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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C09J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1338114
異議申立番号 異議2017-700333  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-05 
確定日 2018-02-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6001483号発明「ホットメルト接着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6001483号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6001483号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第6001483号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件特許異議申立に係る特許
本件特許異議申立に係る特許第6001483号は、特許権者であるヘンケルジャパン株式会社より、平成25年3月26日、特願2013-64483号として出願され、平成28年9月9日、発明の名称を「ホットメルト接着剤」、請求項の数を「4」として特許権の設定登録を受けたものである。

2 手続の経緯
本件特許異議申立における手続の経緯は、おおよそ次のとおりである。
平成29年 4月 5日 佐藤義光より特許異議の申立て(全請求 項に対して)
同年 6月 9日付 取消理由通知
同年 8月10日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年 9月21日 意見書の提出(特許異議申立人)
同年10月 5日付 取消理由通知
同年11月20日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
なお、平成29年11月20日に訂正の請求があったので、特許法第120条の5第5項の規定に基づき、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが応答はなかった。

第2 訂正の適否

1 訂正事項
前記平成29年11月20日提出の訂正請求書による、明細書及び特許請求の範囲についての訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第3項及び第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1ないし4について訂正することを求めるものであるところ、その内容は次のとおりである。
なお、平成29年8月10日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「ラジアル型スチレンブロック共重合体を含む」とあるのを「ラジアル型スチレン-ブタジエンブロック共重合体であり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3及び4も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「ホットメルト接着剤。」の前に、「該ラジアル型スチレン-ブタジエンブロック共重合体は、3分岐型である」を挿入する(請求項1の記載を引用する請求項3及び4も同様に訂正する。)。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(4) 訂正事項4
明細書【0077】に「実施例1?7」とあるのを「実施例1?6」に、「比較例1?6」とあるのを「比較例1?7」に訂正する。
(5) 訂正事項5
明細書【0078】の表1に「実施例3」とあるのを「比較例7」に、「実施例4」とあるのを「実施例3」に訂正する。
(6) 訂正事項6
明細書【0079】の表2に「実施例5」とあるのを「実施例4」に、「実施例6」とあるのを「実施例5」に、「実施例7」とあるのを「実施例6」に訂正する。
(7) 訂正事項7
明細書【0094】の表5に「実施例3」とあるのを「比較例7」に、「実施例4」とあるのを「実施例3」に、「実施例5」とあるのを「実施例4」に、「実施例6」とあるのを「実施例5」に、「実施例7」とあるのを「実施例6」に訂正する。
(8) 訂正事項8
明細書【0096】に「成分(A1)を含んでいる」とあるのを「3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体を含んでいる」に、「成分(A1)を含まない」とあるのを「3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体を含まない」に訂正する。
(9) 訂正事項9
明細書【0097】に「成分(A1)を含有する」とあるのを「3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体を含有する」に訂正する。
(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2」とあるのを「請求項1」に訂正する。
(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか一項」とあるのを「請求項1または3」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1?3、10、11について
訂正事項1、2は、明細書の【0070】などの記載に基づいて、訂正前の特許請求の範囲に記載されたラジアル型スチレンブロック共重合の種類をさらに限定するものである。
また、訂正事項3は、請求項を削除するものであるとともに、訂正事項10、11は、当該請求項の削除に伴い、引用請求項の選択肢を限定するものである。
したがって、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。
(2) 訂正事項4?9について
訂正事項4?9は、前記訂正事項1、2に係る特許請求の範囲の訂正に合わせて、発明の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

3 小括
前記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第4項の規定の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1ないし4について請求されたものであり、その訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載

前記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、本件訂正後の特許請求の範囲に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体を含んで成るホットメルト接着剤であって、
(A)熱可塑性ブロック共重合体が(A1)スチレン含有率が35?45重量%、ジブロック含有率が50?90重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度が250mPa・s以下であるラジアル型スチレン-ブタジエンブロック共重合体であり、
該ラジアル型スチレン-ブタジエンブロック共重合体は、3分岐型であるホットメルト接着剤。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
(A)熱可塑性ブロック共重合体は、さらに、(A2)リニア型スチレンブロック共重合体を含む請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項4】
請求項1または3のいずれか一項に記載のホットメルト接着剤を塗工して得られることを特徴とする使い捨て製品。」
(以下、各請求項に係る特許及び発明を項番に合わせて「本件特許1」、「本件発明1」などといい、総称して「本件特許」、「本件発明」という。また、本件訂正後の明細書を「本件特許明細書」という。)

第4 特許異議申立人が提出した証拠類とその記載内容

特許異議申立人から提出された甲第1?11号証は、以下のとおりである(以下、単に「甲1」などという。)。
また、各証拠に記載された内容は、おおよそ特許異議申立書の16?36頁の「イ 引用発明の説明」の項などにおいて摘示されたとおりである。
・甲1:国際公開第2014/017380号
・甲2:一般財団法人化学物質評価研究機構による試験報告書
・甲3:特開平10-130349号公報
・甲4:特開2004-137297号公報
・甲5:特開2004-238548号公報
・甲6:特開2000-309767号公報
・甲7:特開2000-282006号公報
・甲8:国際公開第2010/074267号
・甲9:特表2007-530714号公報
・甲10:旭化成株式会社回答書
(以上、特許異議申立書に添付して提出)
・甲11:特開平2-232049号公報
(平成29年9月21日付け意見書に添付して提出)

第5 平成29年6月9日付け取消理由通知に記載した取消理由(甲3に基づく進歩性)について

1 取消理由(甲3に基づく進歩性)の概要
当審が、本件訂正前の請求項1?4に係る特許に対して、平成29年6月9日付け取消理由通知に記載した取消理由は、概略、次のとおりである。
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、特許異議申立人が提出した甲3(特開平10-130349号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定(進歩性)により特許を受けることができない。
したがって、本件訂正前の請求項1?4に係る特許は、同法第113条第2号に該当するため、取り消すべきものである。

2 前記取消理由(甲3に基づく進歩性)についての判断
当審は、本件特許について、前記甲3に基づく進歩性に関する取消理由は妥当しないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。
(1) 甲3に記載された発明
ア 甲3の記載事項
甲3の特許請求の範囲には、次の記載がある。
「【請求項1】 下記一般式(I):
(A-B)_(n)X (I)
(式中、Aは芳香族ビニル単量体の重合体ブロックであり、Bはイソプレンの重合体ブロックであり、Xは4官能性またはそれ以上の多官能性カップリング剤の残基であり、nは4以上の整数である)で表わされる4以上の分枝をもつ分枝体成分を5?50重量%含有し、
下記一般式(II):
A′-B (II)
(式中、A′はAと同一または異なる芳香族ビニル単量体の重合体ブロックであり、Bはイソプレンの重合体ブロックであるで表わされるジブロック体成分を50?95重量%含有してなる重量平均分子量(Mw)が10,000?500,000の芳香族ビニル-イソプレンブロック共重合体。
【請求項2】 有機リチウム開始剤と芳香族ビニル単量体とを接触させて、重合活性末端を有する芳香族ビニル単量体の重合体ブロックAを生成し、次いで、イソプレンを添加して、重合活性末端を有するイソプレンの重合体ブロックBが芳香族ビニル単量体の重合体ブロックAに直接結合したA-Bブロック共重合体を生成せしめ、次いで、少くとも4官能性のカップリング剤を添加して、A-Bブロック共重合体の一部を上記式(I)で表わされる4以上の分枝をもつ分枝体成分に変えることを特徴とする請求項1記載の芳香族ビニル-イソプレンブロック共重合体を製造する方法。
【請求項3】 請求項1記載の芳香族ビニル-イソプレンブロック共重合体と粘着付与樹脂とを含んでなることを特徴とする粘接着剤組成物。」
また、甲3には、上記請求項3に係る粘接着剤組成物の具体例として、実施例1?4が記載され(【0044】?【0049】)、その組成や接着物性などが、【0049】【表1】に、次のようにまとめられている。


