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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1337363
審判番号 不服2016-16532  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-04 
確定日 2018-02-07 
事件の表示 特願2012-182813「電解水を連続生成する反応器」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月 4日出願公開、特開2013- 43177〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年8月22日(パリ条約による優先権主張 2011年8月25日 中国)の出願であって、平成28年2月8日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し、同年5月13日付けで願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の手続補正と意見書の提出がなされたが、同年6月30日付けで拒絶査定がなされ、この査定を不服として、同年11月4日に本件審判請求がなされると同時に特許請求の範囲の手続補正がなされたものである。

第2 補正の却下の決定

結論:
平成28年11月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

理由:
1 補正の内容

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について次の補正事項を有する。

[補正前]
【請求項1】
電解水を連続生成する反応器において、正電極、負電極、陽イオン交換膜と絶縁ケースで構成され、該正電極と該負電極は耐酸アルカリ、耐高圧の該絶縁ケースの長さ方向の内側に置かれ、該正電極と該負電極は互いに平行に等距離に設置され、該絶縁ケース内に形成される管内に、一端より入水され、他端より出水され、該正電極と該負電極の間に高圧直流電源が接続されて、電解水を連続生成し、
該正電極と該負電極の間は互いに2mm-80mm離れ、該陽イオン交換膜は該正電極、該負電極と平行で、且つこれら二つの電極面から等距離の位置にあり、
該反応器の正電極と負電極の間に、5V-5000Vの直流電圧を印加し、
該正電極と該負電極に通電した後、該正電極付近に強電解酸性イオン水が生成され、酸化還元電位は800mVから1500mVに達し、そのPH値は酸性を呈し、該負電極付近に通電後に、強アルカリイオン水を生成し、酸化還元電位は-800mVから-1200mVに達し、そのPH値はアルカリ性を呈し、
該反応器の正電極と負電極の中間は、該陽イオン交換膜により隔てられ、該陽イオン交換膜は陽イオンを通過させて、該陽イオン交換膜の両側の電解水を維持し、
該正電極の材料は、石墨板、白金めっき板、ルテニウムイリジウムコーティングチタン板、チタン板より選択されることを特徴とする、電解水を連続生成する反応器。

[補正後](補正箇所に下線)
【請求項1】
電解水を連続生成する反応器において、直列に接続し、水流が通過するのに用いる複数の反応器を備え、
水流が通過する該各反応器は絶縁ケース、陽イオン交換膜、電気制御ボックス、入水口及び出水口を含み、
該絶縁ケース内には平行した正電極、負電極が設置され、該陽イオン交換膜は該正電極、該負電極と平行で、且つこれら二つの電極面から等距離の位置にあり、
該電気制御ボックスは該正電極、該負電極に接続されて高電圧の直流電圧を該正電極、該負電極に提供し、
該絶縁ケースの一端に入水口が設置され、別の端に少なくとも一つの出水口が設置され、
該各絶縁ケース内には、平行で高さが同じの電気絶縁チェンバーが絶縁材料で多層に分かれ、該各電気絶縁チェンバーは互いに迂回して接続し、該絶縁ケースの一端の下方には、内部の該電気絶縁チェンバーへ流動するための入水口が接続され、並びに該絶縁ケースの一端の上方には少なくとも一つの出水口が設置され、該絶縁ケース内に迂回の水道を形成し、各電気絶縁チェンバーの上下絶縁材料面には正電極と負電極が設置され、該正電極と該負電極は並列方式で該絶縁ケース内に順次に排列されることを特徴とする、電解水を連続生成する反応器。

