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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1337094
異議申立番号 異議2017-701091  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-22 
確定日 2018-02-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6133425号発明「ハードコーティングフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6133425号の請求項1?20に係る発明についての特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6133425号(請求項の数20。以下,「本件特許」という。)は,2013年(平成25年)7月29日(パリ条約による優先権主張:平成24年8月23日,韓国,平成25年7月26日,韓国)を国際出願日とする特許出願(特願2015-528386号)に係るものであって,平成29年4月28日に設定登録されたものである。
その後,平成29年11月22日に,本件特許の請求項1?20に係る発明についての特許に対して,特許異議申立人 高石恵子(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?20に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
第1弾性係数(elastic modulus)を有する第1ハードコーティング層;および
前記第1ハードコーティング層と直接接触し,第2弾性係数を有する第2ハードコーティング層を含み,前記第1および第2弾性係数の差が500MPa以上であることを特徴とする,ハードコーティングフィルムであって,
1kgの荷重で,7H以上の鉛筆硬度を示すハードコーティングフィルム。
【請求項2】
前記第1および第2弾性係数の差が500?3000MPaであることを特徴とする,請求項1に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項3】
前記第1弾性係数は,1500MPa以下であり,前記第2弾性係数は,2000MPa以上であることを特徴とする,請求項1または2に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項4】
前記第1ハードコーティング層は,第1光硬化性弾性重合体および1?6官能性アクリレート系単量体との架橋共重合体の第1光硬化性架橋共重合体を含み,前記第2ハードコーティング層は,第2光硬化性弾性重合体および3?6官能性アクリレート系単量体との架橋共重合体の第2光硬化性架橋共重合体,および前記第2光硬化性架橋共重合体に分散した無機微粒子を含むことを特徴とする,請求項1?3のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項5】
前記第1および第2光硬化性弾性重合体は,それぞれ独立して同一または異なり,ASTM D638によって測定した伸び率(elongation)が15?200%であることを特徴とする,請求項4に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項6】
前記第1および第2光硬化性弾性重合体は,それぞれ独立して同一または異なり,ポリカプロラクトン,ウレタンアクリレート系ポリマー,およびポリロタキサンからなる群より選択される1種以上を含むことを特徴とする,請求項4または5に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項7】
前記ポリロタキサンは,末端に(メタ)アクリレート系化合物の導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物;前記環状化合物を貫通する線状分子;および前記線状分子の両末端に配置され,前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基を含むことを特徴とする,請求項6に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項8】
前記第1ハードコーティング層は,前記第1光硬化性架橋共重合体の総重量を100重量部とする時,前記第1光硬化性弾性重合体の20?80重量部と,前記1?6官能性アクリレート系単量体の80?20重量部が共重合されていることを特徴とする,請求項4に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項9】
前記第2ハードコーティング層は,前記第2光硬化性架橋共重合体の総重量を100重量部とする時,前記第2光硬化性弾性重合体の5?20重量部と,前記3?6官能性アクリレート系単量体の80?95重量部が共重合されていることを特徴とする,請求項4に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項10】
前記第2ハードコーティング層の総重量を100重量部とする時,前記第2光硬化性架橋共重合体を40?90重量部,前記無機微粒子を10?60重量部で含むことを特徴とする,請求項4に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項11】
