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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1339030
審判番号 不服2016-17140  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-16 
確定日 2018-04-04 
事件の表示 特願2015-79919「sPLA2加水分解性リポソームを含む医薬組成物及び同医薬組成物の製造におけるsPLA2加水分解性リポソームの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月9日出願公開、特開2015-127349〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年9月16日(パリ条約による優先権主張:平成21年9月17日(デンマーク))を国際出願日とする特願2012-529127号の一部を平成27年4月9日に新たな特許出願としたものであって、平成28年2月1日付けで拒絶理由が通知され、同年4月22日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月5日付けで拒絶査定がなされたのに対して、同年11月16日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[結論]
平成28年11月16日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は特許請求の範囲を補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前の
「 ヒトにおけるがんを治療するための医薬組成物において、前記医薬組成物はsPLA2加水分解性リポソームを含み、前記sPLA2加水分解性リポソームは、
20?45%(モル/モル%)のDSPGと、
3?6%(モル/モル%)のDSPE-PEGと、
40?75%(モル/モル%)のDSPCと、
アントラサイクリン、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ピコプラチン、ドキソルビシン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、エクシスリンド、シスレチノイン酸、スリンダク硫化物、メトトレキセート、ブレオマイシンおよびビンクリスチンからなる群から選択される低分子の抗腫瘍物質と、
を含む、医薬組成物。」を、
「 ヒトにおけるがんを治療するための医薬組成物において、前記医薬組成物はsPLA2加水分解性リポソームを含み、前記sPLA2加水分解性リポソームは、
20?45%(モル/モル%)のDSPGと、
3?6%(モル/モル%)のDSPE-PEGと、
40?75%(モル/モル%)のDSPCと、
1%未満のコレステロールと、
シスプラチンと、
を含み、
前記医薬組成物は、遊離状態のシスプラチンを使用する場合と比較して、腎毒性、神経毒性及び胃腸毒性のうちの少なくとも1つを低減する、医薬組成物。」とする補正を含むものである(なお、下線部は補正箇所を示す)。

2 補正の目的等
本件補正は、以下の補正事項を含むものである。
(1)「アントラサイクリン、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ピコプラチン、ドキソルビシン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、エクシスリンド、シスレチノイン酸、スリンダク硫化物、メトトレキセート、ブレオマイシンおよびビンクリスチンからなる群から選択される低分子の抗腫瘍物質」を「シスプラチン」とする補正(以下、「補正事項A」という。)
(2)sPLA2加水分解性リポソームを「1%未満のコレステロール・・・を含」むものとする補正(以下、「補正事項B」という。)
(3)医薬組成物を「遊離状態のシスプラチンを使用する場合と比較して、腎毒性、神経毒性及び胃腸毒性のうちの少なくとも1つを低減する」ものとする補正(以下、「補正事項C」という。)
上記補正事項Aは、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「抗腫瘍物質」の選択肢のうち、本件出願当初の請求項6に係るシスプラチン以外を削除するものである。上記補正事項Bは、本件出願当初の明細書【0065】における「さらにより好ましくは、リポソームは、コレステロールを1%未満、0.1%未満しか含まないか、またはコレステロールを全く含まない。」との記載に基き、リポソームの組成を限定するものである。上記補正事項Cは、本件出願当初の請求項3?6における「前記医薬組成物は、遊離状態の低分子の抗腫瘍物質を使用する場合と比較して腎毒性を低減する」、「前記医薬組成物は、遊離状態の低分子の抗腫瘍物質を使用する場合と比較して神経毒性を低減する」、「前記医薬組成物は、遊離状態の低分子の抗腫瘍物質を使用する場合と比較して胃腸毒性を低減する」、及び、「前記低分子の抗腫瘍物質はシスプラチンである」との記載に基き、医薬組成物の毒性について限定するものである。そうすると、補正事項A?Cはいずれも補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものであって、これらの補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件
