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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F16H
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16H
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16H
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16H
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16H
管理番号 1339374
審判番号 訂正2017-390139  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2017-12-04 
確定日 2018-03-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5423687号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5423687号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第5423687号についての出願は、2009年12月28日(優先権主張2008年12月26日、日本国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし6に係る発明について、平成25年12月6日に特許権の設定登録がなされ、平成29年12月4日に本件訂正審判の請求がなされ、平成30年1月10日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年1月25日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 審判請求書及び訂正明細書の補正及びその適否
当審において平成30年1月10日付けの訂正拒絶理由で訂正事項4は特許法第126条第1項ただし書各号のいずれをも目的としたものでない旨を通知し、「なお書き」として、審判請求書の誤記を指摘した。

特許権者は平成30年1月25日付けで審判請求書及び訂正明細書を補正する手続補正書を提出した。当該手続補正書による補正の内容は、以下のとおりである。

1 訂正事項4の削除
審判請求書に添付された訂正明細書の段落[0061]の記載(訂正事項4に関する記載)を本件訂正審判の請求前の記載に戻すとともに、審判請求書の「6.請求の理由」の「(2)訂正事項」から「エ 訂正事項4」を削除し、「(3)訂正の理由」の「ア 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明」から「(エ)訂正事項4」を削除する。

2 誤記の訂正
審判請求書の6(2)アの括弧書きの「(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4?6も同様に訂正する)」との記載を「(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?6も同様に訂正する)」に、6(3)ア(ア)a及びcの「請求項4?6」との記載を「請求項2?6」に、6(3)ア(ウ)a?cの「請求項1及び3?6」との記載を「請求項1?6」に、それぞれ訂正する。

上記1 訂正事項4の削除及び上記2 誤記の訂正は、いずれも審判請求書の要旨を変更するものではない。
したがって、特許法特許法第131条の2第1項の規定に適合するから、上記補正を認める。
そして、当審による訂正拒絶理由は解消した。

第3 審判請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の趣旨は、「特許第5423687号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」ものであり、その訂正の内容は次のとおりである。(下線は特許権者が付した。以下同様。)

1 訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「使用時におけるラジアル方向隙間が-30μm以上10μm以下であり」との記載を、「使用時におけるラジアル方向隙間が-20μm以上10μm以下であり」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?6も同様に訂正する)。

2 訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項3の「使用時におけるラジアル方向隙間が-30μm以上-3μm以下であり」との記載を、「使用時におけるラジアル方向隙間が-20μm以上-3μm以下であり」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4?6も同様に訂正する)。

3 訂正事項3
訂正前の明細書の段落[0010]、[0014]、[0024]、[0033]、[0034]及び[0062]の使用時におけるラジアル方向隙間についての「-30μm以上10μm以下」との記載を、「-20μm以上10μm以下」に訂正し、訂正前の明細書の段落[0014]の使用時におけるラジアル方向隙間についての「-30μm以上-3μm以下」との記載を、「-20μm以上-3μm以下」に訂正する。

第4 当審の判断
1 訂正事項1
(1)訂正の目的の適否について
訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1の使用時におけるラジアル方向隙間についての下限を「-30μm以上」から「-20μm以上」に減縮するものであり、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?6も、使用時におけるラジアル方向隙間についての下限を同様に減縮するものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

(2)新規事項の有無について
訂正事項1におけるラジアル方向隙間についての下限「-20μm以上」に関して、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落[0058][表3]の試験軸受13の、ラジアル方向隙間の欄に「-0.02mm」と記載されており、最大接触面圧の欄には「2500MPa」と記載されている。
また、前記[表3]の試験軸受13?19に関する記載からは、ラジアル方向隙間が-0.02mm以上(-20μm以上)であれば、最大接触面圧が2500MPa以下になることが把握できる。
さらに、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲(以下、「本件特許請求の範囲」という。)の請求項1には、「最大接触面圧が2500MPa以下」と記載されている。
そうすると、最大接触面圧が2500MPa以下となるラジアル方向隙間を-20μm以上とすることは、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1において、「使用時におけるラジアル方向隙間」についての下限を「-20μm以上」に減縮するものであるから、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項1は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?6についても同様に、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

(4)特許独立要件について
訂正事項1により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明は、拒絶すべき理由を有しないとして特許された本件特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明を減縮したものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明でないことは明らかであり、特許法第126条第7項の規定を満たすものである。

2 訂正事項2
(1)訂正の目的の適否について
訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項3の使用時におけるラジアル方向隙間についての下限を「-30μm以上」から「-20μm以上」に減縮するものであり、請求項3を直接的又は間接的に引用する請求項4?6も、使用時におけるラジアル方向隙間についての下限を同様に減縮するものである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

(2)新規事項の有無について
訂正事項2におけるラジアル方向隙間についての下限「-20μm以上」に関して、本件特許明細書の段落[0058][表3]の試験軸受13の、ラジアル方向隙間の欄に「-0.02mm」と記載されており、最大接触面圧の欄には「2500MPa」と記載されている。
また、前記[表3]の試験軸受13?19に関する記載からは、ラジアル方向隙間の欄が-0.02mm以上(-20μm以上)であれば、最大接触面圧が2500MPa以下になることが把握できる。
さらに、本件特許請求の範囲の請求項1には、「最大接触面圧が2500MPa以下」と記載されている。
そうすると、最大接触面圧が2500MPa以下となるラジアル方向隙間を-20μm以上とすることは、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項3において、「使用時におけるラジアル方向隙間」についての下限を「-20μm以上」に減縮するものであるから、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項2は、請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4?6についても同様に、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

(4)特許独立要件について
訂正事項2により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項3?6に係る発明は、拒絶すべき理由を有しないとして特許された本件特許請求の範囲の請求項3?6に係る発明を減縮したものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明でないことは明らかであり、特許法第126条第7項の規定を満たすものである。