2 補正の適否

(1)本件補正後の請求項1では、本件補正前の請求項1に記載されていた「該正電極と該負電極の間は互いに2mm-80mm離れ」、「該反応器の正電極と負電極の間に、5V-5000Vの直流電圧を印加し」、「該正電極と該負電極に通電した後、該正電極付近に強電解酸性イオン水が生成され、酸化還元電位は800mVから1500mVに達し、そのPH値は酸性を呈し、該負電極付近に通電後に、強アルカリイオン水を生成し、酸化還元電位は-800mVから-1200mVに達し、そのPH値はアルカリ性を呈し」及び「該正電極の材料は、石墨板、白金めっき板、ルテニウムイリジウムコーティングチタン板、チタン板より選択される」という、正電極と負電極間の距離、直流電圧の数値範囲、電解水のpHや酸化還元電位の数値範囲、具体的な正電極の材料に係る発明特定事項が削除されている。
してみると、上記補正事項からなる本件補正は、請求項に記載した発明特定事項を限定するものでなく削除するものであるから、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものではない。
また、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。

(2)本件補正後の請求項1には、「水流が通過する該各反応器は絶縁ケース、陽イオン交換膜、電気制御ボックス、入水口及び出水口を含み・・・該各絶縁ケース内には、平行で高さが同じの電気絶縁チェンバーが絶縁材料で多層に分かれ」及び「各電気絶縁チェンバーの上下絶縁材料面には正電極と負電極が設置され、」と記載されている。
しかしながら、願書に最初に添付した明細書には、絶縁ケース内を多層に分けた例について、その段落【0030】に「本実施例では、反応器の絶縁ケース(8)の内部の絶縁材料が多層に分かれ、各層空間内に正電極と負電極が設置され、反応器中の流体流動方向(10)は図6のとおりであり、該反応器の正電極と負電極の間には、陽イオン交換膜は設置されない。」と、陽イオン交換膜を含まないことが記載されている。また、上記段落【0030】には、各層空間内に正電極と負電極が設置されることは記載されているものの「上下絶縁材料面」に正電極と負電極が設置されることは記載されておらず、【図6】には、正電極と負電極が各層の同じ面に交互に設置されることが示されているにすぎない。そもそも、「電気絶縁チェンバー」なる用語は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面のいずれにも記載されていない。
してみると、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。

(3)したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明の認定

上述したように、本件補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年5月13日付けで手続補正された特許請求の範囲において、請求項1に記載された事項(「第2 1」の[補正前]参照)により特定されるとおりのものと認められる。

第4 原査定の理由

原審でなされた拒絶査定の理由の一つは、
「本願発明は、その優先権の基礎とされた先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その優先権の基礎とされた先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、次の文献が引用されている。
特開平9-187770号公報 (以下、「引用例1」という。)
特開平10-1794号公報 (以下、「引用例2」という。)

第5 引用例及び周知例の記載(当審にて下線を付与)

引用例1

摘記1-1:
【0016】【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る電解水の生成方法に用いる装置の構成図である。一次電解槽10は、その内部を隔膜12によって二つの領域に区画し、その隔膜12によって区画された一方の領域内に陽極14を備え、他方の領域内に陰極16を備えるものである。この一次電解槽10には、原水を一次電解槽10内に導入するための一次入水通路18と、前記陽極14を配置した領域と通じる一次陽極水出水通路20と、前記陰極16を配置した領域と通じる一次陰極水出水通路22とが連絡されている。この一次電解槽10においては、陽極14で電解された陽極水は一次陽極水出水通路20から一次陽極水即ち酸性水として取り出され、陰極16で電解された陰極水は一次陰極水出水通路22から一次陰極水即ちアルカリ水として取り出される。
【0017】前記一次陽極水出水通路20は第一切換弁24に接続されると共に、前記一次陰極水出水通路22は第二切換弁26に接続され、それら第一切換弁24と第二切換弁26とは出水合流通路28で連絡している。前記一次電解槽10とは別に二次電解槽30が備えられ、前記出水合流通路28の途中と二次電解槽30とが、二次入水通路32で連絡される。即ち、一次電解槽10で電解された生成水が、二次入水通路32を経由して二次電解槽30へ導入できるように設定されている。この二次入水通路32の途中には、二次電解槽30に向かうにつれて順に、第三切換弁34と塩素除去装置36と逆流防止弁38とが備えられている。この塩素除去装置36は、活性炭等の除塩素フィルターを内蔵するものである。第三切換弁34と、二次入水通路32のうちの逆流防止弁38の位置より二次電解槽30に近い側とは、バイパス通路40によって連絡している。
【0018】この二次電解槽30は、一次電解槽10と同じ構造をしており、その内部を隔膜42によって二つの領域に区画し、その隔膜42によって区画された一方の領域内に陽極44を備え、他方の領域内に陰極46を備えるものである。二次電解槽30の陽極44を配置した領域には、大気に開口する二次陽極水取水通路48が連絡されており、二次電解槽30で電解された陽極水はこの二次陽極水取水通路48を経由して取り出される。この二次陽極水取水通路48の途中には第四切換弁50が備えられており、この第四切換弁50は陽極水連絡通路52を介して前記第一切換弁24と連絡している。この陽極水連絡通路52の途中には、大気に開口する陽極水取水通路54が接続されている。一方、二次電解槽30の陰極46を配置した領域には、大気に開口する二次陰極水取水通路56が連絡されており、二次電解槽30で電解された陰極水はこの二次陰極水取水通路56を経由して取り出される。この二次陰極水取水通路56の途中には第五切換弁58が備えられており、この第五切換弁58は陰極水連絡通路60を介して前記第二切換弁26と連絡している。この陰極水連絡通路60の途中には、大気に開口する陰極水取水通路62が接続されている。なお、一次電解槽10と二次電解槽30の電源の作動と電圧の調整と、各切換弁24,26,34,50,58の切換操作は、図示しない電子制御装置によって行う。

