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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1339158
異議申立番号 異議2017-700153  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-17 
確定日 2018-02-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5989560号発明「難消化性デキストリン含有容器詰め飲料およびその製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5989560号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,〔1-15〕,〔16,17〕,〔18,19〕について訂正することを認める。 特許第5989560号の請求項1,5ないし8,10,12ないし16及び18に係る特許を維持する。 特許第5989560号の請求項2ないし4,9,11,17及び19に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5989560号(以下「本件特許」という。)の請求項1?19に係る特許についての出願は,平成28年8月19日付けでその特許権の設定登録がされた。
そして,平成29年2月17日付けで特許異議申立人中川賢治より,全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされ,その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成29年5月19日付け 取消理由通知
同年7月19日付け 意見書(特許権者),訂正請求書
同年8月28日付け 意見書(特許異議申立人)
同年9月28日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年12月1日付け 意見書(特許権者),訂正請求書

平成29年7月19日付け訂正請求書による訂正の請求については,特許法第120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなす。
なお,平成29年12月1日付け訂正請求書による訂正の請求に対して,平成29年12月6日付けで訂正請求があった旨を通知し,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,特許異議申立人からは何らの応答もなかった。


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者が平成29年12月1日に提出した訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また,本件訂正請求書による訂正請求を以下「本件訂正請求」,訂正を以下「本件訂正」という。)における請求の趣旨は,本件特許の特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?19について訂正することを求めるものであり,その内容は本件訂正請求書によれば次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に
「カラメル組成物および高甘味度甘味料を含んでなる,難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料であって,該飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.3?1.6質量%である,炭酸飲料。」
とあるのを,
「カラメル組成物および高甘味度甘味料を含んでなる,難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料であって,該飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.8?1.5質量%であり,該カラメル組成物がカラメル色素であり,かつ該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる,炭酸飲料。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許請求の範囲の請求項2?4,9および11を削除する。

(3)訂正事項3
本件特許の特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1?4のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料」
とあるのを,
「請求項1に記載の容器詰め炭酸飲料」
に訂正する。

(4)訂正事項4
本件特許の特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1?5のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料」
とあるのを,
「請求項1または5に記載の容器詰め炭酸飲料」
に訂正する。

(5)訂正事項5
本件特許の特許請求の範囲の請求項7に
「請求項1?6のいずれか一項に記載の容器詰め飲料」
とあるのを,
「請求項1,5,および6のいずれか一項に記載の容器詰め飲料」
に訂正する。

(6)訂正事項6
本件特許の特許請求の範囲の請求項8に
「請求項1?7のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料」
とあるのを,
「請求項1および5?7のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料」
に訂正する。

(7)訂正事項7
本件特許の特許請求の範囲の請求項10に
「請求項1?9のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料」
とあるのを,
「請求項1および5?8のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料」
に訂正する。

(8)訂正事項8
本件特許の特許請求の範囲の請求項12に
「請求項11に記載の容器詰め炭酸飲料」
とあるのを,
「請求項1,5?8,および10のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料」
に訂正する。

(9)訂正事項9
本件特許の特許請求の範囲の請求項13に
「請求項1?12のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料」
とあるのを,
「請求項1,5?8,10,および12のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料」
に訂正する。

(10)訂正事項10
本件特許の特許請求の範囲の請求項15に
「請求項1?14のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料」
とあるのを,
「請求項1,5?8,10,および12?14のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料」
に訂正する。

(11)訂正事項11
本件特許の特許請求の範囲の請求項16に
「カラメル組成物および高甘味度甘味料を添加することによって炭酸飲料からの溶存二酸化炭素の発散を抑制することを特徴とする,難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料の製造方法であって,該容器詰め炭酸飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.3?1.6質量%である,製造方法。」
とあるのを,
「カラメル組成物および高甘味度甘味料を添加することによって炭酸飲料からの溶存二酸化炭素の発散を抑制することを特徴とする,難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料の製造方法であって,該容器詰め炭酸飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.8?1.5質量%であり,該カラメル組成物がカラメル色素であり,かつ該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる,製造方法。」
に訂正する。

