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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C08B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08B
管理番号 1338092
異議申立番号 異議2016-700677  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-04 
確定日 2018-01-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5859170号発明「ポリロタキサン化合物、光硬化性コーティング組成物およびコーティングフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5859170号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?11]、[12?19]について訂正することを認める。 特許第5859170号の請求項1?19に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5859170号の請求項1?19に係る特許についての出願は、2013年5月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年5月25日韓国(KR)4件、2013年5月27日韓国(KR))を国際出願日として特許出願され、平成27年12月25日に特許権の設定登録がされ、平成28年2月10日にその特許公報が発行され、同年8月3日に、その請求項1?19に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 土屋 篤志(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年10月17日付け 取消理由通知
平成29年 1月18日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 3月28日付け 訂正拒絶理由通知
同年 5月16日 意見書・手続補正書(特許権者)
同年 6月22日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 9月22日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年10月20日付け 通知書
同年11月20日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否についての判断
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成29年9月22日に訂正請求書を提出し、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?19について訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。
なお、平成29年1月18日付けの訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

1 訂正の内容

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1が
「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含む、ポリロタキサン化合物。」であるのを、
訂正後の請求項1を
「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含み、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、ポリロタキサン化合物。」と訂正する。(審決注:下線は訂正箇所を示す。以下同様。)

(2)訂正事項2
訂正前の明細書の段落【0017】が
「本発明は、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含む、ポリロタキサン化合物を提供する。」であるのを、
訂正後の明細書の段落【0017】を
「本発明は、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含み、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、ポリロタキサン化合物を提供する。」と訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項12が
「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物、
高分子樹脂またはその前駆体、および
光開始剤、を含む光硬化性コーティング組成物。」であるのを、
訂正後の請求項12を
「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物、
高分子樹脂またはその前駆体、および
光開始剤、を含み、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、光硬化性コーティング組成物。」と訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の明細書の段落【0018】が
「また、本発明は、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基とを含むポリロタキサン化合物、高分子樹脂またはその前駆体、および光開始剤、を含む光硬化性コーティング組成物を提供する。」であるのを、
訂正後の明細書の段落【0018】を
「また、本発明は、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基とを含むポリロタキサン化合物、高分子樹脂またはその前駆体、および光開始剤、を含み、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、光硬化性コーティング組成物を提供する。」と訂正する。

2 訂正の適否

(1)訂正事項1について

ア 訂正の目的
訂正事項1は、「ポリロタキサン化合物」について、このポリロタキサン化合物の環状化合物に結合されたラクトン系化合物につき、「前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された」と訂正するものであるところ、訂正前の請求項において、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物である旨の特定がされており、「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入された」とは、特許登録時の明細書等には「【0025】つまり、前記ポリロタキサン化合物で、前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、40モル%?70モル%・・でありうる。」及び「【0028】前記(メタ)アクリレート系化合物の導入率または置換率は、前記ポリロタキサン化合物の環状化合物に結合されたラクトン系化合物の残基と(メタ)アクリレート系化合物の残基の比率から測定することができる。例えば、前記ラクトン系化合物に含まれている一定の作用基(例えば、特定位置の「-CH_(2)-」のmol数またはNMRピーク強度と(メタ)アクリレート系化合物に含まれている一定の作用基(例えば、特定位置の「-CH_(2)-」のmol数またはNMRピーク強度を比較して、前記導入率または置換率を求めることができる。」との記載からみて、「末端置換率が40モル%?70モル%であ」ることと同義であるから、当該訂正は、該ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換されることを特定するものであるといえるので、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項
特許登録時の明細書等には、前記アで示した段落【0025】及び【0028】の記載に加え、実施例1及び2に、「【0091】・・実施例1・・カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[・・]・・を反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate・・]・・、ジブチル錫ジラウレート[審決注:触媒(【0060】)]・・、ヒドラキノンモノメチレンエテール(審決注:重合禁止剤)・・およびメチルエチルケトン[審決注:溶媒(【0080】)]・・を添加して・・反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。・・【0097】前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は46.8%であった。」及び「【0098】実施例2 カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[・・]・・を反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate・・]・・、ジブチル錫ジラウレート[・・]・・、ヒドラキノンモノメチレンエテール・・およびメチルエチルケトン・・を添加して・・反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。・・【0104】前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は60.0%であった。」と記載されている。
この実施例1及び2は共に、ポリロタキサンポリマーと反応させている化合物は、(メタ)アクリレート系化合物である「2-acryloylethyl isocyanate」のみであるから、該反応させて得られたものは、ポリロタキサン化合物の環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換されたものといえる。そして、その該ラクトン系化合物の末端置換率は40モル%?70モル%の範囲内の46.8%(実施例1)及び60.0%(実施例2)である。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更について
前記アで述べたとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について

ア 訂正の目的
訂正事項2は、明細書の段落【0017】において、訂正事項1と記載内容を整合させるために、「を含み、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、ポリロタキサン化合物を提供する。」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 新規事項
訂正事項2は、明細書の段落【0017】の記載について、訂正事項1と同様の訂正を行うものであるから、前記(1)イで述べたとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2は、そもそも、特許請求の範囲を訂正するものではなく、その内容も実質的に訂正事項1と同じであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について

ア 訂正の目的
訂正事項3は、「光硬化性コーティング組成物」について、この光硬化性コーティング組成物が含んでいるポリロタキサン化合物の環状化合物に結合されたラクトン系化合物につき、「前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された」と訂正するものであるところ、訂正前の請求項において、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物である旨の特定がされており、「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入された」とは、特許登録時の明細書等の前記(1)アで示した段落【0025】及び【0028】の記載からみて、「末端置換率が40モル%?70モル%であ」ることと同義であるから、当該訂正は、該ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換されることを特定するものであるといえるので、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項
訂正事項3は、光硬化性コーティング組成物が含んでいるポリロタキサン化合物の環状化合物に結合されたラクトン系化合物につき、訂正事項1と同様の訂正を行うものであるから、前記(1)イで述べたとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更について
前記アで述べたとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について

ア 訂正の目的
訂正事項4は、明細書の段落【0018】において、訂正事項3と記載内容を整合させるために、「を含み、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、ポリロタキサン化合物を提供する。」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 新規事項
訂正事項4は、明細書の段落【0018】の記載について、訂正事項3と同様の訂正を行うものであるから、前記(3)イ及び(1)イで述べたとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4は、そもそも、特許請求の範囲を訂正するものではなく、その内容も実質的に訂正事項3と同じであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(5)一群の請求項について
訂正後の請求項1?11に対応する訂正前の請求項1?11について、請求項2?11は直接又は間接的に請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項である。
また、訂正後の請求項12?19に対応する訂正前の請求項12?19について、請求項13?19は直接又は間接的に訂正前の請求項12を引用するものであって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項12に連動して訂正されるものであるから、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項である。
そして、本件訂正は、一群の請求項である請求項1?11及び請求項12?19について請求がされているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(6)明細書に係る請求項について
訂正事項2に係る明細書の訂正は、訂正後の請求項1に対応する訂正前の請求項1及びそれを引用する訂正前の請求項2?11に関係するものであって、明細書の訂正に係る一群の請求項がすべて訂正の対象となっているから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
また、訂正事項4に係る明細書の訂正は、訂正後の請求項12に対応する訂正前の請求項12及びそれを引用する訂正前の請求項13?19に関係するものであって、明細書の訂正に係る一群の請求項がすべて訂正の対象となっているから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

3 まとめ
以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項、同法同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合する。
したがって、訂正後の請求項[1?11]、[12?19]についての訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1?19について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1?19に係る発明は、平成29年9月22日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下「本件発明1」?「本件発明19」という。)。

「【請求項1】末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含み、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、ポリロタキサン化合物。
【請求項2】前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、45モル%?65モル%である、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項3】前記環状化合物は、α-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれた1種以上を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項4】前記ラクトン系化合物は、直接結合または炭素数1?10の直鎖または分枝鎖のオキシアルキレン基を介して前記環状化合物に結合された、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項5】前記ラクトン系化合物の残基は、下記化学式1の作用基を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。【化3】

(前記化学式1中、mは、2?11の整数であり、nは、1?20の整数である。)
【請求項6】前記(メタ)アクリレート系化合物は、直接結合、ウレタン結合、エーテル結合、チオエステル結合またはエステル結合を通じて前記ラクトン系化合物の残基に結合された、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項7】前記(メタ)アクリレート系化合物の残基は、下記化学式2の作用基を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。【化4】

(前記化学式2中、R_(1)は、水素またはメチルであり、R_(2)は、炭素数1?12の直鎖または分枝鎖のアルキレン基、炭素数4?20のシクロアルキレン基または炭素数6?20のアリーレン基である。)
【請求項8】前記線状分子は、ポリオキシアルキレン系化合物またはポリラクトン系化合物である、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項9】前記線状分子は、1,000?50,000の重量平均分子量を有する、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項10】前記封鎖基は、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基およびピレン基からなる群より選ばれた1種以上の作用基を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項11】100,000?800,000の重量平均分子量を有する、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項12】末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物、
高分子樹脂またはその前駆体、および
光開始剤、を含み、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、光硬化性コーティング組成物。
【請求項13】前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、45モル%?65モル%である、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項14】前記高分子樹脂は、ポリシロキサン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂およびウレタン(メタ)アクリレート系樹脂からなる群より選ばれた1種以上の高分子樹脂またはこれらの共重合体を含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項15】前記高分子樹脂の前駆体は、(メタ)アクリレート基、ビニル基、シロキサン基、エポキシ基およびウレタン基からなる群より選ばれた1種以上の作用基を含む単量体またはオリゴマーを含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項16】前記光開始剤は、アセトフェノン系化合物、ビイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物およびオキシム系化合物からなる群より選ばれた1種以上の化合物を含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項17】前記ポリロタキサン化合物1?95重量%、
前記高分子樹脂またはその前駆体1?95重量%、および
光開始剤0.01?10重量%、を含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項18】有機溶媒をさらに含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項19】請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物の光硬化物を含むコーティングフィルム。」

第4 当審が通知した取消理由(決定の予告)の概要
訂正前の請求項1?19に係る特許に対して平成29年6月22日付けで当審が特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、以下のとおりである。

理由1:本件発明1?17、19は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された以下の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件発明1?17、19に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

理由2:本件発明1?19は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された以下の刊行物1、2に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?19に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

刊行物1:特開2011-46917号公報(甲第1号証)
刊行物2:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社発行、「Ciba〇RIRGACURE〇R500の説明書」(4.9.2001)(甲第6号証)(審決注:〇RはRの丸付き文字を表す。以下同様。)

第5 当審の判断
当審は、本件発明1?19は、当審の通知した取消理由(決定の予告)によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

理由1(特許法第29条第1項第3号)及び理由2(特許法第29条第2項)について以下検討する。

1 刊行物の記載について

(1)刊行物1
1a「【請求項2】(A)光架橋性ポリロタキサン;を有する光架橋組成物であって、
該光架橋性ポリロタキサンは、ポリロタキサンの環状分子が下記式I
(式中、Mは下記式IIで表され、
Xは、炭素数1?8の直鎖状アルキレン基又はアルケニレン基;炭素数3?20の分岐鎖状アルキレン基又はアルケニレン基;前記アルキレン基又はアルケニレン基の一部が-O-結合または-NH-結合で置換されてなるアルキレン基又はアルケニレン基;または前記アルキレン基の水素の一部が、水酸基、カルボキシル基、アシル基、フェニル基、ハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されてなるアルキレン基;であり、nは平均値1?10であり、
Yは、光重合性基を有する基である)
で表される基を有し、
前記ポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなる、上記組成物。【化2】

【請求項3】さらに(B)光架橋性化合物;を有する請求項2記載の組成物であって、
該(B)光架橋性化合物は、下記式III’-1?III’-4(式中、R_(33)及びR_(34)は各々独立に、H又はCH_(3)であり、m2は0又は1であり、*は、該化合物の重合体と直接結合するか又は第2のスペーサ基を介して該重合体と結合する箇所を示す)からなるY’群から選ばれる少なくとも1種の基を、該化合物の分子中に、少なくとも2個有する重合体である、上記組成物。【化3】

【請求項4】前記Mが、ラクトンモノマー及び/又は環状カーボネートモノマー由来の重合体である請求項1?3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】前記Yが、下記式III-1?III-4(式中、R_(31)及びR_(32)は各々独立に、H又はCH_(3)であり、m1は0又は1であり、*は式IのMと直接結合するか又は第1のスペーサ基を介してMと結合する箇所を示す)からなる群から選ばれる基を少なくとも1種有する請求項1?4のいずれか1項記載の組成物。【化4】

