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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1339167
異議申立番号 異議2017-700661  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-30 
確定日 2018-03-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6060314号発明「紙力増強剤および紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6060314号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔2?14〕について訂正することを認める。 特許第6060314号の請求項2に係る発明についての本件特許異議の申立てを却下する。 特許第6060314号の請求項1及び3?14に係る発明についての特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6060314号(請求項の数7。以下,「本件特許」という。)は,平成27年10月28日(優先権主張:平成26年12月8日)を国際出願日とする特許出願(特願2016-510526号)に係るものであって,平成28年12月16日に設定登録されたものである。
その後,本件特許の請求項1?7に係る発明についての特許に対して,特許異議申立人(以下,「申立人」という。)である星光PMC株式会社により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

平成29年 6月30日 特許異議申立書
9月28日 取消理由通知書
11月20日 意見書,訂正請求書
12月 4日 通知書(訂正請求があった旨の通知)
12月26日 意見書(申立人)

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成29年11月20日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項2?14について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に,「請求項1または2に記載の紙力増強剤」とあるうち,請求項2を引用するものについて,新請求項8として独立形式に改める。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に,「請求項1または2に記載の紙力増強剤」とあるうち,請求項2を引用するものについて削除し,「請求項1に記載の紙力増強剤」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に,「請求項1または2に記載の紙力増強剤」とあるうち,請求項2を引用するものについて,新請求項9として独立形式に改める。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に,「請求項1または2に記載の紙力増強剤」とあるうち,請求項2を引用するものについて削除し,「請求項1に記載の紙力増強剤」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に,「請求項4に記載の紙力増強剤」とあるうち,請求項2を引用する請求項4を引用するものについて,新請求項10として,新請求項9の従属形式に改める。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6に,「請求項1?5のいずれか一項に記載の紙力増強剤」とあるうち,請求項2を引用する請求項3?5を引用するものについて,新請求項11として,新請求項8?10の従属形式に改める。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に,「請求項1?6のいずれか一項に記載の紙力増強剤」とあるうち,請求項2を引用する請求項3?5を引用する請求項6を引用するものについて,新請求項12として,新請求項8?11の従属形式に改める。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6に,「請求項1?5のいずれか一項に記載の紙力増強剤」とあるうち,請求項2を引用するものについて,新請求項13として独立形式に改める。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項6に,「請求項1?5のいずれか一項に記載の紙力増強剤」とあるうち,請求項2を引用するもの及び請求項2を引用する請求項3?5を引用するものについて削除し,「請求項1および3?5のいずれか一項に記載の紙力増強剤」に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項7に,「請求項1?6のいずれか一項に記載の紙力増強剤」とあるうち,請求項2を引用する請求項6を引用するものについて,新請求項14として,新請求項13の従属形式に改める。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項7に,「請求項1?6のいずれか一項に記載の紙力増強剤」とあるうち,請求項2を引用するもの及び請求項2を引用する請求項3?6を引用するものについて削除し,「請求項1および3?6のいずれか一項に記載の紙力増強剤」に訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項2を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,この訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下,「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)訂正事項3,5,10及び12について
訂正事項3に係る訂正は,訂正前の請求項3における引用請求項について,「請求項1または2」を「請求項1」に訂正するものである。
訂正事項5に係る訂正は,訂正前の請求項4における引用請求項について,「請求項1または2」を「請求項1」に訂正するものである。
訂正事項10に係る訂正は,訂正前の請求項6における引用請求項について,「請求項1?5のいずれか一項」を「請求項1および3?5のいずれか一項」に訂正するものである。
訂正事項12に係る訂正は,訂正前の請求項7における引用請求項について,「請求項1?6のいずれか一項」を「請求項1および3?6のいずれか一項」に訂正するものである。
これらの訂正は,いずれも,上記の訂正事項1による請求項の削除に合わせて,引用請求項の一部を削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)訂正事項2,4及び9について
訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項3のうち,請求項2を引用するものについて,引用形式の記載から独立形式の記載(新請求項8)に改めるものである。
訂正事項4に係る訂正は,訂正前の請求項4のうち,請求項2を引用するものについて,引用形式の記載から独立形式の記載(新請求項9)に改めるものである。
訂正事項9に係る訂正は,訂正前の請求項6のうち,請求項2を引用するものについて,引用形式の記載から独立形式の記載(新請求項13)に改めるものである。
これらの訂正は,いずれも,請求項の記載について,訂正前の引用形式の記載を独立形式の記載に改めるものであるから,「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(4)訂正事項6?8及び11について
訂正事項6に係る訂正は,訂正前の請求項5のうち,請求項2を引用する請求項4を引用するものについて,上記の訂正事項4による訂正に合わせて,新請求項9を引用する新請求項10とするものである。
訂正事項7に係る訂正は,訂正前の請求項6のうち,請求項2を引用する請求項3?5を引用するものについて,上記の訂正事項2,4及び6による訂正に合わせて,新請求項8?10を引用する新請求項11とするものである。
訂正事項8に係る訂正は,訂正前の請求項7のうち,請求項2を引用する請求項3?5を引用する請求項6を引用するものについて,上記の訂正事項2,4,6及び7による訂正に合わせて,新請求項8?11を引用する新請求項12とするものである。
訂正事項11に係る訂正は,訂正前の請求項7のうち,請求項2を引用する請求項6を引用するものについて,上記の訂正事項9による訂正に合わせて,新請求項13を引用する新請求項14とするものである。
これらの訂正は,いずれも,上記の訂正事項2,4,6,7及び9による訂正に合わせて,請求項間の引用関係を整理するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(5)一群の請求項について
訂正前の請求項2?7について,請求項3?7は,請求項2を直接的又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項2?7に対応する訂正後の請求項2?14は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