注:カップリング剤 TMS:テトラメトキシシラン
TCS:テトラクロルシラン」
イ 甲3発明
当該【表1】に記載された実施例1?4の各ブロック共重合体をまとめて「甲3ブロック共重合体」といい、当該「甲3ブロック共重合体」を含む、同実施例1?4の各粘接着剤組成物をまとめて「甲3粘接着剤組成物」ということにすると、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
・「甲3ブロック共重合体」を含む「甲3粘接着剤組成物」
(2) 本件発明1について
ア 甲3発明との対比
甲3発明における「甲3ブロック共重合体」は、本件発明1における「(A)熱可塑性ブロック共重合体」に相当するものである。
しかしながら、本件発明1はさらに、当該「(A)熱可塑性ブロック共重合体」が、「(A1)ラジアル型スチレン-ブタジエンブロック共重合体」であり、かつ「3分岐型である」こと(以下、「3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体」という。)を特定するものであるが、甲3発明の「甲3ブロック共重合体」は、具体的には、ラジアル型スチレン-イソプレンブロック共重合体であり、4以上の分枝をもつ分枝体成分を含有するもの(甲3の請求項1の一般式(I)で表されるもの)である。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、少なくとも次の点で相違するといえる。
・相違点:本件発明1の「(A)熱可塑性ブロック共重合体」は、3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体であるのに対して、甲3発明の「甲3ブロック共重合体」は、ラジアル型スチレン-イソプレンブロック共重合体であり、4以上の分枝をもつ分枝体成分を含有するものである点。
イ 相違点の検討
甲3には、従来技術について、次のように記載されている。
・「【0004】米国特許第5,399,627号明細書には、ポリスチレン-ポリイソプレンジブロック共重合体の末端に少量のポリブタジエンブロックを結合させてから4官能カップリング剤にてカップリングさせた、主成分の4分枝体と未反応のジブロック成分とからなるスチレン-イソプレンブロック共重合体が開示されている。このブロック共重合体は未反応のジブロック成分の含有量が29重量%以下と低く、ホットメルト接着剤として使用した際の剥離接着力は決して高いものではなかった。」
・「【0005】また、特開平1-266156号公報には、ポリスチレン-ポリイソプレンジブロック共重合体を開始剤と等当量以上の4官能カップリング剤と反応させた3分枝の分枝状成分と未反応のジブロック成分とからなるブロック共重合体が開示されている。しかしながら、このブロック共重合体から調製される接着剤は剥離接着力および剪断接着破壊温度が満足できるものではなかった。さらに、同公報には、多量のポリスチレン-ポリイソプレンジブロック体と少量の3分枝体からなるスチレン-イソプレンブロック共重合体が例示されている。しかしながら、この共重合体を用いた接着剤は、剪断接着破壊温度が満足できるものではなかった。」
そうすると、甲3発明は、上記従来技術にみられるような、「ポリスチレン-ポリイソプレンジブロック共重合体の末端に少量のポリブタジエンブロックを結合させてから4官能カップリング剤にてカップリングさせた、主成分の4分枝体と未反応のジブロック成分とからなるスチレン-イソプレンブロック共重合体」(【0004】)を用いるものや、「ポリスチレン-ポリイソプレンジブロック共重合体を開始剤と等当量以上の4官能カップリング剤と反応させた3分枝の分枝状成分と未反応のジブロック成分とからなるブロック共重合体」(【0005】)を用いるものにあっては、剥離接着力や剪断接着破壊温度の観点から、好ましい態様とはいえなかったことに鑑みてなされたものであることが理解できる(実際、甲3の【0050】【表2】には、比較例として、上記従来技術のような態様のものは、剥離接着力や剪断接着破壊温度において劣ることが示されている。)。
そして、甲3発明は、このような従来技術の問題点を解決すべく、前記「甲3ブロック共重合体」、すなわち、ラジアル型スチレン-イソプレンブロック共重合体であり、4以上の分枝をもつ分枝体成分を含有するもの(甲3の請求項1の一般式(I)で表されるもの)を必須の技術的事項として採用したものと解することができる。
そうすると、甲3には、「甲3ブロック共重合体」に代えて、本件発明1の「3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体」を用いること(特にブタジエン及び3分岐型の採用)を、むしろ阻害する要因が認められるというほかない。
してみると、仮に、特許異議申立人が提出した他の証拠からみて、3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体が周知のものであったとしても、甲3発明の「甲3ブロック共重合体」に代えて、本件発明1の「3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体」を用いることは当業者にとって容易なこととは言い難い。
そして、本件発明1は、当該「3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体」を採用することにより、本件特許明細書の【0094】[表5]などに記載された作用効果を奏するものである。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3発明から容易想到のものとはいえないため、本件特許1に対して、前記甲3に基づく進歩性に関する取消理由は妥当しない。
(3) 本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明1に係る発明特定事項をすべて含むものであるから、これらの発明についても、甲3発明から容易想到のものとはいえない。
したがって、本件特許3、4についても、前記甲3に基づく進歩性に関する取消理由は妥当しない。

第6 平成29年10月5日付け取消理由通知に記載した取消理由(記載不備)について

1 取消理由(記載不備)の概要
当審は、平成29年8月10日になされた訂正後の特許に対し、平成29年10月5日付け取消理由通知において、当該特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当するため、取り消すべきものである、と判断した。
記載不備として指摘した点は、当該訂正後の請求項1に記載された「(A)熱可塑性ブロック共重合体」(「ジブロック」の位置づけなど)が意味するところを正確に理解することはできない、というものである。

2 前記取消理由(記載不備)についての判断
当審は、本件訂正により、前記記載不備に関する取消理由は解消したものと判断する。
すなわち、本件訂正により、請求項1において、「(A)熱可塑性ブロック共重合体」は「(A1)・・・ラジアル型スチレン-ブタジエンブロック共重合体であり」、これは「3分岐型である」ことが明記され、また、当該「ラジアル型スチレン-ブタジエンブロック共重合体」は、本件特許明細書の【0030】?【0032】の記載から、ジブロックを含むことを許容する樹脂組成物であることが理解できるから、前記取消理由において指摘した、当該「(A)熱可塑性ブロック共重合体」(「ジブロック」の位置づけなど)が意味するところについては、正確に理解することはできるようになったものと認められる。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 特許異議申立人が主張するその他の申立理由
前記「第5」及び「第6」において検討した、平成29年6月9日及び同年10月5日付け取消理由通知に記載した取消理由のほかに、特許異議申立人が主張する申立理由は、おおよそ次の3点に集約することができる。
(1) 甲1に基づく特許法第29条の2所定の規定違反(同法第113条第2号に該当)
(2) 甲9に基づく特許法第29条第2項所定の規定違反(同法第113条第2号に該当)
(3) 本件特許明細書の実施例において使用されている旭化成ケミカルズ社製のラジアル型スチレンブロック共重合体は市販のものではないことに起因する、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号所定の規定違反(同法第113条第4号に該当)

