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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1338565
審判番号 無効2017-800040  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-03-24 
確定日 2018-03-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第4912492号発明「二酸化炭素含有粘性組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4912492号に係る出願(特願2010-199412号)は、平成10年10月5日(優先権主張 平成9年11月7日)を国際出願日とする特願2000-520135号の一部を平成22年9月6日に新たな特許出願としたものであって、平成24年1月27日に特許権の設定登録がされたものである。
これに対し、請求人から、本件特許の無効審判が請求され、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成29年 3月24日 審判請求書
平成29年 3月30日 上申書(請求人)
平成29年 6月15日 審判事件答弁書
平成29年 7月13日付け 併合審理通知書
平成29年 7月28日付け 審理事項通知書
平成29年 8月 2日 上申書(請求人)
平成29年 9月21日 口頭審理陳述要領書、上申書(被請求人)(以下、「上申書1」という。)
平成29年 9月22日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成28年10月 5日 上申書(請求人)
平成28年10月 5日 口頭審理
平成29年10月19日 上申書(請求人)(以下、「上申書2」という。)
平成29年10月19日 上申書(被請求人)(以下、「上申書3」という。)
平成29年12月 8日付け 併合分離通知書

第2 本件発明
本件特許第4912492号の請求項1?5、7に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?5、7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、
1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;
2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、炭酸塩を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;又は
3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;
からなり、
含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする、
含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。
【請求項2】
得られる二酸化炭素含有粘性組成物が、二酸化炭素を5?90容量%含有するものである、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
含水粘性組成物が、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき、2時間後において50以上の容量を保持できるものである、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである、請求項1?3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである、請求項1?4のいずれかに記載のキット。
【請求項7】
請求項1?5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む化粧料。」

第3 請求人の主張及び請求人が提出した証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第4912492号の請求項1?5および7に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」(請求の趣旨)として、証拠方法として後記2の甲第1?15の2号証(枝番を含む。以下、「甲1」等という。)及び参考資料1?4を提出し、無効とすべき理由を次のように主張している。

(1)無効理由は、本件特許の請求項1?5及び7に係る発明は、本件特許の出願日(優先日)前に公開された甲1に記載された発明、甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 証拠方法
甲1:特開昭63-310807号公報(昭和63年12月19日公開)
甲2:特開平6-179614号公報(平成6年6月28日公開)
甲3:米国特許第3,164,523号明細書及びその抄訳
甲4:特開昭60-215606号公報
甲5:特開平4-217609号公報
甲6:日本化粧品技術者会編、「最新化粧品科学-改訂増補II-」、株式会社薬事日報社、平成4年7月10日、p.58?61
甲7:請求人代表取締役である田中雅也が平成29年3月23日付けで作成した「実験報告書 検証実験10:発泡・気泡の保持試験」
<以上、審判請求書に添付>

甲8の1:平成27年(ワ)第4292号特許権侵害差止等請求事件(以下、本件関連侵害訴訟」という。)の平成27年12月10日付け被告(請求人)準備書面(2)
甲8の2:本件関連侵害訴訟で乙A第4号証として提出された被告「実験報告書 検証実験4」
甲8の3:本件関連侵害訴訟で乙A第2号証として提出された被告「実験報告書 検証実験2」
甲8の4:本件関連侵害訴訟で甲第34号証として提出された原告(本件特許の特許権者)「実験成績証明書(3)」
甲9:特開昭59-141512号公報
甲10の1:特開平7-173065号公報
甲10の2:特開平8-53357号公報
甲10の3:特開平8-92105号公報
甲11の1:特開昭63年-190820号公報
甲11の2:特開昭58-105910号公報
甲11の3:特公平7-47532号公報
甲12:特開昭60-215606号公報
甲13の1:特開平5-255046号公報
甲13の2:特公平5-34326号公報
甲13の3:特公平5-34324号公報
甲14:請求人代表取締役である田中雅也が平成29年9月14日付けで作成した「実験報告書(2)」
甲15の1:本件特許の出願審査過程において出願人(本件特許の特許権者)が平成23年10月27日に提出した手続補正書(方式)
甲15の2:本件特許の出願審査過程において出願人(本件特許の特許権者)が平成23年10月27日に提出した物件提出書(実験成績証明書)
<以上、口頭審理陳述要領書に添付>

参考資料1:口頭審理プレゼン資料
参考資料2:別冊フードケミカル-8、平成8年3月20日、p.82?91
参考資料3:請求人代表取締役である田中雅也が平成29年9月14日付けで作成した「実験報告書(3)」
参考資料4:請求人代表取締役である田中雅也が平成29年10月18日付けで作成した「実験報告書(4)」
<以上、上申書2に添付>

第4 被請求人の主張及び被請求人が提出した証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」(答弁の趣旨)として、証拠方法として後記2の乙第1?14号証(以下、「乙1」等という。)を提出し、次のように主張している。
本件特許発明1の構成は、甲1及び甲2から容易に想到し得るものではなく、本件特許発明1の効果についても、これらの甲号証から予想できるものではない。したがって、本件特許発明1は、甲1及び甲2に対する進歩性を有している。
本件特許発明1に従属又は利用する発明である本件特許発明2?5及び7についても、本件特許発明1の場合と同様の理由から、甲1及び甲2に対する進歩性を有している。

2 証拠方法
乙1:無効2013-800042の審決
乙2:無効2013-800106の審決
乙3:大阪地方裁判所平成23年(ワ)第4836号の判決
乙4:知的財産高等裁判所平成25年(ネ)第10016号の判決
乙5:田中雅也、”二酸化炭素経皮吸収剤「エコツージェル」-炭酸ガス療法の夜明け-”、BIO INDUSTRY、2006年、第23巻、第10号、p.74?83
乙6:DSP五協フード&ケミカルズ株式会社のウェブサイトの画面印刷(印刷日:平成29年6月13日)
(http://www.tatourui.com/usage/)
<以上、答弁書に添付>