補正事項A?Cは、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合しているか否かを検討する。
(1)本件補正後の請求項に係る発明
補正事項A?Cによる本願請求項1に記載される発明(以下、「補正発明」という。)は次のとおりである。
「 ヒトにおけるがんを治療するための医薬組成物において、前記医薬組成物はsPLA2加水分解性リポソームを含み、前記sPLA2加水分解性リポソームは、
20?45%(モル/モル%)のDSPGと、
3?6%(モル/モル%)のDSPE-PEGと、
40?75%(モル/モル%)のDSPCと、
1%未満のコレステロールと、
シスプラチンと、
を含み、
前記医薬組成物は、遊離状態のシスプラチンを使用する場合と比較して、腎毒性、神経毒性及び胃腸毒性のうちの少なくとも1つを低減する、医薬組成物。」
(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願(優先日)前に頒布された刊行物は、次の刊行物1である。
刊行物1:Morten Petersen et al, Increased systemic stability, tumor accumulation and in vitro and in vivo efficacy of a secretory phospholipase 2-degradable liposomal form of cisplatin., Proceedings of the American Association for Cancer Research Annual Meeting, 2008年4月, Vol.49, pp.1335
(3)引用刊行物の記載事項
刊行物1(原査定の引用文献1)には、次の事項が記載されている。なお、刊行物1は英語で記載されているため、下記摘示は当合議体によるその日本語訳であり、摘示箇所の英文を併記する。
ア 「シスプラチンは、最もよく知られている抗腫瘍剤のひとつであり、・・・。しかしながら、腎毒性、神経毒性などの副作用の他に、薬剤に対する細胞抵抗性があるため、多くの癌において、初めに選択される薬剤ではない。」(Cisplatin is one of the most potent antitumor agents known,・・・.However, side-effects such as nephrotoxicity and neurotoxicity as well as cellular resistance to the agent mean that this is not a first choice drug in many cancers.)(本文第1?3行)
イ 「我々は、分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)によって特異的に分解されるシスプラチンのリポソーム製剤(LiplaCis)をデザインした。」(We have designed a liposomal form of cisplatin (LiplaCis) that can be specifically degraded by secretory phospholipase A2 (sPLA2).)(本文第4?5行)
ウ 「インビボにおける、ラットとマウスを使用した薬物動態試験においては、血漿における安定性が増し、14日を超えてその効果が持続した。マウス乳がんモデルMT-3、マウス結腸癌モデルCT-26、又は、ヒト結腸癌モデルColo205を用いたヌードマウスにおける異種移植試験によって、投与後数時間以内にLiplaCisの長期的な腫瘍蓄積が明らかになった。MT-3モデルを使った効能試験では、同様の毒性を有する遊離薬剤と比較して、腫瘍の除去における改善が見られた。それゆえに、LiplaCisは臨床において、遊離シスプラチンよりも、良好に作用することが予想され、第I相試験が、2008年初めに開始される予定である。」(In vivo pharmacokinetic experiments in rats and mice show an increased stability in plasma and the effect is present after >14 days. Xenograft studies in nude mice using the mouse mammary carcinoma tumor model MT-3, the mouse colon carcinoma CT-26 or the human colon carcinoma Colo205 revealed long-lasting tumor accumulation of LiplaCis within hours after administration. Efficacy studies using the MT-3 -model showed improved tumor elimination compared to the free drug with similar toxicity. Thus, LiplaCis is expected to perform better than free cisplatin in the clinic and phase one studies will be initiated in early 2008.)(本文第9行?最終行)
