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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
管理番号 1338159
異議申立番号 異議2017-701124  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-29 
確定日 2018-03-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6137408号発明「Fe基ナノ結晶合金コア、及びFe基ナノ結晶合金コアの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6137408号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6137408号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成27年6月10日(優先権主張 平成26年6月10日)の出願であって、平成29年5月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年11月29日に特許異議申立人 畠 明により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6137408号の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、本件発明1ないし8はそれぞれ次のとおりのものである。

「【請求項1】
Fe基ナノ結晶合金リボンを巻回したコアであって、
前記コアのインピーダンス比透磁率μrzが、
周波数10kHzで、90,000以上、
周波数100kHzで、40,000以上、かつ、
周波数1MHzで、8,500以上、
である、Fe基ナノ結晶合金コア。
【請求項2】
前記コアのインピーダンス比透磁率μrzが、
周波数10kHzで、105,000以上、
周波数100kHzで、45,000以上、かつ、
周波数1MHzで、9,000以上、
である、請求項1に記載のFe基ナノ結晶合金コア。
【請求項3】
前記Fe基ナノ結晶合金リボンの厚さが、9μm以上20μm以下である、請求項1または2に記載のFe基ナノ結晶合金コア。
【請求項4】
ナノ結晶化可能なFe基非晶質合金リボンを巻回した後、結晶化温度領域に加熱し、冷却する熱処理工程を有する、Fe基ナノ結晶合金リボンを巻回したコアの製造方法であって、
前記熱処理工程は、
示差走査熱量計での結晶化開始温度の25℃高温から結晶化開始温度の60℃高温までに相当する昇温期間中の温度範囲内に限定して、10分以上60分以下で前記コアの高さ方向に磁場を印加する磁場印加工程を有する、
Fe基ナノ結晶合金コアの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程は、
示差走査熱量計での結晶化開始温度の30℃高温から結晶化開始温度の50℃高温までに相当する前記昇温期間中の温度範囲内に限定して、15分以上40分以下で前記コアの高さ方向に磁場を印加する磁場印加工程を有する、請求項4に記載のFe基ナノ結晶合金コアの製造方法。
【請求項6】
前記コアの高さ方向に、磁場強度50kA/m以上300kA/m以下の磁場を印加する、請求項4または5に記載のFe基ナノ結晶合金コアの製造方法。
【請求項7】
前記Fe基ナノ結晶合金リボンの厚さが、9μm以上20μm以下である、請求項4から6のいずれかに記載のFe基ナノ結晶合金コアの製造方法。
【請求項8】
製造されたコアのインピーダンス比透磁率μrzが、
周波数10kHzで、90,000以上、
周波数100kHzで、40,000以上、かつ、
周波数1MHzで、8,500以上、
である、請求項4から7のいずれかに記載のFe基ナノ結晶合金コアの製造方法。」

第3 申立理由の概要
1.申立理由1(サポート要件)
特許異議申立人は、請求項1ないし8に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、請求項1ないし8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

2.申立理由2(進歩性)
特許異議申立人は、証拠として、下記の甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、請求項1ないし8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、請求項1ないし8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

