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審決分類 |
審判 訂正 発明同一 訂正する H01S 審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正する H01S 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する H01S |
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管理番号 | 1339375 |
審判番号 | 訂正2018-390019 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2018-01-30 |
確定日 | 2018-03-27 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第4883536号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4883536号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項8及び9について訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判の請求に係る特許第4883536号は、平成15年9月29日に出願した特願2003-336765号(以下「原出願」という。)の一部を平成20年11月6日に新たな特許出願としたものであり、以後の主な手続は以下のとおりである。 平成20年12月 5日:出願審査請求 平成22年 2月 5日:手続補正書・上申書の提出 平成23年10月26日:特許査定(11月1日送達) 同年12月16日:設定登録 平成24年 2月22日:特許掲載公報発行 平成30年 1月30日:本件訂正審判の請求 第2 訂正の適否 1 訂正の要旨 平成30年1月30日付けの訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。)は、特許第4883536号の特許請求の範囲を本件訂正審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項8及び9について訂正することを認める、との審決を求めるものである。 2 訂正の内容(下線は、当審で付した。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子に融着層を介して配置された放熱部材とを備えた、半導体レーザ装置。」と記載されているうちの、請求項1の記載を直接引用する部分を、 「第1導電型の第1クラッド層と、 前記第1クラッド層上に形成された活性層と、 前記活性層上に形成され、平坦部と、前記平坦部から突出するように形成されたリッジ部を構成する凸部とを有する第2導電型の第2クラッド層と、 前記第2クラッド層の平坦部上における前記凸部近傍に形成されると共に、前記第2クラッド層の平坦部上において前記凸部から離れた部分にまで延在して形成される第1電流ブロック層と、 前記第2クラッド層の前記平坦部上における前記凸部近傍には形成されず、前記凸部から離れた部分において、前記第1電流ブロック層の上面に接して形成された第2電流ブロック層と、 前記第1電流ブロック層および前記第2電流ブロック層の上に形成され、前記第2クラッド層の前記凸部に電気的に接続するように形成されたp側パット電極である金属層とを備え、 p側電極が前記リッジ部の上部に形成されるが前記リッジ部の側面に形成されず、 前記凸部の側面上の前記金属層の表面が、順テーパ形状である、半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子に融着層を介して配置された放熱部材とを備えた、半導体レーザ装置。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子に融着層を介して配置された放熱部材とを備えた、半導体レーザ装置。」と記載されているのを、 「請求項2?7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子に融着層を介して配置された放熱部材とを備えた、半導体レーザ装置。」に訂正し、これを新たに請求項9とする。