(12)訂正事項12
本件特許の特許請求の範囲の請求項17を削除する。

(13)訂正事項13
本件特許の特許請求の範囲の請求項18に
「難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料において,カラメル組成物および高甘味度甘味料の含有量を調整することにより溶存二酸化炭素の発散を抑制する方法であって,該容器詰め炭酸飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.3?1.6質量%である,方法。」
とあるのを,
「難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料において,カラメル組成物および高甘味度甘味料の含有量を調整することにより溶存二酸化炭素の発散を抑制する方法であって,該容器詰め炭酸飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.8?1.5質量%であり,該カラメル組成物がカラメル色素であり,かつ該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる,方法。」
に訂正する。

(14)訂正事項14
本件特許の特許請求の範囲の請求項19を削除する。


2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項
(1)訂正事項1,11及び13について
訂正事項1,11及び13は,訂正前の請求項1,16及び18の難消化性デキストリンの含有量の「0.3?1.6質量%」という範囲を,「0.8?1.5質量%」とその範囲内において限定するとともに,「カラメル組成物」及び「高甘味度甘味料」の種類をそれぞれ,「カラメル色素」及び「スクラロースまたはアスパルテームを含んでなる」ものに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
さらに,訂正事項1,11及び13のうち,難消化性デキストリンの含有量の範囲については,本件明細書の【0011】の記載に基いたものであり,カラメル組成物の種類については,特許請求の範囲の請求項11や本件明細書の【0013】等の記載に基いたものであり,高甘味度甘味料の種類については,特許請求の範囲の請求項2や本件明細書の【0025】の記載に基いたものであるから,上記訂正事項は,新規事項を追加するものではない。

(2)訂正事項2,12及び14について
訂正事項2,12及び14は,訂正前の請求項2?4,9,11,17及び19を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
さらに,訂正事項2,12及び14は,請求項を削除するものであるから,新規事項を追加するものではない。

(3)訂正事項3?10について
訂正事項3?10は,訂正事項2により訂正前の請求項2?4,9及び11が削除されたことに伴い,それと整合させるように訂正前の請求項5?8,10,12,13及び15においてこれらの請求項を引用しないようにするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
さらに,訂正事項3?10は,請求項の削除に伴う修正であるから,新規事項を追加するものではない。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2?15は,請求項1を直接又は間接に引用するものであり,訂正前の請求項1?15は一群の請求項である。そして,訂正事項1?10は,訂正前の請求項1?15に係る事項を訂正するものであるから,一群の請求項に対して請求されたものである。
また,訂正前の請求項17は,請求項16を直接に引用するものであり,訂正前の請求項16及び17は一群の請求項である。そして,訂正事項11及び12は,訂正前の請求項16及び17に係る事項を訂正するものであるから,一群の請求項に対して請求されたものである。
また,訂正前の請求項19は,請求項18を直接に引用するものであり,訂正前の請求項18及び19は一群の請求項である。そして,訂正事項13及び14は,訂正前の請求項18及び19に係る事項を訂正するものであるから,一群の請求項に対して請求されたものである。


3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による上記訂正事項1?14は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1-15〕,〔16,17〕,〔18,19〕について訂正を認める。


第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?19係る発明(以下それぞれ「本件発明1」等という。また,それらをまとめて「本件発明」という。)は,上記訂正された特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?19に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
カラメル組成物および高甘味度甘味料を含んでなる,難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料であって,該飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.8?1.5質量%であり,該カラメル組成物がカラメル色素であり,かつ該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる,炭酸飲料。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
難消化性デキストリンのDEが8以上20以下である,請求項1に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項6】
難消化性デキストリンのグルコシド結合の50%以上がグルコシド結合1→4である,請求項1または5に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項7】
難消化性デキストリンの由来がコーンスターチである,請求項1,5,および6のいずれか一項に記載の容器詰め飲料。
【請求項8】
高甘味度甘味料が,少なくともアスパルテームを含んでなる,請求項1および5?7のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
高甘味度甘味料を0.01?0.2質量%含有する,請求項1および5?8のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
カラメル色素を0.01?0.5質量%含有する,請求項1,5?8,および10のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項13】
容器がPETボトルである,請求項1,5?8,10,および12のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項14】
PETボトルが1?2L容量である,請求項13に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項15】
容器詰め炭酸飲料がノンアルコール・ビールタイプ飲料である,請求項1,5?8,10,および12?14のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項16】
カラメル組成物および高甘味度甘味料を添加することによって炭酸飲料からの溶存二酸化炭素の発散を抑制することを特徴とする,難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料の製造方法であって,該容器詰め炭酸飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.8?1.5質量%であり,該カラメル組成物がカラメル色素であり,かつ該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる,製造方法。
【請求項17】(削除)
【請求項18】
難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料において,カラメル組成物および高甘味度甘味料の含有量を調整することにより溶存二酸化炭素の発散を抑制する方法であって,該容器詰め炭酸飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.8?1.5質量%であり,該カラメル組成物がカラメル色素であり,かつ該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる,方法。
【請求項19】(削除)」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件特許に対し,平成29年5月19日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。(なお,これは特許異議申立人が申立てた取消理由の全てを含むものである。)

