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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12N
管理番号 1337092
異議申立番号 異議2017-701137  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-30 
確定日 2018-02-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6140804号発明「標的細菌の制限修飾バリアを乗り越えて外来性DNAを導入する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6140804号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6140804号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成25年2月21日に特許出願され、平成29年5月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアより特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第6140804号の請求項1?13に係る特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3.申立理由の概要
特許異議申立人ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアは、概ね下記(1)?(5)を主張し、証拠として下記甲第1号証?甲第11号証を提出している。
(1)本件の請求項1?13に係る発明は、甲第1、2、5?9号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件の請求項1?13に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
(2)本件の請求項1?13に係る発明は、甲第2、1、5?9号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件の請求項1?13に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
(3)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、本件の請求項1?12に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
(4)本件の請求項1?12に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない発明に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
(5)本件の請求項1?3及び12に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない発明に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

(証拠)
甲第1号証:Suzuki,H.ら、J.Microbiol.Biotechnol.第21巻第7号第675-678頁、2011年
甲第2号証:Yasui,K.ら、Nucleic Acids Research 第37巻第1号e3、2009年(オンラインにて2008年11月12日公開)
甲第3号証:国際公開第01/85966号
甲第4号証:Palmer,B.R.ら、Gene 第143巻第1-12頁、1994年
甲第5号証:Marinus,Martin G.、Mutat Res. 第705巻第2号第71-76頁、2010年
甲第6号証:Wang,Tzu-Chien V.ら、Journal of Bacteriology 第165巻第3号第1023-1025頁、1986年
甲第7号証:Marinus,M. G.ら、Mutation Research 第28巻第15-26頁、1975年
甲第8号証:Marinus,M. G.ら、J.Mol.Biol. 第85巻第309-322頁、1974年
甲第9号証:McGraw,B.R.ら、Molec.gen.Genet. 第178巻第309-315頁、1980年
甲第10号証:Guzman,L.ら、Journal of Bacteriology 第177巻第14号第4121-4130頁、1995年
甲第11号証:Mestrovic,T.、「DNA Methylation in Bacteria」、News medical、最終更新日2014年9月10日、インターネットサイト:https://www.news-medical.net/life-sciences/DNA-Methylation-in-Bacteria.aspx よりダウンロード

4.刊行物に記載された事項
(1)甲第1号証(以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されていると認められる。
ア 大腸菌ER1793株のdam遺伝子及びdcm遺伝子などを破壊し、大腸菌IR27株を構築したこと(甲第1号証の抄訳 第2頁12?13行)
イ 大腸菌IR27株に、S.グリセウスのメチラーゼ遺伝子SGR4675と、S.アクロモゲネスのメチラーゼ遺伝子M.SacIとを導入し、SGR4675とM.SacIを同時に発現する大腸菌IR539株を構築したこと(甲第1号証の抄訳 第2頁9?11行)
ウ 大腸菌IR539株に導入されたプラスミドpMS103は、DNAメチル化プロフィールに関して、S.グリセウスDNAを完全に模倣したこと(甲第1号証の抄訳 第2頁26?29行)
エ 宿主のメチル化プロフィールを模倣するpMS103を用いたS.グリセウスの形質転換は、宿主の制限バリアを回避することができ、効率的であったこと(甲第1号証の抄訳 第2頁30行?第3頁5行)

