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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01S
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01S
管理番号 1338168
異議申立番号 異議2017-701125  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-29 
確定日 2018-03-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6139070号発明「ダブルクラッド光ファイバの製造方法、及びダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6139070号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6139070号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成24年7月4日(優先権主張 平成23年7月27日)に特許出願され、平成29年5月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年11月29日に特許異議申立人 福岡良枝により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6139070号の請求項1?5の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項ごとに「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)と認められる。

「【請求項1】
ガラス製のプリフォームを線引きして希土類元素が添加されたコア及びそれを被覆し該コアより屈折率が低い石英製の第1クラッドを形成するコア及び第1クラッド形成工程と、
上記コア及び第1クラッド形成工程で形成した上記第1クラッドの表面に、加圧ダイスを用いて液状の第2クラッド材料を加圧して付着させて加熱することにより熱硬化させて該第1クラッドより屈折率が低い第2クラッドを形成する第2クラッド形成工程と、
を備えたダブルクラッド光ファイバの製造方法であって、
上記第2クラッド材料は、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマーであることを特徴とするダブルクラッド光ファイバの製造方法。

【請求項2】
請求項1に記載されたダブルクラッド光ファイバの製造方法において、
上記第2クラッド形成工程において、上記第2クラッド材料を加熱するときの加熱炉の炉内設定温度を100?500℃とするダブルクラッド光ファイバの製造方法。

【請求項3】
請求項1又は2に記載された方法で製造したダブルクラッド光ファイバの表面に液状のオーバーコート材料を付着させて加熱することにより熱硬化させるオーバーコート形成工程を備えたダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法。

【請求項4】
請求項3に記載されたダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法において、
上記オーバーコート形成工程では、液状のオーバーコート材料を付着させたダブルクラッド光ファイバを、炉内設定温度を相対的に高くした上流側加熱炉及び炉内設定温度を相対的に低くした下流側加熱炉を順に通過させてオーバーコート材料を熱硬化させるダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法。

【請求項5】
請求項3又は4に記載されたダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法において、
上記オーバーコート形成工程では、液状のオーバーコート材料を加圧する加圧ダイスを用いて、ダブルクラッド光ファイバの表面に液状のオーバーコート材料を付着させるダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人 福岡良枝は、証拠として以下の甲第1号証?甲第35号証を提出し、本件特許発明1?5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第32号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項に違反(以下、「申立理由1」という。)し、
本件特許発明1?5は、甲第33号証に記載された発明及び甲第1号証ないし甲第32号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項に違反(以下、「申立理由2」という。)し、
本件特許発明1?5は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない(以下、「申立理由3」という。)ものであるから、本件特許発明1?5は、取り消すべきものである旨主張している。

<引用文献一覧>
甲第1号証:特開2010-108999号公報
甲第2号証:特開平3-65533号公報
甲第3号証:特開昭63-188107号公報
甲第4号証:特開昭61-93857号公報
甲第5号証:特開昭59-21545号公報
甲第6号証:特開平1-275450号公報
甲第7号証:特開昭61-91044号公報
甲第8号証:特開平4-254441号公報
甲第9号証:特開2006-215433号公報
甲第10号証:特開2004-107184号公報
甲第11号証:特開平3-103342号公報
甲第12号証:特開昭62-119134号公報
甲第13号証:特開昭60-264339号公報
甲第14号証:特開2003-300755号公報
甲第15号証:特開2003-300756号公報
甲第16号証:特開平10-194793号公報
甲第17号証:特開昭63-318509号公報
甲第18号証:特開昭59-217649号公報
甲第19号証:特表2008-511012号公報
甲第20号証:特開昭53-115241号公報
甲第21号証:特開平4-96004号公報
甲第22号証:特開昭62-112104号公報
甲第23号証:特開昭62-49305号公報
甲第24号証:実願平2-81470(実開平4-40733号)のマイクロフィルム
甲第25号証:特開2010-103223号公報
甲第26号証:特開2007-197273号公報
甲第27号証:特開2010-1193号公報
甲第28号証:特開2010-250167号公報
甲第29号証:特開2010-250168号公報
甲第30号証:特開平10-10378号公報
甲第31号証:特開昭59-217653号公報
甲第32号証:特開平4-224144号公報
甲第33号証:特開2000-214342号公報
甲第34号証:特表2001-519373号公報
甲第35号証:特開2009-185120号公報

第4 引用文献の記載
1 甲第1号証について
(1) 本件特許出願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布された甲第1号証には、以下の事項が記載されている(なお、下線は、当審が付加した。以下同様。)。

ア 「【0023】
図2の(A)に示すように、光ファイバ10は、光ファイバ10の中心に設けられた断面形状が円形のコア部11と、コア部11を被覆し、外周の断面の形状が円形の第1クラッド部13と、第1クラッド部13を被覆する第2クラッド部14と、第2クラッド部14を被覆する保護層15とを有する。
【0024】
図2の(B)に示すように、コア部11の屈折率は、第1クラッド部13のコア部11側の屈折率よりも高くなっている。ここで、コア部11と第1クラッド部13のコア部11側の屈折率差は、0.05%以上、0.6%以下であることが、信号光のビーム品質及び光ファイバの曲げによる損失の観点から好ましい。」

イ 「【0026】
また、第2クラッド14の屈折率は、第1クラッド部13の第2クラッド14側の屈折率よりも、大幅に低くされている。」

ウ 「【0030】
コア部11の材料としては、石英(SiO_(2))に、屈折率を高める材料として、アルミニウム(Al)やゲルマニウム(Ge)等の屈折率を上げる金属元素が添加され、さらに、信号光を増幅するための希土類元素(ネオジウム:Nd、エルビウム:Er等)が添加されているものが挙げられる。
【0031】
また、第1クラッド部13の材料としては、石英にフッ素(F)が添加されているものが挙げられる。フッ素は、コア部11側よりも第2クラッド部14側に多く添加され、さらに、コア部11側から第2クラッド部14側にかけて添加量の変化率が大きくなるようになされている。ここで、フッ素の添加量と屈折率は、略一次関数として表すことができるので、所望の屈折率が得られるようにフッ素の添加量を制御しつつ、公知のMCVD法、OCVD法等により光ファイバ母材を作製することができる。このようにフッ素の添加量を変化させることで、図2(B)に示した第1クラッド部13の屈折率の分布を得ることができる。
【0032】
第2クラッド部14の材料としては、一般的に、低屈折率のポリマー樹脂が使用される。
【0033】
保護層15の材料としては、紫外線硬化性樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂が挙げられる。」

エ 「【0037】
具体的には、出発石英管の内部に、図2の(B)に示した屈折率分布、及び所望の吸収量が得られるよう、アルミニウム、ゲルマニウム、フッ素等の適切なドーパント、エルビウムやイッテルビウム等の希土類元素を適宜添加した石英を堆積させ母材を製造する。」

オ 「【0039】
次に、この光ファイバ用母材を加熱線引きする。光ファイバ用母材が加熱線引きされ、コア部11がクラッド部13により被覆された光ファイバ10の半製品が得られる。その後、この光ファイバ10の半製品を第2クラッド部14となる光硬化型樹脂が入ったコーティングダイスに通し、紫外線を照射する。こうして、光硬化型樹脂が硬化して、第1クラッド部13を被覆した第2クラッド部14が形成される。第2クラッド部14が形成されたのち、保護層15となる光硬化型樹脂が入ったコーティングダイスを通し、紫外線を照射する。こうして光硬化型樹脂が硬化して、第2クラッド部14を被覆した保護層15が形成され、光ファイバ10が製造される。」

カ 図2は、次のものである。



(2) 以上の記載によれば、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「出発石英管の内部に、アルミニウム、ゲルマニウム、フッ素等の適切なドーパント、希土類元素を適宜添加した石英を堆積させ光ファイバ用母材を製造する工程と、
前記光ファイバ用母材が加熱線引きされ、前記コア部11が前記第1クラッド部13により被覆された光ファイバ10の半製品が得られる工程、
前記光ファイバ10の半製品を前記第2クラッド部14となる光硬化型樹脂が入ったコーティングダイスに通し、紫外線を照射し、光硬化型樹脂が硬化して、第1クラッド部13を被覆した第2クラッド部14が形成される工程を有し、
前記コア部11の材料として、石英(SiO_(2))に、信号光を増幅するための希土類元素(ネオジウム:Nd、エルビウム:Er等)が添加されており、
第1クラッド部13の材料として、石英にフッ素(F)が添加されており、
前記コア部11の屈折率は、前記第1クラッド部13の前記コア部11側の屈折率よりも高くなっており、
前記第2クラッド部14の屈折率は、前記第1クラッド部13の前記第2クラッド部14側の屈折率よりも、大幅に低くされている、
光ファイバの製造方法。」

2 甲第2号証について
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、以下の事項が記載されている
ア 「 本発明は、石英コア・・・(略)・・・の光ファイバの製造における、クラッド材のコーティング方法に関するものであり、とりわけファイバーを加圧型ダイスに引き通してコーティングを施す光ファイバーのコーティング方法に関するものである。」(1頁右下欄3?8行)