摘記1-2:
【0025】ここで、水道水等を原水として一次電解槽10で電解を行い、その一次電解生成水を二次電解槽30で二次電解した実験結果(実験1)を以下に示す。実験した水道水は、pH7.6、電気伝導度160μS/cm、溶存酸素量8.5mg/l、酸化還元電位584mv、溶存遊離塩素量0.6mg/lであった。水温21.6℃の水道水を1.41l/min の通水量で電解電圧18Vで一次電解槽10で電解する。これによって、pH4.5,電気伝導度189μS/cm,溶存酸素量10.5mg/l,酸化還元電位780mv,溶存遊離塩素量1.3mg/lの一次陽極水が得られ、pH9.6,電気伝導度210μS/cm,溶存酸素量6.8mg/l,酸化還元電位-153mv,溶存遊離塩素量0.2mg/lの一次陰極水が得られた。
【0026】一次電解槽10で電解された一次陽極水のみを二次電解槽30で再電解すると、pH3.2,電気伝導度381μS/cm,溶存酸素量14.1mg/l,酸化還元電位930mv,溶存遊離塩素量2mg/lの二次陽極水が得られ、pH6.7,電気伝導度141μS/cm,溶存酸素量8.2mg/l,酸化還元電位2mv,溶存遊離塩素量0.5mg/lの陰極水が得られた。・・・
【0027】一方、一次電解槽10で電解された陰極水のみを二次電解槽30で再電解すると、pH8.3,電気伝導度158μS/cm,溶存酸素量9.8mg/l,酸化還元電位38mv,溶存遊離塩素量0.9mg/lの陽極水が得られ、pH10.1,電気伝導度312μS/cm,溶存酸素量4.8mg/l,酸化還元電位-828mv,溶存遊離塩素量0.1mg/lの二次陰極水が得られた。・・・

摘記1-3:
【0029】次に、他の実験結果(実験2)を示す。実験1と同じ水質の水道水を、同一通水量で電解電圧を28Vにして一次電解槽10で電気分解したところ、pH3.52,電気伝導度389μS/cm,溶存酸素量12.4mg/l,酸化還元電位820mv, 溶存遊離塩素量1.5mg/l の一次陽極水が得られ、pH10.6,電気伝導度313μS/cm,溶存酸素量6.8mg/l, 酸化還元電位-758mv,溶存遊離塩素量0.3mg/lの一次陰極水が得られた。一次電解槽10で電解された一次陽極水のみを二次電解槽30で再電解すると、pH2.7,電気伝導度940μS/cm,溶存酸素量22.5mg/l,酸化還元電位1030mv,溶存遊離塩素量10mg/lの二次陽極水が得られた。この二次陽極水は、溶存遊離塩素量が多い(実験1の溶存遊離塩素量は2mg/l)殺菌能力のある水となる。更に、pH9.4,電気伝導度101μS/cm,溶存酸素量6.2mg/l,酸化還元電位-825mv,溶存遊離塩素量0.4mg/lの陰極水が生成された。この陰極水は、溶存遊離塩素量がやや高めであるが基準内の値であり、理想的な飲用水が得られた。

