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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1338600
審判番号 不服2017-8446  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-09 
確定日 2018-03-15 
事件の表示 特願2013- 73924「ニッケル水素蓄電池」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月23日出願公開、特開2014-199732〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月29日を出願日とする出願であって、平成28年11月24日に拒絶の理由が通知され、平成29年1月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものの、同年2月28日に拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、同年6月9日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成29年6月9日になされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年6月9日になされた手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成29年6月9日になされた手続補正による補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前には、
「【請求項1】
Y、Pr、NdまたはSmからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を2.2原子%以上7.7原子%以下含有する希土類-Ca-Mg-Ni系の水素吸蔵合金を含む負極と、ナトリウムイオンを2.0mol/l以上含むアルカリ電解液とを備えたことを特徴とするニッケル水素蓄電池。」であったものを、本件補正後には、
「【請求項1】
PrまたはNdからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を2.2原子%以上7.7原子%以下含有する希土類-Ca-Mg-Ni系の水素吸蔵合金を含む負極と、ナトリウムイオンを2.0mol/l以上含むアルカリ電解液とを備えたことを特徴とするニッケル水素蓄電池。」と補正するものであって、本件補正前の発明特定事項である「希土類-Ca-Mg-Ni系の水素吸蔵合金」に「2.2原子%以上7.7原子%以下含有する」「元素」について、本件補正前は「Y、Pr、NdまたはSmからなる群より選択される1種又は2種以上」であったものを「PrまたはNdからなる群より選択される1種又は2種以上」とする補正事項を含むものである。

2 補正事項についての検討
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は、「希土類-Ca-Mg-Ni系の水素吸蔵合金」が、「Y、Pr、NdまたはSmからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を2.2原子%以上7.7原子%以下含有する」ものであり、「Y、Pr、NdまたはSm」の含有量について特定されているものの、それら以外の希土類元素の含有やその含有量については任意であって、制限がないものであると解される。
例えば、「水素吸蔵合金」に含まれる希土類元素については、本願明細書の表2に記載された実施例1?8のように、「Y、Pr、NdまたはSm」以外にLaを含有することができるものである。
そうすると、上記補正事項は、本件補正前には、「Y、Pr、NdまたはSmからなる群より選択される1種又は2種以上の元素」の含有量が合計で「2.2原子%以上7.7原子%以下」であったものを、本件補正後には、「PrまたはNdからなる群より選択される1種又は2種以上の元素」の含有量が合計で「2.2原子%以上7.7原子%以下」とするものであるから、例えば、La等の「Y、Pr、NdまたはSm」以外の希土類元素のみならず、Y及びSmについても、その含有や含有量に制限がないものとするものである。
したがって、例えば、本件補正前には、「Y、Pr、NdまたはSmからなる群より選択される1種又は2種以上の元素」として、Y単独で8原子%含む水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素電池は、Pr及びNdの含有量にかかわらず、請求項1に係る発明に含まれないものであったが、本件補正後には、Pr及びNdの含有量が2.2原子%以上7.7原子%以下であれば、そのようなニッケル水素電池は、請求項1に係る発明に含まれるものとなる。
よって、上記補正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるともいえない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものともいえない。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げる事項のいずれを目的とするものでないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1?2に係る発明は、平成29年1月26日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
Y、Pr、NdまたはSmからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を2.2原子%以上7.7原子%以下含有する希土類-Ca-Mg-Ni系の水素吸蔵合金を含む負極と、ナトリウムイオンを2.0mol/l以上含むアルカリ電解液とを備えたことを特徴とするニッケル水素蓄電池。」

