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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する H02P
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する H02P
管理番号 1339377
審判番号 訂正2017-390116  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2017-10-24 
確定日 2018-04-03 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5189132号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5189132号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5189132号は、平成22年4月5日(パリ条約に基づく優先権主張2009年(平成21年)4月4日、英国)を出願日とする特願2010-97372号として特許出願され、平成25年2月1日に特許権の設定登録がなされたものであり、その後、平成29年10月24日に本件訂正審判の請求がなされ、さらに請求人より平成29年11月17日付け上申書及び平成30年1月18日付け上申書が提出されたものである。

第2 請求の趣旨
本件審判請求の趣旨は、特許第5189132号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。

第3 訂正事項
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1、3?6、10?12に「電気機械」と記載されているのを、「単相永久磁石モータ」に訂正する。
請求項1、3?6の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、7?9も同様に訂正する。

イ 上記訂正事項1は、具体的には、以下のとおり特許請求の範囲を訂正することを求めるものである。

訂正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
電気機械を制御する方法であって、
先進角だけ巻線の逆起電力のゼロ交差よりも前に励起電圧によって励起され、かつ整流前のフリーホイール角にわたってフリーホイールされる電気機械の巻線を順次励起してフリーホイールさせる段階と、
前記励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角を変更する段階と、を含み、
前記励起電圧の低下に応答して、前記先進角が増加し、前記フリーホイール角が減少することを特徴とする方法。
【請求項2】
複数の前記励起電圧に対する第1の制御値及び第2の制御値のルックアップテーブルを格納する段階と、
前記励起電圧のレベルに従って第1の制御値及び第2の制御値を前記ルックアップテーブルから選択する段階と、
前記選択された第1の制御値によって定められた時間に前記巻線を励起する段階と、
前記選択された第2の制御値によって定められた時間にわたって前記巻線をフリーホイールさせる段階と、を含み、
前記先進角は、前記選択された第1の制御値に比例し、前記フリーホイール角は、前記選択された第2の制御値に比例することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の制御値及び前記第2の制御値は、前記電気機械の回転の公称速度において同じ電力を達成するように定められることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気機械の速度の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角の少なくとも一方を変更するために、速度補正値を前記第1の制御値及び前記第2の制御値の少なくとも一方に適用する段階、を含み、
前記速度補正値は、前記電気機械の前記速度及び前記励起電圧の前記レベルの両方と共に変化することを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
複数の速度及び複数の励起電圧に対する速度補正値の速度ルックアップテーブルを格納する段階と、
前記電気機械の前記速度及び前記励起電圧の前記レベルに従って速度補正値を前記速度ルックアップテーブルから選択する段階と、を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記電気機械の速度の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角の少なくとも一方を変更する段階を含むことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記速度の増大に応答して前記先進角が増加する段階を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記速度の増大に応答して前記フリーホイール角が低減する段階を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
各電気半サイクルが、前記先進角から始まる単一駆動期間と、前記フリーホイール角に対応する単一フリーホイール期間とからなり、
前記駆動期間中に前記巻線を励起する段階と、
前記フリーホイール期間中に前記巻線をフリーホイールさせる段階と、
を含むことを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
電気機械のための制御システムであって、
請求項1?9のいずれか1項に記載の方法を実施する、
ことを特徴とするシステム。
【請求項11】
電気機械と、
請求項10に記載の制御システムと、
を含むことを特徴とするバッテリ式製品。
【請求項12】
電気機械と、
請求項10に記載の制御システムと、
を含むことを特徴とする真空掃除機。」を、

訂正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
単相永久磁石モータを制御する方法であって、
先進角だけ巻線の逆起電力のゼロ交差よりも前に励起電圧によって励起され、かつ整流前のフリーホイール角にわたってフリーホイールされる単相永久磁石モータの巻線を順次励起してフリーホイールさせる段階と、
前記励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角を変更する段階と、を含み、
前記励起電圧の低下に応答して、前記先進角が増加し、前記フリーホイール角が減少することを特徴とする方法。
【請求項2】
複数の前記励起電圧に対する第1の制御値及び第2の制御値のルックアップテーブルを格納する段階と、
前記励起電圧のレベルに従って第1の制御値及び第2の制御値を前記ルックアップテーブルから選択する段階と、
前記選択された第1の制御値によって定められた時間に前記巻線を励起する段階と、
前記選択された第2の制御値によって定められた時間にわたって前記巻線をフリーホイールさせる段階と、を含み、
前記先進角は、前記選択された第1の制御値に比例し、前記フリーホイール角は、前記選択された第2の制御値に比例することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の制御値及び前記第2の制御値は、前記単相永久磁石モータの回転の公称速度において同じ電力を達成するように定められることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記単相永久磁石モータの速度の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角の少なくとも一方を変更するために、速度補正値を前記第1の制御値及び前記第2の制御値の少なくとも一方に適用する段階、を含み、
前記速度補正値は、前記単相永久磁石モータの前記速度及び前記励起電圧の前記レベルの両方と共に変化することを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
複数の速度及び複数の励起電圧に対する速度補正値の速度ルックアップテーブルを格納する段階と、
前記単相永久磁石モータの前記速度及び前記励起電圧の前記レベルに従って速度補正値を前記速度ルックアップテーブルから選択する段階と、を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記単相永久磁石モータの速度の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角の少なくとも一方を変更する段階を含むことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記速度の増大に応答して前記先進角が増加する段階を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記速度の増大に応答して前記フリーホイール角が低減する段階を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
各電気半サイクルが、前記先進角から始まる単一駆動期間と、前記フリーホイール角に対応する単一フリーホイール期間とからなり、
前記駆動期間中に前記巻線を励起する段階と、
前記フリーホイール期間中に前記巻線をフリーホイールさせる段階と、
を含むことを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
単相永久磁石モータのための制御システムであって、
請求項1?9のいずれか1項に記載の方法を実施する、
ことを特徴とするシステム。
【請求項11】
単相永久磁石モータと、
請求項10に記載の制御システムと、
を含むことを特徴とするバッテリ式製品。
【請求項12】
単相永久磁石モータと、
請求項10に記載の制御システムと、
を含むことを特徴とする真空掃除機。」
に訂正するものである。

第4 当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無、新規事項の追加の有無
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1、3?6、10?12について、「電気機械」を「単相永久磁石モータ」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、請求項1、3?6を直接又は間接に引用する請求項2、7?9についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。

よって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張、又は変更の有無について
訂正事項1は、訂正前の上位概念の記載「電気機器」を、訂正後の下位概念の記載「単相永久磁石モータ」に訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であるか否かについて
願書に添付した明細書の段落【0014】には、「電気機械は、好ましくは、永久磁石モータ、より好ましくは、単相永久磁石モータである。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

よって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)独立特許要件
訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の規定に違反するか否か、すなわち、上記「第3 訂正事項 イ」の「訂正後の特許請求の範囲」において、請求項1ないし12に記載されている事項により特定される発明(以下、訂正後の請求項1?12に記載されている事項により特定される発明を、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明12」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。
請求人は、審判請求書において、「訂正前の請求項1?12は特許されているのであるから、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、独立特許要件を満たす。」(請求書4頁3?5行)と主張している。
一方、平成29年11月17日付け及び平成30年1月18日付け上申書によれば、平成28年(ワ)第37782号損害賠償請求事件において、特許第5189132号(以下「本件特許」という。)の、請求項1、6、8?12に係る発明について、特許無効の抗弁がなされている。

本件訂正発明1?12は、無効の主張がなされている本件特許について特許請求の範囲の減縮を行ったものであり、本件訂正発明1?12について、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについての判断を行うにあたり、下記の無効理由の観点から検討を行う。

平成29年11月17日付け及び平成30年1月18日付けの上申書によれば、無効理由の主張内容は概略以下のとおりである。
「本件特許の請求項1、6、8?12に係る発明は、以下の乙8号証?乙13号証に基づいて当業者が容易に想到し得たものである(特許法第29条第2号)から、特許無効審判により無効とされるべきものである(特許法第123条第1項第2号)。

