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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D04B
管理番号 1337096
異議申立番号 異議2017-700312  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-27 
確定日 2018-02-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第5999618号発明「立体感のある両面丸編地」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5999618号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5999618号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成24年1月23日に特許出願され、平成28年9月9日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人特許業務法人朝比奈特許事務所により特許異議の申立てがされ、平成29年6月7日付けで申立人に対し審尋が行われ、同年7月11日付けで申立人から回答書が提出され、同年8月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月23日に意見書が提出されたものである。
以下、特許異議申立人特許業務法人朝比奈特許事務所を「申立人」、特許異議申立書を「申立書」という。

第2.本件発明
特許第5999618号の請求項1?4の特許に係る発明(以下、「本件発明1?4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
異なる面を有する両面丸編地であって、編地の一方の面(A面)がニットされていない穴を有し柄のあるメッシュ組織部と前記メッシュ組織部と同じ大きさの非メッシュ組織部とからなり、前記メッシュ組織部と前記非メッシュ組織部がウエル方向及びコース方向に交互に繰返し配置され、編地の他方の面(B面)が非メッシュ組織である立体感のある両面丸編地。
【請求項2】
A面の前記メッシュ組織部と前記非メッシュ組織部が、それぞれ一辺の長さが2?10mmの正方形または二辺の各長さが2?10mmの長方形をなしている請求項1に記載の立体感のある両面丸編地。
【請求項3】
A面の前記メッシュ組織部が、9?25ヶのニットされていない穴を有するメッシュ組織部である請求項1または2に記載の立体感のある両面丸編地。
【請求項4】
編地を構成する糸が、ポリエステルマルチフィラメント糸、セルロースアセテートマルチフィラメント糸、またはこれらの複合糸である請求項1に記載の立体感のある両面丸編地。」

第3.取消理由の概要
本件発明1?4に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。
以下、甲第1号証等を「甲1」等という。また、「甲第1号証に記載された発明」等を「甲1発明」等、「甲第1号証に記載された事項」等を「甲1事項」等という。
1.取消理由1
本件発明1は甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
2.取消理由2
本件発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2、3は甲1発明及び甲2事項から容易想到であり、本件発明4は甲1発明及び甲2事項または甲3事項から容易想到であり、本件発明1?3は甲4発明から容易想到であり、本件発明4は甲4発明及び甲2事項または甲3事項から容易想到であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.取消理由3
請求項1における「立体感のある両面丸編地」との記載は明確でないから、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?4の記載は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができない。


