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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1338120
異議申立番号 異議2017-700750  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-31 
確定日 2018-02-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6069547号発明「エアゾール組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6069547号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6069547号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6069547号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成29年1月6日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年7月31日に特許異議申立人株式会社ダイゾー(以下、単に「異議申立人」ともいう。)より請求項1及び2に対して特許異議の申立てがされ、同年10月4日付けで取消理由が通知され、同年12月7日に意見書の提出及び訂正請求がされ、上記訂正請求に対して、平成30年1月9日に、異議申立人から意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、特許第6069547号の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを求める、というものであって、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲について、次のア?エの訂正事項1?4のとおり訂正することを求めるというものである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「エアゾール組成物100質量%における前記1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が38.2?58.8質量%であり」と記載されているのを、「エアゾール組成物100質量%における前記1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が38.2?39.975質量%であり」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「エアゾール組成物100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が30?60質量%であることを特徴とする」と記載されているのを、「エアソール組成物100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が50?60質量%であることを特徴とする」に訂正する。
ウ 訂正事項3
明細書の段落【0006】に「エアゾール組成物100質量%における前記1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が38.2?58.8質量%であり」と記載されているのを、「エアゾール組成物100質量%における前記1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が38.2?39.975質量%であり」に訂正する。
エ 訂正事項4
明細書の段落【0006】に「エアゾール組成物100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が30?60質量%であることを特徴とする」と記載されているのを、「エアゾール組成物100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が50?60質量%であることを特徴とする」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項について
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項1について
上記訂正事項1は、本件明細書に記載された実験例(処方1、4)に関し、本件明細書の【0038】(「処方1」)、【0041】(「処方4」)及び【0048】の【表1】に、原液中の1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の割合について、「処方1」が79.95質量%、「処方4」が95.5 0質量%で、原液と噴射剤との質量比(原液/噴射剤)について、「処方1」が50/50、「処方4」が40/60であることが記載されており、エアゾール組成物100質量%における1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合を算出すると、「処方1」が79.95質量%×0.5=39.975質量%、「処方4」が95.50質量%×0.4=38.2質量%であることが導き出されることに基づき、請求項1に係るエアゾール組成物100質量%における引火性成分の含有割合について、その上限を「39.975質量%」と訂正して、その範囲を狭めるものであるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、請求項1を引用する請求項2も同様に訂正されるものであって、当該請求項2に係る訂正は、請求項1と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(イ)訂正事項2について
上記訂正事項2は、上記(ア)で述べたように、本件明細書に記載された実験例(処方1、4)に関し、本件明細書には、原液と噴射剤との質量比(原液/噴射剤)について、「処方1」が50/50、「処方4」が40/60であること、すなわち、エアゾール組成物100質量%におけるトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が、「処方1」が50質量%、「処方4」が60質量%であることが記載されていることに基づき、請求項1に係るエアゾール組成物100質量%におけるトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合について、その下限を「50質量%」と訂正して、その範囲を狭めるものであるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、請求項1を引用する請求項2も同様に訂正されるものであって、当該請求項2に係る訂正は、請求項1と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ)訂正事項3、4について
上記訂正事項3、4は、訂正事項1、2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであって、該訂正事項3、4は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 一群の請求項について
訂正前の請求項2は、請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当し、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
また、本件訂正の請求は、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われたものである。

(3)まとめ
以上のことから、上記訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
本件発明1:「1価の低級アルコール類よりなる引火性成分を含有する原液と、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有する噴射剤とよりなり、
エアゾール組成物100質量%における前記1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が38.2?39.975質量%であり、
エアゾール組成物100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が50?60質量%であることを特徴とするエアゾール組成物。」
本件発明2:「前記原液における前記1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が79.95?95.50質量%であることを特徴とする請求項1に記載のエアゾール組成物。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成29年10月4日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
「請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、上記請求項に係る特許は、取り消されるべきものである。

引用例1:特表2009-513813号公報(甲第1号証。以下、番号に応じて、「甲1」などという。)
引用例2:特表2007-535611号公報(甲2)
引用例3:特開平4-332786号公報(甲3)
引用例4:特許第3088468号公報(甲4)
引用例5:エアゾール&受託製造産業新聞,株式会社エアゾール産業新聞社,2009年10月5日発行,No.1339,(1)(甲5)」

(3)引用例の記載(原文にない下線は、当審が付与した。)
ア 引用例1
引用例1には、「不飽和フルオロカーボンを含むエアゾール噴射剤」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
(i)式E-R^(1)CH=CHR^(2)またはZ-R^(1)CH=CHR^(2)(式中、R^(1)およびR^(2)は独立してC_(1)?C_(6)パーフルオロアルキル基である)を有するヒドロフルオロカーボン、および
(ii)CF_(3)CF=CHF、CF_(3)CH=CF_(2)、CHF_(2)CF=CF_(2)、CHF_(2)CH=CHF、CF_(3)CF=CH_(2)、CF_(3)CH=CHF、・・・(略)・・・およびCF_(3)(CF_(2))_(3)CBr=CH_(2)からなる群から選択されたフルオロカーボンまたはヒドロフルオロカーボンからなる群から選択された少なくとも1種のフルオロカーボンまたはヒドロフルオロカーボンを含む噴射剤。」
「【請求項6】
請求項1に記載の噴射剤を含むことを特徴とする噴霧可能な組成物。
【請求項7】
前記噴霧可能な組成物がエアゾールであることを特徴とする請求項6に記載の噴霧可能な組成物。」
「【0043】
【表3】


「【0054】
エアゾール噴射剤は、例えば表2に記載された単一化合物を含むことが可能であるか、または表2の化合物の組み合わせ、あるいは表1、表2、表3および/または式Iの化合物の組み合わせを含んでもよい。」
「【0069】
(実施例1)
(55%VOCヘアスプレー)
55%VOC(揮発性有機化合物)ヘアスプレーを次の通り配合した。
【0070】
【表8】



