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審決分類 審判 全部無効 一時不再理  A47B
審判 全部無効 産業上利用性  A47B
審判 全部無効 2項進歩性  A47B
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  A47B
管理番号 1337807
審判番号 無効2015-800131  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-06-02 
確定日 2018-03-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第4910097号発明「棚装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4910097号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、手続の経緯は、以下のとおりである。
平成23年 7月25日 本件出願(特願2011-162246号)
(原出願:特願2006-123085号、
原出願日:平成18年4月27日)
平成24年 1月27日 設定登録(特許第4910097号)
平成25年11月26日 別件無効審判請求(無効2013-800216)
平成26年 2月14日 訂正請求
平成26年10月10日 別件審決(訂正認容、請求不成立)
平成27年 6月 2日 本件無効審判請求(差出日)
平成27年 6月19日 請求人より手続補正書(方式)、検証申出書提出
平成27年10月28日 知的財産高等裁判所平成26年(行ケ)第10246号(別件審決に対する審決取消請求事件)の判決言渡(請求棄却)
平成28年11月 4日 被請求人より答弁書提出
平成28年12月28日 請求人より弁駁書提出
平成29年 1月23日 審理事項通知書(起案日)
平成29年 2月17日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成29年 3月 3日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成29年 3月17日 被請求人より上申書提出
口頭審理、証拠調べ(検証)
第2 本件発明
本件特許は、本件特許を対象とした無効2013-800216号(別件無効審判)の審決(乙第2号証)で、平成26年2月14日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することが認められ、その審決取消請求事件(知的財産高等裁判所平成26年(行ケ)第10246号)の請求棄却判決(乙第2号証)が確定したので、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」及び「本件発明2」といい、それらをまとめて「本件発明」という。)は、上記訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(分説及び符号は審決で加えた。)。
「【請求項1】
A:4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており、
B:前記棚板は、水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置であって、
C:前記棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており、前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており、
F:前記内壁の自由端部は傾斜部になっている、
D:棚装置。
【請求項2】
A:4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており、
B:前記棚板は、水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置であって、
C:前記棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており、前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており、
F:前記棚装置における内壁の自由端部は傾斜部になっており、
H:前記コーナー支柱は平面視L形であり、
I:前記棚板の外壁が前記コーナー支柱にボルト及びナットで固定されており、
E:前記棚装置の連接部は前記基板と反対側に向いて凸の円弧状に形成されており、
J:隣り合った連接部が互いに突き合わさっている、
D:棚装置。」
第3 請求人の主張
請求人は、本件発明1及び2の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(平成27年6月19日付け手続補正書(方式)により補正された審判請求書、平成28年12月28日付け審判事件弁駁書、平成29年3月3日付け口頭審理陳述要領書を参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第22号証、検甲第3号証を提出している。

1 無効理由の概要
(1)無効理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1及び2は、甲第1号証、甲第2号証及び検甲第3号証に記載または示された発明に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由2(補正要件違反)
本件特許に係る平成23年8月31日付けでした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由3(甲第7号証を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1及び2は、甲第7号証及び検甲第3号証に記載または示された発明に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(4)無効理由4(産業上利用可能性要件違反)
本件発明1及び2は、産業上利用できる発明に該当せず、特許法第29条第1項柱書の規定に該当しないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(証拠方法)
提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:実公昭51-6255号公報
甲第2号証:実願昭55-6075号(実開昭56-108742号)のマイクロフィルム
甲第3号証:検甲第3号証の金属板の曲げ加工見本の写真
甲第4号証:検甲第3号証の金属板の曲げ加工見本の公知性に関する証明書
甲第5号証:株式会社サカエが発行したカタログの23頁の写
甲第6号証:株式会社サカエが発行したカタログの25頁の写
甲第7号証:実願昭56-196578号(実開昭58-102628号)のマイクロフィルム
甲第8号証:特開平7-265136号公報
甲第9号証:登録実用新案第3061411号公報
甲第10号証:特願2011-162246号の願書並びに最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の写
甲第11号証:登録実用新案第3061269号公報
甲第12号証:登録実用新案第3060580号公報
甲第13号証:実公平3-28172号公報
甲第14号証:実公平3-30026号公報
甲第15号証:実用新案登録第2533467号公報
甲第16号証:登録実用新案第3182780号公報
甲第17号証:新しい板金加工ノウハウ(2)曲げ金型、平成6年3月30日改訂第5版発行、第140頁及び第146頁
甲第18号証:特許庁編 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕、第49頁?50頁
甲第19号証:知財高裁大合議平成20年5月30日判決【感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法】事件、判例時報2009号第47頁?80頁
甲第20号証:平成28年8月24日知財高裁判決(平成27年(行ケ)第10245号事件)最高裁HP
甲第21号証:特許庁編 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕、発明推進協会、第356頁
甲第22号証:本件特許出願に係る平成23年8月31日付け手続補正書