3 訂正事項3
(1)訂正の目的
訂正事項3は、訂正事項1及び2に係る訂正(請求項1,3の減縮)に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の段落[0010]及び[0014]を訂正し、また、発明の詳細な説明の発明を実施するための形態中における記載が整合するように段落[0024]、[0033]、[0034]及び[0062]を訂正し、使用時におけるラジアル方向隙間についての「-30μm以上10μm以下」との記載を、「-20μm以上10μm以下」に訂正し、段落[0014]の使用時におけるラジアル方向隙間についての「-30μm以上-3μm以下」との記載を、「-20μm以上-3μm以下」に訂正するものである。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものに該当する。

(2)新規事項の有無
訂正事項3における使用時におけるラジアル方向隙間についての下限を「-20μm以上」とする訂正は、上記訂正事項1及び2と同様に、本件特許明細書の段落[0058][表3]の試験軸受13?19に関する記載に基くと解されるから、訂正事項3に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項3に係る訂正は、上記(1)のとおり訂正事項1及び2により訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、また、特許明細書中において記載の整合を図るものであり、訂正事項1及び2と同様に、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項ないし第7項の規定を満たすものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ベルト式無段変速機のプーリ支持構造、およびベルト式無段変速機
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の自動変速機の変速ユニットとして用いられるベルト式無段変速機に係り、特に、ベルト式無段変速機の無段変速のためのプーリを回転自在に支持する回転部におけるプーリ支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のベルト式無段変速機は、例えば特許文献1?3に記載されているように、種々提案され、また、その一部は実用されている。
この種のベルト式無段変速機は、固定部である変速機ケースと、この変速機ケースに対して無段変速のためのプーリを回転自在に支持する回転部と、を有している。
そして、回転部は、互いに平行に配置された入力側回転軸と出力側回転軸とを有している。この入力側回転軸は、変速機ケースに対して一対の転がり軸受を介して回転自在に支持されるとともに、これら一対の転がり軸受の間に位置する部分に、自身と同期して回転するとともに溝幅を拡縮自在な駆動側プーリが配設されている。
【0003】
一方、出力側回転軸は、変速機ケースに対して別の一対の転がり軸受を介して回転自在に支持されるとともに、これら別の一対の転がり軸受の間に位置する部分に、自身と同期して回転するとともに溝幅を拡縮自在な従動側プーリが配設されている。そして、駆動側プーリと従動側プーリには、無端ベルトが掛け渡されている。入力側回転軸と出力側回転軸との間の変速比を変える場合には、駆動側プーリと従動側プーリの溝幅を互いに関連させつつ拡縮するようになっている。
【0004】
入力側回転軸は、エンジン等の駆動源により、トルクコンバータあるいは発進クラッチ(例えば電磁クラッチ)を介して回転駆動される。そして、駆動源から発進クラッチを介して入力側回転軸に伝達された動力は、駆動側プーリから無端ベルトを介して従動側プーリに伝達される。そして、従動側プーリに伝達された動力は、出力側回転軸から減速歯車列、デファレンシャルギヤ等を介して駆動輪に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許公告公報 平成8年第30526号
【特許文献2】日本国特許公開公報 2004年第183765号
【特許文献3】日本国特許公開公報 2008年第267509号
【特許文献4】日本国特許公開公報 2009年第41744号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種のベルト式無段変速機のプーリ支持構造においては、例えば入力側回転軸と出力側回転軸とを支持する転がり軸受は、その停止時にも、無端ベルトのベルト張力により荷重を受けている。よって、その状態でエンジン等から振動が伝わると、転動体と軌道輪との間でフレッチング(ミンドリンスリップ)を生じる場合がある。
一般的に、ミンドリンスリップは、極微小な領域で繰り返し荷重変動を受けた場合に発生する。ラジアル方向(径方向)の繰り返しの微小振動や荷重変動によって、接触部の油膜が切れるため、軸受の場合であれば、転動体表面と軌道面とが金属接触した状態で、微小な凝着や、凝着の乖離を繰り返して、表面損傷が拡大していく。そして、軸受の回転によって、ミンドリンスリップによる損傷を受けた転動体が転動することにより、剥離等の損傷を引き起こすことになる。
【0007】
転動体と軌道輪との間でミンドリンスリップが生じた場合、ミンドリンスリップが生じた部分の転動面粗さ、軌道面粗さが悪化する。特に、転動体の表面性状が悪化すると転動体と軌道輪との間に作用する接線力が大きくなるため、軌道輪の寿命が短くなる。したがって、ベルト式無段変速機の更なる長寿命化を達成するためには、プーリ支持構造における、入力側回転軸と出力側回転軸とを支持する転がり軸受でのミンドリンスリップによる表面粗さの悪化を抑制することが重要である。
【0008】
ここで、ミンドリンスリップによる損傷を低減する一般的方法としては、以下のようなものがある。接触する物の材質をセラミック等に変更して、いわゆるトモガネ現象を低減し、油膜が切れた場合の微小な凝着を低減する方法や、より微細な領域まで侵入することのできる低粘度な潤滑剤、または、耐摩耗性の高い潤滑剤を使用する方法である。あるいは、鉄鋼材料であれば、表面に窒化処理等の硬化処理を施して、凝着の度合いを低減する方法である。
【0009】
しかし、ベルト式無断変速機に使用される転がり軸受においては、セラミック製の転動体は高価なため使用しにくい。また、転がり軸受は、プーリ部やギヤ部と共通のCVT(Continuously Variable Transmission)フルードにより潤滑されるため、潤滑剤を軸受用に最適化することはできない。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、ミンドリンスリップ自体の発生を抑制し、仮にミンドリンスリップが発生した場合でも、その影響を効果的に低減させ得るベルト式無段変速機のプーリ支持構造、およびベルト式無段変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願が解決課題としているミンドリンスリップは、ベルト式無断変速機特有のアキシアル方向の微小振動によるミンドリンスリップである。
