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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1337633
審判番号 不服2017-1204  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-27 
確定日 2018-02-22 
事件の表示 特願2015-57267「ポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを用いた成形品、フィルム、プレート、射出成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成27年6月18日出願公開、特開2015-110808〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年7月6日(優先権主張 平成22年7月14日 同年8月5日 同年12月21日及び平成23年3月31日)に出願された特願2011-150214号の一部を新たな特許出願として平成27年3月20日に出願された特許出願であって、平成28年3月7日付けで拒絶理由が通知され、同年5月13日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年10月26日付けで拒絶査定がされ、平成29年1月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年3月29日付けで前置報告がされたものである。



第2 平成29年1月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成29年1月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 手続補正の内容
平成29年1月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であり、平成28年5月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の内容について、
「構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有し、ガラス転移温度(Tig)が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤とを含み、
長周期型周期表における1族の金属の含有量が前記ポリカーボネート樹脂中の金属量として1重量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(ただし、上記式(1)で表される部位が-CH_(2)-O-Hの一部である場合を除く。)」
を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1である、
「構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位および脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有し、ガラス転移温度(Tig)が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤とを含み、
前記ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する前記脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が50mol%以下であり、
前記ポリカーボネート樹脂の触媒として長周期型周期表における2族の金属からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含有し、
長周期型周期表における1族の金属の含有量が前記ポリカーボネート樹脂中の金属量として1重量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(ただし、上記式(1)で表される部位が-CH_(2)-O-Hの一部である場合を除く。)」
とする、補正事項を含むものである。下線は補正個所であり当審で付した。

2 本件補正の目的について
上記した特許請求の範囲についての本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である、ポリカーボネート樹脂について「構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有し」(以下、式(1)の記載を省略する。)を「構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位および脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有し」、「前記ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する前記脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が50mol%以下であり」とする、すなわち、ポリカーボネート樹脂中における構造単位について、「構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有」するとのみ特定していたのを、さらに「および脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有」するものに限定するとともに当該脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の量を「ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する前記脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が50mol%以下であり」と限定する補正事項を含むものであり、かつ、本件補正前の請求項1に記載した発明では、ポリカーボネート樹脂の触媒について特に特定していなかったのを、「前記ポリカーボネート樹脂の触媒として長周期型周期表における2族の金属からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含有」するものに限定する補正事項を含むものである。
そして、本件補正後の請求項1についてする本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決すべき課題が同一であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という場合がある。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定される発明(以下、総称して「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、請求項1を引用する請求項4を引用する請求項5を引用する請求項7を引用する請求項8を引用する請求項9を引用する請求項10に係る発明として、次の発明(以下、「本願補正発明10」という。)を含むものであるといえる。

本願補正発明10
「構造の一部に下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位および脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有し、ガラス転移温度(Tig)が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤とを含み、
前記衝撃強度改質剤のコア層が、アクリル酸アルキル、シリコーン・アクリル複合体、ブタジエン、及びブタジエン-スチレン共重合体からなる群から選ばれる1種以上よりなり、
前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対して前記衝撃強度改質剤を0.05?50重量部含み、
前記ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が20mol%以上かつ50mol%以下であり、
前記ポリカーボネート樹脂の触媒として長周期型周期表における2族の金属からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含有し、
長周期型周期表における1族の金属の含有量が前記ポリカーボネート樹脂中の金属量として1重量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】



(2)刊行物及びその記載事項
ア 刊行物
特開2009-144016号公報

イ 刊行物の記載事項
本願の優先日前に頒布された上記刊行物(平成28年3月7日付け拒絶理由通知で引用した刊行物1に同じ。)には、以下の事項が記載されている。下線は刊行物に記載されているものに加えて当審で付した。

(ア)「【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネートと、(B)スチレン系樹脂よりなる熱可塑性樹脂組成物において、その構成重量比率が90/10?10/90の範囲であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
前記(A)ポリカーボネートのガラス転移温度が90℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)ポリカーボネートが、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)ポリカーボネートが、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート共重合体であって、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の比率(モル%)が85:15?65:35の範囲である請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)スチレン系樹脂が、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、及びアクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合体からなる群より少なくとも1種類以上を選ばれることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。」(請求の範囲請求項1?5)

