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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65D
管理番号 1337680
審判番号 不服2017-6140  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-27 
確定日 2018-03-13 
事件の表示 特願2016-546543「コンタクトレンズパッケージ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日国際公開、WO2017/056235、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)9月30日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年7月13日 :手続補正書の提出
平成28年10月13日付け:拒絶理由通知書
平成28年12月7日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年2月6日付け :拒絶査定(以下、「原査定」とする。)
平成29年4月27日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、[A]この出願の請求項1ないし5に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1、2,3又は4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、[B]この出願の請求項1ないし5に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1、2,3又は4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2014-15453号公報
引用文献2:特開2015-26039号公報
引用文献3:特開2015-91880号公報
引用文献4:特開2005-53905号公報

第3 本願発明
本願請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」、「本願発明3」、「本願発明4」という。)は、平成29年4月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ヤング率が1.2MPa以下であるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと、
ポリプロピレンで形成された包装容器と、
非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有する包装溶液と、を備え、
前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、炭素数12以上の直鎖のアルキル部とオキシエチレン部とを含み該成分1モル中のオキシエチレンの平均付加モル数が30以上であり、
前記包装溶液は、前記非イオン性界面活性剤を0.001質量%以上0.08質量%以下の範囲で含有している、
コンタクトレンズパッケージ。
【請求項2】
前記包装溶液は、前記シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとの比重差が0.1以下である、請求項1に記載のコンタクトレンズパッケージ。
【請求項3】
前記包装溶液は、ポリビニルピロリドン、平均付加モル数が2?20のポリオキシエチレンヒマシ油、ジブチルヒドロキシトルエン及びソルビン酸塩をいずれも含まない、請求項1又は2に記載のコンタクトレンズパッケージ。
【請求項4】
ポリプロピレンで形成された包装容器へヤング率が1.2MPa以下であるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有する包装溶液とを封入し、
前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、炭素数12以上の直鎖のアルキル部とオキシエチレン部とを含み該成分1モル中のオキシエチレンの平均付加モル数が30以上であり、
前記包装溶液には、前記非イオン性界面活性剤を0.001質量%以上0.08質量%以下の範囲で含有させる、
コンタクトレンズパッケージの製造方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当合議体が付した。)

(1)「【請求項1】
(A) HLBが11以上である非イオン性界面活性剤と、(B) 酸化エチレンの平均付加モル数が2?20であるポリオキシエチレンヒマシ油を含有する、ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項2】
(A)成分が、ポリソルベート80、酸化エチレンの平均付加モル数が30以上であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、酸化エチレンの平均付加モル数が30以上であるポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール及び酸化エチレンの平均付加モル数が10以上であるモノステアリン酸ポリエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者等は、非イオン性界面活性剤を含有するコンタクトレンズ用眼科組成物について種々の検討を行ってきた。その結果、HLBが11以上である親水性が高い非イオン性界面活性剤を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物をソフトコンタクトレンズに接触させた際に、レンズ表面の摩擦が増大することを確認した。レンズ表面の摩擦は、ソフトコンタクトレンズ装用時に不快感(異物感や乾燥感など)や目の障害を引き起こす惧れがある。とりわけ、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、コンタクトレンズ自体の摩擦力が非常に大きく、表面に凹凸が存在し、また他のソフトコンタクトレンズに比べて材質が硬いため、レンズ表面の摩擦増大により眼表面への悪影響を及ぼしやすい傾向がある。
・・・略・・・
【0012】
本発明者等は、HLBが11以上である親水性が高い非イオン性界面活性剤を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物をソフトコンタクトレンズと接触させるとレンズの膨張を生じることがあり、とりわけ、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズはレンズサイズの変化が生じ易い傾向があることを確認した。ソフトコンタクトレンズの装用時には眼粘膜障害が起きても自覚し難いことが知られており、変形した状態のソフトコンタクトレンズを長期間装用し、眼粘膜障害が重症になるまで放置してしまう恐れがある。更に、コンタクトレンズの形状の変化は、コンタクトレンズの視力矯正力にも悪影響を及ぼすことが懸念される。」