イ 引用例2
引用例2には、「フッ素置換オレフィンを含有する組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項52】
噴射剤組成物であって、
(a)式Iで表わされる少なくとも1つのフルオロアルケン:
XCF_(z)R_(3-z) (I)
(ここでXはC_(2)またはC_(3)不飽和置換または非置換アルキル基であり、Rは独立してC_(l)、F、Br、IまたはHであり、そしてZは1?3である)を含み、
約1000以下の地球温暖化可能性(GWP)を有する、前記組成物。」
「【0021】
非常に好ましい態様において、特に上記の低い毒性の化合物を含む態様において、nは0である。特定の非常に好ましい態様において、本発明の組成物は1以上のテトラフルオロプロペンを含む。「HFO-1234」という用語は、ここでは全てのテトラフルオロプロペンを指すものとして用いられる。テトラフルオロプロペンの中で、シス-およびトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)は両者とも特に好ましい。HFO-1234zeという用語はここでは、それがシス形であるかトランス形であるかにかかわらず、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを指すものとして包括的に用いられる。「シスHFO-1234ze」および「トランスHFO-1234ze」という用語はそれぞれ、ここでは、シス形およびトランス形の1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを記述するものとして用いられる。従って、「HFO-1234ze」という用語は、その範囲の中に、シスHFO-1234ze、トランスHFO-1234ze、およびこれらの全ての組み合わせおよび混合物を含む。
【0022】
シスHFO-1234zeおよびトランスHFO-1234zeの特性は少なくとも幾つかの点で異なるけれども、これらの化合物の各々は、ここで説明している適用、方法および装置のそれぞれに関して、それ単独で用いるために、またはその立体異性体を含む他の化合物とともに用いるために適合可能であると考えられる。例えば、トランスHFO-1234zeは、その比較的低い沸点(-19℃)のために、特定の冷却装置において用いるのに好ましいかもしれないが、しかしながら、沸点が+9℃であるシスHFO-1234zeも本発明の特定の冷却装置において有用であると考えられる。従って、「HFO-1234ze」という用語および1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは両方の立体異性体を指し、そしてこの用語の使用は、特に断らない限り、シス形とトランス形のそれぞれが、説明している目的のために適用され、および/または有用であるということを示すことが意図されている、と理解されるべきである。」
「【0036】
噴射剤およびエアゾール組成物
別の面において、本発明は、本発明の組成物を含むかまたは本質的にこの組成物からなる噴射剤組成物を提供し、そのような噴射剤組成物は好ましくは霧化しうる組成物である。本発明の噴射剤組成物は好ましくは、噴射されるべき材料と、本発明に従う組成物を含む(あるいは本質的にその組成物からなる、またはその組成物からなる)噴射剤とを含む。不活性成分、溶剤、およびその他の物質も、霧化可能混合物中に存在していてもよい。好ましくは、この霧化しうる組成物はエアゾール(aerosol)である。噴射されるべき適当な材料としては、限定するものではないが、消臭剤、香料、ヘアスプレー、クレンザーなどの化粧品、および磨き剤、さらには抗喘息成分、口臭除去成分、および好ましくは吸入することが意図される他の全ての薬物または薬剤を含む他の全ての薬品などの医薬物質がある。薬物またはその他の治療剤は、組成物中に治療量で存在するのが好ましく、組成物の残りの本質的な部分は本発明の式Iの化合物、好ましくはHFO-1234、さらに好ましくはHFO-1234zeを含む。」
「【0049】
可燃性低減方法
特定の他の好ましい態様によれば、本発明は流体の可燃性を低減するための方法を提供し、前記方法は、前記流体に本発明の化合物または組成物を添加することを含む。広い範囲で可燃性を有する流体のいかなるものに関する可燃性も、本発明に従って低減するだろう。例えば、エチレンオキシド、可燃性ヒドロフルオロカーボン、およびHFC-152a、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、ジフルオロメタン(HFC-32)、プロパン、ヘキサン、オクタン、および類似物を含めた炭化水素などの流体に関する可燃性は、本発明に従って低減させることができる。本発明の目的に関して、可燃性流体とは、例えばASTM E-681などのあらゆる標準的で一般的な試験方法によって測定されて空気中で可燃性範囲を示すあらゆる流体であろう。
【0050】
本発明に従って流体の可燃性を低減するために、いかなる適当な量の本化合物または組成物も添加することができるだろう。当業者であれば認識できるであろうが、添加する量は、少なくとも一部は、対象の流体の可燃性の程度、およびその可燃性がどの程度まで低減されるのが望ましいか、に依存するだろう。特定の好ましい態様においては、可燃性流体に添加される化合物または組成物の量は、得られる流体を実質的に不燃性にするのに有効な量である。」

ウ 引用例3
引用例3には、「エアゾール用噴射剤組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】エアゾール用噴射剤に要求される特性として、適当な溶解力、適当な蒸気圧、無毒、化学的安定性、容器等に対する腐蝕性のないこと、無臭、さらに不燃であること等が挙げられる。従来、これらの要求を満足するものとして、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロトリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン等のクロロフルオロカーボン系化合物(以下CFCという)があり、これらのガスを単独又は混合して使用されてきた。
【0003】液化石油ガス(LPG)、DME(ジメチルエーテル)等も用いられるが、可燃性ガスであるために、エアゾール製品の燃焼性が高く、使用、貯蔵時の火災の危険性がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前述のCFCは、噴射剤として理想的な性状を有しているが、化学的に極めて安定なため、対流圏内での寿命が長く、拡散して成層圏に達し、ここで太陽光線により分解して発生する塩素ラジカルがオゾンと連鎖反応を起こし、オゾン層を破壊するとのことから、その使用規制が実施されることとなった。このため、従来のCFCに替わり、オゾン層を破壊しにくい代替噴射剤の探索が活発に行なわれている。
【0005】代替噴射剤として、前述のLPG、DMEの他に、クロロジフルオロメタン、クロロジフルオロエタン、ジクロロトリフルオロエタン等のハイドロクロロフルオロカーボン系化合物(以下HCFCという)等が検討されているが、LPG,DMEは製品の燃焼性が高く、事故の増加が予想され、特に人体へ直接使用するエアゾール製品に使用することは望ましくない。また、HCFCは、CFCに比べれば水素を含有するので対流圏での寿命が短く、オゾン層への影響は極めて小さいが零ではなく、さらに環境への影響の少ない噴射剤の開発が必要である。
【0006】本発明は、従来のCFCが有している優れた特性を満足しながら環境への影響の極めて少ない代替噴射剤として使用できる新規な噴射剤組成物を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、前述の問題点を解決すべくなされたものであり、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロプロパン(以下R227cという)を主成分とするエアゾール用噴射剤組成物および炭化水素類、エーテル類およびハロゲン化炭化水素類から選ばれる少なくとも1種とR227cを含むエアゾール用噴射剤組成物を提供するものである。」
「【0014】
【実施例】以下に本発明の実施例を示す。
[実施例1?12]制汗剤として使用した例を表1に、虫よけ剤として使用した例を表2に、ヘアスプレーとして使用した例を表3に示す。なお、数字の単位は重量部である。また、2,2-ジクロロ-1,1,1- トリフルオロエタンはR123、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタンはR142bと称する。
【0015】(省略)
【0016】
【表2】(当審注:体裁は、公報と多少異なる。表3も同じ。)
┌────────────┬────┬────┬────┬────┐
│ 内 容 物 │実施例5│実施例6│実施例7│実施例8│
├────────────┼────┼────┼────┼────┤
│ DEET │ 8.0│ 8.0│ 8.0│ 8.0│
│(吉富製薬社製虫よけ剤)│ │ │ │ │
│ エチルアルコール │42.0│42.0│42.0│42.0│
│ 噴射剤 │ │ │ │ │
│ R227c │ 50 │ 40 │ 45 │ 40 │
│ LPG │ │ 5 │ 3 │ │
│ DME │ │ 5 │ │ │
│ R123 │ │ │ 7 │ │
│ R142b │ │ │ │ 10 │
├────────────┼────┼────┼────┼────┤
│混合噴射剤の燃焼性 │ 難燃 │ 難燃 │ 難燃 │ 難燃 │
├────────────┼────┼────┼────┼────┤
│内容状態 │均一溶解│均一溶解│均一溶解│均一溶解│
└────────────┴────┴────┴────┴────┘
【0017】
【表3】
┌────────────┬────┬────┬────┬────┐
│ 内容物 │実施例9│実施例10│実施例11│実施例12│
├────────────┼────┼────┼────┼────┤
│アクリル樹脂 │ 5.0│ 5.0│ 5.0│ 5.0│
│アジピン酸ジイソプロピル│ 0.2│ 0.2│ 0.2│ 0.2│
│香料 │ 0.3│ 0.3│ 0.3│ 0 │
│エチルアルコール │39.5│39.5│39.5│39.5│
│噴射剤 │ │ │ │ │
│ R227c │ 55 │ 40 │ 35 │ 40 │
│ LPG │ │ 5 │ 3 │ │
│ DME │ │ 5 │ 5 │ 10 │
│ R123 │ │ │ 7 │ 5 │
│ R142b │ │ 5 │ 5 │ │
├────────────┼────┼────┼────┼────┤
│混合噴射剤の燃焼性 │ 難燃 │ 難燃 │ 難燃 │ 難燃 │
├────────────┼────┼────┼────┼────┤
│内容状態 │均一溶解│均一溶解│均一溶解│均一溶解│
└────────────┴────┴────┴────┴────┘」

