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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1337754
審判番号 不服2016-14378  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-26 
確定日 2018-02-21 
事件の表示 特願2013-555897「眼の外科処置用医薬製品を製造するための粘弾性流体の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成24年9月7日国際公開、WO2012/117115、平成26年3月20日国内公表、特表2014-506911〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成24年3月5日(パリ条約に基づく優先権主張 2011年3月3日(オーストリア))を国際出願日とする特許出願であって、平成27年12月10日付けで拒絶理由が通知され、平成28年3月15日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月18日付けで拒絶査定がなされたのに対して、同年9月26日に拒絶査定不服の審判請求がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1-5に係る発明は、平成28年3月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
単回投与容器から眼の表面に適用して水晶体および瞳孔を光学的に拡大する眼の外科処置用医薬製品として使用するための水性の粘弾性流体であって、
a)ヒアルロン酸を、0.01?30%の濃度で含み、
b)pH値の範囲が、6?8.5であり、
c)浸透圧モル濃度の範囲が、200?400mosmol/lであることを特徴とする粘弾性流体。」

3 原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、平成27年12月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、要するに、当該理由1として、本願発明は、その優先権主張日前に頒布された下記の刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができず、当該理由2として、同刊行物の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
刊行物2:特開2002-193815号公報

4 刊行物2の記載事項
(1)「【請求項1】 (A)ヒアルロン酸および/またはその塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物並びに(B)ポリオール、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩および糖質よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を動粘度安定化剤として含有する水溶液からなることを特徴とする眼手術用角膜乾燥防止点眼剤。
・・・
【請求項4】 水溶液中におけるヒアルロン酸および/またはその塩の濃度が、0.01?1(w/v)%であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の点眼剤。」
(2)「【0002】
【従来の技術】 眼手術の際、瞬目運動を制限して長時間角膜を空気中に露出すると、角膜は乾燥してしまい、さらには混濁を生じてしまう場合がある。そのため、白内障や屈折矯正手術などの眼手術においては、眼球および角膜の乾燥防止およびこれら組織の保護目的で、灌流液を角膜上に滴下することで、角膜の乾燥を防止している。しかしながら、灌流液の滴下では角膜上からすぐに流れ落ち、角膜が乾燥してしまうために、頻繁に該行為を行う必要があるという問題点があった。
・・・
【0004】 また眼手術用点眼剤は動粘度が低い場合、角膜上での滞留性が悪くなるため、眼手術中に頻回点眼を行わなければならない。逆に動粘度が高い場合、滞留性は向上するものの、目から点眼剤が流れ出ないことや、点眼容器からの点眼が困難になるという問題もある。それゆえ適度な動粘性を持ち、かつ長期保存において安定である点眼剤の開発が必要であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】 本発明は、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する水溶液からなることを特徴とする、眼手術用角膜乾燥防止点眼剤に関する。さらに詳しくは、ヒアルロン酸および/またはその塩の低分子量化を抑制し、長期の保存においても動粘度が安定し、かつ角膜上での滞留性を改善した眼手術用角膜乾燥防止点眼剤に関する。本発明の他の目的は、長期間動粘度を安定化することにより、角膜上皮層を保護する作用を発現する点眼剤を提供することにある。・・・」
(3)「【0012】 本発明の点眼剤には、上記成分の他に、安定性を損なわない濃度範囲で、等張化剤や緩衝剤等を配合することができる。等張化剤は、通常医薬品等に用いられるものであればよく、好ましくは塩化ナトリウムおよび塩化カリウム等が用いられる。緩衝剤もまた通常医薬品等に用いられるものであればよく、リン酸系緩衝剤、ホウ酸系緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、酢酸系緩衝剤およびクエン酸系緩衝剤等が使用できる。また本発明の点眼剤のpHは6?8の範囲であることが好ましい。pH6未満の酸性領域およびpH8を越えるアルカリ性領域では、ヒアルロン酸および/またはその塩が加水分解されて低分子量化や動粘度低下が生じやすくなる。また本発明の点眼剤の浸透圧は、200?400mOsm.であるのが好ましく、特に好ましくは250?350mOsm.である。」
(4)「【0017】 実施例1
【表1】