(1)取消理由1(新規性)
本件特許に係る出願は,平成24年7月9日に出願した特願2012-154081号(以下「原出願」という。)の一部を平成25年2月8日に新たな特許出願としたものであって,本件特許の請求項1?3,9,11及び13に係る発明は,甲第1号証に記載されるように,その原出願前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから,上記請求項に係る特許は,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1?7,9,11,13及び14に係る発明は,甲第1,3及び4号証に記載されるように,その原出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その原出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,上記請求項に係る特許は,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(進歩性)
本件特許の請求項1?17に係る発明は,甲第4?8号証に記載されるように,その原出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その原出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,上記請求項に係る特許は,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

(4)取消理由4(実施可能要件)
本件明細書の発明の詳細な説明は,本件特許の請求項1?19に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでなく,上記請求項に係る特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

(5)取消理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1?19に係る発明の範囲まで,本件明細書の発明の詳細な説明に記載される事項を拡張ないし一般化できるとはいえず,上記請求項に係る特許は,特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

<甲号証一覧>
甲第1号証 ミンテルGNPDの記録番号1585176,「Dry Ginger Ale」
甲第2号証 ミンテルGNPDの記録番号1624957,「Dry Cola Drink」
甲第3号証 鈴木深保子,外6名,「難消化性デキストリン配合炭酸飲料の長期摂取時および過剰摂取時の安全性の検討」,Jpn Pharmacol Ther(薬理と治療),2010年,Vol.38,no.7,p627-635
甲第4号証 立部誠,藤原英樹,「難消化性糖質の食品・飲料への応用」,FOOD STYLE 21,2009年9月,Vol.13,No.9,p56-57
甲第5号証 European Food Safety Authority(EFSA),Parma,Italy,「SCIENTIFIC OPINION on the re-evaluation of caramel colours (E 150a,b,c,d) as food additives EFSA Panel on Food Additives and Nutrient Sources added to Food (ANS)」,EFSA Journal 2011,9(3):2004,p20-23
甲第6号証 国際公開第2011/128953号
甲第7号証 特開2010-142129号公報
甲第8号証 STACEY MARIE KAPPES,「MOUTHFEEL SENSORY ATTRIBUTES AND PHYSICAL PROPERTIES OF CARBONATED BEVERAGES」,University of Illinois,2006年,UMI番号:3223626,p36-37

以下,甲号証についてはその番号に従って「甲1」等という。


2 当審の判断
(1)取消理由1(新規性)について
ア 甲1記載の発明
甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「難消化性デキストリン(食物繊維源),酸味料,フレーバー,カラメル(着色料),甘味料(アセスルファムK,スクラロース,ステビア)を成分とする,500.00mlPET容器詰めドライジンジャエール。ただし,100mlあたりのエネルギー0kcal,プロテイン0g,脂肪0g,砂糖0g,食物繊維0.4?0.7g,ナトリウム0mg。」

イ 対比
甲1発明と本件発明1とを対比すると,甲1発明の飲料中の難消化性デキストリンの含有量は0.4?0.7質量%といえるから,両者は,
「カラメル組成物および高甘味度甘味料を含んでなる,難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料であって,該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる,炭酸飲料。」
である点で一致し,次の2点で相違する。
<相違点1>
炭酸飲料中の難消化性デキストリンの含有量について,本件発明1では,0.8?1.5質量%であるのに対して,甲1発明では,0.4?0.7質量%である点。
<相違点2>
本件発明1では,カラメル組成物としてカラメル色素を含むのに対して,甲1発明では,カラメルの種類が特定されていない点。

ウ 判断
上記相違点について検討するに,少なくとも上記相違点1は実質的な相違点である。
よって,上記相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は甲1発明ではない。
また,本件発明13は,本件発明1の特定事項を全て含むものであり,本件発明1をさらに減縮したものであるから,同様の理由により,甲1発明ではない。

