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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B |
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管理番号 | 1338149 |
異議申立番号 | 異議2017-701023 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-10-26 |
確定日 | 2018-02-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6120188号発明「車両用の複合ハーネス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6120188号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6120188号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成24年9月28日(国内優先権主張 平成24年4月20日)に出願した特願2012-215636号の一部を平成26年4月30日に新たな特許出願とした特願2014-93255号の一部を平成26年7月22日に新たな特許出願とした特願2014-148398号の一部を平成27年8月3日に新たな特許出願としたものであって、平成29年4月7日にその特許権の設定登録(特許公報発行日平成29年4月26日)がされ、その後、その特許に対し、平成29年10月26日に特許異議申立人中村理奈(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6120188号の請求項1?3の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 中心導体の周囲を絶縁体で被覆して構成される2本の電源線と、 中心導体の周囲を絶縁体で被覆し、前記電源線の外径より小さい外径で構成される2本の信号線が熱可塑性樹脂からなる内部シースで被覆されてなり、車両の走行中の車輪の回転速度を測定するためのABSセンサに接続するABSセンサ用ケーブルと、 を有し、 前記2本の信号線を一括した前記ABSセンサ用ケーブルを前記2本の電源線の間の谷間に配置したものに対し、共通の外部シースを断面視で円形状となるようにシース厚を不均一に押出成形することで被覆し、互いに接した前記2本の電源線と、前記内部シースが前記2本の電源線と接触した前記ABSセンサ用ケーブルとを一体化すると共に、 前記2本の電源線は、前記外部シースの端部から延出されていると共に、 前記ABSセンサ用ケーブルは、前記外部シースの端部から前記2本の信号線が前記内部シースで被覆されている状態で、前記2本の電源線が前記外部シースの端部から延出されている長さよりも長く延出されており、 前記内部シースの一端が前記ABSセンサのセンサ部と樹脂モールドにより一体化されている ことを特徴とする車両用の複合ハーネス。 【請求項2】 前記2本の電源線は、車両の停車後に車輪の回転を抑止するための電動パーキングブレーキ機構に接続する電動パーキングブレーキ用ケーブルである、 請求項1記載の車両用の複合ハーネス。 【請求項3】 前記内部シースは、シランカップリング剤を添加した熱可塑性ウレタンに架橋処理を行ったものである、 請求項1又は2記載の車両用の複合ハーネス。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠として次の甲第1号証?甲第6号証を提出し、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 甲第1号証:特開2006-351322号公報 甲第2号証:特開2003-77582号公報 甲第3号証:特開2002-175725号公報 甲第4号証:特開2003-137081号公報 甲第5号証:特開2008-209197号公報 甲第6号証:特開2010-146755号公報 第4 甲各号証について 1.甲第1号証の記載、甲1発明 甲第1号証には、図面とともに次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審により付した。 「【0001】 本発明は、自動車などに使用され、良好な引張特性が要求されるケーブルに関するものである。」 「【0021】 図1に示すように、本実施の形態に係るケーブル10は、絶縁層を有する導体コア11の外周に、2層構造の被覆層を設けたものである。この被覆層は、複数本の金属線材及び繊維材を交互に織り込み、編み込んでなる交織編組層13と、その交織編組層13の外周に設けられ、ゴム材料からなるシース層15で構成される。シース層15の内周表層部15aは交織編組層13の表面網目部19に食い込んでおり、交織編組層13とシース層15は一体に設けられている。