乙8号証:欧州特許出願公開第2012422号明細書
乙9号証:特開2006-081271号公報
乙10号証:特開平10-248285号公報
乙11号証:特開平1-110085号公報
乙12号証:特開平10-155299号公報
乙13号証:特表2007-520989号公報

乙8号証に記載された発明を乙8発明とし、乙9?12号証に記載された技術をそれぞれ乙9?12技術とすると、
請求項1、6、8?11に係る発明は、乙8発明、乙9技術、乙10技術、乙11技術及び乙12技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項12に係る発明は、乙8発明、乙9技術、乙10技術、乙11技術、乙12技術及び周知技術(乙12,13号証に記載されているような周知技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」

無効理由についての判断
ア.乙8?13号証に記載された発明及び技術
ア)乙8発明
乙8号証(欧州特許出願公開第2012422号明細書)には、図面と共に以下の事項が記載されている。和訳については、ファミリである特開2009-178016号公報の記載を用いた。(なお、下線は当審で付加した。)
a.「An object of the present invention is to provide technology by which the excitation interval of the drive signal of an electric motor can be formed at will using a digital circuit. Another object of the invention is to provide a power saving motor.」([0005])
(本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、電動機の駆動信号の励磁区間をデジタル回路によって任意に形成することのできる技術を提供する。また、電動機の省電力化を実現することのできる技術を提供する。)(【0005】)

b.「A. Embodiment 1:
A1. Overview of Motor Configuration and Operation:
Figs. 1A and 1B are sectional views depicting the configuration of the motor unit of a single-phase brushless motor in Embodiment 1. This motor unit 100 has a stator portion 10 and a rotor portion 30, each of generally cylindrical tube shape. The stator portion 10 has four coils 11 -14 arranged in a generally cross-shaped pattern, and a magnetic sensor 40 positioned at a center location between two of the coils 11, 12. The magnetic sensor 40 is used to detect the position of the rotor portion 30 (i.e. the phase of the motor). Each coil 11 -14 is provided with a magnetic yoke 20 formed of a magnetic material. The coils 11 -14 and the magnetic sensor 40 are affixed on a circuit board 120 ( Fig. 1B ). The circuit board 120 is affixed to a casing 102. The cover of the casing 102 is omitted in the drawing.
The rotor portion 30 has four permanent magnets 31 -34; the center axis of the rotor portion 30 constitutes a rotating shaft 112. This rotating shaft 112 is supported by a shaft bearing portion 114 ( Fig. 1B ). The direction of magnetization of the magnets extends in a direction radially outward from the rotating shaft 112. A magnetic yoke 36 is disposed to the outside of the magnets 31 -34. This magnetic yoke 36 may be omitted.
Fig. 2A illustrates the positional relationship of a magnet array and a coil array. Fig. 2B and 2C show the relationship of magnetic sensor output to back electromotive force waveform. As shown in Fig. 2A , the four magnets 31 -34 are arranged at constant magnetic pole pitch Pm, with adjacent magnets being magnetized in opposite directions. The coils 11 -14 are arranged at constant pitch Pc, with adjacent coils being excited in opposite directions. In this example, the magnetic pole pitch Pm is equal to the coil pitch Pc, and is equivalent to π in terms of electrical angle. An electrical angle of 2π is associated with the mechanical angle or distance of displacement when the phase of the drive signal changes by 2π. In the present embodiment, when the phase of the drive signal changes by 2π, the rotor portion 30 undergoes displacement by the equivalent of twice the magnetic pole pitch Pm.
Of the four coils 11 -14, the first and third coils 11, 13 are driven by drive signals of identical phase, while the second and fourth coils 12, 14 are driven by drive signals whose phase is shifted by 180 degrees (= π) from the drive signals of the first and third coils 11, 13. In ordinary two-phase driving, the phases of the drive signals of the two phases (Phase A and Phase B) would be shifted by 90 degrees (= π/2); in no instance would they be shifted by 180 degrees (= π). Also, in most motor drive methods, two drive signals phase-shifted by 180 degrees (= π) would be viewed as having identical phase. Consequently, the drive method of the motor in the present embodiment can be though of as single-phase driving.」([0012]?[0016])、
(A.第1実施例:
A1.モータの構成と動作の概要:
図1(A),1(B)は、本発明の一実施例としての単相ブラシレスモータのモータ本体の構成を示す断面図である。このモータ本体100は、外形がそれぞれ略円筒状のステータ部10及びロータ部30を有している。ステータ部10は、略十字状に配列された4つのコイル11?14と、2つのコイル11,12の間の中央の位置に配置された磁気センサ40とを有している。磁気センサ40は、ロータ部30の位置(すなわちモータの位相)を検出するためのものである。各コイル11?14には、磁性体材料で形成された磁気ヨーク20が設けられている。コイル11?14と磁気センサ40は、回路基板120(図1(B))の上に固定されている。回路基板120は、ケーシング102に固定されている。なお、ケーシング102の蓋は図示が省略されている。
ロータ部30は、4つの永久磁石31?34を有しており、ロータ部30の中心軸が回転軸112を構成している。この回転軸112は、軸受け部114(図1(B))で支持されている。各磁石の磁化方向は、回転軸112から外側に放射状に向かう方向である。磁石31?34の外周には、磁気ヨーク36が設けられている。但し、この磁気ヨーク36は省略してもよい。
図2は、磁石列とコイル列の位置関係、及び、磁気センサ出力とコイルの逆起電力波形との関係を示す説明図である。図2(A)に示すように、4つの磁石31?34は、一定の磁極ピッチPmで配置されており、隣接する磁石同士が逆方向に磁化されている。また、コイル11?14は、一定のピッチPcで配置されており、隣接するコイル同士が逆向きに励磁される。この例では、磁極ピッチPmはコイルピッチPcに等しく、電気角でπに相当する。なお、電気角の2πは、駆動信号の位相が2πだけ変化したときに移動する機械的な角度又は距離に対応づけられる。本実施例では、駆動信号の位相が2πだけ変化すると、ロータ部30が磁極ピッチPmの2倍だけ移動する。
4つのコイル11?14のうち、第1、第3のコイル11,13は同一の位相の駆動信号で駆動され、第2、第4のコイル12,14は第1及び第3のコイル11,13の駆動信号から180度(=π)だけ位相がずれた駆動信号で駆動される。通常の二相駆動は2つの相(A相とB相)の駆動信号の位相が90度(=π/2)ずれており、位相のずれが180度(=π)の場合は無い。また、モータの駆動方法において、位相が180度(=π)ずれた2つの駆動信号は、同じ位相であると見なされる場合が多い。従って、本実施例のモータにおける駆動方法は、単相駆動であると考えることができる。)(【0040】?【0043】)

