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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10L
管理番号 1337319
審判番号 不服2016-2076  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-10 
確定日 2018-02-09 
事件の表示 特願2012- 47498「豚の糞尿の利用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月12日出願公開、特開2013-181149〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年3月5日の出願であって、出願後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成27年 8月28日付 拒絶理由通知
同年10月27日 意見書・手続補正書提出
同年11月10日付 拒絶査定
平成28年 2月10日 審判請求書・手続補正書提出
同年 3月 3日付 前置報告
同年10月25日 上申書提出
平成29年 4月12日付 拒絶理由通知
同年 6月 8日 意見書提出
同年 9月15日付 拒絶理由通知
同年11月 8日 意見書提出

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明は、平成28年2月10日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。
「畜舎からスラリー状で排出された豚の糞尿混合物をそのまま固液分離し、
該固液分離によって得られた固形分をそのまま密閉縦型堆肥化装置で発酵させ、
該発酵によって得られた堆肥であって、含水率が40%以下、塩素濃度が3500ppm以下、総発熱量が2500kcal/kg以上である堆肥をそのままボイラ燃料とすることを特徴とする豚の糞尿の利用方法。」
なお、本願明細書の【0033】【表1】において、堆肥の含水率は「質量%」で示されていることから、本願発明における含水率の「%」とは、「質量%」を意味するものと認める。

第3 平成29年9月15日付けの拒絶理由(進歩性)の概要

標記拒絶理由は、要するに、本願発明は、本願出願前日本国内または外国において頒布された下記引用例1に記載された発明及び周知技術(下記引用例2などを参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用例1.特開2010-234221号公報
引用例2.国際公開第2009/57713号

第4 進歩性についての当審の判断

1 引用例1の記載事項
引用例1には、以下の記載がある(下線は当審が付与した。以下、同じ。)。
(a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
高含水率有機廃棄物を脱塩及び低含水率化するための方法であって、
前記高含水率有機廃棄物をスクリュープレスを用いて4.5m/分以下の周速にて脱水処理して、塩素濃度が2500ppm以下、含水率が75質量%以下の脱塩素有機廃棄物とすることを特徴とする高含水率有機廃棄物の脱塩方法。
【請求項2】
前記高含水率有機廃棄物は、家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する含水率が60質量%以上の含水有機廃棄物、または、前記家畜排泄物、前記食品廃棄物のいずれか一方または双方を、その等量以上かつ20倍量以下の水に投入・撹拌してなる有機廃棄物スラリーであることを特徴とする請求項1記載の高含水率有機廃棄物の脱塩方法。
【請求項3】
前記高含水率有機廃棄物にカチオン系の高分子系凝集剤を添加して、平均粒子径が2mm以上の凝集粒子を生成させ、この凝集粒子を含む高含水率有機廃棄物を、前記スクリュープレスを用いて脱水処理することを特徴とする請求項1または2記載の高含水率有機廃棄物の脱塩方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の高含水率有機廃棄物の脱塩方法により得られた脱塩素有機廃棄物をバイオマス燃料とするための方法であって、