エ 小括
以上より,取消理由1によっては,請求項1及び13に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由2(進歩性)について
ア 対比・判断
甲1発明と本件発明1とを対比すると,上記相違点1,2で相違する。
そこで,まず上記相違点1について検討するに,甲3には,難消化性デキストリンは,整腸作用や血糖値上昇抑制作用等の生理機能を有している特定保健用食品の関与成分であること(628ページ左欄33行?右欄7行)や,難消化性デキストリンを1.0質量%配合した炭酸飲料は長期間摂取しても安全であること(628ページ右欄22?30行,634ページ左欄14?26行)等が記載されており,また,甲4には,難消化性デキストリンを主成分とするファイバーソル2の生理機能には整腸効果や食後血糖値上昇を抑制する効果等があること(56ページ左欄16?32行)や,難消化性デキストリンを1.6質量%配合した炭酸飲料の例(表1)が記載されている。
しかしながら,甲1発明は商品化されている炭酸飲料であり,難消化性デキストリンを含め各成分割合を変更することはそもそも想定し難いといえる。そして,甲1発明はドライジンジャエールであって,整腸作用や血糖値上昇抑制作用の観点から難消化性デキストリンに着目する理由はなく,甲3や甲4の上記記載を参酌しても,甲1発明の難消化性デキストリンの含有量を「0.8?1.5重量%」に変更する動機付けは見出せない。これは,特許異議申立人の平成29年8月28日付け意見書に添付された次の参考資料1?6を参酌しても変わることはない。

参考資料1 消費者庁,「特定保健用食品」,[online],[2017年8月18日プリントアウト],インターネット
<URL:http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin86.pdf>
参考資料2 独立行政法人国立健康・栄養研究所,「特定保健用食品(規格基準型)の食品形態」,[online],2005年7月1日,[2017年8月18日プリントアウト],インターネット
<URL:https://hfnet.nih.go.jp/usr/kiso/pdf/ss0701001b.pdf>
参考資料3 厚生労働省,「食安発0827第2号『特定保健用食品(規格基準型)制度の創設に伴う規格基準の設定等について』の一部改正について」,[online],2009年8月27日,[2017年8月18日プリントアウト],インターネット
<URL:http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/dl/35.pdf>
参考資料4 日本コカ・コーラ株式会社,「ニュースリリース 『コカ・コーラ・プラス ファイバー』全国で新発売」,[online],2009年10月23日,[2017年8月18日プリントアウト],インターネット
<URL:http://www.cocacola.co.jp/press-center/press-release/news-20091023>
参考資料5-1 消費者庁,「ニュースリリース 特定保健用食品の許可について」,[online],平成23年12月19日,[2017年8月18日プリントアウト],インターネット
<URL:http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin748.pdf>
参考資料5-2 内閣府消費者委員会事務局,「消費者委員会新開発食品調査部会(第13回)議事録」,[online],[2017年8月18日プリントアウト],インターネット
<URL:http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/shinkaihatu/doc/k130628_gijiroku.pdf>
参考資料5-3 アサヒ飲料株式会社,「?ついに登場!トクホ(特保)の『三ツ矢サイダー』?食後の血糖値の上昇を抑える『三ツ矢サイダープラスPET350ml』9月10日(火)新発売!」,[online],2013年8月2日,[2017年8月18日プリントアウト],インターネット
<URL:https://www.asahiinryo.co.jp/company/newsrelease/2013/pick_0802-1.html>
参考資料6 Kohlensauregehalt und Rezenz,「Zur sensorischen Beurteilung von CO_(2)-haltigen Getranken」,Brauwelt,1975年,第115巻,第19号,p.638-645

したがって,甲1発明をして上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。

よって,上記相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明と甲3及び甲4に記載された事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
また,本件発明5?7,13及び14は,本件発明1の特定事項を全て含むものであり,本件発明1をさらに減縮したものであるから,同様の理由により,甲1発明と甲3及び甲4に記載された事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

イ 小括
以上より,取消理由2によっては,請求項1,5?7,13及び14に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由3(進歩性)について
ア 甲4記載の発明
甲4(特に56ページ右欄の表1)には,次の発明(以下「甲4発明」,「甲4方法発明」という。)が記載されている。
「ファイバーソル2(1.8g,食物繊維1.6g),クエン酸(0.1g),アセスルファムK(0.015g),スクラロース(0.01g),フレーバー(0.1g),水及び炭酸水(100mlに調整)を配合してなる無糖炭酸飲料。」
「甲4発明に係る無糖炭酸飲料の製造方法。」