【請求項6】前記Mがラクトンからの開環重合体であり、前記Yが式III-1を有する基である請求項1?5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】前記Mの前記ラクトンがε-カプロラクトンであり、前記Yがアクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を有する請求項6記載の組成物
【請求項8】前記(B)光架橋性化合物の前記重合体は、その平均重量分子量が300?1万である請求項3?7のいずれか1項記載の組成物。」

1b「【技術分野】【0001】本発明は、ポリロタキサンを構成する環状分子が光架橋性基を有する光架橋性ポリロタキサン、該光架橋性ポリロタキサンのみから本質的になる組成物、該光架橋性ポリロタキサンを有する組成物、及びそれらの組成物由来の架橋体、並びにこれらの製造方法に関する。
・・・・・
【発明が解決しようとする課題】【0006】しかしながら、特許文献1及び2は、光架橋によりポリロタキサンと他のポリマーとを架橋させることを開示するが、得られる架橋体の特性については、単にハイドロゲルの粘弾性や光学特性を改善することのみであり、その他の特性については何ら開示されていない。
また、特許文献3は、シクロデキストリンの水酸基を疎水基で修飾されてなる疎水性ポリロタキサンを開示し、溶媒への溶解性について改善することを開示するが、光架橋については一切開示も示唆もされていない。
さらには、一般のポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ゴムなどの材料において、特に、変形を連続的に繰り返す環境で使用される場合(例えば、印刷版、塗料、電気機器のロール部品、緩衝材など)、機械エネルギーの一部が熱で損失すること(ヒステリシスロス)を抑えることで、伸縮後の小さな残存歪、繰り返し耐性、劣化の抑制などの向上が要求されるが、まだ不十分である。
【課題を解決するための手段】【0007】そこで、本発明の目的は、先行技術、特に特許文献1及び2並びに特許文献3からは予期し得ない特性、例えば耐傷性、低ヒステリシスロスなどを有する、光架橋性ポリロタキサン、該光架橋性ポリロタキサンのみから本質的になる組成物、該光架橋性ポリロタキサンを有する組成物、それら組成物からの架橋体を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的に加えて、又は上記目的以外に、上記の特性を有する、光架橋性ポリロタキサンの製造方法、該光架橋性ポリロタキサンのみから本質的になる組成物の製造方法、該光架橋性ポリロタキサンを有する組成物の製造方法、それら組成物からの架橋体の製造方法を提供することにある。
【0008】本発明者らは、次の発明を見出した。
また、本発明者らは、後述の光架橋性ポリロタキサンを用いることにより、本来ポリロタキサンが有する粘弾性及びそれにより生じうる柔軟性及び/又は伸縮性のみならず、耐傷性、低ヒステリシスロスなどにおいて優れた特性を示す架橋体及び該架橋体用組成物を提供できることを見出した。」

1c「【発明の効果】【0029】本発明により、それぞれが先行技術からは予期し得ない特性、例えば耐傷性、低ヒステリシスロスなどを有する、光架橋性ポリロタキサン、該光架橋性ポリロタキサンのみから本質的になる組成物、該光架橋性ポリロタキサンを有する組成物、それら組成物からの架橋体を提供することができる。
また、本発明により、上記効果以外に、又は上記効果に加えて、上記の特性を有する、光架橋性ポリロタキサンの製造方法、該光架橋性ポリロタキサンのみから本質的になる組成物の製造方法、該光架橋性ポリロタキサンを有する組成物の製造方法、それら組成物からの架橋体の製造方法を提供することができる。」

1d「【0032】<ポリロタキサンを構成する環状分子が光架橋性基を有する光架橋性ポリロタキサン>
本発明の光架橋性ポリロタキサンは、ポリロタキサンの環状分子が下記式Iで表される基を有する。
なお、ポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるものを言う。
・・・・・
【0033】なお、一例として、nは、次のように計算することができる。即ち、WO2005-080469号(この文献の内容はすべて本明細書に参考として含まれる)記載の方法で作製されたポリロタキサン(直鎖分子:平均分子量3.5万のポリエチレングリコール、環状分子:α-シクロデキストリン(α-CD)、封鎖基:アダマンタンアミン基からなるポリロタキサン)において、^(1)H-NMR(DMSO-d6)分析チャートの4-6ppm(α-CDの水酸基のH及びC1のH由来)と3-4ppm(PEGのH)との積分比から、α-CDの包接率が0.25であることが分かった。^(1)H-NMR分析は、400MHzのJEOL JNM-AL400(日本電子株式会社製)で行われた。ただし、PEGの-CH_(2)-CH_(2)-O-繰り返し単位2ユニットがα-CDの厚みに相当するとし、最密に包接された場合を1.0とする。それによって、該ポリロタキサンの理論水酸基価が13.6mmol/gであることが計算される(平均分子量:35000+(35000/88*0.25*972)で、水酸基数:(1/平均分子量)*(35000/88*0.25*18)mmol/g)。さらに、α-CDの一部に修飾基を付与する場合、例えばヒドロキシプロピル基(-CH_(2)CH(CH_(3))OH)の場合、同様に^(1)H-NMR(DMSO-d6)分析(1ppmのシグナルであるヒドロキシプロピル基のメチル基の積分値を基準に)により、ヒドロキシプロピル基の修飾率が分かる。例えば50%とする。同様な方法で理論水酸基価を算出すると、9.7mmol/gである。さらに、ε-カプロラクトンモノマーを用いて水酸基に開環重合を行う。反応に使用されているモノマーについての消費をガスクロマトグラフィー(GC)(GC-2014 株式会社島津製作所製、使用カラム CBP1-W12-100)で確認する。モノマーの消費量はほとんどと供給量と一致した(ほぼ全て反応した)。従って、目的化合物であるポリカプロラクトンでグラフトされたポリロタキサンにおける[モノマー]/[OH]の値が算出でき、その値を平均nとする。上記の例で、1gのヒドロキシプロピル修飾したポリロタキサンを用いて、4.5gのε-カプロラクトンを使用し、全てが消費された場合、n=(4.5/114.1*1000)/9.7=4.1になる。
【0034】【化7】

・・・・・
【0038】式IのYは、光重合性基を有する基を示す。
特に、Yは、下記式III-1?III-4からなる群から選ばれる基を少なくとも1種有するのがよい。ここで、R_(31)及びR_(32)は各々独立に、H又はCH3であり、m1は0又は1であり、*は式IのMと直接結合するか又は第1のスペーサ基を介してMと結合する箇所を示す。
なお、第1のスペーサ基は、二価の基、即ちY及びMと結合する基である。第1のスペーサ基として、-CH_(2)-CH_(2)-、-C(=O)-NH-CH_(2)-CH_(2)-、-C(CH_(3))_(2)NH-C(=O)-、-CH(OH)CH_(2)-、-CH_(2)-CH_(2)-O-CH_(2)-CH_(2)-NH-C(=O)-、-CH_(2)-CH_(2)-C(=O)-、-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-C(=O)-、-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-C(=O)-、-CH_(2)-CH_(2)-NH-C(=O)-O-CH_(2)-CH_(2)-などを挙げることができるが、これに限定されない。
・・・・・
【0047】<光架橋性ポリロタキサンのみから本質的になる組成物>
本発明は、上述の光架橋性ポリロタキサンのみから本質的になる組成物を提供する。
本願において「のみから本質的になる」とは、組成物中、光架橋性のものが光架橋性ポリロタキサンのみからなり、それ以外の光架橋性のものを含まない一方、それ以外の種々の添加物、例えば光重合開始剤;増感剤;シランカプリング剤;界面活性剤;可塑剤;増粘剤;シリカ微粒子;アルミナ微粒子;顔料;酸化防止剤;静電防止剤;抗菌剤;光安定剤;天然油;光架橋性ポリロタキサンを溶解する溶媒;などは含んでもよいことを意味する。
換言すると、本発明の「光架橋性ポリロタキサンのみから本質的になる組成物」を用いて光架橋を行った場合、得られる架橋体は、光架橋性ポリロタキサンのみに由来する。ただし、上述の添加物は、組成物中に含んでもよい
なお、光架橋性ポリロタキサンを溶解する溶媒は、上述のMの種類、上述のYの種類、用いる直鎖状分子、用いる環状分子、用いる封鎖基などに依存する。この溶媒の例として、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、塩化メチレン、N、N‘-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどを挙げることができるがこれに限定されない。
【0048】<光架橋性ポリロタキサンを有する組成物>
本発明は、上述の光架橋性ポリロタキサンを有する組成物も提供する。
本願において「光架橋性ポリロタキサンを有する」、特に「有する」とは、組成物中、光架橋性のものが光架橋性ポリロタキサンのみだけでなく、それ以外の光架橋性のものを含む意味である。組成物は、勿論、それ以外の種々の添加物、例えば上述のもの;光架橋性ポリロタキサンを溶解する溶媒;なども含んでもよいことを意味する。
【0049】<<(B)光架橋性化合物>>
本発明の上記組成物における、それ以外の光架橋性のものとして、光架橋性化合物;を挙げることができる。即ち、本発明の上記組成物は、(A)光架橋性ポリロタキサンの他に、(B)光架橋性化合物を有するのがよい。
光架橋性化合物は、下記式III’-1?III’-4からなるY’群から選ばれる少なくとも1種の基を、該化合物の分子中に、少なくとも2個有する重合体であるのがよい。ここで、R_(33)及びR_(34)は各々独立に、H又はCH_(3)であり、m2は0又は1であり、*は、該化合物の重合体と直接結合するか又は第2のスペーサ基を介して該重合体と結合する箇所を示す。なお、第2のスペーサ基は、上述の第1のスペーサと同じ定義を有し、該第1のスペーサとは独立に、同じものを用いることができる。
【0050】【化9】



1e「【0057】ここで、ヒステリシスロスとは、JIS K6400に準拠した、変形及び回復の1サイクルにおける機械的エネルギー損失率(ヒシテリシスロス)において、材料の変形の代わりに材料の引張試験による歪を用いたものをいう。
具体的には、長さ30mm×幅4mm×厚さ0.20mmのサンプルを引張試験にかけ、応力-歪曲線を測定する。伸長が有効長さの20%の伸長率と回復におけるもの(一回目の伸長-回復サイクル)を、本願におけるヒステリシスロスとし、該ヒステリシスロスは、図1に示す方法でそれぞれ面積を測定し計算される。
【0058】ヒステリシスロス(%)=
図1の面積(oabcd)/図1の面積(oabeo)×100。」

