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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41J
管理番号 1339090
審判番号 不服2017-4239  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-24 
確定日 2018-04-24 
事件の表示 特願2015-127057「画像処理装置、画像処理装置の制御方法、およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月10日出願公開、特開2015-221570、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年12月19日の出願である特願2008-323638号(以下「原出願」という。)の一部を、平成25年7月24日に新たな特許出願とした特願2013-153618号の一部を、さらに平成27年6月24日に新たな特許出願としたものであって、平成27年11月9日付けで手続補正がされ、平成28年5月19日付けで拒絶理由が通知され、同年7月14日付けで手続補正がされ、同年12月19日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同年同月27日)、これに対し、平成29年3月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、手続補正がされたものである。

第2 原査定の理由の概要

「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1-5
・引用文献等 1及び2

<引用文献等一覧>
1.特開2006-293818号公報
2.特開2007-208822号公報」

第3 平成29年3月24日付けの手続補正の適否

1.補正の内容
平成29年3月24日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)による補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし5、及び、補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5は、それぞれ以下のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。

(補正前)
「【請求項1】
印刷装置と通信可能な画像処理装置であって、
前記印刷装置に対する処理要求をネットワーク上の外部装置から受信する受信手段と、
前記印刷装置が省電力状態であり、かつ、前記印刷装置に対する特定の処理要求を前記受信手段が受信した場合に、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させることなく前記特定の処理要求を保持する保持手段と、
前記印刷装置が前記省電力状態であり、かつ、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる復帰要求を前記受信手段が受信した場合に、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる際に、前記保持手段が保持している前記特定の処理要求を前記印刷装置に送信することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記印刷装置が前記省電力状態であり、かつ、前記復帰要求を前記受信手段が受信した場合に、前記保持手段が前記印刷装置に対する処理要求を保持しているか否かを判定する判定手段を更に備え、
前記保持手段が前記印刷装置に対する処理要求を保持していると前記判定手段によって判定された場合に、前記制御手段は、前記保持手段が保持している前記特定の処理要求を前記印刷装置に送信することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記特定の処理要求は、前記印刷装置が格納しているファイルの格納場所を変更することを示す要求であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項4】
印刷装置と通信可能な画像処理装置の制御方法であって、
前記印刷装置が省電力状態であり、かつ、前記印刷装置に対する特定の処理要求をネットワーク上の外部装置から前記画像処理装置が受信した場合に、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させることなく前記特定の処理要求を保持する保持ステップと、
前記印刷装置が前記省電力状態であり、かつ、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる復帰要求をネットワーク上の外部装置から前記画像処理装置が受信した場合に、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させ、更に、保持している前記特定の処理要求を前記印刷装置に送信する制御ステップとを有することを特徴とする画像処理装置の制御方法。
【請求項5】
前記特定の処理要求は、前記印刷装置が格納しているファイルの格納場所を変更することを示す要求であることを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置の制御方法。」

(補正後)
「【請求項1】
印刷装置と通信可能な画像処理装置であって、
前記印刷装置に対する処理要求をネットワーク上の外部装置から受信する受信手段と、
前記印刷装置が省電力状態であり、かつ、前記印刷装置に対する特定の処理要求を前記受信手段が受信した場合に、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させることなく、かつ、前記特定の処理要求が示す処理を前記画像処理装置が実行することなく、前記特定の処理要求を保持する保持手段と、
前記印刷装置が前記省電力状態であり、かつ、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる復帰要求を前記受信手段が受信した場合に、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる際に、前記保持手段が保持している前記特定の処理要求を前記印刷装置に送信することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記印刷装置が前記省電力状態であり、かつ、前記復帰要求を前記受信手段が受信した場合に、前記保持手段が前記印刷装置に対する処理要求を保持しているか否かを判定する判定手段を更に備え、
前記保持手段が前記印刷装置に対する処理要求を保持していると前記判定手段によって判定された場合に、前記制御手段は、前記保持手段が保持している前記特定の処理要求を前記印刷装置に送信することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記特定の処理要求は、前記印刷装置が格納しているファイルの格納場所を変更することを示す要求であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項4】
印刷装置と通信可能な画像処理装置の制御方法であって、
前記印刷装置が省電力状態であり、かつ、前記印刷装置に対する特定の処理要求をネットワーク上の外部装置から前記画像処理装置が受信した場合に、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させることなく、かつ、前記特定の処理要求が示す処理を前記画像処理装置が実行することなく、前記特定の処理要求を保持する保持ステップと、
前記印刷装置が前記省電力状態であり、かつ、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる復帰要求をネットワーク上の外部装置から前記画像処理装置が受信した場合に、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させ、更に、保持している前記特定の処理要求を前記印刷装置に送信する制御ステップとを有することを特徴とする画像処理装置の制御方法。
【請求項5】
前記特定の処理要求は、前記印刷装置が格納しているファイルの格納場所を変更することを示す要求であることを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置の制御方法。」

