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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1337768
審判番号 不服2017-10634  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-18 
確定日 2018-03-20 
事件の表示 特願2012-185491号「車両用制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年3月13日出願公開、特開2014-43788号、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月24日の出願であって、平成28年4月21日付けで拒絶理由が通知され、平成28年6月16日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年9月27日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成28年12月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年4月11日付けで平成28年12月5日の手続補正が決定をもって却下され、同日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して、平成29年7月18日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成29年4月11日付けの補正の却下の決定及び原査定の理由の概要
1.平成29年4月11日付けの補正の却下の決定の概要は以下のとおりである。
平成28年12月5日提出の手続補正書による補正(以下、「当該補正」という。)は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるが、当該補正後の請求項1に係る発明は、引用例1及び2に記載された発明と引用例3及び4の記載に示されるような周知技術とに基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、当該補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2.原査定の理由(平成28年9月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由)の概要は以下のとおりのものである。
・理由(特許法第29条第2項について)
・請求項1
・引用例1及び2
・備考
引用例1には、エンジン自動停止条件が成立した場合に、エンジンのアイドル運転を停止してエンジンを自動停止させるアイドルストップを行わせ、アイドルストップによりエンジンを自動停止させている際、予め設定しておいたエンジンの再始動条件が成立した場合に、エンジンを再始動させるアイドルストップ制御装置と、障害物との衝突回避が困難となる可能性を検出するステレオカメラ、前方環境認識装置(検出手段)と、ステレオカメラ、前方環境認識装置の情報に基づいて、自車両と障害物との距離が、衝突回避が困難となる限界距離以下となったときに自動ブレーキの介入による制動制御を実行する衝突防止制御装置と、自動ブレーキの介入により制動制御を実行した際に、アイドルストップ制御装置によるアイドルストップを禁止する手段と、を備えた車両の制御装置、が記載されている(特に段落【0014】、【0019】ないし【0023】、【0026】ないし【0028】、【0045】を参照されたい。)。
引用例2には、車速が零まで下がった後、車速が所定値以上になったことで運転者による走行の意志があると判断された場合にエンジンの自動停止の禁止を解除する構成、が記載されている(特に【請求項2】、段落【0007】、【0023】ないし【0024】、【0027】、【0026】ないし【0028】、【0045】を参照されたい。)。
引用例1及び2に記載された発明は、ともにアイドルストップ制御の禁止及び実行を制御するという共通の機能を有しているので、引用例1に記載された発明のアイドルストップ制御の禁止を解除する条件として、引用例2に記載された発明の、車速が零まで下がった後、車速が所定値以上になったことで運転者による走行の意志があると判断された場合にエンジンの自動停止の禁止を解除する構成を適用することは、当業者にとって容易に想到し得たことである。

引用例一覧
1.特開2012-116299号公報
2.特開2006-104977号公報
3.特開平10-147222号公報
4.特開2008-150001号公報

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、出願当初の明細書及び平成29年7月18日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】
車両の駆動源の駆動中に所定の停止条件が成立したことに応答して、前記駆動源を自動停止させ、前記駆動源の自動停止中に所定の再始動条件が成立したことに応答して、前記駆動源を再始動させるアイドルストップ手段と、
前記車両とその前方の障害物との衝突可能性を検出する検出手段と、
前記検出手段による衝突可能性の検出に基づいて、前記車両のブレーキを自動的に作動させて、前記車両を停止させる自動制動手段と、
前記自動制動手段による前記ブレーキの作動の際に、前記アイドルストップ手段による前記駆動源の自動停止を禁止する禁止手段と、
前記自動制動手段による前記車両の停止から所定時間が経過して前記自動制動手段による前記ブレーキの作動が解除された後、前記車両の車速が所定車速以上に達したことにより、前記車両が運転者の意志による走行状態に復帰したときに、前記車両とその前方の障害物との距離が十分に確保されていなくても、前記禁止手段による前記駆動源の自動停止の禁止を解除する解除手段とを含む、車両用制御装置。」