イ 「・・・ダイス本体にノズルとニップルを一体化して密閉構造とした加圧ダイスにファイバーを引き過してコーティングを施す・・・」(2頁左上欄10?12行)

ウ 「・・・この方法では、ダイス内のコーティング材に圧力をかけて押し出すことにより、開放型ダイスコーティングにみられるすべり現象を回避することが出来、従って高速でのコーティングが可能となる。さらに、ダイスにかける圧力を調整することにより、コーティング層の外径を目標値内に抑えてコーティングを行うことが可能となる。」(2頁左上欄15行?右上欄2行)

エ 「 ノズル及びニップルが装着された加圧型ダイス内に、大気圧より高い圧力をかけて液状プラスチックコーティング材を供給し、先端部のノズル内にファイバーを引通して該ファイバーにコーティング材を施す・・・」(2頁左下欄16?20行)

オ 「・・・本発明によるコーティング方法は、石英系の母材を加熱溶融し、細線化してファイバーとなし、これに連続的にコーティングを施すプロセスや熱可塑性プラスチックを溶融紡糸してファイバーとなし、このファイバーに連続的にコーティングを施すプロセス等に用いて良好である。また、これらのコア/クラッドコーティングファイバ一にさらに保護層をコーティングするプロセスに適用することも可能である。」(4頁右上欄9?17行)

3 甲第3号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・円柱状のガラス母材を加熱溶融して線引きして得た心材をフッ素含有樹脂を満たしたディップダイスに通して2?30μm厚の被膜を形成すると、
(1)偏肉が生じ易く、安定した光学的特性が得られない。また外観も悪い。
(略)
等の問題点があったのである。」(1頁右下欄19行?2頁左上欄15行)

イ 「・・・円柱状の石英ガラス母材1は鉛直に配され、その下端部はピーク2にて加熱されて溶融していき、所要の細径に線引きされた心材3となる。この心材は上下にタンデムに配置された加圧ダイス4、オープンダイス5を通り、ここで紫外線硬化型のフッ素樹脂が2回に亘って被着され、下側のオープンダイス5を出た後、紫外線ランプ6にて照射されて被着樹脂は硬化され、母材1直下の線引きロール7を経て巻取りリール8に巻取られる。
下側のオープンダイス5のダイス径はクラッド層の仕上径に応じて定める。これに対して上側の加圧ダイス4のダイス径はオープンダイス5の径よりも大に定める。」(2頁右上欄13行?左下欄6行)

4 甲第4号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「 ガラス光ファイバに被覆を施すための装置は通常、被覆液体の入った溜めと、この溜めの底に設けられた小さい出口オリフィスを具備している。前記溜めは、その頂部にまたはそれの側壁に沿って、加圧された被覆液体を導入するための手段を有するテーパ付きのダイスで構成されうる・・・」(2頁左下欄8行?13行)

イ 「 ファイバは線引き速度を増大することによってより経済的に形成されうる。」(2頁右下欄4?5行)

ウ 「 第1図を参照すると、光導光路ファイバ10を線引きするための装置が示されている。図示された実線例では、先端を炉12内で軟化されたプリフォーム11からトラクタ13によって引かれる。・・・(略)・・・ファイバ10はガラス・コアと、このコアよりも低い屈折率を有していてコアを包囲したクラッド・ガラス層で構成されうる。あるいは、そのファイバ10はコアガラスだけで構成され、そのコアにはクラッドを構成するプラスチック材料を被覆添着装置(coater)(以下コータと呼ぶ)15で添着したものであってもよい。」(3頁右下欄16行?4頁左上欄8行)

エ 「 液体被覆材料が加圧された溜め19内に貯蔵されている。紫外線硬化性、熱硬化性、及び熱可塑性ポリマー材料のような種々の公知の被覆材料が本発明の装置に使用するのに適している。」(4頁右上欄6?9行)

オ 「・・・第2図はコータ15と装置16の隣接部分を示す断面図である。」(4頁右下欄7?8行)

カ 「・・・肩部34上に定寸用ダイス38が配置されている。このダイスのすぐ上には、複数の供給穴40を透設された円筒状の流れ分布用スリーブ39が配置されている。」(4頁右下欄15?18行)

キ 「・・・定寸用ダイス38はそれぞれテーパをつけられた長手方向の開孔45および46を有している。開孔46はダイス38の底面まで延長して定寸用オリフィス47を形成している。このオリフィス47の寸法は、被覆されるべき光ファイバの直径、その被覆の厚さ、使用される特定の被覆材料等を含む種々のパラメータによって決定される。」(5頁左上欄3?9行)

ク 「・・・溜め19からの被覆液体は取入れ口26を通って環状スロット50に流れ、そこで半径方向の穴51に分配される。次に、その被覆液体は内側フロー・チャンパ53に流人し、そこでスリーブ39を包囲する。」(5頁左上欄19行?右上欄4行)

ケ 「 被覆液体は穴40を通って半径方向内方に流れてファイバに達する。」(5頁右上欄8?9行)

コ 「コータ15は支持装置16に取付けられ、ファイバの表面が摩耗される前にそのファイバに被覆を施すことのできるようにするために、炉とトラクタとの聞に配置される。被覆を施されたファイバが数字10’で示されている。」(4頁左上欄9?13行)

5 甲第5号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「 第1図に示すように内部が漏斗型をなし先端細径部がノズル2を形成した加圧ダイス1中を線材である光ファイバ3を走行移動させ光ファイバ3に被覆する液状プラスチック被覆材料4に大気圧より高い圧力を加える・・・」(2頁左上欄6?10行)

イ 「・・・第3図は本発明の実施例を示す。 5は光ファイバの母材、6は光ファイバ母材の送り装置、7は光ファイバ母材を加熱溶融する電気炉であり線引きした光ファイバ3を送り出す。線引きされた光ファイバ3は、内部が第1図に示すように漏斗型をなし、その下端の細径部がノズルを形成する加圧ダイス1中を通り、プラスチック被覆されて被覆光ファイバ8となる。加圧ダイス1内には大気圧より大なる圧力に加圧された液状プラスチック被覆材料が供給される。従って加圧ダイスは光ファイバの通る部分以外は密閉される。9は乾燥炉、10はキヤプスタン、11は巻き取りドラム、12は加圧ダイス5内へ供給される液状シリコン樹脂に加える圧力を調整するか圧力調整部である。」(3頁左上欄10行?右上欄4行)。

ウ 「・・・加圧ダイスへ供給される液状プラスチック被覆材料への加圧力を光ファイバに被覆されるプラスチックの被覆膜厚が常に所定の一定厚さになるよう調整し、光ファイバの線速が高速であっても均一な被覆膜厚の被覆光ファイバを得ることができる。」(3頁左下欄14?19行)

6 甲第6号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

ア 「 光ファイバ心線製造の高速化に伴い、樹脂被覆手段として加圧ダイスを用い、加圧した樹脂液を光ファイバ素線の表面に被覆することにより、高速化しても光ファイバ素線に対する樹脂液の被覆が良好に行えるようにしている。」(1頁右欄12?16行)

イ 「・・・図示のように光ファイバ母材1は加熱炉2で加熱されつつ紡糸され、光ファイバ素線3Aが順次形成され、下降されて加圧ダイス4を通る。加圧ダイス4では加圧された樹脂液5が光ファイバ素線3Aの表面に1層又は複数層被覆され光ファイバ心線3が得られる。」(2頁右上欄19行?左下欄第4行)

7 甲第7号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「 光ファイバー母材を加熱炉で軟化させて引取ダイを通して連続的に引取って光ファイバーを形成し、この光ファイバーをオープンダイに通して被覆する所謂デッピング方法が一般に用いられている。この方法は線速が高くなると、光ファイバーとダイ内の被覆材との間にすべりが発生し、被覆が断続的になったり、所定の被覆厚が得られなかったりする欠点があった。
これを回避するため被覆材を光ファイバーの走行方向と同方向に強制的に押出す加圧式の被覆装置が提案されている。この被覆装置は光ファイバが通るニップルとニップルに同心的に配置されニップルから出る光ファイバーの上に加圧された被覆材を所定の厚みで被覆するように押出すダイとから成っている。」(1頁左下欄18行?右下欄12行)

イ 「・・・第1図は本発明に係る光ファイバー被覆装置10を示し、この被覆装置10は、第1図に示すように・・・光ファイバー12の上に加圧された被覆材16を所定の厚みで被覆するダイ18とから成っている。」(2頁右上欄1?7行)

8 甲第8号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・光ファイバ母材を加熱炉で軟化させて引取ダイを通して連続的に引取って光ファイバを形成し、この光ファイバをオープンダイに通して液状被覆材を被覆するいわゆるディッピング方法が無機系光ファイバの製法として一般に用いられている。この方法は線速が高くなると、光ファイバとダイ内の被覆材との間にすべりが発生し、被覆が断続的になったり、所定の被覆膜厚が得られなかったりする欠点があった。」(段落【0002】)

