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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
管理番号 1337344
審判番号 不服2016-16264  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-31 
確定日 2018-02-08 
事件の表示 特願2012- 28879「光学部材及び光学部材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月22日出願公開,特開2013-163360〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2012-28879号(以下,「本件出願」という。)は,平成24年2月13日の特許出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成27年 5月27日付け:拒絶理由通知書
平成27年 7月27日差出:意見書,手続補正書
平成27年12月11日付け:拒絶理由通知書
平成28年 2月22日差出:意見書,手続補正書
平成28年 7月22日付け:拒絶査定
平成28年10月31日差出:審判請求書
平成29年 8月25日付け:拒絶理由通知書
平成29年10月30日差出:意見書,手続補正書

第2 本願発明について
1 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?請求項2に係る発明は,平成29年10月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項2に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりである(以下「本願発明」という。)。
「 活性エネルギー線硬化性組成物とオイルゲル化剤とを含むインクを,熱可塑性樹脂からなる基材に,インクジェット法により吐出して光学部材を形成する際に,
前記インクが,前記オイルゲル化剤を前記インク全量に対して2重量%以上10重量%以下の範囲で含み,
前記基材上に該インクからなる一つのドットを付着させて,ゲル転移により該一つのドットをゲル化し,次いで,該一つのドットに活性エネルギー線を照射して硬化させてドット径がレンズ径に等しく且つドット高さがレンズ高さに等しいマイクロレンズを形成する工程を有することを特徴とする光学部材の製造方法。」

2 当審の拒絶の理由
平成29年8月25日付け拒絶理由通知書による拒絶の理由のうちの1つは,概略,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2010-58510号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明,及び,周知技術に基づいて,本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

第3 引用例
1 引用例1の記載
引用例1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示されているのは,3次元印刷,デジタル加工,およびラピッドプロトタイピング用途のための紫外線硬化性ゲル化剤インクである。また,前記の紫外線硬化性ゲル化剤インクにより3次元画像およびオブジェクトを形成するための方法も記載されている。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には,選択された領域に光硬化性のフォトポリマーを堆積させるようなインクジェット技術を用いた特別なプリント効果を発現させる方法が開示されている。また,特許文献2には,印刷記録媒体上にスプレーしたウエットインク堆積物を用いて,盛り上がった文字やグラフィックを印刷する方法と装置が提案されている。一方,特許文献3には,室温では固体で,加温すると液体になるインクを用いたインクジェットプリント方法が記載されている。
・・・(略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ノンインパクト印刷技術を用いるデジタル加工またはラピッドプロトタイピングは,バイオテクノロジー,コンビナトリアルケミストリー,エレクトロニクス,ディスプレイ,MEMS(微小電気機械システム)デバイス,太陽光発電,および有機半導体を含む広範な技術分野に影響を及ぼし始めている。インクジェットに基づくデジタル加工に対して現在利用できる材料は,それらの意図した目的に対しては適切である。しかしながら,デジタルマニュファクチャリングおよびラピッドプロトタイピング用途を含むノンインパクト3次元印刷で使用するために適する改良された材料に対する必要性が存続している。さらに必要なのは,改良されたロバスト性を有する最終的オブジェクト,使用の容易さ,単純さ,柔軟性および同調性(すなわち,異なる用途に対する適応性)を提供する方法を提供するインクジェットに基づく3次元印刷,デジタル加工,およびラピッドプロトタイピング用途のためのマーキング材料である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本材料は,室温の相変化を受け,ロバスト性(robust,堅牢性)のある最終オブジェクトと使用の容易さおよび簡単さ,柔軟性および同調性を提供するプロセスとを達成するインクジェットに基づくデジタル加工を提供する。当該インクのユニークな流体化学は,数ナノメートルから数メートルを超えるまでの物理的規模の2次元および3次元構造のデジタル加工を可能にする。当該デジタル加工材料のレオロジー特性は,高温におけるロバストな噴出および基材を取り巻く温度における一定の機械的安定性を得るために調整することができる。室温におけるその材料のゲルの性質は,印刷された液滴の拡散または移動を防ぎ,3次元構造の容易な積み重ねを可能にする。複雑な部品を,一般的には本来減ずべきである通常の加工技術とは対照的に,付加的なやり方の紫外線硬化性ゲル化剤相変化インク組成物から生ずることができる。さらなる利点としては,現行のデジタル加工およびラピッドプロトタイピング材料と比較してより低いコストの材料,溶融堆積技術を用いて調製したオブジェクトと比較してより滑らかな外観,ならびに,無色または有色素材料を含む着色材料の選択,相転移温度,ゲル強度,粘度,および高められたロバスト性などの選択された付加的機能等の調節可能な特性,または,例えば所望の基材に対する接着促進剤,ナノ粒子,金属粒子などが選択された質感などが挙げられる。特定の大きさのシリカ粒子を選択して,印刷されたインクのロバスト性を高めるかまたは加工されたオブジェクトに粗さもしくは質感を与えることができる。」

