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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1339212
異議申立番号 異議2017-701232  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-26 
確定日 2018-04-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6155652号発明「繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6155652号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6155652号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、2013年 1月16日(優先権主張 2012年 1月20日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成29年 6月16日に特許の設定登録がされ、同年 7月 5日にその特許公報が発行され、その後同年12月26日に、その請求項1ないし12に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 山川 隆久により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明12」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)、ポリプロピレン系樹脂(b)および強化繊維(c)を含有してなる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物であって、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物中のマトリックス樹脂成分に含まれるカルボジイミド基の含有量が、マトリックス樹脂成分100gに対し、0.0005?140mmolであり、かつ前記強化繊維(c)が、多官能化合物(s)によりサイジング処理されており、多官能化合物(s)が、多官能エポキシ樹脂、ポリエチレンイミン、酸変性ポリプロピレン、アミノエチル化アクリルポリマー、または、ポリビニルアルコールであり、さらに、成形品を85℃温水に1週間浸漬した後の、乾燥状態の成形品に対するIzod衝撃強度の強度保持率が、70%以上であることを特徴とする繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)、ポリプロピレン系樹脂(b)および強化繊維(c)を含有してなる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物であって、(a)を0.01?50質量部、(b)を20?99質量部、(c)を1?80質量部(ただし、(b)と(c)の合計を100質量部とする)含有し、かつ前記強化繊維(c)が多官能化合物(s)によりサイジング処理されており、多官能化合物(s)が、多官能エポキシ樹脂、ポリエチレンイミン、酸変性ポリプロピレン、アミノエチル化アクリルポリマー、または、ポリビニルアルコールであり、さらに、成形品を85℃温水に1週間浸漬した後の、乾燥状態の成形品に対するIzod衝撃強度の強度保持率が、70%以上であることを特徴とする繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)が、該変性ポリオレフィン100グラムに含まれるカルボジイミド基の含有量が1?200mmolである、請求項2に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)は、カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)と、カルボジイミド基含有化合物(B)を反応させて得られるものである、請求項1?3のいずれかに記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系樹脂(A)は、カルボジイミド基と反応する基を有する化合物をポリオレフィンに導入したものであって、ポリオレフィン系樹脂(A)が下記式(1)を満たす重合体である、請求項4に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
0.1<Mn/{(100-M)×f/M}<6 (1)
(式中、
f :カルボジイミド基と反応する基を有する化合物の分子量(g/mol)
M :カルボジイミド基と反応する基を有する化合物の含有量(wt%)
Mn:カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)の数平均分子量である。)
【請求項6】
前記ポリオレフィン系樹脂(A)が、無水マレイン酸基を有するポリオレフィン系樹脂である、請求項4または5に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
強化繊維(c)が炭素繊維である、請求項1?6のいずれかに記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記多官能化合物(s)が、3官能以上の官能基を有する化合物である、請求項1?7のいずれかに記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項9】
前記多官能化合物(s)における官能基が、エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種である、請求項1?8のいずれかに記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項10】
前記多官能化合物(s)が、脂肪族エポキシ樹脂である、請求項1?9のいずれかに記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項11】
前記多官能化合物(s)が、ポリエチレンイミンである、請求項1?9のいずれかに記載の繊維強化ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項12】
前記炭素繊維のX線光電子分光法で測定される表面酸素濃度比O/Cが0.05?0.5である、請求項7に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。」

第3 特許異議申立て理由の概要

特許異議申立人は、証拠方法として、以下の甲第1ないし7号証を提出し、おおむね次の取消理由(以下、順に、「取消理由1」ないし「取消理由4」という。)を主張している。

・取消理由1(新規性)
本件特許発明1ないし12は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許発明1ないし12は特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・取消理由2(進歩性) 本件特許発明1ないし12は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし7号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・取消理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

・取消理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

・証拠方法
甲第1号証:国際公開第2009/069649号
甲第2号証:国際公開第2005/092972号
甲第3号証:特開2011-252113号公報
甲第4号証:特開2005-125581号公報
甲第5号証:日清紡ケミカル(株)、「カルボジライト」、JETI、
2009年、Vol.57、No.5、148-151頁
甲第6号証:特開2006-077343号公報
甲第7号証:特開2010-248482号公報