(イ)「(A)ポリカーボネート
本発明のカーボネート重合体は、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むことを特徴とするものであるが、当該ジヒドロキシ化合物の一部を他種類のジヒドロキシ化合物、例えば脂肪族、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位、またはポリアルキレングリコールなどの共重合構成単位に置き換えた共重合体であってもよい。
【化3】

本発明において、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。 」(段落【0015】?【0018】)

(ウ)「また、本発明に使用できる環式脂肪族(脂環式)ジヒドロキシ化合物としては、例えば1,2-シクロヘキ サンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2-メチル-1,4-シクロヘキサンジオールなどのヘキサンジオール類、1,2-シクロ ヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノールなどのノルボルナンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール類などが挙げられる。これらのうち、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
…一方、環式脂肪族(脂環式と表記することがある)ジヒドロキシ化合物を共重合成分として使用する場合は、以下に示すように一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と脂環式ジヒドロキシ化合物との反応性のバランスが良好であり、且つ高分子量化も比較的容易であり、ガラス転移温度の低下も直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物よりも程度が小さく、表面硬度、機械的強度も十分高いという点で望ましい。
上記のように本発明において好ましいポリカーボネートである、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とを共重合したポリカーボネートはいまだ報告されておらず、その詳細を以下に述べるが、他のジヒドロキシ化合物との共重合体についても基本的には類似であり、また上記特許文献などを参考に製造等も可能である。
一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との含有割合については、任意の割合で選択できる。しかし、示差走査熱量測定(DSC)を行ったとき、単一のガラス転移温度を与えるが、本発明のカーボネート共重合体は、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と脂環式ジヒドロキシ化合物の種類や配合比を調整することで、そのガラス転移温度を、用途に応じて、45℃程度から155℃程度まで任意のガラス転移温度を持つ重合体として得ることができる。
したがって、本発明の樹脂組成物向けには、ガラス転移温度を90℃以上にすることにより、耐熱性(使用可能温度)で80℃以上が確保できることから、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との比率を適切に選択する必要がある。当該比率は100:0?45:55(モル%)、特に95:5?50:50(モル%)、さらには90:10?65:35(モル%)であることが好ましい。上記範囲よりも一般式(1)で表わされるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が多く脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が少ないと着色しやすくなり、逆に一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が少なく脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が多いと分子量が上がりにくく、またガラス転移温度が低下する傾向がある。」(段落【0021】?【0027】)

(エ)「また、溶融重合における重合触媒(エステル交換触媒)としては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用される。アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
重合触媒として用いられるアルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられる。
また、アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。
これらのアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。

上記重合触媒の使用量は、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いる場合、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と脂環式ジヒドロキシ化合物との合計1モルに対して、金属換算量として、通常、0.1?100μモルの範囲内で用い、好ましくは0.5?50μモルの範囲内であり、さらに好ましくは1?25μモルの範囲内である。重合触媒の使用量が少なすぎると、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性が得られず、一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネートの色相が悪化し、副生成物が発生したりして流動性の低下やゲルの発生が多くなり、目標とする品質のポリカーボネートの製造が困難になる。」(段落【0035】?【0044】)

(オ)「(B)スチレン系樹脂
本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いるスチレン系樹脂(B成分)とは、スチレン系単量体と必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体およびゴム質重合体より選ばれる1種以上を重合して得られる重合体である。