甲1:特開2007-191807号公報
甲2:特開2005-23431号公報
甲3:国際公開第2005/118931号
甲4:特開2006-233363号公報

第4.甲号証の記載
1.甲1の記載
甲1には、図1?4とともに、以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。
(1)「【請求項1】
少なくとも中間層に撚り係数が6000?35000であるセルロース繊維を含有し、両外層は非収縮繊維を含有して構成されていることを特徴とする立体編地。」
(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、着用時快適で、かつ、発汗時のべとつき感がなく、更に体温上昇による運動機能の低下が少なく快適である布帛の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、目的を達成するための布帛構造について着用テストなどを含み鋭意検討した結果、布帛を立体構造とし、運動等による発汗時には立体構造布帛の中間層に位置している繊維が吸汗して収縮する繊維を用い、両外層部には吸汗時に収縮の小さい繊維を使用すれば、乾燥時は厚みをもっているが吸汗時は中間層の繊維が収縮して凹部を形成し、吸汗後乾燥した際には再度元の厚みに戻るような立体布帛により衣服を縫製すれば、発汗時には厚みが減少することにより放熱が進み、身体の冷却効果が得られるため運動機能が低下しにくく快適であるとの結論が得られた。この中間層の機能を達成するために種々検討した結果、布帛構造と素材の特定によりこの機能を達成できる事を見出した。
【0006】
すなわち本発明は、少なくとも中間層に撚り係数が6000?35000であるセルロース繊維を含有し、両外層は非収縮繊維を含有して構成されていることを特徴とする立体編地であり、・・・(略)・・・
【発明の効果】
【0007】
本発明は、発汗時に放熱が進み、運動機能の低下の少ない衣服が製造可能で、スポーツウェア、インナー、アウターなどに於いて快適な着用感が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、立体編地とは表裏2層の外層構造に中間層を有する構造体であり、より具体的には、表裏のニードルループと、表裏を連結するループを有する構造である。
本発明における立体編地は、撚り係数が6000?35000であるセルロース繊維を含有する中間層と、非収縮繊維を含有する両外層を有する構造であることを特徴とする。本発明の立体編地において、撚り係数が6000?35000であるセルロース繊維を含有する中間層は、両外層を連結するような構造で、例えば丸編地では両方の外層でニットとして編成する方法、一方をニット、他方をタックとして編成する方法、あるいは、両外層をタックで連結する方法が行える。
【0009】
また、撚り係数が6000?35000であるセルロース繊維を含有する中間層は、編地全面に配置する他、部分的に配置する事も可能で、この場合、撚り係数が6000?35000であるセルロース繊維を配置した部分のみ吸汗時に凹部が形成される。この部分的に撚り係数が6000?35000であるセルロース繊維を、円形、楕円形、方形、菱形、星型などの点状や、線上、格子状などに配置すれば、吸汗時部分的に凹凸が生成し、発汗時にべとつく現象も解消され、より快適な衣服となる。
・・・(略)・・・
【0010】
本発明による立体編地の具体的な製造法の例として、ダブル丸編機を使用する場合の組織図例を図1?4に示す。・・・(略)・・・
【0011】
さらに、図4に示すように中間層に2種の糸種を使用し、撚り係数が6000?35000であるセルロース繊維を(2)、(6)に配置し、(1)、(3)、(4)、(5)、(7)、(8)には非収縮繊維を配置して(1)?(4)を数回繰り返し編成し、次いで(5)?(8)を数回繰り返し編成する組織により、撚り係数が6000?35000であるセルロース繊維の中間層が市松状に配置され、吸汗時には市松状に凹部が形成されて、肌のべとつき感を無くす事が可能である。これらの手法により、凹部の形状を変化させることが可能である。
【0012】
なお、図1?4の例において、ダイアル側、シリンダー側を編成する天竺組織は、1本交互の2コース天竺編みとする事や、鹿の子調とする事なども可能であり、また、中間層も総針ニット、あるいはタックでなく、1本交互、2本交互など任意に選定できる。さらに、両外層にニットループを形成して針床の間隔を開けて編成する場合、特に図2のような場合には、針床の間隔よりも厚みが極端に小さくなる事がある。この場合には、両外層の非収縮繊維をスパンデックスなど弾性を有する繊維、あるいは、染色加工時の熱により収縮する繊維を併用すれば、厚み減少が最小限に抑えられる。」

(3)図4



2.甲1発明
上記1.から、甲1(特に図4の例)には、以下の甲1発明が記載されている。
「表裏のニードルループである表裏2層の外層構造と、表裏を連結するループである中間層とからなる丸編の立体編地であって、中間層は、両方の外層でニットとして編成する方法、一方をニット、他方をタックとして編成する方法、両外層をタックで連結する方法のいずれかの方法で両外層との連結が行われるものであり、中間層は図4に示されるようにセルロース繊維2と非収縮繊維1を配置し(1)?(4)を数回繰り返し編成し次いで(5)?(8)を数回繰り返し編成する組織によりセルロース繊維2の中間層が市松状に配置され、吸汗時に凹部が形成される、立体編地。」