本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に「、かつ、前記特定の処理要求が示す処理を前記画像処理装置が実行することなく、」との事項を追加する補正(以下「補正事項1」という。)、及び、請求項4に「、かつ、前記特定の処理要求が示す処理を前記画像処理装置が実行することなく、」との事項を追加する補正(以下「補正事項2」という。)を含んでいる。

2.補正の適否
上記補正事項1は、請求項1について、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記特定の処理要求を保持する保持手段」について、「前記特定の処理要求が示す処理を前記画像処理装置が実行することなく」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記補正事項2は、請求項4について、請求項4に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記特定の処理要求を保持する保持ステップ」について、「前記特定の処理要求が示す処理を前記画像処理装置が実行することなく」との限定を付加するものであって、補正前の請求項4に記載された発明と補正後の請求項4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、以下の「第4」から「第6」までに示すように、本件補正後の請求項1ないし5に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

また、本件補正に、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するところはない。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第4 本願発明

本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、上記「第3」の「1.補正の内容 (補正後)」に記載したとおりのものである。

第5 引用例

1.引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願の出願日前に頒布された刊行物である特開2006-293818号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア.「【0033】
本発明の印刷制御システムは、ネットワーク104を介して接続された外部のホストコンピュータ101からの印刷ジョブ(印刷要求及び印刷データ等を含む)を、インターフェース401を経由して受信する受信部を有する印刷制御装置(第1のプリンタ102及び/又は第2のプリンタ103)を備えたもので、第1のプリンタ102が省電力状態になっているときに、第2のプリンタ103にホストコンピュータ101からの印刷要求の受信又は問い合わせの受信を代行させることができる。」

イ.「【0055】
つまり、第1のプリンタ102は、自身に保持される第1及び第2アドレスレジスタの両方が持っているIPアドレスとMACアドレスの双方を第2のプリンタ103に通知する。これは、第2のプリンタ103が第1のプリンタ102の代わりに外部アクセスに対応するためと、第2のプリンタ103が第1のプリンタ102と通信を行うためである。なお、第2のプリンタ103が第1のプリンタ102との通信を行い、第1のプリンタ102を上述した省電力状態から印刷要求の受信又は問い合わせの受信を可能な電力状態に復帰させるための情報には、上述した(イ)の形態の場合には、IPアドレスが少なくとも含まれればよく、また、(ロ)の形態の場合には、MACアドレスが少なくとも含まれていれば良い。」

ウ.「【0061】
次に、第2のプリンタ103が印刷要求を検知すると、第1のプリンタ102を省電力状態から印刷要求の受信又は問い合わせの受信を可能な電力状態に復帰させるために、第2のプリンタ103が第1のプリンタ102を上述した(イ)、(ロ)で説明した仕組みにより起動させる。つまり、第2のプリンタ103が、第1のプリンタ102に対するアクセスに対して、ステータスの問い合わせなどは、第2のプリンタ103で対応し、印刷要求の場合には、第2のプリンタ103は第1のプリンタ102(具体的には第1のプリンタ102の通信制御部402やCPU407など)を起動させる(S6)。」