イ 「このような欠陥を回避し得た光ファイバの被覆方法として特開昭61-91044号公報に被覆材を光ファイバの走行方向と同方向に強制的に押出す加圧式のダイを用いた被覆装置が提案されている。この被覆装置は・・・(略)・・・光ファイバの上に加圧された被覆材を所定の厚みで被覆するよう押出すダイとから成っている。」(段落【0003】)

ウ 「・・・図1は本発明に係る光ファイバ被覆装置10を示し、この被覆装置10は、図1に示すように・・・(略)・・・光ファイバ1の上に被覆材4を所定の厚みで被覆するダイ3とから成っている。」(段落【0010】)

エ 「・・・溶液を調整してダイ内へ移送し、この溶液をニップルの光ファイバ導入孔より導いてその表面に被覆した。・・・被覆材圧力2.0kg/cm^(2)とし、・・・」(段落【0011】)

9 甲第9号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第9号証には、以下の事項が記載されている。

ア 「・・・溶融された被覆材料を加圧した状態としながら、この被覆材料がプラスチック光ファイバを覆うようなダイス、いわゆる加圧型ダイスで行う・・・」(段落【0060】)

10 甲第10号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・光ファイバ裸線1はコアとクラッドから成るガラスファイバのことをいい、例えば石英系のガラスファイバをあげることができる。」(段落【0013】)

イ 「・・・光ファイバ母材11を加熱炉12で溶融紡糸して線引きし、光ファイバ裸線1を製造する。ついで、光ファイバ裸線1を冷却装置13に通したのち、加圧ダイス方式の2次被覆層用のUV樹脂塗布装置17を通過させ、更にUV照射装置15を通過させてUV硬化樹脂から成る1次被覆層を光ファイバ裸線の外周面に形成する。」(段落【0028】)

ウ 「ついで、冷却装置16に通したのち、加圧ダイス方式の2次被覆層用のUV樹脂塗布装置17を通過させ、更にUV照射装置18を通過させて1次被覆層の上に2次被覆層を形成する。」(段落【0029】)

11 甲第11号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第11号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「 このような樹脂を光ファイバに被覆する方法としては、密閉してないオープン形ダイスを用い、そのダイス内に光ファイバを通過させ、そのときシリコン樹脂と光ファイバを接触させて行う方法が一般的に行われている。 しかしこのような方法では、光ファイバの線引き速度が0?100m/分程度までであれば光ファイバ表面にシリコン樹胞を塗布できるが、それ以上の速度の場合には、ダイス内のシリコン樹脂の流れを強制的に与える必要があった。(T. Kimura他、6th BCOC, PP.57?60, 1980)。ところがこのようにしても、光ファイバの速度が160m/分以上の速度では、膜厚変動か激しくなり被覆が不可能であった。」(1頁右下欄下から6行?2頁左上欄8行)

イ 「 一方、特開昭53-115241号には光ファイバ表面にプラスチックを被覆する際、ダイスの上に設けたガスノズルからガスを吹き付け、ダイス液面に加わるガス圧を制御して被覆外径の均一化が試みられている。」(2頁左上欄9?13行)

ウ 「 第2図に示すように内部が漏斗型をなし先端細径部がノズル2を形成した加圧ダイス1中を線材である光ファイバ3を走行移動させ光ファイバ3に被覆する液状プラスチック被覆材料4に大気圧より高い圧力Pを加える・・・」(2頁左下欄13?17行)」

エ 「・・・加圧ダイス内に供給される液状プラスチック被覆材料への加圧力を調整することにより被覆されたプラスチックの膜厚を所定の一定膜厚になし得る。」(3頁左下欄12?15行)

オ 「 第1図は本発明の実施例を示すために用いた線引き装置の構成図である。ここで5は光ファイバ母材を加熱溶融する電気炉であり線引きした光ファイバ3を送り出す。線引きされた光ファイバ3は、内部が第2図に示すように漏斗型をなし、その下端の細径部がノズルを形成する加圧ダイス1中を通り、プラスチック被覆されて被覆光ファイバ8となる。加圧ダイス1内には大気圧より大なる圧力に加圧された液状プラスチック被覆材料が供給される。従って加圧ダイスは光ファイバの通る部分以外は密閉される。・・・(略)・・・12は加圧ダイス5内へ供給される液状シリコン樹脂に加える圧力を調整するか圧力調整部である。」(3頁左下欄19行?右下欄12行)。

カ 「・・・線引きされた光ファイバ3を加圧ダイス1中に導き、液状プラスチックを塗布し、乾燥炉9で乾燥の後、巻取りドラム11に巻き取る。」(4頁左上端4?7行)

12 甲第12号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第12号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・加圧ダイス11、紫外線硬化炉12は線引き直後の光ファイバ6を保護するために被覆をかぶせるための手段、被覆材料13、圧力源15、圧力制御部14は加圧ダイス11に被覆材料13を送り込むための手段である。」(3頁左上欄5?9行)

13 甲第13号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第13号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「 第1図と第2図に於て、1は紡糸炉であり、ガラス母材2を加熱溶融し、これを引き出せば細い径のガラスファイバ3が得られる。ガラスファイバ3は第3図の拡大横断面図に示す光ファイバ線4の中心を占め、石英コア5とそれの外層をなす石英クラッド6とから構成される。
7はプリコート塗布装置であり、先端に成形孔8を有すると共に内側に円錐孔部9を同一軸心状に連続して有するダイス10を備えている。」(2頁右上欄14行?左下欄2行)

イ 「・・・ポット19内の樹脂を吸込み、配管20,20を介して前記樹脂流入路16へ圧送して、樹脂室15内へ加圧状に樹脂を供給する。
ガラスファイバ3が紡糸炉1から引出され、プリコート塗布装置7の前記位置決め孔14及び成形孔8を通過する聞に、コーティング樹脂が加圧接触し、塗布される。この成形孔8の下流側近傍に、塗布された樹脂を加熱・乾燥して硬化させる硬化炉21が設けられる。このようにしてガラスファイバ3に樹脂被覆2 3が形成されて、一次プリコートが完了する・・・」(2頁左下欄16行?右下欄7行)

14 甲第14号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第14号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「光ファイバは外径が100μm前後の極めて細い石英ガラス等の細線であり・・・(略)・・・ファイバの表面を被覆することが通常行われている。被覆方法としては光ファイバの表面に・・・(略)・・・熱硬化型樹脂を塗布してこれを硬化させることが一般に行われており・・・(略)・・・特に、近年においては、加圧ダイスを用いて樹脂を光ファイバに被覆して被覆層を薄膜に仕上げるようにしたものが知られている。」(段落【0002】)

イ 「図3は従来の加圧ダイスを用いた光ファイバの薄膜保護層を形成する方法を示した概略図であり・・・柔らかくした光ファイバ母材を線引きして、コア径が例えば80μm、クラッド径が100μmの線引き後の光ファイバ5を得るようにしたもので、この光ファイバ5は直下の冷却筒6に入り、冷却され、走行しながら加圧ダイス7に導入される。」(段落【0003】)

ウ 「この加圧ダイス7で樹脂がコーティングされた後、乾燥部8で乾燥することで被覆層が形成され、・・・」(段落【0004】)

15 甲第15号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第15号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「光ファイバは外径が100μm前後の極めて細い石英ガラス等の細線であり・・・(略)・・・ファイバの表面を被覆することが通常行われている。被覆方法としては光ファイバの表面に・・・熱硬化型樹脂を塗布してこれを硬化させることが一般に行われており・・・(略)・・・特に、近年においては、加圧ダイスを用いて樹脂を光ファイバに被覆して被覆層を薄膜に仕上げるようにしたものが知られている。」(段落【0002】)

イ 「図4は従来の加圧ダイスを用いた光ファイバの薄膜保護層を形成する方法を示した概略図であり・・・(略)・・・柔らかくした光ファイバ母材を線引きして、コア径が例えば80μm、クラッド径が100μmの線引き後の光ファイバ5を得るようにしたもので、この光ファイバ5は直下の冷却筒6に入り、冷却され、走行しながら加圧ダイス7に導入される。」(段落【0003】)

ウ 「この加圧ダイス7で樹脂がコーティングされた後、乾燥部8で乾燥することで被覆層が形成され、・・・」(段落【0004】)

16 甲第16号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第16号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「図4は、従来の樹脂被覆装置30の断面図を示すもので、31はニップル、32はダイスである。33は樹脂供給用ポンプに連通する樹脂供給口である。樹脂供給口33から供給された被覆樹脂11は、ニップル31とダイス32の樹脂通路35から一定の圧力で押し出され、ニップル31の光ファイバ挿通孔34の中を一定速度で引き取られている光ファイバ10の外周に塗布される。」(段落【0003】)