前記脱塩素有機廃棄物を乾燥または加熱乾燥して、塩素濃度が2500ppm以下かつ含水率が35質量%以下の乾燥脱塩素有機廃棄物とすることを特徴とする高含水率有機廃棄物の燃料化方法。
【請求項5】
高含水率有機廃棄物をスクリュープレスを用いて4.5m/分以下の周速にて脱水処理し、得られた脱塩素有機廃棄物を乾燥または加熱乾燥してなるバイオマス燃料であって、
塩素濃度が2500ppm以下かつ含水率が35質量%以下であることを特徴とするバイオマス燃料。」
(b)
「【0001】
本発明は、高含水率有機廃棄物の脱塩方法及び燃料化方法並びにバイオマス燃料に関し、更に詳しくは、鶏糞、牛糞、豚糞等の畜糞尿を含む家畜排泄物、あるいは百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスストア等にて廃棄される食品廃棄物等を含有する有機廃棄物に含まれる塩素の濃度及び含水率を低減することが可能な高含水率有機廃棄物の脱塩方法、及び、この高含水率有機廃棄物の脱塩方法により得られた脱塩素有機廃棄物をバイオマス燃料とすることが可能な高含水率有機廃棄物の燃料化方法、並びに、セメント焼成設備等のエネルギー源として有効利用することが可能なバイオマス燃料に関するものである。」
(c)
「【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の脱塩・燃料化設備を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態の脱塩・燃料化設備のスクリュープレスを示す模式図である。」
(d)
「【0020】
この脱塩・燃料化設備で脱塩・燃料化の対象となる高含水率有機廃棄物としては、次の(1)、(2)が挙げられる。
(1)家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する含水率が60質量%以上の含水有機廃棄物。
(2)家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を、その等量以上かつ20倍量以下の水に投入・撹拌してなる有機廃棄物スラリー。
【0021】
ここで、家畜排泄物とは、鶏糞、牛糞、豚糞等の畜糞尿を含む家畜排泄物のことであり、鶏舎、牛舎、豚舎等の畜舎から発生する洗浄水を含んだ含水率が60質量%以上の鶏糞、牛糞、豚糞等の高含水排泄物も含まれる。
また、食品廃棄物とは、百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、飲食店等にて廃棄される売れ残り弁当や各種残飯等の食品廃棄物のことである。
この家畜排泄物や食品廃棄物は、その用途や必要に応じて、1種のみ、または2種以上を混合して用いることができる。
この高含水率有機廃棄物における塩素、または塩素化合物、あるいは塩素及び塩素化合物の含有量は、5000ppm?30000ppmである。」
(e)
「【0023】
貯留装置2は、溶解槽1にて作製された有機廃棄物スラリーS1(あるいは、鶏舎、牛舎、豚舎等の畜舎から発生する洗浄水を含んだ含水率が60質量%以上の鶏糞、牛糞、豚糞等の含水有機廃棄物S2)をスクリュープレス3に送る際に、その流量を調整するために一旦貯留し、さらには、この有機廃棄物スラリーS1(あるいは含水有機廃棄物S2)に、カチオン系の高分子系凝集剤を添加して平均粒子径が2mm以上の凝集粒子(フロック)を生成させる装置であり、有機廃棄物スラリーS1(あるいは含水有機廃棄物S2)の固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリーS1あるいは含水有機廃棄物S2中の固形分の濃度を保持しかつその温度を制御しつつ撹拌する装置である。
【0024】
スクリュープレス3は、貯留装置2から送り出される有機廃棄物スラリーS1あるいは含水有機廃棄物S2を脱水処理して脱塩素有機廃棄物である固形状のケーキ(脱水有機廃棄物)と濾液とに固液分離する装置であり、図2に示すように、一端部11aから他端部11bに向かって拡径した軸11の外周面にスクリュウ12が設けられたスクリュウ軸13と、このスクリュウ軸13を囲むように設けられた円筒状の金属製のスクリーン14と、スクリュウ軸13に同軸的に設けられたモーター15とにより構成されている。
このスクリュープレス3は、含水率75質量%以下の固形状のケーキCを短時間で得ることができるので、含水率が60質量%以上の含水有機廃棄物を脱水処理するのに適した装置である。」
