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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1338164
異議申立番号 異議2017-700310  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-28 
確定日 2018-03-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6010323号発明「ボールペンレフィル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6010323号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6010323号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成24年4月11日に特許出願され、平成28年9月23日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年3月28日に、特許異議申立人稲垣仁美(以下、単に「特許異議申立人」という。)により、甲第1号証?甲第5号証を伴って特許異議の申立てがされ、同年6月15日付けで取消理由が通知され、同年8月21日に、特許権者より、乙第1号証?乙第8号証を伴って意見書が提出され、同年9月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年11月24日付けで特許権者より意見書が提出され、さらに、同年11月30日付けで審尋が通知され、平成30年1月31日付けで特許権者より、乙第9号証?乙第13号証を伴って回答書が提出されたものである。

第2 本件発明

本件特許の請求項1?8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。(以下、各請求項に記載された事項で特定される発明を項番に従い、「本件発明1」?「本件発明8」といい、それらを併せて「本件発明」ということがある。)

「【請求項1】
チップ本体に、ボール抱持室と、該ボール抱持室の底壁の中央に形成したインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延びる複数本のインキ流通溝とを有し、チップ先端部を内側に、かしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持した、ステンレス鋼材からなるボールペンチップを、インキ収容筒の先端に直接、またはチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒の内部に少なくとも着色剤として染料と顔料を併用し、前記染料がアルキルベンゼンスルホン酸と塩基性染料との造塩染料で、前記顔料が平均粒子径300 nm以下であるカーボンブラックであり、20℃、剪断速度500sec^(-1)におけるインキ粘度が、10?5000mPa・sである油性ボールペン用インキを直接、収容してなるボールペンレフィルであって、0?100m時点のインキ消費量Amgと、インキ終了前、100mのインキ消費量Bmgとしたとき、0.8≦A/B≦1.2を満足し、前記ボールの軸方向の移動量が、3?15μmであり、
前記ボールを、コイルスプリングにより直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備してあることを特徴とするボールペンレフィル。
【請求項2】
前記染料が、アルキルベンゼンスルホン酸とキサンテン系塩基性染料、アルキルベンゼンスルホン酸とトリアリルメタン系塩基性染料、アルキルベンゼンスルホン酸とアゾメチン系塩基性染料との造塩染料の中からいずれか1種以上の造塩染料を選択し、含有することを特徴とする請求項1に記載のボールペンレフィル。
【請求項3】
前記アルキルベンゼンスルホン酸が、ドデシルジフェニルオキシドスルホン酸であることを特徴とする請求項1または2に記載のボールペンレフィル。
【請求項4】
前記カーボンブラックが、塩基性カーボンブラックであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
【請求項5】
前記油性ボールペン用インキ組成物のpHが7?10であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
【請求項6】
前記油性ボールペン用インキ組成物に、アルコール系有機溶剤を含有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
【請求項7】
前記インキ収容筒内に、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物を直に収容してなるボールペンレフィルであって、前記ボール抱持室の底壁には、前記ボールの曲率とは異なる曲率の曲面状の当接面が設けられており、前記ボールは当該当接面の一部である当接部に対して当接するようになっており、前記ボールと前記当接面との間に、インキ流通孔側から前記当接部までインキ流通孔側から除々に小さくなる第1の隙間が形成されていると共に、インキ流通溝の先端側から前記当接部までインキ流通溝の先端側から除々に小さくなる第2の隙間が形成してあることを特徴とする油性ボールペンレフィル。
【請求項8】
前記ボールの表面に、前記当接面の表面に、潤滑被膜層が設けられていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。」

第3 取消理由の概要

当審において、請求項1?8に係る特許に対して平成29年9月27日付けで通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記アの点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

ア 「平均粒子径」に関する明確性要件違反

本件発明におけるカーボンブラックの平均粒子径の定義が不明であり、また、測定方法が明らかでなく、さらに、当業者間における技術常識も存在しないことから、特許を受けようとする発明が明確でない。

・参照文献:甲第1号証、先行技術文献A?D

第4 甲各号証、乙各号証等の記載

1 甲各号証の記載

(1) 甲第1号証:『「微粒子ハンドブック」 初版第1刷 株式会社朝倉書店発行 1991年9月1日、第52?61頁』

甲第1号証には、以下の記載がある(当審注:下線は当審において付記したものである。以下同じ。)。

a 『2.2.1 粒子径
粒子の大きさを表す場合,次の三つのものが重要となる。i)1個の粒子の大きさをどのように表すか〔代表径のとり方〕,ii)粒子の大きさに分布がある粒子群をどのように表すか〔粒度分布(→2.2.2)の表し方〕,および,iii)粒子群を代表する平均的な大きさをどのように選ぶか〔平均粒子径(→2.2.3)の選び方〕。
1個の粒子(とくに非球形の粒子)の大きさを表すのに種々の表し方があり,それらを代表径という。表1は主な代表径を示したものである。代表径には大きく分けて,幾何学的な寸法から定まるものと,何らかの物理量と等価な球の直径におきかえた相当径の二つがある〔当審注:表1(下記参照。)は、「主な代表径とその意味」を示すものであり,幾何学的径として定方向径,マーチン径,ふるい径等が掲げられ,相当径として投影面積円相当径,等表面積球相当径,等体積球相当径,ストークス径,空気力学的径,流体抵抗相当径,光散乱径が挙げられている。〕。また,代表径は単に粒子径または粒径とよばれることが多いが,その場合にはどの代表径によるものであるのかをあらかじめ明示しておくことが必要である。表中の代表径について補足説明の要するものについて以下に述べる。
顕微鏡写真を撮ってそれから粒径を求める場合,定方向径がよく用いられる。これは,粒子が三次元的にランダムに配向しているものとして,表1中の図のように一定の方向に粒子の寸法を測ることで得られるものである。針状粒子とか偏平な粒子では,粒子の配向が決して三次元的にランダムとはならないが,それはそれとしてある意味をもった粒径を与えることになる。この代表径と次のマーチン径は1個の粒子に対しては意味はなく,あくまでも多数個の粒子を統計的に処理するときに有効となるものである。
マーチン径は,定方向径と同じく一定方向に寸法を測って得られるものであるが,そのとき表1中の図に示すように粒子の面積が二分割される線分の長さで定義される。
ふるい径は相隣る目開きの間にふるい分けられた粒子径である。標準ふるいについてはJISで針金の直径および目開きが定められている。・・・(中略)・・・
次に,相当径のうち投影面積円相当径,等表面積相当径および等体積球相当径は,いずれも類似の意味を持った粒子径である。まず投影面積円相当径は,表1に示すように,粒子の投影面積と等しい面積をもつ円の直径である。粒子に平行光線を照射したときのさえぎり光量を検知して粒径を求める粒径測定法で得られる粒子径がこれに相当する。等表面積球相当径は,粒子の表面積と同じ表面積をもつ球の直径である。等体積球相当径は粒子の体積と等しい体積をもった球の直径であり,電気的検知帯法(→3.3.5.c)によって測定される粒子径はこれに相当する。
ストークス径は,現在最も広く用いられる代表径で,静止流体中を重力で落下する粒子の沈降速度(→3.3.5.e)vtと同じ沈降速度をもち,また同じ密度をもつ球形粒子の直径で,表1中の式のように表される。このような物理的な意味をもつので,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な代表径であるといえる。ストークス径は,表1中の式からわかるように,流体の粘度や粒子・流体密度が既知のときには,沈降速度vtを測定することから求められるし,またそれ以外の慣性法(→3.3.5.g)といわれる粒径測定法によってもこれが求められる。ストークス径は等沈降速度球相当径ともよぶことができる。
・・・(中略)・・・
流体抵抗力相当径は,ある粒子の流体から受けるストークスの流体抵抗力と等しい抵抗力をもった球形粒子の直径として定義される。拡散法(→3.3.5),モビリティアナライザー(→3.3.5.i),光子相関法(→3.3.5.b)などによって測定される粒子径はこれに相当する。
光散乱径は,1個の粒子に光を照射したときの粒子からの散乱光の強弱から求まる粒子径である。この散乱光の強弱は,粒子の大きさ,形状,屈折率や照射する光の波長などに依存するため,通常は粒子からの散乱光の強さと等しい散乱光強さをもったポリスチレンラテックス球形粒子の直径として表す。すなわち,光散乱径はポリスチレンラテックス粒子の光散乱強さにおきかえられた相当径である。
以上のことからわかるように,代表径は粒径測定法と密接に関係しており,多くの場合測定法がきまると代表径はきまる。
上で述べた代表径は,球形粒子及び非球形粒子について適用できるが,球形粒子の場合には,ふるい径,空気力学的径及び光散乱径を除いてすべての代表径は等しくなる。