前記1?6官能性アクリレート系単量体は,ヒドロキシエチルアクリレート(HEA),ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA),ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA),トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA),エチレングリコールジアクリレート(EGDA),トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA),トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート(TMPEOTA),グリセリンプロポキシル化トリアクリレート(GPTA),ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA),およびジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)からなる群より選択される1種以上を含むことを特徴とする,請求項4?10のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項12】
前記3?6官能性アクリレート系単量体は,トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA),トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート(TMPEOTA),グリセリンプロポキシル化トリアクリレート(GPTA),ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA),およびジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)からなる群より選択される1種以上を含むことを特徴とする,請求項4?11のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項13】
前記第1ハードコーティング層または第2ハードコーティング層上に,プラスチック樹脂フィルム,粘着フィルム,離型フィルム,コーティング層,硬化樹脂層,導電性フィルム,導電層,非導電性フィルム,金属メッシュ層,およびパターン化された金属層からなる群より選択される1つ以上の層をさらに含むことを特徴とする,請求項1?12のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項14】
前記プラスチック樹脂フィルムは,ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterephtalate,PET),エチレンビニルアセテート(ethylene vinyl acetate,EVA),サイクリックオレフィン重合体(cyclic olefin polymer,COP),サイクリックオレフィン共重合体(cyclic olefin copolymer,COC),ポリアクリレート(polyacrylate,PAC),ポリカーボネート(polycarbonate,PC),ポリエチレン(polyethylene,PE),ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate,PMMA),ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketon,PEEK),ポリエチレンナフタレート(polyethylenenaphthalate,PEN),ポリエーテルイミド(polyetherimide,PEI),ポリイミド(polyimide,PI),トリアセチルセルロース(triacetylcellulose,TAC),MMA(methyl methacrylate),およびフッ素系樹脂からなる群より選択される1種以上を含むことを特徴とする,請求項13に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項15】
22gの鋼球を,50cmの高さから10回繰り返し自由落下させた時,亀裂が生じないことを特徴とする,請求項1?14のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項16】
500gの荷重で,スチールウール#0000で400回往復して表面を擦った時,2個以下のスクラッチが発生することを特徴とする,請求項1?15のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項17】
91%以上の光透過率,0.4以下のヘイズ,および1.0以下のb*値を示すことを特徴とする,請求項1?16のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項18】
UVB波長の光に72時間露出させた時,ハードコーティングフィルムのb*値の変化が0.5以下であることを特徴とする,請求項1?17のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項19】
前記第1および第2ハードコーティング層の厚さは,それぞれ独立して同一または異なり,50?500μmであることを特徴とする,請求項1?18のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項20】
50℃以上の温度および80%以上の湿度で70時間以上露出させた後,フィルムを平面に位置させた時,フィルムの各角または一辺が平面から離隔する距離の最大値が1.0mm以下であることを特徴とする,請求項1?19のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件発明1?20は,下記1?3のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?20に係る発明についての特許は,特許法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。
証拠方法として,下記4の甲第1号証?甲第11号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出する。