乙7:特開昭61-136534号公報
乙8:特開平1-165515号公報
乙9:日本食品工業学会誌、1964年12月、第11巻、第12号、p.540?543
乙10:ウィキペディア「炭酸水素ナトリウム」のウェブサイトの印刷物(印刷日:平成29年9月20日)
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%82%AD%E9%85%B8%E6%B0%B4%E7%B4%A0%E3%83%8A%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0)
乙11:医学博士 日置正人が平成29年9月1日付けで作成した実験報告書
<以上、口頭審理陳述要領書に添付>

乙12:医学博士 日置正人が平成28年2月17日付けで作成した実験成績証明書(3)
<以上、上申書1に添付>

乙13:国際公開2014/192807号(再公表特許WO2014/192807)
乙14:口頭審理期日における被請求人の配付資料
<以上、上申書3に添付>

第5 主な甲号証及び参考資料の記載事項
1 本件特許の出願日(遡及日:平成10年10月5日(優先日:平成9年11月7日))前の昭和63年12月19日に頒布された刊行物である甲1には、次の事項が記載されている。

(甲1a)1頁左下欄12?15行
「本発明は、炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させる、ガス保留性、経日安定性、官能特性及び皮膚安全性に優れた発泡性化粧料に関する。」

(甲1b)1頁右下欄6?13行
「後記特定組成の発泡性化粧料は、2剤型である為経日安定性に優れ、炭酸塩と水溶性高分子をポリエチレングリコールで被覆してなる第2剤と酸性物質である第1剤を用時混合する際に、炭酸ガスの泡が徐々に発生すると共に水溶性高分子及び/又は粘土鉱物の粘性によって安定な泡を生成し、炭酸ガスの保留性が高まる事を見出し、本発明を完成するに至った。」

(甲1c)3頁左上欄1?8行
「本発明に使用する常温で固型のポリエチレングリコールは分子量1000以上のもので通常分子量1000?10,000、好ましくは2000?6000のものが適用される。
第2剤中に占めるポリエチレングリコールは、5.0?50.0wt%である。5.0wt%より少ないと反応が早すぎる為、泡のもちが十分でなく、50.0wt%を超すと泡の発生が遅すぎる。」

(甲1d)3頁右上欄3?5行
「発泡性化粧料を使用するには、第1剤を容器に入れ、第2剤を加え、数十秒間撹拌した後適宜使用する。」

(甲1e)3頁左下欄8?16行
「(2) 経日安定性試験
1剤、2剤の試料を各々密封しない状態で45℃1ケ月間保存した後、再度発泡性試験を行なう。
45℃1ケ月後の発泡性/試作直後の発泡性|経日安定性
----------------------------
0.9以上 | ◎
0.8?0.9 | ○
0.7?0.8 | △
0.7未満 | × 」

(甲1f)3頁右下欄7?13行
「(3) 官能特性及び皮フ安全性試験
試料を20名の女性被検者が評価し、(イ)泡の外観(キメ) (ロ)べたつき感 (ハ)粘性 (ニ)皮フ安全性に関して評価した。試験結果は各項に対して(イ)泡の外観(キメ)が良い (ロ)べたつき感が少ない(ハ)粘性が丁度良い (ニ)皮フ刺激を感じる、と回答した被検者の人数で示した。」

(甲1g)3頁右下欄14行?5頁左下欄
「実施例1?11
〔発泡性エッセンス〕
第1表の組成の如く、発泡性エッセンスを調製し、前記の諸試験を実施した。
〔調製方法〕
<第1剤>
水にクエン酸を加えて撹拌し、均一に混和する。尚、クエン酸が溶け難い場合は適宜加熱する。
<第2剤>
約80℃にて、ポリエチレングリコール(分子量4000)を溶解し、熱時、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムを加え、均一に混合した後室温まで冷却し、ポリエチレングリコールで被覆した粉末とした。
〔特性〕
第1表に示す如く、本発明の発泡性エッセンスは、発泡性、ガス保留性、経日安定性に優れ、また、官能特性等諸試験の総てに優れており、本発明の効果は、明らかであった。

比較例1?3
〔発泡性エッセンス〕
第2表の組成の如く発泡性エッセンスを調製し、前記諸試験を実施し、その特性を下段に示した。
〔調製方法〕
<第1剤>
(比較例1?3)
水にクエン酸を加えて撹拌し、均一に混合溶解する。尚、クエン酸が溶け難い場合は、適宜加温する。
<第2剤>
(比較例1)
常温でポリエチレングリコール(分子量4000)、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムを均一に混和し、粉末とした。
(比較例2)
常温で炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムを均一に混和し粉末とした。
(比較例3)
約80℃にてポリエチレングリコール(分子量4000)を溶解し、熱時、炭酸水素ナトリウムを加え、均一に混合した後、室温まで冷却し、粉末とした。
〔特性〕
第2表に示す如く、第2剤調製時、炭酸水素ナトリウム及びアルギン酸ナトリウムをポリエチレングリコールで被覆することなく単に混和しただけの比較例1は、実施例2に比べ発泡性はまずまずであったがガス保留性に著しく劣り、経日安定性にも劣った。
ポリエチレングリコールを用いなかった比較例2も同様の特性を示した。
第2剤に水溶性高分子を配合しなかった比較例3は、発泡性、経日安定性は良好であったがガス保留性に著しく劣り、泡の外観(キメ)も悪く粘度も不足していた。