』(第52?53頁)

b 『2.2.2 粒度分布
ある粒子群の個々の粒子の大きさがある代表径(→2.2.1)で測定されたとする。測定された個々の粒子の大きさが不揃いである粒子群を多分散といい,非常に揃っている粒子群を単分散であるという。多分散粒子の特徴は,通常,頻度分布またはこれを積算した積算分布-これらを総称して粒度分布という-の形で表される。ある粒子群の粒度分布を表示する場合,代表径を明示しておくことと,粒子の量がどのような基準-個数,長さ,面積,体積(または質量)-で測定されたかを明確に区別しておくことが必要である。これらによって粒度分布が異なるからである。
・・・(中略)・・・
c.粒度分布が一定の分布則に従う場合
・・・(中略)・・・d_(p50)はQ_(r)(d_(p))=0.5となる粒径で,中位径または幾何平均径(→2.2.3)とよばれる。』(第54?55頁)

c 『2.2.3 平均粒子径
ある代表径(→2.2.1)を用いて,ある基準で測定された粒度分布(→2.2.2)が与えられたとき,ある粒径区分dp±Δdp/2(ただし,Δdpは粒径区分の幅)内にある粒子群の個数,長さ,表面積,質量をそれぞれn,l,s,m・・・(中略)・・・とし,・・・(中略)・・・表1に示すような種々の平均粒子径が定義できる。・・・(中略)・・・結果を図1に示した。この図から,平均粒子径はその定義のしかたによってずいぶん異なることが理解できるであろう。
・・・(中略)・・・次に,幾何平均径d_(g),または個数基準の中位径d_(pN50)またはNMDは,粒子径d_(p)の対数をとったときの個数平均径であり,次式で表せる。
・・・(中略)・・・
d_(pM50)またはMMDは,粒度分布を質量基準で表したときのd_(pN50)またはNMDに相当する。
以上の平均粒子径のほかに,最頻度(モード)径dmodeがある。これは,2.2.2の図1で示した粒子径を普通目盛で表した頻度分布の最頻度値を示す粒径で,d_(p50)と同様に個数基準,質量基準などによって異なる。対数正規分布の場合の例を図1中に示した。

』(第58?59頁)

(2) 甲第2号証:『「カーボンブラック」 第1刷 株式会社講談社発行 1978年5月1日、第48?49頁』

甲第2号証には、以下の記載がある。

a 「電子顕微鏡がカーボンブラック粒子の観察に初めて用いられて以来,その発達は実に驚嘆に値するものがある。
・・・(中略)・・・
近年,ブラックカーボンは単体球形粒子として存在していることがまれで,多くの場合,1次粒子が融合合一した凝集体として存在していることが明らかになってきた。まれな粒子としては,サーマルブラックがある。サーマルブラックは,ほとんどが単独の球形粒子から成り立っている。一般に,カーボンブラック粒子の凝集体は,分散された状態では更に大きな単位である集合体になる傾向があるが,その集合体はシェアをかけると再び分離し,放置するとまた集合体となる。
・・・(中略)・・・
カーボンブラックは,1つの種類だけについてみても,その粒子径がすべて等しいわけではなく,それぞれの種類によって特徴のある粒子径分布曲線を示す。粒子径分布測定における適切なデータは,各種のカーボンブラックについて示した図3.1,3.2,3.3・・・(中略)・・・のような既知の倍率の電子顕微鏡写真の粒子径の直接測定によって得られる。」

b 「



(3) 甲第3号証:『「カーボンブラック便覧 」 カーボンブラック協会編 3版 株式会社図書出版社発行 1983年5月25日、第174?175頁』

甲第3号証には、以下の記載がある。

a 「2・2・1 粒子径
a. 粒子径の意味及び測定意義 固体物質をその単位のディメンションから分類した場合,カーボンブラックはいわゆるコロイドの領域に属する。したがって,沈降法,吸着法など古典コロイド化学の手法により間接的にその大きさを推定することはかなり昔から行われていたが,直接影像として定量的にとらえられたのは,やはり電子顕微鏡の出現以降である^(31))。しかしながら,大きさの把握と同時にその異方性,すなわちストラクチャーという姿も明確化してきたので,独立粒子の集合である一般粉体の粒子径とは違い,電子顕微鏡像の解釈の仕方は必ずしも単純ではない。つまりゴムやインキなど応用媒体の中でのカーボンブラックの作用単位は粒子ではなく,ストラクチャーの名のもとに連鎖構造を持った集合体である。それにもかかわらず,独立粒子と仮定して計測した値は,実用物性の差から各種のカーボンブラックを分類するのに非常に便利かつ有効であるので,現在の電子顕微鏡像を手がかりとした粒子径という概念は広く用いられている。」(第174?175頁)

(4) 甲第4号証:平成19年12月11日 大阪地裁平成18年(ワ)第11880号判決

甲第4号証の記載は省略する。

(5) 甲第5号証:平成28年6月28日 無効2014-800168号審決

甲第5号証の記載は省略する。

2 乙各号証の記載

(1) 乙第1号証:三菱ケミカル株式会社のウェブサイト「カーボンブラックの3大特性」

乙第1号証には、以下の記載がある。

a 『カーボンブラックの3大特性

カーボンブラック粒子を電子顕微鏡で観察すると、球状の粒子がいくつか融着して複雑な構造を持っていることがわかります。
球状の粒子の大きさを「粒子径」、粒子のつながりの大きさを「ストラクチャー」と呼びます。

またカーボンブラックの表面には水酸基やカルボキシル基など各種の官能基が存在しており、これらの量や組成を「表面性状」と呼びます。

「粒子径」「ストラクチャー」「表面性状」は、いずれもカーボンブラックを特徴づける非常に基本的な特性であり、3大特性と呼ばれております。
3大特性はカーボンブラックをインキ・塗料・樹脂などに配合した際、黒度や分散性などの実用特性に対して、非常に大きな影響を与えます。』

b 「



c 「粒子径

球状粒子の直径は、カーボンブラックを樹脂やベヒクルに配合したときの黒度・分散性を大きく左右する、非常に基本的な特性です。
一般的に粒子径が小さいほどカーボンブラックの黒度は高くなります。
しかしながら凝集力が強くなり、分散が難しくなります。」

(2) 乙第2号証:旭カーボン株式会社のウェブサイト「カーボンブラックの特性」

乙第2号証には、以下の記載がある。

a 「カーボンブラックの特性

カーボンブラックの特性は、物理化学特性(基本特性)と配合特性に分けられます。」

b 「



c 「物理化学特性

1.粒子径
カーボンブラック粒子の大きさであり、粒子径が小さくなるほど比表面積が大きくなります。

2.ストラクチャー
カーボンブラック粒子同士のつながり具合を示し、油の吸収量を指標としています。この油の吸収量が多いほど複雑な形状をしていることになります。」

(3) 乙第3号証:株式会社加藤事務所のウェブサイト「カーボンブラックの性質を表す用語とその解説(カーボンブラック協会 Carbon Black年鑑 1998、No.48 114ページより)」

