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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1337519
審判番号 不服2016-11033  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-21 
確定日 2018-02-14 
事件の表示 特願2014-63311「色温度の高いタンデム型白色OLED」拒絶査定不服審判事件〔平成26年7月31日出願公開,特開2014-139947〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
特願2014-63311号(以下「本件出願」という。)は,特許法44条1項及び同法36条の2第1項の規定により,平成26年3月26日に特願2011-527797号(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2008年9月16日 米国)の一部を新たな外国語書面出願としたものであって,その手続の概要は,以下のとおりである。
平成26年 3月31日付け:手続補正書
平成27年 1月27日付け:拒絶理由通知
平成27年 5月 7日付け:意見書
平成27年 8月19日付け:拒絶理由通知
平成28年 2月19日付け:意見書
平成28年 3月14日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成28年 7月21日付け:審判請求

2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1-請求項10に係る発明は,平成26年3月31日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-請求項10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明は,次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 間隔を置いた2つの電極を有するOLEDデバイスであって,
a.該電極間に配置された第一発光ユニット,第二発光ユニット及び第三発光ユニットであって,該第一発光ユニットは,500nm以上の波長で多数のピークを有する光を生成し且つ480nmより短い波長で実質的に発光せず,該第二発光ユニット及び該第三発光ユニットは,500nmより短い波長で実質的な発光を有する光を生成する,
b.該第一発光ユニットと該第二発光ユニットとの間及び該第二発光ユニットと該第三発光ユニットとの間のみに配置された中間接続層であって,該中間接続層は,p型有機単一層からなる
を備え,且つ
c.9,000K?15,000Kの色温度を有する光を発し,
d.該間隔を置いた電極のうちの1つが,反射性であり,他方の電極が,透過性であり,且つ該第一発光ユニットが,該第二発光ユニット及び該第三発光ユニットよりも該反射性電極の近くに配置されるOLEDデバイス。」

3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基づいてその優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用例1:特開2005-183213号公報
引用例2:特開2006-324016号公報
引用例3:特開2008-117798号公報
(引用例3は周知技術を示す文献である。)

第2 当合議体の判断
1 引用例及び引用発明
(1) 引用例1の記載
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1には,以下の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL発光を呈する複数の発光ユニットが直列に接続されてなり,該複数の発光ユニットの発光面の一部又は全部が重ねられて発光面を形成する有機EL素子であって,
前記複数の発光ユニットは,少なくとも2色以上の異なる発光色を呈する発光ユニットを有し,
少なくとも一つの色を呈する前記発光ユニットを多段に形成し,前記発光面から前記異なる発光色を合成した所望の混色を得ることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記複数の発光ユニットは,蛍光発光性の発光ユニットと燐光発光性の発光ユニットを含み,前記蛍光発光性の発光ユニットを前記燐光発光性の発光ユニットに対して多段に形成したことを特徴とする請求項1に記載された有機EL素子。
【請求項3】
前記所望の混色を白色とすることを特徴とする請求項1又は2に記載された有機EL素子。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,有機EL素子及びその形成方法に関するものである。
【背景技術】
…(省略)…
【0006】
また一般に,有機EL素子の輝度は電流密度にほぼ比例するため,高輝度を得ようとすれば必然的に高い電流密度が必要であり,電流密度を高くすると素子寿命が短くなってしまうという不都合がある。これに対して,下記特許文献1に記載の有機EL素子によると,高輝度を得たい場合には発光ユニットの数を増やせば良く,この際に各発光ユニットを流れる電流の電流密度は変わらないので,素子寿命を犠牲にすることなく高輝度を実現することが可能になる。
…(省略)…
【0008】
【特許文献1】特開2003-45676号公報」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように,有機EL発光を呈する複数の発光ユニットが直列に接続された有機EL素子では,直列接続された発光ユニットを流れる電流は等しく,発光ユニット毎に電流密度を調整することができないので,全ての発光ユニットに流れる共通の電流密度に対する各発光ユニットの輝度効率(電流輝度効率)によって,自動的に全体の有機EL素子から出力される混色の色度が決まってしまうことになる。
…(省略)…
【0012】
更には,発光ユニットに用いられる発光材料としては,1重項励起状態から基底状態に戻る際の発光(蛍光発光性)を呈するものと,3重項励起状態から基底状態に戻る際の発光(燐光発光性)を呈するものとがあるが,一般に,蛍光発光は燐光発光の1/3?1/4の量子効率になるので,これらを混在させてRGBの混色を得ようとすると,色味がかった白色になってしまうという問題がある。
【0013】
本発明は,このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち,有機EL発光を呈する複数の発光ユニットが直列に接続されてなる有機EL素子において,各発光ユニットの発光色の混色によって得られる色を所望の色度に設定すること,或いは,前述の混色として白色を得ること等を目的とする。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下,本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図2及び図3は,本発明の実施形態に係る有機EL素子及びその形成方法を説明する説明図である。」
(当合議体注:図2は以下の図である。)


(当合議体注:図3は以下の図である。)