これらの中でもポリスチレン(以下、「PS」と略する。)、耐衝撃性ポリスチレン(以下、「HIPS樹脂」と略する。)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(以下、「AS樹脂」と略する。)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(以下、「ABS樹脂」と略する。)、アクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合体(以下、「ASA樹脂」または「AAS樹脂」と略する。)、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン共重合体(以下、「AES樹脂」と略する。)、及びメチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(以下、「MBS樹脂」と略する。)からなる群より選択される1種または2種以上を混合して使用することが好ましく、なかでもABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂が好ましい。更にこれらの中でも総合的なバランスでABS樹脂が好ましく、ASA樹脂は溶融時の熱安定性や耐薬品性に優れる特性を有する。また、配合量が少なければ、コスト面からHIPS樹脂が好ましい。本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネート単独での欠点を十分に補える点で大型成形品向けにより好適な樹脂である。
本発明で使用するABS樹脂とは、ジエン系ゴム成分にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物をグラフト重合した熱可塑性グラフト共重合体とシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物の共重合体の混合物である。このABS樹脂を形成するジエン系ゴム成分としては、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン及びスチレン-ブタジエン共重合体等のガラス転移点が10℃以下のゴムが用いられ、その割合はABS樹脂成分100重量%中5?80重量%であるのが好ましく、特に好ましくは10?50重量%である。ジエン系ゴム成分にグラフトされるシアン化ビニル化合物としては、前記記載のものをあげることができ、特にアクリロニトリルが好ましく使用できる。またジエン系ゴム成分にグラフトされる芳香族ビニル化合物としては、同様に前記記載のものを使用できるが、特にスチレン及びα-メチルスチレンが好ましく使用できる。かかるジエン系ゴム成分にグラフトされる成分の割合は、ABS樹脂成分100重量%中95?20重量%が好ましく、特に好ましくは50?90重量%である。更にかかるシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物の合計量100重量%に対して、シアン化ビニル化合物が5?50重量%、芳香族ビニル化合物が95?50重量%であることが好ましい。更に上記のジエン系ゴム成分にグラフトされる成分の一部についてメチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、無水マレイン酸、N置換マレイミド等を混合使用することもでき、これらの含有割合はABS樹脂成分中15重量%以下であるものが好ましい。更に反応で使用する開始剤、連載移動剤、乳化剤等は必要に応じて、従来公知の各種のものが使用可能である。
本発明で使用するASA樹脂とは、アクリルゴム成分にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物をグラフト重合した熱可塑性グラフト共重合体、または該熱可塑性グラフト共重合体と、シアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物の共重合体との混合物をいう。本発明でいうアクリルゴムとは、炭素数が2?10のアルキルアクリレート単位を含有するものであり、更に必要に応じてその他の共重合可能な成分として、スチレン、メチルメタクリレート、ブタジエンを含有してもよい。炭素数が2?10のアルキルアクリレートとして好ましくは2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルアクリレートが挙げられ、かかるアルキルアクリレートはアクリレートゴム100重量%中50重量%以上含まれるものが好ましい。更にかかるアクリレートゴムは少なくとも部分的に架橋されており、かかる架橋剤としては、エチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート等を挙げることができ、かかる架橋剤はアクリレートゴムに対して0.01?3重量%使用されることが好ましい。またシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物の割合はかかる合計量100重量%に対して、シアン化ビニル化合物が5?50重量%、芳香族ビニル化合物が95?50重量%であり、特にシアン化ビニル化合物が15?35重量%、芳香族ビニル化合物が85?65重量%のものが好ましい。
本発明で使用するAES樹脂とは、エチレン-プロピレンゴム成分またはエチレン-プロピレン-ジエンゴム成分にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物をグラフト重合した熱可塑性グラフト共重合体、または該熱可塑性グラフト共重合体と、シアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物の共重合体との混合物である。
なお、本発明のABS、ASA、AES樹脂においては、ゴム粒子径は0.1?5.0μmが好ましく、より好ましくは0.2?3.0μmである。かかるゴム粒子径の分布は単一の分布であるもの及び2山以上の複数の山を有するもののいずれもが使用可能であり、更にそのモルフォロジーにおいてもゴム粒子が単一の相をなすものであっても、ゴム粒子の周りにオクルード相を含有することによりサラミ構造を有するものであってもよいが、好ましくは単一相をなすゴム粒子の割合が多いものである。
またABS、ASA、AES樹脂がジエン系ゴム成分にグラフトされないシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物を含有することは従来からよく知られているところであり、本発明のABS、ASA、AES樹脂においてもかかる重合の際に発生するフリーの重合体成分を含有するものであってもよい。かかるフリーのシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物からなる共重合体の分子量は、GPC測定により算出された重量平均分子量(Mw)で10,000?500,000、好ましくは50,000?200,000であるものである。なお、ここで示す重量平均分子量は、標準ポリスチレン樹脂による較正曲線を使用したGPC測定により算出されたものである。
本発明におけるABS、ASA、AES樹脂は塊状重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの方法で製造されたものでもよく、また共重合の方法も一段で共重合しても、多段で共重合してもよい。また、かかる製造法により得られたABS樹脂に芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル成分とを別途共重合して得られるビニル化合物重合体をブレンドしたものも好ましく使用できる。かかる芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル成分とを別途共重合して得られるビニル化合物重合体の重量平均分子量(Mw)は10,000?500,000であり、好ましくは50,000?200,000であるものである。
本発明にて使用するHIPS樹脂とは、ゴム質重合体をポリスチレン中に混合したものである。混合方法としては、単純な機械的ブレンド方法でもかまわないが、良好な相溶性を得るためには、ゴム質重合体の存在下にスチレン系単量体等をグラフト共重合させる、いわゆるグラフト共重合処方によって得られたものがいっそう好ましい。また、該方法で得られたゴム変性ポリスチレン樹脂(グラフト重合体)に、別途方法によって得られるポリスチレンを混合する、いわゆるグラフト-ブレンド法によって得られたものを用いることも望ましい。重合方法としては、乳化重合、溶液重合、懸濁重合等が適用できる。
前記ゴム質重合体として、具体的には、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、水添スチレン-ブタジエンブロック共重合体等の共役ジエン系ゴム、エチレン-プロピレン系共重合体等の非共役ジエン系ゴムが挙げられるが、なかでもポリブタジエンが好ましい。」(段落【0061】?【0075】)