乙第3号証には、以下の記載がある。

a 「カーボンブラック(以下CBと略記)の基本的特性,ゴム用CBのJISに規定されている項目及びその他一般的に使用されている用語について、簡単な解説を次に示す。

CBの基本的特性:
CBをゴムや樹脂,塗料やインキのビヒクルに配合,分散させ,補強性や黒色度,導電性などの機能を付与する際の重要な因子は,粒子径,ストラクチャー及び粒子表面の化学的性質で,CBの三大特性と呼ばれている。

粒子径:
CB凝集体を構成する小さな球状(微結晶による輪郭を有し,分離できない)成分を電子顕微鏡により測定,算出した平均直径。これを単一粒子と見なした粒子径は,ゴムに配合した場合の補強性や,黒色度と密接に関係している。その大きさは,グレードにより10?500nmである。

ストラクチャー:
CBは粒子どうしが融着した状態で存在し,アグリゲートと呼ばれ,概念的には,ぶどうの房にたとえられている。このアグリゲートの発達度合いをストラクチャーといい,ハイ(高),ノーマル(中),ロー(低)に分類される。このストラクチャーの高低が,ゴムに配合した場合の補強性や押出特性,インキ/塗料/樹脂着色などに使用する場合の分散性,着色力,粘度及び導電性に大きな影響を与える。」

b 「その他一般的に使用されている用語

アグリゲート:
一次凝集体。CBの構成単位。微球状の基本粒子どうしが融着し,連鎖状ないしは不規則な鎖状に枝分かれした複雑な凝集形態を示す。ゴムの補強性や導電性に関与している。通常基本粒子が数個から数十個の凝集体で,数十?数百ナノメターのサイズである。

凝集体径分布:
アグリゲートの大きさやその分布を言う。水に分散させて遠心沈降法で求める。(ストークス径)。一般に凝集体を分布をシャープにすると補強性が向上し,ブロードにすると動的特性が向上する。」

(4) 乙第4号証:特開2015-134880号公報(公開日:平成27年7月27日)

乙第4号証には、以下の記載がある。

a 「【0031】
黒色組成物に含有されるカーボンブラックの平均一次粒子径Dは、次の方法により求めることができる。
まず、黒色組成物を、黒色組成物に含まれる溶剤を用いて約100倍に希釈し、希釈物を得る。次いで希釈物を試料台上にて風乾させ、得られたカーボンブラックについて電子顕微鏡で数万倍の写真を数視野撮影する。カーボンブラックの粒子最大径を2000?3000個程度計測し、計測値を単純平均して平均一次粒子径Dを求める。2種類以上のカーボンブラックが含まれている黒色組成物については、まず、黒色組成物に含まれるカーボンブラック全体の個数基準の粒子径分布を求める。次いで、2種類以上のカーボンブラックの各粒子径分布が正規分布に従うとして、粒子径分布の形状およびピークの本数から予想されるガウス関数の項数にてカーブフィッティングを行い、各分布関数を決定する。得られた分布関数のパラメータからそれぞれのカーボンブラックの平均一次粒子径Dを求める。平均一次粒子径Dは、通常、小数第一位を四捨五入した値(nm)として表す。」

(5) 乙第5号証:特開2012-218193号公報(公開日:平成24年11月12日)

乙第5号証には、以下の記載がある。

a 「【0018】
・・・(中略)・・・平均一次粒径は、カーボンブラックの透過型電子顕微鏡(TEM)写真の二次元形状において、任意の10個のカーボンブラックの長径の平均として求めることができる。」

(6) 乙第6号証:色材,54〔11〕第690-696頁、1981年

乙第6号証には、以下の記載がある。

a 「3.1 平均粒子径
平均粒子径はカーボンブラックの着色性能を決定する最重要因子であり,・・・(中略)・・・
平均粒子径の測定は,電子顕微鏡で撮影した写真から統計的な取り扱いをして行うので,粒子径分布も同時に得られる。」(第691頁左欄第11?19行)

(7) 乙第7号証:HORIBAのウェブサイト『粒子径分布の「基準」ってナニ?』

乙第7号証には、以下の記載がある。

a 『顕微鏡の映像で粒子径分布を求める方法では、粒子の数を計数してその個数から粒子径分布とすることが多く、このときは「個数基準」となります。』

(8) 乙第8号証:粉体技術 2009年11月号 Vol.1、No.11、2009年11月1日発行、第24?31頁

乙第8号証には、以下の記載がある。

a 「はじめに

粒子径分布は、最終製品の生産における原材料である粉粒体の管理を行う上で重要なファクターである。測定対象は、近年の原材料粒子の微細化にともない下限はナノメータ(nm)から上限はセンチメートル(cm)まで広がっており、粒子の大きさによって物理的挙動が異なる原理を利用して測定している。現在、国際標準化機構ISOのTC24/SC4において種々の粒子を測定するための、各種原理の規格が協議、発行されている^(1)?4))(表-1)。
対象粒子径範囲や分布基準は、各種原理において異なる(表-2)。例えば、画像処理で測定した粒子径分布は個数基準で測定される」(第24頁左欄第1行?右欄第7行)

b 「

」(第24頁)

(9) 乙第9号証:株式会社マウンテックのウェブサイト「画像解析式粒度分布ソフトウェア Mac-View Ver.4」

乙第9号証には、以下の記載がある。

a 「Mac-Viewの概要
研究開発や品質管理に不可欠なSEMやTEMなどの顕微鏡写真。写し出された粒子群の画像から粒径や形状係数をデータ化し解析することの必要性が年々高まっています。画像解析式粒度分布測定ソフトウェア"Mac-View"は、「粉体の解析と管理」に特化し、真に実用性のある機能と使い易さを追求した粉体専用画像解析ツールです。」

b 「Mac-Viewの特徴
電子顕微鏡写真から粒子の画像を取り込み。各種データを計測・解析
・・・(中略)・・・
取り込んだ粒子群データを、粒度分布データとして出力可能
粒子を認識したら、瞬時に粒度分布を表示。」

(10) 乙第10号証:国際公開第2012/169506号(公開日:平成24年12月13日)

乙第10号証には、以下の記載がある。

a 「[0105] 上記で得た黒色顔料-1の平均粒子径を下記の方法で測定した。得られた黒色顔料-1の透過型電子顕微鏡写真(6万倍)を撮り、該写真から、「画像解析式粒度分布ソフトウエア、Mac-View」(マウンテック社製)を用いて粒度分布を測定した。この結果、黒色顔料-1の平均粒子径は凡そ80nmであった。この方法を「画像解析式粒度分布測定法」と称する。」

※当審注:平成30年1月31日付け回答書に乙第10号証として添付されたものは国際公開第2012/169506号の再公表特許であるが、上記回答書第3、4頁に、乙第10号証に関して、「WO2012/169506号公報」と記載されており、当該「WO2012/169506号公報」が、国際出願(PCT/JP2012/064505)について、平成24年12月13日に、特許協力条約に基づいて公開された国際公開第2012/169506号を意味することが明らかであって、上記回答書に添付された再公表特許の内容は国際公開第2012/169506号と同一であるので、上記回答書に乙第10号証として添付された再公表特許を、国際公開第2012/169506号とみなして以下検討する。

(11) 乙第11号証:特開2012-180563号公報(公開日:平成24年9月20日)

乙第11号証には、以下の記載がある。

a 「【0032】
本発明の銅粒子は、その用途に応じて粒径を適宜調整できる。本発明の銅粒子を、例えばスクリーン印刷、ディスペンシング及びインクジェット印刷等の手段で微細電気配線形成に用いる場合には、一次粒子径を50?2000nmに設定することが好ましく、200?1000nmに設定することが更に好ましい。銅粒子の一次粒子径は、例えば画像解析式粒度分布測定ソフトウェアMacView(株式会社マウンテック製)によって測定することができる。」

(12) 乙第12号証:特開2007-256361号公報(公開日:平成19年10月4日)

