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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
管理番号 1338154
異議申立番号 異議2017-701097  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-22 
確定日 2018-03-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6133267号発明「浄水器に用いられる膜モジュールのシール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6133267号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6133267号は、平成26年12月22日に出願された特願2014-258246号の特許請求の範囲に記載された請求項1?4に係る発明について、平成29年4月28日に設定登録がされたものであり、その後、全請求項に係る特許について、平成29年11月22日付けで特許異議申立人「土田裕介」(以下、「申立人」という。)による2件の特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件発明の認定

本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1?4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

【請求項1】
有機ポリイソシアネート成分(A)を含有する主剤(X)と、ポリオール成分(B)を含有する硬化剤(Y)とから構成され、以下の(1)及び(2)の内の少なくとも一方を満たし、かつ前記主剤(X)中のヒマシ油脂肪酸と硬化剤(Y)中のヒマシ油脂肪酸の合計含有量がポリウレタン樹脂形成性組成物の重量を基準として100?5000ppmであり、かつ有機ポリイソシアネートの変性体を製造する際に用いられるリン系触媒であって、炭素数3?24のトリアルキルリン酸エステル、炭素数4?18のホスホレンオキシド系化合物、炭素数4?18のホスホレンスルフィド系化合物、炭素数3?21のホスフィンオキシド系化合物、炭素数3?30のホスフィン系化合物、リン酸、及び炭素数1?18のリン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物、並びにリン系酸化防止剤であって、炭素数18?45のアリルホスファイト、炭素数30?45のアルキルホスファイト、及び炭素数22?45のアルキルアリールホスファイトからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する前記主剤(X)中のリン元素と、有機ポリイソシアネートの変性体を製造する際に用いられるリン系触媒であって、炭素数3?24のトリアルキルリン酸エステル、炭素数4?18のホスホレンオキシド系化合物、炭素数4?18のホスホレンスルフィド系化合物、炭素数3?21のホスフィンオキシド系化合物、炭素数3?30のホスフィン系化合物、リン酸、及び炭素数1?18のリン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物、並びにリン系酸化防止剤であって、炭素数18?45のアリルホスファイト、炭素数30?45のアルキルホスファイト、及び炭素数22?45のアルキルアリールホスファイトからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する硬化剤(Y)中のリン元素の合計含有量がポリウレタン樹脂形成性組成物の重量を基準として100ppm以下であることを特徴とする浄水器に用いられる膜モジュールのシール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物(E):
(1)前記有機ポリイソシアネート成分(A)が、数平均分子量が300以上のヒマシ油系ポリオール(b1)と有機ポリイソシアネート(a1)とを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(a2)を含有する;
(2)前記ポリオール成分(B)が、前記数平均分子量が300以上のヒマシ油系ポリオール(b1)、及び/又は前記数平均分子量が300以上のヒマシ油系ポリオール(b1)と前記有機ポリイソシアネート(a1)とを反応させて得られる水酸基を有するウレタンプレポリマー(b2)を含有する。
【請求項2】
請求項1記載の組成物を用いてなる浄水器用膜モジュールのシール材。
【請求項3】
請求項2に記載のシール材を用いてなる浄水器用膜モジュール。
【請求項4】
請求項3に記載の膜モジュールを用いてなる中空糸型浄水器。

第3.申立理由の概要

申立人は、証拠として次の甲第1号証及び参考資料1?4(以下、それぞれ「甲1-1」及び「参1-1?1-4」という。)を提出し、請求項1?4に係る発明は、甲1-1に記載された発明であるか、当該発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反(以下、「申立理由1-1」という。)してされたものであると主張している。
また、申立人は、別途、証拠として次の甲第1,2号証及び参考資料1?5(以下、それぞれ「甲2-1,2-2」及び「参2-1?2-5」という。)を提出し、請求項1?4に係る発明は、甲2-1に記載された発明であるか、当該発明と甲2-2の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反(以下、「申立理由2-1」という。)し、さらに同法第36条第6項第1号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない(以下、「申立理由2-2」という。)特許出願に対してされたものでもあると主張している。

甲1-1:特開2005-89491号公報
参1-1:伊藤製油株式会社カタログ「ヒマシ油系ウレタン原料」
参1-2:伊藤製油株式会社カタログ「製品一覧」
参1-3:伊藤製油株式会社ホームページ
参1-4:特開昭62-256894号公報

甲2-1:特開2008-184541号公報
甲2-2:特開平10-195160号公報
参2-1:豊国製油株式会社製品資料
参2-2:山本信也ほか2名「LC/APCI-MSによるひまし油中の遊離ヒドロキシ脂肪酸の定量」,日本油化学会誌,第45巻第2号(1996),29?34頁
参2-3:宮野忠昭ほか1名「中空糸分離膜を支える繊維技術 高機能化へのニューパラダイム」,高分子,44巻10月号(1995),666?669頁
参2-4:特開平5-247165号公報
参2-5:特開昭62-256894号公報

