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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1337642
審判番号 不服2017-6451  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-08 
確定日 2018-02-22 
事件の表示 特願2014-518232「付加情報表示システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日国際公開、WO2013/179535〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,2013年3月12日(優先権主張2012年5月28日,日本国)を国際出願日とする出願であって,平成28年10月14日付け拒絶理由通知に対して平成28年12月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが平成29年2月1日付けで拒絶査定がなされ,これを不服として平成29年5月8日に審判請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年5月8日に提出された手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本願発明と補正後の発明
本件補正は,平成28年12月19日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「 オペレータの指示によって所定の付加情報の表示を指示する指示サーバと,前記指示に基づいて付加情報を表示する表示クライアントからなる付加情報表示システムであって,
前記指示サーバは,
任意のタイミングでクライアント端末に表示させる付加情報を格納する記録手段と,
オペレータが任意のタイミングで前記付加情報の表示を指示する,指示手段と,
前記指示を指示情報として前記複数の表示クライアントに一斉送信する,送信手段
を備え,
前記複数の表示クライアントはそれぞれ,
利用者が表示クライアントに表示する付加情報の種類を選択する,表示選択手段と,
前記送信手段によって一斉送信された前記指示情報を受信する,受信手段と,
前記受信手段が受信した前記指示情報と,前記表示選択手段によって選択された付加情報の種類から,表示する付加情報を取得する,表示情報取得手段と,
前記取得した付加情報を表示装置に表示する,表示手段を備え,
前記表示装置は,観客の頭部に装着するヘッド・マウント・ディスプレイであって,前後方向に延びる本体ベース部と,該本体ベース部前端から左右方向に延びる本体表示部と,該本体表示部の観客側に向けたディスプレイであってその字幕表示の光が舞台側へ漏れないように設けたディスプレイを備える
ことを特徴とする,付加情報表示システム。」
という発明(以下,「本願発明」という。)を,補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「 オペレータの指示によって字幕の表示を指示する指示サーバと,前記指示に基づいて利用者が選択した言語の字幕を表示する複数の表示クライアントからなる字幕表示システムであって,
前記複数の表示クライアントには,前記指示サーバからインデックスが付与された前記複数言語の字幕がダウンロードして保管されており,
前記指示サーバは,
任意のタイミングで前記複数の表示クライアントに表示させる前記字幕を格納する記録手段と,
オペレータが任意のタイミングで前記字幕の表示を前記インデックスで指示する,指示手段と,
前記インデックスを前記複数の表示クライアントに一斉送信する,送信手段
を備え,
前記複数の表示クライアントは,それぞれ,
前記送信手段によって一斉送信された前記インデックスを受信する,受信手段と,
利用者が表示クライアントに表示させる字幕の言語を選択すると共にその選択の変更ができる,表示選択手段と,
前記受信手段が受信した前記インデックスと前記表示選択手段で選択された字幕の言語から表示する言語の字幕を取得する,表示情報取得手段と,
前記取得した字幕を表示装置に表示する,表示手段を備え,
前記表示装置は,観客の頭部に装着するヘッド・マウント・ディスプレイであって,前後方向に延びる本体ベース部と,該本体ベース部前端から左右方向に延びる本体表示部と,該本体表示部の観客側に向けたディスプレイであってその字幕表示の光が舞台側へ漏れないように設けたディスプレイを備える
ことを特徴とする,字幕表示システム。」
という発明(以下,「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2 新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件について
本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲若しくは図面に記載した事項の範囲内において,補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「(所定の)付加情報」を「字幕」と限定し,「指示に基づいて付加情報を表示する」を「指示に基づいて利用者が選択した言語の字幕を表示する」と限定し,「クライアント端末」を「表示クライアント」と限定し,「前記複数の表示クライアントには,前記指示サーバからインデックスが付与された前記複数言語の字幕がダウンロードして保管されて」いる点を付加することにより「表示クライアント」を限定し,「指示情報」を「インデックス」と限定し,「表示する付加情報の種類を選択する,表示選択手段」を「表示させる字幕の言語を選択すると共にその選択の変更ができる,表示選択手段」と限定することにより,特許請求の範囲を限定的に減縮するものであって,特許法第17条の2第3項(新規事項)及び特許法第17条の2第5項第2号(補正の目的)の規定に適合している。
また,特許法第17条の2第4項(シフト補正)に違反するものでもない。

