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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1337884
審判番号 不服2017-12339  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-21 
確定日 2018-03-20 
事件の表示 特願2013- 50004「RFIDタグ及びこれを用いた物品管理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月22日出願公開、特開2014-174950、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年3月13日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 3月10日 審査請求
平成28年 3月10日 手続補正書の提出
平成29年 1月12日 拒絶理由通知(起案日)
平成29年 2月23日 意見書及び手続補正書の提出
平成29年 3月10日 拒絶理由通知(起案日)
平成29年 4月20日 意見書及び手続補正書の提出
平成29年 5月19日 拒絶査定(起案日)
平成29年 8月21日 審判請求


第2 原査定の概要
1 原査定
原査定(平成29年5月19日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
「この出願については,平成29年 3月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

●理由(特許法第29条第2項)について

・請求項1,3
・引用文献1-2
・備考
出願人は,「一般には,本願請求項1に係る発明で言えば,第1のモードの他に,第2のモードと第3のモードとのうちいずれか一方を設けるだけよいと考えられるため,引用文献1におけるパッシブ状態(電源で送受信行わない)を有するにも関わらず,引用文献2における待機状態(電源で受信のみ)を採用することは考えられず,引用文献1,2のいずれにも,データの送信を行わない2つのモードを切り替え可能に有する点についての思想や示唆は全くありません。」と主張している。
しかしながら,引用文献1(段落[0031]-[0045],図1-2)には,タグにパッシブタグと同様の動作を行うパッシブモード待機状態(本願の「イベント信号の送信及びコマンド信号の受信を行わない第3のモードの状態」に相当)と,電源部307から供給される電力を利用するアクティブモード起動状態を有することが記載されている。
特に,段落[0026]には,RFIDタグ3がパッシブタグとして動作するときに,電磁誘導方式により電力を発生させるのであれば,アンテナ301はコイルアンテナ(同「第2のアンテナ」に相当)を含むことになることが記載されており,引用文献1に記載のアクティブモードで動作するRFIDタグ3は,第1のアンテナに加え,パッシブ時に起電力を生じる第2のアンテナを有しているといえる。
一方,引用文献2(段落[0056],[0090])には,電源の電力を利用するアクティブRFIDタグにおいて,待機状態(同「第2のモード」に相当)と周期的送信状態(同「第1のモード」に相当)を切り変えることが記載されている。
引用文献1の電力を利用するアクティブモード起動状態として,引用文献2に記載のアクティブモード,すなわち待機状態と周期的送信状態を切り替えることが可能なアクティブモードを用いることは,当業者が容易に想到しうることである。
その余の点については,上記拒絶理由通知書に記載したとおりである。
よって,請求項1,3にかかる発明は,引用文献1-2に記載の発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,依然として,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(なお,新たに追加された請求項2,4にかかる発明について検討する。引用文献1-2に記載の発明においても,所定の操作やコマンドに応じて各モードを切り替えているところ,請求項2,4に記載されているようなモードの遷移とすることも格別のものとは認められない。)

<引用文献等一覧>
1.特開2007-329561号公報
2.特開2011-76477号公報」

2 拒絶理由通知
原査定の根拠となった平成29年3月10日付け拒絶理由通知の概要は次のとおりである。
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由(進歩性)について

・請求項1-2
・引用文献1-2
・備考
引用文献1(段落[0031]-[0045],図1-2)には,パッシブタグと同様の動作を行うパッシブモード待機状態(本願の「イベント信号の送信及びコマンド信号の受信を行わない第3のモードの状態」に相当)にあるRFIDタグ3(同「RFIDタグ」に相当)に近接リーダ4を近接させて(同「所定の操作」に相当),近接リーダ4からの電波をアンテナ301を介して電波受発信部302(同「パッシブ通信部」に相当)で受信して,近接リーダ4からの電波を受信することなく,電源部307から供給される電力を利用して,電波受発信部305がID情報を含む電波をアンテナ301を介して遠隔リーダ5へ発信するアクティブモード起動状態(同「イベント信号を送信し,該イベント信号に対するコマンド信号を受信した場合に該コマンド信号に応じた情報を送信する第1のモードの状態」に相当)となり,電波受発信部305(同「アクティブ通信部」に相当)がID情報を含む電波をアンテナ301を介して遠隔リーダ5へ発信することが記載されている。
特に,段落[0026]には,RFIDタグ3がパッシブタグとして動作するときに,電磁誘導方式により電力を発生させるのであれば,アンテナ301はコイルアンテナ(同「第2のアンテナ」に相当)を含むことになることが記載されており,引用文献1に記載のアクティブモードで動作するRFIDタグ3は,第1のアンテナに加え,パッシブ時に起電力を生じる第2のアンテナを有しているといえる。
一方,本願発明と引用文献1に記載の発明を対比すると,引用文献1には電源によってコマンド信号の受信のみを行う第2のモードの状態について記載されていない点で本願発明と相違している。
しかし,引用文献2(段落[0056],[0090])には,RFIDタグにおいてトリガコードを受信する以前の状態から電源によってトリガコードを受信すれば,待機状態(同「電源によってコマンド信号の受信のみを行う第2のモード」に相当)から周期的送信状態に移行することが記載されている。
前記周期的送信状態は,タグが周期的なデータ送信を行う状態であって,コマンドを受信した場合には当該コマンドに応じた情報を送信することは明らかであるから,本願発明の「イベント信号を送信し,該イベント信号に対するコマンド信号を受信した場合に該コマンド信号に応じた情報を送信する第1のモードの状態」に相当する。
引用文献1に記載の発明に,引用文献2に記載の「コマンド信号の受信のみを行う第2のモードの状態」を付加することに格別の創意は認められない。
よって,引用文献1-2から,請求項1-2にかかる発明を構成することは当業者であれば容易に想到しうることである。

<引用文献等一覧>

1.特開2007-329561号公報
2.特開2011-76477号公報」


第3 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は,平成29年4月20日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

1 本願発明1
「 【請求項1】
電源と,第1及び第2のアンテナと,前記電源によって駆動し,前記第1のアンテナを介した非接触通信によって信号を送受信するアクティブ通信部と,非接触通信によって前記第2のアンテナに生じた起電力で駆動し,前記第2のアンテナを介した非接触通信によって信号を送受信するパッシブ通信部と,前記アクティブ通信部及び前記パッシブ通信部における信号の送受信に応じた制御を行う制御部とを有してなるRFIDタグにおいて,
前記アクティブ通信部は,前記電源によって,イベント信号を送信し,該イベント信号に対するコマンド信号を受信した場合に該コマンド信号に応じた情報を送信する第1のモードと,前記電源によってコマンド信号の受信のみを行う第2のモードと,前記イベント信号の送信及びコマンド信号の受信を行わない第3のモードとを有し,
前記制御部は,前記アクティブ通信部が前記第1または第2のモードの状態にて,モードを切り替えるためのコマンド信号を当該アクティブ通信部が受信した場合,前記アクティブ通信部を他のモードに遷移させ,前記アクティブ通信部が前記第3のモードの状態にて,モードを切り替えるためのコマンド信号を前記パッシブ通信部が受信した場合,前記アクティブ通信部を他のモードに遷移させることを特徴とするRFIDタグ。」

2 本願発明2
「 【請求項2】
請求項1に記載のRFIDタグにおいて,
前記制御部は,前記アクティブ通信部が前記第3のモードの状態にて,モードを切り替えるためのコマンド信号を前記パッシブ通信部が受信した場合,前記アクティブ通信部を前記第2のモードに遷移させることを特徴とするRFIDタグ。」

3 本願発明3
「 【請求項3】
請求項1に記載のRFIDタグを用いた物品管理システムであって,
前記アクティブ通信部が前記第2のモードの状態のRFIDタグに対して,前記アクティブ通信部を前記第1のモードに変更するためのコマンド信号を送信し,該コマンド信号を受信することで前記アクティブ通信部が前記第1のモードとなったRFIDから,当該RFIDに記憶された情報を取得し,その後,当該RFIDに対して前記アクティブ通信部を前記第3のモードに変更するためのコマンド信号を送信する第1の通信手段と,
前記アクティブ通信部が前記第3のモードから前記第1のモードの状態に遷移したRFIDから,当該RFIDに記憶された情報を取得する第2の通信手段と,
前記第1及び第2の通信手段にて取得された情報を用いて,当該RFIDが取り付けられた物品を管理する管理手段とを有する,物品管理システム。」

