• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1339182
異議申立番号 異議2017-701009  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-24 
確定日 2018-04-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6119796号発明「非水電解質二次電池用負極活物質、及びそれを用いた非水電解質二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6119796号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6119796号(以下「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願(特願2015-98754)は、平成20年 2月28日に出願した特願2008-47496号の一部を、平成25年 5月 9日に新たな特許出願とした特願2013-99237号の一部を、さらに平成27年 5月14日に新たな特許出願したものであって、平成29年 4月 7日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月26日付け特許掲載公報が発行されたものである。
その後、同年10月24日に、本件特許について、特許異議申立人河村真人(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成30年 1月 4日付けで取消理由が通知され、これに対し、その指定期間内である同年 3月 1日に特許権者より意見書及び乙第1号証?乙第3号証が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1?6」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒度分布で、累積90%径(D_(90))が50μm以下であり、かつ粒子径2μm未満の微粉末Bを1?30質量%と、粒子径2μm以上の微粉末Aとを含む粉末からなる負極活物質であって、上記微粉末A及び微粉末Bが、それぞれ酸化珪素で、導電性を持つ粉末であり、上記粉末中に含まれる酸化珪素は94.7?99.5質量%、残部が導電性炭素からなる被覆層である負極活物質。
【請求項2】
上記微粉末Aが、酸化珪素であり、CVDにより表面に導電性炭素の被覆層を有するものであり、上記微粉末Bが、酸化珪素であって、CVDにより表面に導電性炭素の被覆層を有するものである請求項1記載の負極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2記載の負極活物質を用いたことを特徴とする非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項4】
請求項3記載の非水電解質二次電池用負極材料とバインダーを含むことを特徴とする電極ペースト。
【請求項5】
請求項4記載の電極ペーストの成型体であることを特徴とする電極。
【請求項6】
請求項5記載の電極を構成要素とする非水電解質二次電池。 」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証?甲第3号証を提出し、以下の理由により、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1
請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。

(2)申立理由2
請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(3)申立理由3
本件特許の発明の詳細な説明は、請求項1?6に係る発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものである。

(4)申立理由4
請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。

(5)申立理由5
請求項1?6に係る発明は、明確でないから、請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2004-349057号公報
甲第2号証:特開2004-63433号公報
甲第3号証:特開2006-12576号公報
以下、それぞれ「甲1」?「甲3」という。

第4 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
請求項1?6に係る特許に対して、上記申立理由3?5に基づいて平成30年 1月 4日付けで通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

取消理由1?3:本件発明1?6は、下記の点で、発明の詳細な説明に記載されたものでないし、明確でないし、発明の詳細な説明は、本件発明1?6を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、請求項1?6に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。


特許異議申立書第12頁第16行?第21行及び第12頁第25行左から第11文字目?第13頁第2行のとおりであるが、付け加えると、特許異議申立書では、本件発明1の「累積90%径(D_(90))」について、個数基準か体積基準か不明であると記載されているが、粒度分布の粒子量の基準(次元)としては、個数、体積の他にも、面積、長さ、質量等、様々なものが存在することは技術常識であるところ、本件発明1では、これらのうちの何を基準としているのか、本件特許の明細書等全体の記載から一義的に把握することができない。
また、請求項1を引用する請求項2?6についても同様である。

第5 当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 本件特許の請求項1には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与した。以下同様。
「【請求項1】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒度分布で、累積90%径(D_(90))が50μm以下であり」
また、発明の詳細な説明の図1?図5の粒度分布の縦軸は、Q_(3)(%)、q_(3)(%)と記載されている。

イ 特許権者が平成30年 3月 1日付けで提出した乙第1号証?乙第3号証(以下、「乙1」?「乙3」という。)は、以下のとおりである。
乙第1号証:JIS Z 8825:2013
乙第2号証:「粒子径計測技術」、日刊工業新聞社、1994年11月30日発行、第8?11頁、第150?151頁
乙第3号証:JIS Z 8819-1:1999

ウ 乙1は、「粒子径解析-レーザ回折・散乱法」について記載されており、以下の記載がある。なお、「・・・」は省略を表す。
「レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定は、粒子による光散乱の角度分布(散乱パターン)が粒子径に依存する現象に基づく。
・・・
・・・体積基準の粒子径分布を求める。」(第6頁 「5 原理」 の欄)
「レーザ回折・散乱装置は体積基準の粒子径分布を評価するように設計されている。」(第24頁第1行)