(2)甲第2号証(以下「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されていると認められる。
ア 宿主となる標的微生物自身の制限系を利用する「プラスミド人工修飾(PAM)」を用いる、形質転換の効率を改善する方法を開発したこと(甲第2号証の抄訳 要旨)
イ PAM法は、標的微生物のDNA修飾酵素をコードする全ての推定遺伝子を有する大腸菌細胞中でシャトルベクター(プラスミド)をプレメチル化すること(甲第2号証の抄訳 要旨)
ウ PAM法により、大腸菌において修飾酵素が発現されると、大腸菌で調製されたプラスミドは、あたかも標的微生物中で複製されたかのように修飾され、標的微生物による制限酵素による切断が回避され、形質転換効率が大幅に改善すること(甲第2号証の抄訳 要旨)
エ 標的微生物がB.アドレッセンティスATCC15703である場合、2つのII型DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子(BAD_1233、BAD_1283)を導入した大腸菌(TOP10株)を用いてシャトルベクターpKKT427をプレメチル化し、B.アドレッセンティスの形質転換に用いると、形質転換効率が5桁増加すること(甲第2号証の抄訳 要旨)
オ メチルトランスフェラーゼ発現のための宿主として大腸菌TOP10株が用いられたこと(甲第2号証の抄訳 第2頁下から3?1行)
カ 宿主となる標的微生物としてB.アドセッセンティスを用いるために、DNA修飾酵素についてNCBIおよびREBASEのBLAST検索を行い、B.アドセッセンティスATCC15703の推定メチルトランスフェラーゼ遺伝子(BAD_1233、BAD_1283)を選択したこと(甲第2号証の抄訳 第3頁15?18行、第4頁13?18行)
キ 「PAMを用いた様々な手法から、効率的に実施するための3つの要件を見出した。第1に、強力なプロモーター、例えばlacプロモーターなどは避けるべきである。・・・・第2に、IV型制限系を欠損する大腸菌宿主を使用すべきである。このタイプの酵素は、他の細菌のR-M系によってメチル化されたDNAを分解する。大腸菌K-12は、IV型制限酵素をコードする4つの遺伝子(mcrA、mrrおよびmcrBC)を有する。多くの場合、野生型大腸菌宿主(mcrA+、mrr+およびmcrBC+)において外来DNAメチラーゼをクローニングすることは不可能であるが、これはクローニングされた酵素が宿主大腸菌ゲノムDNAをメチル化し、次いでIV型酵素が自身のDNAを切断し、細胞死を引き起こすためである。我々の経験から、TOP10が最も効率的な株であった(表1)。第3に、dam、dcmおよびhsdMSが欠損した大腸菌株をPAM宿主として使用すべきである。これらの遺伝子(dam、dcm)は、大腸菌K-12のII型R-M系のDNAメチラーゼをコードする。標的細菌がIV型系を有する場合、(dam+、dcm+)由来のプラスミドは、(dam-、dcm-)宿主由来のプラスミドと比較して形質転換効率が約103低下する。あるいは、メチラーゼ遺伝子のための厳密に制御された発現系をPAMプラスミドに適用可能であった。」(甲第2号証の抄訳 第5頁22行?第6頁3行)

(3)甲第5号証?9号証に記載された事項
甲第5号証?甲第9号証(以下、「刊行物5」?「刊行物9」という。)には、大腸菌においてdam遺伝子とrecA遺伝子の両方に変異があると生存不能になることについて記載されている。

5.判断
A 進歩性要件
(1)請求項1に係る発明について
(1-1)刊行物2を主引用例とする理由(3.(2))について
刊行物2には、
「大腸菌TOP10株に標的微生物のDNA修飾酵素をコードする全ての推定遺伝子を導入した、PAM大腸菌を作成し、
PAM大腸菌中でシャトルベクターをメチル化して、あたかも標的微生物中で複製されたかのように修飾し、
メチル化したシャトルベクターを標的微生物に導入する、
標的微生物を形質転換する方法。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

請求項1に係る発明と刊行物2に記載された発明とを対比する。
引用発明2の「標的微生物」「標的微生物のDNA修飾酵素をコードする全ての推定遺伝子」「シャトルベクター」は、請求項1に係る発明の「標的細菌」「標的細菌ゲノム中の、機能するDNAメチルトランスフェラーゼをコードする全ての推定されたDNAメチルトランスフェラーゼコード遺伝子」「外来性DNA分子」に相当すると認められる。
また、引用発明の「大腸菌TOP10株」は、4.(2)クに「IV型制限系を欠損する大腸菌宿主」であることが記載されているから、請求項1に係る発明の「制限修飾系が欠失した大腸菌」に相当すると認められる。
さらに、引用発明の「あたかも標的微生物中で複製されたかのように修飾し」は、請求項1に係る発明の「標的細菌と同じDNAメチル化パターンを示す」に相当すると認められるから、引用発明の「PAM大腸菌」は、請求項1に係る発明の「組換え菌A」に相当すると認められる。