(2)「【発明を実施するための形態】
【0008】
放射線硬化性相変化インクを,3次元オブジェクトを加工するための材料として提供する。加工技術としては,インクジェットに基づくデジタル加工およびラピッドプロトタイピング技術を挙げることができる。これらの材料は,放射線硬化性モノマー類,プレポリマー類,および/またはオリゴマー類,光開始剤パッケージ,反応性ワックス,およびゲル化剤を含んで成る。顔料類またはその他の機能性粒子を適宜含んでもよい。レオロジーを,高温(例えば85℃)でのロバスト(robust)な噴出および基材を取り巻く温度での一定の機械的安定性(例えば,105?106センチポワズ)を得るために調整することができる。粘度の上昇は,構造物が積み重なることを可能にする。硬化前に,その構造物は練り歯磨きに似た稠度を持つことができ,接触によって変造することができる。硬化によってその構造物はまったくロバストな状態となる。室温におけるその材料のゲルの性質は,印刷された液滴の拡散または移動を防ぎ,3次元構造の容易な積み重ねを可能にする。この材料の放射線硬化性により,その印刷されたオブジェクトは,加工プロセスの任意の時点で紫外線に露光することによって硬化させ,高度の力学的強度を有するロバストなオブジェクトをもたらすことができる。その放射線硬化性相変化ゲル化剤インクは,3次元オブジェクトの各層の堆積物が堆積された後に硬化させることができる。別法では,そのインクは,3次元オブジェクトのすべての層の堆積が完了すると同時に硬化させることができる。
【0009】
本発明における方法は,選択された高さおよび形状を有するオブジェクトを形成するために,硬化性インクの連続層を堆積させるステップを含む。その硬化性インクの連続層は,層様式で3次元オブジェクトを積み上げるために,ビルドプラットホーム(build platform)または固化した材料の前の層に堆積させることができる。実質的に任意の構造のオブジェクトを,マイクロサイズの規模からマクロサイズの規模まで創出することができ,単純なオブジェクトから複雑な形状を有するオブジェクトまで含むことができる。該インクジェット材料および方法は,計量した量の材料を時間および空間の正確な位置に送達する組み込まれた能力を提供する非接触式アディティブ法(サブトラクティブ法の対照として)をさらに提供する。
【0010】
本発明におけるインクビヒクルは,任意の適当な硬化性モノマーまたはプレポリマーを含むことができる。適当な材料としては,放射線硬化性モノマー化合物,例えば,アクリレートおよびメタクリレートモノマー類などが挙げられる。比較的無極性のアクリレートおよびメタクリレートモノマー類としては,イソボルニルアクリレート,イソボルニルメタクリレート,ラウリルアクリレート,ラウリルメタクリレート,イソデシルアクリレート,イソデシルメタクリレート,カプロラクトンアクリレート,2-フェノキシエチルアクリレート,イソオクチルアクリレート,イソオクチルメタクリレート,ブチルアクリレートなどが挙げられる。多官能性アクリレートおよび多官能性メタクリレートモノマー類ならびにオリゴマー類を,反応性希釈剤としておよび硬化した画像の架橋密度を増し,それによって硬化した画像の強靭性を高めることができる材料として該相変化インク担体中に含むことができる。異なるモノマーおよびオリゴマー類も硬化したオブジェクトの可塑性または弾性を調節するため加えることもできる。適当な多官能性アクリレートおよび多官能性メタクリレートモノマー類ならびにオリゴマー類としては,ペンタエリスリトールテトラアクリレート,ペンタエリスリトールテトラメタクリレート,1,2-エチレングリコールジアクリレート,1,2-エチレングリコールジメタクリレート,1,6-ヘキサンジオールジアクリレート,1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート,1,12-ドデカノールジアクリレート,1,12-ドデカノールジメタクリレート,トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート,プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート,ヘキサンジオールジアクリレート,トリプロピレングリコールジアクリレート,ジプロピレングリコールジアクリレート,アミン変性ポリエーテルアクリレート,トリメチロールプロパントリアクリレート,グリセロールプロポキシレートトリアクリレート,ジペンタエリスリトールペンタアクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート,エトキシル化ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどが挙げられる。反応性希釈剤は,任意の望ましいまたは有効な量,例えば,担体の少なくとも1パーセント,または70重量パーセント以下で添加される。
【0011】
該インクビヒクルは,紫外線のような放射線にさらされたとき硬化性モノマーとして挙動するような化合物などの液体に溶解されたとき比較的狭い温度範囲の中で比較的急激な粘度上昇を受けるゲル様の挙動を示すことができる少なくとも1つの化合物を含有する。一例は,プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレートである。
【0012】
本明細書に開示されているいくつかの化合物は,少なくとも30℃,少なくとも10℃,または少なくとも5℃の温度範囲の中で,少なくとも103,少なくとも105,または少なくとも106センチポワズの粘度の変化を受ける。
【0013】
本発明におけるいくつかの化合物は,最初の温度で半固体のゲルを形成することができる。化合物が相変化インク中に組み込まれるとき,その温度はそのインクが噴出されるときの特定温度より低い。その半固体のゲル相は,1つ以上の固体ゲル化剤分子および液体の溶媒を含む動的平衡として存在する物理ゲルである。その半固体のゲル相は,物理的力,例えば温度,機械的攪拌など,または化学的力,例えばpH,イオン強度などによる刺激と同時に巨視的レベルで液体から半固体状態に可逆的に変化する非共有の相互作用,例えば水素結合,ファンデルワールス相互作用,芳香族非結合相互作用,イオンまたは配位結合,ロンドン分散力などによってまとまっている分子成分の動的ネットワークの集合である。ゲル化剤分子を含有する溶液は,温度がその溶液のゲル点の上または下に変化するとき,半固体のゲル状態と液体状態の間の熱可逆的転移を示す。半固体のゲル相と液体相の間の転移のこの可逆サイクルは,溶液配合物の中で何度も繰り返すことができる。
【0014】
本明細書に開示されているインクビヒクルは,任意の適当な,例えばIrgacure(登録商標)127,Irgacure(登録商標)379,およびIrgacure(登録商標)819などを含めた光開始剤を含むことができる。」

