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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1338096
異議申立番号 異議2017-700455  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-09 
確定日 2018-01-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6026968号発明「加工性及び耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6026968号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。 特許第6026968号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6026968号(以下、「本件特許」という。)は、平成25年 7月11日(パリ条約による優先権主張 2012年 8月 1日 韓国(KR)、2013年 6月11日 韓国(KR))に特許出願され、平成28年10月21日に特許権の設定登録がされ、同年11月16日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許の請求項1?2に係る特許について、平成29年 5月 9日に特許異議申立人南 佑樹(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたので、これを検討した結果として同年 7月12日付けで当審から取消理由を通知し、特許権者より同年 9月26日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、この訂正請求について異議申立人に意見を求めたところ、異議申立人からは応答がなかったものである。

第2 訂正請求の適否
1 訂正の内容
平成29年 9月26日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を表す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板を、」とあるのを、
「素地鋼板を、」と訂正する。
(請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられて、」とあるのを、
「めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられた前記下段窒素排出バーと前記側面カバーと前記上段窒素排出バーを備える窒素帳幕形成装置を用いて、」と訂正する。
(請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
訂正前の願書に添付した明細書の【0014】に
「本発明は、亜鉛35?55重量%、」とあるのを、
「本発明は、素地鋼板を、亜鉛35?55重量%、」と訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の願書に添付した明細書の【0014】に
「めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられて、」とあるのを、
「めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられた前記下段窒素排出バーと前記側面カバーと前記上段窒素排出バーを備える窒素帳幕形成装置を用いて、」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、「亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板を、・・・めっき浴でめっき処理する、」という記載(当審注:「・・・」は省略を表す。以下、同様である。)が、素地鋼板をめっき処理するものとも、めっき処理された鋼板を更にめっき処理するものとも解され得ることから、不明瞭な記載となっていたのを、素地鋼板がめっき処理されることを明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前の願書に添付した明細書の【0044】?【0045】には、
「【0044】
一方、めっき浴の鎔湯内に入浴する時の素地鋼板の温度は570?650℃、鎔湯温度は550?650℃に設定することが好ましい。
【0045】
素地鋼板の入浴温度が550℃以下になると、めっき浴の流動性が低下し、めっき被膜の外観不良及び塗膜密着性の低下につながることがある反面、650℃以上になると、素地鋼板の熱的拡散が速くなって、合金層の異常成長を招くことによって、加工性が低下すると共に、鎔湯内にFe酸化物層が過剰生成される問題点がある。」
と記載されており(当審注:下線は当審で付与した。以下、同様である。)、訂正前の願書に添付した明細書には素地鋼板がめっき処理されることが記載されているので、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項1による訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の記載の主語が不明確であり、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に何が設けられているのかが明瞭でなく、このため窒素帳幕が何によって形成されるのかが明瞭でなかったのを、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に、下段窒素排出バーと側面カバーと上段窒素排出バーを備える窒素帳幕形成装置が設けられて、窒素帳幕が当該窒素帳幕形成装置によって形成されることを明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前の願書に添付した明細書の【0050】?【0056】には、
「【0050】
本発明の窒素帳幕形成装置は、めっき浴槽3の表面から一定距離離れて設けられ、リフティング手段5により、めっき浴槽3の表面からエアーナイフ2との間で上下動可能に構成される。
【0051】
本発明の窒素帳幕形成装置は、めっき浴槽3の表面から上がってくるめっき鋼板1の周りに沿って長方形に形成された下段窒素排出バー41,42を備える。該下段窒素排出バー41,42は、側面の窒素供給パイプ46から窒素を取り込んで、当該めっき浴槽3の表面に向けて窒素ガスを排出する。図示してはいないが、当該下段窒素排出バー41,42の下面には窒素ガスを吹き出す孔(ノズル)が等間隔で複数個形成されている。
【0052】
当該下段窒素排出バー41,42は、長方形のパイプで一体に形成されたものでもよいが、図4のように、第1バー41と第2バー42とが別個に形成され、相互に幅方向に(図面では上下方向に)離れてもよい。
【0053】
また、本発明の窒素帳幕形成装置は、当該下段窒素排出バー41,42の側面から当該めっき鋼板1に向かって上方に傾くように延びている側面カバー43と、当該側面カバー43の上端に設けられて、下方に窒素ガス10を排出する上段窒素排出バー44,45と、を備える。
【0054】
上段窒素排出バー44,45は、めっき浴槽の表面に向かって窒素排出孔(図示せず)が形成されているパイプ形態のもので、当該側面カバー43の上端において互いに向かい合って形成されて、内側に窒素ガスを吹き出す。当該上段窒素排出バー44,45は、窒素供給パイプ46から窒素が供給される。
【0055】
一方、当該側面カバー43は、当該下段窒素排出バー41,42から当該上段窒素排出バー44,45まで当該めっき鋼板1に向かって上方に傾くように形成されているため、排出された窒素ガス10が散在することなく、当該めっき鋼板1の周辺に捕まって留まる。
【0056】
以上説明した本発明の窒素帳幕形成装置により、めっき浴槽3の表面から上がってくる比較的高温のめっき鋼板1の周辺に窒素帳幕47を形成することによって、当該めっき浴槽3の表面に酸化被膜が形成されることを抑えることができる。」
と記載されており、訂正前の願書に添付した明細書には、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に、下段窒素排出バーと側面カバーと上段窒素排出バーを備える窒素帳幕形成装置が設けられて、窒素帳幕が当該窒素帳幕形成装置によって形成されることが記載されているので、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項2による訂正は、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に窒素帳幕形成装置が設けられることを特定し、更に、当該窒素帳幕形成装置の構成を特定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3?訂正事項4について
訂正事項3?訂正事項4による訂正は、前記訂正事項1?訂正事項2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項3?訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2は、本件訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正後の請求項1?請求項2は一群の請求項であり、訂正事項3?訂正事項4は、一群の請求項1?請求項2の全てについて明細書を訂正するものである。
なお、本件訂正請求においては、請求項1?2の一群の請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 むすび
したがって、訂正事項1?訂正事項4からなる本件訂正は、特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
前記「第2 訂正請求の適否」に記載したとおり、本件訂正は認められるから、特許第6026968号の請求項1?2に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
素地鋼板を、亜鉛35?55重量%、シリコン0.5?3重量%、クロム0.005?1.0重量%、マグネシウム0.01?3.0重量%、チタン0.001?0.1重量%を含有するとともに、残りとしてアルミニウム及び避けられない不純物を含有するめっき浴でめっき処理する、加工性及び耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法であって、
めっき浴槽の表面から一定距離離れてめっき鋼板の周りに沿って前記めっき浴槽の表面に向かって下段窒素排出バーから窒素ガスを排出し、
前記下段窒素排出バーの側面から前記めっき鋼板に向かって上方に傾いて延びている側面カバーの上端に設けられた上段窒素排出バーから下方に窒素ガスを排出し、
めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられた前記下段窒素排出バーと前記側面カバーと前記上段窒素排出バーを備える窒素帳幕形成装置を用いて、前記めっき浴槽から上がってくる、めっき鋼板の周りに窒素帳幕を形成する亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記めっき浴は、前記マグネシウム全体重量を基準に1?10重量%のカルシウムをさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法。」

第4 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証?甲第7号証を提出し、以下の申立理由1?2によって本件訂正前の請求項1?2に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
1 申立理由1
本件訂正前の請求項1?2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載される事項及び甲第3号証?甲第7号証に記載される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2 申立理由2
本件訂正前の請求項1?2の記載に不備があるから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2011/102434号
甲第2号証:特開平6-207263号公報
甲第3号証:特開2010-202951号公報
甲第4号証:特開平7-15132号公報
甲第5号証:実願昭59-201566号(実開昭61-117379号)のマイクロフィルム
甲第6号証:国際公開第2010/038472号
甲第7号証:特開平7-145460号公報