3.甲2の記載
(1)「【請求項3】
膨潤性複合繊維が、平均置換度2.60未満のセルロースアセテートと平均置換度2.76以上のセルロースアセテートとがサイドバイサイド型に複合紡糸された前駆体繊維の平均置換度2.60未満のセルロースアセテートのみをアルカリ処理することにより高膨潤性成分に変性してなる複合繊維である請求項1記載の可逆通気性布帛。」
(2)「【請求項6】
布帛が、表面層と裏面層若しくは表面層、中間層及び裏面層多層構造を有する織編地であって、膨潤性複合繊維が少なくとも1つの層において20重量%以上含まれる織編地である請求項1記載の可逆通気性布帛。」
(3)「【0034】
布帛の空間を活用して効果的に通気度差を得る手段として、本発明においては、表面層から裏面層にわたる空間部を有する形態の編地を提供する。一例としては、図3に示す部分的なメッシュ編地やタテ、ヨコの穴開きの空間を有する編地が挙げられる。布帛密度の大きい編地では通気度差のある商品を求めるのが難しく、この場合、密度の大きな編地に部分的な空間を与えることにより空間部分が自由に伸縮するため、編地の形態変化を少なくし、見栄えを損なうことなく目的とする繊維製品を得ることができる。」
(4)「【0036】
空間部比率(%)=〔空間部の(コース数×ウェル数)/編地の(コース数×ウェル数)〕×100
なお、空間部のコース数、ウェル数は編成した場合を想定して算出する。編地のコース数、ウェル数は空間部を編成した場合の全コース、ウェル数で求める。簡便的には投光法としてミノルタ社性PR603Zのリーダプリンターを用い、陰影差で比率を求めてもよい。また空間部の大きさは、特に規定しないが、その巾若しくは直径が10mm以下、好ましくは5mm以下であることが望ましい。」

4.甲3の記載
(1)「請求の範囲
[1] 湿度が95%以上のとき捲縮率が10%未満、湿度が45%以下のとき捲縮率が20 %以上を示す可逆捲縮セルロースアセテート繊維を含み、目付が100?350g/m ^(2)である多層構造の通気度可逆変化織編物。」
(2)「[0018] 総針を含む編組織は1/1組織に比べ、総針の方がループ長は長く、したがって伸縮性に優れるため通気度差が得やすいと考えられる。編組織は表面層と裏面層が全て総針組織で構成されたものが最も好まし いが、片面に用いてもよい。
このような編物として、表面層が総針組織で裏面層が針抜き片タック組織による編成や、表面層が1/1組織で裏面層が片タック総針組織などが挙げられる。」
(3)「[0033] 多層構造の編地としては、表面層と裏面層を有する二層構造編物や、さらに中間層を有する三層構造編物等があげられ、少なくとも一層が該繊維を含んでいればよいが、発汗部位である肌側、即ち裏面層に該繊維が含まれていることが、汗を効果的に吸湿、吸水する点から好ましい。
[0034] 織編物の組織には特に限定はないが、両面編地の編組織において、総針組織を含むタック接結の編組織が通気度差を得るのに好ましい編組織であり、表編地層若しくは裏編地層の少なくとも一方の編組織が総針を含むタック接結の編組織によって構成される両面編地が好ましい。」