したがって、両者は、
「1)標的細菌ゲノム中の、機能するDNAメチルトランスフェラーゼをコードする全ての推定されたDNAメチルトランスフェラーゼコード遺伝子を、制限修飾系が欠失した大腸菌の中で共発現させ、標的細菌と同じDNAメチル化パターンを示す組換え菌Aを得るステップと、
2)外来性DNA分子を前記組換え菌Aに導入してin vivo修飾を行い、メチル化修飾した外来性DNA分子を得るステップと、
3)前記メチル化修飾した外来性DNA分子を前記標的細菌の中に導入するステップとを含み、
外来性DNA分子を標的細菌に導入する方法。」
である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点1)
請求項1に係る発明では「制限修飾系が欠失した大腸菌」が、「出発菌株としての大腸菌TOP10株中の変異recA遺伝子を修復し、dcmとdam遺伝子をノックアウトすることによって得られるものである」のに対して、引用発明2は、「大腸菌TOP10株」である点。

刊行物2には、4.(2)キのとおり、
「PAMを用いた様々な手法から、効率的に実施するための3つの要件」として、「・・・第2に、IV型制限系を欠損する大腸菌宿主を使用すべきである。・・・大腸菌K-12は、IV型制限酵素をコードする4つの遺伝子(mcrA、mrrおよびmcrBC)を有する。・・・我々の経験から、TOP10が最も効率的な株であった(表1)。第3に、dam、dcmおよびhsdMSが欠損した大腸菌株をPAM宿主として使用すべきである。」と記載されていると認められる。
したがって、この記載をみると、IV型制限系を欠損する大腸菌宿主に、さらに、dam、dcmおよびhsdMSを欠失させた大腸菌株を用いることが示唆されていると一応認められる。
しかし、「大腸菌TOP10株」は刊行物2の表1の記載からみて、IV型制限酵素をコードする4つの遺伝子(mcrA、mrrおよびmcrBC)だけでなくrecA1などいくつかの遺伝子に変異を有していると認められるところ、異議申立人が主張するように、dam遺伝子とrecA遺伝子の両方に変異があると生存不能になることも周知であると認められる。
そうすると、「大腸菌TOP10株」のdam、dcmおよびhsdMSをさらに欠失させた場合、生存不能となることが予想されるのであるから、当業者であれば、「大腸菌TOP10株」のdam遺伝子をさらに欠失させようなどとはしない。わざわざ死滅することが分かっている大腸菌TOP10株を用いなくても、他の大腸菌株を用いれば済むのであるから、刊行物2に上記のような記載があっても、当業者は「大腸菌TOP10株」のdam、dcmおよびhsdMSをさらに欠失させることを容易に想到するとはいえない。
したがって、上記相違点1に関して、「大腸菌TOP10株」中のdcmとdam遺伝子をノックアウトすることを当業者が容易になし得るとはいえない。

なお、仮に、dam遺伝子とrecA遺伝子の両方に変異があると生存不能になることが周知でない場合についても検討する。
刊行物2の示唆に従って、「大腸菌TOP10株」のdam、dcmおよびhsdMSをさらに欠失させた場合、これらの遺伝子を欠失させた大腸菌は死滅してしまうと考えられるが、上記したとおり、「大腸菌TOP10株」はIV型制限酵素をコードする4つの遺伝子やrecA1以外にもいくつかの遺伝子に変異を有しているところ、dam遺伝子とrecA遺伝子の両方に変異があると生存不能になることが周知でないなら、当業者であっても、大腸菌が死滅した原因が、直ちにdam遺伝子とrecA遺伝子の両方に変異があることであるとは分からない。
そうすると、上記相違点1に関して、「大腸菌TOP10株」中の変異recA遺伝子を修復することを当業者が容易になし得るとはいえない。