乙第12号証には、以下の記載がある。

a 「【0016】
次に、本実施形態に係る非磁性トナーの詳細な構成につき説明する。
本発明の非磁性トナー1は、まず、非磁性トナー1の表面を、少なくとも比抵抗50Ω・cm以下の酸化チタン微粒子3を含有する表面処理剤によって処理される。好ましい比抵抗の範囲は3?50Ω・cmであり、比抵抗が3Ω・cmより小さいとトナーの帯電量を保持し難くなる傾向があり、比抵抗が50Ω・cmより大きいとトナーがチャージアップして層乱れの発生が生じる。
そして、前記酸化チタン微粒子3による表面処理の後、数平均一次粒子径が12?40nmのシリカ微粒子4により表面処理を行う。前記シリカ微粒子4の数平均一次粒子径が12nmより小さいとトナー粒子表面へ埋め込まれやすくなり、また40nmを超えると流動性の低下をもたらす。なお、ここでいう数平均一次粒子径は、SEM(走査電子顕微鏡:日本電子社製JSM-880)により3万倍に拡大したトナー粒子表面の写真を撮影し、画像解析装置(Macview株式会社マウンテック製)にて、任意の100個の粒子について粒子径を測定し、算術平均を行ってその数平均一次粒子径を算出したものである。」

(13) 乙第13号証:ジャスコインタナショナル株式会社のウェブサイト「画像解析粒度分布計」

乙第13号証には、以下の記載がある。

a 「画像解析粒度分布計

ジャスコインタナショナルの画像解析粒度分布計は、高解像度のカメラで粒子画像を撮影し、撮影した画像を解析して、粒子一つ一つの大きさと形状を測定します。・・・(中略)・・・
・粒子画像を目で確認して、粒子の凝集状態や異物の確認が可能です。
・30以上のパラメータで粒子の大きさと形状を測定します。
・多彩な結果表示機能で、粒子の大きさや形状の分布を解りやすく表示します。」

3 平成29年6月15日付け取消理由で参照した先行技術文献の記載

(1) 先行技術文献A:「微粒子ハンドブック」 初版第1刷 株式会社朝倉書店発行 1991年9月1日、第176?177頁

先行技術文献Aには、以下の記載がある。なお、先行技術文献Aは、摘記頁を除けば、甲第1号証と同一であり、甲第1号証の摘記箇所に対する後続のものであるので、項番に「d」を使用している。

d 『3.3.2 粒度測定法一覧
1.光などに対するレスポンス,および通過法

2.気流中の粒子の挙動



(2) 先行技術文献B:「現場で役立つ粒子径計測技術」 初版第1刷 日刊工業新聞社発行 2001年10月26日、第2?7頁

先行技術文献Bには、以下の記載がある。

a 『1.2 粒子の大きさの決め方
粒子の大きさを一つの数値で表すことは,結構難しいことである。図1.3では,理想的な粒子として球粒子と立方体粒子を,実在粒子の代表として石灰石を例にとった。球の大きさはと聞かれれば,直径で答えるし,立方体の大きさはと聞かれれば,たいていの人は一辺の長さで答える。では石灰石の大きさはと聞かれると,???となってしまう。石灰石は球や立方体と何が違うか,違いは2つある。1つは形の表現の問題である。「球」「立方体」といえば,誰もが同じ形を思い浮かべる。形を正確に特定できるから,大きさを表す「直径」「一辺」も正確に特定することができる。それに対して石灰石では,形を一言で表現することはできない。
もう1つの違いは,形の相似性である。人間の形はおおむね相似であるため形を正確に表現できなくとも,身長や体重などで人間の大きさを代表することができる。人間の身長や胴回りのように,粒子の大きさを代表するものを代表粒子径と呼ぶ。しかし実在粒子は図1.1や図1.3の石灰石粒子のように,何となく共通する特徴は認められるものの,とても相似といえるような形ではない。したがって代表粒子径は幾何学的に定義されたり,粒子の大きさが関与する物理現象を利用して定義される。・・・(中略)・・・
幾何学的な代表粒子径の定義の例は,図1.4に示す粒子影像を平行線で挟んだフェレー(Feret)径や,図1.5に示すふるい目開きである。また図1.6に示す,粒子と同じ体積を持つ球の直径も代表径として良く定義される。体積の他に表面積や粒子の投影面積,周長が等しい球や円の直径も代表径としてはよく定義される。このように何らかの方法で置き換えられた球や円の直径は,球相当径,円相当径と呼ばれる。
図1.7に示すように,粒子と同じ沈降速度を持つ球(密度は粒子と同じ)の直径も代表粒子径としてよく用いられ,沈降相当径あるいはストークス径と呼ばれる。遠心沈降光透過法やX線透過法に代表される液相沈降法によって測定される粒子径は,沈降相当径である。図1.8に示すように粒子に光を当てると粒子は光を散乱するが,散乱パターンが最も近い球の直径を代表粒子径としているのが,現在粒子径分布測定技術の主流となっているレーザ回折・散乱法である。
このように代表粒子径は測定原理に対応して定義されるので,人間の大きさを身長で表した場合と肩幅で表した場合のように,原理的には代表粒子径が異なれば,同じ粒子でも異なる粒子径となる。』

b 『



4 平成29年9月27日付け取消理由(決定の予告)で参照した先行技術文献の記載

(1) 先行技術文献C:特開平2-252227号公報(公開日:平成2年10月11日)

先行技術文献Cには、以下の記載がある。

a 「球状のカーボンブラックあるいは非球状のカーボンブラックと併用し、もしくは単独で使用し、」(第2頁左下欄第2?4行)

(2) 先行技術文献D:特開2006-293029号公報(公開日:平成18年10月26日)

先行技術文献Dには、以下の記載がある。

a 「【0023】
カーボンブラックは種々のメーカーから、黒色度や粒径、比表面積等が異なる種々の商品が市販されており、・・・(中略)・・・カーボンブラック13の粒子形状は、球形でも非球形でもよい。」

第5 判断

1 明確性要件について

(1) 特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定するところ、この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2) 本件特許については、明確性要件違反について、上記第3のとおり、「平均粒子径」、及び、「ボールの軸方向の移動量」に関するものがあり、順に検討する。

2 「平均粒子径」に関する明確性要件違反について

(1) 特許異議申立人が明確性要件違反であると主張する事項

特許異議申立人が、「平均粒子径」に関して明確性要件違反であるとする概略は、「平均粒子径300nm以下であるカーボンブラック」との記載は、明細書の記載を考慮しても、それが具体的にどのような平均粒子径を有するカーボンブラックであるのか、その意義が特定できず、特許を受けようとする発明が明確ではない、というものである。

(2) 「平均粒子径」に対する学術文献上の定義

「平均粒子径」に対する学術文献上の定義については、上記甲第1号証の記載(第4の1(1)のa?c)、上記先行技術文献Aの記載(第4の3(1)のd)、及び、上記先行技術文献Bの記載(第4の3(2)のa、b)によれば、1個の粒子の大きさ(粒子径、代表径)の表し方としては種々のものがあり、大きく幾何学的径と相当径(何らかの物理量と等価な球の直径に置き換えたもの)とがあり、幾何学的径には定方向径、マーチン径、ふるい径などがあり、相当径には投影面積円相当径、等表面積球相当径、等体積球相当径、ストークス径、流体抵抗力相当径、光散乱径など種々のものがある。さらに、「粒子の集合体」としての「平均粒子径」とは、「粒子の集合体」を代表する平均的な粒子径(代表径)を意味するものであるが、個数平均径、長さ平均径、面積平均径、体積平均径等といった種々の平均粒子径及びその定義式(算出方法)があり、同じ粒子であってもその代表径の算出方法によって異なるものである。