上記課題を解決するために、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係るベルト式無段変速機のプーリ支持構造は、固定部と、無段変速のためのプーリを前記固定部に対して回転自在に支持する回転部と、を有するベルト式無段変速機のプーリ支持構造において、前記回転部は、互いに平行に配置された入力側回転軸と出力側回転軸とを有し、前記入力側回転軸は、前記固定部に対して一対の転がり軸受を介して回転自在に支持されるとともに、当該一対の転がり軸受の間に位置する部分に、自身と同期して回転するとともに溝幅を拡縮自在な駆動側プーリが前記プーリとして配設され、前記出力側回転軸は、前記固定部に対して別の一対の転がり軸受を介して回転自在に支持されるとともに、当該別の一対の転がり軸受の間に位置する部分に、自身と同期して回転するとともに溝幅を拡縮自在な従動側プーリが前記プーリとして配設されており、前記駆動側プーリと前記従動側プーリとには無端ベルトが掛け渡されていて、前記各転がり軸受は、互いに同心に設けられた外輪と内輪とをそれぞれ有し、前記外輪がその内周面に外輪軌道を、前記内輪がその外周面に内輪軌道をそれぞれ軌道面として有し、該軌道面間に複数の転動体が転動自在に介装され、その使用時の前記内輪及び前記外輪の軌道面と前記転動体との最大接触面圧が2500MPa以下であり、さらに、前記軌道面及び前記転動体表面の硬さがHRc60以上且つ前記軌道面よりも前記転動体表面の硬さがHRcで1以上硬くなっており、さらに、前記転動体の表面が窒化処理もしくは浸炭窒化処理されて、その表面の窒素濃度が0.2質量%以上2.0質量%以下であり、さらに、その使用時におけるラジアル方向隙間が-20μm以上10μm以下であることを特徴としている。
【0011】
本発明に係るベルト式無段変速機のプーリ支持構造によれば、各転がり軸受は、その使用時の内輪及び外輪の軌道面と転動体との最大接触面圧が2500MPa以下であるので、ミンドリンスリップが発生したとしても、その後の回転による損傷の拡大を防ぐことが可能となる。つまり、使用時の内輪及び外輪の軌道面と転動体との最大接触面圧を2500MPa以下とすれば、損傷した面を転動体が高面圧で転動することがないため、損傷の拡大を低減することができる。
【0012】
さらに、各転がり軸受は、その軌道面、転動体の表面硬さがHRc60以上であり、転動体の表面硬さが転道面よりもHRcで1以上硬いので、特に重大な影響を与える転動体の表面損傷が抑えられ、その影響が効果的に低減される。
つまり、転動体がミンドリンスリップによる損傷を受けると、軌道輪に作用する接線力が大きくなり、その後の回転による内輪及び外輪の損傷が発生しやすくなる。そこで、転動体の表面硬さを軌道面よりもHRcで1以上硬くして、接触する部材に硬度差を与えることによって、転動体の損傷を極力抑制し、その影響を効果的に低減させることが可能となる。ただし、軌道面と転動体の硬度差は、HRcで最大8程度とすることが好ましい。硬度差が大きくなりすぎると、ミンドリンスリップが発生しない場合でも軌道面の損傷が発生しやすくなるからである。また、転がり軸受を精度良く回転させるためには、HRc60の硬さは必要である。
【0013】
さらに、各転がり軸受は、転動体の表面が窒化処理もしくは浸炭窒化処理されて、その表面の窒素濃度が0.2質量%以上2.0質量%以下とされているので、特に転動体表面におけるミンドリンスリップの発生の低減に顕著な効果が得られる。特に、この顕著な効果は、窒素の固溶率が0.2質量%以上2.0質量%以下のときにより顕著である。0.2質量%未満では前記効果が乏しく、2.0質量%を超えると転動体の靭性が急激に低下する。
【0014】
また、プーリ部がベルトによる荷重を受けると、転がり軸受には、モーメント荷重や僅かなアキシアル荷重が作用するため、アキシアル方向の荷重変動や振動もミンドリンスリップの発生を助長する。
各転がり軸受は、その使用時におけるラジアル方向隙間が-20μm以上10μm以下(より好ましくは-20μm以上0μm以下、さらに好ましくは-20μm以上-3μm以下の負隙間)であるので、アキシアル方向への荷重変動や振動によるミンドリンスリップの発生が効果的に防止される。
【0015】
つまり、ベルト式無段変速機では、プーリの溝幅を可動させるため、どうしても駆動側プーリと従動側プーリとの間にアキシアル方向のずれが生じ、転がり軸受にアキシアル方向の力が作用することが多い。そして、このアキシアル方向に力を受けた転がり軸受が、静止した状態でエンジン等の振動を受けると、アキシアル方向に微小振動し、ミンドリンスリップを発生することになる。そこで、ラジアル方向隙間をマイナス(負隙間)にする、つまり、ラジアル方向に軸受内部応力を発生させておくと、このアキシアル方向の振動を低減することが可能となる。ただし、上記規定した範囲を超えて、負隙間が小さすぎると、面圧上昇を招くので好ましくない。
【0016】
また、本発明に係るベルト式無段変速機のプーリ支持構造においては、例えば、各転がり軸受が玉軸受であり、その内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径が、転動体の直径の50%超過52%以下であることが好ましい。このような構成であれば、上記したアキシアル方向のミンドリンスリップをより効果的に低減することができる。
具体的には、上記構成を各転がり軸受で実現するためには、一般的なJIS(ISO)規格サイズのものよりも転動体の直径を大きくして、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径を、転動体の直径の50%超過52%以下にする必要がある。ここで、各転がり軸受全体を大きくしてしまうと、ベルト式無断変速機自体も大きくなってしまうため好ましくない。
【0017】
転動体の直径を大きくすることで、上述の最大接触面圧2500MPaを好適に実現可能であることに加え、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径を転動体の直径の50%超過52%以下にすることで、ラジアル/アキシアル剛性及びモーメント剛性が向上し、荷重変動時のミンドリンスリップによる損傷を効果的に抑制できるという効果もある。
例えば、転動体の直径を通常よりも1.06倍大きくし、これに対応してピッチ円径を1.06倍にし、さらに内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径を転動体の直径の50%超過52%以下にすると、低面圧に加えて、ラジアル/アキシアル剛性及びモーメント剛性が向上し、ミンドリンスリップの発生を著しく抑制することができる。
【0018】
さらに、上記課題を解決するために、本発明に係るベルト式無段変速機は、固定部と、無段変速のためのプーリを前記固定部に対して回転自在に支持する回転部と、を有するベルト式無段変速機であって、前記無段変速のためのプーリのプーリ支持構造として、本発明に係るベルト式無段変速機のプーリ支持構造を備えていることを特徴としている。なお、本発明に係るベルト式無段変速機においては、前記無端ベルトが金属製であることが好ましい。
