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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1337095
異議申立番号 異議2017-701092  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-22 
確定日 2018-02-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6133426号発明「ハードコーティングフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6133426号の請求項1?22に係る発明についての特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6133426号(請求項の数22。以下,「本件特許」という。)は,2013年(平成25年)7月29日(パリ条約による優先権主張:平成24年8月23日(3件),韓国,平成25年7月26日,韓国)を国際出願日とする特許出願(特願2015-528389号)に係るものであって,平成29年4月28日に設定登録されたものである。
その後,平成29年11月22日に,本件特許の請求項1?22に係る発明についての特許に対して,特許異議申立人 高石恵子(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?22に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
支持基材;
前記支持基材の一面に形成され,第1表面エネルギーを有する第1ハードコーティング層;および
前記支持基材の他の一面に形成され,第2表面エネルギーを有する第2ハードコーティング層を含み,前記第1および第2表面エネルギーの差が3mN/m以上であるハードコーティングフィルムであって,
前記第1表面エネルギーは26mN/m以上であり,前記第2表面エネルギーは23mN/m以下であるハードコーティングフィルム。
【請求項2】
前記第2ハードコーティング層は,前記第2ハードコーティング層の表面乃至表面から1nm深さでXPSによって測定した時,全体元素含量に対して,フッ素(F)元素の含量が12モル%以上である請求項1に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項3】
前記第2ハードコーティング層は,フッ素系化合物を含む請求項1または2に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項4】
前記第1ハードコーティング層は,前記第1ハードコーティング層の表面乃至表面から1nm深さでXPSによって測定した時,全体元素含量に対して,フッ素(F)元素の含量が12モル%未満である請求項1?3のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項5】
前記第1ハードコーティング層の表面は,プラズマ(plasma)処理,コロナ(corona)放電処理,または塩基性溶液を用いた表面処理が行われた請求項1?4のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項6】
前記第1および第2ハードコーティング層は,それぞれ独立して,同一若しくは互いに異なり,3乃至6官能性アクリレート系単量体の架橋共重合体である光硬化性架橋共重合体を含む請求項1?5のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項7】
前記第1および第2ハードコーティング層は,それぞれ独立して,同一若しくは互いに異なり,前記3乃至6官能性アクリレート系単量体に加えて1乃至2官能性アクリレート系単量体がさらに架橋された光硬化性架橋共重合体を含む請求項6に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項8】
前記第1および第2ハードコーティング層は,それぞれ独立して,同一若しくは互いに異なり,前記3乃至6官能性アクリレート系単量体に加えて光硬化性弾性重合体がさらに架橋された光硬化性架橋共重合体を含む請求項6に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項9】
前記光硬化性弾性重合体は,ASTM D638によって測定した伸び率(elongation)が15乃至200%である請求項8に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項10】
前記光硬化性弾性重合体は,ポリカプロラクトン,ウレタンアクリレート系ポリマー,およびポリロタキサンからなる群より選択される1種以上を含む請求項8または9に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項11】
前記ポリロタキサンは,末端に(メタ)アクリレート系化合物が導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物;前記環状化合物を貫通する線状分子;および前記線状分子の両末端に配置され前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基を含む請求項10に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項12】