(3)「【0018】
任意の適当な反応性ワックス,例えばその他の成分と混和性であり,硬化性モノマーと重合してポリマーを形成する硬化性ワックス成分などを本明細書に開示されているビヒクル中の相変化に対して使用することができる。そのワックスを含有することによってインクが噴出温度から冷めるとき,その粘度の上昇が促進される。
【0019】
ワックス類の適当な例としては,アクリレート,メタクリレート,アルケン,アリルエーテル,エポキシドおよびオキセタンを含むような硬化性の基により官能化されているものが挙げられる。これらのワックスは,転換できる官能基,例えばカルボン酸またはヒドロキシルなどを備えているワックスの反応によって合成することができる。
【0020】
硬化性の基により官能化することができるヒドロキシル末端ポリエチレンワックスの適当な例としては,鎖長nの混合物が存在し,平均鎖長が16?50である構造CH_(3)-(CH_(2))_(n)-CH_(2)OHを有する炭素鎖の混合物,および同様の平均鎖長の線状低分子量ポリエチレンが挙げられる。かかるワックスの例としては,UNILIN(登録商標)350,UNILIN(登録商標)425,UNILIN(登録商標)550およびUNILIN(登録商標)700が挙げられ,それぞれほぼ375,460,550および700g/molに等しいMnを有する。2,2-ジアルキル-1-エタノールと見なされるゲルベアルコール類(Guerbet alcohols)も適当な化合物である。ゲルベアルコール類の具体的実施形態としては,16?36個の炭素を含有するものが挙げられる。
【0021】
複数の実施形態において,式,
【化1】

のPRIPOL(登録商標)2033が選択される。これらのアルコールは,反応性エステルを形成する紫外線硬化性部分を備えたカルボン酸と反応させることができる。これらの酸の例としては,アクリル酸およびメタクリル酸が挙げられる。具体的な硬化性モノマー類としては,UNILIN(登録商標)350,UNILIN(登録商標)425,UNILIN(登録商標)550およびUNILIN(登録商標)700のアクリレート類が挙げられる。
【0022】
硬化性の基により官能化することができるカルボン酸末端ポリエチレンワックスの適当な例としては,鎖長nの混合物が存在し,平均鎖長が16?50である構造CH_(3)-(CH_(2))_(n)-COOHを有する炭素鎖の混合物,および同様の平均鎖長の線状低分子量ポリエチレンが挙げられる。かようなワックス類の適当な例としては,UNICID(登録商標)350,UNICID(登録商標)425,UNICID(登録商標)550およびUNICID(登録商標)700が挙げられ,それぞれほぼ390,475,565および720g/molに等しいMnを有する。その他の適当なワックス類は,構造CH_(3)-(CH_(2))_(n)-COOHを有しており,例えば,n=14のヘキサデカン酸またはパルミチン酸,n=15のヘプタデカン酸またはマルガリン酸またはダツリン酸(daturic acid),n=16のオクタデカン酸またはステアリン酸,n=18のエイコサン酸またはアラキジン酸,n=20のドコサン酸またはベヘン酸,n=22のテトラコサン酸またはリグノセリン酸,n=24のヘキサコサン酸またはセロチン酸,n=25のヘプタコサン酸またはカルボセリン酸,n=26のオクタコサン酸またはモンタン酸,n=28のトリアコンタン酸またはメリシン酸,n=30のドトリアコンタン酸またはラセロイン酸(lacceroic acid),n=31のトリトリアコンタン酸またはセロメリシン酸またはプシリン酸(psyllic acid),n=32のテトラトリアコンタン酸またはゲジン酸(geddic acid),n=33のペンタトリアコンタン酸またはセロプラスチン酸(ceroplastic acid)である。2,2-ジアルキルエタノール酸と見なされるゲルベ酸類(Guerbet acids)も適当な化合物である。
【0023】
選択されるゲルベ酸類としては,16?36個の炭素を含有するもの,例えば,式,
【化2】

のPRIPOL(登録商標)1009が挙げられる。これらのカルボン酸類は,紫外線硬化性部分を備えたアルコール類と反応して反応性エステル類を形成することができる。
【0024】
これらのアルコール類の例としては,2-アリルオキシエタノール,
【化3】

SR495B(登録商標),
【化4】

CD572(登録商標)(R=H,n=10)およびSR604(R=メチル,n=4)が挙げられる。
【0025】
任意選択の硬化性ワックスは,インク中に,例えば,そのインクの1?25重量%の量で含まれる。
【0026】
その硬化性モノマーまたはプレポリマーおよび硬化性ワックスは,全体として,インクの50重量%以上,または少なくとも70重量%,または少なくとも80重量%を形成することができるが限定はされない。
【0027】
任意の適当なゲル化剤,例えば,式,
【化5】