エ 引用例4
引用例4には、「非シリコーンおよびシリコーングラフトポリマーと低レベルの揮発性」について、次の記載がある。
「実施例9-14(当審注:実施例9?11は省略)
以下の例が本発明のエアロゾルヘアスプレー組成物を表す。


1 約80,000の重量平均分子量を持つ75%t-ブチルアクリレート/25%アクリル酸
2 約150,000の重量平均分子量を持つ60%t-ブチルアクリレート/20%アクリル酸/20%シリコーンマクロマー(シリコーンマクロマーの重量平均分子量約10,000)
3 Presperse Inc.South Plainfield,NJ,USA.からのPERMETHYL99A
4 Morflex Inc.Greensboro,NC,USAからのCITROFLEX-2
5 水酸化ナトリウムは30%活性
6 水酸化カリウムは45%活性
7 SDA40(100%エタノール)
8 DupontからのDYMEL-A
9 DupontからのDYMEL-152a」(13頁下から2行?15頁30欄1行)

オ 引用例5
引用例5には、「化審法認可、供給へ 近く輸入品登場
ハネウェルの新噴射剤 HFCの有力代替品」という見出しの次の記事が記載されている(「・・・」は、省略した箇所を示す)。
「関係各筋の情報によるとハネウェル社が開発したエアゾール用の新しいフッ素系噴霧剤「HFO(ハイドロフルオロオレフィン)-1234ze」は、かねて申請中であった化審法の認可を受けたことが9月29日(火)までに明らかになった。・・・同ガスの特徴は、地球温暖化係数が6と低いこと。同係数が高いHFC-134a、同-152aの有力な代替噴射剤として期待され、・・・殺虫剤大手有力ブランドメーカー筋が、強い関心を寄せているといわれ、・・・化審法では可燃性となったが、欧米では不燃性扱いで燃焼性は低い。・・・」

(4)引用発明の認定
ア 引用発明1
上記「(3)ア」の【0069】及び【0070】から、引用例1には、実施例1として(重量%と質量%とは等価である)、
「オクチルアクリルアミド/アクリレート/ブチルアミノエチルメチルアクリレートコポリマー(ナショナル・スターチ(National Starch)製「アンホマー(Amphomer)」LV-71) 5質量%、AMP(2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール) 1.0質量%、水 3.5質量%、エタノール 55.0質量%、噴射剤 35.0質量%からなる55%VOCヘアスプレー。」(以下、「引用発明1」という。)が開示されていると認められる。

イ 引用発明3
上記「(3)ウ」の【0016】及び【0017】から、引用例3には、
実施例5?8として、
「DEET(吉富製薬社製虫よけ剤) 8.0重量部、エチルアルコール 42.0重量部を含み、
噴射剤として、
R227c 50重量部、
R227c 40重量部、LPG 5重量部、DME 5重量部、
R227c 45重量部、LPG 3重量部、R123 7重量部、又は、
R227c 40重量部、R142b 10重量部からなる虫よけ剤。」、
実施例9?12として、
「アクリル樹脂 5.0重量部、アジピン酸ジイソプロピル 0.2重量部、
香料を 0又は0.3重量部、エチルアルコール 39.5重量部を含み、
噴射剤として、
R227c 55重量部、
R227c 40重量部、LPG 5重量部、DME 5重量部、R142b 5重量部、
R227c 35重量部、LPG 3重量部、DME 5重量部、R123 7重量部、R142b 5重量部、又は、
R227c 40重量部、DME 10重量部、R123 5重量部からなるヘアスプレー。」が記載されている。

実施例5?8の「DEET(吉富製薬社製虫よけ剤)」及び「エチルアルコール」からなるものは、虫よけ剤の原液であり、実施例9?12の、「アクリル樹脂」、「アジピン酸ジイソプロピル」、「香料」及び「エチルアルコール」からなるものは、ヘアスプレーの原液であるといえる。

そして、全ての成分の重量部の和は100であるから、重量部は、そのまま、質量%と表せて、エチルアルコールと噴射剤とに着目すると、
引用例3には、
「エチルアルコールを 39.5?42.0質量%含む原液と、
噴射剤としてR227cを 35?50質量%とを含む、
虫よけ剤又はヘアスプレー。」(以下、「引用発明3」という。)が開示されていると認められる。

ウ 引用発明4
引用例4には、実施例14として、
「非シリコーンポリマー 1.00重量%、
シリコーングラフトポリマー 2.50重量%、
イソドデカン0.50重量%、
ジイソプロピルブチルアジペート 0.35重量%、
水酸化カリウム 0.73重量%、
香料 0.10重量%、
水 8.00重量%、
エタノール 54.5重量%、及び、
噴射剤として、ヒドロフロロカーボン152a 32.32重量%からなるエアロゾルヘアスプレー組成物。」が記載されている。

そして、「非シリコーンポリマー、「シリコーングラフトポリマー」、「イソドデカン」、「ジイソプロピルブチルアジペート」、「水酸化カリウム」、「香料」、「水」及び「エタノール」からなるものは、エアロゾルヘアスプレー組成物の原液であるといえる。
また、エタノールと噴射剤とに着目し、「重量%」と「質量%」とは等価であるから、
引用例4には、
「エタノールを 54.5質量%含む原液と、
噴射剤としてヒドロフロロカーボン152aを 32.32質量%とを含む、
エアロゾルヘアスプレー組成物。」(以下、「引用発明4」という。)が開示されていると認められる。

(5)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)引用発明1を主引用発明とした場合
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「エタノール」は、「1価の低級アルコール類」であって、引火性であることは明らかであるから、本件発明1の「1価の低級アルコール類よりなる引火性成分」に相当する。
また、引用発明1の「55%VOCヘアスプレー」は、その使用態様において、「オクチルアクリルアミド/アクリレート/ブチルアミノエチルメチルアクリレートコポリマー(ナショナル・スターチ(National starch)製『アンホマー(Amphomer)』LV-71) 5質量%、AMP(2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール) 1.0質量%、水 3.5質量%及びエタノール 55.0質量%からなるもの」を「噴射剤 35.0質量%」とともに、「55%VOCヘアスプレー」として、噴射されるものといえることから、引用発明1の「オクチルアクリルアミド/アクリレート/ブチルアミノエチルメチルアクリレートコポリマー(ナショナル・スターチ(National starch)製『アンホマー(Amphomer)』LV-71) 5質量%、AMP(2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール) 1.0質量%、水 3.5質量%及びエタノール 55.0質量%からなるもの」及び「55%VOCヘアスプレー」は、本件発明1の「1価の低級アルコール類よりなる引火性成分を含有する原液」及び「エアゾール組成物」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明1の「噴射剤」は、本件発明1の「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有する噴射剤」と、「噴射剤」である点で一致する。

