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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1337757
審判番号 不服2016-16232  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-31 
確定日 2018-02-21 
事件の表示 特願2014-128784「熱安定性が向上したエンジン潤滑剤」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日出願公開、特開2014-177646〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成19年12月20日(パリ条約による優先権主張 平成18年12月21日 米国(US))に出願された特願2007-329193号の一部を、平成26年6月24日に新たな特許出願としたものであって、出願後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成26年 7年 1日 手続補正書提出(自発)
平成27年 4月13日付 拒絶理由通知
同年10月14日 意見書・手続補正書提出
平成28年 1年13日付 拒絶理由通知
同年 6月15日 意見書提出
同年 6月29日付 拒絶査定
同年10月31日 審判請求書提出

第2 本願発明

本願の請求項1?6に係る発明は、平成27年10月14日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
下記の成分の混合物を含む自動車エンジン用潤滑油組成物であって、該潤滑油組成物の全質量に基づき、硫黄分が0.3質量%以下、リン分が0.09質量%以下、そして硫酸灰分が1.6質量%以下である潤滑油組成物:
(a)各フィッシャー・トロプシュ合成基油は炭素100個当りのアルキル分枝が12個以下のパラフィン系炭化水素成分を含有する、少なくとも60重量%の一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油、
(b)一種以上の無灰分散剤、
(c)全塩基価(TBN)が100以下の低過塩基性清浄剤とTBNが100以上の高過塩基性清浄剤の混合物、ただし両塩基性清浄剤のTBNが共に100であることはない、混合物、
(d)ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩を含有する一種以上の耐摩耗性添加剤であって、潤滑油組成物の0.03乃至0.075質量%のリン分を構成する一種以上の耐摩耗性添加剤、および
(e)フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤からなる群から選択される一種以上の酸化防止剤。」

第3 原査定の理由の概要

原査定の理由は、平成28年1月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由1であり、要するに、本願発明は、その出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
<引用文献一覧>
引用文献1:特開2005-306913号公報
引用文献2:特開2002-53888号公報
引用文献3:国際公開第2005/037964号(当審注:日本語訳と してパテントファミリーである特表2007-508441 号公報参照)

第4 当審の判断

当審は、平成28年10月31日提出の審判請求書の内容を勘案しても、本願発明は、依然として、引用文献1に記載された発明及び引用文献1、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると認められるから、上記原査定の理由は解消していない、と判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 引用文献1の記載事項
上記引用文献1には、以下の事項が記載されている。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、下記の成分が、潤滑油組成物の全量に基づき下記の量にて溶解もしくは分散されてなるエンジン潤滑油組成物:
a)窒素含有量換算値で0.02?0.3質量%の窒素含有無灰性分散剤;
b)金属含有量換算値で0.02?0.4質量%の金属含有清浄剤;
c)アルカリ金属含有量換算値で0.005?0.3質量%のアルカリ金属ホウ酸塩水和物;そして
d)リン含有換算値で0.01?0.12質量%のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛、但し、該ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛中のヒドロカルビル基の52?98モル%は第二級アルキル基であり、残余の2?48モル%は第一級アルキル基あるいはアルキルアリール基である。
・・・
【請求項8】
該潤滑油基油が、蒸発損失(ASTM D5800)が15質量%以下、芳香族含有量が10質量%以下、硫黄含有量が0.01質量%以下の鉱物油であるか、あるいは該鉱物油を10質量%以上含有する基油混合物である請求項1に記載のエンジン潤滑油組成物。
【請求項9】
さらに、フェノール化合物、アミン化合物、およびモリブデン化合物からなる群より選ばれる酸化防止剤を0.01?5質量%含有する請求項1に記載のエンジン潤滑油組成物。
・・・
【請求項11】
組成物の全重量に基づき、硫酸灰分が0.1?0.6質量%、硫黄含有量が0.01?0.3質量%、リン含有量が0.01?0.08質量%となるように各成分が選ばれている請求項1に記載のエンジン潤滑油組成物。
・・・
【請求項13】
ディーゼルエンジンを潤滑するための請求項1乃至12に記載のエンジン潤滑油組成物。
【請求項14】
排気系に浄化触媒及び/又はパティキュレートフィルタを装着したエンジンを潤滑するための請求項1乃至13に記載のエンジン潤滑油組成物。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、自動車に装着されている、パティキュレートフィルタや、未燃焼の煤および燃料や潤滑油を酸化するための酸化触媒などの排ガス浄化装置への悪影響が少なく、かつ高温清浄性と耐摩耗性に優れ、近い将来に実施が予測されている排ガス規制にも充分対応できるエンジン潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は特に、走行用燃料として、硫黄含有量が約0.005質量%以下、特に0.001質量%以下の炭化水素系燃料を用いる自動車、なかでも排ガス浄化装置(特にパティキュレートフィルタおよび酸化触媒あるいは還元触媒)を備えたディーゼルエンジン搭載車において特に好適に用いられる、低灰分量、低リン含量、そして低硫黄含量の環境対応型のエンジン潤滑油組成物を提供することを目的とする。
・・・
【発明の効果】
【0015】
本発明の潤滑油組成物は、低灰分含量(低硫酸灰分含量)、低リン含量、かつ低硫黄含量であるにもかかわらず、現在一般的に利用されている高硫酸灰分、高リン含量かつ高硫黄含量のディーゼルエンジン油と同程度もしくはそれ以上の高温清浄性と耐摩耗性を示す。従って、本発明の潤滑油組成物は、走行用燃料として、低硫黄含有量の炭化水素系燃料を用いる自動車、なかでも排ガス浄化装置(特にパティキュレートフィルタおよび酸化触媒)を備えたディーゼルエンジン搭載車において好適に用いられる。」
・「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油としては、通常、100℃における動粘度が2?50mm^(2)/sの鉱油や合成油が用いられる。この鉱油や合成油の種類、あるいはその他の性状については特に制限はないが、硫黄含有量が0.1質量%以下であることが望ましく、0.03質量%以下であることがさらに望ましく、特に0.005質量%以下であることが望ましい。
【0017】
鉱油系基油は、鉱油系潤滑油留分を溶剤精製あるいは水素化処理などの処理方法を適宜組み合わせて利用して処理したものであることが望ましく、特に高度水素化精製(水素化分解)基油(例えば、粘度指数が100?150、芳香族含有量が5質量%以下、窒素および硫黄の含有量がそれぞれ50ppm以下である基油)が好ましく用いられる。この中には、鉱油系スラックワックス(粗ろう)あるいは天然ガスから合成された合成ワックスを原料として異性化および水素化分解のプロセスで作られる高粘度指数基油が含まれる。水素化分解基油は、低硫黄分、低蒸発性、残留炭素分が少ないなどの点から、本発明の目的上好ましいものである。最も好ましい潤滑油基油は、蒸発損失(ASTM D5800)が15質量%以下、芳香族含有量が10質量%以下、硫黄含有量が0.01質量%以下の鉱物油であるか、あるいは該鉱物油を10質量%以上含有する基油混合物である。
【0018】
合成油(合成潤滑油基油)としては、例えば炭素数3?12のα-オレフィンの重合体であるポリ-α-オレフィン、ジオクチルセバケートに代表されるセバシン酸、アゼライン酸、アジピン酸などの二塩基酸と炭素数4?18のアルコールとのエステルであるジアルキルジエステル、1-トリメチロールプロパンやペンタエリスリトールと炭素数3?18の一塩基酸とのエステルであるポリオールエステル、炭素数9?40のアルキル基を有するアルキルベンゼンなどを挙げることができる。
【0019】
一般に合成油は実質的に硫黄分を含まず、酸化安定性、耐熱性に優れ、いったん燃焼すると残留炭素や煤の生成が少ないので、潤滑油組成物の基油として優れている。
【0020】
鉱油系基油および合成系基油は、それぞれ単独で使用することができるが、所望により、二種以上の鉱油系基油、あるいは二種以上の合成系基油を組合わせて使用することもできる。また、所望により、鉱油系基油と合成系基油とを任意の割合で組合わせて用いることもできる。」
・「【0033】