第5 取消理由の概要
当審において通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1 取消理由1
本件訂正前の請求項1?2に係る発明は、「めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられて、前記めっき浴槽から上がってくる、めっき鋼板の周りに窒素帳幕を形成する」との発明特定事項を有しているが、この発明特定事項は、特許異議申立書の第21ページ第23行から第22ページ第2行に記載された理由により明確ではないから、本件訂正前の請求項1?2に係る発明は明確ではない。
したがって、本件訂正前の請求項1?2に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 取消理由2
本件訂正前の請求項1?2に係る発明は、「亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板を、亜鉛35?55重量%、シリコン0.5?3重量%、クロム0.005?1.0重量%、マグネシウム0.01?3.0重量%、チタン0.001?0.1重量%を含有するとともに、残りとしてアルミニウム及び避けられない不純物を含有するめっき浴でめっき処理する、加工性及び耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法」との発明特定事項を有している。
ここで、本件訂正前の請求項1?2に係る発明は、「亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法」に係るものであって、該「亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板」は、鋼板に亜鉛-アルミニウム系合金めっき処理を施したものといえるが、前記発明特定事項は、そのようにめっき処理を施して製造された「亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板」をさらにめっき処理するものとも解され得るので、前記発明特定事項は明確ではないから、本件訂正前の請求項1?2に係る発明は明確ではない。
したがって、本件訂正前の請求項1?2に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第6 判断
1 取消理由について
(1)取消理由1について
(ア)取消理由1は、本件訂正前の請求項1の「めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられて、前記めっき浴槽から上がってくる、めっき鋼板の周りに窒素帳幕を形成する」との記載は、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に何が設けられるのかが記載されていない点で明確でないので、本件訂正前の請求項1?2に係る発明は明確でない、というものである。

(イ)ところが、前記「第2 訂正請求の適否」に記載したとおり、本件訂正は認められるものであり、本件訂正により、本件特許発明1において、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に、下段窒素排出バーと側面カバーと上段窒素排出バーを備える窒素帳幕形成装置が設けられて、窒素帳幕が当該窒素帳幕形成装置によって形成されることが明確になった。

(ウ)そうすると、取消理由1の理由により、本件特許発明1が明確でないとはいえない。
そしてこのことは、請求項1を引用する本件特許発明2についても同様である。

(2)取消理由2について
(ア)前記「第2 訂正請求の適否」に記載したとおり、本件訂正は認められるものであり、本件訂正により、本件特許発明1において、めっき浴でめっき処理されるのは「素地鋼板」であることが明確になった。

(イ)そうすると、取消理由2の理由により、本件特許発明1が明確でないとはいえない。
そしてこのことは、請求項1を引用する本件特許発明2についても同様である。

2 申立理由について
(1)各甲号証の記載事項
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第1号証(国際公開第2011/102434号)には、以下の記載がある。
(1-ア)「[請求項10]
溶融めっき鋼材の製造方法であって、
下記組成を含む溶融めっき浴を準備し、
25?75質量%のAl、
0.1?10質量%のMg、
0.02?1.0質量%のCr、
Alに対して0.5?10質量%のSi、
1?1000質量ppmのSr、
0.1?1.0質量%のFe、
残部がZn、
且つ
Si:Mgの質量比が100:50?100:300
鋼材をこの溶融めっき浴に通過させてその表面に溶融めっき金属を付着させ、
この溶融めっき金属を凝固させて前記鋼材の表面にアルミニウム・亜鉛合金めっき層を形成することを特徴とする溶融めっき鋼材の製造方法。」(請求の範囲)

(1-イ)「[0008]
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐食性及び加工性が良好であり、且つめっき層の外観が良好な溶融めっき鋼材及びその製造方法を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0009]
本発明者らは上述の問題について、次のように考察した。Mgを含有する溶融めっき浴を用いた溶融めっき処理時には、Mgはめっき層を構成する他の元素に比較して酸化し易い元素なので、鋼材に付着した溶融めっき金属の表層でMgが大気中の酸素と反応してMg系酸化物が生成する。これに伴い、溶融めっき金属の表層でMgが濃化し、この溶融めっき金属の表層でMg系酸化皮膜(Mgを含む金属の酸化物から構成される皮膜)の形成が促進される。溶融めっき金属が冷却されて凝固する過程では、溶融めっき金属内部の凝固が完了する前に、前記Mg系酸化皮膜が形成されるため、溶融めっき金属の表層と内部との間で流動性の差異が生じる。このため、溶融めっき金属の内部が流動しても、表層のMg系酸化皮膜が追随しなくなり、その結果、しわやタレが発生すると考えられる。
[0010]
そこで、本発明者らは、溶融めっき鋼材の良好な耐食性や加工性を確保しつつ、前記のような溶融めっき処理時の溶融めっき金属内の流動性の差異を抑制するために、鋭意研究した結果、本発明の完成に至った。」

(1-ウ)「[0031]
[溶融めっき鋼材]
本実施形態に係る溶融めっき鋼材は、鋼材1の表面上にアルミニウム・亜鉛合金めっき層(以下、めっき層という)がめっきされてなる。鋼材1としては、薄鋼板、厚鋼板、型鋼、鋼管、鋼線等の種々の部材が挙げられる。すなわち、鋼材1の形状は特に制限されない。めっき層は、溶融めっき処理により形成される。」

(1-エ)「[0060]
めっき層は構成元素として更にSrを含有することが好ましい。この場合、Srによってめっき層中のSi-Mg層の形成が特に促進される。更に、Srによって、めっき層の表層におけるMg系酸化皮膜の形成が抑制される。これは、Mg系酸化皮膜よりもSrの酸化膜の方が優先的に形成されやすくなることで、Mg系酸化皮膜の形成が阻害されるためであると考えられる。これにより、めっき層におけるしわの発生が更に抑制される。・・・
[0061]
めっき層は構成元素として更にFeを含有することが好ましい。この場合、Feによってめっき層中のSi-Mg層の形成が特に促進される。更に、Feはめっき層のミクロ組織及びスパングル組織の微細化にも寄与し、これによりめっき層の外観及び加工性が向上する。めっき層におけるFeの含有量は0.1?0.6質量%の範囲であることが好ましい。・・・」

(1-オ)「[0124]
鋼板1aが溶融めっき浴2から引き出される際には、非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気中へ引き出されてもよく、更にこの非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気中で鋼板1aに対してガスワイピング法による溶融めっき金属の付着量の調整が施されてもよい。そのためには、例えば図2に示すように、溶融めっき浴2から引き出された鋼材1の、溶融めっき浴2よりも上流側の搬送経路(溶融めっき浴2から上方へと向かう搬送経路)が、中空の部材22で囲まれると共に、この中空の部材22の内部が窒素ガスなどの非酸化性ガス又は低酸化性ガスで満たされることが好ましい。非酸化性ガス又は低酸化性ガスとは、大気に比較して酸素濃度が低いガスを意味する。非酸化性ガス又は低酸化性ガスの酸素濃度は1000ppm以下であることが好ましい。非酸化性ガス又は低酸化性ガスで満たされた雰囲気が非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気であり、この雰囲気中では酸化反応が抑制される。噴射ノズル9は中空の部材22の内側に配置される。中空の部材22は、溶融めっき浴2内(溶融めっき浴2の上部)からこの溶融めっき浴2の上方に亘って、鋼材1の搬送経路を囲むように設けられている。更に、噴射ノズル9から噴射されるガスも、窒素ガスなどの非酸化性ガス又は低酸化性ガスであることが好ましい。この場合、溶融めっき浴2から引き出された鋼板1aは非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気に曝されるため、鋼板1aに付着した溶融めっき金属の酸化が抑制され、この溶融めっき金属の表層にMg系酸化皮膜が更に形成されにくくなる。このため、めっき層におけるしわの発生が更に抑制される。中空の部材22が使用される代わりに、鋼板1aの搬送経路を含む溶融めっき処理装置の一部、或いは溶融めっき処理装置の全部が、非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気中に配置されてもよい。」

(1-カ)「[0150]
[実施例及び比較例]
鋼材1として厚み0.80mm、幅1000mmの長尺の鋼板1a(低炭素アルミニウムキルド鋼製)を用いた。尚、実施例62,63では、鋼鈑1aに溶融めっき処理を施す前に、Niプレめっきを施すことで、実施例62では付着量(片面)0.5g/m^(2)、実施例63では付着量(片面)2.0g/m^(2)のプレめっき層を形成した。実施例64では、Zn-10%Crプレめっき処理を施し、付着量(片面)1.0g/m^(2)のプレめっき層を形成した。他の実施例及び比較例ではプレめっき処理を施さなかった。
[0151]
この鋼板1aに対し、図1に示す溶融めっき処理装置を用いて、溶融めっき処理を施した。処理条件は表1?4に示すとおりである。表1?3に示される凝固開始温度は、Zn-Al二元系の浴の状態図の液相曲線から導き出した値であり、表1?3に示す各溶融めっき浴組成におけるAlの含有量に対応する値である。」

(1-キ)「[0159]
[表4]



(1-ク)「[図2]