オ 「【0018】
先ず,本発明の実施形態に係る有機EL素子は,図2(a)に示すように,有機EL発光を呈する複数の発光ユニット10_(A),…,10_(B1),10_(B2),…,10_(Bn)が直列に接続されてなり,この発光ユニット10_(A),…,10_(B1),10_(B2),…,10_(Bn)の発光面の一部又は全部が重ねられて発光面10Sを形成するものが前提になっている。
…(省略)…
【0023】
また,より具体的な有機EL素子の形態としては,図3に示すように,基板1上に配線電極11(下部電極)を形成し,これが陽極機能界面p_(0)を形成する導電層を兼ねるようにし,その上に前述した発光ユニット10_(Bn),…,10_(B2),10_(B1),…,10_(A)を順次積層させ,最上部に配線電極12を積層させて,これが陰極機構界面n_(0)を形成する導電層を兼ねるようにしてもよい。
…(省略)…
【0025】
図3(a)?(c)は,このような有機EL素子における光の取り出し形態を示したものである。同図(a)に示す例は,配線電極12或いは最上の発光ユニット10_(A)を非透光性にすると共に,他の発光ユニット,配線電極11,基板1を透光性にして基板1側から光を取り出す方式(ボトムエミッション方式),同図(b)に示す例は,基板1,配線電極11,最下の発光ユニット10_(Bn)のいずれか又は全てを非透光性にすると共に,他の発光ユニット,配線電極12を透光性にして上面から光を取り出す方式(トップエミッション方式),同図(c)に示す例は,配線電極11,12,全ての発光ユニット,基板1を透光性にして上下両面から光を取り出す方式(TOLED方式)をそれぞれ示している。」

カ 「【0048】
以下に,本発明の実施形態に係る有機EL素子の各構成要素について更に具体的に説明する。
【0049】
a.有機発光機能層;
有機発光機能層A,…,B1,B2,…,Bnは,単層又は多層の有機化合物材料層からなるが,層構成はどのように形成されていても良い。一般には,陽極機能界面p_(0)側から陰極機能界面n_(0)側に向けて,正孔輸送層,発光層,電子輸送層を積層させたものを用いることができるが,発光層,正孔輸送層,電子輸送層はそれぞれ1層だけでなく複数層積層して設けても良く,正孔輸送層,電子輸送層についてはどちらかの層を省略しても,両方の層を省略しても構わない。また,正孔注入層,電子注入層,キャリアブロック層等の有機材料層を用途に応じて挿入することも可能である。前記正孔輸送層,前記発光層,前記電子輸送層は従来の使用されている材料(高分子材料,低分子材料を問わない)を発光色に応じて適宜選択して採用できる。」

キ 「【0055】
d.各種方式等;
本発明の実施形態に係る有機EL素子は,パッシブマトリクス型の表示パネルを形成することもできるし,或いは,アクティブマトリクス型の表示パネルを形成することもできる。また,カラー表示パネルを形成するためには,塗り分け方式,白色や青色等の単色の発光機能層にカラーフィルタや蛍光材料による色変換層を組み合わせた方式(CF方式,CCM方式)等により,フルカラー有機ELパネル,又はマルチカラー有機ELパネルを形成することができる。また,本発明の実施形態に係る有機EL素子としては,基板1側から光を取り出すボトムエミッション方式にすることもできるし,或いは,基板1とは逆側から光を取り出すトップエミッション方式にすることもできる。」