1 取消理由1(進歩性)
本件発明1?20は,甲1に記載された発明及び甲1?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
2 取消理由2(サポート要件)
本件発明1?20は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。
3 取消理由3(明確性)
本件発明1?20は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではない。
4 証拠方法
・甲1 特開2000-71392号公報
・甲2 特開平11-300873号公報
・甲3 国際公開第2006/088200号
・甲4 特開2009-204725号公報
・甲5 特開2006-193596号公報
・甲6 特開2000-214791号公報
・甲7 特開2001-198946号公報
・甲8 国際公開第2012/018009号
・甲9 ASTM D882
・甲10 甲9の機械翻訳
・甲11 「試験方法技術ノート プラスチック」,“ASTM D882 薄膜/プラスチックシートの引張特性”

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?20に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
以下,事案に鑑み,取消理由3,2,1の順で検討する。

1 取消理由3(明確性)
申立人は,本件発明1における「弾性係数」について,ASTM D882によれば,「試験片の幅-厚さ比」及び「試験片を挟むグリップの種類」が,弾性係数の測定結果に大きな影響を与えることが理解できるが,本件明細書には,「本明細書全体において,弾性係数(elastic modulus)は,ASTM D882により測定した値を意味する。」(【0022】)との記載があるのみであり,それ以上の詳細な条件は記載されていないから,弾性係数の詳細な測定条件が不明である本件発明1は不明確であると主張する。また,本件発明2?20についても同様に主張する。
しかしながら,弾性係数をASTM D882により測定する場合において,ASTM D882に明記のない詳細な測定条件については,測定の対象等に適した通常の条件が採用されるのが,一般的である。本件明細書の実施例1(【0106】?【0110】)においては,ハードコーティングフィルムを構成する第1ハードコーティング層及び第2ハードコーティング層は,所定の材質からなるものであり,その厚さはいずれも100μmであるが,各層の弾性係数をASTM D882により測定する際には,各層の材質や厚さに適した,通常の「試験片の幅-厚さ比」及び「試験片を挟むグリップの種類」が採用されていると解される。本件明細書にこのような詳細な測定条件について記載されていないからといって,直ちに,本件発明1における「弾性係数」の意味が不明確であるということはできない。
また,そもそも,申立人が主張するように,「試験片の幅-厚さ比」や,「試験片を挟むグリップの種類」によって,弾性係数の測定結果が実際に大きく異なったものとなるのかどうかは,証拠上,明らかということもできない。
以上によれば,本件発明1における「弾性係数」の意味は明確であるから,その意味が不明確であることを理由として,本件発明1が不明確であるということはできない。また,本件発明2?20についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。
したがって,取消理由3によっては,本件特許の請求項1?20に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

2 取消理由2(サポート要件)
(1)申立人は,本件発明1において,下層に相当する第1ハードコーティング層の弾性係数が極めて小さい場合には,上層に相当する第2ハードコーティング層の弾性係数が大きくても,「1kgの荷重で,7H以上の鉛筆硬度を示す」ためには,第2ハードコーティング層の厚さをかなり厚くする必要があるが(甲2,7,8),第2ハードコーティング層の厚さが厚くなると,ハードコーティング層の硬化収縮によってシワやカールが大きくなると同時に,ハードコーティング層の亀裂や剥離が生じやすくなる(本件明細書【0005】)ため,本件発明1の課題,特に「優れた加工性でカールまたはクラックが発生せず」という課題が解決できない蓋然性が極めて高いといえるから,ハードコーティング層の厚さを何ら限定していない本件発明1は,サポート要件を満たさないと主張する。また,本件発明2?20についても同様に主張する。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には,ハードコーティング層の形成方法について,以下の記載がある。
「・・・前記ハードコーティング層は,・・・第1および第2ハードコーティング組成物を,離型フィルム上に塗布し硬化させることにより形成することができる。」(【0073】)
「前記のように,支持基材・・・収縮の影響を受けない薄い離型フィルム上に塗布して硬化することにより,硬化過程で前記ハードコーティング組成物が塗布される支持基材との収縮率の差によって発生するカールまたはクラックを防止することができる。これによって,高硬度を達成するために,高い厚さにハードコーティング層を形成する時,最もネックとなるカール発生の問題がないことから,所望するだけの高い厚さにハードコーティングフィルムを形成することができて,高硬度のハードコーティングフィルムを提供することができる。」(【0074】)
以上の記載によれば,ハードコーティング層を形成する際に,薄い離型フィルムを用いることにより,支持基材を用いた場合に発生するカールやクラックを防止することができるため,高い厚さにハードコーティング層を形成できることが理解できる。すなわち,このようなハードコーティング層の形成方法によれば,ハードコーティング層の厚さが厚い場合であっても,支持基材を用いた場合に発生するカールやクラックを防止できるといえるから,申立人が主張するように,第2ハードコーティング層の厚さが厚いからといって,「優れた加工性でカールまたはクラックが発生せず」という本件発明1の課題が解決できないとはいえない。また,本件発明2?20についても同様である。
よって,申立人の主張は,その前提において失当であり,理由がない。