(4)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、上記(3)ア?ウの摘示事項からみて、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「sPLA2によって分解される、シスプラチンのリポソーム製剤である、LiplaCis。」
(5)対比
補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「リポソーム製剤」は、シスプラチンという医薬を含むため、補正発明における「医薬組成物」に相当する。
引用発明における「sPLA2」はホスホリパーゼであり(上記(3)イ)、ホスホリパーゼはリン脂質を加水分解する酵素であるから、引用発明における「分解」は当然「加水分解」である。
したがって、両者は、
「医薬組成物において、前記医薬組成物はsPLA2加水分解性リポソームを含み、前記sPLA2加水分解性リポソームは、
シスプラチン、
を含む、医薬組成物。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。
一応の相違点1
補正発明は「ヒトにおけるがんを治療するための」ものであるのに対し、引用発明ではその旨特定されていない点
一応の相違点2
補正発明におけるsPLA2加水分解性リポソームは、「20?45%(モル/モル%)のDSPGと、3?6%(モル/モル%)のDSPE-PEGと、40?75%(モル/モル%)のDSPCと、1%未満のコレステロールと・・・を含」むのに対し、引用発明にはそのような特定がない点
一応の相違点3
補正発明の医薬組成物は、「遊離状態のシスプラチンを使用する場合と比較して、腎毒性、神経毒性及び胃腸毒性のうちの少なくとも1つを低減する」のに対し、引用発明にはそのような特定がない点
(6)判断
上記一応の相違点1?3について検討する。
ア 一応の相違点2
刊行物1に記載された「LiplaCis」は、sPLA2によって分解される、シスプラチンのリポソーム製剤であること(上記(3)ア)、及び「LiplaCis」は、血漿における安定性が増し、効果が持続すること、腫瘍に蓄積すること、有意に腫瘍を除去できるという効果を奏するものであることが記載されている(上記(3)ウ)。
一方、本願明細書においては、実施例に「LiPlaCis」と称される製剤が記載され、特に以下のとおり記載されている。
・「【0090】
結果:
LiPlaCisを、ヌードマウスにおけるMT-3乳がん(breast)異種移植片を使用した有効性試験においてシスプラチンおよび生理食塩水と比較した。・・・。LiPlaCisは遊離状態のシスプラチンよりも有意に良好に腫瘍の増殖を抑制した(・・・)。」
・「【0093】
結果および結論:
この実験から、LiPlaCisは、遊離シスプラチンの15分間に対して約20?23時間のT1/2を有する、長時間循環性のシスプラチンのリポソーム形態であることが明らかとなった。」
・「【0095】
結果:
血漿中のプラチナ分析から、LiPlaCisが血清中に高濃度で存在し、その作用が少なくとも1週間持続することが示された。・・・。LiPlaCisはまた、腫瘍内に、腫瘍量1mgあたり最大約4μg蓄積し、対して遊離シスプラチンは腫瘍1mgあたり約1μgであった。」
上記記載より、補正発明に対応する実施例である「LiPlaCis」は、腫瘍増殖の抑制、長時間循環性、腫瘍蓄積に効果を奏する製剤であることが理解できる。
ここで、本願明細書でいうところの「LiPlaCis」と、刊行物1でいうところの「LiplaCis」を比べると、両者は、「sPLA2によって分解される」という特殊な性質を有する「シスプラチンのリポソーム製剤」である点、及び、「腫瘍増殖の抑制、長時間循環性(効果の持続性)、腫瘍への蓄積」に効果を有する点で共通し、これら「リポソームの分解性、リポソームの体内での挙動」は、リポソームが何で構成されているか、すなわち材料の種類及びその混合比率に影響を受けることが技術常識であることを踏まえれば、本願明細書でいうところの「LiPlaCis」と、刊行物1でいうところの「LiplaCis」は同じ種類で同じ比率の材料で構成された製剤、すなわち同じ製剤である蓋然性が高い。
加えて、両者は、pが大文字、小文字の違いはあるものの、文字列としては同じであり、さらに「LiPlaCis」と「LiplaCis」とが、抗がん製剤において当業者に別のものと認識されているという事実もみあたらない点をも考慮すると、本願明細書でいうところの「LiPlaCis」と、刊行物1でいうところの「LiplaCis」とは、同じ製剤である蓋然性が極めて高いといえる。
なお、補正発明の発明者と、刊行物1の著者は、一部重複し、この点からも同じ製剤であることが強く推認されるものである。
また、本願明細書には、本願明細書でいうところの「LiPlaCis」について、以下のようにも記載されている。
・「【0088】
実施例1:sPLA2リポソーム(LiPlaCis)の調製