3 独立特許要件について
上記補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるから,上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1 本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明と周知技術
A 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-236711号公報(以下,「引用例」という。)には,「情報配信システム及び情報配信方法」(発明の名称)に関し,以下の事項ア?ウが記載されている。(当審注:下線部は当審が注目箇所に対して付したものである。以下,同様。)

ア 「【0026】
図1に示すように,本実施例の情報配信システムは,字幕情報をスクリーンに映し出すための劇場内字幕投射用スクリーン1及び字幕情報投射用プロジェクタ2と,字幕情報配信操作者の操作により字幕情報を出力する字幕情報配信制御装置3と,字幕情報配信制御装置3から出力された字幕情報を携帯端末6に配信する配信サーバ4と,劇場内に設置された劇場内基地局5と,観客・聴衆8が所持する携帯電話機などの携帯端末6,劇場内基地局5を制御する基地局制御手段15と,配信サーバ4と基地局制御装置15とを繋ぐIPネットワーク9,ゲートウェイ10及び携帯端末事業者ネットワーク11と,メンバー登録情報を記憶するサービスメンバーDB14と,移動局制御や接続認証制御,課金制御等に利用される加入者管理DB16及びロケーションDB17とで構成される。
【0027】
劇場内字幕投射用スクリーン1は,字幕投射用プロジェクタ2からの映像出力を観客・聴衆8に視覚情報として提供する。なお,字幕情報の映示手段は,劇場内字幕投射用スクリーン1と字幕投射用プロジェクタ2の組合せに限定されない。
【0028】
字幕情報配信制御装置3は,字幕情報配信操作者7の出力操作,指示により,字幕情報(例えば,一度に表示する所定の分量に区分した文字データ列にID(以下,字幕クラスタIDと称す。)を付与した区分データ(以下,字幕クラスタデータと称す。)の集まり)を内部記憶装置に蓄積し,字幕投射用プロジェクタ2及び配信サーバ4に出力する。なお,字幕クラスタデータに記録される文字データの言語は特に限定されず,日本語としてもよいし,他の言語としてもよいし,複数の言語としてもよい。また,字幕クラスタIDは各々の字幕クラスタデータを識別できるデータであればよく,その具体的な構成は特に限定されない。
【0029】
配信サーバ4は,字幕情報を携帯端末6に配信する機能を果たす。具体的には,演目の上演が始まる前に,字幕クラスタデータを携帯端末6に提供する機能と,演目の上演が行われている間に,字幕情報配信制御装置3から出力された字幕クラスタIDを送信する機能とを有している。
【0030】
サービスメンバーDB14は,IPネットワーク9上に設けられ,字幕情報の配信サービスを提供する観客・聴衆8が所有する携帯端末6の固体識別IDを記憶してメンバー登録を行う。例えば,観客・聴衆8が携帯端末6などを用いて,サービスの登録を行うWebサイト(例えば,配信サーバ4上で公開されたサイト)にアクセスし,携帯端末6の電話番号などを入力することにより,サービスメンバーDB14に電話番号が登録される。以下,上記登録を行った携帯端末6を所有する観客・聴衆8をサービスメンバーと称す。なお,図1では,サービスメンバーDB14や配信サーバ4をインターネットなどのIPネットワーク9上に設けているが,これらを携帯端末事業者ネットワーク11上に設けてもよい。
【0031】
また,劇場内基地局5は,劇場内にいる観客・聴衆8の使用している携帯端末6と通信する機能を有しており,該携帯端末6と通信できる場所,例えば,劇場内に設置される。また,劇場内基地局5は,設置されている劇場などを示す識別情報を有しており,ロケーションDB17に登録されている。
【0032】
基地局制御装置15は,携帯端末事業者ネットワーク11を経由して加入者管理DB16やロケーションDB17に接続され,加入者管理DB16やロケーションDB17の情報に基づいて劇場内基地局5と携帯端末6との通信を制御する。また,IPネットワーク9上のサービスメンバーDB14との通信機能を備えており,サービスメンバーDB14に予め登録された携帯端末6に字幕情報が配信されるように劇場内基地局5を制御する。
【0033】
携帯端末6は,表示装置13を備え,配信サーバ4からダウンロードしたアプリケーション12を動作させ,アプリケーション12に組み込まれている字幕クラスタデータと配信サーバ4から配信される字幕クラスタIDとを用いて,演目の上演に合わせて字幕情報を表示装置13に表示する。なお,本実施例では,アプリケーション12に字幕クラスタデータを組み込む構成としているが,アプリケーション12に字幕クラスタデータを組み込まず,アプリケーション12と字幕クラスタデータとを別々にダウンロードする構成としてもよい。また,字幕情報は表示装置13に表示すると共に,又は表示する代わりに,アプリケーション12で文字情報を音声情報に変換してスピーカなどから出力するようにしてもよいし,字幕情報を配信サーバ4などで音声情報に変換して,音声情報として配信するようにしてもよい。」

