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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1339161
異議申立番号 異議2016-700691  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-05 
確定日 2018-02-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5859286号発明「油中水型乳化化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5859286号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5859286号の請求項1及び3に係る特許を取り消す。 特許第5859286号の請求項2に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5859286号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成23年11月21日に特許出願され、平成27年12月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 荒井健之(以下「申立人A」という。)及び中嶋美奈子(以下「申立人B」という。)により特許異議の申立てがなされた。その後の経緯は以下のとおり。
平成28年11月29日付け:取消理由通知
平成29年 1月31日 :意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 3月15日 :意見書(申立人B)
同年 3月17日 :意見書(申立人A)
同年 3月31日付け:取消理由通知
同年 6月 1日 :意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 6月29日付け:取消理由通知
同年 8月28日 :意見書(特許権者)
同年 9月19日付け:取消理由通知(決定の予告)
そして、平成29年9月19日付けの取消理由通知(決定の予告)に対して、指定期間内に特許法120条の5第1項所定の意見書を提出するなどの特許権者からの反論はなかった。

なお、訂正請求についてみると、平成29年1月31日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされ、同年6月29日付け取消理由通知及び同年9月19日付け取消理由通知(決定の予告)に対して訂正請求はされていない。

第2 平成29年6月1日付け訂正請求についての訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年6月1日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、一群の請求項である請求項1?3について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
請求項1に「(B)25℃における動粘度が2.0mm^(2)/s以下のジメチルシリコーンオイルを1.0?29.9質量%」とあるのを、「(B)25℃における動粘度が2.0mm^(2)/s以下のジメチルシリコーンオイルを1.0?10.00質量%」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
請求項1の「(但し、成分(B)が全油相量の30.0質量%以上である場合を除く)」の記載を削除し、「成分(A)?(C)を含有することを特徴とする油中水型乳化化粧料。」の記載を「成分(A)?(D)を含有し、かつ、成分(A)、成分(C)及び成分(D)の合計が33.00質量%以上を含有することを特徴とする油中水型乳化化粧料。」と訂正し、「(D)油脂、ロウ類、炭化水素油、高級アルコール、高級脂肪酸、合成エステル油、シクロペンタシロキサン、疎水化処理酸化チタン及び疎水化処理酸化亜鉛から選ばれる一種又は二種以上」との特定を追加するように訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
請求項1に「(C)フェニル変性シリコーン」とあるのを、「(C)フェニル変性シリコーンを4?40.0質量%」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
請求項2を削除する。

(5)訂正事項5
請求項3に「請求項1又は2記載の油中水型乳化化粧料」と記載されているのを「又は2」を削除し、「請求項1記載の油中水型乳化化粧料」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
本件特許明細書の実施例16(【0050】)には、成分(B)に該当する「ジメチルポリシロキサン(2mm^(2)/s)」の配合量を10.00質量%とすること、また、実施例17には、成分(B)に該当する「オクタメチルトリシロキサン(1mm^(2)/s)」の配合量を10.00質量%とすることが記載され、実施例16、17では、それら以外には成分(B)に該当する成分は配合されていないので、実施例16、17における成分(B)の含有量は10.00質量%である。してみると、本件特許明細書には、成分(B)の配合量を10.00質量%とすることが記載されている。
そうすると、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内において、成分(B)の配合量の上限値を10.00質量%として、成分(B)の配合量の範囲を「1.0?29.9質量%」から「1.0?10.00質量%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正後の請求項3は、訂正後の請求項1を引用するものであるから、成分(B)の配合量の範囲を「1.0?10.00質量%」と限定するものであって、その訂正は、同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、平成29年3月31日付け取消理由通知における「(但し、成分(B)が全油相量の30.0質量%以上である場合を除く)」なる記載が明確でないとの指摘に対してなされたものであり、当該「除く」との特定に代えて、本件特許明細書の【0023】?【0027】に適宜配合できる成分とされていたものを、必須の成分(D)の選択肢として、「(D)油脂、ロウ類、炭化水素油、高級アルコール、高級脂肪酸、合成エステル油、シクロペンタシロキサン、疎水化処理酸化チタン及び疎水化処理酸化亜鉛から選ばれる一種又は二種以上」と特定し、成分(A)、成分(C)及び成分(D)の合計が33.00質量%以上を含有すると特定するものであって、「33.00質量%以上を含有する」ことは、本件特許明細書の実施例16(【0050】)が配合成分として「パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル 4.00質量%」(成分(A)に該当)、「フェニル変性シリコーン 5.00質量%」(成分(C)に該当)、「ミリスチン酸オクチルドデシル 2.00質量%」(成分(D)の合成エステル油に該当)、「シクロペンタシロキサン 8.00質量%」(成分(D)に該当)、「シリコーン処理微粒子酸化チタン 4.00質量%」(成分(D)の疎水化処理酸化チタンに該当)、「シリコーン処理酸化チタン 10.00質量%」(成分(D)の疎水化処理酸化チタンに該当)を含み、それらの成分(A)、成分(C)及び成分(D)の合計が、4.00+5.00+2.00+8.00+4.00+10.00=33.00質量%となること、及び、実施例17(【0052】)の配合成分のうち成分(A)、成分(C)及び成分(D)の合計が38.00質量%となることを根拠とする。
そうすると、訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内において、成分(D)を更に含むことを特定し、成分(A)、成分(C)及び成分(D)の合計が33.00質量%以上であることを限定するものであるから、明瞭でない記載の釈明、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正後の請求項3は、訂正後の請求項1を引用するものであるから、実質的に訂正事項2にかかる請求項1と同様の訂正がされるものであり、その訂正は、同様に、明瞭でない記載の釈明、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
成分(C)のフェニル変性シリコーンの配合量について、本件特許明細書【0021】に「本発明に用いられる(C)フェニル変性シリコーンの配合量は……好ましくは本発明化粧料に対して0.5?40.0質量%である。」と記載され、【表3】(【0046】)には、フェニル変性シリコーンの配合量を4質量%とした実施例13が記載されている。
そうすると、訂正事項3は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内において、成分(C)のフェニル変性シリコーンについてその配合量が限定されていなかったものを「4?40.0質量%」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正後の請求項3は、訂正後の請求項1を引用するものであるから、訂正事項3によって成分(C)の配合量を「4?40.0質量%」と限定するものであるから、その訂正は、同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項3において、上記訂正事項4による訂正に伴い、削除されて存在しなくなった請求項2を引用する不合理を正すものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1-3]について訂正を認める。