イ 「図1および図2において、1はニップル、2はダイスである。ニップル1は中心軸方向に光ファイバ10を挿通する光ファイバ挿通孔3が設けられている。このニップル1の光ファイバ挿通孔3を通過した光ファイバ10の外周に加圧された被覆樹脂1 1を所定の厚みで被覆する樹脂通路4を有するダイス2が同心的に配置されている。」(段落【0009】)

17 甲第17号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第17号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「 石英ガラス系ファイバは、その可僥性を改善する目的で有機高分子から成る一次被覆層を光ファイバ上に直接形成し、更に光ファイバを外力から保護するために一次被覆層の上に二次被覆層を介してジャケット層が設けられている。」(1頁右下欄11?15行)

イ 「従来、一次被覆層は、熱可塑性有機高分子物質または熱硬化性有機高分子物質にて形成されていた・・・」(1頁右下欄16?18行)

ウ 「・・・上記組成物をコーティングする際に、気泡を出来るだけ巻き込まないようにする手段としても特に限定されるものではなく、要は気泡を出来るだけ巻き込まないように出来る手段であれば良い。その一例としてダイス構造を加圧ダイスとする手段を例示出来る。
この加圧ダイスの構造はたとえばニップルとダイスが一体化されたものであり、コーティング材の流人部は、外気と接触しない権造となっており、加圧タンクよりコーティング材が流入部に導かれる。」(2頁右下欄18行?3頁左上欄7行)

エ 「・・・紫外線硬化性有機高分子物質組成物を加圧ダイスを用いて石英ガラス系光ファイバ芯材(径125μm)に線速60m/分で一次(外径300μm)並びに二次被覆層(外径500μm)を形成し、紫外線照射ランプを用いて200(Cで3秒間照らして硬化せしめた。」(2頁右上欄15?20行)

18 甲第18号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第18号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・光ファイバを被覆用加圧ダイス内を通過させながら、該被覆用ダイスに充填した熱硬化性樹脂未硬化物で該光ファイバを被覆する・・・」(1頁右下欄6?9行)

イ 「・・・1次被覆材料およびバッファ層被覆材料としては、シリコーン樹脂またはウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が使用されている・・・」(2頁左上欄2?4行)

ウ 「・・・従来、ファイバ被覆速度の向上に対して有効な方法は殆ど見出されておらず、わずかに加圧型ダイスを使用する光ファイバ被覆方法(特願昭57-131417)が提案されているのが現状である。」(2頁右上欄1?5行)

19 甲第19号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第19号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「プラスチック光ファイバ(以下、POFと称する)は、一般に重合体マトリックスとする有機化合物からなるコア部と、コア部より屈折率の低い素材から形成されているクラッド部とから構成される・・・」(段落【0003】)

イ 「POFは、そのままで使用することは少なく、多くの用途においてPOFの周囲に保護用のコーティングを施したり(例えば、保護層の形成)・・・(略)・・・して用いられている。・・・(略)・・・POFへの保護層の形成は、溶融状態または液状のポリマーの浴内にPOFを通過させ、その後にPOF上でポリマーを固化させる方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。」(段落【0005】)

ウ 「保護層は、ダイスとニップルとを有する被覆装置を用いて形成される。」(段落【0006】)

エ 「加圧型被覆工程により、熱可塑性樹脂をプラスチック光ファイバに加圧状態で密着して接触させることができる。」(段落【0013】)

オ 「・・・プラスチック光ファイバ(POF)14を得る。・・・POF14には、第1被覆工程15により保護層が形成されてプラスチック光ファイバ心線(光ファイバ心線)16となる。」(段落【0024】)

カ 「保護層形成用材料としては、室温で流動性を示しており、加熱することにより硬化する液状ゴムを用いることができる。」(段落【0104】)

キ 「図6では、プラスチック光ファイバ(POF)14の外周に保護層を形成する被覆ライン100を図示する。本実施形態においては、従来から知られている電気ケーブルや石英ガラス製光ファイバを被覆する被覆ラインを、被覆ライン100として使用することができる。・・・(略)・・・被覆装置103によりPOF14の外周に熱可塑性樹脂(被覆材)を被覆して、プラスチック光ファイバ心線(光ファイバ心線)16を得る。」(段落【0109】)

ク 「図7では、被覆装置103に備えられているダイス120とニップル121とを示す。被覆装置103では、ダイス120とニップル121は、その隙間が被覆材である熱可塑性樹脂122の樹脂流路123、124となるように、ダイス120内にニップル121が嵌め込められている。」(段落【0112】)

ケ 「・・・ニップル121内のファイバ通過孔をPOF14が通過し、出口開口部121aからニップル121の外へ送り出される。熱可塑性樹脂122は一定の圧力が加わった状態でPOF14と接触することとなり、保護層のPOF14への密着性が向上する。」(段落【0113】)

20 甲第20号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第20号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・第1図は・・・(略)・・・ポリマ被覆槽9、加熱装置11を通して光ファイバ外周表面にポリマ10を被覆する装置の概略図である。」(1頁右欄9?18行)

イ 「・・・被覆剤10は被覆を続けるうちに消費され、その液面は徐々に下がってくるため、被覆剤10を被覆槽9の底部にあるノズルより押し出す圧力が低下し、被覆膜厚は徐々に小さくなった。」(2頁左上欄13?17行)

ウ 「・・・被覆された光ファイバの線径には変動が生じている。 このように被覆膜が不均一であると、被覆による機械強度の補強の効果が低下したり、光ファイバの伝送特性にも影響を及ぼす。」(2頁右上欄8?12行)

エ 「 第3図は本発明の光ファイバの被覆方法の概略を示した図である。同図よりわかるように、ポリマ被覆槽9の上部に加圧用ガスノズル13を設け、ガスノズルにはガス(この場合には酸素を用いた)を流す。」(2頁左下欄8?12行)

オ 「・・・ガスノズル1 3に流人するガス流量を変化させることにより、ポリマ被覆剤10の液面に加わるガス圧を制御し被覆外径を均一に制御する。」(2頁右下欄8?11行)

21 甲第21号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第21号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・光ファイバに要求される重要な特性は、そのNA(開口数が大きいことである。」(2頁左上欄1?3行)

イ 「 NAの大きな光ファイバを製造するためには、コアとクラッドの屈折率の差を大きく採ることが必要であり、クラッドとして屈折率の低い含フッ素のポリマーをコアにコーティングすることがおこなわれている。」(2頁左上欄7?11行)

ウ 「即ち、本発明は、下記成分A?Dを含む組成物からなり、且つ室温における粘度が10,000CP以下である、熱により硬化可能な高NA光ファイバクラッド材を提供するものである。
A.下記式

(式中、Viはビニル基、R _(f)はパーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基を示し、i,mは正の整数、nは0又は正の整数であってn/1+m+n<0.02を満足する。)で表わされるビニル基含有フルオロシリコーン。」(2頁左下欄2行?下から5行)

エ 「 成分Bは、1分子中に平均2個以上の珪素結合水素原子を有する化合物であり、成分Aのビニル基との聞にハイドロシリレーションと呼ばれる反応を起こし、該組成物は硬化される。成分Bの構造は、特に限定されるものでないが、Aとの相溶性を確実にするために、Aと共通のR_(f)基を含むことが望ましい。Bは該組成物を硬化させるに十分な量を使用すればよく、通常はAのビニル基に対して珪素結合水素原子が0.5?2.0の範囲で使用すればよい。」(3頁左上欄4行?13行)

オ 「 本発明のクラッド材は熱により硬化可能であり、光ファイバのクラッドの形成方法としては、例えば石英ガラスまたは光学ガラスのコアに調整された組成物を被覆し、熱硬化反応せしめて硬化体とすることによって行なわれる。熱硬化反応における加熱処理条件はクラッド層の厚さによって異なるが、例えば100μの厚さとすると400℃にて2秒間の処理で充分である。」(3頁右下欄14行?4頁左上欄2行)

カ 「・・・この組成物を石英ファイバ(外径200μ)の外周に100μ厚さとなるようにクラッド層として被覆し、400℃に保持された加熱硬化炉に導入し、2秒間で通過させることにより、石英ガラスの外周にプラスチッククラッドの形成された光ファイバを得た。」(4頁右下欄5?10行)

22 甲第22号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第22号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・クラッドの材料としては前記ジメチルポリシロキサン系やポリフルオロアルキルメチルポリシロキサン系などのシリコーン系樹脂が好ましい。特に、架橋性基としてビニル基を有する架橋性ポリシロキサン系化合物と架矯基としてシリリジン基(HSi(当審注:HSiの「i」から3本線を放射状に記載))等のケイ素原子に結合した水素原子を有する架橋剤またはラジカル発生剤などと組み合せた架橋シリコーン系樹脂が好ましい。たとえば、架橋性ポリシロキサン系化合物としては、たとえば、下記式(I)で表される化合物が好ましい。