(3) 本件発明における「平均粒子径」の意義について

本件発明のように平均粒子径を規定する場合には、ある粒子径(代表径)の定義を用いて、ある基準で測定された粒度分布が与えられることが必要と解されるところ、粒子径(代表径)の定め方には、上記(2)で述べたとおり、定方向径、マーチン径、ふるい径、投影面積円相当径、等表面積球相当径、等体積球相当径、ストークス径、流体抵抗力相当径、光散乱相当径等、種々の定義がある。そして、粒子の形状に応じて、以下のとおりとなる〔甲第5号証の無効審判事件(無効2014-800168)の審決取消訴訟事件(知財高裁平成29年8月30日判決(平成28年(行ケ)第10187号)参照。〕。

a 球形粒子(略球形の粒子を含む。)の場合には、直径をもって粒子径(代表径)とするのが一般的であり、同一試料を測定すれば、ふるい径等の一部を除いて、粒子径(代表径)の値は、定義にかかわらず等しくなる。

b 非球形粒子の場合には、同一試料を測定しても、異なった粒子径(代表径)の定義を採用すれば、異なる粒子径(代表径)の値となり、平均粒子径も異なってくる。

(4) 以上によれば、本件発明の「平均粒子径」の意義が明確といえるためには、少なくとも、

a 「カーボンブラック」が球形(略球形を含む。)であって、粒子径(代表径)の定義の違いがあっても測定した値が同一となるか、又は

b 「カーボンブラック」が非球形であっても、粒子径(代表径)の定義が、当業者の出願時における技術常識を踏まえて、本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載から特定できる必要がある。

よって、明細書中に、平均粒子径の定義(算出方法)を記載するか、又はその測定方法に関する記載があれば、特定の数値範囲に属する平均粒子径を示すものとして、その特定に欠けるところはないことになる。そこで、まず、本件特許の明細書の記載を検討する。

(5) 本件特許の明細書(以下、「本件明細書」という。)には、次のとおりの摘示a?gの記載がある。

a 『【発明が解決しようとする課題】
・・・(中略)・・・
【0011】
本発明の目的は、インキ経時が安定し、書き味が良好で、かつ、潤滑性を保ち、チップ本体が摩耗し難く、筆記開始からインキ終了時まで、インキ消費量が安定しているボールペンレフィルを提供することである。』

b 『【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.チップ本体に、ボール抱持室と、該ボール抱持室の底壁の中央に形成したインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延びる複数本のインキ流通溝とを有し、チップ先端部を内側に、かしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持した、ステンレス鋼材からなるボールペンチップを、インキ収容筒の先端に直接、またはチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒の内部に少なくとも着色剤として染料と顔料を併用し、前記染料がアルキルベンゼンスルホン酸と塩基性染料との造塩染料で、前記顔料が平均粒子径300 nm以下であるカーボンブラックであり、20℃、剪断速度500sec^(-1)におけるインキ粘度が、10?5000mPa・sである油性ボールペン用インキを直接、収容してなるボールペンレフィルであって、0?100m時点のインキ消費量Amgと、インキ終了前、100mのインキ消費量Bmgとしたとき、0.8≦A/B≦1.2を満足し、前記ボールの軸方向の移動量が、3?15μmであり、前記ボールを、コイルスプリングにより直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備してあることを特徴とするボールペンレフィル。・・・(中略)・・・」とする。』

c 『【0019】
しかし、前記造塩染料を単独で用いるだけでは、筆跡の耐光性が弱いため、カーボンブラックを併用することで耐光性を向上することが可能となる。また、カーボンブラックを用いることで、ボールとチップ本体の隙間にカーボンブラック粒子が入り込むことで、金属接触を抑制することで、潤滑性を向上することが可能である。さらに、上述のように、前記造塩染料のフェニルスルホン基やフェニル基によって潤滑層を形成するが、前記造塩染料による潤滑層とカーボンブラック粒子との相互作用で、より金属接触を抑制する潤滑膜を形成することで、潤滑性を向上し、書き味を向上することが可能となる。そのため、従来とは異なり、着色剤と潤滑剤との効果を併せ持つことが可能となり、前記造塩染料とカーボンブラックを併用することが必要である。』

d 『【0028】
また、カーボンブラックについては、チップ内部の隙間関係を考慮し、平均粒子径は、300 nm以下が好ましい。より好ましくは、150nm以下である。ここで、平均粒子径とは、粒度分布計による平均粒子径d50のことである。カーボンブラックの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.5?15.0質量%が好ましい。これは0.5質量%未満だと、潤滑効果が得られにくい傾向があり、15.0質量%を越えると、インキ中で凝集しやすい傾向があるためであり、よりその傾向を考慮すれば、1.0?10.0質量%が好ましく、最も好ましくは、2.0?7.0質量%である。』

e 『【0040】
本発明の油性ボールペン用インキ組成物をボールペンレフィルで用いる場合、その構造は、特に限定されないが、チップ本体に、ボール抱持室と、該ボール抱持室の底壁の中央に形成したインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延びる複数本のインキ流通溝とを有し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなるボールペンチップを、インキ収容筒の先端に直接、またはチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に、前記アルキルベンゼンスルホン酸と塩基性染料との造塩染料顔料を併用する油性ボールペン用インキ組成物を直に収容してなる油性ボールペンレフィルとして用いることができる。前記ボールペンチップの構造も特に限定されるものではないが、より書き味やチップ本体の摩耗を抑制することを考慮すれば、前記ボール抱持室の底壁に、前記ボールと異なる曲率の略円弧面状の当接面を設け、前記ボールが当接面に当接するとともに、前記ボールと当接面間に、インキ流通孔側から前記ボールと当接面との当接部まで、インキ流通孔側から除々(当審注:「徐々」の誤記と認める。以下同じ。)に小さくなる第1の隙間及びボール抱持室側から前記ボールと当接面との当接部まで、インキ流通孔側から除々に小さくなる第2の隙間を形成することが好ましい。
【0041】
これは、前記ボールと当接面間に、インキ流通孔側から前記ボールと当接面との当接部まで、インキ流通孔側から除々に小さくなる第1の隙間及びボール抱持室側から前記ボールと当接面との当接部まで、インキ流通孔側から除々に小さくなる第2の隙間を形成することで、ボールと当接面間を流体潤滑又は混合潤滑にしやすく、当接面の摩耗を抑制し、書き味を向上しやすいためである。
【0042】
さらに、ボールと当接面の関係について詳述すると、ボールの回転による本発明の油性ボールペン用インキ組成物の潤滑状態は、ボールが回転すると、それにつられて油性ボールペン用インキ組成物が、インキ流通孔から前記ボールと当接面との狭い隙間へと引きずり込まれ、ボールと当接面間にボールペン用インキの層を形成し、このインキの層によって、圧力が発生しボールを浮かせる力が発生するくさび効果が得られるため底壁の摩耗を抑制しやすいと推測する。特に、本発明のように前記アルキルベンゼンスルホン酸と塩基性染料との造塩染料とカーボンブラックを併用する油性インキ組成物では、前記造塩染料のフェニルスルホン基やフェニル基とカーボンブラック粒子との相互作用で形成する弾力性のある潤滑膜層によって、よりくさび効果が得られやすいため底壁の摩耗を抑制には、効果的であると推測する。
【0043】
また、ボールの回転による、インキ流通孔からの油性ボールペン用インキ組成物の潤滑状態は前述の通りであり、ボールが回転すると、それにつられて油性ボールペン用インキ組成物がボールと当接面との狭い隙間へと引きずり込まれるが、筆記時には、インキ流通孔側からの当接面に供給される油性ボールペン用インキ組成物と、紙面に突出できなかった油性ボールペン用インキ組成物が、ボール抱持室から当接面に戻される傾向がある。そのため、前記第1の隙間及び前記第2の隙間を形成することで、相乗効果的に、書き味や及び耐摩耗性が向上しやすくすることができる。
【0044】
前記当接面の形状は、前記ボールと当接面間に、前記第1の隙間及び第2の隙間を形成するために、ボールの曲率と異なる曲率とすることが好ましい。また、第1の隙間は、インキ流通孔側の距離が小さい程、前述したくさび効果が高まる傾向があるので、インキ流通孔側の隙間を小さくすることが好ましい。具体的には、軸心方向の長さで、インキ流通孔側の距離が5μmを超えると、くさび効果が得られ難いため、5μm以下が好ましく、さらに好ましくは、0.001μm?3μm、0.001μm?1μmとすることが最も好ましい。また、当接面を予め略円弧面状とし、前記第1の隙間が、インキ流通孔側から前記当接部まで、除々に小さくすることで、前記したボールの当接部近傍で、高いくさび効果、ボールを浮かせる力が大きくなり、当接面の摩耗を効果的に抑制することができ、当接面が摩耗しても急激な摩耗を抑制し、隙間関係を維持し易くすることができる。』