従来より、ヒドロカルビル基が第二級アルキル基のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛は、摩耗防止の効果に優れることが知られており、一方、ヒドロカルビル基が第一級アルキル基あるいはアルキルアリール基であるジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛は耐熱性に優れることが知られている。本発明では、これらのジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を、前者(ヒドロカルビル基が第二級アルキル基のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛)を主成分として用いることにより、本発明の目的に特に好適に利用する。」
・「【実施例】
【0042】
(1)潤滑油組成物の製造
本発明に従う潤滑油組成物と比較用の潤滑油組成物を、下記の添加剤成分と基油成分とを用いて製造した。これらの潤滑油組成物は、粘度指数向上剤の添加により、10W30の粘度グレード(SAE粘度グレード)を示すように調製された。
【0043】
(2)添加剤及び基油
無灰分散剤A:ホウ素含有コハク酸イミド分散剤[窒素含量:1.95質量%、ホウ素含量:0.66質量%、塩素含量:5質量ppm未満、数平均分子量が約1300のポリブテン(少なくとも50%以上がメチルビニリデン構造を有する)と無水マレイン酸とから熱反応法で製造し、これを平均窒素原子数6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンと反応させ、ついで得られたビス型コハク酸イミドをホウ酸で反応処理したもの]
【0044】
無灰分散剤B:炭酸エチレン反応処理コハク酸イミド分散剤[窒素含量:1.0質量%、塩素含量:30質量ppm、数平均分子量約2300のポリブテン(少なくとも50%以上がメチルビニリデン構造を有する)と無水マレイン酸とから熱反応法で製造し、次いで、これを平均窒素原子数6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンと反応させ、ついで得られたビス型コハク酸イミドを炭酸エチレンで反応処理したもの]
【0045】
清浄剤A:硫化カルシウムフェネート(Ca:9.3質量%、S:3.4質量%、TBN:255mgKOH/g)
【0046】
清浄剤B:カルシウムスルホネート(Ca:2.4質量%、S:2.9質量%、TBN:17mgKOH/g)
【0047】
ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)-1:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(P:7.2質量%、Zn:7.85質量%、S:14質量%、原料として炭素原子数3?8の第二級アルコールを使用して製造したもの)
【0048】
ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)-2:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(P:7.3質量%、Zn:8.4質量%、S:14質量%、原料として炭素原子数8の第一級アルコールを使用して製造したもの)
【0049】
ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)-3:ジアルキルアリールジチオリン酸亜鉛(P:2.85質量%、Zn:3.15質量%、S:5.9質量%、原料としてドデシルフェノールを使用して製造したもの)
【0050】
酸化防止剤A:アミン系化合物[ジアルキルジフェニルアミン(アルキル基:C_(4)とC_(8)の混合)、N:4.6質量%、TBN:180mgKOH/g]
【0051】
酸化防止剤B:フェノール系化合物[3-(3、5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル]
【0052】
酸化防止剤C:モリブデン(Mo)化合物[硫黄を含有するオキシモリブデン-コハク酸イミド錯体化合物(Mo:5.5質量%、S:0.2質量%、TBN:10mgKOH/g)
【0053】
アルカリ金属ホウ酸塩:ホウ酸カリウム水和物の微粒子分散体(実験式KB_(3)O_(5)・H_(2)O、K:8.3質量%、B:6.8質量%、S:0.26質量%、TBN:125mgKOH/g)
【0054】
粘度指数向上剤(VII):非分散型のエチレンプロピレン共重合体
【0055】
流動点降下剤(PPD):ポリメタクリレート系化合物
【0056】
基油:水素化分解鉱油A(100℃における動粘度が6.5mm^(2)/sで、粘度指数が132、蒸発損失(ASTM D5800)が5.6質量%、硫黄含有量が0.001質量%未満、芳香族分が9質量%)と水素化分解鉱油B(100℃における動粘度が4.1mm^(2)/sで、粘度指数が127、蒸発損失(ASTM D5800)15質量%、硫黄含有量0.001質量%未満、芳香族分8質量%)とを65:35の質量比で混合した基油
【0057】
[実施例1]
(1)基油に下記の成分(添加量は、潤滑油組成物全量を基準)を添加混合して本発明の潤滑剤組成物(当審注:潤滑油組成物の誤記と認定する。)を調製した。
【0058】
無灰性分散剤A(添加量:0.51質量%、窒素量換算添加量:0.01質量%)
無灰性分散剤B(添加量:6.0質量%、窒素量換算添加量:0.06質量%)
金属含有清浄剤A(添加量:0.75質量%、カルシウム量換算添加量:0.07質量%)
金属含有清浄剤B(添加量:0.83質量%、カルシウム量換算添加量:0.02質量%)
ZnDTP-1(添加量:0.69質量%、リン量換算添加量:0.05質量%)
ZnDTP-2(添加量:0.34質量%、リン量換算添加量:0.025質量%)
酸化防止剤A(添加量:0.2質量%)
酸化防止剤B(添加量:0.2質量%)
酸化防止剤C(添加量:0.2質量%)
アルカリ金属ホウ酸塩水和物(添加量:0.24質量%、カリウム量換算添加量:0.02質量%)
VII(添加量:4.2質量%)
PPD(添加量:0.3質量%)
【0059】
(2)得られた潤滑油組成物の化学的特性を以下に記す。
硫酸灰分:0.49質量%
リン(P)量:0.075質量%
硫黄(S)量:0.3質量%
塩素(Cl)量:5質量ppm未満
ZnDTP-1のリン量/ZnDTP-2のリン量=67/33(質量比)
アルカリ金属ホウ酸塩のアルカリ金属/無灰分散剤の窒素=1/3.5(質量比)
・・・
【0073】
[潤滑油組成物の性能評価]
(1)ディーゼルエンジン試験(JASO清浄性試験:JASO M336-98):ピストンのトップリング溝の清浄性(溝詰り(平均)の発生率%の評価:低い方が好ましい)
実施例と比較例で調製した潤滑油組成物の性能を、水冷、4気筒、排気量2.5リットルの副燃焼室式ディーゼルエンジンを用いて試験した。エンジン試験は、油温:120℃、エンジン回転数:4300rpm、全負荷運転で200時間(100時間でオイル交換)運転し、試験後のピストンの評価を石油学会法により行なった。燃料として、硫黄分0.05質量%の軽油を用いた。
【0074】
(2)ディーゼルエンジン試験(JASO動弁系摩耗試験:JASO M354-99):カムの摩耗の評価(低い方が好ましい)
実施例と比較例で調製した潤滑油組成物の性能を、水冷、4気筒、排気量3.9リットルの燃料直接噴射式、ターボ・インタークーラー付きディーゼルエンジンを用いて試験した。エンジン試験は、油温:105℃、エンジン回転数:3200rpm、全負荷運転で160時間運転し、試験後のカムの評価を石油学会法により行なった。燃料として、硫黄分0.05質量%の軽油を用いた。
【0075】
[評価試験結果]
──────────────────────────────────
JASO清浄性試験 JASO動弁系摩耗試験
[トップリング溝詰り(平均):%] [カム摩耗(平均):μm]
──────────────────────────────────
実施例1 41 45
実施例2 46 32
実施例3 39 45
──────────────────────────────────
比較例1 65 30
比較例2 40 229
比較例3 48 67
──────────────────────────────────
【0076】
上記の評価試験結果から明らかなように、本発明の潤滑油組成物(実施例1乃至3)は、高温清浄性を評価する試験において、トップリング溝詰りの発生の割合が低く、また動弁系摩耗試験においてもカム摩耗が低い。すなわち、本発明の潤滑油組成物は、低灰分含量、低リン含量、かつ低硫黄含量であるにもかかわらず、バランスのとれた優れた高温清浄性と耐摩耗性を示す。」

2 引用文献3の記載事項
上記引用文献3には、以下の事項が記載されている(なお、『』内には、引用文献3のパテントファミリーである特表2007-508441号公報の対応箇所を、当審訳として、段落番号等も含めてそのまま記載した。)。
・「WHAT IS CLAIMED IS:
1. A lubricant base oil comprising paraffinic hydrocarbon
components in which the extent of branching is less than 8 alkyl
branches per 100 carbons and less than 20 wt% of the alkyl
branches are at the 2 position; the lubricant base oil having
a pour point of less than -8 ℃; a kinematic viscosity at 100 ℃
of about 3.2 cSt or greater; and a Viscosity Index greater than
a Target Viscosity Index as calculated by the following equation:
Target Viscosity Index = 22 x ln(Kinematic Viscosity at 100℃)
+ 132.