4 本願発明4
「 【請求項4】
請求項2に記載のRFIDタグを用いた物品管理システムであって,
前記アクティブ通信部が前記第3のモードの状態のRFIDタグに対して,前記アクティブ通信部を前記第2のモードに変更するためのコマンド信号を送信する起動手段と,
前記起動手段によって前記アクティブ通信部が前記第2のモードの状態となったRFIDタグに対して,前記アクティブ通信部を前記第1のモードに変更するためのコマンド信号を送信し,該コマンド信号を受信することで前記アクティブ通信部が前記第1のモードとなったRFIDから,当該RFIDに記憶された情報を取得し,その後,当該RFIDに対して前記アクティブ通信部を前記第3のモードに変更するためのコマンド信号を送信する第1の通信手段と,
前記アクティブ通信部が前記第3のモードから前記第1のモードの状態に遷移したRFIDから,当該RFIDに記憶された情報を取得する第2の通信手段と,
前記第1及び第2の通信手段にて取得された情報を用いて,当該RFIDが取り付けられた物品を管理する管理手段とを有する,物品管理システム。」


第4 引用例及び引用発明
1 引用例1について
(1)引用例1の記載
原査定の根拠となった平成29年3月10日付けの拒絶理由通知に引用された刊行物である特開2007-329561号公報(以下,「引用例1」という。)には,「無線タグ,物品管理システム及び無線タグが装着された物品の管理方法」(発明の名称)について図1?3とともに次の事項が記載されている(下線は,参考のため,当審において付したもの。以下同様である。)。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように,物品の管理システムにおいてアクティブタグを利用することで,リーダの設置場所の自由度を高めることが可能であり,効率的なシステムを構築することが可能である。アクティブタグの電池の消耗を抑えるために,電波送信後に電源からの電力供給を停止させるという上記特許文献1の技術があるが,大型自動倉庫のように広範囲かつ複数の管理工程(物品の仕分け,保管など)を含むシステムには不向きである。
【0011】
なぜなら大型自動倉庫のようなシステムでは,広いエリア内の複数の地点において複数のリーダを用いて物品を管理する必要があるが,特許文献1の技術を用いる場合,電源を駆動させるための近接リーダを各地点に設置させる必要があり,結局,遠隔リーダを利用するメリットが無くなるからである。
【0012】
そこで,本発明は前記問題点に鑑み,無線タグの内蔵電池の消耗を抑えつつ,無線タグから継続的に電波を送信させる技術を提供することを課題とする。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下,図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は,本実施の形態に係るRFIDタグ3の機能ブロック図である。RFIDタグには,電源を内蔵せず,リーダからの電波を受けてICチップを起動させることでID情報を含む電波の送受信を行うパッシブタグと,電池を内蔵し,広範囲での交信が可能なアクティブタグとがある。本実施の形態のRFIDタグ3は,電池を内蔵しているが,従来のアクティブタグと異なり,電池からの電力の供給が常に行われているのではなく,場合に応じて電力の供給を開始あるいは停止させることができるアクティブタグである。そのため,本実施の形態のRFIDタグ3の構成は従来のアクティブタグと異なり,パッシブタグの電波受発信動作の特徴を取り入れた構成となっている。
【0025】
図1において,RFIDタグ3はアンテナ301,電波受発信部302及び305,電流生成部303,ID記憶部304,電源供給制御部306,電源部307を備えている。
【0026】
アンテナ301は近接リーダ4及び遠隔リーダ5からの電波を受信するとともに,近接リーダ4及び遠隔リーダ5に対して電波を送信する機能を備えている。アンテナ301は,近接リーダ4との送受信用のアンテナと遠隔リーダ5との送受信用のアンテナとを含む。また,このRFIDタグ3がパッシブタグとして動作するときに,電磁誘導方式により電力を発生させるのであれば,アンテナ301はコイルアンテナを含むことになる。
【0027】
電波受発信部302は,パッシブタグとして機能する場合の受発信部であり,近接リーダ4との間で電波の送受信を行う。電波受発信部302は,近接リーダ4から受けた電波を利用して電力を得ることで,1m以内程度の距離までを交信範囲とする電波を発信することができる。電波受発信部305は,アクティブタグとして機能する場合の受発信部であり,遠隔リーダ5との間で電波の送受信を行う。電波受発信部305は,電源部307から供給される電力を利用して,5mあるいは10mなど近接リーダに比べて遠方にある遠隔リーダ5に対して交信範囲の広い電波を発信することができる。
【0028】
電波受発信部302は,アンテナ301を介して近接リーダ4との間で電波の送受信を行う。電流生成部303は,電波受発信部302が受信した電波に含まれる搬送波から電流を生成し,電源供給制御部306とID記憶部304に電流を供給する。ID記憶部304は,RFIDタグ3のID情報を保持するICチップで構成されており,電流生成部303からの電流を受けて起動する。電源供給制御部306は電流生成部303からの電流を受けて,電源部307を起動及び停止させる機能部である。電源部307は,電源供給制御部306からの命令を受けて起動し,RFIDタグ3の各部品に電力供給を行なう。
【0029】
電波受発信部305は,アンテナ301を介して遠隔リーダ5との間で電波の送受信を行う。アクティブモード時には,電波受発信部305は,ID記憶部304から読み出されたID情報を,アンテナ301を介して遠隔リーダ5へ送信する。
【0030】
近接リーダ4及び遠隔リーダ5は,図示せぬアンテナ,電源,チューナとリーダ,マイクロコンピュータを内蔵しており,RFIDタグ3からの電波を受け,ID情報を含む信号を解読,復号化して外部のコンピュータにデータを転送する。
【0031】
近接リーダ4及び遠隔リーダ5とRFIDタグ3との間で行われる電波受発信の仕組みを以下で説明する。前述のように本実施の形態のRFIDタグ3における電源部307は,停止している状態と起動している状態との2通りの状態がある。まず,電源部307が停止している状態から起動する状態に移る最初の段階を説明する。
【0032】
電源部307が停止している状態では,RFIDタグ3は,パッシブタグと同様の動作を行うので,以降ではパッシブモード待機状態と呼ぶ。パッシブモード待機状態にあるRFIDタグ3は,近接リーダ4からの電波をアンテナ301を介して電波受発信部302で受信する。
【0033】
次に電波受発信部302が受信した電波から電流生成部303が電流を生成する。そして電流生成部303が電流を供給することでID記憶部304を起動させ,電波受発信部302がID情報を含む電波をアンテナ301を介して近接リーダ4に送り返す。また,上記の工程において,電流生成部303がID記憶部304を起動させると同時に電源供給制御部306に電流を供給する。電源供給制御部306が起動すると,電力供給を許可する命令が電源部307に送られ,電源部307が起動する。このようにしてRFIDタグ3の電源部307が起動し,電力供給が行われる状態へ移行する。
【0034】
電源部307が起動しており,電力供給が行われている状態では,RFIDタグ3がアクティブタグと同様の動作を行うので,以降ではアクティブモード起動状態と呼ぶ。アクティブモード起動状態では,近接リーダ4からの電波を受信することなく,電源部307から供給される電力を利用して,電波受発信部305がID情報を含む電波をアンテナ301を介して遠隔リーダ5へ発信する。
【0035】
以上,RFIDタグ3の電源部307が停止しているパッシブモード待機状態からアクティブモード起動状態に移る仕組みと,アクティブモード起動後にRFIDタグ3が遠隔リーダ5にID情報を送信するという段階まで説明した。次にアクティブモード起動状態からパッシブモード待機状態に移る仕組みについて説明する。
【0036】
パッシブモード待機状態からアクティブモード起動状態に移る仕組みと同様に,アクティブモード起動状態からパッシブモード待機状態に移るときにも近接リーダ4を用いる。
【0037】
アクティブモード起動状態にあるRFIDタグ3は,近接リーダ4から発信された電波を電波受発信部302で受信すると,電流生成部303が電流を生成しID記憶部304を起動させる。そしてID情報を含む電波を電波受発信部302が,アンテナ301を介して近接リーダ4に送り返す。それと同時に電流生成部303から電源供給制御部306に電流が供給され,電源供給制御部306が電源部307の電力供給を停止させる。こうしてRFIDタグ3は再度パッシブモード待機状態に戻るのである。なお,アクティブモード起動状態にある場合には,電源部307からの電力が供給されているので,電波受発信部302が近接リーダ4からの電波を受信すると,電源供給制御部306は,電源部307から供給された電力に基づいて電源部307を停止制御することもできる。」