そうすると、本件発明1と引用発明1とは、「1価の低級アルコール類よりなる引火性成分を含有する原液と、噴射剤とよりなるエアゾール組成物。」である点で一致し、次の相違点1、1-2で相違する。
(相違点1)
噴射剤について、本件発明1は、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有」し、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」の「エアゾール組成物100質量%における」「含有割合」が「50?60質量%である」のに対し、引用発明1は、「55%VOCヘアスプレー」に対して噴射剤を35.0質量%含有するものの、噴射剤に「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有」するかどうか不明であり、それを含有するとしても、「55%VOCヘアスプレー」に対するその含有割合は不明な点。
(相違点1-2)
エアゾール組成物100質量%における1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合について、本件発明1は、「38.2?39.975質量%」であるのに対し、引用発明1の「55%VOCヘアスプレー」に対する「エタノール」の含有割合は、55.0質量%である点。

ここで、相違点について検討する。
(相違点1について)
まず、相違点1について検討する。
引用例1の【0054】の「エアゾール噴射剤は、例えば表2に記載された単一化合物を含むことが可能である」という記載から、噴射剤が単一化合物であることが示唆され、同【請求項1】には、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を含む「CF_(3)CH=CHF」を噴射剤として用いることが記載され、また、【請求項6】、【請求項7】には、その噴射剤を含む噴霧可能な組成物が、エアゾールであることが記載されていることから、引用発明1において、噴射剤として、単一化合物である、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を採用することは、当業者にとって困難なことではないとしても、引用例1の記載からは、引用発明1の噴射剤として「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を積極的に採用する動機付けは見出せない。

また、引用例2の【請求項52】には、フルオロアルケンを含む噴射剤組成物が記載され、同【0036】には、該噴射剤組成物は、HFO-1234zeを含むことが好ましく、噴射されるべき材料とともにヘアスプレー等のエアゾールとされ得ることが記載され、また、同【0021】には、「HFO-1234ze」は、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含むことが記載されており、同【0049】、【0050】には、引用例2に記載された組成物を添加して、可燃性流体の可燃性を低減させることが記載されている。
そして、引用例5には、フッ素系噴霧剤「HFO(ハイドロフルオロオレフィン)-1234ze」は、地球温暖化係数が6と低く、同係数が高いHFC-134a、同-152aの有力な代替噴射剤として期待されており、化審法では可燃性となったが、欧米では不燃性扱いで燃焼性は低いことが記載されている。

そこで、仮に、引用例2、5に基いて、引用発明1の噴射剤として、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を採用することがあるとしても、その場合、55%VOCヘアスプレー(エアゾール組成物)100質量%における噴射剤の含有割合は、35.0質量%となって、本件発明1の含有範囲よりも少ないものとなる。
そして、引用例1には、噴射剤の55%VOCヘアスプレーに対する噴射剤の含有割合を35質量%よりも大きくすることを示唆する記載は見当たらない。また、そのようにする動機付けを、異議申立人が提示した証拠からは見出すことができない。

したがって、引用発明1において、本件発明1における上記相違点1に係る発明特定事項に係る構成を備えるようにする動機付けがあるとはいえない。

(相違点1-2について)
次に、相違点1-2について検討する。
引用例1には、「55%VOCヘアスプレー」に対する「エタノール」の含有割合を、55.0質量%から減らして、38.2?39.975質量%の範囲内とすることを示唆する記載は見当たらない。また、そのようにする動機付けを、異議申立人が提示した証拠からは見出すことができない。

したがって、引用発明1において、本件発明1における上記相違点1-2に係る発明特定事項に係る構成を備えるようにする動機付けがあるとはいえない。

(本件発明1の作用効果について)
また、本件発明1の作用効果について検討すると、引用発明1は、本件発明1より、引火性成分(エタノール)の含有割合が多く、着火危険性が低い噴射剤の含有量が小さいものということができるところ、本件発明1は上記相違点1及び1-2に係る発明特定事項を備えることによって、本件明細書の【0031】に記載されたように、「原液が引火性成分を含有するものであっても、使用環境によらずに高い安全性をもって適用することができる」という、引用発明1からは、当業者が予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。

(まとめ)
したがって、本件発明1は、引用発明1及引用例2、5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(イ)引用発明3を主引用発明とした場合
本件発明1と引用発明3とを対比する。
引用発明3の「エチルアルコール」は、「1価の低級アルコール類」であって、引火性であることは明らかであるから、本件発明1の「1価の低級アルコール類よりなる引火性成分」に相当する。
また、引用発明3の「虫よけ剤又はヘアスプレー」は、本件発明1の「エアゾール組成物」に相当する。
そして、引用発明3の「エチルアルコール」及び「噴射剤」の含有割合は、本件発明1の「引火性成分」及び「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」の含有割合と一部重複する。

そうすると、本件発明1と引用発明3とは、
「1価の低級アルコール類よりなる引火性成分を含有する原液と、噴射剤とよりなり、
エアゾール組成物100質量%における前記1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が38.2?58.8質量%であり、
噴射剤の含有割合が50?60質量%であるエアゾール組成物。」である点で一致し、次の相違点2で相違する。
(相違点2)
噴射剤について、本件発明1は、「エアゾール組成物100質量%における」「含有割合」が「50?60質量%である」「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有」するのに対し、引用発明3は、噴射剤が、「R227c」であって、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有」しない点。

(相違点2について)
ここで、相違点2について検討する。
引用例3には、【0006】に、「本発明は、従来のCFCが有している優れた特性を満足しながら環境への影響の極めて少ない代替噴射剤として使用できる新規な噴射剤組成物を提供することを目的とするものである。」と記載され、【0007】に、「本発明は、前述の問題点を解決すべくなされたものであり、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロプロパン(以下R227cという)を主成分とするエアゾール用噴射剤組成物および炭化水素類、エーテル類およびハロゲン化炭化水素類から選ばれる少なくとも1種とR227cを含むエアゾール用噴射剤組成物を提供するものである。」と記載されていることから、引用発明3は、噴射剤として、「CFC」に替えて、特に、「R227c」を採用したものといえ、「R227c」以外の噴射剤を用いることは想定されていないというべきであり、引用発明3において、「R227c」に替えて、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を採用すること、さらに、その際に、「エアゾール組成物100質量%における」「含有割合」が「50?60質量%」の範囲で用いる動機付けを見出すことはできない。