本発明に係るベルト式無段変速機によれば、本発明に係るベルト式無段変速機のプーリ支持構造を備えているので、ミンドリンスリップ自体の発生を抑制し、仮にミンドリンスリップが発生した場合でも、その影響を効果的に低減させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るベルト式無段変速機のプーリ支持構造、およびベルト式無段変速機によれば、ミンドリンスリップ自体の発生を抑制し、仮にミンドリンスリップが発生した場合でも、その影響を効果的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るベルト式無段変速機の基本構造を略示した説明図である。
【図2】本発明に係るベルト式無段変速機が備える各転がり軸受の構造を示す断面図である。
【図3】試験軸受にミンドリンスリップを発生させる方法を説明する断面図である。
【図4】試験軸受の性能を評価する試験装置の構造を示す斜視図である。
【図5】試験軸受に発生したミンドリンスリップの深さを示すグラフである。
【図6】試験軸受に作用する最大接触面圧を示すグラフである。
【図7】試験軸受の軌道輪に発生したミンドリンスリップの深さを示すグラフである。
【図8】試験軸受の転動体に発生したミンドリンスリップの深さを示すグラフである。
【図9】使用時におけるラジアル方向隙間とミンドリンスリップの深さとの関係を示すグラフである。
【図10】使用時におけるラジアル方向隙間と試験軸受に作用する最大接触面圧を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図1は、このベルト式無段変速機の基本構造を略示した説明図である。また、図2は、無段変速のためのプ-リを回転自在に支持するための各転がり軸受の構造を示す断面図である。
図1に示すように、このベルト式無段変速機は、固定部である変速機ケース(不図示)の内側に、無段変速のためのプーリ12,15を回転自在に支持する回転部30を有している。この回転部30は、互いに平行に配置された入力側回転軸1と出力側回転軸2とを有する。各回転軸1、2は、変速機ケース内に、それぞれ1対ずつの転がり軸受3A,3B,3C,3Dを介して回転自在に支持されている。
【0022】
図2に示すように、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dは、互いに同心に設けられた外輪4と内輪5とをそれぞれ有する。このうちの外輪4は内周面に外輪軌道6を、内輪5は外周面に内輪軌道7を、それぞれ軌道面として有する。そして、外輪軌道6と内輪軌道7との間には、複数の転動体8、8が、保持器9により保持された状態で転動自在に介装されている。
そして、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dの外輪4は、変速機ケースの一部に内嵌支持され、内輪5は入力側回転軸1または出力側回転軸2に外嵌支持されている。よって、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dは、これら両回転軸1、2を上記変速機ケースの内側に回転自在に支持している。
【0023】
ここで、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dは、本実施形態の例では、深溝玉軸受(呼び番号6210)である。そして、その外輪軌道6、内輪軌道7及び複数の転動体8、8の表面が窒化処理もしくは浸炭窒化処理されており、その表面の窒素濃度が0.2質量%以上2.0質量%以下である。さらに、その外輪軌道6、内輪軌道7及び転動体8、8表面の硬さがHRc60以上で、且つ、外輪軌道6及び内輪軌道7よりも転動体8、8の表面の硬さがHRcで1以上硬くなっている。
【0024】
また、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dは、その使用時に、その外輪軌道6と内輪軌道7と転動体8、8との最大接触面圧が2500MPa以下になるように組み込まれている。さらに、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dは、その使用時におけるラジアル方向隙間が-20μm以上10μm以下になっている。なお、本実施形態の例では、深溝玉軸受(呼び番号6210)の外輪4及び内輪5の外輪軌道6と内輪軌道7の溝曲率半径は、転動体8、8の直径の50%超過52%以下である。
【0025】
そして、図1に示すように、このベルト式無段変速機は、両回転軸1、2のうちの入力側回転軸1が、エンジン等の駆動源10により、発進クラッチ11(例えば電磁クラッチ)を介して回転駆動されるようになっている。なお、発進クラッチ11の代わりにトルクコンバータを用いてもよい。また、入力側回転軸1には、その中間部で1対の転がり軸受3A,3Bの間に位置する部分に、駆動側プーリ12が配設されており、この駆動側プーリ12と入力側回転軸1とが同期して回転するようになっている。この駆動側プーリ12を構成する一対の駆動側プーリ板13a、13b同士の間隔は、駆動側アクチュエータ14で一方(図1の左方)の駆動側プーリ板13aを軸方向に変位させることにより調節自在である。すなわち、駆動側プーリ12の溝幅は、駆動側アクチュエータ14により拡縮自在である。
【0026】
また、出力側回転軸2には、その中間部で一対の転がり軸受3C,3Dの間に位置する部分に、従動側プーリ15が配設されており、この従動側プーリ15と出力側回転軸2とが同期して回転するようになっている。この従動側プーリ15を構成する1対の従動側プーリ板16a、16b同士の間隔は、従動側アクチュエータ17で一方(図1の右方)の従動側プーリ板16aを軸方向に変位させることにより調節自在である。すなわち、従動側プーリ15の溝幅は、従動側アクチュエータ17により拡縮自在である。そして、この従動側プーリ15と駆動側プーリ12とに、無端ベルト18を掛け渡している。なお、この無端ベルト18としては、金属製のものを使用している。
【0027】
次に、このベルト式無段変速機の動作、およびその作用・効果について説明する。
上述の構成を有するベルト式無段変速機では、駆動源10から発進クラッチ11を介して入力側回転軸1に伝達された動力は、駆動側プーリ12から無端ベルト18を介して、従動側プーリ15に伝達される。そして、従動側プーリ15に伝達された動力は、出力側回転軸2から減速歯車列19、デファレンシャルギヤ20を介して駆動輪21、21に伝達される(図1を参照)。
【0028】
入力側回転軸1と出力側回転軸2との間の変速比を変える場合には、両プーリ12、15の溝幅を互いに関連させつつ拡縮する。例えば、入力側回転軸1と出力側回転軸2との間の減速比を大きくする場合には、駆動側プーリ12の溝幅を大きくすると共に、従動側プーリ15の溝幅を小さくする。この結果、無端ベルト18の一部でこれら両プーリ12、15に掛け渡された部分の径が、駆動側プーリ12部分で小さく、従動側プーリ15部分で大きくなるため、入力側回転軸1と出力側回転軸2との間で減速が行なわれる。
【0029】