ウ 「【0038】
以上,RFIDタグ3の構成と電波受発信動作の仕組みについて説明した。本実施の形態におけるRFIDタグ3の特徴は,電源部307の起動と停止を近接リーダ4からの電波で,いつでも行なうことができるという点にある。その特徴を生かしたRFIDタグ3の使用例を次に説明する。
【0039】
図2はRFIDタグ3が装着された物品102の大型自動倉庫11における搬送システム1を示す図である。ここでいう大型自動倉庫11とは倉庫床面積がたとえば数百平方メートルであるような倉庫を想定している。また,倉庫内の物品は人の手を介さずに機械で搬送され,物品管理者はRFIDタグとリーダとコンピュータを使って,遠隔的に物品を管理することができる状態を想定している。ただし物品を倉庫に搬入する前及び搬出した後においては,人の手を介して物品が扱われることを想定する。
【0040】
図2に示すように,この搬送システム1は,非管理領域10,大型自動倉庫11,非管理領域12の3つの領域内に導入されているシステムである。非管理領域10は,大型自動倉庫11に物品が搬入される際に,倉庫に搬入する物品をチェックするエリアである。非管理領域12は,大型自動倉庫11から搬出される物品をチェックするエリアである。このように,非管理領域10,12においても物品の管理を行っているが,本実施の形態においては,遠隔リーダ5により物品を管理する領域である大型自動倉庫11を管理領域としているので,それに対応して領域10,12を非管理領域としている。
【0041】
また,図2において,遠隔リーダ装置5A?5Fは,上述した図1に示す遠隔リーダ装置5と同様の機能を有する装置である。また,近接リーダ装置4A,4Bは上述した図1に示す近接リーダ装置4と同様の機能を有する装置である。
【0042】
まず管理しようとする物品102にRFIDタグ3が装着される。物品の管理領域である大型自動倉庫11に物品を搬入する前の非管理領域10において,RFIDタグ3はパッシブモード待機状態である。大型自動倉庫11に物品を搬入する際,RFIDタグ3に近接リーダ装置4Aからの電波を受信させる。このとき,物品管理に従事する人が近接リーダ装置4Aを物品102に近づけて,電波を受信させることを想定している。これによって,これから搬入する物品を近接リーダ装置4Aでチェックする作業と倉庫内での管理モードであるアクティブモードの起動を同時に行うことができる。RFIDタグ3が近接リーダ装置4Aからの電波を受信すると,電源部307が駆動してアクティブモード起動状態に移行する。
【0043】
図2における矢視SLは大型自動倉庫11にRFIDタグ3が装着されている物品102が搬入される入口を示している。物品が搬入されると,倉庫内に配置された複数の遠隔リーダ装置5A?5Fによる物品管理が開始される。複数の遠隔リーダ装置5A?5Fが配置されている理由は,物品が仕分け領域,保管領域など複数の管理工程で管理されるためである。物品102に装着されているRFIDタグ3は,物品102のID情報を含む交信範囲の広い電波を遠隔リーダ装置5A?5Fに発信する。
【0044】
物品102が大型自動倉庫11において管理され,出荷のタイミングとなると,物品は大型自動倉庫外の非管理領域12に搬出される。図2における矢視ELは大型自動倉庫11に物品102が搬出される出口を示している。物品が非管理領域12に搬出されると,RFIDタグ3に近接リーダ装置4Bからの電波を受信させ,電源部307を停止させる。この工程においても,物品管理に従事する人が,近接リーダ装置4Bを物品102に近づけて電波を受信させることを想定している。これによって,倉庫内の管理モードであるアクティブモードの停止と近接リーダ装置4Bによる出庫チェックを同時に行うことができる。そしてRFIDタグ3は再びパッシブモード待機状態に移行する。
【0045】
このように,この搬送システム1においては,近接リーダ装置4Aを用いることで,アクティブモードのON制御を行い,近接リーダ装置4Bを用いることで,アクティブモードのOFF制御を行う。そして,同時に,近接リーダ4Aは,大型自動倉庫11に対する物品の入庫チェック機能を兼用し,近接リーダ4Bは,大型自動倉庫11からの物品の出庫チェック機能を兼用しているのである。近接リーダ4A,4Bによるチェック結果は,図示せぬコンピュータに転送され,大型自動倉庫11に対する入出庫管理が行われる。
【0046】
RFIDタグ3から近接リーダ装置4A,4B及び遠隔リーダ装置5A?5Fに発信されてきた物品のID情報は,物品管理者が使用しているコンピュータに送られてくる。こうして物品管理者は,事務所や会社にいながら遠隔的に物品を管理することが可能である。
【0047】
次に,図2で説明した大型自動倉庫11における物品の管理方法を,より明確にするため,図3のフローチャートを用いて説明する。
【0048】
図3は,RFIDタグ3の処理フローチャートである。物品102に装着されているRFIDタグ3は,大型自動倉庫11に搬入される前のパッシブモード待機状態,あるいは,大型自動倉庫11に搬入されているか,大型自動倉庫11から搬出された直後のアクティブモード起動状態にある。この状態でRFIDタグ3は近接リーダ4からの電波を受信する監視状態になっている(ステップS1)。
【0049】
RFIDタグ3が近接リーダ4からの電波を受信すると,ID記憶部304からID情報を読み出し(ステップS2),ID情報を含む電波を近接リーダ4へ送り出す(ステップS3)。なお,近接リーダ4と遠隔リーダ5から送信される電波の周波数を,それぞれ異なる周波数としておけば,RFIDタグ3は,受信した電波が近接リーダ4からの電波であることを認識することができる。
【0050】
この段階は,物品管理に従事する人が近接リーダ装置4Aまたは4Bを使って物品102に電波を受発信させている工程に対応する。次にRFIDタグ3がパッシブモード待機状態であるのかアクティブモード起動状態であるのかをチェックし(ステップS4),物品102が大型自動倉庫11に搬入される前のパッシブモード待機状態である場合には,電源部307からの電力供給を許可し(ステップS5),アクティブモード起動状態に移行させる(ステップS6)。
【0051】
これは大型自動倉庫11内に物品102を搬入し,物品の管理を始める工程を示す。管理が始まると,RFIDタグ3が電源部307から供給される電力を利用して,ID情報を含む交信範囲の広い電波を発信する。そして,遠隔リーダ装置5A?5Fは,RFIDタグ3から送信されてきた物品のID情報を受信し,物品管理者の利用するコンピュータにID情報等を送信するのである。
【0052】
ステップS4において,アクティブモード起動状態である場合,つまり,大型自動倉庫11から物品102が搬出された直後の状態である場合(非管理領域12に搬出された直後の状態である場合),電源部307からの電力供給を停止し(ステップS7),アクティブモード停止状態(パッシブモード待機状態)に移行させる(ステップS8)。このようにして,大型自動倉庫11における物品102の管理が終了するのである。
【0053】
上述したように,近接リーダ4と遠隔リーダ5から送信される電波の周波数を,それぞれ異なる周波数としておけば,アクティブモードにおいて遠隔リーダ5との間で電波の送受信を行っている場合であっても,RFIDタグ3は,受信した電波が近接リーダ4からの電波であることを認識することができる。あるいは,受信信号の中に,近接リーダ4からの電波であることを示す情報を埋め込むようにしてもよい。
【0054】
このように,本実施の形態のRFIDタグ3を利用することで,内蔵電源である電源部307の消費を抑えながら,電源部307の電力を利用して,交信範囲の広い電波を発信させることが可能である。したがって,大型自動倉庫11での使用のように,倉庫内で比較的長い時間,継続して電波を送信させたい場合に利便性がよい。つまり,倉庫内ではアクティブモードとして動作するので,リーダを自由な位置に設置させることが可能である。その一方で,物品が倉庫の内外に位置する場合には,電源部307が停止されているので,無駄な電力の消費が行われないのである。」

