ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B65D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B65D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B65D |
---|---|
管理番号 | 1338104 |
異議申立番号 | 異議2017-700381 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-04-18 |
確定日 | 2018-01-25 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6011058号発明「プラスチック容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6011058号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6011058号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6011058号(以下「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年9月30日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人瀬川忠世(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、平成29年7月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年9月6日に訂正の請求があり、平成29年9月11日に意見書の提出があり、その訂正の請求に対して、平成29年10月19日に申立人から意見書が提出されたものである。 第2 訂正の請求 1 訂正の内容 平成29年9月6日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6011058号の特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。 (下線部は、訂正箇所を示す。) (1) 訂正事項1 訂正事項1は、以下の訂正事項1-1と訂正事項1-2からなる。 (1-1) 訂正事項1-1 特許請求の範囲の請求項1に、 「前記基材樹脂は、液体の多価アルコール脂肪酸エステルを含み、 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記液体の多価アルコール脂肪酸エステルとのブレンド比率は、4:1?1:4である」とあるのを 「前記基材樹脂は、常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルを含み、 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルとのブレンド比率は、4:1?1:4である」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する。) (1-2) 訂正事項1-2 特許請求の範囲の請求項1に、プラスチック容器について、「 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルは、前記プラスチック容器の外表面にブリードアウトしており、 前記プラスチック容器は、射出成形体又はブロー成形体であり、 前記プラスチック容器は、25℃での粘度が100cps以上である粘稠性内容物を含む、プラスチック容器。 」を追加する。 (請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する。) (2) 訂正事項2 訂正事項1は、以下の訂正事項2-1と訂正事項2-2からなる。 (2-1) 訂正事項2-1 特許請求の範囲の請求項2に、プラスチック容器について、「 前記プラスチック容器は、単層構造又は多層構造であって、 前記プラスチック容器が多層構造である場合、その最内層と最外層の両方に前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルが含まれ、」を追加する。 (請求項2の記載を引用する請求項3?5も同様に訂正する。) (2-2) 訂正事項2-2 特許請求の範囲の請求項2に、 「前記多価アルコール脂肪酸エステル」とあるのを 「前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステル」に訂正する。 (請求項2の記載を引用する請求項3?5も同様に訂正する。) (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に、 「前記多価アルコール脂肪酸エステル」とあるのを 「前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステル」に訂正する。 (請求項3の記載を引用する請求項4、5も同様に訂正する。) (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に、 「前記多価アルコール脂肪酸エステル」とあるのを 「前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステル」に訂正する。 2 訂正の適否 (1) 一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1?5について、請求項2は請求項1を引用し、請求項3は請求項1または2を引用しており、請求項4は請求項3を引用しており、請求項5は請求項1?4のいずれか1項を引用しており、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2) 訂正事項1について (2-1)訂正事項1-1について ア 訂正の目的について 訂正事項1-1は、訂正前の請求項1の「液体多価アルコール脂肪酸エステル」の記載が明瞭でなかったのを、「常温液体の多価アルコール脂肪酸エステル」と明瞭にするための訂正事項であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1-1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項1-1は、明細書の段落【0055】の「なお、常温で液体のグリセリン脂肪酸エステルと、常温で固体のグリセリン脂肪酸エステルと、のブレンド比率は、4:1?1:4であることが好ましい。