脂質中間体を、次のリン脂質の混合物(70/25/5(mol%)のDSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)の噴霧乾燥により調製する。・・・。脂質中間体を、抗がん剤の水溶液中で撹拌しながら水和する。このステップでは、リポソームは形成されるが広範な粒度分布を有し、また単層リポソームと多層リポソームとの混合物である。」
・「【0089】
実施例2:マウスにおける有効性
方法
・・・。動物には、腫瘍移植後13日目を開始として、尾静脈への静脈内注射で1週間に1用量(4mg/kgのシスプラチン(Platinol(R))、LiPlaCisまたは生理食塩水)を投与した。」
そうすると、上記記載より、本願明細書において、「LiPlaCis」は、補正発明に対応する「70%(モル/モル%)のDSPCと、25%(モル/モル%)のDSPGと、5%(モル/モル%)のDSPE-PEGと、0%のコレステロールと、シスプラチンとを含むリポソーム製剤」である。
なお、「LiPlaCis」は、本願の出願後に公開された刊行物ではあるものの、下記刊行物Aにおいても、本願明細書と同じ材料、同じ比率で製造されたリポソーム製剤であることが記載されている点からも、「LiPlaCis」とは、「70%(モル/モル%)のDSPCと、25%(モル/モル%)のDSPGと、5%(モル/モル%)のDSPE-PEGと、0%のコレステロールと、シスプラチンとを含むリポソーム製剤」であることが推認される。
○刊行物A:特表2013-508315号公報
「【0087】
LiPlaCisの調製
均質な脂質混合物(DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000、70:25:5、mol%)を、クロロホルム/メタノール(9:1、v/v)中に脂質を溶解することにより調製した。緩やかな窒素ガス流を使用して、温度50℃で脂質混合物から溶媒を蒸発させた。・・・。8mg/mLのシスプラチンを含有する65℃の熱い水和媒体中に脂質薄膜を分散させ、表1に従ってスクロースおよび塩化ナトリウムの濃度を変えることにより、多層のベシクル(MLV)を調製した。」
したがって、引用発明の「LiplaCis」も、「LiPlaCis」と同じ組成、すなわち、「70%(モル/モル%)のDSPCと、25%(モル/モル%)のDSPGと、5%(モル/モル%)のDSPE-PEGと、0%のコレステロールと、シスプラチンと」を含むリポソーム製剤である蓋然性が極めて高い。
以上より、上記一応の相違点2は、実質的な相違点ではない。
イ 一応の相違点3
上記アで述べたように、補正発明に対応する本願明細書でいうところの「LiPlaCis」と、刊行物1でいうところの「LiplaCis」は、同じ製剤であると認められる。
一方、本願明細書には、「LiPlaCis」について以下の記載がある。
「【0142】
第1相試験の結果
・・・
Tox:
治療サイクル当たり120mgまでの用量で投与されたLiPlaCisは、腎毒性、耳毒性および神経毒性(neurotixicity)の兆候を示さない。さらに、悪心嘔吐の形の胃腸毒性は、LiPlaCisを投与されている患者では報告されていない。」
ここで、リポソームに包含されない従来のシスプラチン(すなわち「遊離状態のシスプラチン」)が腎毒性や神経毒性を示すことは、刊行物1にも記載されるように(上記(3)ア)、本願出願(優先日)前における技術常識であり、そのことを踏まえると、これらの毒性が「LiPlaCis」においては報告されなかったという上記治験の結果から、「LiPlaCis」は「遊離状態のシスプラチンを使用する場合と比較して、腎毒性、神経毒性及び胃腸毒性のうちの少なくとも1つを低減する」ものと認められる。
そうすると、「LiPlaCis」と同じ製剤である「LiplaCis」を含む引用発明のリポソーム製剤も当然「遊離状態のシスプラチンを使用する場合と比較して、腎毒性、神経毒性及び胃腸毒性のうちの少なくとも1つを低減する」ものと認められる。
したがって、上記一応の相違点3は、実質的な相違点ではない。
ウ 一応の相違点1
刊行物1には、LiplaCisがマウスにおける各種癌に有効に作用することを示した上で、治験の第I相試験を始める予定であると記載されており(上記(3)ウ)、治験は「ヒト」を対象とする試験であることを考慮すれば、既に「LiplaCis」は、「ヒトにおける、がんを治療する医薬組成物」として、刊行物1に記載されているといえる。
仮に、治験を開始する前であり、ヒトにどの程度作用するのか不明であることをもって、LiplaCisが「ヒトにおける、がんを治療する医薬組成物」であることは刊行物1に直接開示されるものではないと解釈しても、治験が開始予定であることから、LiplaCisは、少なくとも「ヒトにおける、がんを治療することを意図した医薬組成物」であることは疑いがなく、さらにLiplaCisに含まれる有効薬剤であるシスプラチン自体が、がんを治療するための薬剤であることが本願出願(優先日)前に周知であったことを踏まえれば(上記(3)ア)、LiplaCisは、「ヒトにおける、がんを治療することを意図した組成物」に留まるものではなく、治療効果の確認の程度に違いがあるとはいえ、「ヒトにおける、がんを治療する」のは明らかであるから、「ヒトにおける、がんを治療するための医薬組成物」であるといえる。