(カ)「【実施例】
以下実施例を挙げ、本発明を詳述するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
以下において、ポリカーボネートの物性ないし特性の評価は次の方法により行った。 (1)還元粘度
ウベローデ型粘度計を用い、溶媒としてフェノールと1,1,2,2,-テトラクロロエタンの重量比1:1の混合溶液を用い、濃度を1.00g/dlに精密に調整し、温度30.0℃±0.1℃で測定した。この数値が高いほど分子量が大きい。
(2)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(メトラー社製「DSC822」)に試料約10mgを用いて、10℃/minの昇温速度で加熱して測定し、JIS K 7121(1987)に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた折線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度Tgを求めた。

なお、実施例で使用した(B)スチレン系樹脂は以下のものである。
・ABS樹脂:テクノポリマー社製 商品名テクノABS130
(220℃,10kgのMVRが18g/10分)
・HIPS樹脂:PSジャパン社製 商品名PSJポリスチレンHT60
(200℃,5kgのMVRが6.2g/10分)
・ASA樹脂:テクノポリマー社製 商品名テクノASA

[製造例1]
(A)ポリカーボネートの製造
イソソルビド(ロケットフルーレ社製)27.7重量部(0.516モル)に対して、1,4-シクロヘキサンジメタノール(イーストマン社製、以下「1,4-CHDM」と略記する。)13.0重量部(0.221モル)、ジフェニルカーボネート(三菱化学社製、以下「DPC」と略記する。)59.2重量部(0.752モル)、および触媒として、炭酸セシウム(和光純薬社製)2.21×10-4重量部(1.84×10^(-6)モル)を反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、加熱槽温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌しながら、原料を溶解させた(約15分)。
次いで、圧力を常圧から13.3kPaにし、加熱槽温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。
反応容器全体を190℃で15分保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaとし、加熱槽温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。攪拌機の攪拌トルクが上昇してくるので、8分で250℃まで昇温し、さらに発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を0.200kPa以下に到達させた。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を水中に押し出して、ポリカーボネートのペレットを得た。 得られたポリカーボネートの特性(還元粘度、ガラス転移温度)について、それぞれ上記(1)、(2)の方法に従って測定し、結果を表1に示す。本製造例で得られたポリカーボネートを「ISOB-PC1」とした。