(2)引用例1に記載された発明
第4の1(1)ア?ウより,引用例1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「電源部307と,
近接リーダ4との送受信用のアンテナと,遠隔リーダ5との送受信用のアンテナとを含むアンテナ301と,
パッシブタグとして機能する場合に,前記近接リーダ4から受けた電波を利用して電力を得て,前記近接リーダ4との間で電波の送受信を行う電波受発信部302と,
アクティブタグとして機能する場合に,前記電源部307から供給される電力を利用して,前記近接リーダ4に比べて遠方にある遠隔リーダ5との間で電波の送受信を行う電波受発信部305と,
前記電波受発信部302が受信した電波に含まれる搬送波から電流を生成する電流生成部303と,
RFIDタグ3のID情報を保持するID記憶部304と,
前記電流生成部303からの電流を受けて,前記電源部307を起動及び停止させる電源供給制御部306と,
を備え,管理しようとする物品102に装着されるRFIDタグ3において,
前記RFIDタグ3は,
前記電源部307が停止している状態で,前記アンテナ301を介して前記電波受発信部302が受信した前記近接リーダ4からの電波から前記電流生成部303が生成した電流により,前記電波受発信部302が前記ID情報を含む電波を前記近接リーダ4に送り返すパッシブモード待機状態と,
前記電源部307が起動して電力供給が行われている状態で,前記電源部307から供給される電力を利用して,前記電波受発信部305が前記ID情報を含む電波を前記遠隔リーダ5へ発信することで,複数の前記遠隔リーダ5による物品管理が行われるアクティブモード起動状態と,
を有し,
前記RFIDタグ3を前記近接リーダ4に近づけて前記近接リーダ4から発信された電波を前記電波受発信部302で受信すると,前記RFIDタグ3が前記パッシブモード待機状態であるのか前記アクティブモード起動状態であるのかをチェックし,前記パッシブモード待機状態である場合には,前記電流生成部303から電流を供給された前記電源供給制御部306が電力供給を許可する命令を電源部307に送ることで前記アクティブモード起動状態に移行させ,前記アクティブモード起動状態である場合は,前記電源供給制御部306が前記電源部307からの電力供給を停止して前記パッシブモード待機状態に移行させることを特徴とするRFIDタグ3。」

2 引用例2について
(1)引用例2の記載
原査定の根拠となった平成29年3月10日付けの拒絶理由通知に引用された刊行物である特開2011-76477号公報(以下,「引用例2」という。)には,「アクティブRFIDタグ」(発明の名称)について図1?7とともに次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,電力が供給され,無線通信によって情報の送受信を行うアクティブRFIDタグに関する。このタグは,RFID(radio frequency identification)と称される,高周波を用いて認識を行う技術に利用されるタグである。本発明において,高周波(radio frequency)は,数メガヘルツ(megahertz, 略号「MHz」)?数ギガヘルツ(gigahertz, 略号「GHz」)の範囲の周波数をも含む。
【背景技術】
【0002】
図7は,従来技術に係るアクティブRFIDタグの構成を表すブロック図である。従来技術に係るアクティブRFIDタグとして,低周波無線信号を送受信する低周波無線通信手段1と,高周波無線信号を送受信する無線通信手段2と,予め定めるゲート識別情報が登録される図示しない記憶手段7とを備えるアクティブRFID3が知られる。このアクティブRFID3は,監視区域内に配置されたゲート手段4から,低周波無線通信手段1によってゲート情報を受信する。ゲート情報を受信すると,受信したゲート情報を,記憶手段7に登録されるゲート識別情報と比較し,一致したときに通過許可情報を送信する。さらにこのアクティブRFID3は,通過したゲートのゲート情報に一致するゲート識別情報を,監視区域内において高周波の電波を利用して無線通信手段2を介して送信する(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
従来技術に係るアクティブRFID3において,データ送信には300MHz付近の周波数帯の電波が利用される場合が多く,受信には,データ送信に利用される電波よりも低い周波数の電波が利用される場合が多い。従来技術においてデータ送信に利用される送信用アンテナ5と,受信に利用される受信用アンテナ6とは,互いに別個に形成される。
……(中略)……
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では,互いに異なる2種類のアンテナを設ける必要があるので,アクティブRFIDタグのうち,アンテナを除く残余の部分についての設計が,2種類のアンテナに制約を受ける。したがって,アンテナを複数設けることの必要性から,アクティブRFIDタグの構造に関する設計の自由度が低下するという問題点がある。また小形化できないという問題点がある。
【0006】
本発明の目的は,構造的な設計の自由度が高く,また小形化することのできるアクティブRFIDタグを提供することである。」

イ 「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,アンテナは,データ送信およびトリガコードの受信の両方に用いられる。これによって,設けられるアンテナを,1つとすることができる。したがって,データ送信用のアンテナとトリガコードを受信するためのアンテナとをそれぞれ別個に設ける場合に比べて,アクティブRFIDタグの構造について,設計の自由度を高くすることができる。またアンテナを1つとすることができ,構造を簡素化することができるので,アクティブRFIDタグを小形化することができる。
【0014】
また本発明によれば,データ送信に利用される電波と,予め定めるトリガコードの送受信に利用される電波とは,互いに周波数の近い電波および周波数が同一である電波のうちのいずれか一方に設定される。これによって,1つのアンテナをデータ送信およびトリガコードの受信の両方に兼用することができる。
……(中略)……
【0020】
また本発明によれば,制御部は,送受信回路が予め設定される時間,アクセスポイントからの予め定める電波を受信しないときに,データ送信部の状態を,送受信回路が停止した待機状態とする。これによって,データ送信部の状態として待機状態を設定しない場合に比べて,アクティブRFIDタグの消費電力を抑制することができる。」