反対に、入力側回転軸1と出力側回転軸2との間の増速比を大きく(減速比を小さく)する場合には、駆動側プーリ12の溝幅を小さくすると共に、従動側プーリ15の溝幅を大きくする。この結果、無端ベルト18の一部でこれら両プーリ12、15に掛け渡された部分の径が、駆動側プーリ12部分で大きく、従動側プーリ15部分で小さくなるため、入力側回転軸1と出力側回転軸2との間で増速が行なわれる。
【0030】
なお、このベルト式無段変速機の運転時には、各可動部に潤滑油を供給して、各可動部を潤滑する。ベルト式無段変速機の場合に使用する潤滑油としては、CVTフルード(ATF(Automatic Transmission Fluid)兼用油)を使用している。この理由は、金属製の無端ベルト18と駆動側、従動側両プーリ12、15との摩擦係合部の摩擦係数を増大し且つ安定させるためである。そして、このCVTフルードを300mL/min以上の流量で上記摩擦部に循環させて、この摩擦部を潤滑している。また、CVTフルードの一部は、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dの内部を(例えば20mL/min以上の流量で)通過して、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dの転がり接触部を潤滑する。
【0031】
ここで、このベルト式無段変速機は、その使用時における各転がり軸受3A,3B,3C,3Dの外輪軌道6と内輪軌道7と転動体8、8との最大接触面圧を2500MPa以下としたので、ミンドリンスリップが発生したとしても、その後の回転による損傷の拡大を防ぐことが可能となっている。本発明者らは、ベルト式無段変速機において、転動体にミンドリンスリップのような表面損傷が発生しても、その後の回転による損傷を効果的に防止することができる最大接触面圧が2500MPa以下であることを見出した。つまり、使用時の外輪軌道6と内輪軌道7と転動体8、8との最大接触面圧を2500MPa以下とすれば、損傷した面を転動体8、8が高面圧で転動することがないため、損傷の拡大を低減することができる。
【0032】
また、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dは、その外輪軌道6と内輪軌道7と転動体8、8の表面硬さをHRc60以上とし、転動体8、8の表面硬さを外輪軌道6と内輪軌道7の表面硬さよりもHRcで1以上硬くしたので、ミンドリンスリップによる表面損傷を効果的に低減させることができる。
さらに、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dは、その外輪軌道6、内輪軌道7及び転動体8、8の表面が、窒化処理もしくは浸炭窒化処理されて、その表面の窒素濃度が0.2質量%以上2.0質量%以下とされているので、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dを構成する鋼製部材間のミンドリンスリップの発生を顕著に低減させることができる。
【0033】
さらに、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dは、その使用時におけるラジアル方向隙間を-20μm以上10μm以下としたので、剛性が向上し、アキシアル方向への振動によるミンドリンスリップの発生を防止することが可能である。
以上説明したように、本発明に係るベルト式無段変速機のプーリ支持構造、およびベルト式無段変速機によれば、ミンドリンスリップ自体の発生を抑制し、仮にミンドリンスリップが発生した場合でも、その影響を効果的に低減させることができる。
【0034】
なお、本発明に係るベルト式無段変速機のプーリ支持構造、およびベルト式無段変速機は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dの使用時におけるラジアル方向隙間を-20μm以上10μm以下とした例で説明した。しかし、本発明はこれに限定されず、例えば、各転がり軸受3A,3B,3C,3Dの使用時におけるラジアル方向隙間を、-20μm以上0μm以下としてもよい。そうすれば、アキシアル方向への振動によるミンドリンスリップの発生を、より防止することができる。
【実施例1】
【0035】
転動体の表面の窒素濃度、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径などが異なる9種の試験軸受を用意して、ミンドリンスリップを抑制する性能について評価した。
まず、各試験軸受の仕様について説明する。なお、これら9種の試験軸受の内輪、外輪、及び転動体は、いずれも高炭素クロム軸受鋼二種(JIS規格SUJ2)で構成されている。
【0036】
試験軸受1は、呼び番号6210の玉軸受である。その内輪、外輪、及び転動体には、熱処理として通常の光輝焼入れ及び焼戻しが施されており、内輪、外輪の軌道面及び転動体の表面の窒素濃度は0質量%である。また、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径は、それぞれ転動体の直径の50.5%及び53%となっていて、これにより試験軸受1の最大接触面圧が調整されている。
【0037】
試験軸受2は、呼び番号6210の玉軸受である。その内輪、外輪、及び転動体には、熱処理として浸炭窒化処理、油焼入れ、及び焼戻しが施されており、内輪、外輪の軌道面及び転動体の表面の窒素濃度は0.1質量%とされている。また、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径は、それぞれ転動体の直径の50.5%及び53%となっていて、これにより試験軸受2の最大接触面圧が調整されている。
【0038】
試験軸受3は、試験軸受2と同様の仕様の玉軸受である。ただし、浸炭窒化処理の条件が異なり、転動体の表面の窒素濃度は0.2質量%とされている。
試験軸受4は、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径がそれぞれ転動体の直径の50.5%及び52%である点を除いては、試験軸受3と同様の仕様の玉軸受である(転動体の直径は試験軸受3と同一である)。
試験軸受5は、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径がそれぞれ転動体の直径の50.5%及び51.8%である点を除いては、試験軸受3と同様の仕様の玉軸受である(転動体の直径は試験軸受3と同一である)。
【0039】
試験軸受6は、転動体の直径が試験軸受1の場合の1.06倍である点と、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径がそれぞれ転動体の直径の50.5%及び52%である点とを除いては、試験軸受1と同様の仕様の玉軸受である。
試験軸受7は、転動体の直径が試験軸受2の場合の1.06倍である点と、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径がそれぞれ転動体の直径の50.5%及び52%である点とを除いては、試験軸受2と同様の仕様の玉軸受である。