第3 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、3に係る発明(以下、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明3」という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1、3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
成分(A)?(D)を含有し、かつ、成分(A)、成分(C)及び成分(D)の合計が33.00質量%以上を含有することを特徴とする油中水型乳化化粧料。
(A)パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル
(B)25℃における動粘度が2.0mm^(2)/s以下のジメチルシリコーンオイルを1.0?10.00質量%
(C)フェニル変性シリコーンを4?40.0質量%
(D)油脂、ロウ類、炭化水素油、高級アルコール、高級脂肪酸、合成エステル油、シクロペンタシロキサン、疎水化処理酸化チタン及び疎水化処理酸化亜鉛から選ばれる一種又は二種以上
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
成分(C)が、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、フェニルトリメチコン及びビスフェニルプロピルジメチコンから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の油中水型乳化化粧料。

第4 当合議体の判断
1 取消理由通知の概要
当合議体は、平成29年6月29日付けで、概要以下のとおりの取消理由を通知した。(なお、以降、申立人Bによる特許異議申立ての証拠の甲第1号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第12号証、甲第3号証をそれぞれ「甲B1」、「甲B10」、「甲B11」、「甲B12」、「甲B3」という。)

[取消理由]本件特許の請求項1、3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

特許法第29条第2項/請求項1、3に対して/刊行物1、3?6

刊行物1:特開2009-79019号公報(甲B1)
刊行物3:「界面活性剤と界面現象」、フレグランスジャーナル社、平成7年6月15日、310頁(甲B10)
刊行物4:「パーソナルケア用シリコーン」のパンフレットにおける「ポリエーテル変性シリコーン」の箇所、東レ・ダウコーニング株式会社 2008年10月発行、8頁、「シリコーン乳化剤」の項(甲B11)
刊行物5:「ソルビタンエステルズ」のパンフレットにおける「スパン及びトウィーン」の箇所、クローダ社、2009年発行、2/6?4/6頁(甲B12)
刊行物6:「Dow Corning Toray FZ-209の内容成分につきまして」と題する2008 年1月25日付発行書面、東レ・ダウコーニング株式会社(甲B3)

2 刊行物(甲各号証)の記載事項及び引用発明
(1)刊行物1(甲B1):特開2009-79019号公報
刊行物1には以下の事項が記載されている。
(甲B1a)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明では、UV-A波、UV-B波共に高い紫外線防御効果を維持しつつ、べたつき感、きしみ感を軽減することにより、優れた使用感が持続し、保存安定性にも優れる日焼け止め化粧料を提供することを目的とする。」