検甲第3号証:金属板の曲げ加工見本
2 具体的な主張
(1)無効理由1について
ア 本件発明1と甲第1号証に記載された発明との対比
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており、前記棚板は、水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置」(構成要件A,B)で共通すると共に、さらに構成要件C中の「棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されている」点で共通し、
本件発明1は、構成要件C中の「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」、「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(構成要件F)のに対し、甲第1号証に記載された発明は、「内壁(内側板4)は空間(間隙3)を保有するように外壁(側板2)と平行に延びている」点で、両者は相違する。
(弁駁書4頁13?24行)
イ 甲第1号証に記載の内壁と外壁との間隙について
一般に、棚板の基板の周囲を折り曲げ形成して外壁を設けた場合、当該外壁の強度を増して棚板の剛性を高めるために、外壁の先端を内側に折り返して内壁を設け、棚板の側壁を外壁と内壁との二重構造とすることは、従来より周知の事項である(たとえば、甲第8号証の図1、甲第9号証の図1、図2、図3及び図4、甲第11号証の図1及び図2、甲第12号証の図1、甲第13号証の第1図、甲第14号証の第6図、甲第15号証の図1、甲第16号証の図1を参照。)。
甲第1号証記載の構成によれば、「方形状の板1の周縁に折曲して設けた棚板Aの側板2の下縁を僅かの間隙3を保有するように内側に折り返えして内側板4を設け」(甲第1号証第2欄13?15行)たものであり、当該構成は外壁の強度を増して棚板の剛性を高めるためになされているものであり、本件発明1の構成Cの「前記棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており」と実質的に同じ構成である。
(弁駁書5頁9?25行)
ウ 甲第2号証に記載の構成の適用
甲第2号証には、「棚板における外壁(4)の先端に、基板(1)の側に折り返された内壁(5)が、当該内壁(5)と前記外壁(4)との間に空間が空くように連接部(9)を介して一体に形成されており、前記内壁(5)のうち前記連接部(9)と反対側は前記外壁(4)に向かって延びるように曲げられている」構成が開示されている(実用新案登録請求の範囲、明細書1頁14?19行、2頁1?12行、3頁5?14行、4頁2?8行、4頁14?18行、及び、第2、3図を参照)。
(請求書9頁末行?10頁5行)
甲第2号証に記載された「板金製棚板」の技術は、本件発明及び甲第1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものである。しかも、甲第2号証に記載された発明は、棚板全体の剛性を高めることを狙いとしており、本件発明の「棚板の剛性が高くなる(ため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができる。)」と同じ効果を奏するものである。よって、甲第2号証に記載された上記板金製棚板の構成(のうちの、長辺縁部に設けた側板2の構成)を、甲第1号証に記載された棚板の周縁に適用することは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に想到し得るものである。なぜなら、甲第1号証の棚板は、方形状の板の周縁が折り曲げられて側板及び内側板が形成されているものだからである。
(弁駁書6頁15?24行)
甲第1号証に記載の構成に甲第2号証に記載の構成を組み合わせた場合、「前記内壁のうち前記連接部と反対側は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」という構成が得られると共に、さらに内壁の自由端部のより先端部分は、外壁内面に沿って天板まで延び、天板内面に沿って延びるように折り曲げられた構成が得られることになる。
(弁駁書6頁末行?7頁4行)
エ 検甲第3号証に開示された構成の適用
検甲第3号証に係る「金属板の曲げ加工見本」は、訴外サルバニーニ社が、自社の機械を購入した者や購入予定者に対して配付したものであり、甲第4号証の証明書に平成16年12月25日以前に提供したとあるように公知である。
(請求書9頁8?9行、弁駁書10頁17?18行)
検甲第3号証の「金属板の曲げ加工見本」は、矩形平板の四辺が折り曲げ加工された金属板の縁部の曲げ加工見本であり、次の形態を有している。
「(ア)金属板の四辺にはそれぞれ異なる曲げ加工が施されている。
(イ)金属板の短辺の1つには、基板が折り曲げ形成された外壁が形成され、外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており、前記内壁のうち前記連接部と反対側の先方端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられていて、その先端はさらに曲げられて外壁内側に接している。
(ウ)連接部は基板と反対側に向いて凸の円弧状に形成されている。
(エ)内壁の先方端部は傾斜部を有している。」
(請求書8頁下から5行?9頁6行)
検甲第3号証は、本件発明1における構成要件のうちの、金属板の曲げ加工において、「外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており、前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」(構成要件C)、「内壁の自由端部は傾斜部になっている」(構成要件F)を実現している。
検甲第3号証において、内壁の自由端部は、外壁に向かって傾斜した傾斜部と、その傾斜部先端に外壁と重なる幅狭の重合部を含んでいるが、より簡易な曲げ加工を採用するならば、重合部を省略することは容易なことである。
サルバニーニ社の機械を用いるものではないが、一般的な金属板の端部のクロージング曲げ加工の基本的形態として、甲第17号証には、第140頁に「図13・1・1クロージング形状のいろいろ」として、(c)に、前記「重合部」を有する例が示され、(d)および(e)並びに第146頁の断面形状として、前記「重合部」を有さないクロ-ジング曲げ形状が紹介されていることに鑑みても、「重合部」を省略することは、必要に応じて選択される事項であるといえる。
(弁駁書7頁12行?8頁下から4行)
板金加工分野の当業者にとって、棚板の側壁の曲げ加工を行うに当たり、検甲第3号証の「金属板の曲げ加工見本」のうち、いずれを採用するか、見本に提示された全ての曲げ(フルスペック)を採用するか、加工の簡素化のために曲げステップを減らしたものとするか等は、当業者が加工する板金製品に合わせて取捨選択する事項であり、棚板の側壁に要求される強度や形状を勘案して、容易に選択できる構成にすぎない。
(弁駁書11頁2?7行)
(2)無効理由2について
分割出願(本件特許出願)当初の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項(甲第10号証)では、「コーナー支柱」は「平面視で交叉した2枚の側板を備えているコーナー支柱」「平面視L形のコーナー支柱」だけが開示されているものであって、これ以外の形状のコーナー支柱、たとえばパイプ状のコーナー支柱(甲第5号証)や逆U字状の棒状の支柱(甲第6号証)といったものは、本件特許出願の当初明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にはない。
ところが、本件発明1及び2は、構成要件である「コーナー支柱」に関し、単に「4本のコーナー支柱」と特定しているだけであって、当該コーナー支柱は「平面視で交叉した2枚の側板を備えているコーナー支柱」であるという出願当初に記載された事項の範囲を超えて、平面視で交叉した2枚の側板を備えているコーナー支柱以外のコーナー支柱も構成要件を充足する可能性を含んだ記載となっている。
(請求書15頁11?23行)
イ 出願当初の請求項1は次のa、b、c及びdをすべて必要としていた。
a.「コーナー支柱の群で囲われた空間に金属板製の棚板を配置する」こと
b.「コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えている」こと、云い換えると、「平面視L形の支柱」(段落【0002】参照)であること