摘記1-4
【図1】


引用例2

摘記2-1:
【0001】【産業上の利用分野】本発明は、半導体や液晶等の電子機器の洗浄に使用する金属汚染のない高純度の酸性水及び/又はアルカリ水を製造するための電解槽及び電解方法に関する。

摘記2-2:
【0010】・・・電解により製造される電子機器洗浄水としては電解槽の陽極室で生成する酸性水と陰極室で生成するアルカリ水とがあり、本発明はこれらのそれぞれの洗浄水の製造用電解槽と製造方法を含む。本発明では電解槽の隔膜としてパーフルオロカーボン系陽イオン交換膜を固体電解質として使用し、この陽イオン交換膜により電解槽を陽極室と陰極室に区画する。該陽イオン交換膜は従来の中性隔膜と異なり、液透過性がほぼ零であるため陽極液と陰極液が混合することが殆どなく、従って生成した陽極液(酸性水)と陰極液(アルカリ水)の一部混合に起因する効率低下を回避でき、かつ高電流密度下での運転が可能になり、短時間で所望量の洗浄水を得ることができる。

摘記2-3:
【0013】次に酸性水製造の場合に、陽極物質として酸性水製造の際の溶出に対して耐性のある物質、具体的には白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム等の白金族金属又は酸化ルテニウムや酸化イリジウム等の白金族金属酸化物を使用する。該金属又は酸化物は電解による消耗が極めて小さく、従って洗浄水への溶出が殆どなく、得られる洗浄水の汚染を零又は殆ど零にできる。例えば他の電極物質である炭素の陽極物質として使用すると、陽極反応により炭素が酸化されて二酸化炭素が生成し陽極が脆弱化するという問題点が生ずる。又この白金族金属又はその酸化物の使用により、得られる酸性水の物性をコントロールできる。例えば白金を陽極物質とする電解の際に電解液中に塩素イオンが存在すると、該塩素イオンを次亜塩素酸イオンまで酸化し、酸化還元電位を更に高めることができ、更に生成する水素イオンによりpHを十分低くすることができる。いずれの場合にも陽極反応は酸素発生反応となるが、前述の炭素電極の場合のような電極の消耗は生じない。

摘記2-4:
【0022】
【実施例1】陽イオン交換膜ナフィオン117 (デュポン社製)の陽極面側に、イリジウム酸化物触媒を担持し基材全てをカバーした気液透過性のチタン製の多孔性陽極を、陰極面側に開口が10?20ミクロンで厚さが100 ミクロンの白金カーボンシートから成る陰極をそれぞれ密着させた。・・・

また、周知技術に関し、
特開平7-256261号公報 (以下、「周知例3」という。)
実公昭57-5103号公報 (以下、「周知例4」という。)
には、次のとおり記載されている。

周知例3

摘記3-1:
【0024】電解活性水の生成にあたっては、隔膜801a?801eは同一のフッ素系カチオン交換膜を用いた。電極間隔が約3mm、印加電圧40Vの条件で電解活性水の生成を行なった。陽極側の電解活性水の生成では、pH?5、酸化還元電位700mVの水を形成するのに対し、従来の方法(図8の装置で予備電解用の電極に電圧を印加しなかった場合との比較)に較べると単位時間に約10倍の電解活性水を得ることができた。陰極側の電解活性水の生成では、pH?9、酸化還元電位-500mVの水を形成するのに対し、従来の方法に較べ単位時間に約8倍の電解活性水を得ることができた。なお、還元性の水を得る方が容易であるため、特定の条件で得られる水の量自体は陰極側の方が多くできる。

