剤のイソシアネート基の硬化反応に起因して、わずかに二酸化炭素ガスが発生する。そして、この二酸化炭素ガスは、二枚の蒸着フィルムの間に残留して気泡を生じることがあるという問題があった。・・・本発明は、二枚のガスバリア性フィルムをイソシアネート系接着剤で貼り合わせるにあたって、イソシアネート系接着剤に起因する気泡を生じることのない積層体を提供することを目的とする」(記載事項(1c))という記載を参照すると、引用発明1は、二枚のガスバリア性フィルムをイソシアネート系接着剤で貼り合わせるにあたって、イソシアネート系接着剤に起因する気泡を生じることのない積層体を提供するという課題を解決するものであり、甲第1号証の段落【0041】の「表面保護層10は、外部からの突き刺し等に対する真空断熱材用外装材の耐性を向上させるものである。表面保護層10としては、・・・耐熱性、防湿性・・・に優れたものである。」(記載事項(1e))という記載を参照すると、甲第1号証には、真空断熱材用外装材の耐性を向上させるために表面保護層10に耐熱性、防湿性に優れた材質を使用することが記載されているといえる。
しかし、甲第1号証の上記記載は外部からの突き刺し等に対する耐性を向上させるために表面保護層10の材質を選択することを示しているにすぎず、また、寸法変化率について一切記載されていないから、甲第1号証に記載された技術的事項は、「外包材が高温高湿な環境に曝された場合でも、ガスバリアフィルムにかかる応力を抑制することができるため、ガスバリアフィルムへのクラックの発生を抑制することができ」るように、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率」を「0.8%以下」とする本件発明1とは、課題及び構成の点で異なる。そうすると、上記相違点1に係る本件発明1の構成のように、寸法変化率を最適化又は好適化することが、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものであるとはいえない。
また、上記寸法変化率を「0.8%以下」とすることは本願出願日前における周知技術でもないので、引用発明1が「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」であると当業者が理解することはできないし、引用発明1において「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」とすることを当業者が容易に想到し得るともいえない。

(ウ)特許異議申立人は、真空断熱材用外包体など、異なる材質の複数のシートを積層した積層体について、使用される環境の変化等に伴い、温度や湿度など、積層体の雰囲気が変化した場合、積層体の各層を形成する各シートの膨張率・収縮率等の相違により、積層体の備える特性に何らかの影響を及ぼす可能性があること、そして積層体の雰囲気の変化に伴う寸法変化率が小さいものであれば、層間の応力歪等の影響が小さくなるため、積層体の備える特性への影響を小さくできる可能性が高いことが当業者の技術常識であり、さらに、真空断熱材用外包材などに用いられる積層体の性能評価を行う際に、当該積層体が使用される雰囲気のうち、より高温高湿や低温といえる雰囲気を選択することも当業者の技術常識であるところ、「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気」は、真空断熱材用外包材として用いられる積層体が使用される雰囲気において高温高湿といえるから、上記の各技術常識に基づいて、真空断熱材用外包材として用いられる積層体の性能を評価する雰囲気として「温度25%、湿度0%RHの雰囲気下」と、「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後」とを選択し、両雰囲気下における寸法変化を評価すること、及び真空断熱材用外包材の寸法変化率を0.8%以下と設定することは設計事項の域を出るものでない旨主張し(特許異議申立書第13ページ第17行?第14ページ第6行。以下「主張C」という。)、また、本件明細書の比較例1におけるものよりも厚さの薄いナイロンフィルムを用いた場合に「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率」が上記比較例1のものよりも小さくなることを前提として、甲第1号証の段落【0052】に表面保護層として(上記比較例1におけるものよりも厚さの薄い)厚さ15μmの延伸ナイロンフィルムを用いた真空断熱材用外装材が記載されているから、甲第1号証に記載された当該真空断熱材用外装材は「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率が0.8%以下」である蓋然性が高い、旨主張する(特許異議申立書第9ページ第33行?第10ページ第7行、第14ページ第11?24行。以下「主張D」という。)ので、以下検討する。