3 まとめ
上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書き1号,3号又は4号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条4項に適合するとともに,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?14に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ項番に従い,「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し,アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。),
前記アクリルアミド系ポリマーは,
(メタ)アクリルアミドと,
4級アンモニウム系モノマーと,
(メタ)アリルスルホン酸塩と
のみからなる重合成分の重合体であることを特徴とする,紙力増強剤。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記4級アンモニウム系モノマーが,
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物を含む,請求項1に記載の紙力増強剤。
【請求項4】
前記4級アンモニウム系モノマーが,
ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物を含む,請求項1に記載の紙力増強剤。
【請求項5】
前記ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物が,ジアリルジメチルアンモニウムクロライドである,請求項4に記載の紙力増強剤。
【請求項6】
食品包装紙に用いられる,請求項1および3?5のいずれか一項に記載の紙力増強剤。
【請求項7】
請求項1および3?6のいずれか一項に記載の紙力増強剤を用いて得られることを特徴とする,紙。
【請求項8】
アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し,アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。),
前記アクリルアミド系ポリマーは,
(メタ)アクリルアミドと,
4級アンモニウム系モノマーと,
(メタ)アリルスルホン酸塩と,
アニオン性重合性モノマーと
のみからなる重合成分の重合体であり,
前記4級アンモニウム系モノマーが,
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物を含むことを特徴とする,紙力増強剤。
【請求項9】
アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し,アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。),
前記アクリルアミド系ポリマーは,
(メタ)アクリルアミドと,
4級アンモニウム系モノマーと,
(メタ)アリルスルホン酸塩と,
アニオン性重合性モノマーと
のみからなる重合成分の重合体であり,
前記4級アンモニウム系モノマーが,
ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物を含むことを特徴とする,紙力増強剤。
【請求項10】
前記ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物が,ジアリルジメチルアンモニウムクロライドである,請求項9に記載の紙力増強剤。
【請求項11】
食品包装紙に用いられる,請求項8?10のいずれか一項に記載の紙力増強剤。
【請求項12】
請求項8?11のいずれか一項に記載の紙力増強剤を用いて得られることを特徴とする,紙。
【請求項13】
アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し,アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。),
前記アクリルアミド系ポリマーは,
(メタ)アクリルアミドと,
4級アンモニウム系モノマーと,
(メタ)アリルスルホン酸塩と,
アニオン性重合性モノマーと
のみからなる重合成分の重合体であり,
食品包装紙に用いられることを特徴とする,紙力増強剤。
【請求項14】
請求項13に記載の紙力増強剤を用いて得られることを特徴とする,紙。