c.「Figs. 12A to 12C depict correspondence between sensor output waveform and waveform of the drive signals generated by the PWM unit 530. In the drawing, Hiz denotes a state of high impedance where the magnetic coils are not excited. As described in Figs. 11B to 11E , the single-phase drive signals DRVA1, DRVA2 are generated by PWM control using the analog waveform of the sensor output SSA. Consequently, using these single-phase drive signals DRVA1, DRVA2 it is possible to supply to the coils effective voltage that exhibits changes in level corresponding to change in the sensor outputs SSA, SSB.
The PWM unit 530 is constructed such that drive signals DRVA1, DRVA2 are output only during the excitation intervals indicated by the excitation interval signal Ea supplied by the excitation interval signal generator 590, with no drive signals DRVA1, DRVA2 being output at intervals except for the excitation intervals (non-excitation intervals). Fig. 12C depicts drive signal waveforms produced in the case where excitation intervals EP and non-excitation intervals NEP have been established by the excitation interval signal Ea. During the excitation intervals EP, the drive signal pulses of Fig. 12B are generated as is; during the non-excitation intervals NEP, no pulses are generated. By establishing excitation intervals EP and non-excitation intervals NEP in this way, voltage will not be applied to the coils in proximity to the middle point of the back electromotive force waveform (i.e. in proximity to the middle point of the sensor output), thus making possible further improvement of motor efficiency. Preferably the excitation intervals EP will be established at intervals symmetric about the peak point of the back electromotive force waveform; and preferably the non-excitation intervals NEP will be established in intervals symmetric about the middle point (center) of the back electromotive force waveform.」([0043]、[0044])、
(図12(A)?12(C)は、センサ出力の波形とPWM部530で生成される駆動信号の波形の対応関係を示す説明図である。図中、「Hiz」は電磁コイルを未励磁状態としたハイインピーダンス状態を意味している。図11で説明したように、単相駆動信号DRVA1,DRVA2はセンサ出力SSAのアナログ波形を利用したPWM制御によって生成される。従って、これらの単相駆動信号DRVA1,DRVA2を用いて、各コイルに、センサ出力SSAの変化と対応するレベル変化を示す実効電圧を供給することが可能である。
PWM部530は、さらに、励磁区間信号生成部590から供給される励磁区間信号Eaで示される励磁区間のみに駆動信号DRVA1,DRVA2を出力し、励磁区間以外の区間(非励磁区間)では駆動信号DRVA1,DRVA2を出力しないように構成されている。図12(C)は、励磁区間信号Eaによって励磁区間EPと非励磁区間NEPを設定した場合の駆動信号DRVA1,DRVA2の波形を示している。励磁区間EPでは図12(B)の駆動信号DRVA1,DRVA2がそのまま発生し、非励磁区間NEPでは駆動信号DRVA1,DRVA2が発生しない。このように、励磁区間EPと非励磁区間NEPを設定するようにすれば、逆起電力波形の中位点近傍(すなわち、センサ出力の中位点近傍)においてコイルに電圧を印加しないので、モータの効率をさらに向上させることが可能である。なお、励磁区間EPは、逆起電力波形のピークを中心とする対称な区間に設定されることが好ましく、非励磁区間NEPは、逆起電力波形の中位点(中心点)を中心とする対称な区間に設定されることが好ましい。)(【0070】、【0071】)

d.「As is understood from Fig. 17 , the excitation interval signal generator 590 counts the High level interval of the voltage comparator signal SC, and on the basis of the High level interval determines the start time and end time for the excitation interval signal Ea to show High level in the next cycle. For example, where the coefficent value ST=0.2, start points at which the excitation interval signal Ea goes to High level are time points at which the pre-determined term Ts has elapsed from rising edges and falling edges of the voltage comparator signal SC respectively, where the pre-determined term Ts is 0.2 × Ta, and Ta is the High level interval of the voltage comparator signal SC of the previous cycle. End points at which the excitation interval signal Ea falls from High level to Low level are time points at which the pre-determined term has elapsed Te from the rising edges and the falling edges of the voltage comparator signal SC respectively, where the pre-determined term Te is 0.8 × Ta. Consequently, where the length of the High level interval of the voltage comparator signal SC of the previous cycle is 1, the High level interval of the voltage comparator signal SC of the next cycle is 0.6 (= 0.8 - 0.2).
The excitation interval signal generator 590 ( Fig. 16 ) corresponds to the excitation interval setter in the present invention; and the first and second counters 594, 596 correspond to the interval measurer in the present invention. The multiplier circuit 604 corresponds to the start time setter in the present invention, the multiplier circuit 605 corresponds to the end time setter in the present invention, and the comparator circuit 612 corresponds to the excitation interval controller in the present invention. The sensor signal SSA corresponds to the positional signal in the present invention, and the voltage comparator signal SC corresponds to the timing signal in the present invention.
As described above, where the voltage comparator signal SC repeatedly goes on/off precisely at identical cycles, the center position of the High level signal interval of the voltage comparator signal SC and the center position of the High level signal interval of the excitation interval signal Ea substantially match. The center position of the Low level signal interval of the voltage comparator signal SC and the center position of the High level signal interval of the excitation interval signal Ea substantially match as well. That is, the excitation interval EP may be set to a symmetrical interval centered on the peak of the back electromotive force waveform, while the non-excitation interval NEP may be set to a symmetrical interval centered on the midpoint of the back electromotive force waveform. The length of the excitation interval EP may be set at will, where the value of the coefficient value ST is set arbitrarily by the CPU 220.
Figs. 18A to 18C are graphs illustrating the effect where the excitation interval is changed. The excitation interval ratio shown in the drawing refers to the ratio of the High level interval of the excitation interval signal Ea to the High level interval of the voltage comparator signal SC. For example, where the aforementioned coefficient value ST = 0.2, the interval for which the excitation interval signal is High level is 0.6 times the interval for which the voltage comparator signal SC is High level, and thus the excitation interval ratio is 60%. The numbers 15 (V), 12 (V), and 10 (V) indicate peak voltage of the PWM signal applied to the coils (i.e. the power supply voltage VSUP of the driver circuit 250 of Fig. 8 ). The numerical values in Figs. 18A to 18C are measured with fixed load applied to the motor, in the steady state at constant torque and constant speed. Fig. 18A shows the relationship of excitation interval ratio and power consumption. It is apparent that power consumption may be decreased as the excitation interval ratio decreases. Fig. 18B shows the relationship of excitation interval ratio and rotation speed. It is apparent that as the excitation interval ratio decreases, rotation speed in the steady state decreases as well. However, up to an excitation interval ratio of close to 70%, speed may be maintained even as excitation interval ratio decreases. Fig. 18C shows the extent of reduction in power consumption afforded by the motor in which the excitation interval ratio has been set at various values, compared with the motor in which all intervals are excitation intervals. From Fig. 18C it is apparent that the reduction in power consumption is noticeable in a region where the excitation interval ratio is between 70% and 90%.
In this way, in Embodiment 1, the excitation interval signal Ea may be generated at will by the excitation interval signal generator 590, which is a digital circuit. Since the excitation interval signal generator 590 may be implemented with a digital circuit, it is easy to incorporate excitation interval signal generator 590 into an IC.」([0057]?[0061])、
(図17からわかるように、励磁区間信号生成部590は、電圧比較器信号SCのハイレベル期間をカウントし、そのハイレベル期間を基準として、次の周期において励磁区間信号Eaがハイレベルを示す開始時期と終了時期とを決定している。例えば、演算値ST=0.2の場合では、励磁区間信号Eaがハイレベルになる開始点は、電圧比較器信号SCの立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジのそれぞれから起算して、前の周期の電圧比較器信号SCのハイレベル期間を0.2倍した分だけ経過した時点である。そして、励磁区間信号Eaがハイレベルからローレベルになる終了点は、電圧比較器信号SCの立ち下りエッジおよび立ち上がりエッジのそれぞれから起算して、前の周期の電圧比較器信号SCのハイレベル期間を0.8倍した分だけ経過した時点である。したがって、前の周期の電圧比較器信号SCのハイレベル信号期間の長さを1とすると、次の周期の励磁区間信号Eaのハイレベル信号期間は0.6(=0.8-0.2)となる。
なお、励磁区間信号生成部590(図16)は、本発明における励磁区間設定部に相当し、第1と第2のカウンタ部594,596は、本発明における期間計測部に相当する。そして、乗算回路604は、本発明における開始時期設定部に相当し、乗算回路605は、本発明における終了時期設定部に相当し、比較回路612は、本発明における励磁区間制御部に相当する。また、センサ信号SSAは、本発明における位置信号に相当し、電圧比較器信号SCは、本発明におけるタイミング信号に相当する。
以上のように、電圧比較器信号SCが正確に同一の周期でオン/オフを繰り返す場合は、電圧比較器信号SCのハイレベル信号期間の中心位置と、励磁区間信号Eaのハイレベル信号期間の中心位置とはほぼ一致する。そして、電圧比較器信号SCのローレベル信号期間の中心位置と、励磁区間信号Eaのハイレベル信号期間の中心位置ともほぼ一致することとなる。つまり、励磁区間EPを、逆起電力波形のピークを中心とする対称な区間に設定することができ、非励磁区間NEPを、逆起電力波形の中位点を中心とする対称な区間に設定することができる。また、CPU220によって演算値STの値を任意に設定すれば、励磁区間EPの幅を任意に設定することができる。
図18は、励磁区間を変化させた場合における効果を示すグラフである。図中に示す励磁区間比とは、電圧比較器信号SCのハイレベル期間に対する励磁区間信号Eaのハイレベル期間の割合を意味する。例えば、上述した演算値ST=0.2の場合は、電圧比較器信号SCのハイレベル期間に対して励磁区間信号がハイレベルとなっている期間は0.6倍であるため、励磁区間比は60%となる。15[V]時、12[V]時、10[V]時とは、コイルに印加されるPWM信号のピーク電圧(図8のドライバ回路250の電源電圧VSUP)を示している。また、図18における各種の数値は、モータに同一負荷を掛け、トルク一定、回転数一定の定常状態で計測している。図18(A)は、励磁区間比と消費電力との関係を示している。励磁区間比を小さくしていくと、消費電力を小さくできることがわかる。図18(B)は、励磁区間比と回転数との関係を示している。励磁区間比を小さくしていくと、定常状態での回転数も小さくなることがわかる。ただし、励磁区間比が70%近傍までは、励磁区間比を小さくしても回転数を維持することができる。図18(C)は、励磁区間信号生成部590を設けて励磁区間比を任意に設定したモータと、全区間を励磁区間としたモータとを回転数を同一とした場合において比較し、励磁区間比を設定したモータは、全区間を励磁区間としたモータに対してどの程度の電力削減効果があるのかを示している。この図18(C)によると、励磁区間比が70%から90%の領域において電力削減率が高くなることがわかる。
このように、第1実施例では、デジタル回路である励磁区間信号生成部590によって、任意に励磁区間信号Eaを生成することができる。また、励磁区間信号生成部590をデジタル回路で実現しているため、IC化が容易である。)(【0084】?【0088】)

