• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1339132
異議申立番号 異議2017-700600  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-13 
確定日 2018-02-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6045631号発明「熱収縮性ポリエステル系フィルム及び熱収縮性ポリエステル系ラベル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6045631号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6045631号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6045631号の請求項2に係る特許に対する本件異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6045631号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2015-97885号、以下「本願」という。)は、平成23年3月31日(優先権主張:平成22年3月31日及び平成22年6月24日、いずれも大韓民国(KR))に出願人コーロン インダストリーズ インク(以下「特許権者」ということがある。)によりされたものとみなされる国際特許出願(特願2013-501198号)の一部を平成27年5月13日に新たな特許出願としたものであり、平成28年11月25日に特許権の設定登録(請求項の数15)がされたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成29年6月13日付けで特許異議申立人早川いづみ(以下「申立人」という。)により「特許第6045631号の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。

3.以降の手続の経緯
平成29年 9月12日付け 取消理由通知
平成29年12月21日 訂正請求書

第2 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提示し、主張する取消理由を当審で整理すると、概略、以下の取消理由1ないし4が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、いずれも、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由2:本件特許の請求項1に係る発明は、その解決課題を解決できない実施態様を含むものであり、(本件特許に係る明細書の)発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1及び同項を引用する請求項2ないし5の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願にされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由3:本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、(a)本件特許の請求項1に係る発明における「グリコール成分」の量比(モル%)につき、本件特許明細書の実施例に係る記載が不備であり、当該量比を達成することはできないから、本件特許に係る請求項1及び同項を引用する請求項2ないし5に係る各発明を当業者が実施できるように記載されておらず、また、(b)本件特許の請求項2に係る発明における「粒子の粒径の測定方法」が記載されておらず、同発明を当業者が実施できるように記載されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないものであり、本件特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願にされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由4:本件特許の請求項1に係る発明における「グリコール成分」の量比(モル%)につき、本件特許明細書の実施例に係る記載が不備であり、当該量比につき不明であるから、本件特許に係る請求項1及び同項を引用する請求項2ないし5の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(なお、以上のとおりであるから、本件特許異議の申立てに係る審理対象となるのは、請求項1ないし5及びそれらに係る本件特許明細書の部分であり、請求項6以降については、本件特許異議の申立てに係る審理の対象外である。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2004-181863号公報
甲第2号証:特開2006-63260号公報
甲第3号証:特開平10-259274号公報
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲3」と略していう。)

第3 取消理由通知の概要
上記平成29年9月12日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
「当審は、
申立人が主張する上記取消理由2により、本件発明1及び3ないし5についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。・・(中略)・・
したがって、本件の請求項1及び3ないし5の記載は、いずれも特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件の請求項1及び3ないし5に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。」

第4 平成29年12月21日付け訂正請求の適否

1.訂正請求の内容
上記平成29年12月21日付け訂正請求では、本件特許の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし5について一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであり、以下の(ア)及び(イ)の訂正事項を含むものである。(なお、下線は、当審が付したもので訂正箇所を表す。)

(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「ブチレンテレフタレート繰り返し単位を含むポリエステル系樹脂マトリックス内に分散した粒子を含み、」と記載されているのを、
「ブチレンテレフタレート繰り返し単位を含むポリエステル系樹脂マトリックス内に分散した粒子を含み、
前記粒子は0.1?5μmの平均粒径を有し、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3、4、5も同様に訂正する)。

(イ)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

2.検討
なお、以下の検討において、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正前の特許請求の範囲における請求項1ないし5を「旧請求項1」ないし「旧請求項5」、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1ないし5を「新請求項1」ないし「新請求項5」という。

(1)訂正の目的要件について
上記の各訂正事項による訂正の目的につき検討する。
上記訂正事項1に係る訂正は、旧請求項2に記載された粒径に係る事項を、旧請求項1に直列的に付加して減縮し、新請求項1としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
上記訂正事項2に係る訂正は、旧請求項2に記載された事項を全て削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものと認められる。
したがって、上記訂正事項1及び2による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の目的要件に適合するものである。

(2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
上記(1)に示したとおり、訂正事項1及び2に係る訂正により、新請求項1及び同項を引用する新請求項3ないし5の特許請求の範囲が旧請求項1ないし5に記載された事項に対して減縮されていることが明らかであるから、上記訂正事項1及び2による訂正は、いずれも新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。
してみると、上記訂正事項1及び2による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の旧請求項2ないし5は、いずれも旧請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(4)訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項並びに第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。

第5 本件特許に係る請求項に記載された事項
本件訂正後の本件特許に係る請求項1ないし5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
ブチレンテレフタレート繰り返し単位を含むポリエステル系樹脂マトリックス内に分散した粒子を含み、
前記粒子は0.1?5μmの平均粒径を有し、
不透明度(Opacity、%)が20?70%であり、フィルムロールの全幅にわたって不透明度(%)の偏差が平均±5%以内の値を示し、90℃の温水中で10秒間にわたって処理した場合に最大収縮方向に対する収縮率が40?80%であり且つ最大収縮方向に対する収縮率の偏差が平均±5%以内であり、
ポリエステル系樹脂マトリックスは、テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸のジカルボン酸を1つ以上含むジカルボン酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのジオールを1つ以上含むジオール成分から得られるコポリエステルの中から選ばれた少なくとも1種のコポリエステルを含み、
前記コポリエステルは、ジカルボン酸単位体中のテレフタル酸単位体が80モル%以上含まれ、ジオール単位体中のエチレングリコール以外の単位体が14?24モル%含まれ、
ブチレンテレフタレート繰り返し単位が、全体ポリエステル系樹脂マトリックスに対して2?15重量%で含まれる、
熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
粒子は、酸化チタニウムであり、フィルムの総重量に対して2?10重量%で含まれる、請求項1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
コポリエステルは195?215℃の融点(Melting Point)を有する、請求項1から3いずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
コポリエステルは、全体ポリエステル樹脂に対して85?98重量%で含まれる、請求項1から4いずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(以下略)」
(以下、上記請求項1ないし5に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明5」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第6 当審の判断
当審は、
当審が通知した取消理由については理由がなく、また、申立人が主張する上記取消理由1ないし4につきいずれも理由がないから、本件発明1及び3ないし5についての特許は取り消すことはできず、維持すべきものである、
本件の請求項2に係る特許に対する本件異議申立は、訂正により同項の記載事項が全て削除されたことにより、申立ての対象を欠く不適法なものとなり、その補正ができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである、
と判断する。以下、詳述する。

