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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1339184
異議申立番号 異議2017-701177  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-13 
確定日 2018-03-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6148565号発明「医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物およびそれからなる医療用器具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6148565号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯及び本件発明
1.手続の経緯
特許第6148565号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成25年8月1日を出願日として、出願人 リケンテクノス株式会社により出願された特許出願であり、平成29年5月26日に特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、平成29年6月14日に特許公報が発行された。その後、特許異議申立人 谷口真魚(以下、「申立人」という。)により、請求項1?2に係る本件特許について特許異議の申立てがされた。

2.本件発明
本件特許の請求項1?2に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?2に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明2」ともいう。)

「【請求項1】
成分(a)塩化ビニル樹脂100質量部;
成分(b)エポキシヘキサヒドロフタル酸エステル系可塑剤20?250質量部;及び、
成分(c)シラン化合物0.1?15質量部;
を含有し、ここで上記成分(b)が、炭素数6?13の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールを用いて合成されたものであることを特徴とする医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
医療用チューブ又は医療用バッグであって、請求項1に記載の医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物からなることを特徴とする医療用チューブ又は医療用バッグ。」


第2 申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)において、概略以下の(1)?(5)の取消理由をあげ、証拠として以下の各甲号証を提出して、本件特許の請求項1?2に係る発明は取り消されるべきものであると主張している。

<証拠方法>
甲第1号証:再公表WO2008/032583号公報
甲第2号証:特開昭61-2864号公報
甲第3号証:中国特許出願公開第101152582号公報およびその和訳文(機械翻訳文)
甲第4号証:「ポリ塩化ビニルの安定化の解明と安定化助剤の配合・効果の実際 -総合技術資料集-」(ソフト技研出版部、昭和59年3月15日、106-107頁)、写し
甲第5号証:特開昭59-8744号公報
甲第6号証:特開昭64-38462号公報
甲第7号証:特開2008-195898号公報

(以下、甲第1号証?甲7号証を、それぞれ、「甲1」?「甲7」ともいう。)

(1)取消理由1(甲1を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1?2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1に記載された発明、甲2?4の記載事項及び周知技術(甲5?6)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?2に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(甲7を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1?2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲7に記載された発明、甲1?4の記載事項及び周知技術(甲5?6)に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?2に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(甲2を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1?2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲2に記載された発明、甲1の記載事項並びに周知技術(甲5?6)に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?2に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)取消理由4(サポート要件)
請求項1?2に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)取消理由5(明確性)
請求項1?2に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。


第3 当審の判断
以下に述べるように、申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?2に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

1.取消理由1(甲1を主引例とする進歩性)について
(1)甲1の記載事項
本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審合議体が付した。以下、この決定中において同様である。)

「【請求項1】
熱可塑性樹脂100重量部に対して、耐放射線剤としてシラン化合物を0.1?15重量部含む医療用樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、及び1,2-ポリブタジエン樹脂から選ばれる少なくともひとつの樹脂である請求項1に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル系樹脂である請求項2に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項4】
前記シラン化合物は、モノアルコキシシラン化合物、ジアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物、及びテトラアルコキシシラン化合物から選ばれる少なくとも一つのアルコキシシラン化合物である請求項1に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、JIS K7202で規定されるロックウェル硬さが、35°以上の硬質である請求項1?4のいずれかに記載の医療用樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、JIS K6253で規定されるデュロメーターA硬さが97°以下の軟質である請求項1?4のいずれかに記載の医療用樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物は、さらに可塑剤を含む請求項1に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項8】
前記可塑剤は、熱可塑性樹脂100重量部に対して15?150重量部含む請求項7に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項9】
前記可塑剤は、フタル酸系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、トリメリット酸エステル可塑剤、クエン酸エステル可塑剤、及びグルコール酸エステル可塑剤から選ばれる少なくとも一つの可塑剤である請求項7又は8に記載の医療用樹脂組成物。」

「【0012】
本発明は、放射線照射減菌処理、特にγ線照射減菌しても変色を著しく低減し、耐放射線性に優れた医療用樹脂組成物、樹脂ペレット及び医療用部品を提供する。
【0013】
本発明者らはかかる実情に鑑み、耐放射線性(特に、耐γ線性)とポリマー素材、配合剤との関連を精査し、シラン化合物の添加が耐γ線性を改善する効果が極めて顕著であるということを見出し、本発明を完成した。特に、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の場合、硬質組成物では不可能と考えられてきた耐γ線性を大きく改良でき、硬質組成物においても顕著に変色を抑制できるということを見出し、本発明を完成したものである。」