ウ 「【0023】
(第1実施形態)
……(中略)……
【0024】
アクティブRFIDタグ10は,データ記録部12と,データ送信部13と,受信部14と,制御部16と,アンテナ11とを含んで構成される。データ記録部12には,データが記録される。データ送信部13は,データ記録部12に記録されるデータを,無線通信によってデータ送信する。受信部14は,予め定めるトリガコードを無線通信によって受信する。制御部16は,データ送信部13を制御し,受信部14が予め定めるトリガコードを受信したときに,データ送信部13をトリガコードに応じた応答送信によってデータ送信する状態とする制御を行う。アンテナ11は,データ送信およびトリガコードの受信の両方に用いられる。
【0025】
データ送信に利用される電波と,予め定めるトリガコードの送受信に利用される電波とは,互いに周波数の近い電波および周波数が同一である電波のうちのいずれか一方に設定される。アンテナ11は,電界検知式アンテナである。データ送信およびトリガコードの送受信に利用される電波の周波数は,950MHz以上2.5GHz以下の範囲内の値に設定される。
【0026】
図2は,本発明の第1実施形態に係るアクティブRFIDタグ10の構成を表すブロック図である。制御部16は,切換スイッチ17と,トリガコード判定部とを含み,トリガコード判定部は,中央処理演算装置(central processing unit, 略称「CPU」)によって実現される。トリガコード判定部は,アンテナ11を介して外部から伝達され受信した信号コードが予め定めるトリガコードか否かを判定する。本実施形態においてCPU19は,少なくともトリガコード判定部としての機能を有し,さらに他の機能を有している。たとえば切換スイッチ17の状態を切換え,制御する機能をも有している。
【0027】
切換スイッチ17は,アンテナ11と送信部との間の途中位置,かつアンテナ11と受信部14との間の途中位置に配置され,アンテナ11と送信部とを電気的に接続および遮断可能に設けられ,アンテナ11と受信部14とを電気的に接続および遮断可能に設けられる。切換スイッチ17は,CPU19による制御によってその状態が切換えられる。切換スイッチ17は,アンテナ11とデータ送信部13とが互いに接続された状態と,アンテナ11と受信部14とが互いに接続された状態とをとる。
【0028】
第1実施形態においてデータ送信部13および受信部14は,共通するアンテナ11を介して,予め定めるアクセスポイント21からデータ信号の受信を行う。さらにデータ送信部13は,この共通するアンテナ11を介して,アクセスポイント21に対してデータ信号の送信をも行う。以下,本実施形態において,データ送信部13を「データ送受信部」とも称する。ただし他の実施形態において,データ送信部13が,データ送信のみ行う構成とすることも可能である。第1実施形態において,アクセスポイント21は,アクティブRFIDタグ10に対して,予め定める周波数の電波を利用して無線通信を行う。アクセスポイント21とアクティブRFIDタグ10とは,相対的に移動する中で,互いに近接したときに,無線通信によってデータ信号の授受を行う。第1実施形態では,アクセスポイント21は,たとえば建物などの構造物に固定して設けられ,アクティブRFIDタグ10は,移動する物品に取付けられる。
……(中略)……
【0030】
図2(a)は,アクティブRFIDタグ10が待機状態にあるときの構成を表しており,図2(b)は,アクティブRFIDタグ10が送信状態にあるときの構成を表している。図2(b)に示す状態において,アクティブRFIDタグ10は,データ信号の受信をも行うことができる。アクティブRFIDタグ10がトリガ受信可能領域22外にあるときには,アクティブRFIDタグ10は待機状態となっており,トリガコードを受信可能に,切換スイッチ17は,アンテナ11と受信部14とを接続している。アクティブRFIDタグ10がアクセスポイント21に対して近接し,トリガ受信可能範囲に進入すると,アクティブRFIDタグ10は,アクセスポイント21から発信されるトリガコードを受信する。
……(中略)……
【0041】
受信部14によるトリガコードの受信に利用される電波の周波数と,データ送受信部13によるデータ送信に利用される電波の周波数とは,同一または互いに近い周波数として設定される。本実施形態において2種類の電波は,同一のアンテナ11で取扱いが可能な場合に,周波数が近い電波であると見做す。たとえば電波が周波数2.4GHz付近の電波である場合には,85MHz程度の周波数の差異があっても同一のアンテナ11で取扱うことが可能であり,たとえば周波数950MHz付近の電波である場合には30MHz?40MHz程度の周波数の差異があっても同一のアンテナ11で取扱うことが可能である。
【0042】
一般に電波は,その周波数が高くなれば高くなるほどアンテナ11自体が小形化しやすくなる。アンテナ11の大きさ,つまり共振に寄与する長さは,通信に利用される電波の1/2または1/4の波長に対応する大きさに設定され,周波数が高い電波ほど波長は短いので,周波数を高く設定することで,アンテナ11の小形化が可能となる。また周波数を高くすれば高くするほど,その電波を利用した通信において,単位時間に送信または受信できる情報量は,多くなる。したがって,周波数の高い電波を通信に利用する方が,一定の情報量に関して通信速度は速くなる。
【0043】
従来技術では,送信回路に機械的に接続されるバッテリによって稼動し無線通信によって情報を発信するタグには,300MHzの電波が利用されることが多い。これに対し,第1実施形態におけるアクティブRFIDタグ10では,950MHz以上の周波数の電波を利用するので,従来技術において300MHzの電波の送受信に利用されるアンテナに比べて,アンテナ11を受信部14とデータ送受信部13とで兼用することができる。
【0044】
従来技術において微小ループアンテナなど磁界検知式アンテナを用いる場合には,利得が小さい。従来技術では,トリガコードの受信のためのアンテナとデータ信号送信のためのアンテナとを共用の1つのアンテナとすることができないので,アンテナの設計の自由度は低い。微小ループアンテナでは,ループを成す開口の開口面積が,微小ループアンテナを利用する無線通信の利得に影響する。開口面積が大きければ大きいほど,無線通信の利得については有利となる。これに対し,第1実施形態では,電界検知式アンテナを用いるので,トリガコードの受信のためのアンテナとデータ信号送信のためのアンテナとを共用の1つのアンテナとすることができる。したがって,アンテナ11の形状に関する設計において,設計の自由度は,従来技術よりも大きくすることができる。
【0045】
また,仮に受信部14におけるトリガコードの受信に必要となる消費電力を,磁界検知式アンテナと電界検知式アンテナとにおいて同一の値に設定したならば,微小ループアンテナなど磁界検知式アンテナに比べて,電界検知式アンテナの方が通信距離を長く設定できる。ループアンテナおよびダイポールアンテナなどの電界アンテナは,利得が大きく,これに比べ微小ループアンテナなどの磁界アンテナは利得が小さい。磁界アンテナである微小ループアンテナは,電界アンテナであるループアンテナおよびダイポールアンテナに比べると小形であるけれども,本実施形態では,ループアンテナおよびダイポールアンテナなどの電界アンテナを利用する。
……(中略)……
【0048】
待機状態においてデータ送受信部13によるデータ送信はされていない状態であるけれども,トリガコードの受信を行うために,待機状態を維持するための電力は必要となる。待機状態の維持に必要となる電力は,データ送受信部13によってデータ送信をし続ける電力に比べて小さいけれども,待機状態において受信部14に供給される電力を零にすることはできない。すなわち受信部14は,待機状態において無線通信が充分可能な状態に維持される。」

エ 「【0055】
(第2実施形態)
図3は,本発明の第2実施形態におけるアンテナ23の斜視図である。第2実施形態に係るアクティブRFIDタグ26は,第1実施形態に係るアクティブRFIDタグ10に類似しており,以下,第1実施形態に対する第2実施形態の相違点を中心に説明する。第2実施形態においてアンテナ23は,ダイポールアンテナである。たとえば利用される電波の周波数が,2.4GHzの場合には,アンテナ23の共振に寄与する長さD3は,30mmから60mm程度に定められる。
【0056】
第2実施形態において,予め定めるトリガコードは,互いに異なる複数種類の信号コードを含み,制御部16は,信号コードの種類を判定し,判定結果に応じてデータ送信部13を制御する。また制御部16は,データ送信部13の状態を,周期的送信状態と応答送信状態とに制御する。周期的送信状態では,データ送信部13が周期的な周期的送信によってデータ送信を行う。応答送信状態では,データ送信部13がトリガコードに応じた応答送信によってデータ送信を行う。データ送信部13の状態を応答送信状態としたときに制御部16は,1回のデータ送信を行わせた後,予め定める時間内,データ送信を停止させる制御を行う。本実施形態においてデータ送信部13は,この共通するアクセスポイント21に対してデータ信号の受信をも行う。以下,本実施形態において,データ送信部13を「データ送受信部」とも称する。
【0057】
第2実施形態における制御部16は,時間を計測するためのクロックをさらに有する。クロックは,水晶発振子を含むものであっても,発振回路を含むものであってもよい。アクティブRFIDタグ26は,クロックに基づく制御部16による時間的制御によって,周期的かつ自動的にデータ送信を行う。たとえば1分間に1回の周期で,定期的な無線発信を行う。ただし周期については,規定しないたとえば他の実施形態において,10分間に1回の周期に設定することも可能である。
【0058】
仮に,たとえばトリガ受信可能領域22の通過にかかる時間よりも周期的送信に関する周期の方が長い場合にも,トリガコードに応じて応答送信を行うので,通信が行われずアクティブRFIDタグ10がトリガ受信領域22を通過してしまうことは防止される。
【0059】
アクセスポイント21は,複数の位置に設置される。たとえば,工場において製品の組立ラインを成し,製品の移動経路上の複数の箇所に設置される。この場合,アクティブRFIDタグ26は,組立途中の製品に取付けられる。アクセスポイント21は,アクティブRFIDタグ26からの情報を取得するのみならず,アクティブRFIDタグ26のデータ記録部12に記録される情報の書換えを行う。
【0060】
これによって,アクティブRFIDタグ26を含む管理対象物が,組立ラインのどこを通過し,どの段階の処理まで終了したのか,などの情報をデータ記録部12に記録し,またこれらを読出すことによって確認することができる。アクティブRFIDタグ26が周期的に情報の発信を行うことによって,その周期以下の時間的規模を誤差の範囲として,管理対象物の情報をリアルタイムに取得し管理することができる。隣合って設置される各アクセスポイント21は,互いに間隔をあけて設置される。これによって,各アクセスポイント21のそれぞれのトリガ受信可能範囲は,互いに重なることがない。
……(中略)……
【0065】
アクティブRFIDタグ26の制御部16は,受信部14が受信したトリガコードの種類を判定し,各種類に応じて,データ送受信部13を制御する。第2実施形態において制御部16は,データ送受信部13の利用する電波の周波数と,データ送受信部13による出力の大きさとを制御するけれども,他の実施形態において制御部16は,データ送受信部13の電波の周波数および出力の大きさのうちいずれか一方のみを制御する構成とすることも可能である。
……(中略)……
【0069】
第2実施形態においてアクティブRFIDタグ26が応答送信を行う場合には,トリガコードの受信によって1回のデータ送信を行った後,データ送信を,予め定める時間停止する。これは,制御部16がデータ送受信部13を制御することによって行われる。第2実施形態において「応答送信」は,トリガコードの受信に応じて1回のデータ送信を行うことも,その後予め定める時間,データ送信を停止する制御を行うことをも含め,このような制御に基づいくデータ送受信部13による送信を意味するものとする。データ送受信部13が,トリガコードに応じたこのような制御を制御部16によって受けている状態を,「応答送信状態」と称する。
……(中略)……
【0077】
トリガコードに応じた応答送信は,周期的送信に優先する。周期的送信を行っている周期的送信状態では,制御部16は,クロックによる時間計測に基づいて,図2に示されるような待機状態と送信状態とを切換える。これに対し,制御部16がトリガコードを受信しトリガコードに応じてデータ送受信部13を応答送信状態としたときには,応答送信として定められる制御を行う。第2実施形態では,1回のデータ送信を行うときに送信状態とし,その後,一定時間,データ送受信部13を,送受信回路の駆動が停止された送信停止状態とする。
【0078】
待機状態では,受信部14は,トリガコードを受信可能な状態に設定されるけれども,送信停止状態では,データ送受信部13のみならず,受信部14の機能をも停止された状態とすることができる。仮に受信部14の機能を停止させなくても,応答送信状態にある一定の時間内にはトリガコードに応じることを避けて制御を行えば,受信部14の機能を停止させた状態と同じ制御をすることが可能である。第2実施形態において送信停止状態は,受信部14の機能をも停止した状態であるか否かについては規定しないけれども,一定の時間内には,トリガコードに応じることのない状態である。
【0079】
図6は,本発明の第2実施形態におけるアクティブRFIDタグ26を用いた,データ通信方法の工程を表すフローチャートである。このデータ通信方法は,アクティブRFIDタグ26の電源がオンの状態で開始され,制御部16がデータ送受信部13を制御することによって行われる。アンテナ23を介して受信部14が受信した信号コードは,制御部16の制御に利用される。具体的には制御部16のトリガコード判定部を含むCPU19と,CPU19によって制御される切換スイッチ17とが,データ送受信部13を制御する。CPU19は,データ通信方法を行うための予め定めるプログラムを読み込み,このプログラムに従って稼動する。
【0080】
本処理開始後,ステップa1に移行し,切換スイッチ17は,制御部16の制御によってアンテナ23と受信部14とを電気的に接続し,アクティブRFIDタグ26を待機状態とする。次に,ステップa2に移行し,トリガコードの有無を確認する。トリガコードの有無の確認において,トリガコードなしと判定されれば,次にステップa3に移行し,トリガコードありと判定されれば,ステップa4に移行する。ステップa3では,周期的送信を行うべき時刻であるか否かが判断される。この判断において,周期的送信を行うべき時刻でないと判断されれば,ステップa2に移行し,待機状態でトリガコードの有無の確認を再度行う。ステップa3で周期的送信を行うべき時刻であると判断されれば,ステップa4に移行する。
【0081】
ステップa2でトリガコードありと判定された場合,およびステップa3で周期的送信を行うべき時刻であると判断された場合には,ステップa4において,データ送受信部13からアンテナ23を介してデータ記録部12に記録されるデータを,データ信号として発信する。これによって発信されたデータ信号は,無線通信によってアクセスポイント21に送信される。その後,ステップa5に移行し,データ通信が完了したか否かの判断を行う。これは,制御部16がデータ送受信部13のタスク状況を監視して判断してもよいし,アクセスポイント21がデータ信号の受信を完了すると,この完了を知らせる信号コードを送信し,データ送受信部13がこれを受信することによって制御部16がデータ通信のタスクの終了を判断してもよい。
……(中略)……
【0083】
ステップa5でデータ通信が完了したと判断されれば,ステップa2のトリガコードの有無の確認を再度行う。本処理の実施の途中において,アクティブRFIDタグ26の電源がオフとなった場合には,本処理を終了する。図2(a)に示した待機状態は,ステップa1において,切換スイッチ17がアンテナ23と受信部14とを電気的に接続した状態である。また図2(b)に示した送信状態は,ステップa4においてデータ送受信部13が制御部16の制御によってデータ送信を行っているときの状態である。切換スイッチ17の状態は,ステップa1?a3にわたって同じ状態としてもよく,またステップa4?a5にわたって同じ状態としてもよい。」