第4 引用例、引用発明等
1.引用例1(特開2012-116299号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の出願前に頒布された上記引用例1には、「車両のアイドルストップ制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)

(1)引用例1の記載事項
1a)「【請求項1】
予め設定しておいた運転条件が成立する場合にエンジンのアイドル運転を停止して上記エンジンを自動停止させる車両のアイドルストップ制御装置において、
自車両の前方環境情報を取得する前方環境認識手段と、
上記自車両の前方環境情報に基づいて自車両に対する障害物を認識する障害物認識手段と、
上記自車両の前方環境情報と上記障害物情報と停止するまでの自車両の運転状態の少なくとも一つに応じて自車両が上記障害物に対して危険回避のための車両停止を実行したか否かを判断する危険回避停止判断手段と、
上記危険回避停止判断手段で、自車両が上記障害物に対して危険回避のための車両停止を実行したと判断した場合に、上記エンジンの自動停止を禁止させるアイドルストップ禁止手段と、
を備えたことを特徴とする車両のアイドルストップ制御装置。」(【特許請求の範囲】)の【請求項1】)

1b)「【請求項7】
上記障害物と自車両との衝突を自動ブレーキを作動させて回避する衝突防止制御手段を有し、
上記危険回避停止判断手段は、上記障害物に対して停止した際、該停止が上記衝突防止制御手段の自動ブレーキ作動による車両停止の場合は、自車両が危険回避のための車両停止を実行したと判断することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の車両のアイドルストップ制御装置。」(【特許請求の範囲】)の【請求項7】)

1c)「【0019】
衝突防止制御装置30は、上述の前方環境認識装置20からの障害物情報に基づいて、自車両1の前方の立体物等の制御対象が認識されているときに、例えば、特開2009-262701号公報に記載される方法により、自車両1と制御対象との衝突防止制御を実行する衝突防止制御手段として設けられている。この衝突防止制御は、具体的には、ブレーキ介入距離として、例えば、制御対象を基準とする第1,第2のブレーキ介入距離D1,D2を設定する(図5参照)。
【0020】
ここで、第1のブレーキ介入距離D1は、制御対象との衝突回避が制動によっても操舵によっても困難となる限界距離(衝突回避限界距離)であり、例えば、予め実験やシミュレーション等に基づいて設定されている。この衝突回避限界距離は、例えば、自車両1と制御対象との相対速Vrelに応じて変化し、さらに、自車両1と制御対象とのラップ率Rlによって変化する。衝突防止制御装置30には、例えば、図4に示すように、自車両1と制御対象との相対速Vrel及びラップ率Rlと第1のブレーキ介入距離D1との関係を示すマップが予め設定されて格納されており、衝突防止制御装置30は、このマップを参照して第1のブレーキ介入距離D1を設定する。
【0021】
また、第2のブレーキ介入距離D2は、第1のブレーキ介入距離D1よりも所定に長い距離に設定される。具体的には、第2のブレーキ介入距離D2は、例えば、予め実験やシミュレーション等に基づいて設定されるもので、相対速Vrelに応じた所定距離だけ衝突回避限界距離よりも自車両側に延長された距離が設定されている。衝突防止制御装置30には、例えば、図4に示すように、自車両1と制御対象との相対速Vrel及びラップ率Rlと第2のブレーキ介入距離D2との関係を示すマップが予め設定されて格納されており、衝突防止制御装置30は、このマップを参照して第2のブレーキ介入距離D2を設定する。
【0022】
そして、衝突防止制御装置30は、相対距離dが第1のブレーキ介入距離D1以下となったとき、自動ブレーキの介入による制動制御(以下、本格制動制御ともいう)を実行する。この本格制動制御において、衝突防止制御装置30は、例えば、制動制御により発生すべき減速度(目標減速度)、及び、この目標減速度を発生させる際に許容する減速度の変化量(減速度変化量)として予め設定された固定値をそれぞれセットし、これらに基づいて減速度指示値を演算する。そして、衝突防止制御装置30は、演算した減速度指示値をブレーキ駆動部15に出力することにより、自動ブレーキを作動(介入)させる。
【0023】
また、衝突防止制御装置30は、相対距離dが第1のブレーキ介入距離D1よりも大きく且つ第2のブレーキ介入距離D2以下であるとき、本格制動制御に先立ち、自動ブレーキの介入による制動制御(以下、拡大制動制御ともいう)を実行する。この拡大制動制御において、衝突防止制御装置30は、例えば、目標減速度及び減速度変化量をそれぞれ可変設定し、これらに基づいて減速度指示値を演算する。そして、衝突防止制御装置30は、演算した減速度指示値をブレーキ駆動部15に出力することにより、自動ブレーキを作動(介入)させる。」(段落【0019】ないし【0023】)