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項について (1)訂正事項1 ア 訂正事項1は、 (ア)訂正前の請求項8のうち、請求項1の記載を直接引用する部分を独立形式の請求項8として書き直し、 (イ)「第2電流ブロック」は、「凸部近傍には形成されず」、かつ「第1電流ブロック層の上面に接して形成された」ものであると限定し、 (ウ)「金属層」が「p側パット電極である金属層」であると限定し、 (エ)「p側電極が前記リッジ部の上部に形成されるが前記リッジ部の側面に形成されず、」とp側電極の位置を限定するものであるから、 特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第126条第6項の規定に適合する。 イ(ア)願書に添付した明細書及び図面には、「第2実施形態による半導体レーザ装置(青紫色LD)」に関して、以下の記載がある。 「【0051】 この後、ヒートシンク13をステム(図示せず)に取り付けた後、ワイヤボンドを行うとともに、キャップ封入を行うようにしてもよい。 (第2実施形態) 図8は、本発明の第2実施形態による半導体レーザ装置(青紫色LD)を示した断面図であり、図9は、図8に示した第2実施形態による半導体レーザ装置の活性層部分の詳細を示した断面図である。図8および図9を参照して、この第2実施形態では、窒化物系半導体を用いた400nm帯の半導体レーザ素子および半導体レーザ装置(青紫色LD)に本発明を適用した場合について説明する。 【0052】 …… 【0054】 MQW活性層25上には、図8に示すように、約20nmの厚みを有するアンドープAl_(0.3)Ga_(0.7)Nからなる保護層26が形成されている。保護層26上には、約0.1μmの厚みを有するアンドープGaNからなるp側光ガイド層27が形成されている。p側光ガイド層27上には、約0.1μmの厚みを有する平坦部と、平坦部の中央部付近に、約1.5μmの幅と約0.4μmの高さとを有するストライプ状の凸部とを有するp型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nからなるp型クラッド層28が形成されている。なお、p型クラッド層28は、本発明の『第2クラッド層』の一例である。p型クラッド層28の凸部上には、約10nmの厚みを有するアンドープIn_(0.05)Ga_(0.95)Nからなるp側コンタクト層29が形成されている。p型クラッド層28の凸部と、p側コンタクト層29とによって、電流注入領域となるリッジ部が形成されている。このリッジ部の側面は、順テーパ形状に形成されている。 【0055】 p側コンタクト層29上には、p側コンタクト層29側から、約1nmの厚みを有するPd層、約10nmの厚みを有するPt層および約0.2μmの厚みを有するAu層からなるp側電極30が形成されている。また、p型クラッド層28の平坦部上と、リッジ部およびp側電極30の側面上とに、約0.1μmの厚みを有するSiO_(2)膜からなる第1電流ブロック層31が形成されている。また、リッジ部側面より約10μm離れた部分から外側の部分には、第1電流ブロック層31上に、約0.5μmの厚みを有するSiO_(2)膜からなる第2電流ブロック層32が形成されている。この第2電流ブロック層32の側面は、順テーパ形状に形成されている。なお、第1電流ブロック層31および第2電流ブロック層32は、本発明の『電流ブロック層』の一例である。 【0056】 このように、第2実施形態では、リッジ部近傍(第1部分)に、厚みの小さいSiO_(2)膜からなる第1電流ブロック層31のみが形成されているとともに、リッジ部近傍以外の部分(第2部分)のp型クラッド層28の平坦部上には、厚みの小さいSiO_(2)膜からなる第1電流ブロック層31と厚みの大きいSiO_(2)膜からなる第2電流ブロック層32との積層膜が形成されている。また、リッジ部の両側に位置する第1電流ブロック層31のみが形成されている第1部分の各々の幅は、リッジ部(p型クラッド層28の凸部)の底部の幅よりも大きくなるように形成されている。また、リッジ部の両側に位置する第1電流ブロック層31のみが形成されている第1部分の各々の幅の合計幅は、第1電流ブロック層31および第2電流ブロック層32が積層された第2部分の合計幅よりも小さくなるように形成されている。 【0057】 ここで、第2実施形態では、第1電流ブロック層31および第2電流ブロック層32が積層された部分の厚み(約0.6μm)が、リッジ部の高さ(約0.4μm)とp側電極30の厚み(約0.2μm)とを合計した高さ(約0.6μm)とほぼ同じ厚みになるように形成されている。