【表1】

」(段落【0103】?【0119】)

(3)刊行物に記載された発明
刊行物には、摘示(2)(ア)から、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5に係る発明として次の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているといえる。

「(A)下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート共重合体であって、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の比率(モル%)が85:15?65:35の範囲であり、ガラス転移温度が90℃以上であるポリカーボネートと、(B)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、及びアクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合体からなる群より少なくとも1種類以上を選ばれるスチレン系樹脂よりなる熱可塑性樹脂組成物において、その構成重量比率が90/10?10/90の範囲である熱可塑性樹脂組成物。
【化1】



(4)本願補正発明10と刊行物発明との対比・判断
刊行物発明における「(A)下記一般式(1)(一般式(1)の記載を省略する。以下同様。)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート共重合体であって、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の比率(モル%)が85:15?65:35の範囲であ」るポリカーボネート」は、本願補正発明10における「構造の一部に下記式(2)(式(2)の記載を省略する。以下同様。)で表される化合物に由来する構造単位および脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有し」、「ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が20mol%以上かつ50mol%以下であ」る「ポリカーボネート樹脂」に、ガラス転移温度の点以外において相当する。
刊行物発明における「(B)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、及びアクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合体からなる群より少なくとも1種類以上を選ばれるスチレン系樹脂」は、本願補正発明10における「コア層が、アクリル酸アルキル、シリコーン・アクリル複合体、ブタジエン、及びブタジエン-スチレン共重合体からなる群から選ばれる1種以上よりな」る「コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤」に、共重合体である限りにおいて相当するといえる。
そして、刊行物発明における「(A)ポリカーボネート」と「(B)スチレン系樹脂」との割合である「その構成重量比率が90/10?10/90の範囲である」と、本願補正発明10における「ポリカーボネート樹脂」と「衝撃強度改質剤」との割合である「前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対して前記衝撃強度改質剤を0.05?50重量部含み」とは重複一致する数値範囲を包含している。
また、刊行物発明における「熱可塑性樹脂組成物」は、本願補正発明10における「ポリカーボネート樹脂組成物」に相当する。

以上をまとめると、本願補正発明10と刊行物発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
「構造の一部に下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位および脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂と、共重合体とを含み、
前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対して前記共重合体を0.05?50重量部含み、
前記ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が20mol%以上かつ50mol%以下である、
ポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】



〔相違点1〕
ポリカーボネート樹脂について、本願補正発明10において「ガラス転移温度(Tig)が145℃未満である」と特定しているのに対し、刊行物発明において「ガラス転移温度が90℃以上である」と特定している点。

〔相違点2〕
共重合体について、本願補正発明10において、「コア・シェル構造からな」り、「前記衝撃強度改質剤のコア層が、アクリル酸アルキル、シリコーン・アクリル複合体、ブタジエン、及びブタジエン-スチレン共重合体からなる群から選ばれる1種以上よりな」ると特定しているのに対し、刊行物発明において「(B)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、及びアクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合体からなる群より少なくとも1種類以上を選ばれるスチレン系樹脂」と特定している点。

〔相違点3〕
本願補正発明10において、「ポリカーボネート樹脂の触媒として長周期型周期表における2族の金属からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含有し」と特定しているのに対し、刊行物発明においてそのような特定がない点。

〔相違点4〕
長周期型周期表における1族の金属の含有量について、本願補正発明10において、「ポリカーボネート樹脂中の金属量として1重量ppm以下である」と特定しているのに対し、刊行物発明においてそのような特定がない点。