エ.「【0065】
また、他の実施形態として、第2のプリンタ103が第1のプリンタ102を印刷出力先とした印刷要求を検知した場合に、通信用アドレスを用いて第1のプリンタ102を上述した省電力状態から印刷要求の受信又は問い合わせの受信を可能な電力状態に起動させ(第1のプリンタ102による第2アドレスのディスエーブル処理を含む)、その後にホストコンピュータ101に直接第1のプリンタ102に印刷データを投入させるようにしても良い。」

上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「ネットワークを介して接続された外部のホストコンピュータからの印刷ジョブ(印刷要求及び印刷データ等を含む)を、インターフェースを経由して受信する受信部を有する印刷制御装置(第1のプリンタ及び/又は第2のプリンタ)であって、
第2のプリンタが第1のプリンタとの通信を行い、第1のプリンタを省電力状態から印刷要求の受信又は問い合わせの受信を可能な電力状態に復帰させ、
第2のプリンタが、第1のプリンタに対するアクセスに対して、ステータスの問い合わせなどは、第2のプリンタで対応し、
第2のプリンタが第1のプリンタを印刷出力先とした印刷要求を検知した場合に、通信用アドレスを用いて第1のプリンタを省電力状態から印刷要求の受信又は問い合わせの受信を可能な電力状態に起動させ、その後にホストコンピュータに直接第1のプリンタに印刷データを投入させる
印刷制御装置。」

2.引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願の出願日前に頒布された刊行物である特開2007-208822号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【請求項1】
外部装置と通信を行う通信手段を備えた画像処理装置であって、
各々機能に応じて区分された部品若しくは部品の集合である複数の機能ブロック各々に対して個別に電力供給する電源に通電するか否かを切り替える通電切替手段と、
前記通信手段により前記外部装置からデータ処理の要求が受信された場合に、該データ処理の要求の内容に基づいて前記通電切替手段を制御することにより、前記機能ブロック各々に対する通電を制御する通電制御手段と、
を具備してなることを特徴とする画像処理装置。」

イ.「【0015】
まず、図1に示すブロック図を参照しつつ、画像処理装置Xの構成について説明する。
画像処理装置Xは、例えば標準規格IEEE802.3に準拠したLAN等のネットワーク30を介して、パーソナルコンピュータ等の外部装置31と通信可能に構成され、その外部装置31と通信を行う通信手段の一例として、ネットワークインターフェースカード5(以下、NICという)を備えている。
(後略)」

ウ.「【0020】
NIC5は、例えば標準規格IEEE802.3に準拠したLAN等のネットワーク30を通じて、外部装置31との間でデータの送受信を行う通信インターフェースである。このNIC5は、例えば、画像処理演算部4により生成された画像データや、スキャナ部6aで読み取られた画像データ、或いはHDD3に保存されているデータを外部装置31へ送信する処理、さらには、外部装置31から各種のデータ処理要求を受信する処理等を行う。ここで、データ処理要求には、記録紙に画像形成を行うことを要求するプリント要求(いわゆる、印刷ジョブ)、原稿から画像を読み取ることを要求するスキャン要求、前記データファイリング処理を行うことを要求するデータファイリング要求等が含まれる。
(後略)」

エ.「【0032】
本画像処理装置Xでは、各機能ブロックに対する通電がなされている場合に、例えばNIC5或いはメイン制御部9が、以下に示す2つの条件(以下、それぞれ第1のスリープ条件及び第2のスリープ条件という)の成否を判別する。そして、それらスリープ条件のいずれかが成立した場合に、当該画像処理装置Xは、前述した通電停止の基本動作に従って、各機能ブロックに対する通電が遮断された状態であるスリープモードに移行する。このスリープモードでは、9つの自動切替スイッチ41?49が全て“OFF状態”に切り替えられ、9つのサブ電源221?229各々の電力供給先となる各機能ブロックが全て“通電無し状態”となる。即ち、NIC5を含むごく一部の機器(NIC5、操作部1及びメイン通電切替回路10)のみが“通電有り状態”となる。
(後略)」