I.当審が取消理由通知で通知した理由について

1.通知した理由の内容
当審が上記取消理由通知で通知した取消理由2に係る検討内容は、以下のとおりである。

「・取消理由2について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0010】等)からみて、本件特許に係る発明、特に本件発明1ないし5の解決しようとする課題は、「収縮性を維持しながら、フィルム自体が有色を帯びることによりラベル用途への適用の際に印刷外観及び隠蔽性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルム」の提供にあるものといえる。
しかるに、申立人が申立書第30頁第4行?第16行において主張するとおり、本件特許明細書には、請求項1に記載された事項を具備するものと認められる実験例(実施例9)の場合に「印刷不良率」が上昇し、「印刷外観」につき大きく劣ることが記載されている。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載につき検討しても、上記「印刷外観及び隠蔽性」に直接関係する物性である「不透明度」及びその「偏差」に係る事項を除く請求項1に記載された事項を具備する場合に、上記「印刷外観及び隠蔽性」につき改善されるであろうと当業者が認識できるような作用機序が記載されているものとは認められず、本件特許に係る(原)出願の日(優先日)において、「不透明度」及びその「偏差」に係る事項を除く請求項1に記載された事項を具備する場合に上記「印刷外観及び隠蔽性」につき改善されるであろうと当業者が認識できるような技術常識が存するものとも認められない。
(なお、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例に係る記載につき検討すると、請求項2に記載された事項を具備しない「実施例9」の場合に、同事項を具備する他の実施例に比して、印刷外観に劣ることが看取できるので、請求項2に記載された事項を具備する場合には、上記「印刷外観及び隠蔽性」につき改善されるであろうと当業者が認識できるものと認められる。)
してみると、本件の請求項1及び同項を直接引用する請求項3ないし5に記載された事項を具備する熱収縮性ポリエステル系フィルムに係る各発明が、上記解決課題を解決できるであろうと当業者が認識できるものとはいえないから、本件発明1及び3ないし5が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということはできない。
したがって、本件の請求項1及び3ないし5の記載は、いずれも特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。」

2.検討
そこで、本件訂正後の新請求項1及び3ないし5について、上記通知した理由と同一の理由が成立するか否かにつき再度検討すると、新請求項1では、旧請求項2に記載された事項を直列的に付加したものであるところ、上記取消理由で説示したとおり、旧請求項2に記載された事項を具備する場合においては「印刷外観及び隠蔽性」につき改善されるであろうと当業者が認識できるものと認められるのであるから、旧請求項2に記載された事項を直列的に付加した新請求項1に記載された事項を具備する場合には、上記「印刷外観及び隠蔽性」につき改善されるであろうと当業者が認識できるものと認められる。
してみると、本件の新請求項1及び同項を直接引用する新請求項3ないし5に記載された事項を具備する熱収縮性ポリエステル系フィルムに係る各発明が、上記解決課題を解決できるであろうと当業者が認識できるものと理解するのが自然であるから、本件発明1及び3ないし5が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。

3.当審が通知した取消理由についてのまとめ
以上のとおり、本件特許に係る請求項1及び3ないし5の記載では、同各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、当審が上記取消理由通知で通知した取消理由は、本件訂正後の請求項1及び3ないし5につき理由がない。

II.申立人が主張する取消理由について
事案に鑑み、取消理由2、取消理由3、取消理由4、取消理由1の順で検討する。

1.取消理由2について
申立人が主張する取消理由2のうちの「ア.本件特許実施例9について」(申立書第30頁第4行?第16行)の点は、当審が取消理由通知で通知した理由と同一である。
しかるに、当該理由は、上記I.で説示したとおりの理由により、本件訂正後の請求項1及び3ないし5につき理由がない。
次に、申立人が主張する取消理由2のうちの「ウ.本件特許実施例の『インラインコート』について」(申立書第30頁第25行?第31頁第14行)の点につき検討すると、本件特許に係る各実施例の場合において、帯電防止処理剤のインラインコートを行わなかった場合に、本件発明に係る課題である「印刷外観に優れる」点を達成できないとすべき当業者の技術常識等が存するものとは認められないし、申立人による技術的論証もない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0069】)における「印刷不良」がいかなる程度のものか不明であり、本件発明に係る課題である「印刷外観に優れる」点を達成できないと評価すべき程度の「不良」であるか否かについても不明である。
してみると、帯電防止処理剤のインラインコートを行うことを発明特定事項として含まない本件発明につき、当業者が、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして、本件発明に係る課題である「印刷外観に優れる」点につき解決できないであろうと認識するものとは認められない。
したがって、本件の新請求項1及び同項を直接引用する新請求項3ないし5に記載された事項を具備する熱収縮性ポリエステル系フィルムに係る各発明が、上記解決課題を解決できるであろうと当業者が認識できるものと理解するのが自然であるから、本件発明1及び3ないし5が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。(よって、この部分につき上記の取消理由通知において、理由を通知しなかった。)
以上のとおり、申立人が主張する取消理由2については、いずれも理由がない。

2.取消理由3について
申立人が主張する上記第2で示した取消理由3につき、事案に鑑み、(b)の点、(a)の点の順に検討する。

(1)(b)の点について
取消理由3のうち(b)の点は、本件訂正前の旧請求項2に記載された事項に対応する本件特許明細書の発明の詳細な説明につき申立ての対象としているところ、本件訂正により旧請求項2はその記載事項が全て削除されたから、取消理由3の(b)の点については解消されたものと認められる。
なお、念のため、更に検討すると、申立人の取消理由3の(b)に係る主張(申立書第30頁第17行?第24行、「イ.本件特許構成要件【G】について」)は、「粒子の粒径は測定方法によりその値が大きく異なるものである」ことを前提として「本件特許の発明の詳細な説明には、該粒径の測定方法が何ら記載されておらず、当業者が本件特許発明2を実施することができ」ない旨主張している。
しかるに、上記主張の前提である、単一粒状物であっても「粒子の粒径は測定方法によりその値が大きく異なるものである」との点につき、当業者の技術常識等が存するものとは認められないし、申立人の技術的論証もない。
そして、単一粒状物の(平均)粒径は、固有の単一値であるはずであるところ、粒径自体を変動させる要因(粒子の凝集、凝集破壊、溶解などが考えられる。)が存しない限りにおいて、測定方法により測定誤差を超える有意に「大きな差異」が発現するものと認めることはできない。
(例えば、当業者において本願出願(原出願優先日)前に周知慣用の「コールターカウンター法」(甲第1号証及び甲第2号証参照)、「動的光散乱法」(甲第3号証参照)、「液中沈降法」などの粒径の測定方法が存するものと認められるところ、単一粒状物につき上記のうち複数の測定方法で粒径の測定を行った場合に、複数の測定値の間で有意に大きな差異が存するならば、単一の粒状物試料の粒径がどの値であるのか決定できるものではない。)
してみると、申立人の取消理由3の(b)に係る主張は、その前提を欠くものであり、採用することはできない。