1d)「【0025】
アイドルストップ制御装置40には、上述の前方環境認識装置20から認識した道路情報、障害物情報が、衝突防止制御装置30から衝突防止制御の作動信号が、車速センサ51から自車速Voが、ハンドル角センサ52からハンドル角θHが、前後加速度センサ53から車体の前後加速度Gxが、シフトレバー位置センサ54からシフトレバー位置が、ブレーキペダル踏み込み量センサ55からブレーキペダルの踏み込み量が、アクセルペダル踏み込み量センサ56からアクセルペダルの踏み込み量が入力される。
【0026】
そして、アイドルストップ制御装置40には、通常、予め設定しておいた運転条件(エンジン自動停止条件:アイドルストップ実行条件)が成立した場合に、エンジン制御装置50に信号を出力して、エンジン2のアイドル運転を停止してエンジン2を自動停止させるアイドルストップを行わせるが、エンジン2の自動停止が許可されていない場合(アイドルストップの実行を禁止する場合)には、アイドルストップの実行を禁止する。」(段落【0025】及び【0026】)

1e)「【0040】
一方、上述のS102で、アイドルストップ実行条件が成立していない場合は、S106に進み、エンジン自動停止中(アイドルストップ中)か否か判定し、アイドルストップ中ではない場合は、そのままプログラムを抜け。また、アイドルストップ中の場合は、S107に進んで、エンジン制御装置50に信号を出力してエンジン2を再始動させてプログラムを抜ける。」(段落【0040】)

1f)「【0044】
S201からS202へと進むと、前方環境認識装置20の認識により、障害物が検出されているか否か判定され、障害物が検出されていない場合は、S203に進んで、エンジン自動停止許可としてルーチンを抜ける。
【0045】
また、障害物が検出されている場合は、S204に進み、自車両1が障害物に対して停止した際、該停止が衝突防止制御装置30の自動ブレーキ作動による車両停止か否か判定される。このS204の判定の結果、衝突防止制御装置30の自動ブレーキ作動による車両停止の場合は、自車両1が危険回避のための車両停止を実行した(上述の(1)の場合)と判断してS205に進み、エンジン自動停止を禁止としてルーチンを抜ける。」(段落【0044】及び【0045】)

1g)「【0060】
このように本発明の実施の形態によれば、通常、予め設定しておいたアイドルストップ実行条件が成立した場合に、エンジン制御装置50に信号を出力して、エンジン2のアイドル運転を停止してエンジン2を自動停止させるアイドルストップを行わせるが、自車両1の前方環境情報と障害物情報と停止するまでの自車両1の運転状態の少なくとも一つに応じて自車両1が障害物に対して危険回避のための車両停止を実行したか否かを判断し、自車両1が障害物に対して危険回避のための車両停止を実行したと判断した場合は、エンジンの自動停止を禁止する。このため、実際の様々な運転シーンに即して、自車両1の障害物に対しての危険回避のための車両停止を精度良く判定して不要なアイドルストップのみを適切に抑制し、アイドルストップによる燃費の低減や、排気ガスの低減の効果を十分に得ることが可能となる。」(段落【0060】)