エ 乙2には、以下の記載がある。
「質量(基準)分布(mass base distribution;重量基準分布、体積基準分布ともいう)となり、同じ粉体でも両者の分布は異なる。したがって、各種の頻度分布と積算分布を q_(r)(x)、Q_(r)(x)(r=0:個数、1:長さ、2:面積、3:質量、-1:比表面積)のように区別して表示する。」(第11頁第2行?第5行)
「第8章 レーザ回折・散乱法」(第150頁最上部)
「規格化された体積基準粒子径分布q_(3)(x)」(第151頁第3行)

オ 乙3は、「粒子径測定結果の表現-第1部:図示方法」について記載されており、以下の記載がある。
「q_(3)(x) 体積又は質量基準頻度」(第1頁下から第7行)
「Q_(3)(x) 体積又は質量基準積算分率」(第2頁第2行)

カ 乙1、乙2に記載されるように、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒度分布では、体積基準の粒度分布を求めるものであることは、当業者の技術常識である。

キ また、乙2、乙3に記載されるように、本件の図1?図5に記載されるq_(3)、Q_(3)は、それぞれ、体積又は質量基準頻度、体積又は質量基準積算分率を表していることは、当業者の技術常識である。
そして、測定物質の比重が一定であれば、質量基準の粒度分布と体積基準の粒度分布とは同一となることも、当業者の技術常識である。

ク 以上ア?キより、当業者であれば、本件発明1の「累積90%径(D_(90))」は、体積基準であることが理解できる。
したがって、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?6は、明確であり、発明の詳細な説明に記載したものであり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?6を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 申立理由1 特許法第29条第1項第3号(新規性)
申立理由2 特許法第29条第2項(進歩性)について
(ア)本件発明1について
甲1?甲3、いずれの証拠にも、酸化珪素に導電性炭素からなる被覆層を設けた粉末の粒度分布について記載も示唆もされておらず、本件発明1の「レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒度分布で、累積90%径(D_(90))が50μm以下」であること、及び「粒子径2μm未満の微粉末Bを1?30質量%と、粒子径2μm以上の微粉末Aとを含む粉末からなる負極活物質」であることに相当する事項は、甲1?甲3いずれの証拠にも記載も示唆もされていない。

申立人は、異議申立書第9頁下から第2行?第10頁第20行において、以下の旨主張をしている。
『本件特許の実施例1と甲1の実施例21及び実施例22を比較すると、両者とも、粉砕原料はSiO析出物であり、本件特許の実施例1ではD50=8.1μmであり、甲1の実施例21及び実施例22ではD50=12μmであり、数字上の違いはあるが、実際の粉砕操業における負荷レベルに大きな違いはなく、ビーズミル粉砕にしろ、ボールミル粉砕にしろ、分級を行わない限りは、2μm以下の微粉の発生量に大きな違いは生じない。
甲1発明の実施例21及び実施例22においても、本件発明1と同じ粒度分布が得られている。』
しかしながら、甲1の実施例21及び実施例22を参照すると、数平均粒径12μmのSiO粒子、すなわち負極活物質(e1)と数平均粒径5μmの人造黒鉛とを、ハイブリダイゼーション法によって混合し、負極活物質(e1)表面に黒鉛を担持させ、物質(z1)を得て、次いで、当該物質(z1)表面上でトルエンガスを1000℃で熱分解することによって負極活物質(e21)を得ており、負極活物質(e1)に担持した炭素の量は、負極活物質(e21)の全質量に対して1%であったことが記載されている。
ここで、負極活物質(e21)の粒度分布及び数平均粒径は、記載も示唆もされておらず、不明である。
実施例22の負極活物質(e22)についても、同様に、粒度分布及び数平均粒径は、記載も示唆もされておらず、不明である。
よって、甲1の実施例21と実施例22において、本件発明1と同じ粒度分布が得られているとまではいえない。

仮に、数平均粒径12μmの負極活物質(e1)に、1%(実施例21)又は3%(実施例22)の炭素を担持させた負極活物質(e21)又は負極活物質(e22)は、炭素担持量が少量であることから、数平均粒径は、12μmとほとんど変化がないと仮定しても、以下で検討するとおり、上記負極活物質(e21、e22)の粒度分布が本件発明1の負極活物質の粒度分布と同じとはいえない。。