したがって、第2電流ブロック層32の上面の高さと、リッジ部上のp側電極30の上面の高さとは、ほぼ等しい。 【0058】 また、p側電極30、第1電流ブロック層31および第2電流ブロック層32上には、下層から上層に向かって、約0.1μmの厚みを有するTi層と約0.5μmのAu層とからなるp側パッド電極33が形成されている。p側パッド電極33上には、AuSn(Sn30%)半田からなる融着層34を介して、ダイヤモンドからなるヒートシンク35が装着されている。なお、ヒートシンク35は、本発明の「放熱部材」の一例である。また、n型GaN基板21の裏面上には、基板側から、約5nmの厚みを有するAl層、約10nmの厚みを有するPt層および約0.3μmの厚みを有するAu層からなるn側電極36が形成されている。なお、第2実施形態における素子の幅は、約200μmであり、奥行きは、約600μmである。」 「【符号の説明】 【0080】 3、23 n型クラッド層(第1クラッド層) 5、25 MQW活性層(活性層) 7、28 p型クラッド層(第2クラッド層) 9、31 第1電流ブロック層(電流ブロック層) 10、32 第2電流ブロック層(電流ブロック層) 11 p側電極 12、34 融着層 13、35 ヒートシンク(放熱部材) 30 p側電極 33 p側パッド電極 」 「図8 」 (イ)上記記載を踏まえて、図8を見ると、以下のことが理解できる。 a 「第2電流ブロック層」は、 「符合32で示されたSiO_(2)膜からなる層」であり、第2クラッド層28の平坦部上のリッジ部(凸部)近傍には形成されておらず、リッジ部(凸部)から離された部分において、第1電流ブロック層31の上面に接するように形成されていること。 b 「p側パット電極である金属層」は、 「符合33で示された金属層」であり、第1電流ブロック層31及び第2電流ブロック層32の上に形成され、第2クラッド層28のリッジ部(凸部)の上部に形成されたp側電極30に電気的に接続するように形成されていること。 c 「p側電極」は、 「符合30で示された電極」であり、リッジ部(凸部)の上部に形成され、リッジ部(凸部)の側面には形成されていないこと。 (ウ)してみると、訂正事項1の、 a 「第2電流ブロック」は、「凸部近傍には形成されず」、かつ「第1電流ブロック層の上面に接して形成された」ものであること、 b 「金属層」が「p側パット電極である金属層」であること、 c 「p側電極が前記リッジ部の上部に形成されるが前記リッジ部の側面に形成されず、」は、 願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてなされるものであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 訂正事項1により、請求項1の記載を直接引用する請求項8を訂正後の請求項8としたことに伴い、残りの訂正前の請求項2ないし7を引用する請求項8を訂正後の請求項9として書き直すものであるから、特許法第126条第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする」ことを目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第126条第6項の規定に適合する。 また、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてなされるものであることは明らかであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)一群の請求項 訂正前の請求項1ないし請求項8は、請求項1の記載を引用するものであり、訂正前において「一群の請求項」に該当するものであるから、本件訂正は、一群の請求項ごとになされたものであって、特許法第126条第3項の規定に適合する。 4 独立特許要件について 訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、同条第7項の規定に基づき、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて、以下に検討する。 (1)訂正後の発明 本件訂正後の請求項8に係る発明は、以下のとおりのものである(以下「本件訂正発明8」という。)。 なお、訂正箇所に下線を付した。 