ク 「【実施例】
【0057】
以下に,本発明の実施例について,図面を参照しながら説明する。図5は,本発明の実施例と比較例の構成を示す説明図であり,図6及び図7は実施例の評価を示す発光特性図である。
[実施例]図5(a)に本発明の実施例に係る有機EL素子を示す。ここでは,有機EL素子の発光色として白色(CIExy色度図(JIS Z 8110)の白領域)を得るために,発光ユニットの選択色をR(赤),G(緑),B(青)3色にして,R(赤),G(緑)の発光ユニットでは燐光発光性の発光材料を用い,B(青)の発光ユニットでは蛍光発光性の発光材料を用いたものである。基本構成は前述した実施形態に示すとおりであるが(同一部位には同一符号を付して重複した説明を省略する。),ここでは,青に関して,有機発光機能層B_(1)と有機発光機能層B_(2)の2層からなる2段の発光ユニットを設け,緑に関しては有機発光機能層G,赤に関しては有機発光機能層Rの各1層としている。以下,更に具体的な製造方法を説明する。
【0058】
先ず,ガラス製の基板1に下部の配線電極11(陽極側)としてのITOをスパッタリングにより150nm成膜し,レジスト(東京応化製フォトレジストAZ6112)をITO膜上にストライプ状にパターン形成する。すなわち,基板1を塩化第二鉄水溶液と塩酸の混合液に浸漬しレジストに覆われていないITOをエッチングし,アセトン中に含浸させてレジストを除去し,所定のITOパターンを有する基板1を作成する。
【0059】
次いで,ITO付きの基板1を,真空蒸着装置に搬入し,順次,正孔輸送層aとしてCuPcを30nmの厚さに成膜,正孔注入層bとしてα-NPDを50nmの厚さに成膜,発光層cとしてspiro‐DPVBiを30nmの厚さに成膜,電子輸送層dとしてAlq_(3)を20nmの厚さに成膜,電子注入層eとしてLi_(2)Oを1nmの厚さに成膜して,各層を積層し,第1の青色有機発光機能層B_(1)を形成する。
【0060】
この第1の青色有機発光機能層B_(1)上に導電層13としてV_(2)O_(5)を真空蒸着によって厚さ30nm成膜する。ついで,この導電層13上に第2の青色有機発光機能層B_(2)を第1の青色有機発光機能層B_(1)と同様に順次積層する。そして,この第2の青色有機発光機能B_(2)上に導電層13としてV_(2)O_(5)を真空蒸着にて30nm成膜する。
【0061】
次に,導電層13上に,順次,正孔輸送層aとしてCuPcを20nmの厚さに成膜,正孔注入層bとしてα-NPDを20nmの厚さに成膜,発光層cとしてホスト材:CBP,ドーパント:Ir(ppy)_(3)を30nmの厚さに成膜,ホールブロッキング層fとしてBCPを10nmの厚さに成膜,電子輸送層dとしてAlq_(3)を40nmの厚さに成膜,電子注入層gとしてLi_(2)Oを1nmの厚さ成膜して各層を積層し,緑色有機発光機能層Gを形成する。
【0062】
この緑色有機発光機能層G上に導電層13としてV_(2)O_(5)を真空蒸着にて30nm成膜する。
【0063】
次に,導電層13上に,順次,正孔輸送層aとしてCuPcを20nmの厚さに成膜,正孔注入層bとしてα-NPDを60nmの厚さに成膜,発光層cとしてホスト材:CBP,ドーパント:Btp_(2)Ir(acac)を30nmの厚さに成膜,ホールブロッキング層fとしてBCPを10nmの厚さに成膜,電子輸送層dとしてAlq_(3)を20nmの厚さに成膜,電子注入層eとしてLi_(2)Oを1nmの厚さに成膜して各層を積層し,赤色有機発光機能層Rを形成する。
【0064】
そして,赤色有機発光機能層R上に上部の配線電極12(陰極側)としてAlを100nmの厚さに成膜する。
【0065】
このようにして形成された有機EL素子に対して,その後N2雰囲気中にて,ガラス製の封止基板(図示省略)を光硬化性樹脂等の接着剤にて接合封止して有機ELパネルを作成した。封止基板は,プレス成形,エッチング,ブラスト処理等の加工によって封止凹部を形成し,この封止凹部にBaO等の乾燥剤を貼りつけた。」
(当合議体注:図5は以下の図である。)


ケ 「【0067】
[実施例の評価]…(省略)…図7の色度の比較においては,比較例の色度(△)(0.347,0.433)は,NTSC白(◎)(0.31,0.316)から離れているが,本発明の実施例の色度(○)(0.307,0.371)はNTSC白の色度に近い値になった。」
(当合議体注:図7は以下の図である。)


(2) 引用発明
引用例1の図5(a)には,引用例1の請求項1及び2を引用する請求項3に係る発明に対応する「本発明の実施例に係る有機EL素子」(【0057】)として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,発光ユニット等の積層順は,図5(a)に記された符号に対応する【0058】-【0064】の記載を参照し,また,用語及び接続詞を整理して記載した。
「 有機EL素子の発光色として白色を得るために,発光ユニットの選択色を赤,緑及び青の3色にし,
赤及び緑の発光ユニットでは燐光発光性の発光材料を用い,青の発光ユニットでは蛍光発光性の発光材料を用い,
青に関して,青色有機発光機能層B_(1)と青色有機発光機能層B_(2)の2層からなる2段の発光ユニットを設け,緑に関しては緑色有機発光機能層G,赤に関しては赤色有機発光機能層Rの各1層とし,
積層順が,基板(ガラス),陽極(ITO),青色有機発光機能層B_(1),導電層(V_(2)O_(5)),青色有機発光機能層B_(2),導電層(V_(2)O_(5)),緑色有機発光機能層G,導電層(V_(2)O_(5)),赤色有機発光機能層R及び陰極(Al)である,
有機EL素子。」