(甲B1b)【0041】?【0043】の実施例4には、次の発明(以下、「引用発明1」)という。)が記載されているといえる。
「紫外線防御効果、使用感、保存安定性に優れた日焼け止め化粧料(化粧下地)であって、下記組成の日焼け止め化粧料。
(A)成分 (質量%)
1.デカメチルシクロペンタシロキサン 25.0
2.ジメチコン 7.0
(SH200C Fluid 2cs 東レ・ダウコーニング社製)
(B)成分
3.ポリエーテル変性シリコーン 0.6
(BY22-008M 東レ・ダウコーニング社製、純分換算)
(C)成分
4.パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル 4.0
(D)成分
5.ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 1.0
(E)成分
6.モノイソステアリン酸ソルビタン 1.0
(その他)
7.メチルフェニルポリシロキサン 3.0
(FZ-209 東レ・ダウコーニング社製)
8.イソノナン酸イソノニル 1.0
9.スクワラン 1.0
10.シリコーン処理酸化亜鉛 10.0
(メチルハイドロジェンポリシロキサンにて5%表面処理)
11.1,3-ブチレングリコール 5.0
12.黄酸化鉄 0.5
13.塩化ナトリウム 1.0
14.ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
15.加水分解コラーゲン 0.01
16.グリチルレチン酸ステアリル 0.1
17.フェノキシエタノール 0.3
18.香料 0.1
19.精製水 残 部」

(2)刊行物3(甲B10):「界面活性剤と界面現象」、フレグランスジャーナル社、平成7年6月15日、310頁
刊行物3(310頁、「I.マクロエマルション」の項)には、
「一般にO/W型エマルションは油よりも水に溶けやすい乳化剤によって,W/O型エマルションは水よりも油に溶けやすい乳化剤によってそれぞれ生成する。これはBancroft則(Bancroft,1913)として知られている。」
と記載されている。

(3)刊行物4(甲B11):「パーソナルケア用シリコーン」のパンフレットにおける「ポリエーテル変性シリコーン」の箇所、東レ・ダウコーニング株式会社 2008年10月発行、8頁、「シリコーン乳化剤」の項
刊行物4(8頁、最下段の表)には、製品名「BY22-008M」のHLBが「2」であることが記載されている。

(4)刊行物5(甲B12):「ソルビタンエステルズ」のパンフレットにおける「スパン及びトウィーン」の箇所、クローダ社、2009年発行、2/6?4/6頁
刊行物5(2/6の表及び4/6頁の表3)によれば、Product Name「Span 120」の化学的同一性は「ソルビタンイソステアレート」であり、「Span 120」のHLB Valueは「4.7」であることが記載されている。

(5)刊行物6(甲B3):「Dow Corning Toray FZ-209の内容成分につきまして」と題する2008 年1月25日付発行書面、東レ・ダウコーニング株式会社
刊行物6は、FZ-209に関する東レ・ダウコーニング社からの名称変更に関する書面であり、FZ-209が、2008年1月25日以前は「フェニルトリメチコン」と表示していたが、2008年1月25日以降は「ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン」と正しく表示することを通知したものである。

3 対比・判断
(1)本件訂正発明1について
(1-1)本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。
ア ここで、一般に、W/O型エマルションは水より油に溶けやすい乳化剤(すなわち、HLBの低い乳化剤)により生成されることは技術常識である(刊行物3参照)。そうであるところ、引用発明1の日焼け止め化粧料で使用されている「ポリエーテル変性シリコーン(BY22-008M 東レ・ダウコーニング社製)」及び「モノイソステアリン酸ソルビタン」は、それぞれHLB=2、HLB=4.7(刊行物4、5参照)であるHLBの低い乳化剤であるから、引用発明1の日焼け止め化粧料は油中水型エマルジョンになっているといえる。
そうすると、引用発明1の「日焼け止め化粧料」は、本件訂正発明1の「油中水型乳化化粧料」に相当する。

イ 引用発明1の「パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル」は、本件訂正発明1の「(A)パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル」に相当する。

ウ 引用発明1の「ジメチコン(SH200C Fluid 2cs 東レ・ダウコーニング社製)7.0(質量%)」は、本件訂正発明1の「(B)25℃における動粘度が2.0mm^(2)/s以下のジメチルシリコーンオイルを1.0?10.00質量%」に相当する。

エ 引用発明1の「メチルフェニルポリシロキサン(FZ-209 東レ・ダウコーニング社製)」は、本件訂正発明1の「(C)フェニル変性シリコーン」に相当することは明らかであるが、その配合量において、引用発明1が3.0(質量%)であるのに対して、本件訂正発明1は4?40.0質量%である点で相違する。