e.「E. Embodiment 5: Fig. 26 is an illustration depicting the configuration of an excitation interval signal generator 590e in embodiment 5. The only difference from Embodiment 1 shown in Fig. 16 is that the coefficient value ED stored in the coefficient value storage 602e is set as a value independent of the coefficient value ST; the configuration is otherwise identical to Embodiment 1.
Fig. 27 is a timing chart depicting operation of the excitation interval signal generator 590e in Embodiment 5. The only differences from Embodiment 1 shown in Fig. 17 are that the value of the coefficient value ED is set to 0.6 by the CPU 220; and that the center location of the excitation interval EP of the excitation interval signal Ea is a location earlier in time than the center location of the High level signal interval of the voltage comparator signal SC; operation is otherwise the same as in Embodiment 1.Fig. 28 is a timing chart depicting another example of operation of the excitation interval signal generator 590e in Embodiment 5. The only differences from Fig. 27 are that the coefficient value ST is set to 0.4 and the coefficient value ED is set to 0.8; and that the center location of the excitation interval EP of the excitation interval signal Ea is a location later in time than the center location of the High level signal interval of the voltage comparator signal SC; operation is otherwise the same as in Fig. 27 .
Where the value of the coefficient value ST and the value of the coefficient value ED is set arbitrarily by the CPU 220 in the above manner, it is possible to set the phase of the excitation interval EP (the temporal duration and temporal location) at will. For example, in the event that a delay in electrical current phase in response to motor speed arises due to the effects of impedance, it is preferable to set the value of the coefficient value ST and the value of the coefficient value ED such that the center location of the excitation interval EP moves to a location forward in time in order to correct this delay. By so doing, angle advance control through advance of phase of the first and second drive signals DRVA1 and 2 may be carried out simply by advancing the temporal location of the excitation interval EP, without the need to advance the phase of the first and second PWM signals PWM1 and 2. Delay angle control may also be carried out, analogously to angle advance control.
Fig. 29 is a graph depicting the relationship of motor speed and angle of advance where angle advance control is carried out. In preferred practice, the CPU 220 may determine the advance angle of the excitation interval EP depending on the speed of the motor, and then set the value of the coefficient value ST and the value of the coefficient value ED so as to achieve this advance angle.」([0077]?[0081])
(E.第5実施例:
図26は、第5実施例における励磁区間信号生成部590eの構成を示す説明図である。図16に示した第1実施例との違いは、演算値記憶部602eに記憶される演算値EDの値が、演算値STとは独立した値として設定されている点だけであり、他の構成は第1実施例と同様である。
図27は、第5実施例における励磁区間信号生成部590eの動作を示すタイミングチャートである。図17に示した第1実施例との違いは、演算値EDの値がCPU220によって0.6に設定されている点と、演算値EDを0.6に設定したことにより、励磁区間信号Eaの励磁区間EPの中心位置が、電圧比較器信号SCのハイレベル信号期間の中心位置よりも時間的に早い位置となっている点だけであり、他の動作は第1実施例と同じである。
図28は、第5実施例における励磁区間信号生成部590eの動作の他の例を示すタイミングチャートである。図27との違いは、演算値STが0.4に設定され、演算値EDが0.8に設定されている点と、励磁区間信号Eaの励磁区間EPの中心位置が、電圧比較器信号SCのハイレベル信号期間の中心位置よりも時間的に遅い位置となっている点だけであり、他の動作は図27と同じである。
以上のように、演算値STの値と、演算値EDの値と、をCPU220によって任意に設定すれば、励磁区間EPの位相(時間的な幅と時間的な位置)を任意に設定することが可能となる。例えば、インダクタンスの影響によりモータの回転数に応じて電流位相に遅延が生じる場合には、この遅延を補正するために励磁区間EPの中心位置が時間的に進んだ位置となるように演算値STの値および演算値EDの値を設定することが好ましい。そうすれば、第1と第2のPWM信号PWM1,2の位相を進めなくとも、励磁区間EPの時間的位置を進めるだけで、第1と第2の駆動信号DRVA1,2の位相を進める進角制御を行うことができる。また、進角制御と同様に、遅角制御も実現することが可能である。
図29は、モータの回転数と進角制御を行う場合における進角値との関係を示すグラフである。このように、CPU220は、モータの回転数に応じて、励磁区間EPの進角値を定め、その進角値を実現するように演算値STの値と演算値EDの値とを設定することが好ましい。)(【0104】?【0108】)

f.「Fig.42 is a timing chart depicting wave forms of various signals without PWM control. Fig.42 depicts the sensor output SSA, the voltage comparator signal SC, and non-PWM drive signals DRVA1, 2. In addition, a signal obtained by combining the first drive signal DRVA1 and the second drive signal DRVA2 are depicted, where the second drive signal DRVA2 is depicted as the negative pulses.
The voltage comparator signal SC is a binary digital signal which indicates a third voltage level and fourth voltage level alternately. The voltage comparator signal SC is synchronized with the sensor output SSA. The drive signals DRVA1, 2 have a first voltage level in the first interval, and have a second voltage level which differs from the first voltage level in the second interval except for the first interval. The first interval corresponds to the non-excitation interval NEP. The second interval corresponds to the excitation interval EP. The first interval and the second interval are set by the excitation interval signal generator 590 ( Fig. 16 ). In the case of the operation of the motor without PWM control, multiplication value Ma is set to the maximum value ( = frequency division value N).」([0105]、[0106])
(図42は、PWM制御を行なわない場合における各種の信号の波形を示すタイミングチャートである。この図42には、センサ信号SSAと、電圧比較器信号SCと、PWM制御を行なわない場合における駆動信号DRVA1,2とが描かれている。また、第1の駆動信号DRVA1と、第2の駆動信号DRVA2とを合わせた信号も描かれている。この場合、便宜上、第2の駆動信号DRVA2を負側のパルスとして描いている。
電圧比較器信号SCは、第3の電圧レベルと、第4の電圧レベルとを交互に示す2値のデジタル信号であり、センサ信号SSAに同期している。駆動信号DRVA1,2は、第1の期間においては第1の電圧レベルとなり、第1の期間以外の第2の期間においては、第1の電圧レベルとは異なる第2の電圧レベルとなる。ここで、第1の期間は、非励磁区間NEP(図12)に相当し、第2の期間は、励磁区間EPに相当する。第1の期間と第2の期間は、励磁区間信号生成部590(図16)によって設定される。なお、PWM制御を行なわない場合には、乗算値Ma(図11)は最大値(=分周値N)に設定される。)(【0132】、【0133】)