「【0036】
また、本発明の医療用樹脂組成物のJIS K7202で規定されるロックウェル硬さ(Rスケール)は、硬質医療用部品を製造する場合には、35°以上であることが好ましく、60°以上であることがより好ましい。ロックウェル硬さが35°以上の組成物を硬質医療用部品に適用すると、部品が折れ曲がり、内容物の液流が妨げられるなどの不具合を発生することもなく、バルブ性能、チューブ連結作業性なども良好に維持することができる。ここで、ロックウェル硬さ(Rスケール)とは、JIS K7202に規定されている硬さであり、当該JISに準拠して23℃の温度で測定した値である。
・・・
【0038】
また、本発明の医療用樹脂組成物のJIS K6253で規定されるデュロメーターA硬さは、軟質医療用部品を製造するには、97°以下であることが好ましく、70°以下であることがより好ましい。該硬さが97°以下となる組成物を軟質医療用部品に適用すると、適度な弾力性があり、医療用チューブ、血液バッグ、輸液バッグなどに好適に使用することができる。ここで、デュロメーターA硬さとは、JIS K6253に規定されている硬さであり、該JISに準拠して23℃の温度で測定した値である。
【0039】
また、該デュロメーターA硬さは、γ線照射前の硬さもγ線照射後の硬さも97°以下に維持されることが好ましい。またγ線照射前後での硬さの変化(Δ硬さ)は、あまり大きな変化がない方が好ましく、特に限定されるものではないが、0?10°であることが好ましい。この範囲の硬さ変化であれば、軟質医療用部品として支障無く使用できる。
【0040】
本発明においては、熱可塑性樹脂の配合剤として、従来公知の配合剤を適宜必要に応じて使用することができる。配合剤としては、例えば、可塑剤、安定剤、安定化助剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、充填剤などをあげることができる。
【0041】
前記可塑剤としては、従来公知のものを使用できるが、例えば、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸ジオクチルデシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ブチルベンジル、イソフタル酸ジ-2-エチルヘキシルなどのフタル酸系可塑剤;アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジ-n-デシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシルなどの脂肪酸エステル系可塑剤;リン酸トリブチル、リン酸トリ-2-エチルヘキシル、リン酸トリ-2-エチルヘキシルジフェニル、リン酸トリクレジルなどのリン酸エステル系可塑剤;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化トール油脂肪酸-2-エチルヘキシルなどのエポキシ系可塑剤;トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシルなどのトリメリット酸エステル可塑剤;クエン酸エステル可塑剤、グルコール酸エステル可塑剤などをあげることができ、これらを単独で又は必要に応じて2種以上併用することもできる。これらの中でも、従来医療用途に好適に使用されていて、耐γ線性に優れるという点から、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシルが好ましく、可塑剤としての機能と熱安定化助剤としての機能を併有する点から、エポキシ化合物が好ましく、エポキシ化アマニ油、エポキシ化大豆油がより好ましい。
【0042】
これらの可塑剤の添加量は、必要に応じて決定することができ、特に限定されないが、軟質組成物とする場合には、熱可塑性樹脂100重量部に対して、15?150重量部であることが好ましく、硬質組成物とする場合には、熱可塑性樹脂100重量部に対して、2?15重量部であることが好ましい。」

「【0063】
比較例1と実施例1?8の性能比較から、シラン化合物の添加に伴って、ΔYIが大幅に小さくなり、γ線照射によって変色しない組成物になることが分かった。一方、シラン化合物の添加に伴って、γ線照射後のロックウェル硬さが上昇しシートが硬く変化していくことが分かった。ロックウェル硬さとΔYIのバランス(初期硬さが硬質医療用部品に適した範囲(35°以上)で、かつΔYIが小さい範囲)から、シラン化合物の添加量はポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して0.1?15重量部の範囲が特に好ましいことが分かった。」

(なお、ΔYIは、甲1の【0059】?【0060】に記載のとおり黄変度を表しており、放射線照射後のYI値と照射前のYI値との差である。)

(2)甲1に記載された発明
(1)で指摘した甲1の記載、特に、甲1の請求項1、3、7及び【0042】の記載によれば、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「熱可塑性樹脂であるポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、耐放射線剤としてシラン化合物を0.1?15重量部、可塑剤を15?150重量部含む医療用軟質樹脂組成物。」(以下、「甲1発明」という。)

(3)本件発明1?2の技術的意義について
取消理由1についての判断にあたり、まず、本件発明1?2の技術的意義、つまり、塩化ビニル樹脂組成物を、成分(a)の塩化ビニル樹脂(成分(a))100質量部に対して、可塑剤として、「20?250質量部」の「エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤」(成分(b))を含有し、かつ、「シラン化合物」(成分(c))を「0.1?15質量部」含有するものとする点の技術的意義について検討する。