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 (2-2)訂正事項1-2について ア 訂正の目的について 訂正事項1-2は、プラスチック容器について、「前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルは、前記プラスチック容器の外表面にブリードアウトしており、 前記プラスチック容器は、射出成形体又はブロー成形体であり、 前記プラスチック容器は、25℃での粘度が100cps以上である粘稠性内容物を含む、プラスチック容器。 」との限定を追加するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アの理由から明らかなように、訂正事項1-2は、プラスチック容器について減縮するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。 よって、訂正事項1-2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項1-2は、明細書の段落【0026】の「例えば、最外層1では、その表面に滑剤成分が効果的にブリードアウトし、優れた搬送性が確保でき、最内層3は、その表面に滑剤成分が効果的にブリードアウトし、優れた滑落性が確保でき、しかも、ボトル全体の厚みが不必要に厚くならない程度に、ボトルの層構造に応じて適宜設定することが好ましい。」との記載、段落【0036】の「本実施形態のプラスチックボトル100は、公知の成形方法で成形することが可能であり、例えば、ブロー成形、射出成形などにより成形することができる。」との記載、段落【0037】の「本実施形態のプラスチックボトル100は、例えば、ケチャップ、各種のソース、液状糊、マヨネーズなどの粘稠性(例えば、25℃での粘度が100cps以上のもの)の内容物を収納するのに好適である。」との記載、段落【0051】の「しかし、常温で固体のグリセリン脂肪酸エステルと、常温で液体のグリセリン脂肪酸エステルと、を混合した滑剤を内容物と接する基材樹脂に添加することも可能である。」との記載、及び段落【0053】の「また、ブリードアウトし難い固体のグリセリン脂肪酸エステルを用いることで液体のグリセリン脂肪酸エステル単体に比べて適度にブリードアウトを進行させられるため、液体のグリセリン脂肪酸エステル単体のみを用いた場合に比べて製膜直後のブリードアウトが抑制され、生産ラインでの剥離剤の付着を抑制することができると共に、固体のグリセリン脂肪酸エステルによるボトルの粉吹き問題やラインのべたつき、スリップを軽減し、ボトルのライン走行性を向上させることができる。」との記載、に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 (3) 訂正事項2について (3-1)訂正事項2-1について ア 訂正の目的について 訂正事項2-1は、プラスチック容器について、「前記プラスチック容器は、単層構造又は多層構造であって、 前記プラスチック容器が多層構造である場合、その最内層と最外層の両方に前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルが含まれ、」との限定を追加するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アの理由から明らかなように、訂正事項2-1は、プラスチック容器について減縮するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。 よって、訂正事項2-1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項2-1は、明細書の段落【0016】の「本発明にかかるプラスチック容器は、少なくとも多層構造の最内層を構成する基材樹脂(内容物と接する基材樹脂)、または、単層構造の単層を構成する基材樹脂(内容物と接する基材樹脂)に、多価アルコール脂肪酸エステルの滑剤が添加されており、ブリードアウトすることにより、内容物の滑り性を向上させている。」との記載、段落【0017】の「なお、内容物側と反対側の基材樹脂(最外層)にも上述した滑剤を添加することで、容器成形時における容器同士の滑り性を向上させ、ライン適性を向上させることができる。」との記載、及び段落【0051】の「しかし、常温で固体のグリセリン脂肪酸エステルと、常温で液体のグリセリン脂肪酸エステルと、を混合した滑剤を内容物と接する基材樹脂に添加することも可能である。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 (3-2)訂正事項2-2について ア 訂正の目的について 訂正事項2-2は、訂正前の請求項2の「前記多価アルコール脂肪酸エステル」が何を指すのか明瞭でなかったのを、「前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステル」と明瞭にするための訂正事項であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2-2は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項2-2は、明細書の段落【0027】の「常温で固体であることが好ましい。このような多価アルコール脂肪酸エステルとして、エステル化率10?40%のジグリセリン脂肪酸エステルがブリードアウト性、増粘剤を有する内容物に対する滑り性の観点から特に好ましい。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 (4) 訂正事項3について ア 訂正の目的について 訂正事項3は、訂正前の請求項3の「前記多価アルコール脂肪酸エステル」が何を指すのか明瞭でなかったのを、「前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステル」と明瞭にするための訂正事項であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項3は、明細書の段落【0027】の「常温で固体であることが好ましい。このような多価アルコール脂肪酸エステルとして、エステル化率10?40%のジグリセリン脂肪酸エステルがブリードアウト性、増粘剤を有する内容物に対する滑り性の観点から特に好ましい。」との記載、及び段落【0028】の「また、脂肪酸としては、不飽和脂肪酸より飽和脂肪酸であることが好ましい。これは、飽和脂肪酸の方が不飽和脂肪酸に比べて融点が高く、増粘剤を含む粘稠性の内容物に対して高い滑り性を備えることができる。なお、飽和脂肪酸としては、ステアリン酸などが挙げられる。