1f「【実施例1】【0072】直鎖分子:ポリエチレングリコール(平均分子量3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン(以下、単に「デキストリン」を「CD」と略記する)、封鎖基:アダマンタンアミン基からなるポリロタキサンを、さらにヒドロキシプロピル化した化合物(以下、ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンを「HAPR35」と略記する)を、WO2005-080469(なお、この文献の内容は全て参考として本明細書に組み込まれる)に記載される方法と同様に調製した(α-CD包接率:25%;ヒドロキシプロピル基修飾率:50%;理論水酸基量:9.7mmol/g;ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により平均重量分子量Mw:150,000)。分子量、分子量分布の測定は、TOSOH HLC-8220GPC装置で行った。カラム:TSKガードカラム Super AW-Hと TSKgel Super AWM-H(2本連結)、溶離液:ジメチルスルホキシド/0.01M LiBr、カラムオーブン:50℃、流速:0.5ml/min、試料濃度を約0.2wt/vol%、注入量:20μl、前処理:0.2μmフィルターでろ過、スタンダード分子量:PEO、の条件下で測定した。
【0073】<1-1.ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンのポリカプロラクトン修飾>
上記で得たヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(HAPR35)5gをε-カプロラクトン22.5gに、80℃温度下で溶解させた混合液を得た。この混合液を、乾燥窒素をブローさせながら110℃で1時間攪拌した後、2-エチルヘキサン酸錫(II)の50wt%キシレン溶液0.16gを加え、130℃で6時間攪拌した。その後、キシレンを添加し、不揮発濃度が約35wt%ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(HAPR35)X-1のキシレン溶液を得た。
得られた修飾ポリロタキサンX-1について、原料HAPR35の理論水酸基量とガスクロマトグラフィー(GC)のモノマー消費量(ほぼ100%)によりポリカプロラクトンの重合度を調べた結果、重合度:4.1であることがわかった。
【0074】<1-2.ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンへのアクリロイル基導入>
室温まで冷却したポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンX-1のキシレン溶液にジブチルヒドロキシトルエン(重合禁止剤)0.01gを添加した後、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1gを滴下した。40℃で16時間攪拌し、ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンにアクリロイルオキシエチルカルバモイル基を導入したアクリロイル化ポリロタキサンA-1のキシレン溶液を得た。GPC測定により、得られたポリロタキサンの重量平均分子量Mwは55万であった。得られたポリロタキサンA-1において、Yはアクリロイル基(-OC(=O)-CH=CH_(2))であって、第1のスペーサ基は-C(=O)-NH-CH_(2)-CH_(2)であった。
・・・・・
【実施例5】【0078】<ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンへのメタクリロイル基導入>
実施例1の2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1gの代わりに2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート7.8gを使用した以外、実施例1と同様にして、修飾ポリロタキサンA-5を作製した。GPC測定により、得られたポリロタキサンの平均重量分子量Mwは56万であった。得られたA-5において、Yはメタクリロイル基(-OC(=O)-CH(CH_(3))-CH_(2))であって、第1のスペーサ基は-C(=O)-NH-CH_(2)-CH_(2)であった。
【実施例6】【0079】<ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンへのアクリロイル基とブチルカルバモイル基の導入>
実施例1の2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1gの代わりに2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート3.5gとブチルイソシアネート2.5gを使用した以外、実施例1と同様にして、修飾ポリロタキサンA-6を作製した。GPC測定により、得られたポリロタキサンの平均重量分子量Mwは59万であった。得られたA-6において、Yはアクリロイル基(-OC(=O)-CH=CH_(2))であって、第1のスペーサ基は-C(=O)-NH-CH_(2)-CH_(2)であって、さらに、Mの一部がブチルカルバモイル基で修飾されたものであった。
【実施例7】【0080】<ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンへのメタクリロイル基とブチルカルバモイル基の導入>
実施例1の2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1gの代わりに2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート3.9gとブチルイソシアネート2.5gを使用した以外、実施例1と同様にして、修飾ポリロタキサンA-7を作製した。GPC測定により、得られたポリロタキサンの平均重量分子量Mwは60万であった。得られたA-7において、Yはメタクリロイル基(-OC(=O)-CH=CH_(2))であって、第1のスペーサ基は-C(=O)-NH-CH_(2)-CH_(2)であって、さらに、Mの一部がブチルカルバモイル基で修飾されたものであった。
【実施例8】【0081】<ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンへのα-メチルスチリル基の導入>
実施例1の2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1gの代わりにイソシアン酸3-イソプロペニル-α、α-ジメチルベンジル9.0gを使用した以外、実施例1と同様にして、修飾ポリロタキサンA-8を作製した。GPC測定により、得られたポリロタキサンの平均重量分子量Mwは47万であった。得られたA-8において、Yは3-イソプロペニルベンジル基(-C_(6)H_(4)-C(CH_(3))=CH_(2))であって、第1のスペーサ基は-C(CH_(3))_(2)NH-C(=O)-であった。
【0082】<光架橋性オリゴマーの調製例>
[合成例1]<メタクリロイル基変性ポリカーボネートの合成>
ポリカーボネートジオール(ポリアルキレンカーボネートジオール96wt%以上、1,5-ペンタンジオール2wt%以下、1,6-ヘキサンジオール2wt%以下の組成からなるポリカーボネート、旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(登録商標)T-5650J、Mn:800)30gに、キシレン18gに溶解した2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製カレンズ(登録商標)MOI)13.3g、ジブチルヒドロキシトルエン(重合禁止剤)0.01g、ジラウリン酸ジブチルすず0.06gをゆっくり滴下し40℃で5時間反応させ、不揮発分71%のメタクリロイル基両末端変性ポリカーボネートオリゴマーB-1を得た。
得られたオリゴマーB-1の平均重量分子量MwをGPCで調べた結果、1270であることがわかった。
・・・・・
【実施例11】【0089】<光架橋性ポリロタキサンを有する組成物由来の架橋体の調製>
実施例1で得られたアクリロイル化ポリロタキサンA-1と合成例1で調製したポリカーボネートオリゴマーB-1を固形分重量比2:8、5:5、7:3の比率でブレンドし、光重合開始剤としてIrgacure500を固形分に対し5wt%添加した。
得られた組成物を剥離剤で処理したガラス基板にバーコーターで塗布し、30mW/cm^(2)で90秒紫外線照射後、硬化膜を110℃で1時間乾燥した。この乾燥膜(厚み0.2mm)を剥離し、切り出して試験片を作製した。
また、得られた組成物を黒アクリル板上に0.1mm厚で塗布し、30mW/cm^(2)で90秒紫外線照射後乾燥し、耐傷性試験用の塗布膜を作製した。
・・・・・
【実施例16】【0094】実施例1で得られたアクリロイル化ポリロタキサンA-1の代わりに、実施例6で得られた修飾ポリロタキサンA-6を用いた以外、実施例11と同様にして架橋体の試験片を作製した。
・・・・・
【0097】(比較例1?6)実施例11?15、17について、ポリロタキサンを添加せずオリゴマー単独で紫外線硬化し、同様の手法でオリゴマー同士の架橋体の試験片C-1?C-6を得た。」

1g「【0098】<架橋体の特性>
上記の実施例9?18、及び比較例1?6で作成した試験片を以下の方法によって評価した。
<<耐折性>>剥離したシート状のフィルムを180°繰り返し折り曲げて、曲げ筋や破断の確認を行った。その結果、5回試験を行い、変化なしを「○」;5回の試験で若干の曲げ筋あるものを「△」;1回の試験で破断したものを「×」とした。結果を表1に示す。
【0099】<<耐傷性>>上述において、黒アクリル板上に作製した試験片について、真鍮製ブラシ(毛材行数3行、線径0.15mm)により試験片の塗膜表面を擦傷し、傷つき度合いを目視により観察した。その結果、傷がつかなったものを「○」;わずかに傷はあるが許容レベルであるものを「△」;すぐに傷がついたものを「×」とした。結果を表1に示す。
【0100】<<ヒステリシスロス>>上述の試験法によりヒステリシスロスを測定した。
測定例を図2に示す。図2において、(a)は比較例1、(e)は実施例9の結果を示す。また、(b)、(c)及び(d)は実施例11の結果を示し、それぞれ修飾ポリロタキサンA-1:オリゴマーB-1の重量比が2:8、5:5及び7:3のものを示す。なお、図中の矢印は1回目の延伸曲線を示す。
【0101】また、図2の引張試験は、引張と回復の回数を5回行ったものであり、それらの履歴が示される。
図2の(e)、即ち実施例9は、履歴がほぼ直線であり、引張と回復の回数を5回行ってもほぼ同じ履歴を示すことがわかる。これをヒステリシスロス値にすると6%であり、値が限りなく0に近く、低ヒステリシスロスであることがわかる。
一方、図2の(a)、即ち比較例1は、5回の履歴がまちまちであることがわかる。これをヒステリシスロス値にすると53%であり、満足するヒステリシスロス値とはなっていないことがわかる。
なお、図2の(b)、(c)及び(d)は、(e)に近い履歴を示し、それぞれヒステリシスロス値が23%、21%及び14%であることがわかる
【0102】図2のような引張試験の履歴から、ヒステリシスロス値を求めた。その結果を表1に示す。
【0103】表1は、上述の特性をまとめた表である。表中、「A」は、用いたポリロタキサン種、「B」は用いた架橋性化合物の種、「A:B」は、用いたポリロタキサンと用いた架橋性化合物の固形分重量比、を示す。
【0104】表1から、比較例1?6、即ち光架橋性化合物のみを用いて得られた架橋フィルムは、耐折性、耐傷性及びヒステリシスロスのすべてを満足するものは得られなかった。
一方、本発明の架橋体、即ち実施例9?18は、耐折性、耐傷性及びヒステリシスロスのすべてを満足していることがわかる。
これらのことから、本発明の光架橋性ポリロタキサン、これを有する組成物、及び該組成物由来の架橋体は、従来のもの(比較例1?6)と比較して有意な効果、即ち耐折性、耐傷性及びヒステリシスロスのすべてにおいて満足した値をもたらすことができる。
【0105】【表1】



1h「図1

図2



(2)刊行物2
2a「チバ○R IRGACURE○R 500 光開始剤」(1頁標題)

2b「化学組成 IRGACURE 500は、
50%1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(IRGACURE○R 184)

と50%ベンゾフェノン

との重量比1:1の混合物である。」(1頁中段「化学組成」の項目)

2 刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「光架橋性ポリロタキサン;を有する光架橋組成物」(1a請求項2)に関し記載するものであって、この組成物に含まれる「光架橋性ポリロタキサン」の具体例として、実施例6(1f)には、実施例1に記載の「アクリロイル化ポリロタキサンA-1」の作製方法において「2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1gの代わりに2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート3.5gとブチルイソシアネート2.5gを使用した以外、実施例1と同様にして」作製した「平均重量分子量Mw59万」の「修飾ポリロタキサンA-6」が記載されている(1f)。
そうすると、この請求項2に記載の「光架橋性ポリロタキサン」の具体例である実施例6に記載の「平均重量分子量Mw59万」の「修飾ポリロタキサンA-6」を、実施例1の記載を踏まえ書き下すと、刊行物1には、

「直鎖分子:ポリエチレングリコール(平均分子量3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン、封鎖基:アダマンタンアミン基からなるポリロタキサンを、さらにヒドロキシプロピル化したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(平均重量分子量Mw:150,000)5gを、ε-カプロラクトン22.5gで修飾したポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(ポリカプロラクトンの重合度:4.1)へ、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート3.5gとブチルイソシアネート2.5gを用いて、アクリロイルオキシ基(?OC(=O)?CH=CH_(2))(第1のスペーサ基は?C(=O)?NH-CH_(2)-CH_(2))とブチルカルバモイル基を導入した、アクリロイル化及びブチルカルバモイル化ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA-6(平均重量分子量Mw59万)」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

さらに、実施例16(1f)には、前記アクリロイル化及びブチルカルバモイル化ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA-6、光架橋性オリゴマーとして合成例1(1f)で合成したメタクリロイル基両末端変性ポリカーボネートオリゴマーB-1を固体分重量比7:3(1h表1)でブレンドし、光重合開始剤としてIrgacure500を固形分に対し5wt%添加した組成物を得、さらに、当該組成物をガラス基板に塗布し紫外線照射して硬化膜を作製したことが記載されている。
そうすると、刊行物1にはさらに、

「直鎖分子:ポリエチレングリコール(平均分子量3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン、封鎖基:アダマンタンアミン基からなるポリロタキサンを、さらにヒドロキシプロピル化したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(平均重量分子量Mw:150,000)5gを、ε-カプロラクトン22.5gで修飾したポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(ポリカプロラクトンの重合度:4.1)へ、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート3.5gとブチルイソシアネート2.5gを用いて、アクリロイルオキシ基(?OC(=O)?CH=CH_(2))(第1のスペーサ基は?C(=O)?NH-CH_(2)-CH_(2))とブチルカルバモイル基を導入した、アクリロイル化及びブチルカルバモイル化ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA-6(平均重量分子量Mw59万)、メタクリロイル基両末端変性ポリカーボネートオリゴマーB-1を固体分重量比7:3でブレンドし、光重合開始剤としてIrgacure500を固形分に対し5wt%添加して得られる組成物」
の発明(以下「引用発明2」という。)、及び、

「直鎖分子:ポリエチレングリコール(平均分子量3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン、封鎖基:アダマンタンアミン基からなるポリロタキサンを、さらにヒドロキシプロピル化したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(平均重量分子量Mw:150,000)5gを、ε-カプロラクトン22.5gで修飾したポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(ポリカプロラクトンの重合度:4.1)へ、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート3.5gとブチルイソシアネート2.5gを用いて、アクリロイルオキシ基(?OC(=O)?CH=CH_(2))(第1のスペーサ基は?C(=O)?NH-CH_(2)-CH_(2))とブチルカルバモイル基を導入した、アクリロイル化及びブチルカルバモイル化ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA-6(平均重量分子量Mw59万)、メタクリロイル基両末端変性ポリカーボネートオリゴマーB-1を固体分重量比7:3でブレンドし、光重合開始剤としてIrgacure500を固形分に対し5wt%添加して得られる組成物をガラス基板に塗布し紫外線照射して得られる硬化膜」
の発明(以下「引用発明3」という。)も記載されていると認められる。