の米国特許出願第11/290202号に記載されたゲル化剤などを使用することができる。」

(4)「【0050】
インクの硬化は,そのインク画像を任意の望ましいまたは有効な波長,例えば少なくとも200ナノメートルまたは約480ナノメートル以下のような化学線に露光することによって達成することができる。化学線への露光は,任意の望ましいまたは有効な時間,例えば少なくとも0.2秒,1秒,または5秒間,あるいは30秒以下,または15秒以下であり得る。硬化とは,インク中の硬化性化合物が化学線に露光されると分子量の増加,例えば架橋または鎖延長などを受けることを意味する。
【0051】
該インク組成物は,噴出温度(50℃より低くはなく,60℃より低くはなく,または70℃より低くはなく,120℃より高くはなくまたは110℃より高くはない)において,30センチポワズ,20センチポワズ,または15センチポワズを超えないか,または2センチポワズ以上,5センチポワズ以上,または7センチポワズ以上の溶融粘度を一般に有する。
【0052】
一実施形態において,該インクは,110℃より下の40℃?110℃まで,50℃?110℃まで,または60℃?90℃までのような低温で噴出される。かような低い噴出温度で噴出されるインクとインクがその上に噴出される基材との間の温度差を通常通り使用しても,インク中の急速な相変化を達成するには有効でないことがある。それ故,ゲル化剤を使用して基材に噴出されたインクの急速な粘度上昇を達成することができる。噴出したインク液滴は,そのインクのインク噴出温度より冷たい温度に維持されている受容基材例えば最終記録基材または中間転写部材などの所定の位置に,そのインクが液体状態からゲル状態(または半固体状態)への著しい粘度変化を経る相変化転移の作用により固定することができる。
【0053】
いくつかの実施形態において,インクがゲル状態を形成する温度は,そのインクの噴出温度より下の任意の温度,一実施形態においては,そのインクの噴出温度より5℃以上低い任意の温度である。一実施形態において,そのゲル状態は,その温度は以下の範囲の外であり得るが,少なくとも25℃,または少なくとも30℃,または100℃を超えない,または70℃を超えない,または50℃を超えない温度で形成させることができる。インク粘度の急速で大きな増加は,インクが液体状態にある噴出温度からインクがゲル状態にあるゲル温度に冷却すると同時に起こる。その粘度の増大は,1つの具体的な実施形態において,粘度における少なくとも102.5倍の増大である。
・・・(略)・・・
【0057】
いくつかの実施形態において,フリーオブジェクトを創出するために,x,y,z方向に移動できる基材,ステージ,またはビルドプラットホームが用いられる。その除去できるビルドプラットホームは,任意の適当な材料,例えば,いくつかの実施形態において,非硬化性の材料であり得る。適当な非硬化性支持材の例としては,ワックス,プラスチック,金属,木材,およびガラスが挙げられる。
・・・(略)・・・
【0059】
当該材料および方法は,3次元オブジェクトを調製するために適するシステム,例えば,ソリッドオブジェクトプリンタ(solid object printer),サーマルインクジェットプリンタ,圧電式インクジェットプリンタ,音響インクジェットプリンタ,熱転写プリンタ,グラビアプリンタ,および静電写真方式の印刷法などを含む任意の望ましい印刷システムで採用することができる。別法では,該インク材料は,例えば,所望の3次元オブジェクトを調整するために,鋳型の使用によるかまたはインク材料の手作業の堆積によるなど,3次元オブジェクトの手作業の調製のために使用することができる。
【0060】
一実施形態においては,米国特許出願第11/683011号に記載されているようなインクジェット印刷デバイスが使用される。そのインクジェット印刷装置は,少なくともインクジェット印字ヘッドと,インクがそのインクジェット印字ヘッドから噴出される方向の印刷領域面とを含み,該インクジェット印字ヘッドと印刷領域面の間の高さ間隔を調節することができる。該インクジェット印字ヘッドは,該インクジェット印字ヘッドが通常の高さの印刷のための第1の位置からその第1の高さ間隔より大きい第2の高さ間隔に移動することを可能にするように印刷領域面に関して間隔取りの調節が可能である。その第2の高さ間隔は,固定されてはおらず,所定の印刷に対して必要に応じて変更することができる。その第2の高さ間隔は,必要に応じてそれ自体で変えることができる。オブジェクトの積み上げを完成させるためには,画像がインクジェット印字ヘッドによって積み上げられるときは,第1の位置から第2の位置に,次いでその画像が引き続き積み上げられるときは,そのインクジェット印字ヘッドを第2の位置から印刷領域面からの間隔がなおもさらに増加される第3の位置になどと必要に応じて高さ間隔を調節することが望ましいかもしれない。
【0061】
本開示は,極めて小さいオブジェクトから極めて大きいオブジェクトに及ぶオブジェクトの加工を包含する。例えば,1?10,000マイクロメートルの高さまたは最長寸法(その高さは,これらの範囲に限定されない)のオブジェクトを調製することができる。適切な回数の通過またはインク噴出を,オブジェクトを所望の全体印刷高さおよび所望の形状まで積み上げることができるように選択することができる。
【0062】
3次元印刷において,印字ヘッドまたはターゲットステージは,3次元(x,y,およびz)で移動可能であり,任意の所望の大きさのオブジェクトの積み上げを可能にする。創出することができるオブジェクトの高さまたは全体の大きさに対する制限はないが,非常に大きいオブジェクトは,堆積過程中に中間の硬化を必要とするかもしれない。画像の積み上げは,画像部分の上の印字ヘッドの複数回の通過により凸画像を盛り込むかまたはインクの連続層を堆積させることによって,オブジェクトまたはオブジェクトの部分が所望の印刷高さおよび形状を有するようにすることであり得る。
・・・(略)・・・
【0064】
3次元オブジェクトは,所望のオブジェクトの高さおよび形状を得るための領域上で,インクジェット印字ヘッドを適切に複数回通過させることによって形成することができる。凸の高さのオブジェクトを形成するためには,単一の通過の間の,その画像の同じ場所に向かうインクジェットヘッドの複数の異なるインクジェットからのインクの噴出も使用することができる。上記のように,インクの各層は,その画像の高さに,4μm?15μmまでの高さを追加することができる。所望される合計の印刷高さを知ることによって,通過または噴出の適切な回数を容易に決定することができる。
【0065】
制御装置は,そのとき,その画像の場所におけるインクの適切な量および/または層を堆積させるインクジェット印字ヘッドを,その場所における所望の印刷高さおよび全体の形状を有する画像を得るために制御することができる。
【0066】
該3次元オブジェクトは,支柱なしで立っている部品もしくはオブジェクト,ラピッドプロトタイピングデバイス,基材上の凸構造,例えば,地形図,またはその他の望ましいオブジェクトであり得る。XEROX(登録商標)4024ペーパーのような普通紙,XEROX(登録商標)Image Seriesペーパー,Courtland 4024 DPペーパー,罫線入りのノートブック紙,ボンド紙,シャープ社(Sharp Company)シリカコート紙,JuJoペーパー等のシリカコート紙,HAMMERMILL LASERPRINT(登録商標)ペーパー,XEROX(登録商標)Digital Color Gloss,Sappi Warren Papers LUSTROGLOSS(登録商標)等の光沢コート紙,透明材料,織物,繊維製品,プラスチック,ポリマーフィルム,金属等の無機基材および木材,ならびに支柱なしで立っているオブジェクトに対する取り外し可能な支持体の場合は,溶融または溶解できる基材,例えばワックス類または塩類を含めた任意の適当な基材,記録シート,または取り外し可能な支持体,ステージ,プラットホームを,3次元オブジェクトをその上に堆積するために使用することができる。」