2 甲1に基づく特許法第29条の2所定の規定違反について
(1) 特許法第29条の2に規定する「他の特許出願」について
甲1に係る国際出願:PCT/JP2013/069551の国際出願日は、2013年7月18日であり、その優先権の主張の基礎とされた先の出願(優先基礎出願):特願2012-165195号の出願日は、2012年7月25日である。
一方、本件特許に係る出願:特願2013-64483号の出願日は、平成25年(2013年)3月26日である。
そこで、甲1に基づく特許法第29条の2所定の規定(正確には、同法第184条の15第2項において読み替えられた第41条第3項のみなし規定に従って適用される第29条の2の規定)に違反しているか否かは、上記優先基礎出願:特願2012-165195号を、特許法第29条の2に規定する「他の特許出願」として、以下検討をする。
(2) 先願明細書等に記載された発明
前記優先基礎出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、単に「先願明細書等」という。)をみると、特許請求の範囲には、次の記載がある。
「【請求項1】
成分(a):ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン単量体単位を主体とする重合体ブロック(B)とを含有し、数平均分子量が10,000?60,000であるブロック共重合体:50?80質量%と、
成分(b):ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン単量体単位を主体とする重合体ブロック(B)とを含有し、数平均分子量が60,000?200,000であるブロック共重合体:20?50質量%とを含み、
ビニル芳香族単量体単位の含有量が25?50質量%であり、
15質量%トルエン溶液における粘度が10?40mPa・sであり、
前記成分(a)に対する前記成分(b)の数平均分子量比が2.3?3.6である、
粘接着剤用ブロック共重合体組成物。
【請求項2】
前記成分(a)は、式(A-B)によって表されるジブロック共重合体であり、
前記成分(b)は、式(A-B)_(3)X(Xは、カップリング剤の残基又は重合開始剤の残基を示す。)によって表される3分岐ブロック共重合体である、
請求項1に記載の粘接着剤用ブロック共重合体組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の粘接着剤用ブロック共重合体組成物:100質量部と、
粘着付与剤:100?400質量部と、
軟化剤:50?150質量部と、
を、含有する粘接着剤組成物。」
そうすると、先願明細書等には、上記請求項1?3をまとめた、次の発明(以下、「先願明細書等に記載された発明」という。)が記載されているといえる。
・「粘接着剤用ブロック共重合体組成物:100質量部と、
粘着付与剤:100?400質量部と、
軟化剤:50?150質量部と、
を、含有する粘接着剤組成物であって、
粘接着剤用ブロック共重合体組成物が次のとおりのもの。
成分(a):ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン単量体単位を主体とする重合体ブロック(B)とを含有し、数平均分子量が10,000?60,000であるブロック共重合体:50?80質量%と、
成分(b):ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン単量体単位を主体とする重合体ブロック(B)とを含有し、数平均分子量が60,000?200,000であるブロック共重合体:20?50質量%とを含み、
ビニル芳香族単量体単位の含有量が25?50質量%であり、
15質量%トルエン溶液における粘度が10?40mPa・sであり、
前記成分(a)に対する前記成分(b)の数平均分子量比が2.3?3.6である、
粘接着剤用ブロック共重合体組成物であって、
前記成分(a)は、式(A-B)によって表されるジブロック共重合体であり、
前記成分(b)は、式(A-B)_(3)X(Xは、カップリング剤の残基又は重合開始剤の残基を示す。)によって表される3分岐ブロック共重合体であるもの。」
(3) 対比
本件発明と、先願明細書等に記載された発明とを対比すると、両者は、少なくとも次点で相違するといえる。
・相違点:本件発明は、3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体を用いており、その「25重量%トルエン溶液の25℃での粘度が250mPa・s以下である」のに対して、先願明細書等に記載された発明にはそのような特定がない点。
(4) 相違点の検討
前記相違点について検討する。
ア 先願明細書等には、先願明細書等に記載された発明における「粘接着剤用ブロック共重合体組成物」(ポリマー組成物)として、種々のものが記載されており(特に【0095】?【0145】などを参照した。)、具体的には、3官能カップリングスチレン-ブタジエンブロック共重合体組成物が記載され、その物性として「15重量%トルエン溶液における粘度」が示されている。
しかしながら、先願明細書等を仔細にみても、「粘接着剤用ブロック共重合体組成物」(ポリマー組成物、3官能カップリングスチレン-ブタジエンブロック共重合体組成物)の「25重量%トルエン溶液の25℃での粘度」を示す記載は見当たらないから、当該「粘接着剤用ブロック共重合体組成物」が、本件発明に係る、特定の物性を備えた3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体を予定したものであるとまでは認められない。
イ この点につき、特許異議申立人は、甲1の国際公開公報に記載された「ポリマー組成物17」について試験した甲2の結果からみて、甲1には、本件発明に係る特定の物性を備えたものが記載されているに等しい旨主張している。
そこで検討するに、前記(1)のとおり、特許法第29条の2に規定する「他の特許出願」は、前記優先基礎出願であって、甲1の国際公開公報に係る国際出願ではないから、前記先願明細書等をみると、そこには、当該「ポリマー組成物17」は存在しない。その上、甲2の試験結果には、試験に供した試料につき「4.試料 ポリマー組成物b 1点」と記載されるにとどまり、この試料が、当該「ポリマー組成物17」であることはもとより、その詳細を把握するに足りる証拠はない。加えて、本件発明が規定する「25重量%トルエン溶液の25℃での粘度」と、先願明細書等に記載された「15重量%トルエン溶液における粘度」とが、ブロック共重合体の構造等(数平均分子量やジブロック率なども含めて)にかかわらず、数値の換算が可能な関係にあると認めるに足りる証拠も見当たらない。
そのため、上記甲2の結果から、先願明細書等に記載された具体的なポリマー組成物の「25重量%トルエン溶液の25℃での粘度」を推認することはできず、その数値が、本件発明の規定を満たすものであるとまでは到底いえない。
したがって、特許異議申立人の主張を採用して、本件発明は、先願明細書等に記載されているに等しいということはできない。
(5) 小括
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条の2所定の規定に違反するとはいえない。

3 甲9に基づく特許法第29条第2項所定の規定違反について
(1) 甲9発明
甲9の【請求項1】には、次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されている。
「(a)式[S-(I/B)]_(n)Xのブロックコポリマー[Sは、主にポリ(スチレン)ブロックを表し、(I/B)は、重量比が70:30から30:70の範囲の、主にイソプレンとブタジエンの混合物のランダム共重合により得られたポリマーブロックを表し、nは3から5の範囲の整数であり、Xはカップリング剤の残基であり、前記ブロックコポリマーは、28から50重量%のポリ(スチレン)含有率および50から100%のカップリング効率を有し、200℃/5kgで測定したメルトフローインデックスは1.0から12g/10分の範囲である。]100重量部と、
(b)粘着性付与樹脂250から300重量部と、
(c)可塑剤50から150重量部と、および
(d)1種または複数の安定剤および/または酸化防止剤0から3重量部と
を含む、不織布組立体に使用されるホットメルト接着剤組成物。」
(2) 対比
本件発明と甲9発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違するといえる。
・相違点:本件発明は3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体を用いているのに対して、甲9発明におけるブロックコポリマーは、式[S-(I/B)]_(n)Xのブロックコポリマーである点。
(3) 相違点の検討
前記相違点について検討する。
甲9には、前記ブロックコポリマーの選択に関して、次の記載がある。
・「【0009】
広範囲の研究および実験の結果、驚くべきことに、末端の主にポリ(スチレン)ブロックと中央の(I/B)ブロックとを含む放射状のブロックコポリマーが、おむつ業界において好んで用いられる温度、すなわち138?160℃(280?320°F)の範囲の温度で、良好に吹き付け可能なホットメルト粘度を提供することが、今回見出された。さらに、これらの放射状のポリマーは、卓越した色安定性、優秀な接着性能、およびS-I-Sブロックコポリマーに基づいた従来の接着剤組成物に比べてより優れた粘度安定性を提供する。」
・「【0029】
主なブロックコポリマー成分(a)は、[S-B]_(n)Xタイプのブロックコポリマーおよび/または[S-I]_(n)Xタイプのブロックコポリマーの調製に使用される一般のプロセスの単なる手直しによって、替わりにブタジエン/イソプレンの混合物を使用して作製することができる。本発明に従って使用されるブロックコポリマーの調製における重要点は、所望の(I/B)比を確保するために、ホモポリマーのジエンブロックの形成を避けることである。」
上記の記載を参酌すると、甲9発明のブロックコポリマーは、接着剤組成物における所望の特性を提供するために、わざわざホモポリマーのジエンブロックの形成を避け、所望の(I/B)比を確保したものであることが分かる。
そうすると、甲9には、本件発明の「3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体」を用いることを、むしろ阻害する要因が認められるというほかない。
してみると、仮に、特許異議申立人が提出した他の証拠からみて、3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体が周知のものであったとしても、甲9発明のブロックコポリマーに代えて、本件発明の「3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体」を用いることは当業者にとって容易なこととはいえない。
そして、本件発明は、当該「3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体」を採用することにより、本件特許明細書の【0094】[表5]などに記載された作用効果を奏するものである。
(4) 小括
以上のとおり、本件発明は、甲9発明から容易想到のものとはいえないから、本件発明に、特許法第29条第2項所定の規定違反は認められない。