第4 特許異議の申立ての概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件発明1?14は,下記(1)?(4)のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?14に係る発明についての特許は,特許法113条2号又は4号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記(5)の甲第1号証?甲第3号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出する。
(1)取消理由1(新規性)
本件発明2?14は,甲1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件発明1?14は,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)取消理由3(サポート要件)
本件発明1?14については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。
(4)取消理由4(明確性)
本件発明1?14については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではない。
(5)証拠方法
・甲1 特開2000-8293号公報
・甲2 特開昭64-61596号公報
・甲3 米国食品医薬品局ホームページ(https://www.accessdata.fda.gov/scripts/fdcc/index.cfm?set=fcn)から検索した食品接触物質のインベントリからアクリルアミドとカチオン性モノマーの重合物に関する物質を抜粋(発行日:2000年7月27日,2009年4月9日,2013年7月20日,2015年12月9日)

2 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)新規性
本件発明2及び7は,甲1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。
(2)進歩性
本件発明2及び7は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 当審の判断
本件特許の請求項2が本件訂正により削除された結果,同請求項2に係る発明についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1及び3?14に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
以下,事案に鑑み,取消理由通知書に記載した取消理由(新規性,進歩性),取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由(明確性,サポート要件,新規性,進歩性)の順で検討する。

1 取消理由通知書に記載した取消理由(新規性,進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1,4,【0042】(実施例4),【0049】(比較例3),【0052】)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「アクリルアミド,アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド,イタコン酸,2-アクリルアミドグリコリック酸及びメタリルスルホン酸ナトリウムを重合した重合体を含む,透明な水溶液からなる,製紙用添加剤。」(以下,「甲1発明A」という。)

「アクリルアミド,アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド,イタコン酸及びメタリルスルホン酸ナトリウムを重合した重合体を含む,透明な水溶液からなる,製紙用添加剤。」(以下,「甲1発明B」という。)

「甲1発明Aを用いて得られた紙。」(以下,「甲1発明A’」という。)

「甲1発明Bを用いて得られた紙。」(以下,「甲1発明B’」という。)

(2)本件発明2について
上記のとおり,本件特許の請求項2に係る発明についての本件特許異議の申立ては却下すべきものであるから,取消理由通知書に記載した取消理由(新規性,進歩性)について判断しない。

(3)本件発明7について
取消理由通知書では,本件訂正前の請求項7に係る発明のうち,同請求項2を引用するものについて,新規性及び進歩性の欠如を指摘しているところ,同請求項2を引用する同請求項7に係る発明については,本件訂正により削除されたから,取消理由通知書に記載した取消理由(新規性,進歩性)は解消した。

(4)まとめ
以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由(新規性,進歩性)によっては,本件特許の請求項7に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由
(1)取消理由4(明確性)
ア 申立人は,本件発明1では,「アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く」とされているが,「分散液」とは,ポリマーの外観の状態を示すものであり,「分散液」になるか否かは,アクリルアミド系ポリマーのイオン性(アニオン性基及びカチオン性基の量比,種類),濃度,分子量により変動するため,「分散液」が,どのようなpH,濃度,温度における状態を意味するのか,当業者にとって不明確であり,また,ポリマー中のイオン性(官能基の量比,種類)も特定していないため,どのような範囲まで意図しているのか不明確であると主張する。また,本件発明3?14についても同様に主張する。
しかしながら,「分散液」とは,液体中に粒子が浮遊又は懸濁した状態のものを意味するものであることは,明らかである。本件発明1は,「水溶液」に関するものであるが,ポリマーのイオン性,濃度,分子量,pH,温度の如何にかかわらず,当業者が「分散液」と認識できるものについては「除く」とされるものであり,その意味は明確である。また,本件発明3?14についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。

イ 申立人は,「食品包装紙」は,一般的な定義がないため不明確であるとも主張するが(平成29年12月26日付けの意見書4頁),新たな取消理由を主張するものであり,実質的に特許異議申立書の要旨を変更するものといえるから,採用しない。