5.甲4の記載
甲4には、図1?3とともに、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】
【請求項1】
表生地と裏生地で構成されるダブルニットの丸編み生地において、表生地はメッシュ組織部と非メッシュ組織部から成り、該メッシュ組織部はC糸にて、非メッシュ組織部はB糸にて、そして裏生地はA糸にて編製し、これらA,B,C3種類の24本の糸を用いたことを特徴とする丸編生地における柄組織。
・・・(略)・・・」
(2)「【0001】
本発明はコンピュータージャガード機を用い、メッシュ組織部と非メッシュ組織部とで任意のジャガード柄を作る丸編み生地の柄組織に関するものである。」
(3)「【0005】
このように、丸編み生地に柄組織を作る方法は色々存在している。本発明は従来に存在しない方法、すなわち、メッシュ組織部と非メッシュ組織部との組合せでもって形成される丸編み生地における柄組織を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る丸編み生地は表生地と裏生地から成るダブルニット組織であり、表生地にメッシュ柄を形成している。このメッシュ柄組織は、大メッシュと中メッシュ及び小メッシュの3種類があり、メッシュ組織部と非メッシュ組織部とでジャガード柄を作ることが出来る。丸編み装置のダイヤルにて裏生地が編製され、そして表生地はシリンダーにて編製されるが、シリンダーの動作を一定間隔で停止することでニットしない部分を作り、またダイヤルにてタック部分を作ることで、これがメッシュ組織となる。
【0007】
上記メッシュ組織部とはニットしないで穴を縦横方向に等間隔で形成し、これら穴が非メッシュ組織部との関係で柄となる。そして、穴の大きさは大、中、小と丸編み生地の柄組織にて選択される。また、糸は3種類が使用され、必要に応じて染色することが出来る。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る丸編み生地はダブルニットされて、表生地と裏生地から成っている。そして表生地はメッシュ組織部と非メッシュ組織部を有し、両組織部との組合せで適当な柄組織を構成することが出来る。この柄組織は従来には存在しないものであり、丸編み生地の用途を拡大することが出来、そして新たな意匠の丸編み生地となる。
【実施例】
【0009】
本発明に係る丸編み生地はダブルニットされて、表生地と裏生地を有している。丸編み装置の仕様は24ゲージ×30インチ×48Fのコンピュータージャガード機であり、シリンダーとダイヤルが設けられ、ダイヤル針はH針とL針の2種類を備え、シリンダーによって裏生地が編製され、表生地はダイヤルにて編製される。ところで、本発明の表生地はメッシュ組織と非メッシュ組織の組み合わせで構成され、メッシュには大メッシュ、中メッシュ、及び小メッシュの3種類がある。
【0010】
(大メッシュを用いた編み組織の場合)
丸編み装置に供給される糸の本数は24本とし、使用糸は3種類であり、各糸(1)?(24)を編製するダイヤル針とシリンダー針の動作は次の通りである。
・・・(略)・・・図1は上記大メッシュ組織部を表している概略図である。
【0011】
(中メッシュを用いた編み組織の場合)
丸編み装置に供給される糸の本数は18本とし、使用糸は3種類であり、各糸(1)?(18)を編製するダイヤル針とシリンダー針の動作は次の通りである。
・・・(略)・・・そして、この中メッシュ組織の概略図を図2に表している。
【0012】
(小メッシュを用いた編み組織の場合)
丸編み装置に供給される糸の本数は12本とし、使用糸は3種類であり、各糸(1)?(12)を編製するダイヤル針とシリンダー針の動作は次の通りである。
・・・(略)・・・そして、該中メッシュ組織の概略図は図3に示している。」
(4)図1


(5)図2


(6)図3



6.甲4発明
上記5.から、甲4には以下の甲4発明が記載されている。
「表生地と裏生地で構成されるダブルニットの丸編み生地であって、表生地が、ニットしないで穴を縦横方向に等間隔で形成し柄となるC糸から編製されるメッシュ組織部と、B糸から編製される非メッシュ組織部とからなり、裏生地がC糸から編製される、丸編み生地。」