記(証拠一覧)
甲第1号証:特開平10-306314号公報
甲第2号証:特開2000-328206号公報
甲第3号証:特開平7-278764号公報

第4 当審の判断
1.申立理由1(サポート要件)について
(1)請求項1について
特許異議申立人は、請求項1には「Fe基ナノ結晶合金」と記載されており、明細書の【0042】には「ナノ結晶化可能なFe基非晶質合金としては、例えば、一般式:(Fe_(1-a)M_(a))_(100-x-y-z-)α_(-)β_(-)γCu_(x)Si_(y)B_(z)M’αM”βXγ(原子%)(ただし、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb,Mo,Ta,Ti,Zr,Hf,V,Cr,Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、M”はAl,白金族元素,Sc,希土類元素,Zn,Sn,Reからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、Asからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、a,x,y,z,α,β及びγはそれぞれ0≦a≦0.5,0.1≦x≦3,0≦y≦30,0≦z≦25,5≦y+z≦30、0≦α≦20,0≦β≦20及び0≦γ≦20を満たす。)により表される組成の合金を使用することができる。」と記載されているが、前記明細書中に実施例として記載されているのは、「Cu:1%、Nb:3%、Si:15.5%、B:6.5%、残部Fe及び不可避不純物からなる合金」のみであるから、請求項1の前記「Fe基ナノ結晶合金」という記載にまで拡張ないし一般化できるとは言えない。したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨を主張している。
しかしながら、例えば明細書の【0002】に「Fe基ナノ結晶合金は、高い飽和磁束密度Bsと高い比透磁率μrとを両立できる優れた軟磁気特性を備えている」と記載されているように、Fe基ナノ結晶合金と呼ばれる合金は、磁性材料として共通する、又は、類似する性質・特性を有するものであることを勘案すると、実施例がFe基ナノ結晶合金に含まれる1つの合金のみしかないことのみをもって、「Fe基ナノ結晶合金」という記載にまで拡張ないし一般化することはできないとまでいうことはできない。そして、特許異議申立人は、Fe基ナノ結晶合金あるいは前記一般式に含まれる合金の少なくとも一部が、請求項1に記載のインピーダンス比透磁率μrzの数値範囲を実現できないとする合理的な根拠及び証拠を具体的に示してはいない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(2)請求項4及び5について
特許異議申立人は、
請求項4に「結晶化開始温度」とあるが、実施例には「結晶化開始温度は500℃」の場合しかなく、
請求項4には「結晶化開始温度の25℃高温から結晶化開始温度の60℃高温までに相当する昇温期間中の温度範囲」と記載され、請求項5には「結晶化開始温度の30℃高温から結晶化開始温度の50℃高温までに相当する前記昇温期間中の温度範囲」と記載されているが、実施例には、「530?550℃の温度範囲(結晶化開始温度の30℃高温から結晶化開始温度の50℃高温の温度範囲)」及び「540?550℃の温度範囲(結晶化開始温度の40℃高温から結晶化開始温度の50℃高温の温度範囲)」の場合しかなく、
請求項4には「10分以上60分以下で」と記載されているが、実施例には「30分」及び「15分」の場合しかないから、請求項4及び5の上記各記載にまで拡張ないし一般化できるとは言えない。したがって、本件発明4及び5は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨を主張している。
しかしながら、請求項4及び5に記載の上記各発明特定事項は、実施例1ないし4の結果のみに基づくものではなく、比較例1(磁場無印加)及び比較例2(常時磁場印加)の結果や、参考例(480?520℃の温度範囲(結晶化開始温度の20℃低温から結晶化開始温度の20℃高温の温度範囲))の結果にも基づくものであり、特に、上記比較例1及び比較例2の結果から、【0033】に記載されているような、熱処理中の磁場印加による低周波域及び高周波域でのインピーダンス比透磁率増減の傾向が確認できていることや、比較例2において520℃(結晶化開始温度の20℃高温)まで磁場印加していることや、最高到達温度が580℃であることを踏まえると、請求項4及び5の上記各記載にまで拡張ないし一般化することはできないとまでいうことはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(3)請求項6について
特許異議申立人は、請求項6には「前記コアの高さ方向に、磁場強度50kA/m以上300kA/m以下の磁場を印加する」と記載されているが、実施例には「磁場強度は、280kA/mとした」及び「磁場強度は、160kA/mとした」場合しかないから、請求項6の上記記載にまで拡張ないし一般化できるとは言えない。したがって、本件発明6は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨を主張している。
しかしながら、明細書の【0040】に記載されているように、印加する磁場の強度の範囲は、「印加する磁場が弱すぎると、実作業条件での誘導磁気異方性の付与が難しくなり、また、高すぎると誘導磁気異方性が付与されすぎる傾向になる。」という理由で設定されたものであるから、「280kA/m」及び「160kA/m」の2例しかないことを根拠とする特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1、4、5、6とそれらの従属請求項に係る特許、すなわち、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。