第4 特許異議申立て理由についての判断

1 取消理由1および2(新規性進歩性)

(1)甲第1ないし7号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明

ア 甲第1号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明(下線は、当審による。以下同じ。)

(ア)甲1の段落[0001]ないし[0002」、[0006]、[0013]ないし[0021]、[0046]ないし[0054]、[0061]、[0066]、[0085]、[0095]ないし[0109]、[0119]ないし[0133]、[0161]、[表1]の記載、特に、実施例1の記載からみて、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)〈甲1発明〉
「カルボジイミド基含有ポリプロピレンであるCDI-PP1を0.5重量部、ホモポリプロピレンであるPP2を80重量部、炭素繊維(東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー、HTA-C6-S)であるCF1を20重量部含有してなるフィラー強化樹脂組成物であって、カルボジイミド基含有量は27mmol/100gであり、成形品の加工ノッチ付アイゾット衝撃強度(IZOD)が、41J/m、切削ノッチ付アイゾット衝撃強度(IZOD)が、32J/mであるフィラー強化樹脂組成物。」
(なお、「カルボジイミド基含有ポリプロピレンであるCDI-PP1」は、甲1の段落[0131]の「<フィラー強化樹脂用助剤の製造>に記載の工程で製造されたものである。)

イ 甲2に記載された事項
「[0019]
また、炭素繊維は、表面処理、特に電解処理されたものが好ましい。表面処理剤としては、例えば、エポキシ系サイジング剤、ウレタン系サイジング剤、ナイロン系サイジング剤、オレフィン系サイジング剤等が挙げられる。表面処理することによって、引張り強度、曲げ強度が向上するという利点が得られる。上記表面処理された炭素繊維は、市販品を用いてもよく、その具体例としては、例えば、東邦テナックス社製の、ベスファイト(登録商標)・チョップドファイバーHTA-C6-SRS、HTA-C6-S、HTA-C6-SR、HTA-C6-E(以上、エポキシ系サイジング剤で処理されたもの)、HTA-C6-N、HTA-C6-NR、HTA-C6-NRS(以上、ナイロン系サイジング剤で処理されたもの)、HTA-C6-US、HTA-C6-UEL1、HTA-C6-UH、MC HTA-C6-US(以上、ウレタン系サイジング剤で処理されたもの);三菱レイヨン社製の、パイロフィル(登録商標)チョップドファイバーTR066、TR066A(以上、エポキシ系サイジング剤で処理されたもの)、TR068(エポキシ-ウレタン系サイジング剤で処理されたもの)、TR06U(ウレタン系サイジング剤で処理されたもの)、TR06NE(ポリアミド系サイジング剤で処理されたもの)、TR06G(水溶性サイズされたもの)等が挙げられる。」

ウ 甲3に記載された事項
「【0077】
より好ましい炭素繊維の表面処理はサイジング処理である。電解表面処理は、熱硬化性樹脂がマトリックスである樹脂組成物に一般的に好適に用いられる方法であるが、炭素繊維表面に導入される官能基がOH基、COOH基などに限られる。一方、熱可塑性樹脂がマトリックスである樹脂組成物の場合には、熱可塑性樹脂の構造に応じた官能基の導入が必要であり、様々な官能基が導入できるサイジング処理が好ましい。また、炭素繊維を表面処理する際には、数千本の繊維を集束させなければならず、サイジング処理の場合は、官能基の導入と繊維の集束とを同時に行える点で好ましい。
【0078】
サイジング剤の例には、エポキシ系ポリマー、ナイロン系ポリマーおよびウレタン系ポリマーなどが含まれる。エポキシ系ポリマーの例には、東邦テナックス(株)のテナックス(HTA-C6-SR(エポキシ樹脂サイジング)が、ナイロン系ポリマーの例には、HTA-C6-N(ナイロン樹脂サイジング)が、ウレタン系ポリマーの例には、HTA-C6-US(ウレタン樹脂サイジング)などが挙げられる。エポキシ樹脂サイジングによりエポキシ基が、ナイロン樹脂サイジングによりアミド基が、ウレタン樹脂サイジングによりウレタン基(カーバメート基)が導入される。いずれにしても、サイジング処理により、官能基含有ポリ-4-メチル-1-ペンテン(B)の官能基と反応可能な基が、炭素繊維の表面に導入される。」