(2)(a)の点について
申立人が主張する取消理由3の(a)の点について技術常識に基づき確認すると、申立人の取消理由3に係る主張(申立書第31頁第15行?第32頁第23行、「エ.本件特許実施例のコポリエステルの組成について」)は、「ポリエステルの重合・製造において、グリコール成分と二塩基酸成分とはモル比1:1で反応するところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1では、『CO-PET』の製造において、テレフタル酸100モル%に対してエチレングリコール100モル%とネオペンチルグリコール24モル%との合計124モル%を反応させており、グリコール成分が化学量論的に過剰となっているところ、過剰分に関してはポリエステルの重合条件下で留去されるものであるから、生成する『CO-PET』なるポリエステルにおけるグリコール成分中のエチレングリコールの含有量は原料使用量比と同一にならず不明であると共に、実施例2ないし9についても同様であって、当業者が本件発明を実施することができない」というものと認められる。(なお、上記主張に係る申立書の記載には、「グリコール成分」と記載すべきところを「二塩基酸成分」と記載した誤記が多数存するため、上記のとおりであると整理した。)
しかるに、申立人が前提として主張するとおり、「ポリエステルの重合・製造において、グリコール成分と二塩基酸成分とはモル比1:1で反応する」ことは、特に論証を要しない程度の当業者の技術常識であるから、本件請求項1に記載された「ポリエステル系樹脂マトリックス」に係る事項(テレフタル酸単位体の含有量、ジオール単位体中のEG以外の単位体の含有量、ブチレンテレフタレート繰り返し単位の含有量)のいずれをも具備すべく、グリコール成分の原料組成比及び二塩基酸成分の原料組成比を調整決定して本件発明に係る「ポリエステル系樹脂マトリックス」を構成することは、当業者が適宜なし得ることであり、当業者が適宜実施できることと認められる。
(例えば、本件の実施例1の場合において、請求項1に記載された事項を具備しようとするならば、エチレングリコール100モル部及びネオペンチルグリコール24モル部からなるグリコール成分に対して、テレフタル酸100モル%を反応させて「CO-PET」を構成することにより、当業者が実施することが可能である。)
してみると、申立人の取消理由3の(a)に係る主張は、当を得ないものであり、採用することはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、申立人が主張する上記取消理由3は、いずれも理由がない。
(よって、上記の取消理由通知において、この理由を通知しなかった。)

3.取消理由4について
申立人が主張する取消理由4について技術常識に基づき確認すると、申立人の取消理由4に係る主張(申立書第31頁第15行?第32頁第23行、「エ.本件特許実施例のコポリエステルの組成について」)は、「ポリエステルの重合・製造において、グリコール成分と二塩基酸成分とはモル比1:1で反応するところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1では、『CO-PET』の製造において、テレフタル酸100モル%に対してエチレングリコール100モル%とネオペンチルグリコール24モル%との合計124モル%を反応させており、グリコール成分が化学量論的に過剰となっているところ、過剰分に関してはポリエステルの重合条件下で留去されるものであるから、生成する『CO-PET』なるポリエステルにおけるグリコール成分中のエチレングリコールの含有量は原料使用量比と同一にならず不明であると共に、実施例2ないし9についても同様であって、本件発明1ないし5は不明確である」というものと認められる。(なお、上記主張に係る申立書の記載には、「グリコール成分」と記載すべきところを「二塩基酸成分」と記載した誤記が多数存するため、上記のとおりであると整理した。)
しかるに、本件特許に係る新請求項1及び3ないし5の記載を検討しても、各項に記載された事項に特定される特許を受けようとする発明を明確に把握・認識することができるものであり、特に請求項に係る発明が不明確であるとすべき記載が存するものとも認められない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、上記各請求項に係る発明につき、不明確であると認識することができるような記載が存するものとは認められない。
(なお、請求項に記載された事項と「実施例」に記載された事項とが不整合であったとしても、当業者の技術常識に照らして「実施例」に記載された事項の方が明らかに正当であると評価できる場合を除き、当該「実施例」が、請求項に記載された事項に特定される特許を受けようとする発明に係るものでない実験例として取り扱うのみであり、請求項の記載において発明が明確でないとすべき要因となるものではない。)
してみると、本件特許に係る新請求項1及び3ないし5の記載では、各項に記載された事項に特定される特許を受けようとする発明が明確であるということができる。
したがって、申立人が主張する上記取消理由4は、理由がない。
(よって、上記の取消理由通知において、この理由を通知しなかった。)

4.取消理由1について

(1)各甲号証の記載事項及び甲1並びに甲2に記載された発明
上記取消理由1は、本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲3に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1及び甲2に記載された発明の認定を行う。(なお、摘示における下線は、当審が付したものである。)