イ 「【0041】
以下,上記構成の情報配信システムを用いた情報配信方法について説明するが,初めに,観客・聴衆8がサービスメンバーに登録し,字幕情報を表示するためのアプリケーション12を携帯端末6に搭載するまでの手順について,図2のフローチャート図を参照して説明する。
【0042】
まず,ステップS101で,観客・聴衆8は,配信サーバ4で提供されるWebサイトにアクセスして,所定の情報(携帯端末6の固体識別IDやユーザ情報など)を入力し,提供者(例えば,劇場など)と劇場上演演目に関するサービス提供契約を結ぶと,ステップS102で,該携帯端末6の固体識別IDがサービスメンバーDB14に登録される。
【0043】
次に,ステップS103で,サービスメンバーが,登録した携帯端末6を用い,劇場内基地局5を経由して配信サーバ4にアクセスすると,ステップS104で,配信サーバ4は,ダウンロードの際に,アクセスした携帯端末6の種類を,その種類識別データ(いわゆるユーザエージェントデータ)により識別し,携帯端末の種類毎に用意されたアプリケーション12をダウンロードするためのWebサイトに誘導し,ステップS105で,各サービスメンバーは,携帯端末6に適したアプリケーション12をダウンロードする。このアプリケーション12には,サービス提供契約を結んだ演目に対する字幕クラスタデータが予め組み込まれており,字幕クラスタIDを受信すると,その字幕クラスタIDに対応する字幕クラスタデータを特定して表示装置13に表示する機能を備えている。
【0044】
なお,上記フローでは,登録及びアプリケーション12のダウンロードを劇場内で行う構成としたが,以前にメンバー登録を行っている場合は,アプリケーション12のダウンロードのみを行えばよいし,登録やアプリケーション12のダウンロードを劇場以外の場所で行ってもよいし,登録をコンピュータ機器などで行ってもよい。また,アプリケーション12に字幕クラスタデータを組み込まない場合には,アプリケーション12と字幕クラスタデータとを別々にダウンロードしてもよい。」

ウ 「【0056】
なお,上記実施例では,複数の携帯端末6に対し同時に字幕情報を配信することで起こる負荷を軽減するために字幕クラスタデータと字幕クラスタIDとに分けて配信したが,上演に合わせて字幕クラスタデータを送信することが可能なネットワークを用いる場合には,配信サーバ4から字幕クラスタデータを随時配信する構成としてもよい。」

