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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1338073
審判番号 不服2016-16857  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-10 
確定日 2018-03-08 
事件の表示 特願2013-263828「トナーおよびトナーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月2日出願公開,特開2015-121582〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2013-263828号(以下「本件出願」という。)は,平成25年12月20日に出願された特許出願であって,その手続等の経緯は,以下のとおりである。
平成28年 3月 7日付け:拒絶理由の通知
平成28年 5月16日 :意見書の提出
平成28年 5月16日 :手続補正書の提出
平成28年 8月 9日付け:拒絶の査定(以下「原査定」という。)
平成28年11月10日 :審判請求書の提出
平成28年11月10日 :手続補正書の提出
平成29年 9月14日付け:拒絶理由の通知(当合議体)
平成29年11月13日 :意見書の提出(以下「本件意見書」という。)
平成29年11月13日 :手続補正書の提出
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。)

2 本願発明1
本件出願の請求項1に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである(以下「本願発明1」という。)。
「 複数のトナー粒子を有するトナーであって,
前記複数のトナー粒子のそれぞれは,トナーコアと,前記トナーコアの外添剤としてのシリカ粒子と,前記トナーコアおよび前記シリカ粒子のそれぞれを覆うシェル層とを含み,
前記シェル層のうち前記シリカ粒子を覆う部分の厚さは前記シリカ粒子の平均粒径よりも小さく,
前記トナー粒子の断面をEELS分析した場合に,強度INsに対する強度INcの比率が0.0以上0.2以下である条件を満たす厚さ5nm以上のシェル層が前記断面の周長の80%以上に存在するトナー粒子を80個数%以上の割合で含み,
前記強度INsは,シェル層に含まれる窒素元素に由来するN-K殻吸収端の強度を示し,前記強度INcは,トナーコアに含まれる窒素元素に由来するN-K殻吸収端の強度を示し,
前記シェル層の厚さは5nm以上80nm以下であり,
前記トナーコアはポリエステル樹脂を含み,
前記シェル層はメラミン樹脂から構成される,トナー。」

3 拒絶の理由の概要
当合議体により通知された拒絶の理由のうち,理由1は,概略,本件補正前の請求項1-請求項8に係る発明は,本件出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である特開昭61-88271号公報(以下「引用文献」という。)に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献の記載
引用文献には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 1頁左欄10-14行
「3.樹脂質芯材粒子と無機質微粒子とを混合して芯材粒子表面に無機質微粒子を付着させ,該無機質微粒子を付着させた芯材粒子を殻材樹脂により被覆することを特徴とするカプセルトナーの製造方法。」

イ 1頁右欄3-5行
「 本発明は,電子写真法,静電印刷法,磁気記録法などに用いられるカプセルトナーおよびその製造方法に関する。」

ウ 1頁右欄7行-2頁左上欄8行
「 電子写真法をはじめとする上記したような記録方法において用いられるトナーとしては,従来のバインダー樹脂と着色剤との溶融混合物の粉砕による,いわゆる粉砕法トナーに代わるものとして,主として加圧定着性の改善を目的として,硬質樹脂の殻を設けたカプセル型のトナーが種々提案されている。例えば,特公昭54-8104号などに見られる様な軟質物質を芯とするカプセルトナー,又特開昭51-132838号に示されている軟質樹脂溶液芯カプセルトナーがあるが,加圧定着性の不足,オフセット現象の発生等の未解決の問題が多く,実用化されるに至っていない。さらに,一般にトナーには,流動性付与剤等の無機質微粒子を外添混合して使用するが,上述の如きカプセルトナーの場合には,コピー枚数の増加と共に流動性付与剤等が減少し,その所期の効果が得られず,画像濃度及び画質が低下することがある。
また,無機質微粒子の減少が著しい場合では,現像スリーブ,感光体及びキヤリアー表面への汚染や融着が発生するなど,現像操作の継続に対する耐久性に問題が生じた。」