上記a.に「磁極ピッチPmはコイルピッチPcに等しく、電気角でπに相当する。なお、電気角の2πは、駆動信号の位相が2πだけ変化したときに移動する機械的な角度又は距離に対応づけられる。本実施例では、駆動信号の位相が2πだけ変化すると、ロータ部30が磁極ピッチPmの2倍だけ移動する。4つのコイル11?14のうち、第1、第3のコイル11,13は同一の位相の駆動信号で駆動され、第2、第4のコイル12,14は第1及び第3のコイル11,13の駆動信号から180度(=π)だけ位相がずれた駆動信号で駆動される。」とあるように、コイルの励磁は駆動信号により順次行われるものであり、「コイルを駆動信号で順次励磁して駆動」するものといえる。

上記a.?f.の記載及び図面の記載からみて、乙8号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「乙8発明」という。)。
「ロータ部に永久磁石を有する単相ブラシレスモータを制御する方法であって、
進角制御を行うため、コイルの逆起電力波形のピークを中心とする対称な区間の時間的位置を進めて駆動信号の励磁区間EPを設定し、励磁区間EP以外の区間を非励磁区間NEPとし、コイルを駆動信号で順次励磁して駆動し、
励磁区間EPでは、ドライバ回路250の電源電圧VSUPである15[V]、12[V]、10[V]を、単相ブラシレスモータのコイルに印加することを含む方法。」

イ)乙9号証の記載
乙9号証(特開2006-081271号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
a.「本発明は、ブラシレスDCモータの駆動方法及びその装置に関し、更に詳細に言えば、永久磁石を有する回転子と三相巻線を有する固定子からなるブラシレスDCモータを、三相巻線に電力を供給するインバータにより駆動するための方法及びその装置に関するものであり、特に冷蔵庫やエアコンなどの圧縮機を駆動するのに最適なブラシレスDCモータの駆動方法及びその装置に関するものである。」(段落【0001】)

b.「まず、通電角が2種類しか設定できない仕様で説明する。通電角150゜(θ1)で運転中に、インバータ3に供給している電圧が下降し始めDC267V(V11)となりモータ電流位相が不安定となった時、図2のSTEP22により通電角を一挙に175゜(θ6)まで拡大した場合、遅れ電圧264V(V26)よりも大きい電圧であるため即座にモータ電流の位相が遅れ始め、図2のSTEP23に従って、再び通電角150゜(θ1)に戻ってしまう。この様に、2種類の通電角の往来を繰り返すことになり、かえってシステムの不安定要因を生むことになる。一方、STEP22で165゜(θ4)まで通電角を拡大した場合は、通電角150゜(θ1)で駆動中の脱調電圧DC267V(V11)が、遅れ電圧DC278V(V24)よりも十分に低い電圧であるため、前述のような往来現象は起こらない。つまり、変更前の通電角をθm、変更後の通電角をθnとすると、通電角の拡大幅[θn-θm]は、拡大前の脱調電圧(V1m)よりも拡大後の遅れ電圧(V2n)の方が十分大きくなるように設定する必要がある。逆に、縮小する場合も同じであり、通電角の縮小幅[θm-θn]は、縮小前の遅れ電圧(V2m)よりも縮小後の脱調電圧(V1n)の方が十分小さくなるように設定する必要がある。
しかし通電角165゜(θ4)では、脱調電圧がDC196V(V14)であり、電圧低下の著しい環境下では駆動不可能という課題がある。前述のような往来現象が起こらず、なおかつ、低電圧環境下でも運転可能とするためには、通電角を3種類以上設定できるようにして、より大きな通電角でも駆動できる仕様にすることが課題解決方法の1つとなり、それにともなって通電角の調整もスムーズに行うことが可能であることを補足しておく。
以上のように、本実施の形態においては第2波形発生部が通電角調整機能を有することにより、高負荷・低電圧環境下のようなモータ電流位相が不安定な時には、通電角を拡大することで、位相を更に進めると共にモータ駆動の安定化を確保し、大きなトルクを出力することが可能となり、回転数低下や脱調停止の抑制、ピーク電流の低減によるシステム停止の防止、モータ自身やシステムの信頼性の確保などの効果を発揮することができる。逆に低負荷、高電圧な環境下のようなモータ電流位相が遅れた時には、通電角を縮小することで、無効電力の低減などの効果を発揮する。また、磁極位置に応じてモータを駆動する第1波形発生部でも運転可能な通電角まで縮小することが可能となり、波形発生部の切り替えを円滑に行うことができる効果も重要な効果の一つである。」(段落【0069】?【0071】)

上記a.、b.の記載及び図面の記載からみて、乙9号証には、以下の技術が記載されていると認められる。
「永久磁石を有する回転子と三相巻線を有する固定子からなるブラシレスDCモータ駆動するための方法として、高負荷・低電圧環境下のようなモータ電流位相が不安定な時には、通電角を拡大し、低負荷、高電圧な環境下のようなモータ電流位相が遅れた時には、通電角を縮小する。」

ウ)乙10号証の記載
乙10号証(特開平10-248285号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
a.「本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、モータ駆動用電源の電源電圧変動にもかかわらず、容易にかつ高速で電源電圧に適した出力指令値を得るようにし、その出力指令値に基づいてモータを駆動し得るようにしたモータ駆動制御装置における制御方法を提供することを目的とする。」(段落【0004】)

b.「制御ユニットCは、モータMの諸特性に基づく出力指令値として電流値、進角値、通電角および相電流の波形等のうち、少なくとも電流値、望ましくは電流値および進角値を定めた制御指令値マップを備えるものであり、磁極位置信号、回転数信号、相電流信号、電源電圧およびトルク指示値に基づいて上記制御指令値マップから読み出した出力指令値に応じて、モータMで最適出力が得られるように前記各駆動信号S_(UH),S_(UL),S_(VH),S_(VL),S_(WH),S_(WL)を出力する。」(段落【0018】)

上記a.、b.の記載及び図面の記載からみて、乙10号証には、以下の技術が記載されていると認められる。
「モータ駆動用電源の電源電圧変動にもかかわらず、電源電圧に適した出力指令値を得るように、進角値、通電角を定めた制御指令値マップから読み出した出力指令値に応じて駆動信号を出力するモータ駆動制御装置における制御方法。」

エ)乙11号証の記載
乙11号証(特開平1-110085号公報)には、「モータ制御装置」として、図面と共に以下の事項が記載されている。
a.「本発明によれば、ロータの釉に該ロータの磁極数の整数倍の被検出部を有するエンコーダを固定し、ステータ側の所定箇所において前記ロータの回転に伴う前記エンコーダの被検出部の数をカウントすることによって、当該カウント値が所定値に一致したときに前記ステータのコイルへの通電切換を行う。」(2頁右上欄2?8行)

b.「すなわち、本実施例においてエンコーダパルスはロータの磁極1相当り12パルスに細分化されているので通常の通電タイミングから変化させた通電タイミングをとることが出来る。
第13図Bは通電タイミングを速くした場合で、通常の通電タイミング(第13図A)よりも位相を進めた状態である。
第13図Cは通電タイミングを遅くした場合で、通常の通電タイミング(第13図A)よりも位相を遅らせた状態である。
このように位相を進めたり、遅らせたりすることによって、ロータの加減速度、負荷変動などにより速度が不安定のときに最適な制御を行うことができる。」(5頁左上欄15行?右上欄8行)

上記a.、b.の記載及び図面の記載からみて、乙11号証には、以下の技術が記載されていると認められる。
「ステータのコイルへの通電切換を行うにあたり、位相を進めたり、遅らせたりすることによって、ロータの加減速度、負荷変動などにより速度が不安定のときに最適な制御を行うモータ制御装置。」