2.申立理由2(進歩性)について
(1)甲第1号証ないし甲第3号証の記載
ア.甲第1号証(特開平10-306314号公報)
甲第1号証には、「軟磁性合金の製造方法」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気ヘッド、トランス、チョークコイル等の磁気デバイスに使用される軟磁性合金の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、磁気ヘッドのコアやパルスモータの磁心あるいはトランスやチョークコイルなどの磁気デバイスに用いられている軟磁性合金に要求される特性は、飽和磁束密度が高いこと、透磁率が高いこと、低保磁力であること、薄い形状が得やすいこと、低磁歪であること、適度な磁気異方性エネルギーを付与できること、角型比(Ir/Is)を制御できること、磁区構造を制御できることなどである。従って軟磁性合金の開発においては、これらの観点から種々の合金系において材料研究がなされている。従来、上述の用途に用いられる材料として、センダスト、パーマロイ、けい素鋼等の結晶質合金が用いられ、特に最近では、Fe系やCo系の非晶質合金も使用されるようになってきている。」
(イ)「【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳しく説明する。本発明の製造方法により軟磁性合金を製造するには、まずFeを主成分とし、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選ばれた1種または2種以上の金属元素からなる元素MとBを含む金属溶湯を急冷して非晶質合金薄帯を生成する。この合金薄帯の製造方法は、例えば金属溶湯を高速回転している冷却ロール等の移動する冷却体に射出するなどの周知の方法を用いることができる。
【0008】続いて、生成された非晶質合金薄帯に熱処理を施す。ここで熱処理を施すにあたっては、図1に示すように非晶質合金薄帯を室温から結晶化温度以上の所定温度(保持温度)まで昇温し、ついで所定温度(保持温度)で所定時間保持した後、空冷等により降温するが、このとき、誘導磁気異方性を付与するために少なくとも昇温時に静磁場中で熱処理するとともに昇温速度を調整し、平均結晶粒径30nm以下の微細結晶組織を組織の50%以上析出させるとともに誘導磁気異方性を付与する。
【0009】本発明において熱処理する際に少なくとも昇温時に静磁場中で行うのは、磁気異方性の起源は異なった種類の原子が異方的に配列するためであり、異方性を誘導するには原子の再配列が必要であり、原子の再配列を伴う結晶化の際に異方性が誘導されやすからである。このような理由により本発明の製造方法では、少なくとも昇温時に静磁場中で熱処理を行えばよいが、昇温時と保持時と降温時の全熱処理工程を静磁場中で行ってもよいし、昇温時と保持時を静磁場中で行ってもよい。また、非晶質合金薄帯に印加する静磁場の方向は、特に限定されず、横磁界でも、縦磁界でもよく、目的とする角型比等に応じて変更可能である。本発明において熱処理する際に昇温速度を調整するのは、異方性の誘導に必要な原子の再配列は、結晶化の再に最も生じやすいため、非晶質合金薄帯の結晶化温度を通過する際の昇温速度を制御することにより、原子の再配列の程度を制御することができるためである。従って、熱処理する際の昇温速度を調整することにより、軟磁性合金が用途に応じた異方性エネルギー(Ku)を有するように誘導磁気異方性を制御することができる。」