(ア)前記(1-ア)によれば、甲第1号証には溶融めっき鋼材の製造方法が記載されており、該溶融めっき鋼材の製造方法は、下記組成を含む溶融めっき浴を準備し、
25?75質量%のAl、
0.1?10質量%のMg、
0.02?1.0質量%のCr、
Alに対して0.5?10質量%のSi、
1?1000質量ppmのSr、
0.1?1.0質量%のFe、
残部がZn、
且つ
Si:Mgの質量比が100:50?100:300
鋼材をこの溶融めっき浴に通過させてその表面に溶融めっき金属を付着させ、この溶融めっき金属を凝固させて前記鋼材の表面にアルミニウム・亜鉛合金めっき層を形成するものである。

(イ)すなわち、前記(1-イ)によれば、前記溶融めっき鋼材の製造方法は、耐食性及び加工性が良好であり、且つめっき層の外観が良好な溶融めっき鋼材及びその製造方法を提供することを目的とするものであって、前記(1-オ)、(1-ク)によれば、前記溶融めっき鋼材の製造方法は、鋼板が溶融めっき浴から引き出される際には、非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気中へ引き出されるものである。

(ウ)ここで、前記溶融めっき鋼材の製造方法による溶融めっき鋼材は、前記(1-イ)、(1-ウ)によれば、良好な耐食性や加工性を確保したものであって、アルミニウム・亜鉛合金めっき層がめっきされてなるものであり、鋼材として薄鋼板、厚鋼板が挙げられるものであるから、「加工性及び耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板」といえ、前記溶融めっき鋼材の製造方法における「鋼材を、・・・めっき浴に通過させてその表面に溶融めっき金属を付着させ、この溶融めっき金属を凝固させて前記鋼材の表面にアルミニウム・亜鉛合金めっき層を形成する工程」は、素地鋼板を、25?75質量%のAl、0.1?10質量%のMg、0.02?1.0質量%のCr、Alに対して0.5?10質量%のSi、1?1000質量ppmのSr、0.1?1.0質量%のFe、残部がZnであり、且つSi:Mgの質量比が100:50?100:300であるめっき浴でめっき処理するものといえる。

(エ)そして、前記(ア)?(ウ)の検討によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているものと認められる。

「素地鋼板を、25?75質量%のAl、0.1?10質量%のMg、0.02?1.0質量%のCr、Alに対して0.5?10質量%のSi、1?1000質量ppmのSr、0.1?1.0質量%のFe、残部がZnであり、且つSi:Mgの質量比が100:50?100:300であるめっき浴でめっき処理する、加工性及び耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法であって、前記素地鋼板が前記めっき浴から引き出される際には、非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気中へ引き出される、亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)

(1-2)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内において頒布された甲第2号証(特開平6-207263号公報)には、以下の記載がある。
(2-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶融金属めっき浴の浴面下の浅い位置に、ストリップに対するめっき金属の付着量を制御するための1対の付着量制御ロールを、ストリップパスラインを挾んでストリップ幅方向と平行に設けた溶融金属めっき装置。」

(2-イ)「【請求項10】 溶融金属めっき浴のストリップパスラインが通る浴面を覆うカバーを設け、該カバー内部にガスを供給するガス供給手段を設けた請求項1、2、3、4、5、6、7または8に記載の溶融金属めっき装置。」

(2-ウ)「【0029】さらに、ストリップが通過する浴面を覆うカバーを設けた装置では、ガス供給手段からカバー内部に不活性ガス等の非酸化性ガスまたは酸素濃度が低い弱酸化性ガス(好ましくは、酸素濃度5%未満)若しくは還元性ガスが供給され、カバー内部がこれらのガス雰囲気に保持される。このようにストリップが通過する浴面をカバーで覆うことにより、上方にあるガスワイピングノズルからのワイピングジェットにより浴表面が乱され、ストリップに随伴して持ち上げられるめっき金属量がストリップ幅方向で不均一化するのが防止されるとともに、めっき浴面のめっき金属の酸化が防止され、また、めっき金属の吸引ノズルに酸化性ガス(空気)が吸引されないため、吸引ノズルに吸引されるめっき金属の酸化も防止される。また、特にカバー内部に還元性ガスを供給した場合には、カバー内部に酸化しためっき金属が流入したり或いは酸化性ガスが流入した場合でも、めっき金属の酸化が防止されるとともに、流入した酸化物も還元され、ストリップに酸化しためっき金属が付着することが防止される。」

(2-エ)「【0032】前記付着量制御ロール5の上方には、ストリップSが通過する浴面を覆うカバー7が設けられ、このカバー7の内部にガス供給手段8(ガス供給ノズル)からガスを供給できるようにしてある。このカバー7は下端が開放したボックス体からなり、その下端をめっき浴の浴面下に浸漬させるようにして配置されている。カバー7の中央部にはストリップ通過用のスリット71が形成されている。また、このカバー7のストリップパスライン両側の各上面72は、それぞれワイピングガス噴射方向において凹状に湾曲した構成となっており、上方のワイピングガスノズルから噴出されストリップに衝突した後のワイピングガス(空気)の流れをカバー外方にスムーズに逃し、酸化性ガスのカバー内への流入を極力防止できるようにしてある。その他図面において、14bはコレクティングロール駆動用のモータ、15はスナウトである。」

(2-オ)「【0036】なお、上記各実施例のようなカバー7を設けることなく、めっき浴面上方のストリップパスライン両側に、ストリップパスライン近傍の浴面にガスを供給することができるガス吹付手段(吹付ノズル等)を設けることもできる。また、付着量制御ロール5は必ずしも平滑ロールである必要はなく、例えば、ロール随伴流を積極的に形成させることを目的として、表面に適当な凹凸や他の付加的要素を加えたロールとしてもよい。また、ロール随伴流をストリップ中央部とエッジ部とで差をもたせることを目的として、或いは、ロール随伴流をストリップ幅方向で適当な勾配で変化させることを目的として、ロールに適当なクラウンを付けてもよい。
【0037】次に、以上述べた各実施例の装置の作用を説明する。各実施例の装置において、スナウト15から溶融亜鉛めっき浴1中に進入したストリップSはシンクロール2で上方に方向転換し、スタビライジングロール3およびコレクティングロール4でパスライン調整および形状矯正された後、1対の付着量制御ロール5間を通過して浴外に引き出され、ガスワイピングノズル9からのワイピングガスの噴射により付着した余剰めっきが掻き落される。」

(2-カ)「【図1】



(1-3)甲第3号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内において頒布された甲第3号証(特開2010-202951号公報)には、以下の記載がある。
(3-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき浴の溶融金属の表面を非酸化性ガスでシールし、該ガスシール部内に設置されたワイピング手段によりめっき付着量を調整し、更に、該ガスシール部内のめっき浴表層の溶融金属を前記非酸化性ガスとともに吸引する吸引口及び吸引した溶融金属を前記ガスシール部外に放出する排出口を有する溶融金属循環手段により溶融金属を循環して溶融金属めっき浴表面清浄化をする溶融金属めっき鋼線の製造方法であって、溶融金属循環手段の吸引口全断面積の50?80%を溶融金属浸漬し、溶融金属と非酸化性ガスとを同時に吸引することを特徴とする溶融金属めっき鋼線の製造方法。」

(3-イ)「【0027】
ガスシール部に導入する非酸化性ガスは、図1、図2に示すように、本装置に設置した非酸化性ガス導入管1を経て窒素、アルゴン等の不活性ガスを導入する。特に、経済性を考慮すると窒素ガスが好適である。また、非酸化性ガスをガスシール部内2に導入する際には、ガス加熱導入手段によって加熱し、高温非酸化性ガス12としてから導入することが好ましい。加熱された高温非酸化性ガス12の導入により、めっき浴の表面の温度低下が防止され、めっき浴の表面のドロス等の浮遊物の粘性を低くすることができる。めっき浴の溶融金属3が溶融亜鉛である場合、表面の温度を、亜鉛の融点である420℃以下に低下することを防ぐために非酸化性ガスの温度を450℃以上にするものである。これにより、溶融金属の表面の流動性が低下せず、吸引性の悪化、吸引口でのつまりを防止することができる。より好ましい非酸化性ガスの温度は、500℃以上である。非酸化性ガスの加熱温度の上限は特に制限しないが、高温ガスを吹き付けることによりめっき鋼線とともに引き上げられた未凝固めっき層の溶解による表面性状の悪化、配管材料、不活性シール部材の耐熱性から600℃が好ましい上限である。
【0028】
非酸化性ガスの加熱方法は、特に限定されないが、例えば、燃焼ガスとの熱交換、抵抗線ヒーター内をガス配管内に設置する等の熱交換方法を適用することができる。
【0029】
本発明ではめっき付着量を制御するため、非接触式のワイピング手段を使用する。ワイピング装置4はガスシール部2の出側に配置される。ワイピング手段は、ノズルからガスを噴射するガスワイピング、ワイピングに電磁力を用いる電磁ワイピング装置など、特に限定されるものではない。電磁ワイピング装置は電力を調整することで、めっき鋼線に作用するローレンツ力を制御して溶融金属を掻き落とす作用を有しており、めっき鋼線5の円周方向のめっき付着量の均一性、めっき付着量の制御の容易性を考えると電磁ワイピング装置の適用が好ましい。・・・」