したがって、上記一応の相違点1は実質的な相違点ではない。
(7)まとめ
そうすると、補正発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。したがって、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反する。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反しているものと認められるので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 上記第2で結論したとおり平成28年11月16日付け手続補正は却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は平成28年4月22日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「ヒトにおけるがんを治療するための医薬組成物において、前記医薬組成物はsPLA2加水分解性リポソームを含み、前記sPLA2加水分解性リポソームは、
20?45%(モル/モル%)のDSPGと、
3?6%(モル/モル%)のDSPE-PEGと、
40?75%(モル/モル%)のDSPCと、
アントラサイクリン、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ピコプラチン、ドキソルビシン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、エクシスリンド、シスレチノイン酸、スリンダク硫化物、メトトレキセート、ブレオマイシンおよびビンクリスチンからなる群から選択される低分子の抗腫瘍物質と、
を含む、医薬組成物。」

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の理由とされた、平成28年2月1日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、以下のとおりである(特許法第29条第1項第3号の適用部分について)。
「1.(新規性)この出願・・・に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.Morten Petersen et al,Increased systemic stability, tumor accumulation and in vitro and in vivo efficacy of a secretory ph,Proceedings of the American Association for Cancer Research Annual Meeting,2008年 4月,Vol. 49,pp. 1335. 」

第4 本願発明についての判断
1 引用文献及びその記載事項
原査定の引用文献1は上記第2の3(2)で引用した刊行物1であり、この引用文献1には上記第2の3(3)ア?ウの摘示事項が記載されている
そして、引用文献1には上記第2の3(4)で認定した引用発明が記載されている。

2 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は
「医薬組成物において、前記医薬組成物はsPLA2加水分解性リポソームを含み、前記sPLA2加水分解性リポソームは、
シスプラチン、
を含む、医薬組成物。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。
一応の相違点1’
本願発明は「ヒトにおけるがんを治療するための」ものであるのに対し、引用発明ではその旨特定されていない点
一応の相違点2’
本願発明は、「20?45%(モル/モル%)のDSPGと、3?6%(モル/モル%)のDSPE-PEGと、40?75(モル/モル%)のDSPCと・・・を含」むのに対し、引用発明にはそのような特定がない点

ここで、一応の相違点1’及び2’は、それぞれ上記第2の3(5)で認定した相違点1及び2に対応するものであり、そして、これらの相違点についてはそれぞれ上記第2の3(6)ウ及びアで判断したことがそのまま妥当する。

そうすると、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願については、他の請求項について検討するまでもなく上記理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-31 
結審通知日 2017-11-01 
審決日 2017-11-20 
出願番号 特願2015-79919(P2015-79919)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 裕美子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 長谷川 茜
小川 慶子
発明の名称 sPLA2加水分解性リポソームを含む医薬組成物及び同医薬組成物の製造におけるsPLA2加水分解性リポソームの使用  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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