「第1導電型の第1クラッド層と、 前記第1クラッド層上に形成された活性層と、 前記活性層上に形成され、平坦部と、前記平坦部から突出するように形成されたリッジ部を構成する凸部とを有する第2導電型の第2クラッド層と、 前記第2クラッド層の平坦部上における前記凸部近傍に形成されると共に、前記第2クラッド層の平坦部上において前記凸部から離れた部分にまで延在して形成される第1電流ブロック層と、 前記第2クラッド層の前記平坦部上における前記凸部近傍には形成されず、前記凸部から離れた部分において、前記第1電流ブロック層の上面に接して形成された第2電流ブロック層と、 前記第1電流ブロック層および前記第2電流ブロック層の上に形成され、前記第2クラッド層の前記凸部に電気的に接続するように形成されたp側パット電極である金属層とを備え、 p側電極が前記リッジ部の上部に形成されるが前記リッジ部の側面に形成されず、 前記凸部の側面上の前記金属層の表面が、順テーパ形状である、半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子に融着層を介して配置された放熱部材とを備えた、半導体レーザ装置。」に (2)特許法第29条の2についての判断 ア 独立特許要件に関し、請求人は、原出願の出願日(平成15年9月29日)前の出願であって、本件特許出願の出願日後に公開された下記の5件の特許出願を提示している。 甲第1号証:特願2004-43325号 (特開2004-274042号公報) 甲第2号証:特願2004-205260号 (特開2005-45239号公報) 甲第3号証:特願2003-66593号 (特開2004-281431号公報) 甲第4号証:特願2003-66597号 (特開2004-281432号公報) 甲第5号証:特願2003-394474号 (特開2004-101483号公報) 上記特許出願は、何れも、日亜化学工業株式会社によりなされた特許出願であり、「リッジ部を有する半導体レーザ素子」に関する発明が記載されているものと認められる。 イ 甲第1号証 (ア)特願2004-43325号の願書に最初に添付された明細書又は図面には、図とともに、次の事項が記載されている。 「実施の形態5 図5は、本発明の実施の形態5に係る窒化物半導体素子の構成を表すものである。実施の形態5は、実施の形態1と同様に、基板501上に、n型窒化物半導体層502、活性層504、p型窒化物半導体層503が積層され、p型窒化物半導体層にストライプ状のリッジが設けられた半導体レーザ(LD)であって、第1電極505が、リッジ上部のみに形成されているものである。……これらによって第1電極と半導体層とのオーミック接触性や密着性が低下する恐れがあるが、実施の形態5では、そのような問題が生じにくい。」 「【符号の説明】 【0123】 101、201、301、401、501、801・・・基板 102、202、302、402、502、802・・・n型窒化物半導体層 103、203、303、403、503、803・・・p型窒化物半導体層 104、204、304、404、504、804・・・活性層 105、205、305、405、505、705、805・・・第1電極(p側オーミック電極) 605(a)・・・第1電極の上層 605(b)・・・第1電極下層 106、206、306、406、506、706、806・・・第2電極(p側パッド電極) 606(a)・・・第2電極の上層 606(b)・・・第2電極の下層 107、207、307、407、507、807・・・第1電極(n側オーミック電極) 108、208、308、408、508、808・・・第2電極(n側パッド電極) 109、209、309、409、509、609、709・・・第1の絶縁膜 110、210、310、410、510、710・・・第2の絶縁膜 311、411、711・・・密着層 512・・・金属層 613、713、813・・・接合層領域 814・・・絶縁膜 」 「図5 」 (イ)上記(ア)の記載からして、 甲第1号証の図5には、 「基板501上に、n型窒化物半導体層502、活性層504、p型窒化物半導体層503が積層され、p型窒化物半導体層503にストライプ状のリッジが設けられた半導体レーザ」が記載されているものと認められる。 さらに、上記符合の説明を踏まえて、図5を見ると、 「ストライプ状のリッジ」の周囲には、 p型窒化物半導体層503側から順に、第1の絶縁膜509、金属層512及び第2の絶縁膜510が積層されていることが理解できる。 (ウ)当審の判断 甲第1号証に記載された「第1の絶縁膜509」及び「第2の絶縁膜510」は、それぞれ、本件訂正発明8の「第1電流ブロック層」及び「第2電流ブロック層」に相当する。 