エ 甲4に記載された事項
「【0002】
ポリオレフィンの強度を向上させるための手段として、強化用繊維を配合することが知られており、一般には、ポリオレフィンとチョップドストランド等の短繊維を混合し押出機で押し出すことにより繊維強化されたポリオレフィン樹脂組成物の製造が行われている。かかる方法によれば、かなり高度の機械的強度を有する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物が極めて容易に得られるという利点を有する。しかしながら近年は、樹脂に対してさらに高度の機械的強度が求められる傾向にあり、押出機での混練中に繊維の折損が避けられない上記の如き繊維強化樹脂組成物の製造方法では、この要求に応えることはできない。」
「【0007】
本発明者は、例えば、酸基含有量の多いマレイン酸変性ポリプロピレンを、エポキシ系サイジング剤で表面処理した強化炭素長繊維に、特定の温度で含浸して得られた樹脂ペレットは、炭素繊維と変性ポリプロピレンが強固に結合することにより、また樹脂ペレット中の炭素繊維の長さが十分に長く、該ペレットを使用して射出成形を行った時においても炭素繊維が折損しにくく、成形品の機械的物性が著しく向上することを見出し本発明を完成するに至った。・・・(略)・・・
【0008】
即ち、本発明の第1は、酸量が、無水マレイン酸換算で、平均で0.05?0.5重量%である酸基含有ポリオレフィン系樹脂(A)を、酸基と反応し得る官能基を有するサイジング剤(s)で表面処理された炭素繊維に、酸基含有ポリオレフィン系樹脂(A)と炭素繊維の合計中の炭素繊維の重量比率が5重量%以上、50重量%未満となるように含浸してなる炭素長繊維強化樹脂ペレットであり、該ペレットの長さ方向に炭素長繊維(B)が同一長さで平行配列しており、該炭素長繊維(B)の長さが4?50mmである炭素長繊維強化樹脂ペレットを提供する。・・・(略)・・・」
「【0015】
炭素繊維
次に、本発明で用いられるサイジング剤(s)で表面処理された炭素繊維の素材としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、好ましくはPAN系である。
炭素繊維は、多数の単糸が集束されたロービング状のものが市販されており、太さ、数、及び長さには特に制限はないが、一般に単糸径で7.5μm以下、好ましくは6μm以下、さらに好ましくは5.5μm以下のものが利用できる。
炭素繊維は、一般に、各種マトリックス樹脂との複合強化材料として利用され、マトリックス樹脂との接着性を良好にするために、電解処理や活性ガスによる気相表面処理などの表面活性化処理により表面にヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基などの官能基が導入されているものが好ましい。
本発明で用いられるサイジング剤(s)で表面処理された炭素繊維としては、ストランド強度が好ましくは350kgf/mm^(2)(3430MPa)以上、より好ましくは400kgf/mm^(2)(3920MPa)以上、さらに好ましくは450kgf/mm^(2)(4410MPa)以上であり、また、弾性率が22tf/mm^(2)(216000MPa)以上、好ましくは24tf/mm^(2)(235000MPa)以上、より好ましくは28tf/mm^(2)(275000MPa)以上のものが使用できる。
【0016】
(s)サイジング剤
本発明に係る炭素繊維は酸基と反応し得る官能基を有する官能基を有するサイジング剤(s)により表面処理され、酸基含有ポリオレフィン系樹脂(A)の酸基と加熱反応させることにより、マトリックス樹脂としての樹脂(A)と強化材としての炭素繊維との間に良好な接着が生じ、複合強化材料として、機械的強度に優れたものになる。