4 特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号所定の規定違反
(1) 特許異議申立人の主張する記載不備
標記規定違反について、特許異議申立人が指摘する点は、おおよそ次のとおり整理することができる。すなわち、本件特許明細書の【0070】には、本件発明に係る3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体 の具体例として、旭化成ケミカルズ社製のHJ10などが記載されているものの、当該製品は、販売されているものでなく、その構造や物性の詳細は不明である。そのため、本件特許明細書をみても、当業者は、当該3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体を製造することはできないし、これを用いたホットメルト接着剤が、本件発明の課題を解決することができると認識することもできない、というものである。
(2) 前記記載不備についての検討
ア まず、ラジアル型のブロック共重合体の一般的な製造方法についてみると、甲3には、次の記載がある。
・「【0024】(5)製法
本発明の芳香族ビニル-イソプレンブロック共重合体を製造する方法は、格別限定されるものではないが、先ず、重合活性末端を有するイソプレンの重合体ブロックBが芳香族ビニル単量体の重合体ブロックAに直接結合したA-Bジブロック共重合体を調製し、次いで、A-Bジブロック共重合体の一部をカップリングさせて4つ以上の分枝をもつブロック共重合体とすることによって、4つ以上の分枝をもつ分枝体成分とジブロック体成分とを一時に得る方法が好ましい。すなわち、好ましい製造方法は、有機リチウム開始剤と芳香族ビニル単量体とを接触させて、重合活性末端を有する芳香族ビニル単量体の重合体ブロックAを生成し、次いで、イソプレンを添加して、重合活性末端を有するイソプレンの重合体ブロックBが芳香族ビニル単量体の重合体ブロックAに直接結合したA-Bブロック共重合体を生成せしめ、次いで、少くとも4官能性のカップリング剤を添加して、A-Bブロック共重合体の一部を上記式(I)で表わされるブロック共重合体に変えることを特徴とする方法である。」
・「【0025】別法として、4つ以上の分枝を有するブロック共重合体とジブロック共重合体とをそれぞれ別個に合成した後、これらを任意の方法により所定割合で混合することによって本発明のブロック共重合体を調製することができる。」
そうすると、分枝体成分(ラジアル型ブロック共重合体)とジブロック体成分の混合物を製造する手法として、これらを一時に得る方法や別個に合成して得る方法があること、さらに、当該分枝体成分(分岐体成分)の分岐型(4分岐型、3分岐型など)の調整は、カップリング剤の選択により行うことができることなどは、当業者においてよく知られた技術的事項と解するのが相当である。
また、甲3には、ブロック共重合体の粘度に関連した次の記載がある。
・「【0015】本発明の芳香族ビニル-イソプレンブロック共重合体中の4以上の分枝体成分の含有量は、ブロック共重合体全重量に基づき、5?50重量%である。ブロック共重合体中の分枝体成分の含有量が過度に低いと十分高い剪断接着破壊温度を得ることができず、逆に、4以上の分枝体成分の含有量が過度に高いと組成物の粘度が高くなり、加工性が低下する。4以上の分枝体成分の含有量は、好ましくは15?50重量%、より好ましくは25?45重量%である。」
・「【0022】本発明の芳香族ビニル-イソプレンブロック共重合体の分子量は、GPCにより測定されるポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)として、10,000?500,000、好ましくは50,000?250,000、さらに好ましくは80,000?150,000の範囲である。分子量が低過ぎると剪断接着破壊温度が低下し、逆に、分子量が高過ぎると粘度が増大して加工性が低下する。」
そうすると、ブロック共重合体の粘度は、分岐体成分の含有量(ジブロック率)や分子量などに応じて調整可能であることを理解することができる。
イ 前記アにおいて整理した技術的事項(技術常識)からすると、3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体(ジブロックを含むもの)を製造すること自体に何ら困難なところはなく、その「25重量%トルエン溶液の25℃での粘度」という物性についても、ジブロック率や分子量などを適宜選択することにより調整することが可能であるというべきであるから、本件特許明細書において、3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体の入手先やその構造などについての詳細な記載がないとしても、当業者であれば、本件発明に係る特定の物性を有する3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体を製造することに特段の困難性があるとはいいがたい。
ウ また、本件特許明細書には、本件発明の課題について次のように記載されている。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低温塗工が可能で、低温時の接着性に優れたホットメルト接着剤、そのホットメルト接着剤を用いて得られる使い捨て製品を提供することを目的とする。」
そして、当該課題に関連する所望の特性(低温塗工性など)と、本件発明の3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体の組成・構造などとの関係について、本件特許明細書には、以下のように記載されている。
・「【0027】
ラジアル型スチレンブロック共重合体の具体的な構造を以下に示す。
【0028】
(S-E)_(n)Y (1)
【0029】
式中、nは2以上の整数、Sはスチレンブロック、Eは共役ジエン化合物ブロック、Yはカップリング剤である。nは好ましくは3又は4である。nが3の上記共重合体を3分岐型といい、nが4の上記共重合体を4分岐型という。nが3又は4である場合、得られるホットメルト接着剤の溶融粘度が低く、保持力(凝集力)が高くなる。共役ジエン化合物としては、ブタジエン又はイソプレンが好ましい。」
・「【0036】
「スチレン含有率」とは、(A1)に含まれるスチレンブロックの割合をいう。スチレン含有率は、35?45重量%であり、35?40重量%であることがより好ましい。
【0037】
本発明のホットメルト接着剤は、(A1)のスチレン含有率が上記範囲にあることによって、保持力(凝集力)、タック、および低温接着性のバランスに優れたものとなる。」
・「【0038】
「ジブロック含有率」とは、(A1)に含まれる式(2)のスチレン共役ジエン化合物ブロック共重合体の割合をいう。ジブロック含有率は、50?90重量%であり、55?85重量%であることがより好ましい。
【0039】
本発明のホットメルト接着剤は、(A1)のジブロック含有率が上記範囲にあることによって、タックおよび低温での接着性に優れたものとなる。(A1)のジブロック含有率が50重量%未満になると、式(1)で表される分岐構造成分が多くなりすぎて、得られるホットメルト接着剤の低温接着性またはタックのいずれかが低下する場合がある。また、(A1)のジブロック含有率が90重量%を超えると、ラジアル構造であっても、ホットメルト接着剤の保持力を高くすることは困難となる。」
・「【0040】
「25重量%トルエン溶液の25℃での粘度」とは、トルエンを溶媒とする25重量%の濃度の溶液の25℃における粘度をいい、各種粘度計を用いて測定することができるが、例えばブルックフィールドBM型粘度計(スピンドルNo.2)を用いて測定される。
【0041】
(A1)の25重量%トルエン溶液の25℃での粘度は、250mPa・s以下であり、100?250mPa・sであり、特に130?200mPa・sであることがより好ましい。
【0042】
本発明のホットメルト接着剤は、(A1)の25重量%トルエン溶液の25℃での粘度が上記範囲にあることによって、溶融粘度が著しく低くなり、低温で塗工し易いものとなる。」
・「(表1?6の摘示は省略)
【0096】
表1?6に示されるように、実施例のホットメルト接着剤は、3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体を含んでいることによって、溶融粘度、軟化点、剥離強度、保持力およびループタックに優れている。これに対し、比較例のホットメルト接着剤は、3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体を含まないので、実施例のホットメルト接着剤よりも、各性能のいずれかが著しく劣っている。
【0097】
ホットメルト接着剤は、3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体を含有することで上記性能が向上し、使い捨て製品を製造する際に140℃以下の低温で塗工する事が可能であり、使い捨て製品も冬場に各部材が剥れ難くなることが実証された。」
そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明の課題に係る特性と、本件発明に係る3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体の組成・構造などとの関係について、おおよそ理解することができ、これにより、本件発明の範疇のものが当該課題を解決し得ることを理解することができると解するのが合理的である。
エ 以上の点からみて、本件特許明細書及び特許請求の範囲の記載には、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号所定の規定違反は認められない。