また、導体コア11と交織編組層13の間隙には介在Mが設けられる。 【0022】 導体コア11は、図2に示すように、複数本(図2中では2本を図示)の電源線(電力線)21と複数本(図2中では2本を図示)の信号線25を撚り合わせてなる。各電源線21は、導体22を絶縁層23で被覆したものである。各信号線25は、導体27を絶縁層28で被覆してなる素線26を2本撚り合わせ、その対撚線を編組シールド29で被覆したものである。導体22,27の構成材としては、例えばSn含有銅合金(Cu-0.15?0.7wt%Sn合金)、絶縁層23,28の構成材としては、例えば架橋ポリエチレンが挙げられる。」 「【0032】 以上より、本実施の形態によれば、シース層15の内側に、シース層15と複合、一体化された交織編組層13を設けることで、耐環境性、引張強度、耐屈曲性、及び電磁波シールド性が良好で、かつ、高い信頼性を有するケーブル10を得ることができる。本実施の形態に係るケーブル10は、バネ下の電装部品に電力を供給すると共に、信号を伝送するためのケーブル、例えば、ABS用ケーブルや電動ブレーキ用ケーブルとして好適であり、その他にも、耐環境性、引張強度、及び耐屈曲性が要求されるケーブルに対して全て適用可能である。」 以上の記載(特に、下線部)、及び、図面から、次のことがいえる。 【0021】、【0022】、【0032】の上記下線部の記載によれば、甲第1号証には、「ケーブル10」に関する発明が記載されており、該ケーブル10は、「絶縁層を有する導体コア11の外周に、2層構造の被覆層を設けたケーブル10であって、 前記被覆層は、交織編組層13とシース層15で構成され、導体コア11と交織編組層13の間隙には介在Mが設けられ、 導体コア11は、2本の電源線21と2本の信号線25を撚り合わせてなり、 各電源線21は、導体22を絶縁層23で被覆したものであり、 各信号線25は、導体27を絶縁層28で被覆してなる素線26を2本撚り合わせ、その対撚線を編組シールド29で被覆したものである、 ABS用ケーブルとして好適なケーブル10」である。 また、【図2】によれば、「前記素線26は、前記電源線21の外径より小さい外径で構成されるもの」といえ、さらに、「前記シース層15は、断面視で円形状である」といえる。 したがって、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 [甲1発明] 「絶縁層を有する導体コア11の外周に、2層構造の被覆層を設けたケーブル10であって、 前記被覆層は、交織編組層13とシース層15で構成され、導体コア11と交織編組層13の間隙には介在Mが設けられ、 導体コア11は、2本の電源線21と2本の信号線25を撚り合わせてなり、 各電源線21は、導体22を絶縁層23で被覆したものであり、 各信号線25は、導体27を絶縁層28で被覆してなる素線26を2本撚り合わせ、その対撚線を編組シールド29で被覆したものであり、 前記素線26は、前記電源線21の外径より小さい外径で構成されるものであり、 前記シース層15は、断面視で円形状である、 ABS用ケーブルとして好適なケーブル10。」 2.甲第2号証の記載 甲第2号証には、図面とともに次の技術事項が記載されている。 「【0022】この2分割ストッパー25は図1に示すように、電源線および信号線スリーブ端子22a,22bの接続部23a,23bの前端部を保持する。従って、電源線および信号線スリーブ端子22a,22bの受入部24a,24bは2分割ストッパー25から前方に突出している。上述したように、信号線スリーブ端子22bの受入部24bは、電源線スリーブ端子22aの受入部24aよりも長く形成されているため、2分割ストッパー25からの突出長さは信号線スリーブ端子22bの方が長い。2分割ストッパー25は、インナーカラー21と同様に、銅、アルミ合金、ステンレス、マグネシウム合金などの金属から形成される。」 「【0037】3)電源線2の絶縁体6を所定長さはぎ取り導体5をむき出すと共に、シールドケーブル10から信号線3を引き出してその絶縁体8を所定長さはぎ取り、導体7をむき出す(図7)。」 3.甲第3号証の記載 甲第3号証には、図面とともに次の技術事項が記載されている。 「【要約】 【課題】本発明は、主としてNC加工等の制御ケーブルに使用され、信号及び電源線入り複合ケーブルに関し、従来の複合ケーブル1′は、フラットケーブル3′の長さが電源線の長さとほぼ同等か或いは、電源線2′の方がフラットケーブル3′の長さよりも短くなっている。そのため、ケーブルの端末加工の際には、電源線2′の長さを基準にする為、高価な信号用フラットケーブル3′を切断しなければならず、無駄が多かった。」 4.甲第4号証の記載 甲第4号証には、図面とともに次の技術事項が記載されている。 「【0003】このブレーキ装置は、ソフトウエアによる対応でアンチロック制御、自動ブレーキ制御などの高度な車両制御やブレーキフィーリングの調整が行える。また、車両制御用のアクチュエータを共用してパーキングブレーキをかけることもできる。」 