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 (5) 訂正事項4について ア 訂正の目的について 訂正事項4は、訂正前の請求項5の「前記多価アルコール脂肪酸エステル」が何を指すのか明瞭でなかったのを、「前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステル」と明瞭にするための訂正事項であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項4は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項4は、明細書の段落【0027】の「最外層1及び最内層3に添加する滑剤としては、水酸基が少なくとも3つ以上あって、フルエステル化していない常温(23℃)固体の多価アルコール脂肪酸エステルが用いられる。また、ボトルからのブリードアウト性の観点から、10価未満の多価アルコール脂肪酸エステルであることが好ましい。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 3 まとめ したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。 第3 本件発明 上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1?5」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも内容物と接する層を構成する基材樹脂に、水酸基が少なくとも3つ以上あって、フルエステル化していない常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルが添加されており、 前記基材樹脂は、常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルを含み、 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記液体の多価アルコール脂肪酸エステルとのブレンド比率は、4:1?1:4である、ことを特徴とするプラスチック容器であって、 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルは、前記プラスチック容器の外表面にブリードアウトしており、 前記プラスチック容器は、射出成形体又はブロー成形体であり、 前記プラスチック容器は、25℃での粘度が100cps以上である粘稠性内容物を含む、プラスチック容器。 【請求項2】 前記プラスチック容器は、単層構造又は多層構造であって、 前記プラスチック容器が多層構造である場合、その最内層と最外層の両方に前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルが含まれ、 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルは、ジグリセリン脂肪酸エステルである、ことを特徴とする請求項1記載のプラスチック容器。 【請求項3】 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸をエステル化してなる、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載のプラスチック容器。 【請求項4】 前記飽和脂肪酸は、ステアリン酸である、ことを特徴とする請求項3記載のプラスチック容器。 【請求項5】 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルは、10価未満であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプラスチック容器。」 第4 当審の判断 1 平成29年7月7日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要 (理由1)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1項及び第2号に規定する要件を満たしていない。 (理由2)本件発明1?5は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (理由3)本件発明1?5は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (理由1) (1)本件特許明細書【0003】及び【0055】の記載によれば、本件発明の課題に「過多なブリードアウトによるラインの走行性への悪影響がない」という課題を含むと解せられるが、その課題を解決するためには、容器の外面層について「常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと液体の多価アルコール脂肪酸エステルのブレンド物が配合されている」との特定が必要だが、その特定が請求項1にはない。 また、請求項1を引用する請求項2?5についても同様。 (2) 請求項1の「液体の多価アルコール脂肪酸エステル」の記載は、不明瞭である。 また、請求項1を引用する請求項2?5についても同様。 (3)請求項2、3の「前記多価アルコール脂肪酸エステル」が、請求項1の「常温固体の多価アルコール脂肪酸エステル」あるいは「液体の多価アルコール脂肪酸エステル」のいずれを指すのか不明である。 よって、請求項2、3及び請求項2、3を引用する請求項4、5の記載は、明確でない。 (理由2)及び(理由3) 以下、甲第1号証を「甲1」といい、甲1に記載された発明を「甲1発明」という。 甲1:特開2007-290338号公報 本件発明1?5は、甲1発明であるか、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、上記取消理由通知は、本件特許異議の申立において申し立てられたすべての申立理由を含むものである。 2 上記取消理由についての判断 (1) 理由1について ア 理由1の(1)について 「過多なブリードアウトによるラインの走行性への悪影響がない」という本件発明の課題を解決する点に関しては、本件訂正が認められ、本件訂正の訂正事項1(訂正事項1-2)により、請求項1に「前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルは、前記プラスチック容器の外表面にブリードアウトしており、」という発明特定事項が追加されたため、本件発明1は、当該課題を解決しているものと当業者が認識できるものとなった。また、本件発明1を引用する本件発明2?5についても同様に当該課題を解決していると当業者が認識できるものとなった。 