2 先願明細書等の記載、及び、先願発明
(1)先願明細書等の記載
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前の他の出願であって,その出願後に出願公開された特願2013-15814号(特開2014-145122号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書等」という。)には、次の記載がある。(下線は、当審で付した。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金及びこの水素吸蔵合金を用いたニッケル水素二次電池に関する。」
「【実施例】
【0052】
1.電池の製造
(実施例1)
【0053】
(1)水素吸蔵合金及び負極の作製
ネオジム、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.84:0.05:0.11:3.33:0.17の割合となる混合物を調製した。得られた混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされた。次いで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間加熱する熱処理を施した。この後、このインゴットをアルゴンガス雰囲気中で機械的に粉砕して篩分けし、400メッシュ?200メッシュの間に残る水素吸蔵合金粒子からなる粉末を選別した。得られた水素吸蔵合金の粒子の粒径を測定した結果、かかる水素吸蔵合金粒子の平均粒径は60μmであった。
【0054】
得られた水素吸蔵合金の粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.4質量部、カルボキシメチルセルロース0.1質量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)のディスバージョン(固形分50重量%)1.0質量部(固形分換算)、カーボンブラック1.0質量部、および水30質量部を添加して混練し、負極合剤のペーストを調製した。
【0055】
この負極合剤のペーストを負極基板としての鉄製の孔あき板の両面に均等、且つ、厚さが一定となるように塗布した。なお、この孔あき板は60μmの厚みを有し、その表面にはニッケルめっきが施されている。
【0056】
ペーストの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末が付着した孔あき板を更にロール圧延して体積当たりの合金量を高めた後、裁断し、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を含むAAサイズ用の負極26を作成した。
【0057】
(2)正極の作製
ニッケルに対して亜鉛3質量%、マグネシウム0.4質量%、コバルト1質量%となるように、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム及び硫酸コバルトを秤量し、これらを、アンモニウムイオンを含む1N(規定度)の水酸化ナトリウム水溶液に加え、混合水溶液を調整した。得られた混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に10N(規定度)の水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させ、ここでの反応中、pHを13?14に安定させて、水酸化ニッケルを主体とし、亜鉛、マグネシウム及びコバルトを固溶した水酸化ニッケル粒子を生成させた。
【0058】
得られた水酸化ニッケル粒子を10倍の量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥した。なお、得られた水酸化ニッケル粒子は、平均粒径が10μmの球状をなしている。
【0059】
次に、上記したように作製した水酸化ニッケル粒子からなる正極活物質粉末100質量部に、水酸化コバルトの粉末10質量部を混合し、更に、0.5質量部の酸化イットリウム、0.3質量部の酸化亜鉛、40質量部のHPCディスバージョン液を混合して正極合剤ペーストを調製し、この正極合剤ペーストを正極集電体としてのシート状の発泡ニッケル(ニッケルフォーム)に塗着・充填した。正極合剤が付着した発泡ニッケルを乾燥後、ロール圧延した。圧延加工された正極合剤が付着した発泡ニッケルは、所定形状に裁断され、AAサイズ用の正極24に形成された。この正極24は、正極容量が2000mAhとなるように正極合剤を担持している。
【0060】
(3)ニッケル水素二次電池の組み立て
得られた正極24及び負極26をこれらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を作製した。ここでの電極群22の作製に使用したセパレータ28はスルホン化処理が施されたポリプロピレン繊維製不織布から成り、その厚みは0.1mm(目付量53g/m^(2))であった。
【0061】
一方、NaOH、LiOH及びKOHを含む水溶液からなるアルカリ電解液を準備した。ここで、NaOHの濃度は7.0N(規定度)、LiOHの濃度は0.8N(規定度)、KOHの濃度は0.02N(規定度)とした。
【0062】
次いで、有底円筒形状の外装缶10内に上記した電極群22を収納するとともに、準備したアルカリ電解液を所定量注液した。この後、蓋板14等で外装缶10の開口を塞ぎ、AAサイズのニッケル水素二次電池2を組み立てた。このニッケル水素二次電池を電池aと称する。」
「【0066】
(実施例4)
先ず、60.0質量%のランタン及び40.0質量%のサマリウムを含む第1混合物を調製した。得られた第1混合物、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.70:0.10:0.20:3.40:0.20の割合となる第2混合物を調製した。得られた第2混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされたこと以外は、実施例1の電池aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池d)を作製した。」
「【0080】
【表1】