上記摘記事項及びこの分野における技術常識を総合勘案すると,上記引用例には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 情報配信システムであって,
情報配信システムは,字幕情報をスクリーンに映し出すための劇場内字幕投射用スクリーン1及び字幕情報投射用プロジェクタ2と,字幕情報配信操作者の操作により字幕情報を出力する字幕情報配信制御装置3と,字幕情報配信制御装置3から出力された字幕情報を携帯端末6に配信する配信サーバ4と,劇場内に設置された劇場内基地局5と,観客・聴衆8が所持する携帯電話機などの携帯端末6,劇場内基地局5を制御する基地局制御手段15と,配信サーバ4と基地局制御装置15とを繋ぐIPネットワーク9,ゲートウェイ10及び携帯端末事業者ネットワーク11と,メンバー登録情報を記憶するサービスメンバーDB14と,移動局制御や接続認証制御,課金制御等に利用される加入者管理DB16及びロケーションDB17とで構成され,
字幕情報配信制御装置3は,字幕情報配信操作者7の出力操作,指示により,字幕情報(例えば,一度に表示する所定の分量に区分した文字データ列にID(以下,字幕クラスタIDと称す。)を付与した区分データ(以下,字幕クラスタデータと称す。)の集まり)を内部記憶装置に蓄積し,字幕投射用プロジェクタ2及び配信サーバ4に出力し,なお,字幕クラスタデータに記録される文字データの言語は特に限定されず,日本語としてもよいし,他の言語としてもよいし,複数の言語としてもよく,
配信サーバ4は,字幕情報を携帯端末6に配信する機能を果たし,具体的には,演目の上演が始まる前に,字幕クラスタデータを携帯端末6に提供する機能と,演目の上演が行われている間に,字幕情報配信制御装置3から出力された字幕クラスタIDを送信する機能とを有しており,
携帯端末6は,表示装置13を備え,配信サーバ4からダウンロードしたアプリケーション12を動作させ,アプリケーション12に組み込まれている字幕クラスタデータと配信サーバ4から配信される字幕クラスタIDとを用いて,演目の上演に合わせて字幕情報を表示装置13に表示する,
情報配信システム。」

B 周知技術
原査定において周知技術を示す文献として引用された特開2011-85830号公報(以下,「周知例1」という。),特開2011-101196号公報(以下,「周知例2」という。)には,それぞれ以下の事項エ,オが記載されている。

エ 「【0023】
図2はこの発明の第1実施形態に係る映像表示システムを説明するための概念図である。
【0024】
映像表示システム1は,立体映像を表示する立体ディスプレイ(第1の映像表示装置)10と,使用者(図示せず)の頭部に装着され,使用者の片眼に映像を投影表示するHMD(第2の映像表示装置)20と,画像を生成する画像生成用パソコン(以下,画像生成用PCという)30とを備える。
【0025】
立体ディスプレイ10は,パララックスバリヤ方式の複眼立体ディスプレイであり,使用者が眼鏡等を装着することなく立体映像を観察することができるディスプレイである。なお,偏光方式等の眼鏡を必要とする方式のディスプレイでもよいが,視認性の低下を回避する観点から裸眼立体ディスプレイの方が望ましい。
【0026】
HMD20はヘッドバンド21とフロントアーム22と画像出力部23とヘッドホン24A,24B(図3参照)とを備えている。ヘッドホン24A,24Bは円弧状のヘッドバンド21の両端部に設けられた取付部25A,25Bに取り付けられている。
【0027】
立体ディスプレイ10及びHMD20には,それぞれケーブルcb1,cb2を介して画像生成用PC30が接続されている。なお,ケーブルcb1,cb2を用いる代わりに,立体ディスプレイ10と画像生成用PC30との間,HMD20と画像生成用PC30との間をそれぞれ無線によって相互に接続するようにしてもよい。
【0028】
画像生成用PC30は,立体映像データと字幕データとを保存するとともに,立体映像データの立体ディスプレイ10への送信と同期して字幕データ(字幕の飛び出し量又は引っ込み量のデータを含む)をHMD20へ送信する配信サーバとして機能する。
【0029】
図3はHMDの構成を示すブロック図である。なお,図3では複眼立体ディスプレイ10の図示は省略されている。
【0030】
HMD20の画像出力部(表示手段)23は,LCDパネル231(LCD)と,LCDパネル231を図3の左右方向に移動させるLCD駆動用モータ232と,使用者の眼(図示せず)の前方に配置される接眼レンズ234と,LCDパネル231からの光を使用者の眼に向けて反射させるミラー235とを備えている。
【0031】
LCDパネル231は二次元表示素子である。LCDパネル231はバックライト233(BL)によって背面から照明される。なお,LCDパネル231に代えてCRTや有機ELパネルを用いてもよい。
【0032】
LCDパネル231からの光はミラー235で反射された後,接眼レンズ234で拡大された像が図示しない使用者の眼(図1のLE又はRE)に投影される。」