オ.「【0035】
次に、図6を参照しつつ、NIC5がネットワーク30を通じて外部装置31から受信するデータ処理要求の内容について説明する。
図6は、データ処理要求の一例であるプリント要求のデータ構成を表すものである。
図6に示すように、プリント要求は、当該プリント要求全体に関する各種の情報が設定された全体ヘッダ部000dと、印刷ページごとにその印刷ページに関する各種の情報が設定されたページヘッダ部100dと、印刷ページごとの画像データ105d(画像形成の対象となる画像データ)とを含んで構成されている。
ここで、全体ヘッダ部000dには、例えば、当該プリント要求に関する以下のような情報が含まれている。
(中略)
(15)特定の利用者についてのユーザ認証が成功した場合にのみ当該プリント要求に基づく画像形成処理が実行されることを要求する場合における、その特定の利用者に関する情報(ユーザID等)が設定される親展指定情報015d」

カ.「【0042】
また、判断の対象となり得るデータ処理要求の内容の項目として、以下の各項目が設定されている。NIC5の第1通電制御実行部は、データ処理要求に含まれる全体ヘッダ部000dやページヘッダ部100dの内容を参照することによってこれら各項目について判別し、その判別結果に基づいて通電制御を行う。
(中略)
(4)親展指定情報015dによる親展指定304d(指定有りか無しか)
(後略)」

キ.「【0057】
その後、新たなデータ処理要求が受信され、NIC5のフラッシュメモリ66及びメイン制御部9のフラッシュメモリ76に、所定数以上の個数のデータ処理要求が記憶されるという条件や、そのデータ処理要求を記憶するフラッシュメモリの残り容量が所定サイズ未満となったという条件が成立した場合には、ルール番号R2の単位ルールは適用されず、ルール番号R5の単位ルールが適用される。このルール番号R5の単位ルールが適用されると、前記通電制御実行部は、フラッシュメモリ66、76に記憶させたデータ処理要求に対応する機能ブロックを、“通電無し状態”から“通電有り状態”に切り替え(S10、S11)、さらに、“通電有り状態”となった機能ブロックが、そのデータ処理要求に対応する処理を実行する(S13)。
このように、前記通電制御実行部は、スリープモード中に複数のデータ処理要求を受け付けて記憶手段に記憶させた後に、所定の条件(通電開始条件)が成立した際に、それらに対応する機能ブロックを“通電無し状態”から“通電有り状態”に切り替える(前記要求バッファリング通電制御の一例)。即ち、前記通電制御実行部は、自動切替スイッチ41?49を制御することにより、“通電無し状態”の機能ブロックのいずれをどのようなタイミングで“通電有り状態”にするかを制御する。これにより、記憶手段に記憶された複数のデータ処理要求がまとめて処理されるので、機能ブロックに対する通電頻度が減り、画像処理装置Xの消費電力が抑えられる。
なお、図8及び図9に例示した制御ルールの他、前記通電制御実行部がフラッシュメモリ66,76に記憶させたデータ処理要求に対応する処理を開始する条件としては、例えば、フラッシュメモリ66,76に記憶されたデータ処理要求のデータサイズの合計が所定サイズ以上になったという条件や、フラッシュメモリ66,76に1つ目のデータ処理要求が記憶されてから所定時間が経過したという条件等も考えられる。
【0058】
また、前記通電制御部は、データ処理要求の送信者の権限301dに応じて、通電制御の内容を変えることができるので、利用者の権限に応じた柔軟な通電制御が可能となる。
また、前記通電制御部は、データ処理要求の秘密指定308dが“有り”に設定されている場合に、そのデータ処理要求に対応する機能ブロックを“通電無し状態”から“通電有り状態”に切り替えることにより、そのデータ処理要求を即座に処理できる状態に切り替えることができる。その結果、秘匿性の高いデータ処理要求が、フラッシュメモリ66、76やHDD3に長時間記憶されることがなく、秘匿性の高いデータ処理要求の情報が漏洩することを防止できる。
また、前記通電制御部は、制御ルールの設定内容に応じて、当該画像処理装置Xが、NIC5を通じて受信したデータ処理要求の内容に応じた処理を実行できる状態となるまで、機能ブロックを上位のものから下位のものへ順に“通電有り状態”に切り替える制御が可能である。
例えば、データ処理要求がプリント要求である場合に、前記通電制御部は、データ処理要求の親展指定304dが“有り”であれば、最上位の階層のメイン制御部9からその一階層下位のHDD3までを“通電有り状態”に切り替えてそのデータ処理要求をHDD3に記憶させる。一方、前記通電制御部は、親展指定304dが“無し”であれば、最上位の階層のメイン制御部9から最下位の階層のプリント部7aや後処理実行部8a?8cまでを“通電有り状態”に切り替え、プリント処理を実行する。このような制御により、必要最小限の機能ブロックのみを“通電無し状態”から“通電有り状態”へ切り替えることができ、電力消費を最小限に抑えることができる。」