そうすると、引用発明3及び引用例2、5を考慮したとしても、本件発明1は、引用発明3及び引用例2、5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(ウ)引用発明4を主引用例とした場合
本件発明1と引用発明4とを対比する。
引用発明4の「エタノール」は、「1価の低級アルコール類」であって、引火性であることは明らかであるから、本件発明1の「1価の低級アルコール類よりなる引火性成分」に相当する。
また、本件発明1の噴射剤と引用発明4の噴射剤とは、ヒドロフルオロカーボンを含む点で共通する。
また、引用発明4の「エアロゾルヘアスプレー組成物」は、本件発明1の「エアゾール組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明4とは、
「1価の低級アルコール類よりなる引火性成分を含有する原液と、ヒドロフルオロカーボンを含む噴射剤とよりなるエアゾール組成物。」である点で一致し、次の相違点3、3-2で相違する。
(相違点3)
噴射剤のヒドロフルオロカーボンについて、本件発明1は、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」であって、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」の「エアゾール組成物100質量%における」「含有割合」が「50?60質量%である」のに対し、引用発明4は、噴射剤が、「ヒドロフロロカーボン152a」であって、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を含有せず、その含有割合が32.32質量%である点。
(相違点3-2)
エアゾール組成物100質量%における1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合について、本件発明1は、「38.2?39.975質量%」であるのに対し、引用発明4の「ヒドロフロロカーボン152a」の「エアロゾルヘアスプレー組成物」に対する含有割合は、54.5質量%である点。

ここで、相違点について検討する。
(相違点3について)
まず、相違点3について検討する。
引用例4の記載からは、引用発明4において、噴射剤として、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を積極的に採用する動機付けは見出せない。
また、上記「(相違点1について)」で述べたように、仮に、引用例2、5に基いて、引用発明4において、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を採用することがあるとしても、エアロゾルヘアスプレー(エアゾール組成物)100質量%におけるその含有割合は、32.32質量%となって、本件発明1の含有範囲よりも少ないものとなる。
そして、引用例4には、噴射剤のエアロゾルヘアスプレーに対する噴射剤の含有割合を32.32質量%よりも大きくすることを示唆する記載は見当たらない。また、そのようにする動機付けを、異議申立人が提示した証拠からは見出すことができない。

したがって、引用発明4において、本件発明1における上記相違点3に係る発明特定事項に係る構成を備えるようにする動機付けがあるとはいえない。

(相違点3-2について)
次に、相違点3-2について検討する。
引用例4には、「エアロゾルヘアスプレー」に対する「エタノール」の含有割合を、54.5質量%から減らして、38.2?39.975質量%の範囲内とすることを示唆する記載は見当たらない。また、そのようにする動機付けを、異議申立人が提示した証拠からは見出すことができない。

したがって、引用発明4において、本件発明1における上記相違点3-2に係る発明特定事項に係る構成を備えるようにする動機付けがあるとはいえない。

(本件発明1の作用効果について)
また、本件発明4の作用効果について検討すると、引用発明4は、本件発明1より、引火性成分(エタノール)の含有割合が多く、着火危険性が低い噴射剤の含有量が小さいものということができるところ、本件発明1は上記相違点3及び3-2に係る発明特定事項を備えることによって、本件明細書の【0031】に記載されたように、「原液が引火性成分を含有するものであっても、使用環境によらずに高い安全性をもって適用することができる」という、引用発明4からは、当業者が予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。

(エ)特許異議申立人の意見について
異議申立人は、引用発明3に対して、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの中でも、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが積極的に用いられることは、周知であり、引用発明3に適宜、引用例5に記載の技術常識や、周知技術(甲6、7)を参照することにより容易想到である旨主張し(平成30年1月9日付け意見書8頁11行?11頁6行)、また、引用発明1、4に対して、得られる組成物の引火性等を考慮して、引火性成分の含有割合や、噴射剤の含有割合を、引用発明3と同程度の範囲に調整することは、当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎず、本件発明1は、引用発明1、4において、引用例2、引用発明3、引用例5に記載の技術常識や、周知技術(甲6、7)を参照することにより容易想到である旨主張している(同意見書11頁7行?12頁23行)。

しかしながら、引用発明3における噴射剤は、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを用いることは想定されておらず、また、引用発明1、4における噴射剤に、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを採用する積極的な動機付けがあるとはいえないし、しかも、仮に、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを採用することができたとしても、本件発明1の構成に想到することは容易とはいえないことは、上述したとおりである。