オ 「【0025】
図2(a)はHMD装置30を頭部Hに装着した状態を示す正面図,図2(b)はその側面図である。
【0026】
HMD装置30はヘッドバンド370とフロントアーム380とメインディスプレイ390とを備える。
【0027】
ヘッドバンド370は円弧状であり,ユーザの頭部Hに装着される。ヘッドバンド370の両端部にスピーカ352,353が取り付けられている。スピーカ352,353はヘッドバンド370の弾力によって側頭部(両耳の周辺)に保持されている。
【0028】
また,ヘッドバンド370の一端部には操作スイッチ321とボリュームコントローラ322とが設けられている。
【0029】
フロントアーム380の先端部にメインディスプレイ390が設けられている。メインディスプレイ390はユーザの眼Eの前方に配置されている。
【0030】
次に,コンテンツ再生システム1の使用法を説明する。
【0031】
主,副コンテンツの視聴方法には,PC40等からデジタルI/Fを介してHMD装置30内のメモリ301にコンテンツデータを転送して記憶した上で再生を行う方法(以下第1の方法という)と,WiFi通信方式の無線通信によりサーバ10からストリーミングによってコンテンツデータを配信して再生を行う方法(以下第2の方法という)とがある。副コンテンツのテロップやナレーションを再生するとき,リアルタイムに進行する映画や演劇,コンサート等の主コンテンツに対して同期をとる必要があるが,上記いずれの方法を採用するかは主コンテンツの性格によって異なる。例えば,映画のようにシーケンスが固定された主コンテンツ(固定コンテンツ)の再生においては,ユーザの補助のための副コンテンツの時間軸を固定できるので,上述の第1の方法を採用することができる。この方法を採用したときには,副コンテンツ(例えばテロップ)の再生開始を主コンテンツの映画の再生開始に合わせればよい。例えば映画を上映する主催者がWiFi通信やIrリモコン等の遠隔操作手段を用いて副コンテンツの再生を開始すればよい。
【0032】
また,演劇やコンサート等のようにシーケンスが変動する主コンテンツ(可変シーケンス)では,その主コンテンツの演劇やコンサートの進行に同期させて副コンテンツを再生させる必要があるため,上述の第2の方法を採用し,副コンテンツを出力するタイミングを主コンテンツの進行に応じて変えればよい。
【0033】
上記第1,第2の方法においてもHMD装置30を頭部Hに装着した後に,ユーザの障害レベルに応じて副コンテンツの種類,再生態様が設定される。
【0034】
副コンテンツには障害のレベルに応じて,例えば以下のような態様があると考えられる。
・視覚障害(軽度の場合):ナレーション,テロップ(大きめの字幕)
・視覚障害(重度の場合):ナレーション
・聴覚障害(軽度の場合):補助音声(補聴)
・聴覚障害(重度の場合):テロップ
・老人性難聴:補助音声(背景の雑音を減らし,主音声を強調)
【0035】
上述の設定は,例えば図3に示すように,複数の副コンテンツをTVのチャンネルのように用意して,その中から所望の副コンテンツをユーザに選択させることで行われる。」

上記周知例1の摘記事項エ及び【図2】,【図3】の記載によれば,上記周知例1に記載されたHMD20の「フロントアーム22」は「前後方向に延びる本体ベース部」を構成し,「画像出力部23」は「該本体ベース部前端から左右方向に延びる本体表示部」を構成し,「LCDパネル,ミラー235,接眼レンズ234」は「該本体表示部の観客側に向けたディスプレイ」を構成するものといえる。
また,上記周知例2の摘記事項オ及び【図2】の記載によれば,上記周知例2に記載されたHMD装置30の「フロントアーム380」は「前後方向に延びる本体ベース部」を構成し,「メインディスプレイ390」は「該本体ベース部前端から左右方向に延びる本体表示部」と「該本体表示部の観客側に向けたディスプレイ」を構成するものといえる。
そうすると,上記周知例1,2に記載されているように,字幕などの副コンテンツを表示する表示装置として,「観客の頭部に装着するヘッド・マウント・ディスプレイであって,前後方向に延びる本体ベース部と,該本体ベース部前端から左右方向に延びる本体表示部と,該本体表示部の観客側に向けたディスプレイとを備えるヘッド・マウント・ディスプレイ」(以下,「周知技術1」という。)は周知である。