前記第1および第2ハードコーティング層は,それぞれ独立して,同一若しくは互いに異なり,前記光硬化性架橋共重合体内に分散されている無機微粒子をさらに含む請求項6?11のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項13】
前記第1および第2ハードコーティング層は,それぞれ独立して,同一若しくは互いに異なり,厚さが50乃至300μmである請求項1?12のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項14】
前記3乃至6官能性アクリレート系単量体は,トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA),トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート(TMPEOTA),グリセリンプロポキシル化トリアクリレート(GPTA),ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA),およびジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)からなる群より選択される1種以上を含む請求項6?13のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項15】
前記支持基材は,ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterephtalate,PET),エチレンビニルアセテート(ethylene vinyl acetate,EVA),サイクリックオレフィン重合体(cyclic olefin polymer,COP),サイクリックオレフィン共重合体(cyclic olefin copolymer,COC),ポリアクリレート(polyacrylate,PAC),ポリカーボネート(polycarbonate,PC),ポリエチレン(polyethylene,PE),ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate,PMMA),ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketon,PEEK),ポリエチレンナフタレート(polyethylenenaphthalate,PEN),ポリエーテルイミド(polyetherimide,PEI),ポリイミド(polyimide,PI),トリアセチルセルロース(triacetylcellulose,TAC),MMA(methyl methacrylate)およびフッ素系樹脂からなる群より選択される1種以上を含む請求項1?14のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項16】
22gの鉄球を50cmの高さから10回繰り返して自由落下させた時,亀裂が発生しない請求項1?15のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項17】
1kgの荷重で7H以上の鉛筆硬度を示す請求項1?16のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項18】
500gの荷重でスチールウール#0000で400回往復して表面を擦った時,2つ以下のスクラッチが発生する請求項1?17のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項19】
91%以上の光透過率,0.4以下のヘイズおよび1.0以下のb*値を示す請求項1?18のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項20】
UV B波長の光に72時間露出させた時,ハードコーティングフィルムのb*値の変化が0.5以下である請求項1?19のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項21】
50℃以上の温度および80%以上の湿度で70時間以上露出させた後に前記ハードコーティングフィルムを平面に位置させた時,前記ハードコーティングフィルムの各角または一辺が平面から離隔される距離の最大値が1.0mm以下である請求項1?20のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項22】
前記第1ハードコーティング層上にプラスチック樹脂フィルム,粘着フィルム,離型フィルム,導電性フィルム,導電層,コーティング層,硬化樹脂層,非導電性フィルム,金属メッシュ層またはパターン化された金属層からなる群より選択される1つ以上の層をさらに含む請求項1?21のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件発明1?22は,下記1,2のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?22に係る発明についての特許は,特許法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。
証拠方法として,下記3の甲第1号証?甲第7号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出する。

1 取消理由1(進歩性)
本件発明1?22は,甲1に記載された発明及び甲1?7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
2 取消理由2(サポート要件)
本件発明1?22は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。