摘記3-2:
【図8】


周知例4

摘記4-1:
実用新案登録請求の範囲
多数の透孔(図示していない)を有するセパレーター1を容器Aの中央に垂直状態に装着し、且同セパレーター1の左右両側に、正、負の電極体2,3を約2mmと云う極めて狭い間隔を以て対称的に装着し、上方に水の注入口4を設けて水を流通部5,6に流し込み、水を流通させながら電解させ、下方にアルカリ性水液の排出ロ7と酸性水液排出口8を夫々設けたことを特徴とする医療用水電解器。

摘記4-2:
図面


第6 引用発明の認定

引用例1には、「電解水の生成方法に用いる装置」において、「一次電解槽10は、その内部を隔膜12によって二つの領域に区画し、その隔膜12によって区画された一方の領域内に陽極14を備え、他方の領域内に陰極16を備える」こと、「一次電解槽10には、原水を一次電解槽10内に導入するための一次入水通路18と、前記陽極14を配置した領域と通じる一次陽極水出水通路20と、前記陰極16を配置した領域と通じる一次陰極水出水通路22とが連絡」し、「陽極14で電解された陽極水は一次陽極水出水通路20から一次陽極水即ち酸性水として取り出され、陰極16で電解された陰極水は一次陰極水出水通路22から一次陰極水即ちアルカリ水として取り出される」ことが記載されている(摘記1-1,1-4)。
また、「一次電解槽10で電解された生成水が、二次入水通路32を経由して二次電解槽30へ導入できるように設定されて」おり、この「二次電解槽30は、一次電解槽10と同じ構造をしており、その内部を隔膜42によって二つの領域に区画し、その隔膜42によって区画された一方の領域内に陽極44を備える、他方の領域内に陰極46を備える」こと、「二次電解槽30の陽極44を配置した領域には、大気に開口する二次陽極水取水通路48が連絡されており、二次電解槽30で電解された陽極水はこの二次陽極水取水通路48を経由して取り出される」こと、「二次電解槽30の陰極46を配置した領域には、大気に開口する二次陰極水取水通路56が連絡されており、二次電解槽30で電解された陰極水はこの二次陰極水取水通路56を経由して取り出される」ことが記載されている(摘記1-1,1-4)。
そして、この装置を用いた実験1,2で、水道水を一定の通水量で装置に入水させていることから(摘記1-2)、電解水は連続生成されていると認められる。また、上記のとおり、陽極水と陰極水がそれぞれの領域で連続して得られていることからすれば、陽極及び陰極に接続された電源が直流電源であることは明らかである。
そして、【図1】によれば、一次電解槽10及び二次電解槽30の上下方向を長さ方向とすると、陽極14、44及び陰極16、46は一次電解槽10及び二次電解槽30各々の長さ方向の内側に置かれていることが窺え、また、一次電解槽10の下側に原水を一次電解槽10内に導入するための一次入水通路18、上側に一次陽極水出水通路20と一次陰極水出水通路22とが示されている(摘記1-4)から、一次電解槽10の下側から上側に向かって形成される管内において、一端に一次入水通路18、他端に一次陽極水出水通路20及び一次陰極水出水通路22が設けられていることが窺える。同様に、二次電解槽30の下側から上側に向かって形成される管内においても、一端に二次入水通路32、他端に二次陽極水取水通路48と二次陰極水取水通路56が設けられていることが窺える。