第5.判断
1.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由3について
事案に鑑み、まず理由3についての検討を行う。
ア.本件発明における「立体感」のある両面丸編地とは、請求項1の「異なる面を有する両面丸編地であって、編地の一方の面(A面)がニットされていない穴を有し柄のあるメッシュ組織部と前記メッシュ組織部と同じ大きさの非メッシュ組織部とからなり、前記メッシュ組織部と前記非メッシュ組織部がウエル方向及びコース方向に交互に繰返し配置され、編地の他方の面(B面)が非メッシュ組織である」という発明特定事項(以下、「発明特定事項A」という。)を備えることで、本件特許の明細書の段落0012に記載があるように、「編地をA面から編地が透けるように見たときには、あたかもA面とB面との間の厚さが大きくなったように立体感があるものとして見える。また、編地をB面から編地が透けるように見たときにも同様に、あたかもA面とB面との間の厚さが大きくなったように立体感があるものとして見える。さらに、編地をA面から見たときであって、編地が透けないように見たときには、非メッシュ組織部が強調されて浮き上がったように、籠目状の模様が見える。」ものである。
そして、布帛の分野において、組織に穴があれば光の透過が多く、穴がなければ光の透過が少ないことや、視覚的に光の透過が多ければ生地が薄いものと感じ光の透過が少なければ生地が厚いものと感じやすいことは技術常識であるから、本件発明における両面丸編地は、穴のあるメッシュ組織部の層と穴のない非メッシュ組織部の層とでは光の透過の程度が異なり、穴のない非メッシュ組織部層は暗く見え、穴のあるメッシュ組織部層は明るく見えるという中間のない明暗差によって、暗い部分の層は明るい部分の層より厚く見えるという視覚的な錯覚を生じさせるものであることが明らかである。
してみると、請求項1の「立体感のある」とは、発明特定事項Aによる機能を示す事項であるといえるから、請求項1における「立体感のある両面丸編地」との記載は明確である。
イ.申立書における申立人の主張について
申立書の30頁下から5行?32頁3行において申立人は、本件特許明細書では「立体感の有無」に関して主観的に判断しているに過ぎず、このような主観的な発明特定事項を具備する本件発明はその外延が不明確である旨を主張する。
しかし、上記ア.で示したように、本件発明の「立体感のある」とは発明特定事項Aの機能を示したものであり、単なる主観的な発明特定事項とは言えないから、申立人の主張は採用できない。
ウ.小括
したがって、取消理由通知に記載した取消理由3によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
《相違点1》
本件発明1が異なる面を有する両面丸編地であるのに対し、甲1発明の丸編の立体編地は異なる面を有することが特定されない点。
《相違点2》
本件発明1が編地の一方の面(A面)にニットされていない穴を有し柄のあるメッシュ組織部を有するのに対し、甲1発明には当該特定がない点。
《相違点3》
本件発明1が編地の他方の面(B面)が非メッシュ組織であるのに対し、甲1発明には当該特定がない点。
《相違点4》
本件発明1が立体感のあるものであるのに対し、甲1発明は立体感のあるものか否かが不明である点。
イ.判断
上記ア.のとおり、本件発明1と甲1発明との間には少なくとも相違点1?4が存在し、これらの相違点は以下のウ.及び(3)ア.(ア)b.で検討するように実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明ではない。
ウ.申立書及び意見書における申立人の主張について
(ア)相違点1について
申立書の段落「・構成要件1Aを具備する点について」(第19頁)において申立人は、甲1発明は「中間層に対して両外層が設けられた立体編地」であるから、本件発明1における「異なる面を有する両面丸編地」に相当する旨を主張する。
しかし、当該段落における申立人の主張は、甲1には、両面、すなわち「編地の一方の面(A面)」と「編地の他方の面(B面)」とが、異なる面であることまで示すものではない。
(イ)相違点2について
申立書の段落「・構成要件1Bを具備する点について」(第19頁)において申立人は、甲1発明は中間層が両方の外層のうち一方をニットとして編成し他方をタックとして編成することにより連結し得ること(段落0008)、図4によればタック面とタックなし面とが形成されていることから、「タックとして編成された外層」が本件発明1における「ニットされていない穴を有する編地の一方の面(A)面」に相当する旨を主張する。
しかし、本件発明1は、請求項1で特定されるとおり、「編地の一方の面(A面)」が、「ニットされていない穴を有し柄のあるメッシュ組織部」と「非メッシュ組織部」とを有するものである。
甲1には、「メッシュ組織部」が「ニットされていない穴を有し柄のある」ものであることまでは、記載されていない。