本発明に係るサイジング剤(s)としては、分子内に有する官能基の種類により、エポキシ系などが挙げられる。酸と反応しないもの又は分解するものは好ましくない。
【0017】
本発明に係るサイジング剤として複数のエポキシ基を有する脂肪族化合物を用いることができる。
上記脂肪族化合物とは、非環式直鎖状飽和炭化水素、分岐状飽和炭化水素、非環式直鎖状不飽和炭化水素、分岐状不飽和炭化水素、または上記炭化水素の炭素原子(CH_(3),CH_(2),CH,C)を酸素原子(O)、窒素原子(NH,N)、硫黄原子(SO_(3)H、SH)、カルボニル原子団(CO)に置き換えた鎖状構造の化合物をいう。
また、本発明では、複数エポキシ基を有する脂肪族化合物において、2個のエポキシ基間を結ぶ鎖状構造を構成する炭素原子、複素原子(酸素原子、窒素原子等)の総数のうち最も大きい原子鎖を最長原子鎖といい、最長原子鎖を構成する原子の総数を最長原子鎖の原子数という。なお、最長原子鎖を構成する原子に結合した水素等の原子の数は総数に含めない。
側鎖の構造については特に限定するものではないが、サイジング剤化合物の分子間架橋の密度が大きくなりすぎないように抑えるために、架橋点となりにくい構造が好ましい。
サイジング剤化合物の有するエポキシ基が2つ未満であると、炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行うことができない。従ってエポキシ基の数は、炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行うために2個以上であることが好ましい。一方、エポキシ基の数が多すぎると、サイジング剤化合物の分子間架橋の密度が大きくなり、脆性なサイジング層となって結果としてコンポジットの引張強度が低下してしまうため、好ましくは6個以下、より好ましくは4個以下、さらに好ましくは2個が良い。さらにこの2個のエポキシ基が最長原子鎖の両末端にあるのがより好ましい。すなわち最長原子鎖の両末端にエポキシ基があることにより局所的な架橋密度が高くなることを防ぐので、コンポジット引張強度にとって好ましい。 エポキシ基の構造としては反応性の高いグリシジル基が好ましい。エポキシ基の構造としては反応性の高いグリシジル基が好ましい。
かかる脂肪族化合物の分子量は、樹脂粘度が低すぎる、あるいは高すぎることにより集束剤としての取り扱い性が悪化するのを防ぐ観点から、80以上3200以下が好ましく、100以上1500以下がより好ましく、200以上1000以下がさらに好ましい。
本発明における複数エポキシ基を有する脂肪族化合物の具体例としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物では、エチレングリコールジグリシジルエーテル及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物では、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、アラビトールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類等が挙げられる。・・・(略)・・・ 」
「【0028】
成形品の物性測定
上記試験片を用い、下記測定を行った。
引張強度:ISO 527-1に準拠
曲げ強度:ISO 178に準拠」
「【0031】
このように、サイジング剤にエポキシ樹脂を用いて表面処理された炭素繊維に、カルボキシル基含有の多いポリオレフィン系樹脂を含浸して、加熱することにより、機械物性の向上した強化成形品が得られる。」