(2)上記(1)及び図面から分かること
1h)上記(1)1c)の記載を総合すると、衝突防止制御装置30は、自車両1と前方の立体物等との相対距離dと相対速Vrelから導かれた第1、第2のブレーキ介入距離D1,D2に基づいて衝突の危険を検出することが分かる。

(3)引用発明
上記(1)、(2)及び図面からみて、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「エンジン2のアイドル運転中に予め設定しておいた運転条件が成立する場合に、エンジン2を自動停止させ、エンジン2の自動停止中に前記予め設定しておいた運転条件が成立していない場合に、エンジン2を再始動させる車両のアイドルストップ制御装置と、
自車両1と障害物との衝突の危険を検出する衝突防止制御装置30と、
衝突防止制御装置30による衝突の危険の検出に基づいて、自動ブレーキを介入させて、自車両1を停止させるブレーキ駆動部15と、
ブレーキ駆動部15による自動ブレーキ作動の際に、車両のアイドルストップ制御装置によるエンジン2の自動停止を禁止する手段とを含む、車両用制御装置。」

2.引用例2(特開2006-104977号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の出願前に頒布された上記引用例2には、「エコラン制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)引用例2の記載事項
2a)「【請求項1】
所定の停止条件が満たされた場合にエンジンを停止させるエコラン制御装置において、
当該車両への衝撃を検出する衝撃検出手段を有し、
前記衝撃検出手段により衝撃が検出された場合、前記エンジンの停止を禁止することを特徴とするエコラン制御装置。
【請求項2】
車速が所定以上となった場合、又は、前記エンジンの停止を禁止してから所定以上の時間が経過した場合、前記エンジンの停止の禁止を解除することを特徴とする請求項1記載のエコラン制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)

2b)「【0002】
所定の停止条件が成立したときにエンジンを自動的に停止すると共に、別の所定の始動条件が成立したときにエンジンを自動的に始動するいわゆるエコラン制御装置が知られている。エコラン走行時は、交差点等で自動車が停車した場合、所定の停止条件下でエンジンを自動停止させ、その後、所定の始動条件下でエンジンを再始動させることにより、燃料を節約したり、排気エミッションを改善することが可能となる。」(段落【0002】)

2c)「【0007】
また、本発明のエコラン制御装置の一形態において、車速が所定以上となった場合、又は、エンジンの停止を禁止してから所定以上の時間が経過した場合、エンジンの停止の禁止を解除することを特徴とする。本発明によれば、いったんエンジン停止が禁止されても、車速が所定以上となり、又、所定以上の時間が経過すれば、エコラン制御が可能となる。したがって、駐停車の車両操作が終了すれば、自動的にエコラン制御が可能となる。」(段落【0007】)

2d)「【0031】
車速が所定値以下の場合(ステップS11のY)、エコランECU6がGセンサ13から衝撃通知信号を入力されたか否かが判定される(S12)。バンパに衝撃が検出される場合とは、駐停車操作されている当該車両が、既に駐停車等している他の車両や縁石等に接触する場合である。欧州では、比較的狭いスペースに縦列駐車することが多く、その際車両同士のバンパが接触し軽微な衝撃が生じる。本実施例のエコラン制御装置は、衝撃を検出して駐停車操作中であることを検知する。本実施例ではバンパに備えたGセンサ13により当該衝撃を検出することが好適としたが、接触を検出するGセンサはバンパに備えられていなくてもよい。
【0032】
エコランECU6が衝撃通知信号を入力された場合(S12のY)、エコラン制御が禁止される(S13)。すなわち、エコランECU6は、予め定められたエンジン停止の条件が成立しても、エンジン停止命令信号を出力しない。これにより、駐停車の車両操作中に頻繁にエンジンが停止して運転者が煩わしさを感じることが低減される。エコランECU6がGセンサ13から衝撃通知信号を入力されない場合(S12のN)、例えば所定時間経過後、エコラン制御を行う(S16)。
【0033】
次いで、車速が所定値以上になったか否かが判断される(S14)。車速が所定値以上になった場合(S14のY)、走行を開始したと判断されるのでエコラン制御の禁止を解除する(S15)。これにより、以降の走行において信号待ちなど車両が停止した場合、エコラン制御によりエンジンの停止が可能になる。車速が所定値以上にならない場合(S14のN)、駐停車の車両操作中であると判断して、車速が所定以上になるまでエコラン制御が禁止される。」(段落【0031】ないし【0033】)