(3) 引用例2の記載
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用例2には,以下の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の有機発光層を備えた少なくとも1つの第1発光ユニットと,単層構造の有機発光層を備えた少なくとも1つの第2発光ユニットとを備えると共に,
前記各発光ユニットが,当該各発光ユニットに電荷を供給するための接続層を介して積層された状態で,陽極と陰極との間に狭持されている
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
請求項1記載の有機電界発光素子において,
前記第1発光ユニットおよび第2発光ユニットに備えられた前記有機発光層は,それぞれが異なる発光色に発光する
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項3】
請求項2記載の有機電界発光素子において,
前記第2発光ユニットの有機発光層は,前記第1発光ユニットの有機発光層よりも短波長の発光色に発光する
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項4】
請求項2記載の有機電界発光素子において,
前記第1発光ユニットは,前記有機発光層として赤色発光層と緑色発光層とを備え,
前記第2発光ユニットは,前記有機発光層として青色発光層を備えている
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項5】
請求項2記載の有機電界発光素子において,
前記第1発光ユニットおよび第2発光ユニットに備えられた前記有機発光層で生じた発光光の混色が白色光となる
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項6】
請求項5記載の有機電界発光素子において,
前記第1発光ユニットおよび第2発光ユニットに備えられた前記有機発光層で生じた発光光のうち,所定の発光波長の光が素子の内部で共振して取り出されるように,前記陽極または陰極を構成する透明導電膜の膜厚が調整されている
ことを特徴とする有機電界発光素子。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,有機電界発光素子およびこれを用いた表示装置に関し,特には白色発光する有機電界発光素子と,これを用いたフルカラー表示の表示装置に関する。
【背景技術】
…(省略)…
【0005】
また,白色発光素子の他の構成としては,陰極と陽極との間に電荷発生層を介して複数の発光ユニットを積層させた,いわゆるタンデム型も例示される。このようなタンデム型素子では,各発光ユニットからの発光の重ね合わせによって発光色が白色となるように,各発光ユニットに設けられた発光層を構成する(下記特許文献3,4参照)。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
…(省略)…
【0010】
一方,タンデム型の白色発光素子では,カラーフィルタと組み合わせてフルカラーの表示装置を構成する場合,赤(R),緑(G),青(B)のそれぞれに発光する発光層を備えた3つの発光ユニットを積層させた構成とすることで,高い色純度を実現することができる。しかしながら,タンデム型素子の原理から考えて,単一の発光ユニットを用いた白色発光素子と比較して,最低でも3倍の駆動電圧を印加することが必要となる。このため,特に薄膜トランジスタ(TFT)を用いて有機電界発光素子を駆動するアクティブマトリクス型の表示装置では,実用的な駆動電圧の上限値を超えてしまう場合が多い。したがって,このようなタンデム型の白色発光素子を用いて表示装置を構成することは,駆動電圧の観点からは実用的であるとは言い難い。
【0011】
そこで本発明は,低電圧での駆動が可能であり,かつ発光バランスが良好に制御された有機電界発光素子を提供すること,およびこのような有機電界発光素子を用いることにより色変化を抑えて発光バランスの径時的な安定化を図ることが可能で,長時間にわたる安定したカラー表示が可能な表示装置を提供することを目的とする。」

エ 「【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するための本発明の有機電界発光素子は,接続層を介して積層された少なくとも1つの第1発光ユニットと少なくとも1つの第2発光ユニットとを,陽極と陰極との間に狭持させてなるタンデム型の有機電界発光素子である。そして,第1発光ユニットが,積層された複数の有機発光層を備えており,また第2発光ユニットが,単層構造の有機発光層を備えていることを特徴としている。尚,接続層は,第1発光ユニットおよび第2発光ユニットに電荷を供給するための層である。
【0013】
このような構成の有機電界発光素子では,陽極と陰極との間に積層された2つの発光ユニット内に,合計で少なくとも3つの有機発光層が積層されている。このため,これらの少なくとも3つの有機発光層のそれぞれを,異なる発光色に発光するものとすることで,3色の混色による白色発光が実現される。したがって,1つの発光ユニット内に2層の発光層を積層させて白色発光とする従来構成と比較して,各色の発光層間での発光バランスを整えることが容易になる。しかも,白色発光を得るための赤(R),緑(G),青(B)の各色発光層が,それぞれ個別に設けられるため,各色発光層の製造上の制御も容易になり,再現性も向上する。また,3つの発光ユニットのそれぞれに各色の発光層を設けて白色発光とするタンデム型の従来構成と比較して,発光ユニットの積層数を2層とすることもできるため,駆動電圧が抑えられる。
【0014】
また本発明の表示装置は,上述した有機電界発光素子を基板上に配列形成してなる。」

オ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は,本発明の有機電界発光素子の一構成例を示す断面図である。この図に示す有機電界発光素子1は,発光ユニットを積層してなるタンデム型であり,基板11上に設けられた陽極13,この陽極13上に重ねて設けられた複数の発光ユニット15-1,15-2,…(ここでは2個),これらの発光ユニット15-1,15-2間に設けられた接続層17,そして最上層の発光ユニット15-2上に設けられた陰極19を備えている。ここで接続層17は,いわゆる電荷発生層であることとする。
…(省略)…
【0053】
特に,本実施形態では,フルカラーに必要とされるRGB3色を発光させる中で最も発光波長の短い青色発光層15c-3を,単層構造の発光層として第2発光ユニット15-2内に設けた構成とした。これにより,3色の中で青色発光を最も有利に行うことができ,タンデム型の白色発光素子としての発光バランス,すなわちホワイトバランスを良好に得ることができる。
【0054】
しかも,白色発光を得るための赤(R),緑(G),青(B)の各色発光層が,それぞれ個別に設けられるため,各色発光層の製造上の制御も容易になり,再現性も向上する。また,3つの発光ユニットのそれぞれに各色の発光層を設けて白色発光とするタンデム型の従来構成と比較して,発光ユニットの積層数が2層であるため,駆動電圧が抑えられる。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)