ア.甲1の記載事項及び甲1に記載された発明

(ア)甲1の記載事項
甲1には、申立人が申立書第7頁下から第5行ないし第15頁第3行で摘示するとおりの事項及び当審が新たに提示する以下の事項が記載されており、
「無機および/または有機微粒子を含有する熱収縮性ポリエステル系フィルムを巻き取ってなるフィルムロールであって、この熱収縮性ポリエステル系フィルムは、
(1)フィルムの長さ方向にフィルム物性が安定している定常領域におけるフィルムの巻き始め側の端部を第1端部、巻き終わり側の端部を第2端部とし、前記第2端部の内側2m以内の箇所に1番目の試料切り出し部を、また、前記第1端部の内側2m以内の箇所に最終の試料切り出し部を設けると共に、1番目の試料切り出し部から約100m毎に試料切り出し部を設け、夫々の試料切り出し部から10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を、85℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率が、全ての試料について20%以上であり、
(2)上記各試料切り出し部から別途切り出した試料について全光線透過率を測定したとき、全試料の全光線透過率が40%以下であると共に、これらの平均値を算出したとき、全試料の全光線透過率が、この平均値の±1.5%以内の範囲に収まっているものであることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。」(【請求項1】)、「上記熱収縮性ポリエステル系フィルムは、少なくとも片面に表面層を有するものであり、該表面層は、無機および/または有機微粒子含有量が該表面層全量に対して0.2質量%以下(0質量%を含む)であり、且つ空洞を実質的に含有しないものである請求項2または3に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。」(【請求項4】)及び「原料ポリマーチップを溶融押出する工程を含む、請求項1?5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールを製造する方法であって、前記熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに巻回される熱収縮性ポリエステル系フィルムが有する無機および/または有機微粒子の全量を、前記原料ポリマーチップの少なくとも一部に予め含有させておくことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの製造方法。」(【請求項6】)がそれぞれ記載され、「[隠蔽性]さらに、本発明に係るフィルムは、JIS K 7136の規定に従い、上記の各試料切り出し部から別途切り出された試料について全光線透過率を測定し、全試料の全光線透過率の平均値を算出したとき、各試料の全光線透過率が、40%以下であると共に、前記平均値の±1.5%以内の範囲に収まっているものでなければならない」こと(【0022】)、「全光線透過率が上記上限値以下のフィルムであれば、例えば入射する紫外線を25%以上カットできるため、内容物の変質抑制が要求される容器などの被覆ラベルなどに好適に使用できる。すなわち、全光線透過率が40%を超えるフィルムでは、例えば、該フィルムからラベルを作製し、これを容器などに被覆収縮させた場合に、ラベル外面側から内容物が透けて見えたり、内容物の変質が生じる可能性が高くなる。なお、ラベル外面側から内容物が透けて見えるということは、可視光線領域の波長の光(400?700nm程度)の透過量が多いことを意味しているが、こうした波長域の光も、容器内容物の種類によっては、該内容物の変質に寄与するため、これらの光を遮蔽することも要求される場合がある」こと(【0024】)及び「上記各切り出し部から切り出された各試料の全光線透過率が、全試料の全光線透過率の平均値±1.5%以内の範囲、好ましくは±1.3%以内の範囲、さらに好ましくは±1.0%以内の範囲に収まっていなければならない。各試料の全光線透過率が上記範囲に納まっていないフィルムロールから製造したラベルや袋では、個々の隠蔽性が変動しており、これらのラベルなどで被覆した容器などにおいて、内容物の変質が生じ易いものなどが発生する可能性が高くなる」こと(【0026】)も記載されている。
また、甲1には、「[フィルム組成]本発明では、熱収縮工程において、低温から高温までの幅広い温度域において優れた収縮仕上り性を有し、特に比較的低温域においても収縮斑、シワ、歪みが少ない収縮仕上り外観を得ることができ、また美麗な光沢感などを得ることができることから、ポリエステル系樹脂から構成されるフィルムを採用する」(【0031】)こと、「上記ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸、それらのエステル形成誘導体、脂肪族ジカルボン酸の1種以上を用い、多価アルコール成分と重縮合した公知の(共重合)ポリエステルを用いることができ」、「芳香族ジカルボン酸として、例えばテレフタル酸・・などが挙げられる」こと(【0032】)、「多価アルコール成分としては、エチレングリコール、・・1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール・・などが挙げられる」こと(【0033】)、「本発明に係るフィルムを構成するポリエステル系樹脂においては、多価アルコール成分として、・・ネオペンチルグリコール成分、1,4-ブタンジオール成分の少なくとも1種を含有することが好ましい」こと(【0035】)、「本発明に係るフィルムでは、耐破れ性、強度、耐熱性などを発揮させるために、結晶性のエチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とすることが望ましい。これに対し、・・ネオペンチルグリコール成分、1,4-ブタンジオール成分を含むユニットは、フィルムの結晶性を下げて非晶化度合いを高め,より高い熱収縮性を発現するものである」こと(【0036】)、「収縮白化を抑制する点では、フィルムの多価アルコール成分中、・・ネオペンチルグリコール成分、1,4-ブタンジオール成分の少なくとも1種を、5モル%以上とすることが推奨される」こと(【0040】)、「具体的には、多価アルコール成分100モル%中、・・ネオペンチルグリコール成分、1,4-ブタンジオール成分の少なくとも1種が、10モル%以上、好ましくは12モル%以上であることが推奨される」こと(【0043】)、「ネオペンチルグリコール成分、1,4-ブタンジオール成分は、合計量で50モル%以下が好ましく、45モル%以下がより好ましい」こと(【0046】)及び「本発明に係るフィルムを構成するポリエステル系樹脂では、上述の通り、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とすることが好ましく、具体的には、構成ユニット100モル%中、エチレンテレフタレートユニットが50モル%以上となるように選択することが望ましい」から「、多価カルボン酸成分100モル%中、テレフタル酸成分(テレフタル酸またはそのエステルから形成される成分)を50モル%以上、多価アルコール成分100モル%中、エチレングリコール成分を50モル%以上、とすることが好ましい。エチレンテレフタレートユニットは、55モル%以上がより好ましく、60モル%以上がさらに好ましい」こと(【0047】)が記載されている。
そして、甲1には、「本発明に係るフィルムでは、全光線透過率を上記上限値以下とするために、無機および/または有機微粒子(以下、両者を併せて単に「微粒子」という)を必須の構成要素とする」こと(【0053】)、「無機微粒子としては」「カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、カーボンブラックなどの公知の不活性粒子が好適である」こと(【0054】)、「これらの微粒子の含有量は、例えば、フィルム全質量に対し、0.1?20質量%であることが好ましく、0.5?10質量%であることがより好ましい」こと(【0055】)及び「フィルム中に含有される上記微粒子の平均粒径は、コールターカウンター法で測定した値で、0.001?3.5μmであることが好まし」く、「より好ましくは0.05?1μmである」こと(【0056】)が記載されている。
さらに、甲1には、「実施例1」として「A層」と「B層」とからなるフィルムが記載され、「A層」が「ポリエステルチップ(c)」、「ポリエステルチップ(d)」及び「ポリエステルチップ(f)」からなり、「B層」が「ポリエステルチップ(d)」、「ポリエステルチップ(f)」、「ポリエステルチップ(c’)」及び「ポリスチレン」からなること(特に【0140】【表3】)、当該実施例1のフィルムが平均の全光線透過率が27.2%で、平均の熱収縮率が52.9%がそれぞれ達成されていること(特に【0143】【表5】)並びに当該「ポリエステルチップ(c)」、「ポリエステルチップ(d)」及び「ポリエステルチップ(f)」は、いずれも多価カルボン酸成分がテレフタル酸成分であり、多価アルコール成分が、それぞれ、「EG:DEG=99:1」、「EG:CHDM:DEG=67:32:1」及び「BD=100」のモル比で含有するものであって、また、「ポリエステルチップ(c’)」は、「ポリエステルチップ(c)」50質量%と酸化チタン微粒子50質量%とからなる混合物であること(【0125】?【0127】)も記載されている。