試験軸受8は、転動体の直径が試験軸受3の場合の1.06倍である点と、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径がそれぞれ転動体の直径の50.5%及び52%である点とを除いては、試験軸受3と同様の仕様の玉軸受である。
【0040】
試験軸受9は、呼び番号6212の玉軸受である。その内輪、外輪、及び転動体には、熱処理として浸炭窒化処理、油焼入れ、及び焼戻しが施されており、転動体の表面の窒素濃度は0.2質量%とされている。また、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径は、それぞれ転動体の直径の50.5%及び52%となっていて、これにより試験軸受9の最大接触面圧が調整されている。
【0041】
これら9種の試験軸受1?9に振幅荷重を付与して、内輪及び外輪の軌道面にミンドリンスリップを発生させた。すなわち、図3に示すように、2個の試験軸受Bでシャフトの両端を支持し、該シャフトの外周面に直径10mmの鋼球を載置した。そして、図示しないサーボパルサーを使用して、強度が12000Nから15000Nの間で周期的に変化するラジアル方向の振幅荷重Fを、鋼球に100万サイクル付与した。なお、振幅荷重Fの周波数は50Hzである。そして、上記のようにして内輪及び外輪の軌道面に発生させたミンドリンスリップの深さ(摩耗量)を測定した。
【0042】
次に、上記のようにしてミンドリンスリップを発生させた試験軸受1?9の性能を評価した。性能の評価には、ベルト式無断変速機から無端ベルト及びプーリ支持部分を取り出して作製した、図4に示す試験装置を用いた。この試験装置の構造は、図1のベルト式無断変速機のプーリ支持部分と同様であるので、その説明は省略する。なお、図4においては、図1と同一又は相当する部分には、図1と同一の符号を付してある。
【0043】
図4の試験装置に上記試験軸受を組み込んだ。すなわち、図4の試験装置において入力側回転軸1を支持する転がり軸受3Aとして、上記試験軸受を用いた。そして、トルク300Nmまで出力できるダイナモを駆動源として使用して、この試験装置を運転した。その際には、プーリ比を0.5?2.0の間で変化させることにより、入力側回転軸1と出力側回転軸2との間の変速比を、加速時2000rpm/sec、減速時500rpm/secで繰り返し変化させつつ運転を行った。
まず、試験軸受1?9の軌道面に発生させたミンドリンスリップの深さを表1及び図5に示し、前記試験装置の運転時に各試験軸受1?9に作用する最大接触面圧を表1及び図6に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1及び図5,6から、試験軸受1?4においては、転動体の表面の窒素濃度が高いほど、ミンドリンスリップの深さが小さいことが分かる。また、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径が小さいほど、ミンドリンスリップの深さが小さいことが分かる。しかしながら、最大接触面圧が2500MPaを超えているため、試験軸受1?3は、運転時間が各試験軸受の定格理論寿命に到達する以前に破損した。また、試験軸受4は、定格理論寿命まで運転ができたものの、運転終了後の分解調査にて外輪の軌道面に微小な剥離が認められた。
【0046】
そこで、試験軸受4の軌道面の溝曲率半径を変更することにより、最大接触面圧を2500MPaに調整した試験軸受5の試験を実施したところ、運転時間が定格理論寿命に到達し、しかも軌道面や転動体の表面などに剥離は認められず、さらに継続運転可能な状態であった。
しかしながら、試験軸受6は、最大接触面圧が2500MPa以下であるものの、転動体の表面の窒素濃度が0質量%であるため、運転時間が定格理論寿命に到達する以前に破損した。また、試験軸受7は、最大接触面圧が2500MPa以下であり、定格理論寿命まで運転ができたものの、転動体の表面の窒素濃度が0.1質量%と不十分であるため、運転終了後の分解調査にて外輪の軌道面と転動体の表面に微小な剥離が認められた。
【0047】
これに対して、試験軸受8は、転動体の表面の窒素濃度が0.2質量%であるため、ミンドリンスリップの深さが試験軸受6,7よりも小さいことが分かる。そして、運転時間が定格理論寿命に到達し、しかも転動体の表面などに剥離は認められず、さらに継続運転可能な状態であった。
この結果は、試験軸受8の最大接触面圧は試験軸受6,7と同レベルであるが、転動体の表面の窒素濃度を0.2質量%とすることにより、ミンドリンスリップの影響を抑制可能であることを示している。
【0048】
したがって、ミンドリンスリップの深さが大きいと、損傷を受けた転動体と内輪、外輪の軌道面との接触によって接線力の影響が大きくなり、それが軸受寿命に大きな影響を及ぼしていると考えられる。そこで、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径を小さくすることによって荷重変動時の接触楕円径の変化率を低減するとともに、浸炭窒化処理もしくは窒化処理を施すことによって鋼製部材間のミンドリンスリップの影響を抑制して、転動体と軌道面の損傷を小さくすることにより、軸受寿命の向上を図ることが可能となる。
【0049】
上記のように、転動体の表面の窒素濃度がミンドリンスリップの低減に効果を発揮することは確認されたが、窒素濃度が高くなり過ぎると靭性が低下することも知られている。よって、ストール等の衝撃荷重も受けるトランスミッションに使用される転がり軸受においては、靭性低下の影響を考慮に入れておく必要がある。
靭性低下の影響については、前述の特許文献4(日本国特許公開公報 2009年第41744号)に開示されている「表面窒素濃度と吸収エネルギーの関係」から、窒素濃度が高くなるにつれて靭性の影響により転動体の衝撃強度が低下すると考えられる。そして、窒素濃度が2.0質量%を超えると、急激に衝撃強度が低下すると考えられる。したがって、ベルト式無段変速機のプーリ支持構造に組み込まれる転がり軸受の転動体の表面の窒素濃度は、0.2質量%以上であることが必要であるが、上記の公知文献から2.0質量%以下にする必要がある。
【0050】
上記の条件を満たした上で、さらに転動体の直径を大きくして最大接触面圧を2500MPa以下とすることにより、ミンドリンスリップが仮に発生しても転動体と内輪、外輪の軌道面の損傷を効果的に低減させることが可能である。その結果、ベルト式無断変速機のプーリ支持構造に組み込まれる転がり軸受の早期剥離を防止することができる。
【実施例2】
【0051】
実施例1では、転動体の表面硬さを内輪、外輪の軌道面の硬さと同等としているので、実施例2では、これらの硬さの相違による影響を確認する試験を行った。試験軸受5において転動体の表面硬さと内輪、外輪の軌道面の硬さとを種々変更した試験軸受を用意して、実施例1と同様の性能評価を行った。
該試験に使用した試験軸受5A?5Lの内輪、外輪の軌道面の硬さは、HRc58.0、59.0、60.0、又は61.0である。また、転動体の表面硬さは、HRcで前記軌道面の硬さの-1、同一、又は+1である(表2を参照)。
【0052】
【表2】