(3)対比
補正後の発明と引用発明とを対比する。

a 引用発明の「字幕情報配信制御装置3」は,「字幕情報配信操作者7」(補正後の発明の「オペレータ」に相当)「の出力操作,指示により」,「字幕クラスタIDを付与した字幕クラスタデータを」「配信サーバ4に出力し」,該「配信サーバ4は,字幕情報を携帯端末6に配信する機能を果たし」,「演目の上演が行われている間に,字幕情報配信制御装置3から出力された字幕クラスタIDを送信する機能とを有して」いる。
そうすると,引用発明の「字幕情報配信制御装置3」は,補正後の発明の「オペレータの指示によって字幕の表示を指示する指示サーバ」であるといえる。
b 引用発明の「携帯端末6」は,「字幕クラスタデータと配信サーバ4から配信される字幕クラスタIDとを用いて,演目の上演に合わせて字幕情報を表示装置13に表示する」ものであり,また,「複数の携帯端末6に対し同時に字幕情報を配信する」(【0056】)との記載に鑑みれば「携帯端末6」が「複数」あることは明らかである。
そうすると,引用発明の「携帯端末6」は,補正後の発明の「前記指示に基づいて字幕を表示する複数の表示クライアント」であるといえるが,該「字幕」について補正後の発明は「利用者が選択した言語の」「字幕」である点で相違する。
c 引用発明の「情報配信システム」は,「字幕情報配信制御装置3」と「携帯端末6」を含み,「字幕情報」を「携帯端末6」の表示装置13に表示するから,後述する相違点を別にすれば補正後の発明の「字幕表示システム」に相当するといえる。
d 引用発明の「携帯端末6」は,「配信サーバ4からダウンロードしたアプリケーション12を動作させ,アプリケーション12に組み込まれている字幕クラスタデータと配信サーバ4から配信される字幕クラスタIDとを用いて,演目の上演に合わせて字幕情報を表示装置13に表示する」が,ここで上記「字幕クラスタデータ」は,もともと「字幕情報配信制御装置3」が「配信サーバ4に出力」したものである。
そうすると,引用発明は,補正後の発明の「前記複数の表示クライアントには,前記指示サーバからインデックスが付与された字幕がダウンロードして保管されており」に相当する構成を備えているといえるが,該「字幕」の「言語」について補正後の発明では「複数言語」と特定している点で相違する。
e 引用発明の「字幕情報配信制御装置3」は,「字幕情報配信操作者7の出力操作,指示により,字幕情報(例えば,一度に表示する所定の分量に区分した文字データ列にID(以下,字幕クラスタIDと称す。)を付与した区分データ(以下,字幕クラスタデータと称す。)の集まり)を内部記憶装置に蓄積し」ており,ここで「字幕情報配信操作者7の出力操作,指示」は該操作者により「任意のタイミング」で行われると解される。
また,「複数の携帯端末6に対し同時に字幕情報を配信する」(【0056】)との記載から,「字幕クラスタID」が「一斉送信」されることは明らかである。
そうすると,引用発明は,補正後の発明の「前記指示サーバは,任意のタイミングで前記複数の表示クライアントに表示させる前記字幕を格納する記録手段と,オペレータが任意のタイミングで前記字幕の表示を前記インデックスで指示する,指示手段と,前記インデックスを前記複数の表示クライアントに一斉送信する,送信手段を備え」に相当する構成を備えているといえる。
f 上記eでの検討によれば,引用発明の「携帯端末6」が「字幕情報配信制御装置3」から送信された「字幕クラスタID」を受信する手段を有することは明らかであるから,
引用発明は「前記複数の表示クライアントは,それぞれ,前記送信手段によって一斉送信された前記インデックスを受信する,受信手段」「を備え」に相当する構成を備えているといえる。
g 引用発明は,補正後の発明の「前記複数の表示クライアントは,それぞれ」「利用者が表示クライアントに表示させる字幕の言語を選択すると共にその選択の変更ができる,表示選択手段」「を備え」に相当する構成を備えていない点で相違する。
h 引用発明の「携帯端末6」が字幕を表示するには,受信した「字幕クラスタID」や「字幕クラスタデータ」を表示のために「取得する」必要があることは自明であるから,
引用発明は,補正後の発明の「前記複数の表示クライアントは,それぞれ」「前記受信手段が受信した前記インデックスと表示する字幕を取得する,表示情報取得手段」「を備え」に相当する構成を備えているといえるが,補正後の発明では,該「表示する字幕」を「前記表示選択手段で選択された字幕の言語から」取得する点で相違する。
i 引用発明の「携帯端末6」は,「表示装置13を備え」,「字幕情報を表示装置13に表示する」から,
引用発明は,補正後の発明の「前記複数の表示クライアントは,それぞれ」「前記取得した字幕を表示装置に表示する,表示手段」「を備え」に相当する構成を備えているといえる。
j 引用発明の「表示装置13」が「ディスプレイを備える」ことは明らかであるが,補正後の発明では「前記表示装置は,観客の頭部に装着するヘッド・マウント・ディスプレイであって,前後方向に延びる本体ベース部と,該本体ベース部前端から左右方向に延びる本体表示部と,該本体表示部の観客側に向けたディスプレイであってその字幕表示の光が舞台側へ漏れないように設けたディスプレイを備える」点で相違する。