(イ)甲1に記載された発明
上記甲1には、上記の記載(特に下線部)からみて、
「平均粒径0.05?1μmである酸化チタンなどの無機微粒子を含有する熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、この熱収縮性ポリエステル系フィルムは、
(1)複数の試料切り出し部から10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を、85℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率が、全ての試料について20%以上であり、
(2)上記各試料切り出し部から別途切り出した試料について全光線透過率を測定したとき、全試料の全光線透過率が40%以下であると共に、これらの平均値を算出したとき、全試料の全光線透過率が、この平均値の±1.5%以内の範囲に収まっており、
さらに、当該フィルムを構成するポリエステル系樹脂は、多価カルボン酸成分100モル%中、テレフタル酸成分(テレフタル酸またはそのエステルから形成される成分)を50モル%以上、多価アルコール成分100モル%中、エチレングリコール成分を50モル%以上、ネオペンチルグリコール成分及び/又は1,4-ブタンジオール成分を合計量で50モル%以下含有するものである、
熱収縮性ポリエステル系フィルム。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

イ.甲2の記載事項及び記載された発明

(ア)甲2の記載事項
甲2には、申立人が申立書第15頁第6行ないし第19頁下から第3行で摘示するとおりの事項及び当審が新たに提示する下記の事項が記載されており、「熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、前記熱収縮性ポリエステル系フィルムの全光線透過率が40%以下であり、ヘーズが90%以上であり、熱収縮率が、主収縮方向において、処理温度70℃・処理時間10秒で5?60%であり、処理温度90℃・処理時間10秒で75%以上であり、主収縮方向と直交する方向において、処理温度90℃・処理時間10秒で10%以下であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム」(【請求項1】)、「請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、酸化チタンを含有する層を少なくとも1層以上有することを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。」(【請求項2】)及び「ポリエチレンテレフタレートを主成分として、非晶成分となる副成分モノマーを18モル%以上含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。」(【請求項4】)がそれぞれ記載されると共に、当該「熱収縮性ポリエステル系フィルムは、」「ジカルボン酸成分と多価グリコール成分とで構成されるポリエステルを、押出機から溶融押出しシ、導電性冷却ロール(キャスティングロールなど)で冷却してフィルム化する(未延伸フィルム)」ことにより得られること(【0018】)及び「前記押出しに際しては、共重合ポリエステルを単独で押出すか、又は複数のポリエステル(共重合ポリエステル、ホモポリエステルなど)を混合して押出す」ものであり「前記フィルムは、ベースユニット(ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ユニットなど)と、前記ベースユニットを構成する多価グリコール成分(エチレングリコール成分など)とは異なる第2のアルコール成分を含有している」ものであって、また、「本発明の酸成分、ジオール成分の含有率は、2種以上のポリエステルを混合して使用する場合、ポリエステル全体の酸成分、ジオール成分に対する含有率である」こと(【0019】)並びに上記「第2のアルコール成分は、ジオール成分および三価以上のアルコール成分が使用でき」、「ジオール成分には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール・・などのアルキレングリコール・・などが含まれる」ことが記載されている(【0022】)。
そして、上記甲2には、「本発明フィルム特定の全光線透過率、ヘーズを達成して、フィルムに光線カット性を付与するためには、例えば、フィルム中に、無機粒子、有機粒子等の粒子をフィルム質量に対して0.1?20質量%、好ましくは0.5?10質量%含有させることが、好適である」こと及び「添加される無機粒子としては、例えば、・・酸化アルミニウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、カーボンブラック等の公知の不活性粒子・・であることができ」、「これらのうち、酸化チタン粒子が必要な光線カット性を付与する観点から好ましい」こと(【0025】?【0026】)並びに「フィルム中に含まれる該粒子の平均粒径は、通常、0.001?3.5μmの範囲であ」り、「より好ましくは0.005μm以上3.0μm以下である」こと(【0027】)も記載されている。
また、甲2には、「本発明のポリエステル系フィルムは、JIS K 7136に準じて測定されたフィルムの全光線透過率が40%以下であることが必要であ」り、「該透過率が40%以上であると、内容物が透けて見えたり、光線カットできずに内容物が劣化したりしていずれも好ましくない」こと(【0041】)、「本発明のポリエステル系フィルムは、JIS K 7136に準じて測定されたフィルムのヘーズが90%以上であることが必要であ」り、「該ヘーズが90%未満であると、内容物が透けて見えたり、光線カットできずに内容物が劣化したりしていずれも好ましくない」こと(【0042】)及び「本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、・・フィルムの熱収縮率が、主収縮方向において、処理温度70℃・処理時間10秒で5?60%であり、」「処理温度90℃・処理時間10秒で75%以上であり、」「主収縮方向と直交する方向において、処理温度90℃・処理時間10秒で10%以下であ」ること(【0044】)も記載されている。
さらに、甲2には、「実施例1」として「A層」と「B層」とからなるフィルムが記載され、「A層」が「ポリエステルA」、「ポリエステルB」及び「ポリエステルE」からなり、「B層」が「ポリエステルA」、「ポリエステルB」、「ポリエステルE」、「ポリスチレン」及び「TiO_(2)」からなること(特に【0117】【表2】)、当該実施例1のフィルムが全光線透過率が32%、ヘーズ値が95%であり、熱収縮率につき、30%(横方向70℃)、77%(横方向90℃)及び-1%(縦方向90℃)がそれぞれ達成されていること(特に【0118】【表3】)、当該「ポリエステルA」又は「ポリエステルB」は、いずれも多価カルボン酸類がテレフタル酸であり、多価アルコール成分が、それぞれ、「EG=100」又は「EG:NPG=70:30」であるものであり、「ポリエステルE」は、「多価カルボン酸類がテレフタル酸でBD=100である『ポリエステルC』70質量%にε-カプロラクトン30質量%を反応させたもの」であること(【0116】【表1】)並びに当該「TiO_(2)」が「TA-300」なる商品名のものであること(【0103】)も記載されている。

(イ)甲2に記載された発明
上記甲2には、上記の各記載(特に下線部)からみて、
「熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、ポリエチレンテレフタレートを主成分として、非晶成分となる副成分モノマーを18モル%以上含有する前記熱収縮性ポリエステル系フィルムの全光線透過率が40%以下であり、ヘーズが90%以上であり、熱収縮率が、主収縮方向において、処理温度90℃・処理時間10秒で75%以上であり、平均粒径が0.001?3.5μmの範囲である酸化チタンを含有する層を少なくとも1層以上有する熱収縮性ポリエステル系フィルム。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

ウ.甲3の記載事項
甲3には、申立人が申立書第20頁第1行ないし第8行で摘示するとおりの事項が記載されており、「TA-300」なる商品名の富士チタン工業製の酸化チタンが、平均粒径0.5ミクロンを有することが記載されている。