エ 2頁左上欄13-20行
「 本発明のより特定の目的は,普通紙に対して,従来よりも低圧力で,良好な定着性を有し,なおかつ,加えられた流動性付与剤等の無機質微粒子が,多数枚複写を行なっても,減少することが少なく,従って安定した画像濃度及び安定した画質を与えることをはじめとして,その所期の作用を安定的に発揮し得るカプセルトナーを提供することにある。」

オ 2頁左下欄1行-左下欄17行
「 すなわち,本発明者等の研究によれば,流動性付与剤等の無機質微粒子を外添混合により付着させた芯材粒子を殻材樹脂により被覆した場合には,一般にカプセルトナーの殻材に要求される厚さは0.05?0.5μm程度と薄いため,この殻材に被覆された状態においても一部は表面に露出し,あるいは露出しないまでも殻材を介しての突起形成等に寄与して,その本質的な作用を発揮し得る。一方,その付着状態は殻材により飛躍的に強化されているため,無機質微粒子の効果は安定的に発揮され,従って,カプセルトナーの長期運転下における性能も安定するものと考えられる。これに対し無機微粉体を芯物質中に内添する方法は,添加効果が減少する為に,その添加量を増大しなければならず,その場合,芯物質の造粒及び色調に悪影響がでるが,本発明の場合,このような不都合も生じない。」

カ 2頁右下欄8行-3頁左上欄20行
「 本発明に用いる芯材料としては,好ましい定着性を示す軟質固体状物質は,すべて利用できる。このような物質としては,ワックス類(密ろう,カルナウバろう,マイクロクリスタリンワックスなど)…(省略)…ポリエステル樹脂(酸価10以下)…(省略)…などがあり,これらの中から単独又は組合せて用いることができる。
本発明のカプセルトナーの芯材中には一般に,着色剤として各種の染,顔料が含まれる。」

キ 3頁左下欄9行-右下欄7行
「 本発明のカプセルトナーの芯材は,上記成分を,例えば溶融混練し,スプレードライヤー等にて造粒し,更に必要に応じて分級することにより,体積平均粒径が5?20μの微粒子として調製される。
本発明に従い,上記のようにして得られた芯材粒子に無機質微粒子を外添混合して,芯材粒子表面に無機質微粒子を付着させる。
本発明に用いる無機微粉体としては,例えば,…(省略)…シリカ微粉体…(省略)…などの粉末乃至粒子が挙げれる。」
(当合議体注:「20μ」は,「20μm」を省略して記載したものと解され,以下の「μ」も同様である。)

ク 3頁右下欄19行-4頁左上欄8行
「 本発明に於いて,これら無機微粉体は,コーヒーミル,粉砕器,ヘンシェル等の粉体混合あるいは粉砕機を使用して,芯材粒子に,好ましくは例えば40?50℃程度の加温下で,外添混合された後カプセル化されるが,その添加量は芯材重量に対して0.01?60重量%,好ましくは0.1?50重量%,特に好ましくは1?10重量%の範囲で用いられる。このような外添混合操作により,無機質微粒子を芯材粒子の表面あるいは表層に埋め込まれた状態で付着させる。」

ケ 4頁左上欄17行-左下欄5行
「 上記のようにして得られた無機質微粒子を付着させた芯材粒子ないしは芯材粒子と無機質微粒子との外添混合物を,殻材樹脂により被覆する。
殻材樹脂としては,公知の樹脂が使用可能であり,例えば,…(省略)…メタクリル酸N,N-ジメチルアミノエチルエステルなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステル…(省略)…メラミン樹脂…(省略)…などの単独重合物,あるいは共重合体,もしくは混合物が使用できる。」