(2)申立人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,高硬度,耐擦傷性,高透明度を示し,優れた加工性でカール又はクラックが発生せず,モバイル機器,ディスプレイ機器,各種計器盤の前面板,表示部などに有用に適用可能であるハードコーティングフィルムを得るために,本件発明1の構成(数値範囲)を採用したことが記載されているものの,その構成(数値範囲)を採用することの有効性を示すための具体例としては,弾性係数の差が1750?2150という極めて狭い範囲内で,鉛筆硬度が8H又は9Hの実施例が8つ,弾性係数の差が200で,鉛筆硬度が8Hの比較例が1つ記載されているにすぎず,また,本件発明1の構成(数値範囲)が,本件出願時において,具体例の開示がなくとも,当業者に理解できるものであったことを認めるに足りる証拠もないから,本件発明1の構成(数値範囲)を採用することにより,従来の課題を解決し,所望の性能を有するハードコーティングフィルムが得られることが,8つの具体例により裏付けられていると認識することは,本件出願時の技術常識を参酌しても不可能というべきであり,本件明細書の発明の詳細な説明におけるこのような記載だけでは,本件出願時の技術常識を参酌して,当該数値が示す範囲であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載しているとはいえず,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するとはいえないと主張する。また,本件発明2?20についても同様に主張する。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「つまり,本発明のハードコーティングフィルムは,それぞれ異なる弾性係数を有する2つの層が積層された形態であり,1つのハードコーティング層の弾性係数が,他のハードコーティング層の弾性係数より少なくとも500MPaより大きい値を示す。そこで,より大きい弾性係数を有するハードコーティング層は,高硬度などの高い物理的強度を示し,相対的に低い弾性係数を有するハードコーティング層は,耐衝撃性および耐屈曲性を示すことができる。したがって,前記のようにそれぞれ異なる弾性係数を有する2つのハードコーティング層が積層された形態で含まれるハードコーティングフィルムは,ガラスを代替可能な程度の高い物理的強度を有しながらも,カールやクラックの問題が少なく,優れた加工性を示すことができる。」(【0023】)
「前記第1および第2弾性係数およびその差が前記範囲内にある時,ガラスを代替可能な程度の高い物理的強度を有しながらも,カールやクラックの問題が少なく,高硬度および高い耐衝撃性を示すことができる。」(【0026】)
以上の記載によれば,本件発明1について,より大きい弾性係数を有するハードコーティング層は,高硬度などの高い物理的強度を示し,相対的に低い弾性係数を有するハードコーティング層は,耐衝撃性および耐屈曲性を示すことができるため,それぞれ異なる弾性係数を有する2つのハードコーティング層が積層されたハードコーティングフィルムは,その弾性係数の差が「500MPa以上」であることで,ガラスを代替可能な程度の高い物理的強度を有しながらも,カールやクラックの問題が少なく,高硬度,高い耐衝撃性及び優れた加工性を示すことが理解できる。
また,上記2(1)で述べたように,所定のハードコーティング層の形成方法(【0073】,【0074】)によれば,高い厚さにハードコーティング層を形成でき,それにより「1kgの荷重で,7H以上の鉛筆硬度」という高硬度が達成できることも理解できる。
そして,申立人も指摘するように,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の構成(数値範囲)を満たす8つの具体例(実施例1?8,表1,2)が記載されており,上記の理解に沿う結果が示されている。そうすると,当業者であれば,これら8つの具体例以外の場合であっても,本件発明1の範囲であれば,同具体例と同様の結果が得られることが理解できるといえる。
以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の構成(数値範囲)についての説明及びその説明を裏付ける具体例(実施例)の記載があるから,これらを総合すれば,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。また,本件発明2?20についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。

(3)したがって,取消理由2によっては,本件特許の請求項1?20に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

3 取消理由1(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1,9,10)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「透明プラスチック基材の少なくとも一方の面に硬化樹脂被膜層を設けたハードコートフィルムであって,
前記基材上に,破壊歪み以下での弾性率が1.5GPa?4.5GPaの範囲を満たす第1のハードコート層と,破壊歪み以下での弾性率が2.0GPa?4.5GPaの範囲を満たす第2のハードコート層とをこの順に形成した2層構成から成る硬化樹脂被膜層を設けたハードコートフィルム。」(以下,「甲1発明」という。)