本件特許明細書には、以下の記載がある。

「【背景技術】
【0002】
カテーテル等の医療用チューブや、血液バッグ・・・等の医療用バックなどの医療用器具は、成形性、接着性、加工性、耐熱性、耐キンク性および低価格性等の観点から、軟質塩化ビニル樹脂製のものが広く用いられている。軟質塩化ビニル樹脂は、柔軟性、弾性及び耐寒性等の性質を付与するために塩化ビニル樹脂に可塑剤を添加し、必要に応じて安定剤などの各種添加剤を配合し、溶融混練することにより得られる。上記可塑剤としては、従来、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(以下、DEHPと略すことがある。)等のフタル酸エステル類が使用されてきた。・・・
【0003】
医療用チューブは、血管、消化管、尿道あるいは気管などへ挿入して用いられる。また血液や薬液が医療用チューブを通って体内へと送られる。医療用バッグは、血液あるいは薬液を内容物としており、これらの内容物は、血管等から体内へと輸血あるいは輸液される。そのため医療用チューブや医療用バッグなどの医療用器具は、滅菌処理が不可欠である。滅菌処理の方法としては、高度の滅菌ができること、及び梱包後の滅菌が可能であり、滅菌作業の迅速化やコスト低減を図ることができることから、コバルト60などを線源とするγ線を用いる滅菌方法(以下、γ線滅菌と略すことがある。)や電子線を用いた滅菌方法などのいわゆる放射線滅菌が普及している。特にγ線滅菌は、γ線の透過力が大きいため、滅菌を均一に、ロット振れなく行うことができるので、広く普及している。
【0004】
ところが、可塑剤としてDEHPを用いた軟質塩化ビニル樹脂製の医療用器具は、放射線滅菌を行うと変色する、特にγ線滅菌を行うと大きく変色するという問題があった。また、医療用器具は溶出物試験で問題のないことが不可欠であり、また溶出物の量がより少ないことが要求されている。
【0005】
そこで可塑剤としてDEHPの替わりに、トリメリット酸2-エチルヘキシル(TOTM)やジイソノニルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート(DINCH)を含む軟質塩化ビニル樹脂が提案されている(・・・)。しかし、これらの可塑剤を用いても、放射線滅菌を行うと変色する問題は依然として残っている。」

「【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、医療用塩化ビニル樹脂組成物であって、放射線滅菌に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、したがって医療用チューブや医療用バッグなどの医療用器具に好適に用いることのできる塩化ビニル樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究した結果、塩化ビニル樹脂の可塑剤としてエポキシヘキサヒドロフタル酸エステルを用いると、上記目的が達成されることを見出した。」

「【発明の効果】
【0013】
本発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物は、γ線や電子線などの放射線を照射して滅菌する方法、特にγ線滅菌に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、そのため、経管栄養チューブ、血液透析チューブ、呼吸器チューブ、カテーテル、圧モニターチューブおよびヘパリンチューブ等の医療用チューブ;血液バッグ、薬液バッグおよびドレインバッグ等の医療用バッグ;などの医療用器具に好適に用いられる。また本発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物は、押出成形性が極めて良好であるため、医療用チューブに特に好適である。」

「【0023】
上記成分(b)の配合量は、得られる医療用塩化ビニル樹脂組成物を、放射線滅菌に対する優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がないものにするために、成分(a)100質量部に対して20?250質量部である。好ましくは20?150質量部である。20質量部未満では放射線滅菌に対する耐変色性が不十分である。250質量部を超えると溶出性試験のΔpH値が悪化したり、成分(b)がブリードアウトしたりする。」

「【0025】
上記成分(c)を、上記成分(a)100重量部に対して0.1?15重量部用いることにより、放射線滅菌に対する耐変色性を向上させることができる。また押出成形性を極めて安定したものにすることができる。より好ましくは1?10質量部である。」

「【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】


【0056】
表1および表2に示すように、実施例の本発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物は、放射線滅菌に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、押出成形性にも優れる。これに対して比較例では、放射線滅菌に対する耐変色性、医療用材料に要求される溶出性試験、及び押出成形性の少なくとも何れか一つが劣った。」

なお、表1?3の可塑剤に関し、【0037】?【0041】には、成分(b-1)が「エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシル」、比較成分(b’-1)が「ジ(2-エチルヘキシル)フタレート(DEHP)」、比較成分(b’-2)が「トリメリット酸2-エチルヘキシル(TOTM)」、比較成分(b’-3)が「(2-エチルヘキシル)アジペート(DEHA)」、比較成分(b’-4)が「ジイソノニルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート(DINCH)」であることが記載されている。