(ウ)「【0011】 熱処理により平均結晶粒径30nm以下の微細結晶組織が析出したのは、急冷状態の合金薄帯は非晶質を主体とする組織となっており、これを加熱して昇温させると、ある温度以上で平均結晶粒径が30nm以下の、Feを主成分とするbcc(体心立方構造)結晶粒からなる微結晶相が析出するからである。このbcc構造を有するFe微結晶相が析出する温度は合金の組成によって変化するが、480?550℃程度である。またこのbcc構造を有するFe微結晶相が析出する温度よりも高い温度に達するとFe_(3)B、あるいは合金にZrが含まれる場合にはFe_(3)Zr等の軟磁気特性を悪化させる化合物相が析出する。このような化合物相が析出する温度は合金の組成によって変化するが、740?810℃程度である。したがって、本発明において、非晶質合金薄帯を熱処理する際の保持温度は480℃?810℃の範囲で、bcc構造を有するFeを主成分とする微結晶相が好ましく析出しかつ上記化合物相が析出しないように、合金の組成に応じて好ましく設定される。」
(エ)「【0024】
【実施例】
(製造例1)本発明の範囲内の合金の例としてFe_(84)Nb_(3.5)Zr_(3.5)B_(8)Cu_(1)なる組成を有する非晶質合金薄帯を製造した。(以下、省略)」
(オ)「【0027】ついで、得られたFe_(84)Nb_(3.5)Zr_(3.5)B_(8)Cu_(1)なる組成の非晶質合金薄帯を巻回して作製したトロイダル状の試料(高さ15mm、内径18mm、外径28mm)について静磁場を印加する時期を変更して熱処理を行い、得られた軟磁性合金の異方性エネルギー(Ku)について調べた。ここでの熱処理条件は、昇温速度0.033゜C/秒、保持温度600゜Cで30分保持、降温速度0.6゜C/秒であり、静磁場はトロイダル状の試料の面方向(磁化容易軸方向)に垂直磁界(横磁界)を2kOe印加した。
【0028】その結果、1(当審注:丸囲い数字)昇温時と保持時と降温時の全熱処理工程に静磁界を印加して得られた軟磁性合金のKuは52J/m^(3)、2(当審注:丸囲い数字)昇温時のみ静磁界を印加して得られた軟磁性合金のKuは46J/m^(3)(1(当審注:丸囲い数字)の条件のときのKuの値(100%)に対して88%)3(当審注:丸囲い数字)保持時のみ静磁界を印加して得られた軟磁性合金のKuは19J/m^(3)(37%)、4(当審注:丸囲い数字)降温時のみ静磁界を印加して得られた軟磁性合金のKuは13J/m^(3)(25%)であり、昇温時と保持時と降温時の全熱処理工程に静磁界を印加する1(当審注:丸囲い数字)と、昇温時のみ静磁界を印加する2(当審注:丸囲い数字)の場合が得られる軟磁性合金のKuの値が大きいことがわかる。ここでの異方性エネルギーは、1(当審注:丸囲い数字)?4(当審注:丸囲い数字)の熱処理条件でそれぞれ得られた軟磁性合金の磁化曲線のB-Hカーブの傾きから求めたものであり、B-Hカーブの傾きが大きい程異方性エネルギーも大きくなる。」