3 証拠方法
・甲1 特開2011-75705号公報
・甲2 特開2011-110902号公報
・甲3 特開2011-43606号公報
・甲4 特開2006-231845号公報
・甲5 国際公開第2006/088200号
・甲6 特開2009-204725号公報
・甲7 特開2000-214791号公報

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?22に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
以下,事案に鑑み,取消理由2,1の順で検討する。

1 取消理由2(サポート要件)
(1)申立人は,本件発明1に係る層の表面エネルギーの数値は,層と他の物質の馴染み性について規定するものであるから,二つのハードコーティング層におけるかかる数値をそれぞれ調整することにより,外部の汚染からハードコーティングフィルムの損傷を防止しながら,他の基材との付着性を高めることは可能であるが,その数値の範囲のみを規定する本件発明1が,その数値の範囲内であれば,その他の規定がなくとも,本件発明1の防汚染性及び付着性以外の課題である高硬度,耐衝撃性,耐擦傷性及び高透明度を達成することができるとはいえないから,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たさないと主張する。
上記主張について,検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「前記のような課題を解決するために,本発明は耐汚染性および耐スリップ性を示しながらも高硬度および優れた耐衝撃性を有するハードコーティングフィルムを提供する。」(【0009】)
「本発明のハードコーティングフィルムによれば,高硬度,耐衝撃性,耐擦傷性,および高透明度を示し,移動通信端末器,スマートフォンまたはタブレットPCのタッチパネル,および各種ディスプレイのカバー基板または素子基板においてガラスを代替する用途として使用できる。」(【0011】)
以上の記載によれば,確かに,本件発明1が,高硬度,耐衝撃性,耐擦傷性及び高透明度を達成することについても課題としているようにも解し得るものである。しかしながら,上記の記載は,本件発明1?22の全てについて,包括的に記載したものと理解すべきものである。
すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明には,上記の記載のほか,さらに以下の記載がある。
「本発明のハードコーティングフィルムは,支持基材の両面にそれぞれハードコーティング層を備え,一面には低い表面エネルギーを有するようにして耐汚染性および耐スリップ性を確保し,他の一面には相対的に高い表面エネルギーを有するようにして下部層との付着性を示すハードコーティング層を含むようにすることによって,耐汚染性および他の基材との高い付着性を同時に確保することができる。」(【0019】)
「また,本発明の一実施形態によれば,より大きい表面エネルギーを有する第1ハードコーティング層は耐衝撃性および耐屈曲性を示すようにし,相対的に低い表面エネルギーを有する第2ハードコーティング層は高硬度など高い物理的強度を示すようにすることによって,前述の耐汚染性および付着性の確保に加えて,高い物理的強度および優れた加工性を示す効果を追加的に提供することができる。」(【0025】)
以上の記載によれば,本件発明1は,支持基材の両面にそれぞれ表面エネルギーの異なるハードコーティング層を備えることにより,耐汚染性及び他の基材との高い付着性を同時に確保するとの課題を解決するものであり,それ以外の高硬度や耐衝撃性等の課題については,本件発明2?22のいずれかにおいて,追加的にそれらの課題を解決するものと理解することができる。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1?22の条件を満たす実施例1?6が記載されているが,これらの実施例において,実際に,防汚染性や付着性のほか,高硬度,耐衝撃性,耐擦傷性及び高透明度が達成されることが示されている。
そうすると,本件発明1は,耐汚染性及び他の基材との高い付着性を同時に確保するとの課題を解決するものであるから,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
申立人の主張は,本件発明1が,高硬度,耐衝撃性,耐擦傷性及び高透明度を達成することについても課題としていることを前提とするものであり,失当である。

(2)申立人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,耐汚染性及び耐スリップ性を示しながらも高硬度及び優れた耐衝撃性を有し,耐擦傷性及び高透明度を示し,移動通信端末器,スマートフォン又はタブレットPCのタッチパネル及び各種ディスプレイのカバー基板又は素子基板においてガラスを代替する用途として使用できるハードコーティングフィルムを得るために,本件発明1の構成を採用したことが記載されているものの,その構成を採用することの有効性を示すための具体例としては,いずれも樹脂として,特殊な構造を有し特性も通常の樹脂とは異なる,ポリロタキサンを含む実施例及び比較例が記載されているのみであり,また,ポリロタキサン以外の樹脂を用いた場合においても同様に,所望の性能を有するハードコーティングフィルムが得られると,本件出願時において,具体例の開示がなくとも,当業者に理解できるものであったことを認めるに足りる証拠もないから,本件発明1の表面エネルギーの数値範囲であれば,従来の課題を解決し,所望の性能を有するハードコーティングフィルムが得られることが,上記具体例により裏付けられていると認識することは,本件出願時の技術常識を参酌しても不可能というべきであり,本件明細書の発明の詳細な説明におけるこのような記載だけでは,本件出願時の技術常識を参酌して,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載しているとはいえず,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するとはいえないと主張する。また,本件発明2?20についても同様に主張する。