c.「外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結する」こと
d.「コーナー支柱の側板と板の外壁とのうち、いずれか一方には位置決め突起を、他方には位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設ける」こと
ところが、平成23年8月31日付け手続補正による新しい請求項1では上記a、b、c及びdがすべて抹消されるに至った。この補正は出願当初に記載された上記の要件からなる発明思想を完全に没却するものである。そのため、この補正は出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてなされたものでない。
(請求書16頁1行?17頁1行)
(3)無効理由3について
ア 本件発明1と甲第7号証に記載された発明との対比
本件発明1と甲第7号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており、前記棚板は、水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置」(構成要件A,B)で共通すると共に、さらに構成要件C中の「前記棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、連接部を介して一体に形成されている」点で共通し、本件発明1は、構成要件C中の「内壁と外壁との間に空間が空いている」及び「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」、構成要件Fの「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」のに対し、甲第7号証に記載された発明は、これら構成を具備しない点で、両者は相違する。
イ 本件発明2と甲第7号証に記載された発明との対比
本件発明2と甲第7号証に記載された発明とを対比すると、本件発明2は、構成要件C中の「内壁と外壁との間の空間が空いている」及び「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」、構成要件Fの「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」、構成要件Eの「前記棚装置の連接部は前記基板と反対側に向いて凸の円弧状に形成されており」、構成要件Jの「隣り合った連接部が互いに突き合わさっている」のに対し、甲第7号証に記載された発明は、上記の構成要件E及びJは実質的に具備すると思料されるものの、他の構成を具備しない点で、両者は相違する。
ウ 検甲第3号証に開示された構成の適用
検甲第3号証は、金属板の曲げ加工において、本件発明の構成要件C及びFの形状を実現している。
先行する無効審判の審決取消請求事件(乙第2号証)において判示されたように、「本件発明の容易想到性を検討する際には、棚板に関する技術のみならず、広く一般的に金属板の端部の曲げ加工に関する技術を開示するものを参酌することは許されるというべきである」(乙第2号証第36頁19?24行)から、甲第7号証に記載のスチール棚の構成に、検甲第3号証に示された構成を適用し、当該構成を甲第7号証に記載のスチール棚の構成と置換することは当業者が容易になし得ることである。
この場合において、甲第7号証に記載のスチール棚は、第2図に示されるとおり、棚板12の周縁に折り曲げ形成された周縁18(外壁及び内壁に相当)は、角部において、隣り合った周縁18同士が互いに突き合わされている。よって、周縁18を、検甲第3号証に示された構成要件Cで置換した場合、当然に、構成要件Jの形状が得られるものである。
(弁駁書21頁17行?23頁18行)
(4)無効理由4について
本件特許は、明細書の段落【0004】ないし【0008】において、発明が解決すべき唯一の課題として支柱と棚板との間のガタ付き防止、云いかえると、支柱の倒れ防止を挙げている。支柱の倒れ防止は、支柱と棚板との接続関係、すなわち結合方法によって決まる。
本件特許は、明細書の中においても、また、特許請求の範囲においても、支柱と棚板との結合方法について全く記載せず、ただ「支柱で支持された棚板」と記載するだけである。従って、結合方法は単に「支持」するに尽きている。これでは支柱の倒れ防止をすることができず、従って課題を解決したことにならない。自ら掲げた解決課題を解決するための具体的手段を提示も記載もしていない本件発明は、産業上利用できる発明に該当しないものである。
なお、本件特許明細書には、「発明の効果」として段落【0014】において、「本願発明では内壁も補強効果を果たして、棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができる」と説明しているが、「棚装置全体の頑丈さ」は、主として支柱と棚板との接続の強さによって決められることである。棚板はもともと一体に作られているから、棚板の内壁の先を曲げることによって棚装置全体の頑丈さが格段に向上するものではない。従って、上記の説明は理に合わない。
このように、本件発明は、課題を解決するための構成を含んでいないから、産業上利用できる発明をしたことにならない。従って、本件発明は特許法第29条第1項柱書の規定に該当しない。よって、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
(請求書20頁21行?21頁16行)
第4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成28年11月4日付け答弁書、平成29年2月17日付け口頭審理陳述要領書、平成29年3月17日付け上申書を参照。)。また、証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証を提出している。
(証拠方法)
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証:特願2006-123085(本件原出願)の願書及びこれに添付した明細書、図面(写)
乙第2号証:知的財産高等裁判所平成26年(行ケ)第10246号判決(写)
乙第3号証:大阪地方裁判所平成25年(ワ)第6674号判決(写)
乙第4号証:知的財産高等裁判所平成28年(ネ)第10039号判決(写)
乙第5号証:特開平11-301490号公報(写)
乙第6号証:特開2000-50972号公報(写)
乙第7号証:株式会社サカエの1995年度版カタログ(平成6年12月発行)(写)
乙第8号証:株式会社サカエの1997年度版カタログ(平成9年5月発行)(写)
乙第9号証:株式会社サカエの2003年度版カタログ(平成14年12月発行)(写)
乙第10号証:株式会社サルバニーニジャパンの代表者の陳述書(平成26年4月8日作成)(写)
1 証拠について
(1)甲第1号証について
甲第1号証の「間隙3」は、(ナツト8が内蔵されたキャップ9を棚板の内側面に取り付けるあたり)キャップ9の脚片10を圧入して係止するためのものであり、脚片の板厚程度の「僅かの間隙」であって、「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」(構成C)との構成や「内壁の自由端部は傾斜部になっており」(構成F)との構成が採れるものではなく、実質的に本件訂正発明の構成Cの(内壁と外壁との間の)「空間」にあたらない。
(答弁書6頁17?22行)
(2)甲第2号証について
甲第2号証は、短辺側においては外側板部と内側板部は密接しており「中空部」を有しておらず、四辺に「中空部」を設けるものではない。
また、中空部を有する長辺側は、「前記内側板部5の先端部を前記外側板部4の略上半部内面の及び天板1の内面に沿って密接する断面L字形に形成し、前記天板1との密接部をスポット溶接6で接合している」構成となっており(3頁11?15行、第2図ないし第5図、第7図)、結局のところ、甲2は、「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」との構成(構成C)や「内壁の自由端部は傾斜部になって」いるとの構成(構成F)を有していない。
(答弁書7頁26行?末行)
(3)検甲第3号証について
検甲第3号証の金属板の曲げ加工見本は、先行無効審判事件の甲第31号証の1、2の被写体と同じものであるところ、先行無効審判事件の審決取消訴訟においても、同被写体は公知のものと認められておらず、かつ、同被写体を公知技術としたとしても本件発明の進歩性を否定できないことが判示されている(乙2?乙4)。
