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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01M |
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管理番号 | 1337830 |
審判番号 | 不服2016-17013 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-11-14 |
確定日 | 2018-03-20 |
事件の表示 | 特願2014-109484「電極材料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日出願公開、特開2014-239036、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2007年10月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年10月30日 カナダ(CA))を国際出願日とする出願である特願2009-535101号の一部を、平成26年5月27日に新たな特許出願としたものであって、平成27年6月2日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年2月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月5日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年11月14日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成29年8月16日付けで当審より拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由1」という。)がされ、同年10月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月27日付けで当審より拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由2」という。)がされ、同年12月15日付けで、意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願請求項1-17に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明17」という。)は、平成29年12月15日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-17に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 かんらん石の構造を備え、少なくとも表面の一部に、均一で、固着性で、且つ、非粉末状である炭素の付着層を備える化学式AMXO_(4)に対応する化合物の粒子からなるC-AMXO_(4)電極材料における不純物の不可逆的生成を防止する方法であり、 化学式AMXO_(4)において; - Aは、Li単独、又は、そのうちの一部が最大10%のNa又はKで置き換えられたものであり; - Mは、Fe(II)単独、又は、そのうちの一部が最大50%のMn、Ni及びCoから選択される1又はそれ以上の他の金属で置き換えられたもの、及び/又は、そのうちの一部が最大10%の1又はそれ以上のMg、Mo、Nb、Ti、Al、Ta、Ge、La、Y、Yb、Sm、Ce、Hf、Cr、Zr、Bi、Zn、Ca及びWから選択される等価又は異種原子価の金属で置き換えられたもの、及び/又は、一部が最大5%のFe(III)で置き換えられたものであり; - XO_(4)は、PO_(4)単独、又は、そのうちの一部が最大10モル%のSO_(4)及びSiO_(4)から選択される少なくとも1つで置き換えられたものであり; 前記方法が、 (a)前記C-AMXO_(4)電極材料を製造炉内で準備する工程であって、前記準備工程が前記炭素の付着層を得るとともに前記C-AMXO_(4)電極材料の水分含有量を1000ppm未満とするための熱分解工程及び、 (b)前記C-AMXO_(4)電極材料を前記製造炉から取り出して、電池に設けられるまでの間に前記C-AMXO_(4)電極材料の水分含有量を1000ppm未満に維持するために、前記C-AMXO_(4)電極材料を制御された雰囲気中に置く工程であって、前記制御雰囲気は、露点が-30℃未満の酸化性雰囲気であるか、又は、非酸化性雰囲気である工程を含む方法。」 なお、本願発明2-17は、請求項1を引用することにより本願発明1の特定事項を全て備える発明である。 第3 拒絶理由について 1. 当審拒絶理由2(特許法第36条第6項第2号)について 当審では、請求項1に係る発明が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年12月15日付けの手続補正において、補正前の請求項1の「C-AMXO_(4)電極材料において、準備、処理及び保管の間に不純物の不可逆的生成を防止する方法」なる記載を「C-AMXO_(4)電極材料における不純物の不可逆的生成を防止する方法」と、また、補正前の請求項1の「準備、処理及び保管の全段階を通じて」なる記載を「電池に設けられるまでの間に」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 2. 当審拒絶理由1(特許法第36条第6項第2号、同法第29条第2項)について (1) 明確性(特許法第36条第6項第2号)について 当審では、請求項1に係る発明が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年10月26日付けの手続補正において、補正前の「粘着性」を「固着性」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 (2) 進歩性(特許法第29条第2項)について (2-1) 当審では、請求項1-17について引用文献1に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと通知している。 <引用文献> 引用文献1:特開2003-292309号公報 (2-2)引用文献の記載事項及び引用発明 ア. 本願の優先日前に頒布された引用文献1には、以下の事項が記載されている(当審注:「・・・」は省略を表す。)。 イ. 「【請求項6】 リン酸第一鉄含水塩(Fe_(3)(PO_(4))_(2)・8H_(2)O)とリン酸リチウム(Li_(3)PO_(4))及び炭素質物質前駆体とを含有する比容積が1.5ml/g以下の反応前駆体を得た後、該反応前駆体を焼成してLiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で被覆したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を得ることを特徴とするリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の製造方法。 