イ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「破壊歪み以下での弾性率」,「ハードコートフィルム」は,それぞれ,本件発明1における「弾性係数」,「ハードコーティングフィルム」に相当する。
甲1発明における「硬化樹脂被膜層」は,「第1のハードコート層」と「第2のハードコート層」とを「この順に形成した2層構成から成る」ものであるから,本件発明1における「第1のハードコート層」と「前記第1ハードコーティング層と直接接触し」た「第2ハードコーティング層」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,
「第1弾性係数(elastic modulus)を有する第1ハードコーティング層;および
前記第1ハードコーティング層と直接接触した,第2弾性係数を有する第2ハードコーティング層を含む,ハードコーティングフィルム。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,「前記第1および第2弾性係数の差が500MPa以上である」ことが特定されているのに対して,甲1発明では,第1のハードコート層の破壊歪み以下での弾性率が「1.5GPa?4.5GPa」であり,第2のハードコート層の破壊歪み以下での弾性率が「2.0GPa?4.5GPa」であることが特定されているものの,これらの弾性率の差については特定されていない点。
・相違点2
本件発明1では,「1kgの荷重で,7H以上の鉛筆硬度を示す」ことが特定されているのに対して,甲1発明では,鉛筆硬度について特定されていない点。

ウ 相違点の検討
事案に鑑み,まず相違点2について検討し,次に相違点1について検討する。
(ア)相違点2について
a 甲1には,従来の限界を上回る「4H以上」の鉛筆硬度値を有する,耐引っ掻き性,擦り傷性の優れたハードコートフィルムを提供することを目的とすることが記載されている(【0003】)ものの,実施例において,実際に達成された鉛筆硬度値は,せいぜい1kg荷重下で「4H」にとどまるものである(【0041】,表2)。甲1には,ハードコートフィルムの鉛筆硬度値を「1kgの荷重で,7H以上」とすることについては,何ら記載されていない。
また,甲2には,「ハードコートフィルム全体としての鉛筆硬度4H?8Hを有する」(請求項1等),「ガラスの硬度に近づけた4H?8Hの鉛筆硬度の範囲を有するハードコートフィルムを提供することを目的とする」(【0006】),「表1によれば・・・鉛筆硬度が4H以上のハードコートフィルムが得られることが分かる。」(【0068】),「本発明のハードコートフィルムは,ハードコートフィルムの鉛筆硬度を4H?8Hとガラスの硬度に近づけることができ,」(【0069】)等の記載が見られるものの,実施例において,実際に達成された鉛筆硬度は,せいぜい「5H」にとどまるものであるから(表1),上記各記載における5Hを超える部分については,まさに願望というほかない。
さらに,甲3?6にも,ハードコートフィルムの鉛筆硬度値を「1kgの荷重で,7H以上」とすることについては記載されていない。
以上によれば,甲1発明において,鉛筆硬度が「1kgの荷重で,7H以上」と特定することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
b 申立人は,甲2には,本件発明1と同じディスプレイ用の表面保護フィルムにおいて,鉛筆硬度を「4H?8H」とすることが記載されており(請求項1,【0001】),甲1発明は,耐引っ掻き性,擦り傷性の優れたハードコートフィルムを得ることを目的としているので,鉛筆硬度値については「4H以上」としているように,鉛筆硬度は高ければ高いほど良いことは技術常識であるから,甲1発明において,鉛筆硬度を「7H以上」と特定することは,いわば当業者の願望であって,容易に想到することであり,それにより格別予期し難い効果が奏されるともいえないと主張する。
しかしながら,上記2(1)で述べたとおり,本件発明1においては,所定のハードコーティング層の形成方法(本件明細書【0073】,【0074】)によって,高い厚さにハードコーティング層を形成でき,それにより,実際に「1kgの荷重で,7H以上」という高硬度を達成できるものであるから(本件明細書の実施例1?8,【0106】?【0110】,【0117】?【0121】,表1,2),単なる願望ということはできない。
一方,甲2には,確かに上記aで指摘したとおりの記載が見られるものの,実施例において,実際に達成された鉛筆硬度は,せいぜい「5H」にとどまるものであるから(表1),上記各記載における5Hを超える部分については,まさに願望というほかない。このような甲2の記載に基づいて,甲1発明において,鉛筆硬度を「7H以上」と特定することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
よって,申立人の主張は理由がない。