そうすると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「電解水を連続生成する装置において、
一次電解槽10は、その内部を隔膜12によって二つの領域に区画し、その隔膜12によって区画された一方の領域内に陽極14を備え、他方の領域内に陰極16を備え、陽極14及び陰極16は一次電解槽10の長さ方向の内側に置かれ、一次電解槽10内に形成される管内に、一端より入水され、他端より出水され、
二次電解槽30は、一次電解槽10と同じ構造をしており、その内部を隔膜42によって二つの領域に区画し、その隔膜42によって区画された一方の領域内に陽極44を備え、他方の領域内に陰極46を備え、陽極44及び陰極46は一次電解槽10の長さ方向の内側に置かれ、二次電解槽30内に形成される管内に、一端より入水され、他端より出水され、
一次電解槽10の他端から出水された生成水は二次電解槽30の一端より二次電解槽30へ導入できるように設定されており、
陽極と陰極に接続された直流電源を有し、直流電圧を印加すると、
一次電解槽10では、一次陽極水即ち酸性水及び一次陰極水即ちアルカリ水が得られ、二次電解槽30では、二次陽極水又は二次陰極水が生成される、
電解水を連続生成する装置。」

第7 発明の対比

本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「電解水を連続生成する装置」は本願発明の「電解水を連続生成する反応器」に相当し、以下、「一次電解槽10」と「二次電解槽30」は「ケース」、「陽極14」と「陽極44」は「正電極」、「陰極16」と「陰極46」は「負電極」、「隔膜12」と「隔膜42」は「膜」、「酸性水」は「酸性イオン水」にそれぞれ相当する。

そうすると、本願発明のうち
「電解水を連続生成する反応器において、正電極、負電極、膜とケースで構成され、該正電極と該負電極は該ケースの長さ方向の内側に置かれ、該ケース内に形成される管内に、一端より入水され、他端より出水され、該正電極と該負電極の間に直流電源が接続されて、電解水を連続生成し、
該反応器の正電極と負電極の間に、直流電圧を印加し、
該正電極と該負電極に通電した後、該正電極付近に電解酸性イオン水が生成され、そのPH値は酸性を呈し、該負電極付近に通電後に、アルカリイオン水を生成し、そのPHはアルカリ性を呈し、
該反応器の正電極と負電極の間は、該膜により隔てられる、電解水を連続生成する反応器。」の点は引用発明と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点1:
本願発明は、正電極と負電極の間に設けられる膜が「陽イオン交換膜」であるのに対し、引用発明では、隔膜12、42の詳細が不明な点。

相違点2:
本願発明は、正電極、負電極を内側に置くケースが「耐酸アルカリ、耐高圧の絶縁」であるのに対し、引用発明では、電解槽10、30が「耐酸アルカリ、耐高圧の絶縁」であるか不明な点。

相違点3:
本願発明は、正電極と負電極は互いに平行で2mm-80mm離れ、また、膜は該正電極、該負電極と平行で、且つこれら二つの電極面から等距離の位置にあるのに対し、引用発明は、陽極14、陰極16、隔膜12及び陽極44、陰極46、隔膜42の間隔等が不明である点。

相違点4:
本願発明は、高圧の電源が5V-5000Vの直流電圧を印加し、正電極付近に生成される強電解酸性イオン水の酸化還元電位が800mVから1500mVに達し、負電極付近に生成する強アルカリイオン水の酸化還元電位が-800mVから-1200mVに達するのに対し、引用発明は、印加電圧や、酸性水である陽極水、アルカリイオン水である陰極水の酸化還元電位を特定するものではない点、

相違点5:
本願発明は、「正電極の材料は、石墨板、白金めっき板、ルテニウムイリジウムコーティングチタン板、チタン板より選択される」ものであるのに対し、引用発明では、陽極14、44の材料が不明な点。

第8 相違点の判断

相違点1:
引用例2に、酸性水及び/又はアルカリ水を製造するための電解槽において、陽イオン交換膜により電解槽を陽極室と陰極室に区画すると、従来の中性隔膜と異なり、液透過性がほぼ零であるため陽極液と陰極液が混合することが殆どなく、従って生成した陽極液(酸性水)と陰極液(アルカリ水)の一部混合に起因する効率低下を回避でき、かつ高電流密度下での運転が可能になり、短時間で所望量の洗浄水を得ることができることが記載されており(摘記2-1,2-2)、電解活性水の生成にあたって、隔膜として陽イオン交換膜を使用することは周知となっている(摘記3-1,3-2)。
してみると、引用発明において、陽極水と陰極水とが混合し生成効率が低下することを回避するために、電解槽を区画している隔膜として陽イオン交換膜を使用することは、当業者が容易になし得ることである。