また、検甲第3号証は、たんなる金属板の曲げ加工見本にすぎず、棚装置の金属板製の棚板ではない。
さらに、検甲第3号証は、内側の側板は傾斜部の先の部分が外側の側板に重なった状態で下向きに延びており、本件発明の「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」との構成(構成C)や「内壁の自由端部は傾斜部になって」いるとの構成(構成F)を備えていない。
(答弁書8頁2行?末行)
(4)甲第7号証について
甲第7号証は、棚板12の周縁部18の外側部分と内側部分を密着させて二重構造とした上で、外側部分と内側部分を共にボルトとナットで締結した構造を有するものである。
甲第7号証の構造は、棚板の周壁の外側部分と内側部分を密着させ2枚重ねた上で共にボルトで締結することで強固にしようとする一つの完結した技術であり、当業者は周縁部の外側部分と内側部分の間に空間を空けようとは考えない(阻害要因がある)。
(答弁書16頁23行?17頁15行)
2 無効理由について
(1)無効理由1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。なお、本件発明2も少なくとも同様の相違点を有する。
(相違点1)本件発明1では、棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、「当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように・・・形成されており、前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられて」いるのに対して(構成C)、甲1発明では、側板2と内側板4との間には「僅かの間隙3」が空いているにすぎず、内側板4の先端部は側板2に平行に延びているにすぎない点。
(相違点2)本件発明1では、「内壁の自由端部は傾斜部になって」いるのに対して(構成F)、甲1発明は傾斜部となった自由端部を有しない点。
イ 甲1と甲2は目的を異にしており、両者を組み合わせるべき動機づけはない。仮に甲1に甲2を適用したとしても、甲2は、(短辺側は外側板部と内側板部は密接しており「中空部」を有しておらず、)四辺に「中空部」を設けるものではなく、本件発明1のように基板の周囲(四周)に(内壁と外壁との間の)空間を設けることはできない。また、甲2の内側板部5は、棚板の剛性の維持のために、天板1まで延びて溶接による接合される構成となっており、(相違点にかかる)「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」(構成C)との構成や「内壁の自由端部は傾斜部になっており」(構成F)との構成を有するものではないばかりか、そのように変更することもできないものであるから、本件発明1の構成を得ることはできない。
ウ 検甲3は、公知技術と言えない上に、棚装置の棚板に関するものではなく、甲1に適用すべき動機づけはない。仮に甲1に検甲3を適用したとしても、検甲3は、内壁と外壁との間の空間を四辺に設けたものではない上に、(相違点にかかる)内壁の連接部と反対側の自由端部が「外壁に向かって延びるように曲げられており」「傾斜部になって」いるとの構成(構成C、構成F)を有しておらず、本件発明1に至ることはない。検甲3において「外壁内面に沿って基板側へ延びる折曲片」を取り除くことなどできず、折曲片を設けないことは設計事項などでもない。
エ 以上のとおり、本件発明1は甲1ないし検甲3に基づいて容易に想到し得ないものであり進歩性を有する。また、本件発明2は、本件発明1にさらに限定を加えたものであるから、本件発明1と同様に進歩性を有する。
(答弁書9頁1行?11頁6行)
(2)無効理由2について
ア 請求人は先行無効審判において分割要件違反の主張をしたが、この主張は審決において退けられ、審決取消訴訟及び上告等も棄却等されて審決が確定しているところ、本件特許出願は、原出願の特許請求の範囲、明細書及び図面を実質的にそのままの形でなされたものであり(ただし、様式の変更を受けて段落番号等の一部は変わっている)、本件分割当初明細書(甲10)は原出願の出願当初明細書(乙1)と実質的に変わらず、請求人の(訂正前の発明についての)補正要件違反の主張は実質的に先の分割要件違反の主張と変わらず、請求人の主張は、先の分割要件違反の主張と同様に理由がない(乙2)。
イ 本件当初明細書(甲10)は原出願の出願当初明細書(乙1)と内容が同じであるところ、本件当初明細書には、コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものであり(【0001】)、より改善された形態の棚装置を提供することを課題として(【0008】)、4本のコーナー支柱と、コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており(【0017】【0018】)棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造とするため、棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており(【0014】)、具体的には、棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、内壁と外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており、内壁の自由端部である下端部は外壁に向けて傾斜した傾斜部になっている(【0018】【0023】)、との構成(以下「構成1」という。)とすることを技術的特徴とする発明が記載されている。
また、本件当初明細書には、コーナー支柱は平面視L形であり、棚板の外壁がコーナー支柱にボルト及びナットで固定されており、棚装置の連接部は上向き凸の半円状に形成されており、隣り合った連接部が互いに突き合わさっている(【0017】【0020】【0023】【0027】)との構成も記載されている。
そうすると、「4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四辺形で金属板製の棚板」との構成を含む本件発明の全ての構成が本件当初明細書に記載されているといえる(乙2の24頁、乙3の89頁、乙4参照。)。
ウ 本件当初明細書には、コーナー支柱の形状やコーナー支柱と棚板との締結態様について特に限定のない発明が前提として記載されているものと解されることに加え、パイプ状のコーナー支柱や逆U字形のコーナー支柱は、本件特許の原出願日において周知であったといえるから(乙5?乙9)、パイプ状のコーナー支柱や逆U字形のコーナー支柱が本件当初明細書に明示的に記載されていなくとも、本件当初明細書の記載から自明であるといえる。そうすると、本件発明1において、コーナー支柱の限定がなくなったことが、新たな技術的事項を導入するものということもできない(乙4の24?25頁参照。)。
エ 以上のとおり、本件発明は本件当初明細書(甲10)に記載した事項の範囲内のものであり、本件補正は本件当初明細書に記載した事項の範囲内のもので適法なものである。
(答弁書12頁20行?16頁21行)
(3)無効理由3について
ア 本件発明1と甲7発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。なお、本件発明2も少なくとも同様の相違点を有する。
(相違点1)本件発明1では、棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、「当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように・・・形成されており、前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられて」いるのに対して(構成C)、甲7発明では、周縁18の外側部分とその先端に内曲げされた内側部分は、密着していてその間に空間は空いておらず、内側部分は外側部分に沿って外側部分と平行にまっすぐ延びている点。
(相違点2)本件発明1では、「内壁の自由端部は傾斜部になって」いるのに対して(構成F)、甲7発明は傾斜部となった自由端部を有しない点。
イ 甲7発明は、棚板の周壁の外側部分と内側部分を密着させ2枚重ねた上で共にボルトで締結することで強固にしようとする一つの完結した技術であり、当業者は内壁と外壁との間に空間が空けようとは考えないから、検甲3を適用することはできない。