そして、
・上記(エ)の「Fe_(84)Nb_(3.5)Zr_(3.5)B_(8)Cu_(1)なる組成を有する非晶質合金薄帯」の組成は、本件特許の明細書の【0042】に記載の「ナノ結晶化可能なFe基非晶質合金」の一般式に含まれるものであること、
・上記(イ)及び(ウ)の記載からみて、熱処理を施すことによってナノ結晶化させていること、
・上記(オ)の記載からみて、非晶質合金薄帯を巻回して作製したものであり、また、一般に、前記帯を「リボン」と呼ぶこともあること、
・上記(ア)の記載からみて、コアとして用いられるものであること、
を踏まえると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。

「Fe基ナノ結晶合金リボンを巻回したコアであるFe基ナノ結晶合金コア。」

イ.甲第2号証(特開2000-328206号公報)
甲第2号証には「軟磁性合金薄帯ならびにそれを用いた磁心、装置およびその製造方法」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
(カ)「【請求項4】 組成式:Fe_(100-x-a-y-z)A_(x)M_(a)Si_(y)B_(z)(原子%)で表され、式中AはCu,Auから選ばれた少なくとも一種の元素、MはNb,Ti,Zr,Hf,Mo,Ta,W,Vからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、x,y,zおよびaはそれぞれ0.1≦x≦3、2≦a≦10、0≦y≦20、2≦z≦25を満足する組成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の軟磁性合金薄帯。」
(キ)「請求項8】 組織の少なくとも一部に平均粒径50nm以下の結晶粒が存在することを特徴とする請求項1乃至7に記載の軟磁性合金薄帯。
【請求項9】 請求項1乃至8に記載の軟磁性合金薄帯を巻き回す、あるいは積層することにより構成されていることを特徴とする磁心。」
(ク)「【0011】合金薄帯あるいは磁心の熱処理は通常アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス中で行なうが大気中等酸素を含む雰囲気で行っても良い。また、必要に応じて熱処理期間の少なくとも一部の期間、合金がほぼ飽和する程度以上の強さの磁界を印加して磁界中熱処理を行い誘導磁気異方性を付与しても良い。合金磁心の形状にも依存するが一般には高角形比とするために薄帯の長手方向(巻磁心の場合は磁心の磁路方向)に磁界を印加する場合は8A/m以上、低角形比とするために薄帯の幅方向(巻磁心の場合は磁心の高さ方向)に印加する場合は80kA/m以上の磁界を印加する場合が多い。熱処理は露点が-30℃以下の不活性ガス雰囲気中で行なうことが望ましく、特に露点が-60℃以下の不活性ガス雰囲気中で熱処理を行なうと透磁率もより高くなり、高透磁率が必要とされる用途に対してはより好ましい結果が得られる。熱処理の際の最高到達温度は結晶化温度以上であり、通常450℃から650℃の範囲である。一定温度に保持する熱処理パターンで熱処理を行う場合は、一定温度での保持時間は通常は量産性の観点から24時間以下であり、好ましくは4時間以下である。熱処理の際の平均昇温速度は好ましくは0.1℃/minから200℃/min、より好ましくは1℃/minから40℃/min、平均冷却速度は好ましくは0.1℃/minから3000℃/min、より好ましくは1℃/minから1000℃/minであり、この範囲で特に優れた軟磁気特性が得られる。」
(ケ)「【0017】
【発明の実施の形態】
【実施例】以下本発明を実施例にしたがって説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)原子%でSi15.6%、B6.8%、Nb2.9%、Cu0.9%、残部実質的にFeからなる合金溶湯を図1と同様な単ロール装置を用いセラミックス製のノズルのスリットから外径800mmのCu-Be合金製の冷却ロール上に出湯し、幅15mmのアモルフアス合金薄帯50kgを作製した。溶湯の出湯温度は1300℃、ノズルのスリットは15mm×0.6mm、ノズル先端と冷却ロール間のギャップは80μmとし、出湯圧力およびロール周速を変えて、幅15mmのアモルフアス合金薄帯を作製した。次にこのアモルフアス合金薄帯の冷却ロールと接触して凝固した面(以下ロール接触面と呼ぶ)側の組織をレーザ顕微鏡で観察し、ロール面に形成したエアポケットのサイズを求めた。エアポケットは薄帯長手方向に伸びた形で凹部を形成しており、視野内に存在するもっとも大きいエアポケットの幅Wと長さLを測定した。更にロール面側のX線回折および面粗さ計により中心線平均粗さRaの測定を行った。次に得られた薄帯をロール接触面側を外側にし、外径25mm内径20mmに巻き回し巻磁心を作製し、図3に示す熱処理パターンで磁界中熱処理を行った。磁界は巻磁心の高さ方向に印加した。この場合、角形比は磁界中熱処理しない場合に比べ低くなる。熱処理後の磁心を構成している軟磁性合金薄帯は、透過電子顕微鏡による組織観察の結果、組織の70%程度が粒径12nm程度の微細な結晶粒からなることが確認された。
【0018】次にこの巻磁心をフェノール樹脂製のコアケースに入れ巻線を施し、直流B-Hループと50Hzにおける比初透磁率μiacを測定した。図4に作製した前記軟磁性合金薄帯のロール接触面側の最大のエアポケットの幅W、最大のエアポケットの長さL、中心線平均粗さRa、熱処理後の前記磁心の角形比Br/Bsおよび50Hzにおける比初透磁率μ_(iac)のロール周速依存性を示す。出湯圧力は350gf/cm^(2)一定とした。ロール周速を変えた場合、最大のエアポケットの幅Wは35μm以下であり、特に大きくなることはない。エアポケットの長さLはロール周速が22m/s以上の範囲において150μm以下であるが、22m/s未満になると急激に大きくなり150μmを超える。ロールと接触した面の中心線平均粗さRaはロール周速が22m/s以上では0.5μm以下となるが、22m/s未満では急激に大きくなる。ロール接触面のエアポケットの長さが小さくRaの小さいロール周速が22m/s以上において角形比Br/Bsが20%以下、50Hzにおける比初透磁率μ_(iac)が100000以上の優れた特性が得られる。これに対して、ロール周速が22m/s未満ではL、Raが大きくかつ、これを用い製造した磁心の角形比Br/Bsが低下しにくく、比初透磁率μ_(iac)も低下することが分る。」