【0018】 表1に示す組成の各水溶液を上記製造方法に従って調製した。なおヒアルロン酸ナトリウムは、分子量240万のものを使用した。動粘度安定性を調べるため、水溶液1?3および比較液1を用いて、40℃・相対湿度75%下に3ヶ月間保存し、保存直後、保存1ヶ月目、保存3ヶ月目の各溶液の動粘度(mm^(2)/s)を測定した。所定の経時後の結果を表2に示し、初期動粘度を1とした場合の各測定点での動粘度保持率を百分率表示として()内にあわせて示した。
【0019】
【表2】

【0020】 表2の結果より、グリセリンを動粘度安定化剤として加えた水溶液1?3の水溶液(本発明品)は、比較液1に比べ、動粘度の保持率が高かった。またグリセリン濃度が高いもののほうが、動粘度の保持率が高い傾向が見られた。これらの結果より、ヒアルロン酸ナトリウムと動粘度安定化剤の組み合わせが、動粘度の安定化に有用であることがわかった。」

5 刊行物2に記載された発明
上記4(1)-(4)より、刊行物2には以下の引用発明が記載されていると認められる。
「点眼容器から点眼される眼手術用点眼剤として使用される動粘性の水溶液であって、a)ヒアルロン酸を、0.01?1(w/v)%の濃度で含み、b)pH値の範囲が、6?8であり、c)浸透圧モル濃度の範囲が、200?400mOsm.である水性の動粘性流体」

6 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「眼手術用点眼剤」は、本願発明における「眼の表面に適用・・・する眼の外科処置用医薬製品」に相当する。
本願発明におけるヒアルロン酸濃度の単位「%」について、特許請求の範囲及び明細書には定義がないが、一般に医薬品の分野での「%」は「重量百分率」あるいは「質量百分率」と解されること(要すれば、第十三改正日本薬局方解説書 通則/製剤総則/一般試験法、株式会社廣川書店、1999年受入、A-47、第2行等参照)、及び、点眼剤として用いられる引用発明の水溶液の比重は1よりやや高い程度と考えられることから、引用発明1の0.01?1(w/v)%は、本願発明の0.01?30%と重複するものと認められる。
本願発明のpHの数値範囲は6?8.5であり、引用発明のpHの数値範囲6?8を包含する。
浸透圧モル濃度が、本願発明は「200?400mosmol/l」であるのに対し、引用発明は「200?400mOsm.」であり、単位の表記方法が異なるものの、「osmol」、「Osm」はいずれも「溶液1l中」の溶質のモル数であるから(要すれば、小泉袈裟勝監修、単位の辞典 改訂4版、丸善株式会社、1981年、第158頁左欄等参照)、両発明の数値範囲に差異はない。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「容器から眼の表面に適用する眼の外科処置用医薬製品として使用するための水性の粘性流体であって、
a)ヒアルロン酸を、0.01?30%の濃度で含み、
b)pH値の範囲が、6?8.5であり、
c)浸透圧モル濃度の範囲が、200?400mosmol/lであることを特徴とする流体。」
の点で一致し、次の点で一応相違する。
相違点1:本願発明は「単回投与」容器から眼の表面に適用するのに対し、引用発明の点眼容器は「単回投与」のものであるかが明らかでない点。
相違点2:本願発明の流体は「粘弾性」であるのに対し、引用発明の流体は「動粘性」であるが「弾性」であることは特定されていない点。
相違点3:本願発明は「水晶体および瞳孔を光学的に拡大する」製品として使用するための流体であるのに対し、引用発明ではその旨特定されていない点。