(2)対比・検討

ア.本件発明1について

(ア)甲1発明に基づく対比・検討

(a)対比
本件発明1と上記甲1発明とを対比すると、甲1発明における「平均粒径0.05?1μmである酸化チタンなどの無機微粒子を含有する」は、本件発明1における「分散した粒子を含み、」「前記粒子は0.1?5μmの平均粒径を有し、」に相当する。
また、甲1発明における「(1)複数の試料切り出し部から10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を、85℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率が、全ての試料について20%以上であり」は、フィルムの最大収縮方向の(高温)熱収縮性に係る事項であって、温度条件が本件発明の条件に比して緩やかなものであるにもかかわらず下限値が低い(20%以上)点で、本件発明1における「40?80%であり」という収縮率の範囲を包含するから、本件発明1における「90℃の温水中で10秒間にわたって処理した場合に最大収縮方向に対する収縮率が40?80%であり」に相当する。
さらに、甲1発明における「フィルムを構成するポリエステル系樹脂」は、「多価カルボン酸成分100モル%中、テレフタル酸成分(テレフタル酸またはそのエステルから形成される成分)を50モル%以上、多価アルコール成分100モル%中、エチレングリコール成分を50モル%以上、ネオペンチルグリコール成分及び/又は1,4-ブタンジオール成分を合計量で50モル%以下含有するもの」であって、テレフタル酸成分と1,4-ブタンジオール成分とからなる繰り返し単位、すなわちブチレンテレフタレート繰り返し単位を有する態様を包含すると共に、フィルム中でマトリックス部を構成するものであるから、本件発明1における「ブチレンテレフタレート繰り返し単位を含むポリエステル系樹脂マトリックス」に相当する。
そして、甲1発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、本件発明1の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、
「ブチレンテレフタレート繰り返し単位を含むポリエステル系樹脂マトリックス内に分散した粒子を含み、
前記粒子は0.1?5μmの平均粒径を有し、
90℃の温水中で10秒間にわたって処理した場合に最大収縮方向に対する収縮率が40?80%である、熱収縮性ポリエステル系フィルム。」
の点で一致し、下記の3点で相違するものといえる。

相違点1:「熱収縮性ポリエステル系フィルム」につき、本件発明1では「不透明度(Opacity、%)が20?70%であり、フィルムロールの全幅にわたって不透明度(%)の偏差が平均±5%以内の値を示」すのに対して、甲1発明では当該「不透明度」及びその「偏差」につき特定されていない点
相違点2:「熱収縮性ポリエステル系フィルム」につき、本件発明1では「90℃の温水中で10秒間にわたって処理した場合に・・最大収縮方向に対する収縮率の偏差が平均±5%以内であ」るのに対して、甲1発明では「収縮率」の「偏差」につき特定されていない点
相違点3:「ポリエステル系樹脂マトリックス」につき、本件発明1では、「テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸のジカルボン酸を1つ以上含むジカルボン酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのジオールを1つ以上含むジオール成分から得られるコポリエステルの中から選ばれた少なくとも1種のコポリエステルを含み、
前記コポリエステルは、ジカルボン酸単位体中のテレフタル酸単位体が80モル%以上含まれ、ジオール単位体中のエチレングリコール以外の単位体が14?24モル%含まれ、ブチレンテレフタレート繰り返し単位が、全体ポリエステル系樹脂マトリックスに対して2?15重量%で含まれる」のに対して、甲1発明では、「多価カルボン酸成分100モル%中、テレフタル酸成分(テレフタル酸またはそのエステルから形成される成分)を50モル%以上、多価アルコール成分100モル%中、エチレングリコール成分を50モル%以上、ネオペンチルグリコール成分及び/又は1,4-ブタンジオール成分を合計量で50モル%以下含有する」点

(b)各相違点についての検討

(b-1)相違点2について
事案に鑑み上記相違点2につきまず検討すると、甲1発明に係る「複数の試料切り出し部から10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を、85℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率が、全ての試料について20%以上であ」る「熱収縮性ポリエステル系フィルム」において、ボトルラベルなどに用いる際、部分ごとの熱収縮率にばらつきがあれば好ましくないことが当業者の技術常識であり、甲1発明において、熱収縮率のばらつきの尺度である「偏差」の上限につき「±5%」とすることは、当業者がその技術常識に照らして、適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点2は、甲1発明において、当業者が適宜なし得ることである。

(b-2)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、甲1発明においては、「上記各試料切り出し部から別途切り出した試料について全光線透過率を測定したとき、全試料の全光線透過率が40%以下であると共に、これらの平均値を算出したとき、全試料の全光線透過率が、この平均値の±1.5%以内の範囲に収まって」いることが規定されているところ、「全光線透過率」と「不透明度」とは、技術的常識からみて、光学的物性である点では同じであるが、同一の物性ではなく単純に相反する物性でもないから、その数値を直接対比することはできない。
(「不透明度」は、1-(平行光線透過率)で表される数値であるものと認められるところ、入射光量に対する「平行光線」及び「拡散光線」の総和である透過光量の比である「全光線透過率」と直接対比することはできない。すなわち、「全光線透過率」が高かったとしても「拡散光線透過率」が十分に高ければ「不透明度」は高いものとなるし、「全光線透過率」が適当(例えば40%)であったとしても「拡散光線透過率」が十分に高ければ「不透明度」は極めて高いものとなり、本件発明1における上限値を超える「不透明度」となる可能性さえ存するものと理解される。)
そして、甲1発明において、上記のとおり全光線透過率及びその偏差が規定されているとしても、その光学的物性につき「不透明度」で規定すべき動機となる事項が存するものとも認められないから、当該「不透明度」及びその「偏差」で規定することは、当業者が適宜なし得ることとはいえない。
してみると、上記相違点1は、実質的な相違点であって、さらに甲1発明において当業者が適宜なし得ることとはいえない。

(b-3)相違点3について
上記相違点3につき検討すると、甲1発明において、本件発明1における「ポリエステル系樹脂マトリックス」に係る事項を具備する態様(例えば、多価カルボン酸成分としてテレフタル酸成分のみであり、多価アルコール成分100モル%中、1,4-ブタンジオール成分を15モル%とし残部をエチレングリコール成分とした多価アルコール成分からなるコポリエステルを単独使用した場合等)が包含されていることは、当業者に一応自明である。
しかるに、甲1には、甲1発明のうち、本件発明1の上記相違点3に係る事項を具備する態様につき具体的に記載されていないところ、甲1の記載を更に検討しても、ポリエステル系樹脂マトリックスにつき、上記相違点3に係る事項(特に、コポリエステルのEG以外のジオール単位を14?24モル%とする点かつマトリックス全体につきブチレンテレフタレート単位を2?15重量%とする点)を具備すべき動機となる事項が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点3に係る事項は、甲1発明において、当業者が適宜なし得たことであるとすることはできない。