3 対比・判断

(1)本件発明1について

ア 対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。

(ア)a 本件発明1の「ラクトン系化合物が結合された環状化合物」は、具体的には、本件明細書の実施例1に記載の「カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]」(【0091】図1に化学構造式が示されている)における、シクロデキストリンをヒドロキシプロピル化したものにラクトン系化合物であるカプロラクトンが結合された環状化合物である。
そして、本件発明1の「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物」及び「前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、ポリロタキサン化合物」とは、前記「ラクトン系化合物が結合された環状化合物」である、シクロデキストリンをヒドロキシプロピル化したものにカプロラクトンが結合された環状化合物の末端に、(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたもので、ラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換されたものである。

b (a)他方、引用発明1の「アクリロイル化及びブチルカルバモイル化ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA-6」は、刊行物1の請求項2に記載の「(A)光架橋性ポリロタキサン」(1a)の具体例であり、請求項2の記載より、この「(A)光架橋性ポリロタキサン」は、「環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなる」(1a)ものである。ここで、当該「環状分子」に着目すると、引用発明1では「環状分子:α-シクロデキストリン」をヒドロキシプロピル化したものをε-カプロラクトンで修飾したものへアクリロイルオキシ基が導入されたものである。

(b)ここで、該ラクトン系化合物の末端に(メタ)アクリレート系化合物がどのくらい導入され、該ラクトン系化合物の末端置換率はどのくらいであるかを以下検討する。
刊行物1の実施例1(【0091】?【0097】)では、直鎖分子:ポリエチレングリコール(平均分子量3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン、封鎖基:アダマンタンアミンからなるポリロタキサンをヒドロキシプロピル化したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(平均分子量150,000)5gを、ε-カプロラクトン22.5gと反応させてポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンが得られている。
ここで得られたポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンは、モノマーであるεーカプロラクトンがほぼ100%反応し、重合度4.1である。
そうすると、3.3×10^(-5)モル(5/150,000)のヒドロキシプロピル化したヒドロキシプロピル化ポリロタキサンに存在するヒロドキシプロピル基と、0.197モル(22.5/114.14)のεーカプロラクトンが4.1の重合度でほぼ100%反応したものであるから、得られたポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンは1分子に重合したカプロラクトンの末端を1456個(0.197/3.3×10^(-5)/4.1=1456)有するものといえる。
次に、刊行物1の実施例6においては、実施例1で得られたポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(そのまま使用されているので3.3×10^(-5)モルと推認できる)を、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート3.5g(2.5×10^(-2)モル(分子量141.12))とブチルイソシアネート2.5g(2.5×10^(-2)モル(分子量99.13))と反応させたものである。
そして、イソシアネート基はきわめて反応性が高く、ほぼ100%反応すると考えられることを考慮すると、ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンには3.3×10^(-5)×1456=4.8×10^(-2)モルに相当するカプロラクトンの末端が存在するところ、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートとブチルイソシアネートはともに2.5×10^(-2)モルと等モルで加えられているから、カプロラクトンの末端は2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートとブチルイソシアネートとそれぞれ50モル%ずつ反応しているものと推認できる。そして、イソシアネート基はきわめて反応性が高いことを考慮すると、カプロラクトンの末端は2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートとブチルイソシアネートとで50モル%ずつ置換されている(末端置換率は100モル%)と推認できる。
それ故、引用発明1における、該ラクトン系化合物が結合された環状化合物は、末端に(メタ)アクリレート系化合物が50モル%導入されているものといえることから、引用発明1は、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%の範囲内で導入されているものに該当するといえる。
加えて、カプロラクトンの末端は2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートとブチルイソシアネートとそれぞれ50%ずつ反応しているものと推認できることから、該ラクトン系化合物の末端置換率は100%といえる。

c そうすると、本件発明1の「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物」「前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり」と、引用発明1の「アクリロイル化及びブチルカルバモイル化ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA-6」の、環状分子であるα-シクロデキストリンをヒドロキシプロピル化したものをε-カプロラクトンで修飾したものへアクリロイルオキシ基が導入されたものとは、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が所定のモル%である点で共通する。

(イ)引用発明1の「直鎖分子:ポリエチレングリコール」は、刊行物1の請求項2の「環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン」(1a)との記載より、環状分子の開口部を串刺し状としている直鎖分子で、環状分子を貫通する線状分子といえるから、本件発明1の「前記環状化合物を貫通する線状分子」に相当する。

(ウ)引用発明1の「封鎖基:アダマンタンアミン基」について、刊行物1の請求項2には「環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置」(1a)と記載されており、当該封鎖基は、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されているものにおいて、前記環状分子が脱離しないよう配置されているもので、構造上直鎖状分子の両端に設けられているものといえるから、本件発明1の「前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基」に相当する。

したがって、本件発明1と引用発明1とは、
「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含み、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が所定のモル%である、ポリロタキサン化合物」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端の置換について、本件発明1では、該末端置換率が40モル%?70モル%であり、該末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換されたものであるのに対し、引用発明1では、該末端置換率が100モル%であり、該末端が2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートとブチルイソシアネートで置換されたものである点

イ 判断

(ア)相違点1について

a 新規性について
前記ア(ア)で述べたように、引用発明1のカプロラクトンの末端は、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートとブチルイソシアネートとそれぞれ50モル%ずつ反応し、該末端は2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートとブチルイソシアネートとで50モル%ずつ置換されていると推認できるもので、末端置換率が100モル%といえるものであるから、引用発明1の、該環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率は40モル%?70モル%ではなく、また、該環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が「(メタ)アクリレート系化合物」である2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートのみで置換されたものでもない。
したがって、相違点1は、実質的相違点であり、本件発明1は、刊行物1に記載された発明とはいえない。

b 容易想到性について

(a)本件発明1は、高い耐スクラッチ性、耐薬品性及び耐摩耗性等の優れた機械的物性を有すると共に、優れた自己治癒能力を有するコーテイング材料を提供できる光硬化性コーテイング組成物に適用する特定の化学構造有するポリロタキサン化合物を提供することを課題とするものであり(【0014】?【0015】、【0062】)、この課題を解決するため、本件発明1は、環状化合物に結合するラクトン系化合物の末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたものとし、該ラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、該ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、ポリロタキサン化合物とすることを特徴としているものである。

(b)他方、刊行物1は、耐傷性、低ヒステリシロシス等を有する、特定の構造を有する光架橋性ポリロタキサン化合物を提供することを課題とするものであり、その課題を解決するため、刊行物1は、請求項2に記載の特定の構造を有する光架橋性ポリロタキサンとを特徴とするものである。
引用発明1がその具体例である、刊行物1の請求項2に記載の「光架橋性ポリロタキサン;を有する光架橋組成物」に含まれる「光架橋性ポリロタキサン」の構造について、「ポリロタキサンの環状分子が下記式I」「式I ?M?Y」「(式中、Mは下記式IIで表され・・、Yは、光重合性基を有する基である)で表される基を有し」(1a請求項2)と記載されている。該式I中の「M」の例がラクトンモノマー由来の重合体(1a 請求項4)であり、環状化合物に結合しているラクトン系化合物に該当するといえることから、ラクトン系化合物の末端の態様を検討すべく、「M」に結合している「Y」の記載をみると、「Yは、光重合性基を有する基である」(1a請求項2)と記載され、具体的には「前記Yが、下記式III-1?III-4(式中、R_(31)及びR_(32)は各々独立に、H又はCH_(3)であり、m1は0又は1であり、*は式IのMと直接結合するか又は第1のスペーサ基を介してMと結合する箇所を示す)からなる群から選ばれる基を少なくとも1種有する請求項1?4のいずれか1項記載の組成物。【化4】

」(1a請求項5)と記載され、「Y」の実施の態様の記載(1d【0038】)をみても、これ以上の説明はない。
そして、刊行物1には、請求項2に記載の「光架橋性ポリロタキサン」の具体例として、引用発明1である実施例6に記載されたものの他に、実施例1、5、7、8も記載されており、以下のように、ポリロタキサン化合物のラクトン系化合物の末端を(メタ)アクリレート系化合物も含めてほぼ100%置換することしか記載や示唆がないといえる。
実施例1:実施例1には、実施例1で得られたポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(前記a(a)で述べたように、そのまま使用されているので3.3×10^(-5)モルと推認できる)と、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1g(5.0×10^(-2)モル(分子量141.12))とを反応させたもの記載され、ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンには3.3×10^(-5)×1456=4.8×10^(-2)モルに相当するカプロラクトンの末端が存在するところ、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートは5.0×10^(-2)モルで加えられているから、カプロラクトンの末端は2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートとほぼ100%反応し置換されているものと推認される。
実施例5:実施例1の2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1g(5.0×10^(-2)モル)の代わりに、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート7.8g(5.0×10^(-2)モル(分子量155.15))を使用した以外、実施例1と同様にして、修飾ポリロタキサンA-5を作製しており、ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンに4.8×10^(-2)モルに相当するカプロラクトンの末端が存在するところ、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが5.0×10^(-2)モルで加えられているから、カプロラクトンの末端は2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートとほぼ100%反応し置換されているものと推認される。
実施例7:実施例1の2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1g(5.0×10^(-2)モル)の代わりに、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート3.9g(3.3×10^(-2)モル(分子量155.15))及びブチルイソシアネート2.5g(2.5×10^(-2)モル(分子量99.13))を使用した以外、実施例1と同様にして、修飾ポリロタキサンA-7を作製しており、ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンに4.8×10^(-2)モルに相当するカプロラクトンの末端が存在するところ、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが3.3×10^(-2)モル及びブチルイソシアネート2.5×10^(-2)モルで加えられているから、カプロラクトンの末端は2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートと約57%及びブチルイソシアネートと約43%それぞれ反応し置換されているものと推認される。
実施例8:実施例1の2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1g(5.0×10^(-2)モル)の代わりに、イソシアン酸3-イソプロペニル?α、α?2-ジメチルベンジル9.0g(4.5×10^(-2)モル(分子量201.26))を使用した以外、実施例1と同様にして、修飾ポリロタキサンA-8を作製しており、ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンに4.8×10^(-2)モルに相当するカプロラクトンの末端が存在するところ、イソシアン酸3-イソプロペニル?α、α?2-ジメチルベンジルが4.5×10^(-2)モルで加えられているから、カプロラクトンの末端はイソシアン酸3-イソプロペニル?α、α?2-ジメチルベンジルとほぼ100%反応し置換されているものと推認される。

そうすると、刊行物1には、該環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端を(メタ)アクリレート系化合物のみで40モル%?70モル%置換されたものとすることについては、記載も示唆もないといえ、そのような構成にしようとする動機付けがあるとはいえない。

前記ア(ア)で述べたように、引用発明1は、該ラクトン系化合物の末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%の範囲内で導入されているものに該当はしているが、一実施の形態として本件発明1の数値範囲に該当するといえるだけで、耐傷性、低ヒステリシロシス等を有する光架橋性ポリロタキサン化合物を提供しようと、該環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端を(メタ)アクリレート系化合物のみで40モル%?70モル%置換されたものとすることを示唆するものではない。
そうすると、引用発明1において、耐傷性、低ヒステリシロシス等を有する光架橋性ポリロタキサン化合物を提供しようと、環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を40モル%?70モル%にし、該環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端を(メタ)アクリレート系化合物のみで置換されたものとするように構成を変更することは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(c)引用発明1において、相違点1に係る技術的特徴を備えたものとするように構成を変更することは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない以上、効果は検討するまでもない。

(d)したがって、本件発明1は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、優先日当時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上より、本件発明1は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明ではなく、また、本件発明1は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?11について
本件発明2?11は、本件発明1において、それぞれ、「前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、45モル%?65モル%である」こと、「前記環状化合物は、α-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれた1種以上を含む」ものであること、「前記ラクトン系化合物は、直接結合または炭素数1?10の直鎖または分枝鎖のオキシアルキレン基を介して前記環状化合物に結合された」ものであること、「前記ラクトン系化合物の残基は、化学式1

(前記化学式1中、mは、2?11の整数であり、nは、1?20の整数である。)の作用基を含む」ものであること、「前記(メタ)アクリレート系化合物は、直接結合、ウレタン結合、エーテル結合、チオエステル結合またはエステル結合を通じて前記ラクトン系化合物の残基に結合された」ものであること、「前記(メタ)アクリレート系化合物の残基は、化学式2

(前記化学式2中、R1は、水素またはメチルであり、R2は、炭素数1?12の直鎖または分枝鎖のアルキレン基、炭素数4?20のシクロアルキレン基または炭素数6?20のアリーレン基である。)の作用基を含む」ものであること、「前記線状分子は、ポリオキシアルキレン系化合物またはポリラクトン系化合物である」こと、「前記線状分子は、1,000?50,000の重量平均分子量を有する」ものであること、「前記封鎖基は、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基およびピレン基からなる群より選ばれた1種以上の作用基を含む」ものであること、「100,000?800,000の重量平均分子量を有する」ものであることをさらに特定したものである。