(3-ウ)「【0035】
本発明の装置は溶融金属を、例えば、吸引ポンプによって、吸引口から排出口8に循環させ、溶融金属浴槽内に流れを形成させ、槽内温度を均一に保つ機能も有する。めっき浴から引き上げられためっき鋼線5をワイピング装置4で掻き落した半凝固状態の溶融金属あるいはトップドロスを溶融金属吸引管6で吸引し、排出口8からめっき浴内に放出することで、半溶融状態であった金属は再溶解され、トップドロスは、ガスシール部外のめっき浴の表面に浮遊するため、除去作業が容易となる。」

(3-エ)「【図1】



(3-オ)「【図2】



(1-4)甲第4号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内において頒布された甲第4号証(特開平7-15132号公報)には、以下の記載がある。
(4-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ピールバックポイント方向に不活性ガスを吹き付けるとともに、さらに上方に向けて不活性ガスを吹き出させることのできるノズルを噴流口の退出側に設置したことを特徴とする、噴流はんだ槽。」

(4-イ)「【0031】プリント基板Pが図示しないコンベアで上方に少し傾斜しながら搬送され(図2の矢印A)、フラクサーでフラックス塗付、プリヒーターで予備加熱された後、噴流はんだ槽1に侵入してくる。噴流はんだ槽1では、噴流口2から溶融はんだSが噴流しており、その頂部にプリント基板Pが接触して進行すると、プリント基板のはんだ付け部は溶融はんだSに濡れ、さらに進行するとはんだ付け部は溶融はんだから離れる。
【0032】この離れる部分をピールバックポイントというが、ピールバックポイントは、上部がプリント基板P、下部がフォーマー7と溶融はんだS、両側がサイドノズル12、12から吹き出される不活性ガス、そして前部が台9で囲まれる。このようにして囲まれたピールバックポイントに向けて台9上の横向きノズル8から不活性ガス(N_(2))が吹き付けられると、ピールバックポイントは酸素の少ない不活性雰囲気となる。
【0033】しかも本発明の実施例の噴流はんだ槽1は、噴流口2の前方に設置した横向きノズル8の上部からも不活性ガスを吹き出させるようにしたため、横向きノズル8の上部と走行しているプリント基板Pの下面の間にガスカーテンが形成されて、ピールバックポイントに空気が侵入しにくくなる。さらに、図3と図4に示すように、横向きノズル8の上部に吹き出ている不活性ガスが、横向きノズル8から勢いよく流出している不活性ガスに引き込まれるため、空気はピールバックポイントに侵入しない。」

(4-ウ)「【0036】
【発明の効果】以上、説明した如く、本発明の噴流はんだ槽は横向きノズルの上部からも不活性ガスを吹き出させるようにしたため、噴流口の全面は上方に吹き出す不活性ガスでシールされるとともに、横向きノズルから流出する不活性ガスは上部に吹き出た不活性ガスだけを引き込むため、ピールバックポイントには空気が侵入せず、酸素濃度の極めて低い雰囲気を形成して、低残渣フラックスを用いてのはんだ付けでも不良の少ないはんだ付けができるという従来にない優れた効果を奏するものである。」

(4-エ)「【図1】



(4-オ)「【図2】



(1-5)甲第5号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内において頒布された甲第5号証(実願昭59-201566号(実開昭61-117379号)のマイクロフィルム)には、以下の記載がある。
(5-ア)「1)トーチ本体の先端部にガスカーテンノズルを設け、該ガスカーテンノズルよりカーテンガスを噴出せしめ不活性ガス雰囲気の周囲にガスカーテンを形成せしめる様構成したガスシールドアーク溶接トーチ。」(実用新案登録請求の範囲)

(5-イ)「溶融金属の酸化を防止し健全な溶接ビードを得る溶接方法として、ガスシールドアーク溶接がある。これは電極の周囲から不活性ガス(主にアルゴンガス)を噴出し、アーク及び溶融金属を不活性ガス雰囲気とし外気と遮断するものである。」(第1ページ第16行?第2ページ第1行)

(5-ウ)「ガスカーテンノズルより噴出されたガスカーテンは不活性ガス雰囲気の周囲を囲み、風を遮断する。このガスカーテンの遮断効果により不活性ガス雰囲気の乱れ、外気の巻込みが防止される。」(第2ページ第16行?第20行)

(5-エ)「図中1はトーチ本体であり、電極2の周囲には不活性ガス噴出口が設けられており、該噴出口より不活性ガスが噴出される。トーチ本体1の先端にガスカーテンノズル3を嵌込み取付金具4を介してトーチ本体に取付ける。・・・而して、トーチ本体1よりシールドガスを噴出するのと平行してガスカーテンノズル3よりカーテンガス(窒素、炭酸ガス、空気等適宜なガス)を噴出し不活性ガス雰囲気8の周囲にガスカーテン9を形成せしめる。従って、該ガスカーテン9が風を遮断し、外気がシールドガス雰囲気8内に入り込むことがない。」(第3ページ第5行?第4ページ第2行)

(5-オ)「



(1-6)甲第6号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第6号証(国際公開第2010/038472号)には、以下の記載がある。
(6-ア)「[請求項11]通板される鋼板を連続的に浸漬するめっき浴と;前記めっき浴から引き上げられた前記鋼板の表面にガスを吹き付けるガスワイピングノズルと;前記めっき浴の浴面から離隔した位置に設けられ、前記めっき浴から引き上げられた前記鋼板に前記ガスが衝突する位置における前記鋼板の端部の空間を覆うシールボックスと;前記シールボックス内に不活性ガスを導入し、前記シールボックス内の酸素濃度を制御するパージガス供給手段と;を備えることを特徴とする溶融めっき装置。」(請求の範囲)

(6-イ)「[0021]酸素濃度を調整する方法としては、詳しくは後述するが、例えば、エッジシールボックス等を用いて酸素濃度を調整する空間をシールし、このエッジシールボックス内に窒素やアルゴンなどの不活性ガスを導入することにより、エッジシールボックス内の酸素濃度を調整することができる。前述したように、ヒゲ状の酸化膜を抑制するためには、ワイピングガスのエジェクター効果による酸素の巻き込みを防ぐ必要がある。したがって、酸素濃度を調整する空間は、雰囲気制御可能なように大気雰囲気に対する障壁を有することが好ましい。本発明における「障壁」とは、シールボックス等のガス流入を物理的に防ぐ障壁だけでなく、後述するガスカーテンやシールボックスから大気雰囲気に向かうガス流れ等のパージガスによるガス障壁も含む。この酸素濃度を調整する空間は、めっき条件や操業の有無に応じて移動してもよいが、鋼板エッジを少なくとも含むように配置することが好ましい。」

(6-ウ)「[図4]



(1-7)甲第7号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内において頒布された甲第7号証(特開平7-145460号公報)には、以下の記載がある。
(7-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶融めっき槽内の浴面に浮遊しているトップドロス若しくはその近傍の浴面に向けて気体を吹き付けることで、該トップドロスを浴面に沿って所定の場所まで移動させ、その後に、かかるトップドロスを溶融めっき槽内から除去することを特徴とする溶融めっきドロス除去方法。
【請求項2】 トップドロスに吹き付ける気体として非酸化性の気体を使用することを特徴とする請求項1記載の溶融めっきドロス除去方法。」

(7-イ)「【0009】
【作用】溶融めっき槽内の浴面に浮遊しているトップドロス若しくはその近傍に気体を吹き付けることで浴面近傍に位置する溶融金属に該浴面に沿った流れを生じさせる。これによって、比重の軽いトップドロスは、その流れに乗って移動する。このとき、吹き付けによって浴面近傍の溶融金属に該浴面に沿った流れを形成するだけなので、溶融金属にトップドロスを巻き込むような対流発生が抑えられ、もって、溶融金属内に取り込まれる該トップドロスの量が低減する。」

(7-ウ)「【0012】上記吹き付ける気体として、窒素やアルゴン等の非酸化性の気体を使用することで、ガスと溶融金属との無用な酸化還元反応の発生を抑えることができる。また、気体の温度を溶融金属の融点以上に設定しておくことで、気体を吹き付けられた浴面の溶融金属が溶けて流動性が良くなり、気体の吹き付け速度が弱くても、浮遊しているトップドロスの移動が容易となる。」