(ウ)相違点3について
申立書の段落「・構成要件1Eを具備する点について」(第21頁)において申立人は、図4において5ウェルのタックと5ウェルのウェルト(ミス)を2回繰り返した後タックとウェルト(ミス)が入れ替わり2回繰り返す組織となっていることから、他方の面は非メッシュ組織であることが読み取れる旨を主張する。
しかし、図4に示された中間層の組織は、メッシュ組織と非メッシュ組織の両方を備えるものであるから、本件発明1のように「編地の他方の面(B面)が非メッシュ組織である」ものではない。
(エ)相違点4について
申立書の段落「・構成要件1Fを具備する点について」(第21頁)において申立人は、甲1発明は「立体編地」であるから、少なくとも何らかの「立体感」を有している旨を主張する。
しかし、上記(1)ア.で示したとおり、本件発明1における「立体感」のある両面丸編地とは、発明特定事項Aを備えたときに、「編地をA面から編地が透けるように見たときには、あたかもA面とB面との間の厚さが大きくなったように立体感があるものとして見える。また、編地をB面から編地が透けるように見たときにも同様に、あたかもA面とB面との間の厚さが大きくなったように立体感があるものとして見える。さらに、編地をA面から見たときであって、編地が透けないように見たときには、非メッシュ組織部が強調されて浮き上がったように、籠目状の模様が見える。」ものであるところ、甲1には発明特定事項Aを備えることでこのような「立体感」を有することは特定されていない。
エ.小括
したがって、取消理由通知に記載した取消理由1によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由2について
ア.甲1を主たる引用例とする取消理由について
(ア)本件発明1について
a.対比
上記(2)ア.で示したとおり、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも相違点1?4で相違する。
b.判断
甲1発明において、相違点1?3に掲げた本件発明1の発明特定事項を備えることは、甲1にも甲2?4にも記載も示唆もされていない。特に、甲4には段落イ.で後述するとおり、相違点1のように異なる面を有する両面丸編地にすることや、相違点2のように表生地側の面(編地の一方の面(A面))にニットされていない穴を有し柄のあるメッシュ組織部を有することは記載されているが、相違点3のように裏生地側の面(編地の他方の面(B面))を非メッシュ組織とすることは、記載も示唆もされていない。
これに対し本件発明1は、相違点1?3に掲げた本件発明1の発明特定事項を組み合わせることで、相違点4のように立体感を得るものである。
よって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の特定事項をすべて含むものであり、本件発明1と同様の理由で、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.甲4を主たる引用例とする取消理由について
(ア)本件発明1について
a.対比
甲4発明における丸編み生地の、表生地側の面と裏生地側の面は、それぞれ本件発明1における「編地の一方の面(A面)」、「編地の他方の面(B面)」に相当する。
甲4発明における丸編み生地は、表生地はC糸から編製されるメッシュ組織部とB糸から編製される非メッシュ組織部とからなるものであり、裏生地がC糸から編製されるものであるから、「異なる面を有する両面丸編地」であると認められる。
そうすると、本件発明1と甲4発明とを対比すると、一致点・相違点は以下のとおりである。
《一致点》
異なる面を有する両面丸編地であって、編地の一方の面(A面)がニットされていない穴を有し柄のあるメッシュ組織部と非メッシュ組織部とからなり、前記メッシュ組織部と前記非メッシュ組織部がウエル方向及びコース方向に交互に繰返し配置され、編地の他方の面(B面)が非メッシュ組織である立体感のある両面丸編地。
《相違点A》
本件発明1が編地の一方の面(A面)にメッシュ組織部と同じ大きさの非メッシュ組織部を有するのに対し、甲4発明は編地の一方の面(A面)の非メッシュ部の大きさが特定されない点。
《相違点B》
本件発明1が編地の一方の面(A面)にメッシュ組織部と非メッシュ組織部がウエル方向及びコース方向に交互に繰返し配置されるのに対し、甲4発明は編地の一方の面(A面)におけるメッシュ組織部と非メッシュ組織部の配置が特定されない点。
《相違点C》
本件発明1が編地の他方の面(B面)が非メッシュ組織であるのに対し、甲4発明は編地の他方の面(B面)が非メッシュ組織であることが特定されない点。
《相違点D》
本件発明1が立体感のあるものであるのに対し、甲4発明は立体感のあるものか否かが不明である点。
b.判断