【0053】
これらの試験軸受5A?5Lについて、実施例1と同様にしてミンドリンスリップの深さを測定した。試験軸受5A?5Lの軌道面に発生させたミンドリンスリップの深さを、表2及び図7に示し、試験軸受5A?5Lの転動体の表面に発生させたミンドリンスリップの深さを、表2及び図8に示す。また、実施例1と同様にして、図4に示す試験装置を用いて試験軸受5A?5Lの性能の評価を行った。結果を表2に示す。
【0054】
表2及び図7、8から、軌道面及び転動体の表面の硬さが高いほど、ミンドリンスリップの深さが小さくなることがわかる。しかしながら、軌道面の硬さ又は転動体の表面の硬さがHRc60未満の試験軸受5A?5Gと、軌道面の硬さ及び転動体の表面の硬さがHRc60以上であっても転動体の表面の硬さが軌道面の硬さ以下である試験軸受5H,5J,5Kとは、各試験軸受の定格理論寿命まで運転ができたものの、運転終了後の分解調査にて外輪の軌道面に剥離や微小な損傷が認められた。これは、軌道面や転動体の表面がミンドリンスリップによる影響を受けたことにより、軸受寿命に影響が出たことが考えられる。
【0055】
特に転動体の場合は、ミンドリンスリップによる損傷を受けると、その後の回転による損傷の拡大度合いが内輪、外輪に比べて大きくなりやすい。また、転動体の表面が損傷することにより軌道面との接触面にて接線力が増大し、外輪、内輪の軌道面の寿命に大きな影響を及ぼすことになる。
一方、軌道面の硬さ及び転動体の表面の硬さがHRc60以上で、且つ、転動体の表面の硬さが軌道面の硬さよりもHRcで1以上硬い試験軸受5I,5Lは、運転時間が定格理論寿命に到達し、しかも転動体の表面などに剥離は認められず、さらに継続運転可能な状態であった。
【0056】
これらの結果から分かるように、転動体の表面の硬さを軌道面の硬さよりもHRcで1以上硬くすることにより、ミンドリンスリップが発生しても転動体の表面の損傷を小さくでき、しかも接線力の影響を抑止することができるので、転がり軸受の軌道面の寿命を向上させることが可能となる。よって、ベルト式無段変速機のプーリ支持構造に組み込まれる転がり軸受の転動体の表面の硬さは、内輪、外輪の軌道面の硬さよりもHRcで1以上硬くして、転動体の損傷を小さくすることが必要となる。
【実施例3】
【0057】
実施例1、2では、内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径の作用と硬さをみるために、図4の試験装置に組み込まれた試験軸受1?9、5A?5Lのラジアル方向隙間を+5μmに設定した。実施例3では、ラジアル方向隙間による影響を確認するために、下記の試験軸受を用意して、実施例1、2と同様の性能評価を行った。
実施例2で使用した試験軸受5Iにおいて、使用時におけるラジアル方向隙間が所定値となるように、軸受の寸法を調節した9種類の試験軸受11?19を用意した。これらの試験軸受11?19は、ラジアル方向隙間のみが異なるもので、溝曲率半径、熱処理条件、硬さ等の他の仕様は全て同一である。
【0058】
【表3】