コ 4頁左下欄14行-右下欄3行
かくして得られる本発明のカプセルトナーは,一般に,0.05?0.5μの厚さの外殻を有し,体積平均粒径が6?22μのマイクロカプセルとなる。また,その芯材表面近傍には,無機質微粒子が存在する形態となる。ここで無機質微粒子が存在する「芯材の表面近傍」とは,芯材粒子の表面(殻材との界面)ならびに芯材粒子直径の1/5以内の深さの表層部分を指し,この範囲内に無機質微粒子の90%以上,特に95%以上が存在する状態が好ましい。」

サ 5頁左上欄6行-右上欄18行
「実施例1
芯物質は,ハイワックス200P(三井石油化学製)20部,パラフィンワックス155(日本精蝋製)80部,フタロシアニンブルー5部を150℃で溶融混合し,スプレードライヤーで造粒後,乾式分級を行なうことにより,粒径が10.3μ±5.0μであり,球形状のものが得られた。
一方,乾式法で合成されたシリカ微粉体(比表面積:約130m^(2)/g)100重量部を攪拌しながら側鎖にアミンを有するアミノ変性シリコーンオイル(25℃における粘度70cps,アミン当量830)12重量部を噴霧し,温度をおよそ250℃に保持して60分間で処理した。
前記芯物質1kgに上記の側鎖にアミンを有するアミノ変性シリコーンオイルで処理したシリカ微粉体20gをヘンシェルミキサー10B型(三井三池製作所)にて,温度45℃回転目盛10で4分間の条件で外添混合した。次いで上記の芯物質とシリカ微粉体との外添混合物を,有機相からの相分離方法によりスチレン-ジメチルアミノエチルメタクリレート(モル比90/10)共重合体で,0.4μの膜厚で被覆し,カプセル化粒子を得た。得られたカプセル化粒子100gに,上記のアミノ変性シリコーンオイルで処理したシリカ微粉体1.0gを更に,上記と同様にして外添混合し,カプセルトナーを得た。このカプセルトナーをミクロトームにより切断し,透過型電子顕微鏡で観察したところ,表面のシリカに加えてトナーの芯材と殻材との界面ならびにこれより若干芯材の内側にシリカ微粉体が集合しているのが確認された。」

シ 7頁右上欄16行-左下欄8行
「 (4)同第10頁18行の「・・・用いられる。」の後に以下の記載を挿入する。
「なお,無機質微粒子は,殻材厚さの0.1?5倍,より好ましくは0.2?2倍の粒径をもつものが好ましい。
殻材厚さの0.1倍未満の粒径を有する無機質微粒子は,殻材中にほぼ完全に埋め込まれるため,突起形成に寄与する割合も少なく好ましくない。又,殻材厚さの5倍以上の粒径を有する無機質微粒子は,殻材中に保持することが困難で,マイクロカプセルトナーより分離し,本発明にかかる効果を減少させるほか,トナーの破壊を招くなど好ましくない。」
(当合議体注:この記載は,引用文献の特許出願において提出された手続補正書の内容であり,無機質微粒子の粒径と殻材厚さの関係に関する定性的な説明を追記する補正である。)

ス 8頁4-5行
「 (7)同第16頁3行の「20g」の後に,「(平均粒径0.2μ)」を挿入する。」
(当合議体注:この記載は,引用文献の特許出願において提出された手続補正書の内容であり,実施例1のシリカ微粉体の平均粒径が0.2μmであることを追記する補正である。)

(2) 引用発明
引用文献の前記(1)アに記載されたカプセルトナーの製造方法からみて,引用文献には,以下の「カプセルトナー」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 樹脂質芯材粒子と無機質微粒子とを混合して芯材粒子表面に無機質微粒子を付着させ,
無機質微粒子を付着させた芯材粒子を殻材樹脂により被覆してなる,
カプセルトナー。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明1と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア トナー
引用発明の「カプセルトナー」は,その名のとおり「トナー」であるから,複数のトナー粒子を有することは明らかである。
したがって,引用発明の「カプセルトナー」は,本願発明1の「トナー」に相当するとともに,本願発明1の「複数のトナー粒子を有するトナー」の要件を満たすといえる。