・・・
11. The lubricant base oil of claim 1, wherein the lubricant
base oil is derived from a Fischer-Tropsch synthesis process.
・・・
25. A finished lubricant comprising:
the lubricant base oil of claim 1; and
one or more lubricant additives.」(35頁1行?38頁7行)
『【特許請求の範囲】
【請求項1】
分枝の程度が100個の炭素当たり8アルキル分枝未満であり、アルキル分枝の20重量%未満が2位置のものであるパラフィン系炭化水素成分を含む潤滑剤基油であって、その潤滑剤基油が-8℃未満の流動点;約3.2cSt以上の、100℃での動粘度;及び下記方程式:
目標粘度指数=22 x ln(100℃での動粘度) + 132
により計算されたときの目標粘度指数より大きい粘度指数を有する、該潤滑剤基油。
・・・
【請求項11】
潤滑剤基油がフィッシャー-トロプシュ合成方法から誘導される、請求項1の潤滑剤基油。
・・・
【請求項25】
請求項1の潤滑剤基油;及び
1種以上の潤滑剤添加剤;
を含む、仕上げ潤滑剤。』
・「Feedstock
According to the present invention, the feed to the process
to produce lubricant base oils with optimized branching is
a waxy hydrocarbon feed. The waxy hydrocarbon feedstocks
useful in the processes disclosed herein may be synthetic
waxy feedstocks, such as Fischer Tropsch waxy hydrocarbons,
or may be derived from natural sources, such as petroleum waxes.
Accordingly, the waxy feedstocks to the processes may
comprise Fischer Tropsch derived waxy feeds, petroleum waxes,
waxy distillate stocks such as gas oils, lubricant oil stocks,
high pour point polyalphaolefins, foots oils, normal alpha
olefin waxes, slack waxes, deoiled waxes, and microcrystalline
waxes, and mixtures thereof. Preferably, the waxy feedstocks
are derived from Fischer Tropsch waxy feeds. A substantial
proportion of the waxy feed comprises molecules with a carbon
number of C _(20+) and has a boiling point generally above
about 600 °F (316 °C). The majority of the molecules in the
waxy feed are higher molecular weight n-paraffins and
slightly branched paraffins which contribute to the waxy
nature of the feed.
The waxy hydrocarbon feedstock may be hydrotreated
prior to the process as described herein if desired.

Fischer-Tropsch Synthesis
Preferably, the waxy feedstocks of the present invention
are derived from Fischer Tropsch waxy feeds. In Fischer-Tropsch
chemistry, syngas is converted to liquid hydrocarbons by
contact with a Fischer-Tropsch catalyst under reactive
conditions. Typically, methane and optionally heavier
hydrocarbons (ethane and heavier) can be sent through a
conventional syngas generator to provide synthesis gas.
Generally, synthesis gas contains hydrogen and carbon monoxide,
and may include minor amounts of carbon dioxide and/or water.
The presence of sulfur, nitrogen, halogen, selenium, phosphorus
and arsenic contaminants in the syngas is undesirable.」(14頁20行?15頁15行)
『【0056】
供給原料
本発明に従えば、最適化分枝を有する潤滑剤基油を生成するための方法への供給原料は、ワックス状炭化水素供給原料である。本明細書において開示された方法において有用なワックス状炭化水素供給原料は、フィッシャー-トロプシュワックス状炭化水素のような合成ワックス状供給原料であり得るか、又は石油ワックスのような天然源から由来することができる。したがって、その方法へのワックス状供給原料は、フィッシャー-トロプシュ由来ワックス状供給原料、石油ワックス、ガスオイル類のようなワックス状留出液原料、潤滑油原料、高流動点ポリアルファオレフィン類、ろう下油(foot oil)、ノルマルアルファオレフィンワックス類、粗ろう、脱油ワックス類、微結晶ワックス類、及びそれらの混合物からなることができる。好ましくはワックス状供給原料はフィッシャー-トロプシュワックス状供給原料から由来する。ワックス状供給原料の実質的な割合は、C_(20+)の炭素数を有する分子からなり、そして一般に、約600°F(316℃)より高い沸点を有する。ワックス状供給原料中の分子の大部分は、供給原料のワックス状の性質に寄与する高分子量n-パラフィン類及び僅かに分枝したパラフィン類である。
ワックス状炭化水素供給原料を、所望に応じて、本明細書において記載されたような処理の前に、水素処理することができる。
【0057】
フィッシャー-トロプシュ合成
好ましくは、本発明のワックス状供給原料は、フィッシャー-トロプシュワックス状供給原料から由来する。フィッシャー-トロプシュ化学において、反応条件下に合成ガスをフィッシャー-トロプシュ触媒と接触させることにより、合成ガスを液体炭化水素に変換させる。典型的に、メタン及び随意的により重質の炭化水素類(エタン以上の重質)は慣用の合成ガス生成器に通過させて送られて合成ガスを提供する。一般に合成ガスは水及び一酸化炭素を含有し、そして少量の二酸化炭素及び/又は水を含むことができる。合成ガス中の硫黄、窒素、ハロゲン、セレン、燐及び砒素汚染物質の存在は望ましくない。』
・「Hydroisomerization
According to the present invention, the waxy hydrocarbon
feedstock is subjected to hydroisomerization in a
hydroisomerization zone, producing an intermediate oil isomerate.
Hydroisomerization is intended to improve the cold flow
properties of a lubricant base oil by the selective addition
of branching into the molecular structure. Hydroisomerization
dewaxing ideally will achieve high conversion levels of
waxy feed to non-waxy iso-paraffins while at the same time
minimizing the conversion by cracking.」(17頁28行?18頁3行)
『【0067】
水素異性化
本発明に従えば、ワックス状炭化水素供給原料は、水素異性化帯域において水素異性化に付されて、中間体油異性化物を生成する。
【0068】
水素異性化は、分子構造中に分枝の選択的な付加により潤滑剤基油の冷温流動性質を改良することが意図される。水素異性化脱ワックスは、理想的には、非ワックス状イソパラフィン類へのワックス状供給原料の高い変換水準を達成させる一方で、同時に分解による変換を最小にする。』
・「Solvent Dewaxing
According to the present invention, the intermediate oil
isomerates are subjected to solvent dewaxing, producing
lubricant base oils comprising paraffinic hydrocarbon
components with optimized branching properties.