第8 結び

以上のとおりであるから、本件特許1、3、4は、特許法第29条又は第29条の2の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえず、同法第113条第2号又は第4号に該当するとは認められないから、前記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては、取り消すことはできない。
また、前記のとおり、本件訂正により、請求項2は削除されたので、本件特許2に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないため、却下する。
さらに、他に本件特許1、3、4を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ホットメルト接着剤
【技術分野】
【0001】
本発明はホットメルト接着剤に関し、さらに詳しくは紙おむつ、ナプキンに代表される使い捨て製品分野に使用されるホットメルト接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙おむつ及びナプキン等に代表される使い捨て製品には、熱可塑性ブロック共重合体を主成分とする接着剤が利用されており、特にスチレン系ブロック共重合体をベースとするホットメルト接着剤が広く利用されている。例えば、紙おむつは、ポリエチレンフィルムと、その他の部材(例えば、不織布、天然ゴム等の弾性体、及び吸水紙等)とがホットメルト接着剤で接着されて作製される。ホットメルト接着剤は、様々の方法を用いて各種構成部材に塗布することができるが、いずれの方法を用いてもホットメルト接着剤が適当な粘度になるように加熱溶融し、ドット状、線状、筋状、螺旋状、面状等に、各種構成部材に塗布することによって行なう。
【0003】
現在、紙おむつについては、その風合いを良くすることが求められており、ポリエチレンフィルムや上述の不織布等の各種部材をより薄くすることで、紙おむつの柔軟性及び風合いを向上することが検討されている。各種部材をより薄くすることで材料コストは大幅に削減される。しかし、ポリエチレンフィルムが薄くなることで耐熱性が低下し、高温(150℃以上)ホットメルト接着剤を塗工すると、ポリエチレンフィルムが溶融したり、ポリエチレンフィルムに皺が入るという問題が生ずる。従って、接着剤メーカーでは、低温(140℃以下)で塗工することが可能な低温塗工が可能なホットメルト接着剤の開発を進めている。
【0004】
紙おむつや生理用品を製造する製品メーカーでも、ホットメルト接着剤を塗工する際の作業性や環境面を考慮して、ホットメルト接着剤が低粘度化されることを強く望んでいる。一般に、ホットメルト接着剤はベースポリマーと可塑剤を含んで成るが、ベースポリマーを減量し、可塑剤を増量する方法等によってホットメルト接着剤を低粘度化することが検討されている。しかし、これらの方法を用いて製造された低粘度のホットメルト接着剤で紙おむつ等を製造すると、紙おむつの部材を構成するポリエチレンフィルム等に対する接着性と保持力(凝集力)とのバランスが低下し、軟化点が低下しすぎるという問題を生じ得る。
【0005】
特許文献1には、リニア型スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂および可塑剤を含有するホットメルト接着剤が開示されている(請求項1)。同文献のホットメルト接着剤は、低粘度なので低温塗工に好適ではあるが、低温時の接着性が十分ではない。
【0006】
特許文献2?4には、ラジアル型スチレンブロック共重合体を含むホットメルト接着剤の記載がある(各文献の請求項1)。しかし、文献2?4のホットメルト接着剤は溶融粘度が高く、低温塗工を行うのに適したものではない。また、これらは、使い捨て製品用ホットメルト接着剤に必要な接着性能である、低温時の剥離強度、保持力又はタックのいずれかが不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2004-137297号公報
【特許文献2】 特開平5-311138号公報
【特許文献3】 特開2006-8947公報
【特許文献4】 特表2010-536957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低温塗工が可能で、低温時の接着性に優れたホットメルト接着剤、そのホットメルト接着剤を用いて得られる使い捨て製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体を含んで成るホットメルト接着剤であって、
(A)熱可塑性ブロック共重合体が(A1)スチレン含有率が35?45重量%、ジブロック含有率が50?90重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度が250mPa・s以下であるラジアル型スチレンブロック共重合体を含むホットメルト接着剤を提供する。
【0010】
ある一形態においては、(A1)ラジアル型スチレンブロック共重合体は、3分岐型および4分岐型からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0011】
ある一形態においては、上記ホットメルト接着剤は、さらに、(B)粘着付与樹脂および(C)可塑剤を含んでいる。
【0012】
ある一形態においては、上記ホットメルト接着剤は、(A)?(C)の総重量100重量部に対し、(A)の含有量が15?30重量部である。
【0013】
ある一形態においては、(A)熱可塑性ブロック共重合体は、さらに、(A2)リニア型スチレンブロック共重合体を含む。
【0014】
ある一形態においては、(C)可塑剤は、ナフテンオイルおよびパラフィンオイルから成る群から選択される少なくとも1種を含む。
【0015】
また、本発明は、上記いずれかのホットメルト接着剤を塗工して得られる使い捨て製品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のホットメルト接着剤は、溶融粘度が低いために低温塗工が可能で、低温時の接着性に優れ、タックと保持力(凝集力)のバランスも良い。
【0017】
本発明の使い捨て製品は、ポリエチレンフィルムや不織布等の各部材が上記ホットメルト接着剤で貼り付けられているので、冬場の低温時でも、各部材が剥れたりすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において、「(A)熱可塑性ブロック共重合体」とは、ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物とがブロック共重合した共重合体であって、通常、ビニル系芳香族炭化水素ブロックと共役ジエン化合物ブロックを有して成るものを含む樹脂組成物である。
【0019】
ここで、「ビニル系芳香族炭化水素」とは、ビニル基を有する芳香族炭化水素化合物を意味し、具体的には、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、及びビニルアントラセン等を例示できる。特にスチレンが好ましい。これらのビニル系芳香族炭化水素は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0020】
「共役ジエン化合物」とは、少なくとも一対の共役二重結合を有するジオレフィン化合物を意味する。「共役ジエン化合物」として、具体的には、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(又はイソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンを例示することができる。1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエンが特に好ましい。これらの共役ジエン化合物は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明に係る(A)熱可塑性ブロック共重合体は、未水素添加物であっても、水素添加物であってもよい。
【0022】
「(A)熱可塑性ブロック共重合体の未水素添加物」とは、具体的には、共役ジエン化合物に基づくブロックが水素添加されていないものを例示できる。また、「(A)熱可塑性ブロック共重合体の水素添加物」とは、具体的には、共役ジエン化合物に基づくブロックの全部、若しくは一部が水素添加されたブロック共重合体を例示できる。
【0023】
「(A)熱可塑性ブロック共重合体の水素添加物」の水素添加された割合を、「水素添加率」で示すことができる。「(A)熱可塑性ブロック共重合体の水素添加物」の「水素添加率」とは、共役ジエン化合物に基づくブロックに含まれる全脂肪族二重結合を基準とし、その中で、水素添加されて飽和炭化水素結合に転換された二重結合の割合をいう。この「水素添加率」は、赤外分光光度計及び核磁器共鳴装置等によって測定することができる。
【0024】
「(A)熱可塑性ブロック共重合体の未水素添加物」として、具体的には、例えばスチレン-イソプレンブロック共重合体(「SIS」ともいう)、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(「SBS」ともいう)を例示できる。「(A)熱可塑性ブロック共重合体の水素添加物」として、具体的には、例えば水素添加されたスチレン-イソプレンブロック共重合体(「SEPS」ともいう)及び水素添加されたスチレン-ブタジエンブロック共重合体(「SEBS」ともいう)を例示できる。
【0025】
(A)熱可塑性ブロック共重合体は、単独で又は複数種類を組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明では、(A)熱可塑性ブロック共重合体の1種として、(A1)ラジアル型スチレンブロック共重合体を用いる。ラジアル型スチレンブロック共重合体は、カップリング剤を中心にして、リニア型スチレンブロック共重合体が複数放射状に突出した構造を有する分岐状スチレンブロック共重合体である。ここで、リニア型スチレンブロック共重合体は、スチレンのブロックと共役ジエン化合物のブロックとが結合した線状共重合体である。
【0027】
ラジアル型スチレンブロック共重合体の具体的な構造を以下に示す。
【0028】
(S-E)_(n)Y (1)
【0029】
式中、nは2以上の整数、Sはスチレンブロック、Eは共役ジエン化合物ブロック、Yはカップリング剤である。nは好ましくは3又は4である。nが3の上記共重合体を3分岐型といい、nが4の上記共重合体を4分岐型という。nが3又は4である場合、得られるホットメルト接着剤の溶融粘度が低く、保持力(凝集力)が高くなる。共役ジエン化合物としては、ブタジエン又はイソプレンが好ましい。
【0030】
但し、本発明でいう(A1)ラジアル型スチレンブロック共重合体は樹脂組成物であり、式
【0031】
S-E (2)
[式中、S及びEは上記と同意義である。]
【0032】
で表されるスチレン共役ジエンブロック共重合体を一定の割合で含有する。式(2)のスチレン共役ジエンブロック共重合体は「ジブロック」と呼ばれることがある。