(甲1h)5頁右下欄1行?6頁左上欄10行
「比較例4?10
〔1剤式発泡エッセンス〕
第3表の組成の如く、用時、水に溶解して使用する1剤式発泡エッセンスを調製し、用時に10倍量(重量)の水と混合した。前記諸試験を実施し、その特性を下段に示した。
〔調製方法〕
(比較例4、5)
約80℃にてポリエチレングリコール(分子量4000)を溶解し、熱時、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、アルギン酸ナトリウムを加え、均一に混合した後、室温まで冷却し粉末とした。
(比較例6)
約80℃にてポリエチレングリコールを溶解し、熱時、炭酸水素ナトリウム、クエン酸を加え均一に混和した後室温まで冷却し、粉末とした。
(比較例7)
常温にて、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、アルギン酸ナトリウムを均一に混和した後粉末とした。
(比較例8)
常温にて、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、アルギン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール(分子量4000)を均一に混和し、粉末とした。
(比較例9)
約80℃にてポリエチレングリコール(分子量4000)を溶解し、熱時、アルギン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを加え均一に混合した後、室温まで冷却し、クエン酸を加え均一に混和し、粉末とした。」

(甲1i)6頁左上欄11行?下欄
「(比較例10)
(1) 約80℃にてポリエチレングリコール(分子量4000)の一部を溶解し、熱時アルギン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを加え均一に混合した後、室温まで冷却し、粉末とした。
(2) 約80℃にてポリエチレングリコールの残部を溶解し、熱時クエン酸を加えて均一に混合した後、室温まで冷却し粉末とした。
(1)に(2)を加え均一に混和した。
〔特性〕
第3表に示す如く、実施例2より水を除いた組成とほぼ同一な組成である比較例4、8?10は発泡性、ガス保留性試験においては実施例2同様良好であったが、経日安定性に著しく劣った。
配合比率を変えた、比較例5及びアルギン酸ナトリウムをのぞいた比較例6、ポリエチレングリコールを除いた比較例7でも経日安定性の改善にはいたらなかった。」



2 平成6年6月28日に頒布された甲2には、次の事項が記載されている。
(甲2a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はアルギン酸水溶性塩類およびこれと反応しうる二価以上の金属塩類を配合した使用性の良好な反応タイプのパック化粧料に関する。
【0002】
【従来の技術およびその課題】従来からパック化粧料には使用後に洗いおとすタイプおよび剥がすタイプの二つがある。……剥がすタイプの基剤は、ゼリー状またはペースト状であって皮膚に塗布し乾燥させて皮膜を形成させ、その後、手で剥がされるものである。ところで、剥がすタイプに属するものの一つにアルギン酸塩類と該塩類と反応する二価以上の金属塩類とを配合した粉末を使用時に水と混合してペースト状とし、パック化粧料としたものが知られている(特開昭52-10426号公報、特開昭58-39608号公報)。このパック化粧料は、従来のように皮膚上での皮膜形成が、水分の蒸発・乾燥によるものとは異なり、配合物同士の反応によって水分を含んだまま行われるので肌に対する使用感が良く、従来のものより、乾燥時間が早いという特徴がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のアルギン酸塩類を含む粉末状のパック化粧料は、次のような問題点があった。
(1)水を加えてかきまぜる際、ダマになりやすく、顔に塗布する際、均一な膜になりにくい。これは、アルギン酸水溶性塩類が一般に水に溶けにくいためである。
(2)顔に貼付し、その後剥がす際、きれいにはがれず、肌にパック残りが多い。
(3)冷たすぎるため、オールシーズンに対応しにくい。
(4)粉末状なので保湿剤の配合が困難であり、そのため皮膚にしっとり感が付与されにくい。
(5)反応タイプのため、保管時には水分透過の少ない外装とするなど、経時の保管に注意を必要とする。
本発明は、このような従来の課題を解決して、使用性が良好で、かつ経時的に安定な反応タイプのパック化粧料を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本願発明者は、水とまざりにくい原因として、アルギン酸水溶性塩類の溶解性が挙げられることから、アルギン酸塩類についてはあらかじめ水に溶解させてゲル状とさせ、また反応が進行しないように、ゲル状パーツと粉末パーツの2パーツに分けることにより、使用性が良好で、経時で安定なパック化粧料が得られることを見い出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツからなる第一剤と、前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤からなることを特徴とするパック化粧料である。
【0005】本発明のパック化粧料は、洗い落とす面倒のない、剥がすタイプのものでありながら、乾燥時間が短く、しかも皮膚に適度な緊張感があり、剥がすとき肌に残りにくく、とりやすい特色を有するほか、使用性が良好で、経時的にも安定であるという特徴がある。本発明のパック化粧料にあっては、使用直前にゲル状パーツと粉末パーツを混合する。この際、ゲル状パーツに含まれるアルギン酸水溶性塩類(例えばアルギン酸ナトリウム)と、粉末パーツに含まれる二価以上の金属塩(例えば硫酸カルシウム)とが水の存在下で化学式1に示すような硬化反応を起こして皮膚形成能のあるアルギン酸金属塩(例えばアルギン酸カルシウム)となり、この結果、弾力性のある凝固体が与えられる。その時、遅延剤(例えばリン酸三ナトリウム)の働きにより化学式2に示すような遅延反応も同時に起こって上記硬化反応の急激な進行が阻止される。
【0006】
【化1】硬化反応:Na・nAlg+n/2CaSO_(4)→n/2Na_(2)SO_(4)+Ca・n/2Alg」

(甲2b)「【0009】ゲル状パーツにはアルギン酸水溶性塩類のほか、保湿剤を配合することができる。保湿剤としてはダイナマイトグリセリン、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、マビット、ソルビット、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グルコースおよびその誘導体、ムコ多糖等が挙げられる。……」

3 1965年1月5日に頒布された甲3には、次の事項が記載されている。
なお、甲3は英語で記載されているところ、請求人による抄訳はごく一部分に限られており、甲3に記載される内容が十分に把握できないため、当審による訳文により記す。