(3)「【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記した課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、HLBが11以上である非イオン性界面活性剤を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物中に、酸化エチレンの平均付加モル数が2?20であるポリオキシエチレンヒマシ油を配合することにより、ソフトコンタクトレンズと該眼科組成物とが接触する際に生じるコンタクトレンズ表面の摩擦の増大を低減できることを見出した。
【0015】
また、HLBが11以上である非イオン性界面活性剤を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物中に、酸化エチレンの平均付加モル数が2?20であるポリオキシエチレンヒマシ油を配合することにより、ソフトコンタクトレンズと該眼科組成物との接触により生じるソフトコンタクトレンズの変形を抑制できることを見出した。」

(4)「【0017】
即ち、本発明は、下記の態様のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を提供するものである。
項1-1.(A) HLBが11以上である非イオン性界面活性剤と、(B) 酸化エチレンの平均付加モル数が2?20であるポリオキシエチレンヒマシ油を含有する、ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-2.(A)成分が、ポリソルベート80、酸化エチレンの平均付加モル数が30以上であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、酸化エチレンの平均付加モル数が30以上であるポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール及び酸化エチレンの平均付加モル数が10以上であるモノステアリン酸ポリエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも一種である、項1-1に記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
・・・略・・・
項1-5.ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物の総量を基準として、(A)成分の総含有量が0.001?5w/v%である、項1-1乃至1-4のいずれかに記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-6.ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物の総量を基準として(B)成分の総含有量が0.0005?5w/v%である、項1-1乃至1-5のいずれかに記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-7.(A)成分の総含有量1重量部に対して、(B)成分の総含有量が0.001?100重量部である、項1-1乃至1-6のいずれかに記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-8.ソフトコンタクトレンズが、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズである、項1-1乃至1-7のいずれかに記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
・・・略・・・
項1-10.ソフトコンタクトレンズ用点眼剤又はソフトコンタクトレンズケア用液剤である、項1-1乃至1-9のいずれかに記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。」

(5)「【0029】
本明細書において含有量の単位「%」は「w/v%」を意味し、「g/100mL」と同義である。」

(6)「【0034】
本発明で用いることができる、HLBが11以上である非イオン性界面活性剤の具体例としては、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル;POE(40)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40)、POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油;酸化エチレンの平均付加モル数が35であるポリオキシエチレンヒマシ油35、酸化エチレンの平均付加モル数が40であるポリオキシエチレンヒマシ油40、酸化エチレンの平均付加モル数が50であるポリオキシエチレンヒマシ油50、酸化エチレンの平均付加モル数が60であるポリオキシエチレンヒマシ油60、酸化エチレンの平均付加モル数が70であるポリオキシエチレンヒマシ油70等の酸化エチレンの平均付加モル数が30以上であるポリオキシエチレンヒマシ油;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル;POE(196)POP(67)グリコール(ポロクサマー407、プルロニックF127)、POE(54)POP(39)グリコール(プルロニックP85)、POE(200)POP(70)グリコール等のポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ステアリン酸ポリオキシル40等の酸化エチレンの平均付加モル数が10以上であるモノステアリン酸ポリエチレングリコール等を挙げることができる。なお、上記で例示する化合物において、括弧内の数字は付加モル数を示す。」

(7)「【0036】
上記した(A)成分の内で、特に、ポリソルベート80、酸化エチレンの平均付加モル数が30以上であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、酸化エチレンの平均付加モル数が30以上であるポリオキシエチレンヒマシ油、POE(196)POP(67)グリコール(ポロクサマー407、プルロニックF127)、POE(200)POP(70)グリコール、酸化エチレンの平均付加モル数が10以上であるモノステアリン酸ポリエチレングリコール等は、安全性が高く好ましく、本発明の効果が良好に得られる点から、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレンヒマシ油35、ポリオキシエチレンヒマシ油40、ポリオキシエチレンヒマシ油50、ポリオキシエチレンヒマシ油60、ポリオキシエチレンヒマシ油70、POE(196)POP(67)グリコール(ポロクサマー407、プルロニックF127)、POE(200)POP(70)グリコール、ステアリン酸ポリオキシル40が更に好ましく、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレンヒマシ油35が特に好ましい。」