ウ したがって,取消理由4によっては,本件特許の請求項1及び3?14に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由3(サポート要件)
ア 申立人は,本件発明1は,甲3にあるようにモノマーの種類や使用量などを特定していないようなポリマーを用いて全ての食品接触用材料(紙)全般にまで認められていないため,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張するとともに,甲3にあるように種々のポリアクリルアミド系樹脂がFDAにて認証を受けており,単にポリアクリルアミド系樹脂を構成するモノマー種のみを特定するだけで,本件発明1の効果が得られるとまで拡張ないし一般化できるものではないと主張する。また,本件発明3?14についても同様に主張する。
上記主張について,以下,検討する。
本件明細書の記載(【0006】)によれば,本件発明1,8,9及び13の課題は,良好に紙力増強できるとともに,(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できるアクリルアミド系ポリマーを含有する紙力増強剤を提供することであると認められる。
このような課題に対して,本件明細書には,以下の記載がある。
「重合成分が,(メタ)アリルスルホン酸塩を含み,かつ,これら窒素を含有する架橋性モノマーと3級アミノ系モノマーとを含有していなければ,得られるアクリルアミド系ポリマーを紙の製造に用いた場合に,良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減することができる。」(【0044】)
「重合成分が,アニオン性重合性モノマーを含んでいる場合には,その重合成分から得られるアクリルアミド系ポリマーを紙の製造に用いた場合に,より良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減することができる。」(【0054】)
そうすると,本件発明1,8,9及び13の構成を前提とすれば,本件発明1の課題は,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分として,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩とのみからなる」重合成分を用いることによって,また,本件発明8,9及び13の課題は,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分として,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩と,アニオン性重合性モノマーとのみからなる」重合成分を用いることによって,それぞれ,解決されるとされていることが理解できる。また,本件明細書には,上記の各重合成分について具体的に説明されている((メタ)アクリルアミドについては,【0021】?【0023】,4級アンモニウム系モノマーについては,【0024】?【0033】,(メタ)アリルスルホン酸塩については,【0034】?【0038】,アニオン性重合性モノマーについては,【0045】?【0054】をそれぞれ参照。)。
そして,本件明細書には,本件発明1及び3?14を具体的に実施した実施例及び比較例が記載されており(表1?5等を参照。),これらの実施例及び比較例によれば,実施例において,良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できることが示されているといえる。
そうすると,当業者であれば,上記の実施例以外の場合であっても,本件発明1,8,9及び13の構成によれば,同実施例と同様に,良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できることが理解できるといえる。
以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,申立人が指摘するFDAでの認証の実態にかかわらず,本件発明1,8,9及び13は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1,8,9及び13の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件発明1,8,9及び13は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。また,本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明3?7,本件発明8又は9を直接的又は間接的に引用する本件発明10?12,本件発明13を引用する本件発明14についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。

イ 申立人は,ポリアクリルアミド樹脂を紙力増強剤とする場合,紙力増強剤中の未反応のアクリルアミドの残存量によっても,紙とした際のアクリルアミドの抽出量に多大な影響を及ぼすものであるから,これを特定しない本件発明1まで拡張ないし一般化できるものではないと主張する。また,本件発明3?14についても同様に主張する。
しかしながら,本件発明1の課題が,良好に紙力増強できるとともに,(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できるアクリルアミド系ポリマーを含有する紙力増強剤を提供するものであることは,上記アのとおりである。そして,本件明細書に記載される実施例及び比較例によれば,実施例においては,アクリルアミド系ポリマーの水溶液中に含まれる残存アクリルアミド量(表1?5の「残AM量」を参照。)にかかわらず,紙の質量あたりのアクリルアミドの抽出量(表1?5の「対紙重量のAM量」を参照。)を低減できることが示されている。そうすると,本件発明1がアクリルアミド系ポリマーの水溶液中に含まれる残存アクリルアミド量を特定していないとしても,本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。また,本件発明3?14についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。

ウ したがって,取消理由3によっては,本件特許の請求項1及び3?14に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由1(新規性)
本件発明3?7は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから,事案に鑑み,まず,本件発明1について検討した後,本件発明3?7について検討し,続けて本件発明8?14について検討することとする。

ア 甲1に記載された発明
甲1には,前記1(1)で認定したとおりの甲1発明A,甲1発明B,甲1発明A’及び甲1発明B’が記載されている。

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明Aとを対比する。
甲1発明Aは,アクリルアミドを重合成分としており,このような重合成分「を重合した重合体」は,本件発明1における「アクリルアミド系ポリマー」に相当する。そして,甲1発明Aにおける「重合体を含む,透明な水溶液」は,本件発明1における「アクリルアミド系ポリマーの水溶液・・・(但し,アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。)」に相当する。
本件発明1における「紙力増強剤」と,甲1発明Aおける「製紙用添加剤」とは,いずれも「製紙用添加剤」である限りにおいて共通する。
そうすると,本件発明1と甲1発明Aとは,
「アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し,アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。),
前記アクリルアミド系ポリマーは,重合成分の重合体である,製紙用添加剤。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分が,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩とのみからなる」ものであるのに対し,甲1発明Aでは,「アクリルアミド,アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド,イタコン酸,2-アクリルアミドグリコリック酸及びメタリルスルホン酸ナトリウム」からなるものである点。