上記相違点1ないし4について以下に検討する。

〔相違点1〕について
刊行物発明では、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が90℃以上であると特定しているところ、刊行物には、「一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との含有割合については、任意の割合で選択できる。しかし、示差走査熱量測定(DSC)を行ったとき、単一のガラス転移温度を与えるが、本発明のカーボネート共重合体は、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と脂環式ジヒドロキシ化合物の種類や配合比を調整することで、そのガラス転移温度を、用途に応じて、45℃程度から155℃程度まで任意のガラス転移温度を持つ重合体として得ることができる。」(摘示(2)イ(ウ))と記載されており、当該ガラス転移温度は、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との含有割合によって変化するものであることが理解される。そして、当該ガラス転移温度を90℃以上にするために、「一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との比率を適切に選択する必要がある。当該比率は100:0?45:55(モル%)、特に95:5?50:50(モル%)、さらには90:10?65:35(モル%)であることが好ましい」(摘示(2)イ(ウ))とも記載されており、刊行物発明における特定と併せてこれらの記載を総合すると、刊行物発明におけるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は90℃程度から155℃程度までのものを想定しているものであって、その実現のために、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との比率を85:15?65:35(モル%)とするものであることが理解される。実際、刊行物の製造例1には、イソソルビドを68モル%及び1,4-CHDM(1,4-シクロヘキサンジメタノール)を32モル%使用して重合して得られたポリカーボネート樹脂(ISOB-PC1)のガラス転移温度が124℃であるものが記載されている。
そうすると、刊行物発明におけるポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度が90℃程度から155℃程度であるもの(少なくとも、イソソルビドと1,4-シクロヘキサンジメタノールとの共重合体であって124℃であるもの)を包含するものといえ、これは本願補正発明10における「ガラス転移温度(Tig)が145℃未満である」と重複一致するものといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

〔相違点2〕について
刊行物発明における「(B)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、及びアクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合体からなる群より少なくとも1種類以上を選ばれるスチレン系樹脂」について、刊行物には、「これらの中でも…耐衝撃性ポリスチレン(以下、「HIPS樹脂」と略する。)、…アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(以下、「ABS樹脂」と略する。)、アクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合体(以下、「ASA樹脂」または「AAS樹脂」と略する。)…からなる群より選択される1種または2種以上を混合して使用することが好ましく、なかでもABS樹脂、ASA樹脂…が好ましい。…
本発明で使用するABS樹脂とは、ジエン系ゴム成分にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物をグラフト重合した熱可塑性グラフト共重合体とシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物の共重合体の混合物である。…
本発明で使用するASA樹脂とは、アクリルゴム成分にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物をグラフト重合した熱可塑性グラフト共重合体、または該熱可塑性グラフト共重合体と、シアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物の共重合体との混合物をいう。…
なお、本発明のABS、ASA…樹脂においては、ゴム粒子径は0.1?5.0μmが好ましく、より好ましくは0.2?3.0μmである。…
本発明におけるABS、ASA…樹脂は塊状重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの方法で製造されたものでもよく、また共重合の方法も一段で共重合しても、多段で共重合してもよい。…
本発明にて使用するHIPS樹脂とは、…良好な相溶性を得るためには、ゴム質重合体の存在下にスチレン系単量体等をグラフト共重合させる、いわゆるグラフト共重合処方によって得られたものがいっそう好ましい。」(摘示(2)イ(オ))と記載されていることによれば、これらのABS、ASA樹脂又はHIPS樹脂は、いずれも粒子状のゴム成分の存在下モノマー成分を懸濁重合あるいは乳化重合によるグラフト重合したグラフト共重合体を包含するものであることが理解され、斯かるグラフト共重合体がコア・シェル型構造を有するものが一般的であって、しかも、それらが衝撃強度を改質するという特性を有することも周知のことである。
そうすると、刊行物発明における「(B)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、及びアクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合体からなる群より少なくとも1種類以上を選ばれるスチレン系樹脂」は、コア・シェル型構造からなり、衝撃強度を改質するものを包含するといえる。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。
仮に、そうでないとしても、ABS、ASA樹脂又はHIPS樹脂において、コア・シェル型構造からなり衝撃強度を改質するものは周知例を示すまでもなく周知のものにすぎないと認められるから、刊行物発明における「(B)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、及びアクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合体からなる群より少なくとも1種類以上を選ばれるスチレン系樹脂」として、それら周知のコア・シェル型の衝撃強度を改質するものを使用することは、当業者であれば容易になし得ることである。
また、その効果も格段優れたものとはいえない。