ク.上記ア.の記載とウ.及びオ.ないしキ.の記載とを対照すると、ア.における「データ処理の要求」は、ウ.及びオ.ないしキ.における「データ処理要求」に対応する。

ケ.上記オ.の「(15)特定の利用者についてのユーザ認証が成功した場合にのみ当該プリント要求に基づく画像形成処理が実行されることを要求する場合における、その特定の利用者に関する情報(ユーザID等)が設定される親展指定情報015d」、及び、上記カ.の「(4)親展指定情報015dによる親展指定304d(指定有りか無しか)」との記載からみて、上記キ.の「親展指定304dが“有り”」の「データ処理要求」は「特定の利用者についてのユーザ認証が成功した場合にのみ当該プリント要求に基づく画像形成処理が実行される」ものであるといえる。

コ.上記キ.の「前記通電制御実行部は、自動切替スイッチ41?49を制御することにより、“通電無し状態”の機能ブロックのいずれをどのようなタイミングで“通電有り状態”にするかを制御する。」という記載からみて、「通電制御実行部」は「機能ブロック」を“通電無し状態”と“通電有り状態”とに制御するから、上記ア.の「通電制御手段」に対応する。

上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「外部装置と通信を行う通信手段を備えた画像処理装置であって、
各々機能に応じて区分された部品若しくは部品の集合である複数の機能ブロック各々に対して個別に電力供給する電源に通電するか否かを切り替える通電切替手段と、
前記通信手段により前記外部装置からデータ処理要求が受信された場合に、該データ処理要求の内容に基づいて前記通電切替手段を制御することにより、前記機能ブロック各々に対する通電を制御する通電制御手段と、
を具備し、
ネットワークを介して、外部装置と通信可能に構成され、
NICは、外部装置から各種のデータ処理要求を受信する処理等を行い、
スリープモードでは、各機能ブロックが全て“通電無し状態”となり、
通電制御手段は、スリープモード中に複数のデータ処理要求を受け付けて記憶手段に記憶させた後に、所定の条件(通電開始条件)が成立した際に、それらに対応する機能ブロックを“通電無し状態”から“通電有り状態”に切り替え、記憶手段に記憶された複数のデータ処理要求がまとめて処理され、
データ処理要求がプリント要求である場合に、前記通電制御部は、データ処理要求の親展指定が“有り”であれば、最上位の階層のメイン制御部からその一階層下位のHDDまでを“通電有り状態”に切り替えてそのデータ処理要求をHDDに記憶させ、特定の利用者についてのユーザ認証が成功した場合にのみ当該プリント要求に基づく画像形成処理が実行され、前記通電制御部は、親展指定が“無し”であれば、最上位の階層のメイン制御部から最下位の階層のプリント部や後処理実行部までを“通電有り状態”に切り替え、プリント処理を実行する
画像処理装置。」