ウ.甲第3号証(特開平7-278764号公報)
甲第3号証には、「ナノ結晶合金およびその製造方法ならびにそれを用いた磁心」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(コ)「【請求項1】 一般式:(Fe_(1-a)M_(a))_(100-x-y-z-b-c-d)A_(x)M'_(y)M''_(z)X_(b)Si_(c)B_(d)(原子%)(式中MはCo,Niから選ばれた少なくとも1種の元素を、AはCu,Auから選ばれた少なくとも1種の元素、M'はTi,V,Zr,Nb,Mo,Hf,TaおよびWから選ばれた少なくとも1種の元素、M''はCr,Mn,Sn,Zn,Ag,In,白金属元素,Mg,Ca,Sr,Y,希土類元素,N,OおよびSから選ばれた少なくとも1種の元素、XはC,Ge,Ga,AlおよびPから選ばれた少なくとも1種の元素を示し、a,x,y,z,b,cおよびdはそれぞれ0≦a≦0.1、0.1≦x≦3、1≦y≦10、0≦z≦10、0≦b≦10、11≦c≦17、3≦d≦10を満たす数である。)で表され、平均結晶粒径が30nm以下である結晶粒が組織の少なくとも一部を占め、比初透磁率が70000以上、角形比が30%以下であることを特徴とするナノ結晶合金。
【請求項2】 比初透磁率が100000以上である請求項1に記載のナノ結晶合金。」
(サ)「【0011】本発明合金は、前記組成のアモルファス合金を単ロ-ル法等の超急冷法により作製後、これを磁心の形状に加工し、ある条件範囲内で熱処理を行い平均粒径30nm以下の微結晶を形成することにより作製する。
【0012】前記組成のアモルファス合金を、熱処理期間の少なくとも一部の期間に磁場を印加する期間および熱処理冷却期間を有する熱処理により微結晶化するナノ結晶合金の製造方法であって、該磁場を印加する期間の少なくとも一部の期間において、前記合金中に結晶が部分的あるいは全部形成し、かつアモルファス合金の結晶化温度以上で0分以上30分以下一定温度に保持し、熱処理冷却期間において平均冷却速度10℃/min以上で400℃まで冷却することにより比初透磁率が70000以上、角形比が30%以下であるナノ結晶合金を製造することができる。本発明に係る組成をはずれた合金ではこのような熱処理を行っても比初透磁率が70000以上、角形比が30%以下であるナノ結晶合金を製造することが困難である。
さらに、本発明合金は、磁心損失が低いという特徴や温度特性が良好であるという特徴を合わせ持っており、高周波トランス等の用途に使用できるのはもちろんである。また、高透磁率の特性を生かし漏電警報器に用いる電流センサにも適している。
【0013】 本発明ナノ結晶合金の薄帯から構成された磁心は従来よりも小型あるいは巻線が少ない高性能のチョ-クコイルやトランスが実現可能である。
【0014】400℃以上の温度で磁場を印加する時間を30秒以上30分以内、結晶化温度以上で一定温度に保持する期間が存在しない、あるいは一定温度に保持する時間が30分以内とすることにより比初透磁率が70000以上、角形比が30%以下であるナノ結晶合金を製造することができより好ましい結果が得られる。
【0015】400℃以上の温度で磁場を印加する時間を30秒以上20分以内とすることにより比初透磁率が100000以上、角形比が30%以下であるナノ結晶合金を製造することができる。300℃未満の温度では磁場を印加しても誘導磁気異方性がつきにくく比較的長時間磁場を印加しても300℃未満の温度では特性に大きな影響を与えない。磁場を印加する時間を5分以上とすることにより角形比を20%以下とすることが可能であり、低角形比をより重視する用途に適する合金および磁心が得られる。
【0016】磁場を印加する方向は合金薄帯の幅方向あるいは厚さ方向から多少ずれていても良いが特に合金薄帯の幅方向あるいは厚さ方向である場合に低角形比で高い透磁率が得易い。磁心の場合は磁心の高さ方向あるいは径方向に相当する。
【0017】合金が板厚15μm以下の薄帯である場合は特に透磁率や磁心損失の周波数特性に優れた特性が実現できる。この場合、特にコモンモ-ドチョ-ク等ノイズフィルタ用のコアや高周波トランス用コア等に好適である。印加する磁場の強さは形状にもよるが通常は80kA・m^(-1)以上である。磁場は合金が飽和する程度印加する必要がある。印加磁場は大きい程合金の飽和が確実となり好ましいが、合金が完全に飽和する磁界であればそれ以上強い磁界を印加する必要はない。」

(2)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明(上記(1)ア.参照)とを対比すると、
「Fe基ナノ結晶合金リボンを巻回したコアであるFe基ナノ結晶合金コア。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本件発明1は「前記コアのインピーダンス比透磁率μrzが、周波数10kHzで、90,000以上、周波数100kHzで、40,000以上、かつ、周波数1MHzで、8,500以上、である」のに対して、引用発明はコアのインピーダンス比透磁率μrzの値について特定されていない点。