ウ 検甲3は、前記のとおりの金属板の曲げ加工見本であり、(そもそも公知技術ではない上に)甲7に適用すべき動機づけはない。仮に検甲3を適用したとしても、検甲3は、内壁と外壁との間の空間を四辺に設けたものではない上に、内壁の連接部と反対側の自由端部が「外壁に向かって延びるように曲げられており」「傾斜部になって」いるとの構成(構成C、構成F)を有しておらず、本件発明1に至ることはない。
エ 以上のとおり、本件発明1は甲7発明及び検甲3に基づいて容易に想到し得ないものであり進歩性を有する。また、本件発明2は、本件発明1にさらに限定を加えたものであるから、同様に進歩性を有する。
(答弁書17頁16行?18頁9行)
(4)無効理由4について
本件発明は、「より改善された形態の棚装置を提供することを課題」として(【0008】)、請求項に記載された構成によって、「内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができる」(【0014】)との作用効果を奏するものであり、「産業上利用できる発明」に該当することは明らかである。
そもそも、産業上利用できない発明とは、(i)人間を手術、治療又は診断する方法の発明、(ii)業として利用できない発明、(iii)実際上、明らかに実施できない発明、をいうのであり(特許審査基準)、本件発明がこれに該当しないことは明らかである。
(答弁書19頁22?31行)
第5 証拠
1 甲第1号証
(1)甲第1号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の原出願日前(以下「本件出願前」という。)に頒布された甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は審決で付加した。以下同じ。)。
ア 「従来倉庫等に施設される棚枠体は、断面L字状の長尺のアングルの両片に縦長の孔を長さ方向に複数個穿設して成る柱部材と、方形状の板の周縁に側板を折曲して設け、この各側面の両端部に横長の孔を穿設して成る棚板とから構成され、4本の柱部材を各棚板の4隅に当て、且縦長の孔と横長の孔を合わせると共に、外方より止めネジを貫挿し、之に内方よりナットを螺合して締付していた。」(1欄17?24行)
イ 「特に倉庫の新設に伴つて一度に棚段数の多い多数の棚枠体の需要があつた場合、止めネジとナツトによる締付作業が膨大なものとなり、作業性の点で需要者の要求に対し充分満足することは極めて困難であつた。」(1欄33?37行)
ウ 「そこで考えられることは、人手の充分ある製造元で予め棚板にナツトを固定しておくことである。・・・しかし予め棚板に単純にナツトを固定するときは、製造上の誤差等によつてナツトの孔と柱部材に設けた孔の中心が変位する場合があつて、止めネジの差し込みを至難にする惧れがあり、実用的ではない。」(1欄末行?2欄9行)
エ 「そこで本案はこの点についても配慮を加えて棚枠体の組構作業を著しく容易ならしめたもの」(2欄10?11行)
オ 「方形状の板1の周縁に折曲して設けた棚板Aの側板2の下縁を僅かの間隙3を保有するように内側に折り返えして内側板4を設け、この内側板4に側板2に設けた横長の孔5と一致する孔6及びその左右位置に縦方向の溝孔7,7を形成し、この溝孔7,7より四角状のナツト8を横長の孔5,6の範囲で横動可能に収納した筐状のキヤツプ9の両側縁から延長され、それが外方に稍々彎曲する脚片10,10を圧入して間隙3内に於いて係止せしめ、このように構成された棚板Aの横長の孔6と柱部材Bに設けてある縦長の孔11を交叉させ、外方より止めネジ12を差し込む。」(2欄12?24行)
カ 「本案は叙上のように構成されているので、棚枠体の組構作業は極めて容易となると共に、棚板に対するキヤツプの取付けも極めて簡単であり、また、ナツト及びキヤツプは棚板の製作と関係なく後から取付けられるものであるから、棚枠を単独でメツキ加工が出来、従つて棚枠にナツトを固定した場合のように、メツキによりネジ孔がつぶれるようなこともない。更に、本案によれば、キヤツプの脚片は棚板の側板と内側板に予め係止されているから、棚板を柱部材に取付けるべく止めネジとナツトを螺合を強くすると、脚片は棚板の側板と内側板とにより強固に挾持され、キヤツプのガタ付き或いは脱落が防止出来、而も棚板の側板と内側板とは一体となつて締め付けられるから、取付部の強度も増し、耐荷重に有効であり、且ナツトの交換も可能である等種々の効果を奏し、実用上極めて有益な考案である。」(2欄33行?3欄末行)
キ 「第1図は本案棚枠体の斜視図、第2図は要部の拡大縦断面図、第3図は要部の一部裁断した平面図」(図面の簡単な説明の欄)と説明され、第1図には、4本の柱部材Bで支持された方形状の板の周縁に折曲して設けた側板を有する棚板Aが図示され、また、第2図及び第3図には、棚板Aの周縁に折り曲げ形成した側板2と、側板2の下縁から天板1の側に向かって折り返された内側板4とが図示され、側板2と内側板4との間には僅かの間隙3が形成されているとともに、内側板4の先端部は側板2と平行に形成されていることが見て取れる。
(2)甲第1号証に記載の発明の認定
甲第1号証には、上記(1)で摘記した事項及び図示内容からみて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「4本の断面L字状の柱部材Bと、柱部材で支持された方形状の棚板Aとを備えてなり、
前記棚板Aは、板1と板1の周縁に折曲して設けた側板2とを備える棚枠体であって、
前記棚板Aにおける側板2の下縁を僅かの間隙3を保有するように内側に折り返えして内側板4を設け、その内側板4の先端部は側板2と平行に形成されている、
棚枠体。」
2 甲第2号証
(1)甲第2号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件出願前に頒布された甲第2号証には、次の事項が記載されている。
ア 「矩形な天板の縁部に、該天板に連接する外側板部と、この外側板部の下縁に一体に連接し、かつ前記天板の下面側に折返され、その端縁部を該天板の下面に添着されて前記外側板部の内面との間に中空部を形成する内側板部とからなる側板を設けた・・・板金製棚板。」(実用新案登録請求の範囲)
イ 「本考案は組立て式の事務用整理棚等に使用される板金製棚板に関するものである。
この種整理棚としては、例えば四隅に立設したアングル形の支柱間に矩形な天板の周縁に補強用の側板を形成してなる板金製の棚板を複数段に配設したものが知られている。」(明細書1頁14?19行)
ウ 「この種整理棚等においてコストダウンを図るためには、前記棚板をできるだけ薄い材料を用いて作るのが非常に効果的であるが、あまり薄い材料を用いると棚板の剛性が維持できなくなり、棚板としての機能が損なわれてしまうという不都合がある。そこで、このような不都合を解消するために、例えば前記補強用の側板を1枚ものにせず、天板に連接する外側板部と、この外側板部の下縁に一体に連接し、かつ前記天板の下面側に折返され、その端縁部を該天板の下面に添着されて前記外側板部の内面との間に矩形の中空部を形成する内側板部とから構成したものが開発されている。」(明細書1頁末行?2頁12行)
エ 「矩形な天板1の長辺両縁部に側板2,2及び短辺両縁部に側板3,3を設けている。前記側板2は第2図に示すように、天板1に一体に連接する外側板部4と、この外側板部4の下縁全長に一体に連接し、かつ前記天板1の下面側に折返されて前記外側板部4との間に中空部を形成する内側板部5から構成される。そして前記内側板部5の先端部を前記外側板部4の略上半部内面及び前記天板1の内面に沿って密接する断面L字形に形成し、前記天板1との密接部をスポット溶接6で接合している。」(明細書3頁5?15行)
オ 「側板3,3は前記側板2,2と同様に第3図に示すように、前記天板1に一体に連接する外側板部10と、この外側板部10の下縁に一体に連接し、かつ前記天板1の下面側に折返され、その端縁部を該天板1の下面に添着されて前記外側板部10の内面に密接する内側板部11から構成している。」(明細書4頁2?8行)
カ 「このような構成によれば、天板の縁部に設けた側板2,2を外側板部4と、この外側板部4との間に中空部を形成する内側板部5とから構成しているので、棚板全体の剛性が高いものとなる。」(明細書4頁14?18行)
(2)甲第2号証に記載の発明の認定
甲第2号証には、上記(1)で摘記した事項及び図示内容からみて、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「四隅に立設したアングル形の支柱間に矩形な天板の周縁に補強用の側板を形成してなる板金製の棚板を複数段に配設した整理棚であって、