したがって、異議申立人の上記主張は採用するできない。

(オ)まとめ
したがって、本件発明1は、引用発明1、3、4及び引用例2、5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに限定したものであるから、本件発明2は、本件発明1と同様に、引用発明1、3、4及び引用例2、5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エアゾール組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアゾール組成物は、利便性などの観点から種々の分野において利用されており、その目的や用途に応じた種々の成分を含有する原液と、噴射剤とにより構成され、霧状または泡沫状などの形態の吐出物を形成するものが知られている。
エアゾール組成物の或る種のものは、噴射剤として、極めて高い可燃性を有する液化石油ガス(LPG)などが用いられており、また原液には、エタノール等のアルコール類などの引火性を有する引火性成分が含有されており、例えば帯電防止剤用のエアゾール組成物においては、静電気による着火が生じるおそれがあるなど、その使用環境によっては危険を伴う場合がある。
【0003】
一方、エアゾール組成物においては、噴射剤として、例えばトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンなどの着火危険性の小さいヒドロフルオロカーボンを用いることが提案されているが(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)、原液の構成成分との関係からのエアゾール組成物の安全性については十分な検討がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特表2010-525114号公報
【特許文献2】 特開2009-227662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、原液が引火性成分を含有するものであっても、使用環境によらずに高い安全性をもって適用することのできるエアゾール組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエアゾール組成物は、1価の低級アルコール類よりなる引火性成分を含有する原液と、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有する噴射剤とよりなり、
エアゾール組成物100質量%における前記1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が38.2?39.975質量%であり、
エアゾール組成物100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が50?60質量%であることを特徴とする。
【0007】
本発明のエアゾール組成物において、前記原液における前記1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が79.95?95.50質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエアゾール組成物によれば、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが特定の含有割合で用いられており、このトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが着火危険性が極めて小さいものであることから、原液が引火性成分を含有するものであっても、使用環境によらずに高い安全性をもって適用することができる。
【0009】
また、本発明のエアゾール組成物においては、引火性成分の種類および含有割合、あるいは使用環境などに応じ、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの噴射剤における含有割合および噴射剤のエアゾール組成物における含有割合を適宜に調整することにより、適用に際してより一層高い安全性を得ることができる。
【0010】
更に、本発明のエアゾール組成物においては、噴射剤としてジメチルエーテル、液化石油ガスなどの可燃性ガスを併用する場合であっても、可燃性ガスを単独で用いる場合に比して高い完全性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のエアゾール組成物は、原液と、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンをエアゾール組成物全体100質量%において5?95質量%の割合で含有する噴射剤とにより構成されており、噴射バルブを備えた耐圧容器よりなるエアゾール容器に充填されることによってエアゾール製品とされるものである。
【0012】
本発明のエアゾール組成物を構成する原液は、引火性成分を必須成分として含有するものである。
ここに、本明細書中において、「引火性成分」とは、第4類引火性液体である。
【0013】
また、本発明のエアゾール組成物において、引火性成分は、当該エアゾール組成物においていかなる作用を有するものであってもよく、例えば使用目的あるいは使用用途との関係における有効成分、主たる有効成分に対する助剤、副次的な成分、または溶剤などとして作用するものであってもよい。
【0014】
引火性成分の具体例としては、例えば液状油脂類および1価の低級アルコール類などが挙げられる。
本発明のエアゾール組成物を構成する原液において、引火性成分は、1種類が単独で用いられてなる構成のものであってもよく、また2種類以上が組み合わされて用いられてなる構成のものであってもよい。
【0015】
引火性成分を構成する液状油脂類としては、例えば鉱物油(具体的には、例えばケロシン、軽油、流動パラフィン、流動イソパラフィン、琥珀油、クレオソート油等)、植物油(具体的には、例えばひまし油、亜麻仁油、サラダ油、コーン油、大豆油、ごま油、菜種油、ベニバナ油、ひまわり油、米油、パーム油、ヤシ油、葡萄油、小麦胚芽油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、グレープシードオイル、ホホバオイル、ローズヒップオイル、白樺油、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、オレンジ油等)、動物油(具体的には、例えば魚油、ラノリンオイル、スクワラン、卵黄油、肝油、馬油、ミンクオイル等)、合成油(具体的には、例えばエステル油等)などが挙げられ、好適な具体例としては、ケロシン、流動パラフィン、流動イソパラフィンなどが挙げられる。
また、引火性成分を構成する1価の低級アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノールなどが挙げられる。
【0016】
また、引火性成分としては、液状油脂類および1価の低級アルコール類の他、例えばアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、ブチルセロソルブ、トルエン、キシレン、フェノキシエタノール、サリチル酸メチルなどを用いることができる。
【0017】
原液における引火性成分の含有割合は、引火性成分の種類、引火性成分のエアゾール組成物中における使用目的などによっても異なるが、通常、1?100質量%とされる。
【0018】
特に、引火性成分が1価の低級アルコール類である場合においては、1価の低級アルコール類の含有割合は原液100質量%において30?100質量%であることが好ましく、更に好ましくは50?90質量%である。
【0019】
1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が過大である場合には、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを用いることによっても着火危険性を十分に低減させることができないおそれがある。一方、1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が過小である場合には、1価の低級アルコール類の作用による十分な効果、例えば有効成分としての効果、あるいは他の構成成分の溶解性向上効果が得られなくなるおそれがある。
また、特に1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が50質量%以上であって90質量%以下である場合には、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを用いることによる安全性向上効果が大きくなる。
【0020】
原液には、必須成分としての引火性成分の他、エアゾール組成物の使用目的や用途に応じて種々の任意成分が含有されていてもよい。その具体例としては、例えば殺虫剤、消臭剤、帯電防止剤、撥水剤、紫外線吸収剤、整髪剤(セット剤)、エモリエント剤などのエアゾール組成物の使用目的あるいは使用用途との関係における有効成分、水、界面活性剤、粉末(具体的には、例えばタルクパウダー、シリカパウダー、ナイロンパウダー、コーンスターチ、ゼオライトパウダー等)、その他が挙げられる。
【0021】
以上のような成分が含有されてなる原液の含有割合は、後述する噴射剤との関係から、エアゾール組成物全体100質量%において、通常、10?95質量%とされる。
【0022】
本発明のエアゾール組成物を構成する噴射剤としては、必須成分として、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが用いられており、このトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、その含有割合が、エアゾール組成物全体100質量%において5?95質量%とされる。
【0023】
本発明のエアゾール組成物においては、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを上記の特定の含有割合で用いることにより、原液が引火性成分を含有するものであるにも拘わらず、当該トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン自体の有する特性によって着火危険性を低減させることができる。
【0024】
噴射剤としては、適用する際の安全性の観点から、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを単独で用いることが好ましいが、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共に、例えば、ジメチルエーテル、液化石油ガス、および、窒素ガス、二酸化炭素ガス、亜酸化窒素ガス、圧縮空気等の圧縮ガスなどのその他のガスを組み合わせて用いることもできる。
トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと組み合わせて用いるその他のガスとしては、得られるエアゾール組成物における機能性の観点から、ジメチルエーテルおよび圧縮ガスが好ましい。
【0025】
噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共にその他のガスを選択的に組み合わせて用いることにより、適用する際の噴射形態(吐出物の形態)を、霧状または泡沫状などの適宜なものとすることができ、また、噴射形態以外にも、例えば噴射力(噴射圧)などの噴射特性を制御すること、および噴射剤の原液に対する溶解性を制御することなどができる。
具体的には、本発明のエアゾール組成物において、噴射形態を泡沫状とする場合には、その他のガスとして、主として液化石油ガスが用いられる。
また、噴射力(噴射圧)を制御する場合には、その他のガスとして、主として液化石油ガスおよび圧縮ガスが用いられる。
また、噴射剤の原液に対する溶解性を制御する場合には、その他のガスとして主としてジメチルエーテルが用いられる。
【0026】
噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共にその他のガスを組み合わせて用いる場合には、噴射剤において、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が10?99.9質量%であることが好ましい。
具体的に、その他のガスとして液化石油ガスおよび/またはジメチルエーテルを用いる場合、すなわち噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと液化石油ガスおよび/またはジメチルエーテルとを組み合わせて用いる場合には、噴射剤において、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が10?70質量%であることが好ましい。
また、その他のガスとして圧縮ガスを用いる場合、すなわち噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと圧縮ガスとを組み合わせて用いる場合には、噴射剤において、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が95.0?99.9質量%であることが好ましい。