2e)図2のフローチャートにおいては、車速が所定値以下(S11)及びバンパー衝撃検知(S12)を行った場合に、エコラン制御の禁止(S13)が行われ、その後、車速が所定値以上となった場合に、エコラン制御禁止の解除(S15)を行うことが記載されている。

(2)引用例2技術
上記(1)及び図面からみて、引用例2には以下の技術(以下、「引用例2技術」という。)が記載されている。
「自動車が停車した場合、所定の停止条件下でエンジンを自動停止させ、その後、所定の始動条件下でエンジンを再始動させるエコラン制御において、車両への衝撃を検出する衝撃検出手段を有し、車速が所定値以下及び衝撃検出手段により衝撃が検出された場合にエンジンの自動停止を禁止し、車速が所定値以上となった場合にエンジンの自動停止の禁止を解除する技術。」

3.引用例3(特開平10-147222号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の出願前に頒布された上記引用例3には、「車両の自動制動制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)引用例3の記載事項
3a)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記公報に記載された装置を含め、従来の自動制動制御装置では、自動制動により車両が停止した後においても自動制動が作動し続け、制動力が過大の場合には、その後運転者によりアクセル操作が行われても、車両が前進し難い(場合によっては進まない)という問題があった。
【0005】これに対して、一定時間作動後、自動制動を解除するという方法も考えられるが、自動制動は運転者の意思に係り無く行われるため、自動制動により車両が停止した場合に運転者が自動制動が解除される前に車両を発進させようと思っても、自動制動が作動し続けているため発進できないという不都合がある。
【0006】その一方で、自動制動により車両が停止した後、一定時間作動後自動制動が解除された場合に、路面が平坦でない場合には車両が動き始めてしまい、2次衝突を引き起こす恐れがあるという問題もある。
【0007】又、その他の対策として、運転者がアクセルを踏んだことを検出した場合に自動制動を解除する方法も考えられるが、この方法では、自動制動による車両の減速作用に伴い運転者が誤ってアクセルペダルを踏み込み、アクセルペダルの踏み込みが検出された場合に、本来自動制動を行わなければならないときに自動制動が解除されてしまうという不具合も生じる。」(段落【0004】ないし【0007】)

(2)上記(1)からみて、引用例3には以下の技術(以下、「引用例3技術」という。)
が記載されている。
「自動制動により車両が停止した後、一定時間作動後に自動制動を解除する技術。」

4.引用例4(特開2008-150001号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の出願前に頒布された上記引用例4には、「追従走行装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)引用例4の記載事項
4a)「【0004】
LSF等の低速追従走行システムは、上述の動作に加えて先行車が停止した場合には、所定の車間距離を維持しつつブレーキ制御などの手段によって自動停止する。その後、所定の期間後に自動ブレーキは解除されるため、所定の時間を超えて停止する場合は、ドライバーがブレーキを踏まなければならない。先行車が発進した場合は、ドライバーの意志で発進した後、スイッチ等の操作によって再度低速追従制御が再開される。なお、先行車をロストした時には、警報音と共にシステムをキャンセルし、以後、ドライバーが運転操作を行なうことになる。」(段落【0004】)