〔相違点3〕について
刊行物には、「溶融重合における重合触媒(エステル交換触媒)としては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用される。」と記載されている(摘示(2)イ(エ))から、刊行物発明において、刊行物の上記示唆に従って、ポリカーボネート樹脂の重合触媒(エステル交換触媒)としてアルカリ土類金属化合物、すなわち、長周期型周期表における2族の金属からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含有する化合物を使用することは、当業者であれば容易になし得ることである。
また、その効果も格段優れたものとはいえない。

〔相違点4〕について
イソソルビド由来の構成単位を含有するポリカーボネート樹脂において、含有するアルカリ金属含有量が樹脂の色相に影響を与え、色相が良好なポリカーボネート樹脂を得るためには、樹脂中に含まれるアルカリ金属量を1ppm以下とする必要があることは当業者にとり周知の事項であると認められる(例えば、特開2009-91405号の【0030】?【0031】及び特開2009-191226号公報の【0029】?【0030】を参照のこと。)
そうすると、同様にイソソルビド由来の構成単位を含有するポリカーボネート樹脂である刊行物発明において、上記周知の事項に従って、ポリカーボネート樹脂のアルカリ金属化合物、すなわち、長周期型周期表における1族の金属の含有量を1重量ppm以下とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。そもそも、刊行物発明において、相違点3で検討したとおり、ポリカーボネート樹脂の重合触媒(エステル交換触媒)としてアルカリ土類金属化合物を使用した時点で、ポリカーボネート樹脂中のアルカリ金属は不純物にすぎないものであって、その含有量を極力少なくすることは、当業者であれば当然になし得ることにすぎない。
また、その効果も格段優れたものとはいえない。

よって、本願補正発明10は、刊行物発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)まとめ
したがって、本願補正発明10は、刊行物発明に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は特許法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし18に係る発明は、平成28年5月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1を引用する請求項2を引用する請求項5を引用する請求項6を引用する請求項8を引用する請求項9を引用する請求項10を引用する請求項11を引用する請求項12に係る発明(以下、「本願発明12」という。)は、次のとおりのものであるといえる。

本願発明12
「構造の一部に下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位および脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有し、ガラス転移温度(Tig)が145℃未満であるポリカーボネート樹脂と、コア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤とを含み、
前記衝撃強度改質剤のコア層が、アクリル酸アルキル、シリコーン・アクリル複合体、ブタジエン、及びブタジエン-スチレン共重合体からなる群から選ばれる1種以上よりなり、
前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対して前記衝撃強度改質剤を0.05?50重量部含み、
前記ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が20mol%以上であり、
長周期型周期表における1族の金属の含有量が前記ポリカーボネート樹脂中の金属量として1重量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】



2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、
「本願発明12は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1:特開2009-144016号公報」
というものを含むものである。

3 当審の判断
(1)刊行物の記載事項
刊行物は、前記第2 3(2)アの刊行物と同じであるから、刊行物には、前記第2 3(2)イに摘示した事項が記載されている。

(2)刊行物に記載された発明
刊行物には、前記第2 3(3)に記載の刊行物発明が記載されているといえる。

(3)本願発明12と刊行物発明との対比・判断
本願補正発明10は、本願発明12において、さらに「ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位」の割合の上限について「50mol%以下」との事項を特定したものである。
そうすると、第2 3 で述べたとおり、本願補正発明10が、刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明12もまた同様の理由により、刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。



第4 むすび
以上のとおり、本願発明12、すなわち、平成28年5月13日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項5を引用する請求項6を引用する請求項8を引用する請求項9を引用する請求項10を引用する請求項11を引用する請求項12に係る発明は、刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-14 
結審通知日 2017-12-19 
審決日 2018-01-05 
出願番号 特願2015-57267(P2015-57267)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 575- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 小野寺 務
小柳 健悟
発明の名称 ポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを用いた成形品、フィルム、プレート、射出成形品  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  
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