相違点2:
電解槽について、陽極室及び陰極室において生成する酸性水、アルカリ水にて溶解や変質しない程度の耐酸耐アルカリの材料を用いること、さらに、使用される電圧に耐え得る程度の耐高電圧の絶縁材料を使用することは、当業者に自明なことであるから、相違点2は実質的な差異とはいえない。

相違点3:
電解水の製造装置において、垂直に配置された隔膜の左右に対称的に電極を配置することや、電極間隔を3?4mm程度とすることは周知であり(摘記3-1,3-2,4-1,4-2)、引用例1に記載された引用発明の概略図も、隔膜12,42が、陽極14,44、陰極16,46と平行で、且つこれら二つの電極面から等距離の位置にあることを示していると認められる(摘記1-4)から、相違点3が実質的な差異になるとはいえない。

相違点4:
引用例1には、引用発明において、電解電圧を18Vにした場合に、酸化還元電位930mvの二次陽極水、あるいは、酸化還元電位-828mvの二次陰極水が得られ(摘記1-2)、また、電解電圧を28Vにした場合に、酸化還元電位820mvの一次陽極水及び酸化還元電位-758mvの一次陰極水が生成されたことが記載されている(摘記1-3)。
してみると、引用発明において、5V-5000Vの範囲内の直流電圧を印加することで、一次陽極水または二次陽極水として、酸化還元電位が800mVから1500mVに達する強電解酸性イオン水、及び、一次陰極水または二次陰極水として、酸化還元電位が-800mVから-1200mVに達する強アルカリイオン水が得られることは、当業者が容易に想到し得ることである。

相違点5:
引用例2に、陽極物質として電解による消耗が極めて小さく、酸性水製造の際の溶出に対して耐性のある物質、具体的には白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム等の白金族金属を使用することや、実施例にてチタン製の多孔性陽極を使用したことが記載されているように(摘記2-3,2-4)、酸性水を製造する際に、電解による消耗や酸性水への溶出が少ない材料である白金やチタンを陽極として用いることは周知である。
してみると、引用発明において、電解による消耗や酸性水への溶出を防ぐために、白金めっき板やチタン板を陽極材料として用いることは、当業者が容易になし得たことである。

したがって、相違点2,3は実質的な差異とはいえず、また、引用発明において相違点1,4,5を共に解消することにも格別の困難性はない。

本願発明の効果:
本願明細書【0018】-【0022】には、本願発明が、1)電極面積を大きくすることができ、連続して大量に強酸性或いは強アルカリイオン水を生成できること、2)電流密度は低く、正電極材料の腐食が小さいこと、3)同時に処理される水に対して殺菌、除臭、TVOCsの分解が行え、水をさらに浄化できること、4)反応器内の水流は不断に流動するため、ケース内壁に水垢が発生せず、反応器は洗浄する必要がなく、反応器の寿命を延長できること、5)大量に、リアルタイムに、アルカリイオン水を提供でき、飲用、洗浄、殺菌、灌漑及び工業用水等の場所に提供され得て、現在市販されている電解水生成機が高額で、出水量が少ない問題を解決できること、なる効果を有することが記載されている。
しかしながら、上記相違点1?5により、本願発明と引用発明の間に、電極面積、電流密度または通水量において格別の差異があるとはいえないし、得られる酸性イオン水やアルカリイオン水の量や質において格別の差異が生じるとは認められない。
したがって、上記1)?5)の効果を、引用例1,2の記載及び周知技術から当業者が予期し得ない顕著な効果ということはできない。

第9 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の理由について検討するまでもなく、原査定の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-07 
結審通知日 2017-09-12 
審決日 2017-09-25 
出願番号 特願2012-182813(P2012-182813)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
P 1 8・ 55- Z (C02F)
P 1 8・ 57- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 片山 真紀  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山本 雄一
新居田 知生
発明の名称 電解水を連続生成する反応器  
代理人 あいわ特許業務法人  

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