(8)「【0038】
本発明のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物における、(A)成分の含有量は特に限定はなく、(A)成分の種類、併用する(B)成分の種類及び含有量、該ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。例えば、本発明のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物の総量を基準として、(A)成分の総含有量として、0.001?5w/v%、好ましくは0.005?4w/v%、より好ましくは0.01?3w/v%、更に好ましくは0.02?2w/v%、特に好ましくは0.05?1w/v%である。」

(9)「【0085】
本発明のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物は、眼科分野で用いられるものであってソフトコンタクトレンズに接触するように使用されるものであれば、その形態や用途については制限されない。例えば、ソフトコンタクトレンズ用点眼剤(ソフトコンタクトレンズを装着したまま使用可能な点眼剤)、ソフトコンタクトレンズ用洗眼剤(ソフトコンタクトレンズを装着したまま使用可能な洗眼剤)、ソフトコンタクトレンズ装着液、ソフトコンタクトレンズケア用液剤(ソフトコンタクトレンズ消毒液、ソフトコンタクトレンズ保存液、ソフトソフトコンタクトレンズ洗浄液、及びソフトコンタクトレンズ洗浄保存液等)等を挙げることができる。これらの中でも、ソフトコンタクトレンズ用点眼剤及びソフトコンタクトレンズケア用液剤は、1日当たりの使用頻度が高い、或いは1回当たりのソフトコンタクトレンズとの接触時間が長い製剤であり、上記(A)成分による摩擦増大やレンズの変形を最も生じさせやすい形態で使用される傾向がある。本発明のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物によれば、このように使用頻度や接触時間の観点から上記(A)成分による摩擦増大やレンズの変形を生じさせやすい傾向があるソフトコンタクトレンズ用点眼剤やソフトコンタクトレンズケア用液剤においても、(A)成分による摩擦増大やレンズの変形を有効に抑制させることができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物の好適な一例として、ソフトコンタクトレンズ用点眼剤及びソフトコンタクトレンズケア用液剤が挙げられる。
【0086】
本発明のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を収容する容器としては、ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を収容する容器として通常用いられる容器を用いることができ、ガラス製であってもよく、またプラスチック製であってもよい。本発明のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を収容する容器として、プラスチック製を使用する場合、該プラスチック容器の構成材質については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミドのいずれか1種、これらの共重合体、または2種以上の混合体が挙げられる。また、上記共重合体としては、エチレン-2,6-ナフタレート単位、アリレート単位、エチレンテレフタレート単位、プロピレン単位、エチレン単位、イミド単位のいずれか1種を主体として、他のポリエステル単位、イミド単位を含む共重合体が挙げられる。尚、本発明において例えばポリエチレンテレフタレート製容器と記載する場合は、容器の構成材質全体の重量に対し、ポリエチレンテレフタレートが50w/w%以上であるものを意味する。」

(10)「【実施例】
【0106】
以下に、実施例及び試験例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。
【0107】
[試験例1 SCL表面の摩擦に関する試験]
下記表1に示される組成物を常法により調製し、剛体振り子物性試験器RPT-3000W((株)エー・アンド・デイ製)を用いて、以下の方法でソフトコンタクトレンズ表面の摩擦力の評価を行った。
【0108】
尚、剛体振り子物性試験器RPT-3000Wは、粘着性、粘弾性、乾燥性等の表面物性変化を摩擦の増減の面から評価するための装置である。ソフトコンタクトレンズとしては、GalyfilconA(主材質名、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ:含水率-47.0%、B.C.-8.7、DIA-14.0mm)を用いた。ポリオキシエチレンヒマシ油3、10としては、医薬品添加物規格2003のポリオキシエチレンヒマシ油の規格に適合する酸化エチレンの平均付加モル数がそれぞれ3、10のものを用いた。」