そして、請求項1に係る発明は、TOP10株中の変異recA遺伝子を修復し、dcmとdam遺伝子をノックアウトすることによって得られるものを「制限修飾系が欠失した大腸菌」として用いることによって、「制限修飾系が欠失した大腸菌」としてTOP10株を用いるよりも効率的な形質転換体を得ることができるという顕著な効果を奏し得たものである。

よって、本件の請求項1に係る発明は、刊行物2に記載された発明及び刊行物1、5?9に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。

(1-2)刊行物1を主引用例とする理由(3.(1))について
請求項1に係る発明と、刊行物1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)を対比すると、両者は以下の点で相違すると認められる。
(相違点2)
dcmとdam遺伝子をノックアウトすることによって得られる、制限修飾系が欠失した大腸菌の「出発菌株」が、請求項1に係る発明では、「大腸菌TOP10株中の変異recA遺伝子を修復し」たものであるのに対して、引用発明1では、「大腸菌ER1793株」である点。

上記相違点2について検討する。
刊行物1には、出発菌株として大腸菌ER1793株に替えて「大腸菌TOP10株」や「大腸菌TOP10株中の変異recA遺伝子を修復したもの」を用いることについては何ら記載されていない。
また、刊行物2には、上記4.(2)に示した事項が記載されているが、上記(1-1)で検討したとおり、「大腸菌TOP10株」中のdcmとdam遺伝子をノックアウトすることにより大腸菌が生育不能になることは、当業者であれば避けようとすることから、当業者が「大腸菌TOP10株」中のdcmとdam遺伝子をノックアウトするとはいえない。
したがって、上記相違点2を当業者が容易に想到するとはいえない。
よって、本件の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2、5?9に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。

(2)請求項2?12及び請求項13に係る発明について

請求項2?12に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記(1)の請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、刊行物1又は刊行物2に記載された発明及び刊行物1、2、5?9に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
また、請求項13に係る発明は、請求項1に記載される、「出発菌株としての大腸菌TOP10株中の変異recA遺伝子を修復し、dcmとdam遺伝子をノックアウトすることによって得られるものである」「制限修飾系が欠失した大腸菌」に関する発明であると認められ、この発明に特徴である「出発菌株としての大腸菌TOP10株中の変異recA遺伝子を修復し、dcmとdam遺伝子をノックアウトすることによって得られる」点が容易想到でないことは、上記(1)で検討したとおりである。
したがって、請求項13に係る発明も、上記(1)の請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、刊行物1又は刊行物2に記載された発明及び刊行物1、2、5?9に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。

B 記載要件
(1)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(上記3.(3)の理由)、及び、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(上記3.(4)の理由)について(「標的細菌」の点)
本件特許明細書の実施例には、実施例2において、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)TA208、実施例3において、バチルスセレウス(Bacillus cereus)ATCC 10987、及び実施例4において、ニトロバクター・ハンブルゲンシス(Nitrobacter hamburgensis)X14を標的細菌として、これらの標的細菌の「ゲノム中の、機能するDNAメチルトランスフェラーゼをコードする全ての推定されたDNAメチルトランスフェラーゼコード遺伝子」を取得したことが具体的に記載されている。そして、実施例2?4では、GenBankに登録された各標的細菌の全ゲノム配列からDNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子を推定したことが記載されている。また、本件の請求項12には、「相同配列比較の方法により、標的細菌の中のDNAメチルトランスフェラーゼをコードする推定遺伝子を確定するステップ」と記載されており、相同配列比較の方法によってDNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子を推定することも記載されている。
確かに、甲第11号証には、細菌のDNAメチルトランスフェラーゼには様々なものがあり、その大部分や非常に高い配列特異性を有することが記載されているが、一方で、甲第1号証(刊行物1)には、S.グリセウスのメチラーゼ遺伝子を推定したこと(甲第1号証の抄訳の第2頁9?11行)、甲第2号証(刊行物2)には、B.アドレッセンティスATCC15703のメチラーゼ遺伝子を推定したこと(甲第2号証の抄訳の第3頁15?18行)が記載されていることから、本願出願時の当業者であれば、各種の細菌のDNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子を推定することは、刊行物2に記載されるNCBI及びREBASEのBLAST検索などによって十分可能であったと考えられる。そして、本願出願日当時、数多くの細菌の全ゲノム配列が特定されていたと認められる。
したがって、本件特許明細書の実施例2?4の具体的な細菌株の例から、形質転換に用いられる「標的細菌」まで拡張ないし一般化することができる。また、形質転換に用いる「標的細菌」が実施例2?4の具体的な細菌株以外である場合でも、当業者は本件明細書の記載から本件に係る発明を実施することができる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に不備はなく、本件の請求項1?7及び9?12に係る発明について、本件特許明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえず、また、本件の請求項1?7及び9?12に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないともいえない。