f 『【0046】
次に、実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、有機溶剤、顔料分散剤を50℃にて混合攪拌機を用い顔料分散樹脂を溶解させて溶液Aを製造した。得られた溶液Aにカーボンブラックを添加し、三本ロールを用いて分散ベースを作成する。この分散ベースに残りの成分を、50℃にて混合攪拌機を用いて攪拌して油性ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。尚、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製AR-G2(ステンレス製 40mm 2°ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度500sec^(-1)にてインキ粘度を測定したところ、790mPa・sであった。また、pH値を測定したところ、pH=7.5であった。
【0047】
実施例1
配合例 1の造塩染料 7.0質量%
配合例 2の造塩染料 10.0質量%
配合例 3の造塩染料 13.0質量%
顔料(塩基性カーボンブラック) 5.0質量%
顔料分散剤(ポリビニルブチラール) 2.5質量%
有機溶剤(ベンジルアルコール) 54.1質量%
安定剤(ポリオキシエチレンアルキルアミン) 1.0質量%
安定剤(オレイン酸) 1.0質量%
曳糸性付与材(ポリビニルピロリドン) 0.4質量%
樹脂(ケトン樹脂) 6.0質量%
【0048】
配合例2?7
表1に示すように、各成分を変更した以外は、配合例1、配合例2と同様な方法で配合例2?7の造塩染料を作成し、実施例と比較例に用いた。
【表1】
・・・(中略)・・・
【0049】
実施例2?5
表2に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2?5の油性ボールペン用インキ組成物を得た。
実施例6
表2に示すように、各成分を変更した以外は、水以外の各成分を実施例1と同様な手順で行い、室温冷却後水を添加しディスパー攪拌にて油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【表2】

【0050】
比較例1?4
表3に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、配合し、比較例1?4の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表3に測定、評価結果を示す。
【表3】



g 『【0051】
試験及び評価
実施例1?6及び比較例1?4で作製した油性ボールペン用インキ組成物24(0.4g)及びグリース状のインキ追従体25を、インキ収容筒22(ポリプロピレン)に、ボール径がφ0.7mmのボール9を回転自在に抱持したボールペン用チップ1(ステンレス綱線)を装着したボールペン用レフィル21に充填し、油性ボールペンを作製した。筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
【0052】
本発明においてボールペンチップ1は図1、2に示したような構成のものを用いることができる。図1、2のボールペンチップは、ステンレス鋼線材からなるチップ本体2のボール抱持室3の中央にインキ流通孔7と、このインキ流通孔7から放射状に延び、チップ後部孔8に達しないインキ流通溝6を形成した底壁4に、ボール9と異なる曲率の略円弧面状の当接面5を設け、この当接面5にφ0.5mmのタングステンカーバイド製のボール9を載置し、チップ先端部2aを内側にかしめることにより、ボール9の一部がチップ先端縁より突出するように回転自在に抱持したものである。
【0053】
このようなボールペンチップ1は、以下のように製造される。すなわち、例えばφ2.3mmで硬度が230Hv?280Hvのステンレス鋼線材が所望の長さに切断され、ボール抱持室3、インキ流通孔7、及び、当該インキ流通孔7から放射状に伸びるインキ流通溝6、が作製される。その後、ボール抱持室3の底壁4にボール9を載置した状態でチップ先端部2a側からハンマーリングが行われ、スプリングバック性によってボール9より曲率半径の大きい曲面が形成された後、チップ先端部2aが内側へかしめられる。これにより、ボール9と異なる曲率の曲面状の当接面5が形成され、ボール9は当接面5の軸心方向の中央位置よりもチップ先端部2a側で軸心回りの周回線上の当接部5aにおいて当接する。これにより、ボール9と当接面5との間に、第1の隙間S1及び第2の隙間S2が形成される。
【0054】
この第1の隙間S1と第2の隙間S2とが形成されていることにより、ボール9と当接面5(当接部5a)との間を流体潤滑又は混合潤滑の状態に維持しやすい。このため、当接面(当接部)の摩耗が抑制される。なお、本実施例においては、第1の隙間S1のインキ流通孔7側の軸心方向における開口の長さHは、0.9μmである(図2参照)。
【0055】
試験及び評価
実施例1?6及び比較例1?4で作製した油性ボールペン用インキを、実施例1のボールペンレフィルに充填し、筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
【0056】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかなもの ・・・○
やや重いもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0057】
耐摩耗試験:荷重200gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が2μm未満であり、筆記可能なもの
・・・◎
ボール座の摩耗が2μm以上、5μm未満であり、筆記可能なもの
・・・○
ボール座の摩耗が5μm以上、10μm未満であり、筆記不良になってしまうもの ・・・△
ボール座の摩耗が10μm以上であり、筆記不能になってしまうもの
・・・×
【0058】
インキ消費量試験:温度20℃、湿度65%RTの環境下、荷重200gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験を行い、0?100m(A)及び筆記終了前100mのインキ消費量(B)を測定した。
0.9≦A/B≦1.15のもの
・・・◎
0.8≦A/B<0.9、または、1.15≦A/B<1.2のもの
・・・○
A/B<0.80、または、A/B>1.20のもの
・・・×
【0059】
顔料分散性試験:50℃、湿度80%、2ヶ月経過後に光学顕微鏡(オリンパス社製)倍率100倍にてインキ組成物の顔料分散性を観察した。
均一に顔料分散していたもの ・・・◎
ほぼ均一に顔料分散していたもの ・・・○
顔料凝集が、みられたが実用上問題のないもの ・・・△
顔料凝集していたもの ・・・×
【0060】
インキ経時試験:チップ本体内のインキを顕微鏡観察した。
析出物がなく、良好のもの ・・・◎
析出物が微少に発生したもの ・・・○
析出物が発生したが、実用上問題のないもの ・・・△
析出物が発生し、カスレや筆記不良などの原因になるもの ・・・×
【0061】
実施例1?6では、インキ経時試験、書き味、耐摩耗試験、インキ消費量試験、顔料分散性試験ともに良好であり、筆記性能が良好であった。
【0062】
比較例1では、染料同士の造塩染料を用いているため、顔料安定性が得られず、書き味が重く、耐摩耗試験において、すべてボール座の摩耗がひどかった。また、インキ消費量試験において、インキ消費量の減少が見られ、筆跡が薄くなりカスレが発生した。
【0063】
比較例2では、造塩していない酸性染料を単独で用いているため、顔料分散安定性が得られず、書き味が劣り、耐摩耗試験において、すべてボール座の摩耗がひどかった。また、インキ消費量試験において、インキ消費量の減少が見られ、筆跡が薄くなりカスレが発生した。
【0064】
比較例3では、顔料を用いていないため、耐摩耗試験において、ボール座摩耗がひどく、インキ消費量試験において、インキ消費量の増加が見られ、擦過性などの筆記性能が劣った。
【0065】
比較例4では、インキ粘度が高く書き味が劣った。