(5)「【実施例】
【0067】
実施例1.
米国特許第7279587号の実施例VIIIに記載されている硬化性アミドゲル化剤の7.5重量パーセント,Unilin350(商標)アクリレートワックスの5重量パーセント,5官能性アクリレートモノマー(Sartomer Co.,Inc.社から入手できるSR399LVジペンタエリスリトールペンタアクリレート)の5重量パーセント,2官能アクリレートモノマー(プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレートSR9003(登録商標))の72.8重量パーセント,IRGACURE(登録商標)379光開始剤の3重量パーセント,IRGACURE(登録商標)819光開始剤の1重量パーセント,IRGACURE(登録商標)127光開始剤の3.5重量パーセント,およびDAROCUR(登録商標)ITX光開始剤の2重量パーセント,ならびに紫外線安定剤(IRGASTAB(登録商標)UV10)の0.24重量パーセントを含む紫外線硬化性相変化ゲル化剤インクを調製した。その成分のすべてを一緒に90℃で1
時間攪拌した。
【0068】
そのインク材料を,90℃で溶融し,その液体のインクをガラスピペットから未コートのMylar(登録商標)のシート上に手作業で分配した。そのインクの相変化する性質により,その分配された液体は,室温のMylarと接触すると同時に急速にゲル化し,高さが数ミリメートルの自立構造物が形成された。図1は,本相変化インク材料の室温の基材上への堆積から生じた紫外線硬化後の定規と並んで支柱なしで立っている柱を示している。堆積された3次元構造物は,次に,「D」バルブを採用しているUVフュージョンライトハンマー6紫外線ランプシステム(UV Fusion Light Hammer 6 Ultraviolet Lamp System)を装着しているUVフュージョンLC-6Bベンチトップコンベヤー(UV Fusion LC-6B Benchtop Conveyor)による紫外線に,最低限1秒間さらすことによって硬化し,極めてロバストであるポリマーの柱を提供した。実施例1は,最終生成物のロバスト性ならびにそれによってマクロスケールの3次元オブジェクトが本材料および方法によって作り出すことができる容易さを示している。
【0069】
いくつかの実施形態において,本硬化性ゲル化剤インクは,着色剤,機能性粒子,またはナノ粒子などを,例えば,上記着色剤または粒子を最大約10重量パーセントまで含有して,要求に応じた色を3次元オブジェクトおよび機能性粒子またはナノ粒子を含有するオブジェクトに与えることができる。例えば,機能性粒子またはナノ粒子は,金属類,半導体類,シリカ類,金属酸化物類,および顔料類,ならびにそれらの組合せからなる群から選択することができる。」

2 引用発明
引用例1には,段落【0008】に,3次元オブジェクトを加工するための所定の手法,並びに,当該加工のための材料が記載されている。そうしてみると,引用例1には,当該材料を用いた3次元オブジェクトを加工する方法として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 放射線硬化性モノマー類,プレポリマー類,および/またはオリゴマー類,光開始剤パッケージ,反応性ワックス,およびゲル化剤を含んで成る放射線硬化性相変化インクであって,
レオロジーを,高温(例えば85℃)でのロバスト(robust)な噴出および基材を取り巻く温度での一定の機械的安定性(例えば,105?106センチポワズ)を得るために調整することができ,室温における放射線硬化性相変化インクのゲルの性質は,印刷された液滴の拡散または移動を防ぎ,3次元構造の容易な積み重ねを可能にし,
放射線硬化性相変化インクの放射線硬化性により,その印刷されたオブジェクトは,加工プロセスの任意の時点で紫外線に露光することによって硬化させ,高度の力学的強度を有するロバストなオブジェクトをもたらすことができる放射線硬化性相変化インクを用いて,
インクジェットに基づくデジタル加工により3次元オブジェクトを加工する方法。」