オ 「【0089】
(第3実施形態)
第3実施形態に係るアクティブRFIDタグ27は,第2実施形態に係るアクティブRFIDタグ26に類似しており,以下,第2実施形態に対する第3実施形態の相違点を中心に説明する。第3実施形態では,データ送信部13は,アクセスポイント21に対してデータ送信およびデータ受信を行う送受信回路を含む。制御部は,送受信回路が予め設定される時間,アクセスポイント21からの予め定める電波を受信しないときに,制御部16は,データ送信部13の状態を,送受信回路の稼動が停止した待機状態とする。本実施形態においてデータ送信部13は,この共通するアクセスポイント21に対してデータ信号の受信をも行う。以下,本実施形態において,データ送信部13を「データ送受信部」とも称する。
【0090】
トリガコードを受信する以前の状態からトリガコードを受信することによって,第1実施形態では,待機状態から送信状態に移行した。第2実施形態では,周期的送信状態から応答送信状態に移行した。これに対し,第3実施形態では,トリガコードを受信する以前の状態からトリガコードを受信すれば,待機状態から周期的送信状態に移行する。」

(2)引用例2に記載された発明
第4の2(1)ア?オより,引用例2には次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「アンテナ23と,データ記録部12と,切換スイッチ17とトリガコード判定部とを含む制御部16と,トリガコードの受信を行う受信部14と,データ記録部12に記録されるデータ信号の送信を行うデータ送受信部13とを備え,受信部14とデータ送受信部13のいずれか一方が切換スイッチ17により共通するアンテナ23に接続されるアクティブRFIDタグ26において,
アクティブRFIDタグ26は,電力が供給されるアクティブRFIDタグ26の電源がオンの状態で処理を開始し,電源がオフになったときに処理を終了させ,
アクティブRFIDタグ26は,切換スイッチ17によりアンテナ23と受信部14とを電気的に接続して受信部14がトリガコードを受信可能な状態に設定される待機状態と,データ送受信部13が周期的な周期的送信によってデータ送信を行う周期的送信状態と,データ送受信部13がトリガコードに応じた応答送信によってデータ送信を行う応答送信状態と,データ送受信部13と受信部14の機能が停止された状態である送信停止状態と,を有し,
制御部16は,トリガコードを受信しない場合に,周期的送信を行うべき時刻にデータ信号を発信する周期的送信状態に移行させ,トリガコードを受信した場合は応答送信状態に移行させ,応答送信状態に移行したときは1回のデータ送信を行った後一定時間は送信停止状態とし,アクティブRFIDタグ26がトリガ受信可能領域22外にあり,予め設定される時間,アクセスポイントからの予め定める電波を受信しないときに待機状態に移行させることを特徴とするアクティブRFIDタグ26。」

3 引用例3について
(1)引用例3の記載
平成29年1月12日付けの拒絶理由通知に引用された刊行物である特開2009-64315号公報(以下,「引用例3」という。)には,「RFタグシステム,RFタグ及びタグリーダ」(発明の名称)について図1?9とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0019】
ここで,RFタグ1の動作モードには,使用する電源と変調方式との組合せにより以下の3種類がある。
(1)パッシブモード
一般的なRFタグと同様に動作するモードであり,電源生成部4より供給される電源で動作して,リーダライタ2より送信されるキャリアをパッシブ変調部11Pにより負荷変調して応答する。
(2)アクティブモード
電源蓄積部5より供給される電源で動作し,アクティブ変調部11Aにより自身が送信するキャリアを変調(例えばASK変調)して応答する。
(3)セミパッシブモード
電源蓄積部5より供給される電源で動作するが,リーダライタ2に応答信号を返信する場合は,(1)のパッシブモードと同様にパッシブ変調部11Pを使用する。」

イ 「【0032】
図8は,RFタグ1がアクティブモードで動作可能な状態となった場合に,(a)リーダライタ2との間で行う通信の手順と,(b)RFタグ1の動作モードの切り替え状態を示すものである。図8(b)に示すように,RFタグ1は,リーダライタ2がキャリアをOFFし,アクティブモードでのタグ応答を受信する所定周期T1毎にリーダライタ2に対して自発的に応答(図5(b)に示すフレーム)を送信する。そして,周期T1の内,期間Taはアクティブモードで動作し,続く期間Tpはパッシブモードで動作する。
【0033】
リーダライタ2は,所定周期T1後にキャリアをOFFし,RFタグ1は,そのキャリアOFFを検出するとアクティブモードで動作を開始する。RFタグ1が,所定周期T1毎に自発的に返信した応答をリーダライタ2が受信すると,図8(a)に示すように,リーダライタ2は,以降は通常の通信と同様に,応答を受信したRFタグ1を選択するリクエストを送信する。そして,RFタグ1がその選択リクエストに対して応答を返すと,RFタグ1は引き続きアクティブモードで動作する。
【0034】
一方,図9に示すように,RFタグ1がパッシブモードで動作している間にリーダライタ2が最初のリクエストを送信し,RFタグ1がそれに対して応答を返し,続いて選択リクエスト,選択応答のやり取りが行われると,RFタグ1はリーダライタ2がキャリアをOFFするまでパッシブモードで動作することになる。
【0035】
すなわち,RFタグ1をアクティブモードで動作させれば電源蓄積部5の電力を消費するため,アクティブモードでの動作が連続すると動作時間が短くなってしまう。一方,リーダライタ2は,アクティブモードで通信可能なRFタグが存在するか否かを,定期的にコマンドを送信して確認する必要がある。そこで,RFタグ1は,アクティブモードで動作可能な状態になると,リーダライタ2に対して自発的に固有ID情報等を送信することで,リーダライタ2がRFタグ1の検出を容易に行えるようにする。また,アクティブモードとパッシブモードとを交互に切り替えて動作することで,電源蓄積部5の電力消費を抑制する。
【0036】
また,図9のケースで,RFタグ1がアクティブモードで自発的に応答を送信した後に,リーダライタ2からのコマンド送信がなく且つパッシブモードでの動作が不能であればRFタグ1は休止モードに移行する。ここで「休止モード」とは,電源蓄積部5の電力量が少なくパッシブモードで動作できない場合,電源蓄積部5の電力にキャリア検出のみを行うモードである。」