上記本件特許明細書の記載によれば、従来から、医療用チューブや、血液バッグ(医療用バック)等の医療用部品には、軟質塩化ビニル系樹脂組成物が広く用いられており、該組成物には可塑剤として、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DEHP)等のフタル酸エステル類が使用されているが、可塑剤としてDEHPを用いた軟質塩化ビニル樹脂製の医療用器具は、放射線(特に、γ線)滅菌を行うと大きく変色するという問題があったし、また、医療用器具は溶出物試験で問題のないことが不可欠であり、また溶出物の量がより少ないことが要求されている。そこで、可塑剤としてDEHPの替わりに、トリメリット酸2-エチルヘキシル(TOTM)やジイソノニルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート(DINCH)を含む軟質塩化ビニル樹脂が提案されているが、これらの可塑剤を用いても、放射線滅菌を行うと変色する問題が依然としてあった(【0002】?【0005】の【背景技術】)。
本件発明1?2では、かかる問題を解決し、放射線滅菌に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、したがって医療用チューブや医療用バッグなどの医療用器具に好適に用いることのできる(軟質)塩化ビニル樹脂組成物を提供すること課題とするものである(【0007】)。
この課題を解決するため、本件発明1?2では、塩化ビニル樹脂組成物を、「成分(b)」である「エポキシヘキサヒドロフタル酸エステル系可塑剤」を「20?250質量部」含有するものとして、放射線滅菌に対する耐変色性を十分なものとし、溶出性試験において問題がないものとし(【0023】)、また、「成分(c)」の「シラン化合物」を「0.1?15質量部」含有するものとして、放射線滅菌に対する耐変色性を向上させ、また、押出成形性を安定にするもの(【0025】)とされている。
また、本件特許明細書の表1?3によれば、可塑剤が成分(b)である実施例2(これは、成分(c)が含まれていない参考例に相当する。)と、可塑剤が成分(b)以外の可塑剤である比較例3?6(同様に、成分(c)は含まれていない。)との比較から、可塑剤として、本件発明1の成分(b)エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤を使用した場合には、その他の可塑剤(DEHP、TOTM、DEHA及びDINCH)を使用した場合に比べて、耐変色性、耐溶出性の点で特に優れたものとなることが理解できるし、また、成分(c)が含まれていない実施例2と、成分(c)が含まれ、その配合量を変化させている実施例4?8との対比から、成分(b)に加えて、成分(c)を含有することで、用量依存的に耐変色性が改善され、押出成形性を安定したものとできることが理解できる。
そして、可塑剤として成分(b)の可塑剤を含みかつ、成分(c)を含むものとした本件発明1の塩化ビニル樹脂組成物に相当する実施例4?10では、γ線滅菌に対する耐変色性、耐溶出性に優れ、押出成形性を安定したものとできることが示されており、これら実施例から、本件発明1の医療用塩化ビニル樹脂組成物は、「放射線滅菌に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、押出成形性にも優れる」(【0056】)ことが理解できる。

以上によれば、本件発明1?2において、塩化ビニル樹脂(成分(a))100質量部に対して、可塑剤として、「20?250質量部」の「エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤」(成分(b))を含有し、かつ、「シラン化合物」(成分(c))を「0.1?15質量部」含有するものとする点の技術的意義は、放射線滅菌、特にγ線滅菌に対する耐変色性に優れ、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、押出成形性にも優れ、したがって医療用チューブや医療用バッグなどの軟質医療用器具に好適に用いることのできる塩化ビニル樹脂組成物を提供できることであるといえる。

(4)取消理由1についての判断
甲1に記載の発明(甲1発明)は、(2)で記載したとおりであり、可塑剤を含むポリ塩化ビニル系樹脂医療用樹脂組成物において、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、本件発明1?2の成分(c)に相当する、「耐放射線剤」である「シラン化合物」を、0.1?15重量部含有させることで、γ線滅菌に対する耐変色性が改善され(甲1の【0013】)、γ線照射後のロックウェル硬さが上昇しシートが硬くなる(同【0063】)ものである。
そして、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、甲1発明では、
医療用塩化ビニル樹脂組成物に含まれる可塑剤を、本件発明1で特定される「成分(b)エポキシヘキサヒドロフタル酸エステル系可塑剤」とする特定がない点で、少なくとも相違しているし、甲1全体の記載をみても、成分(b)の記載や示唆はなく、甲1の実施例で具体的に記載されているのは、本件特許明細書で比較例3、4で使用されていた可塑剤であるDEHP(DOP)やTOTM等である。
甲1発明と組み合わせる副引例とされる甲2?4には、医療用塩化ビニル樹脂組成物に使用可能な可塑剤として成分(b)が公知であることが示され(甲2の請求項13、甲3の[0012]、甲4の106頁項目5.1.3)、同じく副引例とされる甲5には、医療用塩化ビニル樹脂組成物に成分(c)に相当する一般式の化合物を含有させることで可塑剤の溶出を抑制できること(特許請求の範囲)が、また、甲6には、塩化ビニル樹脂成形品に成分(c)に相当するシラン化合物[A]を含有させることで、可塑剤の表面移行が抑制できること(特許請求の範囲、1頁右下欄4?7行及び5頁の第1表)が示されてはいるが、甲1?6には、医療用塩化ビニル樹脂組成物を、(成分(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して)「成分(b)エポキシヘキサヒドロフタル酸エステル系可塑剤20?250質量部」、及び、「成分(c)シラン化合物0.1?15質量部」を共に含有するものとした医療用塩化ビニル樹脂組成物の記載はない。