オ 甲5に記載された事項
「1.2カルボジイミド基の反応性
カルボジイミド基は、式1のとおり活性水素基と反応する。反応性としては、カルボキシル基が最も高く、次いでアミノ基、水酸基となっている。その他にも、チオール基、グリシジル基などとも反応する。カルボジイミド基と活性水素基との反応はすべて付加型で進行するのが特徴である。」(148頁右欄27行?149頁左欄5行)

カ 甲6に記載された事項
「【0001】
本発明は、繊維強化樹脂を成形、製造する際に、樹脂の含浸性と、賦形性に優れた炭素繊維マットとその製造方法に関するものである。」
「【0029】
上記バインダーの付与方法には特に制限はないが、均等に付与する観点から、混合溶液またはエマルジョンあるいはディスパージョンで付与されることが好ましい。さらに、バインダーには、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤、水溶性高分子、天然ガム、界面活性剤、天然ワックス、合成ワックス、防炎剤、防虫剤、防腐剤、老化防止剤、蛍光染料、撥油剤等を本発明の目的を損なわない範囲であれば添加してもよい。
炭素繊維には、成形品の力学特性の向上や、炭素繊維束の取扱い性の観点からサイジング剤が付着されていることが好ましい。かかるサイジング剤としては、炭素繊維の取扱い性と後述する炭素繊維マットの製造における工程通過性の両立の観点から、水溶性もしくは部分水溶性、水分散性のサイジング剤で有ることが好ましい。サイジング剤としては、水溶性ポリアミド、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等が例示できる。中でもサイジング剤はノニオン系界面活性剤であることが、サイジング剤の取扱い性、炭素繊維の取扱い性と後述する炭素繊維マットの製造における工程通過性の観点から好ましい。」

キ 甲7に記載された事項
「【請求項1】
少なくとも下記成分(A)?(C)を有してなる繊維強化プロピレン系樹脂組成物であり、下記成分(B)のSP値が6.5?9.5であり、かつ下記成分(a)のSP値よりも低いことを特徴とする繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
(A)(a)多官能化合物によりサイジング処理された(b)強化繊維 1?75質量%
(B)テルペン系樹脂 0.01?20質量%
(C)プロピレン系樹脂 5?98.98質量%
【請求項2】
前記成分(B)がα-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネンから選択されるいずれか1つを用いて重合された重合体からなる樹脂である、請求項1記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(B)が水素添加反応された重合体からなる樹脂である、請求項1または2に記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(B)のガラス転移温度が30?100℃である、請求項1?3いずれかに記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(B)の数平均分子量が500?5000である、請求項1?4いずれかに記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記成分(B)の190℃における溶融粘度が、0.05?1Pa・sである、請求項1?5いずれかに記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記成分(a)が3官能以上である、請求項1?6いずれかに記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記成分(a)が多官能性エポキシ樹脂、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンの中和物から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項9】
前記成分(a)が脂肪族エポキシ樹脂である、請求項8に記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項10】
前記成分(a)が、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類から選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項11】
前記成分(C)が、重合体鎖にカルボン酸および/またはその塩の基を有するポリプロピレン系樹脂を含んでいる、請求項1?10いずれかに記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項12】
前記成分(C)が、プロピレンの単独重合体を含んでいる、請求項1?11いずれかに記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項13】
前記成分(C)が、カルボン酸および/またはその塩の基を有する、ブロックおよび/またはランダムプロピレンを含んでいる、請求項11に記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項14】
前記成分(C)が、(C-1)カルボン酸および/またはその塩の基を有しているプロピレン系樹脂と、(C-2)カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂との混合物であり、前記成分(a)、(B)、(C-1)の質量比が下記範囲内である、請求項11?13いずれかに記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
(a)/(B)/(C-1)=0.001?0.5/1/0.05?50
【請求項15】
前記成分(A)?(C)に加えて、成分(D)として、エラストマーを0.01?30質量%有している、請求項1?14いずれかに記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項16】