(2)先願発明
ア 上記(1)の【0053】?【0062】には、実施例1の「ニッケル水素二次電池」について記載されており、上記(1)の【0066】には、実施例4の「ニッケル水素二次電池」について記載されている。
イ 上記(1)の【0053】?【0062】の記載から、実施例1では、「ネオジム、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウム」が「モル比で0.84:0.05:0.11:3.33:0.17の割合となる混合物」(【0053】)から作製した「水素吸蔵合金粒子」を含む、「ニッケル水素二次電池」の「負極」を作成しているところ、上記(1)の【0066】の記載から、実施例4では、該混合物に代えて、「60.0質量%のランタン及び40.0質量%のサマリウムを含む」「第1混合物、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウム」が「モル比で0.70:0.10:0.20:3.40:0.20の割合となる第2混合物」(【0066】)から作製した「水素吸蔵合金粒子」を含む、「ニッケル水素二次電池」の「負極」を作成しているといえる。
ウ 上記(1)の【0061】の記載から、実施例1において、「ニッケル水素二次電池」の「アルカリ電解液」のNaOHの濃度は7.0N(規定度)であり、また、【0066】に「実施例1の電池aと同様にして」と記載されているから、実施例4においても、「ニッケル水素二次電池」の「アルカリ電解液」のNaOHの濃度は7.0N(規定度)である。

エ 上記ア?ウより、先願明細書等の実施例4に注目すると、先願明細書等には以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「60.0質量%のランタン及び40.0質量%のサマリウムを含む第1混合物、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムがモル比で0.70:0.10:0.20:3.40:0.20の割合となる第2混合物から作製した水素吸蔵合金粒子を含む負極と、NaOHの濃度が7.0N(規定度)であるアルカリ電解液とを備えた、ニッケル水素二次電池。」

3 対比・判断
(1)本願発明と先願発明との対比
ア 先願発明の「60.0質量%のランタン及び40.0質量%のサマリウムを含む第1混合物、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムがモル比で0.70:0.10:0.20:3.40:0.20の割合となる第2混合物」より、原子量を用いて計算すると、第2混合物に占めるサマリウムの含有量は6.38原子%である。
また、先願発明の「60.0質量%のランタン及び40.0質量%のサマリウムを含む第1混合物、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムがモル比で0.70:0.10:0.20:3.40:0.20の割合となる第2混合物から作製した水素吸蔵合金粒子」は、希土類元素、カルシウム、マグネシウム、ニッケルを含有するから、本願発明の「希土類-Ca-Mg-Ni系の水素吸蔵合金」に含まれるものである。
そうすると、先願発明の「60.0質量%のランタン及び40.0質量%のサマリウムを含む第1混合物、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムがモル比で0.70:0.10:0.20:3.40:0.20の割合となる第2混合物から作製した水素吸蔵合金粒子を含む負極」は、本願発明の「Y、Pr、NdまたはSmからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を2.2原子%以上7.7原子%以下含有する希土類-Ca-Mg-Ni系の水素吸蔵合金を含む負極」に含まれる。
イ 先願発明の「アルカリ電解液」は、「NaOHの濃度」が「7.0N(規定度)である」から、Naの価数が1であることを考慮すると、ナトリウムイオンを7.0mol/l含むものといえる。
そうすると、先願発明の「NaOHの濃度が7.0N(規定度)であるアルカリ電解液」は、本願発明の「ナトリウムイオンを2.0mol/l以上含むアルカリ電解液」に含まれる。
ウ 先願発明の「ニッケル水素二次電池」は、本願発明の「ニッケル水素蓄電池」に相当する。
エ 上記ア?ウを踏まえると、本願発明と先願発明とは、
「Y、Pr、NdまたはSmからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を2.2原子%以上7.7原子%以下含有する希土類-Ca-Mg-Ni系の水素吸蔵合金を含む負極と、ナトリウムイオンを2.0mol/l以上含むアルカリ電解液とを備えたことを特徴とするニッケル水素蓄電池。」で一致し、相違点はない。
よって、本願発明は、先願発明と同一である。

第4 結言
以上のとおり、本願発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書等に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-09 
結審通知日 2018-01-16 
審決日 2018-01-29 
出願番号 特願2013-73924(P2013-73924)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (H01M)
P 1 8・ 57- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 市川 篤浅野 裕之  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 金 公彦
土屋 知久
発明の名称 ニッケル水素蓄電池  

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