【0033】
カップリング剤はリニア型スチレンブロック共重合体を放射状に結合させる多官能性化合物である。カップリング剤の種類は特に限定されない。
【0034】
カップリング剤の一例としては、ハロゲン化シラン、アルコキシシランなどのシラン化合物、ハロゲン化すずなどのすず化合物、ポリカルボン酸エステル、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどのアクリルエステル、エポキシシラン、ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物などが挙げられる。具体例としては、トリクロロシラン、トリブロモシラン、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラクロロすず、ジエチルアジペートなどが挙げられる。
【0035】
本発明において、(A1)ラジアル型スチレンブロック共重合体は、スチレン含有率が35?45重量%、ジブロック含有率が50?90重量%、25℃において25重量%トルエン溶液の粘度が250mPa・s以下である。
【0036】
「スチレン含有率」とは、(A1)に含まれるスチレンブロックの割合をいう。スチレン含有率は、35?45重量%であり、35?40重量%であることがより好ましい。
【0037】
本発明のホットメルト接着剤は、(A1)のスチレン含有率が上記範囲にあることによって、保持力(凝集力)、タック、および低温接着性のバランスに優れたものとなる。
【0038】
「ジブロック含有率」とは、(A1)に含まれる式(2)のスチレン共役ジエン化合物ブロック共重合体の割合をいう。ジブロック含有率は、50?90重量%であり、55?85重量%であることがより好ましい。
【0039】
本発明のホットメルト接着剤は、(A1)のジブロック含有率が上記範囲にあることによって、タックおよび低温での接着性に優れたものとなる。(A1)のジブロック含有率が50重量%未満になると、式(1)で表される分岐構造成分が多くなりすぎて、得られるホットメルト接着剤の低温接着性またはタックのいずれかが低下する場合がある。また、(A1)のジブロック含有率が90重量%を超えると、ラジアル構造であっても、ホットメルト接着剤の保持力を高くすることは困難となる。
【0040】
「25重量%トルエン溶液の25℃での粘度」とは、トルエンを溶媒とする25重量%の濃度の溶液の25℃における粘度をいい、各種粘度計を用いて測定することができるが、例えばブルックフィールドBM型粘度計(スピンドルNo.2)を用いて測定される。
【0041】
(A1)の25重量%トルエン溶液の25℃での粘度は、250mPa・s以下であり、100?250mPa・sであり、特に130?200mPa・sであることがより好ましい。
【0042】
本発明のホットメルト接着剤は、(A1)の25重量%トルエン溶液の25℃での粘度が上記範囲にあることによって、溶融粘度が著しく低くなり、低温で塗工し易いものとなる。
【0043】
(A1)ラジアル型スチレンブロック共重合体としては、旭化成ケミカルズ(株)より、HJ10、HJ12、HJ13、HJ15を入手できる。
【0044】
本発明では、(A)熱可塑性ブロック共重合体は、(A1)以外のスチレンブロック共重合体を含んでも良く、特に(A2)リニア型スチレンブロック共重合体を含むのが好ましい。本発明のホットメルト接着剤は、(A1)だけでなく、(A2)を含むことによって、更にタック、保持力、および低温接着性のバランスに優れたものになるという効果がある。
【0045】
本明細書では、「リニア型」とは、線状構造を意味する。リニア型スチレンブロック共重合体とは、直鎖型線状のスチレンブロック共重合体である。
【0046】
(A2)リニア型スチレンブロック共重合体としては、市販品を用いることができる。例えば、旭化ケミカルズ(株)製のアサプレンT439(商品名)、アサプレンT436(商品名)、アサプレンT432(商品名);JSR(株)製のTR2600(商品名);ファイヤーストン社製のステレオン857(商品名)及びステレオン841A(商品名);クレイトンポリマー社製のクレイトンD1118(商品名);Enichem社(株)製のSol T166(商品名);日本ゼオン社(株)製のクインタック3433N(商品名)及びクインタック3421(商品名)を例示できる。これらの(A)熱可塑性ブロック共重合体の市販品は、各々単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0047】
(A)熱可塑性ブロック共重合体は、(A1)や(A2)に該当しない(A3)その他のスチレンブロック共重合体を含んでいても差支えない。
【0048】
(A3)その他スチレンブロック共重合体としては、JSR(株)製のTR2500(商品名);日本ゼオン社(株)製のクインタック3450(商品名)及びクインタック3460(商品名);Enichem社(株)製のSol T6414(商品名)を例示できる。
【0049】
本発明のホットメルト接着剤は、(B)粘着付与樹脂および(C)可塑剤を有している。粘着付与樹脂は、ホットメルト接着剤に通常使用されるものであって、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができるものであれば、特に限定されることはない。
【0050】
そのような(B)粘着付与樹脂として、例えば、天然ロジン、変性ロジン、水添ロジン、天然ロジンのグリセロールエステル、変性ロジンのグリセロールエステル、天然ロジンのペンタエリスリトールエステル、変性ロジンのペンタエリスリトールエステル、水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、天然テルペンのコポリマー、天然テルペンの3次元ポリマー、水添テルペンのコポリマーの水素化誘導体、ポリテルペン樹脂、フェノール系変性テルペン樹脂の水素化誘導体、脂肪族石油炭化水素樹脂、脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、芳香族石油炭化水素樹脂、芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、環状脂肪族石油炭化水素樹脂、環状脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体を例示することができる。これらの粘着付与樹脂は、単独で、又は組み合わせて使用することができる。粘着付与樹脂は、色調が無色?淡黄色であって、臭気が実質的に無く熱安定性が良好なものであれば、液状タイプの粘着付与樹脂も使用できる。これらの特性を総合的に考慮すると、粘着付与樹脂として、樹脂等の水素化誘導体が好ましい。なお、未水添粘着付与樹脂を併せて使用しても良い。
【0051】
(B)粘着付与樹脂として、市販品を用いることができる。そのような市販品として例えば、トーネックス社製のECR179EX(商品名);丸善石油化学社製のマルカクリヤーH(商品名);荒川化学社製のアルコンM100(商品名);出光興産社製のアイマーブS100(商品名);ヤスハラケミカル社製のクリアロンK100(商品名)、クリアロンK4090(商品名)及びクリアロンK4100;トーネックス社製のECR179EX(商品名)およびECR231C(商品名)、イーストマンケミカル社製のリガライトC6100L(商品名)およびリガライトC8010(商品名);三井化学社製のFTR2140(商品名)を例示することができる。また、未水添粘着付与樹脂として、日本ゼオン社製のクイントンDX390NおよびクイントンDX395を例示することができる。また、これらの市販の粘着付与樹脂は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0052】
(C)可塑剤は、ホットメルト接着剤の溶融粘度低下、柔軟性の付与、被着体への濡れ向上を目的として配合され、ブロック共重合体に相溶し、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができるものであれば、特に限定されるものではない。(C)可塑剤として、例えばパラフィン系オイル、ナフテン系オイル及び芳香族系オイルを挙げることができる。無色、無臭であるパラフィン系オイルが特に好ましい。
【0053】
(C)可塑剤としては、市販品を用いることができる。例えば、Kukdong Oil&Chem社製のWhite Oil Broom350(商品名)、出光興産社製のダイアナフレシアS32(商品名)、ダイアナプロセスオイルPW-90(商品名)、DNオイルKP-68(商品名)、BPケミカルズ社製のEnerperM1930(商品名)、Crompton社製のKaydol(商品名)、エッソ社製のPrimol352(商品名)、出光興産社製のプロセスオイルNS100、ペトロチャイナカンパニー社製のKN4010(商品名)を例示することができる。これらの(C)可塑剤は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0054】
本発明のホットメルト接着剤は、(A)?(C)の総重量100重量部に対し、(A)の含有量が3?60重量部、好ましくは8?45重量部、より好ましくは15?30重量部、最も好ましくは10?30重量部である。(A)の含量が上記範囲にあることによって、ホットメルト接着剤は、低温時の接着性、タック、および保持力に優れ、低温塗工が可能なものとなる。
【0055】
本発明に係るホットメルト接着剤は、必要に応じて、更に各種添加剤を含んでもよい。そのような各種添加剤として、例えば、安定化剤及び微粒子充填剤を例示することができる。
【0056】
「安定化剤」とは、ホットメルト接着剤の熱による分子量低下、ゲル化、着色、臭気の発生等を防止して、ホットメルト接着剤の安定性を向上するために配合されるものであり、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができるものであれば、特に制限されるものではない。「安定化剤」として、例えば酸化防止剤及び紫外線吸収剤を例示することができる。
【0057】
「紫外線吸収剤」は、ホットメルト接着剤の耐光性を改善するために使用される。「酸化防止剤」は、ホットメルト接着剤の酸化劣化を防止するために使用される。酸化防止剤及び紫外線吸収剤は、一般的に使い捨て製品に使用されるものであって、後述する目的とする使い捨て製品を得ることができるものであれば使用することができ、特に制限されるものではない。
【0058】
酸化防止剤として、例えばフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤を例示できる。紫外線吸収剤として、例えばベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を例示できる。更に、ラクトン系安定剤を添加することもできる。これらは単独又は組み合わせて使用することができる。
【0059】