しかしながら,本件発明1の課題が,耐汚染性及び他の基材との高い付着性を同時に確保するものであることは,上記(1)のとおりである。本件明細書の発明の詳細な説明の記載(【0019】)によれば,本件発明1について,支持基材の両面に備えられたハードコーティング層のうち,低い表面エネルギーを有するものによって耐汚染性及び耐スリップ性が確保され,相対的に高い表面エネルギーを有するものによって他の基材との高い付着性が確保されることが理解できる。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の構成を満たす実施例1?6が記載されており,上記理解に沿う結果が示されている。そうすると,当業者であれば,実施例1?6以外の場合(例えば,ポリロタキサン以外の樹脂を用いた場合)であっても,本件発明1の構成であれば,実施例1?6と同様の結果が得られることが理解できるといえる。
以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の構成についての説明及びその説明を裏付ける実施例の記載があるから,これらを総合すれば,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。また,本件発明2?22についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。

(3)したがって,取消理由2によっては,本件特許の請求項1?22に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

2 取消理由1(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1,5,6)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「ポリエチレンテレフタレート基材の両面にハードコート層が設けられたハードコートフィルムであって,
(i)1分子中に光硬化性基を3個以上有するバインダー成分及び第一の重合開始剤を含み,第一の硬化性樹脂組成物の当該第一の重合開始剤を除いた全固形分に対する当該第一の重合開始剤の質量百分率がM1であり,且つ,下記式(1)を満たし,さらに,光硬化性を有する反応性レベリング剤を含む第一の硬化性樹脂組成物並びに1分子中に光硬化性基を3個以上有するバインダー成分及び第二の重合開始剤を含み,第二の硬化性樹脂組成物の当該第二の重合開始剤を除いた全固形分に対する当該第二の重合開始剤の質量百分率がM2であり,且つ,下記式(2)及び(3)を満たし,さらに,光硬化性を有しない非反応性レベリング剤を含む第二の硬化性樹脂組成物を準備する工程,
1質量%<M1≦10質量%・・・(式1)
1質量%≦M2≦6質量%・・・(式2)
0<(M1-M2)≦4・・・(式3)
(ii)当該ポリエチレンテレフタレート基材の一面側に,第一の硬化性樹脂組成物を塗布し,塗膜とする工程,
(iii)前記(ii)工程で得られた塗膜に光照射し,硬化させて膜厚5?20μmの第一のハードコート層を形成する工程,
(iv)当該ポリエチレンテレフタレート基材の当該第一のハードコート層が形成された側とは反対側に,第二の硬化性樹脂組成物を塗布し,塗膜とする工程,
(v)前記(iv)工程で得られた塗膜に当該塗膜方向から光照射し,硬化させて膜厚が当該第一のハードコート層の膜厚の±25%以内である第二のハードコート層を形成する工程,を含むハードコートフィルムの製造方法により得られる,ハードコートフィルム。」(以下,「甲1発明」という。)

イ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「ポリエチレンテレフタレート基材」,「第二のハードコート層」,「第一のハードコート層」は,それぞれ,本件発明1における「支持基材」,「第1ハードコーティング層」,「第2ハードコーティング層」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,
「支持基材;
前記支持基材の一面に形成された第1ハードコーティング層;および
前記支持基材の他の一面に形成された第2ハードコーティング層を含む,ハードコーティングフィルム。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,第1ハードコーティング層が「第1表面エネルギー」を有し,第2ハードコーティング層が「第2表面エネルギー」を有し,「前記第1表面エネルギーは26mN/m以上」であり,「前記第2表面エネルギーは23mN/m以下」であり,「前記第1および第2表面エネルギーの差が3mN/m以上」であるのに対して,甲1発明では,第二のハードコート層が,「1分子中に光硬化性基を3個以上有するバインダー成分及び第二の重合開始剤を含み,第二の硬化性樹脂組成物の当該第二の重合開始剤を除いた全固形分に対する当該第二の重合開始剤の質量百分率がM2であり,且つ,下記式(2)及び(3)を満たし,さらに,光硬化性を有しない非反応性レベリング剤を含む第二の硬化性樹脂組成物」(注:式(2)及び式(3)は省略。)から形成されたものであり,第一のハードコート層が,「1分子中に光硬化性基を3個以上有するバインダー成分及び第一の重合開始剤を含み,第一の硬化性樹脂組成物の当該第一の重合開始剤を除いた全固形分に対する当該第一の重合開始剤の質量百分率がM1であり,且つ,下記式(1)を満たし,さらに,光硬化性を有する反応性レベリング剤を含む第一の硬化性樹脂組成物」(注:式(1)は省略。)から形成されたものであるものの,各層の表面エネルギーの具体的な数値やそれらの差について特定するものではない点。