(2)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(上記3.(3)の理由)、及び、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(上記3.(4)の理由)について(「外来性DNA分子」の点)
本件特許明細書の実施例では、「外来性DNA分子」として「プラスミド」以外のものは具体的には記載されていない。
しかし、請求項1に係る発明にいう「外来性DNA分子」は、通常、細菌の形質転換に用いられる一般的な形態のDNA分子を指していると認められところ、細菌の形質転換には、通常、「プラスミド」のような環状のDNA分子だけでなく、鎖状のDNA分子なども用いられており、このような細菌の形質転換に通常用いられている一般的な形態の「外来性DNA分子」であれば、環状のものでも鎖状のものでも、本件発明の方法に使用できると考えられる。
すなわち、このような一般的な形態の「外来性DNA分子」も、標的細菌と同じDNAメチル化パターンを示す組換え菌A中でメチル化修飾すれば、本件特許明細書の実施例に記載された「プラスミド」と同様に、高い効率の形質転換に用いることができると認められる。
したがって、「プラスミド」の例から、細菌の形質転換に用いられる「外来性DNA分子」まで拡張ないし一般化することができる。また、細菌の形質転換に用いる「外来性DNA分子」が「プラスミド」以外のものであっても、当業者は本件特許明細書の記載から本件に係る発明を実施することができる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に不備はなく、本件の請求項1?9及び11?12に係る発明について、本件特許明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえず、また、本件の請求項1?9及び11?12に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないともいえない。

(3)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(上記3.(3)の理由)、及び、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(上記3.(5)の理由)について(「DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子」の点)
DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子は、標的細菌の種類に応じて様々なものがあるが、上記(1)で検討したとおり、本件特許明細書の記載および甲第1号証、甲第2号証に示された本件出願日当時の技術水準を考慮すれば、形質転換に用いる「標的細菌」が実施例2?4に記載された具体的な細菌株以外の場合であっても、「標的細菌ゲノム中の、機能するDNAメチルトランスフェラーゼをコードする全ての推定されたDNAメチルトランスフェラーゼコード遺伝子」特定することができるといえるし、「標的細菌ゲノム中の、機能するDNAメチルトランスフェラーゼをコードする全ての推定されたDNAメチルトランスフェラーゼコード遺伝子」について明確に理解することができるといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に不備はなく、本件の請求項1?10及び12に係る発明について、本件特許明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえず、また、本件の請求項1?3及び12に係る発明が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないともいえない。

6.むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-30 
出願番号 特願2015-502066(P2015-502066)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C12N)
P 1 651・ 537- Y (C12N)
P 1 651・ 121- Y (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西村 亜希子西 賢二戸来 幸男  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 中島 庸子
長井 啓子
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6140804号(P6140804)
権利者 中国科学院微生物研究所
発明の名称 標的細菌の制限修飾バリアを乗り越えて外来性DNAを導入する方法  
代理人 中島 淳  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  
代理人 加藤 和詳  
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