(6) 具体的事項について

a 本件明細書には、筆記具用インキに含有されているカーボンブラックの形状に関する明示的な記載はない。

b 本件明細書には、筆記具用インキに含有されているカーボンブラックの平均粒子径について、上記(5)の摘示dによれば、「平均粒子径とは、粒度分布計による平均粒子径d50のことである。」と記載されているのみで、上記実施例等に関する記載を併せてみても、本件発明の「平均粒子径」の測定につき採用されるべき測定方法について明示の記載はない。

c ここで、「d50」とは、上記甲第1号証の記載(第4の1(1)のb)によれば『d_(p50)はQ_(r)(d_(p))=0.5となる粒径で,中位径または幾何平均径(→2.2.3)とよばれる。』とのことであり、また、メジアン径(メディアン径)とも呼ばれ、粒子群をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径であることは、当業者に自明であるが(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社のウェブサイト「粒子計測ゼミナール:粒子径分布測定の一般論:粒子径分布」、URL:http://www.microtrac-bel.com/tech/particle/theory04.html)、上記甲第1号証の記載(第4の1(1)のc)の表1に記載されるように、「個数中位径」、「質量中位径」、及び「体積中位径」というように、測定された代表径の基準に応じるものであり、どの基準を採用するかによって、当該「平均粒子径d50」の定義式(上記表1)は異なるものであり、この違いにより平均粒子径の値自体に差異が生じないとは言い切れない。
そして、当該代表径は測定方法によって自ずから定まるものであるが、本件明細書においては、上記のとおり、明示の記載がない。

d 技術常識の検討

次に、本件発明におけるカーボンブラックの形状や、カーボンブラックの平均粒子径の測定方法等に関する技術常識を検討する。

(a) カーボンブラックの形状について

乙第1号証の記載(第4の2(1)のa、c)によれば、『カーボンブラック粒子を電子顕微鏡で観察すると、球状の粒子がいくつか融着して複雑な構造を持っている・・・(中略)・・・球状の粒子の大きさを「粒子径」、粒子のつながりの大きさを「ストラクチャー」と呼びます。』、『球状粒子の直径は、カーボンブラックを樹脂やベヒクルに配合したときの黒度・分散性を大きく左右する、非常に基本的な特性です。」と記載され、また、乙第3号証の記載(第4の2(3)のa)によれば、「粒子径:
CB凝集体を構成する小さな球状(微結晶による輪郭を有し,分離できない)成分を電子顕微鏡により測定,算出した平均直径。」と記載され、さらに、甲第2号証の記載(第4の1(2)のa)によれば、「ブラックカーボンは単体球形粒子として存在していることがまれで,多くの場合,1次粒子が融合合一した凝集体として存在していることが明らかになってきた。まれな粒子としては,サーマルブラックがある。サーマルブラックは,ほとんどが単独の球形粒子から成り立っている。」と記載されていることから、カーボンブラックとは、通常、球状の粒子(1次粒子)が、いくつか融着・融合合一してなる凝集体としての構造(ストラクチャー)であることがわかる。
なお、甲第2号証の図3.2、及び図3.3の図面は、カーボンブラックの電子顕微鏡写真であるが、これらの図は、カーボンブラックの1次粒子が融着・融合合一した凝集体の画像であり、ここから直ちに一次粒子の形状を把握することはできない。
また、先行技術文献Cの記載(第4の4(1)のa)によれば、「球状のカーボンブラックあるいは非球状のカーボンブラックと併用し、もしくは単独で使用し、」と記載され、また、先行技術文献Dの記載(第4の4(2)のa)によれば、「カーボンブラックは種々のメーカーから、黒色度や粒径、比表面積等が異なる種々の商品が市販されており、・・・(中略)・・・カーボンブラック13の粒子形状は、球形でも非球形でもよい。」と記載されているが、何れの文献もそれらの文脈からみて、1次粒子ではなく凝集体の形状を指して「非球形」と称している蓋然性が高いことから、これらの記載を参酌することはできない。

したがって、カーボンブラックは、通常、ストラクチャーの構造を有しており、単に、カーボンブラックの形状として、「球形」といっても、1次粒子と凝集体のどちらを指しているのか不明である場合もあるところ、本件明細書には、上記(6)のaで述べたとおり、その形状に関して明示的な記載はないものの、上記乙第1号証、乙第3号証、及び甲第3号証に記載されている技術常識を考慮すれば、凝集体を構成している小さな球形の粒子である1次粒子を対象としてることは明らかであり、本件発明でいう、カーボンブラックの「平均粒子径」とは、小さな球形の粒子(1次粒子)の平均直径のことを指しており、その形状は、「球形」であるといえる。

(b) カーボンブラックの粒子の測定方法について

甲第2号証の記載(第4の1(2)のa)によれば、「粒子径分布測定における適切なデータは,各種のカーボンブラックについて示した図3.1,3.2,3.3・・・(中略)・・・のような既知の倍率の電子顕微鏡写真の粒子径の直接測定によって得られる。」と記載され、また、甲第3号証の記載(第4の1(3)のa)によれば、「現在の電子顕微鏡像を手がかりとした粒子径という概念は広く用いられている」と記載され、さらに、乙第3号証の記載(第4の2(3)のa)によれば、「粒子径:
CB凝集体を構成する小さな球状(微結晶による輪郭を有し,分離できない)成分を電子顕微鏡により測定,算出した平均直径。」と記載されていることから、カーボンブラックの粒子(1次粒子)の粒子径は、電子顕微鏡で撮影した写真(画像)から測定されることがわかる。
なお、特許異議申立書第14頁によれば、「当業者は、動的光散乱法、コールター法、レーザ光散乱法、液相沈降法、遠心沈降法等の様々な方法による測定装置により筆記具用インクで使用されるカーボンブラックの粒子の平均粒子径を測定していた」と述べているが、上記いずれの方法についても、その測定原理からみて、カーボンブラックの1次粒子が融着・融合合一した凝集体の径を測定しているものであって、1次粒子の粒子径そのものを測定することは不可能であることは、当業者に明らかである。
また、上記(6)のbで述べたとおり、本件明細書には、「粒度分布計」が記載されているだけであって、当該「粒度分布計」と「電子顕微鏡」との関連が記載されていないが、乙第6号証の記載(第4の2(6)のa)によれば、「平均粒子径の測定は,電子顕微鏡で撮影した写真から統計的な取り扱いをして行うので,粒子径分布も同時に得られる」と記載され、また、乙第9号証の記載(第4の2(9)のa)によれば、「顕微鏡写真。写し出された粒子群の画像から粒径や形状係数をデータ化し解析することの必要性が年々高まっています。画像解析式粒度分布測定ソフトウェア"Mac-View"は、・・・(中略)・・・電子顕微鏡写真から粒子の画像を取り込み。各種データを計測・解析・・・(中略)・・・取り込んだ粒子群データを、粒度分布データとして出力可能」と記載され、また、乙第10号証の記載(第4の2(10)のa)によれば、『黒色顔料-1の平均粒子径を下記の方法で測定した。得られた黒色顔料-1の透過型電子顕微鏡写真(6万倍)を撮り、該写真から、「画像解析式粒度分布ソフトウエア、Mac-View」(マウンテック社製)を用いて粒度分布を測定した。この結果、黒色顔料-1の平均粒子径は凡そ80nmであった。この方法を「画像解析式粒度分布測定法」と称する。』と記載され、また、乙第11号証の記載(第4の2(11)のa)によれば、「銅粒子の一次粒子径は、例えば画像解析式粒度分布測定ソフトウェアMacView(株式会社マウンテック製)によって測定することができる」と記載され、また、乙第12号証の記載(第4の2(12)のa)によれば、「数平均一次粒子径は、SEM(走査電子顕微鏡:日本電子社製JSM-880)により3万倍に拡大したトナー粒子表面の写真を撮影し、画像解析装置(Macview株式会社マウンテック製)にて、任意の100個の粒子について粒子径を測定し、算術平均を行ってその数平均一次粒子径を算出した」と記載され、さらに、乙第13号証の記載(第4の2(13)のa)によれば、「画像解析粒度分布計は、高解像度のカメラで粒子画像を撮影し、撮影した画像を解析して、粒子一つ一つの大きさと形状を測定します。」と記載されていることから、本件明細書における「粒度分布計」とは、電子顕微鏡等で撮影した写真(画像)を解析して、粒子一つ一つの粒子径を測定し、統計的な処理をして粒子径分布を出力することができる機器であることがわかる。