よって、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 イ 理由1の(2)について 請求項1の「液体の多価アルコール脂肪酸エステル」の記載は、本件訂正が認められ、本件訂正の訂正事項1(訂正事項1-1)により「常温液体の多価アルコール脂肪酸エステル」であることが、明確になった。また、請求項1を引用する請求項2?5についても、同様に明確になった。 よって、本件発明1?5は、明確である。 ウ 理由1の(3)について 「前記多価アルコール脂肪酸エステル」については、本件訂正が認められ、本件訂正の訂正事項2?4により、請求項2、3及び5は、「前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステル」であることが、明確になった。また、請求項2、3を引用する請求項4、5についても、同様に明確となった。 よって、本件発明2?5は、明確である。 エ 小括 よって、本件特許の請求項1?5の記載は、特許法第36条第6項第1項及び第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、理由1によって、取り消されるべきものとすることはできない。 (2) 理由2について ア 甲1発明 甲1には、以下の記載がある。 「【請求項1】 被包装物が接触することとなるフィルム層がポリオレフィン系樹脂組成物で成形された包装用積層フィルムにおいて、被包装物が接触することとなるフィルム層が、ポリオレフィン系樹脂に下記のA成分を0.05?1質量%となるよう含有させたポリオレフィン系樹脂組成物で成形され且つ被包装物が接触することとなる面に下記のB成分が5?80mg/m^(2)となるよう塗布されたものから成ることを特徴とする包装用積層フィルム。 A成分:3?12価の脂肪族多価アルコールと炭素数8?22の脂肪族モノカルボン酸との部分エステル化合物、アルキル基の炭素数6?22のアルキルスルホン酸アルカリ金属塩及びアルキル基の炭素数2?22のアルキルアリールスルホン酸アルカリ金属塩及びアルキル基の炭素数2?22の1,2-ビス(アルキルオキシカルボニル)-1-エタンスルホン酸アルカリ金属塩から選ばれる一つ又は二つ以上 B成分:3価又は4価の脂肪族多価アルコールと炭素数8?22の脂肪族モノカルボン酸との部分エステル化合物、炭素数8?22のアルキルジエタノールアミン、炭素数8?22のアルキルジエタノールアミド及び炭素数8?22のアルキルジエタノールアミンと炭素数8?22の脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物から選ばれる一つ又は二つ以上」 「【0001】 本発明は包装用積層フィルム及びその製造方法に関する。近年、野菜、肉、鮮魚、惣菜等の食品の包装には、合成樹脂製の積層フィルムが広く使用され、なかでも被包装物が接触することとなるフィルム層をポリオレフィン系樹脂組成物で成形した積層フィルムが多く使用されている。かかる包装用積層フィルムには、被包装物を鮮明に見せるために透明性及び防曇性が要求され、また包装の自動化や高速化に適応するために滑性及びヒートシール性が要求される。本発明はこれらの要求に応える包装用積層フィルム及びその製造方法に関する。」 「【0004】 本発明が解決しようとする課題は、被包装物が接触することとなるフィルム層がポリオレフィン系樹脂組成物で成形された包装用積層フィルムにおいて、被包装物が接触することとなるフィルム層が、その本来的な透明性を損なうことなく、優れた防曇性、滑性及びヒートシール性を同時に有する包装用積層フィルムを提供する処にあり、またかかる包装用積層フィルムの製造方法を提供する処にある。」 「【0033】 以上説明した本発明によると、包装用積層フィルムの被包装物が接触することとなるフィルム層が、その本来的な透明性を損なうことなく、優れた防曇性、滑性及びヒートシール性を同時に有するという効果がある。」 「【0035】 試験区分1(包装用積層フィルムの製造) ・実施例1 エチレン-(1-ブテン)共重合体(エチレン共重合比率95%、密度0.920g/cm^(3)、MFR2.1g/10分)(E-1)90部及びデカグリセリン=モノラウラート(A-1)10部をタンブラーブレンダーに投入して、混合した後、更に二軸押出機により溶融混練して、マスターペレットを得た。このマスターペレット1.5部と前記のエチレン-(1-ブテン)共重合体(E-1)98.5部をタンブラーブレンダーにて混合し、被包装物が接触することとなるフィルム層用のポリオレフィン系樹脂組成物を得た。このポリオレフィン系樹脂組成物が被包装物が接触することとなる一方の外側のフィルム層に、また前記のエチレン-(1-ブテン)共重合体(E-1)が中間のフィルム層及び他方の外側のフィルム層になるよう、Tダイ法により30℃に冷却しながら成形し、厚さ60μmの3層共押出しフィルム(各フィルム層の厚さの比は、被包装物が接触することとなる一方の外側のフィルム層/中間のフィルム層/他方の外側のフィルム層=1/4/1)を得た。続いて、グリセリン=モノオレアート0.4部をイソプロピルアルコール99.6部に溶解し、固形分濃度0.4%とした溶液を前記した3層共押出しフィルムの被包装物が接触することとなる面にグラビアコート法で片面当り10g/m^(2)(固形分換算では40mg/m^(2))となるよう塗布した後、70℃で乾燥して包装用積層フィルムを得た。 【0036】 ・実施例2?16及び比較例1?8 実施例1と同様にして、実施例2?16及び比較例1?8の包装用積層フィルムを製造した。実施例1も含め、以上で製造した各例の包装用積層フィルムの内容を表1にまとめて示した。」 「【0037】 【表1】 」 「【0038】 表1において、 *1:表1中の含有量(%)となるようA成分を含有させたポリオレフィン系樹脂組成物で成形された被包装物が接触することとなる一方の外側のフィルム層 *2:中間のフィルム層 *3:他方の外側のフィルム層 ・・・ A-6:ジグリセリン=モノステアラート/テトラグリセリン=モノオレアート=50/50(質量比)の混合物 A-7:ジグリセリン=モノステアラート/ヘキサグリセリン=モノラウラート=50/50(質量比)の混合物」 上記記載事項(特に、【請求項1】、【表1】及び【0038】の実施例6、7の記載参照)より、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。 「被包装物が接触することとなるフィルム層がポリオレフィン系樹脂組成物で成形された包装用積層フィルムにおいて、被包装物が接触することとなるフィルム層が、ポリオレフィン系樹脂に、ジグリセリン=モノステアラート/テトラグリセリン=モノオレアート=50/50(質量比)の混合物、又はジグリセリン=モノステアラート/ヘキサグリセリン=モノラウラート=50/50(質量比)の混合物を含有させたポリオレフィン系樹脂組成物で成形され且つ被包装物が接触することとなる面に、3価又は4価の脂肪族多価アルコールと炭素数8?22の脂肪族モノカルボン酸との部分エステル化合物を塗布されたものから成る、包装用積層フィルム。