第4 対比
1 本願発明と引用発明とを比較すると,以下のとおりとなる。
(1)活性エネルギー線硬化性組成物及びインク
本件出願の明細書の段落【0070】には,「活性エネルギー線硬化性組成物は,ラジカル活性種による重合反応により硬化するラジカル重合性化合物,及びカチオン活性種によるカチオン重合反応により硬化するカチオン重合性化合物を用いることができる。」と記載され,同【0072】には,「ラジカル重合性化合物は,・・・モノマー,オリゴマー,ポリマー等の化学形態をもつものが含まれる。」と記載されている。そうしてみると,引用発明の「放射線硬化性モノマー類,プレポリマー類,および/またはオリゴマー類」は,本願発明の「活性エネルギー線硬化性組成物」に相当する。
また,引用発明の「放射線硬化性相変化インク」は,「放射線硬化性モノマー類,プレポリマー類,および/またはオリゴマー類」「を含んで成」り,また,「インクジェットに基づくデジタル加工」に用いられる。「インクジェット」技術は,インクを吐出することが技術常識であることを踏まえれば,引用発明の「放射線硬化性相変化インク」は,本願発明の,「活性エネルギー線硬化性組成物」「を含むインク」であって,「インクジェット法により吐出」される「インク」に対応付けられるものである。

(2)基材及びドット
引用発明は,「インクジェットに基づくデジタル加工により3次元オブジェクトを加工する方法」であり,また,「印刷された液滴」を形成している。「インクジェット」は,インクの液滴を一つ一つ吐出して,被印刷物上に,当該液滴を付着させることにより,印刷をおこなう技術であることは技術常識である。そうしてみると,引用発明は,「放射線硬化性相変化インク」を一つ一つの液滴として吐出して,被印刷物上に付着させて「印刷された液滴」を形成しているものと解される。そして,「液滴」の形状は,技術的にみてドット状と考えられる。したがって,引用発明の「印刷された液滴」は,本願発明において「付着させ」られた「一つのドット」に相当し,「インクジェット法により吐出」されて形成される点で共通する。
また,引用発明の「印刷された液滴」は,「放射線硬化性相変化インクのゲルの性質」により「拡散または移動を防」がれたものであるところ,「放射線硬化性相変化インク」の「レオロジー」は,「基材を取り巻く温度での一定の機械的安定性(例えば,105?106センチポワズ)を得るために調整することができ」るものである。そうしてみると,引用発明の「印刷された液滴」は,「基材を取り巻く温度」にあるものと解される。したがって,引用発明の「基材」は,「インクジェット」により「液滴」が「印刷され」る被印刷物であり,本願発明の「基材」と,インクがインクジェット法により吐出される対象である点で共通する。

(3)吐出及び付着
上記(2)で指摘したように,引用発明は「液滴」を「インクジェット」により吐出して,吐出された「液滴」を被印刷物である「基材」上に付着させているものである。そして,上記(2)のように,当該吐出及び付着がなされる際に,「液滴」は一つのドット状の態様を取っているものと解される。そうしてみると,本願発明と引用発明は,「活性エネルギー線硬化性組成物」「を含むインクを,」「基材に,インクジェット法により吐出」するプロセス,並びに,「前記基材上に該インクからなる一つのドットを付着させ」るプロセスを具備している点で共通する。

(4)ゲル化及び硬化
引用発明の「放射線硬化性相変化インク」は,その語句からして「相変化」するものと解される。また,「放射線硬化性相変化インク」は,その「レオロジー」が,「高温(例えば85℃)でのロバスト(robust)な噴出および基材を取り巻く温度での一定の機械的安定性(例えば,105?106センチポワズ)を得るために調整することができ」,「室温に」おいては「ゲルの性質」を備えている。そうしてみると,引用発明の,「放射線硬化性相変化インク」は,高温で噴出する時点ではゲルでなく,室温においてゲルになる,ゲル転移を経験するものと解される。ここで,当該ゲル転移は,「放射線硬化性相変化インク」が,「基材を取り巻く温度」環境に移行し,その温度がゲル転移点を下回った時点で生じる。そして,引用発明は当該ゲル転移の結果,「印刷された液滴の拡散または移動を防ぎ,3次元構造の容易な積み重ねを可能に」するものである。そうしてみると,ある液滴と,その前後に印刷された別の液滴とが接触するように印刷されたとしても,当該ある液滴のゲル転移は,これら別の液滴のゲル転移とは,異なる時点においてなされるものと解される。すなわち,引用発明の「放射線硬化性相変化インク」は,一つの液滴の態様においてゲル転移を経験する。したがって,本願発明と引用発明は,「ゲル転移により」「一つのドットをゲル化」するプロセスを具備する点で共通する。
また,引用発明は,「印刷されたオブジェクトは,加工プロセスの任意の時点で紫外線に露光することによって硬化させ,高度の力学的強度を有するロバストなオブジェクトをもたらす」ものである。ここで,「印刷されたオブジェクト」には,「印刷された液滴」が含まれるものと解される。したがって,本願発明と引用発明は,インクジェット法により吐出され,ゲル化したインクに,「活性エネルギー線を照射して硬化させ」るプロセスを具備する点で共通する。

(5)マイクロレンズ及び光学部材
本願発明の「マイクロレンズ」と,引用発明の「3次元オブジェクト」は,立体的な物体である点で共通する。すなわち,引用発明は,立体的な物体を形成する工程を備えている。また,引用発明により加工された3次元オブジェクトを備えた物を「部材」と呼ぶことができる。そして,上記(3)で指摘したように,引用発明は「放射線硬化性相変化インク」を「インクジェット」により「基材」に吐出するプロセスを備えているから,引用発明は,当該プロセスにより前記「部材」を形成している。
そうしてみると,本願発明と引用発明は,「活性エネルギー線硬化性組成物」「を含むインクを,」「基材に,インクジェット法により吐出して」「部材を形成」する点,並びに,立体的な物体を「形成する工程を有する」「部材の製造方法」である点で共通する。