しかしながら、本件訂正発明8の「第2電流ブロック層」は、「凸部から離れた部分において、第1電流ブロック層の上面に接して形成された」ものであるのに対して、 甲第1号証に記載された「第2の絶縁膜510」は、金属層512上面に形成され、第1の絶縁膜509の上面に接して形成されたものではない。 よって、本件訂正発明8は、甲1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。 ウ 甲第2号証 (ア)特願2004-205260号の願書に最初に添付された明細書又は図面には、図とともに、次の事項が記載されている。 「【0039】 図1は、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体素子の構成を表すものであって、窒化物半導体基板101上に、n型窒化物半導体層102、活性層104、p型窒化物半導体層103が積層され、p型窒化物半導体層にストライプ状のリッジが設けられた窒化物半導体レーザ素子である。リッジは、p型窒化物半導体層の一部をエッチング等の手段により除去することで形成することができ、これにより実効屈折率型の導波路を形成することができる。……また、リッジを有しない利得導波型の導波路としてもよい。 【0040】 リッジの側面及びそのリッジから連続するp型窒化物半導体層の上面にかけて第1の絶縁膜109が形成されている。リッジ上面及び第1の絶縁膜の上面にはp側オーミック電極105が、また、窒化物半導体基板の裏面にはn側電極107が設けられている。また、半導体層の側面を被覆する第2の絶縁膜108が、第1の絶縁膜の上部にまで連続するよう設けられている。p型窒化物半導体層の上部には、第2の絶縁膜及びp側オーミック電極と接するp側パッド電極106が設けられている。」 「【符号の説明】 【0101】 101・・・窒化物半導体基板 102・・・n型窒化物半導体層 103・・・p型窒化物半導体層 104・・・活性層 105・・・p側オーミック電極 106・・・p側パッド電極 107・・・n側電極 108・・・第2の絶縁膜 109・・・第1の絶縁膜 110・・・端面保護膜 111・・・転位束 112・・・低転位密度領域 」 「図1 」 (イ)上記(ア)の記載からして、 甲第2号証の図1には、 「窒化物半導体基板101上に、n型窒化物半導体層102、活性層104、p型窒化物半導体層103が積層され、p型窒化物半導体層103にストライプ状のリッジが設けられた窒化物半導体レーザ素子」が記載されているものと認められる。 さらに、上記符合の説明を踏まえて、図1を見ると、 「ストライプ状のリッジ」の上面及び側面には、p側オーミック電極105が形成されていることが理解できる。 (ウ)当審の判断 甲第2号証に記載された「p側オーミック電極105」は、本件訂正発明8の「p側電極」に相当する。 しかしながら、本件訂正発明8の「p側電極」は、「リッジ部の上部に形成されるが前記リッジ部の側面に形成されない」ものであるのに対して、 甲第2号証に記載された「p側オーミック電極105」は、リッジの上面だけではなく、側面にも形成されたものである。 よって、本件訂正発明8は、甲第2号証に記載された発明と同一であるとはいえない。 エ 甲第3号証 (ア)特願2003-66593号の願書に最初に添付された明細書又は図面には、図とともに、次の事項が記載されている。 「【0057】 実施の形態1 図1は本発明の一実施形態を示す断面図であり、図2はリッジ構造および電極構造の一例を示す部分拡大図である。図3は、本発明に係る製造工程の一例を示す断面図である。基板101上に、n型窒化物半導体層Qn、活性層Qa、p型窒化物半導体層Qpが積層され、p型窒化物半導体層Qpにストライプ状のリッジが設けられた半導体レーザ素子(LD)である。リッジは、p型窒化物半導体層Qpの一部をエッチング等の手段により除去することで形成することができ、これにより実効屈折率型の導波路を形成することができる。……また、このようなリッジを形成した後にリッジ表面に半導体層を再成長させた埋め込み型のレーザ素子であってもよい。」 「【0096】 [実施例6] 実施例6では、図4に示すように、基板101に導電性のGaN基板を用いる。GaN基板101の膜厚は300μmであって、単位面積あたりの結晶欠陥は1×106個/cm2以下である。該GaN基板101の裏面にn側電極130及びn側のパッド電極141を実施例1と同様の条件で形成する。また、他の条件も実施例1と同様とすることで、65mW以上の高出力において発振波長405nmの連続発振可能な半導体レーザ素子を得る。」 