(甲3a)1欄11?16行
「この発明は、肌への適用が有用な化粧組成物に関し、特に、肌に使用及び適用した際に使用が容易であるのみならず改善された特性を有する肌の処置に適用可能な新しく新規な化粧組成物に関する。」

(甲3b)1欄22?29行
「最近、パウダー形状の水溶性アルギン酸塩とカルシウム塩との組み合わせを含むゲル形成組成物を水に添加することにより、丈夫で弾力のあるゲル形態の美容マスクが得られている。配合物が水と混合された後、形成されたペーストは肌に適用され、短時間で弾性の可塑性ゲル構造に凝固する。」(1欄22?29行)

(甲3c)1欄39?49行
「このような組成物は有効であるが、一定の不利益を被る。ゲル形成組成物が固体微細パウダーの形態であるため、湿気の吸収を防ぐためにシールされた封筒に包装しなければならない。さらにその上、所望のゲル製造のために、封筒の内容物を水と混合しなければならない。水中への均一な分散を容易にするために組成物は極めて細かい粒子サイズのパウダー形状であるにも関わらず、パウダーを滑らかなペーストに変えるためにはとても急速で徹底的な混合が必須であり、多くの用途においてこの操作は不便かつ煩わしい。」(1欄39?49行)

(甲3d)特許請求の範囲、請求項1(6欄14?45行)
「1.水と混合されたとき、低速でコントロールされた速度で、丈夫で弾力のあるのフィルムを形成するために適用される非水性ゲル形成システムであって、次のものを含んでいるもの、
(A)クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸二カルシウムからなる群から選ばれる、部分的に水溶性のカルシウム塩 約1?12重量部;
(B)アルギン酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩からなる群から選ばれるアルギン酸塩 約4?50重量部;及び
(C)以下の群から選ばれる非水性不活性液体ビヒクル 約20?85重量部
(a)エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール及びグリセリン;
(b)ポリオキシエチレングリコール;
(c)ラウリルアルコールエトキシレート;
(d)ポリエチレングリコールラウレート及びポリエチレングリコールパルミテート;
(e)ノニルフェノキシポリオキシエチレン;及び
(f)水分散性液体システムであって以下の混合物を含むもの
(a’)ラウリルアルコールエトキシレート、オレイルアルコールエトキシレート、ラノリン脂肪アルコールエトキシレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレエート及びノニルフェノキシポリオキシエチレンからなる群から選ばれる湿潤剤;
(b’)鉱油;
(c’)ステアリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピルからなる群から選ばれる脂肪酸エステル」

4 甲8の4(乙12)は以下のとおりである。
(甲8-4)




5 甲10の1?甲10の3には次の記載がある。
(甲10-1)「【0004】さらに、アルギン酸ナトリウム粉末粒子は、水を加えると粒子表面のみが溶け、いわゆる「ままこ」状態となり、完全に溶解するには長時間を要するという性質を有するものであるため、速溶性の医療用アルギン酸ナトリウム製剤の開発が強く望まれていた。」

(甲10-2)「【0004】さらに、アルギン酸ナトリウム粉末は、水和力が強いために水を加えると、粉末表面のみが瞬時にゲル状になり、水が内部に浸透しにくく、いわゆる「継粉(ままこ)」状態になり、完全に溶解するには長時間を要するという性質を有するものである。」

(甲10-3)「【0004】さらに、アルギン酸ナトリウム粉末は、水和力が強いために水を加えると、粉末表面のみが瞬時にゲル状になり、水が内部に浸透しにくく、いわゆる「継粉(ままこ)」状態になり、完全に溶解するには長時間を要するという性質を有するものである。」

第6 主な乙号証の記載事項
1 乙6には、次の記載がある。
(乙6)1/3ページ




第7 当審の判断
請求人は、1)、2)又は3)の組合せのうち1)の組合せからなる本件特許発明1?5及び7について、甲1の比較例10に記載された発明、甲2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨の無効理由を主張する。
しかし、当審は、請求人が主張する無効理由には、理由がないと判断する。その理由は、以下のとおりである。

1 本件特許発明1について
以下、本件特許発明1のうち、「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ」からなる場合を「本件発明1)」という。

(1)甲1に記載された発明
請求人は、甲1の比較例10に着目し、そこから甲1に記載された発明が認定される旨主張している(審判請求書16?17頁)ので、請求人のかかる主張に則って、甲1をみると、上記(甲1i)によれば、甲1の比較例10には、次の発明(以下、「甲1比較例10発明」という。)が記載されているといえる。
「以下の組成(重量%)の1剤式発泡エッセンスであって、下記の調製方法で調製し、用時、水に溶解して使用する1剤式発泡エッセンス。
ポリエチレングリコール(分子量4000)13.5
炭酸水素ナトリウム 43.5
クエン酸 33.5
アルギン酸ナトリウム 9.5
(1) 約80℃にてポリエチレングリコール(分子量4000)の一部を溶解し、熱時アルギン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを加え均一に混合した後、室温まで冷却し、粉末とし、
(2) 約80℃にてポリエチレングリコールの残部を溶解し、熱時クエン酸を加えて均一に混合した後、室温まで冷却し粉末とし、
(1)に(2)を加え均一に混和して調製する。」

(2) 本件発明1)と甲1比較例10発明との対比
ア (甲1a)、(甲1g)?(甲1i)によれば、甲1は炭酸ガスの泡を発生させる発泡性化粧料に関する技術文献であり、甲1の実施例、比較例ともに発泡性化粧料として使用することを前提として実施されている。
したがって、甲1比較例10発明も発泡性化粧料として使用するものといえ、その泡の内容が炭酸ガス(二酸化炭素)であることは明らかである。