(f)
「【0025】
乾燥設備4は、固形状のケーキCを乾燥させるために、このケーキCに含まれる家畜排泄物や食品廃棄物の種類や量に応じて太陽熱単独あるいは太陽熱及び自然の風力による天日乾燥、自然の風力あるいは他の設備からの排気等を利用した風力乾燥、有機廃棄物の発酵に伴う発酵熱による発酵乾燥のいずれか1種、あるいは2種以上を選択することができる設備であり、有機廃棄物の発酵乾燥を行う縦型撹拌式発酵装置、横型開放式堆肥舎等の発酵装置と、太陽熱、自然の風力、他の設備からの排気等を利用してスクリュープレス3で脱水処理されたケーキCの天日乾燥あるいは風力乾燥を行うハウスとを備えている。
なお、この乾燥設備4は、高含水率有機廃棄物に含まれる家畜排泄物や食品廃棄物の種類や量が限定される場合には、それらの用途に応じて、発酵装置、ハウスのいずれか一方のみにより構成してもよい。」
(g)
「【0032】
(2)有機廃棄物スラリーあるいは含水有機廃棄物の貯留
次いで、溶解槽1にて作製された有機廃棄物スラリーS1(あるいは、畜舎から排出される鶏糞、牛糞、豚糞等の畜糞尿を洗浄水にて洗浄することで生じた含水率が60質量%以上の鶏糞、牛糞、豚糞等の含水有機廃棄物S2)を、貯留装置2に投入し、この有機廃棄物スラリーS1あるいは含水有機廃棄物S2の温度を0℃以上かつ30℃以下、より好ましくは0℃以上かつ25℃以下、さらに好ましくは0℃以上かつ20℃以下の温度範囲内となるように調整し、撹拌する。
【0033】
ここで、有機廃棄物スラリーS1(あるいは含水有機廃棄物S2)の温度は、メタン発酵させるのに最適な温度が37℃付近であることを考慮すると、30℃?45℃がメタン発酵に最適な温度領域となるので、メタン発酵を抑制するには、この温度領域以下とする必要がある。
そこで、有機廃棄物スラリーS1(あるいは含水有機廃棄物S2)の温度を0℃以上かつ30℃以下、より好ましくは0℃以上かつ25℃以下、さらに好ましくは0℃以上かつ20℃以下の温度範囲内に調整する。
なお、有機廃棄物スラリーS1(あるいは含水有機廃棄物S2)の貯留の温度が30℃を超えると、このスラリー中におけるメタン発酵が進行し、得られた燃料の発熱量を3000kcal/kg以上に維持することができなくなる。また、スラリーの温度を0℃より下げると、結氷が生じてスラリーの状態を維持することができない。」
(h)
「【0045】
この乾燥脱塩素有機廃棄物は、単に乾燥しただけでは、球状、塊状(ブロック状)、板状等、大きな形状をしていることが多い。用途によってはこのままの形状でもよいが、セメント焼成設備等にて用いる場合等では、燃焼効率を向上させるために、粉砕機6に備えられた篩または分級機を用いて分級した後、この粉砕機6により粉砕または解砕して、直径10mm以下の粒子状とするのがよい。
このようにして得られた乾燥脱塩素有機廃棄物は、塩素濃度が2500ppm以下と低くかつ高位の発熱量を有し、しかも、直径10mm以下の粒子状とされているので、セメント焼成設備のセメントキルンの窯尻部等に投入することによりセメント焼成用燃料として有効利用される。」
(i)
「【0052】
(実施例1)
高含水率有機廃棄物として含水率90質量%、塩素濃度9000ppmの豚糞を用い、この豚糞100kgをスクリュープレス3を用いて0.8m/分の周速にて脱水処理した。これにより得られた脱塩豚糞の質量は31kg、含水率は68質量%、塩素濃度は2100ppmであった。
次いで、この脱塩豚糞を横型開放式堆肥舎に搬入し、発酵熱を用いて乾燥させ、乾燥脱塩豚糞12kgを得た。この乾燥脱塩豚糞の含水率は20質量%、塩素濃度は2100ppm、発熱量は3500kcal/kgであった。
また、この乾燥脱塩豚糞を、セメント焼成設備のセメントキルンの窯前部の燃焼バーナーより吹き込み、燃焼させたところ、セメントキルンの燃焼効率が低下することはなく、セメントキルンの操業やセメント品質に影響は無かった。」
(j)
「【図1】

【図2】



2 引用例2の記載事項
引用例2には、以下の記載がある。
(a)
「請求の範囲
・・・
[5] 家畜排泄物および食品廃棄物の少なくとも一方を含有する有機廃棄物からバイオマス燃料を製造する方法であって、
上記有機廃棄物に含まれる塩素および/または塩素化合物を除去して脱塩素有機廃棄物を得るための有機廃棄物の脱水処理工程と、