【請求項7】 リン酸第一鉄含水塩(Fe_(3)(PO_(4))_(2)・8H_(2)O)とリン酸リチウム(Li_(3)PO_(4))及び炭素質物質前駆体とを乾式混合するか、又はリン酸第一鉄含水塩(Fe_(3)(PO_(4))_(2)・8H_(2)O)、リン酸リチウム(Li_(3)PO_(4))及び炭素質物質前駆体とを湿式混合した後、溶媒を除去するかして混合物を得る第一工程、次いで得られた混合物を粉砕処理して比容積が1.5ml/g以下の反応前駆体を得る第二工程、次いで得られた反応前駆体を焼成してLiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で被覆したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を得る第三工程、次いで該リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を粉砕処理する第四工程を含む請求項6記載のリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の製造方法。 ・・・ 【請求項10】 前記第四工程後、得られる炭素質物質で被覆してなるリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を乾燥する工程を設けるか、又は第四工程の粉砕処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下に行う請求項7乃至9記載のリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の製造方法。」(【特許請求の範囲】) ウ. 「【発明の属する技術分野】 本発明は、リチウム二次電池の正極活物質として有用なオリビン構造を有するLiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で被覆したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体、その製造方法。これを含有するリチウム二次電池正極活物質及び特に放電容量の優れたリチウム二次電池に関するものである。」(【0001】) エ. 「【課題を解決するための手段】 本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、リン酸第一鉄含水塩(Fe_(3)(PO_(4))_(2)・8H_(2)O)とリン酸リチウム(Li_(3)PO_(4))及び炭素質物質前駆体とを含有する混合物を粉砕処理を施して比容積を特定値以下とした反応前駆体を用いて、これを焼成して得られるものは、単相のLiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で均一に被覆した特定平均粒径のリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体となり、これをリチウム二次電池の正極活物質として用いると、特に放電容量が高いリチウム二次電池となることを見出し本発明を完成するに至った。」(【0010】) オ. 「また、LiFePO_(4)の粒子表面を被覆する炭素質物質とは、前記の炭素質物質前駆体を500?700℃で2?24時間焼成して得られる炭化物を言う。この炭素質物質の被覆量は、LiFePO_(4)に対するC原子の含有量で0.1?20重量%、好ましくは5?12重量%であることが好ましい。この理由は、0.1重量%未満では、LiFePO_(4)に十分な導電性を付与させることができなくなるため本発明のリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を正極活物質とするリチウム二次電池において内部抵抗が上昇し、一方、20重量%を超えると逆に重量或いは体積当たりの放電容量が減少するため好ましくない。」(【0017】) カ. 「本発明にかかるリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の他の物性としては、平均粒径が上記範囲であることに加え、更に、平均粒径0.05?0.5μmの一次粒子が集合してなる平均粒径1?75μmの一次粒子集合体であると、リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を正極活物質として用いるときに、Liの脱挿入が速やかに行われるため好ましい。さらに、上記一次集合体は全体積の70%以上、好ましくは80%以上が粒径1?20μmであると、均一な厚さの塗膜の形成が可能となるためより望ましい。また、本発明に係るリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体は、BET比表面積が10?100m^(2)/g、好ましくは30?70m^(2)/gである。BET比表面積が該範囲内にあると、安全性が良好であるため好ましい。」(【0020】) キ. 「第三工程では、第二工程で得られた反応前駆体をそのまま焼成する。 焼成温度は500?700℃、好ましくは550?650℃である。本発明において、この焼成温度を当該範囲とすると得られるリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を正極活物質とするリチウム二次電池は、放電容量及び充電サイクル特性を向上させることができる。焼成温度が500℃未満では、反応が十分に進行しないため未反応原料が残存し、一方、700℃を越えると上記したとおり焼結が進行して粒子成長が起こるため好ましくない。 焼成時間は、2?20時間、好ましくは5?10時間とすることが好ましい。 焼成は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中又は水素や一酸化炭素等の還元雰囲気中のいずれで行ってもよく、特に制限されるものではないが、操作時の安全性の面で窒素、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。また、これらの焼成は必要により何度でも行うことができる。 焼成後は、適宜冷却を行うが、Feの酸化を防止するため,冷却中は反応系内を窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気又は水素や一酸化炭素等の還元雰囲気として行うことが好ましい。」(【0041】?【0042】) ク. 「本発明にかかるリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体は、平均粒径が0.5μm以下の微細な粒子であるため、焼成後の一連の工程を大気中で行うと水分を取りこみ該リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の水分量が3000ppm以上に増加し、この水分はリチウム二次電池のリチウムと電解液と反応し、充放電特性を劣化させる原因となる。