上記式(I)において、Meはメチル基を示し、Qは後述ポリフルオロアルキル基を示し、Vはビニル基を示し、Xはメチル基あるいはビニル基を示す。・・・(略)・・・
Qで表される基はポリフルオロアルキル基やポリフルオロアルキルエーテル基(以下、両者ともポリフルオロアルキル基という)であり・・・」(3頁右上欄6行?右下欄1行)

イ 「・・・クラッドの材料としては、より低屈折率のものが好ましい。」(4頁右下欄5?6行)

ウ 「 前記架橋性ポリシロキサン系化合物と架橋剤との混合物を架橋硬化させる方法は、通常触媒存在下に加熱する方法が採用される。」(4頁右下欄20行?5頁左上欄2行)

エ 「架橋性ポリシロキサン系化合物と架橋剤との混合物をコアに塗布して加熱し、架橋硬化させてクラッドが形成される。」(5頁左上欄19行?右上欄第1行)

オ 「保護層は・・・架橋性ポリシロキサン系化合物と架橋剤の組み合わせが最も好ましい。」(5頁右上欄13行?左下欄4行)

カ 「・・・架橋性ポリシロキサン系化合物と架橋剤との組み合せからなる架橋性シリコーン系樹脂(信越化学工業(株)製OF106 :以下シリコーン樹脂Aという)をコーティングし、加熱炉によって加熱(400℃、1秒間)して硬化させ、厚さ20μmのクラッドを形成した。」(6頁右上欄15?20行)

キ 「・・・第1図は素線の断面図であり・・・(略)・・・素線(1)は、石英ガラスあるいは光学ガラスからなるコア(2)、クラッド(3)、およびクラッドの外周に形成した保護層(4)からなる。」(3頁左上欄5行?9行)

23 甲第23号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第23号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・クラッド材組成物はビニル基含有フルオロポリシロキサンからなる主剤と含フッ素化シリコー化合物の硬化剤とからなっている。主剤としてのビニル基合有パーフルオロポリシロキサンは

なるフルオロシロキサン単位を主成分とし、更に硬化に必要な不飽和結合を有する単位を合む。 ここでR _(f)はパーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルキルエーテル基、R'はアルキル基を示し、nは2以上の整数である。」(2頁左下欄9行?右下欄1行)

イ 「かかる含水素フッ素化シリコーン化合物の代表例としては

を挙げることができる。」(3頁左上欄9行?最終行)

ウ 「本発明のクラッド材組成物を石英ガラスからなるシリカファイバーのコアに対して処理してクラッド層を形成する方法は、コアにクラッド材組成物を被覆して熱硬化反応させることによって行なわれる。」(3頁右下欄5?9行)

エ 「・・・被覆と同時に熱処理による硬化が行なわれるが、かかる熱処理条件は形成されるクラッド層の厚さによって任意に設定される。例えばクラッド層の厚さを100μとする上記の線引き装置において通常400℃、2秒間で充分である。)(3頁右下欄12行?16行)

オ 「本発明のクラッド材組成物からなるクラッド層の形成されたプラスチッククラッド光伝送ファイバーは開口数(NA≧0.5 )が高く、・・・」(4頁3?5行)

24 甲第24号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第24号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「一般に、光ファイバの紡糸は第2図に示すような光ファイバ線引き装置で行われる。すなわち、光ファイバプリフォーム10を電気炉11等で加熱熔融させて引張る(線引きと称される)ことにより光ファイバ12を形成する。」(2頁7行?11行)

イ 「この後、表面を保護するためにコーティングダイス14により、熱硬化性の樹脂または紫外線(UV)硬化型樹脂が被覆される。」(2頁17行?19行)

ウ 「コーティングダイス14により被覆された光ファイバ12は硬化炉16に導入され、ここで被覆された熱硬化性の樹脂または紫外線(UV)硬化型樹脂が硬化される。」(3頁2行?5行)

25 甲第25号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第25号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・光ファイバ裸線10に被覆材料を被覆するためのダイス(ファイバ被覆樹脂用ダイス)75と、被覆材料を硬化させ、ファイバレーザ用ファイバ1とする硬化部(被覆樹脂硬化装置)76・・・」(段落【0044】)

イ 「硬化部76は、被覆材料の種類に応じて適宜変更でき、ポリイミド樹脂のような熱硬化性樹脂の場合はヒーター・・・などが用いられる。」(段落【0045】)

ウ 「・・・高出力光ファイバレーザに使用される光ファイバとして、図8に示すような光ファイバ(ファイバレーザ用ファイバ)91がある。この光ファイバ91は、希土類元素(Yb、Er、Er/Yb、Tm、Ndなど)をドープしたコア92と、第1クラッド93a、第2クラッド93bからなるクラッド93とを備えたダブルクラッドファイバである。」(段落【0003】)

26 甲第26号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第26号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・光ファイバ母材10は、石英ガラスからなり・・・」(段落【0017】)

イ 「・・・光ファイバ裸線12の外周に設けられる被覆層の材料は、従来公知の各種の合成樹脂材料の中から適宜選択して用いることができ、例えば・・・(略)・・・熱硬化型樹脂等が好適に用いられる。また、光ファイバ裸線12外周に塗布したコーティング液を効果させる架橋筒1 6は、前記被覆層の使用樹脂に応じて変更され・・・前記熱硬化型樹脂を用いる場合には、加熱ピークを内蔵し、コーティング樹脂を加熱硬化させる架橋筒16が用いられる。」(段落【0018】)

ウ 「・・・光ファイバ母材10は、石英ガラスからなり、コアとそれを囲むクラッドとを有する各種の光ファイバ製造用の光ファイバ母材を用いることができる。この各種の光ファイバは特に限定されず、例えば・・・(略)・・・希土類添加ダブルクラッドファイバ・・・(略)・・・などが挙げられる」(段落【0017】)

27 甲第27号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第27号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・本発明におけるマルチクラッドファイバは、上記本発明の光ファイバ母材を紡糸した後、その外表面をポリマ層で被覆して得られる。
・・・(略)・・・光ファイバ母材を紡糸し、得られた光ファイバの外表面をポリマ層で被覆すれば良い。この時、ポリマとして保護樹脂を使用することにより、ダブルクラッドファイバが得られ・・・ポリマとしては、例えば、熱硬化性樹脂・・・が使用でき、・・・」(段落【0037】)

イ 「コアに希土類元素が添加された光ファイバは、光増幅機能を有しており、光ファイバレーザや光増幅器等の用途に使用されている。・・・(略)・・・
光ファイバレーザの光増幅用に使用されるYb添加光ファイバとしては、例えば、複数のクラッドを有する光ファイバが挙げられる。これらは通常、マルチクラッドファイバと総称される。マルチクラッドファイバは、コアの外側に複数のクラッドが同心状に配置され、構成されている。そして、クラッドが二層になっているものはダブルクラッドファイバと呼ばれ・・・(略)・・・図5は、ダブルクラッドファイバの断面と好ましい屈折率プロファイルを例示する図であり、・・・」(段落【0002】)

28 甲第28号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第28号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・ダブルクラッド光ファイバは、公知のもので良い。すなわち、コア、第一クラッド層、第二クラッド層及び保護被覆層を有するものであり、例えば、図1に示すものが挙げられ、コア及び第一クラッド層は石英ガラスを主成分とし、被覆層は硬化性樹脂の硬化物を主成分とするものが挙げられる。被覆層を形成する硬化性樹脂としては、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等が例示でき、・・・」(段落【0015】)

29 甲第29号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第29号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「・・・ダブルクラッド光ファイバは、公知のもので良い。すなわち、コア、第一クラッド層、第二クラッド層及び保護被覆層を有するものであり、例えば、図1に示すものが挙げられ、コア及び第一クラッド層は石英ガラスを主成分とし、被覆層は硬化性樹脂の硬化物を主成分とするものが挙げられる。被覆層を形成する硬化性樹脂としては、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等が例示でき、・・・」(段落【0011】)

30 甲第30号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第30号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「そこで、通常の光ファイバー1は、その製造過程においてクラッド3の周囲に保護コーティング1aを施すことにより光ファイバー心線を構成し、空気中の水分や塵埃に触れることによる傷の発生を防止して、信頼性の向上を図っている。この保護コーティング1aの材料としては、シリコーンゴム等の熱硬化型または紫外線硬化型の樹脂が用いられている。」(段落【0004】)

31 甲第31号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第31号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「 現在もつとも広く用いられている第1図の被覆光ファイバ1は、コアおよびクラッドからなる石英系光ファイバ2の外周に1次被覆層3および2次被覆層4が形成されたものであり、光ファイバ2の外径が125μmであるとき、1例として1次被覆層3はヤング率0.1Kg/mm^(2) 、外径400μmのンリコーンゴムからなり、・・・」(1頁右下欄9?15行)

イ 「 上記のごとく紡糸された光ファイバ12は紡糸炉11の下位にあるコーティング式の被覆機13内へ導入される。
この被覆機13はそれぞれ出口部にダイスを有する内部コータ14、外部コータ16を備えており、各供給口16、17から液状の高分子材料18、19が加圧供給されるようになっている。
上記高分子材料18、19としては熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂なども考えられるが、望ましくは光硬化性(紫外線硬化性)の樹脂がよく、」(2頁右上欄19行?左下欄9行)