(2)上記(1)からみて、引用例4には以下の技術(以下、「引用例4技術」という。)が記載されている。
「自動ブレーキによる自動停止の後、所定の期間後に自動ブレーキを解除する技術。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「エンジン2」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「車両の駆動源」あるいは「駆動源」に相当する。以下同様に、「アイドル運転中」は「駆動中」に、「予め設定しておいた運転条件が成立する場合に」は「所定の停止条件が成立したことに応答して」に、「前記予め設定しておいた運転条件が成立していない場合に」は「所定の再始動条件が成立したことに応答して」に、「車両のアイドルストップ制御装置」は「アイドルストップ手段」に、「自車両1」は「車両」に、「障害物」は「その前方の障害物」に、「衝突の危険」は「衝突可能性」に、「衝突防止制御装置30」は「検出手段」に、「自動ブレーキを介入させて」は「車両のブレーキを自動的に作動させて」に、「ブレーキ駆動部15」は「自動制動手段」に、「自動ブレーキ作動」は「ブレーキの作動」に、「自動停止を禁止する手段」は「自動停止を禁止する禁止手段」に、それぞれ相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「車両の駆動源の駆動中に所定の停止条件が成立したことに応答して、駆動源を自動停止させ、駆動源の自動停止中に所定の再始動条件が成立したことに応答して、駆動源を再始動させるアイドルストップ手段と、
車両とその前方の障害物との衝突可能性を検出する検出手段と、
検出手段による衝突可能性の検出に基づいて、車両のブレーキを自動的に作動させて、車両を停止させる自動制動手段と、
自動制動手段によるブレーキの作動の際に、アイドルストップ手段による駆動源の自動停止を禁止する禁止手段とを含む、車両用制御装置。」

[相違点]
本願発明においては、「自動制動手段による車両の停止から所定時間が経過して自動制動手段によるブレーキの作動が解除された後、車両の車速が所定車速以上に達したことにより、車両が運転者の意志による走行状態に復帰したときに、車両とその前方の障害物との距離が十分に確保されていなくても、禁止手段による駆動源の自動停止の禁止を解除する解除手段」を含むのに対して、引用発明においては、そのようなエンジン2の自動停止の禁止を解除する手段を含むか不明である点。

以下、上記相違点について検討する。

[相違点について]
上記引用例2技術は、「自動車が停車した場合、所定の停止条件下でエンジンを自動停止させ、その後、所定の始動条件下でエンジンを再始動させるエコラン制御において、車両への衝撃を検出する衝撃検出手段を有し、車速が所定値以下及び衝撃検出手段により衝撃が検出された場合にエンジンの自動停止を禁止し、車速が所定値以上となった場合にエンジンの自動停止の禁止を解除する技術」であるが、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項のうち、少なくとも「自動制動手段による車両の停止から所定時間が経過して自動制動手段によるブレーキの作動が解除された後」、車両の車速が所定車速以上に達したことにより、駆動源の自動停止の禁止を解除することの開示や示唆をするものではない。
また、「車速が所定値以下及び衝撃検出手段により衝撃が検出された場合にエンジンの自動停止を禁止」する引用例2技術と、「ブレーキ駆動部15による自動ブレーキ作動の際に、車両のアイドルストップ制御装置によるエンジン2の自動停止を禁止する」引用発明とは、エンジンの自動停止を禁止するための前提条件が異なるものであるから、引用例2技術を引用発明に適用する動機付けも見出せない。
さらに、引用例3技術は、「自動制動により車両が停止した後、一定時間作動後に自動制動を解除する技術」であり、引用例4技術は、「自動ブレーキによる自動停止の後、所定の期間後に自動ブレーキを解除する技術」であるが、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項のうち、「自動制動手段による車両の停止から所定時間が経過して自動制動手段によるブレーキの作動が解除され」ることを示唆するにすぎない。
そうすると、引用例2技術、引用例3技術及び引用例4技術のいずれも、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項である「自動制動手段による車両の停止から所定時間が経過して自動制動手段によるブレーキの作動が解除された後、車両の車速が所定車速以上に達したことにより、車両が運転者の意志による走行状態に復帰したときに、車両とその前方の障害物との距離が十分に確保されていなくても、禁止手段による駆動源の自動停止の禁止を解除する解除手段」についての開示や示唆をするものではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2技術ないし引用例4技術に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-03-05 
出願番号 特願2012-185491(P2012-185491)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤村 泰智比嘉 貴大  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 松下 聡
佐々木 芳枝
発明の名称 車両用制御装置  
代理人 皆川 祐一  

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