【0027】
噴射剤におけるトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が過小、すなわちその他のガスの含有割合が過大である場合には、エアゾール組成物全体におけるトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合を所期の割合とすることができなくなるおそれがある。一方、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が過大である場合、すなわちその他のガスの含有割合が過小である場合には、その他のガスの作用による十分な効果が得られなくなるおそれがある。
【0028】
噴射剤の含有割合は、当該噴射剤の組成、原液における引火性成分の種類および必要とされる噴射特性などによっても異なるが、エアゾール組成物全体100質量%において、通常、5?95質量%とされる。
【0029】
具体的には、原液が液状油脂類よりなる引火性成分を含有し、噴射剤がトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンよりなる場合においては、当該噴射剤の含有割合は、エアゾール組成物全体100質量%において、5?40質量%であることが好ましい。
また、原液が液状油脂類よりなる引火性成分を含有し、噴射剤がトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン10?70質量%とジメチルエーテル30?90質量%とよりなる場合においては、当該噴射剤の含有割合は、エアゾール組成物全体100質量%において、30?95質量%であることが好ましい。
【0030】
また、原液が1価の低級アルコール類よりなる引火性成分30?100質量%を含有し、噴射剤がトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンよりなる場合においては、当該噴射剤の含有割合は、エアゾール組成物全体100質量%において、5?70質量%であることが好ましい。
原液が1価の低級アルコール類よりなる引火性成分30?100質量%を含有し、噴射剤の含有割合が5?70質量%である場合には、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを用いることによる安全性向上効果を十分に得ることができる。
【0031】
上記のような構成の本発明のエアゾール組成物によれば、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが特定の含有割合で用いられており、このトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが着火危険性が極めて小さいものであることから、原液が引火性成分を含有するものであっても、使用環境によらずに高い安全性をもって適用することができる。また、引火性成分がエアゾール組成物全体において大きな割合で含有されている場合、具体的には、引火性成分としての1価の低級アルコールのエアゾール組成物全体における含有割合が25質量%を超える場合、あるいは引火性成分としての液状油脂類のエアゾール組成物全体における含有割合が10質量%を超える場合であっても、適用する際の安全性を得ることができる。
また、本発明のエアゾール組成物においては、後述の実験例からも明らかなように、引火性成分として液状油脂類を含有する場合においては、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを用いることによる安全性向上効果が大きくなることから、極めて高い安全性を得ることができる。
【0032】
また、本発明のエアゾール組成物においては、引火性成分の種類および含有割合、あるいは使用環境などに応じ、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの噴射剤における含有割合および噴射剤のエアゾール組成物における含有割合を適宜に調整することにより、適用に際してより一層高い安全性を得ることができる。
更に、本発明のエアゾール組成物においては、噴射剤としてジメチルエーテル、液化石油ガスなどの可燃性ガスを併用する場合であっても、可燃性ガスを単独で用いる場合に比して高い完全性を得ることができる。
【0033】
本発明のエアゾール組成物は、例えば生活害虫駆除剤用、ハエ,蚊,ダニおよびノミ用殺虫剤用、消臭剤用、帯電防止剤用などして好適に用いることができ、その他にも、例えばヘアースプレー用、ボディフレグランス用、日焼け止め剤用、筋肉消炎剤用、ヘアスタイリング剤用、ヘアトリートメント剤用、クレンジング剤用などとしても用いることもできる。
【0034】
以下、本発明の実験例について説明する。
【0035】
<実験例1>
先ず、下記の(処方1)?(処方10)に係る原液処方に従って原液を調製した。
次いで、噴射剤として、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(ハネウェルジャパン(株)製)と共に、ジメチルエーテル(住友精化社製)および窒素ガス(東京高圧山崎(株)製)を用意し、(処方1)?(処方10)に係る原液処方によって得られた原液と、表1に示す組成の噴射剤とを、当該(処方1)?(処方10)に係る原液と噴射剤との充填割合に従って噴射バルブ装置を備えた耐圧容器よりなるエアゾール容器内に充填することにより、本発明に係るエアゾール製品を作製した。
得られた本発明に係るエアゾール製品のうちの(処方1)?(処方6)、(処方8)および(処方10)に係る原液処方によって得られた原液を含有する本発明に係るエアゾール製品は、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)のみを用いたものであり、(処方7)によって得られた原液を含有する本発明に係るエアゾール製品は、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)98質量%と窒素ガス2質量%とを用いたものであり、(処方9)によって得られた原液を含有する本発明に係るエアゾール製品は、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)40質量%とジメチルエーテル(DME)60質量%とを用いたものである。
一方、比較用のエアゾール組成物の噴射剤として、液化石油ガス、窒素ガス(東京高圧山崎(株)製)およびジメチルエーテル(住友精化社製)を用意し、(処方1)?(処方10)に係る原液処方によって得られた原液と、表1に示す組成の噴射剤とを、当該(処方1)?(処方10)に係る原液と噴射剤との充填割合に従って噴射バルブ装置を備えた耐圧容器よりなるエアゾール容器内に充填することにより、比較用エアゾール製品を作製した。
得られた比較用エアゾール製品のうちの(処方1)?(処方6)、(処方8)および(処方9)に係る原液処方によって得られた原液を含有する比較用エアゾール製品は、噴射剤として液化石油ガス(LPG)のみを用いたものであり、(処方7)によって得られた原液を含有する比較用エアゾール製品は、噴射剤として液化石油ガス(LPG)98質量%と窒素ガス2質量%とを用いたものであり、(処方10)によって得られた原液を含有する比較用エアゾール製品は、噴射剤として液化石油ガス(LPG)70質量%とジメチルエーテル(DME)30質量%とを用いたものである。
【0036】
ここに、(処方1)?(処方10)に係る原液は、各々、(処方1)?(処方4)、(処方8)および(処方10)に係る原液が引火性成分として1価の低級アルコールを含有するものであり、(処方5)?(処方7)および(処方9)に係る原液が引火性成分として液状油脂類を含有するものである。また、これらのうちの(処方4)に係る原液には引火性成分として1価の低級アルコールとしてのエタノールと共にサリチル酸メチルが含有されており、(処方5)に係る原液には引火性成分として液状油脂類としての流動イソパラフィンと共にフェノキシエタノールが含有されており、(処方6)に係る原液には引火性成分として液状油脂類としての流動パラフィンと共にフェノキシエタノールが含有されている。
【0037】
(爆発性試験)
試料としてのエアゾール製品および比較用エアゾール製品を25℃に設定した恒温槽に30分間浸漬し、その質量を測定した後、当該試料を爆発試験器に装着し、点火用プラグのスイッチを入れた状態において、1秒間噴射、2秒間噴射停止を繰り返して行い、爆発が生じた後の試料の質量を測定し、爆発試験器に装着する前の質量と、爆発が生じた後の質量とに基づいて爆発下限濃度〔g/l〕を測定する。
【0038】
(処方1)ヘアスプレー用エアゾール組成物
(原液処方)
・エタノール(「99%合成無変性エタノール」(日本アルコール販売(株)製)):79.95質量%
・(アクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド)コポリマーAMP(「プラスサイズL-9909B」(互応化学工業(株)製)):20.00質量%
・フェニルトリメチコン(「KF-56」(信越化学工業(株)):0.05質量%
(原液と噴射剤との充填割合)
・質量比(原液/噴射剤):50/50
【0039】
(処方2)ボディーフレグランススプレー用組成物
(原液処方)
・エタノール(「99%合成無変性エタノール」(日本アルコール販売(株)製))95.00質量%
・ミリスチン酸イソプロピル(日光ケミカルズ(株)製)2.00質量%
・香料(小川香料(株)製)3.00質量%
(原液と噴射剤との充填割合)
・質量比(原液/噴射剤):30/70
【0040】
(処方3)日焼け止めスプレー用組成物
・エタノール(「99%合成無変性エタノール」(日本アルコール販売(株)製))59.00質量%
・メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(「Uvinul MC80」(BASFジャパン(株)製))20.00質量%
・シクロペンタシロキサン(「SH-245」(東レ・ダウコーニング(株)製)20.00質量%
・香料(小川香料(株)製)1.00質量%
(原液と噴射剤との充填割合)
・質量比(原液/噴射剤):40/60
【0041】
(処方4)筋肉消炎剤用エアゾール組成物
(原液処方)
・エタノール(「99%合成無変性エタノール」(日本アルコール販売(株)製))95.50質量%
・L-メントール(高砂香料(株)製)2.00質量%
・サリチル酸メチル(エーピーアイコーポレーション(株)製)2.00質量%
・酢酸トコフェロール(「ビタミンEアセテート」(BASFジャパン(株)製))0.50質量%
(原液と噴射剤との充填割合)
・質量比(原液/噴射剤):40/60
【0042】
(処方5)ヘアートリートメントフォーム用エアゾール組成物
(原液処方)
・流動イソパラフィン(「パールリーム4」(日油(株)製)15.0質量%
・ジメチコン(「SH200 20cs」(東レ・ダウコーニング(株)製)5.00質量%
・トリイソステアリン酸PEG-20グリセリル(「TGI-20」日光ケミカルズ(株)製)3.00質量%
・ポリソルベート80(「TO-10V」(日光ケミカルズ(株))1.00質量%
・フェノキシエタノール(防腐剤)(四日市合成(株)製)0.5質量%
・精製水(東洋エアゾール工業(株))75.50質量%
(原液と噴射剤との充填割合)
・質量比(原液/噴射剤):94/6
【0043】
(処方6)クレンジングフォーム用エアゾール組成物
(原液処方)
・流動パラフィン(「CARNATION」(島貿易(株)製)50.00質量%
・トリイソステアリン酸PEG-20グリセリル(「TGI-20」日光ケミカルズ(株)製)4.00質量%
・ポリソルベート80(「TO-10V」(日光ケミカルズ(株))2.00質量%
・フェノキシエタノール(防腐剤)(四日市合成(株)製)0.5質量%
・精製水43.50質量%
(原液と噴射剤との充填割合)
・質量比(原液/噴射剤):94/6
【0044】
(処方7)生活害虫駆除用エアゾール組成物
(原液処方)
・ケロシン99.00質量%
・生活害虫駆除剤1.00質量%
(原液と噴射剤との充填割合)
・質量比(原液/噴射剤):80/20
【0045】
(処方8)消臭剤用エアゾール組成物
(原液処方)
・エタノール(「99%合成無変性エタノール」(日本アルコール販売(株)製))99.50質量%
・消臭剤0.50質量%
(原液と噴射剤との充填割合)
・質量比(原液/噴射剤):30/70
【0046】
(処方9)ハエ,蚊,ダニおよびノミ用殺虫剤用エアゾール組成物
(原液処方)
・ケロシン99.50質量%
・ハエ,蚊,ダニおよびノミ用殺虫剤0.50質量%
(原液と噴射剤との充填割合)
・質量比(原液/噴射剤):50/50
【0047】
(処方10)帯電防止剤用エアゾール組成物
(原液処方)
・エタノール(「99%合成無変性エタノール」(日本アルコール販売(株)製))84.00質量%
・カチオン性界面活性剤(帯電防止剤)(日光ケミカルズ(株)製)1.00質量%
・精製水15.00質量%
(原液と噴射剤との充填割合)
・質量比(原液/噴射剤):70/30
【0048】
【表1】