一方、(3)で本件発明1?2の技術的意義について記載したとおり、本件特許明細書の記載によれば、本件発明1?2では、塩化ビニル樹脂組成物を、(成分(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して)「成分(b)エポキシヘキサヒドロフタル酸エステル系可塑剤20?250質量部」、及び、「成分(c)シラン化合物0.1?15質量部」を共に含有するものとすることで、放射線滅菌、特にγ線滅菌に対する耐変色性に優れ、押出成形性にも優れ、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、したがって医療用チューブや医療用バッグなどの軟質医療用器具に好適に用いることのできる塩化ビニル樹脂組成物を提供できるものとなり、また、特に、可塑剤が、成分(b)であることで、成分(b)以外の可塑剤(DEHP、TOTM、DEHA及びDINCH)を使用した場合よりも、耐変色性及び耐溶出性が顕著に優れるものとなり、成分(b)に加えて、成分(c)も含有することで、耐変色性がさらに改善されるうえに、押出成形性が改善されるという格別の効果が奏されることが理解できる。
そして、甲1から、成分(c)に相当するシラン化合物を含有することで、γ線滅菌に対する耐変色性が改善されること(甲1の【0013】)が理解でき、甲5から成分(c)を含有することで、耐溶出性が改善することが理解できるとしても、塩化ビニル樹脂組成物を、(成分(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して)「成分(b)エポキシヘキサヒドロフタル酸エステル系可塑剤20?250質量部」、及び、「成分(c)シラン化合物0.1?15質量部」を共に含有する本件発明1?2の塩化ビニル樹脂組成物とすることで、押出成形性が改善され、塩化ビニル系樹脂の可塑剤として従来から甲1や甲2の具体例で使用されている他の可塑剤を使用する場合よりも、耐変色性、耐溶出性の点で顕著に優れるものとなることは、甲1?6の記載を併せ見ても、当業者は理解できない。

そうすると、本件発明1?2は、本件発明1で特定される含有量の成分(b)及び成分(c)を含有する塩化ビニル樹脂組成物であることによって、甲1?6の記載からは予期できない格別の効果が奏されるのであるから、塩化ビニル樹脂組成物を本件発明1で特定される含有量の成分(b)及び成分(c)を共に含有するものとする点の開示のない甲1?6によって、本件発明1?2が、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

したがって、申立人が主張する取消理由1によっては、請求項1?2に係る本件特許を取り消すことはできない。

2.取消理由2(甲7を主引例とする進歩性)について
(1)甲7の記載事項
本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな甲7には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤及びアルキルスルホン酸系可塑剤から選択される1種以上の可塑剤を1重量部以上15重量部以下配合してなる組成物であって、
JIS K7202で規定されるロックウェル硬さが、35°以上の硬質であることを特徴とする硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記組成物は、さらにシラン化合物が0.2?7重量部配合されている請求項1に記載の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記シラン化合物は、モノアルコキシシラン化合物、ジアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物、及びテトラアルコキシシラン化合物から選択される少なくとも一種である請求項2又は3に記載の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記可塑剤がシクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤であり、前記シラン化合物が3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及びビニルトリエトキシシランから選択される少なくとも1つである請求項2に記載の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、γ線照射前後のΔYIが20以下である請求項1?4のいずれか1項に記載の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物を成形加工してなる硬質医療用部品。」

「【0016】
本発明者らは、耐放射線性(特に、耐γ線性)と配合剤との関連を検討し、塩化ビニル系樹脂と特定の可塑剤を必須成分とした硬質組成物であって、ロックウェル硬さを特定の範囲に選択することにより、耐放射線性と溶出性のバランスに極めて優れた硬質医療用組成物が得られることを見出し本発明を完成したものである。
・・・
【0019】
可塑剤の中でもシクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤および/またはアルキルスルホン酸系可塑剤が極めて溶出性と耐γ線性のバランスが優れ、また特に、前記組成物にシラン化合物を0.2?7重量部配合することにより、滅菌時の変色に対して極めて優秀な抵抗性を有する硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物および硬質医療用部品を提供する。」

また、甲7には、表1?3に、可塑剤としてシクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤であるジイソノニルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート(DINCH)を使用した実施例(実施例1、2、5?18)が記載され、実施例1と比較例3、4との比較によれば、可塑剤としてDINCHを使用することで、DEHPやTOTMを使用する場合に生じるγ線滅菌時の変色がないことが理解できる(表1?3の記載は省略する。)