カ 「【実施例】
【0076】
次に,本発明の具体的な実施例として,図1を参照して有機電界発光素子の製造手順を説明し,次に作製された有機電界発光素子の評価結果を説明する。
…(省略)…
【0083】
≪評価結果≫
以上のようにして作製した有機電界発光素子からの発光光を,各色発光画素に用いる赤,緑,青の各カラーフィルタを透過させて得た取出光について,色度および発光効率を測定した結果を下記表1に示す。また,測定された発光効率に基づいて,この有機電界発光素子を用いて表示装置を構成する場合にホワイトの色温度9300Kを得るための輝度割合と,それを得るための必要電流比を算出し,この結果を下記表1に合わせて示した。
【0084】
【表1】



(4) 引用例2記載技術
引用例2には,以下(a)の事項を課題として,以下(b)の課題解決手段により,以下(c)の効果が得られる有機電界発光素子が開示されている(以下「引用例2記載技術」という。)。
「(a)タンデム型の白色発光素子では,カラーフィルタと組み合わせてフルカラーの表示装置を構成する場合,赤(R),緑(G),青(B)のそれぞれに発光する発光層を備えた3つの発光ユニットを積層させた構成とするが,単一の発光ユニットを用いた白色発光素子と比較して,最低でも3倍の駆動電圧を印加することが必要となり駆動電圧の観点からは実用的であるとは言い難いため,
(b)接続層を介して積層された少なくとも1つの第1発光ユニットと少なくとも1つの第2発光ユニットとを,陽極と陰極との間に狭持させ,第1発光ユニットが,積層された複数の有機発光層を備えており,また第2発光ユニットが,単層構造の有機発光層を備え,
(c)3色の混色による白色発光が実現され,かつ,3つの発光ユニットのそれぞれに各色の発光層を設けて白色発光とするタンデム型の従来構成と比較して,発光ユニットの積層数を2層とすることもできるため,駆動電圧が抑えられる,
有機電界発光素子。」

(5) 引用例3の記載
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用例3には,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,薄膜素子に関し,特に有機薄膜層を有する機能性素子部を複数積層した有機薄膜素子およびタンデム型光電変換素子に関する。」

イ 「【0006】
また,発光素子である有機LEDにおいても,タンデム型による高輝度,長寿命デバイスが報告されている。特開2003-272860号公報には,発光素子間を接続する層をCGL層と呼び,導電体のITO(インジウムスズオキサイド)や絶縁体のV_(2)O_(5)(五酸化バナジウム):αNPD,4F-TCNQ(テトラシアノキノジメタン):αNPDなどの組み合わせで電荷移動錯体を形成した層を使用したデバイスが提案されている。タンデム構造にすることで,シングル素子と同じ電流で,積層した素子分の輝度が得られるため,電流当たりの輝度効率(cd/A)が上昇する。また,シングル素子と同じ輝度で発光させる場合には,シングル素子より少ない電流ですむため,寿命が長くなるメリットがある。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
…(省略)…
【0009】
タンデム型有機LEDとしてITOや,V_(2)O_(5):αNPD,4F-TCNQ:αNPDなどの電荷移動錯体を用いる場合,スパッタダメージ,透過率の低さ,V_(2)O_(5)や4F-TCNQが劇物指定物質であることなどから,新たな素子の開発が求められている。
【0010】
本発明の目的は,性能を向上させた有機薄膜素子およびそれを用いた有機半導体素子を提供することである。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明者らは,タンデム型有機薄膜素子において,積層した各素子間を接続する接続層に少なくとも1つのシアノ基(CN)を配位した有機化合物を用いることを発案した。有機材料を使うことで,金属透過率の問題や薄膜の膜厚制御の問題,スパッタダメージの問題,劇物指定物質の使用問題などの改善を図るためである。
…(省略)…
【0033】
続いて発明者らは,上記サンプルと同様の工程で,接続層に後述する化合物Bを用いたサンプルSDを作成した。フロントセル3としてCuPc10nm,次にCuPcとC60の1:1の混合層を10nm,C60を10nm,バソクプロインを10nm蒸着した。接続層としてシアノ基を付与したヘキサアゾトリフェニレン誘導体である化合物Bを10nm蒸着した。
【0034】
図4に,化合物Bの化学構造式を示す。図示のように,化合物Bは,ヘキサアゾトリフェニレンにCNを配位した,ヘキサニトリルヘキサアゾトリフェニレンである。
…(省略)…
【0038】
接続層に化合物Aもしくは化合物Bを用いたことで諸特性が改善した理由は次のように考えられる。接続層に使用できる有機物は,電子導電性の高い有機物に電子吸引基であるシアノ基(CN)を持つ構造である。電子伝導性の高い有機物は電子受容性があり,電子輸送性材料として知られている。この材料に電子吸引機能のあるシアノ基を置換することで,ホールを生成する機能を持たせることが可能である。そのため接続層の役割である電子とホールを生成し,それ自体は配線と同じ機能を持つことが可能となる。さらに接続層が電子輸送材料を基本骨格としているため,接続層に接するn型有機半導体または電子輸送層との親和性が高く,障壁の少ない接合が可能となると考えられる。
【0039】
上記の考察により,接続層に用いることで特性が向上する他の有機化合物として,当業者に電子輸送性を有する材料と認められている化合物(主に芳香族化合物)の誘導体であって,CNを少なくとも1つ配位した化合物を適用できると考えられる。」
(当合議体注:図4は以下の図である。)