「【符号の説明】 101・・・基板、102・・・バッファ層、103・・・下地層、104・・・n型コンタクト層、105・・・クラック防止層、106・・・n型クラッド層、107・・・n型光ガイド層、108・・・活性層、109・・・p型電子閉じ込め層、110・・・p型光ガイド層、111・・・p型クラッド層、112・・・p型コンタクト層、113・・・絶縁膜、114・・・第2の絶縁膜、108・・・活性層、120・・・p側電極、140,141・・・パッド電極 「図4 」 (イ)上記(ア)の記載からして、 甲第3号証の図4には、 「基板101上に、n型窒化物半導体層Qn、活性層Qa、p型窒化物半導体層Qpが積層され、p型窒化物半導体層Qpにストライプ状のリッジが設けられた半導体レーザ素子」が記載されているものと認められる。 さらに、上記符合の説明を踏まえて、図4を見ると、 「ストライプ状のリッジ」の上面及び側面には、p側電極120が形成されていることが理解できる。 (ウ)当審の判断 甲第3号証に記載された「p側電極120」は、本件訂正発明8の「p側電極」に相当する。 しかしながら、本件訂正発明8の「p側電極」は、「リッジ部の上部に形成されるが前記リッジ部の側面に形成されない」ものであるのに対して、 甲第3号証に記載された「p側電極120」は、リッジの上面だけではなく、側面にも形成されたものである。 よって、本件訂正発明8は、甲第3号証に記載された発明と同一であるとはいえない。 オ 甲第4号証 (ア)特願2003-66597号の願書に最初に添付された明細書又は図面には、図とともに、次の事項が記載されている。 。 「【0056】 実施の形態2 図6は、本発明の他の実施形態を示す断面図である。本実施形態は、実施の形態1と同様に、基板101上に、n型窒化物半導体層Qn、活性層Qa、p型窒化物半導体層Qpが積層され、p型窒化物半導体層Qpにストライプ状のリッジが設けられた半導体レーザ(LD)であって、p側電極120が、リッジ上部のみに形成されているものである。幅の小さいLDのリッジ上幅と、ほぼ同一幅のp側電極120を形成するには、平坦なウエハ上に所望のリッジ幅のp側電極120を形成し、そのp側電極120をマスクとして半導体層Qpをエッチングすることで、リッジ上部に、リッジと同一幅のp側電極120が形成される。……れらによってp側電極120と半導体層Qpとのオーミック接触性や密着性が低下する恐れがあるが、本実施形態では、そのような問題が生じにくい。」 「【符号の説明】 101・・・基板、102・・・バッファ層、103・・・下地層、104・・・n型コンタクト層、105・・・クラック防止層、106・・・n型クラッド層、107・・・n型光ガイド層、108・・・活性層、109・・・p型電子閉じ込め層、110・・・p型光ガイド層、111・・・p型クラッド層、112・・・p型コンタクト層、113・・・絶縁膜、114・・・第2の絶縁膜、108・・・活性層、120・・・p側電極、140,141・・・パッド電極 」 「図6 」 (イ)上記(ア)の記載からして、 甲第4号証の図6には、 「基板101上に、n型窒化物半導体層Qn、活性層Qa、p型窒化物半導体層Qpが積層され、p型窒化物半導体層Qpにストライプ状のリッジが設けられた半導体レーザ」が記載されているものと認められる。 さらに、上記符合の説明を踏まえて、図6を見ると、 パッド電極140が、絶縁膜113の上に形成され、第2の絶縁膜114の上に形成されていないことが理解できる。 (ウ)当審の判断 甲第4号証に記載された「パッド電極140」、「絶縁膜113」及び「第2の絶縁膜114」は、それぞれ、本件訂正発明8の「p側パッド電極である金属層」、「第1電流ブロック層」及び「第2電流ブロック層」に相当する。 しかしながら、本件訂正発明8の「p側パッド電極である金属層」は、「第1電流ブロック層および第2電流ブロック層の上に形成された」ものであるのに対して、 甲第4号証に記載された「パッド電極140」は、「第2の絶縁膜114」の上に形成されたものではない。 よって、本件訂正発明8は、甲第4号証に記載された発明と同一であるとはいえない。 カ 甲第5号証 (ア)特願2003-394474号の願書に最初に添付された明細書又は図面には、図とともに、次の事項が記載されている。 「【0028】 以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。 実施の形態1. 