32 甲第32号証
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第32号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「従来の光ファイバの製造装置の一例を図5に示す。同図に示すように、線引き用加熱炉10において光ファイバ用母材11から線引きされた裸ファイバ12は、線径測定装置13および冷却装置14を経て、樹脂ダイス15と硬化炉16とを有する第1の樹脂塗布手段17及び樹脂ダイス18と硬化炉19とを有する第2の樹脂塗布手段20に送られ、2層の樹脂コートが施された樹脂コート光ファイバ21となる。」(段落【0002】)

イ 「・・・図1は本発明の一実施例に係るハーメチックコートファイバの製造装置の概略図である。なお、前述した従来の製造装置と同一の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。」(段落【0010】)

33 甲第33号証について
(1) 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第33号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0023】図1を参照して、実施の形態1に係る光ファイバはコア1と、コア1の外側に設けられたコアの屈折率よりも小さい一定の屈折率を有する内クラッド2と、内クラッド2の外側に設けられ、内クラッド2の屈折率よりも小さい一定の屈折率をもった外クラッド3とを備える。」

イ 「【0026】コア1の外径(d_(core))は90?600μmであることが好ましい。内クラッド2は、コア1への側圧を抑えることにより、側圧による伝送損失増加を低減させ得る材料であることが好ましく、屈折率は1.400?1.490であることが好ましい。このような内クラッド2を構成する材料としては、石英ガラスあるいはヤング率が50kg/mm^(2) 以上であるプラスチック材料が挙げられる。」

ウ 「【0034】外クラッド3は、プラスチック材料よりなる。このプラスチック材料としては、たとえば環状パーフルオロ系樹脂、熱硬化性あるいは光硬化性シリコン樹脂やフッ化(メタ)アクリレート樹脂等が挙げられ、ファイバの生産性の点および加工の容易な圧着カット方式コネクタの適用が可能である点から、光硬化性フッ化(メタ)アクリレート樹脂が好ましい。」
エ 「【0039】図1を参照して、内クラッド1が石英ガラスである本発明に係るプラスチッククラッド光ファイバの場合は、まず、内付けおよび外付けCVD法やVAD法等により、内クラッド2およびコア1となる石英ガラスロッドを、内クラッド部とコア部を一括して製造する。あるいは、コア部を外付けCVD法やVAD法等で形成した後、コア部とは別に形成した中空状内クラッド部の内部に収容して、内クラッド部をコラプスし、2段階で製造する。」

オ 「【0041】次に、得られた石英ガラスロッドを線引炉で加熱して引き伸ばし、径90?600μmのコア1と内クラッド2からなる外径91?650μmのガラスファイバを形成する。そして、このガラスファイバに、外クラッドとなる、熱重合開始剤または光重合開始剤およびカップリング剤を加えたシリコン樹脂またはフッ化(メタ)アクリレート樹脂、または溶剤に溶かした環状パーフルオロ系樹脂をダイスによりコーティングした後、加熱あるいは紫外線を照射し、硬化あるいは溶剤を揮発させ、外クラッド3を形成し、外径100?700μmのプラスチッククラッド光ファイバを得る。」

カ 図1は、次のものである。


(2) 以上の記載によれば、甲第33号証には、次の発明(以下、「甲33発明」という。)が記載されている。

「内クラッド2を構成する材料は、石英ガラスであり、
コア1と、前記コア1の外側に設けられた前記コアの屈折率よりも小さい一定の屈折率を有する前記内クラッド2と、前記内クラッド2の外側に設けられ、前記内クラッド2の屈折率よりも小さい一定の屈折率をもった前記外クラッド3とを備えた光ファイバにおいて、
内付けおよび外付けCVD法やVAD法等により、内クラッド2およびコア1となる石英ガラスロッドを、内クラッド部とコア部を一括して製造する工程と、
前記石英ガラスロッドを線引炉で加熱して引き伸ばし、径90?600μmの前記コア1と前記内クラッド2からなる外径91?650μmのガラスファイバを形成する工程と、
前記ガラスファイバに、前記外クラッド3となる、熱重合開始剤または光重合開始剤およびカップリング剤を加えたシリコン樹脂またはフッ化(メタ)アクリレート樹脂、または溶剤に溶かした環状パーフルオロ系樹脂をダイスによりコーティングした後、加熱あるいは紫外線を照射し、硬化あるいは溶剤を揮発させ、前記外クラッド3を形成する工程を有する、
プラスチッククラッド光ファイバの製造方法。」

第5 異議申立理由についての当合議体の判断
1 申立理由1について
(1) 本件特許発明1について
ア 対比・一致点・相違点
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「光ファイバ用母材」は、石英からなる光ファイバはガラス製であるという技術常識からみて、本件発明1の「ガラス製のプリフォーム」に相当する。

そして、甲1発明の「出発石英管の内部に、アルミニウム、ゲルマニウム、フッ素等の適切なドーパント、希土類元素を適宜添加した石英を堆積させ光ファイバ用母材を製造する工程と、
前記光ファイバ用母材が加熱線引きされ、前記コア部11が前記第1クラッド部13により被覆された光ファイバ10の半製品が得られる工程」、及び、
「前記コア部11の材料として、石英(SiO2)に、信号光を増幅するための希土類元素(ネオジウム:Nd、エルビウム:Er等)が添加されており、
第1クラッド部13の材料として、石英にフッ素(F)が添加されており、
前記コア部11の屈折率は、前記第1クラッド部13の前記コア部11側の屈折率よりも高くなって」いる構成は、
「光ファイバ用母材」を「加熱線引き」により「コア部11が前記第1クラッド部13により被覆された光ファイバ10n半製品」が形成され、第1クラッド部13は、石英製であり、かつ、コア部11より屈折率が低いものであり、コア部には希土類元素が添加されているから、
本件発明1の「ガラス製のプリフォームを線引きして希土類元素が添加されたコア及びそれを被覆し該コアより屈折率が低い石英製の第1クラッドを形成するコア及び第1クラッド形成工程」に相当する。

(イ) 本件発明1の「上記コア及び第1クラッド形成工程で形成した上記第1クラッドの表面に、加圧ダイスを用いて液状の第2クラッド材料を加圧して付着させて加熱することにより熱硬化させて該第1クラッドより屈折率が低い第2クラッドを形成する第2クラッド形成工程」と、
甲1発明の「前記光ファイバ10の半製品を前記第2クラッド部14となる光硬化型樹脂が入ったコーティングダイスに通し、紫外線を照射し、光硬化型樹脂が硬化して、第1クラッド部13を被覆した第2クラッド部14が形成される工程」、及び、「前記第2クラッド14の屈折率は、前記第1クラッド部13の前記第2クラッド14側の屈折率よりも、大幅に低くされている」構成を対比する。

甲1発明の「前記光ファイバ10の半製品を前記第2クラッド部14となる光硬化型樹脂が入ったコーティングダイスに通し、紫外線を照射し、光硬化型樹脂が硬化」することは、ダイスに入れる光硬化型樹脂が液状のものであることが技術常識であり、「光ファイバ10の半製品」に付着、すなわち、第1クラッド部13の表面に付着させて光硬化させるものであるから、
両者は、「上記コア及び第1クラッド形成工程で形成した上記第1クラッドの表面に、ダイスを用いて液状の第2クラッド材料を付着させ、硬化させて該第1クラッドより屈折率が低い第2クラッドを形成する第2クラッド形成工程」という点で一致する。

(ウ) 甲1発明の「光ファイバの製造方法」は、光ファイバが、第1クラッド部13及び第2クラッド部14を有するものであるから、本件発明1の「ダブルクラッド光ファイバの製造方法」に相当する。

したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、

(一致点)
「ガラス製のプリフォームを線引きして希土類元素が添加されたコア及びそれを被覆し該コアより屈折率が低い石英製の第1クラッドを形成するコア及び第1クラッド形成工程と、
上記コア及び第1クラッド形成工程で形成した上記第1クラッドの表面に、ダイスを用いて液状の第2クラッド材料を付着させ、硬化させて該第1クラッドより屈折率が低い第2クラッドを形成する第2クラッド形成工程と、
を備えたダブルクラッド光ファイバの製造方法。」であって、次の点で相違する。

(相違点1)
第2クラッド形成工程が、本件特許発明1では、「加圧ダイスを用いて液状の第2クラッド材料を加圧して付着させ」るものであるのに対し、甲1発明では、「光硬化型樹脂が入ったコーティングダイスに通」すものであり、ダイスが加圧ダイスと限定されていない点。

(相違点2)
第2クラッド形成工程が、本件特許発明1では、「加熱することにより熱硬化させ」るものであるのに対し、甲1発明では、「紫外線を照射し、光硬化型樹脂が硬化」するものである点。