イ 一般的に「キット」とは、「組立て模型などの部品一式」を意味する(必要であれば、下記の広辞苑参照)ところ、甲1比較例10発明の1剤式発泡エッセンスは、水と一緒に使用することが想定されるものであるから、甲1比較例10発明の1剤式発泡エッセンスと水(例えば容器に入った水)とでキットが構成され、甲1比較例10発明の1剤式発泡エッセンスはキットを構成する部品の一方に相当するといえる。

新村出 編、「広辞苑第三版」、岩波書店、1983年 p.588

してみると、甲1比較例10発明について、見方を変えて、1剤式発泡エッセンスと水からなるキットと表現することもできる。キットを構成する他方が単なる水(例えば容器に入った水)であることからすると、甲1比較例10発明がキットを構成する部品であるか、キットであるかは本質的な違いとはいえない。

ウ そして、甲1の第3表((甲1i))には、比較例10が発泡性、ガス保留性試験において良好であった旨記載され、第3表に示される官能特性試験((甲1f))の評価において、20人中7人は「粘度が丁度よい」と回答した((甲1i))ことから、甲1比較例10発明の1剤式発泡エッセンスを水に溶解した後は、二酸化炭素の泡が発生し、その粘度の丁度よさの程度はさておき、少なくとも粘性のある生成物ができているといえる。

エ 本件明細書【0034】?【0036】の記載によれば、本件発明1)における「炭酸塩」、「酸」には、それぞれ「炭酸水素ナトリウム」、「クエン酸」が包含され、本件明細書の実施例1では、「炭酸水素ナトリウム」及び「クエン酸」が用いられているから、本件発明1)における「炭酸塩」及び「酸」の代表的な物質としてそれぞれ「炭酸水素ナトリウム」及び「クエン酸」が例示されているといえる。
そうすると、甲1比較例10発明の組成として含まれる炭酸水素ナトリウム及びクエン酸は、本件発明1)における「炭酸塩」及び「酸」に該当する。
そして、甲1比較例10発明においても「炭酸水素ナトリウム」と「クエン酸」が反応することにより気泡状の二酸化炭素が発生するものであることは自明である。

オ 甲1比較例10発明は各成分の組成割合(重量%)が特定されているが、本件発明1)は組成割合を特定するものではないので、この点は相違点とはならない。

カ 甲1比較例10発明ではポリエチレングリコール(分子量4000)を必須成分として含むが、本件発明1)では必須成分とされていない。しかしながら、本件明細書【0075】には、酸の顆粒の調製にあたってはマトリックス基剤を用いることが記載されており、そのマトリックス基剤としてポリエチレングリコールが例示されていることから、本件発明1)は、ポリエチレングリコールを成分として含む場合を排除するものではない。
したがって、この点も相違点とはならない。

キ そうすると、本件発明1)と甲1比較例10発明とは、
「化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、
炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。」の発明である点で一致し、
少なくとも、次の点で相違する。

<相違点1>:本件発明1)は「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ」からなり、「含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持することができるものである」のに対して、
甲1比較例10発明は「水に溶解して使用する1剤式発泡エッセンス」であって、「(1) 約80℃にてポリエチレングリコール(分子量4000)の一部を溶解し、熱時アルギン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを加え均一に混合した後、室温まで冷却し、粉末とし、
(2) 約80℃にてポリエチレングリコールの残部を溶解し、熱時クエン酸を加えて均一に混合した後、室温まで冷却し粉末とし、
(1)に(2)を加え均一に混和して調製」したものであり、「含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持することができるものである」とは特定されていない点。

(3) <相違点1>についての判断
ア <相違点1>に係る、甲1比較例10発明の一剤式発泡エッセンスは、その調製方法からして、(1)の工程で形成される、アルギン酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの混合物がポリエチレングリコール(分子量4000)(以下、ポリエチレングリコール(分子量4000)を「PEG」と略記する。)で被覆された粉末(以下、「Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1」という。)と、(2)の工程で形成される、クエン酸がPEGで被覆された粉末(以下、「酸含有PEG被覆粉末2」という。)との均一混合物である。かかる一剤式発泡エッセンスは「用時、水に溶解して使用する」ものであるから、使用時の要素としてみると、”一剤式発泡エッセンス(Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物)と水との組み合わせ”といえる。
一方、本件発明1)は、炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせである(ここで、便宜的に「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物」のことを「Arg・炭酸塩含有含水粘性組成物」、「酸を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤」のことを「酸含有粉末剤等」という。)。
そうすると、<相違点1>を換言すると、本件発明1)が、「Arg・炭酸塩含有含水粘性組成物」と「酸含有粉末剤等」との組み合わせであるのに対して、甲1比較例10発明は、(Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物)と水との組み合わせである点、ということができる。
してみると、剤の組成・性状に関する<相違点1>の検討にあたっては、(Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物)と水との組み合わせを、「Arg・炭酸塩含有含水粘性組成物」と「酸含有粉末剤等」との組み合わせに変更することが容易想到か否かを検討すべきこととなる。