(イ)相違点1について
a まず,申立人の主張から検討する。
申立人は,甲1発明において,第1のハードコート層の弾性率(1.5GPa?4.5GPa)と第2のハードコート層の弾性率(2.0GPa?4.5GPa)のそれぞれの最小値(1.5GPa,2.0GPa)を採用した場合には,500MPaの差があることとなり,また,両者の差が最大となる場合(1.5GPa,4.5GPa)には,3000MPaの差があることになり,いずれも500MPa以上となるから,相違点1は実質的な相違点とはいえないと主張する(以下,「ハードコート」を「HC」という。)。
しかしながら,第1のHC層の弾性率と第2のHC層の弾性率の組み合わせによっては,両者の差が500MPa未満となる場合も存在することは明らかであるから,甲1発明において,両者の差が必ず「500MPa以上」となるとはいえない。したがって,相違点1は実質的な相違点である。
よって,申立人の主張は理由がない。
b 次に,相違点1の容易想到性について検討する。
(a)甲1には,HCフィルムの表面に機能性無機薄膜層を設ける場合,HC層の弾性率が高すぎても,低すぎても鉛筆硬度が低下する傾向があるため,第1HC層の弾性率及び第2HC層の弾性率を適宜設定することが記載されているが(【0032】),これらの弾性率の差を「500MPa以上」とすることについては記載されていない。
(b)また,甲1には,実施例1において,第1HC樹脂液として,ラジカル重合型樹脂に対し,カチオン重合型樹脂を重量組成割合で0%,10%,20%,30%,60%,80%,100%にそれぞれブレンドしたものを使用し,第2HC樹脂液として,ラジカル重合型樹脂のみからなるものを使用して,基材と第1HC層及び第2HC層の3層からなるHCフィルムを得たこと(【0035】?【0038】),得られたHCフィルムにおける第1HC層の弾性率は,含まれるカチオン重合型樹脂の成分割合に応じて,4.9GPa,4.6GPa,4.3GPa,3.9GPa,3.1GPa,1.2GPa,1.0GPaであり,第2HC層の弾性率は4.9GPaで一定であったこと(表1)が記載されている。
表1によれば,第1HC層におけるカチオン重合型樹脂の成分割合が20wt%以上の場合には,第1HC層の弾性率と第2HC層の弾性率の差が600MPa以上となることが理解できる。
しかしながら,実施例1は,上記のとおり,第1HC層におけるカチオン重合型樹脂の成分割合を変化させるものであり,それによりHC層の評価結果がどのように変化するかを検討するものであって(表2,3,【0052】?【0054】),第1HC層の弾性率と第2HC層の弾性率の差に着目するものではない。表1における弾性率の記載は,実施例1で得られた特定のHCフィルムにおいて,単にそのような結果が得られたというだけのものにすぎない。実際,表1には,第1HC層の弾性率と第2HC層の弾性率の差が600MPa以上となるものばかりでなく,0MPa,300MPaのものも示されている。
そうすると,甲1における実施例1の記載から,甲1発明において,第1HC層の弾性率と第2HC層の弾性率の差を「500MPa以上」とすることが,直ちに動機付けられるとはいえない。
(c)また,甲2?6にも,HCフィルムにおける第1HC層の弾性率と第2HC層の弾性率の差を「500MPa以上」とすることについては記載されていない。
(d)以上によれば,甲1発明において,第1HC層の弾性率と第2HC層の弾性率の差を「500MPa以上」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

エ 小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲1?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?20について
本件発明2?20は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記(1)で述べたとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲1?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?20についても同様に,甲1に記載された発明及び甲1?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明1?20は,いずれも,甲1に記載された発明及び甲1?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由1は理由がない。
したがって,取消理由1によっては,本件特許の請求項1?20に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?20に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?20に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-05 
出願番号 特願2015-528386(P2015-528386)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 537- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大村 博一  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 井上 猛
小野寺 務
登録日 2017-04-28 
登録番号 特許第6133425号(P6133425)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 ハードコーティングフィルム  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  
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