そして、本件発明1は、刊行物1に記載された発明ではなく、また、本件発明1は、刊行物1に記載された発明に基いて、優先日当時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明2?11は、刊行物1に記載された発明であるとはいえず、また、刊行物1に記載された発明に基いて、優先日当時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明12について

ア 本件発明12と引用発明2との対比

(ア)引用発明2の「直鎖分子:ポリエチレングリコール(平均分子量3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン、封鎖基:アダマンタンアミン基からなるポリロタキサンを、さらにヒドロキシプロピル化したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(平均重量分子量Mw:150,000)5gを、ε-カプロラクトン22.5gで修飾したポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(ポリカプロラクトンの重合度:4.1)へ、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート3.5gとブチルイソシアネート2.5gを用いて、アクリロイルオキシ基(?OC(=O)?CH=CH_(2))(第1のスペーサ基は?C(=O)?NH-CH_(2)-CH_(2))とブチルカルバモイル基を導入した、アクリロイル化及びブチルカルバモイル化ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA-6(平均重量分子量Mw59万)」は、引用発明1のことであるから、本件発明12の「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物」「前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された」と、引用発明2の「直鎖分子:ポリエチレングリコール(平均分子量3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン、封鎖基:アダマンタンアミン基からなるポリロタキサンを、さらにヒドロキシプロピル化したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(平均重量分子量Mw:150,000)5gを、ε-カプロラクトン22.5gで修飾したポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(ポリカプロラクトンの重合度:4.1)へ、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート3.5gとブチルイソシアネート2.5gを用いて、アクリロイルオキシ基(?OC(=O)?CH=CH_(2))(第1のスペーサ基は?C(=O)?NH-CH_(2)-CH_(2))とブチルカルバモイル基を導入した、アクリロイル化及びブチルカルバモイル化ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA-6(平均重量分子量Mw59万)」とは、前記(1)アで述べたように、「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物」「前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が所定のモル%である」点で共通する。

(イ)本件発明12の「高分子樹脂またはその前駆体」について、本件明細書には「【0067】前記光硬化性コーティング組成物に使用可能な高分子樹脂の具体的な例としては・・(メタ)アクリレート系樹脂・・が挙げられ・・」と記載されている。
引用発明2の「メタクリロイル基両末端変性ポリカーボネートオリゴマーB-1」は、メタクリレート系樹脂といえるから、本件発明12の「高分子樹脂またはその前駆体」に相当する。

(ウ)引用発明2の「光重合開始剤としてIrgacure500」は、本件発明12の「光開始剤」に相当する。

(エ)引用発明2の組成物は、刊行物1の実施例16及び実施例11の記載より明らかなように、硬化膜用の組成物として用いるものであり、光硬化性コーティング用組成物といえるから、本件発明12の「光硬化性コーティング組成物」に相当する。

そうすると、本件発明12と引用発明2とは、
「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物、
高分子樹脂またはその前駆体、および
光開始剤、を含み、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が所定のモル%である、光硬化性コーティング組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2:環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端の置換について、本件発明12では、該末端置換率が40モル%?70モル%であり、該末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換されたものであるのに対し、引用発明2では、該末端置換率が100モル%であり、該末端が2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートとブチルイソシアネートで置換されたものである点

イ 判断
相違点2は、前記(1)の相違点1と同じであるから、前記(1)イ、ウで述べたとおりであって、本件発明12は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明ではなく、また、本件発明12は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明13?15、17、18について
本件発明13?15、17、18は、本件発明12において、それぞれ、「前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、45モル%?65モル%である」ものであること、「前記高分子樹脂は、ポリシロキサン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂およびウレタン(メタ)アクリレート系樹脂からなる群より選ばれた1種以上の高分子樹脂またはこれらの共重合体を含む」ものであること、「前記高分子樹脂の前駆体は、(メタ)アクリレート基、ビニル基、シロキサン基、エポキシ基およびウレタン基からなる群より選ばれた1種以上の作用基を含む単量体またはオリゴマーを含む」ものであること、「前記ポリロタキサン化合物1?95重量%、前記高分子樹脂またはその前駆体1?95重量%、および光開始剤0.01?10重量%、を含む」ものであること、「有機溶媒をさらに含む」ものであることをさらに特定したものである。

そして、本件発明12は、刊行物1に記載された発明ではなく、また、本件発明12は、刊行物1に記載された発明に基いて、優先日当時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明13?15、17、18は、刊行物1に記載された発明であるとはいえず、また、刊行物1に記載された発明に基いて、優先日当時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明16について
本件発明16は、本件発明12において、「前記光開始剤は、アセトフェノン系化合物、ビイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物およびオキシム系化合物からなる群より選ばれた1種以上の化合物を含む」ものであることをさらに特定したものである。
そして、本件発明12は、刊行物1に記載された発明ではなく、また、本件発明12は、刊行物1に記載された発明に基いて、優先日当時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明16は、刊行物1に記載された発明であるとはいえず、また、刊行物1、及び、引用発明2の光重合開始剤である「Irgacure500」が、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトンとベンゾフェノンの重量比1:1の混合物で、アセトフェノン系化合物を含むことを示すに過ぎない(2a、2b)刊行物2に記載された発明に基いて、優先日当時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明19について

ア 本件発明19と引用発明3との対比

(ア)本件発明19の「請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物」を、請求項12の記載を用いて書き下すと、本件発明19は
「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物、
高分子樹脂またはその前駆体、および
光開始剤、を含み、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、光硬化性コーティング組成物の光硬化性コーテイングフィルム。」といえる。

(イ)引用発明3の「直鎖分子:ポリエチレングリコール(平均分子量3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン、封鎖基:アダマンタンアミン基からなるポリロタキサンを、さらにヒドロキシプロピル化したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(平均重量分子量Mw:150,000)5gを、ε-カプロラクトン22.5gで修飾したポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(ポリカプロラクトンの重合度:4.1)へ、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート3.5gとブチルイソシアネート2.5gを用いて、アクリロイルオキシ基(?OC(=O)?CH=CH_(2))(第1のスペーサ基は?C(=O)?NH-CH_(2)-CH_(2))とブチルカルバモイル基を導入した、アクリロイル化及びブチルカルバモイル化ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA-6(平均重量分子量Mw59万)、メタクリロイル基両末端変性ポリカーボネートオリゴマーB-1を固体分重量比7:3でブレンドし、光重合開始剤としてIrgacure500を固形分に対し5wt%添加して得られる組成物」は、引用発明2のことであるから、本件発明19の「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物、高分子樹脂またはその前駆体、および、光開始剤、を含み、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、光硬化性コーティング組成物」と、引用発明3の「直鎖分子:ポリエチレングリコール(平均分子量3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン、封鎖基:アダマンタンアミン基からなるポリロタキサンを、さらにヒドロキシプロピル化したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(平均重量分子量Mw:150,000)5gを、ε-カプロラクトン22.5gで修飾したポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(ポリカプロラクトンの重合度:4.1)へ、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート3.5gとブチルイソシアネート2.5gを用いて、アクリロイルオキシ基(?OC(=O)?CH=CH_(2))(第1のスペーサ基は?C(=O)?NH-CH_(2)-CH_(2))とブチルカルバモイル基を導入した、アクリロイル化及びブチルカルバモイル化ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA-6(平均重量分子量Mw59万)、メタクリロイル基両末端変性ポリカーボネートオリゴマーB-1を固体分重量比7:3でブレンドし、光重合開始剤としてIrgacure500を固形分に対し5wt%添加して得られる組成物」とは、前記(3)アで述べたように、「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物、高分子樹脂またはその前駆体、および光開始剤、を含み、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が所定のモル%である、光硬化性コーティング組成物」である点で共通する。

(ウ)引用発明3の「組成物をガラス基板に塗布し紫外線照射して得られる硬化膜」は、前記組成物を含むコーティングフィルムといえるから、本件発明19の「光硬化物を含むコーティングフィルム」に相当する。

そうすると、本件発明19と引用発明3とは、
「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物、
高分子樹脂またはその前駆体、および
光開始剤、を含み、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が所定のモル%である、光硬化性コーティング組成物の光硬化物を含むコーティングフィルム」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3:環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端の置換について、本件発明12では、該末端置換率が40モル%?70モル%であり、該末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換されたものであるのに対し、引用発明3では、該末端置換率が100モル%であり、該末端が2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートとブチルイソシアネートで置換されたものである点