Therefore, the solvent dewaxing produces lubricant base
oils comprising paraffinic hydrocarbon components having
low amounts of branching overall with branching
concentrated toward the center of the molecules.」(21頁18?24行)
『【0084】
溶媒脱ワックス
本発明に従えば、中間体油異性化物は溶媒脱ワックスに付されて、最適化分枝性質を有するパラフィン系炭化水素成分を含む潤滑剤基油を生成する。それ故、溶媒脱ワックスは、分子の中心に向かって分枝が集中している全体的に低い量の分枝を有するパラフィン系炭化水素成分を含む潤滑剤基油を生成する。』
・「Hydrofinishing
The lubricant base oil comprising paraffinic hydrocarbon
components with optimized branching, or optionally the
intermediate oil isomerate, may be hydrofinished in order
to improve product quality and stability. During
hydrofinishing, overall LHSV is about 0.25 to 2.0,
preferably about 0.5 to 1.0. The hydrogen partial
pressure is greater than 200 psia, preferably ranging
from about 500 psia to about 2000 psia. Hydrogen
recirculation rates are typically greater than
50 SCF/Bbl, and are preferably between 1000 and 5000
SCF/Bbl. Temperatures range from about 300°F to
about 750°F, preferably ranging from 450°F to 600°F.」(23頁29行?24頁4行)
『【0094】
水素仕上げ
最適化分枝を有するパラフィン系炭化水素を含む潤滑剤基油、又は随意的に中間体油異性化物は、生成物品質及び安定性を改良するために水素仕上げされる(be hydrofinished)ことができる。水素仕上げ(hydrofinishing)中、全体的なLHSVは約0.25?2.0、好ましくは約0.5?1.0である。水素分圧は200psiaより大、好ましくは約500psia?約2000psiaの範囲にある。水素再循環速度は典型的には50 SCF/Bblより大であり、そして好ましくは1000?5000 SCF/Bblである。温度は約300°F?約750°Fの範囲、好ましくは450°F?600°Fの範囲にある。』
・「Lubricant Base Oils with Optimized Branching
The lubricant base oils of the present invention comprise
paraffinic hydrocarbon components in which the branching is
optimized. The lubricant base oils comprising paraffinic
hydrocarbon components with optimized branching have high
viscosities, low pour points, and exceptionally high VFs.
The lubricant base oils of the present invention have kinematic
viscosities at 100℃greater than about 3.2 cSt, preferably
between about 3.2 cSt and about 20 cSt. In addition,
the lubricant base oils of the present invention
comprise paraffinic hydrocarbon components having average
carbon numbers of greater than about 27, preferably greater than
about 30, and more preferably greater than about 27
and less than about 70.
The American Petroleum Institute (API) has classified
base oils according to their chemical composition.
As defined by the API, Group III oils are very high
viscosity index oils (>120) having a total sulfur
content less than 300 ppm and a saturates content of
greater than or equal to 90%. API Group III oils also
are traditionally manufactured by severe hydrocracking
and or wax isomerization. Lubricant base oils of the
present invention are generally classified as
API Group III base oils. When they are made from
waxy feeds with a low total sulfur content,
such as a Fischer-Tropsch feeds, the lubricant base oils
will also have a total sulfur content less than 300 ppm.
Lubricant base oils according to the present
invention made from Fischer- Tropsch waxy feeds
generally have total sulfur contents of less than
about 5 ppm, saturates contents of greater than 95%,
and total naphthene contents of between zero and
about 8%, and preferably between zero and about 5%.
Total sulfur is determined using ultraviolet
fluorescence by ASTM D 5453-00.
In particular, the lubricant base oils comprise paraffinic
hydrocarbon components having less than 8 alkyl branches per
100 carbons, preferably less than 7 alkyl branches per 100 carbons,
and more preferably less than 6.5 alkyl branches per 100 carbons.
The branching at the two position, as determined by NMR
branching analysis, is less than 20 wt%, preferably less than
15 wt%. The branching at the two plus three positions is less than
25 wt%, preferably less than 20 wt%. In addition the branching
at the five or greater positions is greater than 50 wt%, preferably
greater than 60 wt%. The free carbon indexes of the lubricant base
oils of the present invention are generally greater than about 3,
and preferably greater than about 5.
・・・
The viscosity indexes of the lubricant base oils comprising
paraffinic hydrocarbon components with optimized branching are
extremely high and are greater than the Target Viscosity Index of
the lubricant base oil, preferably greater than
the Target Viscosity Index of the lubricant base oil plus 5.
The range of kinematic viscosities of the lubricant base oils with
optimized branching are greater than 3.2 cSt at 100℃and may
be between about 3.2 cSt and about 20 cSt at 100 ℃.
・・・
Since the lubricant base oils of the present invention have
extremely low amounts of aromatics and multi-ring naphthenes,
the lubricant base oils have superior oxidation stability.」
(24頁19行?26頁30行)
『【0097】
最適化分枝を有する潤滑剤基油
本発明の潤滑剤基油は、分枝が最適化されているパラフィン系炭化水素成分を含む。最適化分枝を有するパラフィン系炭化水素成分を含む潤滑剤基油は、高い粘度、低い流動点及び格別に高いVIを有する。本発明の潤滑剤基油は約3.2cStより大きい、好ましくは約3.2cSt?約20cStの、100℃での動粘度を有する。また本発明の潤滑剤基油は約27個より大、好ましくは約30個より大、さらに好ましくは約27個より大であって、約70個未満の平均炭素数を有するパラフィン系炭化水素成分を含む。
【0098】
米国石油学会(API)は、基油の化学組成に従って基油を分類した。APIにより規定されたように、グループIII油は300ppm未満の総硫黄含有量及び90%より大であるか、又は90%に等しい飽和脂肪酸類(saturates)含有量を有する非常に高い粘度指数(>120)の油である。APIグループIII油はまた、きびしい水素化分解及び/又はワックス異性化により伝統的に製造される。本発明の潤滑剤基油は一般にAPIグループIII基油として分類される。それらがフィッシャー-トロプシュ供給原料のような、低い総硫黄含有量を有するワックス状供給原料から調製される場合、その潤滑剤基油はまた300ppm未満の総硫黄含有量を有するだろう。
【0099】
フィッシャー-トロプシュワックス状供給原料から調製された本発明に従う潤滑剤基油は、一般に約5ppm未満の総硫黄含有量、95%より大の飽和脂肪酸類(saturates)含有量、そして0?約8%、好ましくは0?約5%の総ナフテン含有量を有する。総硫黄はASTM D5453-00により紫外蛍光を用いて測定される。
【0100】
特に、本潤滑剤基油は、100個の炭素当たり8未満のアルキル分枝、好ましくは、100個の炭素当たり7未満のアルキル分枝、さらに好ましくは、100個の炭素当たり6.5未満のアルキル分枝を有するパラフィン系炭化水素成分を含む。NMR分枝分析により測定されたとき、2位置での分枝は、20重量%未満、好ましくは15重量%未満である。2プラス3位置での分枝は25重量%未満、好ましくは20重量%未満である。5位置以上の位置での分枝は50重量%より大、好ましくは60重量%より大である。本発明の潤滑剤基油のフリーカーボン(free carbon)指数は一般的に約3より大、好ましくは約5より大である。
・・・
【0104】
最適化分枝を有するパラフィン系炭化水素成分を含む潤滑剤基油の粘度指数は極めて高く、そして潤滑剤基油の目標粘度指数より大きく、好ましくは潤滑剤基油の目標粘度指数プラス5より大きい。最適化分枝を有する潤滑剤基油の動粘度の範囲は、100℃で3.2cStより大きく、そして100℃で約3.2cSt?約20cStであることができる。
・・・
【0107】
本発明の潤滑剤基油は、極めて低い量の芳香族類及び多環ナフテン類を有するので、潤滑剤基油は優れた酸化安定性を有する。』
・「Blends
The lubricant base oils of the present invention may be used
alone or may be blended with additional base oils selected from
the group consisting of conventional Group I base oils,
conventional Group II base oils, conventional Group III base oils,
isomerized petroleum wax, polyalphaolefins (PAO),
poly internal olefins (PIO), diesters, polyol esters, phosphate
esters, alkylated aromatics, and mixtures thereof.
・・・
Finished Lubricants
Lubricant base oils are the most important component of
finished lubricants, generally comprising greater than 70% of the
finished lubricants. Finished lubricants comprise a lubricant
base oil and at least one additive. Finished lubricants may be used
in automobiles, diesel engines, axles, transmissions, and
industrial applications. Finished lubricants must meet
the specifications for their intended application as defined by
the concerned governing organization.