(相違点3)
第2クラッド材料が、本件特許発明1では、「ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマー」であるのに対し、甲1発明では、「光硬化型樹脂」である点。

イ 相違点についての検討

上記相違点2、3について検討する。

本件特許発明1は、段落【0006】?【0011】の記載からみて、「ファイバレーザ或いはファイバアンプに用いられるダブルクラッド光ファイバでは、コアに希土類元素が添加されているため、それが線引時などに照射される紫外線光によって反応し、紫外線波長領域及びそれに近い波長1μmや1.5μmなどの励起光、或いは、信号光の波長領域でコアの伝送損失が増大して伝送特性が悪化する現象、すなわち紫外線劣化が生じ易いコアとなっている。」ため、「コアの紫外線劣化を生じ難くして伝送特性の優れたダブルクラッド光ファイバを得ること」を課題とし、「第2クラッドが紫外線硬化性樹脂でなく、熱硬化性樹脂により形成」することにより、「線引時に紫外線劣化を生じ難く、その結果、伝送特性の優れたダブルクラッド光ファイバを得ることができる。」ため、前記課題を解決するものである。

甲第2号証?甲第4号証には、光ファイバの技術分野において、加圧ダイスを用いてクラッド材料を付着させて光ファイバのクラッドを形成する技術が記載されている。

甲第5号証?甲第20号証、及び、甲第31号証には、光ファイバの技術分野において、加圧ダイスを用いてオーバーコート層のような被覆層を形成する技術が記載されている。

甲第21号証?甲第23号証には、光ファイバの技術分野において、クラッド材として、ヒドロシル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含むことが記載されている。

甲第24号証?甲第30号証には、光ファイバを被覆する樹脂被覆層として熱硬化性樹脂を用いる技術が記載されている。

甲第32号証には、光ファイバのオーバーコートを形成する際に、安定した高品質を得るために、2段の硬化炉を設ける技術が記載されている。

しかしながら、光ファイバのクラッド材または被覆材として、熱硬化性樹脂を用いることは、甲第5号証?甲第20号証、甲第24?甲第31号証に記載されているものの、各甲号証に、光ファイバにおいて、「コアに希土類元素が添加されている場合に、線引時などに照射される紫外線光によって反応」することにより、「紫外線劣化が生じやすいコア」となる旨の課題、及び、それを解決するために、紫外線光による反応を用いない「熱硬化樹脂」である「ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマー」を用いて(第2)クラッドを形成する技術について記載されておらず、示唆されているともいえない。

同様に、甲2?4号証、甲21号証?甲23号証、及び、甲第32号証にも、上記課題及び上記技術が記載されておらず、示唆されているともいえない。

したがって、甲第1号証?甲第32号証に記載された技術に、甲1発明の第2クラッド部14の材料に、熱硬化性樹脂を適用する動機があるとはいえない。

ウ 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記相違点2、3に関し、「甲第21号証には、光ファイバのNAを高くするために、クラッド材として、ヒドロシル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含む熱硬化性樹脂を用いることが記載されている。・・・(略)・・・本件特許発明が属する技術分野が属する技術分野において、クラッド材として「ヒドロシル化反応により架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含む熱硬化性樹脂」を用いることは周知の技術である(以下、。単に「第3の周知技術」と称する)。
・・・(略)・・・
よって、甲1発明において、光ファイバのNAを高くするために、第2クラッド部14を構成する材料として、低屈折率のポリマー樹脂から、周知の「ヒドロシル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマー」を選択することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、このような選択をした場合には、第2クラッド部14を形成する工程において第2クラッド部14を構成する材料を「熱硬化」させることは必然的に行われることである。」と主張している。

しかしながら、上記で検討したとおり、甲第2号証?甲第32号証に、光ファイバにおいて、「コアに希土類元素が添加されている場合に、線引時などに照射される紫外線光によって反応」することにより、「紫外線劣化が生じやすいコア」となる旨の課題、及び、それを解決するために、紫外線光による反応を用いない「熱硬化樹脂」である「ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマー」を用いて(第2)クラッドを形成する技術について記載されていない以上、甲1発明の光ファイバの第2クラッド部14に、「ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマー」を採用する動機があるとはいえない。
よって、上記主張は採用できない。

エ まとめ
相違点1について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲第2号証?甲第32号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(2) 本件特許発明2?本件特許発明5について
本件特許発明2?本件特許発明5は、本件特許発明1を限定した発明である。
そして、上記(1)で記載したとおり、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第32号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えた本件特許発明2?本件特許発明5についても、甲第1号証?甲第32号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは明らかである。

2 申立理由2について
(1) 本件特許発明1について
ア 対比・一致点・相違点
本件特許発明1と甲33発明とを対比する。
(ア) 甲33発明の「石英ガラスロッド」は、線引炉で加熱されて引き伸ばされるものであり、石英からなる光ファイバはガラス製であるという技術常識からみて、本件特許発明1の「ガラス製のプリフォーム」に相当する。

(イ) 本件特許発明1の「ガラス製のプリフォームを線引きして希土類元素が添加されたコア及びそれを被覆し該コアより屈折率が低い石英製の第1クラッドを形成するコア及び第1クラッド形成工程」と、
甲33発明の「前記石英ガラスロッドを線引炉で加熱して引き伸ばし、径90?600μmの前記コア1と前記内クラッド2からなる外径91?650μmのガラスファイバを形成する工程」、「内クラッド2を構成する材料は、石英ガラスであ」る構成、及び、「コア1と、前記コア1の外側に設けられた前記コアの屈折率よりも小さい一定の屈折率を有する前記内クラッド2」とを対比すると、
両者は、「ガラス製のプリフォームを線引きしてコア及びそれを被覆し該コアより屈折率が低い石英製の第1クラッドを形成するコア及び第1クラッド形成工程」である点で一致する。

(ウ) 本件特許発明1の「上記コア及び第1クラッド形成工程で形成した上記第1クラッドの表面に、加圧ダイスを用いて液状の第2クラッド材料を加圧して付着させて加熱することにより熱硬化させて該第1クラッドより屈折率が低い第2クラッドを形成する第2クラッド形成工程」と、
甲33発明の「前記ガラスファイバに、前記外クラッドとなる、熱重合開始剤または光重合開始剤およびカップリング剤を加えたシリコン樹脂またはフッ化(メタ)アクリレート樹脂、または溶剤に溶かした環状パーフルオロ系樹脂をダイスによりコーティングした後、加熱あるいは紫外線を照射し、硬化あるいは溶剤を揮発させ、外クラッド3を形成する工程」、及び、「前記内クラッド2の屈折率よりも小さい一定の屈折率をもった前記外クラッド3」とを対比する。

甲33発明の「前記ガラスファイバに、前記外クラッドとなる、熱重合開始剤または光重合開始剤およびカップリング剤を加えたシリコン樹脂またはフッ化(メタ)アクリレート樹脂、または溶剤に溶かした環状パーフルオロ系樹脂をダイスによりコーティング」することは、外クラッドの材料をコーティングすることからみて、液状の材料であることが技術常識であり、コーティングすることによりクラッドの材料をガラスファイバに付着させているから、
両者は、「上記コア及び第1クラッド形成工程で形成した上記第1クラッドの表面に、ダイスを用いて液状の第2クラッド材料を付着させて加熱することにより熱硬化させて該第1クラッドより屈折率が低い第2クラッドを形成する第2クラッド形成工程」である点で一致する。

(エ) 甲33発明の「プラスチッククラッド光ファイバの製造方法」は、光ファイバが、内クラッド2及び外クラッド3を有するものであるから、本件特許発明1の「ダブルクラッド光ファイバの製造方法」に相当する。

したがって、本件特許発明1と甲33発明とは、

(一致点)
「ガラス製のプリフォームを線引きしてコア及びそれを被覆し該コアより屈折率が低い石英製の第1クラッドを形成するコア及び第1クラッド形成工程と、
上記コア及び第1クラッド形成工程で形成した上記第1クラッドの表面に、加圧ダイスを用いて液状の第2クラッド材料を付着させて加熱することにより熱硬化させて該第1クラッドより屈折率が低い第2クラッドを形成する第2クラッド形成工程と、
を備えたダブルクラッド光ファイバの製造方法」であって、次の点で相違する。

(相違点1)
コアが、本件特許発明1では、「希土類元素が添加された」ものであるのに対し、甲33発明ではそのような限定がない点。

(相違点2)
第2クラッド形成工程が、本件特許発明1では、「加圧ダイスを用いて液状の第2クラッド材料を加圧して付着させ」るものであるのに対し、甲1発明では、「ダイスによりコーティング」するものであり、ダイスが加圧ダイスと限定されていない点。

(相違点3)
第2クラッド材料が、本件特許発明1では、「ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマー」であるのに対し、甲1発明では、「熱重合開始剤およびカップリング剤を加えたシリコン樹脂またはフッ化(メタ)アクリレート樹脂、または溶剤に溶かした環状パーフルオロ系樹脂」である点。