(エ)まず、上記主張Cについて検討する。
特許異議申立人は、出願時の技術常識について、いずれも具体的な証拠を示していないから、かかる技術常識を前提とする主張を直ちに採用することはできない。
仮に「異なる材質の複数のシートを積層した積層体について、使用される環境の変化等に伴い、温度や湿度など、積層体の雰囲気が変化した場合、積層体の各層を形成する各シートの膨張率・収縮率等の相違により、積層体の備える特性に何らかの影響を及ぼす可能性があること、そして積層体の雰囲気の変化に伴う寸法変化率が小さいものであれば、層間の応力歪等の影響が小さくなるため、積層体の備える特性への影響を小さくできる可能性が高いこと」、「真空断熱材用外包材などに用いられる積層体の性能評価を行う際に、当該積層体が使用される雰囲気のうち、より高温高湿や低温といえる雰囲気を選択すること」がいずれも技術常識であるとしても、これらの技術常識を結びつけた上で、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気及び寸法変化率に着目し、引用発明1において、上記「外包材が高温高湿な環境に曝された場合でも、ガスバリアフィルムにかかる応力を抑制することができるため、ガスバリアフィルムへのクラックの発生を抑制することができ、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる」という意義を有する、上記相違点1に係る本件発明1の「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」という構成を有するものとすることを、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張Cは採用できない。

(オ)次に上記主張Dについて検討する。
a 本件明細書の段落【0132】?【0135】の「[実施例1]・・・熱溶着可能なフィルム/第1ガスバリアフィルム/第2ガスバリアフィルム/保護フィルムの層構成を有する外包材を作製した。熱溶着可能なフィルムとして厚み50μmの直鎖状短鎖分岐ポリエチレンフィルム(TUX-HCE、三井化学東セロ社製)を、第1ガスバリアフィルムとして厚み12μmの、アルミニウム蒸着エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(VMXL、株式会社クラレ製)、第2ガスバリアフィルムとして厚み12μmの、アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(VM-PET1510、東レ株式会社製)を、保護フィルムとして厚み25μmのPETフィルム(ルミラー25QGG2、東レ株式会社製)を用いた。上記各層は、下層となる層の面上に上述の配合比で調製した接着剤を、塗布量3.5g/m^(2)となるようにドライラミネート法により積層した。・・・[比較例1]保護フィルムとして、厚み25μmのナイロンフィルム(エンブレムONBC、ユニチカ株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして外包材を得た。」(記載事項e)という記載及び段落【0139】の【表1】(記載事項e)を参照すると、熱溶着可能なフィルム/第1ガスバリアフィルム/第2ガスバリアフィルム/保護フィルムの層構成を有する外包材において、厚み50μmの直鎖状短鎖分岐ポリエチレンフィルム(TUX-HCE、三井化学東セロ社製)/厚み12μmの、アルミニウム蒸着エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(VMXL、株式会社クラレ製)/厚み12μmの、アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(VM-PET1510、東レ株式会社製)/厚み25μmのナイロンフィルム(エンブレムONBC、ユニチカ株式会社製)である外包材(比較例1)の温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した寸法変化率は第1方向0.96%、第2方向0.72%である。

b 上記アの(ア)?(ウ)を踏まえて、甲第1号証の段落【0051】?【0054】の「第1のガスバリア性フィルム20として、融点255℃のポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ12μm)から成る蒸着基材21の上に、アルミナ薄膜22を形成した蒸着フィルムを準備した。また、第2のガスバリア性フィルム30として、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(厚さ15μm)から成る蒸着基材31の上に、アルミニウムの薄膜32を形成した蒸着フィルムを準備した。・・・延伸ナイロンフィルム(厚さ15μm)を表面保護層10として、前記ガスバリア性積層体のアルミナ薄膜22の上にドライラミネートした。・・・直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(厚さ15μm)をヒートシール層40として、ガスバリア性積層体のエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム31の上にドライラミネートした。・・・真空断熱材用外装材1は・・・外面側から、順に、表面保護層(延伸ナイロンフィルム)10、ウレタン系接着剤層ad1、第1の無機薄膜(アルミナ薄膜)22、第1の蒸着基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)21、ウレタン系接着剤層ad2、第2の無機薄膜(アルミニウム薄膜)32、第2の蒸着基材(エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム)31、ウレタン系接着剤層ad3、ヒートシール層(直鎖状低密度ポリエチレンフィルム)40という層構成を有している。」(記載事項(1e))という記載を参照すると、甲第1号証には、熱溶着可能なフィルム/第1ガスバリアフィルム/第2ガスバリアフィルム/保護フィルムの層構成を有する外包材において、厚さ15μmのヒートシール層(直鎖状低密度ポリエチレンフィルム)40/第2の無機薄膜(アルミニウム薄膜)32及び厚さ15μmの第2の蒸着基材(エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム)31/第1の無機薄膜(アルミナ薄膜)22及び厚さ12μmの第1の蒸着基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)21/厚さ15μmの表面保護層(延伸ナイロンフィルム)10である外包材が記載されているといえる。