The lubricant base oils of the present invention are useful in
commercial finished lubricants. As a result of their excellent VFs
and low temperature properties, the lubricant base oils of the
present invention are suitable for formulating finished lubricants
intended for many of these applications. In addition, the excellent
oxidation stability of the lubricant base oils of
the present invention makes them useful in finished lubricants
for many high temperature applications.
Additives, which may be blended with the lubricant base oil of
the present invention, to provide a finished lubricant composition
include those which are intended to improve select properties of
the finished lubricant. Typical additives include, for example,
anti-wear additives, EP agents, detergents, dispersants,
antioxidants, pour point depressants, VI improvers, viscosity
modifiers, friction modifiers, demulsifiers, antifoaming agents,
corrosion inhibitors, rust inhibitors, seal swell agents,
emulsifiers, wetting agents, lubricity improvers, metal
deactivators, gelling agents, tackiness agents, bactericides,
fluid-loss additives, colorants, and the like. 」
(27頁17行?28頁26行)
『【0109】
ブレンド
本発明の潤滑剤基油は、単独で用いられることができるか、又は慣用のグループI基油、慣用のグループII基油、慣用のグループIII基油、異性化石油ワックス、ポリアルファオレフィン類(PAO)、ポリ内部オレフィン類(PIO)、ジエステル類、ポリオールエステル類、燐酸エステル類、アルキル化芳香族類及びそれらの混合物からなる群から選ばれた追加の基油とブレンドされることができる。
・・・
【0113】
仕上げ潤滑剤
潤滑剤基油は、一般に仕上げ潤滑剤の70%より大きくを占める、仕上げ潤滑剤の最も重要な成分である。仕上げ潤滑剤は潤滑剤基油及び少なくとも1種の添加剤を含む。仕上げ潤滑剤は、自動車、ディーゼルエンジン、車軸類、変速機及び工業上適用において用いられることができる。仕上げ潤滑剤は、関連する政府機関により規定されたような、それらの意図する適用のための規格に合わなければならない。
【0114】
本発明の潤滑剤基油は、商業用仕上げ潤滑剤において有用である。それらの優れたVI及び低温性質の結果として、本発明の潤滑剤基油は、多くのこれらの適用のために意図された仕上げ潤滑剤を配合するために適している。また、本発明の潤滑剤基油の優れた酸化安定性は、多くの高温適用のための仕上げ潤滑剤においてこれらを有用なものにする。
【0115】
仕上げ潤滑剤組成物を提供するために、本発明の潤滑剤基油とブレンドすることができる添加剤は、仕上げ潤滑剤の選択性質を改良することが意図される添加剤を包含する。典型的な添加剤は、例えば耐摩耗性添加剤、EP剤、洗浄剤、分散剤、酸化防止剤、流動点降下剤、VI改良剤、粘度調節剤、フリクションモディファイアー(friction modifiers)、抗乳化剤、消泡剤、腐食防止剤、さび止め、シール、膨潤剤、乳化剤、湿潤剤、潤滑性改良剤、金属不活性化剤、ゲル化剤、粘着付与剤、殺菌剤、フルィド-ロス(fluid-loss)添加剤、着色剤、等を包含する。』

3 引用文献1に記載された発明(引用発明)
引用文献1には、【特許請求の範囲】に、エンジン潤滑油組成物が記載され、その具体例の一つとして、[実施例1]の潤滑油組成物が例示されている(基油については【0056】を、添加剤成分については【0058】及びその詳細を記載した【0043】?【0055】を、得られた潤滑油組成物の化学的特性については【0059】を、それぞれ参照のこと。なお、当該[実施例1]における添加剤成分の含有量を合計すると、14.46質量%(=0.51+6.0+0.75+0.83+0.69+0.34+0.2+0.2+0.2+0.24+4.2+0.3)であり、基油の含有量は、85.54質量%(=100-14.46)であることが分かる。)。
そして、当該エンジン潤滑油組成物は、【0009】、【0010】、【0015】に記載されるとおり、自動車、なかでも排ガス浄化装置を備えたディーゼルエンジン搭載車において好適に用いられる、低灰分含量(低硫酸灰分含量)、低リン含量、そして低硫黄含量の環境対応型のエンジン潤滑油組成物を予定したものであり、このことは、実際、上記[実施例1]の潤滑油組成物が、【0073】?【0076】に記載されるとおり、自動車用ディーゼルエンジン試験であるJASO清浄性試験(M336-98)及びJASO動弁系摩耗試験(M354-99)に供されていることからも分かる(なお、「JASO清浄性試験(M336-98)」及び「JASO動弁系摩耗試験(M354-99)」が、自動車用ディーゼルエンジン油の品質規格である点については、「自動車用ディーゼル機関潤滑油規格(JASO M 355:2017)の運用マニュアル」(URL「http://www.jalos.or.jp/onfile/pdf/DH_J1706.pdf」参照)の「3.2 規格制定の経緯」などを参酌した。)。
そうすると、引用文献1には、[実施例1]として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。
「下記の基油に下記の添加剤を添加混合して調製した潤滑油組成物(含有量は、潤滑油組成物全量を基準にしたものであり、基油と添加剤の各含有量は、合計すると、基油:85.54質量%、添加剤:14.46質量%である。)であって、該潤滑油組成物の化学的特性が、硫酸灰分:0.49質量%、リン(P)量:0.075質量%、硫黄(S)量:0.3質量%、塩素(Cl)量:5質量ppm未満、ZnDTP-1のリン量/ZnDTP-2のリン量=67/33(質量比)、アルカリ金属ホウ酸塩のアルカリ金属/無灰分散剤の窒素=1/3.5(質量比)である、自動車用ディーゼルエンジン潤滑油組成物。
<基油>
水素化分解鉱油A(100℃における動粘度が6.5mm^(2)/sで、粘度指数が132、蒸発損失(ASTM D5800)が5.6質量%、硫黄含有量が0.001質量%未満、芳香族分が9質量%)と水素化分解鉱油B(100℃における動粘度が4.1mm^(2)/sで、粘度指数が127、蒸発損失(ASTM D5800)15質量%、硫黄含有量0.001質量%未満、芳香族分8質量%)とを65:35の質量比で混合した基油
<添加剤>
無灰性分散剤A(添加量:0.51質量%、窒素量換算添加量:0.01質量%)
無灰性分散剤B(添加量:6.0質量%、窒素量換算添加量:0.06質量%)
金属含有清浄剤A(添加量:0.75質量%、カルシウム量換算添加量:0.07質量%)
金属含有清浄剤B(添加量:0.83質量%、カルシウム量換算添加量:0.02質量%)
ZnDTP-1(添加量:0.69質量%、リン量換算添加量:0.05質量%)
ZnDTP-2(添加量:0.34質量%、リン量換算添加量:0.025質量%)
酸化防止剤A(添加量:0.2質量%)
酸化防止剤B(添加量:0.2質量%)
酸化防止剤C(添加量:0.2質量%)
アルカリ金属ホウ酸塩水和物(添加量:0.24質量%、カリウム量換算添加量:0.02質量%)
VII(添加量:4.2質量%)
PPD(添加量:0.3質量%)
ここで、各添加剤成分の詳細は、以下のとおりである。