イ 判断
相違点3は、前記(1)の相違点1と同じであるから、前記(1)イ、ウで述べたとおりであって、本件発明19は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明ではなく、また、本件発明19は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)特許異議申立人の意見について
ア 特許異議申立人は、平成29年11月20日提出の意見書において、刊行物1の請求項3の記載「さらに(B)光架橋性化合物;を有する請求項2記載の組成物であって、該(B)光架橋性化合物は、下記式III’-1?III’-4(式中、R_(33)及びR_(34)は各々独立に、H又はCH_(3)であり、m2は0又は1であり、*は、該化合物の重合体と直接結合するか又は第2のスペーサ基を介して該重合体と結合する箇所を示す)からなるY’群から選ばれる少なくとも1種の基を、該化合物の分子中に、少なくとも2個有する重合体である、上記組成物。(式III’-1?III’-4を省略)」(1a請求項3)より、これは本件発明1の「前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された」の「のみ」とする構成を否定しておらず、刊行物1は該構成を開示するものであるから、理由1は解消していない旨主張している。
しかし、刊行物1の請求項3の記載は、請求項2の組成物に「さらに(B)光架橋性化合物;を有する」際の「(B)光架橋性化合物」の構造を記載しているものであり、「光架橋性ポリロタキサン」についてのものではないから、かかる主張を採用することはできない。
イ 特許異議申立人は、前記意見書において、特許権者が平成29年9月22日に提出した意見書に添付された乙第1号証[追加実験データ(比較例3及び4)]及び乙第2号証[比較例3のポリロタキサンのNMRデータ]について、刊行物1の実施例6についての適正な追試実験をしておらず、かつ、該効果も顕著な効果を奏していない旨主張している。
しかし、前記(1)イ(ア)bで述べたように、引用発明1において、相違点1に係る技術的特徴を備えたものとするように構成を変更することは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない以上、効果は検討するまでもない。
ウ したがって、特許異議申立人の意見は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1?19に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消されるべきものとはいえない。
また、他に本件発明1?19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリロタキサン化合物、光硬化性コーティング組成物およびコーティングフィルム
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリロタキサン化合物、光硬化性コーティング組成物およびコーティングフィルムに関し、より詳しくは、特定の化学構造を有する新規なポリロタキサン化合物と、高い耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの優れた機械的物性を有すると共に、優れた自己治癒能力を有するコーティング材料を提供できる光硬化性コーティング組成物と、前記光硬化性コーティング組成物から得られるコーティングフィルムとに関する。
【背景技術】
【0002】
外部からの機械的、物理的、化学的影響による製品の損傷を保護するために、多様なコーティング層またはコーティングフィルムが携帯電話などの電気電子機器、電子材料部品、家電製品、自動車の内外装、プラスチック成形品の表面に適用されている。しかし、製品コーティング表面のスクラッチや外部衝撃による亀裂は、製品の外観特性、主要性能および寿命を低下させるため、製品表面を保護して長期的な製品の品質維持のために多様な研究が進められている。
【0003】
特に、自己治癒能力を有するコーティング素材は、表面損傷の時にも追加的なコーティングや修理過程が不要であり、製品の外観特性および性能維持に非常に有利であるため、近年活発な研究が進められている。このような研究の結果として、自己治癒能力のあるオリゴマーを用いた紫外線硬化型組成物と耐スクラッチ性および耐汚染性を向上させるために、無機粒子やフッ素系化合物を添加した組成物などが紹介されたが、このような組成物から得られたコーティング材料は、十分な表面硬度と自己治癒能力を十分に有することができない問題点があった。
【0004】
また、以前に知られたウレタン樹脂を用いたコーティング材料は、2液型溶液としてコーティングの前に2種の材料を配合する過程が必要であり、配合された状態では貯蔵安定性が低いだけでなく、硬化時間が数十分に達する問題点があった。
【0005】
また、重合剤や重合剤活性物質を含むか、またはこれらが表面に処理された粒子やカプセルを含むコーティング組成物なども紹介されたが、このような組成物を用いたコーティング層である外部衝撃による亀裂には一定の自己治癒能力を発揮するが、耐スクラッチ性または耐久性などの機械的物性が十分でなく、各成分間の相溶性が低いという問題点があった。
【0006】
最近、ポリロタキサン化合物を含むコーティング材料を用いる場合、自己治癒能力を有するコーティング膜やコーティングフィルムを提供できる点が紹介されており、このようなポリロタキサン化合物を自動車や電子製品などのコーティングに適用して商用化しようとする多様な方法が試みられている。
【0007】
例えば、WO2005-080469(特許文献1)には、ポリロタキサンの物性を改良するために、環状分子であるα-シクロデキストリンの水酸基をヒドロキシプロピル基や高い置換率のメチル基で置換して製造されたポリロタキサンの製造方法が記載されている。
【0008】
また、WO2002-002159(特許文献2)には、ポリロタキサンの環状分子(α-シクロデキストリン)をポリエチレングリコールを用いて架橋する方法が記載されている。
【0009】
また、WO2007-026578(特許文献3)には、α-シクロデキストリンの水酸基を疎水性基であるε-カプロラクトンで置換してトルエン、酢酸エチルに溶解可能なポリロタキサンを製造する方法に関して記載されており、WO2010-092948(特許文献4)およびWO2007-040262(特許文献5)には、α-シクロデキストリンの水酸基を疎水性基であるε-カプロラクトンで置換したポリロタキサンを含む塗料が記載されている。
【0010】
また、WO2009-136618(特許文献6)には、環状分子であるα-シクロデキストリンの水酸基の一部または全部が有機ハロゲン化合物の残基で置換されてラジカル重合開示部位を形成するポリロタキサンに関して記載している。
【0011】
しかし、以前に知られたポリロタキサン化合物を製造するためには、多段階の合成過程を経なければならないか、または極めて制限的な溶媒を使用しながら高温/高圧の合成条件を必要とするなどの問題点があった。
【0012】
また、以前に知られたポリロタキサン化合物を使用するコーティング材料の場合、耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などのコーティング材料として確保すべき機械的物性を十分に有していないか、またはスクラッチや外部損傷に対して十分な自己治癒能力を有さないなどの問題点があるため、商用化に一定の限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO2005-080469
【特許文献2】WO2002-002159
【特許文献3】WO2007-026578
【特許文献4】WO2010-092948
【特許文献5】WO2007-040262
【特許文献6】WO2009-136618
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、特定の化学構造を有する新規なポリロタキサン化合物を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、高い耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの優れた機械的物性を有すると共に、優れた自己治癒能力を有するコーティング材料を提供できる光硬化性コーティング組成物を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、前記光硬化性コーティング組成物から得られるコーティングフィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含み、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、ポリロタキサン化合物を提供する。
【0018】
また、本発明は、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基とを含むポリロタキサン化合物、高分子樹脂またはその前駆体、および光開始剤、を含み、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、光硬化性コーティング組成物を提供する。
【0019】
また、本発明は、前記光硬化性コーティング組成物の光硬化物を含むコーティングフィルムを提供する。
【0020】
以下、発明の具体的な実施形態に係るポリロタキサン化合物、光硬化性コーティング組成物およびコーティングフィルムについてより詳細に説明する。
【0021】
発明の一実施形態によれば、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含むポリロタキサン化合物が提供され得る。
【0022】
本発明者らは、自己治癒能力を有するコーティング材料に使用可能な化合物に関する研究を進行して、前記特定構造を有するポリロタキサン化合物を新たに合成し、このようなポリロタキサン化合物をコーティング材料に使用する場合、優れた耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの機械的物性を確保できると共に、コーティング材料にスクラッチまたは外部損傷が発生した場合、自己治癒能力を発揮できるという点を実験を通じて確認して発明を完成した。
【0023】
前記ポリロタキサン(Poly-rotaxane)は、ダンベル形状の分子(dumbbell shaped molecule)と環状化合物(macrocycle)が構造的に組み合わされている化合物を意味し、前記ダンベル形状の分子は一定の線状分子およびこのような線状分子の両末端に配置された封鎖基を含み、前記線状分子が前記環状化合物の内部を貫通し、前記環状化合物が前記線状分子に沿って移動することができ、前記封鎖基により離脱が防止される。
【0024】
前記一実施形態のポリロタキサン化合物は、前記環状化合物にラクトン系化合物が結合されており、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端には、(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%の比率で結合したことを特徴とする。
【0025】
つまり、前記ポリロタキサン化合物で、前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、40モル%?70モル%、好ましくは45モル%?65モル%でありうる。
【0026】
前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率が40モル%未満であれば、光硬化性コーティング組成物の適用時、高分子樹脂またはその前駆体と十分な架橋反応が起こらず、前記光硬化性コーティング組成物から形成されるコーティング材料が十分な耐スクラッチ性、耐薬品性または耐摩耗性などの機械的物性を確保できないことがあり、またラクトン系化合物の末端に残留しているヒドロキシ作用基が多くなって前記ポリロタキサン化合物の極性(polarity)が高くなることがあり、前記光硬化性コーティング組成物に使用可能な非極性溶媒(non polar solvent)との相溶性が低くなって最終製品の品質や外観特性が低下することがある。
【0027】
また、前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率が70モル%超過であれば、光硬化性コーティング組成物の適用時、高分子樹脂またはその前駆体と過度な架橋反応が起こり、前記光硬化性コーティング組成物から形成されるコーティング材料が十分な弾性や自己治癒能力を確保し難いことがあり、前記コーティング材料の架橋度が非常に高くなって弾性が低下することがあり[脆性(brittleness)大幅増加]、前記光硬化性コーティング組成物の安定性も低下することがある。
【0028】
前記(メタ)アクリレート系化合物の導入率または置換率は、前記ポリロタキサン化合物の環状化合物に結合されたラクトン系化合物の残基と(メタ)アクリレート系化合物の残基の比率から測定することができる。例えば、前記ラクトン系化合物に含まれている一定の作用基(例えば、特定位置の「-CH_(2)-」のmol数またはNMRピーク強度と(メタ)アクリレート系化合物に含まれている一定の作用基(例えば、特定位置の「-CH_(2)-」のmol数またはNMRピーク強度を比較して、前記導入率または置換率を求める
ことができる。
【0029】
本明細書で、「残基」は、特定の化合物が化学反応に参加した時、その化学反応の結果物に含まれ、前記特定の化合物由来の一定の部分または単位を意味する。
【0030】
本明細書で、(メタ)アクリレート系化合物は、アクリレート系化合物および(メタ)クリルレート系化合物を通称する意味で使用された。
【0031】
前記環状化合物は、前記線状分子を貫通または包囲できる程度の大きさを持つものであれば特別な制限なしに用いることができ、他の重合体や化合物と反応できる水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基またはアルデヒド基などの作用基を含むこともできる。このような環状化合物の具体的な例として、α-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンまたはこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物は、前記環状化合物に直接結合されたり、炭素数1?10の直鎖または分枝鎖のオキシアルキレン基を介して結合され得る。このような結合を介する作用基は、前記環状化合物または前記ラクトン系化合物に置換された作用基の種類や、前記環状化合物およびラクトン系化合物の反応に使用される化合物の種類によって決定され得る。
【0033】
前記ラクトン系化合物は、炭素数3?12のラクトン系化合物または炭素数3?12のラクトン系繰り返し単位を含むポリラクトン系化合物を含むことができる。そのために、前記ラクトン系化合物が前記環状化合物および前記(メタ)アクリレート系化合物と結合すると、つまり、前記ポリロタキサン化合物で前記ラクトン系化合物の残基は下記化学式1の作用基を含むことができる。
【0034】
【化1】

【0035】
前記化学式1中、mは、2?11の整数であり、好ましくは3?7の整数であり、前記nは、1?20の整数であり、好ましくは1?10の整数である。
【0036】
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端には、(メタ)アクリレート系化合物が導入され得る。前記「導入」は、置換または結合された状態を意味する。
【0037】
具体的に、前記(メタ)アクリレート系化合物は、前記ラクトン系化合物の末端に直接結合されたり、ウレタン結合(-NH-CO-O-)、エーテル結合(-O-)、チオエステル(thioester、-S-CO-O-)結合またはエステル結合(-CO-O-)を通じて結合され得る。前記(メタ)アクリレート系化合物と前記ラクトン系化合物の結合を介する作用基の種類は、前記(メタ)アクリレート系化合物と前記ラクトン系化合物のそれぞれに置換された作用基の種類や、前記(メタ)アクリレート系化合物と前記ラクトン系化合物の反応に使用される化合物の種類によって決定され得る。
【0038】
例えば、イソシアネート基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、チオエート基(thioate)またはハロゲン基を1以上含む(メタ)アクリレート系化合物をラクトン系化合物が結合された環状化合物と反応させる場合、直接結合、ウレタン結合(-NH-CO-O-)、エーテル結合(-O-)、チオエステル(thioester、-S-CO-O-)結合またはエステル結合(-CO-O-)が生成され得る。また、ラクトン系化合物が結合された環状化合物にイソシアネート基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、チオエート基(thioate)またはハロゲン基を2以上含む化合物と反応させた結果物を、1以上のヒドロキシ基またはカルボキシル基を含む(メタ)アクリレート系化合物と反応させると、ウレタン結合(-NH-CO-O-)、エーテル結合(-O-)、チオエステル(thioester、-S-CO-O-)結合またはエステル結合(-CO-O-)が1以上形成され得る。
【0039】
前記(メタ)アクリレート系化合物は、イソシアネート基、カルボキシル基、チオエート基(thioate)、ヒドロキシ基またはハロゲン基が1以上が末端に結合された(メタ)アクリロイルアルキル化合物[(meth)acryloylakyl compound]、(メタ)アクリロイルシクロアルキル化合物[(meth)acryloylcycloakyl compound]または(メタ)アクリロイルアリール化合物[(meth)acryloylaryl compound]でありうる。
【0040】
この時、前記(メタ)アクリロイルアルキル化合物には、炭素数1?12の直鎖または分枝鎖のアルキレン基が含まれ、前記(メタ)アクリロイルシクロアルキル化合物[(meth)acryloylcycloakyl compound]には、炭素数4?20のシクロアルキレン基(cycloalkylene)が含まれ、前記(メタ)アクリロイルアリール化合物[(meth)acryloylaryl compound]には、炭素数6?20のアリーレン基(arylene)が含まれ得る。
【0041】
そのために、前記(メタ)アクリレート系化合物が前記ラクトン系化合物の末端に結合すると、つまり、前記ポリロタキサン化合物で前記(メタ)アクリレート系化合物の残基は下記化学式2の作用基を含むことができる。
【0042】
【化2】