(7-エ)「【図1】



(2)対比・判断
(2-1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明との対比
(ア)本件特許発明1と甲1発明を対比すると、これらは、少なくとも以下の点で相違する。

相違点1:本件特許発明1においては、めっき浴がFe及びSrを含有しないのに対して、甲1発明においては、めっき浴がFe及びSrを含有する点。

相違点2:本件特許発明1においては、めっき浴槽の表面から一定距離離れてめっき鋼板の周りに沿って前記めっき浴槽の表面に向かって下段窒素排出バーから窒素ガスを排出し、前記下段窒素排出バーの側面から前記めっき鋼板に向かって上方に傾いて延びている側面カバーの上端に設けられた上段窒素排出バーから下方に窒素ガスを排出し、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられた前記下段窒素排出バーと前記側面カバーと前記上段窒素排出バーを備える窒素帳幕形成装置を用いて、前記めっき浴槽から上がってくる、めっき鋼板の周りに窒素帳幕を形成するのに対して、甲1発明は前記の特定事項を有しない点。

イ 相違点1についての判断
(ア)めっき浴におけるFe及びSrの含有の有無が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、前記(1-エ)によれば、甲1発明は、Srによってめっき層中のSi-Mg層の形成が特に促進されるものであり、更に、Srによって、めっき層の表層におけるMg系酸化皮膜の形成が抑制されるものであり、また、Feによってめっき層中のSi-Mg層の形成が特に促進されるものであり、更に、Feはめっき層のミクロ組織及びスパングル組織の微細化にも寄与し、これによりめっき層の外観及び加工性が向上するものである。

(イ)そうすると、甲1発明のめっき浴におけるSrやFeは、溶融めっき鋼材の良好な耐食性や加工性を確保するために添加される成分といえるから、めっき浴におけるFe及びSrの含有の有無は、実質的な相違点といえるものである。

(ウ)そして、甲1発明のめっき浴をSrやFeを含まないものとすることは、鋼材の良好な耐食性や加工性を確保する、という甲1発明の技術的意義を損なうものとなるから、甲1発明において、めっき浴をSr及びFeを含有しないものとして相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得るものではない。

ウ 相違点2についての判断
(ア)前記(2-ア)、(2-イ)によれば、甲第2号証には溶融金属めっき装置が記載されており、該溶融金属めっき装置は、溶融金属めっき浴の浴面下の浅い位置に、ストリップに対するめっき金属の付着量を制御するための1対の付着量制御ロールを、ストリップパスラインを挾んでストリップ幅方向と平行に設けたものであり、溶融金属めっき浴のストリップパスラインが通る浴面を覆うカバーを設け、該カバー内部にガスを供給するガス供給手段を設けたものである。

(イ)すなわち、前記(2-ウ)?(2-カ)によれば、前記溶融金属めっき装置においては、スナウトから溶融亜鉛めっき浴中に進入したストリップはシンクロールで上方に方向転換し、スタビライジングロールおよびコレクティングロールでパスライン調整および形状矯正された後、1対の付着量制御ロール間を通過して浴外に引き出され、ガスワイピングノズルからのワイピングガスの噴射により付着した余剰めっきが掻き落されるものである。
このとき、ストリップが通過する浴面を覆うカバーを設けた装置では、ガス供給手段からカバー内部に不活性ガス等の非酸化性ガスまたは酸素濃度が低い弱酸化性ガス若しくは還元性ガスが供給され、カバー内部がこれらのガス雰囲気に保持されるものであり、ストリップが通過する浴面をカバーで覆うことにより、上方にあるガスワイピングノズルからのワイピングジェットにより浴表面が乱され、ストリップに随伴して持ち上げられるめっき金属量がストリップ幅方向で不均一化するのが防止されるとともに、めっき浴面のめっき金属の酸化が防止され、また、めっき金属の吸引ノズルに酸化性ガスが吸引されないため、吸引ノズルに吸引されるめっき金属の酸化も防止されるものである。
そして、このカバーは下端が開放したボックス体からなり、その下端をめっき浴の浴面下に浸漬させるようにして配置されているものであり、カバーの中央部にはストリップ通過用のスリットが形成されているものであり、このカバーのストリップパスライン両側の各上面は、それぞれワイピングガス噴射方向において凹状に湾曲した構成となっており、上方のワイピングガスノズルから噴出されストリップに衝突した後のワイピングガスの流れをカバー外方にスムーズに逃し、酸化性ガスのカバー内への流入を極力防止できるようにしてあるものである。

(ウ)ここで、前記溶融金属めっき装置の構成からみれば、ガスワイピングノズルはエアーナイフ設備といえ、カバー内部の非酸化性ガスまたは酸素濃度が低い弱酸化性ガス若しくは還元性ガスのガス雰囲気は、非酸化性ガスとして窒素を用いることは周知技術といえるから、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられて、前記めっき浴槽から上がってくるめっき鋼板の周りに形成される窒素帳幕といえる。

(エ)そうすると、甲第2号証には、溶融金属めっき装置において、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられて、前記めっき浴槽から上がってくるめっき鋼板の周りに窒素帳幕を形成することが開示されているといえる。

(オ)ところが、甲第2号証には、めっき浴槽の表面から一定距離離れてめっき鋼板の周りに沿って前記めっき浴槽の表面に向かって下段窒素排出バーから窒素ガスを排出し、前記下段窒素排出バーの側面から前記めっき鋼板に向かって上方に傾いて延びている側面カバーの上端に設けられた上段窒素排出バーから下方に窒素ガスを排出し、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられた前記下段窒素排出バーと前記側面カバーと前記上段窒素排出バーを備える窒素帳幕形成装置を用いて、前記めっき浴槽から上がってくるめっき鋼板の周りに窒素帳幕を形成することは、記載も示唆もされていない。

(カ)すなわち、前記(2-エ)、(2-カ)によれば、甲第2号証の溶融金属めっき装置におけるカバーは、下端をめっき浴の浴面下に浸漬させるようにして配置されていて、このカバーの内部にガス供給手段からガスを供給できるようにしてあるものであり、めっき浴槽の表面から一定距離離れてめっき鋼板の周りに沿って前記めっき浴槽の表面に向かって下段窒素排出バーから窒素ガスを排出するものではないし、前記下段窒素排出バーの側面から前記めっき鋼板に向かって上方に傾いて延びている側面カバーが設けられるものでもなく、更に、前記側面カバーの上端に設けられた上段窒素排出バーから下方に窒素ガスを排出するものでもない。
すると、甲第2号証には、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

(キ)また、前記(3-ア)?(3-オ)、(4-ア)?(4-オ)、(5-ア)?(5-オ)、(6-ア)?(6-ウ)、(7-ア)?(7-エ)をみても、甲第3号証?甲第7号証に、めっき浴槽の表面から一定距離離れてめっき鋼板の周りに沿って前記めっき浴槽の表面に向かって下段窒素排出バーから窒素ガスを排出し、前記下段窒素排出バーの側面から前記めっき鋼板に向かって上方に傾いて延びている側面カバーの上端に設けられた上段窒素排出バーから下方に窒素ガスを排出し、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられた前記下段窒素排出バーと前記側面カバーと前記上段窒素排出バーを備える窒素帳幕形成装置を用いて、前記めっき浴槽から上がってくるめっき鋼板の周りに窒素帳幕を形成することが記載も示唆もされているとは認められないから、甲第3号証?甲第7号証にも、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

(ク)そうすると、甲1発明が、素地鋼板がめっき浴から引き出される際に、非酸化性雰囲気又は低酸化性雰囲気中へ引き出されるものであり、甲第2号証に、溶融金属めっき装置において、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられて、前記めっき浴槽から上がってくるめっき鋼板の周りに窒素帳幕を形成することが開示されているとしても、更に進んで、甲1発明において相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第7号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

エ 特許異議申立書における申立人の主張について
(ア)申立人は、本件特許発明1のめっき浴の組成と甲1発明のめっき浴の組成が一致する旨を主張している(申立書の第16ページ第8行?第12行)。
ところが、めっき浴におけるSr及びFeの含有の有無が実質的な相違点であることは、前記「イ 相違点1についての判断(ア)?(イ)」に記載のとおりである。
このため、本件特許発明1のめっき浴の組成と甲1発明のめっき浴の組成が一致するとはいえない。
そして、甲1発明において、めっき浴をSr及びFeを含有しないものとして相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得るものではないことは、前記「イ 相違点1についての判断(ウ)」に記載のとおりである。