オ 引用発明1の「デカメチルシクロペンタシロキサン」は、本件訂正発明1の「シクロペンタシロキサン」に、以下、同様に前者の「イソノナン酸イソノニル」は、後者の「合成エステル油」に、前者の「スクワラン」は、後者の「炭化水素油」に、前者の「シリコーン処理酸化亜鉛」は、後者の「疎水化処理酸化亜鉛」にそれぞれ相当し、いずれも本件訂正発明1の成分(D)に該当するものであって、本件訂正発明1の成分(D)を二種以上含有するものといえ、それらの合計量は、25.0+1.0+1.0+10.0=37.0質量%となる。

カ そして、引用発明1において、上記イ、エ、オの成分の合計は、4.0+3.0+37.0=44.0質量%となるから、本件訂正発明1の「成分(A)、成分(C)及び成分(D)の合計が33.00質量%以上を含有する」ことに相当する。

キ そうすると、両者は、以下の一致点、及び、相違点を有する。
<一致点>
「成分(A)?(D)を含有し、かつ、成分(A)、成分(C)及び成分(D)の合計が33.00質量%以上を含有することを特徴とする油中水型乳化化粧料。
(A)パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル
(B)25℃における動粘度が2.0mm^(2)/s以下のジメチルシリコーンオイルを1.0?10.00質量%
(C)フェニル変性シリコーン
(D)油脂、ロウ類、炭化水素油、高級アルコール、高級脂肪酸、合成エステル油、シクロペンタシロキサン、疎水化処理酸化チタン及び疎水化処理酸化亜鉛から選ばれる一種又は二種以上」

<相違点1>:
フェニル変性シリコーンの配合量について、本件訂正発明1が「4?40.0質量%」であるのに対して、引用発明1は3.0質量%である点。

(1-2)<相違点1>について検討する。
ア 化粧料を始め、各種組成物の調製一般において、各成分の配合量を微調整して配合割合の最適化を図ることは普通に行うことであるから、引用発明1において、「メチルフェニルポリシロキサン(FZ-209 東レ・ダウコーニング社製)」の配合量を3.0質量%から若干増加させて4質量%程度にすることは当業者が通常行う創作活動に過ぎない。

イ そして、刊行物1には「メチルフェニルポリシロキサン(FZ-209 東レ・ダウコーニング社製)」の有無による紫外線防御効果の比較例は示されていないものの、引用発明1は、「紫外線防御効果、使用感、保存安定性に優れた日焼け止め化粧料(化粧下地)」であって、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルが4.0質量%と、本件訂正発明1の実施例(本件明細書の実施例13、16)と同程度の配合量において紫外線防御効果が優れているといえるのであるから、当然に、紫外線防御促進効果が奏されているものと認められる。

ウ 一方、本件明細書【0021】の「本発明に用いられる(C)フェニル変性シリコーンの配合量は特に限定されないが、好ましくは本発明化粧料に対して0.5?40.0質量%である。0.5質量%未満では相乗的な紫外線防御効果が得られない場合があり、40.0質量%を超えても特に問題はないが、相乗的な紫外線防御効果のさらなる増強効果が得られない場合があるためである。」なる記載、及び、【表3】の実施例7?14におけるフェニル変性シリコーンの配合量とSPF値及び紫外線防御促進効果との関係を見る限り、本件訂正発明1において、フェニル変性シリコーンの配合量の数値範囲の4質量%という下限値自体に臨界的意義があるものとは認められず、本件訂正発明1において、フェニル変性シリコーンの配合量を4?40.0質量%としたことによる本件明細書記載の効果は、刊行物1の開示から予測し得ない格別顕著なものとは認められない。

(1-3)小括
したがって、本件訂正発明1は、引用発明1及び刊行物1、3?5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-4)平成29年8月28日付け意見書における特許権者の主張について
ア 特許権者は、以下のとおり主張している。
(ア)「(刊行物1の)段落【0041】には、紫外線防御効果、使用感、保存安定性の全ての点において優れていたとも記載されている。一方で、この優れた紫外線防御効果とは、引用発明1の記載内容全体と、表1における実施例と比較例1の紫外線防御効果の結果から判断すると、UV-A領域の紫外線吸収剤である4-tert-ブチル-4-メトキシジベンゾイルメタンと比較してジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルを配合する方が優れた紫外線防御効果があるとしか読み取れません。」
(イ)「実施例4のみからは、実施例4が実施例4のジメチコンを他の揮発性シリコーン(例えばデカメチルシクロペンタシロキサン)に変えた場合や、メチルフェニルポリシロキサンを配合しない場合と比べて、UV-B領域の紫外線から皮膚を守る指標であるSPF値が予想を超えた高い値を得る(紫外線防御促進効果)ことができるとは、まったく予測ができません。」