第4.申立理由1-1について

1.甲1-1の記載事項

甲1-1には、イソシアネート基/活性水素基=1.00(当量比)になるように主剤と硬化剤を混合して得た膜シール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物(【0055】)として、次の主剤A-1と硬化剤B-5を用いた「比較例1」(【0059】【表1】)が記載されている。

A-1(【0050】【0052】)
日本ポリウレタン工業(株)製の4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート「ミリオネートMT」208g、同カルボジイミド変性体「ミリオネートMTL」530gと
伊藤製油(株)製のヒマシ油「Uric H-30」(平均官能基数=2.7、水酸基価=160(mgKOH/g)、モノグリセライドの数平均分子量を470とした場合に於けるGPC測定値:Mn=450以上のピーク面積比99%:Mw/Mn=1.03)262g
を反応させて得たイソシアネート基末端プレポリマー
(イソシアネート基含有量19.0質量%)

B-5(【0052】【0054】)
上記ヒマシ油82質量部と
N,N,N´,N´-テトラキス[2-ヒドロキシプロピル]エチレンジアミン(水酸基価=760(mgKOH/g)18質量部
を配合したポリオール成分

2.申立人の主張

申立人は、ヒマシ油「Uric H-30」について、その平均官能基数及び水酸基価とKOHの式量から数平均分子量が947と計算され、参1-1に記載された酸価(<1.0mgKOH/g)及び脂肪酸組成(リシノール酸87.0-91.0%等)から脂肪酸含有量が5310ppm未満と計算できること、一方、本件明細書に記載された実施例から、ミリオネートMT及びミリオネートMTLのリン含有量が、それぞれ24.5ppm及び132.5ppmと計算でき、これらの値と、主剤のイソシアネート基の式量と硬化剤の水酸基価及びKOHの式量から得た水酸基量の当量比から重量換算した主剤と硬化剤の重量配合比を用いることで、「比較例1の膜シール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物」の主剤及び硬化剤中のヒマシ油脂肪酸の合計含有量は、最大3000ppm未満であり、リン元素含有量は、38ppmであると主張し、甲1-1には、この膜シール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物を家庭用水処理装置に使用すること(【0064】)も記載されているから、本件発明1は、甲1-1に記載された発明であると主張している。

3.当審の判断

甲1-1には、実施例の膜シール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物において、高温での長時間スチーム滅菌後に於ける接着強度の変化が殆どないのに対し、比較例では接着強度の低下が現れ、また、実施例において繰返加圧後の状態が良好であるのに対し、比較例では破損が見受けられること(【0062】【0063】)が記載され、その上で、優れた耐熱性能を有する膜シール材について、医療用、工業用分離装置だけでなく家庭用・工業用水処理装置等にも好適に使用できる(【0064】)と記載されている。
してみると、甲1-1において、浄水器などの家庭用水処理装置に使用することが記載されているのは、実施例の膜シール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物であって、比較例のものでないことは明らかである。すなわち、甲1-1には、「比較例1の膜シール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物」を浄水器などの家庭用水処理装置に使用することは記載されていないし、示唆もされていない。
また、ミリオネートMT及びその変性体であるミリオネートMTLに含まれるリンは、製造上の不可避不純物と認められるから、商品名が同一であるからといって、その量が、甲1-1の比較例と本件明細書の実施例で同一になるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1-1に記載された発明ではないし、当該発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明1を引用する本件発明2?4も同様である。
よって、申立理由1-1には理由がない。

第5.申立理由2-1について

1.甲2-1の記載事項

甲2-1には、イソシアネート成分およびポリオール成分をNCO/OH当量比=1/1となる配合比で組み合わせた膜モジュールのシール用注型ポリウレタン樹脂形成性組成物(【0049】)として、次のイソシアネート成分(A-2)およびポリオール成分(B-1)を用いた「実施例2」(【0052】【表1】)が記載されている。

A-2(【0044】)
BASF INOAC ポリウレタン(株)製の4,4’-および2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート混合物「ルプラネートMI」600部、ポリプロピレングリコール400部および
豊国製油(株)製の高純度ヒマシ油「ELA-DR」800部
を反応させて得たイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーからなるイソシアネート成分(NCO含量は16.0%)

B-1(【0045】)
上記高純度ヒマシ油800部と
N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン200部を混合して得たポリオール成分(水酸基価は282)