以上を総合すると,両発明は以下の点で一致し,また,相違する。

(一致点)
「オペレータの指示によって字幕の表示を指示する指示サーバと,前記指示に基づいて字幕を表示する複数の表示クライアントからなる字幕表示システムであって,
前記複数の表示クライアントには,前記指示サーバからインデックスが付与された字幕がダウンロードして保管されており,
前記指示サーバは,
任意のタイミングで前記複数の表示クライアントに表示させる前記字幕を格納する記録手段と,
オペレータが任意のタイミングで前記字幕の表示を前記インデックスで指示する,指示手段と,
前記インデックスを前記複数の表示クライアントに一斉送信する,送信手段
を備え,
前記複数の表示クライアントは,それぞれ,
前記送信手段によって一斉送信された前記インデックスを受信する,受信手段と,
前記受信手段が受信した前記インデックスと表示する字幕を取得する,表示情報取得手段と,
前記取得した字幕を表示装置に表示する,表示手段を備え,
前記表示装置は,ディスプレイを備える
字幕表示システム。」

(相違点1)
一致点の「前記指示に基づいて字幕を表示する複数の表示クライアント」における「字幕を表示する」点に関し,
補正後の発明では,「利用者が選択した言語の字幕」を表示するのに対し,
引用発明では,単に「字幕情報」を表示する点。

(相違点2)
一致点の「表示クライアント」に「ダウンロードして保管されて」いる「字幕」が,
補正後の発明では,「複数言語の字幕」であるのに対し,
引用発明では,単に「字幕クラスタデータ」であって,その言語が「複数言語」であるか否かは明らかではない点。

(相違点3)
補正後の発明の「表示クライアント」は,「利用者が表示クライアントに表示させる字幕の言語を選択すると共にその選択の変更ができる,表示選択手段」を備えるのに対し,
引用発明ではそのような手段を備えていない点。

(相違点4)
一致点の「表示クライアント」の「前記受信手段が受信した前記インデックスと表示する字幕を取得する,表示情報取得手段」が「表示する字幕」を「取得する」点に関し,
補正後の発明では,「前記表示選択手段で選択された字幕の言語から表示する言語の字幕」を「取得する」のに対し,
引用発明では,単に「字幕クラスタデータ」を「取得する」ものである点。