(イ)相違点1の検討
甲1発明Aにおける「アクリルアミド」,「アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド」,「メタリルスルホン酸ナトリウム」は,それぞれ,本件発明1における「(メタ)アクリルアミド」,「4級アンモニウム系モノマー」,「(メタ)アリルスルホン酸塩」に相当する。
しかしながら,甲1発明Aにおける「イタコン酸」,「2-アクリルアミドグリコリック酸」は,いずれもカルボン酸基を有するものであり,アニオン性重合性モノマーといえるところ,本件発明1の重合成分は,これらに相当する成分を含むものではない。
以上によれば,相違点1は,実質的な相違点であるから,本件発明1は,甲1発明Aと同一ではない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明とはいえない。

(ウ)本件発明1と甲1発明Bとを対比すると,両者は,上記(ア)と同じ一致点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点2
本件発明1では,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分が,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩とのみからなる」ものであるのに対し,甲1発明Bでは,「アクリルアミド,アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド,イタコン酸及びメタリルスルホン酸ナトリウム」からなるものである点。

(エ)相違点2の検討
上記(イ)と同様,本件発明1の重合成分は,甲1発明Bにおける「イタコン酸」に相当する成分を含むものではない。
以上によれば,相違点2は,実質的な相違点であるから,本件発明1は,甲1発明Bと同一ではない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明とはいえない。

ウ 本件発明3?7について
本件発明3?7は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明3?7についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえない。

エ 本件発明8について
(ア)本件発明8と甲1発明A及び甲1発明Bとを対比する。
甲1発明A及び甲1発明Bにおける「アクリルアミド」,「アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド」,「メタリルスルホン酸ナトリウム」は,それぞれ,本件発明8における「(メタ)アクリルアミド」,「4級アンモニウム系モノマー」,「(メタ)アリルスルホン酸塩」に相当する。
甲1発明A及び甲1発明Bにおける「イタコン酸」,「2-アクリルアミドグリコリック酸」は,いずれもカルボン酸基を有することから,本件発明8における「アニオン性重合性モノマー」に相当する。
そして,上記イ(ア)における検討も踏まえると,本件発明8と甲1発明A及び甲1発明Bとは,
「アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し,アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。),
前記アクリルアミド系ポリマーは,
(メタ)アクリルアミドと,
4級アンモニウム系モノマーと,
(メタ)アリルスルホン酸塩と,
アニオン性重合性モノマーと
のみからなる重合成分の重合体である,製紙用添加剤。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点3
本件発明8では,4級アンモニウム系モノマーが,「ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物を含む」ものであるのに対し,甲1発明A及び甲1発明Bでは,「アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド」である点。

(イ)相違点3の検討
4級アンモニウム系モノマーに関し,甲1発明A及び甲1発明Bにおける「アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド」は,本件発明8における「ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物」に相当するものではなく,物質として異なるものである。
以上によれば,相違点3は,実質的な相違点であるから,本件発明8は,甲1発明Aと同一ではなく,甲1発明Bとも同一ではない。
したがって,本件発明8は,甲1に記載された発明とはいえない。

オ 本件発明9について
(ア)本件発明9と甲1発明A及び甲1発明Bとを対比すると,上記エ(ア)と同じ一致点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点4
本件発明9では,4級アンモニウム系モノマーが,「ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物を含む」ものであるのに対し,甲1発明A及び甲1発明Bでは,「アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド」である点。

(イ)相違点4の検討
4級アンモニウム系モノマーに関し,甲1発明A及び甲1発明Bにおける「アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド」は,本件発明9における「ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物」に相当するものではなく,物質として異なるものである。
以上によれば,相違点4は,実質的な相違点であるから,本件発明9は,甲1発明Aと同一ではなく,甲1発明Bとも同一ではない。
したがって,本件発明9は,甲1に記載された発明とはいえない。