(2)甲7に記載された発明
(1)で指摘した甲7の記載、特に、甲7の請求項1、2、5、及び、実施例の記載によれば、甲7には以下の発明が記載されていると認められる。
「塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤を1重量部以上15重量部以下配合してなる組成物であって、
さらにシラン化合物が0.2?7重量部配合され、
JIS K7202で規定されるロックウェル硬さが、35°以上の硬質であり、
γ線照射前後のΔYIが20以下である、
硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物。」(以下、「甲7発明」という。)

(3)取消理由2についての判断
取消理由2における主引例である甲7に記載の発明(甲7発明)は、(2)で記載したとおりであり、可塑剤として、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤を採用し、また、シラン化合物を0.2?7重量部配合することにより、γ線滅菌時の変色がない硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物となる(【0019】)ものである。
本件発明1?2と甲7発明を対比すると、両者は、甲7発明では、医療用塩化ビニル樹脂組成物に含まれる可塑剤は本件発明1?2の成分(b)ではなく、「シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤」である点で少なくとも相違している。そして、この可塑剤は、本件特許明細書で比較例6で使用されていたDINCHに相当する。
そして、甲7発明と組み合わせる副引例とされる甲2?4には、医療用塩化ビニル樹脂組成物に使用可能な可塑剤として成分(b)が公知であることが示され(指摘箇所は、1.(4)で記載したとおり。)、同じく副引例とされる甲5及び甲6には、1.(4)で記載したとおり、医療用塩化ビニル樹脂組成物に成分(c)に相当する化合物を含有させることで、可塑剤の溶出や表面移行が抑制できることが、更に、甲1には、成分(c)に相当するシラン化合物を含有することで、γ線滅菌に対する耐変色性が改善されることが示されているが、甲1?7の記載を併せ見ても、医療用塩化ビニル樹脂組成物を、(成分(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して)「成分(b)エポキシヘキサヒドロフタル酸エステル系可塑剤20?250質量部」、及び、「成分(c)シラン化合物0.1?15質量部」を共に含有するものとした医療用塩化ビニル樹脂組成物の記載はないし、1.(4)で記載したとおり、本件特許明細書の記載によれば、そのことにより、本件発明1?2において、格別の効果が奏されることが理解できる。
特に、可塑剤が、成分(b)であることで、成分(b)以外の可塑剤(DEHP、TOTM、DEHA及びDINCH)を使用した場合よりも、耐変色性及び耐溶出性が顕著に優れるものとなり、また、成分(b)に加えて、成分(c)も含有することで、押出成形性も改善されることは、甲1?7の記載を併せ見ても、当業者は理解できない。
そうすると、本件発明1?2は、本件発明1で特定される含有量の成分(b)及び成分(c)を含有する塩化ビニル樹脂組成物であることによって、甲1?7の記載からは予期できない格別の効果が奏されるのであるから、塩化ビニル樹脂組成物を本件発明1で特定される含有量の成分(b)及び成分(c)を共に含有するものとする点の開示のない甲1?7によって、本件発明1?2が、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

したがって、申立人が主張する取消理由2によっては、請求項1?2に係る本件特許を取り消すことはできない。


3.取消理由3(甲2を主引例とする進歩性)について
(1)甲2の記載事項
本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな甲2には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
(1)塩化ビニル樹脂100重量部に対し、
一般式I
R_(1)OCOCR_(3)=CR_(4)COOR_(2) (I)[ただし、R_(1)およびR_(2)は炭素数1?15のアルキル基であり、R_(3)およびR_(4)は一般式II、 -CnH_(2n+1) (II)(ただしnは0?6である。)表わされるものである。]で表わされる不飽和脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステルを0.1?50重量部および他の可塑剤を0?200重量部配合された塩化ビニル樹脂製のγ線滅菌可能な医療用具。
・・・
(11)前記他の可塑剤が5?150重量部配合されている特許請求の範囲第1項に記載の医療用具。
(12)可塑剤がフタル酸ジアルキルエステル(各アルキル基の炭素原子数は6?13である。)である特許請求の範囲第11項に記載の医療用具。
(13)可塑剤がエポキシヘキサヒドロフタル酸ジアルキルエステルである特許請求の範囲第11項に記載の医療用具。」

(2)甲2に記載された発明
(1)で指摘した甲2の記載、特に、請求項1及び11の記載によれば、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。
「(1)塩化ビニル樹脂100重量部に対し、
一般式I
R_(1)OCOCR_(3)=CR_(4)COOR_(2) (I)[ただし、R_(1)およびR_(2)は炭素数1?15のアルキル基であり、R_(3)およびR_(4)は一般式II、 -CnH_(2n+1) (II)(ただしnは0?6である。)表わされるものである。]で表わされる不飽和脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステルを0.1?50重量部および他の可塑剤が5?150重量部配合された塩化ビニル樹脂製のγ線滅菌可能な医療用具。」(以下、「甲2発明」という。)