2 一致点及び相違点
(1)一致点
上記1を踏まえると,本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 活性エネルギー線硬化性組成物を含むインクを,基材に,インクジェット法により吐出して部材を形成する際に,
前記基材上に該インクからなる一つのドットを付着させて,ゲル転移により該一つのドットをゲル化し,次いで,活性エネルギー線を照射して硬化させて立体的な物体を形成する工程を有する部材の製造方法。」

(2)相違点
本願発明と引用発明とは,以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は,インクが「オイルゲル化剤を前記インク全量に対して2重量%以上10重量%以下の範囲で含」むのに対して,引用発明は,放射線硬化性相変化インク中に,本願発明の「オイルゲル化剤」に化合物として一致する「反応性ワックス」が含まれるとしても,これが本願発明の「オイルゲル化剤」として機能するものであるかは,一応,明らかではなく,また,インク全量に対する重量比も特定されていない点。

(相違点2)
本願発明は,基材が「熱可塑性樹脂からなる」のに対して,引用発明は,基材の材質を特定していない点。

(相違点3)
本願発明は,「一つのドットに」活性エネルギー線を照射して硬化させて「ドット径がレンズ径に等しく且つドット高さがレンズ高さに等しいマイクロレンズを形成する」工程を有する「光学」部材の製造方法であるのに対して,引用発明は,「印刷されたオブジェクト」に紫外線を露光して硬化させるものの,当該「印刷されたオブジェクト」が,「一つのドット」であるかどうか明らかでなく,また,「3次元オブジェクトを加工する方法」であるものの,「マイクロレンズ」であるとは特定されてなく,したがって,「光学」部材の製造方法であるとは特定されていない点。

第5 判断
1 相違点1について判断する。
(1)引用発明の「反応性ワックス」について,引用例1の段落【0018】には,「任意の適当な反応性ワックス・・・を本明細書に開示されているビヒクル中の相変化に対して使用することができる。そのワックスを含有することによってインクが噴出温度から冷めるとき,その粘度の上昇が促進される。」と記載されている。ここで,相変化とは,上記第4 1(3)においても検討したように,ゲル転移のことと解されるから,「反応性ワックス」は,「ゲル化剤」として機能するものといえる。
また,引用例1の段落【0020】?【0024】には,反応性ワックスの適当な例として,ゲルベアルコールと紫外線硬化性部分を備えたカルボン酸とを反応させてなる反応性エステルや,ゲルベ酸類と紫外線硬化性部分を備えたアルコール類とを反応させてなる反応性エステル類が挙げられている。そして,当該例は,当該箇所に示された具体的な化合物(【化1】式?【化4】式を参照。)も含めて,本件出願の明細書の段落【0035】?【0059】に,オイルゲル化剤として例示されたものと一致する。そうしてみると,引用発明の「反応性ワックス」は,本願発明の「オイルゲル化剤」に相当する。

(2)引用例1の段落【0025】には,「任意選択の硬化性ワックスは,インク中に,例えば,そのインクの1?25重量%の量で含まれる。」と記載されている。ここで,「硬化性ワックス」とは,「反応性ワックス」のことであると解される。また,引用例1の実施例1(段落【0067】を参照。)では,紫外線硬化性相変化ゲル化剤インクに,「Unilin350(商標)アクリレートワックスの5重量パーセント」が含まれている。ここで,「Unilin350(商標)アクリレートワックス」は,段落【0020】?【0021】の記載からして,引用発明の「反応性ワックス」に対応するものと解される。
ゲル化剤を含むインクを,基材に対して噴出した際に基材上に形成されるインク液滴の形状は,インク及び基材の材質に応じて決まる両者の親和性に基づく表面張力と,インクの粘度に依存することは,技術常識である。そして,インクの粘度はゲル化剤の含有量に依存することも,当業者には明らかである。そうしてみると,引用発明において,目的とする「3次元オブジェクト」に応じた,所望の形状の「印刷された液滴」を形成するために,「反応性ワックス」の含有量を調整することは,当業者の通常の創作能力の発揮においてなし得たことである。また,引用例1の上記のような記載を踏まえると,本願発明の「2重量%以上10重量%以下の範囲」を選択することは,当業者であれば容易になし得たことである。

(3)なお,引用発明の「放射線硬化性相変化インク」は,「反応性ワックス」に加えて「ゲル化剤」も含んでいる。引用発明の「ゲル化剤」が本願発明の「オイルゲル化剤」に該当するものかどうかは明らかでない。そこで,仮に引用発明の「ゲル化剤」も,「反応性ワックス」と同様に,本願発明の「オイルゲル化剤」に含まれるものとした場合についても,検討する。
上記(2)で指摘したように,当該インクの「印刷された液滴」の形状は,ゲル化剤の含有量に依存する。すなわち,「反応性ワックス」及び「ゲル化剤」の含有量に依存する。そうしてみると,上記(2)に記したように,所望の形状の「液滴」を形成するために,両者を併せた含有量を好適化することは,当業者の通常の創作能力の発揮においてなし得たことである。