カ 本件発明10?12について
本件発明10?12は,本件発明8又は9を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記エ,オで述べたとおり,本件発明8及び9が甲1に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明10?12についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえない。

キ 本件発明13について
(ア)本件発明13と甲1発明A及び甲1発明Bとを対比すると,上記エ(ア)と同じ一致点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点5
本件発明13は,「食品包装紙に用いられる」ものであるのに対し,甲1発明A及び甲1発明Bは,用途が特定されていない点。

(イ)相違点5の検討
甲1には,甲1発明A及び甲1発明Bに係る製紙用添加剤を食品包装紙に用いることについては,何ら記載されていない。
以上によれば,相違点5は,実質的な相違点であるから,本件発明13は,甲1発明Aと同一ではなく,甲1発明Bとも同一ではない。
したがって,本件発明13は,甲1に記載された発明とはいえない。

ク 本件発明14について
本件発明14は,本件発明13を引用するものであるが,上記キで述べたとおり,本件発明13が甲1に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明14についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえない。

ケ まとめ
以上のとおり,本件発明3?14は,いずれも,甲1に記載された発明であるとはいえないから,申立人が主張する取消理由1は理由がない。
したがって,取消理由1によっては,本件特許の請求項3?14に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

(4)取消理由2(進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明Aとを対比すると,両者は,前記(3)イ(ア)のとおり,以下の一致点で一致し,少なくとも,以下の相違点1で相違する。
・一致点
「アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し,アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。),
前記アクリルアミド系ポリマーは,重合成分の重合体である,製紙用添加剤。」
・相違点1
本件発明1では,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分が,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩とのみからなる」ものであるのに対し,甲1発明Aでは,「アクリルアミド,アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド,イタコン酸,2-アクリルアミドグリコリック酸及びメタリルスルホン酸ナトリウム」からなるものである点。

(イ)相違点1の検討
本件発明1は,アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなる紙力増強剤に関するものであるところ,前記(2)アで述べたように,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分として,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩とのみからなる」重合成分を用いることによって,良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できるというものである。
一方,甲1?3のいずれにも,このような事項については何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
そうすると,甲1発明Aにおいて,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分として,甲1発明Aにおける重合成分に代えて,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩とのみからなる」ものを用いることが,当業者が容易に想到することができたとはいえない。そして,本件発明1は,上記のとおり,良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件発明1と甲1発明Bとを対比すると,両者は,前記(3)イ(ウ)のとおり,上記(ア)と同じ一致点で一致し,少なくとも,以下の相違点2で相違する。
・相違点2
本件発明1では,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分が,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩とのみからなる」ものであるのに対し,甲1発明Bでは,「アクリルアミド,アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド,イタコン酸及びメタリルスルホン酸ナトリウム」からなるものである点。

(エ)相違点2の検討
相違点2は,相違点1と同様のものであるところ,上記(イ)と同様の理由により,甲1発明Bにおいて,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分として,甲1発明Bにおける重合成分に代えて,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩とのみからなる」ものを用いることが,当業者が容易に想到することができたとはいえない。そして,本件発明1は,上記のとおり,良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明3?7について
本件発明3?7は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明3?7についても同様に,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明8について
(ア)本件発明8と甲1発明A及び甲1発明Bとを対比すると,両者は,前記(3)エ(ア)のとおり,以下の一致点で一致し,少なくとも,以下の相違点3で相違する。
・一致点
「アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し,アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。),
前記アクリルアミド系ポリマーは,
(メタ)アクリルアミドと,
4級アンモニウム系モノマーと,
(メタ)アリルスルホン酸塩と,
アニオン性重合性モノマーと
のみからなる重合成分の重合体である,製紙用添加剤。」
・相違点3
本件発明8では,4級アンモニウム系モノマーが,「ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物を含む」ものであるのに対し,甲1発明A及び甲1発明Bでは,「アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド」である点。