本件発明1は、編地の一方の面(A面)におけるニットされていない穴を有し柄のあるメッシュ組織部と非メッシュ組織部について相違点A及びBの構成を採用し、編地の他方の面(B面)について相違点Cの構成を採用することで、相違点Dのように立体感のある両面丸編地を得るものである。編地の一方の面(A面)におけるニットされていない穴を有し柄のあるメッシュ組織部と非メッシュ組織部と、編地の他方の面(B面)について、これらの構成を組み合わせることで立体感のある両面丸編地を得ることは、甲4には記載も示唆もされていない。また、その点は、甲1?3にも記載も示唆もされていない。
これに対し本件発明1は、相違点A?Cに掲げた本件発明1の発明特定事項を組み合わせることで、相違点Dのように立体感を得るものである。
よって、本件発明1は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c.申立書及び回答書における申立人の主張について
申立書の段落「・構成要件1Cおよび構成要件1Dを具備する点について」(22?23頁)において申立人は、甲4発明はメッシュ組織部と非メッシュ組織部とで任意のジャガード柄を作るものである(段落0001)から、メッシュ組織部とメッシュ組織部と同じ大きさの非メッシュ組織部とを形成し得るし、メッシュ組織部と非メッシュ組織部とをウエル方向及びコース方向に交互に繰り返し配置し得るし、非メッシュ組織を裏生地に作製し得る旨を主張する。
しかし、甲4発明が、メッシュ組織部とメッシュ組織部と同じ大きさの非メッシュ組織部とを形成し得るものであり、メッシュ組織部と非メッシュ組織部とをウエル方向及びコース方向に交互に繰り返し配置し得るものであり、非メッシュ組織を裏生地に作製し得るものであったとしても、非メッシュ組織部の大きさについて様々な大きさの中からメッシュ組織と同じ大きさを選択し、かつメッシュ組織部と非メッシュ組織部の配置について様々な配置の中から植える方向及びコース方向に交互に繰り返しの配置を選択し、かつ裏生地についてメッシュ組織と非メッシュ組織のうちから非接触組織を選択することを組み合わせる動機は存在しない。これに対し本件発明1は、相違点A?Cに掲げた本件発明1の発明特定事項を組み合わせることで、相違点Dのように立体感のある両面丸編地を得るものである。
また、回答書の第(2-2)段落において申立人は、ジャガード編機で三角や四角のような幾何学模様を作成することは、必然的に同じ大きさの柄を交互に繰り返す柄を作成し得ることである旨を主張する。
しかし、回答書に申立人が添付した甲5(メリヤス技術必携(よこ編篇)、日本繊維機械学会、昭和52年4月30日発行、第42、43、380?383、450、451頁)の第31図(第43頁)に記載のジャガード編において柄(黒色の部分と白色の部分)は同じ大きさのものが交互に繰り返す配置にはなっていないように、ジャガード編の柄には様々なものがある。甲4発明において、様々な柄の中から、メッシュ組織部とメッシュ組織部と同じ大きさの非メッシュ組織部とからなりメッシュ組織部と非メッシュ組織部がウエル方向及びコース方向に交互に繰返し配置される柄を選択する動機は存在しない。
(イ)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の特定事項をすべて含むものであり、本件発明1と同様の理由で、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.小括
したがって、取消理由通知に記載した取消理由2によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。

2.取消理由通知に記載しなかった取消理由について
申立人は申立書において、本件発明1は甲4発明であり、特許法第29条第1項第3号の要件を満たさないと主張する。
しかし、上記1.(2)イ.(ア)a.のとおり、本件発明1と甲4発明との間には相違点A?Dが存在するから、かかる主張は理由がない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-06 
出願番号 特願2012-11455(P2012-11455)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (D04B)
P 1 651・ 121- Y (D04B)
P 1 651・ 537- Y (D04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松岡 美和  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 谿花 正由輝
蓮井 雅之
登録日 2016-09-09 
登録番号 特許第5999618号(P5999618)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 立体感のある両面丸編地  
代理人 田村 敏文  

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