図1は、本実施の形態に係るリッジ導波路型半導体レーザを模式的に示す断面図である。図1において、窒化物半導体レーザ10は、実装基板20上に半田などの導電性接合剤23を用いてフェースダウン実装されている。窒化物半導体レーザ10は、サファイア等の絶縁性基板11の上にn側窒化物半導体層12、活性層13、p側窒化物半導体層14を順次積層し、p側窒化物半導体層にストライプ状のリッジ部を形成したリッジ導波路型レーザである。n側窒化物半導体層12とp側窒化物半導体層14は、各々、主として活性層13に電子と正孔を供給する機能を有し、一般的にはn型窒化物半導体とp型窒化物半導体から成る。窒化物半導体レーザ10のn側電極16及び29並びにp側電極15及び19は、半田などの導電性接合剤23によって、実装用基板20の電極21及び22に接合されている。 【0029】 …… 【0031】 本件発明の特徴であるリッジ部近傍の構造について図2を参照しながら説明する。図2は、図1のリッジ部近傍の構造を拡大して示す部分拡大断面図である。尚、図2は、図1と上下逆転した図面を表している。図2に示すように、窒化物半導体レーザ10のp型窒化物半導体層14には、導波路形成用のリッジ14aが設けられ、リッジ14aの頂面を露出するように第1の絶縁保護膜17が形成されている。第1の絶縁保護膜17には、リッジ14aと光屈折率の違いが大きな材料が用いられており、その光屈折率の違いに基づいてリッジ14aが光閉じ込め機能を発揮する。さらに、リッジ部14aの全体を覆うようにp側オーミック電極15が形成されており、リッジ14aの頂面に露出したp型窒化物半導体14との間にオーミック接合を形成している。また、リッジ部14aから離間して、第1の絶縁保護膜17の上に、第2の絶縁保護膜18が形成されている。」 「【符号の説明】 【0089】 10:半導体レーザ、 11:基板、 12:n型窒化物半導体層、 13:活性層、 14:p型窒化物半導体層、 14a:リッジ部、 15:p側オーミック電極、 16:n側オーミック電極、 17:第1の保護絶縁膜、 18:第2の保護絶縁膜、 19:p側パッド電極、 20:実装基板、 21、22:実装基板上の電極、 23:導電性接合剤(半田バンプ)、 30:拡散防止層 」 「図1 」 「図2 」 (イ)上記(ア)の記載からして、 甲第5号証の図1及び図2には、 「サファイア等の絶縁性基板11の上にn側窒化物半導体層12、活性層13、p側窒化物半導体層14を順次積層し、p側窒化物半導体層14にストライプ状のリッジ部を形成したリッジ導波路型レーザ」が記載されているものと認められる。 さらに、上記符合の説明を踏まえて、図2を見ると、 「ストライプ状のリッジ部」の上面及び側面には、p側オーミック電極15が形成されていることが理解できる。 (ウ)当審の判断 甲第5号証に記載された「p側オーミック電極15」は、本件訂正発明8の「p側電極」に相当する。 しかしながら、本件訂正発明8の「p側電極」は、「リッジ部の上部に形成されるが前記リッジ部の側面に形成されない」ものであるのに対して、 甲第5号証に記載された「p側オーミック電極15」は、リッジ部の上面だけではなく、側面にも形成されたものである。 よって、本件訂正発明8は、甲第5号証に記載された発明と同一であるとはいえない。 オ まとめ 本件訂正発明8は、上記5件の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であるとはいえない。 (3)独立特許要件についてのまとめ 以上の検討によれば、本件訂正発明8について、特許出願の際独立して特許を受けられないとすべき理由を発見しない。 また、他に本件訂正発明8について、特許出願の際独立して特許を受けられないとすべき理由を発見しない。 よって、訂正事項1は、特許法第126条第7号の規定に適合する。 5 訂正の適否についてのまとめ 本件訂正請求は適法であることから、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項8及び9について訂正することを認める。 