(イ)相違点3の検討
本件発明8は,本件発明1の重合成分に加えて,さらに「アニオン性重合性モノマー」を含むものであり,また,4級アンモニウム系モノマーが,「ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物を含む」ものに特定されたものである。
この点,本件明細書には,「4級アンモニウム系モノマーとして,好ましくは,ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物・・・が挙げられ,・・・」(【0030】)との記載がある。前記(2)アで本件発明8について述べた事項も踏まえると,本件発明8は,アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなる紙力増強剤において,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分として,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩と,アニオン性重合性モノマーとのみからな」り,4級アンモニウム系モノマーが,「ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物を含む」ものである重合成分を用いることによって,より良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できるというものと解される。
一方,甲1?3のいずれにも,このような事項については何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
そうすると,甲1発明A又は甲1発明Bにおいて,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分に含まれる4級アンモニウム系モノマーとして,「アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド」に代えて,「ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物を含む」ものを用いることが,当業者が容易に想到することができたとはいえない。そして,本件発明8は,上記のとおり,より良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって,本件発明8は,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明9について
(ア)本件発明9と甲1発明A及び甲1発明Bとを対比すると,両者は,前記(3)オ(ア)のとおり,上記ウ(ア)と同じ一致点で一致し,少なくとも,以下の相違点4で相違する。
・相違点4
本件発明9では,4級アンモニウム系モノマーが,「ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物を含む」ものであるのに対し,甲1発明A及び甲1発明Bでは,「アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド」である点。

(イ)相違点4の検討
本件発明9は,本件発明1の重合成分に加えて,さらに「アニオン性重合性モノマー」を含むものであり,また,4級アンモニウム系モノマーが,「ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物を含む」ものに特定されたものである。
この点,本件明細書には,「4級アンモニウム系モノマーとして,・・・より好ましくは,ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物が挙げられる。」(【0030】)との記載がある。前記(2)アで本件発明9について述べた事項も踏まえると,本件発明9は,アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなる紙力増強剤において,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分として,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩と,アニオン性重合性モノマーとのみからな」り,4級アンモニウム系モノマーが,「ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物を含む」ものである重合成分を用いることによって,より良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できるというものと解される。
一方,甲1?3のいずれにも,このような事項については何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
そうすると,甲1発明A又は甲1発明Bにおいて,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分に含まれる4級アンモニウム系モノマーとして,「アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド」に代えて,「ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物を含む」ものを用いることが,当業者が容易に想到することができたとはいえない。そして,本件発明9は,上記のとおり,より良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって,本件発明9は,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件発明10?12について
本件発明10?12は,本件発明8又は9を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記ウ,エで述べたとおり,本件発明8及び9が,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明10?12についても同様に,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 本件発明13について
(ア)本件発明13と甲1発明A及び甲1発明Bとを対比すると,両者は,前記(3)キ(ア)のとおり,上記ウ(ア)と同じ一致点で一致し,少なくとも,以下の相違点5で相違する。
・相違点5
本件発明13は,「食品包装紙に用いられる」ものであるのに対し,甲1発明A及び甲1発明Bは,用途が特定されていない点。

(イ)相違点5の検討
本件発明13は,本件発明1の重合成分に加えて,さらに「アニオン性重合性モノマー」を含むものであり,また,「食品包装紙に用いられる」ものである。
この点,本件明細書には,「そのため,上記のアクリルアミド系ポリマーは,各種産業分野において用いられる紙の紙力増強剤として好適に用いられ,とりわけ,食品包装紙用の紙力増強剤として,好適に用いられる。」(【0095】)との記載がある。前記(2)アで本件発明13について述べた事項も踏まえると,本件発明13は,アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなる紙力増強剤において,アクリルアミド系ポリマーを得るための重合成分として,「(メタ)アクリルアミドと,4級アンモニウム系モノマーと,(メタ)アリルスルホン酸塩と,アニオン性重合性モノマーとのみからなる」重合成分を用いることによって,より良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できるため,好適に「食品包装紙に用い」ることができるというものと解される。
一方,甲1?3のいずれにも,このような事項については何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
そうすると,甲1発明A又は甲1発明Bにおいて,製紙用添加剤を「食品包装紙に用い」ることが,当業者が容易に想到することができたとはいえない。そして,本件発明13は,上記のとおり,より良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できるため,好適に食品包装紙に用いることができるというという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって,本件発明13は,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ 本件発明14について
本件発明14は,本件発明13を引用するものであるが,上記カで述べたとおり,本件発明13が,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明14についても同様に,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ク 申立人の主張について
(ア)申立人は,本件明細書の【0005】に準じるような効果を主張するのでれば,得られる効果を推定できるのはかなり狭い範囲であり,医薬品の審査基準に準じたレベルの予測可能性しかないと考えるべきであると主張するとともに,FDAでは,発がん性物質と目される化学物質(アクリルアミド)は低減ではなく,ごく微量しか許容されないので,食品包装紙としての効果を認めるのであれば,紙としての紙力増強剤としての添加量なども含めた一定の限度が必要となると主張する。
しかしながら,本件発明1及び3?14が,良好に紙力増強できるとともに,紙製品中の(メタ)アクリルアミドの含有量を低減できる等の,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものであることは,上記ア?キで述べたとおりである。申立人の主張は,本件各発明が奏する効果の予測可能性や顕著性について,FDAでの認証の実態と同視するものであり,失当である。
よって,申立人の主張は理由がない。