得られた脱塩素有機廃棄物に、乾燥または加熱乾燥、および水分調整材の添加の少なくとも一方を施すことにより含水率を80質量%以下に調整する含水率調整工程と、
次いで、この含水率を調整した脱塩素有機廃棄物を発酵させ、発酵過程にて発生する発酵熱を用いる発酵工程とを具備する、塩素濃度が4000ppm以下でありかつ含水率が40質量%以下の乾燥脱塩素有機廃棄物であるバイオマス燃料を製造する方法。」
(b)
「[0094] 実施形態のバイオマス燃料によれば、塩素濃度を4,000ppm以下かつ含水率を40質量%以下としたので、高位の発熱量を有し、燃焼効率が高く、省エネルギー効果が大きく、しかも環境負荷が小さいバイオマス燃料を提供することができる。
・・・
このバイオマス燃料は、セメント焼成設備の燃料としての他、廃棄物発電用、廃棄物ボイラー用等、広範囲の燃料として利用が可能である。」

3 引用例1に記載された発明(引用発明)の認定
(1) 引用例1の(a)及び(b)から、引用例1には、高含水率有機廃棄物の燃料化方法が記載されていると認められる。
(2) 引用例1の(d)から、当該高含水率有機廃棄物には、鶏舎、牛舎、豚舎等の畜舎から発生する洗浄水を含んだ、鶏糞、牛糞、豚糞等の畜糞尿が含まれることがわかる。
(3) 引用例1の(i)の「実施例1」には、高含水率有機廃棄物として含水率90質量%、塩素濃度9000ppmの豚糞を用い、この豚糞100kgをスクリュープレス3を用いて0.8m/分の周速にて脱水処理して、含水率は68質量%、塩素濃度は2100ppmの脱塩豚糞31kgを得て、この脱塩豚糞を横型開放式堆肥舎に搬入し、発酵熱を用いて乾燥させ、含水率は20質量%、塩素濃度は2100ppm、発熱量は3500kcal/kgの乾燥脱塩豚糞12kgを得て、この乾燥脱塩豚糞を、セメント焼成設備のセメントキルンの窯前部の燃焼バーナーより吹き込み、燃焼させることが記載されていると認められる。
ア ここで、該「豚糞」とは、引用例1の(d)【0021】の「家畜排泄物とは、鶏糞、牛糞、豚糞等の畜糞尿を含む家畜排泄物のことであり、鶏舎、牛舎、豚舎等の畜舎から発生する洗浄水を含んだ含水率が60質量%以上の鶏糞、牛糞、豚糞等の高含水排泄物も含まれる。」という記載、及び、その塩素濃度が9000ppmであることからみて、豚の尿も含まれた、畜舎から発生した含水率90質量%の豚の糞尿であるといえる。
イ また、該「スクリュープレス3」について、引用例1の(e)【0024】には、「スクリュープレス3は、貯留装置2から送り出される有機廃棄物スラリーS1あるいは含水有機廃棄物S2を脱水処理して脱塩素有機廃棄物である固形状のケーキ(脱水有機廃棄物)と濾液とに固液分離する装置であり」と記載されていることから、「脱水処理」とは、「固形状のケーキと濾液とに固液分離する」処理であり、「脱塩豚糞」は、「固形状のケーキ」であるといえる。
ウ さらに、引用例1の実施例1についての記載である(i)【0052】の「この乾燥脱塩豚糞の含水率は20質量%、塩素濃度は2100ppm、発熱量は3500kcal/kgであった。また、この乾燥脱塩豚糞を、セメント焼成設備のセメントキルンの窯前部の燃焼バーナーより吹き込み、燃焼させた」という記載からみて、実施例1の乾燥脱塩豚糞は、塩素濃度は2100ppmであって、しかも、セメントキルンの燃焼バーナーを介して燃焼されるものであることがわかる。
エ そして、引用例1の(a)【請求項4】の「高含水率有機廃棄物の脱塩方法により得られた脱塩素有機廃棄物をバイオマス燃料とするための方法であって、前記脱塩素有機廃棄物を乾燥または加熱乾燥して、塩素濃度が2500ppm以下かつ含水率が35質量%以下の乾燥脱塩素有機廃棄物とすることを特徴とする高含水率有機廃棄物の燃料化方法」という記載、及び、一実施形態についての記載である同(h)【0045】の「このようにして得られた乾燥脱塩素有機廃棄物は、塩素濃度が2500ppm以下と低くかつ高位の発熱量を有し、しかも、直径10mm以下の粒子状とされているので、セメント焼成設備のセメントキルンの窯尻部等に投入することによりセメント焼成用燃料として有効利用される。」という記載からみて、塩素濃度が2100ppmの実施例1の乾燥脱塩豚糞は、セメント焼成用燃料等のバイオマス燃料として用いられるものであるといえる。