安定化剤として、市販品を使用することができる。例えば、住友化学工業(株)製のスミライザーGM(商品名)、スミライザーTPD(商品名)及びスミライザーTPS(商品名)、チバスペシャリティーケミカルズ社製のイルガノックス1010(商品名)、イルガノックスHP2225FF(商品名)、イルガフォス168(商品名)及びイルガノックス1520(商品名)、城北化学社製のJF77(商品名)を例示することができる。これら安定化剤は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0060】
本発明のホットメルト接着剤は、上記成分を所定の割合で配合し、必要に応じて更に種々の添加剤を配合し、加熱して溶融し混合することで製造される。具体的には、上記成分を攪拌機付きの溶融混合釜に投入し、加熱混合することによって製造される。
【0061】
得られたホットメルト接着剤は、120℃での溶融粘度が10000mPa・s以下、140℃での粘度が5000mPa・s以下であり、軟化点が75℃以上であることが好ましい。「溶融粘度」とは、ホットメルト接着剤の溶融体の粘度をいう。ブルックフィールドRVT型粘度計(スピンドルNo.27)で測定される。また、「軟化点」とは、ホットメルト接着剤を加熱し、材料が柔らかくなり変形をはじめる温度をいう。リング&ボール法(日本接着剤工業会規格JAI-7-1999に規定された方法)で測定される。
【0062】
本発明に係るホットメルト接着剤は、120℃での溶融粘度が10000mPa・s以下であり、140℃での粘度が5000mPa・s以下であるため、低温(140℃以下)塗工が可能である。さらに、軟化点が75℃以上である場合、ホットメルト接着剤は、液状または半液状で供給されることが可能である。ホットメルト接着剤を保温容器に液状または半液状に保管しておき、そのまま供給できるので、ホットメルト接着剤は環境的にも非常に好ましい。即ち、ホットメルト接着剤を製造する際、廃材の発生を減少することができ、消費電力も節約できる。
【0063】
更に、本発明に係るホットメルト接着剤は、実施例で記載する保持力の評価方法において、40℃における保持力が10分以上であることが好ましく、30分以上であることがより好ましく、50分以上であることが特に好ましい。
【0064】
また、本発明に係るホットメルト接着剤は、実施例において記載する剥離強度の評価方法による剥離強度(10℃、20℃)が1000gf/inch(8.8N/2.54cm)以上であることが好ましく、2000gf/inch(9.8N/2.54cm)であることがより好ましい。
【0065】
更にまた、本発明に係るホットメルト接着剤は、実施例において記載するループタックの評価方法によるループタックが、1000gf/inch(9.8N/2.54cm)以上であることが好ましく、1500gf/inch(14.7N/2.54cm)以上であることがより好ましく、2000gf/inch(19.6N/2.54cm)以上であることが特に好ましい。
【0066】
本発明に係るホットメルト接着剤は、紙加工、製本、使い捨て製品等、幅広く利用されるが、主に使い捨て製品に使用される。「使い捨て製品」とは、例えばいわゆる衛生材料であれば、特に限定されるものではない。衛生材料として、具体的には紙おむつ、生理用ナプキン、ペットシート、病院用ガウン、手術用白衣等を例示できる。
【0067】
本発明の別の要旨において、上述のホットメルト接着剤が低温(140℃以下)で非接触塗布されて得られる使い捨て製品を提供する。使い捨て製品は、織布、不織布、ゴム、樹脂、紙類からなる群から選ばれた少なくとも一つの部材と、ポリオレフィンフィルムとを本発明に係るホットメルト接着剤を用いて接着して構成される。ポリオレフィンフィルムとしては、耐久性やコスト等の理由からポリエチレンフィルムが好ましい。
【0068】
使い捨て製品の製造ラインでは、一般に使い捨て製品の各種部材(例えば、不織布等)やポリオレフィンフィルムの少なくとも一方にホットメルト接着剤を塗布し、フィルムと部材とを圧着して、使い捨て製品が製造される。塗布の際、ホットメルト接着剤は、種々の噴出機から噴出されて使用されてよい。本発明において、「非接触塗布」とは、ホットメルト接着剤を塗布する際、噴出機を部材やフィルムに接触させない塗布方法のことである。具体的な非接触塗布方法として、例えば、螺旋状に塗布できるスパイラル塗工、波状に塗布できるオメガ塗工やコントロールシーム塗工、面状に塗布できるスロットスプレー塗工やカーテンスプレー塗工、点状に塗工できるドット塗工などを例示できる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
尚、実施例の記載において、特に記載がない限り、溶媒を考慮しない部分を、重量部及び重量%の基準としている。
【0070】
本実施例で使用した成分を以下に示す。
(A)熱可塑性ブロック共重合体
<(A1)ラジアル型スチレンブロック共重合体>
(A1-1)3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン含有率39重量%、ジブロック含有率80重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度165mPa・s HJ13(旭化成ケミカルズ社製))
(A1-2)3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン含有率38重量%、ジブロック含有率80重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度184mPa・s HJ12(旭化成ケミカルズ社製))
(A1-3)4分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン含有率38重量%、ジブロック含有率80重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度155mPa・s HJ15(旭化成ケミカルズ社製))
(A1-4)3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン含有率38重量%、ジブロック含有率60重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度177mPa・s HJ10(旭化成ケミカルズ社製))
【0071】
<(A2)リニア型スチレンブロック共重合体>
(A2-1)リニア型スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン含有率30重量%、ジブロック含有率50重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度3100mPa・s アサプレンT432(旭化成ケミカルズ社製))
(A2-2)リニア型スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン含有率43重量%、ジブロック含有率60重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度170mPa・s アサプレンT439(旭化成ケミカルズ社製))
(A2-3)リニア型スチレン-イソプレンブロック共重合体(スチレン含有率16重量%、ジブロック含有率56重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度810mPa・s クインタック3433N(日本ゼオン社製))
【0072】
<(A3)その他のスチレンブロック共重合体>
(A3-1)3分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン含有率35重量%、ジブロック含有率40重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度490mPa・s JSR TR2500(JSR社製))
(A3-2)4分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン含有率40重量%、ジブロック含有率20重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度400mPa・s SOlT6414(Enichem社製))
(A3-3)14.2分岐型スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン含有率30重量%、ジブロック含有率50重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度600mPa・s ソルプレン9618(Dynasol社製))
(A3-4)3分岐型スチレン-イソプレンブロック共重合体(スチレン含有率25重量%、ジブロック含有率40重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度380mPa・s クインタック3460(日本ゼオン社製))
(A3-5)3分岐型スチレン-イソプレンブロック共重合体(スチレン含有率19重量%、ジブロック含有率30重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度550mPa・s クインタック3450(日本ゼオン社製))
【0073】
(B)粘着付与樹脂
(B1)水添粘着付与樹脂(ECR179EX(エクソンモービル社製))
(B2)水添粘着付与樹脂(アルコンM100(荒川化学社製))
(B3)水添粘着付与樹脂(アイマーブS100N(出光興産社製))
(B4)水添粘着付与樹脂(リガライトC6100L(イーストマンケミカル社製))
(B5)未水添粘着付与樹脂(クイントンDX390N(日本ゼオン社製))
(B6)液状粘着付与樹脂(マルカクリアH(丸善石油社製))
(B7)水添粘着付与樹脂(Plastolyn240(イーストマンケミカル社製))
【0074】
(C)可塑剤
(C1)パラフィンオイル(ダイアナフレシスS-32(出光興産社製))
(C2)パラフィンオイル(ダフニーオイルKP68(出光興産社製))
(C3)ナフテンオイル(プロセスオイルNS100(出光興産社製))
(C4)ナフテンオイル(KN4010(ペトロチャイナカンパニー社製))
【0075】
(D)ワックス
(D1)無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックス(リコセン TP MA6252(クラリアントジャパン社製))
【0076】
(E)酸化防止剤
(E1)フェノール系酸化防止剤(スミライザーGM(住友化学社製))
(E2)硫黄系酸化防止剤(スミライザーTPD(住友化学社製))
(E3)ベンゾトリアゾール系酸化防止剤(JF77(城北化学社製))
【0077】
実施例1?6及び比較例1?7のホットメルト接着剤の作製
各成分を表1?4に示す重量割合で配合し、約150℃で溶融混合してホットメルト接着剤を作製した。尚、表1?4中、「St」はスチレン含有率、「ジブロック」はジブロック含有率、「TV」は25重量%トルエン溶液の25℃での粘度を意味する。
【0078】
[表1]