したがって、カーボンブラックの1次粒子径の測定方法は、「電子顕微鏡等」を用いて得た画像を解析し、統計処理して、粒度分布を求めることが技術常識であることがわかる。

(c) カーボンブラックの粒子の基準について

甲第1号証の記載(第4の1(1)のb)によれば、「ある粒子群の粒度分布を表示する場合,代表径を明示しておくことと,粒子の量がどのような基準-個数,長さ,面積,体積(または質量)-で測定されたかを明確に区別しておくことが必要である。これらによって粒度分布が異なるからである。」と記載されていることから、カーボンブラックの粒子が、どのような基準(個数、長さ、面積、体積等)で測定されるかを特定する必要がある。
ここで、乙第4号証の記載(第4の2(4)のa)によれば、「黒色組成物に含まれるカーボンブラック全体の個数基準の粒子径分布を求める」と記載され、また、乙第5号証の記載(第4の2(5)のa)によれば、「平均一次粒径は、カーボンブラックの透過型電子顕微鏡(TEM)写真の二次元形状において、任意の10個のカーボンブラックの長径の平均として求めることができる」と記載され、また、乙第7号証の記載(第4の2(7)のa)によれば、『顕微鏡の映像で粒子径分布を求める方法では、粒子の数を計数してその個数から粒子径分布とすることが多く、このときは「個数基準」となります。』と記載され、さらに、乙第8号証の記載(第4の2(8)のa)によれば、「画像処理で測定した粒子径分布は個数基準で測定される」と記載されている。
したがって、上記(b)で述べたとおり、カーボンブラックの粒子は、電子顕微鏡で撮影した写真(画像)から測定されることから、その基準は「個数基準」であることが技術常識であることがわかる。

(d) 以上のとおり、本件発明におけるカーボンブラックの形状は、「球形」であり、上記(3)aの場合に該当することが明らかであり、また、カーボンブラックの粒子の測定方法が、「電子顕微鏡等」を用いて得た画像を「粒度分布計」で解析し、統計処理して、粒度分布を求めること、及び、個数基準により平均粒子径を求めることが技術常識であることから、粒子径(代表径)の定義の記載の有無にかかわらず、明確性の要件を充足していると認められる。

(7) 小括

したがって、本件特許の出願は、カーボンブラックの平均粒子径については、明確でないとすることはできない。

3 明確性要件についてのまとめ

よって、本件特許の出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

4 平成29年9月27日付け取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立の理由について

(1) 申立理由(特許法第36条第6項第2号、以下、「申立理由1」という。)

申立理由1は、「ボールの軸方向の移動量」に関する明確性要件違反に関するものであって、『本件発明は、「ボールの軸方向の移動量」が何れの時点におけるものであるのかが明らかでないから、特許を受けようとする発明が明確でない。』というものである。

ア 特許異議申立人が明確性要件違反であると主張する事項

特許異議申立人が、「ボールの軸方向の移動量」に関して明確性要件違反であるとする概略は、「ボールの軸方向の移動量が、3?15μmであ」るとの記載は、明細書の記載を考慮しても、それが具体的に筆記開始からインキ終了時までのどの時点におけるボールの軸方向の移動量を指すのか特定できず、特許を受けようとする発明が明確ではない、というものである。

イ 本件明細書には、上記2(3)の摘示a、b、f、g以外では、次のとおりの摘示h、iの記載がある。

h 『【0003】
しかし、ステンレス鋼材からなるボールペンチップを用いたボールペンレフィルであっても、筆記によるボールの回転によって、チップ本体が摩耗する問題があった。チップ本体が摩耗すると、チップ内でのボールの軸方向での移動量、いわゆるクリアランスが大きくなる。』

i 『【0024】
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの軸方向の移動量が、3μm?15μmである方が好ましい。3μm未満であると、インキ消費量が少なくなり易いため、筆跡カスレなど筆跡不良の原因となり、15μmを越えると、インキ消費量が安定して供給しづらくなり、0.8≦A/B≦1.2を満足できにくい傾向となる。』

ウ 具体的事項について

a 本件明細書の記載、特に、上記摘示fには、「チップ内でのボールの軸方向での移動量、いわゆるクリアランス」と記載されており、ここで、クリアランスが、ボールペンチップにおけるボールとチップ本体との隙間の大きさであることは当業者に自明であり、また、上記摘示eの【0044】には、「軸心方向」と記載され、上記摘示gの【0053】には、「ボール9は当接面5の軸心方向の中央位置よりもチップ先端部2a側で軸心回りの周回線上の当接部5aにおいて当接する。」と記載され、同じく【0054】には、「第1の隙間S1のインキ流通孔7側の軸心方向における開口の長さHは、0.9μmである(図2参照)。」と記載されていること、また、特に、図2の記載から、「軸方向」とは、「軸心方向」と同意であって、図2のHに関する矢印の方向であることがわかり、図1では、紙面に対して上下方向、図3では、紙面に対して左右方向であることもわかる。すなわち、軸方向とは、本件発明1のボールペンレフィルの軸心方向であることがわかる。
したがって、「ボールの軸方向の移動量が、3?15μm」における「ボールの軸方向の移動量」については、ボールペンチップにおけるボールとチップ本体との隙間におけるボールペンレフィルの軸心方向の大きさのことであり、その技術的意味内容は明確である。

b そして、「ボールの軸方向の移動量が、3?15μmであ」ることについては、上記摘示iによれば、「ボールの軸方向の移動量が、3μm?15μmである方が好ましい。3μm未満であると、インキ消費量が少なくなり易いため、筆跡カスレなど筆跡不良の原因となり、15μmを越えると、インキ消費量が安定して供給しづらくなり」とのことであるから、上記「ボールの軸方向の移動量が、3?15μmであ」ることは、本件発明のボールペンレフィルを用いたボールペンを使用する際の前提条件として定めるものに過ぎず、本件発明の課題の一つである「筆記開始からインキ終了時まで、インキ消費量が安定しているボールペンレフィルを提供すること」(上記摘示a)を勘案すれば、当該使用については、「筆記開始からインキ終了時まで」を指すことは、至極当然のものである。

エ 小括

したがって、本件発明の「ボールの軸方向の移動量が、3?15μmであ」ることについては、「筆記開始からインキ終了時まで」の期間であることは明らかであるから、明確でないとすることはできない。
よって、本件発明は、申立理由1によっても、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(2) 申立理由(特許法第36条第6項第1号、以下、「申立理由2」という。)

申立理由2は、『明細書の【0024】の記載を参酌すれば、「・・・筆記開始からインキ終了時まで、インキ消費量が安定・・・」するとの課題(【0013】)を解決するためには、筆記開始からインキ終了時まで、ボールの軸方向の移動量が常に「3?15μm」の数値範囲内に含まれることが必要であるとの考えが合理的に成立し得るところ、請求項1では、「前記ボールの軸方向の移動量」が、いつの時点において「3?15μm」の数値限定を満たさなければならないのか何ら規定されておらず、筆記開始又はインキ終了時の一方の時点においてのみ上記数値限定を満たし、他方の時点において上記数値限定を満たさない場合には、本件特許発明の課題を解決できるものと当業者が認識できない。請求項1に従属する請求項2-8についても同様である。』というものである。

しかしながら、上記3で述べたとおり、本件発明の「ボールの軸方向の移動量が、3?15μmであ」ることについては、「筆記開始からインキ終了時まで」の期間であることは明らかであるから、ボールペンの使用時、すなわち、筆記開始からインキ終了時までの時点において上記数値限定を満たすのであれば、本件特許発明の課題を解決できるものと当業者が認識できることになる。

したがって、本件発明は、申立理由2によっても、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、本件請求項1?8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。

また、他に本件請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-26 
出願番号 特願2012-90122(P2012-90122)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 國島 明弘
井上 能宏
登録日 2016-09-23 
登録番号 特許第6010323号(P6010323)
権利者 株式会社パイロットコーポレーション
発明の名称 ボールペンレフィル  
代理人 宮嶋 学  
代理人 砂山 麗  
代理人 高田 泰彦  
代理人 前川 英明  
代理人 中村 行孝  
代理人 永井 浩之  
代理人 柏 延之  
代理人 堀田 幸裕  
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