(4) そうすると、引用例1には、実施例1として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「畜舎から発生した含水率90質量%の豚の糞尿を、スクリュープレスにて脱水処理し、固形状のケーキと濾液とに固液分離して、脱塩豚糞である固形状のケーキを得て、
該脱水処理によって得られた脱塩豚糞である固形状のケーキを横型開放式堆肥舎で発酵させ、該発酵によって得られた乾燥脱塩豚糞であって、含水率が20質量%、塩素濃度が2100ppm、発熱量が3500kcal/kgである乾燥脱塩豚糞を、セメント焼成用燃料等に用いられるバイオマス燃料とする、豚糞の燃料化方法。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「含水率90質量%の豚の糞尿」及び「豚糞の燃料化方法」は、本願発明の「豚の糞尿混合物」及び「豚の糞尿の利用方法」にそれぞれ相当する。
(2) 引用発明の「スクリュープレスにて脱水処理」する構成は、豚の糞尿を固形状のケーキと濾液とに分離するものであるから、本願発明の「固液分離」に相当するし、引用発明の「脱塩豚糞である固形状のケーキ」は、本願発明の「固液分離によって得られた固形分」に相当する。
(3) 引用発明の「横型開放式堆肥舎」と本願発明の「密閉縦型堆肥化装置」とは、「堆肥化装置」という点で共通する。
(4) 引用発明の「乾燥脱塩豚糞」は、横型開放式堆肥舎で豚糞を発酵することによって得られたものであることから、本願発明の「堆肥」に相当する。
(5) 引用発明の「発熱量」とは、得られた乾燥脱塩豚糞が有する発熱量であり、本願発明の「総発熱量」と同義といえる。また、本願明細書の【0033】【表1】の記載からみて、本願発明における含水率の「%」は「質量%」を意味するものと解されるから(上記「第2」も参照されたい。)、引用発明の「乾燥脱塩豚糞」の含水率、塩素濃度及び総発熱量は、本願発明のそれらに含まれる。
(6) 引用発明の「バイオマス燃料」と本願発明の「ボイラ燃料」とは、「燃料」という点で共通する。
(7) 引用発明と本願発明とは、固液分離によって得られた固形分を堆肥化装置で発酵させる際、及び、堆肥化装置での発酵によって得られた堆肥を燃料とする際に、他の処理は行われず、固液分離によって得られた固形分を「そのまま」堆肥化装置で発酵させ、堆肥化装置での発酵によって得られた堆肥を「そのまま」燃料とする点で共通する。
(8) 以上のことから、本願発明と引用発明とは、次の点で一致するといえる。
「畜舎から排出された豚の糞尿混合物を固液分離し、
該固液分離によって得られた固形分をそのまま堆肥化装置で発酵させ、
該発酵によって得られた堆肥であって、含水率が20%、塩素濃度が2100ppm、総発熱量が3500kcal/kgである堆肥をそのまま燃料とする、豚の糞尿の利用方法。」
そして、両者は、次の点で相違するものと認められる。
【相違点1】
本願発明の糞尿混合物は、「スラリー状」であるのに対し、引用発明のそれは、含水率90質量%の豚の糞尿とされているものの、スラリー状であるのかが不明である点。
【相違点2】
豚の糞尿混合物を固液分離する際に、本願発明は「そのまま」固液分離するのに対し、引用発明は「そのまま」固液分離するのか不明である点。
【相違点3】
堆肥化装置について、本願発明は「密閉縦型堆肥化装置」であるのに対し、引用発明は「横型開放式堆肥舎」である点。
【相違点4】
燃料について、本願発明は「ボイラ」に用いられるのに対し、引用発明は、そのような規定はない点。

5 相違点についての検討
(1) 相違点1について
ア 引用例1の(d)【0021】には、燃料化の対象となる高含水率有機廃棄物は、「畜舎から発生する洗浄水を含んだ含水率が60質量%以上の鶏糞、牛糞、豚糞等の高含水排泄物」が含まれることが記載されており、また、引用発明の糞尿混合物は「含水率90質量%の豚の糞尿」である。
そして、一般に、スラリーとは、細かい固体粒子を液体の中に懸濁している流動性のあるデイ混合物のことをいい、固体の濃度が高く流動性のなくなったものをケーキということに照らすと(必要ならば、下記周知文献1を参照)、スクリュープレスによりケーキと濾液とに固液分離される前の当該「含水率90質量%の豚の糞尿」は、流動性のあるデイ状混合物の状態、すなわち、スラリー状であると解するのが合理的である。