イ 相違点についての検討

上記相違点1、3について検討する。

本件発明1は、段落【0006】?【0011】の記載からみて、「ファイバレーザ或いはファイバアンプに用いられるダブルクラッド光ファイバでは、コアに希土類元素が添加されているため、それが線引時などに照射される紫外線光によって反応し、紫外線波長領域及びそれに近い波長1μmや1.5μmなどの励起光、或いは、信号光の波長領域でコアの伝送損失が増大して伝送特性が悪化する現象、すなわち紫外線劣化が生じ易いコアとなっている。」ため、「コアの紫外線劣化を生じ難くして伝送特性の優れたダブルクラッド光ファイバを得ること」を課題とし、「第2クラッドが紫外線硬化性樹脂でなく、熱硬化性樹脂により形成」することにより、「線引時に紫外線劣化を生じ難く、その結果、伝送特性の優れたダブルクラッド光ファイバを得ることができる。」ため、前記課題を解決するものである。

一方、甲第1号証、甲第25号証?甲第27号証に記載されているように、増幅用のダブルクラッドファイバにおいて希土類元素をコアに添加することは、周知の技術である。

しかしながら、甲第1号証、甲第25号証?甲第27号証には、コアに希土類元素が添加された光ファイバについて記載されているものの、上記課題について記載されておらず、示唆されているともいえない。

そして、上記1(1)で検討したとおり、甲2号証?甲32号証には、光ファイバのコアに希土類元素が添加されている旨の記載がなく、光ファイバにおいて、「コアに希土類元素が添加されている場合に、線引時などに照射される紫外線光によって反応」することにより、「紫外線劣化が生じやすいコア」となる旨の課題、及び、それを解決するために、紫外線光による反応を用いない「熱硬化樹脂」である「ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマー」を用いて(第2)クラッドを形成する技術について記載されておらず、示唆されているともいえない。

したがって、甲第1号証?甲第32号証に記載された技術に、甲33発明のコアに対して、希土類元素を添加する動機があるとはいえない。

ウ 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は特許異議申立書において、上記相違点1、3に関して、「増幅用のダブルクラッドファイバでは希土類をコアに添加することは一般的に行われている。したがって、本件特許発明が属する技術分野において、ダブルクラッドファイバのコアに希土類を添加すること周知技術であり(以下、単に「第6の周知技術」と称する)、甲33発明において、コア1に希土類を添加することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。」旨主張している。

しかしながら、上記で検討したとおり、甲第2号証?甲第32号証に、光ファイバにおいて、「コアに希土類元素が添加されている場合に、線引時などに照射される紫外線光によって反応」することにより、「紫外線劣化が生じやすいコア」となる旨の課題、及び、それを解決するために、紫外線光による反応を用いない「熱硬化樹脂」である「ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマー」を用いて(第2)クラッドを形成する技術について記載されていないため、上記課題を解決するために、希土類元素を添加したコアと、第2クラッドの材料を熱硬化性樹脂とする光ファイバを構成することを各甲号証に記載された技術から導き出すことはできるとはいえない。

よって、上記主張は採用できない。

エ まとめ
相違点2について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲33発明及び甲第2号証?甲第32号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(2) 本件特許発明2?本件特許発明5について
本件特許発明2?本件特許発明5は、本件特許発明1を限定した発明である。
そして、上記(1)で記載したとおり、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第33号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えた本件特許発明2?本件特許発明5についても、甲第1号証?甲第33号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは明らかである。

3 申立理由3
(1) 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、
「本件特許発明1では、『上記第2クラッド材料は、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマーである』と規定されている。そして、この記載より、本件特許発明1においては、第2クラッド材料として、『パーフルオロエーテルポリマー』を用いるものであり、この『パーフルオロエーテルポリマー』は、ヒドロシル化反応によって架橋するものと認められる。
ここで、『パーフルオロポリマー』とは、通常は、実質的にフッ素原子と炭素原子と酸素原子とからなるポリマーであると認められ、甲第34号証(特表2001-519373号公報)の請求項11、請求項12に記載された下記化学構造を有するものが一般的に知られている。
「前記パーフルオロエーテルポリマーは

(式中、nは4?15の数平均値を有する)であることを特徴とする請求項1の組成物。」(甲第34号証の【請求項11】)
「【請求項12】 前記パーフルオロエーテルポリマーは、

(v+wの合計は4?20の数平均値を有する)であることを特徴とする請求項1の組成物。」(甲第34号証の【請求項12】)

また、ヒドロシリル化反応は、『炭素-炭素二重結合(C=C二重結合)』と、『水素原子と結合しているケイ素原子からなる基(SiH基)』との間で起こる反応であり、その反応式は、甲第35号証(特開2009-185120号公報)の段落【0038】、【0039】に記載されているとおりである。
「・・・本発明では、特に、下記の反応式(1)で示されるように、C=C二重結合を形成している2個の炭素原子が、SiH基の付加を受け、それぞれ、水素原子およびケイ素原子と結合を形成するヒドロシリル化反応を行う反応性を意味するものとする。」(甲第35号証の段落【0038】)
「反応式(1):

」(甲第35号証の段落【0039】)

このように、ヒドロシリル化反応が起こるためには、少なくとも『炭素-炭素二重結合(C=C二重結合)』と、『水素原子と結合しているケイ素原子からなる基(SiH基)』とが必要とされるものである。一方で、上述したように、本件特許発明1で規定されている『パーフルオロエーテルポリマー』は、実質的に、フッ素原子と炭素原子と酸素原子とからなるポリマーであり、『水素原子と結合しているケイ素原子からなる基(SiH基)』を通常は有しないものである。
そして、これに対し、本件特許発明1においては、『ヒドロシル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマー』が、ヒドロシル化反応を起こすものが考えられるが、この本件特許発明1の記載からは、『パーフルオロエーテルポリマー』の備えるいかなる化学構造により、ヒドロシル化反応が起こるのか全く不明である。『パーフルオロエーテルポリマー』は、ヒドロシル化に関与する『水素原子と結合しているケイ素原子からなる基(SiH基)』を通常有しないからである。
したがって、本件特許発明1に係る記載は、その内容が不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に違反するものである。
また、本件特許発明2?5についても、本件特許発明1を引用するものであるため、その記載内容が不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に違反するものである。」

(2) 判断
甲第34号証の段落【0016】に「 本発明のポリパーフルオロエーテルは、duPontによって提供される、例えば、FLUORTRESS(登録商標)などのパーフルオリネート化したイソプロピルエーテルポリマー、及びこれらのオイルであり、式、
【化5】

を有するもの(但し、nは、4?15の数平均である)、及びMontefluids によって提供されるFOMBLIN(登録商標)などのパーフルオリネート化メチルイソプロピルポリオキシメチルエーテルポリマーであって、式
【化6】

を有するものである(但し、v+wの合計は、4?20の数平均が好ましい)。」と記載されている。
この記載では、「パーフルオロエーテルポリマー」は、上記2つの「式」の他の化学構造を含むものが記載されている。
そのため、特許異議申立人が主張するような「実質的に、フッ素原子と炭素原子と酸素原子とからなるポリマーであり、『水素原子と結合しているケイ素原子からなる基(SiH基)』を通常は有しないもの」と、断定することはできず、フッ素原子と炭素原子と酸素原子以外の原子を含むことを排除するものではないといえる。
そのため、本件特許発明1に記載された「ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマー」とは、各種の化学構造が存在する「パーフルオロエーテルポリマー」において、「ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化する」条件を満たす構造のものと理解することができ、「ヒドロシリル化反応」とは、本件特許明細書の段落【0050】?【0051】に、
「【0050】
第2クラッド材料は、熱硬化性樹脂であって、C=C二重結合及びSiHのヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマーを含み、C=C二重結合とSiHとを1:1の割合で含むことが好ましい。
【0051】
第2クラッド材料は単一成分で構成されていてもよい。単一成分の第2クラッド材料は、分子内に少なくとも1つのC=C二重結合及び少なくとも1つのSiHを有するパーフルオロエーテルポリマーで構成され、加熱されると、分子間でC=C二重結合とSiHとがヒドロシリル化反応して架橋する。 」や甲第35号証の段落【0038】?【0039】の記載からみて、パーフルオロエーテルポリマーが、ヒドロシリル化反応に必要な、C=C二重結合とSiHとを有するものであることが特定できるため、当該記載に不明確な点があるとはいえない。

したがって、本件特許発明1に係る記載は、その内容が不明確とはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に違反するものでない。
また、本件特許発明2?5についても、本件特許発明1を引用するものであるため、その記載内容が不明確とはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に違反するものでない。

第6 むすび
上記のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-01 
出願番号 特願2012-150368(P2012-150368)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01S)
P 1 651・ 537- Y (H01S)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 居島 一仁
恩田 春香
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6139070号(P6139070)
権利者 三菱電線工業株式会社
発明の名称 ダブルクラッド光ファイバの製造方法、及びダブルクラッド光ファイバ心線の製造方法  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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