(11)「【0114】
[試験例2 SCLのレンズサイズ変化の評価に関する試験]
下記表2に示される組成物を常法により調製し、以下の方法でソフトコンタクトレンズと接触する際のレンズサイズの変化を評価した。ポリソルベート80としては、医薬品添加物規格2003に適合するものを用いた。また、ポリオキシエチレンヒマシ油3、ソフトコンタクトレンズとしては、試験例1と同様のものを用いた。」

(12)「【0119】
[試験例3 SCLのレンズサイズ変化の評価に関する試験(2)]
下記表3に示される組成物を常法により調製し、試験例2と同じ方法でソフトコンタクトレンズと接触する際のレンズサイズの変化を評価した。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60としては、医薬品添加物規格2003に適合するものを用いた。また、ポリオキシエチレンヒマシ油3、10、35、及びソフトコンタクトレンズとしては、試験例1及び2と同様のものを用いた。
【0120】
まず、試験例2と同じ方法で、レンズを表3に記載の各組成物4mLに浸漬し、室温にて保存した。6時間後に各レンズのサイズ変化量を測定し、下記式に従って対応する比較例に対するサイズ変化抑制率を算出した。算出の結果を表3に併せて示す。なお、対応する比較例とは、具体的には、実施例4及び5においては比較例4、実施例6及び7においては比較例5を指す。
サイズ変化抑制率(%)=(1-各実施例のサイズ変化量(mm)/対応する比較例のサイズ変化量(mm))×100」

(13)「【0121】
【表3】



(14)「【0122】
表3に示す通り、HLBが11以上の非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンヒマシ油35又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60と共に、ポリオキシエチレンヒマシ油3又は10を含有する組成物をソフトコンタクトレンズと接触させた場合には、HLBが11以上の非イオン性界面活性剤のみを用いた場合と比較して、非イオン性界面活性剤の総量が同量である場合に、レンズサイズの膨張が抑制されていることが確認できた(実施例4?7及び比較例4?5)。」

2.引用発明
上記引用文献1には実施例6の組成物にコンタクトレンズを浸漬した試験例3に関する以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるGalyfilconAを、
ポリオキシエチレンヒマシ油3を0.05w/v%、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を0.05w/v%、ホウ酸を0.5w/v%、ホウ砂を適量、精製水を残部とした組成物に浸漬させたもの。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「GalyfilconA」は、「非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ」であって、ヤング率は「約0.43MPa」(例えば、特開2013-205845号公報の【0027】など参照。)であるから、本願発明1における「ヤング率が1.2MPa以下であるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ」に相当する。
引用発明における「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60」は、「酸化エチレン」の「平均付加モル数が60」であって(引用文献1の【0034】、【0036】参照。)、「付加モル数」は、1モル中の平均付加モル数であることは技術常識である。そして、「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」は、構造上、直鎖アルキル鎖の炭素数は17である(例えば、国際公開2011/034192号の[0014],[0015]など参照。)。したがって、引用発明における「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60」は、本願発明1における「炭素数12以上の直鎖のアルキル部とオキシエチレン部とを含み該成分1モル中のオキシエチレンの平均付加モル数が30以上」の「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」に相当する。
引用発明における「組成物」は、「精製水」を主成分として、「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60」を含むのであるから、本願発明1における「非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有する溶液」に相当する。
引用発明の「GalyfilconA」を「組成物」に「浸漬させたもの」において、「組成物」はレンズが浸漬される液体である。そうしてみると、「GalyfilconA」と「組成物」は、なんらかの「容器」に当然入れられているといえる。したがって、引用発明は、「容器」を含み、「コンタクトレンズ、溶液及び容器」から成る点で、本願発明1の「コンタクトレンズパッケージ」と共通する。

以上の対比結果を踏まえると、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
一致点
「ヤング率が1.2MPa以下であるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと、
容器と、
非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有する溶液と、を備え、
前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、炭素数12以上の直鎖のアルキル部とオキシエチレン部とを含み該成分1モル中のオキシエチレンの平均付加モル数が30以上である
コンタクトレンズ、溶液及び容器。」