2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア OLEDデバイス
引用発明の「有機EL素子」は,積層順が前記1(2)のとおり「基板(ガラス),陽極(ITO),青色有機発光機能層B_(1),導電層(V_(2)O_(5)),青色有機発光機能層B_(2),導電層(V_(2)O_(5)),緑色有機発光機能層G,導電層(V_(2)O_(5)),赤色有機発光機能層R及び陰極(Al)」である。
引用発明の「有機EL素子」の全体構成及び本願発明の「OLEDデバイス」の全体構成からみて,引用発明の「有機EL素子」は,本願発明の「OLEDデバイス」に相当する。また,引用発明の「陽極」及び「陰極」は,本願発明の「間隔を置いた2つの電極」に該当するから,引用発明の「有機EL素子」は,本願発明の「間隔を置いた2つの電極を有するOLEDデバイス」の要件を満たす。

イ 第一発光ユニット-第三発光ユニット
引用発明の「有機EL素子」は,積層順が前記1(2)のとおりである。
ここで,発光色と波長の関係等の技術常識を考慮すると,以下[A]及び[B]の事項がいえる。
[A] 引用発明の「緑色有機発光機能層G」及び「赤色有機発光機能層R」は,いずれも「500nm以上の波長で」「ピークを有する光を生成し且つ480nmより短い波長で実質的に発光」しない。
[B] 引用発明の「青色有機発光機能層B_(1)」及び「青色有機発光機能層B_(2)」は,いずれも「500nmより短い波長で実質的な発光を有する光を生成する」。
そうしてみると,引用発明の「緑色有機発光機能層G」及び「赤色有機発光機能層R」は,いずれも,「500nm以上の波長で」「ピークを有する光を生成し且つ480nmより短い波長で実質的に発光せず」という構成において,本願発明の「第一発光ユニット」と共通する。また,引用発明の「青色有機発光機能層B_(1)」及び「青色有機発光機能層B_(2)」は,それぞれ,本願発明の「第二発光ユニット」及び「第三発光ユニット」のいずれにも相当するとともに,「500nmより短い波長で実質的な発光を有する光を生成する」という要件も満たす。
加えて,引用発明の積層順からみて,引用発明の「青色有機発光機能層B1」,「青色有機発光機能層B_(2)」,「緑色有機発光機能層G」及び「赤色有機発光機能層R」は,いずれも,「陽極」と「陰極」の間に配置されたものである。

以上勘案すると,引用発明の「有機EL素子」と本願発明の「OLEDデバイス」は,「該電極間に配置された第一発光ユニット,第二発光ユニット及び第三発光ユニットであって,該第一発光ユニットは,500nm以上の波長で」「ピークを有する光を生成し且つ480nmより短い波長で実質的に発光せず,該第二発光ユニット及び該第三発光ユニットは,500nmより短い波長で実質的な発光を有する光を生成する」構成において一致する。

ウ 中間接続層
引用発明の「有機EL素子」は,積層順が前記1(2)のとおりである。
ここで,機能的にみて,引用発明の「導電層」と本願発明の「中間接続層」は,「該第一発光ユニットと該第二発光ユニットとの間及び該第二発光ユニットと該第三発光ユニットとの間」「に配置された中間接続層」の構成において一致する。