【0059】
これらの試験軸受11?19について、実施例1と同様にしてミンドリンスリップの深さを測定した。また、実施例1と同様にして、図4に示す試験装置を用いて試験軸受11?19の性能の評価を行った。試験軸受11?19の軌道面に発生させたミンドリンスリップの深さを表3及び図9に示し、前記試験装置の運転時に各試験軸受11?19に作用する最大接触面圧を表3及び図10に示す。
【0060】
図9に示すように、ラジアル方向隙間が大きいほど、ミンドリンスリップの深さは大きくなり、負隙間に向かうほど、ミンドリンスリップの深さは小さいことがわかる。実際に図4の試験装置にて評価したところ、ラジアル方向隙間が+10μm以上の場合は試験軸受が破損した。
しかしながら、図4の試験装置においては、ベルト張力のみによるラジアル方向の負荷のみが試験軸受に作用するが、実際のベルト式無段変速機のプーリ支持軸受においては、転がり軸受にアキシアル荷重が負荷される場合もある。よって、最大接触面圧が図4の試験装置の荷重条件と同じになるように、試験軸受に予めアキシアル荷重(予圧)を負荷させた場合についても、同様に性能評価を行った。
【0061】
図10に示すように、アキシアル荷重が負荷される条件下では、ミンドリンスリップの深さが小さくなる負隙間側でも、負隙間が小さすぎると最大接触面圧が上昇することがわかる。そして、ラジアル方向隙間が-30μm以下の場合は、最大接触面圧が2500MPaを超えるため、各試験軸受の定格理論寿命まで運転ができたものの、運転終了後の分解調査にて外輪の軌道面に剥離や微小な損傷が認められた。
【0062】
このように、転がり軸受のラジアル方向隙間を負隙間に設定することにより、アキシアル方向の振動を低減させ、ミンドリンスリップを更に低減させることは可能となるが、アキシアル荷重が負荷される部位においては、逆に最大接触面圧が上昇する。そして、最大接触面圧が2500MPaを超えると、軸受寿命に影響を及ぼすことになる。
そのため、ベルト式無段変速機のプーリ支持構造に組み込まれる転がり軸受においては、アキシアル荷重が負荷される場合も想定して、ミンドリンスリップの影響の低減と最大接触面圧の上昇の両方を考慮することが好ましい。すなわち、図10から分かるように、ラジアル方向隙間は-20μm以上10μm以下とすることが好ましく、試験軸受に破損が認められない-20μm以上0μm以下とすることがより好ましい。
【符号の説明】
【0063】
1、2 回転軸
3A?3D 転がり軸受
4 外輪
5 内輪
6 外輪軌道(軌道面)
7 内輪軌道(軌道面)
8 転動体
9 保持器
10 駆動源
11 発進クラッチ
12 駆動側プーリ(プーリ)
15 従動側プーリ(プーリ)
30 回転部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、無段変速のためのプーリを前記固定部に対して回転自在に支持する回転部と、を有するベルト式無段変速機のプーリ支持構造において、
前記回転部は、互いに平行に配置された入力側回転軸と出力側回転軸とを有し、前記入力側回転軸は、前記固定部に対して一対の転がり軸受を介して回転自在に支持されるとともに、当該一対の転がり軸受の間に位置する部分に、自身と同期して回転するとともに溝幅を拡縮自在な駆動側プーリが前記プーリとして配設され、前記出力側回転軸は、前記固定部に対して別の一対の転がり軸受を介して回転自在に支持されるとともに、当該別の一対の転がり軸受の間に位置する部分に、自身と同期して回転するとともに溝幅を拡縮自在な従動側プーリが前記プーリとして配設されており、前記駆動側プーリと前記従動側プーリとには無端ベルトが掛け渡されていて、
前記各転がり軸受は、互いに同心に設けられた外輪と内輪とをそれぞれ有し、前記外輪がその内周面に外輪軌道を、前記内輪がその外周面に内輪軌道をそれぞれ軌道面として有し、該軌道面間に複数の転動体が転動自在に介装され、その使用時の前記内輪及び前記外輪の軌道面と前記転動体との最大接触面圧が2500MPa以下であり、
さらに、前記軌道面及び前記転動体表面の硬さがHRc60以上且つ前記軌道面よりも前記転動体表面の硬さがHRcで1以上硬くなっており、
さらに、少なくとも前記転動体の表面が窒化処理もしくは浸炭窒化処理されて、その表面の窒素濃度が0.2質量%以上2.0質量%以下であり、
さらに、その使用時におけるラジアル方向隙間が-20μm以上10μm以下であり、
さらに、前記各転がり軸受が玉軸受であり、その内輪及び外輪の軌道面の溝曲率半径が、前記転動体の直径の50%超過52%以下であり、
さらに、停止時の前記各転がり軸受は、アキシアル方向の荷重を受け且つアキシアル方向に微小振動することを特徴とするベルト式無段変速機のプーリ支持構造。
【請求項2】
前記各転がり軸受は、前記使用時におけるラジアル方向隙間が-20μm以上0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機のプーリ支持構造。
【請求項3】
前記各転がり軸受は、前記使用時におけるラジアル方向隙間が-20μm以上-3μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機のプーリ支持構造。
【請求項4】
前記軌道面よりも前記転動体表面の硬さがHRcで1以上8以下硬くなっていることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載のベルト式無段変速機のプーリ支持構造。
【請求項5】
固定部と、無段変速のためのプーリを前記固定部に対して回転自在に支持する回転部と、を有するベルト式無段変速機であって、
前記無段変速のためのプーリのプーリ支持構造として、請求項1?4のいずれか一項に記載のベルト式無段変速機のプーリ支持構造を備えていることを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項6】
前記無端ベルトが金属製であることを特徴とする請求項5に記載のベルト式無段変速機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-02-26 
結審通知日 2018-03-01 
審決日 2018-03-13 
出願番号 特願2010-544195(P2010-544195)
審決分類 P 1 41・ 855- Y (F16H)
P 1 41・ 854- Y (F16H)
P 1 41・ 856- Y (F16H)
P 1 41・ 851- Y (F16H)
P 1 41・ 853- Y (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 河端 賢  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
滝谷 亮一
登録日 2013-12-06 
登録番号 特許第5423687号(P5423687)
発明の名称 ベルト式無段変速機のプーリ支持構造、およびベルト式無段変速機  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  
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