イ そこで、甲1比較例10発明について見ると、「比較例4、8?10は発泡性、ガス保留性試験においては実施例2同様良好であったが、経日安定性に著しく劣った。」((甲1i))との記載から、甲1比較例10発明は経日安定性に問題があることがわかり、これを改善すべき動機付けはあるといえる。
甲1の「後記特定組成の発泡性化粧料は、2剤型である為経日安定性に優れ、」((甲1b))との記載、及び、経日安定性試験((甲1e))の結果が◎又は○である実施例1?11(第1表(甲1g))と比較例3(第2表(甲1g))の組成における共通点からみて、反応する炭酸塩と酸とを2剤に分ければ経日安定性が向上すること、及び、酸側は水溶液とするとともに炭酸塩側はPEG被覆すれば(比較例3のようにアルギン酸ナトリウムが存在せずとも)経日安定性については◎又は○となることもわかる。これら甲1に開示された事項に基づき、甲1比較例10発明の経日安定性を改善しようとした場合、炭酸塩と酸との反応で経日安定性が下がってしまうのであるから、甲1比較例10発明が(Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物)であることを勘案すれば、混合する前の状態、すなわち、(Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物)をArg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1と酸含有PEG被覆粉末2との2剤に分ける、ことまでは、当業者であれば容易に想到するといえる。
しかしながら、(Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物)を2剤に分けた上で、更にその一方である、Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1を「Arg・炭酸塩含有含水粘性組成物」とする、すなわち、Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1だけをあらかじめに水に溶解させることは、甲1には記載も示唆もされていないので、甲1に記載された事項からは導き出せない。

ウ 一方、請求人が甲1比較例10発明に組み合わせるべき技術が記載されていると主張する甲2は、「本発明はアルギン酸水溶性塩類およびこれと反応しうる二価以上の金属塩類を配合した使用性の良好な反応タイプのパック化粧料に関する」((甲2a))文献であり、以下のとおり記載されている。
「剥がすタイプの基剤は、ゼリー状またはペースト状であって皮膚に塗布し乾燥させて皮膜を形成させ、その後、手で剥がされるものである。ところで、剥がすタイプに属するものの一つにアルギン酸塩類と該塩類と反応する二価以上の金属塩類とを配合した粉末を使用時に水と混合してペースト状とし、パック化粧料としたものが知られている。……
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のアルギン酸塩類を含む粉末状のパック化粧料は、次のような問題点があった。
(1)水を加えてかきまぜる際、ダマになりやすく、顔に塗布する際、均一な膜になりにくい。これは、アルギン酸水溶性塩類が一般に水に溶けにくいためである。
……
(5)反応タイプのため、保管時には水分透過の少ない外装とするなど、経時の保管に注意を必要とする。
本発明は、このような従来の課題を解決して、使用性が良好で、かつ経時的に安定な反応タイプのパック化粧料を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本願発明者は、水とまざりにくい原因として、アルギン酸水溶性塩類の溶解性が挙げられることから、アルギン酸塩類についてはあらかじめ水に溶解させてゲル状とさせ、また反応が進行しないように、ゲル状パーツと粉末パーツの2パーツに分けることにより、使用性が良好で、経時で安定なパック化粧料が得られることを見い出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツからなる第一剤と、前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤からなることを特徴とするパック化粧料である。」((甲2a))

上記記載によれば、甲2は、アルギン酸水溶性塩類(具体的にはアルギン酸ナトリウム)と該塩類と反応する二価以上の金属塩類(具体的にはカルシウム塩)とを配合した粉末を使用時に水と混合してペースト状とするにあたり、水を加えてかきまぜる際、ダマになりやすいが、その水と混じりにくい原因はアルギン酸ナトリウムの溶解性が挙げられるとの従来技術の問題点とその原因を開示している。
そして、アルギン酸ナトリウムをあらかじめ水に溶解させてゲル状にしておくとの解決手段も開示している。
しかしながら、甲2の技術は、そもそも二酸化炭素を発生させるものではなく、二酸化炭素の気泡の保持とは無関係のものであって、甲1の技術とは目差すところが全く異なる。
そして、アルギン酸ナトリウムの溶解性には言及するものの、甲2には、(Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物)或いはArg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1というような特定の粉末を水に溶解させる際にダマになり易いことは開示も示唆もされていない。

エ ここで、一般に、ダマとは粉末の水和が早いことにより起こり、粉末の回りを水分子が取り囲んで塊となり、粉末の内部まで水が浸透していかず、粉末が均一に水に分散しない状態をさす(必要であれば、本件の優先日後の文献であるが、乙6の1/3ページ(乙6)参照)から、甲1比較例10発明のArg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1(アルギン酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの混合物がPEGで被覆された粉末)と何も被覆されていないアルギン酸ナトリウム粉末とでは水和のし易さが異なり、そのダマになり易さも同等であるということはできない。

オ なお、甲2の(甲2b)には、「ゲル状パーツにはアルギン酸水溶性塩類のほか、保湿剤を配合することができる。保湿剤としては……ポリエチレングリコール……等が挙げられる。」として、ゲル状パーツにアルギン酸水溶性塩類と共にポリエチレングリコールを配合してもよい旨の記載があるが、保湿剤としてのポリエチレングリコールは液体(低分子量)のものであり、甲1比較例10発明のポリエチレングリコール(分子量4000)のような常温固体のPEGとは分子量が大きく異なるものである。

カ また、甲10の1?甲10の3((甲10-1)?(甲10-3))は何れも、アルギン酸ナトリウム粉末を水に溶解させるにあたり、いわゆる「ままこ」状態になることは記載されているものの、アルギン酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの混合物がPEGで被覆された粉末を水に溶解させる際のダマあるいは「ままこ」発生の問題を開示する文献は見当たらない。

キ そうすると、甲2に開示される事項及び他の甲各号証の記載を参酌しても、Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1を水に溶解させる際にダマになり易いという課題は、当業者といえども認識することはできないものと認められ、甲1比較例10発明において、甲2のあらかじめ水に溶解させておくという技術手段を適用する動機付けが見出せない。

ク 仮に、甲1比較例10発明に甲2の技術を適用したとしても、含水粘性組成物中で二酸化炭素を気泡状で保持することができるものとなるか否かは、甲1及び甲2の記載からは明らかであるとはいえない。

ケ よって、甲1比較例10発明において、(Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物)と水との組み合わせを、「Arg・炭酸塩含有含水粘性組成物」と「酸含有粉末剤等」との組み合わせに変更することを当業者が容易に想到するということはできないから、<相違点1>は容易想到ということはできない。