【0043】
前記化学式2中、R_(1)は、水素またはメチルであり、R_(2)は、炭素数1?12の直鎖または分枝鎖のアルキレン基、炭素数4?20のシクロアルキレン基(cycloalkylene)または炭素数6?20のアリーレン基(arylene)でありうる。前記*は、結合地点を意味する。
【0044】
前記ポリロタキサン化合物は、前記環状化合物の末端に架橋反応または重合反応に使用可能な二重結合を含み、そのために、前記ポリロタキサン化合物をコーティング材料として用いれば、より高い耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの機械的物性を確保しながらも、使用されるバインダー樹脂とより容易に結合され得るため、弾性または弾性回復力を確保して自己治癒能力を向上させることができる。
【0045】
一方、前記線状分子としては、一定以上の分子量を有すると共に、直鎖形態を有する化合物は大きな制限なしに使用することができるが、ポリアルキレン系化合物またはポリラクトン系化合物を使用することが好ましい。具体的に、炭素数1?8のオキシアルキレン繰り返し単位を含むポリオキシアルキレン系化合物または炭素数3?10のラクトン系繰り返し単位を有するポリラクトン系化合物を使用することができる。
【0046】
そして、このような線状分子は、1,000?50,000の重量平均分子量を有することができる。前記線状分子の重量平均分子量が過度に小さい場合、これを使用して製造されるコーティング材料の機械的物性または自己治癒能力が十分でないことがあり、前記重量平均分子量が過度に大きい場合、製造されるコーティング材料の相溶性が低下したり外観特性や材料の均一性が大きく低下することがある。
【0047】
一方、前記封鎖基は、製造されるポリロタキサン化合物の特性により適切に調節することができ、例えばジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基およびピレン基からなる群より選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0048】
上述した特定構造を有するポリロタキサン化合物は、100,000?800,000、好ましくは200,000?700,000、より好ましくは350,000?650,000の重量平均分子量を有することができる。前記ポリロタキサン化合物の重量平均分子量が過度に小さい場合、これを使用して製造されるコーティング材料の機械的物性または自己治癒能力が十分でないことがあり、前記重量平均分子量が過度に大きい場合、製造されるコーティング材料の相溶性が低下したり外観特性や材料の均一性が大きく低下することがある。
【0049】
また、前記ポリロタキサン化合物は、前記(メタ)アクリレート系化合物が環状化合物の末端に導入されて相対的に低いOH価(OH value)を有することができる。つまり、前記環状化合物にラクトン系化合物のみが結合している場合、多数のヒドロキシ(-OH)が前記ポリロタキサン分子内に存在するようになるが、このようなラクトン系化合物の末端に(メタ)アクリレート系化合物が導入されながら前記ポリロタキサン化合物のOH価が低くなり得る。
【0050】
一方、上述した一実施形態のポリロタキサン化合物は、ポリロタキサンに含まれている環状化合物とラクトン系化合物を反応させる段階、および前記環状化合物とラクトン系化合物間の反応結果物と(メタ)アクリレート系化合物とを反応させる段階を含む製造方法を通じて提供され得る。
【0051】
本発明者らは、ポリロタキサンの環状化合物にラクトン系化合物を反応させた後、このようなラクトン系化合物の末端に(メタ)アクリレート系化合物を導入することによって新規なポリロタキサン化合物を合成した。
【0052】
具体的に、前記環状化合物とラクトン系化合物の反応結果物と(メタ)アクリレート系化合物とを反応させる段階は、前記環状化合物とラクトン系化合物の反応結果物とイソシアネート基、カルボキシル基、チオエート基(thioate)、ヒドロキシ基またはハロゲン基を1以上含む(メタ)アクリレート系化合物とを反応させる段階を含むことができる。
【0053】
前記環状化合物とラクトン系化合物は、直接的な反応または炭素数1?10の直鎖または分枝鎖のオキシアルキレン基が添加された反応を通じて結合するようになる。
【0054】
このように結合された前記環状化合物とラクトン系化合物の反応結果物にイソシアネート基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、チオエート基(thioate)またはハロゲン基を1以上含む(メタ)アクリレート系化合物を反応させることによって、上述したポリロタキサン化合物が製造され得る。
【0055】
この時、前記(メタ)アクリレート系化合物の量をラクトン系化合物の量と対比して反応させることによって、前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率を40モル%?70モル%、または45モル%?65モル%に調節することができる。
【0056】
具体的に、前記ポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物と前記(メタ)アクリレート系化合物とを反応させる過程で、ウレタン合成反応に通常使用するジイソシアナートを用いた2回以上の複数の反応を通じた合成でなく、(メタ)アクリレートが導入されたイソシアネートを使用することによって、1回の反応段階を通じて、より容易且つ均一に前記ラクトン系化合物の末端に(メタ)アクリレート系化合物を導入することができる。
【0057】
一方、前記環状化合物とラクトン系化合物の反応結果物と(メタ)アクリレート系化合物とを反応させる段階は、前記環状化合物とラクトン系化合物の反応結果物とイソシアネート基、カルボキシル基、チオエート基(thioate)ヒドロキシ基またはハロゲン基を2以上含む炭素数1?20の脂肪族化合物、炭素数4?20の脂環族化合物または炭素数6?20の芳香族化合物とを反応させる第1段階、および前記第1段階の結果物と1以上のヒドロキシ基またはカルボキシル基を含む(メタ)アクリレート系化合物とを反応させる第2段階を含むこともできる。
【0058】
つまり、前記環状化合物とラクトン系化合物の反応結果物に一定の作用基を2以上含む化合物を反応させた後、この時に生成された反応結果物を1以上のヒドロキシ基またはカルボキシル基を含む(メタ)アクリレート系化合物と反応させて上述したポリロタキサン化合物を合成することができる。
【0059】
前記環状化合物とラクトン系化合物間の反応結果物と(メタ)アクリレート系化合物とを反応させる段階は、40℃?120℃、好ましくは50℃?100℃の温度で1時間?20時間、好ましくは2時間?10時間行われ得る。
【0060】
前記ポリロタキサン化合物の製造方法では、使用される化合物やかかる化合物に置換された作用基の種類によって適切な触媒を選択して使用することができ、例えば有機錫化合物などの触媒を使用することができる。
【0061】
一方、発明の他の実施形態によれば、末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基とを含むポリロタキサン化合物、高分子樹脂またはその前駆体、および光開始剤、を含む光硬化性コーティング組成物が提供され得る。
【0062】
前述のように、本発明者らは、前記特定構造を有するポリロタキサン化合物を光硬化性コーティング組成物に適用すると、優れた耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの機械的物性を確保できると共に、スクラッチまたは外部損傷に対して高い自己治癒能力を発揮できるコーティング材料を提供できるという点を実験を通じて確認して発明を完成した。
【0063】
特に、前記ポリロタキサン化合物に含まれている環状化合物の末端には架橋反応または重合反応に用いることができる二重結合を含むが、そのために、前記ポリロタキサン化合物を含む光硬化性コーティング組成物を使用して製造されるコーティング材料は、より高い耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの機械的物性を確保しながらも、使用される高分子樹脂とより容易に結合または架橋できるため、高い弾性または弾性回復力を確保することができ、スクラッチまたは外部損傷に対して優れた自己治癒能力を実現することができる。
【0064】
また、前述のように、前記ポリロタキサン化合物で、前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、40モル%?70モル%、好ましくは45モル%?65モル%でありうる。
【0065】
前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率が40モル%未満であれば、光硬化性コーティング組成物の適用時、高分子樹脂またはその前駆体と十分な架橋反応が起こらず、前記光硬化性コーティング組成物から形成されるコーティング材料が十分な耐スクラッチ性、耐薬品性または耐摩耗性などの機械的物性を確保できないことがあり、またラクトン系化合物の末端に残留しているヒドロキシ作用基が多くなって前記ポリロタキサン化合物の極性(polarity)が高くなることがあり、前記光硬化性コーティング組成物に使用可能な非極性溶媒(non polar solvent)との相溶性が低くなって最終製品の品質や外観特性が低下することがある。
【0066】
また、前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率が70モル%超過であれば、光硬化性コーティング組成物の適用時、高分子樹脂またはその前駆体と過度な架橋反応が起こり、前記光硬化性コーティング組成物から形成されるコーティング材料が十分な弾性や自己治癒能力を確保し難いことがあり、前記コーティング材料の架橋度が非常に高くなって弾性が低下することがあり[脆性(brittleness)大幅増加]、前記光硬化性コーティング組成物の安定性も低下することがある。
【0067】
前記光硬化性コーティング組成物に使用可能な高分子樹脂の具体的な例としては、ポリシロキサン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂、これらの混合物またはこれらの共重合体が挙げられ、好ましくはウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を使用することができる。
【0068】
前記高分子樹脂は、20,000?800,000の重量平均分子量、好ましくは50,000?700,000の重量平均分子量を有することができる。前記高分子樹脂の重量平均分子量が過度に小さい場合、前記コーティング組成物から形成されるコーティング材料が十分な機械的物性や自己治癒能力を持ち難いことがあり、前記高分子樹脂の重量平均分子量が過度に大きい場合、前記コーティング組成物の形態や物性が均質度が低下することがあり、製造されるコーティング材料の最終物性も低下することがある。
【0069】
一方、前記光硬化性コーティング組成物は、前記高分子樹脂の前駆体、例えば前記高分子樹脂合成用単量体またはオリゴマーを含むことができる。具体的に、前記高分子樹脂の前駆体は、(メタ)アクリレート基、ビニル基、シロキサン基、エポキシ基およびウレタン基からなる群より選ばれた1種以上の作用基を含む単量体またはオリゴマーを含むことができる。このような高分子樹脂の前駆体は、光硬化過程、つまり、一定の紫外線または可視光線が照射されると、一定の高分子樹脂を形成したり高分子樹脂の前駆体間に架橋反応を起こしたり前記ポリロタキサン化合物と架橋反応を起こして一定の高分子樹脂を形成することができる。そして、前記高分子樹脂の前駆体として、上述した単量体またはオリゴマー1種を使用して高分子樹脂を形成することもできるが、上述した単量体またはオリゴマー2種以上を使用して高分子樹脂を形成することもできる。
【0070】
前記(メタ)アクリレート基を含む単量体の例として、ジペンタエリトリトール(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチレンプロピルトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはこれらの2以上の混合物が挙げられる。
【0071】
前記(メタ)アクリレート基を含むオリゴマーの具体的な例としては、(メタ)アクリレート基を2?10個含むウレタン変性アクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、エーテルアクリレートオリゴマーなどが挙げられる。
【0072】
このようなオリゴマーの重量平均分子量は、1,000?10,000でありうる。
【0073】
前記ビニル基を含む単量体の具体的な例としては、ジビニルベンゼン、スチレン、パラメチルスチレンなどがある。
【0074】
前記ウレタン基を含む単量体の具体的な例として、(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性(メタ)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレートとポリイソシアネートが反応して得られたウレタンアクリレートなどが挙げられる。
【0075】
一方、前記コーティング組成物は、光開始剤を含むことができるが、このような光開始剤としては、当業界で通常使用されると知られている化合物を特別な制限なしに使用することができ、例えば、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、ビイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物、オキシム系化合物またはこれらの混合物を使用することができる。そして、このような光開始剤の具体的な例としては、ベンゾフェノン(Benzophenone)、ベンゾイルメチルベンゾエート(Benzoyl methyl benzoate)、アセトフェノン(acetophenone)、2,4-ジエチルチオキサントン(2,4-diehtyl thioxanthone)、2-クロロチオキサントン(2-chloro thioxanthone)、エチルアントラキノン(ethyl anthraquinone)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(1-Hydroxy-cyclohexyl-phenyl-ketone、市販製品としては、Ciba社のIrgacure184)または2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(2-Hydroxy-2-methyl-1-phenyl-propan-1-one)などがある。
【0076】
前記光硬化性コーティング組成物は、前記ポリロタキサン化合物5?90重量%、好ましくは20?75重量%、前記高分子樹脂またはその前駆体5?90重量%、好ましくは20?75重量%、および光開始剤0.01?15重量%、好ましくは0.5?10重量%を含むことができる。
【0077】
前記光硬化性コーティング組成物中の前記ポリロタキサン化合物の含量が過度に高い場合、前記光硬化性コーティング組成物から得られるコーティング材料(例えば、コーティングフィルムなど)の溶媒に対する相溶性、光学特性、コーティング性、脆性(brittleness)などの特性が低下することがある。
【0078】
また、前記光硬化性コーティング組成物中の前記ポリロタキサン化合物の含量が過度に低い場合、前記光硬化性コーティング組成物から得られるコーティング材料(例えば、コーティングフィルムなど)の自己治癒能力または耐スクラッチ性、表面硬度、耐薬品性、耐汚染性などの物性とコーティングフィルムの弾性などが十分に確保されないことがある。
【0079】
一方、前記光硬化性コーティング組成物で、前記ポリロタキサン化合物:前記高分子樹脂またはその前駆体の比率は、1:0.5?1:1.5でありうる。
【0080】
一方、前記コーティング組成物は、有機溶媒をさらに含むことができる。前記有機溶媒としては、コーティング組成物に使用可能なものと当業界に知らされているものであれば特別な制限なしに使用可能である。例えば、メチルイソブチルケトン(methyl isobutyl ketone)、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone)、ジメチルケトン(dimethyl ketone)などのケトン系有機溶媒;イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、イソブチルアルコール(isobutyl alcohol)またはノーマルブチルアルコール(normal butyl alcohol)などのアルコール有機溶媒;エチルアセテート(ethyl acetate)またはノーマルブチルアセテート(normal butyl acetate)などのアセテート有機溶媒;エチルセルソルブ(ethyl cellusolve)またはブチルセルソルブ(butyl cellusolve)などのセルソルブ有機溶媒などを使用することができるが、前記有機溶媒は上述した例に限定されるのではない。
【0081】
前記有機溶媒の使用量は、上述したコーティング組成物の物性、コーティング方法、または最終製造される製品の具体的な物性を考慮して調節することができ、例えば前記高分子樹脂またはその前駆体100重量部に対して5?200重量部使用することができる。
【0082】
一方、前記コーティング組成物で光開始剤をの代わりに熱開始剤を使用する場合、熱硬化性コーティング組成物が提供され得る。つまり、上述した特定のポリロタキサン、高分子樹脂またはその前駆体、および熱開始剤を含む熱硬化性コーティング組成物が提供され得る。この時、使用可能な高分子樹脂またはその前駆体としては、通常使用される熱硬化性樹脂を適用することができ、例えばエポキシ樹脂などを多様に適用することができる。
【0083】
一方、発明の他の実施形態によれば、上述した光硬化性コーティング組成物の光硬化物を含むコーティングフィルムが提供され得る。
【0084】
前述のように、前記特定構造を有するポリロタキサン化合物を光硬化性コーティング組成物に適用すると、優れた耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの機械的物性を確保できると共に、スクラッチまたは外部損傷に対して高い自己治癒能力を発揮できるコーティング材料を提供することができる。
【0085】
具体的に、前記光硬化性コーティング組成物に一定の紫外線または可視光線、例えば200?400nm波長の紫外線または可視光線を照射することによって光硬化が起こり、前記コーティング材料が提供され得る。このような紫外線または可視光線の露光量は、大きく限定されるのではなく、例えば50?4,000mJ/cm^(2)が好ましい。また、前記光硬化段階の露光時間も特に限定されるのではなく、使用される露光装置、照射光線の波長または露光量により適切に変化させることができる。
【0086】
前記光硬化性コーティング組成物の実際適用される部分、例えば自動車の塗装、電気電子製品または素子の表面塗装などにコーティングされた以降に、前記光硬化過程を通じてコーティングフィルムまたはコーティング膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0087】
本発明によれば、特定の化学構造を有する新規なポリロタキサン化合物と、高い耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの優れた機械的物性を有すると共に、優れた自己治癒能力を有するコーティング材料を提供できる光硬化性コーティング組成物と、前記光硬化性コーティング組成物から得られるコーティングフィルムとが提供され得る。
【0088】
また、前記光硬化性コーティング組成物またはコーティングフィルムは、電気電子製品または素子の表面塗装などの分野に適用されて、高い耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの優れた機械的物性と共に自己治癒能力を有するコーティング材料またはコーティング膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施例1で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]の1H NMRデータを示したものである。
【図2】実施例1で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]に含まれているカプロラクトンの構造を確認したgCOSY NMRスペクトルを示したものである。
【図3】末端に(メタ)アクリレート系化合物が導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物を含むポリロタキサンの1H NMRデータの一例を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0090】
発明を下記実施例でより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容は下記実施例により限定されるのではない。
【0091】
<実施例1?2および比較例1:ポリロタキサンの合成>
実施例1
カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]50gを反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate、Showadenko(株)]4.53g、ジブチル錫ジラウレート[DBTDL、Merck社]20mg、ヒドラキノンモノメチレンエテール(Hydroquinone monomethylene ether)110mgおよびメチルエチルケトン315gを添加して70℃で5時間反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。
【0092】
このようなポリロタキサンポリマー液をn-ヘキサン(n-Hexane)溶媒に落として高分子を沈殿させ、これを濾過して白色の固体高分子(重量平均分子量:500,000)を得ることができた。
【0093】
前記で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]の1H NMRデータは図1のとおりであり、図2のgCOSY NMRスペクトルを通じてポリロタキサンの環状化合物に結合されたカプロラクトンの構造を確認した。
【0094】
そして、前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれているポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有する[ピークの強度(intensity)などは異なり得る]。
【0095】
前記図2のNMRデータを通じてポリロタキサンの環状化合物に含まれているカプロラクトン繰り返し単位の数(図1のm+N)が8.05であることを確認し、繰り返し単位数を8と想定すると、図3の7番ピークは、16.00(2H×8)の強度を有することが分かる。
【0096】
そのために、カプロラクトン繰り返し単位の末端が「OH」で100%置換されると、アクリレート作用基と関係する図3の1番ピークは、4.00(2H×2)になるべきであるため、実際測定された1H NMR値を比較してポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めることができる。
【0097】
前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は46.8%であった。
【0098】
実施例2
カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]50gを反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate、Showadenko(株)]9.06g、ジブチル錫ジラウレート[DBTDL、Merck社]20mg、ヒドラキノンモノメチレンエテール110mgおよびメチルエチルケトン315gを添加して70℃で5時間反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。
【0099】
このようなポリロタキサンポリマー液をn-ヘキサン溶媒に落として高分子を沈殿させ、これを濾過して白色の固体高分子(重量平均分子量:500,000)を得ることができた。
【0100】
前記で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]の1H NMRデータは図1のとおりであり、図2のgCOSY NMRスペクトルを通じてポリロタキサンの環状化合物に結合されたカプロラクトンの構造を確認した。
【0101】
そして、前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれているポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有する[ピークの強度(intensity)などは異なり得る]。
【0102】
前記図2のNMRデータを通じてポリロタキサンの環状化合物に含まれているカプロラクトン繰り返し単位の数(図1のm+N)が8.05であることを確認し、繰り返し単位数を8と想定すると、図3の7番ピークは、16.00(2H×8)の強度を有することが分かる。
【0103】
そのために、カプロラクトン繰り返し単位の末端が「OH」で100%置換されると、アクリレート作用基と関係する図3の1番ピークは、4.00(2H×2)になるべきであるため、実際測定された1H NMR値を比較してポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めることができる。
【0104】
前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は60.0%であった。
【0105】
比較例1
カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]50gを反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate、Showadenko(株)]13.58g、ジブチル錫ジラウレート[DBTDL、Merck社]20mg、ヒドラキノンモノメチレンエテール110mgおよびメチルエチルケトン315gを添加して70℃で5時間反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。
【0106】
実施例1および2と同様な方法で、最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれているポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有することを確認した[ピークの強度(intensity)などは異なり得る]。
【0107】
また、実施例1および2と同様な方法で、ポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めた結果、最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は約100%に近接した。
【0108】
<実施例3?4および比較例2:光硬化性コーティング組成物およびコーティングフィルムの製造>
実施例3
(1)光硬化性コーティング組成物の製造
前記実施例1で得られたポリロタキサン100重量部に対してUA-200PA(多官能ウレタンアクリレート、新中村社)15重量部、PU-3400(多官能ウレタンアクリレート、MIWON社)40重量部、Miramer SIU2400(多官能ウレタンアクリレート、MIWON社)10重量部、Estane-5778(ポリエステル系ポリウレタン、Lubrizol社)15重量部、光重合開始剤であるIrgacure-184 1.5重量部、光重合開始剤であるIrgacure-907 1.55重量部、イソプロピルアルコール(IPA)12.5重量部、エチルセルソルブ12.5重量部を混合して光硬化性コーティング組成物を製造した。
【0109】
(2)コーティングフィルムの製造
前記光硬化性コーティング組成物をそれぞれPETフィルム(厚さ188μm)にワイヤーバー(70号)を用いてコーティングした。そして、コーティング物を90℃で2分間乾燥した後、200mJ/cm^(2)の紫外線を5秒間照射して30μmの厚さを有するフィルムを製造した。
【0110】
実施例4
(1)光硬化性コーティング組成物の製造
前記実施例2で得られたポリロタキサンを使用した点を除いては、実施例3と同様な方法で光硬化性コーティング組成物を製造した。
【0111】
(2)コーティングフィルムの製造
前記光硬化性コーティング組成物をそれぞれPETフィルム(厚さ188μm)にワイヤーバー(70号)を用いてコーティングした。そして、コーティング物を90℃で2分間乾燥した後、200mJ/cm^(2)の紫外線を5秒間照射して30μmの厚さを有するフィルムを製造した。
【0112】
比較例2
(1)光硬化性コーティング組成物の製造
前記比較例1で得られたポリロタキサンを使用した点を除いては、実施例3と同様な方法で光硬化性コーティング組成物を製造した。
【0113】
(2)コーティングフィルムの製造
前記光硬化性コーティング組成物をそれぞれPETフィルム(厚さ188μm)にワイヤーバー(70号)を用いてコーティングした。そして、コーティング物を90℃で2分間乾燥した後、200mJ/cm^(2)の紫外線を5秒間照射して30μmの厚さを有するフィルムを製造した。
【0114】
<実験例:コーティングフィルムの物性評価>
前記実施例3および4と比較例2で得られたコーティングフィルムの物性を下記のように評価した。
【0115】
1.光学的特性:Haze meter(村上社製のHR-10)を用いて光透過度とヘーズを測定した。
【0116】
2.自己治癒能力:コーティングフィルムの表面を500gの荷重で銅ブラシで擦った後、スクラッチの回復にかかる時間を測定した。
【0117】
3.耐スクラッチ特性の測定
スチールウール(steel wool)に一定の荷重をかけて往復でスクラッチを作った後、コーティングフィルムの表面を肉眼で観察した。
【0118】
4.マンドレルテスト(Mandrel test)
厚さが異なる円筒形テスト(Cylindrical Mandrel)に前記実施例および比較例で得られたコーティングフィルムをそれぞれ180度巻いて1秒間維持した後、クラックの発生を肉眼で観察し、円筒形テストマンドレルのパイ(Φ)値を低めながらクラックが発生しない時点を確認した。
【0119】
5.硬度:荷重500gで鉛筆硬度を測定した。
【0120】
前記測定結果を下記表1に示した。
【0121】
【表1】