・無灰性分散剤A:ホウ素含有コハク酸イミド分散剤[窒素含量:1.95質量%、ホウ素含量:0.66質量%、塩素含量:5質量ppm未満、数平均分子量が約1300のポリブテン(少なくとも50%以上がメチルビニリデン構造を有する)と無水マレイン酸とから熱反応法で製造し、これを平均窒素原子数6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンと反応させ、ついで得られたビス型コハク酸イミドをホウ酸で反応処理したもの]
・無灰性分散剤B:炭酸エチレン反応処理コハク酸イミド分散剤[窒素含量:1.0質量%、塩素含量:30質量ppm、数平均分子量約2300のポリブテン(少なくとも50%以上がメチルビニリデン構造を有する)と無水マレイン酸とから熱反応法で製造し、次いで、これを平均窒素原子数6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンと反応させ、ついで得られたビス型コハク酸イミドを炭酸エチレンで反応処理したもの]
・金属含有清浄剤A:硫化カルシウムフェネート(Ca:9.3質量%、S:3.4質量%、TBN:255mgKOH/g)
・金属含有清浄剤B:カルシウムスルホネート(Ca:2.4質量%、S:2.9質量%、TBN:17mgKOH/g)
・ZnDTP-1(ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛):ジアルキルジチオリン酸亜鉛(P:7.2質量%、Zn:7.85質量%、S:14質量%、原料として炭素原子数3?8の第二級アルコールを使用して製造したもの)
・ZnDTP-2(ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛):ジアルキルジチオリン酸亜鉛(P:7.3質量%、Zn:8.4質量%、S:14質量%、原料として炭素原子数8の第一級アルコールを使用して製造したもの)
・酸化防止剤A:アミン系化合物[ジアルキルジフェニルアミン(アルキル基:C_(4)とC_(8)の混合)、N:4.6質量%、TBN:180mgKOH/g]
・酸化防止剤B:フェノール系化合物[3-(3、5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル]
・酸化防止剤C:モリブデン(Mo)化合物[硫黄を含有するオキシモリブデン-コハク酸イミド錯体化合物(Mo:5.5質量%、S:0.2質量%、TBN:10mgKOH/g)
・アルカリ金属ホウ酸塩水和物:ホウ酸カリウム水和物の微粒子分散体(実験式KB_(3)O_(5)・H_(2)O、K:8.3質量%、B:6.8質量%、S:0.26質量%、TBN:125mgKOH/g)
・VII(粘度指数向上剤):非分散型のエチレンプロピレン共重合体
・PPD(流動点降下剤):ポリメタクリレート系化合物」

4 本願発明と引用発明との対比
本願発明に係る潤滑油組成物と引用発明に係る潤滑油組成物とを対比する。
(1) 対応関係
ア 両者の用途についてみると、引用発明は、「自動車用ディーゼルエンジン潤滑油組成物」であるから、その用途は、本願発明の「自動車エンジン用」に包含されるものである。
イ 両者の硫黄分、リン分及び硫酸灰分の含有量についてみると、引用発明の硫黄分、リン分及び硫酸灰分の含有量は、それぞれ「0.3質量%」、「0.075質量%」及び「0.49質量%」であるから、本願発明が規定する「0.3質量%以下」、「0.09質量%以下」及び「1.6質量%以下」という数値範囲を満足するものである。
ウ 両者の基油についてみると、本願発明の「各フィッシャー・トロプシュ合成基油は炭素100個当りのアルキル分枝が12個以下のパラフィン系炭化水素成分を含有する、少なくとも60重量%の一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油」と引用発明の「基油」とは、基油である点で共通する。
エ 両者の添加剤についてみると、引用発明の「無灰性分散剤A(ホウ素含有コハク酸イミド分散剤)」及び「無灰性分散剤B(炭酸エチレン反応処理コハク酸イミド分散剤)」は、本願明細書の【0064】に無灰分散剤として「コハク酸イミド分散剤」が例示されていることもあり、本願発明における「一種以上の無灰分散剤」に相当するものといえる。
引用発明における「金属含有清浄剤A(硫化カルシウムフェネート)」(TBN=255)及び「金属含有清浄剤B(カルシウムスルホネート)」(TBN=17)は、本願明細書の【0058】に「TBNが約17の低過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤、およびTBNが約260の高過塩基性硫化カルシウムフェネートは、本発明の潤滑油組成物における典型的な二つの過塩基性清浄剤である。」と例示されていることもあり、それぞれ本願発明における「TBNが100以上の高過塩基性清浄剤」及び「全塩基価(TBN)が100以下の低過塩基性清浄剤」に相当するものといえる。
引用発明における「ZnDTP-1(ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛)」及び「ZnDTP-2(ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛)」は、本願明細書の【0076】に「二炭化水素ジチオリン酸の金属塩は、耐摩耗性添加剤および酸化防止剤として頻繁に使用されている。金属は、アルカリ又はアルカリ土類金属であっても、またはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルあるいは銅であってもよい。亜鉛塩が潤滑油にもっとも普通に使用され、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1乃至約10質量%、好ましくは約0.2乃至約2質量%の量である。」と記載されていることもあり、本願発明における「ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩」に包含されるものであり、特に、第二級アルコールを使用して製造した「ZnDTP-1」は、引用文献1の【0033】に記載されるとおり、摩耗防止の効果を期待して添加されたものであるから、本願発明における「一種以上の耐摩耗性添加剤」に相当するものともいえる。そして、当該「ZnDTP-1」のリン量換算添加量は0.05質量%であるから、本願発明におけるリン分の規定である「0.03乃至0.075質量%」を満足する(なお、当該「ZnDTP-1」と「ZnDTP-2」の両者を「耐摩耗性添加剤」と解釈しても、それらのリン量換算添加量は合算して0.075質量%であるから、依然として、本願発明のリン分の規定を満足する。)。
引用発明における「酸化防止剤A(アミン系化合物)」及び「酸化防止剤B(フェノール系化合物)」は、それぞれ本願発明における「アミン系酸化防止剤」及び「フェノール系酸化防止剤」に相当するものである。
以上より、引用発明は、本願発明における(b)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分に相当する添加剤をすべて含むものということができる。
(2) 一致点
上記(1)より、本願発明と引用発明は、次の点で一致するものと認められる。
「下記の成分の混合物を含む自動車エンジン用潤滑油組成物であって、該潤滑油組成物の全質量に基づき、硫黄分が0.3質量%以下、リン分が0.09質量%以下、そして硫酸灰分が1.6質量%以下である潤滑油組成物:
(a)基油、
(b)一種以上の無灰分散剤、
(c)全塩基価(TBN)が100以下の低過塩基性清浄剤とTBNが100以上の高過塩基性清浄剤の混合物、ただし両塩基性清浄剤のTBNが共に100であることはない、混合物、
(d)ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩を含有する一種以上の耐摩耗性添加剤であって、潤滑油組成物の0.03乃至0.075質量%のリン分を構成する一種以上の耐摩耗性添加剤、および
(e)フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤からなる群から選択される一種以上の酸化防止剤。」
(3) 相違点
そして、両者は、次の点で相違するものと認められる。
・相違点:基油として、本願発明は、「(a)各フィッシャー・トロプシュ合成基油は炭素100個当りのアルキル分枝が12個以下のパラフィン系炭化水素成分を含有する、少なくとも60重量%の一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油」を用いているのに対して、引用発明は、「水素化分解鉱油A(100℃における動粘度が6.5mm^(2)/sで、粘度指数が132、蒸発損失(ASTM D5800)が5.6質量%、硫黄含有量が0.001質量%未満、芳香族分が9質量%)と水素化分解鉱油B(100℃における動粘度が4.1mm^(2)/sで、粘度指数が127、蒸発損失(ASTM D5800)15質量%、硫黄含有量0.001質量%未満、芳香族分8質量%)とを65:35の質量比で混合した基油」を用いている点。