c 仮に、本件明細書の比較例1におけるものよりも厚さの薄いナイロンフィルムを用いた場合に「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率」が上記比較例1のものよりも小さくなるとしても、その具体的な寸法変化率の値は判然としない。
したがって、仮に、本件明細書の比較例1におけるものよりも厚さの薄いナイロンフィルムを用いた場合に「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率」が上記比較例1のものよりも小さくなるとしても、上記「熱溶着可能なフィルム/第1ガスバリアフィルム/第2ガスバリアフィルム/保護フィルムの層構成を有する外包材において、厚さ15μmのヒートシール層(直鎖状低密度ポリエチレンフィルム)40/第2の無機薄膜(アルミニウム薄膜)32及び厚さ15μmの第2の蒸着基材(エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム)31/第1の無機薄膜(アルミナ薄膜)22及び厚さ12μmの第1の蒸着基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)21/厚さ15μmの表面保護層(延伸ナイロンフィルム)10である外包材」の「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率」が上記相違点1に係る本件発明1の、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」という構成と相違しないとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張Dは採用できない。

(カ)以上より、引用発明1(甲第1号証に記載された発明)を根拠に、上記相違点1に係る本件発明1の構成が容易に想到できたものということはできない。

(2)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、少なくとも本件発明1の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(1)のとおり、本件発明1が当業者にとって容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に、本件発明2?4は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)本件発明5について
本件発明5は、「真空断熱材」の発明であるが、実質的に本件発明1の「真空断熱材用外包材」の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(1)のとおり、本件発明1が当業者にとって容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に、本件発明5は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4)本件発明6について
本件発明6は、「真空断熱材付き機器」の発明であるが、実質的に本件発明1の「真空断熱材用外包材」の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(1)のとおり、本件発明1が当業者にとって容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に、本件発明6は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

3 取消理由3(特許法第29条第1項第3号)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明2を対比する。

(ア)引用発明2の「熱溶着層2d」及び「ガスバリア層2c」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「熱溶着可能なフィルム」及び「ガスバリアフィルム」にそれぞれ相当する。

(イ)上記(ア)を踏まえると、引用発明2の「外被材2」が「表面保護層2b、ガスバリア層2c、熱溶着層2dにより構成され」ることは、本件発明1の「熱溶着可能なフィルムおよびガスバリアフィルムを有する真空断熱材用外包材」に相当する。

(ウ)引用発明2の「ガスバリア層2c」は「アルミニウムを蒸着したポリエチレンテレフタレート及びアルミニウムを蒸着したエチレン-ビニルアルコール共重合体」である。
そうすると、引用発明2の「ポリエチレンテレフタレート」及び「エチレン-ビニルアルコール共重合体」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「樹脂基材」に相当する。
また、引用発明2の「アルミニウム」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「バリア層」に相当する。

以上のことから、本件発明1と引用発明2とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
<一致点2>
「熱溶着可能なフィルムおよびガスバリアフィルムを有する真空断熱材用外包材であって、
前記ガスバリアフィルムは、樹脂基材と、前記樹脂基材の少なくとも一方の面側に配置されたバリア層とを有する真空断熱材用外包材。」

<相違点2>
本件発明1は、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」であるのに対し、
引用発明2は、そのように特定されていない点。