前記成分(D)がオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマーから選択される選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項15に記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項17】
前記成分(D)のSP値が6.5?9.5である、請求項15または16に記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項18】
前記成分(D)がエチレン-α-オレフィン共重合体である、請求項17に記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項19】
前記成分(b)が炭素繊維である、請求項1?18いずれかに記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項20】
前記炭素繊維のX線光電子分光法(ESCA)で測定される表面酸素濃度比(O/C)が0.05?0.5である、請求項19に記載の繊維強化プロピレン系樹脂組成物。」
「【0004】
しかし、近年になり、繊維強化熱可塑性複合材料の注目度が大きくなり、また用途も多岐に細分化されるようになってきた。そして、力学特性に優れた成形品が要求されるようになり、また工業的にもより高い経済性、生産性が必要になってきた。例えば、繊維強化複合材料により軽量性・経済性が求められるようになり、マトリックス樹脂には軽量なオレフィン系樹脂、とりわけプロピレン系樹脂が使用されるようになってきた。
【0005】
しかしながら、プロピレン系樹脂は強化繊維との界面接着性に乏しく、力学特性に優れた成形品を得ることが困難であった。中でも、炭素繊維のような表面の反応性が乏しい繊維では、力学特性に優れた成形品を得ることが特に困難であった。特許文献1には、炭素繊維が有する反応性官能基及び酸変性ポリオレフィンが有する反応性官能基のそれぞれと反応しうる官能基を2個以上有する多官能性化合物を含む繊維強化樹脂組成物が開示されているが、強化繊維を添加した場合の成形性について全く触れられていない。」
「【0010】
本発明は、従来技術の背景に鑑み、プロピレン系樹脂をマトリックスとした際に、成形性に優れながら、強化繊維との界面接着性が良好であり、力学特性に優れた成形品を製造できる繊維強化プロピレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。」
「【0033】
本発明に用いられる(a)多官能化合物としては、特に限定されないが、エポキシ基、ウレタン基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基を1分子中に2個以上有する化合物が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。官能基が2個未満であると、強化繊維とマトリックス樹脂との接着性を十分に発揮できない。したがって、官能基の数は、2個以上であることが必須であり、さらに好ましくは、3個以上である。」
「【0041】
該多官能化合物をサイジング剤として、強化繊維に付与することで、添加量が少量であっても効果的に強化繊維表面の官能基等の表面特性に適合させて接着性およびコンポジット総合特性を向上させることができる。また、集束性、耐屈曲性や耐擦過性を改良し、高次加工工程において、毛羽、糸切れの発生を抑制しており、いわゆる糊剤、集束剤として高次加工性を向上させることもできる。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「カルボジイミド基含有ポリプロピレンであるCDI-PP1」、「ホモポリプロピレンであるPP2」、「炭素繊維(東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー、HTA-C6-S)であるCF1」は、それぞれ本件特許発明1の「カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)」、「ポリプロピレン系樹脂(b)」、「強化繊維(c)」に相当する。
また、甲1発明の「カルボジイミド基含有ポリプロピレンであるCDI-PP1」と「ホモポリプロピレンであるPP2」と「強化繊維(c)」を合わせたものは、本件特許発明1の「繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物」に相当する。
さらに、甲1発明の「フィラー強化樹脂組成物中の樹脂成分」は、本件特許発明1の「マトリックス樹脂成分」に相当する。
そして、甲1発明の「カルボジイミド基の含有量」の「27mmol/100g」は、本件特許発明1の「カルボジイミド基の含有量」の「マトリックス樹脂成分100gに対し0.0005?140mmol」と重複一致する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、
「カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)、ポリプロピレン系樹脂(b)および強化繊維(c)を含有してなる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物であって、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物中のマトリックス樹脂成分に含まれるカルボジイミド基の含有量が、マトリックス樹脂成分100gに対し、27mmolであることを特徴とする繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。」
という点で一致し、少なくとも次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は「強化繊維(c)」が「多官能化合物(s)によりサイジング処理されており、多官能化合物(s)が、多官能エポキシ樹脂、ポリエチレンイミン、酸変性ポリプロピレン、アミノエチル化アクリルポリマー、または、ポリビニルアルコールであり」と特定するのに対し、甲1発明の「炭素繊維」には、そのような特定がない点。