エ 光
引用発明の「有機EL素子」が,「色温度を有する光を発」することは当然である。

オ 発光ユニットの配置
引用発明の「有機EL素子」は,積層順が前記1(2)のとおりである。そうしてみると,引用発明の「陰極(Al)」及び「陽極(ITO)」が,それぞれ,反射性の電極及び透過性の電極として機能することは,技術的にみて明らかである。
したがって,引用発明の「有機EL素子」は,本願発明の「該間隔を置いた電極のうちの1つが,反射性であり,他方の電極が,透過性であり,且つ該第一発光ユニットが,該第二発光ユニット及び該第三発光ユニットよりも該反射性電極の近くに配置されるOLEDデバイス」の要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 間隔を置いた2つの電極を有するOLEDデバイスであって,
a.該電極間に配置された第一発光ユニット,第二発光ユニット及び第三発光ユニットであって,該第一発光ユニットは,500nm以上の波長でピークを有する光を生成し且つ480nmより短い波長で実質的に発光せず,該第二発光ユニット及び該第三発光ユニットは,500nmより短い波長で実質的な発光を有する光を生成する,
b.該第一発光ユニットと該第二発光ユニットとの間及び該第二発光ユニットと該第三発光ユニットとの間に配置された中間接続層
を備え,且つ
c.色温度を有する光を発し,
d.該間隔を置いた電極のうちの1つが,反射性であり,他方の電極が,透過性であり,且つ該第一発光ユニットが,該第二発光ユニット及び該第三発光ユニットよりも該反射性電極の近くに配置されるOLEDデバイス。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する,あるいは,一応相違する。
(相違点1)
本願発明の「第一発光ユニット」は,500nm以上の波長で「多数の」ピークを有する光を生成するものであるのに対して,引用発明の「緑色有機発光機能層G」及び「赤色有機発光機能層R」は,いずれもそのピークが明らかではない点。

(相違点2)
本願発明の「中間接続層」は,該第一発光ユニットと該第二発光ユニットとの間及び該第二発光ユニットと該第三発光ユニットとの間「のみ」に配置された中間接続層であるのに対して,引用発明の「導電層」は,緑色有機発光機能層Gと赤色有機発光機能層Rの間にも配置されている点。

(相違点3)
本願発明の「中間接続層」は,「p型有機単一層からなる」のに対して,引用発明の「導電層」は,V_(2)O_(5)である点。

(相違点4)
本願発明の「色温度」は,「9,000K?15,000K」であるのに対して,引用発明の「色温度」はこれが明らかであるとはいえない点。

(3) 判断
ア 相違点1,2及び4について
引用発明は4つの発光ユニットを具備するところ,当業者ならば,引用例2記載技術(前記1(4))を心得ている。したがって,引用例2記載技術を心得た当業者からすると,引用発明の有機EL素子は4倍の駆動電圧を印加することが必要となり,駆動電圧の観点からは実用的であるとは言い難いこととなる。そこで,引用発明に引用例2記載技術の前記(b)の課題解決手段を適用すると,引用発明の緑色有機発光機能層Gの発光層と赤色有機発光機能層Rの発光層が積層された2つの有機発光層を備える1つの発光ユニットの構成を採用することになる。
そうしてみると,引用発明の有機EL素子において,駆動電圧を低下させることを目的として,引用発明の緑色有機発光機能層Gの発光層と赤色有機発光機能層Rの発光層が積層された2つの有機発光層を備える1つの発光ユニットの構成を採用することは,引用発明及び引用例2記載技術を心得た当業者が,容易に発明できた事項にすぎない。また,以上のようにしてなる有機EL素子は,3色の混色による白色発光が実現され,かつ,4つの発光ユニットのそれぞれに各色の発光層を設けて白色発光とする引用発明と比較して,発光ユニットの積層数を3層とすることもできるため,駆動電圧が抑えられるという効果を得ることとなる。
なお,引用発明は,「有機EL素子の発光色として白色を得るため」のものである。したがって,引用発明と引用例2記載技術を組み合わせるに際して,9000Kを上回る青白色の発光が得られるように引用発明の有機EL素子の各層の材料等を設計することは,当業者が望む色温度に応じた設計変更にすぎない。なお,引用例1で目標とされている色温度は,NTSCの白(【0067】,C光源の白(6800K))であるが,当業者ならば,NTSC-Jの白(引用例2の【0083】に記載された9300K)を目標とすることも随意である。

そして,以上のようにしてなる有機EL素子は,相違点1,2及び4に係る本願発明の構成を具備したものとなる。すなわち,有機EL素子は,一つの発光ユニットにおいて,500nm以上の波長で多数(multiple)のピークを有する光を生成しかつ480nmより短い波長で実質的に発光しないものとなるから,相違点1に係る本願発明の構成を具備したものとなる。また,有機EL素子は,緑色有機発光機能層Gと赤色有機発光機能層Rの間に導電層を設けない構成となるから,相違点2に係る本願発明の構成を具備したものとなる。加えて,有機EL素子は9,000K?15,000Kの色温度の要件を満たすものとなるから,相違点4に係る本願発明の構成を具備したものとなる。

なお,引用発明において,青色有機発光機能層B_(1)の発光層と青色有機発光機能層B_(2)の発光層を積層することや,青色有機発光機能層B_(2)の発光層と緑色有機発光機能層Gの発光層を積層することは,青の輝度を低下させる(青色有機発光機能層B_(1)と青色有機発光機能層B_(2)の2層からなる2段の発光ユニットを設けたことの技術的意義を損なう)ことになるから,当業者はこの構成を採用しない。