2.申立人の主張

申立人は、ヒマシ油「ELA-DR」について、参2-1に記載された官能基数(2.7)及び水酸基価(158-164)とKOHの式量から数平均分子量が959?924と計算され、参2-1に記載された酸価(0.3mgKOH/g以下)及び参2-2にヒマシ油を構成する脂肪酸の大部分がリシノール酸と記載されていることから、脂肪酸含有量が1730ppm以下と計算できること、一方、本件明細書に記載された実施例から、ルプラネートMIのリン含有量が14.1ppmと計算でき、これらの値と、イソシアネート成分のNCO式量とポリオール成分の水酸基価及びKOHの式量から得た水酸基量の当量比から重量換算したイソシアネート成分とポリオール成分の重量配合比を用いることで、「実施例2の膜モジュールのシール用注型ポリウレタン樹脂形成性組成物」のイソシアネート成分及びポリオール成分中のヒマシ油脂肪酸の合計含有量は、1034ppm以下であり、リン元素含有量は、2.7ppmであると主張し、イソシアネート成分とポリオール成分とからなる注型ポリウレタン樹脂形成性組成物が、血液処理器だけでなく浄水器にも用いられることは、甲2-2に記載されるように、当業者にとって周知の技術的事項といえるから、本件発明1は、甲2-1に記載された発明であると主張している。

3.当審の判断

甲2-1には、実施例の膜モジュールのシール材用注型ポリウレタン樹脂形成性組成物が、ポリイソシアネートやポリオールの安定剤として毒性の強い3,5-ジ-t-ブチルヒドロキシトルエンを含有しないことから、安全性に極めて優れ、人工臓器用の中空糸型血液処理器等の用途に特に有用である(【0003】【0053】【0054】)と記載されている。
したがって、イソシアネート成分とポリオール成分とからなる注型ポリウレタン樹脂形成性組成物が、血液処理器だけでなく浄水器にも用いられることが周知であるとしても、甲2-1に、「実施例2の膜モジュールのシール用注型ポリウレタン樹脂形成性組成物」を浄水器に使用することが記載されているとはいえない。
また、甲2-1及び甲2-2には、浄水器に用いられる膜モジュールのシール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物に不純物として含有されるヒマシ油脂肪酸の含有量と、リン系触媒又はリン系酸化防止剤に由来するリン元素の含有量を限定することで、膜モジュールの処理液の臭気の発生が抑制され、風味に優れ、泡立ちを抑えるという本件発明1の作用効果について記載や示唆はない。
したがって、本件発明1は、甲2-1に記載された発明ではないし、当該発明及び甲2-2の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明1を引用する本件発明2?4も同様である。
よって、申立理由2-1には理由がない。

第6.申立理由2-2について

1.申立人の主張

申立人は、本件明細書【0004】【0039】の記載から、本件発明1は、膜モジュールのシール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物に存在するリン系触媒及びリン系酸化防止剤に由来するリン元素を低減させることによって、課題の1つである膜モジュールの処理液の泡立ちを抑えるものと認められると主張し、これに対し、発明の詳細な説明においては、市販品の有機ポリイソシアネートを用いた組成物について泡立ち等の評価をしたにすぎず、由来源の具体的な化合物名や含有量が開示されていないから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載では、泡立ちに影響を与え、低減しなければならない化合物がどのようなものか、また、どの程度低減しなければならないか理解できないし、その開示内容を、本件発明1において特定する多種多様の化合物の範囲にまで拡張ないし一般化できないと主張している。

2.当審の判断

本件明細書の発明の詳細な説明には、市販のポリイソシアネートのみを用いた「実施例1?5,7,8、比較例1,2」では、リン元素含量がいずれも100ppm以下であり、ヒマシ油脂肪酸含量が5000ppmを超えた場合に泡立ちが生じることが記載されるとともに、市販のポリイソシアネート100部に対して3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシドを触媒として0.50部用いてカルボジイミド変性させたものを用いた「参考例」では、ヒマシ油脂肪酸含量が5000ppm以下であっても、リン含量が100ppmを超えて泡立ちが生じたこと(【0056】【表1】【表3】)が記載されている。
そして、泡立ちの要因が、ヒマシ油脂肪酸やリン化合物が水に含まれる金属イオン(Na+、K+、Ca^(2)+及びMg^(2)+等)と塩を生成しているためであると考えられる(【0037】)と記載されるとともに、本件発明1において特定する多種多様の化合物について、どのような理由でリン含量の由来となるか(【0040】?【0042】)を記載している。
したがって、当業者であれば、これらの記載から、泡立ちに影響を与え、低減しなければならない化合物がどのようなものか、また、どの程度低減しなければならないかを理解することができ、また、その開示内容を、本件発明1において特定する範囲にまで拡張ないし一般化することができる。
よって、申立理由2-2には理由がない。

第7.むすび

以上、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-28 
出願番号 特願2014-258246(P2014-258246)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B01D)
P 1 651・ 536- Y (B01D)
P 1 651・ 113- Y (B01D)
P 1 651・ 121- Y (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 目代 博茂  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 大橋 賢一
山崎 直也
登録日 2017-04-28 
登録番号 特許第6133267号(P6133267)
権利者 三洋化成工業株式会社
発明の名称 浄水器に用いられる膜モジュールのシール材用ポリウレタン樹脂形成性組成物  
代理人 吉住 和之  
代理人 清水 義憲  
代理人 吉住 和之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  

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