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明は、少なくとも本件発明1の「プラスチック容器は、射出成形体又はブロー成形体であり、前記プラスチック容器は、25℃での粘度が100cps以上である粘稠性内容物を含む」点を備えていない。そして、この点は、両者の実質的な相違点であるといえる。 よって、本願発明1は、甲1発明であるとはいえない。 ウ 本件発明2?5について 本件発明2?5は、本件発明1を直接又は間接に引用するもので、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(2)イの説示を踏まえれば、甲1発明であるとはいえない。 エ 小括 よって、本件発明1?5は、甲1発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないとすることはできない。 したがって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、理由2によって、取り消されるべきものとすることはできない。 (3) 理由3について ア 本件発明1について、 上記(2)に示したとおり、甲1発明は、少なくとも本件発明1の「プラスチック容器は、射出成形体又はブロー成形体であり、前記プラスチック容器は、25℃での粘度が100cps以上である粘稠性内容物を含む」点を備えていない。 また、参考資料1?5にも、この点についての、記載や示唆はみあたらない。 そして、本件発明1は、「プラスチック容器は、射出成形体又はブロー成形体であり、前記プラスチック容器は、25℃での粘度が100cps以上である粘稠性内容物を含む」ものであって、本件発明1の基材樹脂に滑剤を含むことによって、「増粘剤を配合した粘性の強い内容物に対して好適な滑落性に優れたプラスチック容器を得ることができる」(本件特許明細書【0012】)という作用効果を奏するものである。 なお、甲1の【0001】に、「かかる包装用積層フィルムには、被包装物を鮮明に見せるために透明性及び防曇性が要求され、また包装の自動化や高速化に適応するために滑性及びヒートシール性が要求される。」と記載されているが、ここでいう「滑性」は、「包装の自動化や高速化に適応するため」であって、内容物の滑性に関するものではない。 よって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明2?5について 本件発明2?5は、本件発明1を直接又は間接に引用するもので、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(3)アの説示を踏まえれば、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 よって、本件発明1?5は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、理由3によって、取り消されるべきものとすることはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも内容物と接する層を構成する基材樹脂に、水酸基が少なくとも3つ以上あって、フルエステル化していない常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルが添加されており、 前記基材樹脂は、常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルを含み、 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルとのブレンド比率は、4:1?1:4である、ことを特徴とするプラスチック容器であって、 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルは、前記プラスチック容器の外表面にブリードアウトしており、 前記プラスチック容器は、射出成形体又はブロー成形体であり、 前記プラスチック容器は、25℃での粘度が100cps以上である粘稠性内容物を含む、プラスチック容器。 【請求項2】 前記プラスチック容器は、単層構造又は多層構造であって、 前記プラスチック容器が多層構造である場合、その最内層と最外層の両方に前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルと前記常温液体の多価アルコール脂肪酸エステルが含まれ、 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルは、ジグリセリン脂肪酸エステルである、ことを特徴とする請求項1記載のプラスチック容器。 【請求項3】 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸をエステル化してなる、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載のプラスチック容器。 【請求項4】 前記飽和脂肪酸は、ステアリン酸である、ことを特徴とする請求項3記載のプラスチック容器。 【請求項5】 前記常温固体の多価アルコール脂肪酸エステルは、10価未満であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプラスチック容器。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-01-15 |
出願番号 | 特願2012-139557(P2012-139557) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B65D)
P 1 651・ 113- YAA (B65D) P 1 651・ 121- YAA (B65D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小川 悟史、山田 裕介 |
特許庁審判長 |
千壽 哲郎 |
特許庁審判官 |
小野田 達志 蓮井 雅之 |
登録日 | 2016-09-30 |
登録番号 | 特許第6011058号(P6011058) |
権利者 | キョーラク株式会社 |
発明の名称 | プラスチック容器 |
代理人 | SK特許業務法人 |
代理人 | 伊藤 寛之 |
代理人 | 奥野 彰彦 |
代理人 | 奥野 彰彦 |
代理人 | SK特許業務法人 |
代理人 | 伊藤 寛之 |