このため本発明のリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の製造方法において、水分を低減させるため第四工程後に乾燥を行うか、又は第四工程の粉砕処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行うかして、該リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体に含まれる水分含有量を2000ppm以下、好ましくは1500ppm以下とすることが好ましい。」(【0046】) ケ. 「また、本発明のリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の製造方法において必要により行う分級処理も工業化レベルでは絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行うことが好ましい。」(【0047】) コ. 「実施例1?3及び比較例1?2で得られたリチウム鉄リン系複合酸化物炭素炭素複合体を80℃で24時間真空乾燥し、水分含有量を低減したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を調製し、その水分含有量をカールフィッシャー滴定法により250℃水分気化法で求めた。その結果を表6に示す。 【表6】 ・・・ 表5及び表7の結果より、水分を低減することにより、更に放電容量が向上することが分かる。」(【0079】?【0081】) サ. 上記イ.によれば、リン酸第一鉄含水塩(Fe_(3)(PO_(4))_(2)・8H_(2)O)、リン酸リチウム(Li_(3)PO_(4))及び炭素質物質前駆体の混合物を得る第一工程、次いで得られた混合物を粉砕処理して比容積が1.5ml/g以下の反応前駆体を得る第二工程、次いで得られた反応前駆体を焼成してLiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で被覆したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を得る第三工程、次いで該リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を粉砕処理する第四工程を含むリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の製造方法において、第四工程の粉砕処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下に行うものといえる。 上記ウ.及びエ.によれば、オリビン構造を有するLiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で均一に被覆したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体は、リチウム二次電池の正極活物質として、特に放電容量が高い点で有用であるとされる。 上記オ.によれば、LiFePO_(4)の粒子表面を被覆する炭素質物質の被覆量は、LiFePO_(4)に対するC原子の含有量で0.1?20重量%であるとされる。 上記カ.によれば、リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体は、平均粒径0.05?0.5μmの一次粒子が集合してなる平均粒径1?75μmの一次粒子集合体であると、リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を正極活物質として用いるときに、Liの脱挿入が速やかに行われるため好ましく、BET比表面積が10?100m^(2)/gであると、安全性が良好であるため好ましいとされる。 上記キ.によれば、第三工程、すなわち反応前駆体を焼成してLiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で被覆したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を得る工程は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中又は水素や一酸化炭素等の還元雰囲気中で500?700℃で焼成する工程と、その後、反応系内を窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気又は水素や一酸化炭素等の還元雰囲気として冷却する工程であるといえる。 上記ク.によれば、リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体は、平均粒径が0.5μm以下の微細な粒子であるため、焼成後の一連の工程を大気中で行うと水分を取りこみ該リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の水分量が3000ppm以上に増加し、この水分はリチウム二次電池のリチウムと電解液と反応し、充放電特性を劣化させる原因となるため、本発明のリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の製造方法において、水分含有量を1500ppm以下とするために、第四工程の粉砕処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行うものといえる。 上記ケ.によれば、リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の製造方法において、分級処理も水分量を増加させないために絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行うといえる。 上記コ.によれば、80℃で24時間真空乾燥し、水分含有量を低減したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の水分含有量は、400ppm程度であるといえる。 シ. 上記イ.?コ.の摘記事項および上記サ.の検討から、リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の製造方法において、オリビン構造を有するLiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で被覆する工程である第三工程とその後の工程に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 引用発明1 「リチウム二次電池の正極活物質として、特に放電容量の点で有用なオリビン構造を有するLiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質でLiFePO_(4)に対するC原子の含有量が0.1?20重量%となるように均一に被覆したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を粉砕処理することにより、平均粒径0.05?0.5μmの一次粒子が集合してなる平均粒径1?75μmの一次粒子集合体であり、BET比表面積が10?100m^(2)/gのリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の製造方法において、 LiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で被覆したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を得る工程として、反応系内を窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気又は水素や一酸化炭素等の還元雰囲気として、500?700℃で焼成し、冷却する第三工程と、水分含有量を1500ppm以下のリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の粒子とするため粉砕処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行う第四工程とを含み、その後、水分量を増加させないために分級処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行う製造方法。」 (2-3) 対比・判断 (2-3-1) 本願発明1について ア. 本願発明1と引用発明1とを対比する。 イ.技術常識によれば、「オリビン構造」は、「かんらん石の構造」と同義であり、焼成により粒子に被覆される炭素質物質は、粒子に固着性を有しているものと認められるので、引用発明1の「リチウム二次電池の正極活物質として」「有用なオリビン構造を有するLiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で」「均一に被覆したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体」は、本願発明1の「かんらん石の構造を備え、少なくとも表面の一部に、均一で、固着性で、且つ、非粉末状である炭素の付着層を備える化学式AMXO_(4)に対応する化合物の粒子からなるC-AMXO_(4)電極材料」「化学式AMXO_(4)において; - Aは、Li単独、又は、そのうちの一部が最大10%のNa又はKで置き換えられたものであり; - Mは、Fe(II)単独、又は、そのうちの一部が最大50%のMn、Ni及びCoから選択される1又はそれ以上の他の金属で置き換えられたもの、及び/又は、そのうちの一部が最大10%の1又はそれ以上のMg、Mo、Nb、Ti、Al、Ta、Ge、La、Y、Yb、Sm、Ce、Hf、Cr、Zr、Bi、Zn、Ca及びWから選択される等価又は異種原子価の金属で置き換えられたもの、及び/又は、一部が最大5%のFe(III)で置き換えられたものであり; - XO_(4)は、PO_(4)単独、又は、そのうちの一部が最大10モル%のSO_(4)及びSiO_(4)から選択される少なくとも1つで置き換えられたもの」に相当する。 また、引用発明1の「LiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で被覆したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を得る工程として、反応系内を窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気又は水素や一酸化炭素等の還元雰囲気として、500?700℃で焼成し、冷却する第三工程」は、500?700℃という焼成温度から水分はほぼ存在できない熱分解工程であり、この熱分解工程により得られるC-AMXO_(4)電極材料の水分含有量は1000ppm以下となっていると認められるので、本願発明1の「C-AMXO_(4)電極材料を製造炉内で準備する工程であって、前記準備工程が前記炭素の付着層を得るとともに前記C-AMXO_(4)電極材料の水分含有量を1000ppm未満とするための熱分解工程」に相当するものである。 さらに、技術常識によると、「絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気」は、露点温度が-70℃(絶対湿度:0.0028kg/kg)?-71℃(絶対湿度:0.024kg/kg)の間の雰囲気であるといえるので、引用発明1の「水分含有量を1500ppm以下のリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の粒子とするため粉砕処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行う第四工程とを含み、水分量を増加させないために分級処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行う」工程と、本願発明1の「(b)前記C-AMXO_(4)電極材料を前記製造炉から取り出して、電池に設けられるまでの間に前記C-AMXO_(4)電極材料の水分含有量を1000ppm未満に維持するために、前記C-AMXO_(4)電極材料を制御された雰囲気中に置く工程であって、前記制御雰囲気は、露点が-30℃未満の酸化性雰囲気であるか、又は、非酸化性雰囲気である工程」とは、「((b)前記C-AMXO_(4)電極材料を前記製造炉から取り出して」「前記C-AMXO_(4)電極材料の水分含有量を」「維持するために、前記C-AMXO_(4)電極材料を制御された雰囲気中に置く工程であって、前記制御雰囲気は、露点が-30℃未満の酸化性雰囲気であるか、又は、非酸化性雰囲気である工程」の点で一致する。 ウ.そうすると、両者は、 「かんらん石の構造を備え、少なくとも表面の一部に、均一で、固着性で、且つ、非粉末状である炭素の付着層を備える化学式AMXO_(4)に対応する化合物の粒子からなるC-AMXO_(4)電極材料における方法であり、 化学式AMXO_(4)において; - Aは、Li単独、又は、そのうちの一部が最大10%のNa又はKで置き換えられたものであり; - Mは、Fe(II)単独、又は、そのうちの一部が最大50%のMn、Ni及びCoから選択される1又はそれ以上の他の金属で置き換えられたもの、及び/又は、そのうちの一部が最大10%の1又はそれ以上のMg、Mo、Nb、Ti、Al、Ta、Ge、La、Y、Yb、Sm、Ce、Hf、Cr、Zr、Bi、Zn、Ca及びWから選択される等価又は異種原子価の金属で置き換えられたもの、及び/又は、一部が最大5%のFe(III)で置き換えられたものであり; - XO_(4)は、PO_(4)単独、又は、そのうちの一部が最大10モル%のSO_(4)及びSiO_(4)から選択される少なくとも1つで置き換えられたものであり; 前記方法が、 (a)前記C-AMXO_(4)電極材料を製造炉内で準備する工程であって、前記準備工程が前記炭素の付着層を得るとともに前記C-AMXO_(4)電極材料の水分含有量を1000ppm未満とするための熱分解工程及び、 (b)前記C-AMXO_(4)電極材料を前記製造炉から取り出して、前記C-AMXO_(4)電極材料の水分含有量を維持するために、前記C-AMXO_(4)電極材料を制御された雰囲気中に置く工程であって、前記制御雰囲気は、露点が-30℃未満の酸化性雰囲気であるか、又は、非酸化性雰囲気である工程を含む方法。」