(3)取消理由3についての判断
本件発明1と甲2発明を対比すると、両者は、甲2発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物には、本件発明1で必須とされる「成分(c)シラン化合物0.1?15質量部」が含有されていない点で少なくとも相違している。
そして、甲2発明の組成物は、本件特許明細書における参考例に相当する実施例2に対応する。(なお、甲2には、可塑剤として、成分(b)を使用することが請求項13に示唆はされているが、具体的な実施例ではこの可塑剤は使用されておらず、実施例で使用されている可塑剤は、本件特許明細書における比較例3で使用されている可塑剤DOPである。)
また、甲2発明と組み合わせる副引例とされる甲1には、1.(4)で記載したとおり、医療用の塩化ビニル樹脂組成物に成分(c)を含有することで、γ線滅菌に対する耐変色性が改善されること(甲1の特許請求の範囲及び【0013】)等が示され、同じく副引例である甲5及び甲6には可塑剤の溶出等を抑制できることが示されているが、甲1、2、5及び6の記載を併せ見ても、医療用塩化ビニル樹脂組成物を、(成分(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して)「成分(b)エポキシヘキサヒドロフタル酸エステル系可塑剤20?250質量部」、及び、「成分(c)シラン化合物0.1?15質量部」を共に含有するものとした医療用塩化ビニル樹脂組成物は記載されていない。

一方、1.(4)で記載したとおり、本件特許明細書の記載によれば、そのことにより、本件発明1?2において、優れた効果が奏されることが理解できる。
特に、可塑剤が、成分(b)であることで、従来から甲1や甲2の具体例で使用されている、成分(b)以外の他の可塑剤(DEHPやTOTM等)を使用した場合よりも、耐変色性及び耐溶出性が顕著に優れるものとなり、成分(b)に加えて、成分(c)も含有することで、押出成形性も改善されることは甲1、2、5及び6の記載を併せ見ても、当業者は理解できない。

そうすると、本件発明1?2は、本件発明1で特定される含有量の成分(b)及び成分(c)を含有する塩化ビニル樹脂組成物であることによって、甲1、2、5及び6の記載からは予期できない格別の効果が奏されるのであるから、塩化ビニル樹脂組成物を本件発明1で特定される含有量の成分(b)及び成分(c)を共に含有するものとする点の開示のない甲1、2、5及び6によって、本件発明1?2が、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

したがって、申立人が主張する取消理由3によっては、請求項1?2に係る本件特許を取り消すことはできない。


4.取消理由4(サポート要件)についての判断
取消理由4として申立人が主張している取消理由は、具体的には、本件発明1?2の具体例に相当する実施例として本件特許明細書に記載されているのは、成分(a)?(c)のみならず、成分(d)、(e)も含む組成物のみであり、かかる発明の詳細な説明の開示内容からは、成分(d)、(e)が含まれず成分(a)?成分(c)を含む組成物およびその効果までが裏付けられているとはいえないから、本件発明1?2はサポート要件を満足しないという理由(以下、「取消理由4A」という。)及び、本件明細書の実施例として、成分(b)がエポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOTP)である例しか記載されておらず、2-エチルヘキシルアルコール以外の他の脂肪族アルコールを用いて合成されたエポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤を含む組成物及びその効果は裏付けられているとはいえないから、本件発明1?2はサポート要件を満足しないという理由(以下、「取消理由4B」という。)である(申立書の37?39頁項目(6-1)及び(6-2))。

そこで、検討すると、まず、本件発明1?2が解決しようとする課題は、【0007】の記載によれば、「放射線滅菌に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、したがって医療用チューブや医療用バッグなどの医療用器具に好適に用いることのできる塩化ビニル樹脂組成物を提供すること」と認められる。