オ)乙12号証の記載
乙12号証(特開平10-155299号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
a.「(実施例1)以下本発明の実施例について説明する。図1は本実施例の動力発生装置の構成を示す説明図である。第1の物体160は、珪素鋼板等を積層して構成した鉄心168に、単相の巻線167を巻回した構成としている。第2の物体161は、第1の物体160に対して相対的に可動に設けており永久磁石169・170と出力軸159とを有している。つまり、本実施例では第2の物体161を2極で構成しているものである。164は4個のスイッチング素子171?174を有しているインバータ回路で、前記巻線167に電流を供給している。また165は、ホールICによって構成した位置検知手段166の信号を受けてインバータ回路164を制御する制御回路である。
位置検知手段166は、第2の物体161の永久磁石169・170の磁極の位置を検知しており、N極を検知しているときはハイ信号を、S極を検知しているときはロウ信号を発生する。
制御回路165は、第1のスイッチング素子171・174を駆動する駆動信号a・dと、第2のスイッチング素子172・173を駆動する駆動信号b・cとを出力する駆動回路190と、選択器71と、電気角発生回路192、周波数検知回路72とを有している。」(段落【0022】?【0024】)

b.「(実施例2)続いて本発明の第2の実施例について説明する。前記実施例1では、第1のスイッチング素子171・174ならびに第2のスイッチング素子172・173への駆動信号a・b・c・dの立ち下がりタイミングを、位置検知手段166の出力信号pのエッジの位相よりも先行させたことによって、巻線電流iMのピーク値を抑えているものである。これに対して本実施例では、駆動信号a・b・c・dの立ち上がりのタイミングについても電気的中性点に対して先行させているものである。図5は本実施例の構成を示す回路図である。166はホールICによって構成した位置検知手段で、第1の物体160の電気的中性点、すなわち巻線167による起磁力が丁度0となる位置に設けている。制御回路195は、実施例1と同様、駆動回路190・選択器71・周波数検知器72を備えている。さらに本実施例では、電気角発生回路196・197と、フリップフロップ198を備えている。電気角発生回路196は、位置検知手段166からの繰り返し信号pを受け、この位相を検知しながら、第2の物体161のN極とS極との境界が、電気的中性点に到達する時点よりも電気角で20度先行したタイミングでフリップフロップ198に対して信号を出力し、駆動回路190から第1のスイッチング素子171・174と第2のスイッチング素子172・173をターンオンする信号を出力させている。また電気角発生回路197は、位置検知手段166からの繰り返し信号pを受け、この位相を検知しながら、第2の物体161のN極とS極との境界が電気的中性点に到達する時点よりも40度先行したタイミングでフリップフロップ198に対し信号を出力し、駆動回路190から第1のスイッチング素子171・174と第2のスイッチング素子172・173をターンオフする信号を出力させている。
図6は、位置検知手段66の動作を説明する説明図である。(ア)は、丁度第2の物体161が電気的中性点Yに来ている状態を示している。また(イ)は、第2の物体161が電気的中性点に対して20度先行している状態を示している。本実施例では(イ)の位置にある時に、電気角発生回路196が作用して、フリップフロップ198がセットされ、駆動回路190の出力信号a・dがハイとなるものである。このため、第1のスイッチング素子171・174がこのタイミングでオンされることになる。
なお本実施例では、第2の物体161を2極の構成としていることから、電気角は機械角と等しいものとなっている。
図7は、本実施例の動力発生装置が60000r/mで回転している状態での各部の動作波形を示している。すなわち、図7(ア)は位置検知手段166の出力信号電圧pを、(イ)は第1のスイッチング素子171に対する駆動信号aの波形を、(ウ)は第2のスイッチング素子172に対する駆動信号bの波形を、(エ)は第2のスイッチング素子173に対する駆動信号cの波形を、(オ)は第1のスイッチング素子174に対する駆動信号dの波形を、(カ)は巻線167に流れる電流iMの波形を示している。
図7に示しているように、駆動回路190の出力信号a・dは、位置検知手段166からの信号pが立ち上がるタイミングt2よりも20度先行したタイミングt1でハイとなって、第1のスイッチング素子171・174が共にオンとなる。また、位置検知手段166の信号pが立ち下がるタイミングt5よりも40度先行したタイミングt4で、駆動回路190の出力信号a・dはロウとなって、第1のスイッチング素子171・174が共にオフとなる。さらに、信号pが立ち下がるタイミングt5よりも20度先行したタイミングt4で、駆動回路190の出力信号b・cがハイとなって、第2のスイッチング素子172・173が共にオンとなる。またその後は、前記動作を繰り返すものである。」(段落【0043】?【0047】)

上記a.、b.の記載及び図面の記載からみて、乙12号証には、以下の技術が記載されていると認められる。
「鉄心に巻回した単相の巻線に、電流を供給するスイッチング素子への駆動信号の立ち上がりを、巻線による起磁力が丁度0となる電気的中性点に到達する時点よりも電気角で先行したタイミングで出力し、駆動信号の立ち下がりを、電気的中性点に到達する時点よりも電気角で先行したタイミングで出力する」

カ)乙13号証の記載
乙13号証(特表2007-520989号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
a.「図1は、代表的なスイッチングされるリラクタンスのモータの断面図である。それは、シャフト2上に装着された回転子1と、固定子3とを備えている。回転子1は、一対の極1a、1bを形成するよう配列された鋼板の軸方向に積層されたスタックを備えている。固定子3は、この例では内方に突出する4つの突出極3a、3b、3c及び3dを有するよう配列された鋼積層のスタックを備えている。対向する極3a及び3cは、各々、一緒に第1の相を形成する巻線4a、4bを支持している。直径的に対向している他の極3b及び3dは、同様に、第2の相を表わすそれぞれの巻線4c及び4dを収容している。各巻線4は、それぞれの固定子極の周りに絶縁された電気導体の多数のターンを備えている。
使用中、相巻線の付勢は、回転子の回転を行わせるように制御される。このように、相巻線に対する回転子の回転位置を知ることが絶対必要である。従って、位置検出手段が設けられ、この場合においては、エンコーダ・ディスク5、光放射源6及び光センサ(図示せず)の形態で設けられる。エンコーダ・ディスク5は、光放射源6と検出器との間に位置付けられ、該ディスクの平面は、光放射の方向と実質的に直角である。ディスクにおける開口は、光放射源からの光がセンサに伝送されるのを許容する。エンコーダ・ディスク5が回転子組立体1のシャフトと共に回転するので、光放射源からの光は間欠的に遮断される。従って、光センサは、パルス化された光信号を受信する。光センサからの信号は、制御器に伝送される。
低速度においては、相巻線への電圧の印加を制御することは、比較的簡単である。代表的には、これは、以下にさらに説明するパルス幅変調(PWM)によって行われる。しかしながら、速度が増加すると、巻線に電圧が印加される回転子の角度位置(ターンオン角度)は、電圧の印加が停止される角度位置(ターンオフ角度)よりも進められなければならない。ターンオン角度は、極が接近するにつれてインダクタンスが上昇を開始する前に巻線内のフラックスをゼロから所望の値まで上昇するのを許容するよう進められなければならない。これは、オン時の進め角度(on-advance angle)として知られている。同様に、ターンオフ角度は、極が離れるにつれてインダクタンスが減少を開始する前にフラックスをゼロに減少することができるように進められなければならない。これは、オフ時の進め角度(off-advance angle)として知られている。
スイッチングされるリラクタンスのモータのための代表的な制御器において、制御法則マップが、ルック・アップ・テーブルの形態で用いられる。このようなテーブルの例が図2に示されている。該テーブルは、メモリ内に保持された一連の記憶場所を備えている。テーブルは、モータの速度と、モータによって生成される所望のトルクとの間の関係を図表で示している。テーブルの各場所には、対応の速度とトルクと生成するよう機械を制御するための制御パラメータが格納されている。代表的には、制御パラメータは、オン時の進め角度とオフ時の進め角度とを備えている。モータの動作中、速度及び電動トルクが測定され、制御システムに入力され、該制御システムは、ルック・アップ・テーブルを用いて適切な点弧角を見つけて、相巻線の付勢を制御し、所望の速度とトルクを達成する。」(段落【0013】?【0016】)

b.「本発明による制御マップを生成するために適した装置の概略図が図3に示されている。モータは、参照数字7によって概略的に示されており、電気制御板9と一緒にモータ・バケット8内に配置されている。該装置は、バッテリもしくは整流されてフィルタリングされたACメイン(交流幹線)のいずれかであって良いDC電源の形態にある電圧源10を含む。電源10によって与えられるDC電圧は、DCリンクを横切って供給され、電気制御板9によりモータ7の相巻線を横切ってスイッチングされる。この応用においては、(バッテリ、整流器からまたは他のものから)スイッチングされたリラクタンス機械に与えられるDC電圧は、“DCリンク電圧”と称する。
制御板9は、モータ7の相巻線の各々に接続され、相巻線を順番に付勢させることによりモータの動作を制御する。電力計11がDCリンク11に接続されて入力電力を測定する。電力計11からの信号は、検査制御器12に入力され、該検査制御器12は、次に、電子制御板9にデータを送る。」(段落【0019】、【0020】)