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1における「電源部307」及び「近接リーダ4との送受信用のアンテナと,遠隔リーダ5との送受信用のアンテナ」は,それぞれ,本願発明1における「電源」及び「第1及び第2のアンテナ」に相当する。
引用発明1における「パッシブタグとして機能する場合に,前記近接リーダ4から受けた電波を利用して電力を得て,前記近接リーダ4との間で電波の送受信を行う電波受発信部302」は前記「近接リーダ4との送受信用のアンテナ」を介して送受信を行うことは明らかであるから,本願発明1における「非接触通信によって前記第2のアンテナに生じた起電力で駆動し,前記第2のアンテナを介した非接触通信によって信号を送受信するパッシブ通信部」に相当する。
同様に,引用発明1における「アクティブタグとして機能する場合に,前記電源部307から供給される電力を利用して,前記近接リーダ4に比べて遠方にある遠隔リーダ5との間で電波の送受信を行う電波受発信部305」は,本願発明1における「前記電源によって駆動し,前記第1のアンテナを介した非接触通信によって信号を送受信するアクティブ通信部」に相当する。
そして,引用発明1における「前記電流生成部303からの電流を受けて,前記電源部307を起動及び停止させる電源供給制御部306」は「前記RFIDタグ3を前記近接リーダ4に近づけて前記近接リーダ4から発信された電波を前記電波受発信部302で受信する」と「前記RFIDタグ3」が「前記パッシブモード待機状態である場合には,前記電流生成部303から電流を供給された前記電源供給制御部306が電力供給を許可する命令を電源部307に送ることで前記アクティブモード起動状態に移行させ,前記アクティブモード起動状態である場合は,前記電源供給制御部306が前記電源部307からの電力供給を停止して前記パッシブモード待機状態に移行させる」から,「前記電波受発信部302」における信号の受信に応じた制御を行っているといえる。
したがって,引用発明1における前記「電源供給制御部306」と,本願発明1における「前記アクティブ通信部及び前記パッシブ通信部における信号の送受信に応じた制御を行う制御部」とは,「前記パッシブ通信部における信号」の「受信に応じた制御を行う制御部」である点で共通する。

イ 引用発明1における「前記電源部307が起動して電力供給が行われている状態で,前記電源部307から供給される電力を利用して,前記電波受発信部305が前記ID情報を含む電波を前記遠隔リーダ5へ発信することで,複数の前記遠隔リーダ5による物品管理が行われるアクティブモード起動状態」において,「前記ID情報を含む電波」は「前記電源部307」の「電力供給」によって「前記電波受発信部305」により「発信」され,「複数の前記遠隔リーダ5による物品管理」を促す信号であるから,本願発明1の「前記電源」によって「前記アクティブ通信部」が「送信」する「イベント信号」に相当する。
また,引用発明1における「アクティブモード起動状態」は「前記電波受発信部305」の状態であると認められる。
したがって,引用発明1における「前記RFIDタグ3」が有する前記「アクティブモード起動状態」と,本願発明1における「前記アクティブ通信部」が有する「前記電源によって,イベント信号を送信し,該イベント信号に対するコマンド信号を受信した場合に該コマンド信号に応じた情報を送信する第1のモード」とは,「前記電源によって,イベント信号を送信」する「第1のモード」である点で共通する。

ウ 引用発明1における「前記電源部307が停止している状態で,前記アンテナ301を介して前記電波受発信部302が受信した前記近接リーダ4からの電波から前記電流生成部303が生成した電流により,前記電波受発信部302が前記ID情報を含む電波を前記近接リーダ4に送り返すパッシブモード待機状態」は,「前記電波受発信部302」の状態であり,「前記電源部307が停止している」から「電波受発信部305」は何らの動作もしない。
したがって,引用発明1における「前記RFIDタグ3」が有する前記「パッシブモード待機状態」は,本願発明1における「前記アクティブ通信部」が有する「前記イベント信号の送信及びコマンド信号の受信を行わない第3のモード」に相当する。

エ 引用発明1において,「前記RFIDタグ3を前記近接リーダ4に近づけ」ることで「前記電波受発信部302で受信」する「前記近接リーダ4から発信された電波」は,コマンド信号ではないものの,「前記近接リーダ4」を近づけた者が「前記RFIDタグ3」に状態変更を指示する信号であると認められる。
したがって,引用発明1において「前記RFIDタグ3を前記近接リーダ4に近づけて前記近接リーダ4から発信された電波を前記電波受発信部302で受信すると,前記RFIDタグ3が前記パッシブモード待機状態であるのか前記アクティブモード起動状態であるのかをチェックし,前記パッシブモード待機状態である場合には,前記電流生成部303から電流を供給された前記電源供給制御部306が電力供給を許可する命令を電源部307に送ることで前記アクティブモード起動状態に移行させ」ることと,本願発明1において「前記制御部」は「前記アクティブ通信部が前記第3のモードの状態にて,モードを切り替えるためのコマンド信号を前記パッシブ通信部が受信した場合,前記アクティブ通信部を他のモードに遷移させる」こととは,「前記制御部」は「前記アクティブ通信部が前記第3のモードの状態にて,モードを切り替えるため」の「信号を前記パッシブ通信部が受信した場合,前記アクティブ通信部を他のモードに遷移させる」点で共通する。
同様に,引用発明1において「前記RFIDタグ3を前記近接リーダ4に近づけて前記近接リーダ4から発信された電波を前記電波受発信部302で受信すると,前記RFIDタグ3が前記パッシブモード待機状態であるのか前記アクティブモード起動状態であるのかをチェックし」,「前記アクティブモード起動状態である場合は,前記電源供給制御部306が前記電源部307からの電力供給を停止して前記パッシブモード待機状態に移行させる」ことと,本願発明1において「前記制御部は,前記アクティブ通信部が前記第1または第2のモードの状態にて,モードを切り替えるためのコマンド信号を当該アクティブ通信部が受信した場合,前記アクティブ通信部を他のモードに遷移させ」ることとは,「前記制御部は,前記アクティブ通信部が前記第1」の「モードの状態にて,モードを切り替えるため」の「信号」を「通信部が受信した場合,前記アクティブ通信部を他のモードに遷移させ」る点で共通する。

オ そして,引用発明1における「RFIDタグ3」は,以下の相違点を除き,本願発明1の「RFIDタグ」に相当する。


(2)一致点及び相違点
したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「電源と,第1及び第2のアンテナと,前記電源によって駆動し,前記第1のアンテナを介した非接触通信によって信号を送受信するアクティブ通信部と,非接触通信によって前記第2のアンテナに生じた起電力で駆動し,前記第2のアンテナを介した非接触通信によって信号を送受信するパッシブ通信部と,前記パッシブ通信部における信号の受信に応じた制御を行う制御部とを有してなるRFIDタグにおいて,
前記アクティブ通信部は,前記電源によって,イベント信号を送信する第1のモードと,前記イベント信号の送信及びコマンド信号の受信を行わない第3のモードとを有し,
前記制御部は,前記アクティブ通信部が前記第1のモードの状態にて,モードを切り替えるための信号を通信部が受信した場合,前記アクティブ通信部を他のモードに遷移させ,前記アクティブ通信部が前記第3のモードの状態にて,モードを切り替えるための信号を前記パッシブ通信部が受信した場合,前記アクティブ通信部を他のモードに遷移させることを特徴とするRFIDタグ。」