<相違点2>
本件特許発明1は、「成形品を85℃温水に1週間浸漬した後の、乾燥状態の成形品に対するIzod衝撃強度の強度保持率が、70%以上である」と特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
甲2の摘記によれば、東邦テナックス社製のHTA-C6-Sは、エポキシ系サイジング剤により表面処理された炭素繊維であることが記載されている。
甲2の記載によれば、甲1発明の炭素繊維(東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー、HTA-C6-S)は、エポキシ系サイジング剤によりサイジング処理された炭素繊維であるということができる。
したがって、本件特許発明1の炭素繊維が「化合物(s)によりサイジング処理されており」という点および「化合物(s)」が「エポキシ樹脂」である点は、甲1発明との間では、実質的な相違点ではない。

そうすると、本件特許発明1の「化合物(s)」および「エポキシ樹脂」について「多官能」である点は、甲1発明との間で、相違点となるものと認められる。
この点、特許異議申立人は、異議申立書の第22頁において、「エポキシ系「ポリマー」が、通常、エポキシ基を複数有する多官能化合物、すなわち多官能エポキシ樹脂であることが周知である」と説示する。
確かに、甲2には、「その具体例としては、例えば、東邦テナックス社製の、ベスファイト(登録商標)・チョップドファイバーHTA-C6-SRS、HTA-C6-S、HTA-C6-SR、HTA-C6-E(以上、エポキシ系サイジング剤で処理されたもの)」と記載され、甲3には、「サイジング剤の例には、エポキシ系ポリマー、ナイロン系ポリマーおよびウレタン系ポリマーなどが含まれる。エポキシ系ポリマーの例には、東邦テナックス(株)のテナックス(HTA-C6-SR(エポキシ樹脂サイジング)」と記載されており、これらの記載から、エポキシ系ポリマーは2官能以上の化合物である場合が多いことは理解できる。
しかし、甲4の「サイジング剤化合物の有するエポキシ基が2つ未満であると、炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行うことができない。」との記載からは、エポキシ系サイジング剤として官能基が2未満のサイジング剤も存在することがわかる。
そうすると、甲1発明の「サイジング剤」である「HTA-C6-S」がエポキシ系サイジング剤であることは、特許異議申立人の提出した証拠方法から立証されているとしても、「HTA-C6-S」が「多官能」の「エポキシ樹脂」であることは立証されているということができない。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点である。
そして、耐水劣化性の向上のためにサイジング剤として多官能のエポキシ樹脂を採用する動機付けは存在しないから、上記相違点1は、甲1発明および甲第2ないし7号証に基づいて、当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。

次に、上記相違点2について検討する。
甲1には、アイゾット試験の結果については記載があるものの、吸水時のアイゾット試験の結果は記載されておらず、ましてや、吸水時のアイゾット試験の結果と乾燥時のアイゾット試験の結果の比から強度保持率を算出することは記載も示唆もされていない。
したがって、甲第1号証には、「成形品を85℃温水に1週間浸漬した後の、乾燥状態の成形品に対するIzod衝撃強度の強度保持率が、70%以上である」ことは、記載も示唆もされていない。
さらに、甲第2ないし7号証にも、「成形品を85℃温水に1週間浸漬した後の、乾燥状態の成形品に対するIzod衝撃強度の強度保持率が、70%以上である」ことは、記載も示唆もされていない。
よって、上記相違点2は、甲1発明および甲第2ないし7号証に基づいて、当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。

そして、本件特許発明1の「本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を用いて製造した成形品は、強化繊維とポリプロピレン系樹脂との界面接着性が良好であり、力学特性に優れるばかりか、耐水劣化性に優れたものとなる。」との効果について検討すれば、特に、「耐水劣化性」については、特許異議の申立ての証拠のいずれにも記載も示唆もなく、技術常識に照らしても、当業者が予測できるものということはできない。

よって、本件特許発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)本件特許発明2と甲1発明との対比
甲1発明の「カルボジイミド基含有ポリプロピレンであるCDI-PP1」、「ホモポリプロピレンであるPP2」、「炭素繊維(東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー、HTA-C6-S)であるCF1」は、本件特許発明2の「カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)」、「ポリプロピレン系樹脂(b)」、「強化繊維(c)」に相当する。
また、甲1発明の「カルボジイミド基含有ポリプロピレンであるCDI-PP1」と「ホモポリプロピレンであるPP2」と「強化繊維(c)」を合わせたものは、本件特許発明2の「繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物」に相当する。
そして、甲1発明の「カルボジイミド基含有ポリプロピレンであるCDI-PP1」の「0.5重量部」は、本件特許発明2の「0.01?50質量部」と重複一致し、甲1発明の「ホモポリプロピレンであるPP2」の「80重量部」は、本件特許発明2の「ポリプロピレン系樹脂(b)」の「20?99質量部」と重複一致し、甲1発明の「炭素繊維」の「20重量部」は、本件特許発明2の「強化繊維(c)」の「1?80質量部」と重複一致し、「ホモポリプロピレンであるPP2」の「80重量部」と「炭素繊維」の「20重量部」との合計が100重量部である点は、本件特許発明2の「(ただし、(b)と(c)の合計を100質量部とする)」点で一致する。
そうすると、本件特許発明2と甲1発明は、
「カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)、ポリプロピレン系樹脂(b)および強化繊維(c)を含有してなる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物であって、(a)を0.5質量部、(b)を80質量部、(c)を20質量部(ただし、(b)と(c)の合計を100質量部とする)含有する繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。」
との点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点3>
本件特許発明2は「強化繊維(c)」が「多官能化合物(s)によりサイジング処理されており、多官能化合物(s)が、多官能エポキシ樹脂、ポリエチレンイミン、酸変性ポリプロピレン、アミノエチル化アクリルポリマー、または、ポリビニルアルコールであり」と特定するのに対し、甲1発明の「炭素繊維」には、そのような特定がない点。