ウ 相違点1の検討
(ア)甲1発明に係るハードコートフィルムは,上記のとおり,ポリエチレンテレフタレート基材の両面に,第一のハードコート層(本件発明1における「第2ハードコーティング層」に相当する。)及び第二のハードコート層(本件発明1における「第1ハードコーティング層」に相当する。)を備えるものであって,第一のハードコート層が,所定の「光硬化性を有する反応性レベリング剤を含む第一の硬化性樹脂組成物」から形成されたものであり,第二のハードコート層が,所定の「光硬化性を有しない非反応性レベリング剤を含む第二の硬化性樹脂組成物」から形成されたものである(以下,「ハードコート」を「HC」という。)。
甲1には,第一のHC層及び第二のHC層に関し,それぞれの表面エネルギーの具体的な数値やそれらの差については,何ら記載されておらず,また,それぞれの表面エネルギーを異なるものとして,耐汚染性及び他の基材との高い付着性を同時に確保することについても,何ら記載されていない。
(イ)甲1には,第一のHC層に含まれるレベリング剤について,以下の記載がある。
「本発明の第一の組成物には,滑り性,防汚性又は耐擦傷性を付与する目的で,従来公知のレベリング剤(防汚染剤)が含まれていても良い。
レベリング剤(防汚染剤)としては,従来公知の反射防止フィルムに用いられている,フッ素やケイ素を含有しているもの及びフッ素やケイ素を含有していないもの並びに電離放射線硬化性基を有するもの及び電離放射線硬化性基を有しないものから適宜選択して用いることができる。すなわち,フッ素やケイ素の有無と,電離放射線硬化性基の有無を組み合わせてレベリング剤を選択することができる。
ケイ素やフッ素を含有しているレベリング剤は,油汚れ,指紋及びマジックインキ等の汚れを細かくはじき,簡単に拭き取りができる点から好ましい。
また,ケイ素やフッ素を含有していないレベリング剤を用いると,油汚れや指紋が付着しても目立ち難いという利点がある。」(【0080】)
「第一の組成物でレベリング剤を用いる場合には,ハードコートフィルムをロールで巻き取った際に裏移りを防ぐ点及び防汚性能を長期間維持する点から,電離放射線硬化性基を有するレベリング剤を用いることが好ましい。」(【0080】)
以上の記載によれば,レベリング剤は,防汚染剤であって,滑り性,防汚性又は耐擦傷性を付与するものであること,第一のHC層に含まれるレベリング剤としては,フッ素やケイ素の有無と電離放射線硬化性基の有無を組み合わせた各種のレベリング剤から適宜選択できること,フッ素やケイ素を含有しているレベリング剤は,油汚れ,指紋及びマジックインキ等の汚れを細かくはじき,簡単に拭き取りができるものであること,フッ素やケイ素を含有していないレベリング剤は,油汚れや指紋が付着しても目立ち難くするものであること,電離放射線硬化性基を有するレベリング剤は,HCフィルムをロールで巻き取った際に裏移りを防ぐことができ,防汚性能を長期間維持することができるものであることが理解できる。
(ウ)また,甲1には,第二のHC層に含まれるレベリング剤について,以下の記載がある。
「本発明の第二の組成物にはレベリング剤が含まれていても良い。
レベリング剤としては,上記第一の組成物で挙げたものを用いることができる。
本発明のハードコートフィルムの好適な実施形態においては,第二のHC層に隣接してその表面の少なくとも一部に後述する印刷層を設けることがある。この場合,当該印刷層を第二のHC層によってはじかれずにきれいに形成し,且つ,第一のHC層のレベリング剤の耐久性を得るために,第一の組成物に含まれるレベリング剤が,上記電離放射線硬化性基等の光硬化性を有する反応性レベリング剤であり,且つ,後述する第二の組成物に含まれるレベリング剤が,上記電離放射線硬化性基等の光硬化性を有しない非反応性レベリング剤であることが好ましい。」(【0090】)
以上の記載によれば,第二のHC層に含まれるレベリング剤としては,第一のHC層に含まれるレベリング剤と同様のものを使用できること,第二のHC層に隣接してその表面に印刷層を設ける場合,印刷層を第二のHC層によってはじかれずにきれいに形成し,第一のHC層のレベリング剤の耐久性を得るために,第一のHC層に含まれるレベリング剤を電離放射線硬化性基等の光硬化性を有する反応性レベリング剤とし,第二のHC層に含まれるレベリング剤を電離放射線硬化性基等の光硬化性を有しない非反応性レベリング剤とすることが理解できる。
(エ)以上のとおり,甲1には,第一のHC層及び第二のHC層のいずれについても,各種のレベリング剤(防汚染剤)が含まれていてもよく,それにより,滑り性,防汚性又は耐擦傷性を付与できること,また,上記レベリング剤としては,フッ素やケイ素の有無と電離放射線硬化性基の有無を組み合わせた各種のレベリング剤から適宜選択できることが記載されている。
そして,甲1発明は,第一のHC層が,光硬化性を有する反応性レベリング剤(すなわち,電離放射線硬化性基を有するレベリング剤)を含むものであり,第二のHC層が,光硬化性を有しない非反応性レベリング剤(すなわち,電離放射線硬化性基を有しないレベリング剤)を含むものであるが,これらのレベリング剤を用いた理由について,甲1には,第二のHC層に隣接してその表面に印刷層を設ける場合,印刷層を第二のHC層によってはじかれずにきれいに形成し,第一のHC層のレベリング剤(HCフィルムをロールで巻き取った際に裏移りを防ぐ点及び防汚性能を長期間維持する点から選択されたものである。)の耐久性を得るためであることが記載されている。