5 相違点についての検討
(1) 天然ガスから合成ワックスを経て潤滑油基油を誘導する一般的な手法について
ア はじめに、天然ガスから合成ワックスを経て潤滑油基油を誘導する一般的な手法について整理しておくと、天然ガスを出発原料として、最終的に潤滑油基油を誘導する場合、一般的には、まず天然ガスから合成ガスを製造し、該合成ガスをフィッシャー・トロプシュ合成により合成ワックス(フィッシャー・トロプシュワックス)を生成し、該合成ワックスを、水素化分解・異性化・脱ろうなどの処理に供することにより、潤滑油基油を製造するのが通例であると認められる。
なお、当該一般的な手法の整理にあたっては、下記の参考文献を参酌した。
<参考文献1>(文末に掲載した。)
石油技術協会誌、第70巻、第2号(平成17年3月)、第177?186頁(特に、「3. GTLプロセスの概要」、「4.1 代表的なGTL製品」、図2、表1参照)
当該参考文献1には、狭義のGTL(Gas To Liquids)(フィッシャー・トロプシュ合成プロセス)による潤滑油ベースオイル(GTL潤滑油基油)の製造技術について記載され、具体的には、天然ガスから合成ガスを得て、これをフィッシャー・トロプシュ合成し、生成されたワックスを水素化分解などして基油が製造される過程について説明され、表1には、当該GTL潤滑油基油は、硫黄分がなく、高粘性指数(高粘度指数)で、熱安定性に優れていることも記載されている。
<参考文献2>
特表2004-528413号公報(特に、【0003】?【0005】、【0037】参照)
当該参考文献2には、天然ガス中のメタンを合成ガスに転化し、これをフィッシャー・トロプシュ合成し、得られたワックスを、水素化分解など、水素化転化して、潤滑油基油が製造されることについて記載されている。
イ ここで、本願発明におけるフィッシャー・トロプシュ合成基油の製造方法についてもみておくと、本願明細書には、当該製造方法に関して、次のように記載されている。
・「【0015】
・・・天然ガスから潤滑油基油を製造するには、殆どがメタンである天然ガスを、一酸化炭素と水素の混合物である合成ガス又は「合成ガス(syngas)」に変換することが必要である。・・・
【0016】
合成ガスを、数ある中でも潤滑油基油を含む生成物流に変換するために、フィッシャー・トロプシュ法が用いられている。・・・」
・「【0033】
[潤滑粘度の油]
1)フィッシャー・トロプシュ合成基油
・・・
【0034】
本発明のエンジン潤滑油組成物に用いられる一種以上の基油のうち少なくとも一種はFTBOである。前述したように、フィッシャー・トロプシュ合成基油は元々天然ガスからフィッシャー・トロプシュ化学法により誘導される。」
・「【0040】
好適なFTBOは当該分野で知られた方法により製造することができるが、それらの多くは、フィッシャー・トロプシュ合成生成物の何等かの水素化異性化と、それに続く高沸点留分の脱ろう工程とを含んでいる。」
これらの段落において説明されている、フィッシャー・トロプシュ合成基油の製造方法は、上記アにおいて整理した、天然ガスから合成ワックスを経て潤滑油基油を誘導する一般的な手法にほかならないから、本願発明においても、当該一般的な手法が採用されていることを理解することができる。
(2) 引用文献1に記載された事項(基油についての教示と基油に求められている特性に関する事項)
ア 基油についての教示
引用発明における基油は、水素化分解鉱油Aと水素化分解鉱油Bを混合したものであるところ、当該水素化分解鉱油につき、引用文献1の【0017】には、次のように記載されている(下線は当審において付したもの)。
「鉱油系基油は、鉱油系潤滑油留分を溶剤精製あるいは水素化処理などの処理方法を適宜組み合わせて利用して処理したものであることが望ましく、特に高度水素化精製(水素化分解)基油(例えば、粘度指数が100?150、芳香族含有量が5質量%以下、窒素および硫黄の含有量がそれぞれ50ppm以下である基油)が好ましく用いられる。この中には、鉱油系スラックワックス(粗ろう)あるいは天然ガスから合成された合成ワックスを原料として異性化および水素化分解のプロセスで作られる高粘度指数基油が含まれる。水素化分解基油は、低硫黄分、低蒸発性、残留炭素分が少ないなどの点から、本発明の目的上好ましいものである。最も好ましい潤滑油基油は、蒸発損失(ASTM D5800)が15質量%以下、芳香族含有量が10質量%以下、硫黄含有量が0.01質量%以下の鉱物油であるか、あるいは該鉱物油を10質量%以上含有する基油混合物である。」
当該記載から、引用文献1には、鉱油系基油の好適な例として、高度水素化精製(水素化分解)基油が示され、具体的には、鉱油系スラックワックス(粗ろう)あるいは天然ガスから合成された合成ワックスを原料として異性化および水素化分解のプロセスで作られる高粘度指数基油が挙げられていることが分かる。
そして、ここでいう「天然ガスから合成された合成ワックスを原料として異性化および水素化分解のプロセスで作られる高粘度指数基油」とは、上記(1)において整理した、天然ガスから合成ワックスを経て潤滑油基油を誘導する一般的な手法に照らすと、まさに、この一般的な手法により誘導された潤滑油基油、すなわち、本願発明でいう「フィッシャー・トロプシュ合成基油」を指すものと考えるのが合理的である。
そうすると、引用文献1の上記【0017】の記載に接した当業者は、好適な鉱油系基油についての教示として、水素化分解鉱油に当たる「フィッシャー・トロプシュ合成基油」を看取するというべきである。
イ 基油に求められている特性(引用発明の基油に内在する課題)
また、引用発明の基油に求められている特性について考えてみると、引用文献1の上記【0017】には、「高粘度指数」、「低硫黄分」といった特性が示されているから、引用発明の基油には、これらの特性が所望されているといえる。
さらに、引用文献1の【0019】には、「一般に合成油は実質的に硫黄分を含まず、酸化安定性、耐熱性に優れ、いったん燃焼すると残留炭素や煤の生成が少ないので、潤滑油組成物の基油として優れている。」と記載されているから、引用発明の基油には、「酸化安定性」や「耐熱性(熱安定性)」に優れたものが期待されていると解するのが合理的である。
なお、これらの特性は、潤滑油組成物の基油に求められている一般的な特性であるということもできる。
(3) 引用文献3に記載された事項(特定構造のフィッシャー・トロプシュ合成基油に関する事項)
ア 引用文献3の【請求項1】(便宜上、当審訳として使用した特表2007-508441号公報の対応箇所により代用した。引用文献3の該当箇所を指摘する場合は、以下同じ。)に記載された「潤滑剤基油」は、【請求項11】の記載からみて、フィッシャー-トロプシュ合成方法から誘導される基油を予定したものであるといえるから、引用文献3には、次の基油(以下、「引用文献3記載の基油」という。)が記載されていると認められる。
「分枝の程度が100個の炭素当たり8アルキル分枝未満であり、アルキル分枝の20重量%未満が2位置のものであるパラフィン系炭化水素成分を含む、フィッシャー-トロプシュ合成方法から誘導される潤滑剤基油であって、その潤滑剤基油が-8℃未満の流動点;約3.2cSt以上の、100℃での動粘度;及び下記方程式:
目標粘度指数=22 x ln(100℃での動粘度) + 132
により計算されたときの目標粘度指数より大きい粘度指数を有する、該潤滑剤基油。」
イ そうすると、本願発明において用いられている、炭素100個当りのアルキル分枝が12個以下のパラフィン系炭化水素成分を含有するフィッシャー・トロプシュ合成基油(以下、「本願発明に係る特定構造のフィッシャー・トロプシュ合成基油」という。)自体は、引用文献3に既に記載されているということができる。
加えて、引用文献3における基油の製造方法に関する記載、具体的には、【0056】(供給原料について)、【0057】(フィッシャー-トロプシュ合成について)、【0067】(水素異性化・水素化分解について)、【0084】(溶媒脱ワックスについて)及び【0094】(水素仕上げについて)の記載からみて、上記「引用文献3記載の基油」は、上記(1)アにおいて整理した一般的な手法と同様の手法により製造されたものと解されるとともに、これは、上記(2)アに記載した、引用文献1が教示する「天然ガスから合成された合成ワックスを原料として異性化および水素化分解のプロセスで作られる高粘度指数基油」に該当するものということができる。
ウ また、上記「引用文献3記載の基油」の使用形態や特性についてみると、「引用文献3記載の基油」は、潤滑剤基油として単独で用いることができるものであり(【0109】)、最終的には、添加剤と混合され、自動車などの用途に用いることができる仕上げ潤滑剤(本願発明の潤滑油組成物に相当するもの)として使用されるものであって、当該仕上げ潤滑剤の70%より大きくを占めることが可能であることが分かる(【請求項25】、【0113】)。