イ 相違点3について
引用発明の「導電層」は,技術的にみて,電荷を発生する機能を有する層である。ここで,このような機能を有する層(CGL層,電子引き抜き層とも呼ばれる層)として,本願発明でいうp型有機単一層は,周知技術である。例えば,引用例3の【0001】,【0009】,【0033】及び【0034】には,劇物であるV_(2)O_(5)に替わる物質として,本件出願の【0090】と同じ化合物が開示されている。
引用発明において相違点3に係る本願発明の構成を採用することは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(4) 効果について
本件出願の発明の詳細な説明には,本願発明の効果に関する明示的な記載はない。ただし,発明が解決しようとする課題に関して,【0007】には,「改善された色温度,効率及び輝度安定性を有するOLEDデバイスの必要性がある。」と記載されている。
しかしながら,このような課題は,前記(3)のとおり容易推考する当業者が期待する範囲内の事項にすぎない。

(5) 請求人の主張について
ア 発光ユニットの積層順
請求人は,審判請求書において,概略,引用例1の有機EL素子と引用例2の有機EL素子とでは,発光ユニットの積層順が明らかに相違しており,引用例2の記載からは,赤色光及び緑色光を発光する第1発光ユニット(15-1)を,青色光を発光する第2発光ユニット(15-2)よりも陰極の近くに配置した上で,第1発光ユニット(15-1)内の赤色発光層(15c-1)と緑色発光層(15c-2)とを逆に積層することによっても発光バランスを良好に保つことができるとは読み取ることはできないと主張する(4頁5行-5頁18行)。
確かに,引用例2の実施形態の積層順を,引用例2の各層の材料のままで引用発明の積層順に変更すると,発光バランスが大きく崩れると考えられる。すなわち,引用例2の実施形態では,赤色発光材料のホストとして正孔輸送性のものを採用し,緑色発光材料のホストとして電子輸送性のホストを採用している。したがって,陽極側に赤色発光層,陰極側に緑色発光層を配置しなければキャリア輸送効率を維持できない。
しかしながら,引用発明に引用例2記載技術の前記(b)の課題解決手段を適用するに際しては,積層された2つの有機発光層を備える1つの発光ユニットの構成を採用すれば足り,その発光層の材料までをも引用例2の実施形態のものを採用する必要はない。引用例2の実施形態の発光材料は蛍光材料であり,引用発明の発光材料(赤及び緑は燐光発光性材料)と相容れない。また,引用発明に引用例2記載技術の前記(b)の課題解決手段を適用するに際しては,とりあえず,引用発明の各層の材料を維持して有機EL素子の設計を進めた方が,変更項目が少なく有利と考えられる。
なお,引用例1の【0049】には,「発光層,正孔輸送層,電子輸送層はそれぞれ1層だけでなく複数層積層して設けても良く」と記載されている。したがって,引用発明は,1つの発光ユニットに緑色発光層及び赤色発光層を積層しつつ,所望の色温度を設計することを排除していない。また,引用発明では,「赤及び緑の発光ユニットでは燐光発光性の発光材料を用い,青の発光ユニットでは蛍光発光性の発光材料を用い」ているが,例えば,特開2005-267990号公報の実施例4(【0094】-【0115】)においても,赤及び緑の発光ユニット(1つ)では燐光発光性の発光材料を用い,青の発光ユニットでは蛍光発光性の発光材料を用いて,白色有機発光素子を設計した例が記載されている(当合議体注:ただし,青の発光ユニットが1つなので,色温度は9000Kを越えないと考えられる。)。

イ 発光バランス
請求人は,審判請求書において,概略,引用例2による有機EL素子の内部で光が共振しない場合には,発光バランスの調整は困難になると考えるのが当業者にとって自然であり,また,タンデム型の有機電界発光素子において中間接続層を省略することで,輝度の低下といった何らかの不利益が生じるであろうと考えるのが自然であり,これらの点を考慮せず引用例2に記載の有機EL素子の構成を,引用例1に記載の発明に適用することが当業者にとって容易であると判断することは,到底,受け入れられないと主張する(審判請求書の5頁19行-6頁下から5行)。
しかしながら,引用例2の有機EL素子において,光が有機EL素子の内部で共振して取り出されるようにする構成は,請求項6に係る発明(請求項1,請求項2及び請求項5に記載された構成を具備する発明)の構成にすぎない。このような構成は,引用例2の有機EL素子において必須の構成ではないと解するのが自然である。また,たとえ発光バランスや輝度において優れる有機EL素子であったとしても,駆動電圧の観点から実用的であるとは言い難い場合には,当業者ならば,ある程度の発光バランスや輝度の低下等を受忍しつつ,駆動電圧を下げる方策を検討すると解するのが自然である。
なお,引用発明に引用例2記載技術を採用した場合には,赤と緑の輝度が低下する。したがって,9000Kを上回るような色温度を目標とする当業者にとっては,むしろ好都合と考えられる。

(6) 小括
本願発明は,その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された引用発明,引用例2記載技術及び周知技術に基づいてその優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許受けることができあいものである。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-14 
結審通知日 2017-09-19 
審決日 2017-10-02 
出願番号 特願2014-63311(P2014-63311)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 聖司  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 佐藤 秀樹
樋口 信宏
発明の名称 色温度の高いタンデム型白色OLED  
代理人 大宅 一宏  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  
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