イ 判断
(ア)上記相違点2に係る本件発明1の構成は、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」である真空断熱材用外包材というものである。
当該相違点2が実質的な相違点といえるかどうか検討する。
甲第2号証の段落【0005】?【0006】の「上記の特許文献1に記載の真空断熱材では、表面基材であるポリアミドの吸水性、吸湿性が高いため、基材に吸着している水分が真空排気の阻害要因となってしまい、高性能な真空断熱材を得ることに課題が生じていた。・・・特許文献2に記載の真空断熱材では、ポリオレフィンが極性基を持たないため、真空断熱材表面のぬれ張力(表面張力)が小さくなり、硬質発泡ポリウレタンやホットメルト接着剤等の極性を持った材料との接着力が劣るため、真空断熱材の箱体からの剥がれによる不良や箱体の強度低下の懸念があった。・・・本発明は、上記課題に鑑みて、箱体との接着力を高めて箱体強度を向上させるとともに、断熱性能に優れた真空断熱材を提供することを目的とする」(記載事項(2b))という記載及び段落【0064】の「真空断熱材1を冷蔵庫21に適用する・・・冷蔵庫21は少なくとも内箱22と外箱23の間に真空断熱材1が設けられ」る(記載事項(2f))という記載を参照すると、引用発明2は、箱体との接着力を高めて箱体強度を向上させるとともに、断熱性能に優れた真空断熱材を提供するという課題を解決するものであり、その具体的な態様として、甲第2号証に冷蔵庫21に適用することが記載されている。また、甲第2号証の段落【0024】の「外被材の最外層には、延伸されたポリオレフィンを用い、・・・その最外層は二軸延伸ポリプロピレンであればさらに良い。・・・外被材の最外層に吸水率の小さいポリオレフィン、特に二軸延伸ポリプロピレンを用いることで、外からの水分が外被材に入り込むことが少なくなり、真空パック前の乾燥時において、表面保護層2bの表面に付着した水分や内部(表面近傍の内部)に含まれる水分を除去することができ、真空パック時により真空度を高めることができるため、真空断熱材の断熱機能の高性能化が可能である。」(記載事項(2d))という記載を参照すると、甲第2号証には、真空パック時により真空度を高めるために外被材の最外層に吸水率の小さい材質を使用することが記載されているといえる。
しかし、甲第2号証の解決しようとする課題は本件発明1のものと異なっており、また甲第2号証の上記記載は、真空パック前の乾燥時において、表面保護層2bの表面に付着した水分や内部(表面近傍の内部)に含まれる水分を除去するため、表面保護層2の材質を選択することを示しているにすぎないから、甲第2号証に記載された技術的事項は、「外包材が高温高湿な環境に曝された場合でも、ガスバリアフィルムにかかる応力を抑制することができるため、ガスバリアフィルムへのクラックの発生を抑制することができ」るように、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率」を「0.8%以下」とする本件発明1とは異なる。さらに、外被材の最外層の吸水率と、外被材の寸法変化率との定量的な関係が判然としないから、甲第2号証に「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」とする発明が実質的に記載されているとまではいえない。

(ウ)特許異議申立人は、甲第2号証の段落【0049】の「外被材2は表面保護層2b、ガスバリア層2c、及び熱溶着層2dで構成され、それぞれ表面保護層2bとして両面がコロナ処理された二軸延伸ポリプロピレンフィルム(20μm)、図2に示す2層のガスバリア層2cとしてアルミニウムを蒸着(厚さ50nm)したポリエチレンテレフタレートフィルム(12μm)及びアルミニウムを蒸着(厚さ50nm)したエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(12μm)、熱溶着層2dとして直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(30μm)としたラミネートフィルムを用いた。各層間は2液硬化型ポリウレタン系接着剤で接着し、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムについては、アルミニウム蒸着面同士を向かい合わせる構成とした。外被材2の表面におけるぬれ張力は41mN/mであり、表面層の吸水率は0.01%であった」(記載事項(2e))という記載等を根拠に、外被材の保護フィルムとして、本件明細書の比較例1におけるナイロンフィルムよりも吸水率の低いポリプロピレンフィルムを用いており、「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率」が上記比較例1のものよりも小さくなるから、甲第2号証に記載された外被材は「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率が0.8%以下」であることは明らかである、旨主張する(特許異議申立書第16ページ第25?第17ページ第8行。以下「主張E」という。)ので、以下検討する。