上記相違点について検討すると、甲第2号証には、Fe基ナノ結晶合金コアに相当する「軟磁性合金薄帯を用いた磁心」において、「50Hzにおける比初透磁率μ_(iac)が100000以上」であることは記載されている(上記(1)イ.参照)が、当該磁心のインピーダンス比透磁率μrzが「周波数10kHzで、90,000以上、周波数100kHzで、40,000以上、かつ、周波数1MHzで、8,500以上」であることは記載されていない。
また、甲第3号証にも、Fe基ナノ結晶合金に相当する「ナノ結晶合金」に関して、「比初透磁率が100000以上である」であるという記載はあるものの(上記(1)ウ.参照)、インピーダンス比透磁率μrzが「周波数10kHzで、90,000以上、周波数100kHzで、40,000以上、かつ、周波数1MHzで、8,500以上」であることは記載されていない。
ところで、本件特許の明細書には「本発明者は、Fe基非晶質合金を熱処理により微結晶化(ナノ結晶化)させる際、その昇温期間中の特定温度範囲内に限定して磁場を印加することにより、周波数10kHzから1MHzの広い帯域において、高いインピーダンス比透磁率μrzを有するFe基ナノ結晶合金コアが得られることを見出し、本発明に到達した。」(【0015】)と記載されており、具体的には、本件発明4の発明特定事項である「示差走査熱量計での結晶化開始温度の25℃高温から結晶化開始温度の60℃高温までに相当する昇温期間中の温度範囲内に限定して」磁場を印加することによって、上記相違点に係るインピーダンス比透磁率μrzを実現している。そこで、Fe基ナノ結晶合金コアの製造方法の観点から上記甲第1号証ないし甲第3号証の記載を検討すると、いずれの文献にも「示差走査熱量計での結晶化開始温度の25℃高温から結晶化開始温度の60℃高温までに相当する昇温期間中の温度範囲内に限定して」磁場を印加することは記載されていないから、甲第1号証ないし甲第3号証に記載のFe基ナノ結晶合金あるいはFe基ナノ結晶合金コアが、上記相違点に係るインピーダンス比透磁率μrzを有していることが自明であるということもできない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の第12頁において、「このとき、「結晶化開始温度の25℃高温から結晶化開始温度の60℃高温までに相当する昇温期間中の温度範囲内に限定する」ことは、本件特許明細書の[実施例]等において作用効果が何ら示されておらず、単なる設計事項に過ぎません。」と主張しているが、本件特許明細書の上記【0015】に記載されているように、「昇温期間中の特定温度範囲内に限定して磁場を印加することにより、周波数10kHzから1MHzの広い帯域において、高いインピーダンス比透磁率μrzを有するFe基ナノ結晶合金コアが得られることを見出した」ものであるから、当該温度範囲に限定することに作用効果はなく、単なる設計事項にすぎないという特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

イ.本件発明4について
上記ア.で述べたとおり、甲第1号証ないし甲第3号証のいずれにも、本件発明4の発明特定事項である「示差走査熱量計での結晶化開始温度の25℃高温から結晶化開始温度の60℃高温までに相当する昇温期間中の温度範囲内に限定して」磁場を印加することは記載されていない。
また、上記ア.で述べたとおり、特許異議申立書における「このとき、「結晶化開始温度の25℃高温から結晶化開始温度の60℃高温までに相当する昇温期間中の温度範囲内に限定する」ことは、本件特許明細書の[実施例]等において作用効果が何ら示されておらず、単なる設計事項に過ぎません。」という特許異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、本件発明4は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ.本件発明2ないし3、5ないし8について
本件発明2ないし3は本件発明1の発明特定事項を全て含み、また、本件発明5ないし8は本件発明4の発明特定事項を全て含むものであるから、上記ア.及びイ.で述べたのと同様の理由で、本件発明2ないし3、5ないし8は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-27 
出願番号 特願2016-527844(P2016-527844)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01F)
P 1 651・ 537- Y (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 健一  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 井上 信一
國分 直樹
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6137408号(P6137408)
権利者 日立金属株式会社
発明の名称 Fe基ナノ結晶合金コア、及びFe基ナノ結晶合金コアの製造方法  
代理人 奥田 誠司  
代理人 喜多 修市  
代理人 梶谷 美道  
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