イ そこで検討すると、上記ア(ア)については、刊行物1の【発明の解決しようとする課題】((甲B1a))に「本発明では、UV-A波、UV-B波共に高い紫外線防御効果を維持しつつ、べたつき感、きしみ感を軽減することにより、優れた使用感が持続し、保存安定性にも優れる日焼け止め化粧料を提供することを目的とする。」と記載されるとおり、刊行物1の実施例4(すなわち引用発明1)は、UV-A波、UV-B波共に高い紫外線防御効果を維持しつつ優れた使用感が持続し、保存安定性にも優れる日焼け止め化粧料を提供することを目的とする刊行物1に記載される発明の実施例である以上、当然にUV-A波、UV-B波共に高い紫外線防御効果を維持しているものといえる。
したがって、刊行物1の段落【0041】の「紫外線防御効果……の点において優れていた」との記載は、特許権者の主張のようにUV-A領域でのジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルの優位性だけを意味しているとは限られず、UV-A波、UV-B波共に紫外線防御効果に優れていたことを示していると解釈される。

ウ また、上記ア(イ)については、本件訂正発明1の引用発明1からの容易想到性についての判断にあたり、検討すべきは、<相違点1>について、すなわち、フェニル変性シリコーンの配合量を3.0質量%から若干増加させて4質量%程度にすることが当業者にとって容易か否かという点であって、特許権者がいうような「実施例4のジメチコンを他の揮発性シリコーン(例えばデカメチルシクロペンタシロキサン)に変えた場合や、メチルフェニルポリシロキサンを配合しない場合」を想定する必要があるとはいえない。
そして、特許権者は、本件訂正発明1について、「SPF値が予想を超えた高い値を得る(紫外線防御促進効果)こと」を謳っているが、本願明細書全体の記載によれば、本願明細書でいう「紫外線防御促進効果」とは、i)パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルの配合量が同一でも、成分(B)、(C)の併用によりSPF値が高くなること、また、ii)より少ないパラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルの配合量で所定のSPF値が得られること、を意味するものと解される。上記i)については、本件訂正発明1の実施例である本願明細書の実施例13、14及び16と引用発明1とは、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルの配合量が4質量%である点で差違がないことから、成分(B)、(C)に相当する成分を含む引用発明1においても、本件訂正発明1と同様のSPF値を示すものといえる。また、上記ii)については、そもそも本件訂正発明1においてパラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシルの配合量は特定されていない(すなわち、通常量或いは多量に含む態様も包含される)ものであるから、より少ない量云々の効果は、本件訂正発明1の特定事項に基づいた効果の主張とはいえない。

エ 以上のとおり、上記アの特許権者の主張はいずれも採用できない。

(2)本件訂正発明3について
刊行物6によれば、引用発明1の「メチルフェニルポリシロキサン(FZ-209 東レ・ダウコーニング社製)」は、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコンであるから、本件訂正発明3で特定される成分(C)に相当する。
してみると、請求項1を引用するものである本件訂正発明3と引用発明1との対比において、新たな相違点は生じない。
したがって、本件訂正発明3は、本件訂正発明1と同様の理由により、引用発明1及び刊行物1、3?6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1及び3は、引用発明1及び刊行物1、3?6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものである。
したがって、本件訂正発明1及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項2に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項2に対して、申立人A、Bがした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)?(D)を含有し、かつ、成分(A)、成分(C)及び成分(D)の合計が33.00質量%以上を含有することを特徴とする油中水型乳化化粧料。
(A)パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル
(B)25℃における動粘度が2.0mm^(2)/s以下のジメチルシリコーンオイルを1.0?10.00質量%
(C)フェニル変性シリコーンを4?40.0質量%
(D)油脂、ロウ類、炭化水素油、高級アルコール、高級脂肪酸、合成エステル油、シクロペンタシロキサン、疎水化処理酸化チタン及び疎水化処理酸化亜鉛から選ばれる一種又は二種以上
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
成分(C)が、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、フェニルトリメチコン及びビスフェニルプロピルジメチコンから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の油中水型乳化化粧料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-20 
出願番号 特願2011-254050(P2011-254050)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (A61K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 池田 周士郎  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 長谷川 茜
小川 慶子
登録日 2015-12-25 
登録番号 特許第5859286号(P5859286)
権利者 日本メナード化粧品株式会社
発明の名称 油中水型乳化化粧料  

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