まず、取消理由4Aについて検討する。
本件特許明細書の【0023】には、成分(b)を、成分(a)の塩化ビニル樹脂100質量部に対して、20?250質量部配合する点に関し、「得られる医療用塩化ビニル樹脂組成物を、放射線滅菌に対する優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がないものにするために、成分(a)100質量部に対して20?250質量部である」と記載されているし、【0025】には、成分(c)の配合に関し、「成分(c)を、成分(a)100重量部に対して、0.1?15重量部用いることにより、放射線滅菌に対する耐変色性を向上させることができる。また押出成形性を極めて安定したものにすることができる。」と記載されており、成分(a)に成分(b)及び成分(c)を所定量配合することで、γ線滅菌に対する耐変色性、押出成形性、耐溶出性が改善された、医療用チューブ等に好適な塩化ビニル樹脂組成物となることが記載されている。
一方、成分(d)(安定剤)、及び成分(e)(滑材)が、いずれも、塩化ビニル樹脂の安定化や成形性を改善するために必要に応じて添加される汎用成分であることは、本件特許の出願時の技術常識である(必要なら、甲1の【0040】、甲7の【0039】及び【0044】参照。)ところ、成分(b)及び(c)に関し、本件特許明細書の【0032】には、本件発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物に、任意成分として、医療用途向け塩化ビニル樹脂組成物に通常用いられる安定剤を配合してもよいことが記載され、また、【0033】には、医療用塩化ビニル樹脂組成物に所望に応じて任意成分を用いることができることが記載され、実施例において、成分(d)(安定剤)及び成分(e)(滑材)が任意成分である旨明示されている(【0045】及び【0047】)。
その上、本件特許明細書の実施例4?10には、本件発明1に相当する、成分(a)?(c)を含む(成分(d)、(e)も含む)組成物が、放射線(γ線)滅菌に対する耐変色性に優れ、押出成形性が良好で、溶出性試験において問題がないことが示されているところ、成分(d)、(e)を含む実施例2と成分(d)(e)を含まない実施例3(これは、いずれも成分(c)が含まれないので、参考例であることは明らかである。)との比較から、成分(d)、(e)の有無により、γ線滅菌に対する耐変色性はやや変化するものの、溶出性及び押出成形性の点の効果は同じであることも理解できる。そして、【0025】及び表1?2の実施例4?8からは、成分(c)が放射線(γ線)滅菌に対する耐変色性を用量依存的に改善することも理解できるのであるから、本件特許出願時の技術常識を加味して、これら本件特許明細書の記載を併せ見た当業者であれば、成分(a)?(c)を含む本件発明1の組成物、及び、当該組成物からなる、本件発明2の医療用チューブ等の医療用器具であれば、γ線滅菌に対する優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、医療用チューブ等の軟質医療用器具を提供するという本件発明1?2が解決しようとする課題が解決できることを当業者は理解できるといえる。

次に、取消理由4Bについて検討する。
上述のとおり、本件特許明細書の実施例4?10(表1?表2)には、本件発明1の成分(b)の可塑剤を含む本件発明1の組成物により本件発明が解決しようとする課題が解決できることが示されている。
そして、本件特許明細書には、本件発明1の成分(b)であるエポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシルと同じ「2-エチルヘキシルアルコール」を用いて合成された各種エステル系の可塑剤成分(成分(b’-1)?成分(b’-4))(比較例3?6)に比べて、本件発明1の成分(b)を使用した場合の組成物(実施例2として記載される参考例)では、放射滅菌に対する耐変色性及び耐溶出性が優れることが示されているのであるから、当該特許明細書の記載に接した当業者であれば、この優れた効果が、可塑剤を構成するエステルの酸成分の化学構造に違いによるものであり、脂肪族アルコール成分の違いにかかわらず、この効果の違いの傾向は変わらないと、認識するものと認められる。
そして、本件発明1の成分(b)である、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤を構成する「炭素数6?13の飽和又は不飽和の脂肪族アルコール」が「炭素数8の飽和脂肪族アルコール」である場合に相当する2-エチルヘキシルアルコールである可塑剤の結果が示されていれば、当業者は、該ジエステルを構成するアルコールの炭素数がその近傍である、「炭素数6?13の飽和又は不飽和の脂肪族アルコール」である場合であっても、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシルと同様の傾向を示し、本件発明1の組成物、及び、当該組成物からなる、本件発明2の医療用チューブ等の医療用器具によって、本件発明1?2が解決しようとする課題が解決できることを理解できるといえる。

以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明から、当業者は、本件発明1?2が解決しようとする課題が、本件発明1?2の構成により解決できることを理解できるのであるから、本件発明1?2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえ、サポート要件を満足する。

よって、申立人の主張する取消理由4(4A及び4B)には理由がない。

5.取消理由5(明確性)についての判断
取消理由5として申立人が主張している取消理由は、具体的には、本件特許明細書に成分(c)を含有しない点で本件発明1?2に該当しない例(実施例1?3及び11?14)が実施例として記載されているから、訂正前の請求項1?2に係る発明は不明確であるというものである(申立書の39頁項目(6-3))。
しかしながら、(c)成分を含有しない実施例が、本件発明1?2に含まれない参考例にあたる例であることは、請求項1?2の記載から明らかである。
よって、本件発明1?2は明確であり、申立人の主張する取消理由5によって、請求項1?2に係る本件特許を取り消すことはできない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?2に係る本件特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?2に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-22 
出願番号 特願2013-160199(P2013-160199)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 英司  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 加藤 友也
渕野 留香
登録日 2017-05-26 
登録番号 特許第6148565号(P6148565)
権利者 リケンテクノス株式会社
発明の名称 医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物およびそれからなる医療用器具  
代理人 瀬田 寧  
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