<相違点>
《相違点1》本願発明1の「制御部」は「前記アクティブ通信部及び前記パッシブ通信部における信号の送受信に応じた制御を行う」のに対し,引用発明1の「電源供給制御部306」は「前記近接リーダ4から発信された電波を前記電波受発信部302で受信する」ことに応じて「電源部307」を制御する点。
《相違点2》本願発明1の「第1のモード」は「該イベント信号に対するコマンド信号を受信した場合に該コマンド信号に応じた情報を送信する」という動作も行うのに対し,引用発明1の「アクティブモード起動状態」ではそのような動作を行わない点。
《相違点3》本願発明1の「前記アクティブ通信部」は「前記電源によってコマンド信号の受信のみを行う第2のモード」を有するのに対し,引用発明1の「電波受発信部305」はそのような状態を有していない点。
《相違点4》本願発明1の「制御部」は「モードを切り替えるためのコマンド信号」に基づいて「モード」を遷移させるのに対し,引用発明1の「電源供給制御部306」は「前記RFIDタグ3を前記近接リーダ4に近づけて前記近接リーダ4から発信された電波」に基づいて「状態」を移行させる点。
《相違点5》本願発明1の「制御部」は「前記アクティブ通信部が前記第1または第2のモードの状態にて,モードを切り替えるためのコマンド信号を当該アクティブ通信部が受信した場合,前記アクティブ通信部を他のモードに遷移させ」るのに対し,引用発明1の「電源供給制御部306」は「前記アクティブモード起動状態である場合」は「前記近接リーダ4から発信された電波を前記電波受発信部302で受信する」と「前記パッシブモード待機状態に移行させる」点。

(3)相違点についての判断
ア 事案に鑑みて,相違点1,3及び5について検討する。
引用発明2の「アクティブRFIDタグ26」は「電力が供給されるアクティブRFIDタグ26の電源がオンの状態で処理を開始し,電源がオフになったときに処理を終了させ」るから,「アクティブRFIDタグ26」が備える「トリガコードの受信を行う受信部14」は当該「アクティブRFIDタグ26の電源」によって駆動されるものと認められる。
また,引用発明2の「待機状態」は,「切換スイッチ17」により「アンテナ23」と「電気的に接続」されている「受信部14がトリガコードを受信可能な状態に設定される」状態である。
一方,前記「トリガコード」は,「データ送受信部13」に「トリガコードに応じた応答送信」を行わせるとともに,当該「トリガコード」に応じて「データ記録部12に記録されるデータ信号の送信を行うデータ送受信部13」と前記「受信部14」の「状態」を変化させるから,本願発明1の「コマンド信号」に相当する。
そうすると,引用発明2における前記「待機状態」は,相違点3に係る本願発明1の「前記電源によってコマンド信号の受信のみを行う第2のモード」に該当する。

イ しかしながら,引用発明2の「アクティブRFIDタグ26は,電力が供給されるアクティブRFIDタグ26の電源がオンの状態で処理を開始し,電源がオフになったときに処理を終了させ」るものであるから,前記「受信部14」と同様に,「データ記録部12に記録されるデータ信号の送信を行うデータ送受信部13」も「アクティブRFIDタグ26の電源」によって駆動されるものと認められる。つまり,引用発明2の前記「受信部14」と前記「データ送受信部13」を併せたものが,本願発明1の「アクティブ通信部」に相当する。
そして,引用例2には,第4の2(1)ウで摘記したように,「微小ループアンテナなど磁界検知式アンテナを用いる場合には,利得が小さい」(段落【0044】)から「ループアンテナおよびダイポールアンテナなど」の「電界検知式アンテナ」が好ましいこと(段落【0045】)、及び、「待機状態においてデータ送受信部13によるデータ送信はされていない状態であるけれども,トリガコードの受信を行うために,待機状態を維持するための電力は必要となる。」こと(段落【0048】)は記載されているものの,通信によってアンテナに生じた起電力によってアクティブRFIDタグを構成する回路の少なくとも一部を駆動することは記載も示唆もされていない。
すなわち,引用発明2は,本願発明1の「非接触通信によって前記第2のアンテナに生じた起電力で駆動し,前記第2のアンテナを介した非接触通信によって信号を送受信するパッシブ通信部」に対応する通信部を有していない。したがって,当然に,本願発明1の「前記アクティブ通信部及び前記パッシブ通信部における信号の送受信に応じた制御を行う制御部」に対応する制御部を,引用発明2は有していない。

ウ これに対して,第4の1(1)ウで摘記したように,引用例1で想定されているRFIDタグの使用環境では,「近接リーダ装置4Aを用いることで,アクティブモードのON制御を行い,近接リーダ装置4Bを用いることで,アクティブモードのOFF制御を行う。」(段落【0045】)とともに,「RFIDタグ3から近接リーダ装置4A,4B及び遠隔リーダ装置5A?5Fに発信されてきた物品のID情報は,物品管理者が使用しているコンピュータに送られてくる。こうして物品管理者は,事務所や会社にいながら遠隔的に物品を管理する」(段落【0046】)ものであり,「遠隔リーダ装置5A?5F」を用いて「RFIDタグ3」の制御を行うことは記載されていない。したがって,引用発明1の「前記電波受発信部305が前記ID情報を含む電波を前記遠隔リーダ5へ発信することで,複数の前記遠隔リーダ5による物品管理が行われるアクティブモード起動状態」において,「前記電源部307が起動して電力供給が行われている状態」で動作する「前記電波受発信部305」が,「RFIDタグ3」の状態を移行させるための電波を受信する必要があることは,引用例1には記載も示唆もされていない。
また,「パッシブモード待機状態」では,「前記電源部307が停止している」から「前記電波受発信部305」は動作していない。
したがって,引用発明1には,「前記電源部307が停止している状態」で「RFIDタグ3」の状態を移行させるための「前記近接リーダ4からの電波」を受信する「パッシブモード待機状態」とは別に,「電源部307」によって「RFIDタグ3」の状態を移行させるための電波の受信のみを行う第2の状態を設けるという,相違点3に係る構成を採用する動機付けがあるとは認められない。
同様に,引用発明1には,「電源供給制御部306」により,「前記電波受発信部305」が「アクティブ起動状態」または上記第2の状態にあるときに,前記「RFIDタグ3」の状態を移行させるための電波を,「電源部307」によって駆動される当該「電波受発信部305」が受信した場合に他の状態に移行させるという,相違点5に係る構成を採用する動機付けがあるとは認められない。

エ そして,仮に引用発明1に引用発明2を適用して,引用発明1の「RFIDタグ3」に新たに引用発明2の「待機状態」に相当する「電源部307」によってコマンド信号の受信のみを行う第2のモードを設けることを想到できたとしても,引用発明2は上記イで指摘したように,本願発明1の「前記アクティブ通信部及び前記パッシブ通信部における信号の送受信に応じた制御を行う制御部」に対応する制御部を有していないから,相違点1に係る本願発明1の構成を得ることができない。

オ 引用例3には,第4の3(1)ア,イで摘記したように,RFタグ1は,電源蓄積部5より供給される電源で動作し,アクティブ変調部11Aにより自身が送信するキャリアを変調(例えばASK変調)して応答するアクティブモードで動作可能な状態になると,リーダライタ2に対して自発的に固有ID情報等を送信することで,リーダライタ2がRFタグ1の検出を容易に行えることが記載されているだけで,相違点1,3及び5に係る本願発明1の構成は,記載も示唆もされていない。

カ これに対して,本願発明1は,相違点1,3及び5に係る構成を備えることで,「アクティブ通信部4が,コマンド信号に応じて,信号の送受信動作の有無によって電源の消費量が互いに異なるノーマルモードとサイレント1モードとサイレント2モードとに遷移することにより,周囲環境に応じて電源の消費を制御することができる。」という本願明細書の段落【0073】に記載された格別の効果を奏するものである。

キ 以上から,相違点2及び4について判断するまでもなく,本願発明1は,引用例3の記載を参酌しても,当業者が引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は,本願発明1を引用する発明であり,本願発明1をさらに限定した発明である。
したがって,本願発明2ないし4は,本願発明1と同じ理由により,引用例3の記載を参酌しても,当業者が引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり,本願発明1ないし4は,引用例3の記載を参酌しても,当業者が引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-03-05 
出願番号 特願2013-50004(P2013-50004)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 大嶋 洋一
鈴木 匡明
発明の名称 RFIDタグ及びこれを用いた物品管理システム  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  

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