前記棚板は、天板に一体に連接する外側板部と、この外側板部の下縁全長に一体に連接し、かつ前記天板の下面側に折返されて前記外側板部との間に中空部を形成する内側板部から構成され、前記内側板部の先端部を前記外側板部の略上半部内面及び前記天板の内面に沿って密接する断面L字形に形成し、前記天板との密接部をスポット溶接で接合している、
整理棚。」
3 検甲第3号証
(1)検証について
請求人が証拠として提出した検甲第3号証(請求人が「金属板の曲げ加工見本」と称する物品)の検証の結果は、次のとおりである。
「検甲第3号証は、次の形状等を有する。
(1)厚み約1mmの金属板により作られている(写真4,5,6)。
(2)平面視長方形状の四角が切除された金属板に対し、その四辺にそれぞ れ折り曲げ加工された折曲げ加工部が形成されている(写真1,3,4,5)。加工後の金属板は、平板と4つの折曲げ加工部とからなり、平板は、長辺約480mm、短辺約250mmである(写真1,3,4)。
(3)各折曲げ加工部は、互いに異なる形状に加工されている(写真1,4,6?10)。一方の短辺側の折曲げ加工部の高さは、約50mmであり、他の折曲げ加工部の高さは、それぞれ、約50mm、約40mm、約52mmである。
(4)前記一方の短辺側の折曲げ加工部は、
ア 平板から湾曲部を介して垂直に立ち上がる外壁が形成され、
イ 平板側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成され、
ウ 前記内壁のうち前記連接部と反対側には、外側に向かって斜めに延びた傾斜部が形成されるとともに、該傾斜部に折り曲げられて連続し、外壁内面に接する重合部が形成されている(写真6,7)。
(5)金属板の内面中央には「salvagnini」のラベルが貼付されている(写真1)。ラベルには、「株式会社サルバニーニジャパン」「〒578-0904 大阪府東大阪市吉原2-9-31」「TEL.0729(66)6111(代)FAX.0729(66)4985」「http//www.salvagnini.it/」「E-mail:info@salvagnini.co.jp」と記載されている(写真2)。」
(2)検甲第3号証に開示されている発明の認定
検甲第3号証には、上記(1)の検証の結果からみて、次の発明(以下「検甲3発明」という。)が開示されていると認められる。
「厚み約1mmの金属板により作られており、
平面視長方形状の四角が切除された金属板に対し、その四辺にそれぞれ折り曲げ加工された折曲げ加工部が形成され、加工後の金属板は、平板と4つの折曲げ加工部とからなり、平板は、長辺約480mm、短辺約250mmであり、
各折曲げ加工部は、互いに異なる形状に加工されており、一方の短辺側の折曲げ加工部の高さは、約50mmであり、他の折曲げ加工部の高さは、それぞれ、約50mm、約40mm、約52mmであり、
前記一方の短辺側の折曲げ加工部は、平板から湾曲部を介して垂直に立ち上がる外壁が形成され、平板側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成され、前記内壁のうち前記連接部と反対側には、外側に向かって斜めに延びた傾斜部が形成されるとともに、該傾斜部に折り曲げられて連続し、外壁内面に接する重合部が形成されている、
金属板の曲げ加工見本。」
4 甲第7号証
(1)甲第7号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件出願前に頒布された甲第7号証には、次の事項が記載されている。
ア 「従来のスチール棚は第6図及び第7図に示すように各隅角部(図示の場合には4つの隅角部)において断面L字型のアングルを配設しこれら4つのアングルの内部に複数枚の棚板を配して各アングル該部よりビスを挿通して固定しているものである。」(明細書1頁下から3行?2頁3行)
イ 「アングル外部よりボルト(20)を挿入しアングル(10)の長孔(24)および棚板(12)の周縁(18)に設けた長孔(26)内を挿通してナット(21)に螺合して締め付け固定する。」(明細書3頁下から2行?4頁2行)
ウ 「第1図はこの考案の一実施例を示すスチール棚の全体斜視図、第2図は第1図の要部拡大分解斜視図、第3図は支柱と棚板とを組合わせた断面図」(図面の簡単な説明)と記載され、第1図からは、棚板12が平面視四角形であることが見て取れ、また、第2図及び第3図からは、棚板12の水平状に広がる基板の周縁に周縁18(外壁)が折り曲げ形成され、その先端に、基板側に折り返された内壁が一体に形成されており、内壁は外壁に密接していることが見て取れる。
(2)甲第7号証に記載の発明の認定
甲第7号証には、上記(1)で摘記した事項及び図示内容からみて、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「4つの断面L字型のアングルと、4つのアングルの内部に複数枚の平面視四角形の棚板を配設したスチール棚であって、
棚板は、水平状に広がる基板と、基板の周縁に折り曲げ形成した外壁と、外壁の先端に基板の側に折り返された内壁とからなり、内壁は外壁に密接している、
スチール棚。」
第6 無効理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)
1 本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「棚枠体」は、その構造及び機能からみて、本件発明1の「棚装置」に相当し、同様に、
「4本の断面L字状の柱部材B」は「4本のコーナー支柱」に、
「方形状の棚板A」は「平面視四角形」「の棚板」に、
「板1」は「水平状に広がる基板」に、
「板1の周縁に折曲して設けた側板2」は「基板の周囲に折り曲げ形成した外壁」に、
「側板2の下縁を」「内側に折り返えして内側板4を設けた」ことは「外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が」「一体に形成されて」いることに、
それぞれ相当する。
また、甲第1号証には、上記第5の1(1)で摘記したように、棚枠体が倉庫に用いられること、ネジとナットにより組み立てること、棚枠をメッキ加工できることが記載されていることから、甲1発明の「棚板A」は「金属板製」であると解される。
したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点1で相違する。

(一致点)
「4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており、
前記棚板は、水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置であって、
前記棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が一体に形成されている、
棚装置。」

(相違点1)
外壁と内壁の構成について、
本件発明1では、「前記棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており、前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており、」(構成要件C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(構成要件F)のに対して、
甲1発明では、側板2と内側板4との間には「僅かの間隙3」が空いているとともに、内側板4の先端部は側板2と平行に形成されている点。
(2)相違点1に係る判断
ア 相違点1についての当審の判断
(ア)甲第2号証について
甲第2号証には、上記第5の2(2)のとおり、甲2発明が記載されているものといえる。
しかしながら、甲2発明の内側板部(本件発明1の「内壁」に相当する。)の先端部は、外側板部(同「外壁」に相当する。)の略上半部内面及び天板(同「基板」に相当する。)の内面に沿って密接する断面L字形に形成され、前記天板との密接部をスポット溶接で接合されているものであって、甲第2号証には、「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており、」(構成要件C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(構成要件F)ことについては、記載されておらず、また、示唆もされているとはいえない。
(イ)検甲第3号証について
検甲第3号証には、上記第5の3(2)のとおり、検甲3発明が開示されている。なお、検甲第3号証に係る「金属板の曲げ加工見本」が本件出願前に公知であるか否かについては、両当事者間に争いがある。