イ 本件発明1と甲4発明との対比
甲4発明と本件発明1とを対比すると,甲4発明のファイバーソル2に含まれる食物繊維は難消化性デキストリンであって(甲4の56ページ左欄),無糖炭酸飲料中のその含有量は1.6質量%といえるから,両者は,
「高甘味度甘味料を含んでなる,難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料であって,かつ該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる,炭酸飲料。」
である点で一致し,以下の2点で相違する。
<相違点3>
炭酸飲料中の難消化性デキストリンの含有量について,本件発明1では,0.8?1.5質量%であるのに対して,甲4発明では,1.6質量%である点。
<相違点4>
本件発明1では,カラメル組成物としてカラメル色素を含むのに対して,甲4発明では,カラメル組成物を含まない点。

ウ 判断
上記相違点3について検討するに,甲4には,ファイバーソル2の整腸効果や食後血糖値上昇を抑制する効果等を示す記載に続いて,「食品への応用では近年,単に食物繊維補給だけでなく,濃厚感の付与や味質改善効果などの物理特性を生かした利用方法が増えている(表1:無糖炭酸飲料配合例参照)。」(56ページ左欄下から5?3行)と記載されている。すなわち,甲4発明は,ファイバーソル2によって濃厚感の付与や味質改善をはかれる食品例(試作品)であるから,ファイバーソル2(難消化性デキストリン)の含有量は濃厚感や味質を考慮して設定されたものと解され,これを変更する,特に低減させる動機付けは見出せない。
したがって,甲4発明をして上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことではない。

また,上記相違点4についてみても,上記のような食品例(試作品)である甲4発明において,カラメル色素を含むように構成する理由はない。そして,本件発明1は,スクラロースやアスパルテームといった高甘味度甘味料にカラメル色素を併せて配合することにより,炭酸飲料からの溶存二酸化炭素の発散を抑制するという格別の効果を奏するものである。
したがって,甲4発明をして上記相違点4に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことではない。これは甲5?甲8に記載される事項を参酌しても変わらない。

よって,本件発明1は,甲4発明と甲5?甲8に記載された事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
また,本件発明5?8,10,12?15は,本件発明1の特定事項を全て含むものであり,本件発明1をさらに減縮したものであるから,同様の理由により,甲4発明と甲5?甲8に記載された事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

エ 本件発明16と甲4方法発明との対比
甲4方法発明と本件発明16とを対比すると,甲4方法発明のファイバーソル2に含まれる食物繊維は難消化性デキストリンであって(甲4の56ページ左欄),無糖炭酸飲料中のその含有量は1.6質量%といえるから,両者は,
「高甘味度甘味料を添加する,難消化性デキストリン含有炭酸飲料の製造方法であって,該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる,製造方法。」
である点で一致し,以下の3点で相違する。
<相違点5>
炭酸飲料中の難消化性デキストリンの含有量について,本件発明16では,0.8?1.5質量%であるのに対して,甲4方法発明では,1.6質量%である点。
<相違点6>
本件発明16は,カラメル組成物および高甘味度甘味料を添加することによって炭酸飲料からの溶存二酸化炭素の発散を抑制する炭酸飲料の製造方法であって,カラメル組成物としてカラメル色素を含むのに対して,甲4方法発明は,カラメル組成物を含まず,炭酸飲料からの溶存二酸化炭素の発散を抑制する炭酸飲料の製造方法でない点。
<相違点7>
製造する炭酸飲料について,本件発明16では,容器詰め炭酸飲料であるのに対して,甲4方法発明では容器詰め炭酸飲料であるとの特定がない点。

オ 判断
上記相違点5,6について検討するに,これらは上記相違点3,4と実質的に同じであり,その判断は上記ウに示したとおりである。特に,上記相違点6の本件発明16に係る特定事項である,カラメル組成物(カラメル色素)および高甘味度甘味料(スクラロースまたはアスパルテーム)を添加することによって炭酸飲料からの溶存二酸化炭素の発散を抑制する点については,甲5?甲8のいずれにも記載も示唆もされていない。

よって,上記相違点7について検討するまでもなく,本件発明16は,甲4方法発明と甲5?甲8に記載された事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