イ トナーコア及びシェル層
引用発明の「カプセルトナー」は,「樹脂質芯材粒子と無機質微粒子とを混合して芯材粒子表面に無機質微粒子を付着させ,無機質微粒子を付着させた芯材粒子を殻材樹脂により被覆してなる」ものである。したがって,引用発明の「カプセルトナー」の複数のトナー粒子のそれぞれは,「樹脂芯材粒子」と,その表面に付着した「無機質微粒子」と,「樹脂質芯材粒子」及び「無機質微粒子」を覆う「殻材樹脂」を含むものといえる。また,引用発明の「無機質微粒子」が,外添剤としての「無機質微粒子」であることは,技術的にみて明らかである(必要ならば,前記1(1)オの第1文を参照。)。
そうしてみると,引用発明の「樹脂質芯材粒子」,「無機質微粒子」及び「殻材樹脂」は,それぞれ本願発明1の「トナーコア」,「外添剤」及び「シェル層」に相当するとともに,引用発明の「無機質微粒子」と本願発明1の「シリカ粒子」は,「無機粒子」である点で共通する。そして,引用発明及び本願発明1の複数のトナー粒子のそれぞれは,「トナーコアと,前記トナーコアの外添剤としての無機粒子と,前記トナーコアおよび前記無機粒子のそれぞれを覆うシェル層とを含み」という点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。
「 複数のトナー粒子を有するトナーであって,
前記複数のトナー粒子のそれぞれは,トナーコアと,前記トナーコアの外添剤としての無機粒子と,前記トナーコアおよび前記無機粒子のそれぞれを覆うシェル層とを含む,トナー。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
無機粒子が,本願発明1は「シリカ粒子」であるのに対して,引用発明は,「シリカ粒子」とは特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1は,「前記シェル層のうち前記シリカ粒子を覆う部分の厚さは前記シリカ粒子の平均粒径よりも小さく」及び「前記シェル層の厚さは5nm以上80nm以下であり」という構成を具備するのに対して,引用発明は,この構成を具備するとは特定されていない点。

(相違点3)
本願発明1は,「前記トナー粒子の断面をEELS分析した場合に,強度INsに対する強度INcの比率が0.0以上0.2以下である条件を満たす厚さ5nm以上のシェル層が前記断面の周長の80%以上に存在するトナー粒子を80個数%以上の割合で含み,前記強度INsは,シェル層に含まれる窒素元素に由来するN-K殻吸収端の強度を示し,前記強度INcは,トナーコアに含まれる窒素元素に由来するN-K殻吸収端の強度を示し」,「前記トナーコアはポリエステル樹脂を含み,前記シェル層はメラミン樹脂から構成される」という構成を具備するのに対して,引用発明は,この構成を具備するとは特定されていない点。