しかしながら、検甲3発明の内壁のうち連接部と反対側は、外側に向かって斜めに延びた傾斜部が形成されるとともに、該傾斜部に折り曲げられて連続し、外壁内面に接する重合部が形成されているものであって、検甲第3号証には、「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており、」(構成要件C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(構成要件F)ことについては、開示されているとはいえない。
(ウ)まとめ
以上のとおり、甲第1号証、甲第2号証及び検甲第3号証には、「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており、」(構成要件C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(構成要件F)ことは記載及び開示されていないから、甲1発明において、本件発明1の相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
イ 請求人の主張について
請求人は、検甲第3号証において、内壁の自由端部は、外壁に向かって傾斜した傾斜部と、その傾斜部先端に外壁と重なる幅狭の重合部を含んでいるが、より簡易な曲げ加工を採用するならば、重合部を省略することは容易なことであり、また、一般的な金属板の端部のクロージング曲げ加工の基本的形態として、甲第17号証に「重合部」を有する例と「重合部」を有さないクロ-ジング曲げ形状が紹介されていることに鑑みても、「重合部」を省略することは、必要に応じて選択される事項である旨主張する。
しかしながら、請求人の上記主張は、以下のとおり採用できない。
検甲第3号証の検証の結果は、上記第5の3(1)のとおりであって、検甲第3号証には、上記第5の3(2)のとおり検甲3発明が開示されているが、重合部を省略した物は認識できない。
検甲第3号証は、請求人が「金属板の曲げ加工見本」と称する物品であるので、そのもの自体から加工を簡易にするなどの課題を認識することはできない。
また、一般的な金属板の端部のクロージング曲げ加工の基本的形態として、「重合部」を有さないクロ-ジング曲げ形状が本件出願前から知られていたとしても、検甲第3号証において重合部を有さない物が認識できるわけではない。
よって、検甲第3号証において重合部を省略することは容易であるとの請求人の主張は失当である。
(3)小括
よって、本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証及び検甲第3号証に記載または示された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、その特許は、無効とすべきものではない。

2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、同様の理由により、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
よって、本件発明2は、甲第1号証、甲第2号証及び検甲第3号証に記載または示された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、その特許は、無効とすべきものではない。
第7 無効理由2(補正要件違反)
請求人は、本件特許に係る平成23年8月31日付けでした補正(以下「本件補正」という。)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきであると主張する。
具体的には、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(甲第10号証、以下「当初明細書等」という。)に記載した事項では、「コーナー支柱」は「平面視で交叉した2枚の側板を備えているコーナー支柱」「平面視L形のコーナー支柱」だけが開示されているものであって、これ以外の形状のコーナー支柱、たとえばパイプ状のコーナー支柱(甲第5号証)や逆U字状の棒状の支柱(甲第6号証)といったものは、当初明細書等に記載した事項の範囲内にはないが、本件発明1及び2(本件補正後の請求項1及び2に記載の発明)は、構成要件である「コーナー支柱」に関し、単に「4本のコーナー支柱」と特定しているだけであって、当該コーナー支柱は「平面視で交叉した2枚の側板を備えているコーナー支柱」であるという当初明細書等に記載された事項の範囲を超えて、平面視で交叉した2枚の側板を備えているコーナー支柱以外のコーナー支柱も構成要件を含んだものとなっているので、本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものでない旨主張する。
そこで、請求人の主張に沿って本件補正の適否について検討する。
当初明細書等には「コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するもの」(段落【0001】)であって、従来技術において「小片を溶接によってコーナー支柱の外壁に固着した場合は・・・溶接に手間がかかる問題や、溶接によって塗装が剥げたりひずみが生じたりする問題」(段落【0006】)、「外壁を折り返すことによって小片を形成した場合は・・・小片の下端に水平方向の荷重(コーナー支柱を倒すような荷重)がかかると小片が変形しやすくなり、このため、強度アップに限度があるという問題・・・外壁の内面にナットが・・・露出するため見栄えが悪い問題や、物品が引っ掛かることがある・・・問題」(段落【0007】)があったので、「このような現状に鑑み成されたもので、・・・より改善された形態の棚装置を提供することを課題と」(段落【0008】)して、「棚装置は、・・・複数本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱の群で囲われた空間に配置された金属板製の棚板とを備え」(段落【0009】)、「棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が一体に形成されて」(段落【0010】)いる構成により、「内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができ」(段落【0014】)るようにしたものであり、具体的には、「4本のコーナー支柱1と」(段落【0017】)、「棚板2は、水平状に広がる平面視四角形の基板4と、基板4の各辺から上向きに立ち上がっている外壁5と、外壁5の上端に連接した内壁6とから成っており」(段落【0018】)、「棚板2の内壁6は外壁5から離反しており、このため、外壁5と内壁6との間にはナット8及びボルト7の端部が隠れる空間が空いている。内壁6のうち外壁5に繋がる連接部11は本実施形態では略平坦状の姿勢になっている。他方、内壁6の下端部(自由端部)6aは、外壁5に向けて傾斜した傾斜部になっている。」(段落【0023】)との構成とすることを技術的特徴とする発明が記載されている。
そうすると、「4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四辺形で金属板製の棚板」との構成を含む本件発明1の全ての構成が当初明細書等に記載されているといえる。
このように、当初明細書等には、コーナー支柱の形状について特に限定のない発明が前提として記載されているものと解されるところ、パイプ状のコーナー支柱や逆U字形のコーナー支柱は、本件特許の原出願日において周知であったといえるから(甲第4及び5号証、乙第5ないし9号証を参照。)、パイプ状のコーナー支柱や逆U字形のコーナー支柱が当初明細書等に明示的に記載されていなくとも、当初明細書等の記載から自明であるといえるので、本件発明1において、コーナー支柱の限定がなくなったことが、新たな技術的事項を導入するものということもできない。なお、(本件訂正後の)本件発明2は「コーナー支柱は平面視L形であ」ることが特定されている。
したがって、本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内にされたものである。
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているから、本件発明1及び2についての特許は、請求人の主張する無効理由2によっては無効とすることができない。
第8 無効理由3(甲第7号証を主引例とする進歩性欠如)
1 本件発明1について
(1)本件発明1と甲7発明との対比
本件発明1と甲7発明とを対比すると、甲7発明の「スチール棚」は、その構造及び機能からみて、本件発明1の「棚装置」に相当し、同様に、「4つの断面L字型のアングル」は「4本のコーナー支柱」に相当する。