第6 対比・判断

1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

後者の「第1のプリンタ」は、その構造、機能、作用等からみて、前者の「印刷装置」に相当し、同様に、「第2のプリンタ」は「画像処理装置」に、「ネットワーク」は「ネットワーク」に、「外部のホストコンピュータ」は「外部装置」に、「省電力状態」は「省電力状態」に、それぞれ相当する。
後者においては「第2のプリンタが第1のプリンタとの通信を行」うから、後者の「第2のプリンタ」は前者の「印刷装置と通信可能な画像処理装置」に相当する。
後者は「第2のプリンタが第1のプリンタを印刷出力先とした印刷要求を検知した場合に、通信用アドレスを用いて第1のプリンタを省電力状態から印刷要求の受信又は問い合わせの受信を可能な電力状態に起動させ、その後にホストコンピュータに直接第1のプリンタに印刷データを投入させる」ところ、「第1のプリンタを印刷出力先と」するのだから、印刷データの投入を受けた第1のプリンタが印刷出力を行うことは明らかである。そうすると、後者の「第1のプリンタを印刷出力先とした印刷要求」は、「第1のプリンタを省電力状態から印刷要求の受信又は問い合わせの受信を可能な電力状態に起動させ」るとともに、「ホストコンピュータに直接第1のプリンタに印刷データを投入させ」、印刷出力という処理を行わせるものであるから、前者の「印刷装置に対する処理要求」と「印刷装置を省電力状態から復帰させる復帰要求」とを兼ねたものといえる。
以上の検討を踏まえると、後者の「ネットワークを介して接続された外部のホストコンピュータからの印刷ジョブ(印刷要求及び印刷データ等を含む)を、インターフェースを経由して受信する受信部」は、前者の「前記印刷装置に対する処理要求をネットワーク上の外部装置から受信する受信手段」に相当する。
後者は「第2のプリンタが第1のプリンタを印刷出力先とした印刷要求を検知した場合に、通信用アドレスを用いて第1のプリンタを省電力状態から印刷要求の受信又は問い合わせの受信を可能な電力状態に起動させ」るところ、当該起動が省電力状態において行われることは明らかであって、また、「第2のプリンタ」は当該起動をさせる手段を有しているといえるから、後者の当該手段は、前者の「前記印刷装置が前記省電力状態であり、かつ、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる復帰要求を前記受信手段が受信した場合に、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる制御手段」に相当する。

したがって、両者は、
「印刷装置と通信可能な画像処理装置であって、
前記印刷装置に対する処理要求をネットワーク上の外部装置から受信する受信手段と、
前記印刷装置が省電力状態であり、かつ、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる復帰要求を前記受信手段が受信した場合に、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる制御手段とを備える画像処理装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
前者が「印刷装置が省電力状態であり、かつ、印刷装置に対する特定の処理要求を受信手段が受信した場合に、印刷装置を省電力状態から復帰させることなく、かつ、特定の処理要求が示す処理を画像処理装置が実行することなく、特定の処理要求を保持する保持手段」を有するのに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点2]
前者の制御手段は「印刷装置を省電力状態から復帰させる際に、保持手段が保持している特定の処理要求を印刷装置に送信する」のに対して、後者はそのようなものでない点。

(2)判断
相違点2について検討する。

本願発明1は「前記印刷装置が前記省電力状態であり、かつ、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる復帰要求を前記受信手段が受信した場合に、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる」から、相違点2における「印刷装置を省電力状態から復帰させる際」は、「前記印刷装置が前記省電力状態であり、かつ、前記印刷装置を前記省電力状態から復帰させる復帰要求を前記受信手段が受信した場合」である。そうすると、相違点2の「印刷装置を省電力状態から復帰させる」ことは「復帰要求」を前提としており、「復帰要求」は受信手段が受信するものであるから、「保持手段が保持している特定の処理要求」とは、別個の要求であるといえる。

引用発明1は、上記(1)における検討のとおり、「印刷装置に対する処理要求」と「印刷装置を省電力状態から復帰させる復帰要求」とを兼ねた「印刷要求」を有するものであって、「復帰要求」と「処理要求」とを別個に有するものではない。