【0049】
表1において、「エアゾール製品中のHFO-1234ze含有割合(質量%)」の欄は、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)を用いた本発明に係るエアゾール製品における、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンのエアゾール組成物全体100質量%における含有割合を示す。また、「爆発下限濃度〔g/l〕」に係る「比較用エアゾール製品」の欄は、噴射剤として液化石油ガス(LPG)、あるいは液化石油ガス(LPG)と窒素ガスまたはジメチルエーテル(DME)とを用いた比較用エアゾール製品における爆発下限濃度を示し、当該「爆発下限濃度〔g/l〕」に係る「エアゾール製品」の欄は、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)を用いた本発明に係るエアゾール製品における爆発下限濃度を示す。更に、「爆発下限濃度比」の欄には、噴射剤として液化石油ガス(LPG)、あるいは液化石油ガス(LPG)と窒素ガスまたはジメチルエーテル(DME)とを用いた場合の爆発下限濃度に対する、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)を用いた場合の爆発下限濃度の比、すなわち爆発下限濃度比(本発明に係るエアゾール製品の爆発下限濃度/比較用エアゾール製品の爆発下限濃度)を示す。なお、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)を用いた本発明に係るエアゾール製品において、(処方7)では窒素ガスを併用し、また(処方9)ではジメチルエーテル(DME)を併用した。
また、同表において、爆発性試験において爆発が生じなかった場合を「-」の符号を付した。すなわち、(処方5)、(処方6)および(処方7)においては、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)を用いた場合、すなわち本発明に係るエアゾール製品には爆発が生じなかった。
【0050】
表1の結果から、原液に引火性成分が含有されている場合においては、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを特定の含有割合で用いることにより、引火性成分がエアゾール組成物全体において大きな割合で含有されている場合であっても、爆発が生じなくなる、あるいは爆発下限濃度が大きくなり、適用する際の安全性が大きくなることが確認された。具体的に、本発明に係るエアゾール製品における引火性成分のエアゾール組成物全体に対する割合は、各々、処方1に係る引火性成分としてのエタノールの含有割合は39.975質量%、処方2に係る引火性成分としてのエタノールの含有割合は28.5質量%、処方3に係る引火性成分としてのエタノールの含有割合は23.6質量%、処方4に係る引火性成分としてのエタノールの含有割合は38質量%(引火性成分のエアゾール組成物全体における含有割合は38.8質量%)、処方5に係る引火性成分としての流動イソパラフィンの含有割合は14.1質量%(引火性成分のエアゾール組成物全体における含有割合は14.57質量%)、処方6に係る引火性成分としての流動パラフィンの含有割合は47質量%、処方7に係る引火性成分としてのケロシンの含有割合は79.2質量%、処方8に係る引火性成分としてのエタノールの含有割合は29.85質量%、処方9に係る引火性成分としてのケロシンの含有割合は49.75質量%、処方10に係る引火性成分としてのエタノールの含有割合は58.8質量%である。
ここに、爆発下限濃度比(本発明に係るエアゾール製品の爆発下限濃度/比較用エアゾール製品の爆発下限濃度)によっては、その値が大きくなるに従って適用する際の安全性が大きくなることが示される。具体的には、例えば処方1においては、本発明に係るエアゾール製品は、爆発下限濃度に達するまでに要する噴射量が比較用エアゾール製品の噴射量の3.2倍に相当するものであり、すなわち、本発明に係るエアゾール製品は、比較用エアゾール製品に比して爆発限界濃度に至るまでの噴射量が大きく、よって安全性を有するものであることが理解される。
【0051】
また、特に引火性成分として液状油脂類を含有する場合においては、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを特定の含有割合で用いることによって極めて大きな安全性が得られることが確認された。
更に、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共に窒素ガスあるいはジメチルエーテル(DME)を用いた場合であっても、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを用いることによる安全性向上効果が得られることが確認された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1価の低級アルコール類よりなる引火性成分を含有する原液と、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有する噴射剤とよりなり、
エアゾール組成物100質量%における前記1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が38.2?39.975質量%であり、
エアゾール組成物100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が50?60質量%であることを特徴とするエアゾール組成物。
【請求項2】
前記原液における前記1価の低級アルコール類よりなる引火性成分の含有割合が79.95?95.50質量%であることを特徴とする請求項1に記載のエアゾール組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-26 
出願番号 特願2016-10503(P2016-10503)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 川端 修
日比野 隆治
登録日 2017-01-06 
登録番号 特許第6069547号(P6069547)
権利者 東洋エアゾール工業株式会社
発明の名称 エアゾール組成物  
代理人 大井 正彦  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  
代理人 大井 正彦  

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