また、上記を踏まえると、甲7発明の「4つのアングルの内部に」「配設」された「棚板」は、本件発明1の「コーナー支柱で支持された」「棚板」に相当し、さらに、甲7発明は「スチール棚」であるから、その「棚板」は「金属板製」であると解される。
したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点2で相違する。

(一致点)
「4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており、
前記棚板は、水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置であって、
前記棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が一体に形成されている、
棚装置。」
(相違点2)
外壁と内壁の構成について、
本件発明1では、「前記棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており、前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており、」(構成要件C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(構成要件F)のに対して、
甲7発明では、「外壁の先端に基板の側に折り返された内壁」を備えているが、「内壁は外壁に密接している」点。
(2)相違点2に係る判断
ア 相違点2についての当審の判断
(ア)検甲第3号証について
検甲第3号証には、先に述べたように、「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており、」(構成要件C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(構成要件F)ことについては、開示されているとはいえない。
(イ)まとめ
以上のとおり、甲第7号証及び検甲第3号証には、「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており、」(構成要件C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(構成要件F)ことは記載及び開示されていないから、甲7発明において、本件発明1の相違点2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
イ 請求人の主張について
請求人は、検甲第3号証は金属板の曲げ加工において本件発明1の構成要件C及びFの形状を実現していることを前提に、甲第7号証に記載のスチール棚の構成に、検甲第3号証に示された構成を適用し、本件発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである旨主張する。

しかしながら、検甲第3号証には、上記アで述べたように、本件発明1の構成要件C及びFについては開示されていないから、請求人の上記主張は採用できない。
(3)小括
よって、本件発明1は、甲第7号証及び検甲第3号証に記載または示された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、その特許は、無効とすべきものではない。

2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、同様の理由により、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
よって、本件発明2は、甲第7号証及び検甲第3号証に記載または示された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、その特許は、無効とすべきものではない。
第9 無効理由4(産業上利用可能性要件違反)
1 産業上利用可能か否かについて
本件発明は、「コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するもの」(段落【0001】)であって、従来技術において「小片を溶接によってコーナー支柱の外壁に固着した場合は、小片を外壁に強固に固着できると共に小片として厚い板を使用することができるため、倒れ防止機能(ガタ付き防止機能)は高いが、溶接に手間がかかる問題や、溶接によって塗装が剥げたりひずみが生じたりする問題」(段落【0006】)があり、「他方、外壁を折り返すことによって小片を形成した場合は、溶接に起因した問題は生じないが、小片はその上端が外壁に繋がっているに過ぎないため、小片の下端に水平方向の荷重(コーナー支柱を倒すような荷重)がかかると小片が変形しやすくなり、このため、強度アップに限度があるという問題」や「外壁の内面にナットが・・・露出するため見栄えが悪い問題や、物品が引っ掛かることがある点も問題であった」(段落【0007】)ので、「このような現状に鑑み成されたもので、より改善された形態の棚装置を提供することを課題」(段落【0008】)として、本件発明1及び2の構成を備えることにより、「内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができる。」(段落【0014】)との効果を奏するものであるから、実際に製造し、販売し、使用できることは明らかであるので、産業上利用可能であるといえる。
2 請求人の主張について
請求人は、本件発明の解決すべき唯一の課題は支柱と棚板との間のガタ付き防止、云いかえると、支柱の倒れ防止であって、支柱の倒れ防止は、支柱と棚板との接続関係、すなわち結合方法によって決まるところ、本件特許は、明細書の中においても、また、特許請求の範囲においても、支柱と棚板との結合方法について全く記載せず、ただ「支柱で支持された棚板」と記載するだけであるから、結合方法は単に「支持」するに尽き、支柱の倒れ防止をすることができず、従って課題を解決したことにならないので、自ら掲げた解決課題を解決するための具体的手段を提示も記載もしていない本件発明は、産業上利用できる発明に該当しない旨主張する。
しかしながら、本件発明は、上記1で述べたように、実際に製造し、販売し、使用できることは明らかであるので、産業上利用可能である。
また、本件発明1は、「4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備え」た「棚装置」であって、棚板は支柱で支持されているところ、その具体的な結合手段が特定されていないが、棚板が支柱で支持されているためには何らかの結合手段により結合されていることは自明である。なお、(本件訂正後の)本件発明2では、棚板とコーナー支柱はボルトとナットとで固定されている。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、産業上利用できる発明であるから、その特許は、無効とすべきものではない。
第10 むすび
以上のとおり、上記第6ないし第9において検討したとおり、本件発明1及び2について、請求人の主張する無効理由1ないし4には無効とする理由がないから、その特許は無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-01 
結審通知日 2017-06-05 
審決日 2017-06-19 
出願番号 特願2011-162246(P2011-162246)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A47B)
P 1 113・ 14- Y (A47B)
P 1 113・ 07- Y (A47B)
P 1 113・ 561- Y (A47B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 七字 ひろみ  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 小野 忠悦
住田 秀弘
登録日 2012-01-27 
登録番号 特許第4910097号(P4910097)
発明の名称 棚装置  
代理人 福本 洋一  
代理人 西 博幸  
代理人 鎌田 邦彦  
代理人 酒井 正美  
代理人 上田 悠人  
代理人 安田 昌秀  
代理人 白木 裕一  
代理人 今川 忠  
代理人 稲岡 耕作  
代理人 山田 和哉  
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