c.「電圧補償
従来技術の制御マップと同様に、上述の制御マップは、巻線に印加される電圧が一定であると仮定している。しかしながら、使用中、DCリンク電圧は、制御マップが導出された電圧から変化する。
図7乃至図9は、総括的に、変化するDCリンク電圧を補償する方法を示している。
図7は、使用中のスイッチングされるリラクタンス・モータ25を示す単純化した概略図である。この図において、電力変換装置は、概略的に、参照数字20によって示されている。使用中、電力変換装置20は、メイン(幹線)電源に接続され、フィルタリングされて整流されたDCリンク電圧を提供するよう配列されている。適切な電力変換装置は、本出願人による同時係属の特許出願GB0229873.5に記載されている。
実際のDCリンク電圧の例が図8に線21によって示されている。電圧信号は、時間と共に急激に揺動する。DCリンク電圧は、DCリンク電圧の平滑化された平均値を提供するために、図7のフィルタ回路22においてサンプリングされる。代表的な、平均DCリンク電圧は、図8において23で示されている。この平均DCリンク電圧は、制御器24に供給され、該制御器24には、図9に示されたもののような電圧補償マップが記憶されている。
このマップは、進み角と平均DCリンク電圧との間の関係を図で示している。該マップは、実験により導出され得、それ以外には、ソフトウェアをモデル化することにより生成され得る。該マップは、制御器24と関連した不揮発性メモリに永久に保持される。この例において、進み角は230Vにおいてゼロである。これは、230Vの巻線に定電圧パルスを印加しつつ制御マップが導出されたからである。従って、制御マップは、該電圧においてモータの正確な制御を与える。この例において、進み角は、DCリンク電圧が増加するにつれて減少するように配列されるか、またはその逆に配列される。
DCリンク電圧がフィルタからサンプリングされるとき、制御器24は、相が点弧される進み角に印加されるべき補正係数を導出するために、メモリ内に保持された電圧関係を検討する。例えば、測定されたDCリンク電圧が207Vであるならば、次に、制御器は、2.1°のオン及びオフ時の進み角度の双方への進み角修正(補正)を適用する。従って、相の点弧は、簡単な態様で制御され、モータの特性、例えば、トルク、速度、を測定するためのセンサに対する必要性を減少する。
電圧と角度の修正(補正)との間の関係は、19のマップの形態に記憶される必要がない。例えば、該関係が線形なものである場合には、制御器が、所定の補正係数を、各ボルトごとに進み角に適用するようにすること、もしくは、適用されたDCリンク電圧がシフトされるボルトの分数に適用するようにすることは、当業者の能力内のことであろう。
電圧補償の上述の方法は、連続的に、周期的に適用され得るか、もしくは単にモータの開始時のような所定のイベントにおいて適用され得る。
モータが電源に接続されるが走行されていないときに、電流が回路から引き出されていないので、DCリンク電圧は、電流が引き出されている場合に予想されるであろうものよりも概して高いということが分かっている。従って、補正係数は、純粋にモータの起動時における点弧角を修正するために記憶され得る。このことは、単に、所定の電圧値によって角度補償要素をシフトすることによって行われ得る。例えば、起動時、315VのDCリンク電圧が、1.4°の対応の進み角調節を有し得る。
さらなる改良は、ヒステリシス制御の適用である。測定されたDCリンク電圧が2つの値の間で急速に揺動するならば、進み角補正係数は、それに応じて揺動する傾向がある。制御器は、該制御器が進み角修正(補正)に対する新しい値を適用する前に、電圧における変化が所定の増分よりも大きくなければならないというように配列され得、それにより、進み角の変化は、電圧における変化よりも遅れる。例えば、DCリンク電圧が、230Vから232Vに上昇したならば、制御器は、進み角に修正(補正)を与える前に電圧が、234Vに上昇してしまうまで待機するよう構成され得る。
本発明は、スイッチングされるリラクタンス機械に適用可能であり、例えば、一分間に100,000回転の高速で動作するような機械において、特に有用である。」(段落【0029】?【0039】)

上記a.?c.の記載及び図面の記載からみて、乙13号証には、以下の技術が記載されていると認められる。
「相巻線の付勢が、回転子の回転を行わせるように制御されるリラクタンスのモータのDCリンク電圧を補償する方法であって、
制御器には、進み角と平均DCリンク電圧との間の関係を図で示した電圧補償マップが記憶され、DCリンク電圧がサンプリングされるとき、制御器は、相が点弧される進み角に印加されるべき補正係数を導出するために、メモリ内に保持された電圧関係を検討し、オン及びオフ時の進み角度の双方への進み角修正(補正)を適用する。」

イ.対比
本件訂正発明1と乙8発明とを対比する。
乙8発明の「ロータ部に永久磁石を有する単相ブラシレスモータ」は、本件訂正発明1の「単相永久磁石モータ」に相当し、乙8発明の「ロータ部に永久磁石を有する単相ブラシレスモータを制御する方法」は、本件訂正発明1の「単相永久磁石モータを制御する方法」に相当する。
乙8発明の「コイル」、「励磁」、「ドライバ回路250の電源電圧VSUP」は、それぞれ、本件訂正発明1の「巻線」、「励起」、「励起電圧」に相当する。
乙8発明の「進角制御を行うため、コイルの逆起電力波形のピークを中心とする対称な区間の時間的位置を進めて駆動信号の励磁区間EPを設定」する態様と、本件訂正発明1の「先進角だけ巻線の逆起電力のゼロ交差よりも前に励起電圧によって励起され」る態様とは、「巻線の逆起電力の電気角よりも進角させて励起電圧によって励起され」る点で共通する。
本件訂正発明1における「フリーホイール」とは、本件特許明細書の段落【0023】に「フリーホイールは、巻線19が、電源2によって供給された励起電圧から切断される時に起こる。」とあるものであり、乙8発明の「駆動信号の励磁区間EPを設定し、励磁区間EP以外の区間を非励磁区間NEPとし、コイルを駆動信号で順次励磁して駆動」する態様と、本件訂正発明1の「整流前のフリーホイール角にわたってフリーホイールされる単相永久磁石モータの巻線を順次励起してフリーホイールさせる」態様とは、「フリーホイールされる単相永久磁石モータの巻線を順次励起してフリーホイールさせる」点において共通する。
乙8発明の「励磁区間EPでは、ドライバ回路250の電源電圧VSUPである15[V]、12[V]、10[V]を、単相ブラシレスモータのコイルに印加する」態様と、本件訂正発明1の「前記励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角を変更する段階と、を含み、前記励起電圧の低下に応答して、前記先進角が増加し、前記フリーホイール角が減少する」態様とは、「励起電圧が変わることを含む」点において共通する。

したがって、本件訂正発明1と乙8発明とは、以下の点で一致する。
「単相永久磁石モータを制御する方法であって、
巻線の逆起電力の電気角よりも進角させて励起電圧によって励起され、フリーホイールされる単相永久磁石モータの巻線を順次励起してフリーホイールさせる段階と、励起電圧が変わることを含む方法。」

そして、本件訂正発明1と乙8発明とは、以下の点で相違する。
相違点1
巻線の逆起電力の電気角よりも進角させて励起電圧によって励起され、フリーホイールされる単相永久磁石モータの巻線を順次励起してフリーホイールさせる段階に関して、本件訂正発明1は、「先進角だけ巻線の逆起電力のゼロ交差よりも前に」「励起され、かつ整流前のフリーホイール角にわたってフリーホイールされる」のに対し、乙8発明は、「コイルの逆起電力波形のピークを中心とする対称な区間の時間的位置を進めて」「励磁区間EPを設定し、励磁区間EP以外の区間を非励磁区間NEPと」するものである点。

相違点2
励起電圧が変わることを含む点に関し、本件訂正発明1は、「前記励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角を変更する段階」「を含み、前記励起電圧の低下に応答して、前記先進角が増加し、前記フリーホイール角が減少する」のに対し、乙8発明は、「励磁区間EPでは、ドライバ回路250の電源電圧VSUPである15[V]、12[V]、10[V]を、単相ブラシレスモータのコイルに印加する」点。

相違点2について検討する。
乙9号証には、「永久磁石を有する回転子と三相巻線を有する固定子からなるブラシレスDCモータ駆動するための方法として、高負荷・低電圧環境下のようなモータ電流位相が不安定な時には、通電角を拡大し、低負荷、高電圧な環境下のようなモータ電流位相が遅れた時には、通電角を縮小する。」ことが記載されているが、乙9号証に記載された技術は、「モータ電流位相が不安定な時」、「モータ電流位相が遅れた時」に対応して、導通角を拡大、縮小するものといえ、たとえ、「低電圧環境」、「高電圧な環境」であったとしても、モータの負荷状態等が異なれば導通角の制御内容は異なるから、電圧の変化に応じて導通角を変化させるものとはいえず、本件訂正発明1の「励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角を変更する」ことは記載も示唆もない。
乙10号証には、「モータ駆動用電源の電源電圧変動にもかかわらず、電源電圧に適した出力指令値を得るように、進角値、通電角を定めた制御指令値マップから読み出した出力指令値に応じて駆動信号を出力するモータ駆動制御装置における制御方法。」が記載されているが、乙10号証には、駆動信号がどの様なタイミングで出力され、巻線がどの様に励磁され、フリーホイールされるのかについての具体的な記載はされておらず、本件訂正発明1の「前記励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角を変更する段階」「を含み、前記励起電圧の低下に応答して、前記先進角が増加し、前記フリーホイール角が減少する」ことは記載も示唆もない。
乙11号証には、「ステータのコイルへの通電切換を行うにあたり、位相を進めたり、遅らせたりすることによって、ロータの加減速度、負荷変動などにより速度が不安定のときに最適な制御を行うモータ制御装置。」が記載されているが、乙11号証に記載された技術は、速度が不安定なときに対応して、位相を進めたり、遅らせたりするものといえ、本件訂正発明1の「励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角を変更する」ようなことは記載も示唆もない。
乙12号証には、「鉄心に巻回した単相の巻線に、電流を供給するスイッチング素子への駆動信号の立ち上がりを、巻線による起磁力が丁度0となる電気的中性点に到達する時点よりも電気角で先行したタイミングで出力し、駆動信号の立ち下がりを、電気的中性点に到達する時点よりも電気角で先行したタイミングで出力する」ことは記載されているものの、励起電圧の変化に関する記載はなく、本件訂正発明1の「前記励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角を変更する段階」「を含み、前記励起電圧の低下に応答して、前記先進角が増加し、前記フリーホイール角が減少する」ことは記載も示唆もない。
乙13号証には、「相巻線の付勢が、回転子の回転を行わせるように制御されるリラクタンスのモータのDCリンク電圧を補償する方法であって、制御器には、進み角と平均DCリンク電圧との間の関係を図で示した電圧補償マップが記憶され、DCリンク電圧がサンプリングされるとき、制御器は、相が点弧される進み角に印加されるべき補正係数を導出するために、メモリ内に保持された電圧関係を検討し、オン及びオフ時の進み角度の双方への進み角修正(補正)を適用する。」ことが記載されているが、DCリンク電圧を補償する際に、オン及びオフ時の進み角度の双方への進み角修正を行うものであり、本件訂正発明1の「前記励起電圧の低下に応答して、前記先進角が増加し、前記フリーホイール角が減少する」ことは記載も示唆もない。

したがって、乙8発明及び乙9?13号証の記載事項に接した当業者といえども、乙8発明において、「前記励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角を変更する段階」「を含み、前記励起電圧の低下に応答して、前記先進角が増加し、前記フリーホイール角が減少する」ものとして構成することは、容易に想到し得たものではない。

相違点2について容易になし得たことであるとすることはできない以上、本件訂正発明1は、相違点2に係る発明特定事項をすべて有し、さらに、相違点1に係る発明特定事項においても相違するものであるから、相違点1の判断如何にかかわらず、本件訂正発明1は、乙8発明及び乙9?13号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるとすることはできない。

本件請求項6、8?12は、本件請求項1の従属項であるから、本件訂正発明6、8?12は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て有し、さらに、限定を付加したものに相当し、本件訂正発明1と同様、乙8発明及び乙9?13号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるとすることはできない。

本件請求項2?5、7も、本件請求項1の従属項であるから、本件訂正発明2?5、7は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て有し、さらに、限定を付加したものに相当し、本件訂正発明1と同様、乙8発明及び乙9?13号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるとすることはできない。

エ.まとめ
したがって、本件訂正発明1?12は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

第5 むすび
以上、本件審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項、第6項及び第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単相永久磁石モータを制御する方法であって、
先進角だけ巻線の逆起電力のゼロ交差よりも前に励起電圧によって励起され、かつ整流前のフリーホイール角にわたってフリーホイールされる単相永久磁石モータの巻線を順次励起してフリーホイールさせる段階と、
前記励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角を変更する段階と、を含み、
前記励起電圧の低下に応答して、前記先進角が増加し、前記フリーホイール角が減少することを特徴とする方法。
【請求項2】
複数の前記励起電圧に対する第1の制御値及び第2の制御値のルックアップテーブルを格納する段階と、
前記励起電圧のレベルに従って第1の制御値及び第2の制御値を前記ルックアップテーブルから選択する段階と、
前記選択された第1の制御値によって定められた時間に前記巻線を励起する段階と、
前記選択された第2の制御値によって定められた時間にわたって前記巻線をフリーホイールさせる段階と、を含み、
前記先進角は、前記選択された第1の制御値に比例し、前記フリーホイール角は、前記選択された第2の制御値に比例することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の制御値及び前記第2の制御値は、前記単相永久磁石モータの回転の公称速度において同じ電力を達成するように定められることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記単相永久磁石モータの速度の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角の少なくとも一方を変更するために、速度補正値を前記第1の制御値及び前記第2の制御値の少なくとも一方に適用する段階、を含み、
前記速度補正値は、前記単相永久磁石モータの前記速度及び前記励起電圧の前記レベルの両方と共に変化することを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
複数の速度及び複数の励起電圧に対する速度補正値の速度ルックアップテーブルを格納する段階と、
前記単相永久磁石モータの前記速度及び前記励起電圧の前記レベルに従って速度補正値を前記速度ルックアップテーブルから選択する段階と、を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記単相永久磁石モータの速度の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイール角の少なくとも一方を変更する段階を含むことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記速度の増大に応答して前記先進角が増加する段階を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記速度の増大に応答して前記フリーホイール角が低減する段階を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
各電気半サイクルが、前記先進角から始まる単一駆動期間と、前記フリーホイール角に対応する単一フリーホイール期間とからなり、
前記駆動期間中に前記巻線を励起する段階と、
前記フリーホイール期間中に前記巻線をフリーホイールさせる段階と、
を含むことを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
単相永久磁石モータのための制御システムであって、
請求項1?9のいずれか1項に記載の方法を実施する、
ことを特徴とするシステム。
【請求項11】
単相永久磁石モータと、
請求項10に記載の制御システムと、
を含むことを特徴とするバッテリ式製品。
【請求項12】
単相永久磁石モータと、
請求項10に記載の制御システムと、
を含むことを特徴とする真空掃除機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-03-08 
結審通知日 2018-03-12 
審決日 2018-03-23 
出願番号 特願2010-97372(P2010-97372)
審決分類 P 1 41・ 856- Y (H02P)
P 1 41・ 851- Y (H02P)
最終処分 成立  
前審関与審査官 仁科 雅弘  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 矢島 伸一
久保 竜一
登録日 2013-02-01 
登録番号 特許第5189132号(P5189132)
発明の名称 電気機械の制御  
代理人 渡邊 徹  
代理人 山本 泰史  
代理人 渡邊 徹  
代理人 弟子丸 健  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 山本 泰史  

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