<相違点4>
本件特許発明2は、「成形品を85℃温水に1週間浸漬した後の、乾燥状態の成形品に対するIzod衝撃強度の強度保持率が、70%以上である」と特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。

上記相違点3、4について検討すると、上記相違点3、4は、上記相違点1、2と同一であるから、その判断については、上記1(2)のア(イ)の相違点1、2についての判断と同様である。
したがって、上記相違点3、4は、甲1発明および甲第2ないし7号証に基づいて、当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。
よって、本件特許発明2は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件特許発明3について

本件特許発明3は、請求項2を引用するものであるので、本件特許発明2と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件特許発明4について

本件特許発明4は、請求項1ないし3を引用するものであるので、本件特許発明1ないし3と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件特許発明5について

本件特許発明5は、請求項4を引用するものであるので、本件特許発明4と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 本件特許発明6について

本件特許発明6は、請求項4または5を引用するものであるので、本件特許発明4ないし5と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ 本件特許発明7について

本件特許発明7は、請求項1ないし6を引用するものであるので、本件特許発明1ないし6と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ク 本件特許発明8について

本件特許発明8は、請求項1ないし7を引用するものであるので、本件特許発明1ないし7と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ケ 本件特許発明9について

本件特許発明9は、請求項1ないし8を引用するものであるので、本件特許発明1ないし8と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

コ 本件特許発明10について

本件特許発明10は、請求項1ないし9を引用するものであるので、本件特許発明1ないし9と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

サ 本件特許発明11について

本件特許発明11は、請求項1ないし9を引用するものであるので、本件特許発明1ないし9と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

シ 本件特許発明12について

本件特許発明12は、請求項7を引用するものであるので、本件特許発明7と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)取消理由1及び2についてのむすび

よって、取消理由1及び2は理由がない。

2 取消理由3及び4(実施可能要件、サポート要件)

特許異議申立人は、異議申立書の第28頁において「甲第1号証のフィラー強化樹脂組成物は、前述したように本件特許明細書に記載された耐水劣化性向上に寄与する構成、さらには本件特許発明における樹脂組成物の組成要件を満たす蓋然性が高い。それにもかかわらず甲第1号証のフィラー強化樹脂組成物を成形して得られる成形品が、前記強度保持率の規定を満たさないのであれば、本件特許明細書からは前記強度保持率の規定を満たす成形品をいかにして得ることができるのか不明であるし、また、本件特許発明は本件特許明細書に記載されているともいえない」と主張するところ、本件特許発明1と甲1発明は、同一ではないから、特許異議申立人の主張は、前提を誤っており、採用できない。
そして、本件特許明細書から前記強度保持率の規定を満たす成形品をいかにして得ることができるかは理解できるし、本件特許発明は本件特許明細書に記載されているといえる。
よって、取消理由3及び4は理由がない。

第5 結語

したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-04-09 
出願番号 特願2013-5424(P2013-5424)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡谷 祐哉  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 渕野 留香
長谷部 智寿
登録日 2017-06-16 
登録番号 特許第6155652号(P6155652)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物  

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