(相違点5)
一致点の「表示装置」に関し,
補正後の発明では,「前記表示装置は,観客の頭部に装着するヘッド・マウント・ディスプレイであって,前後方向に延びる本体ベース部と,該本体ベース部前端から左右方向に延びる本体表示部と,該本体表示部の観客側に向けたディスプレイであってその字幕表示の光が舞台側へ漏れないように設けたディスプレイを備える」のに対し,
引用発明では,「表示装置13」はそのようなディスプレイを備えていない点。

(4)判断
上記相違点につき検討する。

まず,(相違点1)?(相違点4)についてまとめて検討する。
「映画館やシアター等で用いられる個人用字幕表示装置に表示する字幕の言語を選択する機能を設けること」(以下,「周知技術2」という。)は,例えば,特開2002-153684号公報(特に【0020】)や特開2004-219472号公報(特に,【0016】)等にも記載されているように周知である。
ここで,引用発明では「字幕クラスタデータに記録される文字データの言語は特に限定されず,日本語としてもよいし,他の言語としてもよいし,複数の言語としてもよい」ものであり,また,「また,アプリケーション12に字幕クラスタデータを組み込まない場合には,アプリケーション12と字幕クラスタデータとを別々にダウンロードしてもよい。」(【0044】)として,字幕クラスタデータをアプリケーション12とは切り離して別々に(携帯端末6に)ダウンロードすることも示唆されている。
そうすると,この示唆に基づき,引用発明において「携帯端末6に提供する」「字幕クラスタデータ」を「複数言語の字幕」とすること(相違点2),加えて,上記周知技術2を付加することにより,「利用者が表示クライアントに表示させる字幕の言語を選択すると共にその選択の変更ができる,表示選択手段」を備えさせ(相違点3),表示する字幕として「前記表示選択手段で選択された字幕の言語から表示する言語の字幕」を「取得する」ようにし(相違点4),その結果,表示クライアントが「利用者が選択した言語の字幕」を表示するようにすること(相違点1)は,いずれも当業者であれば容易に想到し得たことである。

次に,(相違点5)について検討する。
上記「(2)引用発明と周知技術 B 引用発明」で述べたように,字幕などの副コンテンツを表示する表示装置として「観客の頭部に装着するヘッド・マウント・ディスプレイであって,前後方向に延びる本体ベース部と,該本体ベース部前端から左右方向に延びる本体表示部と,該本体表示部の観客側に向けたディスプレイとを備えるヘッド・マウント・ディスプレイ」は周知の表示装置であり,引用発明の「表示装置13」に代えて該周知の表示装置を用いることは当業者であれば容易に想到し得たものである。
そして,そのような「観客側に向けたディスプレイ」の字幕表示光が観客の眼の方向へ向けられるものであることは明らかであって,該字幕表示光が不要な方向(例えば舞台側)へ漏れないようにすることは当業者が当然になすべき工夫に過ぎない。
そうすると,引用発明の「表示装置13」として「観客の頭部に装着するヘッド・マウント・ディスプレイであって,前後方向に延びる本体ベース部と,該本体ベース部前端から左右方向に延びる本体表示部と,該本体表示部の観客側に向けたディスプレイであってその字幕表示の光が舞台側へ漏れないように設けたディスプレイを備える」ものを採用すること(相違点5)は,上記周知技術1に基づいて当業者が容易になし得たものである。

そして,補正後の発明が奏する効果も引用発明及び周知技術1,2から容易に予測できる範囲内のものである。

(5)まとめ
以上のとおり,補正後の発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定 1 本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2 引用発明
引用発明は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3 独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明と周知技術 A 引用発明」の項で認定したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から当該本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成に当該本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3 独立特許要件について」の項で検討したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから,本願発明も同様の理由により,容易に発明できたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-19 
結審通知日 2017-12-26 
審決日 2018-01-09 
出願番号 特願2014-518232(P2014-518232)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 雅也  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 松田 岳士
新川 圭二
発明の名称 付加情報表示システム  
代理人 樋口 盛之助  

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