「【0017】電力供給源5と駆動制御装置6は、2芯の電力線51で接続され、電力線51には直流電流が通電される。車両運動制御装置4と駆動制御装置6は2芯の信号線52で接続され、例えばCAN(Control Area Network)のようなデジタルの双方向多重通信で信号伝送される。信号を多重化することで、2芯の信号線のみで、車両運動制御装置4の信号を駆動制御装置6へ伝送できるだけでなく、駆動制御装置に設置された複数のセンサの情報を車両運動制御装置4へ伝送することが可能となる。電力線51と信号線52における、ばね上とばね下を接続する部分は、同一の被覆で覆われる屈曲ケーブル53を構成する。 【0018】図2に屈曲ケーブル53の断面図を示す。電力線51は、2本の芯線81,82とそれぞれの外皮83,84で構成されるツイストペア線である。信号線52は,2本の芯線91,92と、絶縁層93と、外皮94から構成される同軸線である。電力線51と信号線52を、屈曲性と強度に優れた外皮99が覆っており、屈曲ケーブル53を構成する。」 「【0025】また、上記の実施例においては、車輪速センサ33をアクチュエータ7と一体構成としたが、車輪速センサ33を別体としてもよい。このとき、車輪速センサ33のケーブルは駆動制御装置6へ接続される。このとき、車輪速センサ33と駆動制御装置6を接続するケーブルは、屈曲性に優れた屈曲ケーブルである必要はない。これによって、ばね下のレイアウトの制約上、車輪速センサとアクチュエータの一体構成が困難な場合においても、高価な屈曲ケーブルの本数が1本になり、安価なブレーキ装置を提供することが可能となる。」 5.甲第5号証の記載 甲第5号証には、図面とともに次の技術事項が記載されている。 「【0005】 ところで、この種の車輪速センサPは、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)等に組み込まれるため、高い耐久性を要求される上に、車両の車輪周りに設置され、通常の雨水のみならず、道路からの飛散水にも晒されるため、その防水性に高いものが要求される。 このため、上記樹脂被覆4の成形時、ケーブル6のシースと同質のハーネスシーリング部品をケーブル6が樹脂被覆4に挿し入れ埋設される界面部分にインサート成形し、このハーネスシーリング部品によってケーブル6と樹脂被覆4の界面を伝っての浸水を防止している(特許文献3 図1参照)。 【特許文献3】特開2006-78222号公報」 「【0022】 このホルダー20に取付けられた検出部aのリード片12に可撓芯線6aが半田付けによって接続される。そのリード片12に可撓芯線6aが接続された後、図6に示すように、金型Dのキャビティ内にその検出部a付きホルダー20及び出力ケーブル6をセットするとともに、押えピンcをホルダー20の裏面及び係止具8の表面に当てがって(孔27に嵌めて)、ホルダー20等を位置決め固定する。 その状態において、樹脂注入口Tから溶融樹脂bを金型のキャビティ内に注入し、ホールIC11、リード片12、ホルダー20の全体、出力ケーブル6及び取付金具10の一部を埋設する樹脂被覆4を射出成形して回転検出センサPを得る。取付金具10は樹脂被覆4によって構成することもできる(特許文献2 図1参照)。 【0023】 その射出成形の際、樹脂注入口Tは、その樹脂被覆されるケーブル6のシース6c端面からそのシース6cの長さ方向にシース6cと樹脂被覆4との密着性を保つことができる上記最低密着長さL以上離れた位置とする。 この最低密着長さL以上離れた樹脂注入口Tとすることにより、仮に、その樹脂被覆(モールド)の際、その注入口Tに当る部分の樹脂bが固化流動停止した状態になる前に、成型機の保圧(注入圧)が切られて、溶融状態の樹脂bが注入口Tから逆流し、その注入口部分の樹脂に、反り、ヒケやボイドeが生じても(図6符号eが指す一点鎖線部分参照)、検出部aまでの樹脂被覆4は、その検出部aへの浸水を阻止すべきシース6cとの十分な密着距離Lを有して十分な水密性を確保しているため、その検出部aへの浸水の恐れは少ない。」 6.甲第6号証の記載 甲第6号証には、図面とともに次の技術事項が記載されている。 「【0015】 第1被覆部31は、従来のABSセンサーケーブルの内部シースに相当するものであるが、本実施形態においては、例えばポリオレフィン系樹脂またはそれを主体とする樹脂組成物により形成される。第1被覆部31を形成する樹脂組成物の具体例としては、機械的強度が大きく耐摩耗性に優れるエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とし、エチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体(ボンダイン(登録商標))をエチレン酢酸ビニル共重合体100重量部に対して1?5重量部含む樹脂組成物が挙げられる。本実施形態の場合、第1被覆部31を形成する樹脂組成物に抗張力向上の改質剤であるボンダインを含むことにより耐摩耗性が向上し、後述する第2被覆部32などを含む難燃ケーブル10全体として優れた耐摩耗性を有する。 【0016】 第2被覆部32は、従来のABSセンサーケーブルの外部シースに相当するものであるが、本実施形態においては、例えば熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分とする樹脂組成物または当該樹脂組成物の架橋体により形成される。」 「【0019】 また、第1被覆部31および第2被覆部32を形成する樹脂組成物には、酸化防止剤、劣化防止剤、着色剤、架橋助剤、粘着付与剤、滑剤、軟化剤、充填剤、加工助剤、カップリング剤などを添加することもできる。」 「【0023】 架橋のために架橋助剤を添加することは必要ではないが、架橋効率を上げるために1?10重量部添加した方が望ましい。架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N’-メタフェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジメタクリレート、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛などを例示できる。 粘着付与剤としては、クマロン・インデン樹脂、ポリテルペン樹脂、キシレンホルムアルデヒド樹脂、水素添加ロジンなどを例示できる。その他、滑剤として脂肪酸、不飽和脂肪酸、それらの金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステルなど、軟化剤として鉱物油、植物油、可塑剤など、充填剤として炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、酸化亜鉛、酸化モリブデンなど、カップリング剤としては、前記のシランカップリング剤以外にイソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネートなどのチタネート系カップリング剤などが必要に応じて添加することができる。」 第5 当審の判断 1.本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のことかいえる。 甲1発明の「導体22を絶縁層23で被覆した」「2本の電源線21」は、本件発明1の「中心導体の周囲を絶縁体で被覆して構成される2本の電源線」に相当するものである。 したがって、本件発明1と甲1発明とは「中心導体の周囲を絶縁体で被覆して構成される2本の電源線」を有する点で一致する。 甲1発明の「導体27を絶縁層28で被覆してなる素線26を2本撚り合わせ、その対撚線を編組シールド29で被覆した」「信号線25」は、「ABS用ケーブルとして好適なケーブル10」の信号線であり、ABS用ケーブルの信号線の信号とは、ABSセンサからの信号のことであるのは明らかであるから、甲1発明の上記信号線25は、「車両の走行中の車輪の回転速度を測定するためのABSセンサに接続するABSセンサ用ケーブル」といい得るものである。 また、「編組シールド29」は、ケーブル10の内部の対撚線を被覆する「内部シース」といい得るものである。 さらに、甲1発明における、2本の「素線26」は、「電源線21の外径より小さい外径で構成されるものである」から、本件発明1の「電源線の外径より小さい外径で構成される2本の信号線」に相当する。 したがって、甲1発明の上記信号線25は、本件発明1の「中心導体の周囲を絶縁体で被覆し、前記電源線の外径より小さい外径で構成される2本の信号線が熱可塑性樹脂からなる内部シースで被覆されてなり、車両の走行中の車輪の回転速度を測定するためのABSセンサに接続するABSセンサ用ケーブル」とは、「中心導体の周囲を絶縁体で被覆し、前記電源線の外径より小さい外径で構成される2本の信号線が内部シースで被覆されてなり、車両の走行中の車輪の回転速度を測定するためのABSセンサに接続するABSセンサ用ケーブル」である点で共通する。 よって、本件発明1と甲1発明とは、「中心導体の周囲を絶縁体で被覆し、前記電源線の外径より小さい外径で構成される2本の信号線が内部シースで被覆されてなり、車両の走行中の車輪の回転速度を測定するためのABSセンサに接続するABSセンサ用ケーブル」を有する点では共通するといえる。 甲1発明の「絶縁層を有する導体コア11の外周に、2層構造の被覆層を設けたケーブル10であって、 前記被覆層は、交織編組層13とシース層15で構成され、導体コア11と交織編組層13の間隙には介在Mが設けられ、 導体コア11は、2本の電源線21と2本の信号線25を撚り合わせてな」る、「ABS用ケーブルとして好適なケーブル10」は、「素線26を2本撚り合わせ」た「信号線25」、「被覆層」、「ケーブル10」が、それぞれ、本件発明1の「前記2本の信号線を一括した前記ABSセンサ用ケーブル」、「共通の外部シース」、「車両用の複合ハーネス」に相当し、甲1発明の「信号線25」は、2本の電源線21の間の谷間に配置したものであることは明らかであり、「被覆層」を構成するシース層15は、「断面視で円形状である」から、本件発明1の「前記2本の信号線を一括した前記ABSセンサ用ケーブルを前記2本の電源線の間の谷間に配置したものに対し、共通の外部シースを断面視で円形状となるようにシース厚を不均一に押出成形することで被覆し、互いに接した前記2本の電源線と、前記内部シースが前記2本の電源線と接触した前記ABSセンサ用ケーブルとを一体化する」「車両用の複合ハーネス」とは、「前記2本の信号線を一括した前記ABSセンサ用ケーブルを前記2本の電源線の間の谷間に配置したものに対し、共通の外部シースを断面視で円形状となるように被覆し、前記2本の電源線と、前記ABSセンサ用ケーブルとを一体化する」「車両用の複合ハーネス」である点で共通し、本件発明1と甲1発明とはこの点で共通する。 甲1発明において、「2本の電源線21」が、被覆層の端部から延出されているのは明らかであるから、本件発明1と甲1発明とは、「前記2本の電源線は、前記外部シースの端部から延出されている」点で一致する。 以上のことから、本件発明1と甲1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 [一致点] 中心導体の周囲を絶縁体で被覆して構成される2本の電源線と、 中心導体の周囲を絶縁体で被覆し、前記電源線の外径より小さい外径で構成される2本の信号線が内部シースで被覆されてなり、車両の走行中の車輪の回転速度を測定するためのABSセンサに接続するABSセンサ用ケーブルと、 を有し、 前記2本の信号線を一括した前記ABSセンサ用ケーブルを前記2本の電源線の間の谷間に配置したものに対し、共通の外部シースを断面視で円形状となるように被覆し、前記2本の電源線と、前記ABSセンサ用ケーブルとを一体化すると共に、 前記2本の電源線は、前記外部シースの端部から延出されている、 車両用の複合ハーネス。 [相違点] 相違点1 「内部シース」が、本件発明1では、「熱可塑性樹脂からなる」ものであるのに対し、甲1発明では、「熱可塑性樹脂からなる」ものではない「編組シールド29」である点。 相違点2 「外部シース」が、本件発明1では、「シース厚を不均一に押出成形することで被覆し」たものであるのに対し、甲1発明では、「シース厚を不均一に押出成形することで被覆し」たものではない点。 相違点3 「2本の電源線」が、本件発明1では、「互いに接した」ものであるのに対し、甲1発明では、不明である点。 相違点4 「ABSセンサ用ケーブル」が、本件発明1では、「内部シースが前記2本の電源線と接触した」ものであるのに対し、甲1発明では、不明である点。 相違点5 本件発明1では、「前記ABSセンサ用ケーブルは、前記外部シースの端部から前記2本の信号線が前記内部シースで被覆されている状態で、前記2本の電源線が前記外部シースの端部から延出されている長さよりも長く延出されて」いるのに対し、甲1発明では、そのような特定はされていない点。 相違点6 本件発明1では、「前記内部シースの一端が前記ABSセンサのセンサ部と樹脂モールドにより一体化されている」のに対し、甲1発明では、そのような特定はされていない点。 (2)判断 上記相違点1について検討する。 シールドとは、信号線などを金属などの導電材料で被覆することで、電磁波ノイズ対策等をすることを目的として設けられるものであり、甲1発明における「編組シールド29」も、導電材料で構成されるものであることは当業者には明らかなことである。 一方、熱可塑性樹脂が導電材料ではないことも当業者には明らかなことである。 したがって、甲1発明における、導電材料で構成される「編組シールド29」を、導電材料ではない熱可塑性樹脂からなるシースとすると、シールドの目的である電磁波ノイズ対策等が達成できないこととなるのは明らかであるから、甲1発明における「編組シールド29」を熱可塑性樹脂からなるシースに代えることには阻害要因があり、たとえABSセンサケーブルの内部シースとして熱可塑性樹脂を用いることが甲第6号証に記載されるように公知の技術であったとしても、甲1発明において、編組シールド29に代えて熱可塑性樹脂からなるシースを用いることを当業者が容易に想到し得るということはできない。 よって、その他の相違点2?6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上述した本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-02-16 |
出願番号 | 特願2015-153331(P2015-153331) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01B)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 和田 財太 |
特許庁審判長 |
新川 圭二 |
特許庁審判官 |
千葉 輝久 山澤 宏 |
登録日 | 2017-04-07 |
登録番号 | 特許第6120188号(P6120188) |
権利者 | 日立金属株式会社 |
発明の名称 | 車両用の複合ハーネス |