したがって、引用発明の糞尿混合物も、豚の糞、尿及び洗浄水を含むスラリー状のものであるから、当該相違点1は実質的な相違点とはいえない。
・周知文献1:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典5 縮別版」(1 997年9月20日 縮刷版第36刷発行)、共立出版 、205?206頁「スラリー」の項。特に「細かい固 体粒子を液体の中に懸濁している流動性のあるデイ状混 合物.固体の濃度が高く流動性のなくなったものをケー キという.」という記載を参照されたい。
イ また、仮に、引用発明の糞尿混合物がスラリー状でなかったとしても、引用例1の(d)【0020】には、燃料化の対象となる高含水率有機廃棄物として、「家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を、その等量以上かつ20倍量以下の水に投入・撹拌してなる有機廃棄物スラリー」が挙げられているのであるから、畜舎からの糞尿の取扱いやすさ等を考慮して、引用発明の糞尿混合物に、その等量以上かつ20倍量以下の水を加え、畜舎内においてスラリー状とすることは、当業者が適宜行うことである。
(2) 相違点2について
ア 引用例1の(i)の実施例1に関する記載は、「高含水率有機廃棄物として含水率90質量%、塩素濃度9000ppmの豚糞を用い、この豚糞100kgをスクリュープレス3を用いて0.8m/分の周速にて脱水処理した。これにより得られた脱塩豚糞の質量は31kg、含水率は68質量%、塩素濃度は2100ppmであった。」とあり、スクリュープレス3で脱水処理する前に、含水率90質量%、塩素濃度9000ppmの豚糞100kgに対して、何かしらの加工処理を行うことは示されていない。また、図1に示される脱塩・燃料化設備は、一実施形態の模式図を示しているに過ぎず(引用例1の(c)参照。特に、図1では、貯留装置2において、カチオン系高分子系凝集剤が添加されていることから、当該図1は、引用例1の実施例1を改変した(a)【請求項3】に記載された一実施形態に関連するものと解される。)、実施例1において、図1に示される各設備が必須のものであるとはいえない。
してみれば、引用発明は、含水率90質量%、塩素濃度9000ppmの豚糞100kgを「そのまま」スクリュープレスで脱水処理するものであり、上記相違点2は実質的な相違点となるものではない。
イ 仮に、引用例1の実施例1に基づく引用発明の認定に際し、図1に示されるように、スクリュープレス3による脱水処理の前に貯留装置2による貯留を考慮する必要があったとしても、以下に検討するように、依然として、実施例1は、貯留装置2による貯留を必須とするものではない。
(ア) 引用例1の(d)の【0023】には、「貯留装置2は、溶解槽1にて作製された有機廃棄物スラリーS1(あるいは、鶏舎、牛舎、豚舎等の畜舎から発生する洗浄水を含んだ含水率が60質量%以上の鶏糞、牛糞、豚糞等の含水有機廃棄物S2)をスクリュープレス3に送る際に、その流量を調整するために一旦貯留し、さらには、この有機廃棄物スラリーS1(あるいは含水有機廃棄物S2)に、カチオン系の高分子系凝集剤を添加して平均粒子径が2mm以上の凝集粒子(フロック)を生成させる装置であり、有機廃棄物スラリーS1(あるいは含水有機廃棄物S2)の固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリーS1あるいは含水有機廃棄物S2中の固形分の濃度を保持しかつその温度を制御しつつ撹拌する装置である。」と記載されており、また、同(f)の【0033】には、「なお、有機廃棄物スラリーS1(あるいは含水有機廃棄物S2)の貯留の温度が30℃を超えると、このスラリー中におけるメタン発酵が進行し、得られた燃料の発熱量を3000kcal/kg以上に維持することができなくなる。また、スラリーの温度を0℃より下げると、結氷が生じてスラリーの状態を維持することができない。」と記載されていることから、当該貯留装置2は、流量の調整及び凝集粒子(フロック)の生成、並びに、嫌気性発酵及び結氷生成を抑制するための温度調整のために設けるものであるといえる。
(イ) このうち、流量の調整及び凝集粒子(フロック)の生成について、し尿処理等の排水設備から発生する汚泥にポリマーを添加して圧搾脱水するスクリュープレスには、原液供給側に、流量の調整及び凝集粒子(フロック)の生成を行う凝集混和槽を設置する必要のないものも周知であって(必要ならば、下記周知文献2を参照)、流量の調整及び凝集粒子(フロック)の生成を行う貯蔵装置は、必要に応じて適宜設けるものといえ、実施例1に必須の構成とはいえない。