(b-4)他の甲号証
さらに、甲2及び甲3の記載を検討しても、甲1発明において、上記相違点1及び相違点3に係る各事項につき、具備すべき動機となる事項が存するものではないから、甲1発明に対して甲2及び甲3に記載された事項を組み合わせたとしても、上記相違点1及び相違点3につき、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(c)本件発明の効果について
本件発明の効果につき検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例(及び参考例)の記載からみて、特に、本件発明1の上記相違点3に係る事項を具備する実施例の場合に、同事項を具備しない参考例2又は3の場合に比して、「不透明度」については維持しつつ印刷特性などの効果の点で優れることが看取できるから、本件発明1は、上記相違点3に係る事項を具備することにより、甲1発明に比して特段の効果を奏しているものと認められる。

(d)小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、たとえ甲2及び甲3に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。

(イ)甲2発明に基づく対比・検討

(a)対比
本件発明1と上記甲2発明とを対比すると、甲2発明における「平均粒径が0.001?3.5μmの範囲である酸化チタンを含有する」は、本件発明1における「分散した粒子を含み、」「前記粒子は0.1?5μmの平均粒径を有し、」との間で、粒径0.1?3.5μmの範囲で重複する。
また、甲2発明における「熱収縮率が、主収縮方向において、処理温度90℃・処理時間10秒で75%以上であり」は、フィルムの主収縮方向の(高温)熱収縮性に係る事項であって、本件発明1における「90℃の温水中で10秒間にわたって処理した場合に最大収縮方向に対する収縮率が40?80%であり」との間で、「75?80%」の部分で重複する。
さらに、甲2発明における「ポリエチレンテレフタレートを主成分として、非晶成分となる副成分モノマーを18モル%以上含有する・・ポリエステル」は、ポリエステルである点で、本件発明1における「ポリエステル系樹脂マトリックス」に相当する。
そして、甲2発明の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、本件発明1の「熱収縮性ポリエステル系フィルム」に相当する。
してみると、本件発明1と甲2発明とは、
「ポリエステル系樹脂マトリックス内に分散した粒子を含み、
前記粒子は0.1?3.5μmの平均粒径を有し、
90℃の温水中で10秒間にわたって処理した場合に最大収縮方向に対する収縮率が75?80%である、熱収縮性ポリエステル系フィルム。」
の点で一致し、下記の点で相違するものといえる。

相違点1’:「熱収縮性ポリエステル系フィルム」につき、本件発明1では「不透明度(Opacity、%)が20?70%であり、フィルムロールの全幅にわたって不透明度(%)の偏差が平均±5%以内の値を示」すのに対して、甲2発明では当該「不透明度」及びその「偏差」につき特定されていない点
相違点2’:「熱収縮性ポリエステル系フィルム」につき、本件発明1では「90℃の温水中で10秒間にわたって処理した場合に・・最大収縮方向に対する収縮率の偏差が平均±5%以内であ」るのに対して、甲2発明では「熱収縮率」の「偏差」につき特定されていない点
相違点3’:「ポリエステル系樹脂マトリックス」につき、本件発明1では、「テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸のジカルボン酸を1つ以上含むジカルボン酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのジオールを1つ以上含むジオール成分から得られるコポリエステルの中から選ばれた少なくとも1種のコポリエステルを含み、
前記コポリエステルは、ジカルボン酸単位体中のテレフタル酸単位体が80モル%以上含まれ、ジオール単位体中のエチレングリコール以外の単位体が14?24モル%含まれ、ブチレンテレフタレート繰り返し単位が、全体ポリエステル系樹脂マトリックスに対して2?15重量%で含まれる」のに対して、甲2発明では、「ポリエチレンテレフタレートを主成分として、非晶成分となる副成分モノマーを18モル%以上含有する・・ポリエステル」である点

(b)各相違点についての検討

(b-1)相違点2’について
事案に鑑み上記相違点2’につきまず検討すると、甲2発明に係る「熱収縮率が、主収縮方向において、処理温度90℃・処理時間10秒で75%以上であ」る「熱収縮性ポリエステル系フィルム」において、ボトルラベルなどに用いる際、部分ごとの熱収縮率にばらつきがあれば好ましくないことが当業者の技術常識であり、甲2発明において、熱収縮率のばらつきの尺度である「偏差」の上限につき「±5%」とすることは、当業者がその技術常識に照らして、適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点2’は、甲2発明において、当業者が適宜なし得ることである。

(b-2)相違点1’について
上記相違点1’につき検討すると、甲2発明においては、「熱収縮性ポリエステル系フィルムの全光線透過率が40%以下であ」ることが規定されているところ、「全光線透過率」と「不透明度」とは、技術的常識からみて、光学的物性である点では同じであるが、同一の物性ではなく単純に相反する物性でもないから、その数値を直接対比することはできない。
(「不透明度」と「全光線透過率」との関係については、上記(ア)(b)(b-2)で説示したとおりである。)
そして、甲2発明において、上記のとおり全光線透過率が規定されているとしても、その光学的物性につき「不透明度」で規定すべき動機となる事項が存するものとも認められないから、当該「不透明度」及びその「偏差」で規定することは、当業者が適宜なし得ることとはいえない。
してみると、上記相違点1’は、実質的な相違点であって、さらに甲2発明において当業者が適宜なし得ることとはいえない。

(b-3)相違点3’について
上記相違点3’につき検討すると、甲2には、甲2発明における「非晶成分となる副成分モノマー」としての「第2のアルコール成分」として、1,4-ブタンジオールを使用できることが開示されている(上記(1)イ.(ア)、【0022】参照)から、甲2発明において、本件発明1における「ポリエステル系樹脂マトリックス」に係る事項を具備する態様(例えば、酸成分としてテレフタル酸成分のみであり、多価アルコール成分100モル%中、1,4-ブタンジオール成分を15モル%とし残部をエチレングリコール成分からなる、エチレンテレフタレート単位が主成分であるコポリエステルを単独使用した場合等)が包含されていることは、当業者に一応自明である。
しかるに、甲2には、甲2発明のうち、本件発明1の上記相違点3’に係る事項を具備する態様につき具体的に記載されていない(EG以外のジオール単位を14?24モル%含むコポリエステルを使用した実験例はない。)ところ、甲2の記載を更に検討しても、ポリエステル系樹脂マトリックスにつき、上記相違点3’に係る事項(特に、コポリエステルのEG以外のジオール単位を14?24モル%とする点)を具備すべき動機となる事項が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点3’に係る事項は、甲2発明において、当業者が適宜なし得たことであるとすることはできない。