第3 むすび 以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第3項、第5項から第7項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 第1導電型の第1クラッド層と、 前記第1クラッド層上に形成された活性層と、 前記活性層上に形成され、平坦部と、前記平坦部から突出するように形成されたリッジ部を構成する凸部とを有する第2導電型の第2クラッド層と、 前記第2クラッド層の平坦部上における前記凸部近傍に形成されると共に、前記第2クラッド層の平坦部上において前記凸部から離れた部分にまで延在して形成される第1電流ブロック層と、 前記第2クラッド層の前記平坦部上における前記凸部から離れた部分において、前記第1電流ブロック層上に形成された第2電流ブロック層と、 前記第1電流ブロック層および前記第2電流ブロック層の上に形成され、前記第2クラッド層の前記凸部に電気的に接続するように形成された金属層とを備え、 前記凸部の側面上の前記金属層の表面が、順テーパ形状である、半導体レーザ素子。 【請求項2】 前記第2電流ブロック層の側面上の前記金属層の表面が、順テーパ形状である、請求項1に記載の半導体レーザ素子。 【請求項3】 前記金属層は、前記第2クラッド層の前記凸部上に形成されるp側電極と、前記p側電極上に形成されるp側パッド電極とを備える、請求項1または2に記載の半導体レーザ素子。 【請求項4】 前記第2電流ブロック層は、前記第1電流ブロック層よりも厚みが大きい、請求項1?3のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。 【請求項5】 前記第2電流ブロック層の上面の高さは、前記凸部を含むリッジ部の上面の高さと等しい、請求項1?4のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。 【請求項6】 前記金属層は、前記凸部と前記第2電流ブロック層との間に平坦な表面を有する、請求項1?5のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。 【請求項7】 前記金属層は、前記第2電流ブロック層の側面の上部から下部に亘って、前記第2電流ブロック層の側面に直接形成されている、請求項1?6のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。 【請求項8】 第1導電型の第1クラッド層と、 前記第1クラッド層上に形成された活性層と、 前記活性層上に形成され、平坦部と、前記平坦部から突出するように形成されたリッジ部を構成する凸部とを有する第2導電型の第2クラッド層と、 前記第2クラッド層の平坦部上における前記凸部近傍に形成されると共に、前記第2クラッド層の平坦部上において前記凸部から離れた部分にまで延在して形成される第1電流ブロック層と、 前記第2クラッド層の前記平坦部上における前記凸部近傍には形成されず、前記凸部から離れた部分において、前記第1電流ブロック層の上面に接して形成された第2電流ブロック層と、 前記第1電流ブロック層および前記第2電流ブロック層の上に形成され、前記第2クラッド層の前記凸部に電気的に接続するように形成されたp側パッド電極である金属層とを備え、 p側電極が前記リッジ部の上部に形成されるが前記リッジ部の側面に形成されず、 前記凸部の側面上の前記金属層の表面が、順テーパ形状である、半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子に融着層を介して配置された放熱部材とを備えた、半導体レーザ装置。 【請求項9】 請求項2?7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子に融着層を介して配置された放熱部材とを備えた、半導体レーザ装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2018-02-28 |
結審通知日 | 2018-03-02 |
審決日 | 2018-03-13 |
出願番号 | 特願2008-285969(P2008-285969) |
審決分類 |
P
1
41・
851-
Y
(H01S)
P 1 41・ 161- Y (H01S) P 1 41・ 857- Y (H01S) |
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
森 竜介 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 居島 一仁 |
登録日 | 2011-12-16 |
登録番号 | 特許第4883536号(P4883536) |
発明の名称 | 半導体レーザ素子および半導体レーザ装置 |
代理人 | 多田 宏文 |
代理人 | 多田 宏文 |
代理人 | 大野 聖二 |
代理人 | 片山 健一 |
代理人 | 片山 健一 |
代理人 | 大野 聖二 |