しかしながら,甲1における上記のような記載を前提としても,甲1には,第二のHC層及び第一のHC層のそれぞれの表面エネルギーを異なるものとして,耐汚染性及び他の基材との高い付着性を同時に確保することについては記載されているとはいえず,また,当業者が,技術常識を考慮しても,そのようなことが記載されていると認識し,理解することができるともいえない。また,甲1発明における第一のHC層及び第二のHC層が,それぞれ所定のレベリング剤を含むことにより,各HC層の表面エネルギーが具体的にどの程度の数値となるのか,また,それらの差が具体的にどの程度となるのかは,不明というほかない。
(オ)また,甲2?7にも,支持基材の両面にそれぞれ表面エネルギーの異なる第1及び第2のハードコーティング層を備えるハードコーティングフィルムにおいて,「前記第1表面エネルギーは26mN/m以上」であり,「前記第2表面エネルギーは23mN/m以下」であり,「前記第1および第2表面エネルギーの差が3mN/m以上」であることについては記載されていない。
(カ)以上によれば,甲1発明において,第二のHC層の表面エネルギーを「26mN/m以上」とし,第一のHC層の表面エネルギーを「23mN/m以下」とし,両者の表面エネルギーの差を「3mN/m以上」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
(キ)申立人は,甲1発明における第一の組成物には反応性レベリング剤を含ませ,第二の組成物には非反応性レベリング剤を含ませるため,第一のHC層は印刷層もはじく防汚染性を持ち,第二のHC層は印刷層を設けることができるから,各層の表面エネルギーは異なり,第二のHC層のほうが,第一のHC層よりも大きい表面エネルギーを有するのは当然であると主張する。
申立人の主張は,第一のHC層が印刷層もはじく防汚染性を有することを前提とするものと解される。
しかしながら,第一のHC層における光硬化性を有する反応性レベリング剤(電離放射線硬化性基を有するレベリング剤)は,上記(イ)で述べたとおり,HCフィルムをロールで巻き取った際に裏移りを防ぐことができ,防汚性能を長期間維持することができるものではあるが,そうであるからといって,必ず,印刷層もはじく防汚染性を有するとはいえない。
また,上記(イ),(エ)で述べたとおり,光硬化性を有する反応性レベリング剤としては,フッ素やケイ素を含有しているもの及びフッ素やケイ素を含有していないもののいずれも用いることができるところ,フッ素やケイ素を含有しているレベリング剤では,油汚れ,指紋及びマジックインキ等の汚れを細かくはじき,簡単に拭き取りができるものの,フッ素やケイ素を含有していないレベリング剤では,油汚れや指紋が付着しても目立ち難くするにすぎないから,光硬化性を有する反応性レベリング剤であれば,必ず,印刷層もはじく防汚染性を有するとはいえない。
以上のとおりであるから,申立人の主張は,その前提において失当であり,理由がない。

エ 小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲1?7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?22について
本件発明2?22は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記(1)で述べたとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲1?7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?22についても同様に,甲1に記載された発明及び甲1?7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明1?22は,いずれも,甲1に記載された発明及び甲1?7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由1は理由がない。
したがって,取消理由1によっては,本件特許の請求項1?22に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?22に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?22に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-05 
出願番号 特願2015-528389(P2015-528389)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 537- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大村 博一  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 小野寺 務
井上 猛
登録日 2017-04-28 
登録番号 特許第6133426号(P6133426)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 ハードコーティングフィルム  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  
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