カ 小括
以上より,取消理由3によっては,請求項1,5?8,10,12?16に係る特許を取り消すことはできない。

(4)取消理由4及び5(実施可能要件,サポート要件)について
取消理由4及び5に関して,特許異議申立人は,「本件明細書において難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料の溶存二酸化炭素の発散抑制効果が得られることが具体的に示されているのは特定の高甘味度甘味料を用いた場合のみである。したがって,本件発明の範囲まで本件明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず,また,本件明細書には,当業者が本件発明を実施可能な程度に十分に記載されているとはいえない。」(特許異議申立書10ページ7?11行)と主張している。

しかしながら,上記第2のとおり本件訂正が認められた結果,本件発明は,高甘味度甘味料については「スクラロースまたはアスパルテーム」と特定されるとともに,カラメル組成物については「カラメル色素」と特定されることとなった。そして,本件明細書の例えば実施例2(【0044】?【0048】)や実施例3(【0049】?【0053】)には,高甘味度甘味料としてスクラロースまたはアスパルテームを用いるとともに,カラメル組成物としてカラメル色素を用いた炭酸飲料及びその製造方法が記載されており,また,同【0047】の【表6】や同【0052】の【表8】から,スクラロースまたはアスパルテームとカラメル色素とを併せて含有させることによって,上記溶存二酸化炭素の発散抑制に係る課題を解決することも理解できる。さらに,本件明細書の参考例(【0035】?【0038】)や実施例1(【0039】?【00043】)の記載等を参酌すれば,当業者が本件発明を実施できることは明らかである。
したがって,特許異議申立人の上記主張は理由がない。

以上より,取消理由4又は5によっては,請求項1,5?8,10,12?16,18に係る特許を取り消すことはできない。


第5 むすび
以上のとおり,請求項1,5?8,10,12?16及び18に係る特許は,取消理由1?5により取り消されるべきものとすることはできない。
また,上記第2のとおり本件訂正が認められることにより,請求項2?4,9,11,17及び19は削除され,その特許に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しないものとなったため,上記請求項に対しての特許異議の申立ては不適法であって,その補正をすることができないものであるから,特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラメル組成物および高甘味度甘味料を含んでなる、難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料であって、該飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.8?1.5質量%であり、該カラメル組成物がカラメル色素であり、かつ該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる、炭酸飲料。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
難消化性デキストリンのDEが8以上20以下である、請求項1に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項6】
難消化性デキストリンのグルコシド結合の50%以上がグルコシド結合1→4である、請求項1または5に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項7】
難消化性デキストリンの由来がコーンスターチである、請求項1、5、および6のいずれか一項に記載の容器詰め飲料。
【請求項8】
高甘味度甘味料が、少なくともアスパルテームを含んでなる、請求項1および5?7のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
高甘味度甘味料を0.01?0.2質量%含有する、請求項1および5?8のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
カラメル色素を0.01?0.5質量%含有する、請求項1、5?8、および10のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項13】
容器がPETボトルである、請求項1、5?8、10、および12のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項14】
PETボトルが1?2L容量である、請求項13に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項15】
容器詰め炭酸飲料がノンアルコール・ビールタイプ飲料である、請求項1、5?8、10、および12?14のいずれか一項に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項16】
カラメル組成物および高甘味度甘味料を添加することによって炭酸飲料からの溶存二酸化炭素の発散を抑制することを特徴とする、難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料の製造方法であって、該容器詰め炭酸飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.8?1.5質量%であり、該カラメル組成物がカラメル色素であり、かつ該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる、製造方法。
【請求項17】(削除)
【請求項18】
難消化性デキストリン含有容器詰め炭酸飲料において、カラメル組成物および高甘味度甘味料の含有量を調整することにより溶存二酸化炭素の発散を抑制する方法であって、該容器詰め炭酸飲料中の難消化性デキストリンの含有量が0.8?1.5質量%であり、該カラメル組成物がカラメル色素であり、かつ該高甘味度甘味料がスクラロースまたはアスパルテームを含んでなる、方法。
【請求項19】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-14 
出願番号 特願2013-23490(P2013-23490)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 晴絵藤澤 雅樹  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 中村 則夫
窪田 治彦
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5989560号(P5989560)
権利者 キリンビバレッジ株式会社
発明の名称 難消化性デキストリン含有容器詰め飲料およびその製造方法  
代理人 朝倉 悟  
代理人 藤井 宏行  
代理人 永井 浩之  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 中村 行孝  
代理人 藤井 宏行  
代理人 柏 延之  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 反町 洋  
代理人 柏 延之  
代理人 反町 洋  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 中村 行孝  

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