・周知文献2:特開2010-473号公報。特に【0001】の「こ の発明は、下水、集落排水、し尿処理、工場廃水等の排 水処理設備から発生する汚泥に、ポリマーを添加して圧 搾脱水するスクリュープレスに関し、特に、スクリュー プレスの前段に大きい凝集混和槽を設置することなく、 ラインミキサーをスクリュープレスに直接連設したスク リュープレスを提供する。」という記載を参照されたい 。
(ウ) また、温度調整については、同(f)の【0033】の記載から、0℃以上30℃以下の気温であれば、畜舎から排出された高含水率有機廃棄物である豚糞も類似の温度を有しているものといえ、気温が0℃以上30℃以下である地域又は季節であれば、積極的な温度調整は必要でないことから、温度調整を行う貯蔵装置は、必要に応じて適宜設けるものといえ、実施例1に必須の構成とはいえない。
(エ) してみれば、図1に示された貯留装置2は、実施例1を実施するにあたり、必要に応じて適宜設ける装置であるといえ、引用例1の実施例1に基づく引用発明の認定に際し、必要不可欠な構成とはいえず、引用発明は、含水率90質量%、塩素濃度9000ppmの豚糞100kgを「そのまま」スクリュープレスで脱水処理するものであって、上記相違点2は実質的な相違点となるものではない。
(3) 相違点3について
ア 引用例1の(e)には、乾燥設備として、横型開放式堆肥舎の他に縦型攪拌式発酵装置等を使用できることが記載されている。
また、発酵工程に用いる発酵設備は、堆肥舎のほか、開放型設備、密閉型設備などがあり、密閉型設備の利点は、糞尿の臭気を漏らさず処理できる点及びコンパクトな点であること、並びに、密閉型設備には、縦型及び横型があり、水分調整の有無、処理期間、必要とする面積、及びランニングコストなどにより、当業者が適宜選択するものであることは、本願出願日時点において周知であった(必要ならば、下記周知文献を参照)。
・周知文献3:西春彦著「糞尿処理に踏み出すために」、牧草と園芸、 第51巻第5号(2003年)の5?6頁「a.開放型 施設」及び「b.密閉型施設」の項。特に「b.密閉型 施設」「・密閉縦型急速発酵機」中の「・・・水分調整 せずに,糞尿を機械に投入することもでき,極めて短期 間に処理が終わって排出されます。その後,堆肥舎での 養生が必要ですが,装置自体は極めてコンパクトですの で,施設面積の点で苦労しているお客様には,この方式 しかお勧めできない場合もあります。・・・(略)・・ ・水分調整が不要で処理時間が短い反面,電気代などの ランニングコストが高いのが特徴です。」という記載を 参照されたい。
そうすると、横型開放式堆肥舎も縦型の密閉型設備(すなわち、密閉縦型堆肥化装置)も、有機廃棄物の発酵及び乾燥を行う手段としては周知であり、どの堆肥化装置を用いるかは、敷地の広さ(施設面積)、処理にかけられる日数、水分量性の有無、及びランニングコストに応じて、適宜、当業者が選択することということができる。
してみれば、引用発明において、固液分離処理によって得られた固形分を乾燥させるために、堆肥化装置として、周知技術である縦型の密閉型設備(すなわち、密閉縦型堆肥化装置)を適用してみることは、当業者が容易に想到し得ることである。
イ さらに、本願明細書の【0033】【表1】を参照すると、発酵工程として密閉縦型堆肥化装置を用いた「No.4」の例と、直線開放型堆肥化装置を用いた「No.5」の例との間で、堆肥の含水率、塩素濃度、総発熱量、及び燃料としての評価に格別な差は認められないことから、本願発明において、種々の装置等の中から密閉縦型堆肥化装置を選択したことによる格別顕著な効果を確認することはできず、密閉縦型堆肥化装置を選択したことによる本願発明の効果が、格別顕著なものであるとはいえない。
(4) 相違点4について
ア 引用発明は、セメント焼成用燃料等のバイオマス燃料を製造するものであり、また、セメント焼成設備には、サスペンションプレヒータ等から排出される排ガスを用いて発電を行うために、ボイラを付設することは、一般的に行われていることである(必要ならば、下記周知文献4参照)。