(イ)申立人は、甲第1号証の溶融めっき処理装置において,甲第2号証の構成を適用できることは明らかである旨、甲第3号証においては、シールド壁の上端部に非酸化性ガス導入管を設けると共に、シールド壁の内部に非酸化性ガスを導入しているから、上段窒素排出バーを側面カバーの上端に設けることは設計的事項である旨(申立書の第17ページ第12行?第18ページ第13行)、溶融した金属に不活性ガスを吹き付けると共に、その周りに不活性ガスカーテンを形成することにより、不活性雰囲気を保持することは周知技術である(甲第4号証?甲第6号証)から、甲第2号証のカバーに代えて不活性ガスカーテンを適用することは当業者であれば容易に想到する旨(申立書の第18ページ第14行?第19ページ第12行)、平成27年11月12日付け意見書において特許権者が主張している効果は本件明細書に記載がないか、当業者にとって明らかである旨を主張している(申立書の第19ページ第13行?第21ページ第22行)。

(ウ)ところが、そもそも、本件特許発明1のめっき浴と甲1発明のめっき浴の組成が一致するとはいえず、甲1発明において、めっき浴をSr及びFeを含有しないものとして相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得るものではないことは、前記(ア)に記載のとおりであるから、「窒素帳幕形成装置」の構成について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものである。

(エ)更に、甲1発明において相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第7号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記「ウ 相違点2についての判断」に記載のとおりであるから、この点からみても、本件特許発明1は、甲1発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないのであり、このことは、前記意見書において主張される効果の有無や、当該効果が当業者にとって明らかであるか否かに左右されるものでもない。

(オ)以上のとおりであるので、申立人の主張はいずれも採用できない。

オ 小括
したがって、甲1発明において、相違点1?相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得るものではないから、本件特許発明1は、甲1発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用するものである。そして、本件特許発明1は、甲1発明と、甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、前記「(2-1)本件特許発明1について」に記載のとおりであるから、同じ理由により、本件特許発明2も、甲1発明と、甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)申立理由2について
(ア)申立理由2は、取消理由1と同じものであって、取消理由1の理由により本件特許発明1が明確でないとはいえないことは、前記「(1)取消理由1について」に記載のとおりである。

(イ)そうすると、同様の理由によって、申立理由2の理由により、本件特許発明1が明確でないともいえない
このことは、請求項1を引用する本件特許発明2についても同様である。