(4)以上(1)?(3)から,引用発明において,相違点1に係る本願発明の構成を具備させることは,当業者が容易に発明できたことである。

2 相違点2について判断する。
引用例1の段落【0066】には,基材の材料に関する説明がなされているところ,「プラスチック,ポリマーフィルム」も記載されている。また,引用発明により「3次元オブジェクト」を作製する場合には,その「基材」は目的に応じて,当業者が随意に選択するものである。したがって,引用発明において,「基材」として「熱可塑性樹脂からなる基材」を選択して,相違点2に係る本願発明の構成を具備させることは,当業者が容易にできたことである。

3 相違点3について判断する。
(1)引用発明は,「放射線硬化性相変化インク」の「印刷された液滴」がゲル化することにより,「構造物が積み重なることを可能にして」いる。ここで,液滴を積み重ねることは,所望の形状の「3次元オブジェクト」を構築するためにおこなっていることと解されるから,所望の形状が,一つの液滴で形成しうるものであれば,不必要に工程を増やすことなく,一つの液滴だけで完成させることは,当業者であれば当然に選択した設計方針である。したがって,引用発明には,液滴を積み重ねないで,一つの液滴を硬化させて,「3次元オブジェクト」とする方法も含まれる。

(2)引用例1の段落【0005】には,「当該インクのユニークな流体化学は,数ナノメートルから数メートルを超えるまでの物理的規模の2次元および3次元構造のデジタル加工を可能にする。」と記載され,同【0009】には,「実質的に任意の構造のオブジェクトを,マイクロサイズの規模からマクロサイズの規模まで創出することができ,単純なオブジェクトから複雑な形状を有するオブジェクトまで含むことができる。」と記載され,また,同【0061】には,「本開示は,極めて小さいオブジェクトから極めて大きいオブジェクトに及ぶオブジェクトの加工を包含する。例えば,1?10,000マイクロメートルの高さまたは最長寸法(その高さは,これらの範囲に限定されない)のオブジェクトを調製することができる。適切な回数の通過またはインク噴出を,オブジェクトを所望の全体印刷高さおよび所望の形状まで積み上げることができるように選択することができる。」と記載されている。すなわち引用例1には,引用発明の方法により,任意の大きさの構造が形成できること,並びに,所望の高さ及び形状となるように適切な回数の積み重ねをおこなえばよいことが記載されている。ここで,適切な回数に一回も含まれることは,明らかである。したがって,引用例1のこれらの記載からも,上記(1)で判断した事項が確認される。あるいは,引用発明において,一つの液滴を硬化させて3次元オブジェクトとすることは,引用例1に記載された示唆に基づいて,当業者が容易にできたことである。

(3)本件出願の出願時において,インクジェット法により基材上に放射線硬化性樹脂のドットを形成して,硬化させ,その一つのドットのドット径がレンズ径に等しく,ドット高さがレンズ高さに等しいマイクロレンズを形成することは,周知の技術である(以下「周知技術」という。例えば,特開2006-30633号公報の段落【0001】?【0003】,【0020】?【0021】,図2,特開2003-240913号公報の段落【0018】?【0020】,【0023】,【0030】,図1を参照。)。引用例1の段落【0004】には,引用発明を様々な技術分野で使用しうることが示唆されている。したがって,上記(1)及び(2)で指摘した事項,並びに,上記周知技術を踏まえて,引用発明の方法によって,一つの液滴からマイクロレンズを形成して,光学部材を製造することは,当業者であれば容易にできたことである。

4 発明の効果について
本願発明の効果について,本件出願の明細書の段落【0018】には,「簡単に成形でき,且つ光取り出し効率を向上することができる光学部材及び光学部材の製造方法を提供することができる。」と記載されている。ここで,「光取り出し効率」については,同【0006】?【0007】に,着弾から硬化までの間にドットが基材表面に濡れ広がるために,レンズ径に対してレンズ高さを高くすることが困難であったことが課題として記載されている。そうしてみると,本願発明には,インクにオイルゲル化剤を含ませることにより,着弾から硬化までの間の濡れ広がりを防止して,レンズ径に対してレンズ高さを高くすることを,可能にしたという効果がある。
しかし,インクジェット法により3次元構造物を形成する際に用いられるインクに,オイルゲル化剤を含ませることにより,基材上のインク液滴の濡れ広がりを防止して,高さを維持することは,引用発明も奏する効果である。

5 請求人の主張について
平成29年10月30日付け意見書において請求人は,引用例1の反応性ワックスの作用は,複数のドットを堆積させて,構造物が積み重なることを可能にすることにあり,本願発明のオイルゲル化剤の作用とは異なると主張する。また,請求人は,引用例1において一つのドットからなるマイクロレンズを製造しようとすれば,複数のドットを積み重ねることによって目的の3次元形状を形成する作用しか記載していない引用例1の技術的意義が失われ,引用例1の技術的思想が崩壊するとも主張している。
しかし,引用発明の「反応性ワックス」は,放射線硬化性相変化インクを室温においてゲル化することにより「印刷された液滴の拡散または移動を防」ぐ。当該特性が,一つの液滴の高さを維持するように作用することは,明らかである。また,上記3(1)及び(2)で指摘したように,引用発明は,一つのドットからなる3次元オブジェクトを作製することを,排除するものではない。したがって,請求人の上記主張は認められない。

第6 まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-04 
結審通知日 2017-12-05 
審決日 2017-12-18 
出願番号 特願2012-28879(P2012-28879)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 中田 誠
佐藤 秀樹
発明の名称 光学部材及び光学部材の製造方法  
代理人 丸山 英一  

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