(4)容易想到性についての請求人の主張
ア 「容易想到性-1」について
(ア)請求人は「容易想到性-1」(口頭審理陳述要領書5頁)として以下のように主張する。
甲1に記載されているに等しい事項から把握される「2剤型」発泡性化粧料キット(本件請求書21頁表B右欄)を出発点"引用発明"(甲1比較例10(引用発明2剤型))とし、甲1比較例10(引用発明2剤型)と甲2に記載の発明とで自明な課題/容易に着想し得る課題1「粉末成分と水とを混合して含水粘性組成物(ペースト)を用時調製することは不便かつ煩わしい」(甲3、審判請求書23?24頁)を"共通の課題"とし、この"課題の共通性"および"技術分野の関連性"に基づいて、甲1比較例10(引用発明2剤型)に採用された解決手段に代えて甲2に記載の事項(2-b:「アルギン酸塩類についてはあらかじめ水に溶解させてゲル状とさせ、また反応が進行しないように、ゲル状パーツと粉末パーツの2パーツに分けることにより、使用性が良好で、経時で安定なパック化粧料が得られる」)を適用し、本件発明1)とすることは容易に想到し得たことである。

(イ)しかしながら、上記(3)イで検討したように、甲1比較例10発明において、(Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物)をArg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1と酸含有PEG被覆粉末2との2剤に分ける(請求人のいう「甲1比較例10(引用発明2剤型)」に相当)ことまでは、当業者であれば容易に想到するといえるとしても、甲1比較例10を2剤に分けることが甲1に記載されていたに等しい事項とはいえないから、これを、甲1に記載されているに等しい"引用発明"とできないことは明らかであり、更には、この"引用発明"を出発点として、甲2に記載の事項を適用することにより本件発明1)が容易に想到し得たものであるといった「容易想到性-1」の論理立ては、その出発点の時点で既に成り立たない。

(ウ)また、請求人が、課題1「粉末成分と水とを混合して含水粘性組成物(ペースト)を用時調製することは不便かつ煩わしい」が自明の課題であることの証拠として提出した甲3は、甲2と同様に、アルギン酸ナトリウムとカルシウム塩との硬化反応を利用する皮膚美化組成物に関する技術文献((甲3a)、(甲3b))であり、請求人による甲3の抄訳の「組成物が水への均一な分散が容易である極めて微細な粒径の粉末形態であっても、該粉末から滑らかなペーストにするのには素早く完全な混合が最も重要であり、多くの用途でこの操作は不便かつ煩わしい。」と記載される従来技術の組成物の具体的な内容は、「パウダー形状のアルギン酸水溶性塩とカルシウム塩の組み合わせを含むゲル形成組成物」((甲3b))であって、「この操作は不便かつ煩わしい」との記載は、水の存在でアルギン酸塩とカルシウム塩との反応によるゲル形成が急速に進むので、滑らかなペースト状のゲルとするためには素早く徹底的な撹拌が必要であり、この素早く徹底的な撹拌操作が不便かつ煩わしいことを指摘しているものと解される((甲3c))。甲3における改善策が、甲3の請求項1((甲3d))に示されるとおり、「水との混合されたとき、低速でコントールされた速度で丈夫で弾力のあるフィルムを形成するために適用される非水性ゲル形成システム」であることからも、甲3は、単に、粉末成分と水とを混合して含水粘性組成物を用時調製することが不便かつ煩わしいというような一般的な"自明な課題"を開示するものではないことがわかる。

(エ)そして、課題1を「アルギン酸ナトリウムがダマを形成し易いために、用時にゲル/ペーストを調製することが不便かつ煩わしい」という、アルギン酸ナトリウムのゲル/ペーストの用時調製時の特有の課題とみても、甲1では、水溶性高分子の増粘性を利用して泡の安定性を高める目的で発泡性化粧料に配合される水溶性高分子の一例であるアルギン酸ナトリウムについて、ダマの問題に関しては特段触れられていない。ましてや、アルギン酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの混合物がPEGで被覆された粉末を用いるものである甲1比較例10発明において用時、水に溶解させるにあたりダマが形成されることが問題であったことを示唆する記載は見当たらない。

(オ)更に、請求人がダマになり易いことの追試による確認をするものとして提示する甲8の4(被請求人提出の実験成績証明書(乙12))((甲8-4))では、甲1の実施例9に相当する「鐘紡発明を利用した二酸化炭素発生パック剤」について、1秒あたり1回転の条件で撹拌操作を1分間行い、撹拌操作終了から1分後に外観性状の評価結果で「ダマの発生が認められた。」とされている。
しかしながら、仮に、特定の実験条件でダマが形成されることが本願出願後に示されたとしても、そのことをもって、甲1比較例10発明におけるダマになり易さが本願優先日時点において当業者にとって自明又は周知の課題であったといえるわけではないことは明らかである。
しかも、甲8の4(乙12)は甲1の実施例9((甲1g))の追試であって、甲1比較例10発明自体の追試ではない。
そうすると、このような実験結果からみても、甲1比較例10発明においてダマになり易さが自明又は周知の課題であったと認めることはできない。

(カ)上記(ウ)?(オ)によれば、「アルギン酸ナトリウムがダマを形成し易いために、用時にゲル/ペーストを調製することが不便かつ煩わしい」との課題1が、甲1と甲2とで"共通の課題"ということはできないから、甲1に甲2を適用する動機付けがなく、この点においても「容易想到性-1」に係る
主張は採用できない。