第7 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件請求項1?請求項2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし請求項2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
加工性及び耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性及び耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法及びそのための装置に関したものである。
【背景技術】
【0002】
素地鋼板の耐食性を確保するための方法として亜鉛めっきを挙げることができる。この亜鉛めっき鋼板は、経済性があり、豊富な資源の量から広く使われてきており、現在も最も多く用いられているめっき鋼板の一つである。さらに、この亜鉛めっき鋼板の耐食性を向上させるために多くの研究が行われてきており、中でも、55%Al-Zn(ガルバリウム(Galvalume)ともいう。)アルミニウムめっき鋼板が1960年代後半に提案されて以来、現在、優れた耐食性と美麗な外観を呈している。
【0003】
このようなアルミニウムめっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板に比べて耐食性及び耐熱性に優れており、自動車マフラー、家電製品、耐熱素材などに多く適用されている。
【0004】
その例としては、日本国特開昭57-47861号に開示された、鉄の中にTiを含有するアルミニウムめっき鋼板、特開昭63-184043号に開示された、鉄の中にC、Si、Cu、Ni及び少量のCrを含有するアルミニウムめっき鋼板、特開昭60-243258号に開示された、マンガン0.01?4.0%、チタン0.001?1.5%、シリコン3.0?15.0%を含有するアルミニウムめっき鋼板などがある。
【0005】
また、アルミニウムと鉄との反応によるFe-Al合金層の成長や鉄の中へのアルミニウム金属の急速な拡散などを抑制するために、アルミニウムめっき浴に10%以下のSiを添加している。この方法によって製造されためっき鋼板は、加工性及び耐熱性に比較的優れていることから、自動車マフラー、温水器、暖房機、電気釜の内皮などの耐熱部品に多く使用されている。
【0006】
しかしながら、合金層の形成を抑えるために添加されるシリコンが、場合によってはむしろめっき鋼板の表面外観を損ね、鮮明でない外観とする場合もあるが、このようなシリコン添加による表面外観の損傷は、少量のマグネシウムの添加により、ある程度解決できることが知られている(U.S.Patent No.3,055,771 to Sprowl)。
【0007】
また、最近では、特に、自動車排気ガス系に使用される部品の長寿命化に伴って、アルミニウムのめっきされる鋼板にCrを含有する鋼板が開発されている。その例としては、日本国特開昭63-18043号のようにCrを1.8?3.0%含有するめっき鋼板や、特開昭63-47456号のようにCrを2?3%含有する鋼板などがある。
【0008】
しかしながら、上記のようなZn-Al合金めっき鋼板は、加工切断部では耐食性が充分でない欠点がある。これは、露出された切断面部が、亜鉛-アルミニウム合金層により、鉄の腐食を防ぐ犠牲防食性亜鉛が低減し、耐食性が低下することに起因する。また、Zn-Al合金めっき鋼板は異種の合金相を持たない形態でめっき層が形成されるため、屈曲加工や引き抜き加工後に使用する際、境界面が弱くなり、加工後に耐食性が劣化する欠点もある。
【0009】
このような欠点を改善するために、韓国登録特許第10-0586437号の耐食性に優れたZn-Al-Mg-Si合金めっき鋼板の鋼材では、Al 45?70重量%、Mg 3?10重量%、Si 3?10重量%、及び残部Zn及び不回避な不純物からなるめっき浴でめっき処理する方法が提案され、また、韓国登録特許10-0928804号では耐食性及び加工性に優れたZn-Al-Mg合金めっき鋼板などが提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭57-47861号公報
【特許文献2】特開昭63-184043号公報
【特許文献3】特開昭60-243258号公報
【特許文献4】米国特許第3,055,771号公報
【特許文献5】特開昭63-18043号公報
【特許文献5】特開昭63-47456号公報
【特許文献5】大韓民国特許第10-0586437号公報
【特許文献6】大韓民国特許10-0928804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、既存の亜鉛-アルミニウム-シリコン組成のめっき浴に、クロム、マグネシウム及びチタンを適度の含量で同時にめっき浴槽へ添加することによって、加工性及び耐食性をより向上させる亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板のめっき方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、上記めっき浴槽にカルシウムを一定の割合で加えて、めっき鋼板の表面にMgO酸化被膜が形成されることを抑える亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板のめっき方法を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、本発明は、めっき浴槽の表面から上がってくるめっき鋼板の周りを窒素ガスで包むことによって、めっき鋼板の表面に酸化被膜が形成されることをより抑える窒素帳幕形成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は、素地鋼板を、亜鉛35?55重量%、シリコン0.5?3.0重量%、クロム0.005?1.0重量%、マグネシウム0.01?3.0重量%、チタン0.001?0.1重量%を含有するとともに、残りとしてアルミニウム及び避けられない不純物を含有するめっき浴でめっき処理する、加工性及び耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法であって、めっき浴槽の表面から一定距離離れてめっき鋼板の周りに沿って前記めっき浴槽の表面に向かって下段窒素排出バーから窒素ガスを排出し、前記下段窒素排出バーの側面から前記めっき鋼板に向かって上方に傾いて延びている側面カバーの上端に設けられた上段窒素排出バーから下方に窒素ガスを排出し、めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられた前記下段窒素排出バーと前記側面カバーと前記上段窒素排出バーを備える窒素帳幕形成装置を用いて、前記めっき浴槽から上がってくる、めっき鋼板の周りに窒素帳幕を形成する亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記めっき浴に、前記マグネシウム全体重量を基準に1?10重量%のカルシウムをさらに含有することによって、めっき鋼板の表面にMgO酸化被膜が形成されるのを抑制する、亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法を提供する。
【0017】
一方、本発明のめっき付着量は、少ない付着量による組織の不安定成長に起因する耐食性の低下、及び多い付着量による不経済性の面から、20?100g/m2(片面基準)にすることが好ましい。
【0018】
また、めっき浴の温度は550?650℃にし、めっき後の冷却速度は15?30℃/秒に制御することが好ましい。
【0019】
本発明は、めっき浴槽の表面から上がってくるめっき鋼板の周りを窒素ガスで包んで前記めっき鋼板の表面に酸化被膜が形成されるのをより抑制する方法を提供する。
【0020】
本発明の方法は、亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板を作製するためのめっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられて、前記めっき浴槽から上がってくるめっき鋼板の周りに窒素帳幕(又は、tent)を形成する。
【0021】
該方法は、前記めっき浴槽の表面から一定距離離れて前記めっき鋼板の周りに沿って前記めっき浴槽の表面に向かって下段窒素排出バーから窒素ガスを排出し、前記下段窒素排出バーの側面から前記めっき鋼板に向かって上方に傾いて延びている側面カバーの上端に設けられて、上段窒素排出バーから下方に窒素ガスを排出する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、めっき浴の組成比を適度に調節することによって金属間化合物層及び結晶粒のサイズを制御し、加工性及び耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板を製造することが可能になる。
【0023】
また、めっき浴槽に適度のCaを添加し、めっき浴槽から上がってくるめっき鋼板の周辺を窒素帳幕で包むことによって、めっき鋼板の表面へのMgO酸化被膜の形成を抑え、めっき層の表面品質が低下することを防止することができる。
【0024】
したがって、本発明の亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板は、建築内外装材、家電用部品及び耐熱用素材などの、耐食性が要求される分野に広く用いることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のガルバリウムベースのMg、Mg-Cr-Ca添加めっき鋼板の表面をそれぞれ1,000倍拡大した写真である。
【図2】本発明のガルバリウムベースのMg、Mg-Cr-Ca添加めっき鋼板の断面をそれぞれ2,000倍拡大した写真である。
【図3】本発明のガルバリウムベースのMg、Mg-Cr-Ca添加によるMgO酸化被膜抑制効果を示す模式図である。
【図4】本発明の窒素ダム設備(窒素帳幕形成装置)の平面模式図である。
【図5】図4のA-A’線断面を示す模式図である。
【図6】図4の正面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0027】
本発明の方法において、めっき浴槽は35?55重量%の亜鉛を含む。亜鉛の方が素地鉄よりも犠牲防食性を有し、腐食を抑制する役割を果たす。亜鉛は35重量%以上確保される必要がある。35重量%以下になると、めっき浴が昇温してトップドロス(Top Dross)の増加及び操業上の支障を招き、作業性が悪くなる。一方、55重量%以上になると、めっき鋼板での比重の上昇により原価が上昇し、経済性が低下する。
【0028】
本発明のめっき浴槽は0.5?3.0重量%のシリコンを含有する。シリコンは、合金層の成長を抑制すると共に、めっき浴の流動性を向上させて、光沢を付与する効果を奏するもので、添加量は0.5重量%以上にしなければならない。めっき層におけるシリコンの重要な機能は、素地鋼板及びアルミニウムの合金層の形成を制御することであるが、シリコン添加量0.5重量%以下ではこのような機能が制限され、加工性が著しく低下することになる。一方、3重量%以上では、めっき層の耐食性向上に寄与する因子として働くMg2Si相が表面上に過剰に生成及び成長して、表面粗化、表面の早期変色、及び後処理被服特性の阻害といった不具合を招くことになる。そのため、シリコンの添加量は0.5?3重量%にすることが好ましい。
【0029】
めっき浴に添加されるクロムは、めっき層の表面に緻密な不動態酸化被膜を形成してアルミニウムめっき鋼板の耐食性を向上させるだけでなく、めっき浴中にクロム元素が均一に分布するようになることから、めっき層の結晶粒を微細化させる機能を果たす。
【0030】
なお、めっき層内のクロム成分は、めっき層内に集積された一定形態のAl-Zn-Si-Cr混在相の帯(band)を形成すること(図2)、及びアルミニウムと反応してAlCr2相を形成することにより、加工性、及び加工後の破たん面の耐食性を向上させる役割を果たす。このようなクロムの役割が上記のシリコン含量を3重量%以下と管理し、めっき層内にシリコン成分が針状に析出しすぎることを制御する要因として働く。
【0031】
このような効果を有するクロムの含量は0.1以上にしなければならないことが知られている(U.S.Patent No.3,055,771 to Sprowl)。しかし、本発明の方法ではクロムの含量を0.005?1.0重量%とする。クロムの含量が0.005重量%以下であれば、めっき浴中に均一に分布する効果が少なく、1.0重量%以上では、クロム含量の増加に従ってめっき浴の昇温が必要となり、めっき浴の昇温によりドロス(dross)が増加し、このドロスがめっき鋼板の表面に付着して外観を損ねるということがある。
【0032】
従ってクロムの添加量は、好ましくは0.005?1.0重量%である。また、本発明のめっき浴槽はマグネシウムを0.01?3.0重量%含有する。
【0033】
上記クロムと共に添加されるマグネシウムは、めっき層に接している空気中の酸素と結合して不動態被膜を形成することで、合金層の内部に酸素が拡散することを防止し、追加の腐食現象を阻止して耐食性を改善させる。めっき層中のマグネシウムとシリコン成分との反応で形成されたMg2Si相(図1及び図2参照)、及びマグネシウムと亜鉛との反応で形成されたMgZn2相の存在は、腐食が進行する過程において、亜鉛の犠牲防食性と共に、局部電池の形成により腐食速度を低減する役割を果たす。また、アルミニウムと反応して酸素の拡散を遮断する効果があり、加工後のせん断面耐食性を著しく改善させる。