相違点
本願発明1は、「コンタクトレンズ」、「包装容器」、「包装溶液と、を備え」る「コンタクトレンズパッケージ」であるのに対し、引用発明は、「コンタクトレンズ、溶液及び容器」であり、
本願発明1は、「容器」が「ポリプロピレンで形成された包装容器」であるのに対し、引用発明は、容器の詳細が不明であり、
本願発明1は、「包装溶液」が、「前記非イオン性界面活性剤を0.001質量%以上0.08質量%以下の範囲で含有している」のに対し、引用発明の「溶液」は、「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60」及び、「ポリオキシエチレンヒマシ油3」をそれぞれ「0.05w/v%」含む点(当合議体注:単位等が相違する。)。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
引用発明は、引用発明の組成物による、ソフトコンタクトレンズのレンズサイズ変化の評価を行うためにレンズを組成物に浸漬させてなる「コンタクトレンズ、溶液及び容器」であり、「コンタクトレンズ」、「包装容器」、「包装溶液と、を備え」た「コンタクトレンズパッケージ」に関するものではない。
ここで、引用文献1の【0086】には、ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を収容する容器に関する記載はあるが、「コンタクトレンズパッケージ」の「包装容器」は例示されていない。また、引用文献1に挙げられた容器の材質は、「ガラス製であってもよく、またプラスチック製であってもよい」ものであり、「ポリプロピレン」は、プラスチック容器の特に制限されない材質の一例として挙げられているにすぎない。また、引用文献1の【0085】には、組成物の用途に関する記載があるが、「包装溶液」は例示されておらず、「包装溶液」が引用発明の組成物の用途に好適なものである旨の記載もない。さらに、引用発明では、レンズサイズ変化の評価を行うために、「ヤング率が1.2MPa以下であるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ」である「GalyfilconA」を所定の組成物に浸漬させているが、「コンタクトレンズ」、「包装容器」、「包装溶液と、を備え」た「コンタクトレンズパッケージ」において、コンタクトレンズとして「GalyfilconA」を用いているものでもない。
本願発明1は、「ポリプロピレンで形成された包装容器」、「ヤング率が1.2MPa以下であるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ」、「非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有する包装溶液(前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、炭素数12以上の直鎖のアルキル部とオキシエチレン部とを含み該成分1モル中のオキシエチレンの平均付加モル数が30以上であり、前記非イオン性界面活性剤を0.001質量%以上0.08質量%以下の範囲で含有している)」を組み合わせて「コンタクトレンズパッケージ」とするものである。引用発明には、本願発明1の「コンタクトレンズパッケージ」の一部の要素が含まれていたとしても、引用文献1には、所定の性質や組成を有する「コンタクトレンズ」、「包装容器」、「包装溶液」を組み合わせた「コンタクトレンズパッケージ」とすることについて、示唆や動機付けとなる記載がない。
さらに、その他の文献を参照しても、その「コンタクトレンズパッケージ」としての組み合わせやその組み合わせとする動機付けは、開示されていない。
そして、本願発明1は、それぞれ所定の性質や組成を有する「包装容器」、「シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ」、「包装溶液」を組み合わせて「コンタクトレンズパッケージ」とすることにより、「シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとポリプロピレンにより形成された包装容器との張り付き(吸着)をより抑制することができる。」(本願の明細書の【0010】参照。)という、引用文献1に記載された効果とは異質な効果を奏しており、この効果は当業者といえども、引用文献1の記載全体や技術常識を勘案しても、容易に想到し得たものともいえない。
したがって、本願発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、引用文献1のその他の実施例や、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2、3又は4を検討しても、本願発明1は、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2.本願発明2ないし4について
本願発明2及び3は、本願発明1の「コンタクトレンズパッケージ」の「包装溶液」にさらなる限定を付加するものである。
したがって、本願発明2及び3も、本願発明1と同様に、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明4は、「コンタクトレンズパッケージの製造方法」に関する発明であり、本願発明1のカテゴリ表現が異なるだけの発明であるため、本願発明1と同様に、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-02-28 
出願番号 特願2016-546543(P2016-546543)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
多田 達也
発明の名称 コンタクトレンズパッケージ及びその製造方法  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  

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