そして、当該「引用文献3記載の基油」は、APIグループIII基油(水素化分解鉱油)として分類されるものであって、「約5ppm未満の総硫黄含有量」という低硫黄分を実現し(【0098】、【0099】)、「粘度指数は極めて高く」(【0104】)、「極めて低い量の芳香族類及び多環ナフテン類を有するので、潤滑剤基油は優れた酸化安定性を有する」(【0107】)という特性を有するものである。
(4) 相違点に係る本願発明の構成についての容易想到性の判断
上記(1)?(3)を踏まえて、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項(基油に関する構成)の容易想到性について検討する。
ア 引用発明は、基油として水素化分解鉱油を用いているが、その製造過程は明らかではないから、これが、引用文献1において教示されている、水素化分解鉱油に当たる「フィッシャー・トロプシュ合成基油」(上記(2)ア参照)であるか否かは不明である。
イ しかしながら、引用文献1には、基油として「天然ガスから合成された合成ワックスを原料として異性化および水素化分解のプロセスで作られる高粘度指数基油」(フィッシャー・トロプシュ合成基油)が好適である旨の教示があり(上記(2)ア参照)、なおかつ、当該基油には、「高粘度指数」、「低硫黄分」、「酸化安定性」、「耐熱性(熱安定性)」といった特性が求められていることが示されているのであるから(上記(2)イ参照)、引用発明の基油として、当該教示と特性に合致する基油を探求すること自体は、当業者が単に通常能力を発揮したにすぎないのであって、この点に、格別の困難性を見いだすことは到底できない。
そして、当該教示と特性に合致する基油を具体的に選択するにあたり、上記(3)アの「引用文献3記載の基油」(「本願発明に係る特定構造のフィッシャー・トロプシュ合成基油」に相当)を選定することは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。
すなわち、当該「引用文献3記載の基油」は、上記(3)イのとおり、引用文献1が教示する基油に合致するものである上、上記(3)ウのとおり、引用文献1において求められている基油の特性を有していることまで分かっているのであるから、上記引用文献1記載の教示と特性に鑑みて(これらを動機付けとして)、引用発明の基油として、上記教示と特性に合致することが分かっている「引用文献3記載の基油」を選択することは、当業者にとって容易なことというべきであり、これを阻害する要因も見当たらない。
なお、本願発明の基油は、「少なくとも60質量%の一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油」と特定され、その含有量についても規定するものであるが、引用発明の基油は既に、潤滑油組成物の85質量%程度を占めるものであるとともに、これに代わる「引用文献3記載の基油」も同程度での使用を許容するものであるから(上記(3)ウ参照)、当該含有量についての規定により、引用発明との間に本質的な相違点が生じるとも、本願発明に進歩性を見いだすことができるともいえない。
ウ また、本願発明が、「本願発明に係る特定構造のフィッシャー・トロプシュ合成基油」を採用することにより得ることができる作用効果についてみても、当業者の予測の範疇のものというべきであり、本願発明の進歩性を認めるに足りるほどのものともいえない。
すなわち、本願明細書には、特に【0038】をみても、アルキル分枝の個数を規定することによる、潤滑油基油(潤滑油組成物)の特性への影響を把握するに足りる記載は見当たらず、また、【実施例】をみても、基油について詳述された【0104】には、実際に使用したFTBO(フィッシャー・トロプシュ合成基油)のアルキル分枝の個数については何ら記載されてされていないから、【0108】の第2表に記載された試験結果(なお、当該試験は、【0106】の記載からみて、熱安定性を評価するものであり、当該熱安定性のうち、特に酸化と堆積物蓄積に着目したものであるといえる。)を、本願発明(特に「本願発明に係る特定構造のフィッシャー・トロプシュ合成基油」)によるものとして受け入れることはできない。
仮に、同試験結果が、本願発明によるものであるとしても、(i)引用文献3には、「引用文献3記載の基油」は酸化安定性に優れたものであることが記載され、さらには、当業者は既に「フィッシャー・トロプシュ合成基油」は一般に熱安定性に優れたものであることを理解していること、(ii)同試験結果にみられる試料油AとBの違いは、両者の添加剤が共通していることから、使用した基油の特性の違いに依拠するところが大きいと解されるところ、本願明細書では、基油の特性、殊に、基油の熱安定性(酸化安定性)に関する機序につき、その【0039】に、「FTBO中の芳香族炭化水素と多環ナフテンの量が非常に少ないために、FTBOは優れた酸化安定性を示す。」と説明されるにとどまり(ただし、当該記載は、特定のアルキル分枝の個数を有するものではなく、一般的なフィッシャー・トロプシュ合成基油について言及されたものと解される。)、その上、このような機序は、引用文献3の【0107】において、「引用文献3記載の基油」の酸化安定性の機序として既に述べられている事項にすぎないこと、を併せ考えると、本願発明における熱安定性(酸化安定性)に関する作用効果は、引用文献3の「引用文献3記載の基油」を採用すれば当然に得られる効果として、当業者は予想し得るというべきである。
エ 審判請求書における審判請求人の主張に触れておくと、審判請求人は、本願明細書の【0108】の第2表のパネル・コーカー堆積試験の結果から、本願発明の顕著な作用効果を主張しているが、以下に示す(i)?(iii)を総合すると、当該堆積試験の結果も当業者の予測の範疇のことというほかないから、当該主張を採用して、本願発明の進歩性を認めることはできない。 (i)上記(4)ウのとおり、当該結果が、本願発明によるものであるとは言い切れないこと。
(ii)当該堆積試験は、熱安定性試験の一環としてなされたものであるところ、当業者は既に、「フィッシャー・トロプシュ合成基油」は一般に熱安定性に優れたものであることを理解していること(上記(1)アの参考文献1の表1に記載された「GTL潤滑油基油」の欄参照)。
(iii)本願明細書の【0061】の記載(「分散剤は一般に、使用中に酸化により生じた不溶性物質を懸濁状態で維持して、それによりスラッジの凝集や沈殿または金属部分への堆積を防ぐために使用される。」)からみて、当該堆積は、酸化に起因して生じるものであると解され、結局、該堆積試験の結果は、酸化安定性の優劣に依存するものと考えられるところ、引用文献3には既に、「引用文献3記載の基油」は酸化安定性に優れたものであることが記載されていること。
また、審判請求人は、引用文献1記載の基油(引用発明の基油)を置換する動機付けが存在しないことや、潤滑油組成物を配合することは単純なことではなく、エンジン用の新規な潤滑油を配合することは困難なことであることについても主張している。しかしながら、当該動機付けが存在することは、上記(4)イのとおりであるし、新規な潤滑油の配合には、確かに多大な時間を要するなどの相当の困難性を伴うものであるとしても、そのことが直ちに、上記容易想到性の判断(本願発明の進歩性の判断)を覆す理由になるわけではないから、当該主張も採用できない。
オ 小括
以上の検討のとおりであるから、審判請求書における審判請求人の主張を考慮しても、本願発明は、引用発明及び引用文献1、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができるものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

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参考文献1:

 
審理終結日 2017-09-27 
結審通知日 2017-09-28 
審決日 2017-10-12 
出願番号 特願2014-128784(P2014-128784)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馬籠 朋広  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 日比野 隆治
井上 能宏
発明の名称 熱安定性が向上したエンジン潤滑剤  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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