【0034】
もし、マグネシウムの添加量が0.01重量%以下であれば、分散度、及び酸化特性による耐食性改善において効果が少なく、3.0重量%を超えると、めっき浴が飽和すると同時に溶融点が上昇して、作業性が低下し、また、持続した上部ドロスの発生により表面品質が低下する。その結果、製造コストの上昇及び生産工程上の問題点が増加する。
【0035】
そのため、マグネシウムの添加量は0.01?3.0重量%が好ましい。
【0036】
また、本発明のめっき浴槽はカルシウムをマグネシウム重量対比1?10重量%含む。上記のマグネシウム、クロムと共に添加されるカルシウムは、めっき鎔湯の界面に発生するマグネシウム酸化物の生成を抑制することによって、マグネシウム微細酸化被膜がめっき鋼板の表面に付着して外観品質を阻害する現象を防ぐ。
【0037】
Mg鎔湯にCa、Be、Alなどを添加すると、高温でも鎔湯の酸化及び発火がだいぶ抑えられることが知られている。カルシウムを添加して鎔湯の酸化力を抑制する方法のメカニズムは次の通りである。カルシウム添加によりMg鎔湯の発火温度は200℃以上と増加するが、このカルシウムの添加によりMg合金の発火温度が上昇することは、一般に、表面に形成される酸化層が、多孔質の酸化層から緻密な酸化層へと変化して酸素の取り込みを效果的に遮断可能になるメカニズムであるからだ。
【0038】
万一、カルシウムの添加量がマグネシウムの重量%対比1重量%以下であると、分散度の低下、及びMgO酸化被膜の抑制において効果が少なく、マグネシウム重量%対比10重量%を超えると、アルミニウム、カルシウムの金属間化合物生成により、めっき層加工性の低下を誘発することがある。そのため、カルシウムの添加量はマグネシウム重量比の1?10重量%が好ましい。
【0039】
本発明のめっき浴槽のエアナイフ(Air Knife)の下端部に、窒素パージ(Purge)、及び酸化被膜のストリップ(Strip)への吸着の遮断が可能な窒素噴射ノズルが取り付けられたダム(Dam)適用を含む。ストリップがめっき浴に浸漬後、めっき浴の界面から上昇すると、エアナイフの下端部を窒素雰囲気でパージ(Purge)して酸化被膜の生成を抑制し、且つ、めっき鎔湯の表面の外巻部で空気と接触して生成された微細酸化被膜が、ダムの内部に引き込まれてストリップに吸着することを防止するために、窒素ダムの下端部に窒素カーテンノズルを用いて窒素ワイピング(Wiping)を行う。
【0040】
さらに、本発明のめっき浴槽には、めっき層の外観であり、且つめっき層における花柄の形状であるスパンコール(Spangles)の微細化のために、チタンを0.001?0.1重量%を含有する。チタンの添加量が0.001重量%以下であれば、鋼板上における分散度が低下し、0.1重量%以上であれば、めっき浴での溶解が容易でないため、その効果性の向上に寄与しない。
【0041】
本発明は、従来のガルバリウムめっき鋼板について、アルミニウム、亜鉛及びシリコンを含有するめっき浴に、クロム、マグネシウム、カルシウム、及びチタンを同時に適度の組成で添加して核生成の機会を多く作ることによって、スパンコール(spangles)を微細化するということに着目する。
【0042】
すなわち、添加された成分は、鎔湯中で鋼板がめっき処理された後にめっき層内に分散され、Mg2Si相、MgZn2相、AlCr2相などの数多くの核を生成することによって、めっき材が凝固する過程中に結晶粒界間相互干渉する作用をして、結晶粒の成長を制御する役割を果たす。
【0043】
これにより、美麗な表面外観が確保されると共に、粒界間腐食を抑制して耐食性が強化する効果を奏する。また、アルミニウムと鉄との合金層成長を抑えることによって、加工性に優れためっき被膜層を形成することができる。
【0044】
一方、めっき浴の鎔湯内に入浴する時の素地鋼板の温度は570?650℃、鎔湯温度は550?650℃に設定することが好ましい。
【0045】
素地鋼板の入浴温度が550℃以下になると、めっき浴の流動性が低下し、めっき被膜の外観不良及び塗膜密着性の低下につながることがある反面、650℃以上になると、素地鋼板の熱的拡散が速くなって、合金層の異常成長を招くことによって、加工性が低下すると共に、鎔湯内にFe酸化物層が過剰生成される問題点がある。
【0046】
めっき付着量は、片面基準で20?100g/m2にするのが好ましい。もし、めっき付着量を20g/m2以下にすると、付着量を制御するエアーナイフ設備の空気圧力が増加しすぎて、めっき付着量のばらつきが発生するとともに、鎔湯内の表面酸化物の急増により被膜の外観損傷及び酸化ドロスの付着が発生する。
【0047】
また、100g/m2以上にすると、合金層が過剰形成され、加工性が著しく低下する問題点がある。
【0048】
一方、本発明は、めっき浴槽の表面から上がってくるめっき鋼板の周りを窒素ガスで包むことによって、該めっき鋼板の表面に酸化被膜が形成されるのをより抑える窒素帳幕形成装置を提供する。
【0049】
図4乃至図6に、本発明の窒素帳幕形成装置を模式的に示す。
【0050】
本発明の窒素帳幕形成装置は、めっき浴槽3の表面から一定距離離れて設けられ、リフティング手段5により、めっき浴槽3の表面からエアーナイフ2との間で上下動可能に構成される。
【0051】
本発明の窒素帳幕形成装置は、めっき浴槽3の表面から上がってくるめっき鋼板1の周りに沿って長方形に形成された下段窒素排出バー41,42を備える。該下段窒素排出バー41,42は、側面の窒素供給パイプ46から窒素を取り込んで、当該めっき浴槽3の表面に向けて窒素ガスを排出する。図示してはいないが、当該下段窒素排出バー41,42の下面には窒素ガスを吹き出す孔(ノズル)が等間隔で複数個形成されている。
【0052】
当該下段窒素排出バー41,42は、長方形のパイプで一体に形成されたものでもよいが、図4のように、第1バー41と第2バー42とが別個に形成され、相互に幅方向に(図面では上下方向に)離れてもよい。
【0053】
また、本発明の窒素帳幕形成装置は、当該下段窒素排出バー41,42の側面から当該めっき鋼板1に向かって上方に傾くように延びている側面カバー43と、当該側面カバー43の上端に設けられて、下方に窒素ガス10を排出する上段窒素排出バー44,45と、を備える。
【0054】
上段窒素排出バー44,45は、めっき浴槽の表面に向かって窒素排出孔(図示せず)が形成されているパイプ形態のもので、当該側面カバー43の上端において互いに向かい合って形成されて、内側に窒素ガスを吹き出す。当該上段窒素排出バー44,45は、窒素供給パイプ46から窒素が供給される。
【0055】
一方、当該側面カバー43は、当該下段窒素排出バー41,42から当該上段窒素排出バー44,45まで当該めっき鋼板1に向かって上方に傾くように形成されているため、排出された窒素ガス10が散在することなく、当該めっき鋼板1の周辺に捕まって留まる。
【0056】
以上説明した本発明の窒素帳幕形成装置により、めっき浴槽3の表面から上がってくる比較的高温のめっき鋼板1の周辺に窒素帳幕47を形成することによって、当該めっき浴槽3の表面に酸化被膜が形成されることを抑えることができる。
【0057】
以下、本発明を、実施例と比較例とを対比して説明する。実施例を挙げて本発明をより具体化するが、これらの実施例に本発明が限定されるわけではない。
【0058】
鋼鈑の厚さ0.8mm、幅120mm、長さ250mmサイズの脱脂した冷延鋼鈑を、溶融めっきシミュレータを用いてめっきをした。表1のようにめっき浴の組成を変化させて亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板を作製した。また、図4乃至図6に示した窒素帳幕形成装置を用いて窒素帳幕を形成した。
【0059】
めっき付着量はエアーナイフで調節した。作製した亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の片面めっき付着量を基準にした評価結果を、表1に示す。
【0060】
評価項目としては耐食性及び加工性とした。耐食性は、KSD 9504試験法によって、35℃ NaCl塩水噴霧試験雰囲気において初期の赤錆発生(5%)時間で比較、評価した。加工性は、KSD 0006試験法によって180゜ OTベンディング(bending)試験をしたのち発生したクラック(crack)の幅(破たん面の幅)を、30?50倍率の立体顕微鏡(stereo microscope)で観察し、破たん面の幅サイズを測定することによって比較、評価した。合金相の観察にはX-線回折(XRD)装備を用いた。
【0061】
具体的な試験評価方法による評価結果は、下記の通りである。
【0062】
1.加工性:発生したクラックの幅を観察し、評価した。
◎:破たん幅10?20μm
△:破たん幅20?30μm
X:破たん幅40?50μm
【0063】
2.ドロス発生度合:めっき組成別溶解めっき試験片の作製後、めっき浴の上部に発生したドロス量を測定、評価した。
◎:めっき浴対比ドロス発生量5%以下
△:めっき浴対比ドロス発生量10?20%
X:めっき浴対比ドロス発生量20%以上
【0064】
3.表面外観:めっき層の表面上におけるスパンコールの鮮明度及び形成度合を肉眼で観察、評価した。
◎:スパンコール形成が鮮やかで且つ光沢が高い
△:スパンコール形成が鮮やかでない
X:スパンコール形成が微弱で且つ外観が良好でない
【0065】
4.せん断面耐食性:塩水噴霧試験1,000時間後の赤錆発生度合を評価した。
◎:赤錆発生割合5%以下
△:赤錆発生割合10?20%
X:赤錆発生割合30%以上
【0066】
5.平板耐食性:塩水噴霧試験2,500時間後の赤錆発生度合を評価した。
◎:赤錆発生割合5%以下
△:赤錆発生割合20?30%
X:赤錆発生割合30%以上
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、本発明に係る実施例の方が、加工性及び耐食性の面で優れていることがわかる。すなわち、実施例では、180゜ OTベンディング(bending)試験を行った後にも、発生したクラック(破たん面)が10?20μm程度と、比較例に比べて優れていることがわかる。耐食性においても、実施例では、平板の赤錆は、片面基準のめっき付着量50g/m2において3,000時間以上で現れ、せん断部の赤錆は1000時間以上で現れ、既存の組成に比べてはるかに優れていることがわかる。
【0069】
また、肉眼観察の結果、実施例における表面外観が、比較例のそれよりも良好であった。これは、スパンコールサイズの微細化による結果である。
【0070】
以上の通り、本発明の好ましい実施形態について説明したが、これは例示であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、当業者は様々な修正、追加、置換等が可能である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板を、亜鉛35?55重量%、シリコン0.5?3重量%、クロム0.005?1.0重量%、マグネシウム0.01?3.0重量%、チタン0.001?0.1重量%を含有するとともに、残りとしてアルミニウム及び避けられない不純物を含有するめっき浴でめっき処理する、加工性及び耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法であって、
めっき浴槽の表面から一定距離離れて、めっき鋼板の周りに沿って前記めっき浴槽の表面に向かって下段窒素排出バーから窒素ガスを排出し、
前記下段窒素排出バーの側面から前記めっき鋼板に向かって上方に傾いて延びている側面カバーの上端に設けられた上段窒素排出バーから下方に窒素ガスを排出し、
めっき浴槽の表面とエアーナイフ設備との間に設けられた前記下段窒素排出バーと前記側面カバーと前記上段窒素排出バーを備える窒素帳幕形成装置を用いて、前記めっき浴槽から上がってくる、めっき鋼板の周りに窒素帳幕を形成する亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記めっき浴は、前記マグネシウム全体重量を基準に1?10重量%のカルシウムをさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-05 
出願番号 特願2013-145171(P2013-145171)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C23C)
P 1 651・ 537- YAA (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 國方 康伸川村 健一  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 河本 充雄
金 公彦
登録日 2016-10-21 
登録番号 特許第6026968号(P6026968)
権利者 東國製鋼 株式會社
発明の名称 加工性及び耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板の製造方法  
代理人 尾崎 隆弘  
代理人 尾崎 隆弘  

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