引用発明2の「外部装置」は、その構造、機能、作用等からみて、本願発明1の「外部装置」に相当し、同様に、「画像処理装置」は「画像処理装置」に、「データ処理要求」は「処理要求」に、「ネットワーク」は「ネットワーク」に、「スリープモード」は「省電力状態」に、それぞれ相当する。
引用発明2の「NIC」は「外部装置から各種のデータ処理要求を受信する処理等を行」うから、本願発明1の「前記印刷装置に対する処理要求をネットワーク上の外部装置から受信する受信手段」とは、要求の対象となる装置は異なるものの、「装置に対する処理要求をネットワーク上の外部装置から受信する受信手段」との概念で共通する。
しかしながら、引用発明2は、「通電制御手段は、スリープモード中に複数のデータ処理要求を受け付けて記憶手段に記憶させた後に、所定の条件(通電開始条件)が成立した際に、それらに対応する機能ブロックを“通電無し状態”から“通電有り状態”に切り替え、記憶手段に記憶された複数のデータ処理要求がまとめて処理され」るから、「複数のデータ処理要求」という単一の要求に基づいて、“通電無し状態”から“通電有り状態”への切り替えと、データ処理要求に係る処理とを行うものであって、「復帰要求」と「処理要求」とを別個に有するものではない。

また、引用発明2は、「データ処理要求がプリント要求である場合に、前記通電制御部は、データ処理要求の親展指定が“有り”であれば、最上位の階層のメイン制御部からその一階層下位のHDDまでを“通電有り状態”に切り替えてそのデータ処理要求をHDDに記憶させ、特定の利用者についてのユーザ認証が成功した場合にのみ当該プリント要求に基づく画像形成処理が実行され、前記通電制御部は、親展指定が“無し”であれば、最上位の階層のメイン制御部から最下位の階層のプリント部や後処理実行部までを“通電有り状態”に切り替え、プリント処理を実行する」ものでもある。
しかしながら、「親展指定が“無し”」の場合には、「最上位の階層のメイン制御部から最下位の階層のプリント部や後処理実行部までを“通電有り状態”に切り替え」るところ、各階層が“通電有り状態”に切り替える前には“通電無し状態”であることは明らかである。すると、引用発明2は「親展指定が“無し”」の場合には、「データ処理要求」という単一の要求に基づいて、“通電無し状態”から“通電有り状態”への切り替えと、プリント処理の実行とを行うものであって、本願発明1のように「復帰要求」と「処理要求」とを別個に有するものではない。
また、「親展指定が“有り”」の場合には、「画像形成処理が実行される」際に「親展指定が“無し”」の場合と同様に「最上位の階層のメイン制御部から最下位の階層のプリント部や後処理実行部までを“通電有り状態”に切り替え」ていることは明らかである。すると、引用発明2は「親展指定が“有り”」の場合には、「データ処理要求」という単一の要求に基づいて、ユーザ認証が成功した場合に、一部の階層の“通電有り状態”から全部の階層の“通電有り状態”への切り替えと、画像形成処理の実行とを行うものであって、「復帰要求」と「処理要求」とを別個に有するものではない。

してみると、引用発明2は「処理要求」と「復帰要求」とを別個に有するものではないから、引用発明1に引用発明2を適用して上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

また、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。

そして、本願発明1は、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を具備することにより、本願明細書に記載の「他の画像処理装置の省電力状態を維持しつつ処理要求を実行することができる。」(段落【0010】)という作用効果を奏するものである。

そうすると、本願発明1は引用発明1及び2に基いて当業者が容易に想到することができたものではない。

2.本願発明2ないし5について
本願発明2及び3は、本願発明1をさらに限定したものである。
また、本願発明4は、「画像処理装置」の発明である本願発明1に対応する「画像処理装置の制御方法」の発明であって、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を備えるものであり、本願発明5は、本願発明4をさらに限定したものである。
そうすると、本願発明2ないし5は、本願発明1と同様に、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に想到することができたものではない。

第7 原査定について

上記「第6」において検討したとおり、本願発明1ないし5は引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に想到することができたものではない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-04-09 
出願番号 特願2015-127057(P2015-127057)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B41J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 藤本 義仁
森次 顕
発明の名称 画像処理装置、画像処理装置の制御方法、およびプログラム  
代理人 黒岩 創吾  
代理人 阿部 琢磨  

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