・周知文献4:特開2007-91512号公報。特に【0002】の 「従来、セメント焼成設備から排出される排ガスを有効 利用する設備としては、このセメント焼成設備の排ガス を用いて発電を行う廃熱発電設備を付設したものが知ら れている。この廃熱発電のために利用される排ガスは、 主にサスペンションプレヒータからの排ガスとクリンカ クーラからの排ガスが使用される。・・・(略)・・・ 廃熱発電をクリンカクーラからの排ガスを利用したボイ ラのみで行う設備は少なく、主にサスペンションプレヒ ータからの排ガスを利用したボイラに付設して行われる ことが多い。」という記載を参照されたい。)。
してみれば、セメント焼成用燃料等に用いられるバイオマス燃料である引用発明は、セメント焼成用燃料と同時に、セメント焼成設備に付設されるボイラ(サスペンションプレヒータ等から排出される排ガスを利用するボイラ)の燃料としても用いられるものといえ、上記相違点4は実質的な相違点となるものではない。
イ また、仮に、燃料の用途が相違するものであったとしても、以下のとおり、引用発明において製造したバイオマス燃料を、ボイラ燃料に利用してみることは、当業者が容易に想到し得ることである。
すなわち、引用例2には、家畜排泄物等からバイオマスを製造する方法であって、脱水処理工程と発酵工程を有する方法が記載されており(引用例2の(a))、当該バイオマスは、塩素濃度が4000ppm以下かつ含水率を40質量%以下としたので、高位の発熱量を有し、燃焼効率が高く、省エネルギー効果が大きく、しかも環境負荷が小さいバイオマス燃料を提供できること、及び、セメント焼成設備の燃料としての他、廃棄物ボイラ燃料にも利用可能であることが記載されている(引用例2の(b))。
そして、引用発明と引用例2に記載された発明とは、家畜排泄物から、塩素濃度が4000ppm以下かつ含水率が40質量%以下のバイオマスを製造するという点で、技術分野及び課題が共通するものであり、また、引用例2には、当該特質を有するバイオマス燃料がボイラ燃料にも利用可能であることが記載されていることから、引用例2に記載されたバイオマスと同様に、塩素濃度が4000ppm以下かつ含水率が40質量%以下である引用発明において製造したバイオマス燃料を、ボイラ燃料に利用してみることは、当業者が容易に想到し得ることである。

6 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成29年11月8日提出の意見書において、本願当初明細書の【0023】に「開放型堆肥化装置による処理期間は15?25日程度」と記載され、同【0024】に「密閉縦型堆肥化装置を用いた処理期間は1?2週間程度と短かい。」と記載されているように、処理期間において密閉縦型堆肥化装置の方が優れており、本願発明において密閉縦型堆肥化装置を選択したことによる効果は顕著なものであるから、本願発明は上記引用発明から容易想到のものではない旨主張する。
しかしながら、審判請求人が主張する密閉縦型堆肥化装置に関する効果は、上記5(3)アにおいて提示した周知文献3に、「密閉縦型急速発酵機」の特徴として、「水分調整せずに,糞尿を機械に投入することもでき,極めて短期間に処理が終わって排出されます。」と記載されているとおり、当業者が既に密閉縦型堆肥化装置自体の自明な効果(長所)としてよく知る事項というほかないから、本願発明において、当該密閉縦型堆肥化装置を選択したことによる効果は、当業者が予測し得る範疇のものであって、顕著なものであるとはいえない。
したがって、上記審判請求人の主張を採用して、本願発明の進歩性を認めることもできない。

7 小括
以上の検討によれば、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができものである。
したがって、本願は、同法第49条の規定により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-12 
結審通知日 2017-12-14 
審決日 2017-12-26 
出願番号 特願2012-47498(P2012-47498)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 原 賢一
日比野 隆治
発明の名称 豚の糞尿の利用方法  
代理人 中井 潤  

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