(3) 判断
ア 相違点1及び相違点3について
外添剤としてのシリカ粒子,芯材としてのポリエステル樹脂,及び殻材樹脂としてのメラミン樹脂は,いずれも,本件出願前の当業者に周知のものである(外添剤としてのシリカ粒子について,必要ならば,特開2011-232750号公報(以下「周知例1」という。)の【0035】,特開2011-90202号公報(以下「周知例2」という。)の【0206】を参照。芯材としてのポリエステル樹脂について,必要ならば,特開2006-206848号(以下「周知例3」という。)の【0182】-【0185】,特開2010-169745号公報(以下「周知例4」という。)の【請求項7】を参照。殻材樹脂としてのメラミン樹脂について,必要ならば,特開昭58-111050号公報(以下「周知例5」という。)の実施例1(7頁左上欄14行-右下欄6行),特開2004-294469号公報(以下「周知例6」という。)の【0134】,特開2004-138985号公報(以下「周知例7」という。)の【請求項4】,特開2005-115194号公報(以下「周知例8」という。)の請求項4を参照。)。加えて,これら外添剤としてのシリカ粒子,芯材としてのポリエステル樹脂,及び殻材樹脂としてのメラミン樹脂は,いずれも,引用文献に選択肢として示されている(シリカ粒子については前記1(1)キ,ポリエステル樹脂については前記1(1)カ,メラミン樹脂については前記1(1)ケを参照。)。
そうしてみると,周知技術を心得た当業者が,引用発明において,外添剤としてのシリカ粒子,芯材としてのポリエステル樹脂(炭素,酸素及び水素の化合物),及び殻材樹脂としてのメラミン樹脂(窒素,炭素及び水素の化合物)を採用することは,引用文献が示唆する範囲内の事項にすぎない。そして,殻材樹脂としてメラミン樹脂を採用した場合には,殻材として好適な,薄い被膜を形成できる(必要ならば,周知例6の【0067】,【0139】及び【0141】を参照。)から,トナー粒子の断面をEELS分析した場合に,シェル層に含まれる窒素元素に由来するN-K殻吸収端の強度INsに対する,トナーコアに含まれる窒素元素に由来するN-K殻吸収端の強度INcの比率が,0.0以上0.2以下である条件を満たす厚さ5nm以上のシェル層が前記断面の周長の80%以上に存在するトナー粒子を,80個数%以上含むトナーを製造することは,望ましいカプセルトナーを製造しようとする当業者が容易に発明できた範囲内の事項といえる。

イ 相違点2について
引用発明の技術的意義に関して,引用文献には,「流動性付与剤等の無機質微粒子を外添混合により付着させた芯材粒子を殻材樹脂により被覆した場合には,一般にカプセルトナーの殻材に要求される厚さは0.05?0.5μm程度と薄いため,この殻材に被覆された状態においても一部は表面に露出し,あるいは露出しないまでも殻材を介しての突起形成等に寄与して,その本質的な作用を発揮し得る」及び「その付着状態は殻材により飛躍的に強化されているため,無機質微粒子の効果は安定的に発揮され,従って,カプセルトナーの長期運転下における性能も安定するものと考えられる」と記載されている(前記1(1)オ)。
したがって,当業者ならば,このような引用発明の技術的意義を考慮して,引用発明の殻材樹脂及び無機質微粒子を設計すると考えられるところ,引用文献には,「無機質微粒子は,殻材厚さの0.1?5倍,より好ましくは0.2?2倍の粒径をもつものが好ましい。」及び「殻材厚さの0.1倍未満の粒径を有する無機質微粒子は,殻材中にほぼ完全に埋め込まれるため,突起形成に寄与する割合も少なく好ましくない。又,殻材厚さの5倍以上の粒径を有する無機質微粒子は,殻材中に保持することが困難で,マイクロカプセルトナーより分離し,本発明にかかる効果を減少させるほか,トナーの破壊を招くなど好ましくない。」(前記1(1)シ)とも記載されている。
そうしてみると,例えば,突起形成に寄与する無機質微粒子の割合を高めようと考えた当業者が,上記「より好ましくは0.2?2倍の粒径」の上限値である2倍程度の粒径の無機質微粒子を選択することは,引用文献が示唆する範囲内の設計的事項と考えられる。そして,引用文献には平均粒径が0.2μmの無機質微粒子が記載されているところ(前記(1)ス),これに上記関係を当てはめると殻材厚さは0.1μmと計算されるから,この場合の,本願発明1でいうシェル層の厚さ(シリカ粒子を覆う部分の厚さ)は80nmを下回り,ただし,5nmよりは厚くなると考えられる。
あるいは,例えば,突起形成に寄与しかつ殻材中に保持される無機質微粒子の割合を高めようと考えた当業者が,殻材厚さの1倍程度の粒径の無機質微粒子を選択することは,引用文献が示唆する範囲内の設計的事項とも考えられる(当合議体注:1倍程度ならば突起は確実にでき,かつ,無機質微粒子も埋め込まれると考えられる。)。そして,外添剤としてのシリカ粒子の粒径として,例えば,前記周知例1の【0035】及び周知例2の【0206】に例示されるような100nmを下回るものを採用した場合の,本願発明でいうシェル層の厚さ(シリカ粒子を覆う部分の厚さ)は80nmを下回り,ただし,5nmよりは厚くなると考えられる。
以上のとおりであるから,周知技術を心得た当業者が,引用発明において相違点2に係る本願発明1の構成を採用することは,引用文献が示唆する範囲内の事項にすぎない。