【0122】
前記表1に示されているように、実施例3および4で製造されたコーティングフィルムは、比較例2で得られたコーティングフィルムに比べて、高い透過度を有しながらも低いヘーズを示して優れた外観特性を有する点が確認された。
【0123】
また、銅ブラシで擦った以降に1分以内に表面が元の状態に回復する自己治癒能力に関する実験例でも、前記実施例3および4で製造されたコーティングフィルムは、比較例2で得られたコーティングフィルムに比べて、より優れた自治治癒能力を有する点が確認された。
【0124】
そして、前記実施例3および4で製造されたコーティングフィルムは、一定の荷重がかかるスチールウールの200gまたは300gdの荷重がかかった状態でもスクラッチがほとんど発生せず、優れた耐スクラッチ特性を有する点が確認された。
【0125】
また、前記実施例3および4で製造されたコーティングフィルムは、より低いパイ(Φ)値を有するマンドレルシリンダーでもクラックが発生せず、比較例に比べてより高い弾性と共に耐久性を有する点が確認された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含み、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、ポリロタキサン化合物。
【請求項2】
前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、45モル%?65モル%である、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項3】
前記環状化合物は、α-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれた1種以上を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項4】
前記ラクトン系化合物は、直接結合または炭素数1?10の直鎖または分枝鎖のオキシアルキレン基を介して前記環状化合物に結合された、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項5】
前記ラクトン系化合物の残基は、下記化学式1の作用基を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【化3】

(前記化学式1中、mは、2?11の整数であり、nは、1?20の整数である。)
【請求項6】
前記(メタ)アクリレート系化合物は、直接結合、ウレタン結合、エーテル結合、チオエステル結合またはエステル結合を通じて前記ラクトン系化合物の残基に結合された、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリレート系化合物の残基は、下記化学式2の作用基を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【化4】

(前記化学式2中、R_(1)は、水素またはメチルであり、R_(2)は、炭素数1?12の直鎖または分枝鎖のアルキレン基、炭素数4?20のシクロアルキレン基または炭素数6?20のアリーレン基である。)
【請求項8】
前記線状分子は、ポリオキシアルキレン系化合物またはポリラクトン系化合物である、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項9】
前記線状分子は、1,000?50,000の重量平均分子量を有する、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項10】
前記封鎖基は、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基およびピレン基からなる群より選ばれた1種以上の作用基を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項11】
100,000?800,000の重量平均分子量を有する、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項12】
末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物、
高分子樹脂またはその前駆体、および
光開始剤、を含み、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%であり、
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物のみで置換された、光硬化性コーティング組成物。
【請求項13】
前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、45モル%?65モル%である、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項14】
前記高分子樹脂は、ポリシロキサン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂およびウレタン(メタ)アクリレート系樹脂からなる群より選ばれた1種以上の高分子樹脂またはこれらの共重合体を含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項15】
前記高分子樹脂の前駆体は、(メタ)アクリレート基、ビニル基、シロキサン基、エポキシ基およびウレタン基からなる群より選ばれた1種以上の作用基を含む単量体またはオリゴマーを含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項16】
前記光開始剤は、アセトフェノン系化合物、ビイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物およびオキシム系化合物からなる群より選ばれた1種以上の化合物を含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項17】
前記ポリロタキサン化合物1?95重量%、
前記高分子樹脂またはその前駆体1?95重量%、および
光開始剤0.01?10重量%、を含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項18】
有機溶媒をさらに含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項19】
請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物の光硬化物を含むコーティングフィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-12 
出願番号 特願2015-506915(P2015-506915)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08B)
P 1 651・ 851- YAA (C08B)
P 1 651・ 113- YAA (C08B)
P 1 651・ 853- YAA (C08B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 幸司  
特許庁審判長 守安 智
特許庁審判官 齊藤 真由美
冨永 保
登録日 2015-12-25 
登録番号 特許第5859170号(P5859170)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 ポリロタキサン化合物、光硬化性コーティング組成物およびコーティングフィルム  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  
代理人 廣田 浩一  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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