【0079】
[表2]

【0080】
[表3]

【0081】
[表4]

【0082】
このようにして得られた実施例及び比較例のホットメルト接着剤について、溶融粘度、軟化点、剥離強度、保持力、ループタックの特性を調べた。その結果を表5及び表6に示す。尚、上記特性は、以下の方法により調べた。
【0083】
[溶融粘度]
ホットメルト接着剤を加熱して溶融し、120℃及び140℃において、溶融状態の粘度をブルックフィールドRVT型粘度計(スピンドルNo.27)を用いて測定した。評価基準は以下のとおりである。
【0084】

【0085】

【0086】
[軟化点]
リング&ボール法(日本接着剤工業会規格JAI-7-1999に規定された方法)でホットメルト接着剤の軟化点を測定した。
【0087】

【0088】
[剥離強度]
厚さが50μmのPETフィルムに、50μmの厚さでホットメルト接着剤を塗布した。これを2.5cm幅に成形して試験体とした。この試験体を100μmの厚さのポリエチレンフィルムに20℃で貼り合わせ、20℃で1日間放置した。その後、10℃、20℃において300mm/分の引張速度で剥離を行い、剥離強度を測定した。
【0089】

【0090】
[保持力]
厚さが50μmのPETフィルムに、50μmの厚さとなるようにホットメルト接着剤を塗布した。このPETフィルムを2.5cm幅に成形して試験体とした。この試験体に、接着面積が1.0cm×2.5cmとなるように100μmの厚さのポリエチレンフィルムを20℃にて貼り合わせた後、接着面と下に垂直方向に1kgのおもりをかけ、40℃の条件下に放置した。そして、上記1kgおもりが落下するまでの時間を測定し、これを保持力とした。
【0091】

【0092】
[ループタック]
厚さが50μmのPETフィルムに、50μmの厚さとなるようにホットメルト接着剤を塗布した。このPETフィルムを2.5cm×10cmのサイズに成形して試験体とした。この試験体を、粘着面(接着剤塗布面)が外側となるようにループ状に巻回し、これを、PE板に対し、20℃で300mm/分の速度で接触させた。その後、300mm/分の速度で試験体をPE板から引きはがし、その時の引きはがし強度を測定し、これを初期のループタックとした。また、上述の試験体を20℃で一週間保管した後、PE板に対し、20℃で300mm/分の速度で接触させた。その後、300mm/分の速度で試験体をPE板から引きはがし、その時の引きはがし強度を測定し、これを一週間後のループタックとした。
【0093】

【0094】
[表5]

【0095】
[表6]

【0096】
表1?6に示されるように、実施例のホットメルト接着剤は、3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体を含んでいることによって、溶融粘度、軟化点、剥離強度、保持力およびループタックに優れている。これに対し、比較例のホットメルト接着剤は、3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体を含まないので、実施例のホットメルト接着剤よりも、各性能のいずれかが著しく劣っている。
【0097】
ホットメルト接着剤は、3分岐型ラジアルスチレン-ブタジエンブロック共重合体を含有することで上記性能が向上し、使い捨て製品を製造する際に140℃以下の低温で塗工する事が可能であり、使い捨て製品も冬場に各部材が剥れ難くなることが実証された。
【産業上の利用分野】
【0098】
本発明は、ホットメルト接着剤およびそのホットメルト接着剤が塗工されて得られる使い捨て製品を提供する。本発明に係るホットメルト接着剤は、使い捨て製品を製造するのに特に好適である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体を含んで成るホットメルト接着剤であって、
(A)熱可塑性ブロック共重合体が(A1)スチレン含有率が35?45重量%、ジブロック含有率が50?90重量%、25重量%トルエン溶液の25℃での粘度が250mPa・s以下であるラジアル型スチレン-ブタジエンブロック共重合体であり、
該ラジアル型スチレン-ブタジエンブロック共重合体は、3分岐型であるホットメルト接着剤。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
(A)熱可塑性ブロック共重合体は、さらに、(A2)リニア型スチレンブロック共重合体を含む請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項4】
請求項1または3に記載のホットメルト接着剤を塗工して得られることを特徴とする使い捨て製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-26 
出願番号 特願2013-64483(P2013-64483)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 161- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 貴浩  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 天野 宏樹
日比野 隆治
登録日 2016-09-09 
登録番号 特許第6001483号(P6001483)
権利者 ヘンケルジャパン株式会社
発明の名称 ホットメルト接着剤  
代理人 山田 卓二  
代理人 山田 卓二  
代理人 西下 正石  
代理人 西下 正石  
代理人 鮫島 睦  
代理人 鮫島 睦  

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