(4) 効果について
発明の効果に関して,本件出願の発明の詳細な説明の【0008】には,「本発明によれば,帯電性に優れたトナーを提供できる。」と記載されている。
しかしながら,引用文献の実施例1(前記1(1)サ)においては殻材樹脂等に窒素元素が含まれ,帯電性が考慮されていると考えられるところ,引用発明の殻材樹脂として前記(3)アで述べたとおりメラミン樹脂を採用した場合にも良好な帯電性を確保できることは明らかである。
したがって,本願発明1の効果は,引用発明の殻材樹脂として周知のメラミン樹脂を採用する当業者が期待する効果の範囲内にすぎない。

(5) 審判請求人の主張について
審判請求人は,本件意見書において,概略,引用文献は,公知の使用可能な物質の中から敢えて,芯材としては離型剤および着色剤を選択し,殻材としては比較的柔らかい熱可塑性樹脂であるスチレン-ジメチルアミノエチルメタクリレートを選択し,かつ,無機質微粒子の粒径よりも大きい0.4μmもの厚さで殻材を形成することを実施例とするものにすぎず,したがって,引用文献は,比較的薄いシェル層でシェル層の厚さよりも粒径の大きいシリカ粒子を覆うこと,および,シェル層のメラミン樹脂とトナーコアのポリエステル樹脂とを反応させて化学的に結合させることのいずれについても教示も示唆もしておらず,また,周知慣用技術でもないと主張する(5頁12-19行)。
確かに,審判請求人が主張するとおり,外添剤としてのシリカ粒子,芯材としてのポリエステル樹脂,殻材樹脂としてのメラミン樹脂の組み合わせからなるトナー粒子は,周知慣用技術であるとはいえない。
しかしながら,引用文献全体の記載からみて,引用発明の技術的意義は前記1(1)オに記載されたとおりのものと考えられるから,引用発明における外添剤,芯材及び殻材樹脂の選択は,実施例のものにとらわれず,引用文献に記載された範囲から適宜選択可能なものと考えられる。また,本件出願前の技術常識を考慮すると,外添剤としてのシリカ粒子は最も一般的なものと考えられ,芯材としてのポリエステル樹脂も,スチレンアクリル樹脂とともに,周知慣用のものと考えられる。そして,殻材として好適な,薄い被膜を形成できる樹脂として,メラミン樹脂は上記(3)アで述べたとおり,周知技術である。
審判請求人は,また,シェル層のメラミン樹脂とトナーコアのポリエステル樹脂とを反応させて化学的に結合させるとも主張するが,本願発明1は物の発明であり,製造方法の発明ではない。また,本願発明1は,ポリエステル樹脂の酸価等を特定するものでもない。なお,芯材としてのポリエステル樹脂及び殻材樹脂としてのメラミン樹脂の組み合わせは,前記周知例6の【0133】及び【0134】,前記周知例7の【0095】及び【0096】に記載されている。
したがって,請求人の主張は採用できない。

第3 まとめ
本願発明1は,本件出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である引用文献に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-04 
結審通知日 2018-01-09 
審決日 2018-01-22 
出願番号 特願2013-263828(P2013-263828)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
宮澤 浩
発明の名称 トナーおよびトナーの製造方法  
代理人 前井 宏之  

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