本件特許の明細書には、実施例1に関して以下の記載がある(なお、下線は当審が付与した。以下同様。)。
「【0036】
[実施例1]
参考例1と同様の方法で得られた酸化珪素を用い、ビーズミルで2時間粉砕し、D_(50)=8.1μmの酸化珪素微粉末を得た。」
また、甲1には、負極活物質(e1)に関して、以下の記載がある。
「【0059】
[実施例1]
SiO_(2)粉末とSi粉末とを1:1のモル比で混合した。SiO_(2)粉末中にはFe、Cr、Niがそれぞれ50ppm含まれていた。この混合物をセラミック製の反応器に入れ、さらに内部の圧力および温度をそれぞれ0.05Torrおよび1400℃に保持することによってSiOガスを発生させた。つぎに、このガスを、水冷した上記反応器の壁面上で冷却することにより、物質を析出させた。最後に、この析出物をタングステンカーバイド(WC)製のボールで粉砕することにより、粒子状生成物を得た。このようにして得られた粒子の組成はFESEM/EDSで求めた結果SiO_(1.1)であった。この粒子を以後SiO粒子と呼ぶ。また、粒度分析装置(島津製作所(株)製SALD2000J)およびBET比表面積測定装置(島津製作所(株)製ジェミニ2375)を用いて測定した結果、その数平均粒径は12μmBET比表面積は5m^(2)/gであった。
【0060】
このSiOに関してX線回折測定をおこなうと、ブロードな回折パターンが得られ、その結晶構造が無定形であることがわかった。この無定形のSiO粒子を物質(X)とする。この物質を負極活物質(e1)に用いて、非水電解質電池を製作した。まず、負極活物質(e1)70質量%と、アセチレンブラック10質量%と、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)20質量%とを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で分散させることによりペーストを作製した。このペーストを厚さ15μmの銅箔上に塗布し、つぎに、150℃で乾燥することにより、NMPを蒸発させた。この作業を銅箔の両面に対しておこない、さらに、両面をロールプレスで圧縮成型した。このようにして、両面に負極層を備えた負極を製作した。負極合剤層の多孔度は35%であった。」

本件特許の実施例1のD_(50)=8.1μmの酸化珪素微粉末と、甲1の数平均粒径12μmのSiO粒子である負極活物質(e1)との製造方法を比較すると、本件特許の実施例1では、「ビーズミルで2時間粉砕」と記載されており、甲1には、「タングステンカーバイド(WC)製のボールで粉砕」と記載されており、それぞれ、当該記載以上の詳細な条件、例えば、粉砕前の原料の粒度分布や、ビーズやボールの大きさ、原料に対するビーズやボールの混合割合、粉砕時間等について、記載されておらず、これら詳細な条件が異なれば、得られる粉体の粒度分布は当然に異なってくることは、技術常識であるから、本件特許の記載と、甲1の記載から、両者の粒度分布が同じとまではいえない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1?甲3に記載された事項から当業者が容易になし得るものではない。

(イ)本件発明2?本件発明6について
本件発明2?本件発明6は、本件発明1を引用するものであるから、上記(1)と同様に、甲1に記載された発明ではないし、甲1?甲3に記載された事項から当業者が容易になし得るものではない。

イ 申立理由3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)
申立理由4 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
申立理由5 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
申立人は、特許異議申立書第12頁第22行?第13頁第2行において、負極活物質の粒径が「請求項1」では「D90」で規定されているが、「実施例1」では「D50」でしか記載されていないし、図4からは「D90」の数値が一応推定可能であるが、正確な数値は不明であるから、本件発明1?6にかかる特許は、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)、特許法第36条第6項第2号(明確性)、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである旨主張している。
しかしながら、図4を参照すると、粒径50μm時の累積%は100%であることが読み取れるし、図4からD_(90)が、約20μmであることが読み取れる。
図4は、導電性の付与を行う前の酸化珪素の粒度分布を示したものであるが、当該粒度分布の酸化珪素に、蒸着炭素量5.3%の被覆を行った場合においても、D_(90)が、上記の約20μmから大きくずれることは、技術常識として考えられない。
よって、実施例1は、本件発明1の「累積90%径(D_(90))が50μm以下」であることは明らかである。
よって、上記申立人の主張は採用できない。

第6 むすび
したがって、請求項1?請求項6に係る特許は、取消理由に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?請求項6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-20 
出願番号 特願2015-98754(P2015-98754)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀧 恭子  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 長谷山 健
結城 佐織
登録日 2017-04-07 
登録番号 特許第6119796号(P6119796)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 非水電解質二次電池用負極活物質、及びそれを用いた非水電解質二次電池  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