(イ)申立人は,取消理由2(進歩性)に関し,甲2を主引用例とした場合(平成29年12月26日付けの意見書1?3頁)及び甲3を主引用例とした場合(同意見書4頁)についても主張するが,新たな取消理由を主張するものであり,実質的に特許異議申立書の要旨を変更するものといえるから,採用しない。

ケ まとめ
以上のとおり,本件発明1及び3?14は,いずれも,甲1に記載された発明及び甲1?3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由2は理由がない。
したがって,取消理由2によっては,本件特許の請求項1及び3?14に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,本件特許の請求項2が本件訂正により削除された結果,同請求項2に係る発明についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1及び3?14に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1及び3?14に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し、アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。)、
前記アクリルアミド系ポリマーは、
(メタ)アクリルアミドと、
4級アンモニウム系モノマーと、
(メタ)アリルスルホン酸塩と
のみからなる重合成分の重合体であることを特徴とする、紙力増強剤。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記4級アンモニウム系モノマーが、
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物を含む、請求項1に記載の紙力増強剤。
【請求項4】
前記4級アンモニウム系モノマーが、
ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物を含む、請求項1に記載の紙力増強剤。
【請求項5】
前記ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物が、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドである、請求項4に記載の紙力増強剤。
【請求項6】
食品包装紙に用いられる、請求項1および3?5のいずれか一項に記載の紙力増強剤。
【請求項7】
請求項1および3?6のいずれか一項に記載の紙力増強剤を用いて得られることを特徴とする、紙。
【請求項8】
アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し、アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。)、
前記アクリルアミド系ポリマーは、
(メタ)アクリルアミドと、
4級アンモニウム系モノマーと、
(メタ)アリルスルホン酸塩と、
アニオン性重合性モノマーと
のみからなる重合成分の重合体であり、
前記4級アンモニウム系モノマーが、
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物を含むことを特徴とする、紙力増強剤。
【請求項9】
アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し、アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。)、
前記アクリルアミド系ポリマーは、
(メタ)アクリルアミドと、
4級アンモニウム系モノマーと、
(メタ)アリルスルホン酸塩と、
アニオン性重合性モノマーと
のみからなる重合成分の重合体であり、
前記4級アンモニウム系モノマーが、
ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物を含むことを特徴とする、紙力増強剤。
【請求項10】
前記ジアリルアミン誘導体モノマーの4級化物が、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドである、請求項9に記載の紙力増強剤。
【請求項11】
食品包装紙に用いられる、請求項8?10のいずれか一項に記載の紙力増強剤。
【請求項12】
請求項8?11のいずれか一項に記載の紙力増強剤を用いて得られることを特徴とする、紙。
【請求項13】
アクリルアミド系ポリマーの水溶液からなり(但し、アクリルアミド系ポリマーの分散液を除く。)、
前記アクリルアミド系ポリマーは、
(メタ)アクリルアミドと、
4級アンモニウム系モノマーと、
(メタ)アリルスルホン酸塩と、
アニオン性重合性モノマーと
のみからなる重合成分の重合体であり、
食品包装紙に用いられることを特徴とする、紙力増強剤。
【請求項14】
請求項13に記載の紙力増強剤を用いて得られることを特徴とする、紙。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-22 
出願番号 特願2016-510526(P2016-510526)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
P 1 651・ 113- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 英司  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 井上 猛
橋本 栄和
登録日 2016-12-16 
登録番号 特許第6060314号(P6060314)
権利者 ハリマ化成株式会社
発明の名称 紙力増強剤および紙  
代理人 宇田 新一  
代理人 蔦 康宏  
代理人 岡本 寛之  
代理人 岡本 寛之  
代理人 宇田 新一  

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