(b-4)他の甲号証
さらに、甲1及び甲3の記載を検討しても、甲2発明において、上記相違点1’及び相違点3’に係る各事項につき、具備すべき動機となる事項が存するものではないから、甲2発明に対して甲1及び甲3に記載された事項を組み合わせたとしても、上記相違点1’及び相違点3’につき、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(c)本件発明の効果について
本件発明の効果につき検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例(及び参考例)の記載からみて、特に、本件発明1の上記相違点3’に係る事項を具備する実施例の場合に、同事項を具備しない参考例2又は3の場合に比して、「不透明度」については維持しつつ印刷特性などの効果の点で優れることが看取できるから、本件発明1は、上記相違点3’に係る事項を具備することにより、甲2発明に比して特段の効果を奏しているものと認められる。

(d)小括
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて、たとえ甲1及び甲3に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。

(ウ)本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1ないし甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ.本件発明3ないし5について
本件発明3ないし5につき検討すると、本件発明3ないし5は、いずれも本件発明1を直接的に引用するものと認められる。
してみると、上記ア.で説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲1ないし甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないのであるから、本件発明1を引用する本件発明3ないし5についても、同一の理由により、甲1ないし甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

(3)取消理由1に係るまとめ
以上のとおり、本件発明1及び3ないし5は、いずれも甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、本件請求項1及び3ないし5に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、申立人が主張する取消理由1は理由がない。
(したがって、上記取消理由通知では、この理由を通知しなかった。)

第7 むすび
以上のとおり、申立人が主張する取消理由1ないし4はいずれも理由がなく、本件の請求項1及び3ないし5に係る発明についての特許は、いずれも取り消すことができない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチレンテレフタレート繰り返し単位を含むポリエステル系樹脂マトリックス内に分散した粒子を含み、
前記粒子は0.1?5μmの平均粒径を有し、
不透明度(Opacity、%)が20?70%であり、フィルムロールの全幅にわたって不透明度(%)の偏差が平均±5%以内の値を示し、90℃の温水中で10秒間にわたって処理した場合に最大収縮方向に対する収縮率が40?80%であり且つ最大収縮方向に対する収縮率の偏差が平均±5%以内であり、
ポリエステル系樹脂マトリックスは、テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸のジカルボン酸を1つ以上含むジカルボン酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのジオールを1つ以上含むジオール成分から得られるコポリエステルの中から選ばれた少なくとも1種のコポリエステルを含み、
前記コポリエステルは、ジカルボン酸単位体中のテレフタル酸単位体が80モル%以上含まれ、ジオール単位体中のエチレングリコール以外の単位体が14?24モル%含まれ、
ブチレンテレフタレート繰り返し単位が、全体ポリエステル系樹脂マトリックスに対して2?15重量%で含まれる、
熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
粒子は、酸化チタニウムであり、フィルムの総重量に対して2?10重量%で含まれる、請求項1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
コポリエステルは195?215℃の融点(Melting Point)を有する、請求項1から3いずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
コポリエステルは、全体ポリエステル樹脂に対して85?98重量%で含まれる、請求項1から4いずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
ブチレンテレフタレート繰り返し単位を含むポリエステル系樹脂マトリックス内に分散した粒子を含み、
不透明度(Opacity、%)が20?70%であり、90℃の温水中で10秒間にわたって処理した場合に最大収縮方向に対する収縮率が40?80%である熱収縮性ポリエステル系フィルム層と、熱収縮性ポリエステル系フィルム層の一面に形成される印刷層と、熱収縮性ポリエステル系フィルム層の他の一面に形成される反り防止層とを含んでなり
ポリエステル系樹脂マトリックスは、テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸のジカルボン酸を1つ以上含むジカルボン酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのジオールを1つ以上含むジオール成分から得られるコポリエステルの中から選ばれた少なくとも1種のコポリエステルを含み、
前記コポリエステルは、ジカルボン酸単位体中のテレフタル酸単位体が80モル%以上含まれ、ジオール単位体中のエチレングリコール以外の単位体が14?24モル%含まれ、
ブチレンテレフタレート繰り返し単位が、全体ポリエステル系樹脂マトリックスに対して2?15重量%で含まれる、熱収縮性ポリエステル系ラベル。
【請求項7】
粒子は0.1?5μmの平均粒径を有する、請求項6に記載の熱収縮性ポリエステル系ラベル。
【請求項8】
粒子は、酸化チタニウムであり、フィルムの総重量に対して2?10重量%で含まれる、請求項6又は7に記載の熱収縮性ポリエステル系ラベル。
【請求項9】
コポリエステルは全体ポリエステル樹脂に対して85?98重量%で含まれる、請求項6から8のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系ラベル。
【請求項10】
反り防止層は印刷層の厚さに対して50?200%の厚さ比率を有する、請求項6から9いずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系ラベル。
【請求項11】
反り防止層は印刷層の厚さに対して70?120%の厚さ比率を有する、請求項6から10いずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系ラベル。
【請求項12】
反り防止層は、アクリル系、ポリウレタン系、ビニル系、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、ビニルアセテート樹脂及びケトン樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の樹脂と、着色剤とを含む層である、請求項6から11いずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系ラベル。
【請求項13】
反り防止層は、アクリル系、ポリウレタン系、ビニル系、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、ビニルアセテート樹脂及びケトン樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の樹脂と、着色剤と、溶媒とを含む組液から形成される層である、請求項11に記載の熱収縮性ポリエステル系ラベル。
【請求項14】
請求項6から13のいずれかに記載のラベルが貼られた瓶。
【請求項15】
請求項6から13のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系ラベルの反り防止層に接着剤を塗布する工程と、
接着剤の塗布された熱収縮性ポリエステル系ラベルを瓶に貼着させる工程とを含んでなる、ラベル付き瓶の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-30 
出願番号 特願2015-97885(P2015-97885)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (C08J)
P 1 652・ 536- YAA (C08J)
P 1 652・ 121- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大村 博一  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 橋本 栄和
西山 義之
登録日 2016-11-25 
登録番号 特許第6045631号(P6045631)
権利者 コーロン インダストリーズ インク
発明の名称 熱収縮性ポリエステル系フィルム及び熱収縮性ポリエステル系ラベル  
代理人 鄭 元基  
代理人 相田 伸二  
代理人 林 一好  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
代理人 相田 京子  
代理人 相田 京子  
代理人 鄭 元基  
代理人 正林 真之  
代理人 相田 伸二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