イ 「容易想到性-2」について
(ア)請求人は「容易想到性-2」(口頭審理陳述要領書5?7頁)として以下のように主張する。
甲1に記載されている事項から把握される「1剤型」発泡性化粧料キットを引用発明(甲1比較例10(引用発明1剤型))とし(請求人のいう「甲1比較例10(引用発明1剤型)」は、上記1(1)で認定した甲1比較例10発明に相当)、「甲1比較例10(引用発明1剤型)」と甲2に記載の発明とで自明な課題/容易に着想し得る課題2「経日安定性に優れる/経時的に安定な2剤型化粧料を提供すること」を"共通の課題"とし、この"課題の共通性"および"技術分野の関連性"に基づいて、「甲1比較例10(引用発明1剤型)」に、使用性が良好で、経時で安定なパック化粧料が得られることを期待して、甲2に記載の事項(2-b:「アルギン酸塩類についてはあらかじめ水に溶解させてゲル状とさせ、また反応が進行しないように、ゲル状パーツと粉末パーツの2パーツに分けることにより、使用性が良好で、経時で安定なパック化粧料が得られる」)を適用し、本件発明1)とすることは容易に想到し得たことである。

(イ)しかしながら、課題2の共通性についてみると、化粧料において水分の存在下で反応が進行する2種類の薬剤を用いる系における経日安定性というように、課題を上位概念で捉えた場合には、甲1と甲2とで共通するといえるとしても、甲1は炭酸塩と酸とが反応して炭酸ガスが発生する反応であり、甲2はアルギン酸ナトリウムとカルシウム塩との硬化反応であって、甲1と甲2とでは反応する薬剤や反応の種類が相違するとともに、甲1はアルギン酸ナトリウム自体は反応に関与せずその増粘性を利用するものであるのに対して、甲2はアルギン酸ナトリウム自体が反応する薬剤の一方である点で両者には大きな違いがあるから、経日安定性を高めるための甲2の課題解決手段が甲1比較例10発明に適用可能であるか否かは直ちには明らかではない。

(ウ)そこで、検討すると、甲2の課題解決手段(アルギン酸塩類についてはあらかじめ水に溶解させてゲル状とさせ、また反応が進行しないように、ゲル状パーツと粉末パーツの2パーツに分ける)を甲1比較例10発明に適用しようとした場合、上記(3)でも検討したとおり、甲1比較例10発明において、(Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物)を2剤に分けた上で、更にその一方である、Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1を「Arg・炭酸塩含有含水粘性組成物」とする、すなわち、Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1だけをあらかじめに水に溶解させるように変更することが考えられる。

(エ)しかし、甲1比較例10発明において、Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1のようにPEG被覆する理由は泡の発生を遅くして泡のもちをよくするため((甲1c))であり、PEG被覆が甲1に開示される発泡性化粧料における特徴的な技術事項であることを考えると、Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1をあらかじめ水に溶解させることは、せっかくPEG被覆した意味を無くしてしまうことになり、経日安定性の向上の課題の下に、泡もちを犠牲にしてまでこのような変更を当業者が通常行うとは言い難い。
したがって、課題2は、甲1比較例10発明に甲2を適用する積極的な動機付けとなるとはいえない。

(オ)また、請求人は、甲1に甲2を適用する動機付けとして、「使用性が良好で、経時で安定なパック化粧料が得られることを期待」することも併せて主張しているが、口頭審理陳述要領書6頁の「2つの作用効果「使用性が良好」、「経時で安定」が記載されている。これらの作用効果に対応する課題はそれぞれ『水を加えてかきまぜる際、ダマになりやすく、顔に塗布する際、均一な膜になりにくい。これは、アルギン酸水溶性塩類が一般に水に溶けにくいためである。』(甲第2号証(2-a))、『(5)反応タイプのため、保管時には水分透過の少ない外装とするなど、経時の保管に注意を必要とする。』(甲第2号証(2-c) )である。」なる記載によれば、要するに、課題1と2が同時に解決されるとの期待が甲1に甲2を適用する動機付けとなることをいっているものと解される。
しかしながら、課題1については上記ア(カ)、課題2について上記(イ)?(エ)のとおりである。

(カ)以上(イ)?(オ)のとおり、「容易想到性-2」に係る主張も採用できない。

ウ また、請求人は甲7を提示して、気泡(炭酸ガス)の発生・保持に関して、本件特許発明1にかかるキットから得られる二酸化炭素含有粘性組成物(発泡性化粧料)と、甲1比較例10発明の(発泡性化粧料)から用時に水に溶解させて調製したものと発泡性の評価及び気泡の持続性評価の結果が同程度であったことから、本件発明1)が予期し得ない格別顕著な効果を奏するものではない旨も主張する。
しかし、甲1比較例10発明に甲2に記載される事項を適用することが容易想到とはいえない以上、本件発明1)の効果について検討するまでもない。

(5)小括
したがって、本件発明1)は、甲1比較例10発明に甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件特許発明1についてのまとめ
上記1のとおり、本件特許発明1は、甲1比較例10発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはといえない。

3 本件特許発明2?5、7について
本件特許発明2?5、7は、請求項1を引用するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て含んでおり、本件特許発明1と同様の理由により、甲1比較例10発明と甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 無効理由についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1?5、7は、甲1比較例10発明と甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許発明1?5、7に係る特許は、請求人が主張する無効理由によって無効とすることはできない。

第8 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許発明1?5、7についての特許は無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-11 
結審通知日 2018-01-15 
審決日 2018-01-30 
出願番号 特願2010-199412(P2010-199412)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩下 直人  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 安川 聡
小川 慶子
登録日 2012-01-27 
登録番号 特許第4912492号(P4912492)
発明の名称 二酸化炭素含有粘性組成物  
代理人 新田 昌宏  
代理人 山田 威一郎  
代理人 柴田 和彦  
代理人 水谷 馨也  
代理人 田中 順也  
代理人 迫田 恭子  
代理人 伊藤 晃  
代理人 坂田 啓司  
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