で一致し、次の点で相違する。 相違点1:「C-AMXO4電極材料における方法」が、本願発明1は、「C-AMXO_(4)電極材料における不純物の不可逆的生成を防止する方法」であるのに対し、引用発明1は「リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の製造方法」である点。 相違点2:工程(b)のC-AMXO_(4)電極材料を制御された雰囲気中に置く工程の期間が、本願発明1では、「製造炉から取り出して」から、「電池に設けられるまでの間」であるのに対し、引用発明1では、粉砕・分級処理までの間である点。 相違点3:工程(b)において維持し、得られるC-AMXO_(4)電極材料の水分含有量を、本願発明1では、「1000ppm未満」とするのに対し、引用発明1では「1500ppm以下」とする点。 エ. 上記相違点1について検討すると、引用文献1には、「C-AMXO_(4)電極材料」における不純物の不可逆的生成については、明示されていない。 オ. そして、本願発明1の「C-AMXO_(4)電極材料における不純物の不可逆的生成を防止する」手段である、「前記C-AMXO_(4)電極材料を」「露点が-30℃未満の酸化性雰囲気であるか、又は、非酸化性雰囲気」「中に置く」ことに相当する、引用発明1の「リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の粒子とするため粉砕処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行う第四工程とその後、水分量を増加させないために分級処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行う」こと(以下、「引用発明1の水分抑制手段」という。)の技術的意義とは、上記(2-2)ク.の摘記を参照すると、「リチウム二次電池のリチウムと電解液と反応し、充放電特性を劣化させる原因」となる水分量を増加させないために行うものであり、「C-AMXO_(4)電極材料における不純物」生成を防止するものではない。また、本願明細書の記載(特に、【0021】)によれば、C-AMXO_(4)電極材料における不純物の生成とは、水が関与する不可逆的な反応に因るものであり、不純物の生成を防止するために、工程中における水分の一時的増加すら回避すべきものであるが、引用文献1には、上記引用発明1の水分抑制手段と代替可能な水分量を抑制する手段として、「C-AMXO_(4)電極材料」の「水分を低減させるため第四工程後に乾燥を行う」(上記(2-2)ク.を参照。)という、不純物の生成につながる水分量の一時的な増加を許容する手段が記載されていることから、引用発明1の「リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体の粒子とするため粉砕処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行う第四工程とその後、水分量を増加させないために分級処理を絶対湿度0.0025kg/kg以下の雰囲気下で行う」工程を、不純物の生成という「不可逆的」な現象を回避するための手段、すなわち「C-AMXO_(4)電極材料における不純物の不可逆的生成を防止する」手段であるとはいえず、当該手段により実施される方法を「C-AMXO_(4)電極材料における不純物の不可逆的生成を防止する方法」であるということはできない。 カ. してみると、上記相違点1は、実質的な相違点であり、「C-AMXO_(4)電極材料における不純物の不可逆的生成を防止する方法」については、引用文献1のいずれにも記載されておらず、また、本願の優先日前において技技術常識であるともいえないので、引用発明1において相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得る事項ではない。 キ. したがって、相違点2-3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 (2-3-2) 本願発明2-17について 上記第2に示すとおり本願発明2-17は、請求項1を引用し、本願発明1の「C-AMXO_(4)電極材料における不純物の不可逆的生成を防止する方法」との発明特定事項を備えるものであるから、上記(2-3-1)に示した本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3. 原査定の理由(特許法第29条第2項)について (1) 原査定の概要について 原査定は、補正前の請求項1-2、4-8及び17に係る発明は、引用文献1又は2に記載された発明であるか、引用文献1-2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであり、補正前の請求項3に係る発明は、引用文献1-3及び6に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであり、また、補正前の請求項9-16に係る発明は、引用文献1又は2に記載された発明であるか、引用文献1-2及び5に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 <引用文献> 引用文献1:特開2003-292309号公報 引用文献2:特開2003-292308号公報 引用文献5:特開平10-302795号公報 引用文献6:特開2005-135775号公報 (2) 当審の判断 原査定において、補正前の請求項1に係る発明と同一の発明、又は、主引用発明が記載されているとされる引用文献1は、上記2.(2)で検討した引用文献1と同じものであるので、上記2.(2)で検討した理由と同様の理由で、引用文献1に基づく原査定における拒絶の理由は解消した。 また、原査定において引用文献1と同様に引用された引用文献2についても、その記載内容は、引用文献1に記載された内容と大部分が共通したものであるから、上記2.(2)で検討した理由と同様の理由によって、引用文献2に基づく拒絶の理由も解消した。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明1-17は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由及び当審から通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-03-08 |
出願番号 | 特願2014-109484(P2014-109484) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01M)
P 1 8・ 537- WY (H01M) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 結城 佐織 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 宮本 純 |
発明の名称 | 電極材料の製造方法 |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |