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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 発明同一  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1338152
異議申立番号 異議2017-701107  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-24 
確定日 2018-02-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6134364号発明「ノロウイルスワクチン製剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6134364号の請求項1?19に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6134364号の請求項1?19に係る特許(以下、「本件特許」ということがある。)についての出願は、平成19年 9月28日(パリ条約による優先権主張 2006年 9月29日 (US)アメリカ合衆国 2007年 9月18日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2009-530639号の一部を新たな特許出願とした特願2013-131559号の一部を、さらに新たな特許出願として平成27年10月 5日に出願されたものであって、平成29年 4月28日にその特許権の設定登録がなされ、同年5月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、特許異議申立人 増田昭雄(以下、「申立人」ということがある。)により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6134364号の請求項1?19の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、特許第6134364号の請求項1?19の特許に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件特許発明1」等ということがある。また、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。)。

「【請求項1】
2つ以上のノロウイルス抗原および粘膜付着剤を含む組成物であって、少なくとも1つのノロウイルス抗原が遺伝子群Iからの抗原であり、少なくとも1つのノロウイルス抗原が遺伝子群IIからの抗原であり、各遺伝子群の抗原の量が約10μg?約100μgである、組成物。

【請求項2】
前記ノロウイルス抗原が、ノロウイルスウイルス様粒子(VLP)を含む、請求項1に記載の組成物。

【請求項3】
前記ノロウイルスVLPが、カプシドタンパク質を含む、請求項1に記載の組成物。

【請求項4】
前記カプシドタンパク質がVP1および/またはVP2である、請求項3に記載の組成物。

【請求項5】
前記VLPが1価VLPである、請求項2に記載の組成物。

【請求項6】
前記VLPが多価VLPである、請求項2に記載の組成物。

【請求項7】
前記遺伝子群IがGI.1であり、前記遺伝子群IIがGII.4である、請求項1に記載の組成物。

【請求項8】
前記粘膜付着剤が、キトサン、キトサン塩、キトサン塩基、キトサングルタメート、多糖、グリコサミノグリカン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸コンドロイチン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロナン、炭水化物ポリマー、ペクチン、アルギン酸塩、グリコーゲン、アミラーゼ、アミロペクチン、セルロース、キチン、スタキオース、ウヌリン、デキストリン、デキストラン、ポリ(アクリル酸)の架橋誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ムチン、ムコ多糖、セルロース誘導体、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、レクチン、線毛タンパク質およびデオキシリボ核酸からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。

【請求項9】
前記粘膜付着剤が炭水化物ポリマーである、請求項8に記載の組成物。

【請求項10】
アジュバントをさらに含む、請求項1に記載の組成物。

【請求項11】
前記アジュバントが、トール様受容体(TLR)作用薬、一リン酸化脂質A(MPL)、合成脂質A、脂質Aミメティックまたは類似体、アルミニウム塩、サイトカイン、サポニン、ムラミルジペプチド(MDP)誘導体、CpGオリゴ、グラム陰性菌のリポ多糖(LPS)、ポリホスファゼン、乳剤、ビロゾーム、コクリエート、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLG)微粒子、ポロキサマー粒子、微粒子、およびリポソームからなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。

【請求項12】
前記アジュバントがトール様受容体(TLR)作用薬である、請求項11に記載の組成物。

【請求項13】
前記アジュバントがMPLである、請求項11に記載の組成物。

【請求項14】
糖をさらに含む、請求項1に記載の組成物。

【請求項15】
前記組成物中のVLPの凝集割合が、12か月間にわたって測定した場合に、一定のままであるかまたは低減する、請求項2に記載の組成物。

【請求項16】
対象において前記少なくとも1つのノロウイルス抗原に対する免疫反応を生じるための医薬組成物である、請求項1に記載の組成物。

【請求項17】
粘膜、鼻腔内、舌下、経口、直腸、膣内、筋肉内、静脈内、皮下、皮内、真皮下、および経皮の投与経路からなる群から選択される経路によって対象に投与される、請求項16に記載の医薬組成物。

【請求項18】
前記投与経路が筋肉内または鼻腔内である、請求項17に記載の医薬組成物。

【請求項19】
前記投与経路が鼻腔内であり、吸入器を用いて投与される、請求項18に記載の医薬組成物。」

第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1.申立理由の概要
特許異議申立人は、甲第1?11号証を提出し、本件特許は、以下の理由1?6により、取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(新規性)
本件特許発明1?6、8?10、14?18は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

(2)申立理由2(進歩性)
本件特許発明1、16、17は、
・甲第2号証に記載の発明と、甲第4号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、
・甲第3号証に記載の発明に基づいて、
あるいは、
・甲第4号証に記載の発明並びに甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

本件特許発明2、3は、
・甲第2号証に記載の発明と、甲第4号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、
あるいは、
・甲第3号証に記載の発明に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

本件特許発明4、9は、
・甲第2号証に記載の発明と、甲第1号証、甲第4号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

本件特許発明5、6は、
・甲第1号証に記載の発明に基づいて、
あるいは、
・甲第2号証に記載の発明と、甲第1号証、甲第4号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

本件特許発明7、14、15は、
・甲第1号証に記載の発明に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

本件特許発明8は、
・甲第2号証に記載の発明と、甲第1号証、甲第4号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、
・甲第3号証に記載の発明及び甲第7号証に記載された事項に基づいて、
あるいは、
・甲第4号証に記載の発明並びに甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

本件特許発明10、18は、
・甲第3号証に記載の発明に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

本件特許発明11は、
・甲第1号証に記載の発明と、甲3号証に記載された事項に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

本件特許発明12は、
・甲第1号証に記載の発明と、甲9号証及び甲第10号証に記載された事項に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

本件特許発明19は、
・甲第1号証に記載の発明に基づいて、
あるいは、
・甲第3号証に記載の発明に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

(3)申立理由3(拡大先願)
本件特許発明1?19は、甲第11号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反しており、同法第113条第2号に該当する。

(4)申立理由4(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1?19に記載の発明を当業者がその実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

(5)申立理由5(サポート要件)
本件特許発明1?19は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

(6)申立理由6(明確性)
本件特許の請求項1、3に記載された発明は不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

2.証拠方法
(1)甲第1号証:国際公開第2005/030806号
(なお、申立人は、甲第1号証として特表2007-537137号公報を提出しているが、その公表日(2007年12月20日)及び申立人の主張からみて、対応する国際公開第2005/030806号の内容を示すものとして当該公表公報を提出したことが明らかであるため、当該国際公開を甲第1号証として取り扱う。)

(2)甲第2号証:Journal of Clinical Microbiology,July 2002,p.2459-2465

(3)甲第3号証:国際公開第2005/032457号

(4)甲第4号証:国際公開第2006/074303号
(なお、申立人は、甲第4号証として特表2008-526870号公報を提出しているが、その公表日(2008年7月24日)及び申立人の主張からみて、対応する国際公開第2006/074303号の内容を示すものとして当該公表公報を提出したことが明らかであるため、当該国際公開を甲第4号証として取り扱う。)

(5)甲第5号証:モダンメディア 第50巻第6号 2004年〔話題の感染症〕133-142頁

(6)甲第6号証:Gastroenterology 1999年、vol.117,No.1、p.40-48

(7)甲第7号証:European Journal of Pharmaceutical Sciences 14(2001)201-207

(8)甲第8号証:Journal of Controlled Release 70(2001)267-276

(9)甲第9号証:Journal of General Virology(2006),87,909-919

(10)甲第10号証:JOURNAL OF VIROLOGY,Nov.1992,p.6527-6532

(11)甲第11号証:国際公開第2007/081447号(PCT/US2006/045280)
(なお、申立人は、甲第11号証として特表2009-516529号公報(特願2008-542449号)を提出して、本件特許発明が特許法第29条の2の規定に違反する旨を主張しているが、この申立人が証拠として提出した特願2008-542449号は国際特許出願(特許法第184条の3第2項)であるところ、この出願を先の出願とする特許法第29条の2の規定の適用においては同法第184条の13の規定が適用されることが明らかである。したがって、申立人が証拠として提出した出願に対応する国際特許出願PCT/US2006/045280を先の出願として取り扱い、その国際公開である国際公開第2007/081447号を甲第11号証として取り扱う。)

(以下、「甲第1号証」ないし「甲第11号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲11」という。また、上記甲11に係る国際特許出願PCT/US2006/045280を「先願11」という。)

第4 甲号証の記載事項
甲1?甲11には、それぞれ以下の記載がある。甲1?甲4、甲6?甲11は英語であるため、日本語訳文を記載する。

1.甲1
(1-1)([006]段落の第3行?末行)
「一層詳細には、本発明は、ノロウイルスカプシドタンパク質エピトープを同定し且つカプシドタンパク質エピトープのアミノ酸組成を特定する方法を供する。本発明の組成物は、免疫原、ワクチン、抗ウイルス治療剤、及び診断試薬として使用することを発見する。」

(1-2)([035]段落の第3行?末行)
「本明細書中の「MS抗体」と命名されたこれらの抗体は、例えば、モノクローナル抗体(MAb)、例えば、NV54.6、NV72.10、及びSMV61.21が挙げられる。・・・MS抗体は、ファージディスプレースクリーンにより同定されるいくつかのペプチド(本明細書中、用語MSペプチド)を結合することが示されている。MSペプチドは、免疫原として、例えば、治療組成物の、限定はされないが、ワクチンとして、ノロウイルス感染症を予防、改善又は治療することができる免疫反応を生み出すため、又はノロウイルスが細胞に完全に結合するのと競合する治療ペプチドとして使用されて良い。」

(1-3)([039]段落の第8行?第17行)
「ノロウイルスには、15の遺伝子クラスターを含んで成り、核酸及びアミノ酸配列によって規定される少なくとも4つの遺伝子群(GI-GIV)が挙げられる。この主要な遺伝子群は、GI及びGIIである。・・・「ノロウイルス」とは、本明細書中、組換えノロウイルスウイルス様粒子(rNOR VLP)をも意味する。いくつかの実施態様において、例えばSF9細胞中のバキュロウイルスベクターから、細胞中、少なくとも、ORF2によってコードされるノロウイルスカプシドタンパク質の組換発現は、カプシドタンパク質がVLPへと入る偶発的自己集合をもたらす。」

(1-4)([067]段落の第16行?第21行)
「例えば、いくつかの実施態様において、第一のMSペプチドは、第一のノロウイルスORF2の推定アミノ酸配列に相同的である配列である。第一のノロウイルスのアミノ酸配列を第二のノロウイルスORF2アミノ酸配列に対して、下記のように、並べることで、第一のMSペプチドに対応する配列が、第二のノロウイルスORF2(図8、9)において同定されて良い。」

(1-5)(図8)





(1-6)(図9)




(1-7)([0108]段落の第1行?第11行)
「ワクチンとしてMSペプチドを投与することは、様々な方法、例えば、非経口的に又は粘膜、例えば、口内、鼻腔、直腸投与において達成されて良い。一般に、MSペプチドは、医薬的に有用な組成物を調製するための公知の方法により処方されて良く、それにより治療上有効な量のMSペプチドが医薬的に許容できる担体との混合において組み合わされて良い。・・・組成物は、塩、バッファー、担体タンパク質の例えば、血清アルブミン、患者の適切な部位又は組織においてMSペプチドを局在化させるためのターゲッティング分子などが挙げられる。組成物は、アジュバントも含んで良い。」

(1-8)([0110]段落)
「「医薬的に許容できる塩」とは、一般に医薬使用において許容可能であることが当業界で理解されている対イオンを伴い調製され且つ親化合物の所望の薬理活性を有する本発明の化合物の塩を意味する。かかる塩としては:(1)酸付加塩であって、無機酸の例えば、塩化水素酸、臭化水素酸・・・などにより形成された塩;又は有機酸の例えば、酢酸、プロピオン酸・・・により形成された塩;又は(2)親化合物中に存在する酸性プロトンが金属イオンの例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン・・・により置換された場合;又は有機塩基の例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン・・・などと組み合わされた場合に形成された塩が挙げられる。そしてまた、アミノ酸の塩の例えば、アルギネート、及び有機酸の塩の例えば、グルクロン酸又はガラクツロン酸などが挙げられる(例えば、Bergeら,1977 J.Pharm.Sci.66:1-19を参照のこと)。」

(1-9)([0112]段落の第1行?第8行)
「「医薬的に許容できる量」又は「治療上有効な量」とは、所望の生理学的効果を生み出すために十分な量又は所望の結果、特に、疾患(disorder)又は病気(disease)の症状を治療するため、例えば、1もしくは複数の疾患もしくは病気の症状を低減するもしくは除去すること又は疾患もしくは症状を予防することができる量を意味する。・・・一般に、この範囲は、約0.001mg?約1gm、そして好適な範囲は、約0.05mgである。」

(1-10)([0114]段落の第5行?第9行)
「錠剤形態は、1又は複数のラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、コーンスターチ、ポテトスターチ、微結晶性セルロース、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、及び他の賦形剤、着色剤、充填剤、結合剤、希釈剤、バッファー剤、湿潤剤、防腐剤、香味剤、色素、錠剤分解促進剤、及び医薬的に許容できる担体を含む。」

(1-11)([023]段落の第1行?第7行)
「図1は、3つの主要なオープンリーディングフレーム(ORF1,-2、-3)及びポリアデニル化された3’末端を含むプロトタイプノロウイルスゲノムRNA、ノーウォークウイルス(NV)の概略図である。ORF1は、解裂してNTPase、VPg、ウイルスプロテアーゼ(Pro)、及びRNA-依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を生じるポリタンパク質をコードする。・・・ORF2は、K^(227)/Tで解裂するカプシドタンパク質(VP1)をコードする;しかし、解裂したカプシドタンパク質は、ヴィリオンにおいて検出されない。ORF3は、マイナーカプシドタンパク質(VP2)をコードする。」

(1-12)([0136]段落、[0137]段落の第1行?第2行)
「実施例1:MAbs NV54.6及びNV72.10
MAbs NV54.6及び72.10を、Balb/cマウスを精製ノーウォークウイルスVLPs(rNV)で免疫化することによって生じさせた。」

(1-13)([0148]段落、[0149]段落の第1行?第2行)
「実施例2:MAb61.21
MAb SMV61.21を、組換えスノーマウンテンウイルス(rSMV)VLPを免疫原として使用した以外は、実施例1の手順に従い生じさせた。」

2.甲2
(2-1)(2459ページの要約の第3行?第9行)
「ヒトカルシウイルス(HuCv)カプシドタンパク質の抗原決定基を研究し、フィールドサンプルのための新たな診断方法を開発するために、我々は、バキュロウイルス発現組み換えHuCVウイルス様粒子(VLP)に対するモノクローナル抗体を確立し、特徴づけた。MAbを産生するハイブリッドクローンを、単一タイプの組み換えノーウォークウイルス(rNV)、カシワ47ウイルス(rKAV)、スノーマウンテンエージェント(rSMA)、またはサッポロウイルス(rSV)のVLPのいずれかを用いて、または、異なる遺伝子群由来の2つのタイプのVLPの混合物を用いて、経口免疫したマウスからの脾臓または腸管膜リンパ節の細胞と融合したPAI骨髄腫細胞の培養物から得た。」

(2-2)(2460ページの左欄の下から第4行?第5行)
「いくつかの場合において、10μgのrNVおよび10μgのrSMAの混合物を免疫化のために使用した。」

(2-3)(2461ページの表1)




上記表1のタイトル部分の訳
「種々のVLPに対するMAbのWB(決定注:ウェスタンブロット)とELISAにおける反応性」

上記表1の注記部分の訳
「^(a) 省略記号:G-IとG-II、ノーウォーク様ウイルス属の遺伝子群Iと遺伝子群II; SLVs、サッポロ様ウイルス属; NV、ノーウォークウイルスVLPs; SeV、セト124ウイルス; CV、チバ407ウイルス; FUV、フナバシ258ウイルス; SMA、スノーマウンテンエージェント; GV、グリムスビーウイルス; KAV、カシワ47ウイルス; NAV、ナリタ104ウイルス; CHV、チッタ76ウイルス; UEV、ウエノ7Kウイルス; SV、サッポロウイルス
^(b) 経口投与(po)又は腹腔内投与(ip)により免疫化されたマウスから取得
^(c) マウスの脾臓(SP)または腸管膜リンパ節(LN)の細胞から取得
^(d) NV、KAV、又はSV、あるいはrNVとrSMAの混合物(NxS)により免疫化
^(e) Hardyら(13)により以前に報告された
^(f) 電気泳動前のタンパク質加熱を行わない場合にのみ陽性反応
^(g) NT、試験を行わず」

(2-4)(2460ページのRESULTS欄の第8行?第13行)
「Mabグループは以下のとおり:遺伝子群Iと遺伝子群IIのVLPに共通の交差反応性を有するMab(グループA)、遺伝子群Iに特異的に反応するMAb(グループB)、遺伝子群IIに特異的に反応するMAb(グループC)、株特異的に反応するMAb(グループDとグループE)、更にグループ化することができないELISA陽性でウェスタンブロット陰性のMAb(グループF)」

(2-5)(2461ページの右欄の第5行?第9行)
「グループCの3つのMAb(NS14、NS28およびNS46)は、ELISAにおいて、遺伝子群II VLPと強力に反応し、遺伝子群I VLPと弱く反応した(表1)。ウェスタンブロットでは、これらのMAbは遺伝子群II VLPのみと反応し、遺伝子群IのNLV、rSVのいずれのVLPのポリペプチドとも反応しなかった(図2B)。」

(2-6)(2463ページの図2B)




(2-7)(2462ページの右欄の第8行?第10行)
「グループCのMAbは、rNVとrSMAの両方を用いてマウスを免疫化することによって得られた抗体であるにも拘わらず、遺伝子群IIのVLPのみと反応した。」

3.甲3
(3-1)([0006]段落)
「ノロウイルスは、1968年オハイオ州ノーウォークの学校において胃腸炎の激増を引き起こしたオリジナルの株「ノーウォークウイルス」にちなんで命名された。現在では、少なくとも4つのノロウイルス遺伝子群(GI、GII、GIII、およびGIV)が存在し、約20の遺伝子クラスターに分類されている。カルシウイルスは、形態、大きさ、タンパク質プロフィール、および核酸に基づいて分類されている。ノーウォークウイルスおよびいくつかの他のヒトカルシウイルスは、かなりの遺伝子相同性を共有する。」

(3-2)([0052]段落)
「本発明の植物最適化合成核酸分子として適切なものはまた、上記のように「植物最適化された」ノーウォークウイルスまたはノーウォーク様ウイルスの任意の株のカプシドタンパク質をコードする核酸分子である。これらとしては、以下に限定されないが、GenBank登録番号によって以下の表1に同定される株を含む、カルシウイルス遺伝子群1および2のノーウォーク様ウイルスが挙げられる(その全体が本明細書中に参照により援用される)。」

(3-3)(表1)




上記表1のタイトル部分の訳
「ノーウォーク様ウイルス:Genbank登録番号」

(3-4)([0080]段落の第19行?第22行)
「ワクチンはさらに、患者に投与されるときにワクチンの免疫原性を強化するために任意の適切なアジュバントを含んでもよい。かかるアジュバントは、限定されないが、例えば、Quil AおよびQS-21などの食品グレードの精製サブトラクションを含むQuillaja saponaria(QS)の抽出物を含んでもよい。」

(3-5)([0129]段落の第1行?第2行)
「抗原用量をヒト対象に投与するためのビヒクルとしてゼラチンカプセルを選択した。」

(3-6)([0142]段落の第1行?第4行)
「トマトsNV110-2粉末(1.5gm、2.5gm、または5gm)の3用量を、1日目、4日目、17日目、および20日目に提供した。各マウスによって摂取された実際の用量は、平均で、それぞれ、192、240、および352μg rNV/用量を含有する、各摂取当たり1.2、1.5および2.2gm、すなわち、60、75および110μgVLP/用量であった。」

4 甲4
(4-1)(p.11第1行?第3行)
「好ましい態様では、投与の経路が天然ではない経路であり、さらに好ましくは皮下、皮内、筋肉内、粘膜および経口から成る群から選択される。」

(4-2)(p.25第20行?第23行)
「本明細書中の他の箇所にさらに詳細に記載するように、本発明は与えられた生体作用活性薬剤に対する防御的CD4+T細胞応答、もしくは防御的CD8+T細胞応答、または抗体応答、または各応答の2種またはそれ以上の組合せを誘導できるワクチンを含む。」

(4-3)(p.25第24行?p.26第2行)
「本発明のワクチン内に含まれるその他のウイルスは、それからの防御のためのT細胞応答、すなわちCD4+および/またはCD8+T細胞応答、および/または抗体応答に同様に依存するものである。かかるウイルスは、それらに限定はされないが、RNAウイルス、呼吸器感染を起こすRNAウイルス、およびある場合にはDNAウイルスを含む。それらのウイルスの限定ではない例は、オルトミクソウイルス、パラミクソウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、コロナウイルス、麻疹ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス(ピコルナウイルス、例えばポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルスを含み、それらに限定はされない)、パルボウイルス、ロタウイルス、カリシウイルス、アストロウイルス、ノロウイルス、ノーウォークウイルス、アルボウイルスおよびアレナウイルス、例えばフラビウイルス、フィロウイルス、ハンタウイルス、アルファウイルス、レトロウイルスまたはレンチウイルスなどを含む。」

(4-4)(p.30第7行?第14行)
「ウイルスワクチンの用量および有効な量は、条件、選択されたウイルス、動物の年齢、体重および健康などの因子に依存するであろうし、そして動物宿主間でも変動するであろう。・・・有効な力価は、個体にワクチンの投与の後の免疫エフェクター細胞の活性を決定するためのアッセイを用いるか、または周知のイン・ビボ診断アッセイを用いて治療の有効性を測定して決定できる。」

(4-5)(p.32第33行?p.33の第5行)
「生体作用活性薬剤、例えば生ウイルスの内包のための無毒性、天然または合成ポリマーを含んでなる内包ビヒクルが本明細書中に提供される。好ましくはそれらのポリマーは、ミクロカプセル、ナノカプセル、ナノチューブと組み合わせた生ウイルスのミクロカプセル化またはナノカプセル化に有効である。さらに好ましくは、それらのポリマーは、それらを生体作用活性薬剤と組み合わせると、生体作用活性薬剤のエーロゾル化が回避され、従って動物に投与する際の生ウイルスワクチンの安全性を上昇するという追加的な性質を有する。」

(4-6)(p.33第6行?第14行)
「内包ビヒクルは、それらに限定はされないが、天然および合成ポリマー、例えばアルギネート、ヒアルロン酸、キサンタンガム、ジェランガム、コラーゲン、キトサン、ラミニン、エラスチン、マトリゲル(Matrigel)TM、ビトロゲン(Vitrogen)^(TM)、ポリメチルメタクリレート、ポリ〔1-ビニル-2-ピロリドン-コ-(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)〕、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシエチルアクリレート、ポリグリセリルアクリレート、アクリル酸コポリマー(例えばTRISACRYL);多糖類、例えばデキストランおよびその他の増粘性ポリマー、例えばカルボキシメチルセルロース;ポリエチレングリコール、ポリ酪酸およびそれらのコポリマーを含む。上記のマクロポリマーのオリゴマー組成物は、それらがエーロゾル形成を抑制するために適当な粘弾性性質を有する限り含まれる。」

5 甲5
(5-1)(136ページ左欄の下から第6行?同ページ右欄の第2行)
「ノロウイルスの分子免疫学的研究から得られた最も重要な知見は、ノロウイルス株間のゲノムレベルでの多様性が著しいということである。しかし、・・・次いで、ウイルス粒子の抗原性を担っているカプシド領域でも、genogroup I(GI)とgenogroup II(GII)とに大別できることが明らかになった。」

(5-2)(140ページ右欄第2行?第7行)
「また、ノーウォークウイルスを昆虫細胞で発現させて作ったウイルス様中空粒子VLPはABH型抗原を粘膜上皮細胞に発現している分泌型個体の腸管上皮細胞には結合するが、これを発現していない非分泌型個体の腸管上皮細胞には結合しない。」

6 甲6
(6-1)(41ページ左欄第6行?第8行)
「rNV粒子は、効果的な粘膜免疫原のために有利であり得るいくつかのユニークな特徴を有する。」

(6-2)(41ページ左欄のMaterials and Methodsの中のVaccination Studiesの第7行?第10行)
「Milli-Q水(Milli-Q Water System;Millipore,Bedford,MA)中の2用量のrNV VLP(100または250μg)またはMilli-Q水単独を、倫理規定に従って、3週間間隔でボランティアに投与した。」

(6-3)(45ページ右欄末行?46ページ左欄第6行)
「最後に、アジュバントは、rNV VLPに対する応答を得るために必要とされないが、rNV VLPと粘膜アジュバントとの同時投与は、応答を増加し得、特に、ウイルスの感染またはVLPを用いる免疫化のいずれかの後、本件研究で検出されなかった便性IgA応答を増加し得る。」

(6-4)(46ページ右欄第24行?第26行)
「交差保護免疫が、NVとモントゴメリーカウンティエージェントとの間で誘導され、2つのウイルスは、抗原性が類似するようである。」

7 甲7
(7-1)(201ページAbstractの第1行?第3行)
「多数の研究により、キトサンおよびそれらの誘導体(N-トリメチルキトサン、モノーN-カルボキシメチルキトサン)が、ペプチドおよびタンパク質薬物およびヘパリンなどの親水性高分子の粘膜(経鼻、経口)送達を改善するために、有効かつ安全な吸収エンハンサーであることが実証されている。」

8 甲8
(8-1)(267ページAbstractの第1行?第2行)
「本研究の目的は、インフルエンザワクチンを粘膜アジュバント(LTK63)と組み合わせた鼻腔内投与のための生物接着送達システムを評価することであった。」

9 甲9
(9-1)(911ページの右欄のAntibody production and ELISAの第1行?第6行)
「抗体産生およびELISA。新たに開発されたVLPに対する過免疫血清をウサギにおいて調製した。最初の皮下注射は、フロイント完全アジュバント中の精製VLP(10?500mg)を用いて実施した。3週間後、動物は、フロイント不完全アジュバント中の同量のVLPの2回または3回の追加免疫注射を、1週間の間隔で受けた。」

10 甲10
(10-1)(6528ページの右欄の第3行?第11行)
「研究動物における過免疫抗血清の産生。過免疫血清を産生するために、マウス、モルモットおよびウサギを、58K組み換えノーウォークウイルス(rNV)カプシドタンパク質で免疫した。免疫レジメンは、フロイント完全アジュバント中の精製rNVの1回の筋肉内注射(マウス1匹当たり80μg、モルモット1匹当たり200μg、ウサギ1匹当たり300μgの用量)、続いて、フロイント不完全アジュバント中の同用量の2回の追加免疫注射から構成された。」

11 甲11
(11-1)(p.40第15行?第20行)
「本明細書で使用される、ノロウイルスと関連する「主要キャプシドタンパク質」または「主要キャプシドポリペプチド」または「VP1」という用語は、ノロウイルスのORF2にコードされるポリペプチドに相同的または同一の配列を含むポリペプチドを意味し、・・・配列を含む。」

(11-2)(p.40第21行?第27行)
「本明細書で使用される、ノロウイルスと関連する「マイナー構造タンパク質」または「マイナー構造ポリペプチド」または「VP2」または「小さな塩基性タンパク質」という用語は、ノロウイルスのORF3にコードされるポリペプチドに相同的または同一の配列を含むポリペプチドを意味し、・・・配列を含む。」

(11-3)(p.42第12行?第14行)
「本明細書で使用される「モザイクVLP」という用語は、1種以上の型のウイルスに由来するキャプシドタンパク質を含むVLPを意味する。VLPはタンパク質との関連でキャプシド内および/またはキャプシド間に由来する。」

(11-4)(p.47第31行?p.48第6行)
「本発明には、ノロウイルスまたはサポウイルス感染症に対して被験体を免疫化する組成物および方法が含まれる。本発明は、キャプシドタンパク質をコードする核酸、および/またはノロウイルスおよび/またはサポウイルスの1種以上の株に由来する他の免疫原性ポリペプチドを含む免疫原性組成物;ノロウイルスおよび/またはサポウイルスの1種以上の株に由来する免疫原性ポリペプチドを含む組成物;ノロウイルスおよび/またはサポウイルスの1種以上の株に由来するVLPを含む組成物;およびこのような免疫原性核酸、ポリペプチド、および/またはVLPの混合物を含む組成物を提供する。」

(11-5)(p.77第29行?p.78第2行)
「組成物は、水、食塩水、グリセロール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、エタノールなどの1種以上の「薬学的に許容される賦形剤または媒体」を含む。さらに、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝物質、界面活性剤などの補助的な物質がこのような媒体中に存在してもよい。ブピバカイン、カルジオトキシンおよびショ糖などがあるがこれらに限定されない、免疫または核酸の取り込みおよび/または発現の促進剤を組成物中に含ませるか、一緒に投与してもよい。」

(11-6)(p.78第16行?第18行)
「構築物は、皮下注射、表皮注射、皮内移植、筋肉注射、静脈注射、経粘膜注射(経鼻、直腸および膣内)、腹腔注射または経口投与のいずれかにより送達される(例えば注射)。」

(11-7)(p.87第12行?第18行)
「免疫原性組成物は一般的に、上述の成分に加え、1種以上の「薬学的に許容される担体」を含む。これらには、組成物を投与された個体に対して有害な抗体の生産をもたらさない、あらゆる担体が含まれる。適切な担体は一般的に、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマー性アミノ酸、アミノ酸コポリマー、および脂質凝集体(油滴またはリポソーム)などの、大きく、緩徐に代謝した巨大分子である。」

(11-8)(p.93第6行?第12行)
「E.細菌または微生物誘導体
本発明において使用するのに適したアジュバントには、以下の細菌または微生物誘導体が含まれる。
(1)腸内細菌リポ多糖類(LPS)の非毒性誘導体
このような誘導体には、モノホスホリルリピドA(MPL)および3-O脱アシル化MPL(3dMPL)が含まれる。」

(11-9)(p.96第3行?第10行)
「F.生体接着剤および粘膜接着剤
生体接着剤および粘膜接着剤もまた、本発明においてアジュバントとして使用することができる。適切な生体接着剤には、エステル化ヒアルロン酸ミクロスフェア(Singh et al.(2001)J.Cont.Rele.70:267-276)または粘膜接着剤(例えば、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、多糖類およびカルボキシメチルセルロースの架橋誘導体)が含まれる。キトサンおよびその誘導体もまた、本発明においてアジュバントとして使用することができる。」

(11-10)(p.116第1行?第11行)
「本発明の免疫原性組成物は、種々の形態で調製することができる。・・・組成物は、鼻、耳または眼投与、例えば、ドロップとして調製することができる。」

(11-11)(p.116第30行?p.117第6行)
「「免疫学的有効量」とは、単一投与またはシリーズの一部としてのいずれかによる個体への投与量が治療または予防に有効であることを意味する。この量は、治療される個体の健康および身体状態、年齢、治療される個体の分類群(例えば、ヒト、非ヒト霊長類など)、抗体を産生する個体の免疫システムの能力、所望の保護の度合い、ワクチンの製剤、医学的状況の治療する医師の評価、および他の関連する因子に依存して変化する。この量が、所定の試験により決定することができる、相対的に広い範囲内に入ることが予想される。」

(11-12)(p.128第1行?第2行)
「ポリヌクレオチドは、好ましくはヒトなどの大きな哺乳動物に0.5、0.75、1.0、1.5、2.0、2.5、5または10mg/kgの用量で筋肉内に注射される。」

(11-13)(p.137第1行?p.138第4行)
「実施例11
ノロウイルス抗原およびアジュバントの組み合わせによる免疫
以下の実施例は、マウスモデルにおける、NV、SMVおよびHV抗原の種々の組み合わせを使用した免疫を示す。NV、SMVおよびHV抗原は、本明細書に記載の通り調製し、特徴付ける。CD1マウスを9個の群に分け、以下のように免疫化する。

2週間間隔でマウスを免疫化する。最後の免疫の2週間後、すべてのマウスに対して適切な株で抗原投与する。粘膜免疫(例えば鼻腔内)を使用する場合、粘膜免疫原の肯定的な効果を試験するために、動物モデルに粘膜的に抗原投与する。」

第5 判断
1.申立理由6(特許法第36条第6項第2号)について
申立理由6は、本件特許発明の明確性に係る事項であるため、先に当該申立理由6について検討する。

(1)本件特許発明1の「各遺伝子群の抗原の量が約10μg?約100μgである」の記載について
申立人は、本件特許発明1に記載の「各遺伝子群の抗原の量が約10μg?約100μgである」について、当該抗原の量が、製剤中の含有量なのか、1投与当たりの用量なのか、1個体当たりの用量なのか、または、1個体1kg体重あたりの量なのか不明確であるため、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨、主張する。
しかしながら、本件特許発明1は、「2つ以上のノロウイルス抗原および粘膜付着剤を含む組成物であって、少なくとも1つのノロウイルス抗原が遺伝子群Iからの抗原であり、少なくとも1つのノロウイルス抗原が遺伝子群IIからの抗原であり、各遺伝子群の抗原の量が約10μg?約100μgである、組成物。」であるから、2つ以上のノロウイルス抗原および粘膜付着剤を含む組成物において、当該ノロウイルスの各遺伝子群I、IIからの抗原が、それぞれ約10μg?約100μgの量で含まれているものであることは、その請求項の記載から明らかであり、不明確なところはない。
したがって、「各遺伝子群の抗原の量が約10μg?約100μgである」の記載が不明であり、その結果、本件特許発明1に記載された発明が不明確となっている旨の、申立人の主張は採用できない。

(2)本件特許発明3の「前記ノロウイルスVLPが、カプシドタンパク質を含む、」の記載について
申立人は、本件特許発明3は、本件特許発明1において、「前記ノロウイルスVLPが、カプシドタンパク質を含む、」と限定しているが、本件特許発明1において、先行詞となる「VLP」は記載されていないため、本件特許発明3は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨、主張する。
申立人が主張するとおり、確かに本件特許発明1にはVLPの記載はない。しかしながら、本件特許発明3に先行する本件特許発明2には、「前記ノロウイルス抗原が、ノロウイルスウイルス様粒子(VLP)を含む、請求項1に記載の組成物。」と記載されているところ、当該記載から、本件特許発明1に記載の「ノロウイルス抗原」には、「ノロウイルスウイルス様粒子(VLP)を含む」態様も含まれることが明らかである。
したがって、本件特許発明3は、そのような態様の本件特許発明1を限定するものであることが理解できるため、不明確なところはない。
したがって、引用する本件特許発明1に「VLP」の記載がないため、本件特許発明3に記載された発明が不明確となっている旨の、申立人の主張は採用できない。

(3)小括
よって、本件特許発明1、3が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由6には理由がない。

2.申立理由1(特許法第29条第1項第3号)について
申立人は、上記摘記事項(1-1)?(1-11)に基づき、
甲1には、「第一および第二のMSペプチドおよび医薬的に許容できる塩としてアルギネートを含む組成物であって、第一のMSペプチドは、第一のノロウイルスORF2の推定アミノ酸配列に相同的である配列であり、第一のMSペプチドに対応する配列が、第二のノロウイルスORF2(図8、9)において同定されて良く、抗原が治療上有効な量である、組成物」が記載されており、ここで、
・「第一のMSペプチドは、第一のノロウイルスORF2の推定アミノ酸配列に相同的である配列であり」は、摘記事項(1-11)に記載のとおり、ORF2はカプシドタンパク質(VP1)をコードするので、本件特許発明1における「少なくとも1つのノロウイルス抗原が遺伝子群Iからの抗原であり」に相当し、
・「第一のMSペプチドに対応する配列が、第二のノロウイルスORF2(図8、9)において同定されて良く」は、摘記事項(1-4)に記載のとおり、第二のノロウイルスORF2として、図8、9には、スノーマウンテンなどが記載されているので、本件特許発明1における「少なくとも1つのノロウイルス抗原が遺伝子群IIからの抗原であり」に相当し、また、
・「医薬的に許容できる塩」として使用される「アルギネート(アルギン酸塩)」は、本件特許発明において「粘膜付着剤」として分類されているから、本件特許発明1における「粘膜付着剤」に相当し、さらに、
・「抗原が治療上有効な量である」については、摘記事項(1-7)および(1-9)に記載のとおり、治療上有効な量の各々のMSペプチドが投与され、その好適な範囲は約0.05mgであるところ、本件特許発明1における「各遺伝子群の抗原の量が約10μg?約100μgである」に相当するから、
本件特許発明1は甲1に記載された発明である旨、主張する。

しかしながら、摘記事項(1-4)?(1-6)では、遺伝子群Iのノロウイルスと遺伝子群IIのノロウイルスを含む11種類のノロウイルスのORF2のアミノ酸配列を比較し、第一のMSペプチドに対応する配列が、第二のノロウイルスORF2において同定されて良い旨の記載はあるものの、これは、図8、9に記載の11種類のノロウイルスの特定部位における配列相同性を述べているものにすぎず、特に、遺伝子群I抗原と遺伝子群II抗原を併せて用いることなどが記載されているとは認めることができず、また、甲1に具体的に記載されている実施例をみても(摘記事項(1-12)、(1-13))、遺伝子群I抗原のみを含む組成物によって得られた遺伝子群Iに特定的に反応する抗体と、遺伝子群II抗原のみを含む組成物によって得られた遺伝子群IIに特異的に反応する抗体をそれぞれ別異に得ている結果が示されているのみであって、遺伝子群Iノロウイルス抗原と遺伝子群IIノロウイルス抗原を併せて用いることなどは、甲1に記載されているものと認めることはできない。
また「アルギネート」は、摘記事項(1-8)に記載のとおり、「親化合物の所望の薬理活性を有する本発明の化合物の塩」であり、「対イオンを伴い調製され」て親化合物に付加・組み合わされる塩にすぎないから、付加・組み合わされる親化合物の性質や機能を離れて、これを粘膜付着剤成分であると解することなどはできない。そして、甲1には、当該親化合物として粘膜付着剤成分を用いることなどの記載はなされていないから、この「アルギネート」を粘膜付着剤に相当するものと認めることはできない。
したがって甲1には、「MSペプチドを約0.001mg?約1gm、好適には約0.05mg含む組成物」(以下、「甲1発明」という。)については記載がされていると認められるが(摘記事項(1-1)?(1-13))、本件特許発明1とは、ノロウイルス抗原に相当するMSペプチドの種類が、
(相違点1-1)本件特許発明1では遺伝子群Iからの抗原と遺伝子群IIからの抗原を少なくとも1つずつ含むものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定が無い点、及び、
(相違点1-2)本件特許発明1は、粘膜付着剤を含むものであるのに対し、甲1発明は当該成分を含まない点で相違するものであるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ということはできない。
この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2?6、8?10、14?18についても同様である。

よって、申立人の、本件特許発明1?6、8?10、14?18が、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるとする申立理由1には理由がない。

3.申立理由2(特許法第29条第2項)について
(1)甲2発明との対比について
上記摘記事項(2-1)?(2-3)より、甲2には、「10μgのノーウォークウイルス(rNV)のVLPおよび10μgのスノーマウンテンエージェント(rSMA)のVLPを含む混合物」(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
甲2発明における「ノーウォークウイルス(rNV)のVLP」は「遺伝子群Iからのノロウイルス抗原」に該当し、「スノーマウンテンエージェント(rSMA)のVLP」は「遺伝子群IIからのノロウイルス抗原」に該当し、「混合物」は「組成物」に相当するから、ここで、本件特許発明1と上記甲2発明とを対比すると、両者は、以下の点で相違する。

(相違点2-1)本件特許発明1は、粘膜付着剤を含むものであるのに対し、甲2発明は当該成分を含まない点。

(相違点2-1についての検討)
相違点2-1について、申立人は、粘膜付着剤とは、送達部位で抗原保持時間を増大し、または送達部位で細胞の緊密な接合を緩和することによって免疫反応を増強するように機能するものであるところ、ウイルスワクチン組成物において、このような粘膜付着剤を含めることは、甲4?甲8の記載(摘記事項(4-5)、摘記事項(5-2)、摘記事項(6-3)、摘記事項(7-1)、摘記事項(8-1))が示すことからみても普通に行われていることであるから、甲2発明において、キトサンなどの粘膜付着剤を用いて、送達部位での抗原保持を図ることは当業者が普通に行い得た旨、主張している。

しかしながら、甲2発明の混合物によって生成された抗体(グループC)は、ELISAでは遺伝子群I VLPに対して弱くしか反応できず、またWB(ウェスタンブロット)では遺伝子群I VLPと全く反応しないというものであり(摘記事項(2-3)、(2-5)、(2-6))、甲2筆者は、当該実験の結果をふまえて、結局、甲2発明の混合物によって生成されたグループCのMAbは、「rNVとrSMAの両方を用いてマウスを免疫化することによって得られた抗体であるにも拘わらず、遺伝子群IIのVLPのみと反応」するものであり(摘記事項(2-7))、当該抗体は、「遺伝子群IIに特異的に反応するMAb(genogroup II-specific MAbs)」であると結論づけている(摘記事項(2-4))。
すなわち、複数の抗原を用いて抗体を産生させる場合には、当業者は、通常、その複数抗原のそれぞれに特異的な抗体を、それぞれ十分量得ることを求めるものであるにも拘わらず、上記甲2発明の混合物は、そのような当業者の期待に沿うものではなく、二種類の抗原をわざわざ併用したものであるにも拘わらず、一の抗原にしか特異的に反応し得ない抗体しか得られない不完全な抗原混合物であったことが認められる。そうすると、そのような、特異的な抗体の一部しか産生することができない甲2発明の組成物に対して、申立人が主張するような粘膜付着剤の添加を行うことは、複数抗原のそれぞれに特異的な抗体を、それぞれ十分量得ることを求める当業者が通常に行うことであるとはおよそ解しがたい。ゆえに、甲2発明に甲4?8を組み合わせることが当業者に容易想到である旨の、上記申立人の主張を採用することはできない。

(本件特許発明1の備える効果について)
また仮に甲2発明に粘膜付着剤を添加してみても、遺伝子群I抗原、遺伝子群II抗原の双方に対して十分な免疫反応を引き起こして、それぞれの抗原に特異的な抗体を十分産生するという本件特許発明1が備える効果が奏されることなどは、到底当業者が予測し得なかったことと認められる。
この本件特許発明1の備える効果について、申立人は、実施例11では、ノーウォークVLPおよびヒューストンVLPともに2.5μgで投与されており、これらの投与量は、本件特許発明1の範囲外であり、また、実施例12に対応する図12では、ノーウォークVLPとヒューストンVLPを同時に投与した場合の効力が、それぞれを単独で投与した場合と比較して有意に向上していない旨、主張している。
しかしながら、本件特許明細書に記載の実施例11及び実施例12では、遺伝子群Iのノロウイルス抗原と遺伝子群IIのノロウイルス抗原を併用して、本件特許発明1組成物とすることにより、それぞれの遺伝子群の抗原に対して特異的に反応する抗体が両方ともに十分に産生できるという、甲2及び甲4?8に記載の事項からは、当業者に予測し得ない効果が奏されていることが認められる。
すなわち、実施例12(図12)では、(a)遺伝子群IのノーウォークウイルスVLPのみ、(b)遺伝子群IIのヒューストンウイルスVLPのみ、(c)ノーウォークウイルスとヒューストンウイルスの両方のVLPで免疫化して得られた血清抗体が、それぞれ、(a)ノーウォークウイルスVLPに対してのみ、(b)ヒューストンウイルスVLPに対してのみ、(c)ノーウォークウイルスとヒューストンウイルスの両方のVLPに対して反応し、(c)の反応の程度が、(a)、(b)の反応の程度とほぼ同等であることが示されているから、この実施例から、遺伝子群Iのノロウイルス抗原と遺伝子群IIのノロウイルス抗原の併用によっても免疫干渉などが生じず、それぞれの遺伝子群の抗原に特異的な抗体が十分産生されたことが認められる。確かに図12右では、ヒューストンウイルスVLP単独の免疫化によって得られた血清抗体の反応よりも、ヒューストンウイルスVLPとノーウォークウイルスVLPの併用免疫化によって得られた血清抗体の反応の方がわずかに低いが、その差は、それぞれの反応程度からみたときには、ごくわずかなものにすぎないから、当該わずかな差によって、本件特許発明1が備える、それぞれの遺伝子群の抗原に特異的な抗体が十分産生されるという効果に係る上記認定が覆るものとは認められない。
また実施例11(図11)では、0日目と14日目にノーウォークウイルスVLPでマウスを免疫化し、28日目および49日目に、ノーウォークウイルスVLPとヒューストンウイルスVLPの併用により再びマウスを免疫化したとき、当該マウスから得られた血清抗体は、ウイルスVLPの併用投与前は、抗ノーウォーク反応のみがみられ、併用投与後は、抗ノーウォーク反応に加えて、強力な抗ヒューストン反応がみられるところ、この実施例からも、遺伝子群Iのノロウイルス抗原と遺伝子群IIのノロウイルス抗原の併用により、それぞれの遺伝子群の抗原に特異的な抗体が産生されたことが認められる。確かに実施例11では、抗原投与量はそれぞれ2.5μgであり、本件特許発明1の組成物における抗原含有量(それぞれ約10μg?約100μ)よりも少ない量となっているが、一般に、より少ない抗原量で見られる抗体産生能は、その抗原量を増やした場合でも維持されるものであり、実際、本件特許明細書に記載の実施例12では、それぞれの遺伝子群のVLPを25μgずつ用いたときに上述の効果が奏されることが認められるから、実施例11における抗原の投与量が2.5μgであることは、上記の認定を左右するものではない。
したがって、上記認定の本件特許発明1の奏する当業者に予測外の効果は、実施例11及び実施例12の記載から十分に確認をすることができ、効果に係る申立人の主張についても採用することはできない。

(結論)
よって、本件特許発明1は、甲2発明、及び、甲4?8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(本件特許発明2、3、16、17について)
この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2、3、16、17についても同様であるから、本件特許発明2、3、16、17は、甲2発明、及び、甲4?8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(本件特許発明4?6について)
申立人は、本件特許発明4について、甲1の記載からVLPがVP1および/またはVP2を含むものとすること、本件特許発明5、6について、甲1の記載からVLPを1価、多価とすることは当業者が適宜為し得たことであるから、これらの本件特許発明は、甲2発明、及び、甲1、甲4?8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張している。
しかしながら、本件特許発明4?6は、本件特許発明1をさらに限定した発明であるから、甲2発明とは上記「(相違点2-1)」の点で相違し、当該相違点については、甲1の記載によっても、上記「(相違点2-1についての検討)」の項で述べたとおりの理由で当業者が容易に想到し得ないものであるし、上記「(本件特許発明1の備える効果について)」の項で述べたとおりの理由で、本件特許発明4?6は、甲2発明、及び、甲1、甲4?8に記載の事項からは、当業者に予測し得ない効果が奏されていることが認められるものである。
したがって、本件特許発明4?6は、甲2発明、及び、甲1、甲4?8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(本件特許発明8、9について)
申立人は、本件特許発明8、9について、甲1の記載から粘膜付着剤をアルギネートや、コーンスターチ、ポテトスターチ等とすることは当業者が容易に為し得たことであるから、これらの本件特許発明が、甲2発明、及び、甲1、甲4?8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張している。
しかしながら、上記「2.申立理由1(特許法第29条第1項第3号)について」の項で述べたとおりの理由で、甲1には「粘膜付着剤」を加える旨の記載があるものとは認められない。また、本件特許発明8、9は、本件特許発明1をさらに限定した発明であるから、甲2発明とは上記「(相違点2-1)」の点で相違し、当該相違点については、甲1の記載によっても、上記「(相違点2-1についての検討)」の項で述べたとおりの理由で当業者が容易に想到し得ないものであるし、上記「(本件特許発明1の備える効果について)」の項で述べたとおりの理由で、本件特許発明8、9は、甲2発明、及び、甲1、甲4?8に記載の事項からは、当業者に予測し得ない効果が奏されていることが認められるものである。
したがって、本件特許発明8、9は、甲2発明、及び、甲1、甲4?8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)甲3との対比について
申立人は、上記摘記事項(3-1)?(3-6)に基づき、
甲3には、「少なくとも2つのノロウイルス遺伝子型群のカプシドタンパク質由来の抗原およびゼラチンカプセルでなるビヒクルを含む組成物であって、抗原がカリシウイルス遺伝子型群1および2のノーウォーク様ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸であり、抗原が治療有効量である、組成物」
が記載されており、ここで、
・「抗原がカリシウイルス遺伝子型群1および2のノーウォーク様ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸であり」は、本件特許発明1における「少なくとも1つのノロウイルス抗原が遺伝子群Iからの抗原であり」および「少なくとも1つのノロウイルス抗原が遺伝子群IIからの抗原であり」に相当するから、本件特許発明1とは、
・(a)本件特許発明1が「粘膜付着剤を含む組成物であ」るが、甲3ではこのことを明記していない点、及び、
・(b)本件特許発明1は「各遺伝子群の抗原の量が約10μg?約100μgである」が、甲3ではこのことを明記していない点で相違するとし、
(a)については、摘記事項(3-5)に、「抗原用量をヒト対象に投与するためのビヒクルとしてゼラチンカプセルを選択した。」と記載されており、ゼラチンが粘膜に付着する性質を有することが当業者に知られているから、ゼラチンなどの粘膜付着剤を用いる程度のことは当業者が普通に行い得たというほかなく、また、
(b)については、ワクチン抗原の投与量を調整することは当業者が普通に行うことであり、実際、甲1および甲2には、各々の、ワクチン抗原の有効量として0.05mgまたは10μgとすることが記載されている。したがって、ワクチン抗原の有効量を10μ?100μgの範囲内とすることは、当業者が普通に行うことであるから、本件特許発明1は、甲3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張する。

しかしながら、摘記事項(3-2)?(3-3)は、植物最適化合成核酸分子として、種々の遺伝子群I、遺伝子群IIのノーウォークウイルスまたはノーウォークウイルス様ウイルスの任意の株のカプシドタンパク質の核酸114種類が挙げられることが、並べて例示されているものにすぎず、申立人が引用する摘記事項(3-1)?(3-6)を含む甲3のいかなる部分の記載をみても、特にノロウイルスの遺伝子群I由来の核酸と遺伝子群II由来の核酸を両方導入して、両遺伝子を発現させた抗原組成物を得ることなどは、記載も示唆もされておらず、また、本件特許発明の優先権主張時にそのようなことを行うことが当業者の技術常識になっていたと認めることもできない。
したがって、甲3において用いられる植物最適化合成核酸分子として、ノロウイルスの遺伝子群I由来の核酸と、遺伝子群II由来の核酸の両方を導入して、両方の遺伝子を発現させた、両遺伝子群からの抗原を含む組成物を得ることなどは、当業者が容易に想到し得なかったと認められる。
他方、本件特許発明1は、当該遺伝子群Iのノロウイルス抗原と遺伝子群IIのノロウイルス抗原を併用して、本件特許発明1の組成物とすることにより、「それぞれの遺伝子群の抗原に対して特異的に反応する抗体が両方ともに十分に産生できる」という、甲3に記載の事項からは、当業者に予測し得ない効果が奏されていることが認められる。
したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(本件特許発明2、3、10、16?19について)
この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2、3、10、16?19についても同様であるから、本件特許発明2、3、10、16?19は、甲3に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(本件特許発明8について)
申立人は、本件特許発明8について、甲7には、送達エンハンサーとしてキトサンが記載されており、キトサンを粘膜付着剤として用いることは当業者が容易に為し得たことであるから、本件特許発明8が、甲3及び甲7に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張している。
しかしながら、本件特許発明8は、本件特許発明1をさらに限定した発明であるところ、当該送達エンハンサーに係る甲7に記載の事項によっても、甲3に記載の植物最適化合成核酸分子として、ノロウイルスの遺伝子群I由来の核酸と、遺伝子群II由来の核酸の両方を導入して、両方の遺伝子を発現させた両抗原を含有する組成物を得ることなどは、当業者が容易に想到し得たとは認められないし、本件特許発明8は、上述のとおりの、甲3、甲7に記載の事項からは、当業者に予測し得ない効果が奏されていることが認められる。
したがって、本件特許発明8は、甲3及び甲7に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)甲4との対比について
申立人は、上記摘記事項(4-1)?(4-6)に基づき、
甲4には、「ノロウイルス、ノーウォークウイルスおよび内包ビヒクルを含むワクチン組成物」が記載されており、ここで、
・「ノロウイルス、ノーウォークウイルス」は、本件特許発明1における「2つ以上のノロウイルス抗原」に相当し、
・「内包ビヒクルを含むワクチン組成物」は、「粘膜付着剤を含む組成物」に相当し、
・「ノーウォークウイルスを含むワクチン組成物」は、「少なくとも1つのノロウイルス抗原が遺伝子群Iからの抗原であり」に相当するから、本件特許発明1とは、
(a)本件特許発明1は「少なくとも1つのノロウイルス抗原が遺伝子群IIからの抗原であり、」が、甲4では明記していない点、及び、
(b)本件特許発明1は「各遺伝子群の抗原の量が約10μg?約100μgである、」が、甲4発明はこのことを明記していない点で相違するとし、
(a)については、スノーマウンテンなどの遺伝子群IIのノロウイルス由来の抗原を遺伝子群Iのノロウイルス由来の抗原と組み合わせて投与することは、甲1および甲2に記載されているから、これらを併用することは当業者が普通に行うことであり、また、
(b)については、ワクチン抗原の有効投与量を調整することは当業者が普通に行うことであり、実際、甲1および甲2には、各々の、ワクチン抗原の有効量として0.05mgまたは10μgとすることが記載されている。したがって、ワクチン抗原の有効量を10μ?100μgの範囲内とすることは、当業者が普通に行うことであるから、
本件特許発明1は、甲4に記載の発明並びに甲1及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張する。

しかしながら、上記「2.申立理由1(特許法第29条第1項第3号)について」の項で述べたとおり、甲1には、ノロウイルスの遺伝子群Iからの抗原と遺伝子群IIからの抗原を併せて用いることなどは記載されていない。また、上記「3.(2)甲2発明との対比について」の項で述べたとおり、甲2に記載されている組成物は、二種類の抗原をわざわざ併用したものであるにも拘わらず、一の抗原にしか特異的に反応し得ない抗体しか産生できない不完全な抗原混合物である。加えて、甲4における「ノロウイルス、ノーウォークウイルス」の記載は、摘記事項(4-3)にあるとおり、約20種のウイルスの羅列列挙の例示にすぎず、甲4のいずれの箇所においても、具体的にノロウイルスやノーウォークウイルスを使用した組成物の記載などは記載されていない。
そうすると、甲4並びに甲1及び甲2の記載をみても、甲4においてただ例示されているだけのノロウイルス、ノーウォークウイルスを、特に遺伝子群Iからのノロウイルス抗原と遺伝子群IIからのノロウイルス抗原の組み合わせとすることなどが、当業者に容易に想到し得たとは認められない。
他方、本件特許発明1は、当該遺伝子群Iのノロウイルス抗原と遺伝子群IIのノロウイルス抗原を併用して、本件特許発明1の組成物とすることにより、「それぞれの遺伝子群の抗原に対して特異的に反応する抗体が両方ともに十分に産生できる」という、甲4、甲1、甲2に記載の事項からは、当業者に予測し得ない効果が奏されていることが認められる。
したがって、本件特許発明1は、甲4並びに甲1及び甲2に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(本件特許発明8、16、17について)
この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明8、16、17についても同様であるから、本件特許発明8、16、17は、甲4並びに甲1及び甲2に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)甲1発明との対比について
(本件特許発明5、6、7、14、15、19について)
申立人は、本件特許発明5、6、7、14、15、19が、甲1に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張している。
しかしながら、これらの本件特許発明は、本件特許発明1をさらに限定した発明であるため、甲1発明とは、上記「2.申立理由1(特許法第29条第1項第3号)について」に記載の事項、すなわち、
(相違点1-1)本件特許発明では遺伝子群Iからの抗原と遺伝子群IIからの抗原を少なくとも1つずつ含むものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定が無い点、及び、
(相違点1-2)本件特許発明は、粘膜付着剤を含むものであるのに対し、甲1発明は当該成分を含まない点で、少なくとも相違している。
そして、「2.申立理由1(特許法第29条第1項第3号)について」において述べたとおり、特に遺伝子群Iのノロウイルス抗原と遺伝子群IIのノロウイルス抗原を併せて用いることなどは、甲1に記載も示唆もされていないことが認められるから、当該併用が当業者に容易に想到し得たことであったとすることはできない。
他方、これらの本件特許発明は、当該遺伝子群Iのノロウイルス抗原と遺伝子群IIのノロウイルス抗原を併用して、本件特許発明の組成物とすることにより、「それぞれの遺伝子群の抗原に対して特異的に反応する抗体が両方ともに十分に産生できる」という、甲1に記載の事項からは、当業者に予測し得ない効果が奏されていることが認められる。
したがって、本件特許発明5、6、7、14、15、19は、甲1に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(本件特許発明11、12について)
申立人は、本件特許発明11について、アジュバントとして甲3に記載のサポニンを用いることや、本件特許発明12について、アジュバントとして甲9及び甲10に記載のトール様受容体(TLR)作用薬を用いることができるから、本件特許発明11は、甲1及び甲3に記載された事項から、また、本件特許発明12は、甲1と、甲9及び甲10に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張している。
しかしながら、これらの本件特許発明も本件特許発明1をさらに限定した発明であって、甲1発明とは、上述の(相違点1-1)及び(相違点1-2)の点で少なくとも相違している。
そして、甲1、甲3、甲9、甲10のいずれにも、特に遺伝子群Iのノロウイルス抗原と遺伝子群IIのノロウイルス抗原を併用することなどは、記載も示唆もされていないから、当該併用が当業者に容易に想到し得たことであったとすることはできない。
他方、これらの本件特許発明は、上述のとおりの、甲1、甲3、甲9、甲10に記載の事項からは、当業者に予測し得ない効果が奏されていることが認められる。
したがって、本件特許発明11は、甲1及び甲3に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないし、本件特許発明12は、甲1と、甲9及び甲10に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(5)小括
よって、本件特許発明1?12、14?19が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとする、上記「第3の1.(2)」に記載の申立理由2については、そのいずれについても理由がない。

4.申立理由3(特許法第29条の2)について
上記摘記事項(11-1)?(11-13)(特に摘記事項(11-13))より、先願11の特許法第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願11明細書等」という)には、「ノーウォークウイルス(NV)抗原5μg、スノーマウンテンウイルス(SMV)抗原5μg、およびハワイウイルス(HV)抗原5μgを含む組成物」(以下、「先願11発明」という。)が記載されていると認められる。
先願11発明における「ノーウォークウイルス(NV)抗原」は「遺伝子群Iからのノロウイルス抗原」に該当し、「スノーマウンテンウイルス(SMV)抗原」及び「ハワイウイルス(HV)抗原」は「遺伝子群IIからのノロウイルス抗原」に該当するので、本件特許発明1と先願11発明とを対比すると、両者は、以下の点で相違する。
(相違点11-1)本件特許発明1は、粘膜付着剤を含むものであるのに対し、先願11発明は当該成分を含まない点。
(相違点11-2)遺伝子群Iからのノロウイルス抗原の量が、本件特許発明1では、約10μg?約100μgであるのに対し、先願11発明では5μgである点。

申立人は、上記摘記事項(11-9)に、アジュバントとして、キトサン等の「生体接着剤および粘膜接着剤」を使用することが記載されているから、先願11明細書等には、粘膜付着剤を含む組成物が記載されている旨、主張する。
しかしながら、先願11明細書等におけるアジュバントは、甲11のp.88?p.99の10ページ以上にわたって、その例が無数に挙げられているものであり、見出しだけを採り上げてみても、A.鉱物含有組成物、 B.油乳剤、C.サポニン製剤、D.ビロゾームおよびウイルス様粒子(VLP)、E.細菌または微生物誘導体((1)腸内細菌リポ多糖類(LPS)の非毒性誘導体、(2)リピドA誘導体、(3)免疫増強オリゴヌクレオチド、(4)ADP-リボシル化毒素およびその解毒された誘導体)、F.生体接着剤および粘膜接着剤、G.微粒子、H.リポソーム、I.ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステル製剤、J.ポリホスファゼン(PCPP)、K.ムラミルペプチド、L.イミダゾキノリン化合物、M.チオセミカルバゾン化合物、N.トリプタンスリン化合物、O.ヒト免疫調節物質と多岐にわたっているところ、この中から、特に粘膜付着剤を選んで、遺伝子群Iからの抗原と遺伝子群IIからの抗原とを組み合わせて用いることなどは先願11明細書等に記載されていない。
そして、先願11明細書等においては、異なる遺伝子群のノロウイルス抗原の併用どころか、なんらかの抗原を用いたときの抗体産生能に係る試験さえもなされていないが、本件特許発明1は、ノロウイルスの遺伝子群Iからの抗原と遺伝子群IIからの抗原に対して特異的に反応する抗体が両方ともに十分に産生できるという、先願11明細書等には記載のない新たな効果を備えるものであることが認められる。
したがって、本件特許発明1は、先願11明細書等に記載された発明と同一であるとすることはできない。
この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2?19についても同様である。
よって、申立人の、本件特許発明1?19が、甲第11号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるとする申立理由3には理由がない。

5.申立理由4(特許法第36条第4項第1号)について
(1)「本件特許発明に係る複数のウイルス抗原を含む組成物については、その効果が本件明細書中の実施例において実証がされていない」旨の申立人の主張について
申立人は、実施例11では、遺伝子群の投与量が2.5μgであり、本件特許発明1に記載の投与量(約10μg?約100μg)の範囲外であり、また、実施例12に対応する図12では、ノーウォークVLPとヒューストンVLPを同時に投与した場合の効力は、ノーウォークVLPまたはヒューストンVLPを単独で投与した場合と比較して、有意に向上していない。特に抗ヒューストン(図12の右図)については、ヒューストンVLPを単独で投与した場合と比較して、ノーウォークVLPおよびヒューストンVLPを共に投与した場合の効力が低下しているから、本件特許明細書では、複数のノロウイルス抗原を含むことの効果は確認されていない。
また、実施例13および表7には、VLPの凍結乾燥前後のVLPの安定性について検討されており、実施例3には、凝集した抗原が存在することが記載されているが、複数の抗原の場合について免疫反応を増強することについては何ら検討されていない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項1号に規定の要件を満たしていない旨、主張する。

しかしながら、
・(A)上記3.(1)の「(本件特許発明1の備える効果について)」の項において述べたとおりの理由で、本件特許明細書に記載の実施例11及び実施例12の結果に基づいて、遺伝子群Iのノロウイルス抗原と遺伝子群IIのノロウイルス抗原を含む本件特許発明1?19の組成物は、それぞれの遺伝子群の抗原に対して特異的に反応する抗体を両方ともに十分に産生できるという作用を有し、当該作用を有することにより、遺伝子群I及び遺伝子群II双方のノロウイルス感染に対するワクチン等に使用することができることが、本件特許明細書の記載から認められるものである。
・(B)また、本件特許明細書には、本件特許発明1?19の組成物について、配合されるノロウイルス抗原の種類や当該抗原の調製方法などが詳述され(【0016】?【0033】段落)、組成物に配合される粘膜付着剤、アジュバントなどの他の成分の種類やその性質・機能なども詳述され(【0034】?【0042】段落)、ワクチンおよび抗原製剤の調製方法や、投与方法、投与経路等が詳述されている上に(【0043】?【0060】段落)、ノロウイルス抗原を単数もしくは複数用いた製造例等が実施例として具体的に記載されていることが認められるから、それらの記載に基づいて、当業者は本件特許発明1?19の組成物を製造することができるものと解される。
したがって、本件特許発明1?19は、本件特許明細書の記載に基づき、製造することができ(上記B)、かつ、使用することができるもの(上記A)であることが認められるところ、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものと認められる。

よって、請求人の主張する無効理由4には、理由がない。

6.申立理由5(特許法第36条第6項第1号)について
(1)「本件特許発明に係る複数のウイルス抗原を含む組成物については、その効果が本件明細書中の実施例において実証がされていない」旨の申立人の主張について
申立人は、上記5.(1)と同じ理由で、本件特許発明1?19は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、本件特許発明1?19は発明の詳細な説明に記載されていないものであるから、特許法第36条第6項1号に規定の要件を満たしていない旨、主張する。
しかしながら、本件特許発明の課題は、遺伝子群I、IIのノロウイルス抗原のそれぞれの遺伝子群の抗原に対して特異的に反応する抗体を両方ともに十分に産生できるという作用を有する本件特許発明の組成物を提供することにあると認められるところ、当該課題を解決するための手段、すなわち、当該組成物を製造すること、及び当該組成物が当該所望の作用を発揮することについては、上記5.(1)で述べたとおり、本件特許明細書に十分に記載されていることが認められる。
したがって、本件特許発明1?19は、発明の詳細な説明に記載されたものであると認められるから、本件特許発明1?19が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである旨の、申立人の主張は採用できない。

(2)「本件特許発明は、用途が限定されるべきである」旨の申立人の主張について
申立人は、
・本件特許発明1には、各遺伝子群の抗原の量が「約10μg?約100μg」であることが規定されているが、当該抗原量の本件特許明細書における記載は、鼻腔投与について説明する【0046】段落のみであるから、投与経路が何ら限定されていない本件特許発明1は、本件特許の発明の詳細な説明に開示されていない発明の範囲を含む旨、及び、
・仮に、本件特許発明1を鼻腔投与に限定するとしても、実施例11および実施例12は共に抗原を「腹腔内」投与する実施例であるから、鼻腔投与に限定する場合、本件特許発明1は、実施例によってサポートされていないこととなり、本件特許発明の1の効果は、実施例において実証されない旨、主張する。

しかしながら、本件特許明細書に記載されている抗原量については、申立人が採り上げる【0046】段落のほか、投与部位が特定されていない【0012】段落、【0054】段落などにも記載がある。
ここで、
【0012】段落では「ノロウイルス抗原の投与量は、投与1回あたり約1μgから約100mgまでの量で存在」すること、
【0054】段落では、「投与量は、製剤における各ノロウイルス抗原に対して、約1μgから10mg、好ましくは約2?50μgを含む・・・本発明の抗原製剤を使用する典型的な免疫化計画では、製剤を、各投与量が各抗原1?100μgを含む・・・で投与することができる。投与量は、組成物が生成する免疫学的活性および患者の状態、ならびに治療する患者の体重または体表面積によって決定する。投与量のサイズは、特定の患者における特定の組成物の投与に付随し得る、あらゆる有害な副作用の存在、性質、および程度によっても決定される。」などと記載されているところ、
本件特許発明1における「約10?約100μg」は、これらの種々の抗原量の記載の範囲内、もしくは重複する範囲にあるものであり、その上、上記【0054】段落の後半部分に記載があるとおり、抗原の投与量を種々の要素によって調整することも記載されていることを併せ考慮すると、当該本件特許発明1における抗原量の規定が鼻腔投与のみの投与量と解することは相当ではない。
そして、抗原の投与部位は、免疫を惹起しうる慣用の投与経路で適宜投与されるものであるところ、実施例には、鼻腔のほか、腹腔、筋肉投与により免疫惹起がなされたことが具体的に記載されており、また、本件特許明細書の【0012】段落、【0043】段落にも、それぞれ「粘膜、筋肉内、静脈内、皮下、皮内、真皮下、または経皮」投与、「経口、胃腸、および呼吸器(例えば、鼻の)粘膜に送達」することが記載されているから、鼻腔以外の投与経路であっても、免疫を惹起しうる経路で当業者が適宜投与することができることが本件特許明細書には記載されていると解される。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであると認められるから、本件特許発明1が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである旨の、申立人の主張は採用できない。

(3)「本件特許発明15の「前記組成物中のVLPの凝集割合が、12か月間にわたって測定した場合に、一定のままであるかまたは低減する」について、その課題を解決する手段が本件特許明細書に記載がない」旨の申立人の主張について
申立人は、本件特許発明15には、「VLPの凝集割合が、12か月にわたって測定した場合に、一定のままであるかまたは低減する」との記載があり、本件特許明細書の【0052】段落には、「製剤における凝集した抗原/完全な抗原の比率は、約12カ月以上の期間乾燥粉末として貯蔵した場合に増大しない(実施例10を参照されたい)。このように、この凍結乾燥手順により、予想可能かつ制御可能な、完全なノロウイルス抗原に対する凝集体の比率を有する安定な製剤が確実となる。」と記載されているが、実施例10および対応図10では、8か月にわたりVLPが徐々に減少し(SDS-PAGE)、%凝集が低下し、その後の3か月でVLPが若干増加し、%凝集が若干上昇しているに過ぎないから、本件特許発明15の課題を解決する手段が明細書に記載されているとは認められない旨、主張している。

しかしながら、本件特許明細書には、
【0049】段落「・・・殆どの製剤のプロセスの目標はタンパク質の凝集および分解を最小にすることであり、本発明者らは、凝集した抗原が存在すると、ノロウイルスVLPに対する免疫反応を増強することを実証した(動物モデルにおける実施例3および4を参照されたい)。したがって、本発明者らは、凝集した抗原の完全な抗原に対する最適な比率を生成して動物モデルにおいて最大の免疫反応を誘発するために、それによって凍結乾燥プロセスの間に抗原の凝集の百分率を制御することができる方法を開発した。」

【0050】段落「このように、本発明は、ノロウイルス抗原製剤を作製する方法であって、(a)ショ糖とキトサンとの比が約0:1から約10:1までである、ノロウイルス抗原、ショ糖、およびキトサンを含む凍結乾燥前溶液を調製することと、(b)前記溶液を凍結することと、(c)凍結溶液を30?72時間凍結乾燥することであって、凍結乾燥最終生成物がある百分率の凝集形態の前記ノロウイルス抗原を含むこととを含む方法も包含する。・・・」

【0051】段落「望ましい百分率の凝集をもたらすのに適当なショ糖とキトサンとの比率は、以下の指針によって決定することができる。約2:1から約10:1までの範囲の重量比のショ糖とキトサンとを含む凍結乾燥前混合物から、凍結乾燥前溶液濃度に応じて、約50%から100%までの範囲の完全なノロウイルス抗原(すなわち、0%から50%の凝集した抗原)の凍結乾燥後物が得られる(実施例13を参照されたい)。ショ糖とキトサンとの重量比0:1で、30%未満の完全なノロウイルス抗原(すなわち、70%を超える凝集した抗原)が生成される。ショ糖およびキトサンを両方とも省略し、マンニトールなどの増量剤だけを用いると、10%未満の完全な抗原を生成する(すなわち、凍結乾燥前溶液濃度に応じて凝集した抗原の90%を超える)。これらの指針を用いれば、当業者であれば、最適の免疫反応を生成するのに必要な望ましい量の凝集物を得るために、凍結乾燥前混合物におけるショ糖とキトサンとの重量比および濃度を調節することができる。」
との記載があり、

要するに、本件特許明細書では、実施例3、4等の結果に基づき、凝集VLPの割合が大きいほどVLPの安定性が増すことを確認した上で(上記【0049】段落)、その凝集VLPの割合を調整するための方法が【0050】段落?【0051】段落に具体的に説明されており、加えて、当該凝集VLPの割合が長期間安定な製剤として、【0052】段落に記載の「凍結乾燥前溶液にショ糖、キトサン、およびマンニトールを含むもの」等があることが具体的に説明されていることが認められるから、本件特許発明15における課題を解決するための手段は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえる。
そして、図10については、【0084】段落において、「これらの測定値は、実験誤差内では、12カ月の期間にわたって全VLPまたは完全なVLPのいずれかにおいて変化が検出されなかったことを示していた(図10)。SDS-PAGEの結果と比べた場合、SECによるVLPタンパク質の回復が低いのは凝集のためであったと仮定すると、%凝集の計算値は時間とともに増大せず、むしろ12カ月の貯蔵を通して一定のまま、または低減した。タンパク質にいっそう一般的な安定性の問題の一つは、貯蔵での凝集の増大である。図10における結果に基づくと、製剤は、完全なVLPの安定な百分率をもたらし、生成物を製造し、少なくとも1年間にわたって使用することができると結論付けることができる。」との説明があるところ、実験誤差も考慮したときには、図10における凝集%の変化は、本件特許発明15のような上記規定ぶりで表現し得るものと、当業者は理解し得ると認められる。
したがって、本件特許発明15は、発明の詳細な説明に記載されたものであると認められるから、本件特許発明15が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである旨の、申立人の主張は採用できない。

(4)小括
よって、本件特許発明1?19が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由5には理由がない。

第6 むすび
以上、申立人が主張する申立理由によっては、請求項1?19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-16 
出願番号 特願2015-197633(P2015-197633)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 161- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菊池 美香  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 井上 明子
田村 聖子
登録日 2017-04-28 
登録番号 特許第6134364号(P6134364)
権利者 タケダ ワクチン,インコーポレイテッド
発明の名称 ノロウイルスワクチン製剤  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  

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