7 判断
上記相違点1-3について検討する。
相違点1について、流体が適用される容器が単回投与のものであるか否かといった事項は、本願発明の流体の構成を何ら特定するものではないため、当該記載の有無に関わらず実質的な相違点にはならない。また、仮に相違するとしてみても、点眼剤の容器を単回投与のものとすることは当業者が適宜設計しうる事項にすぎず、そのことにより格別の効果がもたらされるものでもない。
相違点2について、本願明細書【0011】-【0013】には以下の記載がある。
「【0011】
・・・
本発明に係る具体的な製剤は以下のとおりであり、表示された各物質の量は、注入用の水1mlを基準としている。
【0012】
水酸化ナトリウム:1.15mg
乳酸90%:2.40mg
塩化ナトリウム:6.00mg
塩化カリウム:0.40mg
塩化カルシウム x 2H_(2)O:0.27mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース:22.00mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロースの代わりに、0.01?10%、特には15.4mg/mlの量のヒアルロン酸が好ましくは存在していてもよい。この場合、以下のものがさらに存在していてもよい。
【0013】
塩化ナトリウム:8.15mg/ml
リン酸水素二ナトリウム十二水和物:0.70mg/ml
リン酸二水素ナトリウム二水和物:0.056mg/ml
pH値の範囲は、6.8?7.6であることが好ましく、浸透圧モル濃度の範囲は、280?330である。」
一方、刊行物2において、引用発明の実施例として開示されている水溶液もヒアルロン酸ナトリウム及び各種塩類を含むものであるから(上記4(4)の【表1】参照)、本願発明と類似の物理的性質、すなわち「粘弾性」を有するものと認められ、この点も実質的な相違点にはならない。
相違点3について、「水晶体および瞳孔を光学的に拡大する」という事項は、流体そのものの性質を表しているにすぎず、本願発明と同組成である引用発明の動粘性流体も当該性質を有するものと認められる。また、「水晶体および瞳孔を光学的に拡大する」という事項が未知の属性であったとしても、当該属性を発見したことにより、引用発明とは異なる新たな用途、すなわち、眼手術用点眼剤として用いる以外の用途を提供するものでもない。したがって、この点も実質的な相違点にはならない。
このため、本願発明は、引用発明と相違する点が存在せず、刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができず、また、仮に相違するとしても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同条第2項の規定により特許を受けることができない。

8 請求人の主張について
請求人は審判請求の理由において、「引用文献2は、該組成物について、角膜における滞留性が改善された眼手術用角膜乾燥防止点眼剤という、第1医薬用途を開示しているのみです。一方、本願発明は、本願発明者が独自に見出した新たな医学用途を示しているのです」、「先行技術のどこにも、手術の間の眼の表面への適用の開示は存在せず、また、先行技術のどこにも、本願の粘弾性流体の適用によって光学的拡大効果が達成され得るという記載は存在しません」、「『水晶体および瞳孔を光学的に拡大する効果をもたらす』という特徴は、当業者が容易に到達し得る効果として理解されるべきではなく、第2医薬用途として理解されるべきです。そして、第2医薬用途の特徴は、制限的な様式において、すなわち投薬形態または使用用途の観点において、理解されるべきです。」と述べ、本願発明が新規性及び進歩性を有すると主張する。なお、「引用文献2」は刊行物2と同一の文献である。
しかしながら、引用発明は「眼手術用点眼剤」に関するものであるから、「先行技術のどこにも、手術の間の眼の表面への適用の開示は存在せず」との主張は妥当ではなく、「眼の外科処置用医薬製品」としての用途をすでに提供するものである。
そして、上記7でも述べたように、「水晶体および瞳孔を光学的に拡大する」という事項は、流体そのものの性質を表しているにすぎず、本願発明と同組成である引用発明の動粘性流体も当該性質を有するものと認められる。また、当該性質を発見したことにより、引用発明とは異なる新たな用途、すなわち、眼手術用点眼剤として用いる以外の用途が提供されるものではないから、出願人のいう「投薬形態または使用用途の観点」においても、引用発明と依然として区別のできないものである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

9 むすび
以上のとおりであるから、本願については、他の請求項について検討するまでもなく、上記7に示した理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-20 
結審通知日 2017-09-26 
審決日 2017-10-11 
出願番号 特願2013-555897(P2013-555897)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 樹理  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
長谷川 茜
発明の名称 眼の外科処置用医薬製品を製造するための粘弾性流体の使用  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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