(エ)上記主張Eについて検討する。
a 上記「2(1)イ(オ)a」で述べたとおり、本件明細書によれば、熱溶着可能なフィルム/第1ガスバリアフィルム/第2ガスバリアフィルム/保護フィルムの層構成を有する外包材において、厚み50μmの直鎖状短鎖分岐ポリエチレンフィルム(TUX-HCE、三井化学東セロ社製)/厚み12μmの、アルミニウム蒸着エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(VMXL、株式会社クラレ製)/厚み12μmの、アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(VM-PET1510、東レ株式会社製)/厚み25μmのナイロンフィルム(エンブレムONBC、ユニチカ株式会社製)である外包材(比較例1)の温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した寸法変化率は第1方向0.96%、第2方向0.72%である。

b 上記アの(ア)?(ウ)を踏まえて、甲第2号証の「外被材2は表面保護層2b、ガスバリア層2c、及び熱溶着層2dで構成され、それぞれ表面保護層2bとして両面がコロナ処理された二軸延伸ポリプロピレンフィルム(20μm)、図2に示す2層のガスバリア層2cとしてアルミニウムを蒸着(厚さ50nm)したポリエチレンテレフタレートフィルム(12μm)及びアルミニウムを蒸着(厚さ50nm)したエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(12μm)、熱溶着層2dとして直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(30μm)としたラミネートフィルムを用いた。各層間は2液硬化型ポリウレタン系接着剤で接着し、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムについては、アルミニウム蒸着面同士を向かい合わせる構成とした。外被材2の表面におけるぬれ張力は41mN/mであり、表面層の吸水率は0.01%であった。」(記載事項(2e))という記載を参照すると、甲第2号証には、熱溶着可能なフィルム/第1ガスバリアフィルム/第2ガスバリアフィルム/保護フィルムの層構成を有する外包材において、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(30μm)/アルミニウムを蒸着(厚さ50nm)したエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(12μm)/アルミニウムを蒸着(厚さ50nm)したポリエチレンテレフタレートフィルム(12μm)/二軸延伸ポリプロピレンフィルム(20μm)である外包材が記載されているといえる。

c 上記a、bによれば、上記比較例1における外包材と甲第2号証に記載された外包材は、保護フィルムの構成以外に、熱溶着可能なフィルムの材質及び厚さ等においても異なり、また、ポリプロピレンフィルムを用いた場合の「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率」の具体的な値も判然としないから、甲第2号証に記載された上記「直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(30μm)/アルミニウムを蒸着(厚さ50nm)したエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(12μm)/アルミニウムを蒸着(厚さ50nm)したポリエチレンテレフタレートフィルム(12μm)/二軸延伸ポリプロピレンフィルム(20μm)」の「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の寸法変化率」が上記相違点2に係る本件発明1の、「温度25℃、湿度0%RHの雰囲気下での前記真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、前記真空断熱材用外包材を温度70℃、湿度90%RHの雰囲気下で2時間保持した後の、前記真空断熱材用外包材の寸法変化率が0.8%以下」である構成と相違しないとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張Eは採用できない。

(カ)以上より、引用発明2(甲第2号証に記載された発明)を根拠に、上記相違点2が実質的な相違点でないということはできないから、本件発明1が引用発明2、すなわち、甲第2号証に記載された発明であるということはできない。

(2)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、少なくとも本件発明1の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(1)のとおり、本件発明1が甲第2号証に記載された発明であるとはいえないのであるから、同様に、本件発明2?4は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

(3)本件発明5について
本件発明5は、「真空断熱材」の発明であるが、実質的に本件発明1の「真空断熱材用外包材」の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(1)のとおり、本件発明1が甲第2号証に記載された発明であるとはいえないのであるから、同様に、本件発明5は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

(4)本件発明6について
本件発明6は、「真空断熱材付き機器」の発明であるが、実質的に本件発明1の「真空断熱材用外包材」の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(1)のとおり、本件発明1が甲第2号証に記載された発明であるとはいえないのであるから、同様に、本件発明6は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許が特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないことから、特許法第113条第4号の規定に該当するものとして取り消すことがはできない。
また、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項及び第1項第3号の規定に違反してなされたものとはいえないことから、特許法第113条第2号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-30 
出願番号 特願2016-33342(P2016-33342)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (F16L)
P 1 651・ 121- Y (F16L)
P 1 651・ 113- Y (F16L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柳本 幸雄  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 中田 善邦
和田 雄二
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6123927号(P6123927)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 真空断熱材用外包材、真空断熱材、および真空断熱材付き機器  
代理人 山下 昭彦  
代理人 岸本 達人  

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